説明

光学活性なジヒドロピリジンホスホン酸エステルの製造方法

【課題】 抗高血圧薬、狭心症治療薬として有用な、エホニジピンの光学活性体の効率的な製造方法を提供する。
【解決手段】式(1)で表される化合物のラセミ体を溶媒に溶解して過飽和溶液を調製し、前記過飽和溶液に、前記式(1)で表される化合物の、どちらか一方の光学活性体の結晶を種晶として加え、前記種晶を加えた一方の光学活性体の結晶を析出させるか、 又は、前記式(1)で表される化合物の、どちらか一方の光学活性体が過剰に存在する混合体を溶媒に溶解して過飽和溶液を調製し、前記過飽和溶液に、過剰に存在する一方の光学活性体の結晶を種晶として加え、前記過剰に存在する一方の光学活性体の結晶を析出させることを特徴とする、式(1)で表される化合物の光学活性体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗高血圧薬、狭心症治療薬として有用な、エホニジピン(2−[ベンジル(フェニル)アミノ]エチル5−(5,5−ジメチル−2−オキソ−1,3,2−ジオキサホスホリナン−2−イル)−1,4−ジヒドロ−2,6−ジメチル−4−(3−ニトロフェニル)−3−ピリジンカルボキシレート)の光学活性体の、効率的な製造方法に関する。
詳細には、優先晶析法による、エホニジピンの光学活性体の、効率的な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エホニジピン(2−[ベンジル(フェニル)アミノ]エチル5−(5,5−ジメチル−2−オキソ−1,3,2−ジオキサホスホリナン−2−イル)−1,4−ジヒドロ−2,6−ジメチル−4−(3−ニトロフェニル)−3−ピリジンカルボキシレート)は抗高血圧薬、狭心症治療薬として上市されており、その降圧活性は一方の光学活性体(S(+)体)によるものであることが既に明らかにされている(例えば、特許文献1及び非特許文献1参照。)。
エホニジピンの光学活性体の製造法としては以下の3つの方法が既に報告されている。(1)下記の図1で示される、(2S)−2−メトキシ−2−フェニルエチル(4S)−5−(5,5−ジメチル−2−オキソ−1,3,2−ジオキサホスホリナン−2−イル)−1,4−ジヒドロ−2,6−ジメチル−4−(3−ニトロフェニル)−3−ピリジン−カルボキシレートを経由するジアステレオマー分割法(例えば、特許文献2及び非特許文献2参照。)。
【化5】

(2)下記の図2に示した酵素を利用した製造法(例えば、非特許文献3及び非特許文献4参照。)。
【化6】

(3)光学異性体分離カラムを用いて光学分割する方法(例えば、非特許文献5参照。)。
【特許文献1】特開昭63−233992号公報
【特許文献2】特開平02−011592号公報
【非特許文献1】Y.Masuda,T.Sakai,M.Sakasita,M.Takeguti,T.Takahashi,C.Arakawa,M.Hibi,s.Tanaka,K.Shigenobu,and Y.Kasuya,Jpn.J.Pharmacol.,48,p.266(1988)
【非特許文献2】R.Sakoda,H.Matsumoto,K.Seto,Chem.Pharm.Bull.,40(9),p.2377(1992)
【非特許文献3】T.Kato,M.Teshima,H.Ebiike,and K.Achiwa:Chem.Pharm.Bull.,44,p.1132(1996)
【非特許文献4】H.Ebiike,Y.Yamazaki,and K.Achiwa:Chem.Pharm.Bull.,43,p.1251(1995)
【非特許文献5】プロセスケミストリーの新展開(2003)、p253、シーエムシー出版 監修:日本プロセス化学会
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
(1)のジアステレオマー分割法は使用する光学活性アルコールが高価であり、工程が長く、エステル交換の収率が低いこと、及び保護基の脱着を含むことなどから工業的な製造法としては不適である。
(2)の酵素を用いた製造法(不斉合成)も、光学活性なジヒドロピリジン−ジカルボキシレートを得る工程の収率は良好だが、エホニジピンの光学活性体に誘導するためには多段階を要し、工業的製造法の観点から見て、エステル交換の収率が低いこと、資材が高価であること等の欠点を有している。
(3)の光学異性体分離カラムを用いる光学分割法は、工業的にも応用可能な技術ではあるものの、高価な充填剤を使用すること、大量に溶媒を使用すること、及び特殊な設備(擬似移動床システム)を必要とすること等の問題点を抱えている。
本発明が解決しようとする課題は、エホニジピンの光学活性体の、経済性に優れた工業的製造法の確立である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
我々は、エホニジピンの光学活性体の効率的な製造方法を鋭意検討した結果、エホニジピンがラセミ混合物であることに注目し、優先晶析を行うことにより容易に光学活性体が製造できることを見出し、本発明を完成させた。
即ち、本発明は、
1.式(1)
【化7】

