説明

光学活性化合物およびその製造方法、ならびに昆虫制御剤

【課題】カメムシ目昆虫に対して幼若ホルモン活性を有する新規な光学活性エポキシ化合物および該製造方法の提供。また、該光学活性化合物を有効成分とする昆虫制御剤の提供。
【解決手段】下記一般式(I)で示される光学活性化合物。下記一般式(I)中、R、R、R、RおよびRは独立に、フッ素置換されていても良い炭素数1〜5のアルキル基、アルケニル基、もしくはアルキニル基、または水素原子、エチニル基、ブタ−1−エン−3−イン−1−イル基、もしくはアジ化メチル基であり、Rは炭素数1〜5のアルキル基、イソプロピル基、またはプロパルギル基である。*は不斉炭素を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カメムシ目昆虫に対して幼若ホルモン活性を有する光学活性化合物およびその製造方法、ならびに昆虫制御剤に関する。
【背景技術】
【0002】
カメムシ目昆虫の中には、米や果実を吸汁する害虫が含まれている。吸汁された農産物の品質は著しく落ちてしまうため、農業に大きな損害を与えることがある。例えば、アカヒゲホソミドリカスミカメに吸汁された稲の籾中の米は、該表面に黒い斑点が生じて品質を損なう。したがって、このような農産物への被害を防ぐ目的で、従来から有機リン系殺虫剤が使用されてきたが、自然環境および生態系への負荷が大きい。
【0003】
そこで、環境負荷がより小さい農薬を開発する観点から、昆虫幼若ホルモン及び該類似体を昆虫制御剤とする研究が行われている。一般に、昆虫幼若ホルモンは、昆虫の生体機能を調節するホルモンとして知られており、幼虫期の脱皮と変態および成虫期の性成熟を促進する作用をもつ。ところが、外部から農薬として該昆虫幼若ホルモンを与えられた昆虫は、該生体機能が撹乱されて、正常に成長することができなくなる。この性質を利用して、昆虫幼若ホルモンあるいは該類似体が、農薬として実際に使用されている。例えば、メトプレン、フェノキシカルブ、ピリプロキシフェン等が挙げられる。これらの昆虫幼若ホルモン類似体は、動植物中のホルモン類とは異なる構造の化合物なので、環境中に農薬として散布した場合に、環境中の動植物へ与える影響が少ないと考えられている。したがって、昆虫幼若ホルモン類似体の散布による環境負荷は、従来の有機リン酸系殺虫剤よりも小さいと考えられている。
【0004】
1990年代前半までに知られていた幼若ホルモン(juvenile hormone:JH)のうち、蛾の一種から単離されたJH−I(チョウ目)を初めとして、JH−0(チョウ目)、JH−II(チョウ目)、JH−III、4−methyl−JH−I(チョウ目)、JHB(高等ハエ目)、Methyl farnesoate(甲殻類)の7種が構造決定されている。括弧内には、その幼若ホルモンが作用すると考えられている昆虫分類名を示した。JH−IIIは昆虫一般に作用すると考えられている。幼若ホルモン化合物の構造決定の例としては、前記JH−Iはセスキテルペノイド系構造をもつことが、非特許文献1に記載されている。
一方、カメムシ目昆虫の幼若ホルモンの構造は未解明であり、効果的にカメムシの成長を阻害する昆虫制御剤の開発は立ち遅れている。
【非特許文献1】J.Am.Chem.Soc.誌(1967年)89巻,5292−5294頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
カメムシ目昆虫の幼若ホルモンの構造は今日まで決定されておらず、該幼若ホルモン類似体を用いた昆虫制御剤も知られていない。
そこで、本発明は、カメムシ目昆虫に対して幼若ホルモン活性を有する新規な光学活性エポキシ化合物および該製造方法を提供することを目的とする。また、該光学活性化合物を有効成分とする昆虫制御剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第一の態様の光学活性化合物は、下記一般式(I)で示される。
【0007】
【化1】

