説明

光学フィルムの製造装置、光学フィルムの製造方法

【課題】溶融押出し法により、光学フィルムを製膜しロール状に巻取り製造する時、ブラックバンドが発生しない光学フィルムの製造装置の提供。
【解決手段】少なくとも熱可塑性樹脂及び添加剤を含む溶融物を複数のリップ間隙調整手段1A27を有するTダイス1A2より膜状の溶融物として押出す溶融押出し部1Aと、少なくともタッチロール1B2とキャストロール1B1とを有する冷却引取り部と、巻き取り部とを有する溶融押出し方式の光学フィルムの製造装置において、前記Tダイス1A2、又は前記冷却引取り部のどちらか1方をTD方向に移動しながら製膜した後、前記巻き取り部でロール状に巻き取ることを特徴とする光学フィルムの製造装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融押出し法による光学フィルムの製造方法に関する。更に詳しくは、溶融押出し法により製造された光学フィルムを長尺(数千m)のロール状に巻き取った形状でもブラックバンド若しくは黒帯が発生しない光学フィルムの製造装置及び光学フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶テレビやプラズマディスプレイ(PDP)、有機ELディスプレイ等種々の表示装置が開発されてきており、これらの表示装置は、薄く、軽量化することが求められている。これに伴い、ディスプレイに使用される光学フィルムにも薄膜化が求められている。又、光学フィルムの製造では、輸送の効率化、後工程での切換え頻度を低減等する要求から、1巻辺りの巻取り長を長くすることも要望されている。
【0003】
ところが、長尺(数千m)のロール状に巻き取ったフィルム(以下、ロールフィルムとも言う)では、ロールフィルムの円周上に帯状の濃度が高い部分が発生する、ブラックバンド若しくは黒帯と呼ばれる現象を引き起こすことがある。ブラックバンド若しくは黒帯6とは、フィルムの幅手で、膜厚が凸な部分が長尺に巻き取る際に重なり合うことで、部分的に密着、変形することで発生すると考えられている。
【0004】
ブラックバンドが発生すると、密着部分の膜表面の変形や皺が発生し、後工程において機能性の層を塗布する場合には塗布故障の原因となり、又、他のフィルムと張り合わせる場合には接着不良等の故障を引き起こす。特に、光学フィルムとして使用するには致命的な欠陥を引き起こす。
【0005】
従来、光学フィルムの製造方法の1つとして、熱可塑性樹脂及び添加剤を含む樹脂組成物を押出し装置で溶融後、Tダイスから膜状に押出し、冷却固化して成膜する、所謂、溶融押出し法が知られている。
【0006】
溶融押出し法で光学フィルムを製造する場合の膜厚の調整手段は、Tダイス付随の膜厚調整ボルトによるTダイスのリップ間隔の調整や、より精密に調整する場合には、インラインで膜厚を測定し、その膜厚測定結果から、ヒートボルト等を使用してリップの間隔を微調整する方法が知られている。しかし、膜厚調整ボルト、もしくは、ヒートボルト等は、有る程度の間隔で設置されているため、これらの間隔未満の膜厚の調整は出来ない。又、これらの調整手段の間隔を密にするには、物理的な制約があり、Tダイスの製造コストも高くなる。又、ミクロン単位の凹凸を完全に調整して平滑化することは難しい。
【0007】
他方、特開2004−149639号公報には溶融成膜後、フィルムを1対のロールにて押圧しながら冷却することで、表面を平滑にする方法も知られている。同方法においては、ダイ筋等の比較的幅が狭い数mm以下の凸部は、矯正し平滑化することが可能であるが、それ以上の幅は矯正することが難しい。
【0008】
このため、溶融押出し法において長尺のロールフィルムを作成するとブラックバンド若しくは黒帯が発生し易い傾向があった。
【0009】
一方、光学フィルムをロール状に巻取り製造する際、巻取りを工夫し、ブラックバンド若しくは黒帯の発生を防止する方法がこれまでに検討されてきた。例えば、幅手両端にエンボス加工することで巻き取った際のフィルムを浮かし密着を防ぐ方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、膜厚が薄いと、大きめのナール(エンボス)を入れるのは難しく、又、低いナール(エンボス)では、ブラックバンドの防止効果は少ないことが判った。
【0011】
フィルム巻き取り時に押圧ロールを利用し、フィルム間の隙間を無くして特定部位の巻き締まりを防ぐ方法が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【0012】
しかしながら、特許文献2に記載の方法では、巻取り時に押圧ロールを使用する場合、膜厚が薄いとフィルムの弾性も低いため、巻き取り時の追随性が高く、フィルム間の隙間は低くなるが、逆に、長尺巻きしたロールは、幅手の凹凸が大きくなり、押圧ロールの押圧するポイントが限られるため、ブラックバンド若しくは黒帯の改良効果が乏しいことが判った。
【0013】
フィルムを巻き取る時、巻き取りの張力を巻き取り長さに応じて変化させる方法が知られている(例えば、特許文献3参照。)。
【0014】
しかしながら、特許文献3に記載の方法では、製造するフィルムの長尺化に伴い、巻取り張力の変化だけでは、ブラックバンド若しくは黒帯を防止しきれないことが判った。
【0015】
フィルムを巻取り時に、断続的もしくは定期的に巻き取り軸を軸方向に変動させる方法が知られている(例えば、特許文献4参照。)。
【0016】
しかしながら、特許文献4に記載の方法では、弾性が低い薄膜フィルムの場合、横方向の皺を誘発する可能性が高く、又、急激な変動は、端部に張力がかかり破断する場合があることが判った。
【0017】
以上の状況より溶融押出し法により、光学フィルムを製膜しロール状に巻取り製造する時、ブラックバンド若しくは黒帯(以下、単にブラックバンドとも言う)が発生しない光学フィルムの製造方法の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2002−068538号公報
【特許文献2】特許第4414576号明細書
【特許文献3】特開2003−176068号公報
【特許文献4】特開2010−150041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、上記状況に鑑みなされたものであり、その目的としては、溶融押出し法により、光学フィルムを製膜しロール状に巻取り製造する時、ブラックバンドが発生しない光学フィルムの製造装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の上記目的は下記の構成により達成することが出来る。
【0021】
1.少なくとも熱可塑性樹脂及び添加剤を含む溶融物を複数のリップ間隙調整手段を有するTダイスより膜状の溶融物として押出す溶融押出し部と、少なくともタッチロールとキャストロールとを有する冷却引取り部と、巻き取り部とを有する溶融押出し方式の光学フィルムの製造装置において、
前記Tダイス、又は前記冷却引取り部のどちらか1方をTD方向に移動しながら製膜した後、前記巻き取り部でロール状に巻き取ることを特徴とする光学フィルムの製造装置。
【0022】
2.少なくとも熱可塑性樹脂及び添加剤を含む溶融物を複数のリップ間隙調整手段を有するTダイスより膜状の溶融物として押出す溶融押出し部と、少なくともタッチロールとキャストロールとを有する冷却引取り部と、巻き取り部とを有する溶融押出し方式のフィルム製造装置により光学フィルムを製造する光学フィルムの製造方法において、
前記Tダイス、又は前記冷却引取り部のどちらか1方をTD方向に移動しながら製膜した後、前記巻き取り部でロール状に巻き取り光学フィルムを製造することを特徴とする光学フィルムの製造方法。
【0023】
3.前記冷却引取り部、又は前記Tダイスの前記TD方向の移動幅Tの最大値をTmax、前記複数のリップ間隙調整手段の間隔をRとした時、下記の関係を有していることを特徴とする前記2に記載の光学フィルムの製造方法。
【0024】
0.75R<Tmax
4.前記光学フィルムを前記巻き取り部で巻き取り、連続して複数のロール状の光学フィルを製造する時、1本のロール状の光学フィルを製造する時間をLtとした時、前記Tダイス、又は前記冷却引取り部の前記TD方向の移動を、前記Ltの間に同一の方向に移動し、次の前記ロール状の光学フィルを製造する時に、前記前記Tダイス又は前記冷却引取り部の前記TD方向の移動を、直前のロール状の光学フィルを製造した時と逆方向にすることを特徴とする前記2又は3に記載の光学フィルムの製造方法。
