説明

光学活性アリールアミノホスホニウム塩、不斉合成反応用触媒、及び光学活性化合物の製造方法

【課題】不斉合成反応に有用な光学活性アリールアミノホスホニウム塩及び触媒、並びに収率及び立体選択性に優れる光学活性化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】光学活性アリールアミノホスホニウム塩の存在下、電子吸引性基により活性化された炭素−炭素不飽和結合への求核付加反応を行い、光学活性化合物を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学活性アリールアミノホスホニウム塩に関する。本発明は、該塩を含む不斉合成反応用触媒及び該塩を用いた光学活性化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、単に目的とする化合物を得るだけでなく、特定の立体構造を有する化合物を得る方法、即ち、立体選択的な合成方法の開発が望まれている。例えば、生理活性物質には、不斉炭素原子を有する光学活性体が多い。このため、望みの絶対配置を有する光学活性体を得ることは重要である。光学活性体を得る方法として、ラセミ混合物を合成し、その後、光学分割等によって光学活性体を分取する方法が挙げられる。しかし、この方法は、化学変換が必要である等、効率が悪い。そこで、選択的に光学活性体が得られる不斉合成方法の開発が進められている。
【0003】
例えば、非特許文献1には、種々の触媒を用いたアザ−マイケル反応によるβ−アミノカルボニル化合物の不斉合成反応が記載されている。非特許文献2には、特定のテトラアミノホスホニウム塩を用いた光学活性β−ニトロアルコールの製造方法が記載されている(下記式参照。「*」は不斉炭素原子である。)。また、近年、光学活性ブレンステッド酸触媒を用いた不斉合成反応の研究が進められている(例えば、非特許文献3参照)。
【0004】
【化1】

【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Eur. J. Org. Chem. 2005, 633-639
【非特許文献2】J. AM. CHEM. SOC. 2007, 129, 12392-12393.
【非特許文献3】Chem. Rev. 2007, 107, 5713
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、不斉合成反応に有用な新規な光学活性アリールアミノホスホニウム塩及び不斉合成反応用触媒を提供することである。本発明の他の目的は、収率及び立体選択性に優れる光学活性化合物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の光学活性アリールアミノホスホニウム塩(以下、「本発明の塩」という。)は、下記式(1)で表される。式中、R〜R16は、それぞれ独立に水素原子又は任意の置換基である。R〜R16のうち、隣接する基同士は互いに結合して環を形成してもよい。Xは対イオンである。
【0008】
【化2】

