説明

光学活性ビスホスフィノメタンの製造方法

【課題】光学活性ビス(アルキルホスフィノ)メタンを容易に、かつ経済的に製造する方法を提供すること。
【解決手段】ジアルキルヒドロキシキメチルホスフィンボラン(2)を酸化して、ジアルキルホスフィンボラン(3)を得る工程A;工程Aとは別に、ジアルキルヒドロキシメチルホスフィンボラン(2)における水酸基を脱離可能な官能基に変換し、誘導体(4)を得る工程B;工程Aで得られたジアルキルホスフィンボラン(3)をリチオ化し、リチオ化物(5)を得る工程C;工程Cで得られたリチオ化物(5)と、工程Bで得られた誘導体(4)とを反応させて、ビス(アルキルホスフィノ)メタンボラン(1a)を得る工程D;ビス(アルキルホスフィノ)メタンボラン(1a)を脱ボラン化してビス(アルキルホスフィノ)メタン(1)を得る工程Eを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学活性ビスホスフィノメタンの製造方法に関する。本発明に従い製造された光学活性ビスホスフィノメタンは、例えば不斉合成触媒として用いられる金属錯体の配位子として特に有用である。
【背景技術】
【0002】
リン原子上に不斉中心を有する光学活性なホスフィン配位子は、遷移金属錯体を用いる触媒的不斉合成反応において重要な役割を果たしている。リン原子上に不斉中心を有する光学活性なホスフィン配位子としては、例えば特許文献1において1,1−ビス(アルキルメチルホスフィノ)メタン(以下、MiniPHOSともいう)が提案されている。同文献には、MiniPHOSの製造方法として、以下の反応スキームが記載されている。
【0003】
【化1】

【0004】
前記の反応スキームにおいては、まず三塩化リン20を出発原料として用いてアルキルジメチルホスフィンボラン21を得る。次いでこれを(−)−スパルテインの存在下、sec-ブチルリチウムによって二つのエナンチオトピックなメチル基のうち一方のメチル基の水素をエナンチオ選択的に脱プロトン化する。引き続きアルキルジクロロホスフィン、メチルマグネシウムブロミド及びボラン−テトラヒドロフラン錯体を順次反応させ、中間体であるC2対称のビスホスフィン・ボラン22を得る。このビスホスフィン・ボラン22の合成にはメソ体22aの生成を伴うところ、該メソ体22aはメタノール等を用いた再結晶によって取り除かれる。得られた光学的に純粋な中間体22を、トリフルオロメタンスルホン酸及び水酸化カリウムで順次処理することで脱ボラン化し、目的とするMiniPHOS23を得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−136193号公報
【0006】
しかし、前記の反応スキームを採用する場合、ビスホスフィン・ボラン22を合成すると、生成物の半分をメソ体22aとして除去せざるを得ないので、収率が低くなるという欠点がある。また、メソ体22aを除去するときに、ビスホスフィン・ボラン22を単離することが困難であるという欠点もある。更に、ビスホスフィン・ボラン22を合成するときに用いられるアルキルジクロロホスフィンを別途合成しなければならず、製造工程が複雑になる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来知られていた方法よりも一層容易にMiniPHOSを製造し得る方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、一般式(1a)で表されるビス(アルキルホスフィノ)メタンボランの製造方法であって、
【化2】

一般式(2)で表されるジアルキルヒドロキシキメチルホスフィンボランを酸化して一般式(3)で表されるジアルキルホスフィンボランを得る工程Aと、
【化3】

工程Aとは別に、一般式(2)で表されるジアルキルヒドロキシメチルホスフィンボランにおける水酸基を脱離可能な官能基に変換し、一般式(4)で表される誘導体を得る工程Bと、
【化4】