【0025】
5.前記光学フィルムを前記巻き取り部で巻き取り、連続して複数のロール状の光学フィルを製造する時、1本のロール状の光学フィルを製造する時間をLtとした時、前記Tダイス又は前記冷却引取り部の何れか1方の前記TD方向の移動を、前記Ltの間に、同一の方向に移動し、次のロール状の光学フィルムを製造する時に、前記Tダイス又は前記冷却引取り部を、直前のロール状の光学フィルムを製造した位置に戻し、直前のロール状の光学フィルムを製造した時と同じ方向に移動させ、直前のロール状の光学フィルムを製造した時の位置に戻す迄の時間の巻取り部分は廃棄することを特徴とする前記2又は3に記載の光学フィルムの製造方法。
【0026】
6.前記光学フィルムを前記巻き取り部で巻き取り、連続して複数のロール状の光学フィルを製造する時、1本のロール状の光学フィルを製造する時間をLtとした時、Tダイス又は冷却引取り部の何れか一方のTD方向の移動を、該Ltの間に、前記Tダイス又は前記冷却引取り部の前記TD方向の移動を該Lt×0.5以下の周期で反転させることを特徴とする前記2又は3に記載の光学フィルムの製造方法。
【0027】
7.前記冷却引取り部を通過した後、固定位置でフィルムの両端を切除することを特徴とする前記2から6の何れか1項に記載の光学フィルムの製造方法。
【0028】
8.前記フィルム製造装置は前記光学フィルムの膜厚測定装置を有し、該膜厚測定装置の測定結果によって、前記リップ間隙調整手段によりリップ間隙を調整することを特徴とする前記2から6の何れか1項に記載の光学フィルムの製造方法。
【0029】
9.前記巻き取り部で巻取る時の前記光学フィルムの膜厚が10μm以上、25μm以下であり、且つ、前記ロール状に巻き取った光学フィルムの長さが4000m以上、35000m以下であることを特徴とする前記2から6の何れか1項に記載の光学フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0030】
溶融押出し法により、光学フィルムを製膜しロール状に巻取り製造する時、ブラックバンドが発生しない光学フィルムの製造装置を提供することが出来た。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】熱可塑性樹脂及び添加剤を含む熱可塑性樹脂を使用し溶融押出し機で溶融し、Tダイスより膜状に押出した後、冷却固化し巻き取りロール状の光学フィルムを製造する製造装置の模式図である。
【図2】図1のSで示される部分の拡大概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の実施の形態を図1、図2を参照しながら説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0033】
本発明の光学フィルムの製造方法は、溶融押出し方式のフィルム成形装置により光学フィルムを製造する時、Tダイス、又は冷却引取り部のどちらか1方をTD(Transverse Direction)方向に移動しながら製膜することで、巻き取り部でロール状に巻き取った光学フィルムの周面に表れるブラックバンドの発生を防止するものである。
【0034】
図1は熱可塑性樹脂及び添加剤を含む熱可塑性樹脂を使用し溶融押出し機で溶融し、Tダイスより膜状物として押出した後、冷却固化し、巻き取りロール状の光学フィルムを製造する製造装置の模式図である。
【0035】
図中、1はロール状の光学フィルムを製造するフィルム製造装置を示す。フィルム製造装置1は、溶融押出し部1Aと、冷却引取り部1Bと、延伸部1Cと、巻取り部1Dと、膜厚測定装置1Eと、スリッター1Fとを有している。
【0036】
溶融押出し部1A又は冷却引取り部1Bのどちらか一方は、光学フィルムの搬送方向と直交するTD方向に移動することが可能の様に移動手段(不図示)を有している。溶融押出し部1A又は冷却引取り部1Bの移動に関しては図2で説明する。
【0037】
溶融押出し部1Aは、フィルム用の熱可塑性樹脂又は添加剤を含む熱可塑性樹脂組成物を供給するホッパー1A11と、熱可塑性樹脂又は添加剤を含む溶融物を安定に送るギヤポンプ1A12と、Tダイス1A2に供給する供給管1A13と、フィルター1A14とを有する溶融押出し機1A1と、溶融押出し機1A1より送られてくる熱可塑性樹脂又は添加剤を含む溶融物を先端のリップ間隙(押出し口)から膜状物2として押出すTダイス1A2とを有している。
【0038】
Tダイス1A2はリップ間隙(押出し口)1A261(図2参照)を調整するリップ間隙調整手段を幅方向に有している。Tダイス1A2としては、コートハンガータイプとストレートマニフォールドタイプとに分別されるが、本発明では特に限定はなく、使用する樹脂により適宜選択することが可能となっている。又、単層用でも多層用であっても構わない。
【0039】
ホッパー1A11には、熱可塑性樹脂又は添加剤を含む熱可塑性樹脂組成物が投入される。投入される熱可塑性樹脂又は添加剤を含む熱可塑性樹脂組成物は予め乾燥しておくことが好ましい。尚、添加剤としては、熱可塑性樹脂の物理化学特性を補う、例えば可塑剤、紫外線吸収剤、リタデーション制御剤、剥離性向上剤、酸化防止剤、熱分解抑制剤等を含めて言う。
【0040】
溶融押出し機1A1としては、特に限定はなく、熱可塑性樹脂の押出成形に使用される溶融押出し機を使用することが可能である。例えば単軸スクリュー型押出し機、同方向回転2軸スクリュー型押出し機、異方向回転2軸スクリュー型押出し機、タンデム型押出し機等が代表例として挙げられる。
【0041】
フィルター1A14としては特に限定はなく、例えばスクリーンメッシュと呼ばれるステンレス等の合金からなる金網の単層体、ステンレス等の合金からなる金網を積層し、各層を焼結した焼結金属フィルター、ステンレス鋼の微細繊維を複雑に編み込んだ金網にて繊維間の接点を焼結した焼結金属ファイバフィルター、金属粉末を焼結した焼結金属フィルター等が挙げられ、これらの中で特に焼結金属ファイバフィルターを使用することが好ましい。
【0042】
冷却引取り部1Bは、キャストロール1B1と、タッチロール1B2と、補助冷却ロール1B3、1B4と、剥離ロール1B5とを有している。
【0043】
Tダイス1A2で押出され、キャストロール1B1の上に流延された膜状物2はタッチロール1B2によりキャストロール1B1側に押圧されフィルム状に成形される。フィルム状に成形された溶融物は補助冷却ロール1B3、1B4で冷却固化され剥離ロール1B5から剥離され未延伸フィルム2aとなり、複数の搬送ロール1C12で延伸部1Cに搬送される。本図では、補助冷却ロール1B3、1B4を有する場合を示しているが、補助冷却ロール1B3、1B4は必要に応じて配設することが可能であり、又、補助冷却ロールの数は必要に応じて増減が可能である。
【0044】
タッチロール1B2としては、弾性ロールを用いることが好ましい。弾性ロールとしては特に限定はなく例えば、可撓性の金属スリーブの内部に弾性ロールを配したもの、金属製外筒と内筒との二重構造になっており、その間に冷却流体を流せるように空間を有しているもの等が挙げられる。弾性ロールを使用することで、Tダイス1A2から押し出される膜状の溶融物を均一にキャストロール1B1側に均一に押圧することが出来、膜厚の均一化が可能となる。
【0045】
タッチロール1B2の表面温度は、膜状の溶融物のガラス転移温度(Tg)より低いことが好ましい。Tgより高いと、膜状の溶融物とタッチロール1B2との剥離性が劣る場合がある。Tg−50℃からTgであることが更に好ましい。
【0046】
キャストロール1B1は特に制限はないが、高剛性の金属ロールで内部に温度制御可能な熱媒体又は冷媒体が流れるような構造を備えるロールであり、大きさは限定されないが、Tダイス1A2より押出された膜状物を冷却するのに十分な大きさであればよく、通常キャストロール1B1の直径は100mmから1m程度である。キャストロール1B1の表面材質は、炭素鋼、ステンレス、アルミニウム、チタンなどが挙げられる。更に表面の硬度をあげたり、樹脂との剥離性を改良するため、ハードクロムメッキや、ニッケルメッキ、非晶質クロムメッキなどや、セラミック溶射等の表面処理を施すことが好ましい。
【0047】
