説明

光学活性α−置換システインまたはその塩の製造方法並びにその合成中間体及びその製造方法

本発明は、医薬品等の中間体として有用な光学活性α−置換システインまたはその塩を、安価で入手容易な原料から簡便、また工業的に有利に製造できる実用的な方法を提供する。 本発明は、システイン誘導体をチアゾリン化合物とし、光学活性な4級アンモニウム塩、特には軸不斉4級アンモニウム塩を触媒として用いる立体選択的な置換基導入反応により光学活性チアゾリン化合物とし、これを加水分解することによる光学活性α−置換システインまたはその塩の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、医薬品等の中間体として有用な、光学活性α−置換システインまたはその塩の製造方法と、その合成に有用な中間体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
α位に2つの異なる置換基を有する光学活性アミノ酸誘導体のひとつである、光学活性α−置換システイン誘導体またはその塩の製造方法としては、以下の様な方法が知られている。
1)光学活性システインとピバルアルデヒドより得られる光学活性チアゾリジン化合物への不斉アルキル化による方法(特表2000−515166号公報、WO01/72702号パンフレット、WO01/72703号パンフレット)。
2)光学活性アラニンとベンズアルデヒドより得られる光学活性チアゾリジン化合物への不斉チオアルキル化による方法(Tetrahedron,1999,55,10685〜10694)。
3)光学活性バリンとアラニンより合成される光学活性ジケトピペラジン化合物を不斉ブロモメチル化し、得られた化合物の臭素原子をアルカリ金属アルキルチオラートで置換する方法(J.Org.Chem.,1992,57,5568〜5573)。
4)2−メチル−2−プロペン−1−オールのシャープレス不斉酸化により得られる光学活性な2−メチルグリシドールから光学活性アジリジン化合物を合成し、これにチオールを反応させる方法(J.Org.Chem.,1995,60,790〜791)。
5)アミノマロン酸誘導体をアルキル化した後に、豚肝臓エステラーゼ(以下PLEと略す)による非対称化を行い、得られた光学活性エステルをチオ酢酸アルカリ金属塩と反応させる方法(J.Am.Chem.Soc.,1993,115,8449〜8450)。
6)システイン誘導体より合成されるチアゾリン化合物のメチル化により得られるラセミ体のチアゾリン化合物をキラルHPLCにて分離精製する方法(Synlett.,1994,9,702−704)。
しかしながら、1)、2)、3)のいずれの方法においても、ブチルリチウム等の高価な塩基を用いた低温反応が含まれ、特殊な製造設備が必要である。また、4)の方法は工程数が長くて煩雑であり、工業的に不利である。5)の方法ではPLEを用いたジエステルの非対称化を鍵工程としているが、PLEは大量生産が困難であるため工業的規模での安定確保は難しく、実用的とは言い難い。6)の方法ではチアゾリン化合物の不斉アルキル化は知られておらず、ラセミ体のキラルHPLCによる分割が不可欠であるが、不要の鏡像異性体をラセミ化して再利用することができないために生産性が低く、工業規模での製造は有利ではない。
以上のように、いずれの方法においても光学活性α−置換システインまたはその塩の工業的製造方法としては、解決すべき課題を有している。
発明の要約
上記に鑑み、本発明の目的は、光学活性α−置換システインまたはその塩を安価で入手容易な原料から簡便、また工業的に有利に製造できる実用的な方法を提供することにある。
本発明者等は上記現状に鑑み、鋭意検討を行った結果、システイン誘導体をチアゾリン化合物とし、光学活性な4級アンモニウム塩、特には光学活性な軸不斉4級アンモニウム塩を触媒として用いる立体選択的な置換基導入反応により光学活性チアゾリン化合物とし、これを加水分解することにより光学活性α−置換システインまたはその塩を製造する方法を見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、一般式(2);

(式中、Rは直鎖もしくは分岐または環を形成していても良く置換基を有していても良いC〜C10のアルキル基、または、直鎖もしくは分岐または環を形成していても良く置換基を有していても良いC〜C10のアルキルシリル基を表し、Rは置換基を有していてもよいC〜C30のアリール基、または、直鎖もしくは分岐または環を形成していても良く置換基を有していても良いC〜C20のアルキル基を表す)で表されるチアゾリン化合物を、塩基の存在下、光学活性4級アンモニウム塩を触媒として用いることにより、一般式(3);
L (3)
(式中、Rは直鎮もしくは分岐または環を形成していても良く置換基を有していても良いC〜C20のアルキル基、直鎖もしくは分岐または環を形成していても良く置換基を有していても良いC〜C20のアルケニル基、直鎖もしくは分岐または環を形成していても良く置換基を有していても良いC〜C20のアルキニル基、直鎖もしくは分岐または環を形成していても良く置換基を有していても良いC〜C20のアルコキシカルボニルアルキル基、置換基を有していてもよいC〜C30のアラルキル基または置換基を有していてもよいC〜C30のヘテロアラルキル基を表し、Lは脱離基を表す)で表される化合物と反応させることを特徴とする、一般式(1);

(式中、*は不斉炭素原子を表し、R、R、Rは前記と同じ意味を表す)で表される光学活性チアゾリン化合物の製造方法である。
また、本発明は、一般式(1);

(式中、*、R、R、Rは前記と同じ意味を表す)で表される光学活性チアゾリン化合物を加水分解することを特徴とする一般式(6);

(式中、*、Rは前記と同じ意味を表す)で表される光学活性α−置換システインまたはその塩の製造方法に関する。
さらに本発明は、一般式(7);

(式中、*、R、Rは前記と同じ意味を表し、Rは直鎖もしくは分岐または環を形成していても良く置換基を有していても良いC〜C20のアルキル基、直鎖もしくは分岐または環を形成していても良く置換基を有していても良いC〜C20のアルケニル基、直鎖もしくは分岐または環を形成していても良く置換基を有していても良いC〜C20のアルキニル基、直鎖もしくは分岐または環を形成していても良く置換基を有していても良いC〜C20のアルコキシカルボニルアルキル基、置換基を有していてもよいC〜C30のアラルキル基または置換基を有していてもよいC〜C30のヘテロアラルキル基を表す)で表される光学活性チアゾリン化合物でもある。
発明の詳細な開示
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、一般式(2);