で表される化合物のラセミ体を溶媒に溶解して過飽和溶液を調製し、
前記過飽和溶液に、前記式(1)で表される化合物の、どちらか一方の光学活性体の結晶を種晶として加え、前記種晶を加えた一方の光学活性体の結晶を析出させるか、
又は、前記式(1)で表される化合物の、どちらか一方の光学活性体が過剰に存在する混合体を溶媒に溶解して過飽和溶液を調製し、
前記過飽和溶液に、過剰に存在する一方の光学活性体の結晶を種晶として加え、前記過剰に存在する一方の光学活性体の結晶を析出させることを特徴とする、式(1)で表される化合物の光学活性体の製造方法、
2.前記溶媒が、アルコール類又はエステル類である1.記載の光学活性体の製造方法、3.式(1)
【化8】

で表される化合物のどちらか一方の光学活性体が過剰に存在する混合体の結晶を再結晶するか、又は、
どちらか一方の光学活性体が過剰に存在する混合体の溶液から結晶を析出させ、その結果、結晶を取り除いた母液中の過剰となる光学活性体が、結晶とは逆となることを特徴とする、式(1)で表される化合物の光学活性体の精製方法。
4.前記溶媒がアルコール類又はエステル類である3.記載の光学活性体の精製方法、
5.式(1)
【化9】

