説明

光学ローパスフィルタ、カメラ

【課題】連続する波長領域で、入射する光の波長に依らずモアレを防止できる光学ローパスフィルタ、カメラを提供する。
【解決手段】第1複屈折板101と第2複屈折板104との間に、第1波長板102及び第2波長板103を設けた。このとき、第1波長板102の光学軸と第2波長板103の光学軸とは、光路の進行方向に対して直交する面内で直交し、第1波長板102と第2波長板103との光路方向の厚みの差Δdは、第1波長板102及び第2波長板103の常光線と異常光線の屈折率の差をΔn、使用波長帯の中心波長をλとしたとき、Δd≒λ/(4・Δn)を満たすものとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撮像素子より光路の被写体側に設けられ、モアレ等を防止する光学ローパスフィルタ、及び、これを備えたカメラに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、デジタルスチルカメラやデジタルビデオカメラ等では、CCD(Charge Coupled Devices)やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)等の撮像素子を用いて撮影を行う。この撮像素子は、規則的に受光画素が配列されているので、モアレ縞や偽色(色モアレ)等(以下、これらをまとめてモアレと呼ぶ)が発生する場合がある。そこで、撮像素子の光の入射側には、モアレ等を防ぐ目的で光学ローパスフィルタが配置されている。
【0003】
光学ローパスフィルタには、2枚の複屈折板の間に、水晶等の一軸性結晶を用いた波長板(1/4波長板)を配置することにより、被写体側からの光を4点に分離して、モアレを防止するものがある。
この波長板は、直線偏光を円偏光に変換するために用いられている。理想的な波長板は、入射する光の波長に関係なく直線偏光を円偏光に変換するが、理想的な波長板を水晶を用いて形成する場合、その板厚は、非常に薄いものとなる。しかし、水晶板の板厚を、波長依存性の無い理想的な1/4波長板として使用できる程度の厚さまで薄く加工して波長板に用いることは、困難であった。そこで、従来は、光学ローパスフィルタとして使用できる薄さであり、波長依存性はあるが比較的その影響が目立たない厚さの水晶板を波長板として使用していた。
しかし、そのような厚さの波長板では、円偏光化の作用に波長依存性があるため、従来の光学ローパスフィルタを通過した光は、ある波長領域(色)では光が4点に分離するが、他の波長領域では4点分離が弱く、略2点にしか分離しないといった状態となり、光が4点に分離しない波長領域では、モアレ等が生じやすいという問題があった。
【0004】
特許文献1では、一軸延伸されたプラスチックフィルム等の高分子フィルムを1/4波長板として用いる例を示している。しかし、プラスチックフィルム等は、従来の水晶板等に比べて耐久性が劣り、変質・劣化等が生じるという問題があった。
【特許文献1】特開2004−70340号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、連続する波長領域で、入射する光の波長に依らずモアレを防止できる光学ローパスフィルタ、カメラを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下のような解決手段により、前記課題を解決する。なお、理解を容易にするために、本発明の実施例に対応する符号を付して説明するが、これに限定されるものではない。
請求項1の発明は、撮影光学系(4)の光路中であって、撮像素子(11)より被写体側に設けられる光学ローパスフィルタであって、最も被写体側に設けられ、入射する光を2つの光に分離する第1複屈折板(101)と、前記第1複屈折板より撮像素子側に設けられ、入射する光に含まれる振動方向が直交する2つの成分の間に、位相差を生じさせる第1波長板(102)及び第2波長板(103)と、前記第1波長板及び前記第2波長板より撮像素子側に設けられ、入射する光を2つの光に分離する第2複屈折板(104)と、を備える光学ローパスフィルタ(10)である。
