説明

光学材料用組成物および光学材料

【課題】 高屈折率、光散乱性、環境特性に優れる光学材料を提供する。
【解決手段】 有機成分と無機成分からなる光学材料において、無機成分としてニオブ酸化物からなる無機粒子成分と、重合性官能基を有する有機成分を含む光学材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばカメラ等の撮像光学系、表示デバイス等の投影光学系、画像表示装置等の観察光学系などの光学系に用いる光学素子を形成するに適した光学材料用組成物およびそれを重合して得られる光学材料に関するものであり、特に高屈折率、光散乱性、環境特性に優れる光学材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、銀塩フィルム用やデジタル用のカメラ、ビデオカメラあるいはカメラ付携帯電話、テレビ電話あるいはカメラ付ドアホンなどに用いられる撮像モジュールなどに用いられる光学系では小型軽量、低コスト化が大きな課題となっている。そこでこれらの光学系では、光学素子の大きさを小さくしやすい高屈折率の光学材料、あるいは成形が簡単で安価な光学材料を多用するようになってきた。
【0003】
このような光学材料としては、光学ガラス、熱可塑性光学樹脂、高温で押圧成形し所望の光学素子を得るための低融点ガラス、あるいは成形しつつ熱や光で重合し所望形状の光学素子を得るために熱硬化型樹脂、紫外線硬化型樹脂等が用いられてきた。
【0004】
また近年、光学素子用の光学材料として無機化合物と有機化合物を用いた有機無機複合材料、例えば合成樹脂中に粒子径数nm〜150nmの無機微粒子を均一に分散させた微粒子分散型の光学材料が提案されている。
【0005】
このような微粒子分散型の光学材料の場合、光学系の使用波長より小さい粒子等の不均一成分を含んだ有機無機複合材料を用いることによって、粒径が小さい不均一成分は光学性能に影響を与えないと考えられており、それ故に、およそ400〜800nmが使用波長域である白色光学系の光学素子の光学材料として、30nmないし100nm程度の不均一成分である微粒子を含む微粒子分散型の光学材料が提案されてきた。
【0006】
例えば、粒径1〜150nmのダイヤモンド微粉末を合成樹脂に均一に分散させてなる高屈折率を実現する光学用樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献1)。
また、粒子径5〜100nmの金属粉末あるいは金属酸化物粉末を有機樹脂中に分散させることで高屈折率を実現する超微粒子分散型光学材料が提案されている(例えば、特許文献2)。
また、チタンとケイ素の複合金属酸化物(Six−Ti(1-x)2)の微粒子やTiO2、Nb25、ITO、Cr23、BaTiO3 などの粒径が2〜100nmの微粒子を熱可塑性の非晶性樹脂に分散させ高分散を実現する光学材料が提案されてきた(例えば、特許文献3)。
【特許文献1】特許第2867388号公報
【特許文献2】特開2000−44811号公報
【特許文献3】特開2001−74901号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
光学有効面を非球面形状とした光学素子は、収差補正性能に優れる等の多くの特徴を有しているが、光学ガラスによって非球面形状とすることは、加工工程が複雑となり、また時間を要するので、大量生産品の製造には問題があった。
また、融点が比較的低いガラスを用いて成形によって光学素子を製造する方法が知られているが、この方法では、所定の形状に加工した成形用の型を用いることによって光学素子の光学有効面を非球面形状に加工することが容易であるが、大口径あるいは大偏肉形状の素子の成形が難しいという問題点、あるいはガラス成形用の金型の寿命等に問題点があった。
【0008】
また、光学用熱可塑性樹脂および紫外線硬化型樹脂等においては、大口径あるいは複雑形状の素子に成形できるので、成形性や量産性に優れる利点があるものの、光学材料として選択できる屈折率および分散の範囲が狭く、光学系の小型軽量化あるいは高性能化を制限してしまう問題がある。
【0009】
一方、近年提案されてきた微粒子分散型の有機無機複合材料は、複雑形状の素子に成形できるという成形性に優れ、また透明性などにも優れ、比較的簡単に量産できる利点はあるものの、高屈折率で低分散を同時に満足するものは得られていない。また微粒子分散型の有機無機複合材料からなる光学素子は、光散乱性が大きいという問題点がある。
光散乱性は、光学素子内部における散乱光の指標であって、光学素子の特性に大きな影響を及ぼす。例えば、散乱光の強度が大きい光学素子では仮にその光学素子の収差が全くないとしても、光学素子を透過した光により形成される像がぼやけてしまい、特性が劣った光学素子となる。
【0010】
光散乱性は、光学素子を構成する材料自身に起因するもので、光学素子内部が光学的に均一でない、すなわち、屈折率、透過率が均一でない場合に光が散乱してしまうことによる。光学系の使用波長より小さい微粒子を含有した有機無機複合材料のように不均一成分が多量に光学素子内部に存在すると、プリズムあるいは導波路など光学素子単体内での光路長が長い光学素子、あるいは顕微鏡や高精細デジタルカメラなど光学素子自身に高度な光学性能が要求される光学系用の光学素子においては、散乱光の大きさが問題になってしまう。
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたもので、屈折率、分散性、光散乱性も含めた光学特性、および成形性に優れた光学素子を形成するため光学材料を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、有機成分と無機成分からなる光学材料用組成物において、無機成分としてニオブ酸化物からなる無機粒子成分、重合性官能基を有する有機成分、および重合開始剤を含む光学材料用組成物からなるものである。
無機粒子成分の含有量が、光学材料の総質量に対する酸化ニオブ(V)換算で、0.1〜70質量%である前記の光学材料用組成物である。
【0012】
化学式1で表される金属アルコキシドあるいはその加水分解物から選ばれる少なくとも1種類からなる第2の無機成分を更に含む前記の光学材料用組成物である。
