光学式酸素センサーチップ、その製造方法およびそれを用いた光学式酸素センサー
【課題】
水溶液中において、高感度に酸素センシングできる光学式酸素センサーチップ、およびその製造方法、それを用いた光学式酸素センサーを提供する。
【解決手段】
基材上に、ポルフィリン化合物を含むシランアルコキシドの加水分解・重合膜を備える光学式酸素センサーチップとする。また、ポルフィリン化合物を含むシランアルコキシド溶液を加水分解・重合する工程、加水分解・重合したシランアルコキシド溶液を濃縮する工程、濃縮したシランアルコキシド溶液を基材上にコーティングする工程、をこの順に有する製造方法とする。
水溶液中において、高感度に酸素センシングできる光学式酸素センサーチップ、およびその製造方法、それを用いた光学式酸素センサーを提供する。
【解決手段】
基材上に、ポルフィリン化合物を含むシランアルコキシドの加水分解・重合膜を備える光学式酸素センサーチップとする。また、ポルフィリン化合物を含むシランアルコキシド溶液を加水分解・重合する工程、加水分解・重合したシランアルコキシド溶液を濃縮する工程、濃縮したシランアルコキシド溶液を基材上にコーティングする工程、をこの順に有する製造方法とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体関連分野や流体計測分野などで使用される光学式酸素センサーチップに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、科学技術の高度化に伴う多様なセンサーへの需要、および生化学、医学分野における研究への応用から、光学式酸素センサーのニーズは高まっている。光学式酸素センサーは、電気的、磁気的攪乱を受けない、高感度である、高速応答である、および酸素を消費しないなどの長所に加えて、センサーチップの微小化が可能であるなどの他の酸素センサーにはない優れた特徴がある。そのため、その開発が望まれている。
光学式酸素センサーチップは、発光色素を樹脂などのマトリクスに分散し、基材に固定化したチップである。このマトリクスに分散された発光色素は、色素周辺の酸素濃度により発光強度を変化させる。そのため、色素の発光強度を測定することにより、酸素センシングを行うことができる。
【0003】
これまで、ポルフィリン化合物をポリスチレンに分散させた光学式酸素センサー(特許文献1)、ルテニウム錯体をゴムやプラスチックに分散させた光学式酸素センサー(特許文献2)、ルテニウム錯体をシランアルコキシド加水分解・重合物に分散させた光学式酸素センサー(非特許文献1)が開示されている。
【0004】
本明細書において、用語「加水分解・重合」とは、加水分解によりシランアルコキシド化合物からアルコキシドを遊離させ、その後アルコキシドが遊離したシラン同士を重合させることである。用語「固形分」とは、シランアルコキシドの加水分解・重合物とポルフィリン化合物とを足したものである。
【0005】
【特許文献1】特開2004−28650号公報
【特許文献2】特開2002−501363号公報
【非特許文献1】Effect ofProcessing Temperature on the Oxygen Quenching Behavior of Tris(4,7' - diphenyl - 1,10' - phenanthroline)Ruthenium(II) Sequestered Within Sol-Gel-Derived XerogelFilms. Journal of Sol-Gel Scienceand Technology 1771-82 2000
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1および非特許文献1によれば、光学式酸素センサーの発光色素として用いられてきたルテニウム錯体は、発光寿命が短いため、酸素センシング能が低いといった問題点がある。また、ルテニウム錯体に対して高い酸素センシング能を有するポルフィリン化合物は疎水性であるので、通常、樹脂をマトリクスとして用いて、基材上に固定化されていた(特許文献2)。しかしながら、樹脂をマトリクスとして用いた場合、樹脂自体が疎水性であるので、水溶液中における酸素センシングを行うには不利であるという問題点があった。
【0007】
本明細書において「酸素センシング能」とは、ある酸素濃度[O2]nと[O2]mにおける発光強度の差、ΔIとして表される。
ΔI = In−Im
= I0/(Ksv[O2]n)− I0/(Ksv[O2]m)
I0とは、酸素濃度が0の時の発光強度である。またKsvとは、光学式酸素センサーにおいて一般的に成り立つ、Stern−Volmer式(下式)の傾きである。
I0/I = 1 + Ksv[O2]n
酸素センシング能ΔIを大きくするためには、酸素濃度変動に対する感度に影響を与えるKsvを大きくするか、またはΔI自身の絶対値に影響を与えるI0を大きくしなければならない。
【0008】
また発光強度を大きくするためには、センサーチップとして作用するマトリクス層の厚みを増やすことが一般的である。しかしながら、単純に厚みを増やした場合には、膜内部の色素に十分、励起光が到達せず、逆に発光強度が下がってしまうという問題があった。
【0009】
さらに、単純にマトリクス中に大量の色素を入れた場合には、凝集が起こりやすく、発光強度が下がってしまうという問題もあった。
【0010】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであって、水溶液中において、高感度に酸素センシングできる光学式酸素センサーチップ、およびその製造方法、それを用いた光学式酸素センサーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の光学式酸素センサーチップは、基材上に、ポルフィリン化合物を含むシランアルコキシドの加水分解・重合膜を備える。
【0012】
好ましい実施形態においては、上記シランアルコキシドの加水分解・重合膜が、アルキル基またはアリール基を有する。
【0013】
好ましい実施形態においては、上記アリール基が、フェニル基である。
【0014】
好ましい実施形態においては、上記ポルフィリン化合物が、ポルフィリン化合物の金属錯体である。
【0015】
好ましい実施形態においては、上記基材が板状の基材である。
【0016】
好ましい実施形態においては、上記板状の基材がガラス材料である。
【0017】