工程Aで得られた一般式(3)で表されるジアルキルホスフィンボランをリチオ化し、一般式(5)で表されるリチオ化物を得る工程Cと、
【化5】

工程Cで得られた一般式(5)で表されるリチオ化物と、工程Bで得られた一般式(4)で表される誘導体とを反応させる工程Dと、
【化6】

を有することを特徴とする、前記の一般式(1a)で表されるビス(アルキルホスフィノ)メタンボランの製造方法を提供するものである。
【0009】
また本発明は、前記の方法で得られた一般式(1a)で表されるビス(アルキルホスフィノ)メタンボランを脱ボラン化する工程Eを有することを特徴とする、一般式(1)で表される光学活性ビス(アルキルホスフィノ)メタンの製造方法を提供するものである。
【化7】

【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、不斉合成反応の触媒として有用な金属錯体の配位子として好適に用いられる光学活性ビス(アルキルホスフィノ)メタンを容易に、かつ経済的に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明する。本発明の製造方法の特徴は、1種類の出発物質から2種類の化合物を別個に合成し、これら2種の化合物を用いて、目的する一般式(1)で表される光学活性ビス(アルキルホスフィノ)メタンを得る点にある。このような方法を採用することで、背景技術の項で述べた反応スキームと異なり、メソ体の生成を伴うことなく目的とする化合物(1)を高い収率で容易に得ることができる。
【0012】
本製造方法で用いる出発物質は前記の一般式(2)で表される光学活性ジアルキルヒドロキシメチルホスフィンボランである。一般式(2)中、R1及びR2は、両者の炭素数が異なることを条件として、アルキル基が用いられる。アルキル基としては、非環式アルキル基及び脂環式アルキル基が挙げられる。
【0013】
非環式アルキル基としては、直鎖状アルキル基及び分岐状アルキル基が挙げられる。直鎖状アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基等の炭素数1〜10のものが挙げられる。分岐状アルキル基としては、イソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソヘキシル基、イソヘプチル基、1,1,3,3−テトラメチルブチル等の炭素数3〜10のものが挙げられる。
【0014】
脂環式アルキル基としては、単環式アルキル基及び複環式アルキル基が挙げられる。単環式アルキル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の炭素数3〜10のものが挙げられる。複環式アルキル基としては、アダマンチル基等の炭素数4〜10のものが挙げられる。
【0015】
これらのアルキル基は、少なくとも一個の一価の置換基で適宜置換されていてもよい。置換基としては、トリフェニルメチル基、ジフェニルメチル基、ベンジル基、メトキシ基、メトキシエチル基等が好ましい。
【0016】
一般式(1a)において、特にR1は、立体障害性を有する嵩高い基であることが好ましい。この観点から、R1が非環式のアルキル基の場合、一級アルキル基よりも二級アルキル基が好ましく、二級アルキル基よりも三級アルキル基が好ましい。また、R1が脂環式のアルキル基であることも好ましい。好ましいアルキル基としてはtert−ブチル基、1,1,3,3−テトラブチル基、アダマンチル基等が挙げられる。
【0017】
一方、R2は、R1よりも炭素数が少ないことが好ましい。R1とR2の炭素数の差は少なくとも1である。本製造方法の目的とする化合物(1)を、不斉合成触媒用金属錯体の配位子として用いた場合、高度な不斉空間が形成されることを考慮すると、R1とR2の立体障害性に大きな差があることが好ましい。つまり、R1が立体障害性を有する嵩高な基、つまり極大基であるのに対して、R2は極小基であることが好ましい。したがってR1とR2はそれらの炭素数の差が大きいほど好ましい。具体的には、R1とR2の炭素数の差は2以上、特に3以上、とりわけ4以上であることが好ましい。R2が極小基であることに鑑みれば、R2は同じ炭素数の脂環式アルキル基と非環式アルキル基では、非環式アルキル基の方が好ましい。更に、同じ炭素数の非環式アルキル基の中では、分岐状アルキル基より直鎖状アルキル基の方が好ましい。最終的には、R2として最も好ましい基はメチル基であると言える。しかし、一般的には、R2として用い得る基はR1との関係で相対的に決定される。R1とR2の好ましい組み合わせとしては、例えばR1=tert−ブチル基、R2=メチル基の組み合わせや、R1=1,1,3,3−テトラメチルブチル基、R2=メチル基の組み合わせが挙げられる。特に、本発明の製造方法によれば、一般式(1a)又は一般式(1)において、R1=1,1,3,3−テトラメチルブチル基、R2=メチル基の組み合わせの化合物を高い光学純度で得ることができる。
【0018】
一般式(2)で表される化合物は好適には以下の方法で合成することができる。すなわち、以下の工程(A’)に従い、一般式(2a)で表されるジアルキルメチルホスフィンボランをエナンチオ選択的に脱プロトン化し、次いで酸化を行うことで、光学活性を有する一般式(2)で表される化合物を得ることができる。ジアルキルメチルホスフィンボラン(2a)は、例えば本出願人が製造販売しており、商業的に入手可能な化合物である。
【0019】
【化8】