請求項2の発明は、撮影光学系(4)の光路中であって、撮像素子(11)より被写体側に設けられる光学ローパスフィルタであって、最も被写体側に設けられ、入射する光を、略直線偏光にする第1複屈折板(101)と、前記第1複屈折板より撮像素子側に設けられ、入射する光を略円偏光にする第1波長板(102)及び第2波長板(103)と、前記第1波長板及び前記第2波長板より撮像素子側に設けられ、入射する光を略直線偏光にする第2複屈折板(104)と、を備える光学ローパスフィルタ(10)である。
請求項3の発明は、撮影光学系(4)の光路中であって、撮像素子(11)より被写体側に設けられる光学ローパスフィルタであって、最も被写体側に設けられ、前記光路の進行方向に対して直交しない面内に光学軸を有する第1複屈折板(101)と、前記第1複屈折板より撮像素子側に設けられ、前記光路の進行方向に対して直交する面内に光学軸を有する第1波長板(102)及び第2波長板(103)と、前記第1波長板及び前記第2波長板より撮像素子側に設けられ、前記光路の進行方向に対して直交しない面内に光学軸を有する第2複屈折板(104)と、を備える光学ローパスフィルタ(10)である。
請求項4の発明は、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の光学ローパスフィルタにおいて、前記第1波長板(102)の光学軸と前記第2波長板(103)の光学軸とは、前記光路の進行方向に対して直交する面内で略直交すること、を特徴とする光学ローパスフィルタ(10)である。
請求項5の発明は、請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の光学ローパスフィルタにおいて、前記第1波長板(102)と前記第2波長板(103)との前記光路方向の厚みの差をΔd、前記第1波長板及び前記第2波長板の常光線と異常光線との屈折率の差をΔn、使用波長帯の中心波長をλとしたとき、Δd≒λ/(4・Δn)が満たされること、を特徴とする光学ローパスフィルタ(10)である。
請求項6の発明は、請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の光学ローパスフィルタにおいて、前記光路の進行方向から見て、前記第1複屈折板(101)の光学軸と前記第1波長板(102)の光学軸とは、略45°をなすこと、を特徴とする光学ローパスフィルタ(10)である。
請求項7の発明は、請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の光学ローパスフィルタにおいて、前記第1波長板(102)及び前記第2波長板(103)は、水晶を用いて形成され、前記第1波長板と前記第2波長板との前記光路方向の厚みの差は、略15μmであること、を特徴とする光学ローパスフィルタ(10)である。
請求項8の発明は、請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載の光学ローパスフィルタ(10)を備えるカメラ(1)である。
なお、符号を付して説明した構成は、適宜改良してもよく、また、少なくとも一部を他の構成物に代替してもよい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、連続する波長領域で、入射する光の波長に依らずモアレを防止できる光学ローパスフィルタ、カメラを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面等を参照して、本発明の実施形態を挙げて、さらに詳しく説明する。なお、以下の実施形態では、一眼レフカメラを例にとって説明する。
(実施形態)
【0009】
図1は、本実施形態のカメラ1を説明する断面図である。
本実施形態のカメラ1は、カメラボディ2に対して交換レンズ3が着脱可能な一眼レフカメラである。
交換レンズ3は、撮影光学系を構成する撮影レンズ4を有し、カメラボディ2の被写体側(図1に示す左側)に着脱可能に装着される。
カメラボディ2は、ミラーユニット5,ファインダスクリーン6,ペンタプリズム7,接眼光学系8,シャッタ9,光学ローパスフィルタ10,撮像素子11,表示画面12等を備えている。
【0010】
ミラーユニット5は、クイックリターンミラーとも呼ばれ交換レンズ3を通過した被写体側からの光(被写体光)の光路を、屈曲させるためにカメラボディ2内に回転可能に設けられたミラーである。ミラーユニット5は、レリーズ操作に応じて、退避位置(図1に破線で示す)に移動し、被写体光は撮像素子11方向へ導かれる。
