説明

光学機器およびそれを備えた撮像装置、光学機器の制御方法

【課題】装置の動作によって発生する振動の影響を抑制した像ぶれ補正が可能な光学機器及びその制御方法を提供する。
【解決手段】倍率が可変な結像光学系を備える光学機器であって、振れ検出手段が検出した振れに基づいて、前記結像光学系の光軸に直交する方向に移動可能な補正部材を移動させ、前記結像光学系による像ぶれを補正する防振制御手段とを有し、前記防振制御手段は、結像光学系の光軸に直交する方向に移動可能な補正部材の移動可能範囲を、結像光学系の倍率が変更中である場合には、結像光学系の倍率が変更中でない場合よりも狭くする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学機器およびそれを備えた撮像装置、光学機器の制御方法に関し、特に画像振れを補正する機能を有する光学機器およびそれを備えた撮像装置、光学機器の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、交換レンズ等の光学機器やデジタルカメラ等の撮像装置の振れを検出して、この振れに起因する画像振れを補正するように移動可能な可動体(防振レンズ及びその保持部材)を駆動する像ぶれ補正装置を備えた光学機器や撮像装置が知られている。
【0003】
像ぶれ補正装置は画像振れの抑制に大きな効果を有するが、通常想定される大きさを超える振れが継続して入力された場合に、振れが収まった直後に像ぶれ補正が行えなくなる場合があった。例えば、パンニング撮影のように、撮影者が意図的に撮像装置を振って撮影した場合、パンニング動作による振れの大きさは、防振レンズを移動させることで補正可能な振れより大きい。また、パンニング動作はほぼ一定方向への振れであるため、パンニング動作中は防振レンズもほぼ一定方向にかつ最大量移動した状態となる。従って、パンニング動作終了時には防振レンズを動かせない方向が存在し、十分な像ぶれ補正が行えないという問題があった。
【0004】
このような問題に対し、振れの補正量が所定値を超えた場合には補正量を制限するいわゆるパンニング制御が知られている。パンニング制御により、パンニング動作中は防振レンズが光学中心に近い範囲で移動するように制限されるため、前述の問題が解消される。
【0005】
しかしながら、撮影レンズの焦点距離や被写体距離によっては、パンニング制御が撮影画像に不自然さを与えてしまうことがあった。そのため、特許文献1では、撮影レンズの焦点距離が所定焦点距離よりも長くなるに従い、また、被写体距離が遠くなるに従い、振れ信号の低域をカットするフィルタのカットオフ周波数を高めることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−91833号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載される方法は、パンニング動作のような想定された振れの入力に対しては改善が期待できる。しかしながら、想定外の振れの入力(例えば、撮像レンズの焦点距離を変更するためのアクチュエータの振動)が振れ検出結果に与える影響には対処できない。像ぶれ補正は角速度センサのような、撮像装置に設けられた振れ検出センサによって検出した振れを補正するものであるため、検出した振れに誤りがあれば適切な像ぶれ補正はできない。特に動画撮影時には撮影中に撮影レンズのズームが行われることも多く、ズーム時に発生する振動の影響を抑制して適切な手ぶれ補正を行うことが要求されている。
【0008】
本発明はこのような従来技術の課題を解決し、装置の動作によって発生する振動の影響を抑制した像ぶれ補正が可能な光学機器およびそれを備えた撮像装置、光学機器の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の目的を達成するため、本発明にかかる撮像装置は、倍率が可変な結像光学系を駆動する駆動手段と、撮像装置の振れを検出する振れ検出手段と、結像光学系の光軸に直交する方向に移動可能な補正部材を振れ検出手段が検出した振れに基づいて移動させ、結像光学系による像ぶれを補正する防振制御手段とを有し、防振制御手段は、補正部材の移動可能範囲を、結像光学系の倍率が変更中である場合は、結像光学系の倍率が変更中でない場合よりも狭く設定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