好ましい実施形態においては、基材へのコーティング液中の固形分濃度が、7〜50重量%である。
【0018】
好ましい実施形態においては、光学式酸素センサーチップの吸光係数が30000〜40000m−1である。本明細書において、用語「吸光係数」とは励起光の波長における吸光係数を表す。
【0019】
本発明の別の局面によれば、ポルフィリン化合物を含むシランアルコキシド溶液を加水分解・重合する工程、シランアルコキシドが加水分解・重合した溶液を濃縮する工程、濃縮した溶液を基材上にコーティングする工程、をこの順に有することを特徴とする光学式酸素センサーチップの製造方法が提供される。
【0020】
本発明の更に別の局面によれば、光学式酸素センサーが提供される。それらは、上記の光学式酸素センサーチップを有する。
【0021】
好ましい実施形態においては、溶液中の溶存酸素変動の測定可能範囲が、ppbレベルである。
【発明の効果】
【0022】
本発明において、ポルフィリン化合物を分散させるマトリクスとしてシランを用いることにより、水溶液中で、高い酸素センシング能を有する光学式酸素センサーチップを得ることが可能となる。また、フェニル基を有するシランを用いることにより、更に高い酸素センシング能が得られる。
【0023】
また、基材へのコーティング液中のシランアルコキシドの加水分解・重合物の濃度が、7〜50重量%であるので、発光強度の大きな光学式酸素センサーチップを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の具体的な実施形態について説明する。
【0025】
本発明の基材に用いる材料としては、ガラス、セラミックス、金属、樹脂などを上げることができる。さらに、シリコン、InP、GaAsなどの半導体材用も使用することが可能である。樹脂材料については、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素系樹脂などを上げることができる。これらの材料の中でも、耐熱性、透明性、化学的安定性に優れたガラスを用いることが最も好ましい。
【0026】
本発明に用いるシランアルコキシドとしては、低い極性を示し、ポルフィリン化合物を高濃度に分散させることのできるアルキル基、またはアリール基を有するシランアルコキシドを用いることが好ましい。さらにその中でも、ポルフィリン化合物と強い相互作用を有するので、ポルフィリンの溶解性および分散性が向上するフェニル基を有するシランアルコキシドを用いることが最も好ましい。例として下記の化合物が例示できる。
【0027】
PhSi(OCH3)3
PhCH2Si(OCH3)3
Ph(CH2)2Si(OCH3)3
Ph(CH2)3Si(OCH3)3
Ph(CH2)4Si(OCH3)3
Ph(CH2)5Si(OCH3)3
Ph(CH2)6Si(OCH3)3
【0028】
PhSi(O・CH2CH3)3
PhCH2Si(O・CH2CH3)3
Ph(CH2)2Si(O・CH2CH3)3
Ph(CH2)3Si(O・CH2CH3)3
Ph(CH2)4Si(O・CH2CH3)3
Ph(CH2)5Si(O・CH2CH3)3
Ph(CH2)6Si(O・CH2CH3)3
【0029】
F2PhSi(O・CH3)3
F2PhCH2Si(O・CH3)3
F2Ph(CH2)2Si(O・CH3)3
F2Ph(CH2)3Si(O・CH3)3
F2Ph(CH2)4Si(O・CH3)3
F2Ph(CH2)5Si(O・CH3)3
F2Ph(CH2)6Si(O・CH3)3
【0030】
F2PhSi(O・CH2CH3)3
F2PhCH2Si(O・CH2CH3)3
F2Ph(CH2)2Si(O・CH2CH3)3
F2Ph(CH2)3Si(O・CH2CH3)3
F2Ph(CH2)4Si(O・CH2CH3)3
F2Ph(CH2)5Si(O・CH2CH3)3
F2Ph(CH2)6Si(O・CH2CH3)3
【0031】
本発明では、シランアルコキシドを有機溶媒、水、酸あるいはアルカリ触媒と混合し、シランアルコキシド溶液とする。ポルフィリン化合物を溶媒に溶解して、シランアルコキシド溶液と混合したものを基材にコーティングする。
【0032】
シランアルコキシド溶液は、発光強度I0が増加し、酸素センシング能を高くすることができるとの観点から、基材へコーティングする前に濃縮することが好ましい。
【0033】
濃縮することが好ましい理由については明らかではないが、発明者らは以下のように考えている。濃縮をすることによって、シランアルコキシド溶液の粘度が上昇し、発光色素が移動しにくくなるために、発光色素同士が凝集しにくくなる。但し、ある程度は凝集しているので、発光色素が単分散している状態に比べれば、発光色素分子間の平均距離を長くすることができ、濃度消光が起こりがたいので、結果的に発光強度を大きくすることができる。
【0034】
また単位膜厚当りの発光強度を大きくすることができるとの観点から、その濃度として、基材へのコーティング液中の固形分濃度が、7〜50重量%であることが好ましい。
【0035】
基材へのコーティング液中の固形分濃度が、10〜40重量%であることが更に好ましい。
【0036】
基材へのコーティング液中の固形分濃度が、30〜40重量%であることが最も好ましい。
【0037】
また通常は、吸光係数の大きい方が、発光色素の励起光をより多く吸収できるので好ましい。しかしながら、本発明では、吸収した励起光をより効率的に利用し、単位膜厚あたりの発光強度を大きくできるとの観点から、酸素センサーチップの吸光係数が30000〜40000m−1であることが好ましい。
【0038】
本発明に用いるポルフィリン化合物は、オクタエチルポルフィリン、テトラペンタフルオロフェニルポルフィリンなどが例示できる。その中でも、重原子効果により発光効率を増加させ、酸素センシング能を増加させることのできるポルフィリン化合物の金属錯体が好ましい。金属の例としては、Pt、Au、Ag、Cu、Zn、Mo、Nb、V、Coなどを挙げられる。これらのポルフィリン化合物およびポルフィリン化合物の金属錯体は、単体だけでなく複数の混合物で用いることができる。
【0039】
シランアルコキシド溶液を、基材にコーティングする方法としては、湿式法を用いることが好ましい。具体的には、スピンコート法、ディップコート法、スプレーコート法、フロートコート法、メニスカスコート法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法などを例示できる。これらの中でも、シランアルコキシドの加水分解・重合膜が、均一な膜厚となるスピンコート法が最も好ましい。
