説明

光学機器用遮光羽根

【課題】平面性を確実に向上することができる光学機器用遮光羽根を提供すること。
【解決手段】本発明の光学機器用遮光羽根Bによれば、成型の際に炭素繊維は平面部10に合わせて揃えることができるので、光学機器用遮光羽根B内部のマトリックス樹脂が均一化され、光学機器用遮光羽根B内部の残留樹脂の突部3への抜けを促すことができる。ここで、炭素繊維は突部3に入り込まず、マトリックス樹脂のみが突部に侵入するので、光学機器用遮光羽根B内部に残留する余分なマトリックス樹脂を極力低減できる。その結果、光学機器用遮光羽根Bの反りを所望に低減することができ、平面性を確実に向上することができる。また、光学機器用遮光羽根Bがシャッタ羽根や絞り羽根として用いられる際には、ドーム状の突部3により確実に点接触した状態で摺動するので、反り低減のための突部3を利用して摺動性をも向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カメラのフォーカルプレンシャッタやレンズシャッタなどのシャッタ羽根、あるいは絞り羽根のように、複数の羽根が重なって高速走行するのに適した光学機器用遮光羽根に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、このような分野の技術として、下記特許文献1に記載されたシャッタ羽根がある。このシャッタ羽根では、炭素繊維とマトリックス樹脂とからなるプリプレグ積層シートの表面に凹凸網目模様を形成することで、最外層のマトリックス樹脂の分布の不均一性を解消し、シャッタ羽根の平面性の向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−258297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前述のシャッタ羽根では、メッシュを用いて凹凸網目模様を形成しているので、プリプレグ積層シートはメッシュの糸から特に強く押圧を受けることになり、炭素繊維にうねりが発生する。このため、樹脂の不均一な箇所が残り、またメッシュの糸と糸との間に炭素繊維が入り込んで樹脂が十分抜け切れなくなり、シャッタ羽根の反り低減に限界があった。よって、平面性の安定的な確保が難しかった。
【0005】
そこで本発明は、平面性を確実に向上することができる光学機器用遮光羽根を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る光学機器用遮光羽根は、一方向に整列した炭素繊維とマトリックス樹脂とからなる複合強化樹脂を複数層積層して形成される光学機器用遮光羽根において、最表層の複合強化樹脂の表面には、ドーム状に突出する突部と、突部の周囲に形成される平面部とが設けられていることを特徴とする。
【0007】
本発明に係る光学機器用遮光羽根によれば、成型の際に炭素繊維は平面部に合わせて揃えることができるので、光学機器用遮光羽根内部のマトリックス樹脂が均一化され、光学機器用遮光羽根内部に残留した余分なマトリックス樹脂の突部への抜けを促すことができる。ここで、炭素繊維は突部に入り込まず、マトリックス樹脂のみが突部に侵入するので、光学機器用遮光羽根内部に残留する余分なマトリックス樹脂を極力低減できる。その結果、光学機器用遮光羽根の反りを所望に低減することができ、平面性を確実に向上することができる。また、光学機器用遮光羽根がシャッタ羽根や絞り羽根として用いられる際には、ドーム状の突部により確実に点接触した状態で摺動するので、反り低減のための突部を利用して摺動性をも向上させることができる。
【0008】
また、突部は、平面視が円形であって、最表層の複合強化樹脂における炭素繊維の整列方向に対して千鳥状に形成されていると好適である。この場合、突部は角がなく、突部の整列方向を炭素繊維の整列方向とずらすことで、炭素繊維が沿う平面部をより長い距離で確保することができ、最も隣接する突部の中心間距離を拡大しなくてもよいので、マトリックス樹脂が侵入する突部の単位面積あたりの数が維持される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、平面性を確実に向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態に係る光学機器用遮光羽根の断面図である。
【図2】図1の光学機器用遮光羽根に形成された平面部及び突部を示す平面図である。