で表されるチアゾリン化合物を、塩基の存在下、光学活性4級アンモニウム塩を触媒として用いることにより、一般式(3);
L (3)
で表される化合物と反応させることを特徴とする、一般式(1);

で表される光学活性チアゾリン化合物の製造方法である。
まず、上記一般式(2)で表されるチアゾリン化合物について説明する。
上記一般式(2)において、Rは直鎖もしくは分岐または環を形成していても良く置換基を有していても良いC〜C10のアルキル基、または、直鎖もしくは分岐または環を形成していても良く置換基を有していても良いC〜C10のアルキルシリル基を表し、Rは置換基を有していてもよいC〜C30のアリール基、または、直鎖もしくは分岐または環を形成していても良く置換基を有していても良いC〜C20のアルキル基を表す。上記R、Rの炭素数は、置換基の炭素数を含まない。なお、上記Rの置換基としては、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)等が挙げられ、上記Rの置換基としては、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基等)等が挙げられる。
上記Rとして直鎖もしくは分岐または環を形成していても良く置換基を有していても良いC〜C10のアルキル基としては、例えば、メチル基、トリフルオロメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基等が挙げられる。
上記Rとして直鎖もしくは分岐または環を形成していても良く置換基を有していても良いC〜C10のアルキルシリル基としては、例えばt−ブチルジメチルシリル基、トリメチルシリル基等が挙げられる。
上記Rとしては、高い選択性を確保するために、直鎖もしくは分岐または環を形成していても良く置換基を有していても良いC〜C10のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基がより好ましく、エチル基、t−ブチル基が更に好ましい。
上記Rとして置換基を有していてもよいC〜C30のアリール基としては、例えばフェニル基、2−メトキシフェニル基、3−メトキシフェニル基、4−メトキシフェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、テルフェニル基などが挙げられる。
上記Rとして直鎖もしくは分岐または環を形成していても良く置換基を有していても良いC〜C20のアルキル基としては、例えば、メチル基、トリフルオロメチル基、トリクロロメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、シクロブチル基、ペンチル基、シクロペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。
上記Rは、合成の容易さおよび立体選択的置換基導入反応の高い選択性のためには、置換基を有していても良いフェニル基であることが好ましく、フェニル基、4−メトキシフェニル基であることがより好ましい。
一般式(2)で表されるチアゾリン化合物は、ニトリル化合物とシステイン誘導体の直接反応、あるいは、例えばSynlett,1994,9,702〜704などに報告されているように、ニトリル化合物を塩化水素処理によりイミダートとしてからシステイン誘導体と反応させることにより合成することができる。上記ニトリル化合物は、入手可能なものであれば特に制限されるものではない。
次に、上記一般式(3)で表される化合物について説明する。
上記一般式(3)において、Rは直鎖もしくは分岐または環を形成していても良く置換基を有していても良いC〜C20のアルキル基、直鎖もしくは分岐または環を形成していても良く置換基を有していても良いC〜C20のアルケニル基、直鎖もしくは分岐または環を形成していても良く置換基を有していても良いC〜C20のアルキニル基、直鎖もしくは分岐または環を形成していても良く置換基を有していても良いC〜C20のアルコキシカルボニルアルキル基、置換基を有していてもよいC〜C30のアラルキル基または置換基を有していてもよいC〜C30のヘテロアラルキル基を表し、Lは脱離基を表す。上記Rの炭素数は置換基の炭素数を含まない。なお、上記Rの置換基としては、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等)、アルキル基(メチル基、エチル基等)等が挙げられる。
一般式(3)で表される化合物としては、上記一般式(2)で表されるチアゾリン化合物と反応し得るものであれば特に制限されるものではない。
上記Rにおける直鎖もしくは分岐または環を形成していても良く置換基を有していても良いC〜C20のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロプロピルメチル基、シクロペンチルメチル基、シクロヘキシルメチル基等が挙げられる。
直鎖もしくは分岐または環を形成していても良く置換基を有していても良いC〜C20のアルケニル基としては、例えば、アリル基、2−ブテニル基、1−メチル−2−プロペニル基、2−メチル−2−プロペニル基等が挙げられる。
直鎖もしくは分岐または環を形成していても良く置換基を有していても良いC〜C20のアルキニル基としては、例えば、エチニル基、1−プロピニル基、プロパルギル基、ブチニル基、ペンチニル基、ヘキシニル基等が挙げられる。
直鎖もしくは分岐または環を形成していても良く置換基を有していても良いC〜C20のアルコキシカルボニルアルキル基としては、例えば、t−ブトキシカルボニルメチル基、t−ブトキシカルボニルエチル基などが挙げられる。
置換基を有していてもよいC〜C30のアラルキル基としては、例えば、ベンジル基、クロロベンジル基、フルオロベンジル基、ブロモベンジル基、ジクロロベンジル基、ジフルオロベンジル基、ジブロモベンジル基、メチルベンジル基、メトキシベンジル基、3,4−ジブトキシベンジル基、ナフチルメチル基等が挙げられる。
置換基を有していてもよいC〜C30のヘテロアラルキル基としては、例えば、ピリジルメチル基、ジフルオロピリジルメチル基、キノリルメチル基、インドリルメチル基、フルフリル基、チエニルメチル基などが挙げられる。
本発明において、上記Rとしては、直鎖もしくは分岐または環を形成していても良く置換基を有していても良いC〜C20のアルキル基、直鎖もしくは分岐または環を形成していても良く置換基を有していても良いC〜C20のアルケニル基、直鎖もしくは分岐または環を形成していても良く置換基を有していても良いC〜C20のアルキニル基、置換基を有していてもよいC〜C30のアラルキル基が好ましく、メチル基、エチル基、アリル基、プロパルギル基、ベンジル基がより好ましい。
また、上記Lの脱離基としては、例えば、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、メタンスルフォニルオキシ基、p−トルエンスルフォニルオキシ基、トリフルオロメタンスルフォニルオキシ基などが挙げられ、好ましくはハロゲン原子であり、なかでも塩素原子、ヨウ素原子、臭素原子が特に好ましい。
次に光学活性4級アンモニウム塩について説明する。
本発明の製造方法に用いる光学活性4級アンモニウム塩としては、通常、相間移動触媒等として使用される光学活性4級アンモニウム塩であれば特に制限されず、例えばN−ベンジルシンコニニウムクロライド、N−ベンジルシンコニニウムブロマイド、N−ベンジルシンコニジニウムクロライド、N−ベンジルシンコニジニウムブロマイド、N−p−トリフルオロメチルベンジルシンコニニウムクロライド、N−N−p−トリフルオロメチルベンジルシンコニニウムブロマイド、N−N−p−トリフルオロメチルベンジルシンコニジニウムクロライド、N−N−p−トリフルオロメチルベンジルシンコニジニウムブロマイド、または一般式(4);

