説明

光学構造体及びその製造方法並びにそれを備えた光学装置

【課題】 有機高分子を用いた光学部品の表面に、屈折率の異なる界面にて光が屈折、散乱、回折する現象を利用した高度の光学的機能を付与することができ、しかも、安価で量産性に優れた光学構造体及びその製造方法並びにそれを備えた光学装置を提供する。
【解決手段】 本発明のプラスチックフィルム基板1は、可視光線に対して透明性を有するプラスチックフィルム2の表面2aに、半球状の突部3を複数、マトリックス状に形成し、これらの突部3の表面近傍のプラスチックフィルム2の内部領域に、偏平状の空洞5が複数、不規則に形成された変性領域4を形成したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学構造体及びその製造方法並びにそれを備えた光学装置に関し、さらに詳しくは、光拡散板、アンチグレア膜、プロジェクタースクリーン、リアプロジェクションテレビスクリーン、マイクロレンズアレイ、表示器等の光学装置や光学システム等に好適に用いられ、屈折率の異なる界面にて光が屈折、散乱、回折する現象を利用して高度の光学的機能を発現することが可能であり、しかも、安価で量産性に優れた光学構造体及びその製造方法並びにそれを備えた光学装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、透明プラスチック材料の表面に微細な構造体を形成することにより、多様な光学的機能を発揮する様々な光学部品が提案され実用に供されている。
これらの光学部品としては、例えば、光拡散板、プロジェクタースクリーン、リアプロジェクションテレビスクリーン、アンチグレア膜を形成した偏光フィルムやアクリルシー光システムを構成するマイクロレンズアレイ等が挙げられる。
また、透明プラスチック材料の表面に上述した様な微細な構造体を形成する方法としては、レジストリフロー法(非特許文献1)、金型原版を用いる方法、感光性樹脂を用いたレーザー描画法、電子線描画法等が実用化されている。
【非特許文献1】ディー・デイ他、「プロシーディング オブ マイクロレンズアレイ」、テディントン、23頁、1991年(D.Day,et al., "Proc. Microlens Array" Teddington., 23(1991))
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上述した従来のレジストリフロー法、金型原版を用いる方法、感光性樹脂を用いたレーザー描画法、電子線描画法等は、確かに、透明プラスチック材料の表面に上述した様な微細な構造体を形成することができるが、これらの方法は工程が複雑であり、製造コストが高くなるという問題点があった。
また、これらの方法は、比較的小さい基板を処理する方法としては、何等問題がないが、大型基板を大量に処理する方法としては、必ずしも適しておらず、大型基板を安価にかつ大量に処理する方法が望まれていた。
【0004】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、有機高分子を用いた光学部品の表面に、屈折率の異なる界面にて光が屈折、散乱、回折する現象を利用した高度の光学的機能を付与することができ、しかも、安価で量産性に優れた光学構造体及びその製造方法並びにそれを備えた光学装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、透光性を有する有機高分子からなる基材の内部に、複数の偏平状の空洞が不規則に形成された変性領域を形成することにより、この基材の表面に、屈折率の異なる界面にて光が屈折、散乱、回折する現象を利用した高度の光学的機能が発現することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明の光学構造体は、透光性を有する有機高分子からなる基材の表面近傍の内部領域に、複数の偏平状の空洞が不規則に形成された変性領域を形成してなることを特徴とする。
複数の前記変性領域を、前記基材の表面上の一方向に沿って重ね合わせ、これらの変性領域に対応する前記基材の表面の領域を隆起した線状の突起物としてもよい。
【0007】
本発明の他の光学構造体は、透光性を有する有機高分子からなる基材の表面に、上部層が形成され、この上部層の表面近傍の内部領域に、複数の偏平状の空洞が不規則に形成された変性領域を形成してなることを特徴とする。