【図3】比較例に係る光学機器用遮光羽根の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る光学機器用遮光羽根の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、図面の説明において同一要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。また、図面の寸法比率は、説明のものと必ずしも一致していない。
【0012】
本実施形態に係る光学機器用遮光羽根としてのシャッタ羽根Bは、例えば4000分の1秒以上の高速動作が要求される、主に一眼レフカメラに用いられるフォーカルプレンシャッタとして用いられるCFRP羽根材である。図1に示すように、シャッタ羽根Bは、一方向に整列した炭素繊維とマトリックス樹脂とからなる複合強化樹脂材1a,1bを、炭素繊維の整列方向が約90度ずれるように交互に複数層積層した複合強化樹脂層1を有している。
【0013】
より詳しくは、シャッタ羽根Bの複合強化樹脂層1は、所定方向(図1の図示左右方向)に整列した炭素繊維を含む2枚の複合強化樹脂材1a,1aの間に、その所定方向と略直交する方向(図1の紙面に垂直な方向)に整列した炭素繊維を含む複合強化樹脂材1bが挟まれた3層構造をなしている。複合強化樹脂材1a,1aは、最表層の複合強化樹脂に相当する。各複合強化樹脂材1a,1bに用いられるマトリックス樹脂としては、例えばエポキシ樹脂が挙げられる。
【0014】
各複合強化樹脂材1a,1bは、硬化前の平均厚さが約25μmである。なお、各複合強化樹脂材1a,1bの厚みは、シャッタ羽根Bに要求される厚み、性能等に応じて、15〜60μmの範囲で調整可能である。また、複合強化樹脂材1a,1bの積層数は、3層〜7層の範囲で調整可能である。
【0015】
更に、複合強化樹脂層1の両面(複合強化樹脂材1a,1aの表面)には、球面状(ドーム状)に突出する複数の突部3と、複数の突部3の周囲に形成される平面部10とが設けられている。複数の突部3は、炭素繊維は含んでおらず、複合強化樹脂材1a,1bに含まれるのと同じマトリックス樹脂により形成されている。また、平面部10は、複合強化樹脂材1a,1aの表面の一部により構成されている。
【0016】
図2も参照しながらより詳しく説明すると、複数の突部3は、平面視が円形且つ略同径であって、複合強化樹脂材1aにおける炭素繊維の整列方向(図示左右方向)Dに対して千鳥状に形成されると共に、中心間のピッチa,bがそれぞれ一定で互いに等しく離間するように二次元的に配設されている。なお、ここでいう「円形」は「楕円形」を含む。各突部3は、平面視における半径が約230μmであり、突出長が約5μmである。また、突部3同士間の整列方向Dのピッチbと、整列方向Dに直交する方向のピッチaとは、いずれも約550μmになっている。
【0017】
各突部3の大きさに関する上記の値は、典型的な大きさを示すものであり、いわゆる平均値(代表値)である。すなわち、各突部3において、平面視における半径は50〜550μmの範囲で任意に調整可能であり、突出長は0.5〜20μmの範囲で任意に調整可能である。また、突部3同士間のピッチa,bは、いずれも50〜1000μmの範囲で任意に調整可能である。なお、平面部10を形成するため、突部の半径<ピッチとなるように任意に調整することは言うまでもない。
【0018】
更に、平面部10及び各突部3の表面には、突部3よりも微細な凹凸が複数形成されている。微細な凹凸の各凸部は、平面部10及び各突部3上においてランダムに形成されている。
【0019】
また、図1にも示すように、複合強化樹脂層1の両面には、複数の突部3及び平面部10の全面を覆うようにして、シャッタ羽根Bの遮光性、耐摩耗性を向上させるための遮光塗膜2が形成されている。遮光塗膜2は、平均厚みが約5μmの潤滑黒色塗膜である。なお、この遮光塗膜2を省略することもできる。
【0020】
このように構成されたシャッタ羽根Bは、平均厚みが100μm以下になっている。
【0021】
次に、シャッタ羽根Bの製造方法について説明する。まず、複合強化樹脂材1a,1bの前駆体であるマトリックス樹脂硬化前のプリプレグを複数用意し、炭素繊維の整列方向が交互に約90度ずれるように積層する。
【0022】
次に、離型性を有するフィルムを用意する。離型性フィルムとしては、マトリックス樹脂が張り付きにくいフィルムを用いることができる。
【0023】
