説明

光学機器およびその制御方法

【課題】動画撮影準備段階での絞りの駆動速度を動画記録中の絞りの駆動速度よりも高速にした光学機器を提供する。
【解決手段】動画の撮影が可能な光学機器であって、絞り122と、絞り122を第1の速度または第1の速度よりも速い第2の速度で駆動する絞り駆動用モータ120と、動画の撮影準備中には絞り122を第2の速度で駆動し、動画の記録中には絞り122を第1の速度で駆動するように絞り駆動用モータ120を制御する絞り駆動ユニット119(レンズMPU115)とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動画の撮影が可能な光学機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、動画と静止画の両方を撮影可能なカメラにおいて、静止画撮影時での絞り駆動は、撮影速度を確保するために駆動特性上可能な最高速度で動作させていた。また特許文献1には、動画撮影時において、光量の極端な変化が生じないようにするため、または、駆動音を低減させるため、低速度で絞りを動作させる構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−334915号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば周囲が明るい場所で動画の撮影を開始する場合、予め絞りを駆動して適切な光量となるようにしてから撮影を開始したいという要求がある。その際、素早く動画撮影が可能な状態にするには、所望の位置まで絞りを高速で動作させる必要がある。しかし、特許文献1に開示されている絞りは、動画撮影時には常に低速度で駆動される。このため、カメラ側から送られてきた所望の絞り位置まで絞りを駆動する場合にも低速度で駆動されるため、撮影準備に時間がかかる。また、動画撮影を終えて静止画の撮影準備に入る際にも、絞りを開放位置まで駆動するのに低速度で駆動すると時間がかかり、動画撮影と静止画撮影を切替える際のレスポンスが悪い。
【0005】
そこで本発明は、動画撮影準備段階での絞りの駆動速度を動画記録中の絞りの駆動速度よりも高速にした光学機器およびその制御方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面としての光学機器は、動画の撮影が可能な光学機器であって、絞りと、前記絞りを第1の速度または該第1の速度よりも速い第2の速度で駆動する駆動手段と、前記動画の撮影準備中には前記絞りを前記第2の速度で駆動し、該動画の記録中には該絞りを前記第1の速度で駆動するように前記駆動手段を制御する制御手段とを有する。
【0007】
本発明の他の側面としての制御方法は、絞りを第1の速度または該第1の速度よりも速い第2の速度で駆動し、動画の撮影が可能な光学機器の制御方法であって、前記動画の撮影準備中に、前記絞りを駆動する2相パルスモータを矩形波駆動で制御することにより、該絞りを前記第2の速度で駆動するステップと、前記動画の記録中に、前記2相パルスモータを正弦波駆動で制御することにより、前記絞りを前記第1の速度で駆動するステップとを有する。
【0008】
本発明の他の目的及び特徴は、以下の実施例において説明される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、動画撮影準備段階での絞りの駆動速度を動画記録中の絞りの駆動速度よりも高速にした光学機器およびその制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本実施例におけるレンズ交換式カメラ(光学機器)の構成図である。
【図2】本実施例の光学機器の絞り駆動方法(制御方法)のフローチャートである。
【図3】本実施例における絞り駆動用モータの駆動方法である。
【図4】本実施例における絞り駆動用モータを矩形波駆動または正弦波駆動で制御した場合のトルクと駆動速度との関係である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施例について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0012】
まず、本実施例における光学機器の構成について説明する。図1は、本実施例におけるレンズ交換式カメラ(光学機器)の構成図である。なお、本実施例では光学機器としてレンズ交換式カメラ(または交換レンズ)の場合を説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、レンズ一体型のカメラにも適用可能である。また、本実施例では静止画と動画の両方を記録可能な光学機器について説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、動画のみを記録可能に構成されたビデオカメラなどの光学機器にも適用可能である。