【0009】
本発明の不斉合成反応用触媒(以下、「本発明の触媒」という。)は、本発明の塩を含む。本発明の光学活性化合物を製造する方法は、本発明の塩の存在下、 電子吸引性基により活性化された炭素−炭素不飽和結合への求核付加反応を行う方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の塩及び触媒は、新規な光学活性ブレンステッド酸触媒として機能し、不斉合成反応に用いることができる。本発明の製造方法は、光学活性化合物の収率及び立体選択性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】アリールアミノホスホニウム塩(2b・BArF)のH−及び13C−NMRスペクトルである。
【図2】アリールアミノホスホニウム塩(1a・BArF)のH−及び13C−NMRスペクトルである。
【図3】アリールアミノホスホニウム塩(1b・BArF)のH−及び13C−NMRスペクトルである。
【図4】アリールアミノホスホニウム塩(2c・BArF)のH−及び13C−NMRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(1)光学活性アリールアミノホスホニウム塩
式(1)中、R〜R16は、それぞれ独立に水素原子又は任意の置換基である。該任意の置換基の種類には特に限定はない。上記任意の置換基は、炭化水素基を有する置換基でもよく、炭化水素基を有しない置換基でもよい。
【0013】
上記炭化水素基を有する置換基において、上記炭化水素基の数は1個(例えば、アルキルアミノ基)でもよく、2個以上(例えば、ジアルキルアミノ基)でもよい。該炭化水素基が2個以上の場合、各炭化水素基は同じ基でもよく、異なる基でもよい。上記炭化水素基の炭素数には特に限定はない。アリール基を有しない上記炭化水素基の場合、その炭素数は通常1〜10、好ましくは1〜8、更に好ましくは1〜6である。アリール基を有する上記炭化水素基の場合、その炭素数は通常2〜15、好ましくは4〜12、更に好ましくは6〜10である。上記炭化水素基としては、例えば、炭素数1〜4の直鎖又は分岐状アルキル基及びアリール基(例えば、フェニル基)が挙げられる。
【0014】
上記炭化水素基を有する置換基としては、例えば、一価の炭化水素基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、シリル基、及びシロキシ基が挙げられる。上記炭化水素基を有しない置換基としては、例えば、ハロゲン原子(F、Cl、Br及びI)、カルボキシル基、ヒドロキシル基、カルバモイル基、チオール基、アミノ基、シアノ基、及びニトロ基が挙げられる。上記任意の置換基として好ましくは、ハロゲン原子又は一価の炭化水素基である。
【0015】
上記一価の炭化水素基の構造に特に限定はない。上記一価の炭化水素基として具体的には、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基 、アリール基、アリールアルキル基、アリールアルケニル基、及びアリールアルキニル基が挙げられる。
【0016】
上記アルキル基、アルケニル基、及びアルキニル基(以下、「アルキル基等」と総称する。)の構造には特に限定はない。上記アルキル基等は、鎖状構造でもよく、環状構造(シクロアルキル基、シクロアルケニル基、及びシクロアルキニル基)でもよい。また、上記アルキル基等は、直鎖状でもよく、分岐状でもよい。
【0017】
上記アルキル基等は、炭素原子及び水素原子のみで構成されていてもよく、その構造中に炭素原子及び水素原子以外の原子を1個又は2個以上含んでいてもよい。例えば、上記アルキル基等は、置換基として、炭素原子及び水素原子以外の原子を含む置換基を1種又は2種以上有していてもよい。また、上記アルキル基等は、鎖状構造中又は環状構造中に炭素原子及び水素原子以外の原子を1個又は2個以上含んでいてもよい。よって、上記アルキル基等は、非芳香族複素環基(例えば、ピペリジル基及びモルホリル基)でもよい。上記炭素原子及び水素原子以外の原子としては、例えば、酸素原子、窒素原子、及び硫黄原子の1種又は2種以上が挙げられる。
【0018】
上記アルキル基等の炭素数には特に限定はない。上記アルキル基の炭素数は、通常1〜10、好ましくは1〜8、更に好ましくは1〜6、より好ましくは1〜4、特に好ましくは1〜3である。また、上記アルケニル基及びアルキニル基の炭素数は、通常2〜10、好ましくは2〜8、更に好ましくは2〜6、より好ましくは2〜4である。上記アルキル基等が環状構造の場合、上記アルキル基等の炭素数は、通常4〜12、好ましくは4〜10、更に好ましくは5〜8、より好ましくは6〜8である。
【0019】
上記アルキル基として具体的には、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、及び2−エチルヘキシル基が挙げられる。上記シクロアルキル基として具体的には、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、及び2−メチルシクロヘキシル基が挙げられる。上記アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、及びイソプロペニル基が挙げられる。上記シクロアルケニル基として具体的には、例えば、シクロヘキセニル基が挙げられる。
【0020】
上記アリール基、アリールアルキル基、アリールアルケニル基、及びアリールアルキニル基(以下、「アリール基等」と総称する。)の構造には特に限定はない。該アリール基等の炭素数は通常2〜15、好ましくは4〜12、更に好ましくは6〜10である。また、上記アリール基等は、他の置換基を1種又は2種以上有していてもよい。
【0021】
上記アリール基の種類及び構造には特に限定はない。上記アリール基として具体的には、例えば、フェニル基、多環式芳香族炭化水素基、及び芳香族複素環基が挙げられる。上記多環式芳香族炭化水素基として具体的には、例えば、ナフチル基(1−ナフチル基及び2−ナフチル基等)が挙げられる。また、上記芳香族複素環基に含まれるヘテロ原子としては、例えば、酸素原子、窒素原子、及び硫黄原子の1種又は2種以上が挙げられる。上記芳香族複素環基として具体的には、例えば、フラン、チオフェン、ピロール、ベンゾフラン、ベンゾチオフェン、インドール、ピラゾール、イミダゾール、トリアゾール、イソキサゾール、オキサゾール、イソチアゾール、チアゾール、ピリジン、キノリン、イソキノリン、及びピリミジン由来の基が挙げられる。
【0022】
上記アリール基は、無置換でもよく、他の置換基で置換されていてもよい。該他の置換基は、電子吸引性基及び電子供与性基のいずれでもよい。上記他の置換基として具体的には 、例えば、アルキル基(例えば、メチル基及びエチル基等の炭素数1〜4の直鎖又は分岐アルキル基)、ハロゲン原子(F、Cl、Br、I等)、及びアルコキシ基が挙げられる。上記他の置換基がハロゲン原子であると、後述する電子吸引性基により活性化された炭素−炭素不飽和結合(二重結合又は三重結合)への求核付加反応において、光学活性化合物の収率及びエナンチオ選択性が向上するので好ましい。
【0023】
上記他の置換基の数にも特に限定はない。該他の置換基の数としては、通常1〜3である。上記他の置換基が2以上存在する場合、各基は同じ基でもよく、異なる基でもよい。上記他の置換基の位置にも特に限定はなく、o−、m−、及びp−のいずれでもよい。上記他の置換基の位置は通常、m−及び/又はp−である。
【0024】
上記アリール基としては、例えば、フェニル基及び置換フェニル基が挙げられる。該置換フェニル基としては、例えば、ハロゲン化フェニル基が挙げられる。該ハロゲン化フェニル基中のハロゲン原子の種類、数及び位置には特に限定はない。該ハロゲン原子としては、例えば、F、Cl、Br、及びIが挙げられる。上記ハロゲン化原子の数は通常1〜3である。上記ハロゲン原子の位置はo−、m−、及びp−のいずれでもよい。上記ハロゲン原子は通常、m−及び/又はp−である。上記ハロゲン化フェニル基としては、3,4,5−トリハロゲン化フェニル基、より具体的には、例えば、3,4,5−トリフルオロフェニル基が挙げられる。
【0025】
上記アリール基の説明は、上記アリールアルキル基、上記アリールアルケニル基、及び上記アリールアルキニル基中のアリール基にも妥当する。
【0026】
〜R16の構造の組み合わせには特に限定はない。R〜R16の構造として、例えば、上記で例示した各構造を、必要に応じて適宜組み合わせることができる。本発明の塩が光学活性であるという条件を満たす限り、R〜R16は同じ基でもよく、異なる基でもよい。本発明の塩として、例えば、C2対称構造の塩(下記式参照)が挙げられる。
【0027】
【化3】

【0028】
式(1)中、R及びRはアリール基とすることができる。上記アリール基の内容については、上記の説明が妥当する。
【0029】
式(1)中、R及びR、R及びR、R11及びR12、並びにR13及びR14の全部又は一部は、互いに結合して環を形成していてもよい。例えば、R及びR、R及びR、R11及びR12、並びにR13及びR14が互いに結合して環を形成していてもよい。該環の構造には特に限定はない。例えば、該環の環員数には特に限定はない。例えば、R及びRが互いに結合して環を形成している場合、該環は4員環〜10員環、好ましくは5員環〜8員環とすることができる(R及びRが結合している炭素原子も含む。)。この説明は、R及びR、R11及びR12、並びにR13及びR14が互いに結合して形成された環にも妥当する。
【0030】
上記環は、飽和結合のみで構成されていてもよく、不飽和結合を含んでいてもよい。よって、上記環は、非芳香環(非芳香族複素環を含む。)でもよく、芳香環(芳香族複素環を含む。)でもよい。上記環として具体的には、例えば、ベンゼン環(6員環)が挙げられる。上記環は、任意の置換基を有していてもよい。該任意の置換基の内容については、上記の説明が妥当する。また、上記環は、その構造中にヘテロ原子(酸素原子、窒素原子、及び硫黄原子等)を含んでいてもよい。
【0031】
及びR、R及びR、R11及びR12、並びにR13及びR14が互いに結合して環を形成した本発明の塩としては、例えば、下記式(1−1)で表される塩が挙げられる。式(1−1)中、環A〜環Dは、それぞれ独立して置換基を有していてもよい芳香環を表す。環A〜環Dは、飽和結合のみで構成されていてもよく、不飽和結合を含んでいてもよい。よって、環A〜環Dは、非芳香環(非芳香族複素環を含む。)でもよく、芳香環(芳香族複素環を含む。)でもよい。環A〜環Dは、任意の置換基を有していてもよい。該任意の置換基の内容については、上記の説明が妥当する。環A〜環Dは、その構造中にヘテロ原子(酸素原子、窒素原子、及び硫黄原子等)を含んでいてもよい。環A〜環Dは芳香環(芳香族複素環を含む。)が好ましく、ベンゼン環がより好ましい。
【0032】
【化4】