複数の前記変性領域を、前記上部層の表面上の一方向に沿って重ね合わせ、これらの変性領域に対応する前記上部層の表面の領域を隆起した線状の突起物としてもよい。
【0008】
本発明の各光学構造体では、複数の前記線状の突起物を、互いに平行に配列してなることが好ましい。
前記有機高分子は、屈折率が1.5以上かつ2.0以下の有機高分子、導電性を有する有機高分子、屈折率が1.5以上かつ2.0以下でありかつ導電性を有する有機高分子のいずれかからなることが好ましい。
前記変性領域の形状は、球形、多面体、紡錘形のいずれかであることが好ましい。
前記基材の表面または前記上部層の表面に、透光性を有する被覆層を設けたこととしてもよい。
【0009】
本発明の光学構造体の製造方法は、透光性を有する有機高分子からなる基材の表面にレーザ光を間欠的または連続的に照射し、前記基材の表面近傍の内部領域に、複数の偏平状の空洞が不規則に形成された変性領域を形成することを特徴とする。
【0010】
本発明の他の光学構造体の製造方法は、透光性を有する有機高分子からなる基材の表面に、上部層を形成し、この上部層の表面にレーザ光を間欠的または連続的に照射し、前記上部層の表面近傍の内部領域に、複数の偏平状の空洞が不規則に形成された変性領域を形成することを特徴とする。
本発明の各製造方法においては、前記レーザ光の中心波長は、200nm以上かつ600nm以下であることが好ましい。
【0011】
本発明の光学装置は、本発明の光学構造体を備えてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の光学構造体によれば、透光性を有する有機高分子からなる基材の表面近傍の内部領域に、複数の偏平状の空洞が不規則に形成された変性領域を形成したので、この光学構造体に光を入射させれば、変性領域と空洞との界面にて光が屈折、散乱、回折、またはこれらが複合された現象が発現することとなり、したがって、透光性を有する有機高分子からなる基材に、屈折、散乱、回折等の現象を利用した高度の光学的機能を付与することができる。
したがって、マイクロレンズ等の高度の光学的機能を有する有機高分子からなる光学構造体を提供することができる。
【0013】
本発明の他の光学構造体によれば、透光性を有する有機高分子からなる基材の表面に、上部層を形成し、この上部層の表面近傍の内部領域に、複数の偏平状の空洞が不規則に形成された変性領域を形成したので、この光学構造体に光を入射させれば、変性領域と空洞との界面にて光が屈折、散乱、回折、またはこれらが複合された現象が発現することとなり、したがって、上部層に、屈折、散乱、回折等の現象を利用した高度の光学的機能を付与することができる。
したがって、マイクロレンズ等の高度の光学的機能を有する有機高分子からなる光学構造体を提供することができる。
【0014】
本発明の光学構造体の製造方法によれば、透光性を有する有機高分子からなる基材の表面にレーザ光を間欠的または連続的に照射し、前記基材の表面近傍の内部領域に、複数の偏平状の空洞が不規則に形成された変性領域を形成するので、透光性を有する有機高分子からなる基材に屈折、散乱、回折等の現象を利用した高度の光学的機能が付与された光学構造体を、安価かつ大量に作製することができる。
【0015】
本発明の他の光学構造体の製造方法によれば、透光性を有する有機高分子からなる基材の表面に、上部層を形成し、この上部層の表面にレーザ光を間欠的または連続的に照射し、前記上部層の表面近傍の内部領域に、複数の偏平状の空洞が不規則に形成された変性領域を形成するので、上部層に屈折、散乱、回折等の現象を利用した高度の光学的機能が付与された光学構造体を、安価かつ大量に作製することができる。
【0016】
本発明の光学装置によれば、本発明の光学構造体を備えたので、屈折、散乱、回折等の現象を利用した高度の光学的機能を有し、しかも、安価で量産性に優れた光学装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の光学構造体及びその製造方法並びにそれを備えた光学装置を実施するための最良の形態について説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0018】