化学式1
1a2bM(OR3c
(R1およびR2は、同一あるいは異なる有機基で、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルケニル基、アリール基、ハロゲン化アリール基、シクロアルキル基、アシル基あるいはエポキシ基含有有機基、R3は炭素数1から6のアルキル基またはアリール基、MはAl、Be、Cu、Ge、Hf、La、Mg、Sc、Si、Ta、Ti、V、W、Y、Zn、Zrからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素、aおよびbは0ないし2、金属元素Mの価数mであり、c=m−(a+b)である。)
前記化学式1において、金属元素MがAl、Si、Tiからなる群から選ばれる少なくとも1種である前記の光学材料用組成物である。
【0013】
無機粒子成分が、下記の化学式2で表されるニオブアルコキシドあるいはその加水分解物を重合させたものからなる前記の光学材料用組成物である。
化学式2
4dNb(OR55-d
(R4 は、有機基で、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルケニル基、アリール基、ハロゲン化アリール基、シクロアルキル基、アシル基あるいはエポキシ基含有有機基、R5は、炭素数1から6のアルキル基またはアリール基、dは0ないし2)
前記無機粒子成分が、平均粒子径が20nm以下で、かつ90%粒子径が30nm以下の酸化ニオブ(V)粒子である前記の光学材料用組成物である。
前記有機成分がメタクリル酸、アクリル酸、メタクリル酸エステルあるいはアクリル酸エステル、エポキシ化合物、硫黄含有有機化合物から選ばれる少なくとも1種である前記の光学材料用組成物である。
【0014】
また、有機成分と無機成分からなる光学材料において、無機成分としてニオブ酸化物からなる無機粒子成分、重合性官能基を有する有機成分、および重合開始剤を含む組成物を重合したものである光学材料である。
無機粒子成分の含有量が、光学材料の総質量に対する酸化ニオブ(V)換算で、0.1〜70質量%である前記の光学材料である。
【0015】
化学式1で表される金属アルコキシドあるいはその加水分解物から選ばれる少なくとも1種類からなる第2の無機成分を更に含む前記の光学材料である。
化学式1
1a2bM(OR3c
(R1およびR2は、同一あるいは異なる有機基で、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルケニル基、アリール基、ハロゲン化アリール基、シクロアルキル基、アシル基あるいはエポキシ基含有有機基、R3は炭素数1から6のアルキル基またはアリール基、MはAl、Be、Cu、Ge、Hf、La、Mg、Sc、Si、Ta、Ti、V、W、Y、Zn、Zrからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素、aおよびbは0ないし2、金属元素Mの価数mであり、c=m−(a+b)である。)
前記化学式1において、金属元素MがAl、Si、Tiからなる群から選ばれる少なくとも1種である前記の光学材料である。
【0016】
また、光学材料のd線の屈折率ndとアッベ数νdをそれぞれ、縦軸と横軸に示した場合に、(nd,νd)が、(1.47,60)、(1.6,20)、(1.85,20)、(1.8,34)、(1.55,56)で囲まれた領域に存在する前記の光学材料である。
無機粒子成分が、下記の化学式2で表されるニオブアルコキシドあるいはその加水分解物を重合させたものからなる前記の光学材料である。
化学式2
4dNb(OR55-d
(R4 は、有機基で、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルケニル基、アリール基、ハロゲン化アリール基、シクロアルキル基、アシル基あるいはエポキシ基含有有機基、R5は、炭素数1から6のアルキル基またはアリール基、dは0ないし2)
【0017】
前記無機粒子成分が、平均粒子径が20nm以下で、かつ90%粒子径が30nm以下の酸化ニオブ(V)粒子である前記の光学材料である。
前記有機成分がメタクリル酸、アクリル酸、メタクリル酸エステルあるいはアクリル酸エステル、エポキシ化合物、硫黄含有有機化合物から選ばれる少なくとも1種である前記の光学材料である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の光学材料用組成物によって作製した光学材料は、高屈折率かつ低分散であるので、光学素子の大きさを小さくし、また収差も効率よく取り除くことができるとともに、光散乱性、耐環境性に優れている。また、常温付近で液状であるので、高温や高い圧力を加えることなく複雑形状の光学素子を短時間で製造できる高い加工性を有しており、光学系の小型軽量化、製造効率の改善等の効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本願の発明は、ニオブ酸化物からなる無機粒子成分と、重合性官能基を有する有機成分、重合開始剤を含む光学材料用組成物を重合させて得られた光学材料によって光散乱が少ない有機無機複合材料からなる光学材料を得ることが可能であることを見出したものである。
本願の発明の光学材料用組成物においては、ニオブ酸化物からなる無機粒子成分は高屈折率で低分散を実現するための必須の成分であり、光学材料の総質量に対する酸化ニオブ(V)換算で0.1質量%以上70質量%以下が好ましい。
0.1質量%未満では、ニオブ酸化物を添加した効果が小さく、70質量%を超える場合は光散乱性が悪化したり、所望の形状に成形することが難しい等の問題が発生する。
より好ましくは5質量%以上40質量%以下である。この範囲の添加量であれば光散乱性は良好となり、また増粘による難成形性の問題も解消される。また、その場合、d線の屈折率ndおよびアッベ数νdは(nd,νd)=(1.47,60)、(1.585,24)、(1.65,22)、(1.78,22)、(1.75,35)、(1.63,45)、(1.54,56)で囲まれた範囲の光学恒数を有する光学材料を得ることができ、光散乱性や成形性は良好である。