このような構成により、本発明によれば、装置の動作によって発生する振動の影響を抑制した像ぶれ補正が可能な光学機器およびそれを備えた撮像装置、光学機器の制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態に係る撮像装置の機能構成例を示すブロック図
【図2】図1における防振駆動部の構成例を示すブロック図
【図3】本発明の実施形態に係る像ぶれ補正機構の構成例を示す分解斜視図
【図4】本発明の実施形態に係る防振制御部の機能構成例を示すブロック図
【図5】本発明の第1実施形態に係る防振レンズの目標位置の演算処理の詳細を示すフローチャート
【図6】本発明の第1及び第2の実施形態における、倍率並びに倍率の変更速度と、デジタルフィルタのカットオフ周波数との関係を表す図
【図7】本発明の第2実施形態に係る防振レンズの目標位置の演算処理の詳細を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1実施形態)
以下、図面を参照して本発明の例示的な実施形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る光学機器を備えた撮像装置の機能構成例を示すブロック図である。本実施形態において撮像装置100はデジタルカメラであるが、静止画撮影機能だけではなく、動画撮影機能を有していてもよい。
【0013】
ズームユニット101は、結像光学系を構成する、倍率が可変な撮影レンズの一部であり、撮影レンズの倍率を変更するズームレンズを含んでいる。ズーム駆動部102は、制御部118の制御に従ってズームユニット101の駆動を制御する。補正部材としての防振レンズ103は、撮影レンズの光軸に対して直交する方向に移動可能に構成されている。防振駆動部104は、防振レンズ103の駆動を制御する。
【0014】
絞り・シャッタユニット105は、絞り機能を有するメカニカルシャッタである。絞り・シャッタ駆動部106は、制御部118の制御に従って絞り・シャッタユニット105を駆動する。フォーカスレンズ107は撮影レンズの一部であり、撮影レンズの光軸に沿って位置を変更可能に構成される。フォーカス駆動部108は、制御部118の制御に従ってフォーカスレンズ107を駆動する。
【0015】
撮像部109は、撮影レンズによる光学像を、CCDイメージセンサやCMOSイメージセンサなどの撮像素子を用いて画素単位の電気信号に変換する。撮像信号処理部110は、撮像部109から出力された電気信号に対して、A/D変換、相関二重サンプリング、ガンマ補正、ホワイトバランス補正、色補間処理等を行い、映像信号に変換する。映像信号処理部111は、撮像信号処理部110から出力された映像信号を、用途に応じて加工する。具体的には、映像信号処理部111は、表示用の映像を生成したり、記録用に符号化処理やデータファイル化を行ったりする。
【0016】
表示部112は、映像信号処理部111が出力する表示用の映像信号に基づいて、必要に応じて画像表示を行う。電源部113は、撮像装置100の全体に、用途に応じて電源を供給する。外部入出力端子部114は、外部装置との間で通信信号及び映像信号を入出力する。操作部115は撮像装置100にユーザが指示を与えるためのボタンやスイッチなどを有する。記憶部116は、映像情報など様々なデータを記憶する。姿勢検出部117は、撮像装置100の姿勢を検出し、映像信号処理部111及び表示部112に姿勢情報を提供する。制御部118は例えばCPU、ROM、RAMを有し、ROMに記憶された制御プログラムをRAMに展開してCPUで実行することによって撮像装置の各部を制御し、以下に説明する様々な動作を含む撮像装置100の動作を実現する。
【0017】