【0013】
図1に示されるように、光学機器としてのレンズ交換式カメラ100は、動画の撮影が可能であり、カメラ101(カメラ本体)と、カメラ101に対して着脱可能なレンズ102(交換式レンズ)とを備えて構成される。カメラ101の内部には電気回路103が設けられている。電気回路103には、測光ユニット104、焦点検出ユニット105、シャッター106、カメラMPU107、および、対レンズ通信回路108が設けられている。測光ユニット104は、レンズ102の撮影光学系を通過した光量を測定する。焦点検出ユニット105は、撮影光学系の焦点調節状態の検出(焦点検出)を行う。シャッター106は、不図示の撮影フィルムまたは撮像素子への露光時間を制御する。カメラMPU107は、カメラ101の各種制御を行う。対レンズ通信回路108は、レンズ102との間でシリアル通信を行うために設けられている。カメラMPU107には、データを保存するための揮発性メモリであるRAM127が設けられている。また、カメラ101には電源110が設けられており、電源110からはレンズ102に対しても電源が供給される。
【0014】
レンズ102において、122は絞り、123はズーミングレンズ、124はフォーカシングレンズである。撮影光学系は、絞り122、ズーミングレンズ123、および、フォーカシングレンズ124を含んで構成される。112はズームブラシである。ズームブラシ112は、ズーミングレンズ123の位置を検出するため、ズーミングレンズ123の移動に伴って抵抗体(不図示)上を摺動し、ズーミングレンズ123の位置に応じた電圧値の信号を出力する。113はフォーカスブラシである。フォーカスブラシ113は、フォーカシングレンズ124の位置を検出するため、フォーカシングレンズ124の移動に伴って抵抗体(不図示)上を摺動し、フォーカシングレンズ124の位置に応じた電圧値の信号を出力する。114はA/Mスイッチである。A/Mスイッチ114は、オートフォーカスとマニュアルフォーカスを切り替える。111はレンズ102に設けられた電気回路である。
【0015】
電気回路111には、レンズMPU115、対カメラ通信回路116、レンズ駆動ユニット117、フォーカス駆動用モータ118、絞り駆動ユニット119、および、絞り駆動用モータ120(駆動手段)が設けられている。絞り駆動用モータ120は、絞り122を第1の速度(低速度)または第1の速度よりも速い第2の速度(高速度)で駆動するように構成される。レンズMPU115および絞り駆動ユニット119は、動画の撮影準備中には絞り122を第2の速度で駆動し、動画の記録中には絞り122を第1の速度で駆動するように絞り駆動用モータ120を制御する制御手段である。またレンズMPU115は、レンズ102の各種制御を行う。レンズMPU115には、電気的に書き換えが可能なFlashROM128(不揮発性メモリ)が設けられている。FlashROM128には、レンズ102を動作させるのに必要な制御プログラムであるファームウェアなどが格納されている。
【0016】
対カメラ通信回路116は、カメラ101との間でシリアル通信を行う。レンズ駆動ユニット117は、レンズMPU115からの制御信号に応じてフォーカス駆動用モータ118の駆動制御を行い、フォーカス駆動用モータ118によりフォーカシングレンズ124が駆動される。前述のように、絞り駆動ユニット119は、レンズMPU115からの制御信号に応じて絞り駆動用モータ120の駆動制御を行い、絞り駆動用モータ120により絞り122が駆動される。本実施例では、絞り駆動用モータ120として、例えば2相パルスモータが適して用いられる。また、レンズ102には、フォーカシングレンズ124の移動に伴ってパルス信号を出力するパルス発生器121が設けられている。
【0017】
次に、図2を参照して、本実施例の光学機器による絞り駆動方法(制御方法)について説明する。図2は、本実施例の光学機器の絞り駆動方法のフローチャートである。なお、図2のフローチャートでは、説明の簡略化のため、絞りの駆動速度を単に高速度または低速度と示されているが、具体的には、例えば次のような構成で駆動速度が制御される。
【0018】
図3は、本実施例における絞り駆動用モータ120の駆動方法を示す。図3(a)は高速度(第2の速度)での駆動方法であり、図3(b)は低速度(第1の速度)での駆動方法である。絞り122を高速度で駆動させる場合には、絞り駆動用モータ120である2相パルスモータを1−2相の矩形波駆動で制御する。このとき、A相およびB相に印加する電圧を図3(a)に示されるように経時的にステップ状に変化させながら絞り駆動用モータ120を駆動させる。A相およびB相に印加する電圧のパルス幅は、レンズMPU115に設けられたタイマを用いて決定される。このパルス幅を変化させることにより、絞り駆動用モータ120の加減速制御が可能となる。絞り122を高速度で駆動する際には、このような矩形波駆動を用いた加減速制御により、絞り駆動用モータ120の特性上可能な最高速度で絞り駆動用モータ120を制御して絞り122を駆動する。
