説明

光学機器

【課題】通常の撮影距離で移動する被写体を撮影する時にもマクロ撮影をする時にもピントズレを緩和して撮影することを可能にした近接撮影が可能な光学機器を提供すること。
【解決手段】AFレンズを含む撮像光学系と、該AFレンズを駆動するAFレンズ駆動装置と、被写体の撮像位置と前記撮像光学系による前記被写体の結像位置との差に対応するデフォーカス量を検出する検出手段と、前記デフォーカス量を低減するように該AFレンズ駆動装置の駆動制御を行う制御手段と、を有する光学機器において、前記制御手段は、前記撮像光学系の撮影倍率を検出し、該撮影倍率に応じて、前記デフォーカス量を低減するように、前記AFレンズ駆動装置の制御方法を変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学機器に関し、特に撮影時の自動焦点調節制御に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年のカメラは露出決定やピント合わせ等の撮影にとって重要な操作は全て自動化され、カメラ操作に未熟な人でも撮影失敗を起こす可能性は非常に低くなっている。また最近では、カメラに加わる手ブレによる像ぶれを防ぐ防振システムも研究されており、撮影者の撮影ミスを誘発する要因は殆ど無くなってきている。
【0003】
しかしながら被写体に近接した状態での撮影時(以下、マクロ撮影と表現する)には、被写体の光軸方向の動きや、手振れ等に起因するカメラ自体の光軸方向におけるブレによって、所謂ピントズレの撮影になってしまう問題があった。
そこで上記不具合を解消するために、例えば、特許文献1では加速度センサの出力でピントズレ補正を行う事が開示されている。
【0004】
しかし、特許文献1に開示された従来技術では、加速度センサ及びその処理回路を搭載する必要があるので、製造コストの増加や装置を搭載するスペースが必要となるため装置が大型化してしまうという課題があった。
【0005】
そこで加速度センサが搭載されていない場合は、ピントズレを緩和する為に、マクロ撮影時の自動焦点(以下、AFとする)を所謂コンティニュアスモードに設定し、ユーザが構図を決めている間も被写体の距離を測定し焦点調整をし続けて、所謂ピントズレ量を緩和することが考えられる。
【0006】
本来、コンティニュアスモードは、移動する被写体に対するAF調節方法である。特許文献2には、コンティニュアスモードによって、連続してデフォーカス量の検出とフォーカスレンズの駆動を交互に行い、また焦点位置の検出後から所定時間後の像面位置を予測することが開示されている。これにより、ユーザが構図を決めている間も被写体の距離を測定し続けてピントズレ量を緩和することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−225405号公報
【特許文献2】特開2001−021794号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、マクロ撮影時はピント変動が多く、また、ピント変動の速度の変化やピント変動の方向の反転が多いため、コンティニュアスモードに設定しても、図8に示すように、被写体の位置に対して、実際のAFレンズの位置がずれてしまう。このように、従来のコンティニュアスモードでのAF調節方法では、マクロ撮影時におけるピントズレを十分に抑制することが出来なかった。
そこで、本発明は、通常の撮影距離で移動する被写体を撮影する時にもマクロ撮影をする時にもピントズレを緩和して撮影することを可能にした光学機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係る光学機器は、AFレンズを含む撮像光学系と、
該AFレンズを駆動するAFレンズ駆動装置と、
被写体の撮像位置と前記撮像光学系による前記被写体の結像位置との差に対応するデフォーカス量を検出する検出手段と、
前記デフォーカス量を低減するように該AFレンズ駆動装置の駆動制御を行う制御手段と、を有する光学機器において、
前記制御手段は、前記撮像光学系の撮影倍率を検出し、該撮影倍率に応じて、前記デフォーカス量を低減するように、前記AFレンズ駆動装置の制御方法を変更することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、通常の撮影距離で移動する被写体を撮影する時にもマクロ撮影をする時にもピントズレを緩和して撮影することが可能な光学機器を提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の光学機器のブロック図