操作部115には、押し込み量に応じて第1スイッチ(SW1)および第2スイッチ(SW2)が順にオンするように構成されたレリーズボタンが含まれる。レリーズボタンが約半分押し込まれたときにレリーズスイッチSW1がオンし、レリーズボタンが最後まで押し込まれたときにレリーズスイッチSW2がオンする。レリーズスイッチSW1がオンすると、制御部118が例えば映像信号処理部111が表示部112に出力する表示用の映像信号に基づくAF評価値に基づいてフォーカス駆動部108を制御することにより自動焦点検出を行う。また、制御部118は映像信号の輝度情報と例えば予め定められたプログラム線図に基づいて適切な露光量を得るための絞り値及びシャッタスピードを決定するAE処理を行う。レリーズスイッチSW2がオンされると、制御部118は決定した絞り及びシャッタ速度で撮影を行い、撮像部109で得られた画像データを記憶部116に記憶するように各部を制御する。
【0018】
操作部115には、像ぶれ補正(防振)モードを選択可能にする防振スイッチが含まれる。防振スイッチにより像ぶれ補正モードが選択されると、制御部118が防振駆動部104に防振動作を指示し、これを受けた防振駆動部104が防振オフの指示がなされるまで防振動作を行う。また、操作部115には、静止画撮影モードと動画撮影モードとのうちの一方を選択可能な撮時モード選択スイッチが含まれており、それぞれの撮影モードにおいて防振駆動部104の動作条件を変更することができる。
【0019】
また、操作部115には再生モードを選択するための再生モード選択スイッチも含まれており、再生モード時には防振動作を停止する。
操作部115には、またズーム倍率変更の指示を行う倍率変更スイッチが含まれる。倍率変更スイッチによりズーム倍率変更の指示があると、制御部118を介して指示を受けたズーム駆動部102がズームユニット101を駆動して、指示されたズーム位置にズームユニット101を移動させる。
【0020】
姿勢検出部117からの姿勢情報により映像信号処理部111からの映像信号が縦長か横長かが決定され、表示部112における画像表示方向が決定される。
【0021】
(防振駆動部104の構成)
図2は、防振駆動部104の機能構成例を示すブロック図である。
第1振動センサ201は、例えば角速度センサであり、通常姿勢(画像の長さ方向が水平方向とほぼ一致する姿勢)における、撮像装置100の垂直方向(ピッチ方向)の振動を検出する。第2振動センサ202は例えば角速度センサであり、通常姿勢における撮像装置の水平方向(ヨー方向)の振動を検出する。第1及び第2防振制御部203,204はそれぞれピッチ方向、ヨー方向における防振レンズの補正位置制御信号を出力し、防振レンズの駆動を制御する。
【0022】
第1PID部205は、第1防振制御部203からのピッチ方向での補正位置制御信号と、第1ホール素子209からの防振レンズのピッチ方向での位置情報とから、PID制御によって例えばアクチュエータである第1ドライブ部207を駆動する。同様に、第2PID部206は、第2防振制御部204からのヨー方向での補正位置制御信号と、第2ホール素子210からの防振レンズのヨー方向での位置情報とから、PID制御によって例えばアクチュエータである第2ドライブ部208を駆動する。
【0023】
第1及び第2PID部205,206の出力は姿勢検出部117にも供給され、撮像装置100の姿勢検出に用いられる。
【0024】
(防振駆動部104の動作)
次に、図2に示す防振駆動部104による防振レンズ103の駆動制御動作について説明する。
第1及び第2防振制御部203,204には、第1及び第2振動センサ201,202から、撮像装置100のピッチ方向、ヨー方向の振れを表す振れ信号(角速度信号)が供給される。第1及び第2防振制御部203,204はこの振れ信号に基づいて、ピッチ方向及びヨー方向に防振レンズ103を駆動する補正位置制御信号をそれぞれ生成し、第1及び第2PID部205,206に出力する。
【0025】