【0020】
ジアルキルメチルホスフィンボラン(2a)のエナンチオ選択的な脱プロトン化は、例えば不斉源として光学活性アミンを用い、塩基の存在下に行うことができる。光学活性アミンとしては、光学活性な第三級ジアミンやトリアミンを用いることができる。そのようなアミンとしては例えばスパルテイン、1,2−ビス−(N,N−ジメチルアミノ)シクロヘキサン、N,N,N',N'−テトラメチル−1,1'−ビナフチル−2,2'−ジアミンなどが挙げられる。これらのうちスパルテイン((−)−スパルテイン)を用いることが好ましい。光学活性アミンの使用量は、ジアルキルメチルホスフィンボラン(2a)に対して1.0〜1.5当量、特に1.05〜1.15当量であることが好ましい。
【0021】
脱プロトン化に用いられる塩基は、ジアルキルメチルホスフィンボラン(2a)におけるエナンチオトピックなメチル基の水素を脱プロトン化させるために用いられる。そのような塩基としては有機リチウム化合物が挙げられる。有機リチウム化合物の例としては、メチルリチウム、エチルリチウム、n−プロピルリチウム、sec−プロピルリチウム、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウム、ジメチルアミノリチウム、ジエチルアミノリチウム、ジイソプロピルアミノリチウム、ジフェニルアミノリチウム、ジベンジルアミノリチウムが挙げられる。特にn−ブチルリチウムやsec−ブチルリチウムを用いることが好ましい。有機リチウム化合物の使用量は、ジアルキルメチルホスフィンボラン(2a)に対して1.0〜1.3当量、特に1.0〜1.1当量であることが好ましい。
【0022】
脱プロトン化後の酸化は、例えば酸素ガスを反応系にバブリングすることで行うことができる。バブリングの条件としては、反応液100mL当たり、酸素ガスを10〜20mL/分の量で供給する条件を挙げることができる。この供給量であることを条件として、バブリングの時間は例えば1〜5時間とすることができ、温度は−80〜0℃とすることができる。
【0023】
本製造方法においては、一般式(2)で表されるジアルキルヒドロキシキメチルホスフィンボランを原料として、一般式(3)で表されるジアルキルホスフィンボランと、一般式(4)で表される誘導体とを別個に合成する。これら2つの化合物の合成の順序は本発明において本質的なものではない。
【0024】
まず、ジアルキルホスフィンボラン(3)を合成するには、前記の工程(A)に示されるように、ジアルキルヒドロキシキメチルホスフィンボラン(2)を、触媒の存在下、酸化剤を用いて酸化する。酸化剤としては、例えばペルオキソニ硫酸カリウム、オキソン(登録商標)などが用いられる。酸化剤の使用量は、ジアルキルヒドロキシキメチルホスフィンボラン(2)に対して1〜10当量、特に1.2〜1.5当量であることが好ましい。触媒としては、適宜の量の塩化ルテニウム、臭化ルテニウム、ヨウ化ルテニウムなどを用いることができる。この酸化反応は例えば水相で行うことができる。反応温度は例えば0〜25℃、反応時間は例えば1〜5時間とすることができる。
【0025】
一方、誘導体(4)を合成するには、前記の工程(B)に示されるように、ジアルキルヒドロキシキメチルホスフィンボラン(2)における水酸基を脱離可能な官能基に変換(以下、「水酸基の活性化」ともいう)する反応を行う。水酸基の活性化には、公知の水酸基の活性化官能基を用いることができる。そのような官能基、すなわち一般式(4)におけるAとしては、例えばトシル基、メシル基、トリメチルシリル基やtert-ブチルジメチルシリル基等のトリアルキルシリル基、ベンジル基やフェネチル基等のアリールアルキル基、トリフルオロメタンスルホニル基などが挙げられる。
【0026】
ジアルキルヒドロキシキメチルホスフィンボラン(2)における水酸基の活性化は、例えば窒素ガス等の不活性雰囲気下、テトラヒドロフラン等の有機溶媒中で、該ジアルキルヒドロキシキメチルホスフィンボラン(2)と水酸基の活性化官能基を有する水酸基の活性化剤とを反応せることにより行うことができる。具体的には、有機溶媒中にジアルキルヒドロキシキメチルホスフィンボラン(2)及び水酸基の活性化剤である塩化p−トルエンスルホニルや塩化メタンスルホニルを添加・混合することで、水酸基の活性化を行うことができる。水酸基の活性化剤の使用量は、ジアルキルヒドロキシキメチルホスフィンボラン(2)に対して1.2〜3当量、特に1.5〜2.5当量であることが好ましい。反応温度は例えば0〜25℃、反応時間は例えば2〜24時間とすることができる。
【0027】