「第1の実施形態」
図1は、本発明の第1の実施形態のマイクロレンズアレイ用のプラスチックフィルム基板(光学構造体)を示す斜視図、図2は図1のA−A線に沿う断面図、図3はプラスチックフィルム基板の変性領域を示す断面図である。
このプラスチックフィルム基板1は、可視光線に対して透明性を有するプラスチック(有機高分子)フィルム(基材)2の表面(一主面)2aに、上方に向かって膨張する半球状の突部3が複数、マトリックス状に形成され、これらの突部3の表面近傍のプラスチックフィルム2の内部領域には、このプラスチックフィルム2がレーザ光により変質してなる変性領域4が形成され、この変性領域4には、偏平状の空洞5が複数、不規則に形成されている。
【0019】
プラスチックフィルム2としては、十分な強度があり、可視光に対して透明な有機高分子フィルムとなり得るものであれば、特に限定されるものではないが、屈折、散乱、回折等の現象を利用した高度の光学的機能を付与するためには、屈折率が1.5以上かつ2.0以下の有機高分子、導電性を有する有機高分子、屈折率が1.5以上かつ2.0以下でありかつ導電性を有する有機高分子のいずれかであることが好ましい。
【0020】
例えば、屈折率が1.5以上かつ2.0以下の有機高分子を用いた場合では、この有機高分子の内部に変性領域4及び空洞5を形成することにより、屈折、散乱、回折等の現象を効果的に発現させることができ、これらの現象を利用した高度の光学的機能を付与することができる。
また、導電性を有する有機高分子を用いた場合では、この有機高分子の内部に変性領域4及び空洞5を形成することにより、帯電防止等の特性を発現させることができ、埃や汚れに対する耐性を高めることができる。
【0021】
この有機高分子としては、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、トリアリルシアヌレート(TAC)、セルロースアセテート、ポリスチレン(PS)、ポリエーテル、ポリイミド、エポキシ、フェノキシ、ポリフッ化ビニリデン、アクリル、ポリエチレン(PE)、ナイロン、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリテトラフルオルエチレン(PTFE)、ポリフルオルアセチレン(PFA)等から適宜選択することができる。
また、このプラスチックフィルム2の厚みも特段限定されるものではなく、通常50〜250μm程度のものが使用可能である。
【0022】
また、用途によっては、プラスチックフィルム2の替わりにプラスチックシートを用いてもよい。この場合、透明シートの材質としては、十分な強度があり、透明な高分子シートとなり得るものであればよく、上述した材質からなるシートが好適である。
このプラスチックシートの厚みも特段限定されるものではなく、通常30μm〜10mm程度のものが使用可能である。
さらに、他の用途によっては、プラスチックフィルム2の替わりに、上述した材質からなるプラスチック板を用いてもよい。このプラスチック板の厚みも特段限定されるものではなく、通常0.5mm〜30mmのものが使用可能である。
【0023】
変性領域4は、プラスチックフィルム2がレーザ光の照射により変質・膨張した領域であり、プラスチックフィルム2内に、その表面2aから厚み方向に向かって3mm以内に形成されている。
この変性領域4は、レーザ光の照射条件によっては膨張しない場合もある。この場合、プラスチックフィルム2の表面2aは隆起せず、平坦面となる。
【0024】
この変性領域4は、直径が、例えば、1μm〜50μmの球形のものである。この変性領域4の形状は、目的とする光学的機能に合った大きさ及び形状とすることが好ましく、球形の他、長径と短径が異なる断面楕円形の回転体、紡錘体、凸レンズ状、多面体等から適宜選択することができる。
特に、このプラスチックフィルム基板1をマイクロレンズアレイ等に用いる場合には、変性領域4の形状は球形、もしくは回転体が好ましい。
【0025】
空洞5は、最長部の長さが100nm以上かつ50μm以下、最短部の長さが10nm以上かつ5μm以下の偏平状のもので、プラスチックフィルム2の厚み方向、すなわち表面2aに垂直な方向では、不規則に並ぶ様に、また、プラスチックフィルム2の表面2aに沿う方向では、最長部の方向がプラスチックフィルム2の表面2aに沿う方向と略一致するように、かつ、互いに隣接する空洞5の位置が不規則に並ぶ様に、変性領域4中に点在している。