【図2】第1の実施形態における制御に関するフローチャート
【図3】サンプリング周期と予測誤差の関係の説明図
【図4】第1の実施形態の変形例
【図5】第2の実施形態における制御に関するフローチャート
【図6】本発明の実施形態における被写体位置と実際のAFレンズの位置との比較
【図7】第2の実施形態の変形例
【図8】従来の光学機器における被写体位置と実際のAFレンズの位置との比較
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の好ましい実施の形態を、添付の図面に基づいて詳細に説明する。図1は、本発明の実施形態に係る光学機器のブロック図である。
【0013】
(第1の実施形態)
以下、図1から図4を参照して、本発明の第1の実施形態による、AF調節装置の駆動制御方法について説明する。
【0014】
本発明の実施形態に係る光学機器は、レンズ装置101、撮像装置201を有する。
レンズ装置101は、複数のレンズ102a,102b及びAFレンズ140で構成された撮像光学系102、AFレンズ駆動部141、および、レンズCPU106を有する。AFレンズ駆動部141は、超音波モータやステッピングモータを駆動源として有し、AFレンズ140を光軸I方向(図1中矢印A方向)に駆動する。
【0015】
レンズCPU106は、レンズ装置101の種々の制御を行う中央処理部である。レンズCPU106は、焦点距離検出部163が出力するパルス信号に基づいて焦点距離を演算したり、被写体距離検出部164が出力するパルス信号に基づいて被写体距離を演算したりする。また、レンズCPU106内にはAFレンズ制御部107が設けられている。
【0016】
レンズCPU106は、レンズ装置101と該レンズ装置101に接続される撮像装置201との間に設けられたレンズ接点190を介して、撮像装置201内のカメラCPU209との間で通信が可能である。AFレンズ電圧ドライバ172は、AFレンズ駆動部141を駆動制御する電圧を発生する。
【0017】
EEPROM162は、レンズ装置101に関する種々の固有情報であるレンズデータや、被写体距離検出部164が出力するパルス信号を物理量に変換するための係数などを格納する不揮発性の記憶部である。
【0018】
ズームエンコーダである焦点距離検出部163は、焦点距離を検出し、焦点距離に応じたパルス信号をAFレンズ制御部107に出力する。フォーカシングエンコーダである被写体距離検出部164は、被写体までの距離を検出する。また、被写体距離検出部164は、撮像光学系102の位置を検出し、その位置に応じたパルス信号をAFレンズ制御部107に出力する。
【0019】
撮像装置201は、被写体からの光束を不図示のファインダに導くためのメインミラー202と、焦点検出ユニット204に導くためのサブミラー203と、撮像光学系102の結像面近傍に置かれた撮像素子205を備えている。
【0020】
被写体の撮像位置(本実施形態における撮像素子204の撮像位置)と撮影動作を行うべき被写体の撮像光学系102による結像位置との差に対応するデフォーカス量は、撮像光学系102の光軸Iを挟んだ異なる2領域を通過する被写体光束から形成される2つの像の像ずれ量から計算される。具体的には公知技術であるが、これら2像の光束はハーフミラーとなっているメインミラー202を通過し、その後ろにあるサブミラー203によって反射され、不図示の焦点検出光学系によって焦点検出ユニット204に導かれる。焦点検出ユニット204は光電変換素子を有し、カメラCPU209はこれら2像の信号を光電変換素子より読み出して相関演算を施す事により像ずれ量を計算し、デフォーカス量を求める。
【0021】
このようにして求めたデフォーカス量と被写体距離検出部164で検出された撮像光学系102の位置から、被写体の結像位置を求める事が出来る。
カメラCPU209は、カメラシステム全体の種々の制御を行う中央処理部である。カメラCPU209には、レリーズスイッチ210の情報が入力され、レリーズスイッチ210が半押し(以下、SW1_ONとする)、又は、全押し(以下、SW2_ONとする)されたことを検知することができる。
【0022】
レリーズスイッチ210は、図示しないレリーズボタンの半押し動作を検出して、一連の撮像準備動作を開始させ、レリーズボタンの全押し動作を検出して、撮像動作を開始させるスイッチである。
【0023】
レリーズスイッチ210が半押しされてSW1_ONとなるのに同期して、カメラCPU209を介して焦点検出ユニット204からのデフォーカス情報及びAFレンズ140の駆動開始コマンドが、また、半押しOFFに同期してAFレンズ駆動停止コマンドがレンズCPU106へ送られる。