このようにして、2種類の化合物(3)及び(4)が別個に得られる。得られた化合物(3)及び(4)においては、原料化合物である化合物(2)の立体配置が維持されている。次に、前記の工程(C)に示されるように、化合物(3)、すなわちジアルキルホスフィンボランをリチオ化して一般式(5)で表されるリチオ化物を得る。リチオ化には、有機リチウム化合物が用いられる。有機リチウム化合物の例としては、メチルリチウム、エチルリチウム、n−プロピルリチウム、sec−プロピルリチウム、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウム等が挙げられる。特にn−ブチルリチウムやsec−ブチルリチウムを用いることが好ましい。有機リチウム化合物の使用量は、ジアルキルホスフィンボラン(3)に対して1.0〜1.3当量、特に1.0〜1.1当量であることが好ましい。
【0028】
リチオ化は、例えば窒素ガス等の不活性雰囲気下、テトラヒドロフラン等の有機溶媒中で行うことができる。具体的には、ジアルキルホスフィンボラン(3)が溶解した有機溶媒中に、有機リチウム化合物を添加・混合することで、リチオ化を行うことができる。反応温度は例えば−80〜−50℃、反応時間は例えば0.2〜0.5時間とすることができる。
【0029】
ジアルキルホスフィンボラン(3)のリチオ化物(5)が生成したら、反応系に前記の誘導体(4)を添加する。誘導体(4)は例えばテトラヒドロフラン等の有機溶媒に溶解した状態で添加することができる。添加は、窒素ガス等の不活性雰囲気下に行うことが好ましい。誘導体(4)の添加量は、仕込んだジアルキルホスフィンボラン(3)に対して1.0〜1.5当量、特に1.1〜1.2当量であることが好ましい。
【0030】
誘導体(4)を添加したら、反応系の温度を50〜70℃に上昇させ、前記の工程(D)に示されるように、リチオ化物(5)を誘導体(4)に求核攻撃させる。この求核攻撃による反応で、光学活性を有する一般式(1a)で表されるビス(アルキルホスフィノ)メタンボランが得られる。反応時間は例えば3〜4時間とすることができる。
【0031】
このようにして得られたビス(アルキルホスフィノ)メタンボラン(1a)は、不斉合成反応における不斉触媒の配位子である化合物(1)の前駆体として有用なものである。
【0032】
化合物(1)を不斉触媒の配位子として用いるためには、前記の工程(E)に示されるように、ビス(アルキルホスフィノ)メタンボラン(1a)を脱ボラン化して、化合物(1)を得ればよい。
【0033】
脱ボラン化を行うためには、例えばジエチルアミンやモルフォリンのような第二級アミン、DABCOやトリエチルアミンなどの塩基を用いる方法が知られている(J.Am.Chem.Soc., 112, p.5244(1990);J.Am.Chem.Soc., 121, p.1090(1999))。また、第三級アミンを過剰に用いる方法も知られている(J.Am.Chem.Soc., 121, p.1090(1999))。更に、テトラフルオロホウ酸やトリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸などの強酸を用いる方法(Tetrahedron Lett., 35, 9319(1994);J.Organomet.Chem., 621, 120(2001);J.Am.Chem.Soc., 120, p.1635(1998)も知られている。これらの方法に加え、特開2005−97131号公報に記載されている、モレキュラーシーブの存在下、アルコール溶媒中でホスフィンボランからホスフィンを遊離させる方法を用いることもできる。
【0034】
このようにして得られた光学活性ビス(アルキルホスフィノ)メタン(1)を、ロジウムや銅等の金属に配位させることで不斉触媒が得られる。この化合物(1)から不斉触媒を得るには、例えば実験化学講座 第4版(日本化学会編、丸善株式会社発行)第18巻 第327〜353頁に記載されている方法を採用することができる。例えばロジウム錯体を得るには、化合物(1)を[RhX(diene)2]と反応させればよい。ここで、Xはハロゲン、BF4-、PF6-、ClO4-などを表し、dieneは1,5−シクロオクタジエンやビシクロ[2,2,1]ヘプタ−2,5−ジエンなどの二座配位化合物である。このロジウム錯体における化合物(1)とロジウムのモル比は好ましくは1:0.75〜1である。
【0035】
得られた不斉触媒は、例えば不飽和カルボン酸の不斉水素化による光学活性な飽和カルボン酸又はそのエステルの製造や、プロキラルなケトンの不斉ヒドロシリル化による光学活性な第二級アルコールの製造を始めとして、種々の不斉合成に好適に用いることができる。
【実施例】
【0036】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明の適用範囲はかかる実施例に限定されるものではない。
【0037】
〔実施例1〕
(R,R)−ビス[(メチル)(1,1,3,3−テトラメチルブチル)ホスフィノ]メタン(1)の合成
【化9】