ファインダスクリーン6は、ミラーユニット5により反射された被写体像を、結像させるためのスクリーンであり、ミラーユニット5とペンタプリズム7との間に配置されている。
ペンタプリズム7は、ファインダスクリーン6で結像した像を正立像とし、接眼光学系8へと導くプリズムであり、その断面形状は五角形である。ペンタプリズム7は、カメラボディ2を横位置に構えた状態の上部に収納されている。
接眼光学系8は、ペンタプリズム7により正立像となった被写体像を、拡大観察するための光学系であり、ペンタプリズム7よりもカメラボディ2の背面側(撮影者側)に配置されている。
【0011】
シャッタ9は、レリーズ操作に応じて開閉して露光時間を制御し、これにより、被写体像が、撮像素子11に結像される。
光学ローパスフィルタ10は、交換レンズ3からの被写体光の光路中であって、撮像素子11よりも被写体側であって、シャッタ9と撮像素子11との間に設けられるフィルタである。この光学ローパスフィルタ10の詳細に関しては後述する。
撮像素子11は、撮影光学系によって結像された被写体像を撮影する、例えば、CCDである。撮像素子11は、カメラボディ2の内側の背面側(図1に示す右側)に、撮像面が光路に対して垂直となるように設けられている。
表示画面12は、カメラボディ2の外側の背面側(撮影者側)に設けられた液晶等の表示パネルであり、撮影した被写体像や、露光時間等の撮影に関する情報等を表示する。
上述したカメラ1では、レリーズ操作が行われると、ミラーユニット5は、図1に破線で示すような退避位置に移動する。シャッタ9は、レリーズ操作に応じて開閉し、被写体光は、光学ローパスフィルタ10を通過して撮像素子11に結像され、撮影される。
【0012】
図2は、光学ローパスフィルタ10の層構成と各層の光学軸を説明する斜視図である。なお、図2では、積層された各層を離して示してある。また、図2では、理解を容易にするために、xyz座標軸を設定してある。z軸の正の方向は、光路の進行方向であり、z軸に直交する面内に、互いに直交するx軸、y軸を設定した。y軸の正の方向は、カメラボディ2を横位置で構えたときの鉛直方向上向きであり、x軸の正の方向は、カメラボディ2を横位置で構えたときに撮影者から見て右の方向である。なお、本実施形態では、x軸,y軸を上述のように規定したが、以下に説明する光学ローパスフィルタ10の光学軸の方向は、光路を軸として回転していてもよい。
図3は、光学ローパスフィルタ10の各層の光学軸の角度を説明する図である。図3(a)〜(l)は、各複屈折板,波長板の光学軸を、図2中に示すxyz座標における各平面において示しており、図3(a)〜(d)は、xz平面、図3(e)〜(h)は、xy平面、図3(i)〜(l)は、yz平面での各光学軸を示している。
光学ローパスフィルタ10は、撮影に使用しない不要な波長の光を除去する機能や、入射する被写体光を4点に分離させてモアレ等を低減する機能を有するフィルタであり、第1複屈折板101,赤外カットガラス105,第1波長板102,第2波長板103,第2複屈折板104が積層されて形成されている。
【0013】
第1複屈折板101は、水晶を用いて形成され、最も被写体側に設けられている。第1複屈折板101は、入射する光を、振動方向が互いに直交する2つの直線偏光に分離する。
この第1複屈折板101は、光路の進行方向とは直交しない面内に光学軸を有している。なお、光学軸とは、複屈折結晶において、屈折率が一定になり、複屈折が発生しない方向を示す軸であり、以下の説明中、及び、特許請求の範囲においても同一の定義として用いる。この光学軸に沿って入射した光は、複屈折が生じないため、通常は分離する常光線と異常光線の進行方向が一致、又は、ずれが最小となる。また、光学軸は、撮影光学系を構成する撮影レンズ4等の中心を結んだ線である光軸とは異なる。
第1複屈折板101の光学軸は、図3(a)(e)(i)に示すように、光路の進行方
向と直交しない面内(xz平面内)に有り、x軸と45°をなしている。
【0014】
赤外カットガラス105は、本実施形態では、第1複屈折板101と第1波長板102との間に設けられ、撮影に不要な赤外線以上の長波長の光線を吸収する。
この赤外カットガラス105は、複屈折性を持たない。そのため、図2及び図3では、光学軸を示していない。