【0024】
図2は、本実施形態におけるAF調節装置におけるAFレンズ140に関する動作の流れを示すフローチャートである。以下、図2に沿ってAFレンズ140のAF調節に関する動作を説明する。なおこの時、AFはコンティニュアスモードに設定されているものとする。
【0025】
ステップ(以下、Sと記載する)1010では、レリーズスイッチ210が半押しされてSW1_ONになると、S1020に進み、測光を行う。
【0026】
そしてS1030において、レンズCPU106は、焦点距離に応じたパルス信号を焦点距離検出部163から読込む。焦点距離に応じたパルス信号は、撮影倍率βの演算に用いる。
【0027】
次のS1040において、レンズCPU106は、撮影光学系102の位置に応じたパルス信号を被写体距離検出部164から読込む。
【0028】
次のS1050では、焦点距離に応じたパルス信号と撮影光学系102の位置に応じたパルス信号とを基に、レンズCPU106は撮影倍率βの演算を行う。撮影倍率βの演算に使用される式は、光学系の構成により固有の式であり、この像倍率演算式に基づいて演算する。なお、撮影倍率βは、必ずしも所与の像倍率演算式によって演算する必要はなく、焦点距離と絶対距離のエンコーダポジションに対するテーブルデータとしてEEPROM162に予め記憶しておき、対応する撮影倍率βを読み出すようにしてもよい。
【0029】
S1060では、撮影倍率βが0.2倍以上であるか否かを判断する。撮影倍率βが0.2倍以上である場合には、S1070へ進み、撮影倍率βが0.2未満の場合にはS1080へ進む。
【0030】
S1070では、カメラCPU209のデフォーカス量演算周期及び焦点距離検出部163からの焦点距離に応じたパルス信号並びに被写体距離検出部164からの撮像光学系102の位置に応じたパルス信号を読み込む。さらに、レンズCPU106の撮影倍率演算周期であるサンプリング周波数Fをf1(例えば40Hz)に設定する。
【0031】
一方のS1080では、サンプリング周波数Fをf1よりも小さいf2(例えば10Hz)に設定する。
【0032】
ここで、撮影倍率βによってサンプリング周波数Fを変更する理由及びf1>f2とする理由について述べる。
【0033】
被写体から撮像光学系102の不図示の主点までの距離をa、撮像光学系102の不図示の主点から撮像光学系102の結像面までの距離(像面距離)をb、撮像光学系102の焦点距離をfとすると、合焦状態にある時には以下の式が成り立つ。
1/a+1/b=1/f
【0034】
つまり、焦点距離fが一定の場合、被写体が撮像装置201から遠く(aが大きい)、被写体が静止もしくはゆっくり移動していたり、手ブレのように撮像装置201がゆっくり動いたりしている時は、aに対してaの変化量が小さいため、像面距離bはあまり大きく変化しない。従って、被写体が撮像装置201から遠い場合、すなわち、撮影倍率が小さい場合には、像面距離があまり大きく変化しないので、サンプリング周波数を小さくしても合焦精度に影響はない。
【0035】
また、動いている被写体に適用される、公知の結像位置の予測方法を行う場合にも、サンプリング周波数が小さい方が良い。なぜならば、過去に得た複数の被写体の結像位置を通る1次直線から将来の結像位置を予測するが、被写体の結像位置を得た時間間隔が長い方、つまり、サンプリング周波数が小さい方が、将来の結像位置とのずれを小さくする事が出来るからである。図3を用いて説明する。
【0036】
実際の被写体位置(図3中、実線)に対して、焦点検出ユニット204には被写体位置の検出誤差があるため、焦点検出ユニット204で検出した被写体位置は同図中、長破線で示したものとなる。
【0037】
この検出された位置に基づいて、レリーズスイッチ210でSW2_ONとなるタイミング(同図中、レリーズタイミングで示した破線)での結像位置を予測する。
【0038】
この時、サンプリング周波数が小さい(同図中、「サンプリング長い」と表現)場合に予測した結像位置(同図中、破線で示したもの)の方は検出誤差が平均化されて、実際の被写体位置との誤差が小さい。
【0039】
それに対して、サンプリング周波数が大きい(同図中、「サンプリング短い」と表現)場合に予測した結像位置(同図中、短破線で示したもの)の方は検出誤差が十分に平均化されないため、実際の被写体位置との誤差はサンプリング周波数が小さい場合よりも大きくなる。
【0040】
よって、被写体が動体の場合に適用する、公知の結像位置の予測方法を行う場合には、サンプリング周波数が小さい方が良い。
【0041】