【0040】
本発明の基材の形態としては、板状の基材、曲面状基板、ファイバなどを用いることができる。これらの中でも、シランアルコキシドの加水分解・重合膜を均一にコーティングすることのできる板状の基材を用いることが最も好ましい。
【0041】
光学式酸素センサーチップとは、一般的に、発光色素をマトリクスに分散させたものである。この発光色素が分散したマトリクスに光を照射すると、発光色素が励起される。この励起された発光色素は、周りの酸素濃度により異なった発光強度を示す。そのため、発光強度を測定することによって酸素センシングを行うことができる。
【0042】
前記酸素センサーチップは、発光色素溶液とマトリクス溶液を混合し、ガラス材料などの基材上に塗付・固化することによって作製される。
【0043】
本発明では、この発光色素にポルフィリン化合物、特にその金属錯体を用いており、発光効率が高く、また励起状態の寿命が長いことにより酸素との反応効率が高い。これらのことから高い酸素センシング能が得られる。
【0044】
また、本発明では、マトリクスにシランアルコキシド加水分解・重合膜、特に原料としてフェニル基を有するシランを用いており、ポルフィリン化合物と相互作用を示し、高濃度にポルフィリン化合物を溶解させることができる。このことから、発光強度が大きく、高い酸素センシング能が得られる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例により具体的に説明する。
【0046】
[実施例1]
エタノール(キシダ化学、特級)3g、純水0.55g、フェニルトリエトキシシラン(信越シリコーン)3gをサンプル瓶に入れ、磁気撹拌子を用いて10分間撹拌した。これに、0.1M塩酸0.1gを加えた後、更に70度で2時間撹拌した(以下この液を液Aという)。
【0047】
Pt(II)Octaethylporphine(Frontier Scientific、以下PtOEPと略称する)3mgをトルエン(キシダ化学、特級)10mlに溶解したものを、2mlの液Aと混合した(以下この液を液Bという)。
【0048】
液Bをスピンコート法によりガラス基板上(ソーダライムガラス基板、厚さ:1mm、サイズ:25mm×75mm)にコーティングした。スピンコートは500r.p.m.で30秒間行った。スピンコート法により液Bをコートした基板を150℃で1時間焼成した。
【0049】
得られた酸素センサーチップを用いて、水溶液中でのppmレベルの酸素濃度におけるKsvを測定した。各酸素濃度の水溶液の調製は以下の方法で行った。0.0ppmの水溶液は、超純水に亜硫酸ナトリウム(キシダ化学、特級)を10wt%となるように溶解し調整した。0.0ppm以外の水溶液は、超純水を窒素または空気で2分間バブリングを行うことにより行った。
【0050】
測定には、蛍光分光光度計FP−6600(日本分光)を用いて行った。調製した各酸素濃度の溶液および、作製した酸素センサーチップを蛍光光度計用測定セル(スタルナ)に入れて測定した。励起は、532nmで行い、600〜700nmの範囲のスペクトルを測定した。各酸素濃度において、648nmの強度から690nmの強度を差し引いたものを発光強度とした。
【0051】
各サンプルのKsvは、前記に示した下式を用いた。
I0/I = 1 + Ksv[O2]n
各酸素濃度における発光強度をプロットし、Ksvを得た。
【0052】
表1に示すように、Ksvが大きいので、水溶液中において高い酸素センシング能を持つ酸素センサーチップを作製することができた。
[比較例1]
【0053】
マトリクスとしてポリスチレンとして用いた。ポリスチレンマトリクスの作製方法を以下に示す。ポリスチレン(キシダ化学)0.3gをトルエン(キシダ化学)3gに溶解した。この溶液2mlを実施例1における液Aとして用いた以外は、実施例1と同様の作製方法および測定方法を用いて酸素センシング能を評価した。表1に示すように実施例1に比べ、Ksvが小さいので、酸素センシング能は低かった。
【0054】
[比較例2]
発光色素として、Tris(4,7‐diphenyl−1,10'−phenanthroline)Rutenium(II)(以下、Ru(dpp)3と略す。)として用い、発光色素を溶かす溶媒としてエタノールを用いた以外は、全て実施例1と同様の方法で作製した。
【0055】
酸素センシング能の測定は、励起波長が455nm、550〜800nmの範囲のスペクトルを測定し、620nmの強度から790nmの強度を差し引いたものを発光強度とした以外は、全て実施例1と同様の方法により行った。表1に示すように実施例1に比べ、Ksvが小さいので、酸素センシング能は低かった。
【0056】
[表1]
=====================================
発光色素 マトリクス Ksv(ppm−1)
=====================================
実施例1 PtOEP フェニルトリエトキシシラン 2.5
比較例1 PtOEP ポリスチレン 0.3
比較例2 Ru(dpp)3 フェニルトリエトキシシラン 0.1
=====================================
【0057】
[実施例2]
ガラス基板にコーティングする前に、液Bを加熱濃縮した。加熱濃縮は、液B 30gを100mlビーカーに入れ、100℃に昇温したホットプレート(DATAPLATE、iuchi)に乗せ、溶媒を蒸発させることにより行った。濃縮後の重量が20gのものを液a、10gのものを液b、6.7gのものを液c、5gのものを液d、4gのものを液eとした。上記以外は、全て実施例1と同様の方法で、表2に示すPtOEP濃度および固形分濃度となるように調整し、酸素センサーチップを作製した。
【0058】
[表2]
【0059】
上記で得られたシランアルコキシドの加水分解・重合膜の膜厚を測定した。膜厚は、触針式表面形状測定装置P-10(KLA TENCOR社製)を用いて測定した。その結果、表2に示すように溶媒を多く蒸発させ、濃縮の度合いが大きくなると共に膜厚が増加した。
【0060】
各酸素センサーチップの吸光係数(α)は、以下の式に測定値を代入することにより行った。
α = − ln(T) / d
Tは光透過率、dは膜厚を表す。透過率は、分光光度計U-4000(日立)により測定した、532nmにおける光透過率を用いた。