【0033】
本発明の塩において、対イオン(X)の種類及び価数には特に限定はない。本発明では、必要に応じて適宜イオン交換することにより、任意の対イオン(X)を有する塩とすることができる。上記Xとして、一般的な一価又は多価の陰イオンを用いることができる。上記Xとして具体的には、例えば、ハロゲンイオン(F、Cl、Br、及びI)、硫酸イオン、硫酸水素イオン、カルボン酸イオン、リン酸イオン、亜リン酸イオン、フェノキシド、ホウ酸イオン、テトラアリールホウ酸イオン(Ar)、テトラフルオロホウ酸イオン、及びヘキサフルオロリン酸イオンが挙げられる。上記Xとして好ましくは、テトラアリールホウ酸イオンである。上記テトラアリールホウ酸イオンとして具体的には、例えば、Barfate((3,5−(CF−C)が好ましく挙げられる。上記Xがテトラアリールホウ酸イオンであると、エナンチオ選択的活性化に優れ、不斉合成反応において収率及びエナンチオ選択性を高めることができるので好ましい。
【0034】
上記テトラアリールホウ酸イオンに含まれるアリール基(Ar)の種類及び構造には特に限定はない。上記アリール基としては、例えば、フェニル基が挙げられる。
【0035】
上記アリール基に含まれる芳香環は、無置換でもよく、他の置換基で置換されていてもよい。上記他の置換基は、電子吸引性基及び電子供与性基のいずれでもよい。上記他の置換基として具体的には 、例えば、ハロゲン化アルキル基が挙げられる。該ハロゲン化アルキル基の炭素数は通常1〜4である。上記ハロゲン化アルキル基は直鎖状でもよく、又は分岐を有していてもよい。上記ハロゲン化アルキル基中のハロゲン原子としては、例えば、F、Cl、Br、及びIが挙げられる。上記ハロゲン原子の数には特に限定はなく、通常1〜3である。上記ハロゲン化アルキル基としては、例えば、ハロゲン化メチル基(例えば、トリフルオロメチル基)及びハロゲン化エチル基が挙げられる。
【0036】
上記他の置換基の数にも特に限定はない。該他の置換基の数としては、通常1〜3である。尚、上記他の置換基が2以上存在する場合、各基は同じ基でもよく、異なる基でもよい。上記他の置換基の位置にも特に限定はなく、o−、m−、及びp−のいずれでもよい。上記他の置換基の位置は通常、m位である。
【0037】
本発明の塩は、通常、軸不斉光学活性体である。軸不斉光学活性体である本発明の塩としては、(R,R)体、(S,S)体、(R,S)体、及び(S,R)体が存在する。本発明の塩はこのいずれでもよい。本発明が(R,S)体又は(S,R)体であると、不斉合成反応において収率及びエナンチオ選択性が向上するので好ましい。軸不斉光学活性体である本発明の塩としては、例えば、下記式(1−2)又は(1−3)で表される塩が挙げられる。式中、環A’〜環D’は、それぞれ独立して置換基を有していてもよい。環A’〜環D’の内容は、環A〜環Dの説明が妥当する。
【0038】
【化5】

【0039】
軸不斉光学活性体である本発明の塩として具体的には、以下に示す塩が挙げられる。式中、「Ar」はアリール基である。上記のように、該塩が(R,S)体又は(S,R)体であると、不斉合成反応において収率及びエナンチオ選択性が向上するので好ましい。
【0040】
【化6】

【0041】
本発明の塩の製造方法には特に限定はない。本発明の塩は、例えば、アリールアミン誘導体(例えば、ビナフチルアミン又はその誘導体)及びハロゲン化リン化合物(例えば、PCl、PCl、及びPOCl)を反応させることにより得ることができる(下記式参照)。この方法により得られる塩は通常、対イオン(X)がハロゲンイオンである。よって、対イオン(X)がハロゲンイオンの塩を得た後、適宜イオン交換することにより、対イオンを任意の陰イオンとすることができる。また、出発物質として特定の立体異性体を用いたり、あるいは必要に応じて公知の光学分割等を行うことにより、特定の立体異性体である本発明の塩(例えば、(R,S)体)を得ることができる。
【0042】
【化7】