キャストロール1B1の表面粗さは、得られるフィルムの平滑性を考慮し、算術平均粗さRaで0.1μm以下とすることが好ましく、更に0.05μm以下とすることが好ましい。もちろん表面加工した表面は更に研磨し上述した表面粗さとすることが好ましい。
【0048】
キャストロール1B1の表面温度は、キャストロール1B1上でタッチロール1B2で押圧されて成形されたフィルムの剥離性、膜状物2の固化性等を考慮し、膜状物2のガラス転移温度(Tg)に対して、Tg−50℃以上からTg以下が好ましい。又、冷却引取り部1Bを構成している補助冷却ロール1B3、1B4の表面温度もキャストロール1B1の表面温度と同じであることが好ましい。
【0049】
延伸部1Cは、MD(Machine Direction )延伸部1C1と、TD(Transverse Direction)延伸部1C2とを有している。
【0050】
MD延伸部1C1は、補助冷却ロール1B4から剥離され、得られた未延伸フィルム2aを搬送する搬送ロール1C12と、搬送されてきた未延伸フィルム2aをMD延伸するMD延伸装置1C11とを有している。
【0051】
MD延伸装置1C11としては特に限定はなく、例えば複数の搬送ロール(不図示)、赤外線ヒーター(不図示)、温風吹出し装置(不図示)等の加熱装置を有し、熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tgからガラス転移温度Tg+100℃の範囲内に加熱し、ロール間の速度差によって一段又は多段でMD延伸することが可能となっている。MD延伸部1C1での延伸率は製造する光学フィルムの用途に応じて適宜調整することが可能である。
【0052】
TD延伸部1C2は、MD延伸部1C1でMD延伸された延伸フィルム2bを搬送する複数の搬送ロール1C22と、フィルム2bをTD延伸するTD延伸装置1C21と、TD延伸されたフィルム2cを搬送する複数の搬送ロール1C22とを有している。
【0053】
TD延伸装置1C21としてはテンター延伸装置(不図示)、赤外線ヒーター(不図示)、温風吹出し装置(不図示)等の加熱装置を有し、熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tgからガラス転移温度Tg+100℃の範囲内に加熱し、TD延伸することが可能となっている。TD延伸装置1C21としては余熱ゾーン(不図示)、延伸ゾーン(不図示)、緩和ゾーン(不図示)を有し、それぞれを製造する光学フィルムの樹脂に合わせ温調し下流側に向けて順次幅を広げて延伸する様になっている。テンター延伸装置としては特に限定はなく、例えばクリップテンター、ピンテンター等が挙げられ、必要に応じて選択し使用することが可能である。
【0054】
TD延伸部1C2で必要とする幅、厚さに延伸した後、TD延伸部1C2内の熱固定工程(不図示)で延伸した状態が固定される。TD延伸部1C2での延伸率は製造する光学フィルムの用途に応じて適宜調整することが可能である。
【0055】
尚、フィルム製造装置1としては特に限定はなく、本図に示されるMD(Machine Direction )延伸部1Dと、TD(Transverse Direction)延伸部1Eとは必要に応じて配設することが可能である。
【0056】
巻取り部1Dは、TD延伸部1C2でTD延伸された延伸フィルム2cが巻き芯に巻き取られる。巻取り部1Dは、巻取り装置1D1を有しており、1ロットの製造で製造される光学フィルムの量が多い場合、切り換えながら連続して複数のロールに分割して巻取り、ロール状の光学フィルムが製造される様になっている。
【0057】
尚、本図に示されるフィルム製造装置は、冷却引取り部を通過した後、固定位置でフィルムの両端の不要部分を切除(トリミング処理)するスリッター1Fを有している。スリッター1Fを配設する位置としては特に限定はないが、例えば、MD延伸部1C1に入る前、TD延伸部1C2に入る前、エンボッシング加工を行う前に配設することが好ましい。両端の不要部分を切除することで、フィルム内の応力に対するバランスが均一になりMD延伸、TD延伸、エンボッシング加工の精度が向上する。
【0058】
膜厚測定装置1Eの配設する位置は、冷却引取り部1Bを通過した後が好ましく、特に剥離ロール1B5により補助冷却ロール1B4から剥離された直後が好ましい。尚、膜厚測定装置1Eは、リップ間隙(押出し口)1A261(図2参照)を調整する制御機構(不図示)を有している。膜厚測定装置1Eの情報を使用し、リップ間隙(押出し口)1A261(図2参照)を調整しながら、Tダイス1A2又は冷却引取り部1Bのどちらか一方の光学フィルムの搬送方向と直交するTD方向に移動を制御する方法は後述する。
【0059】
回収部1Dで巻き取られる前にフィルム2cの少なくとも両端に巻き取り安定性、擦り傷防止等のために凸凹のパターンを設ける(エンボッシング加工)装置(不図示)を配設し加工することが好ましい。
【0060】
本発明の効果は、薄膜、長尺で発現する。巻取り部1Dで巻き取られる光学フィルムの厚さは、10μmから25μmが好ましく、且つ、1本の巻き取られる光学フィルムの長さは、4000m以上が好ましい。取り扱い上、コアの強度から、20,000m以下が好ましい。
【0061】
図2は図1のSで示される部分の拡大概略図である。図2(a)は図1のSで示される部分の拡大概略斜視図である。図2(b)は、図2(a)のA−A′に沿った概略断面図である。図2(c)は、図2(a)に示されるTダイスの調整ボルト側の部分概略拡大正面図である。
【0062】
図中、1A2はTダイスを示し、1A13は溶融押出し機1A1(図1参照)より熱可塑性樹脂又は添加剤を含む溶融物をTダイス1A2に供給する供給管を示す。
【0063】
1B2はタッチロールを示し、1B1はキャストロールを示す。1A21はTダイス1A2を構成する一方のブロックを示し、1A22はTダイス1A2を構成する他方のブロックを示す。1A23はブロック1A21と、ブロック1A22とを固定する側板を示す。1A24は供給管1A13より送られてくる熱可塑性樹脂又は添加剤を含む溶融物の供給口を示す。1A25はブロック1A21と、ブロック1A22との間に形成されたマニホールドを示し、Tダイス1A21の幅方向に設けられている。供給口1A24より供給された熱可塑性樹脂又は添加剤を含む溶融物は供給管1A241を介してマニホールド1A25に一旦貯められる。1A26は、マニホールド1A25に貯められた熱可塑性樹脂又は添加剤を含む溶融物を膜状物2にして、リップ間隙(押出し口)1A261から押出すスリットを示し、ブロック1A21と、ブロック1A22との間に形成されている。
【0064】
マニホールド1A25の断面形状は、スリット1A26に対して均一な液圧が掛けられ、幅方向への熱可塑性樹脂又は添加剤を含む溶融物の均一な流れが得られ、熱可塑性樹脂又は添加剤を含む溶融物が滞留しない形状であれば特に限定はなく、例えば円形、多角形等が挙げられる。
【0065】
1A27はリップ間隙(押出し口)1A261の幅を調整するためのリップ間隙調整手段を示し、ブロック1A21の幅方向に沿って複数並設されている。これにより、Tダイス1A2のリップ間隙(押出し口)1A261と押出される膜の厚さを幅方向に略均一になるように調整することが可能となっている。Rはリップ間隙調整手段の間隔を示し、各リップ間隙調整手段の中心から中心の間隔を示す。
【0066】
リップ間隙調整手段としては特に限定はなく、例えばサーボモーターを使用してリップ間隙を調整する調整ボルト、加熱冷却して調整ボルトの伸縮でリップ間隙を調整するヒート調整ボルト等が挙げられる。
【0067】
尚、スリット1A26を構成しているブロック1A21と、ブロック1A22に独立した加熱手段(不図示)を設置して、別々の温度に制御することが好ましい。
【0068】
本発明の一つの形態として、Tダイス1A2は、移動手段(不図示)により、光学フィルムの搬送方向(MD方向)と直角に交わるTD方向(C矢印方向)に移動する様になっている。又、本発明の別の形態として、冷却引取り部1Bは、光学フィルムの搬送方向(MD方向)と直角に交わるTD方向(C矢印方向)に移動する。
【0069】
TD方向(C矢印方向)に移動する移動手段としては、ダイスもしくは冷却引取り部をTD方向のレールに吊り下げる、もしくは乗せて、例えばリニアモータやボールねじ、電動シリンダ、ラック・アンド・ピニオン等で移動させることが出来る。