あるいは一般式(5);

(式中、RおよびRは後述の通り)で表される光学活性な軸不斉4級アンモニウム塩などが挙げられる。
上記光学活性4級アンモニウム塩として、好ましくは前記式(4)あるいは(5)で表される光学活性な軸不斉4級アンモニウム塩である。
ここでいう光学活性とは、考えられる各種光学異性体のうち、ひとつの特定の光学異性体の存在率が他の異性体よりも多いことを言う。本発明において前記式(4)あるいは(5)で表される光学活性な軸不斉4級アンモニウム塩を、チアゾリン化合物(2)への立体選択的置換基導入反応の触媒として用いる場合、より高い立体選択性の発現のためには、特定の異性体の存在率は90%以上が好ましく、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上である。
上記一般式(4)及び(5)において、RおよびRは、それぞれ独立に水素原子、直鎖もしくは分岐または環を形成していても良く置換基を有していても良いC〜C20のアルキル基、直鎖もしくは分岐または環を形成していても良く置換基を有していても良いC〜C20のアルケニル基、直鎖もしくは分岐または環を形成していても良く置換基を有していても良いC〜C20のアルキニル基、置換基を有していても良いC〜C30のアリール基、置換基を有していても良いC〜C30のヘテロアリール基、置換基を有していても良いC〜C30のアラルキル基、置換基を有していても良いC〜C30のヘテロアラルキル基、直鎖もしくは分岐または環を形成していても良く置換基を有していても良いC〜C15のアルカノイル基、または、芳香環上に置換基を有していても良いC〜C30のアロイル基を表し、RおよびRは互いに同じまたは異なっていても良い。上記R、Rの炭素数は置換基の炭素数を含まない。なお、上記R、Rの置換基としては、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等)、アリール基(フェニル基、ナフチル基等)、シクロアルキル基(シクロプロピル基、シクロブチル基等)、アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等)、ヒドロキシル基、アミノ基等が挙げられる。
上記R、Rとして、直鎖もしくは分岐または環を形成していても良く置換基を有していても良いC〜C20のアルキル基としては、例えば、メチル基、トリフルオロメチル基、t−ブトキシメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、シクロブチル基、ペンチル基、シクロペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。
直鎖もしくは分岐または環を形成していても良く置換基を有していても良いC〜C20のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、1−プロペニル基、アリル基、イソプロペニル基、シクロプロペニル基、ブテニル基、シクロブテニル基、ペンテニル基、シクロペンテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基、スチリル基などが挙げられる。
直鎖もしくは分岐または環を形成していても良く置換基を有していても良いC〜C20のアルキニル基としては、例えば、エチニル基、フェニルエチニル基、シクロプロピルエチニル基、シクロブチルエチニル基、1−プロピニル基、プロパルギル基、ブチニル基、ペンチニル基、ヘキシニル基などが挙げられる。
置換基を有していても良いC〜C30のアリール基としては、例えば、フェニル基、3,4,5−トリフルオロフェニル基、3,5−t−ブチルフェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、テルフェニル基、3’,3’’,5’,5’’−t−ブチル−m−テルフェニル基などが挙げられる。
置換基を有していても良いC〜C30のヘテロアリール基としては、例えば、ピロリニル基、ピリジル基、キノリル基、イミダゾリル基、フリル基、インドリル基、チエニル基、オキサゾリル基、チアゾリル基、2−フェニルチアゾリル、2−アニシルチアゾリル基などが挙げられる。
置換基を有していても良いC〜C30のアラルキル基としては、例えば、ベンジル基、クロロベンジル基、ブロモベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基、アントラセニルメチル基、3,5−ジフルオロベンジル基、トリチル基などが挙げられる。
置換基を有していても良いC〜C30のヘテロアラルキル基としては、例えば、ピリジルメチル基、ジフルオロピリジルメチル基、キノリルメチル基、インドリルメチル基、フルフリル基、チエニルメチル基などが挙げられる。
直鎖もしくは分岐または環を形成していても良く置換基を有していても良いC〜C15のアルカノイル基としては、例えば、アセチル基、プロパノイル基、ブチロイル基、ペンタノイル基、シクロペンタンカルボニル基、ヘキサノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、グリコロイル基、グリシル基、シンナモイル基などが挙げられる。
芳香環上に置換基を有していても良いC〜C30のアロイル基としては、例えば、ベンゾイル基、サリチロイル基、ナフトイル基等が挙げられる。
本発明においてより高い収率および選択性の実現のためには、上記R、Rとしては置換基を有していても良いアリール基が好ましく、置換基を有していても良いフェニル基、置換基を有していても良いナフチル基、置換基を有していても良いアントリル基、置換基を有していても良いフェナントリル基、置換基を有していても良いテルフェニル基がより好ましく、フェニル基、3,4,5−トリフルオロフェニル基、3,5−t−ブチルフェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、テルフェニル基、3’,3’’,5’,5’’−t−ブチル−m−テルフェニル基が更に好ましく、ナフチル基、3,4,5−トリフルオロフェニル基、3,5−t−ブチルフェニル基、3’,3’’,5’,5’’−t−ブチル−m−テルフェニル基が特に好ましい。
前記式(4)および(5)において、R、Rが同一の基であることが好ましい。
前記式(4)および(5)におけるXは、アンモニウムカチオンのカウンターアニオンとなり得るヘテロ原子あるいは原子団を表し、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;ヘキサフルオロホスフェートアニオン、トリフルオロメチルスルホネートアニオン、メチルスルホネートアニオンなどが挙げられる。
本発明においてより高い収率と選択性のために、上記Xとして、好ましくはハロゲン原子であり、より好ましくは臭素原子である。
前記式(4)あるいは(5)で表される光学活性な軸不斉4級アンモニウム塩は、例えば、J.Am.Chem.Soc.,1999,121,6515〜6520,J.Am.Chem.Soc.,2000,122,5228〜5229、特開2001−48866等に報告されている方法により合成される。
次に光学活性な4級アンモニウム塩、特には光学活性な軸不斉4級アンモニウム塩を触媒として用いる、チアゾリン化合物(2)への立体選択的置換基導入反応について説明する。