【0043】
本発明の塩は、カチオン性の光学活性ブレンステッド酸触媒として機能する。特に、本発明の塩は、エナンチオ選択的活性化(例えば、非イオン性ルイス塩基のエナンチオ選択的活性化)に有用である。よって、本発明の塩は、不斉合成反応において高収率・高エナンチオ選択性という機能を発現することができる。本発明の塩がかかる機能を発現する理由は不明であるが、発明者はその理由を以下のように考えている。即ち、窒素原子上に電子吸引性基であるアリール基を導入し、窒素及びリン上の電子密度を低下させることにより、NH水素の酸性度を高め、潜在的なブレンステッド酸性を引き出していると考えられる。また、本発明の塩は、[7,7]−P−スピロ環構造を有するが、かかる構造は剛直であることから、高い分子認識能を有していると考えられる。これらが本発明の塩が上記機能を発現する理由と考えられる。尚、上記説明は発明者の推測である。従って、上記説明は何ら本発明を定義する説明ではなく、本発明を定義又は限定する意図はない。
【0044】
(2)不斉合成反応用触媒
本発明の触媒は、本発明の塩を含む限り、その組成には特に限定はない。本発明の触媒は、本発明の塩のみからなる構成でもよく、他の成分を含んでいてもよい。
【0045】
本発明の触媒の形態には特に限定はない。本発明の触媒は、溶媒中に存在(溶解又は分散)していてもよく、該溶媒を留去して残渣として存在していてもよい。本発明の触媒は、必ずしも触媒として単離する必要はない。例えば、本発明の触媒は、調製した状態でそのまま不斉合成反応に用いてもよい。より具体的には、例えば、適宜の溶媒中で本発明の触媒を生成した後、この溶液を不斉合成反応の反応溶媒に添加してもよい。また、適宜の溶媒中で本発明の触媒を生成し、次いで、この溶液に不斉合成反応の出発物質を添加して、そのまま引き続き不斉合成反応を行ってもよい。
【0046】
本発明の触媒が溶媒中に存在している場合、該溶媒の種類には特に限定はない。上記のように、本発明の触媒は、調製した状態でそのまま不斉合成反応に用いることができる。よって、上記溶媒は、不斉合成反応の溶媒と同じ又は該溶媒と同様の性質を有する溶媒が好ましい。該溶媒は極性有機溶媒でもよく、非極性有機溶媒でもよい。上記極性有機溶媒はプロトン性極性有機溶媒でもよく、非プロトン性極性有機溶媒でもよい。上記溶媒は1種でもよく、2種以上の混合溶媒でもよい。
【0047】
上記極性有機溶媒としては、例えば、THF、アニソール、1,4−ジオキサン、シクロペンチルメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、及びアリルアルコール)、 及びエステル化合物(例えば、酢酸エチル)が挙げられる。また、上記極性有機溶媒として、アミド系溶媒(DMF及びNMP等)、ウレア系溶媒(DMPU等)、リン酸アミド系溶媒(HMPA等)、ニトリル系溶媒(プロピオニトリル等)、及びニトロアルカン系溶媒(ニトロメタン及びニトロエタン等)を用いることができる。上記非極性溶媒は、脂肪族有機溶媒でもよく、芳香族有機溶媒でもよい。該脂肪族有機溶媒としては、例えば、アルカン及びシクロアルカン(例えば、炭素数4以上、好ましくは5以上)が挙げられる。上記脂肪族有機溶媒として具体的には、例えば、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、及びオクタンが挙げられる。更に、上記芳香族有機溶媒としては、例えば、ベンゼン及びトルエンが挙げられる。
【0048】
上記不斉合成反応の種類には特に限定はない。上記不斉合成反応としては、例えば、電子吸引性基により活性化された炭素−炭素不飽和結合(二重結合又は三重結合)への求核付加反応が挙げられる。該求核付加反応の内容については、後述の説明が妥当する。
【0049】
上記不斉合成反応として具体的には、例えば、ニトロオレフィン類及び芳香族アミンを反応させるβ−アミノニトロアルカンの合成反応が挙げられる。上記ニトロオレフィン類及び上記芳香族アミンの内容は、後述の説明が妥当する。塩基性化合物であるアミンを求核剤とする反応を、酸触媒によって制御することは通常困難である。しかし、本発明の触媒によれば、塩基性化合物であるアミンを求核剤とする反応を、酸触媒によって制御することができる。
【0050】
(3)光学活性化合物の製造方法
本発明の製造方法では、本発明の塩の存在下、 電子吸引性基により活性化された炭素−炭素不飽和結合(二重結合又は三重結合)への求核付加反応を行い、光学活性化合物を製造する。
【0051】
本発明の製造方法において、電子吸引性基により活性化された炭素−炭素不飽和結合を持つ化合物(出発物質)及び付加する求核剤の種類及び構造に特に限定はない。上記電子吸引性基としては、例えば、ニトロ基、カルボニル基、シアノ基、ホスホリル基、及びスルホニル基が挙げられる。上記電子吸引性基として好ましくはニトロ基である。また、上記求核剤としては、例えば、アルコール及びアミンが挙げられる。上記出発物質として、後述する式(2)で表される化合物(以下、「化合物(2)」という。)が挙げられる。
【0052】
上記求核付加反応の一例を以下に示す。下記式中、「EWG」は電子吸引性基を表す。「Nu」は求核剤を表す。下記反応式では、電子吸引性基(EWG)により活性化されたオレフィンの二重結合に求核剤(Nu)が付加して光学活性化合物が生成する。式中、「*」は不斉炭素原子である。上記電子吸引性基及び上記求核剤の内容については、上記の説明が妥当する。
【0053】
【化8】

【0054】
式(2)中、R17〜R19はそれぞれ独立に水素原子又は任意の置換基である。該任意の置換基の内容は、R〜R16における説明が妥当する。但し、R17及びR18は異なる基である。R19はR17又はR18と同じ基でもよく、異なる基でもよい。「*」が不斉炭素原子である限り、R17〜R19のうちのいずれか2つが相互に結合して環を形成していてもよい。
【0055】
化合物(2)としては、例えば、R17が水素原子又は一価の炭化水素基であり、R18がR17とは異なる一価の炭化水素基である化合物が挙げられる。より具体的には、R17が水素原子又はアルキル基であり、R18がアリール基である化合物が挙げられる。上記一価の炭化水素基、上記アルキル基、及び上記アリール基の内容は、R〜R16における説明が妥当する。化合物(2)として具体的には、ニトロオレフィン類(「EWG」がニトロ基)が挙げられる。上記ニトロオレフィン類としてより具体的には、β−ニトロスチレン又はその誘導体が挙げられる。
【0056】
本発明の製造方法として具体的には、例えば、化合物(2)及び下記式(3)で表される芳香族アミン(以下、「芳香族アミン(3)」という。)を反応させ、下記式(4)で表される光学活性化合物(以下、「光学活性化合物(4)」)を製造する方法が挙げられる。この反応では、芳香族アミン(3)が求核剤となり、これが電子吸引性基(EWG)により活性化された化合物(2)の二重結合に付加して光学活性化合物(4)が生成する。式(4)中、「*」は不斉炭素原子である。
【0057】
【化9】