【0026】
図2では、これらの空洞5の最長部の方向がプラスチックフィルム2の表面2aに沿う方向とほぼ一致した場合を示しているが、これらの空洞5の最長部の方向が様々な方向に向いている場合ももちろん存在する。例えば、最長部の方向がプラスチックフィルム2の表面2aに対して傾斜したものと、表面2aに沿う方向とほぼ一致しているものとが混ざり合っていてもよく、最長部の方向がプラスチックフィルム2の表面2aに対して様々に傾斜したものが混ざり合っていてもよい。
【0027】
この偏平状の空洞5を複数有する変性領域4では、図3に示すように、プラスチックフィルム基板1に光11を入射させると、変性領域4と空洞5との界面にて光11が屈折12、散乱13、回折14等の現象が発現する。特に、変性領域4が結晶性で選択配向し易い有機高分子材料の場合、回折線の強度が強くなる傾向がある。これら屈折12、散乱13、回折14等の現象は、単一の現象の場合もあるが、これらの現象が複合されて発現する場合もある。
したがって、プラスチックフィルム基板1の主構成要素であるプラスチックフィルム2に、屈折、散乱、回折等の現象を利用した高度の光学的機能を付与することができる。
【0028】
次に、このプラスチックフィルム基板1の製造方法について説明する。
まず、プラスチックフィルム2を用意し、このプラスチックフィルム2の表面2aに、中心波長が250nm以上かつ600nm以下、より好ましくは250nm以上かつ450nm以下のレーザ光を間欠的に照射し、プラスチックフィルム2の表面2aから厚み方向に向かって3mm以内の領域に変性領域4及び複数の空洞5を形成する。
【0029】
ここで、レーザ光の中心波長が250nm未満であると、加工効率が悪く、所望の形状の変性領域4及び空洞5を形成することができなくなるからであり、一方、中心波長が600nmを超えると、変性領域4の周囲または内部に不定形の隆起部を形成し、変性領域4の周囲が損傷する等の問題が発生し易くなり、所望の形状の変性領域4及び空洞5を形成することが困難になるからである。
このレーザ光の強度は、ガウス分布が好ましい。
【0030】
レーザ光の種類としては、パルスレーザ光が好ましい。このパルスレーザ光が好ましい理由は、照射エネルギーが制御し易いからである。このパルスレーザ光の周波数としては、10KHz以上かつ300KHz以下が好ましく、より好ましくは50KHz以上かつ100KHz以下である。ここで、周波数を上記の様に限定した理由は、周波数が10KHz未満の場合には、照射エネルギーが制御し難くなるからであり、一方、周波数が100KHzを超えると、レーザ光照射装置が大型化かつ複雑化し、装置のコストが高くなるからである。
【0031】
このパルスレーザ光の照射エネルギーとしては、1パルス当たり5μJ以上かつ100μJ以下が好ましい。1パルス当たりの照射エネルギーが5μJ未満であると、加工速度が遅くなり、作業効率が低下するからであり、一方、1パルス当たりの照射エネルギーが100μJを超えると、変性領域4及び空洞5の形状を制御することができなくなるからである。
以上により、プラスチックフィルム2の表面2aから厚み方向に向かって3mm以内の領域に、変性領域4及び複数の空洞5を、容易にかつ安価に形成することができる。
【0032】
このプラスチックフィルム基板1に、反射防止膜あるいは反射膜としての特性を持たせるためには、プラスチックフィルム2自体が干渉性を有するか、あるいはプラスチックフィルム2上に、可視光線を透過する膜を形成し、この膜に干渉性を持たせるようにしてもよい。
特に、スクリーン等の用途に用いる場合、変性領域4の周辺部分のプラスチックフィルム2の表面2aに、着色膜、反射膜、またはハーフミラー膜としての機能を有する層を形成することが好ましい。
また、変性領域4の上部に単層または多層の干渉膜、およびハードコート層を形成することが好ましい。この様な構成とすることで、表面の反射光を低減することにより光学特性をより高めることができる。また、ハードコート層を形成することにより、表面の堅牢性を高めることができる。
【0033】
この様にして得られたプラスチックフィルム基板1は、投影機からの映像を反射して映し出すプロジェクタースクリーンを構成することができる。