上記反応は通常溶媒中で行われ、溶媒としては有機溶媒もしくは有機溶媒と水からなる2相系溶媒を用いることができる。単独あるいは水との2相系で反応を行うことができる有機溶媒としては、基質であるチアゾリン化合物(2)及び化合物(3)並びに触媒が一部あるいは完全に溶解するものであれば特に制限されるものではないが、例えばベンゼン、トルエン、キシレン、ジエチルエーテル、イソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、ジオキサン、塩化メチレン、クロロホルム、酢酸エチル等が挙げられる。高収率、高選択性を実現し、また安価なことから工業的にも有利であるトルエンを用いることが好ましい。
溶媒の使用量は、チアゾリン化合物(2)に対し、溶媒の容積(mL)とチアゾリン化合物の重量(g)との比(mL/g)で、好ましくは5〜60倍であり、より好ましくは6〜40倍である。
有機溶媒と水との2相系溶媒を用いる場合、有機溶媒と水との混合割合に特に制限はない。
上記反応は塩基存在下に行われるが、塩基としてはチアゾリン化合物(2)のエノラートを発生させ得るものであれば、特に制限されるものではない。
反応を有機溶媒単独で行う場合には、例えばブチルリチウム、リチウムジイソプロピルアミン等の有機塩基;水素化ナトリウム、水酸化セシウム一水和物等の無機塩基が挙げられるが、高い選択性を得るためには水酸化セシウム一水和物を用いることが好ましい。
有機溶媒と水の2相系で行う場合には、無機塩基の使用が可能であり、例えば水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム等の水酸化物等が挙げられるが、反応の収率、選択性ともに良好な結果を与え、なおかつ安価である水酸化ナトリウム、水酸化カリウムを用いることが好ましい。
塩基の使用量は、チアゾリン化合物(2)に対して1〜50当量が好ましく、より好ましくは1〜20当量である。また無機塩基を使用する場合には水溶液として用いるが、この水溶液濃度は好ましくは10〜80重量%であり、より好ましくは30〜60重量%である。
上記一般式(4)または(5)で表される光学活性な軸不斉4級アンモニウム塩は、チアゾリン化合物(2)への立体選択的置換基導入反応においてキラル触媒として機能する。一般式(4)で表される触媒は、2つの軸不斉を有するため4種の異性体が存在するが、一般的に2つの軸不斉の立体が同一である触媒の方がより高い選択性を与える傾向にある。
また、上記一般式(4)または(5)で表される光学活性な軸不斉4級アンモニウム塩は、その立体により与える生成物の立体が異なる。すなわち互いにエナンチオマーの関係にある触媒を用いると、一方のエナンチオマーともう一方のエナンチオマーは互いに異なる立体の生成物を同じ選択性および収率で与える。したがって、使用する触媒を選択することにより目的物の立体を制御することができる。
触媒としての光学活性4級アンモニウム塩の使用量は、チアゾリン化合物(2)に対してmol%基準で好ましくは0.01〜20mol%、より好ましくは0.1〜1mol%である。
また、化合物(3)の使用量については、チアゾリン化合物(2)に対して好ましくは1〜10当量であり、より好ましくは1〜5当量である。
上記反応は溶媒に、塩基、チアゾリン化合物(2)、化合物(3)、触媒を加え、通常、空気中あるいは不活性気体中で行うことができる。空気中で行う場合、チアゾリン化合物の種類によっては、立体選択的置換基導光学入反応よりもチアゾリン化合物の酸化反応が優先的に起こりチアゾールが生成し、目的化合物である光学活性チアゾリン化合物がほとんど得られない場合があり、不活性気体中で行うことが好ましい。
反応温度としては、水、有機溶媒の2相系で行う場合には0℃〜50℃が好ましく、さらに好ましくは0℃〜10℃である。有機溶媒単独で行う場合には好ましくは−20℃〜50℃であり、さらに好ましくは−20℃〜10℃である。
反応時間は、好ましくは0.5〜24時間程度であるが、あまり長時間反応を行うと、チアゾリン化合物(2)が一部チアゾールに酸化されることが懸念されるため、より好ましくは0.5〜12時間程度である。
反応後の後処理としては例えば、反応溶液に水を加え、適当な有機溶媒にて反応生成物である光学活性チアゾリン化合物(1)の抽出を行う。抽出溶媒としては、反応生成物を溶解し得るものであれば特に制限されるものではなく、ジエチルエーテル、酢酸エチル、トルエン等の一般的な有機溶媒が使用可能である。
抽出により得られた有機層を乾燥、濃縮することにより得た粗生成物は、そのまま次工程のチアゾリン環の開環反応に供しても良いし、精製しても良い。光学活性チアゾリン化合物(1)の単離精製は、例えばシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて行うことができる。
また、本反応においては、キラル触媒を回収、再使用することができる。つまり、反応終了後、前記式(4)または(5)で表される光学活性な軸不斉4級アンモニウム塩を、吸着剤を充填したカラムクロマトグラフィーにより、反応混合物より分離・回収し、これを再利用することが好ましい。
例えば反応終了後、反応溶液を水で希釈後に酸で中和し、これに適当な有機溶媒を用いて抽出した有機層を乾燥、濃縮し粗生成物を得る。この粗生成物を、適当な吸着剤を充填したカラムクロマトグラフィーに供し、光学活性チアゾリン化合物(1)とキラル触媒を分離し、触媒を回収することができる。
上記中和に用いる酸としては、例えば塩酸、硫酸、酢酸、臭化水素酸、トリフルオロ酢酸等が挙げられるが、回収される触媒が高い反応活性、選択性を有するには臭化水素酸を用いることが好ましい。
抽出溶媒としては、反応生成物および触媒を溶解し得るものであれば特に制限されるものではく、一般的な有機溶媒が使用可能であり、例えば酢酸エチル、塩化メチレン、クロロホルム、ジエチルエーテル、トルエンなどが使用できるが、好ましくは酢酸エチル、塩化メチレンである。
カラムに充填される吸着剤としては、特に制限されるものではないが、アルミナ、シリカゲル等が好ましく、分離性の面からシリカゲルがより好ましい。
カラムクロマトグラフィーに供する際に用いる溶出液としては、光学活性チアゾリン化合物(1)を溶出させるには、目的物に応じて適当な有機溶媒の組み合わせを用いれば良いが、例えば酢酸エチル、ヘキサン、クロロホルム、塩化メチレン、メタノール、エタノール、ジエチルエーテルなどが挙げられ、これらの群より選択される1種以上の溶媒の組み合わせを用いることができる。
光学活性チアゾリン(1)を溶出した後に、より高極性な溶出液を用いることにより触媒を回収することができる。より高極性の溶出液としては、低極性有機溶媒にアルコール類を適当な比率で混合した溶媒系が用いられる。低極性有機溶媒としては例えば、クロロホルム、塩化メチレン、酢酸エチル、ヘキサンなどが挙げられるが、好ましくは塩化メチレンである。アルコール類としては、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノールなどが挙げられるが、溶媒留去の容易さ、溶出効率の点からメタノールが好ましい。
低極性有機溶媒とアルコール類との混合比率は回収しようとする触媒の種類により最適に調整すれば良いが、好ましくは塩化メチレンがメタノールに対して容積で5倍〜50倍の混合比が好ましく、さらに好ましくは10倍〜30倍である。
回収された触媒は、特に新たに処理をすることなくそのまま再利用が可能である。
本発明は、また、一般式(1);