で表される化合物の、どちらか一方の光学活性体が過剰に存在する混合体を、式(2)
【化10】

(式中、X及びYは同じかまたは異なって水素原子、C1−3アルキル基、ハロゲン原子又はC1−3アルコキシ基を示す。)で表される芳香族炭化水素に溶解して過飽和溶液を調製し、前記過飽和溶液から、前記式(1)で表される化合物のラセミ体と前記芳香族炭化水素の溶媒和物を結晶化させ、
前記結晶を取り除いた後、前記過飽和溶液から、前記式(1)で表される化合物の、過剰に存在する一方の光学活性体を、高い光学純度で得ることを特徴とする、式(1)で表される化合物の光学活性体の製造方法、に関するものである。
【0005】
優先晶析法は、種晶さえあればラセミ体を再結晶するのと同等の手軽さで光学活性体を得ることができ、工業的かつ経済的な観点から極めて有用な方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、更に詳細に本発明を説明する。
尚、本明細書中、「n」はノルマルを、「i」はイソを、「c」はシクロを意味する。
本明細書中に記載する各置換基を説明する。
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。C1−3アルキル基としては、直鎖、分岐もしくは環状であってよく、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基及びc−プロピル基が挙げられる。
1−3アルコキシ基としては、直鎖、分岐もしくは環状であってよく、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基及びc−プロポキシ基が挙げられる。
【0007】
本発明で使用する、式(1)で示される化合物のラセミ体は、特開昭63−233992号公報に記載された製造方法に従って、容易に製造することができる。
本発明で種晶として使用する、式(1)で示される化合物の光学活性体の結晶は、特開平02−011592号公報に記載された製造方法、又は光学異性体分離カラムによる光学分割法などを用いて製造することができる。
【0008】
本発明の、式(1)で表される化合物の光学活性体の製造方法は、式(1)で表される化合物のラセミ体の過飽和溶液に、式(1)で表される化合物の、どちらか一方の光学活性体の結晶を種晶として加えて、結晶を析出させるか、又は、式(1)で表される化合物の、どちらか一方の光学活性体が過剰に存在する過飽和溶液に、過剰に存在する方の光学活性体の結晶を種晶として加えて、結晶を析出させることにより達成される。
【0009】
上記の過飽和溶液は、式(1)で表される化合物のラセミ体又はどちらか一方の光学活性体が過剰に存在する混合体を適当な溶媒に加熱溶解した後、該溶液を冷却する方法、該溶液を濃縮する方法、あるいは該溶液に溶解度を減少させるような溶媒を添加する方法等、常法に従って調製することができる。
【0010】
一方の光学活性体が過剰に存在する混合体を用いて、式(1)で表される化合物の光学活性体を製造する際は、必ずしも種晶として光学活性体の結晶を外部から加える必要はなく、自然晶析によっても光学分割が進行する。
【0011】
式(1)で表される化合物の光学活性体の製造方法に用いる溶媒としては、式(1)で表される化合物が適当な溶解度を示すものであれば、特に限定はしないが、例えばメチルアルコール、エチルアルコール、1−プロパノール及び2−プロパノール等のアルコール類、酢酸エチル等のエステル類、メチルイソブチルケトン及びアセトン等のケトン類、n−ヘキサン、n−ヘプタン及びシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類、イソプロピルエーテル及びテトラヒドロフラン等のエーテル類、ジクロロメタン及びクロロホルム等のハロゲン系溶媒、ジメチルホルムアミド及びジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒、並びに、これらの溶媒の2種以上を任意の割合で含む混合溶媒を使用することができる。好ましい溶媒としては、例えば、アルコール類及びエステル類が挙げられ、特に、好ましい溶媒としては、例えば、アルコール類が挙げられる。好ましい具体的な溶媒としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、2−プロパノール及び酢酸エチルが挙げられ、より好ましくは、例えば、メチルアルコール及びエチルアルコールが挙げられ、更に好ましくは、例えば、メチルアルコールが挙げられる。
【0012】
使用する溶媒の量は、式(1)で表される化合物のラセミ体又はどちらか一方の光学活性体が過剰に存在する混合体が過飽和になる範囲の量であれば特に制限はないが、使用量が多すぎると得られる結晶の量が少なくなり、使用量が少なすぎると得られる結晶の光学純度が低くなることが懸念されるため、適当な範囲で行うことが好ましい。
【0013】
式(1)で表される化合物の溶解度は、溶媒によって異なるので、適当な溶媒の使用量の範囲を一概には決定できないが、例えば、アルコール類又はエステル類を溶媒として使用する場合、溶媒の使用量は、式(1)で表される化合物のラセミ体又はどちらか一方の光学活性体が過剰に存在する混合体の使用量に対して、好ましくは10〜50質量倍、より好ましくは15〜30質量倍の範囲である。