この離型性フィルムは、フラットな表面に、上記した複数の突部3に対応する形状、大きさ、及び位置に凹状となる凹部が形成されている。そして、積層されたプリプレグの両面に、凹部を形成した離型性フィルムを重ねる。
【0024】
次に、積層されたプリプレグ及びこれに重ねた離型性フィルムに対し、加圧/加熱処理を施す。次に、マトリックス樹脂が硬化した後、離型性フィルムを離型し、複数の突部3が設けられた複合強化樹脂層1が成形される。このとき、離型性フィルムの凹部が転写されて突部3が成形され、フラットな面により平面部10が成形される。尚、微細な凹凸も離型性フィルムによって成形される。そして、成形された複合強化樹脂層1の両面に遮光塗膜2を形成し、図1に示すシャッタ羽根Bが得られる。
【0025】
通常、シャッタ羽根の製造プロセスにおいては、積層されたプリプレグの内部にマトリックス樹脂が他より多く存在する部分が生じることがある。この他より多く存在するマトリックス樹脂(以下、「残留樹脂」ともいう)は、いわば余分な樹脂であり、これが残留したまま硬化した場合、複合強化樹脂層内部の応力バランスが変化し、シャッタ羽根の反りを招く。
【0026】
本実施形態のシャッタ羽根Bの製造方法では、加圧/加熱に伴って残留樹脂がプリプレグの積層方向に移動し、離型性フィルムの凹部に侵入するため、残留樹脂の凹部への抜けを促すことができ、場所によるマトリックス樹脂のばらつき(不均一性)を大幅に低減することができる。その結果として、成形されたシャッタ羽根Bの反りを抑えることができる。なお、ここで、プリプレグに含まれる炭素繊維は凹部には侵入せず平面部10内で一方向に揃えられたままとなり、マトリックス樹脂のみが凹部に侵入する。
【0027】
このような効果をより高めるため、離型性フィルムの凹部は、同じ形状、同じ大きさで、互いに等しく離間するように形成されることが好ましい。
【0028】
以上説明した本実施形態に係るシャッタ羽根Bによれば、成形の際に炭素繊維は平面部10に合わせて揃えることができるので、シャッタ羽根B内部のマトリックス樹脂が均一化され、シャッタ羽根B内部の残留樹脂の突部3への抜けを促すことができる。ここで、炭素繊維は突部3に入り込まず、マトリックス樹脂のみが突部に侵入するので、シャッタ羽根B内部に残留する余分なマトリックス樹脂を極力低減できる。その結果、シャッタ羽根Bの反りを所望に低減することができ、平面性を確実に向上することができる。また、シャッタ羽根Bの使用時においては、ドーム状の突部3により確実に点接触した状態で摺動するので、反り低減のための突部3を利用して摺動性をも向上させることができる。
【0029】
また、突部3は、平面視が円形であって、複合強化樹脂材1aにおける炭素繊維の整列方向Dに対して千鳥状に形成されているので、炭素繊維が沿う平面部10をより長い距離で確保することができる(図2に示す整列方向Dの離間距離L参照)。
【0030】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではない。例えば、上記実施形態では、突部3は平面視が円形である場合について説明したが、平面視が矩形を含む多角形であってもよい。また、複数の突部3は、複合強化樹脂材1aにおける炭素繊維の整列方向Dに対して千鳥状に形成される場合について説明したが、炭素繊維の整列方向Dと一致していなくてもよく、また千鳥状でなくてもよい。突部3の周囲に平面部10が形成されていれば、炭素繊維の整列方向Dに沿った格子状の交点上に突部が形成されていてもよい。
【0031】
続いて、本発明の実施例に係るシャッタ羽根Bについて説明する。実施例に係るシャッタ羽根Bは、図1〜2に示した構造を有しており、上述した製造方法に従ってサンプルが作製された。具体的には、ホットプレス或いはオートクレーブを用いて加圧/加熱を行い、複合強化樹脂層1をシート状に成形/固化すると共に、複合強化樹脂層1上に突部3、平面部10及び微細な凹凸を形成した。
【0032】
また、比較例として、次のシャッタ羽根のサンプルを用意した。図3は、比較例に係るシャッタ羽根B2の断面図である。
【0033】
図3に示すように、比較例のシャッタ羽根B2は、複合強化樹脂層1内部(各複合強化樹脂材1a,1b内)に残留樹脂4を含んでおり、また、複合強化樹脂層1の片面において遮光塗膜2との間に設けられたマトリックス樹脂材5を有している。マトリックス樹脂材5は、炭素繊維を含んでおらず、マトリックス樹脂のみを硬化させた部材である。また、複合強化樹脂材1aの表面には、ドーム状の突部及び微細な凹凸はいずれも形成されていない。このような複合強化樹脂層1とマトリックス樹脂材5とが分離した構造を有するシャッタ羽根B2のサンプルは、凹部を有さない平面状の緻密なフィルムを用いて作製された。その他の作製方法は、実施例のサンプルと同様である。