また、プラスチックフィルム2の材料の選定と、変性領域4及び空洞5の作製条件の調整により変性領域4を半透明とすることで、透過型のプロジェクタースクリーンあるいはリアプロジェクションテレビのスクリーンを構成することができる。
また、変性領域4及び空洞5を作製する条件を調整し、適当な光散乱体を形成することで、眩しさを軽減するアンチグレア膜を構成することができる。
【0034】
また、変性領域4の屈折率や立体的形状を適切に調整し、適当な格子配列に配置することで、マイクロレンズアレイを構成することができる。
また、変性領域4を適当な立体的形状に成型し、変性領域4に照射された光を適度に反射、散乱させることで、視覚的効果の高い表示器を構成することができ、ポスターや看板に適用することができる。この表示器は、変性領域4上のプラスチックフィルム2の表面2aに光学膜を作成することで、反射、散乱の効果を高めることができる。
【0035】
以上説明した様に、本実施形態のプラスチックフィルム基板1によれば、可視光線に対して透明性を有するプラスチックフィルム2の表面2aに、半球状の突部3を複数、マトリックス状に形成し、これらの突部3の表面近傍のプラスチックフィルム2の内部領域に、レーザ光により変質してなる変性領域4を形成し、この変性領域4に偏平状の空洞5を複数、不規則に形成したので、プラスチックフィルム2に屈折、散乱、回折等の現象を利用した高度の光学的機能を付与することができる。
したがって、マイクロレンズアレイ等の高度の光学的機能を有するプラスチックフィルム基板1を容易かつ安価に提供することができる。
【0036】
本実施形態のプラスチックフィルム基板の製造方法によれば、プラスチックフィルム2の表面2aに、中心波長が250nm以上かつ600nm以下のレーザ光を間欠的に照射し、プラスチックフィルム2の表面2aから厚み方向に向かって3mm以内の領域に変性領域4及び複数の空洞5を形成するので、マイクロレンズアレイ等の高度の光学的機能を有するプラスチックフィルム基板1を、容易かつ安価に製造することができる。
【0037】
「第2の実施形態」
図4は、本発明の第2の実施形態のプラスチックフィルム基板(光学構造体)を示す断面図であり、本実施形態のプラスチックフィルム基板21が第1の実施形態のプラスチックフィルム基板1と異なる点は、第1の実施形態のプラスチックフィルム基板1では、半球状の突部3を含むプラスチックフィルム2の表面2aが露出されているのに対し、本実施形態のプラスチックフィルム基板21では、半球状の突部3を含むプラスチックフィルム2の表面2aを覆うように、可視光線を透過する2層構造の透明層22を形成した点である。
【0038】
この透明層22は、下地層23と、被覆層24とから構成されている。
ここでは、透明層22を下地層23と被覆層24とからなる2層構造としたが、透明層22の層構造は、これに限定されることなく、2層以上の多層構造としてもよく、被覆層24のみの単層構造としてもよい。
【0039】
この透明層22の屈折率とプラスチックフィルム2の屈折率との差を0.2以上とすることにより、さらに好ましい特性を得ることができる。
その理由は、変性領域4と空洞5の界面における屈折率差を大きくして光学的機能を高めるためである。
また、透明層22の上に、透明層22とは屈折率あるいは透過率の異なる上層を積層して多層膜とすることにより、さらに好ましい特性を得ることができる。多層膜を光学膜厚とした場合には、多層干渉膜を構成し、反射防止膜あるいは反射膜とすることができる。
【0040】
このプラスチックフィルム基板21に、反射防止膜あるいは反射膜としての特性を持たせるためには、プラスチックフィルム2または透明層22自体が干渉性を有するか、あるいはプラスチックフィルム2と透明層22との間に、可視光線を透過する中間層を形成し、この中間層に干渉性を持たせるようにしてもよい。
【0041】
特に、スクリーン等の用途に用いる場合、変性領域4の周辺部分のプラスチックフィルム2の表面2aあるいは透明層22上に、着色膜、反射膜、またはハーフミラー膜としての機能を有する層を形成することが好ましい。
また、変性領域4上に単層または多層の干渉膜、およびハードコート層を形成することが好ましい。この様な構成とすることで、表面の反射光を低減することにより光学特性をより高めることができる。また、ハードコート層を形成することにより、表面の堅牢性を高めることができる。