(式中、*、R、R、Rは前記と同じ意味を表す)で表される光学活性チアゾリン化合物を加水分解することを特徴とする一般式(6);

(式中、*、Rは前記と同じ意味を表す)で表される光学活性α−置換システインまたはその塩の製造方法である。つまり、得られた光学活性チアゾリン化合物(1)を加水分解することで、光学活性α−置換システイン(6)またはその塩を得ることができる。
加水分解の方法は、チアゾリンを開環させ得る方法であれば特に制限されるものではないが、例えば、酸またはアルカリによる方法が挙げられる。
用いる酸としては、例えば塩酸、酢酸、硫酸、臭化水素酸、トリフルオロ酢酸等が挙げられるが、好ましくは塩酸である。
用いるアルカリとしては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム等の水酸化物が挙げられるが、好ましくは水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムである。
酸、アルカリともに水溶液を用いることが好ましく、濃度は0.1N〜20Nが好ましく、より好ましくは0.1N〜10Nである。
上記加水分解は、酸を用いて行うことが好ましい。
反応は、加水分解に用いる酸水溶液またはアルカリ水溶液を溶媒として用いてもよいし、トルエン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール等の溶媒を水と共に用いてもよい。水、溶媒の使用量に特に制限はない。
反応温度は、反応が効率良く進行するに充分な温度であれば良く、好ましくは70℃〜150℃であり、さらに好ましくは90℃〜120℃である。
反応時間は多くの場合、12〜24時間で終了、光学活性チアゾリン化合物(1)の消失が薄層クロマトグラフィー(TLC)にて確認されるが、反応の遅い基質によってはさらに長時間反応を行う。また、耐圧反応器中で高温・高圧で行うことにより反応時間の短縮も可能である。
反応終了後、得られた光学活性α−置換システイン(6)またはその塩は、適当な溶媒を用いて晶析により単離精製を行うことができる。使用する溶媒、晶析条件はそれぞれ得られた光学活性α−置換システイン(6)に最適の条件を選択すれば良いが、例えばチアゾリン化合物(2)のメチル化により得られた光学活性チアゾリン化合物(1)を塩酸で加水分解して得られた光学活性α−メチルシステイン塩酸塩の場合について説明する。
反応終了後、減圧下、塩酸の全量が約1/6となるまで濃縮し、トルエンを加えさらに水分を共沸除去する。さらにトルエンを加え共沸除去を繰り返す過程において、光学活性α−メチルシステイン塩酸塩が結晶として析出する。これをろ別し、トルエンで洗浄後、乾燥させることで良好な純度、収率で光学活性α−メチルシステイン塩酸塩が得られる。
本発明は、また、一般式(7);