【0070】
Tダイス1A2又は溶融押出し部1A、溶融押出し部1Aの移動手段には制御機構(不図示)を有しており、予め入力されている巻き取り部で1本のロール状の光学フィルムの製造する時間、移動距離、移動方式に従ってTダイス1A2又は溶融押出し部1Aの移動を制御する様になっている。
【0071】
図1、図2に示される製造装置1では、巻取り部1Dで光学フィルムを巻き取り1本のロール状の光学フィルムを製造する間に、Tダイス1A2、又は冷却引取り部1Bのどちらか一方をそれぞれの移動手段により、MD方向と直角に交わるTD方向(図2のC矢印、D矢印方向)に移動する様になっている。
【0072】
移動することで光学フィルムの幅方向に発生する膜厚部の位置が異なり、巻き取った時に、隣接する光学フィルムの幅方向の膜厚部が互いに重なり合うことを避けることが可能となり、ブラックバンドの発生を防止することが可能となる。
【0073】
Tダイス1A2、又は冷却引取り部1BのTD方向の移動幅の最大値をTmaxは、Tダイス1A2のリップ間隙調整手段1A27の間隔Rとした時、隣接する光学フィルムの幅方向の膜厚部との重なり、トリミング処理での落とし幅、コスト等を考慮し、式1)で示される関係を有していることが好ましい。
【0074】
式1) 0.75R<Tmax
次ぎに、図1に示す製造装置1を使用して、巻取り部1Dで巻き取り、複数のロール状の光学フィルムを製造する時のTダイス1A2又は冷却引取り部1BのTD方向の移動方法について説明する。
【0075】
移動方法1
ロール状の光学フィルムを連続して製造する時、1本のロール状の光学フィルムを製造する時間をLtとした時、Tダイス1A2又は冷却引取り部1BのTD方向の移動を、Ltの間に式1)を満たす範囲で同一の方向に移動し、次のロール状の光学フィルムを製造する時に、Tダイス1A2又は冷却引取り部1Bの何れか一方のTD方向の移動を、直前のロール状の光学フィルムを製造した時と逆方向にする。以降、連続的にロール状の光学フィルムを製造する時に、Tダイス1A2又は冷却引取り部1Bの何れか一方のTD方向の移動を交互にして行う。
【0076】
移動方法2
上記同、1本のロール状の光学フィルムを製造する時間をLtとした時、Tダイス1A2又は冷却引取り部1Bの何れか一方のTD方向の移動を、Ltの間に式1)を満たす範囲で同一の方向に移動し、次のロール状の光学フィルムを製造する時に、Tダイス1A2又は冷却引取り部1Bを、直前のロール状の光学フィルムを製造した時の位置に戻し、直前のロール状の光学フィルムを製造した時と同じ方向に移動させ、直前のロール状の光学フィルムを製造した時の位置にTダイス1A2又は冷却引取り部1Bを戻す迄の時間に巻取った部分は廃棄する。以降、引き続きロール状の光学フィルムを連続的に製造する時、Tダイス1A2又は冷却引取り部1BのTD方向の移動は上記方法を繰り返し行う。
【0077】
移動方法3
上記同、1本のロール状の光学フィルムを製造する時間をLtとした時、Tダイス1A2又は冷却引取り部1Bの何れか一方のTD方向の移動を、Ltの間に式1)を満たす範囲でLt×0.5以下の周期で反転させながら行う。以降、引き続きロール状の光学フィルムを連続的に製造する時、Tダイス1A2又は冷却引取り部1BのTD方向の移動は上記方法を繰り返し行う。
【0078】
又、移動方法1から移動方法3を実施するとき、膜厚測定装置1Eの結果に従って幅方向の膜厚調整を行いながら行うことが好ましい。
【0079】
膜厚測定装置1Eの結果に従った幅方向の膜厚調整は次の方法で行われる。
【0080】
膜厚測定装置1Eにより幅方向の膜厚が測定され、測定結果より幅方向の膜厚が解析され管理基準より外れた箇所が特定される。管理基準より外れた箇所に該当するTダイス1A2のリップの位置が、Tダイス1A2又は冷却引取り部1Bの移動距離、フィルムの搬送速度から膜厚測定装置1Eの制御機構(不図示)より解析され、該当するリップ位置近傍のリップ間隙調整手段1A27によりリップ間隙(押出し口)1A261(図2参照)を補正することで膜厚の調整が行われる。
【0081】
図1、図2に示すフィルム製造装置により光学フィルムを製造する際、Tダイス、又は冷却引取り部のどちらか1方をTD方向に移動しながら製膜した後、巻取り部でロール状に巻取り光学フィルムを製造することで次の効果が得られた。
【0082】
1.溶融押出し法で補正が困難であった、TD方向の膜厚ムラに伴うブラックバンドの発生を抑えることが可能となり、膜表面の変形や皺がない安定したロール状の光学フィルムの製造が可能となった。
【0083】
2.エンボスによる効果が少ないとされている薄膜の光学フィルムの巻き取りにおいて、ブラックバンドの発生を抑えることが可能となり、薄膜のロール状の光学フィルムの製造が可能となった。
【0084】
3.製膜時にTダイス、又は冷却引取り部のどちらか1方を移動しTD方向の膜厚ムラの位置を変えるため、巻取り時に巻軸をずらして膜厚部の重なりを避けるのと異なり光学フィルムの破断の危険が少なく、特に薄膜のロール状の光学フィルムの安定した製造が可能となった。
【0085】
次に図1、図2に示す溶融押出し方式のフィルム製造装置1を使用し、ロール状の光学フィルムを製造する時の一般的条件を示す。
【0086】
溶融押出し機1A1での熱可塑性樹脂の溶融温度は使用する熱可塑性樹脂により適宜選択すればよく、その中でも溶融樹脂の熱分解による光学フィルムの外観性の悪化を避けるため、樹脂を溶融させた後、Tダイスから吐出されるまでの間を300℃以下に維持することが好ましく、290℃以下であることが特に好ましい。溶融押出し時の溶融物の温度は、通常150℃から300℃の範囲、好ましくは180℃から270℃、更に好ましくは200℃から250℃の範囲である。溶融物の温度は、接触式温度計を使用して測定した値である。
【0087】
溶融押出し機1A1は、使用する熱可塑性樹脂、添加物等に水等の揮発性成分が含まれていると、光学フィルムの外観性が悪化するため、揮発性成分を除去するための真空ベント、ホッパードライヤー等が具備されたものが適宜使用される。
【0088】
溶融押出し機1A1のシリンダー径、L/D、圧縮比、スクリューデザインは一般的に生産速度、フィルムの寸法などに応じて最適化すればよく、特に光学フィルムの製造の際には、吐出速度を安定化させると共に、摩擦発熱の抑制や樹脂温度を分解温度以下に維持することを目的に最適化すればよい。
【0089】
溶融押出し機1A1のスクリュー回転数、Tダイス1A2からの吐出量は、製造する光学フィルムの厚みや引取り速度等に応じて適宜選択することが可能である。又、溶融樹脂の酸化による熱分解や黄変を抑制するため、ホッパー、押出し機シリンダー内部等を窒素、アルゴン等の不活性ガスでパージ或いは真空にすることが好ましい。
【0090】
キャストロール1B1での引取り速度は、分子配向性、複屈折性を考慮し5m/分から100m/分で行うことが好ましい。
【0091】
キャストロール1B1の温度設定は、得られる光学フィルムの外観性や特性に与える影響の大きい重要な製造条件の1つであり、Tダイス1A2から流下する膜状の溶融物のキャストロール1B1への密着性及び離型性のバランスを考慮して最適化されるものであり、熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tgに対して−40℃から+20℃とすることが好ましく、特に−35℃から+10℃とすることが好ましい。
【0092】
タッチロール1B2の表面温度を均一にするため、タッチロール1B2に温調ロールを接触させたり、温度制御された空気を吹き付けたり、液体などの熱媒体を接触させてもよい。
【0093】
本発明では、更にタッチロール1B2の押圧時のタッチロール1B2の線圧を1kg/cm以上、50kg/cm以下、タッチロール1B2側の膜状の溶融物の表面温度Ttを、Tg<Tt<Tg+110℃とすることが好ましい。タッチロール1B2の線圧をこの範囲とすることで液晶表示装置で画像を表示した際の明暗のスジや斑点状むらのない光学フィルムが得られる。
【0094】
線圧とは、押圧ロール1B2が膜状の溶融物を押圧する力を押圧時の膜状の溶融物の幅で除した値である。線圧を上記の範囲にする方法は、特に限定はなく、例えば、エアーシリンダーや油圧シリンダーなどで弾性ロール両端を押圧することが出来る。又、サポートロールにより押圧ロール1B2を押圧することで、間接的にフィルムを押圧してもよい。