【0034】
ロット1〜3の2種類の材料ロットについて、このように作製された実施例、比較例の各サンプルにおける良品率を比較した結果を表1に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
表1に示すように、実施例では、89%,80%,85%と各ロットにおいて良好な結果が得られた。このことから、離型材として凹部を形成したフィルムを用いることで、シャッタ羽根Bの成形時に突部3及び微細な凹凸を形成させると共に、複合強化樹脂層1内部の残留樹脂を取り除くことによる反りの低減効果が明らかとなった。更には、シャッタ羽根Bのサンプルをシャッタ速度8000分の秒のフォーカルプレンシャッタに組み込んで連続動作試験を行ったところ、50万回をクリアする結果が得られた。
【0037】
なお、シャッタ羽根Bのサンプルにおいて、平均厚みは100μm以下であった。更に、実施例のサンプルの重さを測定したところ、シャッタ羽根B2のサンプルと比較して重量比率で15%程度低減する結果となった。これは、残留樹脂の除去に起因するものであると推察される。この樹脂除去量は、反りが低減できる最小量から機能上影響を与えない最大量まで任意に設定可能である。例えばマトリックス樹脂比率が40wt%のプリプレグを用いた場合、残留樹脂の除去量を重量比率で5〜25wt%の範囲で任意に調整可能である。また、シャッタ羽根Bの見かけ密度は1.2g/cmとアルミ合金の約半分の値であり、このときの剛性は厚みが同じのアルミ合金と略同等であった。シャッタ羽根Bの見かけ密度は、用いる離型材(フィルム)により1.1〜1.6g/cmの範囲で変化する。
【0038】
このように、本発明によれば、反りのない厚さ100μm以下のCFRP遮光羽根であって、高速動作に耐え得る剛性、耐久性、軽量化、低発塵性、高潤滑性等の要求項目を満足する遮光羽根を提供することができる。
【0039】
一方、比較例では、42%,40%,9%という結果が得られた。このように良品率が低く且つばらつきが大きくなったのは、突部及び微細な凹凸のいずれもが形成されないことにより残留樹脂の大部分が除去されず複合強化樹脂層1内部に残ったためであると推察される。比較例の不良発生の原因は殆どが成形後の反りであった。比較例では、層状に分離したマトリックス樹脂材5が応力のバランスを崩していることも、炭素繊維とマトリックス樹脂との線膨張係数の違いにより反りが多量に発生した原因と考えられる。
【符号の説明】
【0040】
1a…複合強化樹脂材(最表層の複合強化樹脂)、1b…複合強化樹脂材(複合強化樹脂)、3…突部、10…平面部、B…シャッタ羽根(光学機器用遮光羽根)、D…整列方向。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方向に整列した炭素繊維とマトリックス樹脂とからなる複合強化樹脂を複数層積層して形成される光学機器用遮光羽根において、
最表層の前記複合強化樹脂の表面には、ドーム状に突出する突部と、前記突部の周囲に形成される平面部とが設けられていることを特徴とする光学機器用遮光羽根。
【請求項2】
前記突部は、平面視が円形であって、最表層の前記複合強化樹脂における前記炭素繊維の整列方向に対して千鳥状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の光学機器用遮光羽根。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−215589(P2011−215589A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−270365(P2010−270365)
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【分割の表示】特願2010−83665(P2010−83665)の分割
【原出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000001225)日本電産コパル株式会社 (755)
【Fターム(参考)】