また、本実施形態では、赤外カットガラス105は、第1複屈折板101と第1波長板102との間に設けられる例を示したが、これに限らず、例えば、光学ローパスフィルタ10の最も被写体側や最も撮像素子側に配置してもよいし、第1波長板102と第2波長板103との間や、第2波長板103と第2複屈折板104の間に配置してもよく、特に限定しない。
【0015】
第1波長板102は、水晶を用いて形成され、第1複屈折板101よりも撮像素子11側に設けられている。第1波長板102は、入射する光に含まれる振動方向が互いに直交する2つの成分の間に位相差を生じさせ、入射する光(直線偏光)を円偏光にする。
第1波長板102の光学軸は、図3(b)(f)(j)に示すように、光路の進行方向と直交する面(xy平面)内にあり、x軸と45°をなしている。
また、第1波長板102の光学軸と第1複屈折板101の光学軸とは、光路の進行方向から見て(xy平面内において)45°をなしている(図3(e)(f)参照)。
【0016】
第2波長板103は、水晶を用いて形成され、第1波長板102よりも被写体側に設けられている。第2波長板103は、入射する光に含まれる振動方向が互いに直交する2つの成分の間に位相差を生じさせ、入射する光(直線偏光)を円偏光にする。
第2波長板103の光学軸は、図3(c)(g)(k)に示すように、光路の進行方向と直交する面(xy平面)内にあり、x軸と135°をなしている。よって、第1波長板102の光学軸と第2波長板103の光学軸とは、xy平面内において直交している(図3(f)(g)参照)。
また、第1波長板102と第2波長板103とは、光路方向における厚みが異なっている。
【0017】
第2複屈折板104は、水晶を用いて形成され、第2波長板103よりも撮像素子11側に設けられている。この第2複屈折板104は、入射する光を、振動方向が互いに直交する2つの直線偏光に分離する。
第2複屈折板104の光学軸は、図3(d)(h)(l)に示すように、光路の進行方向と直交しない面(yz平面)内にあり、y軸と45°をなしている。
【0018】
ここで、第1波長板102,第2波長板103の光路方向の厚みを、それぞれd1,d2とし、光路方向の厚みの差をΔd=|d1−d2|とする。また、水晶の複屈折性による常光線の屈折率と異常光線の屈折率との差をΔnとし、撮影に使用する被写体光の波長領域(以下、使用波長帯とする)の中心波長をλとすると、本実施形態の第1波長板102と第2波長板103との光路方向の厚みの差には、以下に示す(式1)が成立する。
Δd≒λ/(4・Δn) ・・・(式1)
水晶を用いて理想的な波長板(1/4波長板)を1枚で形成する場合、理想的な波長板の厚みDの式は、以下に示す(式2)で与えられる。
D=λ/(4・Δn) ・・・(式2)
つまり、本実施形態の第1波長板102と第2波長板103の光路方向の厚みの差Δdは、理想的な波長板の厚みDに略等しい。
なお、中心波長とは、最も注目する(重点をおく)波長のことであり、通常、可視光領域であれば、緑色光(500〜550nm付近)に中心波長が存在するため、使用波長帯の中央付近となる。
【0019】
ここで、使用波長帯は可視光領域であり、その中心波長λ=550nm、水晶における常光線の屈折率と異常光線の屈折率との差Δn=0.0091であり、これらの数値を(式2)に代入し、理想的な波長板の厚みを求めると、
D=550×10-9/(4×0.0091)≒15μm
となる。厚みが略15μmの水晶板を作製することは、困難であり、コスト面等の観点から現実的ではない。そのため、本実施形態では、第1波長板102と第2波長板103とを、その光学軸が直交するように配置し、その光路方向の厚みの差を(式1)を満たすΔdとした。これにより、第1波長板102と第2波長板103との厚みが等しい部分で生じた位相差は相殺され、厚み差Δdで生じた位相差のみが残る。
【0020】
図4は、本実施形態の光学ローパスフィルタ10と、各層を通過した光の様子を示した図である。なお、図4では、簡単のため、被写体が点像である場合を示している。
被写体光は、まず第1複屈折板101に入射する。被写体光は、複屈折によって振動方向が直交する2つの直線偏光に分離し、第1複屈折板101から出射する。
2つの直線偏光となった被写体光は、次に、赤外カットガラス105に入射する。赤外カットガラス105は、複屈折性を有しておらず、被写体光の偏光状態や位相差には影響を与えない。