【0038】
(1−1)(R)−ヒドロキシメチル(メチル)(1,1,3,3−テトラメチルブチル)ホスフィン−ボラン(2)の合成
【化10】

【0039】
ジエチルケトン(30mL)中に(−)−スパルテイン(7.6mL、33mmol)を溶解した溶液を、−78℃に冷却し、これを攪拌しながら窒素雰囲気下にsec-ブチルリチウム(シクロヘキサン及びn−ヘキサンを混合溶媒とする1M溶液33mL、33mmol)を添加した。30分経過後、ジメチル(1,1,3,3−テトラメチルブチル)ホスフィン−ボラン(2a)(日本化学工業(株)製、5.64g、30mmol)のジエチルケトン(30mL)溶液を滴下した。
【化11】

【0040】
滴下後、反応系の温度を維持しながら3時間にわたって攪拌を続け、その後、温度を−40℃まで徐々に上昇させた。そして、1時間経過後、溶液を激しく攪拌しながら酸素を吹き込み、更に1時間攪拌を継続した。次いで、溶液を0℃で1時間攪拌した後、室温まで温度を上昇させた。1時間経過後、1Mの塩酸を添加して反応を停止させた。反応生成物を酢酸エチルで抽出し、塩水で洗浄した後、硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧下に濃縮した。これをシリカゲルクロマトグラフィ(溶離液:ジクロロメタン)で精製し、目的物である白色固体の化合物(2)(5.24g、収率84%、92%ee)を得た。
【0041】
化合物(2)の分析結果は以下のとおりである。
mp 67-68℃; [α]D=-7.53 (99% ee, c1.00, CHCl3);
1H NMR (CDCl3) δ 0.12-0.68 (br m, 3H), 1.05 (s, 9H), 1.25 (d, J=9.9Hz, 3H), 1.35 (d, J=16.1Hz, 6H), 1.55 (dd, J= 7.7, 2.0Hz, 2H), 2.04 (m, 1H), 3.92 (ddd, J=13.1, 7.0, 3.0Hz, 1H), 4.06 (dd, J=12.9, 5.7Hz, 1H).
13C NMR (CDCl3) δ 2.94 (d, J=34.2Hz), 22.79, 22.85, 32.04, 32.19 (d, J=29.2 Hz), 33.38 (d, J=8.1Hz), 47.34, 56.75 (d, J=36.3Hz).
31P NMR (CDCl3) δ 33.54 (m).
MS (FAB) m/z 201(M+-3H), 191 (M+-BH3+H).
【0042】
(1−2)(S)−メチル(1,1,3,3−テトラメチルブチル)ホスフィン−ボラン(3)の合成
【化12】