(式中、*、R、Rは前記と同じ意味を表し、Rは直鎖もしくは分岐または環を形成していても良く置換基を有していても良いC〜C20のアルキル基、直鎖もしくは分岐または環を形成していても良く置換基を有していても良いC〜C20のアルケニル基、直鎖もしくは分岐または環を形成していても良く置換基を有していても良いC〜C20のアルキニル基、直鎖もしくは分岐または環を形成していても良く置換基を有していても良いC〜C20のアルコキシカルボニルアルキル基、置換基を有していてもよいC〜C30のアラルキル基、または、置換基を有していてもよいC〜C30のヘテロアラルキル基を表す)で表される光学活性チアゾリン化合物である。
本発明において得られる光学活性チアゾリン化合物(7)は、新規化合物であり、光学活性α−置換システインまたはその塩の製造における有用な中間体となり得る。
上記Rおよび上記Rで表される基は前記の通りである。
上記Rで表される基としては、前述のRで説明した基からメチル基を除いたものが挙げられる。好ましくは、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロプロピルメチル基、シクロペンチルメチル基、シクロヘキシルメチル基、アリル基、2−ブテニル基、1−メチル−2−プロペニル基、2−メチル−2−プロペニル基、プロパルギル基、t−ブトキシカルボニルメチル基、ベンジル基、クロロベンジル基、フルオロベンジル基、ブロモベンジル基、ジクロロベンジル基、ジフルオロベンジル基、ジブロモベンジル基、メチルベンジル基、メトキシベンジル基、3,4−ジブトキシベンジル基、ナフチルメチル基、インドリルメチル基である。より好ましくは、エチル基、アリル基、プロパルギル基、ベンジル基である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下に実施例を挙げ、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
(参考例1)エチル2−フェニルチアゾリン−4−カルボキシレートの製法
エチルベンズイミダート塩酸塩(742.4mg、4mmol)、システインエチルエステル塩酸塩(779.9mg、4.2mmol)、トリエチルアミン(585.5μL、4.2mmol)をメタノール(8mL)に溶解し、室温で一晩攪拌した。水を加えた後、メタノールを減圧下留去し、残った水層を酢酸エチルで抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下、濃縮することにより得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=8:1)にて精製し、目的物であるエチル2−フェニルチアゾリン−4−カルボキシレートを得た(941.2mg、収率99%)
(参考例2)t−ブチル2−フェニルチアゾリン−4−カルボキシレートの製法
エチル2−フェニルチアゾリン−4−カルボキシレート(941.32mg、4mmol)のメタノール(4mL)溶液に、2M水酸化ナトリウム水溶液(4mL)を加え、室温で30分攪拌した。メタノールを減圧下留去した後に、水層にクエン酸を加え酸性にし、酢酸エチルで抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下、濃縮することにより2−フェニルチアゾリン−4−カルボン酸を得た。これを0℃に冷却し、ジメチルアミノピリジン(391.0mg、3.2mmol)、t−ブタノール(1.15mL、12mmol)の塩化メチレン(8mL)溶液を加え、最後に1,3−ジシクロヘキシルカルボジイミド(907.7mg、4.4mmol)を加え、30分攪拌した。生じたウレア化合物をろ別し、ろ液を1N塩酸で洗浄した後に、エーテルで抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムにて乾燥し、減圧下、溶媒を留去することにより得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=8:1)により精製し、目的物であるt−ブチル2−フェニルチアゾリン−4−カルボキシレート(無色オイル、547.9mg、52%収率)を得た。
H NMR(400MHz,CDCl)δ:7.86−7.88(2H,m),7.39−7.49(3H,m),5.20(1H,t),3.63(2H,d),1.52(9H,s)。
(実施例1)t−ブチル(R)−4−メチル−2−フェニルチアゾリン−4−カルボキシレートの製法
アルゴン雰囲気下、参考例2のようにして得られたt−ブチル2−フェニルチアゾリン−4−カルボキシレート(79.0mg、0.3mmol)及び両軸不斉の立体が(S,S)である、下記一般式(8)で表される触媒(2.74mg、3μmol)にトルエン(2mL)を加えた。ヨウ化メチル(37.3μL、0.6mmol)を加え、0℃に冷却した。50%水酸化カリウム水溶液(1mL)を加え、TLCにてt−ブチル2−フェニルチアゾリン−4−カルボキシレートの消失が確認されるまで攪拌した。
反応が終了したら水を加えて希釈し、ジエチルエーテルで抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムにて乾燥させ、減圧下、濃縮することにより得られた粗生成物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製した(ヘキサン:ジエチルエーテル=10:1)。得られた生成物のH NMRより、目的物の光学活性t−ブチル4−メチル−2−フェニルチアゾリン−4−カルボキシレートであることがわかった(71.3mg、収率86%)。これをHPLCにて分析(カラム;CHRALCEL OD(ダイセル社製)、移動相;ヘキサン:エタノール=400:1、保持時間16.7分(major)、20.8分(minor))した結果、光学純度は97%eeであった。
また別途、光学活性(R)−メチル−L−システインt−ブチルエステルを原料として合成したt−ブチル(R)−4−メチル−2−フェニルチアゾリン−4−カルボキシレート標品の保持時間が16.7分であったことより、主たる生成物の立体がR体であると決定した。
H NMR(400MHz,CDCl)δ:7.85−7.87(2H,m),7.40−7.47(3H,m),3.83(1H,d),3.25(1H,d),1.63(3H,s),1.50(9H,s);[α]27=−17.5(c0.50,CHCl)。

【実施例2〜4】
t−ブチル2−フェニルチアゾリン−4−カルボキシレートの代わりに、下記式及び表1で示すエチル2−フェニルチアゾリン−4−カルボキシレートを用い、ヨウ化メチルの代わりに表1に示す化合物RLを用いた以外は実施例1と同じ触媒、実験操作により、以下の光学活性チアゾリン化合物を合成した。
反応に要した時間、収率、光学純度を表1に示す。