【0020】
また、複雑な形状を有する光学素子を得る場合においては、さらに好ましくは有機成分中の酸化ニオブ(V)の添加量は質量%で、5質量%以上20質量%以下であり、この範囲内においては、大口径あるいは大偏肉形状の素子の成形や複雑なプリズム形状の素子、非球面レンズや自由曲面レンズなど様々な形状の光学素子を成形する上で自由度は大きい。また、この場合、d線の屈折率ndおよびアッベ数νdは(nd,νd)=(1.47,60)、(1.57,52)、(1.72,36)、(1.76,24)、(1.66,23)、(1.585,24)で囲まれた範囲の光学恒数を有する光学材料となる。
【0021】
酸化ニオブ(V)無機粒子成分は、下記の化学式3で表されるニオブアルコキシドあるいはその加水分解物を重合させたものから製造したものを用いることができる。
化学式3
4dNb(OR55-d
(R4 は有機基で、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、アリール基、ハロゲン化アリール基、あるいはシクロアルキル基、R5 は炭素数1から6のアルキル基またはアリール基、dは0ないし2)。
4 の有機基では、アルキル基としてはメチル基、エチル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、イソブチル基などを挙げることができる。ハロゲン化アルキル基としては、トリクロロメチル基、トリフルオロメチル基、ペンタクロロエチル基などを挙げることができる。アリール基としてはフェニル基、スチリル基などを挙げることができる。好ましくはメチル基、フェニル基である。R5 のアルキル基またはアリール基としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、イソブチル基、フェニル基などを挙げることができる。
【0022】
ニオブアルコキシドあるいはその加水分解物の具体例は、ニオブペンタメトキシド、ニオブペンタエトキシド、ニオブペンタプロポキシド、ニオブペンタブトキシド、ニオブメチルテトラメトキシド、ニオブメチルテトラエトキシド、ニオブメチルテトラブトキシド、ニオブフェニルテトラメトキシド、ニオブフェニルテトラエトキシドおよびその異性体、あるいはそれらの加水分解物などを挙げることができる。
ニオブアルコキシドから製造する無機粒子成分を用いる場合、ニオブアルコキシドの縮重合反応における希釈溶剤の種類や量、触媒の種類や量、反応温度、時間を適宜調整することで、粒子径にかかわる分子量や、屈折率および分散にかかわる結晶性や密度を調整可能となる。
【0023】
また、微粒子を製造する方法としては、上記した方法以外に、液相法や気相法がある。液相法のうち化学的液相法としては、共沈法、均一沈殿法、還元法、水熱合成法、超臨界液体法などが挙げられる。これらの方法は、凝集の抑制がし易く、重合性官能基を有する有機成分との混合過程への移行が容易、また大量生産が可能などの利点がある。特に、水熱合成法や、超臨界液体法により製造した微粒子を用いると結晶性の高い微粒子が得られ、高屈折率化が容易になる。また、物理的液相法としては、噴射乾燥法、凍結乾燥法などが挙げられる。
【0024】
また、気相法としては蒸発凝縮法や気相反応法などがあり、これらの方法によってニオブ酸化物の微粒子を製造し、水やアルコールなどの各種有機溶剤から選ばれる分散媒に均一に分散させたものを用いることができる。気相法で製造した場合、微粒子が単分散し易く、高純度の微粒子が得られやすく、散乱特性が良くなるなどの利点がある。
【0025】
また、固体状のニオブ酸化物を砕いて粉末化し微粒子にしたものを、水やアルコールなどの各種有機溶剤から選ばれる分散媒に均一に分散させたものも用いることができる。このようなニオブ酸化物微粒子を無機粒子成分として用いる場合、ニオブ酸化物粒子の大きさは平均粒子径が20nm以下で、かつ90%粒子径が30nm以下であることが好ましい。より好ましくは平均粒子径が15nm以下で、かつ90%粒子径が20nm以下である。
ここで粒子径は動的光散乱法よって求めたもので平均粒子径とは粒子径分布の中心値を、また90%粒子径とは全粒子の90%が含まれる範囲の粒子径のことを言う。いずれの粒子径より大きい場合は透過率や光散乱が大きくなってしまう。つまり、たとえ平均粒子径が20nm以下で小さくても、粒子径分布の幅が広く30nmより大きな粒子径の粒子が全粒子の10%を超えた割合で存在してしまうと、透過率は悪化しないが光散乱が大きくなってしまうことになる。
【0026】
本発明においては、ニオブ酸化物粒子成分と、重合性官能基を有する有機成分以外にも、下記の化学式4で表される金属アルコキシドあるいはその加水分解物から選ばれる少なくとも1種類からなる無機成分を用いることができる。
化学式4
1a2bM(OR3c
1およびR2は同一あるいは異なる有機基で、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルケニル基、アリール基、ハロゲン化アリール基、シクロアルキル基、アシル基あるいはエポキシ基含有有機基である。具体例としてはメチル基、エチル基、イソブチル基、トリフルオロメチル基、ビニル基、アクリロイル基、メタクロイル基、スチリル基、エポキシ基、オキセタニル基、フェニル基、シクロヘキシル基、ノルボニル基などが挙げられる。これらのなかでも、好ましくはメチル基、エチル基、イソブチル基、アクリロイル基、メタクロイル基、フェニル基、エポキシ基、オキセタニル基が挙げられる。
3 は炭素数1から6のアルキル基またはアリール基、MはAl、Be、Cu、Ge、Hf、La、Mg、Sc、Si、Ta、Ti、V、W、Y、Zn、Zrからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素、aおよびbは0ないし2、cは、金属元素Mの価数mとすれば、c=m−(a+b)である。
【0027】
前記無機成分は、ニオブ酸化物粒子とは独立した粒子、ニオブ酸化物粒子と複合粒子を形成したもの、またニオブ酸化物の表面を修飾している状態などの形態のものを挙げることができ、選択する元素によって屈折率や分散、透過率などの光学特性を調整することができる。