ところが、被写体が撮像装置201に近い場合には、被写体がゆっくりと光軸方向に対して動いたり、手ブレで撮像装置201がゆっくり光軸方向に対して動いていたりする場合でも、被写体距離の変化に対して像面距離が非線形的に変動する。
【0042】
また、図8に示したように、被写体が撮像装置201に近いマクロ撮影では被写体距離が短いため、ピント変動の頻度が多く、またピント変動の速度の変化やピント変動の方向の反転が多い。このため、コンティニュアスモードのサンプリング周波数が小さいと、ピント変動やその速度変化に対応出来ないため、被写体位置に対して、実際のAFレンズ140の位置がずれてしまう。その結果、ピントがズレてしまう。
【0043】
よって、被写体が撮像装置201に近い場合、つまり撮影倍率が大きい場合には、サンプリング周波数を大きくする方がピントズレを緩和する事が出来る。
【0044】
このことに基づき、本実施形態においては、撮影倍率βに応じてサンプリング周期を変更し、基準の撮影倍率よりも撮影倍率が大きい場合(所定値以上の場合)にサンプリング周波数を大きくする。
【0045】
このように撮影倍率βに応じてサンプリング周波数を変更する事によって、通常の撮影距離で移動する被写体を撮影する時にもマクロ撮影をする時にもデフォーカス量を低減させて、ピントズレを緩和して撮影することが可能になる。
【0046】
フローチャートの説明に戻る。
S1100では、その時点でのAFレンズ140の位置で合焦状態にあるかどうかの判定を行う。合焦であればS1110に進み、合焦状態でなければS1210へと進む。
【0047】
S1110に進んだ場合、S1110ではレリーズスイッチ210が全部押し込まれてSW2_ONになったかどうかの判断を行う。レリーズスイッチ210がSW2_ONの状態であればS1120へ進み、そうでなければS1010に戻る。
S1120では、メインミラー202をアップして撮像準備に入る。
S1130では、S1020の測光の結果を受けてレンズ装置101に設けられた不図示の絞りを動作させたり、撮像装置201に設けられたシャッタの開放を行ったりする、一連の撮像動作を行うが、公知であるので詳細な説明は省略する。
【0048】
一方、S1100にてS1210に進んだ場合、S1070もしくS1080で設定されたサンプリング周波数でカメラCPU209はこれら2像の信号を光電変換素子より読み出して相関演算を施す事により像ずれ量を計算し、デフォーカス量を求める。
S1220では、S1210で求められたデフォーカス量をもとに、S1070もしくS1080で設定されたサンプリング周波数でAFレンズ140を駆動するための追従制御演算を行う。
S1230では、S1220における追従制御演算結果を基にAFレンズ140を駆動するAFレンズ電圧ドライバ172へ演算結果の出力を行った後、S1020に戻る。この時、AFレンズ140は所定量駆動されている。
【0049】
なお、本実施形態では撮影倍率βが0.2を基準にサンプリング周波数Fをf1もしくf2に設定している、つまり撮影倍率βに応じてサンプリング周波数Fを2段階で設定しているが、これに限定する事はない。
【0050】
図4(a)に示した例では、前述の場合は撮影倍率βがβ1(前述の説明ではβ1=0.2)の時にサンプリング周波数Fをf1からf2、もしくはf2からf1に変更する。しかし、図4(b)に示したように、撮影倍率がβ1(例えばβ1=0.2)からβ2(例えばβ2=0.5)の間は、撮影倍率の変化に応じて連続的にサンプリング周波数Fが変化するようにしても同様な効果が得られる事は言うまでもない。
【0051】
(第2の実施形態)
以下、図5を参照して、本発明の第2の実施形態による、AF調節装置の駆動制御方法について説明する。
図5は、本実施形態におけるAF調節装置におけるAFレンズ140に関する動作の流れを示すフローチャートである。以下、図5に沿ってAFレンズ140のAF調節に関する動作の説明を行う。なおこの時、AFは第1の実施形態と同様に、コンティニュアスモードに設定されているものとする。
【0052】
S2010からS2050は、第1の実施形態で説明したS1010〜S1050に対応するので、その説明を省略する。
S2060では、撮影倍率βが0.2倍以上であるか否かの判断を行う。撮影倍率βが0.2倍以上である場合には、S2070へ進み、撮影倍率βが0.2未満の場合にはS2080へ進む。
S2070では、コンティニュアスモードにおける結像位置の予測制御をOFFに設定する。
一方のS2080では、コンティニュアスモードにおける結像位置の予測制御をONに設定する。
【0053】
ここで、撮影倍率βによって像面装置の予測制御のON/OFFを変更する理由について述べる。