赤外カットガラス105を出射した被写体光は、第1波長板102に入射する。第1波長板102は、入射する光に含まれる振動方向が直交する2つの成分の間に位相差を生じさせるため、第1波長板102を出射した被写体光は、2つの円偏光となる。しかし、このとき、第1波長板102によって円偏光化する作用には、波長依存性があるため、被写体光の使用波長帯の一部の波長領域では、円偏光化が不完全である。
【0021】
第1波長板102を出射した被写体光は、第2波長板103に入射する。第2波長板103の光学軸は、第1波長板102の光学軸と光路の進行方向に直交する面内で直交しており、第1波長板102と第2波長板103とは、被写体光の光路方向で厚み差Δdを有している。そのため、第1波長板102と第2波長板103との厚みが等しい部分で生じる位相差は、相殺され、厚み差Δd分で生じる位相差のみが残る。つまり、第1波長板102及び第2波長板103は、厚みがΔdに等しい1枚の波長板が設けられている場合と同様の作用を、被写体光に与える。
ここで、第1波長板102と第2波長板103との光路方向での厚みの差Δdは、(式1)を満たしており、第1波長板102及び第2波長板103は、波長依存性のない理想的な波長板として、被写体光に作用する。従って、第2波長板103を出射した被写体光は、使用波長帯の全てにおいて、2つの円偏光となる。
2つの円偏光となった被写体光は、第2複屈折板104に入射し、それぞれ、振動方向が互いに直交する2つの直線偏光に分離され、4つの直線偏光となって出射し、撮像素子11に入射する。
【0022】
ここで、本実施形態の光学ローパスフィルタ10の実施例と、従来の光学ローパスフィルタである比較例とを用意して、波長板によって生じる位相差等について調べた。
実施例の光学ローパスフィルタ10は、第1波長板102の厚さd1=0.15mm、第2波長板103の厚さd2=0.165mmである。第1波長板102と第2波長板103との厚みの差Δd=|0.15−0.0165|=0.015mm=15μmであり、(式1)を満たしている。なお、この第1波長板102の厚みd1=0.15mmと第2波長板103の厚みd2=0.165mmは、従来の加工技術で容易に作製できる薄さである。
【0023】
比較例の光学ローパスフィルタは、本実施形態の光学ローパスフィルタ10と略同様の形態であるが、厚さd3=0.3mmの水晶板1枚を、波長板として用いている。この比較例の光学ローパスフィルタに用いられる波長板は、従来の光学ローパスフィルタに多く使用されているものであり、比較例の波長板の厚みd3=0.3mmは、製造上可能な最も薄い厚みではなく、光学ローパスフィルタに用いるために適当な薄さであり、波長依存性による影響が比較的目立ち難い薄さであるという観点から選択されている厚みである。
また、実施例の光学ローパスフィルタ10では、第1波長板102と第2波長板103とを重ねた厚みが0.315mmであり、比較例の光学ローパスフィルタに用いた波長板の厚みd3=0.3mmと略同等である。
【0024】
図5は、比較例の光学ローパスフィルタに用いた波長板によって生じる位相差と、撮像素子に入射する際の被写体光の様子を示す図である。
図6は、実施例の光学ローパスフィルタ10に用いた第1波長板102及び第2波長板103によって生じる位相差と、撮像素子に入射する際の被写体光の様子を示す図である。
図5及び図6において、縦軸は、各波長板によって生じる位相差を示し、横軸は、入射する光の波長を示している。また、横軸の下方に示した点は、その波長で入射した光が、光学ローパスフィルタによって何点に分離したかを示している。
第1複屈折板101によって直線偏光となった被写体光を、波長依存性の無い理想的な波長板として作用し、円偏光とするには、波長板によって生じる位相差が、入射する光の波長に関係なく90°又は270°となればよい。
しかし、図5に示すように、比較例の光学ローパスフィルタに用いた波長板では、生じる位相差が波長によって変化している。従って、入射した被写体光の波長によっては、比較例の光学ローパスフィルタを通過しても4点分離せず、2点分離しかしない場合がある。そのため、4点分離しない波長領域の色では、モアレが発生しやすくなる。