第1及び第2ホール素子209,210は、防振レンズ103に設けられた磁石による磁場の強さに応じた電圧を有する信号を、防振レンズ103のピッチ方向及びヨー方向における位置情報として出力する。位置情報は第1及び第2PID部205,206及び第1及び第2防振制御部203,204に供給される。第1及び第2PID部205,206は、第1及び第2ホール素子209,210からの信号値が、第1及び第2防振制御部203,204からの補正位置制御信号値に収束するよう、第1及び第2ドライブ部207,208を駆動しながらフィードバック制御する。
【0026】
なお、第1及び第2ホール素子209,210から出力される位置信号値にはばらつきがあるため、所定の補正位置制御信号に対して防振レンズ103が所定の位置に移動するように、第1及び第2ホール素子209,210の出力調整を行う。このとき、第1及び第2PID部205,206では、P制御(比例制御)とI制御(積分制御)とD制御(微分制御)とを用いたPID制御を行う。
【0027】
また、第1PID部205で用いられる積分補償値により姿勢検出部117が姿勢検出する。またI制御を行わないPD制御では防振レンズ103の目標位置と第1及び第2ホール素子209,210によって検出された検出位置との差分量(偏差量)により姿勢検出部が姿勢検出する。
【0028】
第1及び第2防振制御部203,204は、第1及び第2振動センサ201,202からの振れ情報に基づき、画像振れを打ち消すように防振レンズ103の位置を移動させる補正位置制御信号をそれぞれ出力する。例えば、第1及び第2防振制御部203,204は、振れ情報(角速度信号)にフィルタ処理等を行うことにより補正位置制御信号を生成することができる。以上の動作により、撮影時に手ぶれ等の振動が撮像装置100に存在しても、ある程度の振動までは画像振れを防止できる。また、第1及び第2防振制御部203,204は、第1及び第2振動センサ201,202からの振れ情報と、第1及び第2ホール素子209,210の出力に基づいて、撮像装置100のパンニング状態を検出し、パンニング制御を行う。
【0029】
(像ぶれ補正機構)
図3は、防振レンズ103、防振駆動部104、絞り・シャッタユニット105、絞り・シャッタ駆動部106に相当する像ぶれ補正機構の具体的構成例を示す分解斜視図である。
【0030】
ベース301は像ぶれ補正機構の基台であり、絞り・シャッタユニット105及びNDフィルタ機構もベース301に固定される。ベース301には一体的に図示の2つのフォロワピン302及び不図示の可動フォロワピンが設けられ、ベース301の径方向外側にある不図示のカム筒の3本のカム溝にこれら3つのフォロワピンが嵌合し、カム溝に沿って光軸方向に進退するように構成される。
【0031】
防振レンズ103はホルダ316に不図示のカシメ爪によって保持されている。
レンズカバー303は防振レンズ103を通過する光束を制限する開口部を備え、側面に伸びた3カ所の腕部304それぞれに開口305が設けられており、ホルダ316の側面3カ所に設けられた突起315と嵌合することによりホルダに一体的に保持される。ホルダには前述した磁石312,313が一体的に保持されている。
【0032】
ホルダ316は3つのボール307を介してベース301に圧接されており、ボール307が転がることにより光軸に垂直な面内の任意方向に移動可能である。ボール307でホルダ316を保持する構成は、ガイドバーでホルダをガイドする構成より微小な振幅で、かつ高周期の振動を実現できるため、高画素数の撮像素子を有する撮像装置においても良好な補正を行うことが可能になる。
【0033】
スラストスプリング314は一端がホルダ316の突起315に係合し、他端がベース301の不図示の突起に係合して伸ばされた状態で保持され、ホルダ316をベース301に向かって付勢している。ラジアルスプリング317,318はホルダ316の回転を防ぐ。
【0034】
樹脂製のボビン310,311の先端には金属製のピンが一体的に構成されており、コイル308,309の端部が絡げられている。フレキシブル基板(FPC)324は、そのランド325がボビン310,311のピンと半田付けなどにより電気的に接続され、コイル308,309に電力を供給する回路を形成している。
【0035】