【0014】
種晶として使用する式(1)で表される化合物の、光学活性体の結晶の添加量及び粒度に、制限はないが、通常は、溶液中の式(1)で表される化合物のラセミ体又はどちらか一方の光学活性体が過剰に存在する混合体に対し、0.1〜20質量%、好ましくは0.5〜5質量%の結晶を砕いた粉末が使用される。
【0015】
過飽和溶液を加熱溶解で調製する際の温度としては、特に制限がなく、室温〜溶媒の沸点の範囲まで可能であるが、用いる溶媒に対する式(1)の化合物の溶解度に従って、安定過飽和溶液が得られるように調節する必要がある。
例えば、アルコール類又はエステル類を溶媒として使用する場合は、使用する溶媒の量にもよるが、50℃〜溶媒の沸点の範囲の温度が、過飽和溶液を加熱溶解で調製する際の温度として使用されることが多い。
【0016】
種晶として式(1)で表される化合物の光学活性体の結晶を添加する際の温度も、使用する溶媒の種類及び使用量により変化するため、一概には決定できないが、例えば、アルコール類又はエステル類を溶媒として使用する場合は、好ましくは、40〜60℃の範囲の温度が、光学活性体の結晶を添加する際の温度として使用される。
【0017】
結晶を析出させる際の温度も、使用する溶媒の種類及び使用量により変化するため、一概には決定できないが、例えば、アルコール類又はエステル類を溶媒として使用する場合は、好ましくは、20〜40℃の範囲の温度が、結晶を析出させる際の温度として使用される。
【0018】
結晶を析出させる際の時間としては、ある程度、光学純度が確保できる範囲であれば特に限定はしないが、30分〜5時間程度で十分である。
又、結晶を析出させる際の方法としては、静置で行う方法、攪拌下で行う方法等が挙げられるが、攪拌下で行うのが好ましい。
【0019】
式(1)で表される化合物の光学活性体を工業的に製造する際は、交互に逆の光学活性体を分割する回分法、カラム内に種晶を存在させ、過飽和溶液を連続的に流入させる連続法、また、一方の光学活性体と他方の光学活性体をある間隔を持った場所に種晶として浸漬し、同時にそれぞれの種晶を成長させる方法等、優先晶析法として既知である種々の方法を用いることができる。
このようにして得られた光学活性体は光学純度が不十分な場合には、再結晶等により、さらに光学純度を上げることもできる。
この場合、再結晶を行った後の母液中で過剰となる光学活性体は、結晶化した光学活性体とは異なる光学活性体となるため、精製の効率という点では極めて効率の良い方法であると言える。
【0020】
式(1)で表される化合物の、どちらか一方の光学活性体が過剰に存在する混合体の結晶を再結晶するか、又は、どちらか一方の光学活性体が過剰に存在する混合体の溶液から結晶を析出させることによっても、同様に効率よく精製することができる(即ち、母液中で過剰となる光学活性体は、結晶化した光学活性体とは異なる光学活性体となる。)。
該精製方法は、式(1)で表される化合物の、光学純度の高い混合体を精製する際に、特に有効な手段であり、例えば、光学純度が70%ee以上、好ましくは、80%ee以上の混合体を精製する場合に有効な方法である。
【0021】
該精製方法に使用する溶媒は、式(1)で表される化合物が適当な溶解度を示すものであれば、特に限定はしないが、例えばメチルアルコール、エチルアルコール、1−プロパノール及び2−プロパノール等のアルコール類、酢酸エチル等のエステル類、メチルイソブチルケトン及びアセトン等のケトン類、n−ヘキサン、n−ヘプタン及びシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類、イソプロピルエーテル及びテトラヒドロフラン等のエーテル類、ジクロロメタン及びクロロホルム等のハロゲン系溶媒、ジメチルホルムアミド及びジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒、並びに、これらの溶媒の2種以上を任意の割合で含む混合溶媒を使用することができる。
好ましい溶媒としては、例えば、アルコール類及びエステル類が挙げられ、特に、好ましい溶媒としては、例えば、アルコール類が挙げられる。好ましい具体的な溶媒としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、2−プロパノール及び酢酸エチルが挙げられ、より好ましくは、例えば、メチルアルコール及びエチルアルコールが挙げられ、更に好ましくは、例えば、メチルアルコールが挙げられる。
【0022】
又、結晶化の条件も、種晶を用いない以外は、式(1)で表される化合物の光学活性体の製造方法と同様の条件を用いることができる。
【0023】
式(1)で表される化合物は、芳香族炭化水素類から結晶化を行うと、ラセミ体の溶媒和物として結晶が生成するものの、式(1)で表される化合物の光学活性体は、溶媒和物を形成しない。
更に、生成した、式(1)で表される化合物のラセミ体の溶媒和物の結晶は、使用した芳香族炭化水素類への溶解度が極めて低いため、該結晶を取り除いた母液から、式(1)で表される化合物のいずれか一方の光学活性体を高純度で製造することができる。
【0024】
式(1)で表される化合物のラセミ体の溶媒和物を形成しうる芳香族炭化水素類としては、式(2)
【化11】