一方、図6に示すように、実施例の光学ローパスフィルタ10に用いた第1波長板102及び第2波長板103では、入射する光の波長に依らず、2枚の波長板によって生じる位相差は、略90°である。従って、被写体光の波長に依らず、被写体光を4点に分離可能であり、モアレの発生を効果的に抑えることができる。
【0025】
よって、本実施形態によれば、波長依存性の少ない理想的な光学ローパスフィルタとすることができ、被写体光の波長に依らず、被写体光を4点に分離できる。従って、モアレを効果的に低減できる。
また、本実施形態によれば、光路の進行方向に対して直交する面内で光学軸が直交し、光路方向の厚みの差Δdが(式1)を満たす第1波長板102と第2波長板103とを積層している。よって、理想的な波長板としての厚さまで薄く加工した水晶板を用いなくともよく、容易に加工できる薄さの第1波長板102及び第2波長板103を用いることができるので、生産コストを抑えることができ、波長依存性の少ない波長板を容易に実現できる。
さらに、本実施形態の光学ローパスフィルタ10では、第1波長板102と第2波長板103との2枚の波長板を積層しているが、2枚の波長板を積層した厚みは、従来用いていた波長板と略同等であり、光学ローパスフィルタ全体としての厚みを増加させることがない。
さらにまた、第1波長板102と第2波長板103とは、水晶を用いているので耐久性もよい。
【0026】
(変形形態)
以上説明した実施形態に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の均等の範囲内である。
(1)本実施形態では、第1波長板102と第2波長板103とは、隣接して積層されている例を示したが、これに限らず、第1波長板102と第2波長板103とが離れて積層されてもよい。例えば、第1波長板102と第2波長板103との間に、赤外カットガラス105等を設けてもよい。
【0027】
(2)本実施形態では、第1波長板102と第2波長板103との光路方向での厚みの差Δdは、(式1)を満たす例を示したが、これに限らず、(式1)で表されるΔdの奇数倍の厚みの差としてもよい。しかし、第1波長板102と第2波長板103との厚みの差は、小さい方が波長依存性の少ない波長板となるので、(式1)で表されるΔdの3倍までが好ましい。
【0028】
(3)本実施形態では、第1波長板102及び第2波長板103は、水晶を用いて形成される例を示したが、これに限らず、例えば、リチウムナイオベート(LiNbO3)等、他の一軸性結晶を用いてもよい。
【0029】
(4)本実施形態では、第1波長板102の光学軸と第2波長板103の光学軸とは、光路の進行方向に直交する面内で、直交するように配置される例を示した。第1波長板102及び第2波長板103の光学軸が光路の進行方向に対して直交する面内でなす角度は、90°が好ましいが、第1波長板102及び第2波長板103の厚さが十分に薄ければ、多少の公差がある状態で配置しても被写体光を4点分離させることができる。
【0030】
(5)本実施形態では、一例として、第1波長板102の厚さd1=0.15mm、第2波長板103の厚さd2=0.165mmとしたが、第1波長板102と第2波長板103との厚みの差Δdが(式1)を満たすならば、特に限定しない。
【0031】
(6)本実施形態で、第1複屈折板101及び第2複屈折板104から出射する光は、直線偏光であり、第1波長板及102び第2波長板103から出射する光は円偏光である例を示したが、これに限らず、モアレが防止できる範囲内であるならば、例えば、第1複屈折板101及び第2複屈折板104から出射する光は、完全な直線偏光ではなく、直線偏光以外の成分を含んでいてもよいし、第1波長板及102び第2波長板103から出射する光は、完全な円偏光ではなく、楕円偏光等であってもよい。
【0032】
(7)本実施形態では、光学ローパスフィルタ10が備えられるカメラ1として一眼レフカメラを示したが、これに限らず、例えば、レンズ一体型のデジタルスチルカメラや、デジタルビデオカメラ等に備えてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本実施形態のカメラ1を説明する断面図である。
【図2】光学ローパスフィルタ10の層構成と各層の光学軸を説明する斜視図である。
【図3】光学ローパスフィルタ10の各層の光学軸の角度を説明する図である。
【図4】本実施形態の光学ローパスフィルタ10と、各層を通過した光の様子を示した図である。