【0061】
得られた酸素センサーチップの溶存酸素濃度が0の時の発光強度(I0)を測定した。水溶液は超純水に亜硫酸ナトリウム(キシダ化学、特級)を10wt%となるように溶解し調整した。
【0062】
発光強度の測定には、図3に示した測定装置を作製し、それを用いて測定を行った。励起は、レーザー光源(ビーム径1.5 mm、エドモンドプティクスジャパン、SN:90572、波長532nm、出力4mW、)を照射することにより行い、検出は、600nm以下の波長をカットする励起光カットフィルター(日本板硝子テクノリサーチ社)を装備した測定用のフォトダイオード(ADVANTEST社)により行った。励起光量を補償するために、レーザー光源をスプリッターで12:1の強度で分岐し、モニタ用フォトダイオードにより測定を行った。前記で調製した水溶液および作製した酸素センサーチップを蛍光光度計用測定セル(スタルナ)に入れて測定した。測定の結果、表2に示すように、濃縮の度合いが大きくなると共に発光強度I0が大きくなった。
【0063】
単位膜厚当たりの発光強度を計算した。計算は、上記で得られた発光強度を膜厚で割ることにより求めた。その結果、図2に示すように、濃縮の度合いの上昇と共に増加し、30および40wt%でもっとも大きくなった。この結果から、単位膜厚当たりの発光強度を高くするには、コーティング液中に含まれる固形分濃度を30〜40wt%とすることが最適であることがわかった。
【0064】
また、酸素センサーチップの吸光係数を、30000〜40000m-1に調整することで、単位膜厚当りの発光強度の大きな酸素センサーチップを作製できることがわかった。
【0065】
[実施例3]
エタノール3g、純水0.55g、フェニルトリエトキシシラン3gをサンプル瓶に入れ、磁気撹拌子を用いて10分間撹拌した。これに、0.01M塩酸0.1gを加えた後、更に70度で2時間撹拌した(以下この液を液Cという)。
【0066】
PtOEP 0.05mgをトルエン
10mlに溶解したものを、2mlの液Cと混合した(以下この液を液Dという)。液D 30gを100mlビーカーに入れ、100℃に昇温したホットプレートに乗せ、液Dが5gになるまで溶媒を蒸発させた(以下この液を液Eという)。
【0067】
液Eをスピンコート法によりガラス基板上(ソーダライムガラス基板、厚さ:1mm、サイズ:25mm×75mm)にコーティングした。スピンコートは500r.p.m.で30秒間行った。コーティングした基板を200℃で1時間焼成した。
【0068】
得られた酸素センサーチップの水溶液中、ppbレベル低酸素濃度における酸素濃度センシングを行った。透明ガラス容器底面に、上記の酸素センサーチップを接着し、測定容器を作製した。また、中心波長550nmの光学フィルターを装着したLEDモジュールにより光励起し、中心波長647nmの光学フィルターを装着した光電子増倍管モジュールにより発光を検出する光学式酸素センサーを作製した。
【0069】
窒素置換したグローブボックス内で、前記透明ガラス容器に入れた超純水を30分間窒素バブリングした。バブリング終了後、超純水中の酸素濃度の経時変化を溶存酸素濃度計DO−32A(東亜電波工業)で測定した。同時に、前記酸素センサーにより酸素センサーチップの発光強度の経時変化を測定した。
【0070】
表3に示すように、ppbレベルの酸素濃度において、酸素センシング可能な酸素センサーチップを作製することができた。
【0071】
[表3]
=====================================
時間(分) 酸素濃度(ppb) 発光強度(mV)
=====================================
1 3.00 66.4
2 3.34 66.2
3 3.76 65.8
4 4.21 65.2
5 4.89 64.5
7 5.67 63.4
9 6.38 62.2
11 7.00 61.6
=====================================
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、生体関連分野および流体計測分野において使用される光学酸素センサーとして利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の光学式酸素センサーチップの略図およびシランアルコキシドの加水分解・重合膜の拡大図である。
【図2】本発明の光学式酸素センサーチップにおける、固形分濃度と、吸光係数および単位膜厚あたりの発光強度との関係を示した図である。
【図3】実施例2における、光学式酸素センサーチップの発光強度を測定した測定系の略図である。
【符号の説明】
【0074】
1 基材
2 シランアルコキシドの加水分解・重合膜
3 光学式酸素センサーチップ
4 ポルフィリン化合物
5 2のシランアルコキシドの加水分解・重合膜の拡大図
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体関連分野や流体計測分野などで使用される光学式酸素センサーチップに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、科学技術の高度化に伴う多様なセンサーへの需要、および生化学、医学分野における研究への応用から、光学式酸素センサーのニーズは高まっている。光学式酸素センサーは、電気的、磁気的攪乱を受けない、高感度である、高速応答である、および酸素を消費しないなどの長所に加えて、センサーチップの微小化が可能であるなどの他の酸素センサーにはない優れた特徴がある。そのため、その開発が望まれている。
光学式酸素センサーチップは、発光色素を樹脂などのマトリクスに分散し、基材に固定化したチップである。このマトリクスに分散された発光色素は、色素周辺の酸素濃度により発光強度を変化させる。そのため、色素の発光強度を測定することにより、酸素センシングを行うことができる。
【0003】
これまで、ポルフィリン化合物をポリスチレンに分散させた光学式酸素センサー(特許文献1)、ルテニウム錯体をゴムやプラスチックに分散させた光学式酸素センサー(特許文献2)、ルテニウム錯体をシランアルコキシド加水分解・重合物に分散させた光学式酸素センサー(非特許文献1)が開示されている。
【0004】