また第1及び第2ホール素子209,210は磁石312,313の近傍に配置され、磁石312,313による磁界を検出する。第1及び第2ホール素子209,210はFPC324に実装され、FPC324を通じて電力が供給されている。FPC327は絞り・シャッタユニット105及びNDフィルタ駆動部に電力を供給する回路を形成する。FPC324,327は、突起321によってホルダ320に固定される。
【0036】
なお、ここで説明した像ぶれ補正機構は一例であり、このタイプの像ぶれ補正機構でなければ本発明が特徴的な効果を得られないということはない。例えば、レンズの代わりに撮像素子を駆動する構成であっても良いし、ガイドバーでホルダをガイドする構成であっても良い。また、スラストスプリング314やラジアルスプリング317,318を廃してマグネットの吸着力を利用してホルダ316をベース301に向かって付勢してもよい。
【0037】
(防振制御部の構成)
図4は、本実施形態における防振制御部の機能構成例を示すブロック図である。なお、第1及び第2防振制御部203,204は同一構成で同一の動作を行うため、以下では第1防振制御部203の構成を説明する。
【0038】
第1A/D変換器(A/D)402は、第1振動センサ201が検出した振れ信号をデジタル値に変換する。デジタル変換された振れ信号は、低周波数域に含まれるノイズ、あるいはオフセット成分を除去するためにデジタルハイパスフィルタ403に入力される。デジタルハイパスフィルタ403により処理された振れ信号(ここでは角速度信号)は、デジタルローパスフィルタ404で角度信号に変換され、防振レンズ103のピッチ方向の目標位置として第1PID部205に出力される。
【0039】
また、第2A/D変換器407は、第1ホール素子209から防振レンズ103のピッチ方向の位置情報を取得し、デジタル値に変換してパンニング制御部408に出力する。パンニング制御部408は、防振レンズ103の位置情報と、第1A/D402の出力する振れ信号とを用いて、撮像装置100がパンニング状態かどうかを判定する。なお、ここで「パンニング状態」とは所定値以上の振れが所定期間以上継続して入力されている状態を代表する表現であり、「パンニング撮影」に伴う振れに限定されない。
【0040】
また、第1防振制御部203は、変倍状態通知部409を有する。変倍状態通知部409は、ズームユニットの倍率を取得する倍率通知部4091と、ズームユニットを駆動する機構、たとえばアクチュエータ、の駆動速度を通知する変倍速度通知部4092を有している。倍率及び倍率の変更速度は、例えばズーム駆動部102を通じて取得する事ができる。
【0041】
パンニング制御部408は、撮像装置100のパンニング動作が行われていると判定される場合、倍率及び倍率の変更速度を考慮して、デジタルハイパスフィルタ403及びデジタルローパスフィルタ404のカットオフ周波数を変更するパンニング制御を行う。パンニング制御部408は、例えば第1A/D402が取得した角速度情報の絶対値と、第2A/D406が取得した防振レンズ103の位置情報の絶対値の少なくとも一方が所定値より大きいかどうか判定する。そして、少なくとも一方が所定値より大きければ、パンニング制御部408は撮像装置100が振られた状態あるいはパンニング動作中であると判定する。
【0042】
図5は、本実施形態における防振レンズの目標位置演算処理の詳細を示すフローチャートである。
目標位置演算処理は一定周期ごとに処理される。図5において、目標位置演算処理が開始すると、第1A/D401が第1振動センサ201からの角速度情報を取得する(S101)。また、第2A/D402が、第1ホール素子209から防振レンズ103のピッチ方向における位置情報を取得する(S102)。次に、変倍状態通知部409が、ズーム駆動部102から、ズームユニット101の倍率及び倍率の変更速度を取得する(S103)。
【0043】
以下においては、本実施形態の特徴である、倍率及び倍率の変更速度を考慮したパンニング制御を説明するため、パンニング制御部408によって撮像装置100がパンニング動作中と判定されていることを前提とする。
【0044】