【図5】比較例の光学ローパスフィルタに用いた波長板によって生じる位相差と、撮像素子に入射する際の被写体光の様子を示す図である。
【図6】実施例の光学ローパスフィルタ10に用いた第1波長板102及び第2波長板103によって生じる位相差と、撮像素子に入射する際の被写体光の様子を示す図である。
【符号の説明】
【0034】
1:カメラ、10:光学ローパスフィルタ、101:第1複屈折板、102:第1波長板、103:第2波長板、104:第2複屈折板、11:撮像素子


【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮影光学系の光路中であって、撮像素子より被写体側に設けられる光学ローパスフィルタであって、
最も被写体側に設けられ、入射する光を2つの光に分離する第1複屈折板と、
前記第1複屈折板より撮像素子側に設けられ、入射する光に含まれる振動方向が直交する2つの成分の間に、位相差を生じさせる第1波長板及び第2波長板と、
前記第1波長板及び前記第2波長板より撮像素子側に設けられ、入射する光を2つの光に分離する第2複屈折板と、
を備える光学ローパスフィルタ。
【請求項2】
撮影光学系の光路中であって、撮像素子より被写体側に設けられる光学ローパスフィルタであって、
最も被写体側に設けられ、入射する光を、略直線偏光にする第1複屈折板と、
前記第1複屈折板より撮像素子側に設けられ、入射する光を略円偏光にする第1波長板及び第2波長板と、
前記第1波長板及び前記第2波長板より撮像素子側に設けられ、入射する光を略直線偏光にする第2複屈折板と、
を備える光学ローパスフィルタ。
【請求項3】
撮影光学系の光路中であって、撮像素子より被写体側に設けられる光学ローパスフィルタであって、
最も被写体側に設けられ、前記光路の進行方向に対して直交しない面内に光学軸を有する第1複屈折板と、
前記第1複屈折板より撮像素子側に設けられ、前記光路の進行方向に対して直交する面内に光学軸を有する第1波長板及び第2波長板と、
前記第1波長板及び前記第2波長板より撮像素子側に設けられ、前記光路の進行方向に対して直交しない面内に光学軸を有する第2複屈折板と、
を備える光学ローパスフィルタ。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の光学ローパスフィルタにおいて、
前記第1波長板の光学軸と前記第2波長板の光学軸とは、前記光路の進行方向に対して直交する面内で略直交すること、
を特徴とする光学ローパスフィルタ。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の光学ローパスフィルタにおいて、
前記第1波長板と前記第2波長板との前記光路方向の厚みの差をΔd、
前記第1波長板及び前記第2波長板の常光線と異常光線との屈折率の差をΔn、
使用波長帯の中心波長をλとしたとき、
Δd≒λ/(4・Δn)
が満たされること、
を特徴とする光学ローパスフィルタ。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の光学ローパスフィルタにおいて、
前記光路の進行方向から見て、前記第1複屈折板の光学軸と前記第1波長板の光学軸とは、略45°をなすこと、
を特徴とする光学ローパスフィルタ。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の光学ローパスフィルタにおいて、
前記第1波長板及び前記第2波長板は、水晶を用いて形成され、
前記第1波長板と前記第2波長板との前記光路方向の厚みの差は、略15μmであること、
を特徴とする光学ローパスフィルタ。
【請求項8】
請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載の光学ローパスフィルタを備えるカメラ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−15343(P2008−15343A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−188145(P2006−188145)
【出願日】平成18年7月7日(2006.7.7)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】