【0043】
アセトン(5mL)中に化合物(2)(582mg、2.85mmol)を溶解した溶液を攪拌しながら、6mLの水に溶解した水酸化カリウム(1.68g、30mmol)及び過硫酸カリウム(2.31g、8.55mmol)を添加した。次いで三塩化ルテニウム三水和物(40mg、0.14mmol)を添加し、液を0℃に保ち2時間にわたって激しく攪拌した。次いで徐々に加熱して温度を室温とした。2時間経過後、1Mの塩酸を添加して反応を停止させた。反応生成物を酢酸エチルで抽出し、塩水で洗浄した後、硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧下に濃縮した。これをシリカゲルクロマトグラフィ(溶離液:ヘキサン/酢酸エチル=5/1)で精製し、目的物である透明油状の化合物(3)(370mg、収率75%)を得た。
【0044】
化合物(3)の分析結果は以下のとおりである。
[α]D = +4.74 (99% ee, c1.00, CHCl3);
1H NMR (CDCl3) δ 0.21-0.77 (br m, 3H), 1.05 (s, 9H), 1.30 (dd, J=10.6, 6.0 Hz, 3H), 1.34 (dd, J=16.5, 7.2Hz, 6H), 1.49 (dd, J=14.5, 11.5 Hz, 1H), 1.63 (dd, J=14.5, 9.7Hz, 1H), 4.41 (dm, J=357Hz, 1H).
13C NMR(CDCl3) δ 2.15 (d, J=34.5Hz), 24.34, 24.64, 30.65 (d, J= 33.0Hz), 31.88, 33.24 (d, J=11.1Hz), 49.22 (m).
31P NMR (CDCl3) δ 18.44 (m).
【0045】
(1−3)(R)−メタンスルホニルオキシメチル(メチル)(1,1,3,3−テトラメチルブチル)ホスフィン−ボラン(4)の合成
【化13】

【0046】
水素化ナトリウム(72mg、3.0mmol)及び化合物(2)(306mg、1.5mmol)の混合物を0℃に冷却して攪拌しながら、窒素ガス雰囲気下に4mLのテトラヒドロフランを添加し、同温度で引き続き30分にわたって攪拌を行った。ここに塩化メタンスルホニル(0.231mL、3.0mmol)を添加して30分間攪拌した。次いで、徐々に加熱を行い、室温まで温度を上昇させた。2時間経過後、水を添加して反応を停止させた。反応生成物を酢酸エチルで抽出し、塩水で洗浄した後、硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧下に濃縮した。これをシリカゲルクロマトグラフィ(溶離液:ジクロロメタン/ヘキサン=20/1)で精製し、目的物である透明油状の化合物(4)(350mg、収率83%)を得た。
【0047】
化合物(4)の分析結果は以下のとおりである。
[α]D = -14.26 (99% ee, c1.00, CHCl3);
1H NMR(CDCl3) δ 0.13-0.66 (br m, 3H), 1.06 (s, 9H), 1.37-1.40 (m, 9H), 1.54 (dd, J=14.2, 7.8Hz,1H), 1.62 (dd, J=14.2, 8.5Hz, 1H), 3.10 (s, 3H), 4.44 (dd, J=13.0, 1.8Hz, 1H), 4.63 (dd,J=13.0, 2.4 Hz, 1H).
13C NMR (CDCl3) δ 2.73 (m), 3.00 (m), 22.82, 22.88, 32.01, 32.94 (d,J=29.5 Hz), 33.42 (d, J=13.1Hz), 37.38, 47.11 (m), 62.31 (d, J=29.2Hz).
31P NMR(CDCl3) δ 34.82 (m).
MS (FAB) m/z 281 (M+-H), 269 (M+-BH3+H).
【0048】
(1−4)(R,R)−ビス[ボラナト(メチル)(1,1,3,3−テトラメチルブチル)ホスフィノ]メタン(1a)の合成
【化14】