【0058】
式(3)中、R20は水素原子又は一価の炭化水素基であり、Ar’はアリール基である。上記一価の炭化水素基の内容は、R〜R16における説明が妥当する。
【0059】
上記アリール基(Ar’)は、無置換でもよく、他の官能基で置換されていてもよい。該他の官能基は、電子吸引性基及び電子供与性基のいずれでもよいが、電子供与性基であると、光学活性化合物(4)の収率及びエナンチオ選択性が向上するので好ましい。上記他の官能基として具体的には 、例えば、アルキル基(例えば、メチル基及びエチル基等の炭素数1〜4の直鎖又は分岐アルキル基)、ハロゲン原子(F、Cl、Br等)、及びアルコキシ基が挙げられる。上記他の官能基がアルコキシ基であると、1,4−付加体の収率及びエナンチオ選択性が向上するので好ましい。上記アルコキシ基としては、例えば、炭素数1〜6、好ましくは1〜4の直鎖又は分岐アルキル基を有するアルコキシ基が挙げられる。上記アルコキシ基として具体的には、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、及びi−プロポキシ基が挙げられる。
【0060】
上記他の官能基の数にも特に限定はない。該他の官能基の数としては、通常1〜3、好ましくは1又は2である。尚、上記他の官能基が2以上存在する場合、各基は同じ基でもよく、異なる基でもよい。上記他の官能基の位置にも特に限定はなく、o−、m−、及びp−のいずれでもよい。上記他の官能基の位置は通常、o−及び/又はp−である。
【0061】
芳香族アミン(3)として具体的には、例えば、アニリン又はその誘導体(芳香環に他の置換基を有するアニリン)が挙げられる。該アニリン誘導体として好ましくは、o−及び/又はp−に電子供与性基を有するアニリン、より具体的には、2位及び4位に電子供与性基を有するアニリンが挙げられる。上記電子供与性基として好ましくは、上記アルコキシ基である。
【0062】
化合物(2)と芳香族アミン(3)との割合には特に限定はない。化合物(2)と芳香族アミン(3)との割合(当量比)は、通常1:(0.5〜3)、好ましくは1:(0.8〜2)とすることができる。
【0063】
本発明の製造方法の具体的な手順に限定はない。本発明の製造方法の具体的な手順として、例えば、以下の方法が挙げられる。(1)本発明の塩を製造した後、本発明の塩を単離せず、そのまま本発明の塩を含む溶液に出発物質を添加する。(2)別途用意した溶媒に、本発明の塩及び出発物質を添加する。
【0064】
本発明の製造方法では、本発明の塩の存在下、求核付加反応を行う。ここで、「本発明の塩の存在下」とは、本発明の塩が反応過程の少なくとも一部の段階で存在していればよく、反応過程の全ての段階で常に存在している必要はない。即ち、本発明の製造方法では、本発明の塩を反応系に加えれば、「本発明の塩の存在下」の要件を満たす。従って、本発明の製造方法では、本発明の塩を反応系に加えた後、反応過程で本発明の塩に何らかの変化が生じたとしても、「本発明の塩の存在下」に含まれる。例えば、本発明の塩を反応系に加えた後、系中で何らかの変化が生じ、この変化物が反応に寄与する場合も「本発明の塩の存在下」に含まれる。また、本発明の触媒を用いる場合も、「本発明の塩の存在下」に含まれる。
【0065】
本発明の製造方法において、本発明の塩の量には特に限定はない。本発明の塩の量は、出発物質(電子吸引性基により活性化された炭素−炭素不飽和結合を持つ化合物)に対して通常0.5〜5mol%、好ましくは1〜3mol%とすることができる。
【0066】
本発明の製造方法において、溶媒の種類には特に限定はない。該溶媒としては極性有機溶媒を用いてもよく、非極性有機溶媒を用いてもよい。上記極性有機溶媒はプロトン性極性有機溶媒でもよく、非プロトン性極性有機溶媒でもよい。また、上記溶媒は1種でもよく、2種以上の混合溶媒でもよい。上記溶媒の種類及び内容は、本発明の触媒の項における説明が妥当する。
【0067】
本発明の製造方法の反応条件には特に限定はない。反応条件 は、出発物質の種類及び構造等に応じて、適宜調整することができる。反応時間は通常3〜48時間、好ましくは3〜30時間とすることができる。また、反応温度は通常−50〜40℃、好ましくは−30〜30℃、更に好ましくは−20〜10℃とすることができる。
【0068】
本発明の製造方法の反応雰囲気には特に限定はない。該反応雰囲気は、無酸素雰囲気でもよく、酸素雰囲気でもよい。本発明の製造方法は、例えば、窒素ガス雰囲気下又は希ガス(ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス)雰囲気下で行うことができる。
【0069】
本発明の製造方法では、反応終了後、公知の方法、例えば、蒸留、吸着、抽出、及び再結晶等の方法又はこれらの方法を組み合わせて、目的の光学活性化合物の回収及び精製を行うことができる。また、必要に応じて光学分割等により、目的とする光学活性体を更に精製することができる。
【実施例】
【0070】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。尚、本発明は、実施例に示す形態に限られない。本発明の実施形態は、目的及び用途等に応じて、本発明の範囲内で種々変更することができる。
【0071】
本実施例において赤外線スペクトルは、「JASCO FT/IR−300Eスペクトロメーター」により測定した。
【0072】
H−NMRスペクトルは、「Varian INOVA−500(500MHz)スペクトロメーター」により測定した。化学シフトは、溶媒の残存シグナル(CDOD;3.31ppm)又はテトラメチルシラン(0.0ppm)を内部標準(CDCl及びアセトン−d)としてppmで記録した。
【0073】
13C−NMRスペクトルは、「Varian INOVA−500(126MHz)スペクトロメーター」により、完全プロトンデカップリングで測定した。化学シフトは、溶媒の残存シグナル(CDCl;77.16ppm、CDOD;49.0ppm、アセトン−d;29.84ppm)を内部標準としてppmで記録した。
【0074】
19F−NMRスペクトルは、「Varian Mercury−300BB(282MHz)スペクトロメーター」で記録した。化学シフトは、CF(−64.0ppm)を外部標準としてppmで記録した。
【0075】
31P−NMRスペクトルは、「Varian Mercury−300BB(121MHz)スペクトロメーター」により、完全プロトンデカップリングで測定した。化学シフトは、HPO(0.0ppm)を外部標準としてppmで記録した。
【0076】
スペクトルデータは、化学シフト、積分値、多重度(s=1重線、d=2重線、t=3重線、q=4重線、m=多重線、br=広い1重線)、及びカップリング定数(Hz)の順で表記した。
【0077】
旋光度は、「JASCO DIP−100 ポラリメーター」により測定した。高分解能マススペクトル分析は、「BRUKER DALTONICS microTOF focus−KRスペクトロメーター」により測定した。TLC分析は、「Merck precoated TLC plates」(シリカゲル60、GF254、0.25mm)により行った。フラッシュカラムクロマトグラフィーは、「シリカゲル60」(球形、40〜50μm、関東化学工業社製)により行った。鏡像過剰率は、キラルカラム(φ4.6mm×250mm、DAICEL社製「CHIRALCEL OD−H」又は「CHIRALPAK AD−H」)を用いたHPLC分析により求めた。
【0078】
反応は特段の記載がない限り、アルゴンガス雰囲気下で行った。トルエン及びテトラヒドロフラン(THF)は、関東化学工業社製「Dehydrated Solvent system」から供給された。3,3’−ジアリール置換ビナフチルジアミンは、文献(J.Org.Chem.2008,73,7387)記載の方法により光学活性的に調製した。他の物質は市販品を用いた。
【0079】
(1)光学活性アリールアミノホスホニウム塩の合成
光学活性アリールアミノホスホニウム塩の合成経路を以下に示す。
【0080】
【化10】