(式中、X及びYは同じかまたは異なって水素原子、C1−3アルキル基、ハロゲン原子又はC1−3アルコキシ基を示す。)で表される芳香族炭化水素類が挙げられる。
好ましい、芳香族炭化水素類としては、トルエン及びキシレンが挙げられる。
【0025】
使用する溶媒の量は、式(1)で表される化合物のどちらか一方の光学活性体が過剰に存在する混合体が過飽和になる範囲の量であれば特に制限はないが、式(1)で表される化合物のどちらか一方の光学活性体が過剰に存在する混合体の使用量に対して、好ましくは10〜50質量倍の範囲である。
【0026】
式(1)で表される化合物のラセミ体の溶媒和物の結晶を析出させる際は、通常、種晶を加える必要はないが、種晶として式(1)で表される化合物のラセミ体の溶媒和物の結晶を加えることもできる。
種晶として、式(1)で表される化合物のラセミ体の溶媒和物の結晶を加える場合、その添加量及び粒度に制限はないが、通常は、溶液中の式(1)で表される化合物のラセミ体又はどちらか一方の光学活性体が過剰に存在する混合体に対し、0.1〜20質量%、好ましくは0.5〜5質量%の結晶を砕いた粉末が使用される。
【0027】
過飽和溶液を加熱溶解で調製する際の温度としては、特に制限がなく、室温〜溶媒の沸点の範囲まで可能であるが、用いる溶媒に対する式(1)の化合物の溶解度に従って、安定過飽和溶液が得られるように調節する必要がある。
使用する溶媒の種類及び量にもよるが、通常、50℃〜溶媒の沸点の範囲の温度が、過飽和溶液を加熱溶解で調製する際の温度として使用されることが多い。
種晶として、式(1)で表される化合物のラセミ体の溶媒和物の結晶を加える場合の温度としては、40〜60℃の範囲の温度が好ましい。
結晶を析出させる際の温度としては、0〜40℃の範囲の温度が好ましい。
【0028】
結晶を析出させる際の時間としては、ある程度の光学純度が確保できる範囲であれば特に限定はしないが、30分〜5時間程度で十分である。
又、結晶を析出させる際の方法としては、静置で行う方法、攪拌下で行う方法等が挙げられるが、攪拌下で行うのが好ましい。
【実施例】
【0029】
次に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
尚、実施例に使用した式(1)で表される化合物の光学活性体は、特開昭63−233992号公報の実施例25に記載された方法に従って、式(1)で表される化合物のラセミ体を合成した後、光学異性体分離カラムでHPLC分取したものを用いた。
HPLC分取条件
カラム:CHIRALCELOC(ダイセル化学工業(株)社製)
カラムサイズ:20cmφ×50cm
溶離液:メタノール
カラム温度:室温
流速:760mL/分
又、各実施例において得られた、式(1)で表される化合物の光学活性体の光学純度は光学異性体分離用HPLCカラム(CHIRALCELOC、φ4.6×250mm)を用い、溶離液メタノール、温度40℃、流速1.0mL/分、UV検出(254nm)の条件で分析した。
【0030】
実施例1(溶媒:メタノール)
式(1)で表される化合物のラセミ体1.00gをメタノール25.0gに62℃で溶解させた後、20分かけて53℃まで冷却した。これに式(1)で表される化合物の光学活性体10mg((+)体:100%ee)を接種し、45分かけて33℃まで冷却した後、30〜33℃で1時間攪拌した。析出した結晶をろ取した後、50℃で減圧乾燥し、光学純度88.37%eeの式(1)で表される化合物の光学活性体((+)体)を淡黄色結晶として144.8mg得た。一方、ろ液を濃縮し、光学純度13.33%eeの式(1)で表される化合物の光学活性体((−)体)を黄色泡状物として771.6mg得た。
【0031】
実施例2(溶媒:エタノール)
式(1)で表される化合物のラセミ体1.00gをエタノール25.0gに73℃で溶解させた後、20分かけて53℃まで冷却した。これに式(1)で表される化合物の光学活性体10mg((+)体:100%ee)を接種し、45分かけて35℃まで冷却した後、34〜35℃で1時間攪拌した。析出した結晶をろ取した後、50℃で減圧乾燥し、光学純度11.42%eeの式(1)で表される化合物の光学活性体((+)体)を淡黄色結晶として414.3mg得た。一方、ろ液を濃縮し、光学純度4.35%eeの式(1)で表される化合物の光学活性体((−)体)を黄色泡状物として571.4mg得た。
【0032】
実施例3(溶媒:1−プロパノール)
式(1)で表される化合物のラセミ体1.00gを1−プロパノール25.0gに87℃で溶解させた後、55分かけて47℃まで冷却した。これに式(1)で表される化合物の光学活性体10mg((+)体:100%ee)を接種し、50分かけて30℃まで冷却した後、同温にて1時間攪拌した。析出した結晶をろ取した後、50℃で減圧乾燥し、光学純度52.49%eeの式(1)で表される化合物の光学活性体((+)体)を淡黄色結晶として209.9mg得た。一方、ろ液を濃縮し、光学純度15.45%eeの式(1)で表される化合物の光学活性体((−)体)を黄色泡状物として790mgで得た。
【0033】
実施例4(溶媒:酢酸エチル)
式(1)で表される化合物のラセミ体1.00gを酢酸エチル30.0gに73℃で溶解させた後、20分かけて42℃まで冷却した。これに式(1)で表される化合物の光学活性体10mg((+)体:100%ee)を接種し、40分かけて20℃まで冷却した後、同温にて40分攪拌した。析出した結晶をろ取した後、50℃で減圧乾燥し、式(1)で表される化合物の光学活性体((+)体)を光学純度93.00%eeの淡黄色結晶として87.4mg得た。一方、ろ液を濃縮し、式(1)で表される化合物の光学活性体((−)体)を黄色泡状物として920mg、光学純度9.14%eeで得た。