本明細書において、用語「加水分解・重合」とは、加水分解によりシランアルコキシド化合物からアルコキシドを遊離させ、その後アルコキシドが遊離したシラン同士を重合させることである。用語「固形分」とは、シランアルコキシドの加水分解・重合物とポルフィリン化合物とを足したものである。
【0005】
【特許文献1】特開2004−28650号公報
【特許文献2】特開2002−501363号公報
【非特許文献1】Effect ofProcessing Temperature on the Oxygen Quenching Behavior of Tris(4,7' - diphenyl - 1,10' - phenanthroline)Ruthenium(II) Sequestered Within Sol-Gel-Derived XerogelFilms. Journal of Sol-Gel Scienceand Technology 1771-82 2000
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1および非特許文献1によれば、光学式酸素センサーの発光色素として用いられてきたルテニウム錯体は、発光寿命が短いため、酸素センシング能が低いといった問題点がある。また、ルテニウム錯体に対して高い酸素センシング能を有するポルフィリン化合物は疎水性であるので、通常、樹脂をマトリクスとして用いて、基材上に固定化されていた(特許文献2)。しかしながら、樹脂をマトリクスとして用いた場合、樹脂自体が疎水性であるので、水溶液中における酸素センシングを行うには不利であるという問題点があった。
【0007】
本明細書において「酸素センシング能」とは、ある酸素濃度[O2]nと[O2]mにおける発光強度の差、ΔIとして表される。
ΔI = In−Im
= I0/(Ksv[O2]n)− I0/(Ksv[O2]m)
I0とは、酸素濃度が0の時の発光強度である。またKsvとは、光学式酸素センサーにおいて一般的に成り立つ、Stern−Volmer式(下式)の傾きである。
I0/I = 1 + Ksv[O2]n
酸素センシング能ΔIを大きくするためには、酸素濃度変動に対する感度に影響を与えるKsvを大きくするか、またはΔI自身の絶対値に影響を与えるI0を大きくしなければならない。
【0008】
また発光強度を大きくするためには、センサーチップとして作用するマトリクス層の厚みを増やすことが一般的である。しかしながら、単純に厚みを増やした場合には、膜内部の色素に十分、励起光が到達せず、逆に発光強度が下がってしまうという問題があった。
【0009】
さらに、単純にマトリクス中に大量の色素を入れた場合には、凝集が起こりやすく、発光強度が下がってしまうという問題もあった。
【0010】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであって、水溶液中において、高感度に酸素センシングできる光学式酸素センサーチップ、およびその製造方法、それを用いた光学式酸素センサーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の光学式酸素センサーチップは、基材上に、ポルフィリン化合物を含むシランアルコキシドの加水分解・重合膜を備える。
【0012】
好ましい実施形態においては、上記シランアルコキシドの加水分解・重合膜が、アルキル基またはアリール基を有する。
【0013】
好ましい実施形態においては、上記アリール基が、フェニル基である。
【0014】
好ましい実施形態においては、上記ポルフィリン化合物が、ポルフィリン化合物の金属錯体である。
【0015】
好ましい実施形態においては、上記基材が板状の基材である。
【0016】
好ましい実施形態においては、上記板状の基材がガラス材料である。
【0017】
好ましい実施形態においては、基材へのコーティング液中の固形分濃度が、7〜50重量%である。
【0018】
好ましい実施形態においては、光学式酸素センサーチップの吸光係数が30000〜40000m−1である。本明細書において、用語「吸光係数」とは励起光の波長における吸光係数を表す。
【0019】
本発明の別の局面によれば、ポルフィリン化合物を含むシランアルコキシド溶液を加水分解・重合する工程、シランアルコキシドが加水分解・重合した溶液を濃縮する工程、濃縮した溶液を基材上にコーティングする工程、をこの順に有することを特徴とする光学式酸素センサーチップの製造方法が提供される。
【0020】
本発明の更に別の局面によれば、光学式酸素センサーが提供される。それらは、上記の光学式酸素センサーチップを有する。
【0021】
好ましい実施形態においては、溶液中の溶存酸素変動の測定可能範囲が、ppbレベルである。
【発明の効果】
【0022】
本発明において、ポルフィリン化合物を分散させるマトリクスとしてシランを用いることにより、水溶液中で、高い酸素センシング能を有する光学式酸素センサーチップを得ることが可能となる。また、フェニル基を有するシランを用いることにより、更に高い酸素センシング能が得られる。
【0023】
また、基材へのコーティング液中のシランアルコキシドの加水分解・重合物の濃度が、7〜50重量%であるので、発光強度の大きな光学式酸素センサーチップを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の具体的な実施形態について説明する。
【0025】
本発明の基材に用いる材料としては、ガラス、セラミックス、金属、樹脂などを上げることができる。さらに、シリコン、InP、GaAsなどの半導体材用も使用することが可能である。樹脂材料については、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素系樹脂などを上げることができる。これらの材料の中でも、耐熱性、透明性、化学的安定性に優れたガラスを用いることが最も好ましい。
【0026】
本発明に用いるシランアルコキシドとしては、低い極性を示し、ポルフィリン化合物を高濃度に分散させることのできるアルキル基、またはアリール基を有するシランアルコキシドを用いることが好ましい。さらにその中でも、ポルフィリン化合物と強い相互作用を有するので、ポルフィリンの溶解性および分散性が向上するフェニル基を有するシランアルコキシドを用いることが最も好ましい。例として下記の化合物が例示できる。
【0027】
PhSi(OCH3)3
PhCH2Si(OCH3)3
Ph(CH2)2Si(OCH3)3
Ph(CH2)3Si(OCH3)3