【0042】
このプラスチックフィルム基板21においても、第1の実施形態のプラスチックフィルム基板1と同様の作用、効果を奏することができる。
しかも、半球状の突部3を含むプラスチックフィルム2の表面2aを覆うように、可視光線を透過する2層構造の透明層22を形成したので、耐久性及び耐環境性を向上させることができる。
【0043】
「第3の実施形態」
図5は、本発明の第3の実施形態のプラスチックフィルム基板(光学構造体)を示す断面図であり、本実施形態のプラスチックフィルム基板31が第1の実施形態のプラスチックフィルム基板1と異なる点は、第1の実施形態のプラスチックフィルム基板1では、プラスチックフィルム2の表面2a近傍の内部領域に変性領域4を形成し、この変性領域4に偏平状の空洞5を複数、不規則に形成したのに対し、本実施形態のプラスチックフィルム基板31では、プラスチックフィルム2の表面2aに、屈折率が1.6以上かつ1.8以下の高屈折率物質からなる高屈折率層(上部層)32を形成し、この高屈折率層32の表面(一主面)32aに、上方に向かって膨張する半球状の突部33を複数、マトリックス状に形成し、これらの突部33の表面近傍の高屈折率層32の内部領域に、この高屈折率層32がレーザ光により変質してなる変性領域34を形成し、この変性領域34に偏平状の空洞5を複数、不規則に形成した点である。
【0044】
高屈折率物質としては、フルオレンエポキシ化合物、フルオレンアクリレート化合物、フルオレン系ポリエステル等の有機系高屈折率樹脂、ポリメチルジフェニルシラン、ポリフェニルシラン、ポリフェニルシラン等の無機系高屈折率材料、有機系樹脂に酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化スズ等の金属酸化物や金、銀、鉄、ルテニウム等の金属微粒子を分散させた複合材料等が好適に用いられる。
【0045】
この高屈折率物質は、導電性材料であってもよい。導電性材料としては、アンチモン含有酸化スズ微粒子、酸化アンチモン微粒子等の金属酸化物微粒子、4級アンモニウム塩等のイオン性導電体、あるいは導電性高分子等を用いることができる。
【0046】
このプラスチックフィルム基板31では、プラスチックフィルム2の表面2aに、屈折率が1.6以上かつ1.8以下の高屈折率物質からなる高屈折率層32を形成し、この高屈折率層32の表面32aに、中心波長が250nm以上かつ600nm以下、より好ましくは250nm以上かつ450nm以下のレーザ光を間欠的に照射することにより、この高屈折率層32の表面近傍かつその内部領域に、偏平状の空洞5が複数、不規則に形成された変性領域34を形成することができる。
【0047】
このプラスチックフィルム基板31においても、第1の実施形態のプラスチックフィルム基板1と同様の作用、効果を奏することができる。
しかも、高屈折率層32の表面近傍かつその内部領域に、偏平状の空洞5が複数、不規則に形成された変性領域34を形成したので、高屈折率層32を支持するプラスチックフィルム2に使用する材質の制約が大幅に軽減され、より強度が優れた材料や安価な材料を基板として使用することができるという優れた効果を奏することができる。
【0048】
「第4の実施形態」
図6は、本発明の第4の実施形態のプラスチックフィルム基板(光学構造体)を示す断面図であり、本実施形態のプラスチックフィルム基板41が第1の実施形態のプラスチックフィルム基板1と異なる点は、第1の実施形態のプラスチックフィルム基板1では、プラスチックフィルム2の表面2aに突部3を複数、マトリックス状に形成し、これらの突部3の表面近傍のプラスチックフィルム2の内部領域に、偏平状の空洞5が複数、不規則に形成された変性領域4を形成したのに対し、本実施形態のプラスチックフィルム基板41では、複数の突部3をプラスチックフィルム2の表面2a上の一方向(図6では、プラスチックフィルム2の長辺方向)に沿って重ね合わせることにより、表面に凹凸が周期的に形成されたストライプ(線状の突起物)42とするとともに、突部3の下部に形成される複数の空洞5を有する変性領域4をプラスチックフィルム2の長辺方向に沿って重ね合わせ、これらストライプ42をプラスチックフィルム2の表面2a上の他の一方向(図6では、プラスチックフィルム2の短辺方向)に沿って所定の間隔をおいて配列した点である。