【0095】
尚、本発明のフィルムの製造方法に係るタッチロール1B2として使用する弾性ロールとしては、特開平03−124425号、特開平08−224772号、特開平07−100960号、特開平10−272676号、WO97/028950号、特開平11−235747号、特開2002−36332号、特開2005−172940号や特開2005−280217号に記載されているような表面が薄膜金属スリーブ被覆シリコンゴムロールを使用することが出来る。
【0096】
次ぎに本発明に使用する熱可塑性樹脂、添加剤に付き説明する。
【0097】
(熱可塑性樹脂)
本発明の光学フィルムの製造方法に用いる熱可塑性樹脂は、溶融流延製膜法により製膜可能であれば特に限定されない。
【0098】
ここで、「熱可塑性樹脂」とは、ガラス転移温度又は融点まで加熱することによって軟らかくなり、目的の形に成形出来る樹脂をいう。
【0099】
熱可塑性樹脂としては、一般的汎用樹脂としては、セルロースエステル、ポリエチレン(PE)、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン(PS)、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、テフロン(登録商標)(ポリテトラフルオロエチレン、PTFE)、ABS樹脂(アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂)、AS樹脂、アクリル樹脂(PMMA)等が挙げられる。
【0100】
又、強度や壊れ難さを特に要求される場合、ポリアミド(PA)、ナイロン、ポリアセタール(POM)、ポリカーボネート(PC)、変性ポリフェニレンエーテル(m−PPE、変性PPE、PPO)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、グラスファイバー強化ポリエチレンテレフタレート(GF−PET)、環状ポリオレフィン(COP)等を用いることが出来る。
【0101】
更に高い熱変形温度と長期使用出来る特性を要求される場合は、ポリフェニレンスルファイド(PPS)、ポリテトラフロロエチレン(PTFE)、ポリスルホン、ポリエーテルサルフォン、非晶ポリアリレート、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、熱可塑性ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)等を用いることが出来る。尚、本発明の用途にそって樹脂の種類、分子量の組み合わせを行うことが可能である。
【0102】
本発明においては、熱可塑性樹脂として、特に、セルロースエステル系樹脂、アクリル系樹脂、及びシクロオレフィン系樹脂のうちの少なくとも一種の樹脂を含有することが好ましい。
【0103】
以下、本発明において好適に用いることが出来る熱可塑性樹脂について詳細な説明をする。
【0104】
〈セルロースエステル系樹脂〉
本発明に用いることが出来るセルロースエステル系樹脂は、セルロース(ジ、トリ)アセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートフタレート、及びセルロースフタレートから選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
【0105】
これらの中で特に好ましいセルロースエステルは、セルローストリアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネートやセルロースアセテートブチレートが挙げられる。
【0106】
混合脂肪酸エステルの置換度として、炭素原子数2〜4のアシル基を置換基として有している場合、アセチル基の置換度をXとし、プロピオニル基又はブチリル基の置換度をYとした時、下記式(I)及び(II)を同時に満たすセルロースエステルを含むセルロース樹脂であることが好ましい。
【0107】
式(I) 2.0≦X+Y≦3.0
式(II) 0≦X≦2.5
更に、本発明で用いられるセルロースエステルは、重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn比が1.5から5.5のものが好ましく用いられ、特に好ましくは2.0から5.0であり、更に好ましくは2.5から5.0であり、更に好ましくは3.0から5.0のセルロースエステルが好ましく用いられる。
【0108】
本発明で用いられるセルロースエステルの原料セルロースは、木材パルプでも綿花リンターでもよく、木材パルプは針葉樹でも広葉樹でもよいが、針葉樹の方がより好ましい。製膜の際の剥離性の点からは綿花リンターが好ましく用いられる。これらから作られたセルロースエステルは適宜混合して、或いは単独で使用することが出来る。
【0109】
例えば、綿花リンター由来セルロースエステル:木材パルプ(針葉樹)由来セルロースエステル:木材パルプ(広葉樹)由来セルロースエステルの比率が100:0:0、90:10:0、85:15:0、50:50:0、20:80:0、10:90:0、0:100:0、0:0:100、80:10:10、85:0:15、40:30:30で用いることが出来る。
【0110】
本発明で使用するセルロースエステル樹脂は、20mlの純水(電気伝導度0.1μS/cm以下、pH6.8)に1g投入し、25℃、1hr、窒素雰囲気下にて攪拌した時のpHが6から7、電気伝導度が1μS/cmから100μS/cmであることが好ましい。
【0111】
〈アクリル樹脂〉
本発明に用いることが出来るアクリル樹脂には、メタクリル樹脂も含まれる。本発明のアクリル樹脂は、下記一般式で表され、重量平均分子量Mwが20000以上1000000以下であることが好ましい。
【0112】
一般式(1)
−(MMA)p−(X)q−(Y)r−
MMAはメチルメタクリレートを、Xはアミド基を少なくとも一種有するMMAと共重合可能なモノマー単位を、YはMMA、Xと共重合可能なモノマー単位を表す。p、q、rはモル%であり、50≦p≦99、1≦q≦50、p+q+r=100である。
【0113】
Xは、MMAと共重合可能なアミド基を少なくとも一種有するビニルモノマーであり、Xは一種でも2種以上でもよく、1モノマー単位中に複数の官能基を有していてもよい。
【0114】
Xの具体的なモノマーとしては、アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−ブチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、アクリロイルモルホリン、N−ヒドロキシエチルアクリルアミド、アクリロイルピロリジン、アクリロイルピペリジン、メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−ブチルメタクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N,N−ジエチルメタクリルアミド、メタクリロイルモルホリン、N−ヒドロキシエチルメタクリルアミド、メタクリロイルピロリジン、メタクリロイルピペリジン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、ビニルピロリドン等が挙げられる。
【0115】
好ましくは、アクリロイルモルホリン、ビニルピロリドン、が挙げられる。
【0116】
これらのモノマーは市販のものをそのまま使用することが出来る。
【0117】
qは、1≦q≦50であり、モノマーの性質により適宜選択されるが、好ましくは5≦q≦30である。又、Xは複数のモノマーであってもよい。
【0118】
本発明のアクリル樹脂におけるYはMMA、Xと共重合可能なモノマー単位を表す。
【0119】
Yとしては、MMA以外のアクリルモノマー、メタクリルモノマー、オレフィン、アクリロニトリル、スチレン、酢酸ビニル等のモノマーが挙げられる。Yは2種以上であってもよい。
【0120】
Yは必要に応じて使用出来るものであり、使用しないことが最も好ましい。
【0121】
本発明のアクリル樹脂の重量平均分子量(Mw)は、20000から1000000の範囲内であることが更に好ましく、50000から600000の範囲内であることが特に好ましく、100000から400000の範囲であることが最も好ましい。