【0081】
3,3’−ジフェニル−(R)−2,2’−ジアミノ−1,1’−ビナフチルジアミン(44.1mg、0.10mmol、1.00当量)のトルエン溶液(0.5ml)を、PCl(23.6mg、0.10mmol、1.00当量)のトルエン溶液(0.5ml)に室温で加え、この反応溶液を50℃で1時間攪拌した。次いで、(S)−2,2’−ジアミノ−1,1’−ビナフチルジアミン(BINAM)(42.7mg、0.15mmol、1.50当量)を反応溶液に加え、110℃で一晩攪拌した。揮発物を蒸発させた後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離剤としてクロロホルム/メタノール=20/1の混合液を用いた。)により精製し、を行い、ホスホニウムクロリド(2b・Cl)を得た(39.5mg、0.05mmol、収率50%)。
【0082】
アリールアミノホスホニウム塩(2b・Cl)(39.5mg、0.05mmol、1.00当量)及びNa[B(3,5−(CF−C](NaBArF)(47.0mg、0.05mmol、1.05当量)をTHF(0.1ml)に溶解した。このTHF溶液を室温で10分間攪拌し、水で希釈した。水層をジエチルエーテルで3回抽出し、有機抽出物をNaSOで乾燥した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離剤としてクロロホルム/メタノール=20/1の混合液を用いた。)により濃縮・精製を行い、アリールアミノホスホニウム塩(2b・BArF)を得た(65.3mg,0.04mmol、収率80%)。
【0083】
アリールアミノホスホニウム塩(2b・BArF)のH−NMR及び13C−NMRのスペクトルを図1に示す。スペクトルデータは以下の通りである。
【0084】
アリールアミノホスホニウム塩(2b・Cl):
〔1〕H−NMR(500MHz,CDOD);δ8.02(2H,s),8.01(2H,d,J=8.5Hz),7.96(2H,d,J=8.5Hz),7.90(2H,d,J=8.5Hz),7.51−7.47(8H,m),7.40 (2H,d,J=8.5Hz),7.25(2H,t,J=8.5Hz),7.23(2H,t,J=8.5Hz),6.99(2H,d,J=8.5Hz),6.97(2H,d,J=8.5Hz),6.91−6.86(6H,m),N−H protons were not found due to deuteration.
〔2〕13C−NMR(126MHz,CDOD);δ139.0,138.4(d,JP−C=3.7Hz),136.8(d,JP−C=6.3Hz),134.1(d,JP−C=1.4Hz),134.0(d,JP−C=1.4Hz),133.6(d,JP−C=1.4Hz),133.2(d,JP−C=1.4Hz),133.1(d,JP−C=5.9Hz),132.0,131.3,130.6(d,JP−C=1.9Hz),130.5,129.4,129.2,128.6,128.4,128.4,127.7,127.6,127.4,127.2 (d,JP−C=2.4Hz),126.7,124.2(d,JP−C=3.7Hz),one carbon was not found probably due to overlapping.
〔3〕31P−NMR(121MHz,CDOD);δ46.9
【0085】
アリールアミノホスホニウム塩(2b・BArF):
〔1〕H−NMR(500MHz,アセトン−d);δ8.13(2H,d,J=8.5Hz),8.05(2H,s),8.04(2H,d,J=8.5Hz),7.97(2H,d,J=8.5Hz),7.80(8H,brs),7.68(4H,brs),7.60(2H,t,J=8.5Hz),7.56(2H,t,J=8.5Hz),7.44(4H,d,J=7.5Hz),7.35(2H,t,J=8.5Hz),7.32(2H,t,J=8.5Hz),7.30(2H,d,J=8.5Hz),7.05(2H,d,J=8.5Hz),7.00(2H,d,J=8.5Hz),6.89(4H,t,J=7.5Hz),6.84(2H,t,J=7.5Hz),N−H protons were not found due to broadening.
〔2〕13C−NMR(126MHz,アセトン−d):δ162.6(q,JB−C=50.0Hz),138.4,138.0(d,JP−C=3.2Hz),136.1(d,JP−C=5.9Hz),135.6,133.7,133.0,132.7(d,JP−C=8.2Hz),132.7,131.8,131.2,130.1,130.0(d,JP−C=5.9Hz),130.0(q,JF−C=31.6Hz),129.4,129.3,129.0,128.4,128.2,128.1,127.7,127.6,127.4,126.6,125.4(q,JF−C=272.5Hz),124.4(d,JP−C=4.2Hz),118.5,two carbons were not found probably due to overlapping.
〔3〕19F−NMR(282MHz,アセトン−d):δ−62.6
〔4〕31P−NMR(121MHz,アセトン−d):δ45.4
〔5〕IR(KBr):3373,3065,1610,1500,1415,1356,1278,1128,993,887,752,712cm−1
〔6〕HRMS(ESI−TOF);Calcd for C5236([M])747.2672,Found 747.2694
〔7〕[α]24;16.4°(c=0.21,CHCl
【0086】
(2)光学活性テトラアミノホスホニウム塩の合成(II)
3,3’−ジフェニル−(R)−2,2’−ジアミノ−1,1’−ビナフチルジアミンに代えて、種々の3,3’−ジアリール置換ビナフチルジアミンを用い、上記合成(I)と同様の手順により、以下に示すアリールアミノホスホニウム塩(1a・Cl)、(1a・BArF)、(1b・Cl)、(1b・BArF)、(2c・Cl)、及び(2c・BArF)を得た。(1a・BArF)、(1b・BArF)、及び(2c・BArF)これらのH−NMR及び13C−NMRのスペクトルを図2〜図4に示す。スペクトルデータは以下の通りである。
【0087】
【化11】