【0049】
テトラヒドロフラン(0.5mL)中に化合物(3)(196mg、1.13mmol)を溶解した溶液を、−78℃に冷却し、これを攪拌しながら窒素雰囲気下にn-ブチルリチウム(ヘキサンを溶媒とする1.5M溶液0.75mL、1.13mmol)を添加し、化合物(3)のリチオ化を行った。30分経過後、化合物(4)(350mg、1.24mmol)のテトラヒドロフラン(1.0mL)溶液を添加し、引き続き60℃で3時間加熱して、化合物(4)によるリチオ化物の求核反応を行った。次いで徐々に冷却を行い、温度を室温とした。そして、水を添加して反応を停止させた。反応生成物を酢酸エチルで抽出し、塩水で洗浄した後、硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧下に濃縮した。これをシリカゲルクロマトグラフィ(溶離液:ヘキサン/酢酸エチル=20/1)で精製し、更にリサイクル分取HPLCによって精製し、目的物である白色固体の化合物(1a)(159mg、収率39%)を得た。
【0050】
化合物(1a)の分析結果は以下のとおりである。
[α]D = -9.25 (99% ee, c1.00, CHCl3);
lH NMR(CDCl3) δ 0.27-0.80 (br m, 6H), 1.06 (s, 18H), 1.32 (d, J=16.5 Hz, 12H), 1.50-1.52 (m, 10H), 1.77 (t, J=11.8 Hz, 2H).
13C NMR (CDCl3) δ 6.31 (d, J=32.8Hz), 11.97 (t, J=8.6Hz), 21.92 (d, J=4.8Hz), 32.00, 33.21 (d, J=12.1Hz), 33.49 (d, J=3.8Hz), 33.73 (d, J=4.5Hz), 46.65.
31P NMR (CDCl3) δ 33.05.
MS (FAB) m/z 359 (M+-H), 355 (M+-6H+H),345 (M+-BH3-H), 333 (M+-2BH3+H).
【0051】
(1−5)(R,R)−ビス[(メチル)(1,1,3,3−テトラメチルブチル)ホスフィノ]メタン(1)の合成
(R,R)−ビス[ボラナト(メチル)(1,1,3,3−テトラメチルブチル)ホスフィノ]メタン(1a)(36mg、0.1mmol)を5mLのシュレンク管に入れ、シュレンク管内を窒素置換した後、ジクロロメタン(0.5mL)加えて溶解させた。このシュレンク管を氷浴に浸し、トリフルオロメタンスルホン酸(53μL、0.6 mmol)を加え20分撹拌した。その後、氷浴を除去して室温で更に撹拌を続けた。3時間後、有機溶媒を減圧下除去し、更に2mol/Lの水酸化カリウム水溶液を加えて、60℃で2時間反応させた。窒素雰囲気下、反応混合物を、脱気したジエチルエーテルで3回抽出した。抽出液を濃縮し、窒素雰囲気下でシリカゲルクロマトろ過(溶離液:脱気ジエチルエーテル)した。ろ液を減圧濃縮し、目的物である(R,R)−ビス[(メチル)(1,1,3,3−テトラメチルブチル)ホスフィノ]メタン(1)を得た。
【0052】
化合物(1)の分析結果は以下のとおりである。
1H NMR(CDCl3) δ 0.27-0.80 (br m, 6H), 1.06 (s, 18H), 1.32 (d, J=16.5Hz, 12H), 1.50-1.52 (m, 10H), 1.77 (t, J=11.8Hz, 2H).
13C NMR (CDCl3) δ 6.31 (d, J=32.8Hz), 11.97 (t, J=8.6Hz), 21.92 (d, J=4.8Hz), 32.00, 33.21 (d, J=12.1Hz), 33.49 (d, J=3.8Hz), 33.73(d, J=4.5Hz), 46.65.
31P NMR (CDCl3) δ 33.05(m).
【0053】
(1−6)ロジウム錯体の合成
(R,R)−ビス[(メチル)(1,1,3,3−テトラメチルブチル)ホスフィノ]メタン(1)をテトラヒドロフラン1mLに溶解させた。この溶液を別途調製した[Rh(nbd)2]BF4(33 mg、0.09 mmol)のテトラヒドロフラン1mL溶液に加えて,窒素雰囲気下5時間撹拌した後、不溶物をセライトでろ過し、減圧濃縮した。得られた固形物をろ過し、ペンタンで洗浄することにより(R,R)−ビス[(メチル)(1,1,3,3−テトラメチルブチル)ホスフィノ]メタン(1)のロジウム錯体[Rh(t−Oct−miniphos)2]BF4(21mg)を橙色粉末として得た。
【0054】
(1−7)不斉水素化反応
(1−6)で調製したロジウム錯体を用いて、N−アセチルケイ皮メチルエステルの不斉水素化(基質/触媒比=100、水素圧2気圧、室温、24時間)をメタノール溶媒中で行った。その結果、(R)−N−アセチルフェニルアラニンメチルエステルが定量的に得られた。この生成物を液体クロマトグラフィー(キラルカラムOJ−H)で分析した結果、鏡像異性体比は99.4%eeであった。
【0055】
得られた化合物の分析結果は以下のとおりである。
1H NMR(CDCl3) δ 1.95 (s, 3H), 3.11 (m, 2H), 3.73 (s, 3H), 4.89 (m, 1H), 5.97 (br s, 1H), 7.07-7.31 (m, 5H).