パンニング制御部408は、例えば倍率の変更速度に基づいて倍率変更中かどうかを判定する(S104)。パンニング制御部408は例えば、倍率の変更速度が0の場合に倍率変更中でないと判定することができる。倍率変更中でなく、ズームユニット101が駆動されていない場合、パンニング制御部408は、デジタルハイパスフィルタ403及びデジタルローパスフィルタ404のカットオフ周波数を、通常のパンニング制御に用いる所定値1に設定する(S106)。所定値1は、パンニング動作中でないと判定された場合よりも防振レンズ103の目標位置の範囲を狭めるための値である。
【0045】
一方、S104にてズームユニット101が倍率変更中であると判定された場合、パンニング制御部408は、倍率の変更速度が予め定められた所定値以上か判定する(S105)。倍率の変更速度が所定値以上であると判定された場合、パンニング制御部408はデジタルハイパスフィルタ403及びデジタルローパスフィルタ404のカットオフ周波数を所定値3に設定する(S108)。
【0046】
また、倍率の変更速度が所定値未満であると判定された場合、パンニング制御部408は、パンニング制御部408はデジタルハイパスフィルタ403及びデジタルローパスフィルタ404のカットオフ周波数を所定値2に設定する(S108)。
【0047】
デジタルフィルタのカットオフ周波数を設定した後の処理は共通である。すなわち、デジタルハイパスフィルタ403で振れ信号の帯域制限を行い(S109)、さらにデジタルローパスフィルタ404で振れ信号を処理する(S110)ことにより、振れ信号(角速度信号)を角度信号に変換する。第1防振制御部203は、得られた角度信号を防振レンズ103の目標位置として第1PID部205に出力する(S111)。
【0048】
ここで、所定値1,2,3は、所定値1<所定値2<所定値3という大小関係を有する。つまり、倍率変更中の場合は倍率変更中でない場合よりもカットオフ周波数を高く、また、倍率の変更速度が所定値以上の場合は所定値未満の場合よりもカットオフ周波数を高く設定する。
【0049】
このカットオフ周波数の詳細及び効果について、図5を用いてさらに説明する。
図6(a)は、本実施形態において、パンニング制御部408が設定するデジタルフィルタのカットオフ周波数と、ズームユニット101(撮影レンズ)の倍率及び倍率の変更速度との関係例を示す図である。
【0050】
上述のように、倍率変更時にズームユニットを駆動する機構(アクチュエータ)の動作による振動を振れ検出センサが検出すると、振れ信号をフィルタ処理して得られる防振レンズ103の目標位置が影響を受ける。その結果、倍率変更中に防振レンズが最大可動位置にとどまってしまったり、倍率変更動作の終了直後にはアクチュエータの振動が無くなることにより防振レンズが移動してしまい、画角が大きく変化してしまうなどの不具合が発生する。このような不具合を抑制するため、倍率変更中でない(倍率変更操作されていない)場合より、倍率変更中である(倍率変更操作されている)場合は、デジタルフィルタのカットオフ周波数を高く設定し、防振レンズ103の移動可能範囲を狭くしている。
【0051】
さらに、倍率の変更速度が高いほどカットオフ周波数を高くする理由は、倍率の変更速度が低い場合には倍率変更中の撮影画像の画角変化が遅いため撮影画像における手ぶれの影響が目立ちやすいが、倍率の変更速度が速い場合は目立ちにくいためである。手ぶれの影響が目立ちやすい状況では防振性能を重視し、デジタルフィルタのカットオフ周波数をあまり高くせず、手ぶれの影響が目立ちにくい状況では、防振性能よりも防振レンズが最大駆動位置にとどまることによる影響を抑制することを重視する。動画撮影時には一般に倍率の変更速度が低いため、本実施形態によれば防振性能を重視したパンニング制御を提供できる。
【0052】
このように、本実施形態によれば、パンニング制御時に設定するデジタルフィルタのカットオフ周波数を、倍率変更中でない場合より倍率変更中の場合を高く設定し、また倍率の変更速度が高いほど高く設定する。そのため、倍率変更時あるいは倍率変更直後の防振性能の劣化を防止することができる。また、防振性能が特に必要となる動画撮影中の倍率変更動作時などにも適切な防振制御を行うことができる。なお、倍率変更中かそうでないかによるカットオフ周波数の変更と、倍率の変更速度に応じたカットオフ周波数の変更は、両方組み合わせて実施した方が大きい効果を得られるが、いずれか一方のみを行ってもよい。