[式中、R、RおよびRは独立に、フッ素置換されていても良い炭素数1〜5のアルキル基、アルケニル基、もしくはアルキニル基、または水素原子、エチニル基、ブタ−1−エン−3−イン−1−イル基、もしくはアジ化メチル基であり;Rは炭素数1〜5のアルキル基、イソプロピル基、またはプロパルギル基である。*は不斉炭素を表す。]
【0008】
また、本発明の第二の態様の光学活性化合物は、下記一般式(II)で示される。
【0009】
【化2】

[式中、R、RおよびRは独立に、フッ素置換されていても良い炭素数1〜5のアルキル基、アルケニル基、もしくはアルキニル基、または水素原子、エチニル基、ブタ−1−エン−3−イン−1−イル基、もしくはアジ化メチル基であり;Rは炭素数1〜5のアルキル基、イソプロピル基、またはプロパルギル基である。*は不斉炭素を表す。]
【0010】
また、本発明の第三の態様の光学活性化合物は、下記一般式(III)で示される。
【0011】
【化3】

[式中、R、R、R、RおよびRは独立に、フッ素置換されていても良い炭素数1〜5のアルキル基、アルケニル基、もしくはアルキニル基、または水素原子、エチニル基、ブタ−1−エン−3−イン−1−イル基、もしくはアジ化メチル基であり;Rは炭素数1〜5のアルキル基、イソプロピル基、またはプロパルギル基であり;RおよびRは、結合して環を形成していても良い。*は不斉炭素を表す。]
【0012】
また、本発明の第四の態様の光学活性化合物は、下記化学式(I−1)、(I−2)、(k−1)、(k−2)、(k−3)、(k−4)、(k−5)、または(k−6)で示される。
【0013】
【化4】

【0014】
また、本発明の第五の態様の光学活性化合物は、下記化学式(II−1)、(II−2)、(II−3)、(II−4)、(m−1)、(m−2)、(m−3)、(m−4)、(m−5)、(m−6)、(m−7)、(m−8)、(m−9)、(m−10)、(m−11)、(m−12)、(m−13)、(m−14)、(m−15)、(m−16)、(m−17)、(m−18)、(m−19)、(m−20)、(m−21)、(m−22)、(m−23)、(m−24)、(m−25)、(m−26)、(m−27)、または(m−28)で示される。
【0015】
【化5】

【0016】
【化6】

【0017】
【化7】

【0018】
【化8】

【0019】
本発明の、一般式(I)で表される光学活性化合物の製造方法は、下記化学式(I−A)で表される化合物を、香月シャープレス不斉エポキシ化することを特徴とする。
【0020】
【化9】

[式中、R、RおよびRは独立に、フッ素置換されていても良い炭素数1〜5のアルキル基、アルケニル基、もしくはアルキニル基、または水素原子、エチニル基、ブタ−1−エン−3−イン−1−イル基、もしくはアジ化メチル基である。]
【0021】
本発明の、一般式(II)で表される光学活性化合物の製造方法は、化学式(I)で表される化合物を、シャープレス不斉ジヒドロキシ化することを特徴とする。
【0022】
本発明において、組成物(ア)は、前記第四の態様の光学活性化合物のうち、いずれか1種以上を含有する。組成物(ア)は、下記化学式(G1)で表される化合物を、ダルツェン反応によってエポキシ化して、下記化学式(G2)で表される化合物を得る工程によって製造することができる。
【0023】
【化10】

[式中、波線で示した結合は、E体、Z体またはそれらの任意の混合物であることを表す。]
【0024】
【化11】

[式中、波線で示した結合は、E体、Z体またはそれらの任意の混合物であることを表し;*は不斉炭素を表す。]
【0025】
本発明において、組成物(イ)は、前記第五の態様の光学活性化合物のうち、いずれか1種以上を含有する。組成物(イ)は、下記化学式(G1)で表される化合物を、ダルツェン反応によってエポキシ化して、下記化学式(G2)で表される化合物を得る工程と、該化学式(G2)で表される化合物をエポキシ化する工程とにより製造することができる。
【0026】
【化12】