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1a)で表されるビス(アルキルホスフィノ)メタンボランの製造方法であって、
【化1】

一般式(2)で表されるジアルキルヒドロキシキメチルホスフィンボランを酸化して、一般式(3)で表されるジアルキルホスフィンボランを得る工程Aと、
【化2】

工程Aとは別に、一般式(2)で表されるジアルキルヒドロキシメチルホスフィンボランにおける水酸基を脱離可能な官能基に変換し、一般式(4)で表される誘導体を得る工程Bと、
【化3】

工程Aで得られた一般式(3)で表されるジアルキルホスフィンボランをリチオ化し、一般式(5)で表されるリチオ化物を得る工程Cと、
【化4】

工程Cで得られた一般式(5)で表されるリチオ化物と、工程Bで得られた一般式(4)で表される誘導体とを反応させる工程Dと、
【化5】

を有することを特徴とする、前記の一般式(1a)で表されるビス(アルキルホスフィノ)メタンボランの製造方法。
【請求項2】
一般式(2a)で表されるジアルキルメチルホスフィンボランをエナンチオ選択的に脱プロトン化し、次いで酸化を行い、一般式(2)で表されるジアルキルヒドロキシメチルホスフィンボランを得る工程A’を更に有する請求項1記載の製造方法。
【化6】

【請求項3】
請求項1に記載の方法で得られた一般式(1a)で表されるビス(アルキルホスフィノ)メタンボランを脱ボラン化する工程Eを有することを特徴とする、一般式(1)で表される光学活性ビス(アルキルホスフィノ)メタンの製造方法。
【化7】


【公開番号】特開2010−209008(P2010−209008A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−57665(P2009−57665)
【出願日】平成21年3月11日(2009.3.11)
【出願人】(000230593)日本化学工業株式会社 (296)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】