【0053】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。なお、本実施形態に係る撮像装置は、防振レンズの目標位置の演算処理以外は第1実施形態と同様でよいため、撮像装置の構成に関する説明は省略する。
【0054】
図7は、本実施形態における防振レンズの目標位置の演算処理を示すフローチャートである。図7において、第1の実施形態と同様の処理ステップについては図5と同じ参照数字を付し、説明を省略する。
【0055】
S104にて倍率変更中であると判定された場合、パンニング制御部408は、現在の倍率(あるいは撮影レンズの焦点距離)が予め定められた所定値以上であるか判定する(S200)。倍率が所定値未満の場合、パンニング制御部408はS105以降の処理を第1の実施形態と同様に実行する。
【0056】
一方、倍率が所定値以上の場合、パンニング制御部408は、現在設定されているデジタルフィルタ(デジタルハイパスフィルタ403及びデジタルローパスフィルタ404)のカットオフ周波数が予め定められた所定値よりも大きいか判定する(S201)。ここで判定に用いるカットオフ周波数の所定値は、倍率に応じて異なり、テーブル等に予め倍率と関連付けて記憶されているものとする。
【0057】
S201で、現在設定されているカットオフ周波数が現在の倍率に対応する所定値以下の場合、パンニング制御部408は、現在設定されているカットオフ周波数を変更せずにS109以降の処理を実行する。一方、現在設定されているカットオフ周波数が現在の倍率に対応する所定値より大きい場合、パンニング制御部408はデジタルフィルタのカットオフ周波数を、現在の倍率に対応する所定値に設定し(S202),S109以降の処理を実行する。
【0058】
図6(b)は、本発明の第2実施形態に係る倍率とデジタルフィルタのカットオフ周波数との関係を表す図である。
倍率が所定値未満の場合には第1の実施形態と同様であるが、倍率が所定値(図6(b)での倍率a)以上の場合に、倍率に応じて防振フィルタのカットオフ周波数を変更する点が異なる。
【0059】
倍率が所定値a以上であるが、所定値b未満の低い領域においては、倍率変更中でない場合に比べてカットオフ周波数の最大値を高く保持しておく。なお、図6(b)の縦軸と図6(a)の縦軸は必ずしも同じ縮尺でない。そして、予め定められた倍率b以上の領域では、倍率が高くなるほどカットオフ周波数の上限を低下させ、最大の倍率cの場合には、倍率変更中でない場合と同じカットオフ周波数になるようにする。
【0060】
画角変化が遅く手ぶれの目立ちにくい倍率の低い領域では、カットオフ周波数を高く設定することで、防振性能よりも、倍率変更時にアクチュエータで発生する振動が振動センサの検出結果に与える影響の除去を優先することができる。また、手ぶれが目立ちやすい倍率の高い領域では、倍率が高いほど防振性能を高めることができる。
【0061】
なお、図7では、S200で倍率が所定値以上の場合、カットオフ周波数の設定に倍率の変更速度は考慮していない。しかし、倍率の変更速度を考慮したカットオフ周波数を設定してもよい。この場合、図6(c)に示すように、図6(a)に示した第1の実施形態と同様、倍率の変更速度が速い場合には、遅い場合に比べて倍率の低い領域でカットオフ周波数が高くなるようにする。これにより、カットオフ周波数を高めることによる防振性能の低下をさらに抑制することができる。
【0062】
第2実施形態によれば、倍率が所定値以上の場合、倍率が高くなるほど防振フィルタカットオフ周波数の最大値が低くなるように変更することにより、パンニング制御中における倍率変更中あるいは倍率変更動作終了直後の防振性能の低下を抑制することができる。
また、倍率の変更速度をさらに考慮することにより、防振性能の低下を一層抑制することができる。
【0063】
(他の実施形態)