【0054】
図8に示したように、マクロ撮影時は被写体距離の変動によるピント変動が多く、またピント変動の速度の変化やピントが変動する方向の反転が多いため、AFレンズの駆動目標位置を実際の被写体距離に対して精度高く設定することは困難である場合がある。そのため、コンティニュアスモードの予測制御によってAFレンズの駆動目標位置を設定しても、撮影時のAFレンズの位置は被写体の合焦位置とは異なる可能性がある。
【0055】
そこで、マクロ撮影時はコンティニュアスモードの予測制御を止め、後述するS2110のSW2_ON入力まで、測定された被写体距離に対応する位置にAFレンズを駆動する合焦動作を繰り返す事で、ピント変動に追従し、ピントズレを抑制する。
【0056】
これに対して撮影倍率が小さい時、つまり被写体が撮像装置201から遠い場合は、第1の実施形態でも述べたように、手ブレのように撮像装置201がゆっくり光軸方向に動くことによる被写体距離の相対的な変化が小さい時は、像面距離bはあまり大きく変化しない。しかし、遠距離にある被写体が高速で移動している場合等のように、被写体距離aの変化に起因する像面距離bの変化は、被写体距離が大きいためピントズレに影響のない範囲で予測しやすい。従って、撮影倍率が小さい時には、公知の結像位置の予測制御を実施した方がピントズレの抑制に効果的である。
【0057】
よって、撮影倍率βに応じて結像位置の予測制御を適用するか否かを変更する事によって、通常の撮影距離で移動する被写体を撮影する時にもマクロ撮影をする時にもピントズレを緩和して撮影する事が可能になる。
【0058】
フローチャートの説明に戻る。
S2100からS2130及びS2210からS2230は、それぞれ第1の実施形態で説明したS1100からS1130及びS1210からS1230に対応するので、その説明を省略する。
【0059】
図6に、第1及び第2の実施形態で説明した制御方法を並行して適用した場合の、被写体位置と実際のAFレンズ140の位置との比較結果について示す。つまり図6に示す結果は、撮影倍率βが0.2以上の場合において、予測制御を行わず、サンプリング周波数f1で検出した過去の被写体の結像位置に基づいてデフォーカス量を低減するように制御したものの結果である。
図6に示したように、サンプリング周波数をf1(40Hz)に設定し、かつ、コンティニュアスモードの予測制御をしない場合には、被写体位置の変化に対して、実際のAFレンズ140の位置が追従していることがわかる。
これにより、マクロ撮影において従来よりもピントズレを緩和した撮影が可能になったことがわかる。一方、撮影倍率βが0.2より小さい通常の撮影においては、サンプリング周波数Fをf1よりも小さいf2として、予測制御を行うことが好ましい。
【0060】
なお、第2の実施形態では撮影倍率βに応じてコンティニュアスモードの予測制御のON/OFFを切換えているが、これに限定することはない。
【0061】
例えば図7に示したフローチャートを用いて第2の実施形態の変形例を説明する。
図7において、上記第2の実施形態と異なる点は、S2060での撮影倍率βの判定結果による処理である。
S2060において、撮影倍率βが0.2倍以上である場合には、S2310へ進み、撮影倍率βが0.2未満の場合にはS2320へ進む。
S2310では、コンティニュアスモードにおける結像位置の予測制御を第1予測制御方法に設定する。この第1予測制御方法とは、例えば公知である、過去に得た2点の被写体の結像位置から、検出点から所定時間経過後の結像位置を予測するものである。
【0062】
一方のS2320では、コンティニュアスモードにおける結像位置の予測制御を第2制御方法に設定する。この第2予測制御方法とは、例えば公知である、過去に得た6点の被写体の結像位置から、検出点から所定時間経過後の結像位置を予測するものである。
【0063】
撮影倍率βによって予測制御に用いる過去の結像位置の点数が異なる理由は以下の通りである。
マクロ撮影時においては、被写体距離が短いため、被写体の動きや手ぶれ等の影響により像面距離の変化が発生しやすいためピントずれになりやすい。また、結像位置の移動速度の変化や反転が短時間内に頻度多く発生するため、過去の多数の結像位置情報を用いて結像位置の予測を試みても、精度高く結像位置を予測することは困難である。そのため、現時点の結像位置の動作により関連があるSW2_ON直前の2点の結像位置を用いた予測制御を行うことにより、より予測精度の高い制御が可能となる。
【0064】