Ph(CH2)4Si(OCH3)3
Ph(CH2)5Si(OCH3)3
Ph(CH2)6Si(OCH3)3
【0028】
PhSi(O・CH2CH3)3
PhCH2Si(O・CH2CH3)3
Ph(CH2)2Si(O・CH2CH3)3
Ph(CH2)3Si(O・CH2CH3)3
Ph(CH2)4Si(O・CH2CH3)3
Ph(CH2)5Si(O・CH2CH3)3
Ph(CH2)6Si(O・CH2CH3)3
【0029】
F2PhSi(O・CH3)3
F2PhCH2Si(O・CH3)3
F2Ph(CH2)2Si(O・CH3)3
F2Ph(CH2)3Si(O・CH3)3
F2Ph(CH2)4Si(O・CH3)3
F2Ph(CH2)5Si(O・CH3)3
F2Ph(CH2)6Si(O・CH3)3
【0030】
F2PhSi(O・CH2CH3)3
F2PhCH2Si(O・CH2CH3)3
F2Ph(CH2)2Si(O・CH2CH3)3
F2Ph(CH2)3Si(O・CH2CH3)3
F2Ph(CH2)4Si(O・CH2CH3)3
F2Ph(CH2)5Si(O・CH2CH3)3
F2Ph(CH2)6Si(O・CH2CH3)3
【0031】
本発明では、シランアルコキシドを有機溶媒、水、酸あるいはアルカリ触媒と混合し、シランアルコキシド溶液とする。ポルフィリン化合物を溶媒に溶解して、シランアルコキシド溶液と混合したものを基材にコーティングする。
【0032】
シランアルコキシド溶液は、発光強度I0が増加し、酸素センシング能を高くすることができるとの観点から、基材へコーティングする前に濃縮することが好ましい。
【0033】
濃縮することが好ましい理由については明らかではないが、発明者らは以下のように考えている。濃縮をすることによって、シランアルコキシド溶液の粘度が上昇し、発光色素が移動しにくくなるために、発光色素同士が凝集しにくくなる。但し、ある程度は凝集しているので、発光色素が単分散している状態に比べれば、発光色素分子間の平均距離を長くすることができ、濃度消光が起こりがたいので、結果的に発光強度を大きくすることができる。
【0034】
また単位膜厚当りの発光強度を大きくすることができるとの観点から、その濃度として、基材へのコーティング液中の固形分濃度が、7〜50重量%であることが好ましい。
【0035】
基材へのコーティング液中の固形分濃度が、10〜40重量%であることが更に好ましい。
【0036】
基材へのコーティング液中の固形分濃度が、30〜40重量%であることが最も好ましい。
【0037】
また通常は、吸光係数の大きい方が、発光色素の励起光をより多く吸収できるので好ましい。しかしながら、本発明では、吸収した励起光をより効率的に利用し、単位膜厚あたりの発光強度を大きくできるとの観点から、酸素センサーチップの吸光係数が30000〜40000m−1であることが好ましい。
【0038】
本発明に用いるポルフィリン化合物は、オクタエチルポルフィリン、テトラペンタフルオロフェニルポルフィリンなどが例示できる。その中でも、重原子効果により発光効率を増加させ、酸素センシング能を増加させることのできるポルフィリン化合物の金属錯体が好ましい。金属の例としては、Pt、Au、Ag、Cu、Zn、Mo、Nb、V、Coなどを挙げられる。これらのポルフィリン化合物およびポルフィリン化合物の金属錯体は、単体だけでなく複数の混合物で用いることができる。
【0039】
シランアルコキシド溶液を、基材にコーティングする方法としては、湿式法を用いることが好ましい。具体的には、スピンコート法、ディップコート法、スプレーコート法、フロートコート法、メニスカスコート法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法などを例示できる。これらの中でも、シランアルコキシドの加水分解・重合膜が、均一な膜厚となるスピンコート法が最も好ましい。
【0040】
本発明の基材の形態としては、板状の基材、曲面状基板、ファイバなどを用いることができる。これらの中でも、シランアルコキシドの加水分解・重合膜を均一にコーティングすることのできる板状の基材を用いることが最も好ましい。
【0041】
光学式酸素センサーチップとは、一般的に、発光色素をマトリクスに分散させたものである。この発光色素が分散したマトリクスに光を照射すると、発光色素が励起される。この励起された発光色素は、周りの酸素濃度により異なった発光強度を示す。そのため、発光強度を測定することによって酸素センシングを行うことができる。
【0042】
前記酸素センサーチップは、発光色素溶液とマトリクス溶液を混合し、ガラス材料などの基材上に塗付・固化することによって作製される。
【0043】
本発明では、この発光色素にポルフィリン化合物、特にその金属錯体を用いており、発光効率が高く、また励起状態の寿命が長いことにより酸素との反応効率が高い。これらのことから高い酸素センシング能が得られる。
【0044】
また、本発明では、マトリクスにシランアルコキシド加水分解・重合膜、特に原料としてフェニル基を有するシランを用いており、ポルフィリン化合物と相互作用を示し、高濃度にポルフィリン化合物を溶解させることができる。このことから、発光強度が大きく、高い酸素センシング能が得られる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例により具体的に説明する。
【0046】
[実施例1]
エタノール(キシダ化学、特級)3g、純水0.55g、フェニルトリエトキシシラン(信越シリコーン)3gをサンプル瓶に入れ、磁気撹拌子を用いて10分間撹拌した。これに、0.1M塩酸0.1gを加えた後、更に70度で2時間撹拌した(以下この液を液Aという)。
【0047】
Pt(II)Octaethylporphine(Frontier Scientific、以下PtOEPと略称する)3mgをトルエン(キシダ化学、特級)10mlに溶解したものを、2mlの液Aと混合した(以下この液を液Bという)。
【0048】
液Bをスピンコート法によりガラス基板上(ソーダライムガラス基板、厚さ:1mm、サイズ:25mm×75mm)にコーティングした。スピンコートは500r.p.m.で30秒間行った。スピンコート法により液Bをコートした基板を150℃で1時間焼成した。
【0049】