上述の実施形態では、パンニング制御中に倍率の変更がなされた場合を想定して説明した。しかし、倍率を変更する際に装置内で発生する振動が手ぶれ補正に影響を与えるのはパンニング制御時に限らない。そのため、上述した実施形態における、倍率が変更中かどうかや、倍率の変更速度に応じた防振レンズの移動可能範囲の制御は、パンニング制御とは独立して実行可能である。
【0064】
また、上述の実施形態では本発明に係る光学機器を備えた撮像装置の一例としてのデジタルカメラを例に説明した。しかしながら、本実施形態は、他の光学機器や撮像装置、例えばデジタルビデオカメラ、一眼レフカメラの交換レンズ、携帯電話機やゲーム機器などに用いられるカメラユニットのレンズ鏡筒にも適応可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
倍率が可変な結像光学系を備える光学機器であって、
前記結像光学系を駆動して倍率を変更する動作を行う駆動手段と、
前記機器の振れを検出する振れ検出手段と、
前記振れ検出手段が検出した振れに基づいて、前記結像光学系の光軸に直交する方向に移動可能な補正部材を移動させ、前記結像光学系による像ぶれを補正する防振制御手段とを有し、
前記防振制御手段は、前記結像光学系の倍率が変更中である場合は、前記結像光学系の倍率が変更中でない場合よりも、前記補正部材の移動可能範囲を狭く設定することを特徴とする光学機器。
【請求項2】
前記防振制御手段は、さらに、前記結像光学系の倍率が所定値より高い場合には、前記補正部材の移動可能範囲を、前記結像光学系の倍率が変更中でない場合よりも狭い範囲で、倍率が高いほど広く設定することを特徴とする請求項1記載の光学機器。
【請求項3】
前記防振制御手段は、さらに、前記結像光学系の倍率の変更速度が高いほど、前記補正部材の移動可能範囲を狭く設定することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の光学機器。
【請求項4】
前記防振制御手段は、前記機器がパンニング状態にあると判定される場合に、前記機器がパンニング状態にあると判定されない場合よりも前記補正部材の移動可能範囲を狭くするパンニング制御を実行し、
前記パンニング制御における前記補正部材の移動可能範囲の中で、前記倍率もしくは前記倍率の変更速度に基づく前記移動可能範囲の設定を行うことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の光学機器。
【請求項5】
前記振れ検出手段が検出した振れを表す振れ信号を出力し、
前記防振制御手段は、前記振れ信号の帯域をカットオフ周波数で制限するフィルタを有し、前記フィルタの前記カットオフ周波数を変更することにより、前記補正部材の移動可能範囲を変更することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の光学機器。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の光学機器を備えたことを特徴とする撮像装置。
【請求項7】
倍率が可変な結像光学系を備え、前記結像光学系を駆動して倍率を変更する動作を行う駆動手段と、装置の振れを検出する振れ検出手段とを有する光学機器の制御方法であって、
防振制御手段が、前記結像光学系の光軸に直交する方向に移動可能な補正部材を前記振れ検出手段が検出した振れに基づいて移動させ、前記結像光学系による像ぶれを補正する防振制御工程を有し、
前記防振制御工程において前記防振制御手段は、前記補正部材の移動可能範囲を、前記結像光学系の倍率が変更中である場合は、前記結像光学系の倍率が変更中でない場合よりも狭くすることを特徴とする光学機器の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−61491(P2013−61491A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−199936(P2011−199936)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】