特にニオブ酸化物粒子の表面を修飾する場合は、ニオブ酸化物粒子と、重合性官能基を有する有機成分との相溶性や分散性を調整し、ニオブ酸化物粒子同士の凝集を防止して、粒子径が30nmより大きくならないようにして、透過率や光散乱性の低下を防ぐとともに、R1およびR2の有機基としてビニル基、アクリロイル基、メタクロイル基、エポキシ基、オキセタニル基などの重合性有機基を有する金属アルコキシドを用いると、有機成分と無機成分の間に強固な共有結合ができるので、相溶性および結合性が向上して、より環境安定性や光散乱性を向上させることができ、さらに機械的強度も向上することができる。
【0028】
また、金属アルコキシドあるいはその加水分解物としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラブトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリブトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリブトキシシラン、ビニルエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリス(ビニルジメチルシロキシ)シラン、アルミニウムイソプロポキシド、タンタルペンタエトキシド、タンタルペンタメトキシド、チタンイソプロポキシド、チタンメタクリレートトリイソプロポキシド、ゲルマニウムテトラエトキシド、ゲルマニウムエチルトリエトキシド、ハフニウムノルマルブトキシド、ランタンイソプロポキシドおよびこれらの異性体、あるいはそれらの加水分解物などを挙げることができる。
【0029】
特に、アルミニウム、チタン、ケイ素のアルコキシドあるいはその加水分解物は入手が容易であり、アルミニウムのアルコキシドあるいはその加水分解物は低分散化に、チタンのアルコキシドあるいはその加水分解物は高屈折化に、ケイ素のアルコキシドあるいはその加水分解物は低屈折率化に有効な成分である。
さらに金属アルコキシドあるいはその加水分解物から選ばれる無機成分は、単独であるいは複数種類の混合物として用いることができる。このため、光学設計上で求められる屈折率や分散、透過率などの光学特性にあわせて、混合する数種類の無機成分の組成比を決めることができる。
金属アルコキシドあるいはその加水分解物から選ばれる無機成分の添加量は、酸化ニオブ(V)換算で表したニオブ酸化物粒子のモル数に対して1/5以上1/3以下が好ましい。
【0030】
重合性官能基を有する有機成分としては、メタクリル酸、アクリル酸、メタクリル酸エステルあるいはアクリル酸エステル(以下、メタクリル酸エステルあるいはアクリル酸エステルの少なくともいずれか一方を含むものを(メタ)アクリレートと称す)、エポキシ化合物、およびエピスルフィド化合物、チオウレタン等の含硫黄有機化合物を用いることができる。
具体例としては、メタクリル酸、アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ノニルフェニル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ジメチルロールトリシクロデカンジメタクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、トリメチルプロパントリ(メタ)アクリレート、ノニルフェニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレートなどを挙げることができる。
また、モノマーをそのまま使用しても、モノマーを重合させたオリゴマーとしてから用いても良い。
重合性官能基を有する有機成分としては、他の成分と相溶するものであれば、ウレタン樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、イミド樹脂、エステル樹脂、ノルボルネン系樹脂などを挙げることができる。
【0031】
本発明の光学材料用組成物には、ニオブ酸化物粒子成分、重合性有機成分、あるいはニオブ酸化物以外の無機成分、重合開始剤以外の成分として、増感剤、連鎖移動剤、酸化防止剤などが添加される。
重合開始剤には、光重合開始剤および熱重合開始剤があげられ、具体的には有機成分が(メタ)アクリレートの場合および無機成分の金属アルコキシドの有機基R1 あるいはR2 がビニル基、アクリロイル基あるいはメタクリロイル基である場合は、熱重合開始剤としては過酸化ベンゾイル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、2,2−アゾビスイソブチロニトリル、2,2−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾビスカルボアミド、イソプロピルヒドロペルオキシド、第3ブチルヒドロペルオキシド、クミルヒドロペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ビスヘキサンなどを挙げることができる。
また、光重合開始剤としてはベンゾフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、2,2−ジメトキシ−1、2−ジフェニルエタン−1−オンなどを挙げることができる。
【0032】
また有機成分がエポキシ樹脂の場合、および無機成分の金属アルコキシドの有機基R1 あるいはR2 がエポキシ基あるいはオキセタニル基である場合は、触媒型硬化剤として芳香族系3級アミン類、イミダゾール類、ルイス酸類などを挙げることができ、重付加型硬化剤としては、ポリアミン系硬化剤、変性ポリアミン系硬化剤、カルボン酸無水物系硬化剤、ポリフェノール系硬化剤、硫黄含有化合物系硬化剤、イソシアネート系硬化剤、ポリエステル系硬化剤などを挙げることができる。
【0033】
本発明の光学材料用組成物の重合によって得られた光学材料の屈折率および分散(アッベ数)の調整は、ニオブ酸化物粒子成分の添加量、分子量、結晶性および密度、重合性官能基を有する有機成分の種類と添加量、無機成分の種類と添加量、および硬化条件で行うことができる。