得られた酸素センサーチップを用いて、水溶液中でのppmレベルの酸素濃度におけるKsvを測定した。各酸素濃度の水溶液の調製は以下の方法で行った。0.0ppmの水溶液は、超純水に亜硫酸ナトリウム(キシダ化学、特級)を10wt%となるように溶解し調整した。0.0ppm以外の水溶液は、超純水を窒素または空気で2分間バブリングを行うことにより行った。
【0050】
測定には、蛍光分光光度計FP−6600(日本分光)を用いて行った。調製した各酸素濃度の溶液および、作製した酸素センサーチップを蛍光光度計用測定セル(スタルナ)に入れて測定した。励起は、532nmで行い、600〜700nmの範囲のスペクトルを測定した。各酸素濃度において、648nmの強度から690nmの強度を差し引いたものを発光強度とした。
【0051】
各サンプルのKsvは、前記に示した下式を用いた。
I0/I = 1 + Ksv[O2]n
各酸素濃度における発光強度をプロットし、Ksvを得た。
【0052】
表1に示すように、Ksvが大きいので、水溶液中において高い酸素センシング能を持つ酸素センサーチップを作製することができた。
[比較例1]
【0053】
マトリクスとしてポリスチレンとして用いた。ポリスチレンマトリクスの作製方法を以下に示す。ポリスチレン(キシダ化学)0.3gをトルエン(キシダ化学)3gに溶解した。この溶液2mlを実施例1における液Aとして用いた以外は、実施例1と同様の作製方法および測定方法を用いて酸素センシング能を評価した。表1に示すように実施例1に比べ、Ksvが小さいので、酸素センシング能は低かった。
【0054】
[比較例2]
発光色素として、Tris(4,7‐diphenyl−1,10'−phenanthroline)Rutenium(II)(以下、Ru(dpp)3と略す。)として用い、発光色素を溶かす溶媒としてエタノールを用いた以外は、全て実施例1と同様の方法で作製した。
【0055】
酸素センシング能の測定は、励起波長が455nm、550〜800nmの範囲のスペクトルを測定し、620nmの強度から790nmの強度を差し引いたものを発光強度とした以外は、全て実施例1と同様の方法により行った。表1に示すように実施例1に比べ、Ksvが小さいので、酸素センシング能は低かった。
【0056】
[表1]
=====================================
発光色素 マトリクス Ksv(ppm−1)
=====================================
実施例1 PtOEP フェニルトリエトキシシラン 2.5
比較例1 PtOEP ポリスチレン 0.3
比較例2 Ru(dpp)3 フェニルトリエトキシシラン 0.1
=====================================
【0057】
[実施例2]
ガラス基板にコーティングする前に、液Bを加熱濃縮した。加熱濃縮は、液B 30gを100mlビーカーに入れ、100℃に昇温したホットプレート(DATAPLATE、iuchi)に乗せ、溶媒を蒸発させることにより行った。濃縮後の重量が20gのものを液a、10gのものを液b、6.7gのものを液c、5gのものを液d、4gのものを液eとした。上記以外は、全て実施例1と同様の方法で、表2に示すPtOEP濃度および固形分濃度となるように調整し、酸素センサーチップを作製した。
【0058】
[表2]
【0059】
上記で得られたシランアルコキシドの加水分解・重合膜の膜厚を測定した。膜厚は、触針式表面形状測定装置P-10(KLA TENCOR社製)を用いて測定した。その結果、表2に示すように溶媒を多く蒸発させ、濃縮の度合いが大きくなると共に膜厚が増加した。
【0060】
各酸素センサーチップの吸光係数(α)は、以下の式に測定値を代入することにより行った。
α = − ln(T) / d
Tは光透過率、dは膜厚を表す。透過率は、分光光度計U-4000(日立)により測定した、532nmにおける光透過率を用いた。
【0061】
得られた酸素センサーチップの溶存酸素濃度が0の時の発光強度(I0)を測定した。水溶液は超純水に亜硫酸ナトリウム(キシダ化学、特級)を10wt%となるように溶解し調整した。
【0062】
発光強度の測定には、図3に示した測定装置を作製し、それを用いて測定を行った。励起は、レーザー光源(ビーム径1.5 mm、エドモンドプティクスジャパン、SN:90572、波長532nm、出力4mW、)を照射することにより行い、検出は、600nm以下の波長をカットする励起光カットフィルター(日本板硝子テクノリサーチ社)を装備した測定用のフォトダイオード(ADVANTEST社)により行った。励起光量を補償するために、レーザー光源をスプリッターで12:1の強度で分岐し、モニタ用フォトダイオードにより測定を行った。前記で調製した水溶液および作製した酸素センサーチップを蛍光光度計用測定セル(スタルナ)に入れて測定した。測定の結果、表2に示すように、濃縮の度合いが大きくなると共に発光強度I0が大きくなった。
【0063】
単位膜厚当たりの発光強度を計算した。計算は、上記で得られた発光強度を膜厚で割ることにより求めた。その結果、図2に示すように、濃縮の度合いの上昇と共に増加し、30および40wt%でもっとも大きくなった。この結果から、単位膜厚当たりの発光強度を高くするには、コーティング液中に含まれる固形分濃度を30〜40wt%とすることが最適であることがわかった。
【0064】
また、酸素センサーチップの吸光係数を、30000〜40000m-1に調整することで、単位膜厚当りの発光強度の大きな酸素センサーチップを作製できることがわかった。
【0065】
[実施例3]
エタノール3g、純水0.55g、フェニルトリエトキシシラン3gをサンプル瓶に入れ、磁気撹拌子を用いて10分間撹拌した。これに、0.01M塩酸0.1gを加えた後、更に70度で2時間撹拌した(以下この液を液Cという)。
【0066】
PtOEP 0.05mgをトルエン
10mlに溶解したものを、2mlの液Cと混合した(以下この液を液Dという)。液D 30gを100mlビーカーに入れ、100℃に昇温したホットプレートに乗せ、液Dが5gになるまで溶媒を蒸発させた(以下この液を液Eという)。
【0067】
液Eをスピンコート法によりガラス基板上(ソーダライムガラス基板、厚さ:1mm、サイズ:25mm×75mm)にコーティングした。スピンコートは500r.p.m.で30秒間行った。コーティングした基板を200℃で1時間焼成した。
【0068】