【0034】
実施例5(繰り返し優先晶出)
式(1)で表される化合物のラセミ体5.00gをMeOH125gに62℃で溶解後、30分かけて51℃まで冷却した。これに式(1)で表される化合物の光学活性体50mg((+)体:100%ee)を接種し、80分かけて30℃まで冷却した後、同温にて60分攪拌した。析出した結晶をろ取した後、50℃で減圧乾燥し、光学純度89.97%eeの式(1)で表される化合物の光学活性体((+)体)を淡黄色結晶として0.568g得た。また、ろ液中には光学純度12.04%eeの式(1)で表される化合物の光学活性体((−)体)が存在した。このろ液に式(1)で表される化合物のラセミ体0.602gを加え、63℃で加熱溶解し、50分かけて50℃まで冷却した。これに式(1)で表される化合物の光学活性体50mg((−)体:100%ee)を接種し、75分かけて30℃まで冷却した後、同温にて60分攪拌した。析出した結晶をろ取した後、50℃で減圧乾燥し、光学純度86.92%eeの式(1)で表される化合物の光学活性体((−)体)を淡黄色結晶として1.364g得た。また、ろ液中には光学純度17.87%eeの式(1)で表される化合物の光学活性体((+)体)が存在した。このろ液に式(1)で表される化合物のラセミ体1.360g、メタノール15.0gを加え、再度63℃で加熱溶解した後、35分かけて54℃まで冷却した。これに式(1)で表される化合物の光学活性体50mg((+)体:100%ee)を接種し、55分かけて30℃まで冷却した後、同温にて55分攪拌した。析出した結晶をろ取した後、50℃で減圧乾燥し、光学純度93.05%eeの式(1)で表される化合物の光学活性体((+)体)を淡黄色結晶として1.270g得た。また、ろ液中に光学純度14.23%eeの式(1)で表される化合物の光学活性体((−)体)が存在した。
【0035】
実施例6(再結晶による精製その1)
式(1)で表される化合物の光学活性体((+)体:100%ee)899.6mg、式(1)で表される化合物のラセミ体100.2mgを混合し、エタノール25.0gに77℃で溶解させた時の光学純度は88.80%eeであった。これを35分かけて28℃まで冷却した後、更に45分かけて23℃まで冷却し、析出した結晶をろ取した後、50℃で減圧乾燥し、光学純度99.71%eeの式(1)で表される化合物の光学活性体((+)体)を淡黄色結晶として891mg得た。また、ろ液を濃縮し、光学純度7.42%eeの式(1)で表される化合物の光学活性体((−)体)を黄色泡状物として0.10gで得た。
【0036】
実施例7(再結晶による精製その2)
式(1)で表される化合物の光学活性体((+)体:100%ee)80.6mg、式(1)で表される化合物のラセミ体420.4mgを混合し、エタノール12.5gに76℃で溶解させた。このときの光学純度は16.70%eeであった。これを40分かけて5℃以下に冷却し、同温で30分攪拌した。析出した結晶をろ取した後、50℃で減圧乾燥し、光学純度26.01%eeの式(1)で表される化合物の光学活性体((+)体)を黄色固体として371.7mg得た。また、ろ液を濃縮し、光学純度7.55%eeの式(1)で表される化合物の光学活性体((−)体)を黄色泡状物として0.12gで得た。
【0037】
実施例8(トルエン晶析による精製)
式(1)で表される化合物の光学活性体((+)体:100%ee)51.7mg、式(1)で表される化合物のラセミ体449.0mgを混合し、トルエン7.50gに95℃で溶解させた。このときの光学純度は10.20%eeであった。これを7分かけて60℃まで冷却した後、式(1)で表される化合物のラセミ体のトルエン溶媒和物5.2mgを接種し、40分かけて5℃以下まで冷却し、同温にて30分攪拌した。析出した結晶をろ取した後、60℃で減圧乾燥し、式(1)で表される化合物のラセミ体のトルエン溶媒和物(実際には、式(1)で表される化合物の光学活性体((+)体)が少量過剰であったため、光学純度は5.65%eeであった。)を黄色固体として506.8mg得た。また、ろ液を濃縮し、光学純度97.96%eeの式(1)で表される化合物の光学活性体((+)体)を黄色残渣として0.05gで得た。
【0038】
実施例9(メタンスルホン酸存在下での優先晶出)
式(1)で表される化合物のラセミ体3.00g(4.75mmol)にメタンスルホン酸300mg(3.12mmol,0.66当量)を加え、メタノール15.0g中で加熱還流(62℃)して溶解させた。30分かけて50℃まで冷却した後、式(1)で表される化合物の光学活性体10mg((+)体:100%ee)を加え、1時間かけて40℃まで冷却し、同温で1時間攪拌した。析出した結晶をろ取し、メタノール2mlで洗浄後、50℃で減圧乾燥し、光学純度30.62%eeの式(1)で表される化合物の光学活性体((+)体)を白色固体として716.2mg得た。一方、14.42gのろ液中に存在する式(1)で表される化合物の光学活性体((−)体)は3.82%eeであった。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明により、経済的に優れた光学活性エホニジピンの製造法が確立された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)
【化1】