【0122】
本発明のアクリル樹脂の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定することが出来る。測定条件は以下の通りである。
【0123】
溶媒:メチレンクロライド
カラム:Shodex K806、K805、K803G(昭和電工(株)製を3本接続して使用した)
カラム温度:25℃
試料濃度:0.1質量%
検出器:RI Model 504(GLサイエンス社製)
ポンプ:L6000(日立製作所(株)製)
流量:1.0ml/min
校正曲線:標準ポリスチレンSTK standard ポリスチレン(東ソー(株)製)Mw=2,800,000から500迄の13サンプルによる校正曲線を使用した。13サンプルは、ほぼ等間隔に用いることが好ましい。
【0124】
本発明におけるアクリル樹脂の製造方法としては、懸濁重合、乳化重合、塊状重合、あるいは溶液重合等の公知の方法のいずれを用いても良い。ここで、重合開始剤としては、通常のパーオキサイド系およびアゾ系のものを用いることが出来、又、レドックス系とすることも出来る。
【0125】
重合温度については、懸濁又は乳化重合では30℃から100℃、塊状又は溶液重合では80℃から160℃で実施しうる。得られた共重合体の還元粘度を制御するために、アルキルメルカプタン等を連鎖移動剤として用いて重合を実施することも出来る。
【0126】
〈シクロオレフィン系樹脂〉
本発明においては、シクロ(以下、「環状」ともいう。)オレフィン系樹脂を用いることも好ましい。シクロオレフィン系樹脂としては、ノルボルネン系樹脂、単環の環状オレフィン系樹脂、環状共役ジエン系樹脂、ビニル脂環式炭化水素系樹脂、及び、これらの水素化物等を挙げることが出来る。これらの中で、ノルボルネン系樹脂は、透明性と成形性が良好なため、好適に用いることが出来る。
【0127】
ノルボルネン系樹脂としては、例えば、ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体若しくはノルボルネン構造を有する単量体と他の単量体との開環共重合体又はそれらの水素化物、ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体若しくはノルボルネン構造を有する単量体と他の単量体との付加共重合体又はそれらの水素化物等を挙げることが出来る。
【0128】
これらの中で、ノルボルネン構造を有する単量体の開環(共)重合体水素化物は、透明性、成形性、耐熱性、低吸湿性、寸法安定性、軽量性などの観点から、特に好適に用いることが出来る。
【0129】
ノルボルネン構造を有する単量体としては、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(慣用名:ノルボルネン)、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,7−ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)、7,8−ベンゾトリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン(慣用名:メタノテトラヒドロフルオレン)、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン(慣用名:テトラシクロドデセン)、及びこれらの化合物の誘導体(例えば、環に置換基を有するもの)などを挙げることが出来る。ここで、置換基としては、例えばアルキル基、アルキレン基、極性基などを挙げることが出来る。又、これらの置換基は、同一又は相異なって複数個が環に結合していてもよい。ノルボルネン構造を有する単量体は一種単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることが出来る。
【0130】
極性基の種類としては、ヘテロ原子、又はヘテロ原子を有する原子団などが挙げられる。ヘテロ原子としては、例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、ハロゲン原子などが挙げられる。極性基の具体例としては、カルボキシル基、カルボニルオキシカルボニル基、エポキシ基、ヒドロキシル基、オキシ基、エステル基、シラノール基、シリル基、アミノ基、ニトリル基、スルホン基などが挙げられる。
【0131】
ノルボルネン構造を有する単量体と開環共重合可能な他の単量体としては、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテンなどのモノ環状オレフィン類及びその誘導体、シクロヘキサジエン、シクロヘプタジエンなどの環状共役ジエン及びその誘導体などが挙げられる。
【0132】
ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体及びノルボルネン構造を有する単量体と共重合可能な他の単量体との開環共重合体は、単量体を公知の開環重合触媒の存在下に(共)重合することにより得ることが出来る。
【0133】
ノルボルネン構造を有する単量体と付加共重合可能な他の単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテンなどの炭素数2〜20のα−オレフィン及びこれらの誘導体;シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセンなどのシクロオレフィン及びこれらの誘導体;1,4−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエンなどの非共役ジエンなどが挙げられる。これらの単量体は一種単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることが出来る。これらの中でも、α−オレフィンが好ましく、エチレンがより好ましい。
【0134】
ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体及びノルボルネン構造を有する単量体と共重合可能な他の単量体との付加共重合体は、単量体を公知の付加重合触媒の存在下に重合することにより得ることが出来る。
【0135】
ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体の水素添加物、ノルボルネン構造を有する単量体とこれと開環共重合可能なその他の単量体との開環共重合体の水素添加物、ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体の水素添加物、及びノルボルネン構造を有する単量体とこれと付加共重合可能なその他の単量体との付加共重合体の水素添加物は、これらの重合体の溶液に、ニッケル、パラジウムなどの遷移金属を含む公知の水素添加触媒を添加し、炭素−炭素不飽和結合を好ましくは90%以上水素添加することによって得ることが出来る。
【0136】
ノルボルネン系樹脂の中でも、繰り返し単位として、X:ビシクロ[3.3.0]オクタン−2,4−ジイル−エチレン構造と、Y:トリシクロ[4.3.0.12,5]デカン−7,9−ジイル−エチレン構造とを有し、これらの繰り返し単位の含有量が、ノルボルネン系樹脂の繰り返し単位全体に対して90質量%以上であり、かつ、Xの含有割合とYの含有割合との比が、X:Yの質量比で100:0から40:60であるものが好ましい。このような樹脂を用いることにより、長期的に寸法変化がなく、光学特性の安定性に優れる光閉じ込めフィルムを得ることが出来る。
【0137】
本発明に用いる環状オレフィン樹脂の分子量は使用目的に応じて適宜選定される。溶媒としてシクロヘキサン(重合体樹脂が溶解しない場合はトルエン)を用いるゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーで測定したポリイソプレン又はポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)で、通常20,000から150,000である。好ましくは25,000から100,000、より好ましくは30,000から80,000である。重量平均分子量がこのような範囲にあるときに、フィルムの機械的強度及び成型加工性とが高度にバランスされ好適である。
【0138】