【0034】
例えば、高屈折率高分散化した光学材料を得る場合には、ニオブ酸化物粒子成分としてニオブペンタブトキシドをブタノールを希釈溶剤として加水分解反応と縮重合反応を行いポリスチレン換算分子量2000〜1000000程度まで高分子量化させたものを用い、また重合性官能基を有する有機成分として化学式5で表されるメチルメタクリレートを用い、また化学式4で表される金属アルコキシドからなる無機成分として、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを用い、またその他の成分としてベンゾフェノンを含む紫外線硬化剤を用いた場合には、ニオブペンタブトキシドと3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランの割合をそれぞれの酸化ニオブ(V)、二酸化ケイ素に換算した時の質量比 Nb25:SiO2で3:1として、光学材料用組成物全体に含まれるニオブ酸化物の割合を酸化ニオブ(V)換算で0〜70質量%まで変化させた組成物を重合して得られた光学材料のd線の屈折率ndと分散を表すアッベ数νdの測定点の変化は図1の曲線Aに示す。
【0035】
化学式5で表される化合物の(nd,νd)=(1.492,58)から無機成分の割合が増加させるとともに高屈折率高分散の方向に変化し、ニオブ酸化物の割合をNb25換算で0〜70質量%まで増加させると(nd,νd)=(1.586,33)まで高屈折率高分散化することができる。
【0036】
【化1】

【0037】
上記の光学材料用組成物において、重合性官能基を有する有機成分のみを下記化学式6に示されるフルオレン誘導体に変更し、さらに硬化工程おいて60℃〜200℃まで段階的に昇温させ、光学材料全体に含まれる酸化ニオブ(V)の割合を質量%で0〜70%まで変化させたときには、重合して得られた光学材料のd線の屈折率ndと、分散を表すアッベ数νdの測定点の変化は図1の曲線Bに示す。
【0038】
化学式6に示されるフルオレン骨格を有するアクリレート単体を重合させたものについての(nd,νd)=(1.631,24)からニオブ酸化物粒子の割合を増加させると、アッベ数はそれほど変化せずに高屈折率の方向に変化し、ニオブ酸化物粒子を含まないものから60質量%まで増加させると得られる光学材料は、(nd,νd)=(1.767,20)まで高屈折率化することができる。
【0039】
【化2】

【0040】
また、ニオブ酸化物成分としてpH4の酢酸水溶液中に分散した平均粒径が10nmで90%粒子径が18nmの酸化ニオブ(V)ゾルを用い、化学式4で表される金属アルコキシドとしてアルミニウムイソプロポキシドと化学式7で表される2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネートにて表面修飾して、重合性官能基を有する有機成分として化学式8で表される1,2,6,7−ジエピジチオ−4−チアヘプタンと混合することで光学材料用組成物を調製し、酸化ニオブ(V)ゾルとアルミニウムイソプロポキシドとの割合は、それぞれの酸化物である酸化ニオブ(V)、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素に換算したときの質量比で12:3:1とした。更に組成物全体に含まれる酸化ニオブ(V)ゾルの割合を0〜70質量%まで変化させた光学材料用組成物を調製した。光学材料用組成物を重合させることによって得られた光学材料はd線における屈折率ndとアッベ数νdを測定した。その結果は図1の曲線Cに示した。
また、化学式8の(nd,νd)=(1.71,36)から無機成分の割合を増加させるとともに高屈折率高分散の方向に変化し、Nb25の割合を0〜70質量%まで増加させると(nd,νd)=(1.79,33)まで高屈折率化することができる。
【0041】
【化3】

【0042】
また、ニオブ酸化物粒子成分として水分散した平均粒子径が9nmで、90%粒子径が20nmの酸化ニオブ粒子を、重合性官能基を有する有機成分として化学式9の3−イソシアナトメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネートを10重量部と化学式10の1,2−[ビス(2−メルトカプトエチル)チオ]−3−メルトカプトプロパンを3重量部の割合で混合して得られる化合物で示される含硫黄化合物を、化学式4で表される金属アルコキシドからなる無機成分としてフェニルトリメトキシシランを用いた光学材料用組成物において、水分散酸化ニオブ粒子とフェニルトリメトキシシランの割合を、それぞれの酸化物である酸化ニオブ(V)、二酸化ケイ素に換算した時の質量比Nb25:SiO2で5:1として、光学材料用組成物全体に含まれる酸化ニオブ(V)の割合を0〜70質量%まで変化させたときに、光学材料用組成物を重合して得られた光学材料のd線の屈折率ndと分散を表すアッベ数νdの測定点の変化は図1の曲線Dに示す。
また、含硫黄有機化合物単体の(nd,νd)=(1.6,40)から酸化ニオブ(V)の割合を増加させるとともに高屈折率高分散の方向に変化し、光学材料用組成物中の酸化ニオブ(V)の割合を0〜70質量%まで増加させると(nd,νd)=(1.77,23)まで光学特性を変化させることができる。
【0043】
【化4】

【0044】
以上のように、光学材料用組成物中のニオブ酸化物粒子成分の添加量、分子量、結晶性および密度、重合性官能基を有する有機成分の種類と添加量、無機成分の種類と添加量を調整し、更に硬化条件を調整することで、得られる光学材料の高屈折率化、高分散化、あるいは高屈折率低分散化が可能である。
また、これまでに述べてきた有機成分以外でも、化学式11〜23に示すアクリレート化合物または含硫黄有機化合物は光学材料として有用であり、化学式5〜23に示される有機成分単体、またはそれら化合物の2種類以上の混合物にニオブ酸化物を添加した光学材料用組成物を重合することによって各種の光学材料を得ることができ、d線の屈折率ndおよびアッベ数νdが(nd,νd)=(1.47,60)、(1.6,20)、(1.85,20)、(1.8,34)、(1.55,56)で囲まれた光学恒数を有する光学材料を作製可能である。