これに対して撮影倍率が小さい時、つまり被写体が撮像装置201から遠い場合は、像面距離に影響を与えるような被写体距離の変化は、ある程度の長さを有する時間間隔の中で被写体の位置が光軸方向に大きく変動する場合に発生することが多いと考えられる。そのため、より多くの過去の被写体の結像位置のデータ数、例えば6点、を予測制御に用いる事によって、予測した結像位置と実際に合焦する結像位置との誤差を小さくすることが可能となる。これにより、ピントズレを抑制する。
【0065】
つまり、撮影倍率βに応じて最適な予測方法を実施する事により、通常の撮影距離で移動する被写体を撮影する時にもマクロ撮影をする時にも、ピントズレを緩和して撮影することが可能になる。
【0066】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【0067】
例えば、上記の実施の各形態においては、レンズ交換式の一眼レフカメラについて説明したが、本発明はビデオカメラや、レンズとカメラ一体型電子スチルカメラ等の他の光学機器にも適用可能である。
また、上記の実施形態においては撮像素子を用いて被写体を撮影する、所謂デジタル方式の撮像装置について説明したが、本発明はフィルムを用いて撮影する所謂銀塩方式の撮像装置にも適用可能である。
また撮影倍率βが0.2の時をマクロ撮影かどうかの判定値に用いているが、例えば撮影倍率β=0.3や0.5を判定値としても、同様な効果が得られることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0068】
101:レンズ装置
102:撮像光学系
106:レンズCPU
107:AFレンズ制御部
140:AFレンズ
141:AFレンズ駆動部
201:撮像装置
205:撮像素子
209:カメラCPU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
AFレンズを含む撮像光学系と、
該AFレンズを駆動するAFレンズ駆動装置と、
被写体の撮像位置と前記撮像光学系による前記被写体の結像位置との差に対応するデフォーカス量を検出する検出手段と、
前記デフォーカス量を低減するように該AFレンズ駆動装置の駆動制御を行う制御手段と、を有する光学機器において、
前記制御手段は、前記撮像光学系の撮影倍率を検出し、該撮影倍率に応じて、前記デフォーカス量を低減するように、前記AFレンズ駆動装置の制御方法を変更することを特徴とする光学機器。
【請求項2】
前記AFレンズ駆動装置の制御方法の変更は、焦点検出のサンプリング周波数の変更を含むことを特徴とする請求項1に記載の光学機器。
【請求項3】
前記制御手段は、前記撮影倍率が所定の値以上の場合には、前記撮影倍率が所定の値より小さい場合に比べて前記サンプリング周波数を大きくすることを特徴とする請求項2に記載の光学機器。
【請求項4】
前記制御手段は、過去の被写体の結像位置に基づいて将来の被写体の結像位置を予測し、前記将来の被写体の結像位置に対して前記デフォーカス量を低減するように前記AFレンズ駆動装置を制御し、
前記AFレンズ駆動装置の制御方法の変更は、該結像位置の予測方法の変更を含むことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の光学機器。
【請求項5】
前記予測方法の変更は、前記結像位置を予測するために使用する前記過去の結像位置のデータ数の変更を含むことを特徴とする請求項4に記載の光学機器。
【請求項6】
前記制御手段は、前記撮影倍率が所定の値以上の場合には、前記撮影倍率が所定の値より小さい場合に比べて前記データ数を増やすことを特徴とする請求項5に記載の光学機器。
【請求項7】
前記AFレンズ駆動装置の制御方法の変更は、前記結像位置の予測に基づく制御を適用するか否かの変更を含む、請求項4乃至請求項6のいずれか1項に記載の光学機器。
【請求項8】
前記制御手段は、前記撮影倍率が所定の値以上の場合には前記結像位置の予測を行い、予測した前記結像位置に対して前記デフォーカス量を低減するように前記AFレンズ駆動装置を制御し、前記撮影倍率が所定の値より小さい場合には前記結像位置の予測を行わずに前記過去の被写体の結像位置に対して前記デフォーカス量を低減するように前記AFレンズ駆動装置を制御することを特徴とする請求項7に記載の光学機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−13460(P2011−13460A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−157616(P2009−157616)
【出願日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】