環状オレフィン樹脂のガラス転移温度は、使用目的に応じて適宜選択されればよい。耐久性及び延伸加工性の観点から、好ましくは130℃から160℃、より好ましくは135℃から150℃の範囲である。
【0139】
環状オレフィン樹脂の分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は、緩和時間、生産性等の観点から、1.2から3.5、好ましくは1.5から3.0、更に好ましくは1.8から2.7である。
【0140】
本発明に用いる環状オレフィン樹脂は、光弾性係数の絶対値が10×10−12Pa−1以下であることが好ましく、7×10−12Pa−1以下であることがより好ましく、4×10−12Pa−1以下であることが特に好ましい。光弾性係数Cは、複屈折をΔn、応力をσとしたとき、C=Δn/σで表される値である。
【0141】
本発明において、環状オレフィン樹脂には、実質的に粒子を含まないことが好ましい。ここで、実質的に粒子を含まないとは、環状オレフィン樹脂からなるフィルムへ粒子を添加しても、未添加状態からのヘイズの上昇巾が0.05%以下の範囲である量までは許容出来ることを意味する。特に、脂環式ポリオレフィン樹脂は、多くの有機粒子や無機粒子との親和性に欠けるため、上記範囲を超えた粒子を添加した環状オレフィン樹脂フィルムを延伸すると、空隙が発生しやすく、その結果として、ヘイズの著しい低下が生じるおそれがある。
【0142】
(添加剤)
本発明のロール状フィルムの製造方法に係わる添加剤としては、有機酸と3価以上のアルコールが縮合した構造を有するエステル系可塑剤、多価アルコールと1価のカルボン酸からなるエステル系可塑剤、多価カルボン酸と1価のアルコールからなるエステル系可塑剤の少なくとも一種の可塑剤、フェノール系酸化防止剤、ヒンダードアミン光安定剤、リン系安定剤、イオウ系安定剤から選択される少なくとも一種の安定剤を含んでいることが好ましく、更にこの他に過酸化物分解剤、ラジカル捕捉剤、金属不活性化剤、紫外線吸収剤、マット剤、染料、顔料、更には前記以外の可塑剤、ヒンダードフェノール酸化防止剤以外の酸化防止剤等を含んでも構わない。
【実施例】
【0143】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0144】
実施例1
(ペレットの作製)
下記の組成物を、ヘンシェルミキサーを用いて、2300r/minで60秒間混合した。引き続き、ベント付き、L/D=35(押出し機のスクリューの有効長Lと、半径Dの比率)の2軸押出し機において、ベントで真空吸引しながらストランド用ダイを介して250℃で、直径3mmのストランド形状で押出し、50℃の水で1分間洗浄し、水切りをした後、長さ2mmから3mmに断裁しペレットを作製した。
【0145】
(組成物)
セルロースアセテートプロピオネート(イーストマンケミカル社製、商品名:CAP−482−20) 35質量部
アクリル共重合体(MMA/ACMO*:70/30、平均分子量10万)
65質量部
安定剤IRGANOX1010(BASFジャパン(株)製) 0.5質量部
安定剤PEP−36(ADEKA(株)製) 0.075質量部
安定剤Sumilizer(GS:住友化学(株)製) 0.48質量部
ACMO*:アクリロイルモルホリン
(ペレットの乾燥)
作製されたペレットを90℃の熱風乾燥機にて含水率が500ppm以下になるまで乾燥した。
【0146】
(光学フィルム(試料No.101から130)の製造)
準備したペレットを図1に示す製造装置を使用し、表1に示す条件で溶融押出し部でTダイス、又は、冷却引取り部をTD方向に移動しながら成膜した後、延伸部でMD延伸とTD延伸を行い、TD延伸後の光学フィルムを幅2200mmになる様に両端部をスリッターで切除した後、両サイドに高さ4μmのエンボス加工を行い、巻取り部で1巻き8000mとして巻芯に巻き取り、巻芯を交換しながら連続して8巻きの膜厚20μmのロール状の光学フィルムを製造し、試料No.101から130とした。尚、MD延伸を行う前に両端を切除し1300mmになるようにスリッターで切除した。又、TD延伸を行う前に両端を切除し1150mmになるようにスリッターで切除した。
【0147】
(比較光学フィルム(比較試料No.131)の製造)
Tダイス及び冷却引き取り部の位置を固定した他は全て同じ条件でロール状の光学フィルムを製造し比較試料No.131とした。
【0148】
(比較光学フィルム(比較試料No.132)の製造)
又、Tダイス及びキャストロールの位置を固定し、巻取り部で巻取り軸をTD方向に、25mm幅(±12.5mm)で8分周期で10往復させて、巻取った他は全て同じ条件でロール状の光学フィルムを製造し比較試料No.132とした。
【0149】
(溶融押出し部の溶融押出し条件)
単軸押出し機:スクリュー径90mm、L/D=30(押出し機のスクリューの有効長Lと、半径Dの比率)
溶融温度:250℃
押出し環境:材料供給口付近より窒素ガスを封入して、押出し機内を窒素雰囲気に保った。
【0150】
Tダイス:幅1500mmのコートハンガータイプで、内壁にハードクロムメッキを施しており、面粗度0.1Sの鏡面に仕上げられている。リップ間隙の調整として、間隔25mmで60箇所にリップ間隙調整ボルトを間隔25mm(調整ボルトの中心から中心までの距離)として設けた。製膜フィルムの平均膜厚を80μm、膜厚変動幅を±2μmになるように調整した。
【0151】
Tダイスのリップ間隙:1mm
Tダイスからの溶融物の押出し量:200kg/hr
(冷却引取り部)
引き取り速度:MD延伸装置に入る迄を50m/min
(キャストロールの準備)
キャストロールの直径:400mm
キャストロールの表面温度:120℃
キャストロールの表面温度は冷却水を流すことで制御した。
【0152】
(タッチロールの準備)
タッチロールとして金属外筒と金属内筒とからなる弾性タッチロールを準備した。
【0153】
表面温度:90℃
弾性タッチロールの表面温度は空隙に熱媒体としてオイルを使用した。
【0154】
弾性タッチロールの押圧(線圧):20N/mm
(延伸部)
MD延伸装置:6本のヒートロールを有し、入口から順番に60℃、90℃、120℃、120℃、90、60℃に温調した状態で搬送速度を100m/分まで徐々に増速して延伸率を2.0倍とした。
【0155】
TD延伸装置:クリップ型のテンター
TD延伸率:2.0倍
(巻取り部)
巻取り時の速度:100m/min
巻取り時の張力:巻取り開始時点の巻取り張力を200N、以降、巻取り張力を1000m当たり5%づつ低下させて長さ8000mを1巻きとして巻き取った。
【0156】
【表1】

【0157】
TダイスのTD方向最大移動(Tmax)距離*:Tダイスの幅方向の中心を基準として、1巻きのロール状の光学フィルムを製造する時間(80分)に移動する距離を示す。
【0158】
冷却引取り部のTD方向最大移動(Tmax)距離*:キャストロールの幅方向の中心を基準として、1巻きのロール状の光学フィルムを製造する時間(80分)に移動する距離を示す。
【0159】
移動方法1*:
ロール状の光学フィルムを連続して製造する時、1本のロール状の光学フィルムを製造する時間をLt(80分)とした時、Tダイス1A2(図2参照)又は冷却引取り部1B(図2参照)のTD方向の移動を、Lt(80分)の間に17mmから25mmの範囲で同一の方向に移動し、次のロール状の光学フィルムを製造する時に、Tダイス1A2(図2参照)又は冷却引取り部1B(図2参照)の何れか一方のTD方向の移動を、直前のロール状の光学フィルムを製造した時と逆方向にする。以降、連続的にロール状の光学フィルムを製造する時に、Tダイス1A2(図2参照)又は冷却引取り部1B(図2参照)の何れか一方のTD方向の移動を交互にして行う。
【0160】
移動方法2*
ロール状の光学フィルムを連続して製造する時、1本のロール状の光学フィルムを製造する時間をLt(80分)とした時、Tダイス1A2(図2参照)又は冷却引取り部1B(図2参照)の何れか一方のTD方向の移動を、Lt(80分)の間に17mmから25mmの範囲で同一の方向に移動し、次のロール状の光学フィルムを製造する時に、Tダイス1A2(図2参照)又は冷却引取り部1B(図2参照)を、直前のロール状の光学フィルムを製造した時の位置に戻し、直前のロール状の光学フィルムを製造した時と同じ方向に移動させ、直前のロール状の光学フィルムを製造した時の位置にTダイス1A2(図2参照)又は冷却引取り部1B(図2参照)を戻す迄の時間に巻取った部分は廃棄する。以降、引き続きロール状の光学フィルムを連続的に製造する時、Tダイス1A2(図2参照)又は冷却引取り部1B(図2参照)のTD方向の移動は上記方法を繰り返し行う。