また、図2には化学式5〜20で表される化合物のndとνd、およびその他の光学材料として使用可能な有機成分のndとνdの関係を説明する図を示す。また化学式5〜20で示す材料のnd、νdの値は、表1に示す。
【0045】
【化5】

【0046】
【化6】

【0047】
図2には化学式5〜20で表される化合物を用いて作製した光学材料のndとνd、およびその他の光学材料として使用可能な有機成分のndとνdの関係のグラフを示す。また化学式5〜20で示す材料のnd、νdの値を、表1に示す。
【0048】
表1
化学式 nd νd
5 1.492 58
6 1.631 24
7 1.517 50
8 1.71 36
9と10を10:3で混合 1.601 40
11 1.65 34
12 1.51 55.5
13 1.532 53.2
14 1.506 54.2
15 1.495 53.4
16 1.515 50.3
17 1.488 56.4
18 1.63 36
19 1.58 29
20 1.74 25
以下、本発明によって作製した光学材料用組成物およびそれを重合した光学材料を実施例を示して説明する。
【実施例1】
【0049】
ニオブペンタ−n−ブトキシド20g、1−ブタノール74g、0.1N塩酸0.2gとを混合し、室温にて高速撹拌機にて100秒撹拌し、ニオブペンタ−n−ブトキシドの加水分解反応と縮重合反応を進行させさせニオブ酸化物粒子成分の分散液を調製した。
得られた分散液を、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン3.1g、水0.6gを混合の後に室温にて8時間撹拌した混合溶液に添加して、さらに室温にて24時間撹拌した後、水、1−ブタノールおよび副生成物を70℃での減圧操作で取り除き、酸化ニオブ(V)−シリカゾル液を得た。
【0050】
次いで、光学材料用組成物に占める酸化ニオブ(V)が、全質量の62質量%になるように、この酸化ニオブ(V)−シリカゾル10g、メチルメタクリレート5g、および光重合開始剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製 イルガキュア500)0.1g混合して光学材料用組成物を得た。
光学材料用組成物を1mW/cm2 の照度にて8時間紫外線照射し光学材料を作製した。得られた光学材料の光学特性を測定したところ、(nd,νd)=(1.567,35)であった。
【0051】
また、酸化ニオブ(V)−シリカゾルとメチルメタクリレートとの混合比を調整し、酸化ニオブを10〜70質量%まで変化させた光学材料用組成物について、同様に硬化させた時の屈折率ndと分散νdの変化を図3に示した。
図3では、横軸を光学材料に占める酸化ニオブ(V)粒子成分の含有量を質量%で示し、各質量%で得られた光学材料のd線の屈折率nd、アッベ数νdを示した。
この実施例では、中屈折高分散である光学材料を得ることができた。
図3に示した各点でのnd、νdは、表2に示す。
【0052】
表2
酸化ニオブ(V)
含有量(質量%) 屈折率nd アッベ数νd
0 1.4924 57.9
10 1.4992 54.5
20 1.5072 51.1
30 1.5168 47.6
40 1.5285 44.1
50 1.5431 40.5
60 1.5617 36.8
70 1.5863 33.0
【実施例2】
【0053】
ニオブペンタ−n−ブトキシド30g、1−ブタノール100g、0.1N塩酸0.2gを混合し、室温にて高速撹拌機にて100秒間撹拌し、ニオブペンタ−n−ブトキシト゛の加水分解反応と縮重合反応を進行させ酸化ニオブゾル(V)を調製した。
【0054】
得られた酸化ニオブゾル(V)を、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン1.5g、アルミニウムイソプロポキシド2.5g、水1gを混合して室温にて8時間撹拌した混合溶液に添加して、さらに化学式7で示される化合物0.8g混合し、さらに室温にて24時間撹拌した後、水、プロパノール、1-ブタノールおよび副生成物を90℃での減圧操作で取り除き、酸化ニオブ(V)−シリカ−アルミナゾル分散液を得た。
光学材料に占めるNb25換算の割合を46質量%になるように、この酸化ニオブ(V)−シリカ−アルミナゾル分散液7g、化学式20で表される化合物5.6g、および光重合開始剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製 イルガキュア500)0.1gを混合して光学材料用組成物を得た。
【0055】
次いで、光学材料用組成物に0.3mW/cm2 の照度にて24時間紫外線照射し光学材料を得た。得られた材料の光学特性を測定したところ、(nd,νd)=(1.785,22.6)であった。
また、酸化ニオブ(V)−シリカ−アルミナゾル分散液と化学式20で表される化合物との混合比を調整し、組成物中の酸化ニオブ(V)の割合を0〜70質量%まで変化させた光学材料において、同様に紫外線硬化させた場合の屈折率ndと分散νdの変化を図4に示した。
【0056】
図4では、横軸を光学材料に占める酸化ニオブ(V)換算した含有量を質量%で示し、各質量%で得られた光学材料のd線の屈折率nd、アッベ数νdを示した。
本実施例によれば、高屈折率である光学材料を得ることができる。また、図4に示した各ポイントでのnd、νdは、表3に示す。
【0057】
表3
酸化ニオブ(V)
含有量(質量%) 屈折率nd アッベ数νd
0 1.7400 25.0
10 1.7472 24.6
20 1.7558 24.1
30 1.7662 23.5
40 1.7789 22.2
50 1.7948 22.1
60 1.8155 21.2
70 1.8433 20.1
【実施例3】
【0058】
実施例2と同様に調製した酸化ニオブ(V)ゾル分散液を、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン1.5g、チタニウムテトライソプロポキシド3.0g、水1gを混合して室温にて8時間撹拌した混合溶液に添加して、更に化学式7で示される化合物0.8gを混合し、室温にて24時間撹拌した後、水、プロパノール、1−ブタノールおよび副生成物を90℃での減圧操作で取り除き、酸化ニオブ(V)−シリカ−アルミナゾルを得た。