【0019】
一方、絞り122を低速度で駆動させる場合には、絞り駆動用モータ120である2相パルスモータを正弦波駆動で制御する。図3(b)に示されるように、A相およびB相に印加する電圧を正弦波状に変化させることで、短形波駆動制御に比較して電圧が滑らかに変化する。これにより、絞り駆動用モータ120を滑らかに駆動させることができるため、静粛性を高めた絞り122の駆動制御が可能となる。
【0020】
図4は、絞り駆動用モータ120(2相パルスモータ)を矩形波駆動または正弦波駆動で制御した場合のトルクと駆動速度(パルスレート)との関係を示す。同じトルクで絞り駆動用モータ120を駆動する場合、絞り駆動用モータ120の最高速度は、矩形波駆動時には図4中の速度V1、正弦波駆動時には図4中の速度V2となる。このため、例えば、絞り122の高速駆動が要求される静止画撮影時には矩形波駆動が用いられ、一方、静粛性と低速駆動が求められる動画撮影時には正弦波駆動が用いられる。
【0021】
図2において、カメラ101をユーザが操作することにより、対レンズ通信回路108を通じて、レンズMPU115に対して絞り駆動量の受信要求が発生し、レンズMPU115は絞り駆動処理を開始する(ステップ#201)。ここで絞り駆動処理とは、カメラ101の撮影開始から撮影終了までの期間における絞り122の駆動に関連する処理である。なお、図2のフローは、カメラMPU107またはレンズMPU115の指令に基づいて実行される。
【0022】
絞り駆動処理が開始されると、ステップ#202において、レンズMPU115は、まず動画撮影準備のステータスをNG状態にセットする。カメラMPU107は、動画の記録を開始する際に、レンズ102が動画撮影準備を完了したかどうかを通信により確認し、完了した時点で動画記録を開始するように指令を出す。ステップ#203において、レンズMPU115は、カメラMPU107より、現在設定されている撮影モードと、動画記録中か否かを示すフラグを受信する。カメラMPU107は、動画モードにおいて動画を記録している間、動画記録中フラグをONにセットする。次にステップ#204において、レンズMPU115は絞り122の駆動量(絞り駆動量)を受信する。受信したデータのビットパターンにより、絞込み方向への駆動か、または、開放方向への駆動のいずれかであるかを判別することができる。ステップ#205において、レンズMPU115は、一旦、絞り122の駆動速度を高速度に設定する。
【0023】
次にステップ#206において、ステップ#203で受信した現在の撮影モードフラグを参照し、現在の撮影モードに応じて処理を分岐する。現在の撮影モードが静止画モードの場合にはステップ#207に進み、一方、現在の撮影モードが動画モードの場合にはステップ#209に進む。静止画モードの場合にはステップ#207において、ステップ#204で受信した絞り駆動量が開放状態への駆動量(以降、「全開放駆動」という)を示していた場合、ステップ#218に進む。それ以外の場合には、受信した絞り駆動量に応じて絞りを駆動するため、ステップ#208に進む。ステップ#208では、ステップ#205において絞り駆動速度が高速にセットされているため、指定された駆動量だけ絞りは高速で駆動され、静止画撮影が行われる。その後、次の絞り駆動量を受信するため、ステップ#203に戻る。
【0024】
一方、ステップ#206で現在の撮影モードが動画モードであった場合にはステップ#209に進む。ステップ#209において、まずステップ#204で受信した絞り駆動量が全開放駆動を示す場合にはステップ#215に進み、それ以外の場合にはステップ#210に進む。ステップ#210では、ステップ#203で受信した動画記録中フラグを参照し、現在動画記録中であるか否かが判定される。カメラMPU107は、レンズ102の動画撮影準備ステータスがOK状態か否かを判定して動画記録を開始するため、通常動画モード時の絞り駆動処理開始直後は動画の記録は開始していない。すなわち、動画モードに切り替えて動画の撮影を始める前に、カメラ101は周囲の明るさ等に合わせて、動画撮影に適した光量となるように予め適切な量だけ絞りを絞る動画撮影準備処理を行う。このような動画撮影準備処理中である場合には、ステップ#212へ進み、撮影準備が既に済んでおり現在動画記録中である場合はステップ#211へ進む。
【0025】