[式中、波線で示した結合は、E体、Z体またはそれらの任意の混合物であることを表す。]
【0027】
【化13】

[式中、波線で示した結合は、E体、Z体またはそれらの任意の混合物であることを表し;*は不斉炭素を表す。]
【0028】
本発明において、組成物(ウ)は、前記第三の態様の光学活性化合物のうち、いずれか1種以上を含有する。組成物(ウ)は、下記一般式(III−A)で表される化合物と、下記一般式(III−B)で表される化合物とを反応させて、下記一般式(III−C)で表される化合物を得る工程と、次いで一般式(III−C)で表される化合物を水素添加することによって、下記一般式(III−D)で表される化合物を得る工程と、次いで、一般式(III−D)で表される化合物と下記一般式(III−E)で表される化合物とを反応させる工程とにより製造することができる。
【0029】
【化14】

[式中、R、R、RおよびRは独立に、フッ素置換されていても良い炭素数1〜5のアルキル基、アルケニル基、もしくはアルキニル基、または水素原子、エチニル基、ブタ−1−エン−3−イン−1−イル基、もしくはアジ化メチル基を表す。]
【0030】
【化15】

[式中、Rはフッ素置換されていても良い炭素数1〜5のアルキル基、アルケニル基、もしくはアルキニル基、または水素原子、エチニル基、ブタ−1−エン−3−イン−1−イル基、もしくはアジ化メチル基を表す。]
【0031】
【化16】

[式中、R、R、R、RおよびRは独立に、フッ素置換されていても良い炭素数1〜5のアルキル基、アルケニル基、もしくはアルキニル基、または水素原子、エチニル基、ブタ−1−エン−3−イン−1−イル基、もしくはアジ化メチル基を表す。]
【0032】
【化17】

[式中、R、R、R、RおよびRは独立に、フッ素置換されていても良い炭素数1〜5のアルキル基、アルケニル基、もしくはアルキニル基、または水素原子、エチニル基、ブタ−1−エン−3−イン−1−イル基、もしくはアジ化メチル基を表す。]
【0033】
【化18】

[式中、Rは炭素数1〜5のアルキル基、イソプロピル基、またはプロパルギル基であり;Xはハロゲン原子を表す。]
【0034】
また、本発明の昆虫制御剤は、一般式(I)〜(III)、化学式(I−1)〜(I−2)、化学式(II−1)〜(II−4)、化学式(III−1)〜(III−2)、化学式(k−1)〜(k−6)、化学式(m−1)〜(m−28)のいずれか1つの式で表される光学活性化合物を、カメムシ目昆虫に対する幼若ホルモン活性の有効成分とすることを特徴とする。
【0035】
また、本発明において、組成物(ア)は、化学式(I−1)〜(I−2)および(k−1)〜(k−6)で表される光学活性化合物のうち、いずれか1種以上を含有し、カメムシ目昆虫に対する幼若ホルモン活性の有効成分とする昆虫制御剤とすることができる。
【0036】
また、本発明において、組成物(イ)は、化学式(II−1)〜(II−4)および(m−1)〜(m−28)で表される光学活性化合物のうち、いずれか1種以上を含有し、カメムシ目昆虫に対する幼若ホルモン活性の有効成分とする昆虫制御剤とすることができる。
【0037】
また、本発明において、組成物(ウ)は、一般式(III)で表される光学活性化合物のうち、いずれか1種以上を含有し、カメムシ目昆虫に対する幼若ホルモン活性の有効成分とする昆虫制御剤とすることができる。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、カメムシ目昆虫に対する幼若ホルモン活性を有する新規な光学活性化合物を提供することができる。また、本発明によれば、該光学活性化合物を有効成分とすることを特徴とする昆虫制御剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0040】
<一般式(I)で示される光学活性化合物>
本発明の第一の態様の光学活性化合物は一般式(I)で示され、該式中、RおよびRは独立に、フッ素置換されていても良い炭素数1〜5のアルキル基、アルケニル基、もしくはアルキニル基、または水素原子、エチニル基、ブタ−1−エン−3−イン−1−イル基、もしくはアジ化メチル基であり、Rは炭素数1〜5のアルキル基、イソプロピル基、またはプロパルギル基である。前記炭素数1〜5のアルキル基、アルケニル基、およびアルキニル基は、直鎖状であっても分岐鎖状であっても良い。前記「フッ素置換されていても良い」とは該炭素数1〜5のアルキル基、アルケニル基、もしくはアルキニル基における水素原子の一部または全部が、フッ素原子で置換されていても良いことを意味する。*は不斉炭素を表し、一般式(I)は(2R,3R)体、(2R,3S)体、(2S,3S)体および(2S,3R)体をそれぞれ表す。
出発物質の取得および合成の容易さの観点から、R、RおよびRは独立に、水素原子、またはフッ素置換されていても良い炭素数1〜5のアルキル基が好ましく、水素原子、メチル基、またはエチル基がより好ましく、メチル基が最も好ましい。同様の観点から、Rはメチル基、エチル基、プロピル基、またはブチル基が好ましく、メチル基またはエチル基がより好ましく、メチル基が最も好ましい。
【0041】
一般式(I)で表される光学活性化合物の具体例として、表1に例示した(i−0)〜(i−37)で表される光学活性化合物が挙げられる。
【0042】
【表1】