で表される化合物のラセミ体を溶媒に溶解して過飽和溶液を調製し、
前記過飽和溶液に、前記式(1)で表される化合物の、どちらか一方の光学活性体の結晶を種晶として加え、前記種晶を加えた一方の光学活性体の結晶を析出させるか、
又は、前記式(1)で表される化合物の、どちらか一方の光学活性体が過剰に存在する混合体を溶媒に溶解して過飽和溶液を調製し、
前記過飽和溶液に、過剰に存在する一方の光学活性体の結晶を種晶として加え、前記過剰に存在する一方の光学活性体の結晶を析出させることを特徴とする、式(1)で表される化合物の光学活性体の製造方法。
【請求項2】
前記溶媒が、アルコール類又はエステル類である請求項1記載の光学活性体の製造方法。
【請求項3】
式(1)
【化2】

で表される化合物のどちらか一方の光学活性体が過剰に存在する混合体の結晶を再結晶するか、又は、
どちらか一方の光学活性体が過剰に存在する混合体の溶液から結晶を析出させ、その結果、結晶を取り除いた母液中の過剰となる光学活性体が、結晶とは逆となることを特徴とする、式(1)で表される化合物の光学活性体の精製方法。
【請求項4】
前記溶媒がアルコール類又はエステル類である請求項3記載の光学活性体の精製方法。
【請求項5】
式(1)
【化3】

で表される化合物の、どちらか一方の光学活性体が過剰に存在する混合体を、式(2)
【化4】

(式中、X及びYは同じかまたは異なって水素原子、C1−3アルキル基、ハロゲン原子又はC1−3アルコキシ基を示す。)で表される芳香族炭化水素に溶解して過飽和溶液を調製し、前記過飽和溶液から、前記式(1)で表される化合物のラセミ体と前記芳香族炭化水素の溶媒和物を結晶化させ、
前記結晶を取り除いた後、前記過飽和溶液から、前記式(1)で表される化合物の、過剰に存在する一方の光学活性体を、高い光学純度で得ることを特徴とする、式(1)で表される化合物の光学活性体の製造方法。

【国際公開番号】WO2005/033117
【国際公開日】平成17年4月14日(2005.4.14)
【発行日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514363(P2005−514363)
【国際出願番号】PCT/JP2004/011607
【国際出願日】平成16年8月12日(2004.8.12)
【出願人】(000003986)日産化学工業株式会社 (510)
【Fターム(参考)】