【0049】
このプラスチックフィルム基板41においても、第1の実施形態のプラスチックフィルム基板1と同様の作用、効果を奏することができる。
しかも、複数の突部3をプラスチックフィルム2の長辺方向に沿って重ね合わせて表面に凹凸が周期的に形成されたストライプ42とするとともに、突部3の下部に形成される複数の空洞5を有する変性領域4を同様に重ね合わせ、これらストライプ42を所定の間隔をおいて配列したので、配列した方向と垂直の向きからプラスチックフィルム基板41を観察した場合、プラスチックフィルム基板41を観察する水平角度を変えると、プラスチックフィルム基板41を透過あるいは反射した光は、干渉作用により像や強度が変化するという優れた効果を奏することができる。
【0050】
「第5の実施形態」
図7は、本発明の第5の実施形態のプラスチックフィルム基板(光学構造体)を示す断面図であり、本実施形態のプラスチックフィルム基板51が第4の実施形態のプラスチックフィルム基板41と異なる点は、第4の実施形態のプラスチックフィルム基板41では、複数の突部3を重ね合わせることにより、表面に凹凸が周期的に形成されたストライプ42とするとともに、突部3の下部に形成される複数の空洞5を有する変性領域4を同様に重ね合わせ、これらストライプ42を所定の間隔をおいて配列したのに対し、本実施形態のプラスチックフィルム基板51では、複数の突部3をプラスチックフィルム2の表面2a上の一方向(図7では、プラスチックフィルム2の長辺方向)に沿って密に重ね合わせることにより、表面が平坦化されたストライプ(線状の突起物)52とするとともに、突部3の下部に形成される複数の空洞5を有する変性領域4をプラスチックフィルム2の長辺方向に沿って密に重ね合わせ、これらストライプ52をプラスチックフィルム2の表面2a上の他の一方向(図7では、プラスチックフィルム2の短辺方向)に沿って所定の間隔をおいて配列した点である。
【0051】
このプラスチックフィルム基板51においても、第4の実施形態のプラスチックフィルム基板41と同様の作用、効果を奏することができる。
しかも、複数の突部3をプラスチックフィルム2の長辺方向に沿って密に重ね合わせて表面が平坦化されたストライプ52とするとともに、突部3の下部に形成される複数の空洞5を有する変性領域4を同等に密に重ね合わせ、これらストライプ52を所定の間隔をおいて配列したので、第4の実施形態のプラスチックフィルム基板41と比較して、プラスチックフィルム基板51を透過あるいは反射する光の像の均質性がより高くなるという優れた効果を奏することができる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこの実施例により限定されるものではない。
「実施例」
厚さ2mmの透明なポリメチルメタクリレート(PMMA)基板に、高出力パルスUVレーザ(コヒーレントジャパン社、AVIA355)を用いてレーザ光を照射し、この基板内に複数の空洞5を有する変性領域4を形成し、実施例のプラスチックフィルム基板とした。
レーザ光の照射条件は、出力1.8W、中心波長355nm、周波数60KHzとした。また、照射した回数は1つの変性領域4あたり、250パルスとした。
本実施例のプラスチックフィルム基板の変性領域の走査型電子顕微鏡(SEM)像を図8に示す。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の光学構造体は、透光性を有する有機高分子からなる基材の表面近傍の内部領域に、複数の偏平状の空洞が不規則に形成された変性領域を形成することにより、光が屈折、散乱、回折する現象を利用した高度の光学的機能を付与したものであるから、光拡散板、アンチグレア膜、プロジェクタースクリーン、リアプロジェクションテレビスクリーン、マイクロレンズアレイ、表示器等の光学装置や光学システム等に用いた場合、高度の光学的機能を発現することが可能であり、しかも安価で量産性に優れており、その産業的利用価値は非常に大きなものである。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の第1の実施形態のプラスチックフィルム基板を示す斜視図である。