【0161】
移動方法3*
ロール状の光学フィルムを連続して製造する時、1本のロール状の光学フィルムを製造する時間をLt(80分)とした時、Tダイス1A2(図2参照)又は冷却引取り部1B(図2参照)の何れか一方のTD方向の移動を、Lt(80分)の間に17mmから25mmの範囲でLt(80分)×0.5以下の周期で反転させながら行う。以降、引き続きロール状の光学フィルムを連続的に製造する時、Tダイス1A2(図2参照)又は冷却引取り部1B(図2参照)のTD方向の移動は上記方法を繰り返し行う。
【0162】
評価
作製した各試料No.101から132の1巻き、5巻き、8巻きのロール状の光学フィルムに付き作製した試料を、温度25℃、湿度50%RHの環境で1週間放置した後、ブラックバンド、巻き姿、巻き締まりに付き、以下に示す方法で評価した。結果を表2に示す。
【0163】
(ブラックバンドの評価方法)
周面を目視で観察した。
【0164】
(ブラックバンドの評価ランク)
○:ブラックバンドが見えない
△:かすかにブラックバンドの発生が見受けられる
×:ブラックバンドが明確に見える
(巻き姿の評価方法)
周面を目視で観察した。
【0165】
巻き姿の評価ランク
○:皺や折り目が無い、表面が平滑
△:表面にやや皺がよっている
×:表面に明確な皺が有る
(巻き締まりの評価方法)
周面を手の平で触り評価した。
【0166】
(巻き締まりの評価ランク)
○:幅手全体に同じ締まり
△:やや、硬さにバラつきは有るが、硬く締まっている部位は無い
×:明らかに硬く締まっている部位がある
【0167】
【表2】

【0168】
少なくとも熱可塑性樹脂及び添加剤を含む溶融物を複数のリップ間隙調整手段を有するTダイスより膜状の溶融物として押出す溶融押出し部と、少なくともタッチロールとキャストロールとを有する冷却引取り部と、巻き取り部とを有する溶融押出し方式のフィルム製造装置により光学フィルムを製造する時、Tダイス、又は前記冷却引取り部のどちらか1方をTD方向に移動しながら製造した試料No.101から130は何れもブラックバンドの発生がなく、巻き姿も安定し、巻き締まりもなく安定していることが確認された。
【0169】
Tダイス、又は前記冷却引取り部のどちらも固定した状態の従来の方法で作成した試料No131はブラックバンドの発生、巻き姿、巻き締まりの全てに付き本発明の試料No.101から130よりも劣る結果を示した。
【0170】
巻取り時に巻き取り軸をTD方向にずらして作成した試料No.132は、ブラックバンドの発生は見られなかったが、途中での破断が発生した。又、巻き姿、巻き締まりに付き本発明の試料No.101から130よりも劣る結果を示した。本発明の有効性が確認された。
【符号の説明】
【0171】
1 フィルム製造装置
1A 溶融押出し部
1A1 溶融押出し機
1A2 Tダイス
1A261 リップ間隙(押出し口)
1A27 リップ間隙調整手段
1B 冷却引取り部
1B1 キャストロール
1B2 タッチロール
1B3、1B4 補助冷却ロール
1B5 剥離ロール
1C 延伸部
1C1 MD延伸部
1C11 MD延伸装置
1C2 TD延伸部
1C21 TD延伸装置
1D 巻取り部
1E 膜厚測定装置
1F スリッター
2 膜状物
2a 未延伸フィルム
2b、2c 延伸フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも熱可塑性樹脂及び添加剤を含む溶融物を複数のリップ間隙調整手段を有するTダイスより膜状の溶融物として押出す溶融押出し部と、少なくともタッチロールとキャストロールとを有する冷却引取り部と、巻き取り部とを有する溶融押出し方式の光学フィルムの製造装置において、
前記Tダイス、又は前記冷却引取り部のどちらか1方をTD方向に移動しながら製膜した後、前記巻き取り部でロール状に巻き取ることを特徴とする光学フィルムの製造装置。
【請求項2】
少なくとも熱可塑性樹脂及び添加剤を含む溶融物を複数のリップ間隙調整手段を有するTダイスより膜状の溶融物として押出す溶融押出し部と、少なくともタッチロールとキャストロールとを有する冷却引取り部と、巻き取り部とを有する溶融押出し方式のフィルム製造装置により光学フィルムを製造する光学フィルムの製造方法において、
前記Tダイス、又は前記冷却引取り部のどちらか1方をTD方向に移動しながら製膜した後、前記巻き取り部でロール状に巻き取り光学フィルムを製造することを特徴とする光学フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記冷却引取り部、又は前記Tダイスの前記TD方向の移動幅Tの最大値をTmax、前記複数のリップ間隙調整手段の間隔をRとした時、下記の関係を有していることを特徴とする請求項2に記載の光学フィルムの製造方法。
0.75R<Tmax
【請求項4】
前記光学フィルムを前記巻き取り部で巻き取り、連続して複数のロール状の光学フィルを製造する時、1本のロール状の光学フィルを製造する時間をLtとした時、前記Tダイス、又は前記冷却引取り部の前記TD方向の移動を、前記Ltの間に同一の方向に移動し、次の前記ロール状の光学フィルを製造する時に、前記前記Tダイス又は前記冷却引取り部の前記TD方向の移動を、直前のロール状の光学フィルを製造した時と逆方向にすることを特徴とする請求項2又は3に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記光学フィルムを前記巻き取り部で巻き取り、連続して複数のロール状の光学フィルを製造する時、1本のロール状の光学フィルを製造する時間をLtとした時、前記Tダイス又は前記冷却引取り部の何れか1方の前記TD方向の移動を、前記Ltの間に、同一の方向に移動し、次のロール状の光学フィルムを製造する時に、前記Tダイス又は前記冷却引取り部を、直前のロール状の光学フィルムを製造した位置に戻し、直前のロール状の光学フィルムを製造した時と同じ方向に移動させ、直前のロール状の光学フィルムを製造した時の位置に戻す迄の時間の巻取り部分は廃棄することを特徴とする請求項2又は3に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記光学フィルムを前記巻き取り部で巻き取り、連続して複数のロール状の光学フィルを製造する時、1本のロール状の光学フィルを製造する時間をLtとした時、Tダイス又は冷却引取り部の何れか一方のTD方向の移動を、該Ltの間に、前記Tダイス又は前記冷却引取り部の前記TD方向の移動を該Lt×0.5以下の周期で反転させることを特徴とする請求項2又は3に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記冷却引取り部を通過した後、固定位置でフィルムの両端を切除することを特徴とする請求項2から6の何れか1項に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記フィルム製造装置は前記光学フィルムの膜厚測定装置を有し、該膜厚測定装置の測定結果によって、前記リップ間隙調整手段によりリップ間隙を調整することを特徴とする請求項2から6の何れか1項に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項9】
前記巻き取り部で巻取る時の前記光学フィルムの膜厚が10μm以上、25μm以下であり、且つ、前記ロール状に巻き取った光学フィルムの長さが4000m以上、35000m以下であることを特徴とする請求項2から6の何れか1項に記載の光学フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−14083(P2013−14083A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−148890(P2011−148890)
【出願日】平成23年7月5日(2011.7.5)
【出願人】(303000408)コニカミノルタアドバンストレイヤー株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】