【0059】
光学材料用組成物に占めるNb25換算の割合を46質量%になるように、この酸化ニオブ(V)−シリカ−アルミナゾル分散液7g、化学式20で表される化合物を5.6g、および光重合開始剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製 イルガキュア500)0.1g混合して光学材料用組成物を調製し、実施例2と同様にしてNb25に換算した酸化ニオブの割合をO〜70質量%まで変化させた光学材料用組成物について、紫外線に硬化させて光学材料を作製し屈折率ndと分散νdの変化を図5に示した。
また、図5に示した各ポイントでのnd、νdは、表4に示す。
【0060】
表4
酸化ニオブ(V)
含有量(質量%) 屈折率nd アッベ数νd
0 1.7400 25.0
10 1.7457 25.2
20 1.7523 25.4
30 1.7600 25.6
40 1.7693 25.9
50 1.7807 26.2
60 1.7948 26.6
70 1.8129 27.1
【実施例4】
【0061】
ニオブ酸化物無機粒子成分として、平均粒子径が5nmの酸化ニオブ(V)を10質量%を酢酸水溶液分散した酸化ニオブゾル(多木化学製)20gとメタノール8gを混合した分散液に、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン0.5gを添加して、室温で24時間撹拌して酸化ニオブ(V)粒子表面を表面処理した酸化ニオブ(V)−シリカゾルを調製した。
【0062】
光学材料用組成物に占める酸化ニオブ(V)の割合が20質量%になるように、この酸化ニオブ(V)-シリカゾル分散液28.5gに化学式13で表される化合物7g、および光重合開始剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製 イルガキュア500)0.1gを混合して1時間撹拌した後、水、メタノールおよび副生成物を50℃での減圧操作で取り除き、光学材料用組成物を紫外線照射によって硬化させた。
得られた光学材料の光学特性は(nd,νd)=(1.546,47)であった。また実施例1と同様に、酸化ニオブ(V)−シリカゾル分散液と化学式13で表される化合物との混合比を調整し、光学材料用組成物中の酸化ニオブ(V)の割合を0〜70質量%でまで変化させて調製した光学材料用組成物を紫外線に硬化させて得た光学材料の屈折率ndと分散νdの変化を図6に示した。また、図6に示した各ポイントでのnd、νdは、表5に示す。
【0063】
表5
酸化ニオブ(V)
含有量(質量%) 屈折率nd アッベ数νd
0 1.5320 53.2
10 1.5384 50.4
20 1.5459 47.5
30 1.5548 44.5
40 1.5655 41.4
50 1.5787 38.3
60 1.5953 35.0
70 1.6170 31.7
【実施例5】
【0064】
実施例4と同様に調製した酸化ニオブ(V)−シリカゾル溶液28.5gを化学式13で表される化合物7gを混合して1時間撹拌した後、水、メタノールおよび副生成物を90℃での減圧操作で取り除き、光重合開始剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製 イルガキュア500)0.1g混合して1時間撹拌した後、ニオブ酸化物の含有量がNb25に換算した量が、20質量%の組成物を得た。
ついで、10MPa、130℃の条件下で2時間熱処理を行い、無機成分の結晶性向上を行った光学材料用組成物を調製した。得られた光学材料用組成物を紫外線照射によって硬化させて得られた光学材料の光学特性は(nd,νd)=(1.56,44)であった。また酸化ニオブ−シリカゾル溶液と化学式13で表される化合物との混合比を調整し、ニオブ酸化物の割合をNb25換算で0〜70質量%まで変化させた光学材料用組成物について、紫外線硬化させて得た光学材料の屈折率ndと分散νdの変化を図7に示した。
また、図7に示した各ポイントでのnd、νdは、表6に示す。
【0065】
表6
酸化ニオブ(V)
含有量(質量%) 屈折率nd アッベ数νd
0 1.5320 53.2
10 1.5453 48.6
20 1.5610 44.2
30 1.5797 40.1
40 1.6025 36.2
50 1.6309 32.5
60 1.6672 28.9
70 1.7153 25.4
本実施例によれば、ニオブ酸化物粒子と有機材料との複合材料を高温高圧の元で処理することにより、より高屈折率高分散化した光学材料を得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の光学材料は、高屈折率であるのでこの光学材料を用いて製造した光学素子は、大きさを小さくすることが可能であると共に、光散乱性、耐環境性に優れている。また、常温付近で液状であるので、複雑形状の光学素子を短時間で製造できる高い加工性を有しているので、光学系の小型軽量化、製造効率の改善等に貢献でき、産業上も極めて有効である。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の光学材料の屈折率とアッベ数の変化を説明する図である。
【図2】化学式5〜20で表される化合物を用いて作製した光学材料のndとνd、およびその他の光学材料として使用可能な有機成分のndとνdの関係を説明する図であるす。
【図3】本発明の他の実施例の屈折率とアッベ数の変化を説明する図である。
【図4】本発明の他の実施例の屈折率とアッベ数の変化を説明する図である。
【図5】本発明の他の実施例の屈折率とアッベ数の変化を説明する図である。
【図6】本発明の他の実施例の屈折率とアッベ数の変化を説明する図である。
【図7】本発明の他の実施例の屈折率とアッベ数の変化を説明する図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機成分と無機成分からなる光学材料用組成物において、ニオブ酸化物からなる無機粒子成分、重合性官能基を有する有機成分、および重合開始剤を含むことを特徴とする光学材料用組成物。