ステップ#211では、動画記録中であるため、絞りの駆動速度を低速度にセットする。ステップ#212では、設定されている駆動速度で絞りを指定量駆動する。ステップ#210で動画撮影準備処理中である場合は、絞り122の駆動速度は高速度にセットされている。また、動画撮影中の場合には低速度にセットされている。これにより、動画の撮影準備時には高速で(素早く)絞り122を駆動することができる。一方、動画の撮影時には急激な光量変化や絞り駆動音が大きくならないように低速で絞りを駆動することができる。ステップ#213において、動画記録中である場合には、次にカメラから送られてくる絞り駆動量を受信するためステップ#203へ戻る。一方、動画記録中でない、すなわち動画撮影準備中である場合には、ステップ#214において動画撮影準備ステータスをOK状態にセットした後、ステップ#203に戻る。これにより、カメラ101は適宜動画記録を開始することができる。
【0026】
ステップ#209にて動画モード且つ受信した絞り駆動量が全開放駆動であった場合、ステップ#215において、動画記録中であるか否かが判定される。動画記録中である場合にはステップ#216へ進み、動画記録中でない場合にはステップ#218へ進む。動画記録中の場合、ステップ#216において、ステップ#204で受信した絞り駆動量は全開放駆動を示しているものの、動画記録中であるために撮影終了ではなく光量が変化したと判定される。このため、絞り駆動速度は低速にセットされる。ステップ#217では、ステップ#216で絞り駆動速度が低速にセットされているため、低速度で絞り全開放駆動が行われる。
【0027】
動画モード且つ動画記録中ではない場合(ステップ#215)、または、静止画モード時に絞りの全開放駆動を指示された場合(ステップ#207)には、撮影終了であると判定される。このため、ステップ#218において、高速度で絞りを全開放駆動して絞り駆動処理を終了する。このような絞り駆動方法により、動画モードから静止画モードへの切り替わり時にも素早く絞りを駆動させて全開放状態にすることができるため、モードの切り替わり時間を短縮することが可能となる。
【0028】
以上のようにして、絞りを低速度で駆動させる必要がある動画撮影の準備段階においては、絞りを高速度で駆動させることにより素早く動画撮影可能な状態にできる。また、動画記録が終了した際にも高速度で絞りを開放状態まで駆動することにより、素早く静止画を撮影可能な状態にすることができる。このため、例えば静止画撮影と動画撮影の切り替えがスムーズに行われ、素早く撮影可能な状態にすることが可能となる。上記実施例によれば、動画撮影準備段階での絞りの駆動速度を動画記録中の絞りの駆動速度よりも高速にした光学機器およびその制御方法を提供することができる。
【0029】
以上、本発明の好ましい実施例について説明したが、本発明はこれらの実施例に限定されないことはいうまでもなく、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0030】
100 レンズ交換式カメラ
115 レンズMPU
119 絞り駆動用ユニット
120 絞り駆動用モータ
122 絞り

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動画の撮影が可能な光学機器であって、
絞りと、
前記絞りを第1の速度または該第1の速度よりも速い第2の速度で駆動する駆動手段と、
前記動画の撮影準備中には前記絞りを前記第2の速度で駆動し、該動画の記録中には該絞りを前記第1の速度で駆動するように前記駆動手段を制御する制御手段と、を有することを特徴とする光学機器。
【請求項2】
前記駆動手段は2相パルスモータであり、
前記制御手段は、前記絞りを前記第1の速度で駆動するように前記2相パルスモータを正弦波駆動で制御し、該絞りを前記第2の速度で駆動するように該2相パルスモータを矩形波駆動で制御することを特徴とする請求項1に記載の光学機器。
【請求項3】
絞りを第1の速度または該第1の速度よりも速い第2の速度で駆動し、動画の撮影が可能な光学機器の制御方法であって、
前記動画の撮影準備中に、前記絞りを駆動する2相パルスモータを矩形波駆動で制御することにより、該絞りを前記第2の速度で駆動するステップと、
前記動画の記録中に、前記2相パルスモータを正弦波駆動で制御することにより、前記絞りを前記第1の速度で駆動するステップと、を有することを特徴とする光学機器の制御方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図1】
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【公開番号】特開2011−191386(P2011−191386A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−55772(P2010−55772)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】