得られた酸素センサーチップの水溶液中、ppbレベル低酸素濃度における酸素濃度センシングを行った。透明ガラス容器底面に、上記の酸素センサーチップを接着し、測定容器を作製した。また、中心波長550nmの光学フィルターを装着したLEDモジュールにより光励起し、中心波長647nmの光学フィルターを装着した光電子増倍管モジュールにより発光を検出する光学式酸素センサーを作製した。
【0069】
窒素置換したグローブボックス内で、前記透明ガラス容器に入れた超純水を30分間窒素バブリングした。バブリング終了後、超純水中の酸素濃度の経時変化を溶存酸素濃度計DO−32A(東亜電波工業)で測定した。同時に、前記酸素センサーにより酸素センサーチップの発光強度の経時変化を測定した。
【0070】
表3に示すように、ppbレベルの酸素濃度において、酸素センシング可能な酸素センサーチップを作製することができた。
【0071】
[表3]
=====================================
時間(分) 酸素濃度(ppb) 発光強度(mV)
=====================================
1 3.00 66.4
2 3.34 66.2
3 3.76 65.8
4 4.21 65.2
5 4.89 64.5
7 5.67 63.4
9 6.38 62.2
11 7.00 61.6
=====================================
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、生体関連分野および流体計測分野において使用される光学酸素センサーとして利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の光学式酸素センサーチップの略図およびシランアルコキシドの加水分解・重合膜の拡大図である。
【図2】本発明の光学式酸素センサーチップにおける、固形分濃度と、吸光係数および単位膜厚あたりの発光強度との関係を示した図である。
【図3】実施例2における、光学式酸素センサーチップの発光強度を測定した測定系の略図である。
【符号の説明】
【0074】
1 基材
2 シランアルコキシドの加水分解・重合膜
3 光学式酸素センサーチップ
4 ポルフィリン化合物
5 2のシランアルコキシドの加水分解・重合膜の拡大図
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に、ポルフィリン化合物を含む、シランアルコキシドの加水分解・重合膜を備える光学式酸素センサーチップ。
【請求項2】
前記シランアルコキシドの加水分解・重合膜が、アルキル基またはアリール基を有する請求項1に記載の光学式酸素センサーチップ。
【請求項3】
前記アリール基が、フェニル基である請求項1または2に記載の光学式酸素センサーチップ。
【請求項4】
前記ポルフィリン化合物が、ポルフィリン化合物の金属錯体である請求項1に記載の光学式酸素センサーチップ。
【請求項5】
前記基材が、板状の基材である請求項1に記載の光学式酸素センサーチップ。
【請求項6】
前記板状の基材が、ガラス材料である請求項1から5のいずれかに記載の光学式酸素センサーチップ。
【請求項7】
基材へのコーティング液中の固形分濃度が、7〜50重量%である請求項1から6のいずれかに記載の光学式酸素センサーチップ。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の光学式酸素センサーチップであって、
吸光係数が30000〜40000m−1である光学式酸素センサーチップ。
【請求項9】
ポルフィリン化合物を含むシランアルコキシド溶液を加水分解・重合する工程、
シランアルコキシドが加水分解・重合した溶液を濃縮する工程、
濃縮した溶液を基材上にコーティングする工程、
をこの順に有する光学式酸素センサーチップの製造方法。
【請求項10】
請求項1から8のいずれかに記載の光学式酸素センサーチップを備える光学式酸素センサー。
【請求項11】
溶液中の溶存酸素変動の測定可能範囲が、ppbレベルである請求項10に記載の光学式酸素センサー。
【請求項1】
基材上に、ポルフィリン化合物を含む、シランアルコキシドの加水分解・重合膜を備える光学式酸素センサーチップ。
【請求項2】
前記シランアルコキシドの加水分解・重合膜が、アルキル基またはアリール基を有する請求項1に記載の光学式酸素センサーチップ。
【請求項3】
前記アリール基が、フェニル基である請求項1または2に記載の光学式酸素センサーチップ。
【請求項4】
前記ポルフィリン化合物が、ポルフィリン化合物の金属錯体である請求項1に記載の光学式酸素センサーチップ。
【請求項5】
前記基材が、板状の基材である請求項1に記載の光学式酸素センサーチップ。
【請求項6】
前記板状の基材が、ガラス材料である請求項1から5のいずれかに記載の光学式酸素センサーチップ。
【請求項7】
基材へのコーティング液中の固形分濃度が、7〜50重量%である請求項1から6のいずれかに記載の光学式酸素センサーチップ。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の光学式酸素センサーチップであって、
吸光係数が30000〜40000m−1である光学式酸素センサーチップ。
【請求項9】
ポルフィリン化合物を含むシランアルコキシド溶液を加水分解・重合する工程、
シランアルコキシドが加水分解・重合した溶液を濃縮する工程、
濃縮した溶液を基材上にコーティングする工程、
をこの順に有する光学式酸素センサーチップの製造方法。
【請求項10】
請求項1から8のいずれかに記載の光学式酸素センサーチップを備える光学式酸素センサー。
【請求項11】
溶液中の溶存酸素変動の測定可能範囲が、ppbレベルである請求項10に記載の光学式酸素センサー。
【図1】
【図2】
【図3】
【図2】
【図3】
【公開番号】特開2008−14896(P2008−14896A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−188950(P2006−188950)
【出願日】平成18年7月10日(2006.7.10)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年7月10日(2006.7.10)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】
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