得られた光学活性チアゾリン化合物のNMRスペクトルおよびHPLCの分析条件を以下に示す。なお、下記のCHIRALPAK ASは、DAICEL社製のカラムである。
(実施例2)光学活性エチル4−ベンジル−2−フェニルチアゾリン−4−カルボキシレート
H NMR(400MHz,CDCl)δ:7.85−7.87(2H,m),7.39−7.50(3H,m),7.21−7.28(5H,m),4.24(2H,q),3.82(1H,d),3.43(1H,d),3.35(1H,d),3.30(1H,d),1.27(3H,t);[α]27=+73.6(c0.50,CHCl);HPLC:CHIRALPAK AS(ヘキサン:エタノール=200:1),保持時間11.8分(minor),13.3分(major)
(実施例3)光学活性エチル4−アリル−2−フェニルチアゾリン−4−カルボキシレート
H NMR(400MHz,CDCl)δ:7.85−7.87(2H,m),7.39−7.49(3H,m),5.78−5.85(1H,m),5.15−5.21(2H,m),4.23−4.31(2H,m),3.87(1H,d),3.39(1H,d),2.76−2.79(2H,m),1.31(3H,t);[α]27=+27.8(c0.50,CHCl);HPLC:CHIRALPAK AS(ヘキサン:エタノール=200:1),保持時間9.3分(minor),10.1分(major)
(実施例4)光学活性エチル4−プロパルギル−2−フェニルチアゾリン−4−カルボキシレート
H NMR(400MHz,CDCl)δ:7.84−7.86(2H,m),7.38−7.50(3H,m),4.24−4.38(2H,m),4.03(1H,d),3.62(1H,d),3.02(1H,dd),2.80(1H,dd),2.05(1H,t),1.33(3H,t);[α]27=+88.9(c0.50,CHCl);HPLC:CHIRALCEL OD(ヘキサン:エタノール=50:1),保持時間12.5分(minor),18.6分(major)
(実施例5)光学活性t−ブチル4−メチル−2−フェニルチアゾリン−4−カルボキシレートの製法における触媒回収・再利用
実施例1と同じ触媒、実験操作において、TLCにより原料の消失が認められた後に水を加え、1N臭化水素酸水溶液で中和した後に塩化メチレンで有機層を抽出した。抽出した有機層を無水硫酸ナトリウムにて乾燥し、濃縮して得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:ジエチルエーテル=10:1)にて精製、目的物を得た(86%収率、97%ee)後に、塩化メチレン:メタノール=30:1〜10:1を用いてカラムより触媒を溶出させ回収した(回収率90%)。回収された触媒を再度使用(2回目サイクル)したところ、目的物である光学活性t−ブチル4−メチル−2−フェニルチアゾリン−4−カルボキシレートが85%収率、97%eeで得られた。さらに再度回収した触媒を用いた(3回目サイクル)ところ、目的物が83%収率、97%eeで得られた。
(実施例6)(R)−α−メチル−L−システイン塩酸塩の製法
窒素雰囲気下、ガラスの反応容器中に実施例1で得られたt−ブチル(R)−4−メチル−2−フェニルチアゾリン−4−カルボキシレート(97%ee)(1g、3.6mmol)及び4N塩酸水溶液(10g)を加え、還流させた。TLCにてt−ブチル(R)−4−メチル−2−フェニルチアゾリン−4−カルボキシレートの消失を確認した後、全量が約1/6となるまで減圧下、濃縮した。トルエン(5mL)を加え、水分を共沸除去した。さらに同量のトルエンを用い、共沸除去操作を2度行い、生じた白色結晶をろ別、トルエンで洗浄した後、減圧下で一晩乾燥させた。得られた白色結晶(0.54g、88.0%収率)のH NMR分析より、目的物である(R)−α−メチル−L−システイン塩酸塩であることを確認した。
H NMR(300MHz,DO)δ:3.18(1H,d),2.89(1H,d),1.60(3H,s)
(実施例7)光学活性α−メチル−L−システイン塩酸塩の光学純度決定法
実施例6記載の方法で得られた(R)−α−メチル−L−システイン塩酸塩(74.9mg、0.44mmol)を水(3mL)に溶解させ、炭酸水素ナトリウム(197.7mg)を添加し、エタノール3mLを加えた。窒素置換後、クロロ炭酸ベンジルエステル(0.17mL、1.10mmol)を加え、室温で2日間攪拌した。反応液に濃塩酸を添加してpH=1.9とし、酢酸エチルで抽出後、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、溶媒を減圧下留去した。これを分取薄層クロマトグラフィー(PTLC、ヘキサン/酢酸エチル=1/1に少量の酢酸を添加)で精製しH NMRにて分析したところ目的物であるN,S−ジカーボベンジロキシ−α−メチル−L−システイン(106mg、収率60%)であることがわかった。これをHPLCにて分析(カラム:CHIRALCEL OD−RH(ダイセル社製)、移動相:リン酸二水素カリウム・リン酸水溶液(pH2.0)/アセトニトリル=6/4、流速:1.0ml/min、検出波長:210nm、カラム温度:30℃、保持時間19.15分(D体)、22.92分(L体))した結果、光学純度は97%eeであった。
H NMR(300MHz,DO)δ:7.30−7.40(m,10H),5.22(s,2H),5.10(s,2H),3.60(s,2H),1.63(s,3H)
【産業上の利用可能性】
本発明では、光学活性な4級アンモニウム塩、特には軸不斉4級アンモニウム塩を触媒として用いて、チアゾリン化合物への立体選択的な置換基導入反応により光学活性チアゾリン化合物を得、これを加水分解することにより、医薬品等の中間体として有用な光学活性α−置換システインまたはその塩を、安価で入手容易な原料から簡便で効率良く工業的に有利に製造することが可能となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(2);

(式中、Rは直鎖もしくは分岐または環を形成していても良く置換基を有していても良いC〜C10のアルキル基、または、直鎖もしくは分岐または環を形成していても良く置換基を有していても良いC〜C10のアルキルシリル基を表し、Rは置換基を有していてもよいC〜C30のアリール基、または、直鎖もしくは分岐または環を形成していても良く置換基を有していても良いC〜C20のアルキル基を表す)で表されるチアゾリン化合物を、塩基の存在下、光学活性4級アンモニウム塩を触媒として用いることにより、一般式(3);
L (3)
(式中、Rは直鎖もしくは分岐または環を形成していても良く置換基を有していても良いC〜C20のアルキル基、直鎖もしくは分岐または環を形成していても良く置換基を有していても良いC〜C20のアルケニル基、直鎖もしくは分岐または環を形成していても良く置換基を有していても良いC〜C20のアルキニル基、直鎖もしくは分岐または環を形成していても良く置換基を有していても良いC〜C20のアルコキシカルボニルアルキル基、置換基を有していてもよいC〜C30のアラルキル基または置換基を有していてもよいC〜C30のヘテロアラルキル基を表し、Lは脱離基を表す)で表される化合物と反応させることを特徴とする、一般式(1);

(式中、*は不斉炭素原子を表し、R、R、Rは前記と同じ意味を表す)で表される光学活性チアゾリン化合物の製造方法。
【請求項2】
光学活性4級アンモニウム塩が、一般式(4);

あるいは一般式(5);