【請求項2】
無機粒子成分の含有量が、光学材料の総質量に対する酸化ニオブ(V)換算で、0.1〜70質量%であることを特徴とする請求項1記載の光学材料用組成物。
【請求項3】
化学式1で表される金属アルコキシドあるいはその加水分解物から選ばれる少なくとも1種類からなる第2の無機成分を更に含むことを特徴とする請求項1または2記載の光学材料用組成物。
化学式1
1a2bM(OR3c
(R1およびR2は、同一あるいは異なる有機基で、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルケニル基、アリール基、ハロゲン化アリール基、シクロアルキル基、アシル基あるいはエポキシ基含有有機基、R3は炭素数1から6のアルキル基またはアリール基、MはAl、Be、Cu、Ge、Hf、La、Mg、Sc、Si、Ta、Ti、V、W、Y、Zn、Zrからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素、aおよびbは0ないし2、金属元素Mの価数mであり、c=m−(a+b)である。)
【請求項4】
前記化学式1において、金属元素MがAl、Si、Tiからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項3記載の光学材料用組成物。
【請求項5】
無機粒子成分が、下記の化学式2で表されるニオブアルコキシドあるいはその加水分解物を重合させたものからなることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の光学材料用組成物。
化学式2
4dNb(OR55-d
(R4 は、有機基で、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルケニル基、アリール基、ハロゲン化アリール基、シクロアルキル基、アシル基あるいはエポキシ基含有有機基、R5は、炭素数1から6のアルキル基またはアリール基、dは0ないし2)
【請求項6】
前記無機粒子成分が、平均粒子径が20nm以下で、かつ90%粒子径が30nm以下の酸化ニオブ(V)粒子であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の光学材料用組成物。
【請求項7】
前記有機成分がメタクリル酸、アクリル酸、メタクリル酸エステルあるいはアクリル酸エステル、エポキシ化合物、硫黄含有有機化合物から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の光学材料用組成物。
【請求項8】
有機成分と無機成分からなる光学材料において、ニオブ酸化物からなる無機粒子成分、重合性官能基を有する有機成分、および重合開始剤を含む組成物を重合したものであることを特徴とする光学材料。
【請求項9】
無機粒子成分の含有量が、光学材料の総質量に対する酸化ニオブ(V)換算で、0.1〜70質量%であることを特徴とする請求項8記載の光学材料。
【請求項10】
化学式1で表される金属アルコキシドあるいはその加水分解物から選ばれる少なくとも1種類からなる第2の無機成分を更に含むことを特徴とする請求項8または9記載の光学材料。
化学式1
1a2bM(OR3c
(R1およびR2は、同一あるいは異なる有機基で、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルケニル基、アリール基、ハロゲン化アリール基、シクロアルキル基、アシル基あるいはエポキシ基含有有機基、R3は炭素数1から6のアルキル基またはアリール基、MはAl、Be、Cu、Ge、Hf、La、Mg、Sc、Si、Ta、Ti、V、W、Y、Zn、Zrからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素、aおよびbは0ないし2、金属元素Mの価数mであり、c=m−(a+b)である。)
【請求項11】
前記化学式1において、金属元素MがAl、Si、Tiからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項10記載の光学材料。
【請求項12】
光学材料のd線の屈折率ndとアッベ数νdをそれぞれ、縦軸と横軸に示した場合に、(nd,νd)が、(1.47,60)、(1.6,20)、(1.85,20)、(1.8,34)、(1.55,56)で囲まれた領域に存在することを特徴とする請求項8ないし11のいずれか1項に記載の光学材料。
【請求項13】
無機粒子成分が、下記の化学式2で表されるニオブアルコキシドあるいはその加水分解物を重合させたものからなることを特徴とする請求項8ないし12のいずれか1項に記載の光学材料。
化学式2
4dNb(OR55-d
(R4 は、有機基で、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルケニル基、アリール基、ハロゲン化アリール基、シクロアルキル基、アシル基あるいはエポキシ基含有有機基、R5は、炭素数1から6のアルキル基またはアリール基、dは0ないし2)
【請求項14】
前記無機粒子成分が、平均粒子径が20nm以下で、かつ90%粒子径が30nm以下の酸化ニオブ(V)粒子であることを特徴とする請求項8ないし13のいずれか1項に記載の光学材料。
【請求項15】
前記有機成分がメタクリル酸、アクリル酸、メタクリル酸エステルあるいはアクリル酸エステル、エポキシ化合物、硫黄含有有機化合物から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項8ないし14のいずれか1項に記載の光学材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−8926(P2006−8926A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−191118(P2004−191118)
【出願日】平成16年6月29日(2004.6.29)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】