【0088】
アリールアミノホスホニウム塩(1a・Cl):
〔1〕H−NMR(500MHz,CDOD);δ8.18(4H,d,J=8.5Hz),8.03(4H,d,J=8.5Hz),7.57(4H,d,J=8.5Hz),7.48(4H,t,J=8.5Hz),7.24(4H,t,J=8.5Hz),7.07(4H,d,J=8.5Hz),N−H protons were not found due to deuteration.
〔2〕13C−NMR(126MHz,CDOD):δ135.7(d,JP−C=5.0Hz),134.2(d,JP−C=1.4Hz),133.4(d,JP−C=1.4Hz),131.5,129.4,128.2,128.1(d,JP−C=2.3Hz),127.7,126.8,125.0(d,JP−C=3.3Hz)
〔4〕31P−NMR(121MHz,CDOD):δ50.2
【0089】
アリールアミノホスホニウム塩(1a・BArF):
〔1〕H−NMR(500MHz,アセトン−d);δ8.27(4H,d,J=8.5Hz),8.14(4H,d,J=8.5Hz),7.79(8H,brs),7.77(4H,d,J=8.5Hz),7.68(4H,brs),7.58(4H,t,J=8.5Hz),7.36(4H,t,J=8.5Hz),7.16(4H,d,J=8.5Hz),N−H protons were not found due to broadening.
〔2〕13C−NMR(126MHz,アセトン−d):
δ162.6(q,JB−C=50.0Hz),135.5,134.9(d,JP−C=5.0Hz),133.6,133.0,131.5,130.0(q,JF−C=31.8Hz),129.4,127.9,127.8,127.5(d,JP−C=2.3Hz),126.9,125.4(q,JF−C=272.5Hz),124.9(d,JP−C=3.3Hz),118.5
〔3〕19F−NMR(282MHz,アセトン−d):δ−62.6
〔4〕31P−NMR(121MHz,アセトン−d):δ50.7
〔5〕IR(KBr):3386,3059,1508,1356,1279,1126,988,814,757,713cm−1
〔6〕HRMS(ESI−TOF);Calcd for C4028([M])595.2046.Found 595.2073
〔7〕[α]22;−2.6°(c=0.57,CHCl
【0090】
アリールアミノホスホニウム塩(1b・Cl):
〔1〕H−NMR(500MHz,CDOD);δ8.19(2H,s),8.08(2H,d,J=8.0Hz),7.90(2H,d,J=8.0Hz),7.82(2H,d,J=8.0Hz),7.73(4H,dt,J=7.5,1.5Hz),7.52(2H,t,J=8.0Hz),7.45(4H,tt,J=7.5,1.5Hz),7.39(2H,tt,J=7.5,1.5Hz),7.38(2H,t,J=7.5Hz),7.26(2H,td,J=8.0,1.5Hz),7.11(2H,d,J=8.0Hz),7.08(2H,td,J=8.0,1.5Hz),6.99(2H,d,J=8.0Hz),6.76(2H,d,J=8.0Hz),N−H protons were not found due to deuteration.
〔2〕13C−NMR(126MHz,CDOD);δ139.3,138.3(d,JP−C=3.2Hz),134.4(d,JP−C=5.0Hz),134.1,133.9(d,JP−C=1.4Hz),133.5,132.9(d,JP−C=1.4Hz),132.5,131.9(d,JP−C=3.7Hz),131.0,130.9,130.7(d,JP−C=2.3Hz),130.2,129.4,129.3,129.2,128.3,128.1,128.0,127.5,127.4,127.2(d,JP−C=2.3Hz),126.6,125.0(d,JP−C=3.8Hz)
〔3〕31P−NMR(121MHz,CDOD);δ44.3
【0091】
アリールアミノホスホニウム塩(1b・BArF):
〔1〕H−NMR(500MHz,アセトン−d);δ8.20(2H,s),8.18(2H,d,J=8.5Hz),7.98(2H,d,J=8.5Hz),7.95(2H,d,J=8.5Hz),7.79(8H,brs),7.70−7.63(8H,m),7.62(2H,t,J=8.5Hz),7.45(2H,d,J=8.5Hz),7.44(2H,t,J=8.5Hz),7.41(4H,t,J=8.5Hz),7.37(2H,d,J=8.5Hz),7.36(2H,t,J=8.5Hz),7.18(2H,t,J=8.5Hz),7.05(2H,d,J=8.5Hz),6.86(2H,d,J=8.5Hz),N−H protons were not found due to broadening.
〔2〕13C−NMR(126MHz,アセトン−d);δ162.6(q,JB−C=50.0Hz),138.7,138.1(d,JP−C=3.2Hz),135.5,134.4(d,JP−C=5.5Hz),133.7,133.4,132.8,132.4(d,JP−C=1.8Hz),132.2,130.9,130.0(q,JF−C=31.6Hz),129.9(d,JP−C=2.8Hz),129.7,129.2,129.1,128.9,128.1,127.8,127.7,127.3,127.2,126.4,126.2(d,JP−C=2.4Hz),125.4(q,JF−C=273.0Hz),124.9,118.5, two carbons were not found probably due to overlapping.
〔3〕19F−NMR(282MHz,アセトン−d);δ−62.6
〔4〕31P−NMR(121MHz,アセトン−d);δ45.1
〔5〕IR(KBr);3348,3064,1703,1610,1508,1419,1356,1279,1126,989,887,751,713cm−1
〔6〕HRMS(ESI−TOF);Calcd for C5236([M])747.2672.Found 747.2688
〔7〕[α]23;−40.0°(c=0.50,CHCl
【0092】
アリールアミノホスホニウム塩(2c・Cl):
〔1〕H−NMR(500MHz,CDOD);δ8.09(2H,s),8.07(2H,d,J=8.5Hz),7.96(2H,d,J=8.5Hz),7.95(2H,d,J=8.5Hz),7.54(2H,t,J=8.5Hz),7.46(2H,t,J=8.5Hz),7.41(2H,t,J=8.5Hz),7.33−7.25(6H,m),7.20(2H,t,J=8.5Hz),7.01(2H,d,J=8.5Hz),6.90(2H,d,J=8.5Hz),N−H protons were not found due to deuteration.
〔2〕13C−NMR(126MHz,CDOD);δ151.7(ddd,JF−C=249.2,10.0,3.8Hz),140.3(dt,JF−C=252.3,15.2Hz),136.7(d,JP−C=6.0Hz),136.3,135.7(td,JF−C=9.2,4.5Hz),134.4,133.8,133.6,132.9,132.6,132.5(d,JP−C=3.9Hz),131.8,131.2,129.7,129.3,128.4,128.3,128.1,127.8,127.5,126.9(d,JP−C=1.0Hz),126.7,124.2(d,JP−C=3.8Hz),115.4(dd,JF−C=16.9,4.5Hz)
〔3〕19F−NMR(282MHz,CDOD):δ−136.7(dd,J=18.9,8.7Hz),−163.8(tt,J=20.6,6.8Hz)
〔4〕31P−NMR(121MHz,CDOD);δ46.4
【0093】
アリールアミノホスホニウム塩(2c・BArF):
〔1〕H−NMR(500MHz,アセトン−d);δ8.15(2H,d,J=8.5Hz),8.14(2H,s),8.01(2H,d,J=8.5Hz),8.00(2H,d,J=8.5Hz),7.79(8H,brs),7.68(4H,brs),7.63(2H,t,J=8.5Hz),7.51(2H,t,J=8.5Hz),7.40(2H,t,J=8.5Hz),7.33−7.24(8H,m),7.09(2H,d,J=8.5Hz),6.91(2H,d,J=8.5Hz),N−H protons were not found due to broadening.
〔2〕13C−NMR(126MHz,アセトン−d);
δ162.6(q,JB−C=50.0Hz),151.1(ddd,JF−C=249.1,9.6,3.7Hz),139.6(dt,JF−C=251.9,2.8Hz),136.0,135.8,135.5,135.4,134.0,133.4,132.8,132.4,132.2,131.1,130.0(q,JF−C=31.6Hz),129.6,129.2,128.3,128.2,127.7,127.6,126.7,126.6,125.4(q,JF−C=272.4Hz),124.4(d,JP−C=4.2Hz),118.5,115.2(dd,JF−C=17.0,5.0Hz),three carbons were not found probably due to overlapping.
〔3〕19F−NMR(282MHz,アセトン−d);δ−62.6,−135.7,−162.3
〔4〕31P−NMR(121MHz,アセトン−d);δ44.5
〔5〕IR(KBr);3381,3064,1615,1530,1420,1356,1280,1127,1050,752cm−1
〔6〕HRMS(ESI−TOF);Calcd for C5230([M])855.2107.Found 855.5109
〔7〕[α]24;10.5°(c=0.25,CHCl
【0094】
(3)β−アミノニトロアルカンの合成(I)
ニトロオレフィン(2)として、ニトロスチレンを用いた。芳香族アミンとして表1に示すアリール基(Ar)を持つアニリン誘導体を用いた。以下の方法により、β−アミノニトロアルカンを合成した。
【0095】
【化12】