(式中、RおよびRはそれぞれ独立に、水素原子、直鎖もしくは分岐または環を形成していても良く置換基を有していても良いC〜C20のアルキル基、直鎖もしくは分岐または環を形成していても良く置換基を有していても良いC〜C20のアルケニル基、直鎖もしくは分岐または環を形成していても良く置換基を有していても良いC〜C20のアルキニル基、置換基を有していても良いC〜C30のアリール基、置換基を有していても良いC〜C30のヘテロアリール基、置換基を有していても良いC〜C30のアラルキル基、置換基を有していても良いC〜C30のヘテロアラルキル基、直鎖もしくは分岐または環を形成していても良く置換基を有していても良いC〜C15のアルカノイル基、または、芳香環上に置換基を有していても良いC〜C30のアロイル基を表し、RおよびRは互いに同じまたは異なっていても良い。Xはアンモニウムカチオンのカウンターアニオンとなり得るヘテロ原子あるいは原子団を表す)で表される光学活性な軸不斉4級アンモニウム塩である請求の範囲第1項記載の製造方法。
【請求項3】
反応終了後、前記式(4)または(5)で表される光学活性な軸不斉4級アンモニウム塩を、吸着剤を充填したカラムクロマトグラフィーにより、反応混合物より分離・回収し、これを再利用することを特徴とする請求の範囲第2項記載の製造方法。
【請求項4】
前記式(4)および(5)においてR、Rが、置換基を有していても良いフェニル基、置換基を有していても良いナフチル基、置換基を有していても良いアントリル基、置換基を有していても良いフェナントリル基または置換基を有していても良いテルフェニル基である請求の範囲第2又は3項記載の製造方法。
【請求項5】
前記式(4)および(5)においてR、Rが同一の基である請求の範囲第2から4項のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記式(4)および(5)においてXがハロゲン原子である請求の範囲第2から5項のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
がメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基またはt−ブチル基である請求の範囲第1から6項のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
が置換基を有していても良いフェニル基である請求の範囲第1から7項のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
がメチル基、エチル基、アリル基、プロパルギル基またはベンジル基である請求の範囲第1から8項のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
前記式(3)においてLがハロゲン原子である請求の範囲第1から9項のいずれかに記載の製造方法。
【請求項11】
請求の範囲第1から10項のいずれかに記載の方法により得られた一般式(1);

(式中、*は不斉炭素原子を表し、Rは直鎖もしくは分岐または環を形成していても良く置換基を有していても良いC〜C10のアルキル基、または、直鎖もしくは分岐または環を形成していても良く置換基を有していても良いC〜C10のアルキルシリル基を表し、Rは置換基を有していてもよいC〜C30のアリール基、または、直鎖もしくは分岐または環を形成していても良く置換基を有していても良いC〜C20のアルキル基を表し、Rは直鎖もしくは分岐または環を形成していても良く置換基を有していても良いC〜C20のアルキル基、直鎖もしくは分岐または環を形成していても良く置換基を有していても良いC〜C20のアルケニル基、直鎖もしくは分岐または環を形成していても良く置換基を有していても良いC〜C20のアルキニル基、直鎖もしくは分岐または環を形成していても良く置換基を有していても良いC〜C20のアルコキシカルボニルアルキル基、置換基を有していてもよいC〜C30のアラルキル基または置換基を有していてもよいC〜C30のヘテロアラルキル基を表す)で表される光学活性チアゾリン化合物を加水分解することを特徴とする、一般式(6);

(式中、*、Rは前記と同じ意味を表す)で表される光学活性α−置換システインまたはその塩の製造方法。
【請求項12】
一般式(1);

(式中、*は不斉炭素原子を表し、Rは直鎖もしくは分岐または環を形成していても良く置換基を有していても良いC〜C10のアルキル基、または、直鎖もしくは分岐または環を形成していても良く置換基を有していても良いC〜C10のアルキルシリル基を表し、Rは置換基を有していてもよいC〜C30のアリール基、または、直鎖もしくは分岐または環を形成していても良く置換基を有していても良いC〜C20のアルキル基を表し、Rは直鎖もしくは分岐または環を形成していても良く置換基を有していても良いC〜C20のアルキル基、直鎖もしくは分岐または環を形成していても良く置換基を有していても良いC〜C20のアルケニル基、直鎖もしくは分岐または環を形成していても良く置換基を有していても良いC〜C20のアルキニル基、直鎖もしくは分岐または環を形成していても良く置換基を有していても良いC〜C20のアルコキシカルボニルアルキル基、置換基を有していてもよいC〜C30のアラルキル基または置換基を有していてもよいC〜C30のヘテロアラルキル基を表す)で表される光学活性チアゾリン化合物を加水分解することを特徴とする、一般式(6);

(式中、*、Rは前記と同じ意味を表す)で表される光学活性α−置換システインまたはその塩の製造方法。
【請求項13】
加水分解に酸を使用することを特徴とする請求の範囲第11又は12項に記載の製造方法。
【請求項14】
一般式(7);

(式中、*は不斉炭素原子を表し、Rは直鎖もしくは分岐または環を形成していても良く置換基を有していても良いC〜C10のアルキル基、または、直鎖もしくは分岐または環を形成していても良く置換基を有していても良いC〜C10のアルキルシリル基を表し、Rは置換基を有していてもよいC〜C30のアリール基、または、直鎖もしくは分岐または環を形成していても良く置換基を有していても良いC〜C20のアルキル基を表し、Rは直鎖もしくは分岐または環を形成していても良く置換基を有していても良いC〜C20のアルキル基、直鎖もしくは分岐または環を形成していても良く置換基を有していても良いC〜C20のアルケニル基、直鎖もしくは分岐または環を形成していても良く置換基を有していても良いC〜C20のアルキニル基、直鎖もしくは分岐または環を形成していても良く置換基を有していても良いC〜C20のアルコキシカルボニルアルキル基、置換基を有していてもよいC〜C30のアラルキル基または置換基を有していでもよいC〜C30のヘテロアラルキル基を表す)で表される光学活性チアゾリン化合物。
【請求項15】
がメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基またはt−ブチル基である請求の範囲第14項記載の化合物。
【請求項16】
が置換基を有していても良いフェニル基である請求の範囲第14項または15記載の化合物。
【請求項17】
がエチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロプロピルメチル基、シクロペンチルメチル基、シクロヘキシルメチル基、アリル基、2−ブテニル基、1−メチル−2−プロペニル基、2−メチル−2−プロペニル基、プロパルギル基、t−ブトキシカルボニルメチル基、ベンジル基、クロロベンジル基、フルオロベンジル基、ブロモベンジル基、ジクロロベンジル基、ジフルオロベンジル基、ジブロモベンジル基、メチルベンジル基、メトキシベンジル基、3,4−ジブトキシベンジル基、ナフチルメチル基またはインドリルメチル基である請求の範囲第14、15または16項に記載の化合物。

【国際公開番号】WO2004/031163
【国際公開日】平成16年4月15日(2004.4.15)
【発行日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−500088(P2005−500088)
【国際出願番号】PCT/JP2003/012565
【国際出願日】平成15年10月1日(2003.10.1)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】