【図2】図1のA−A線に沿う断面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態のプラスチックフィルム基板の変性領域を示す断面図である。
【図4】本発明の第2の実施形態のプラスチックフィルム基板を示す断面図である。
【図5】本発明の第3の実施形態のプラスチックフィルム基板を示す断面図である。
【図6】本発明の第4の実施形態のプラスチックフィルム基板を示す斜視図である。
【図7】本発明の第5の実施形態のプラスチックフィルム基板を示す斜視図である。
【図8】本発明の実施例のプラスチックフィルム基板の変性領域を示す走査型電子顕微鏡(SEM)像である。
【符号の説明】
【0055】
1、21、31、41、51 プラスチックフィルム基板
2 プラスチックフィルム
2a 表面
3 半球状の突部
4 変性領域
5 偏平状の空洞
22 透明層
23 下地層
24 被覆層
32 高屈折率層
22a 表面
33 半球状の突部
34 変性領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性を有する有機高分子からなる基材の表面近傍の内部領域に、複数の偏平状の空洞が不規則に形成された変性領域を形成してなることを特徴とする光学構造体。
【請求項2】
複数の前記変性領域を、前記基材の表面上の一方向に沿って重ね合わせ、これらの変性領域に対応する前記基材の表面の領域を隆起した線状の突起物としてなることを特徴とする請求項1記載の光学構造体。
【請求項3】
透光性を有する有機高分子からなる基材の表面に、上部層が形成され、この上部層の表面近傍の内部領域に、複数の偏平状の空洞が不規則に形成された変性領域を形成してなることを特徴とする光学構造体。
【請求項4】
複数の前記変性領域を、前記上部層の表面上の一方向に沿って重ね合わせ、これらの変性領域に対応する前記上部層の表面の領域を隆起した線状の突起物としてなることを特徴とする請求項3記載の光学構造体。
【請求項5】
複数の前記線状の突起物を、互いに平行に配列してなることを特徴とする請求項2または4記載の光学構造体。
【請求項6】
前記有機高分子は、屈折率が1.5以上かつ2.0以下の有機高分子、導電性を有する有機高分子、屈折率が1.5以上かつ2.0以下でありかつ導電性を有する有機高分子のいずれかからなることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項記載の光学構造体。
【請求項7】
前記変性領域の形状は、球形、多面体、紡錘形のいずれかであることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項記載の光学構造体。
【請求項8】
前記基材の表面または前記上部層の表面に、透光性を有する被覆層を設けてなることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項記載の光学構造体。
【請求項9】
透光性を有する有機高分子からなる基材の表面にレーザ光を間欠的または連続的に照射し、前記基材の表面近傍の内部領域に、複数の偏平状の空洞が不規則に形成された変性領域を形成することを特徴とする光学構造体の製造方法。
【請求項10】
透光性を有する有機高分子からなる基材の表面に、上部層を形成し、この上部層の表面にレーザ光を間欠的または連続的に照射し、前記上部層の表面近傍の内部領域に、複数の偏平状の空洞が不規則に形成された変性領域を形成することを特徴とする光学構造体の製造方法。
【請求項11】
前記レーザ光の中心波長は、200nm以上かつ600nm以下であることを特徴とする請求項9または10記載の光学構造体の製造方法。
【請求項12】
請求項1ないし8のいずれか1項記載の光学構造体を備えてなることを特徴とする光学装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−34004(P2007−34004A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−218705(P2005−218705)
【出願日】平成17年7月28日(2005.7.28)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】