【0096】
アルゴン雰囲気下、乾燥した試験管にニトロスチレン(0.10mmol)及び上記ホスホニウム塩(表1に記載)(2.0μmol、0.02当量)を秤量し、0℃でトルエン(1.0ml)を加えて溶解した。次いで、芳香族アミン(0.2mmol、2.00当量)をゆっくりと滴下し、所定時間(表1に記載)攪拌した。反応終了をTLCで確認した後、反応混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、β−アミノニトロアルカン(4a)又は(5a)を得た。そして、得られたβ−アミノニトロアルカンの収率及び鏡像過剰率を測定した。その結果を表1に示す。
【0097】
【表1】

*1;反応は−15℃で行った。
*2;単離収率
*3;キラルHPLC分析により求めた。
【0098】
(4)β−アミノニトロアルカンの合成(II)
ニトロオレフィン(2)として、表2に示す一価の炭化水素基(R)を持つニトロオレフィンを用いた。芳香族アミンとして、2,4−ジメトキシアニリンを用い、テトラアミノホスホニウム塩として、上記「2c・BArF」を用いた。これらを用いて、上記と同様の方法により、β−アミノニトロアルカンを合成した。但し、反応時間は基質であるニトロオレフィン(2)に応じて変更している(表2に記載)。そして、得られたβ−アミノニトロアルカンの収率及び鏡像過剰率を測定した。その結果を表2に示す。鏡像過剰率の測定方法は上記の通りである。
【0099】
【化13】

【0100】
【表2】

*1;単離収率
*2;キラルHPLC分析により求めた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される光学活性アリールアミノホスホニウム塩。
【化1】

(式中、R〜R16は、それぞれ独立に水素原子又は任意の置換基である。R〜R16のうち、隣接する基同士は互いに結合して環を形成してもよい。Xは対イオンである。)
【請求項2】
及びR、R及びR、R11及びR12、並びにR13及びR14のうちの少なくとも1つが互いに結合して環を形成している請求項1記載の光学活性アリールアミノホスホニウム塩。
【請求項3】
下記式(1−1)で表される請求項2記載の光学活性アリールアミノホスホニウム塩。
【化2】

(式中、環A〜環Dは、それぞれ独立して置換基を有していてもよい芳香環を表す。)
【請求項4】
軸不斉光学活性体である請求項1乃至3のいずれかに記載の光学活性アリールアミノホスホニウム塩。
【請求項5】
下記式(1−2)又は(1−3)で表される請求項1乃至3のいずれかに記載の光学活性アリールアミノホスホニウム塩。
【化3】

(式中、環A’〜環D’は、それぞれ独立して置換基を有していてもよい。)
【請求項6】
及びRがアリール基である請求項1乃至5のいずれかに記載の光学活性アリールアミノホスホニウム塩。
【請求項7】
はテトラアリールホウ酸イオンである請求項1乃至6のいずれかに記載の光学活性アリールアミノホスホニウム塩。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載の光学活性アリールアミノホスホニウム塩を含む不斉合成反応用触媒 。
【請求項9】
上記不斉合成反応は、電子吸引性基により活性化された炭素−炭素不飽和結合への求核付加反応である請求項8記載の不斉合成反応用触媒。
【請求項10】
上記不斉合成反応は、ニトロオレフィン類及び芳香族アミンを反応させるβ−アミノニトロアルカンの合成反応である請求項8又は9記載の不斉合成反応用触媒。
【請求項11】
請求項1乃至7のいずれかに記載の光学活性アリールアミノホスホニウム塩の存在下、 電子吸引性基により活性化された炭素−炭素不飽和結合への求核付加反応を行い、光学活性化合物を製造する方法。
【請求項12】
式(2)で表される化合物及び式(3)で表される芳香族アミンを反応させ、式(4)で表される光学活性化合物を製造する請求項11記載の光学活性化合物を製造する方法。
【化4】

(式中、R17〜R20はそれぞれ独立に水素原子又は任意の置換基である。Ar’はアリール基である。「EWG」は電子吸引性基を表す。「*」は不斉炭素原子である。)
【請求項13】
式(2)で表される化合物がニトロオレフィン類である請求項12記載の光学活性化合物を製造する方法。
【請求項14】
上記芳香族アミンが、芳香環に電子供与性基を有する芳香族アミンである請求項12又は13記載の光学活性化合物を製造する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−209050(P2010−209050A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−60178(P2009−60178)
【出願日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】