【0043】
表1に例示した光学活性化合物のうち、化合物の取得および合成の容易さの観点から、化学式(i−0)〜(i−9)で表される光学活性化合物が好ましく、化学式(i−0)〜(i−6)で表される光学活性化合物がより好ましく、化学式(i−0)〜(i−3)で表される光学活性化合物が最も好ましい。
【0044】
<化学式(I−1)または(I−2)で示される光学活性化合物>
一般式(I)で表される光学活性化合物は、カメムシ目昆虫に対する幼若ホルモン活性を有するが、カメムシ目昆虫に対するより高い幼若ホルモン活性を有する点で、化学式(I−1)または(I−2)で示される光学活性化合物が好ましい。
【0045】
【化19】

【0046】
【化20】

【0047】
該化学式において、破線は紙面に対して奥方向への結合を表し、楔形は紙面に対して手前方向の結合を表す。したがって、化学式(I−1)は(2R,3S)体を表し、化学式(I−2)は(2S,3R)体をそれぞれ表す。
【0048】
<一般式(I)で示す光学活性化合物の製造方法>
本発明の一般式(I)で表される光学活性化合物は、下記一般式(I−A)で表される化合物を、香月シャープレス不斉エポキシ化することにより製造することができる。
【0049】
【化21】

[式中、R、RおよびRは独立に、フッ素置換されていても良い炭素数1〜5のアルキル基、アルケニル基、もしくはアルキニル基、または水素原子、エチニル基、ブタ−1−エン−3−イン−1−イル基、もしくはアジ化メチル基である。]
【0050】
本発明の一般式(I)で表される光学活性化合物の製造方法は、香月シャープレス不斉エポキシ化の工程として、有機溶媒中、チタンテトラアルコキシドと酒石酸ジアルキルとアルキルヒドロキシペルオキシドとを混合し、さらに、一般式(I−A)で表される出発物質を該溶液中に添加して酸化する工程を含むことができる。
【0051】
本発明の一般式(I)で表される光学活性化合物の製造方法において使用する出発物質は一般式(I−A)で表され、該式中、R、RおよびRは独立に、フッ素置換されていても良い炭素数1〜5のアルキル基、アルケニル基、もしくはアルキニル基、または水素原子、エチニル基、ブタ−1−エン−3−イン−1−イル基、もしくはアジ化メチル基である。前記炭素数1〜5のアルキル基、アルケニル基、およびアルキニル基は、直鎖状であっても分岐鎖状であっても良い。前記「フッ素置換されていても良い」とは該炭素数1〜5のアルキル基、アルケニル基、もしくはアルキニル基における水素原子の一部または全部が、フッ素原子で置換されていても良いことを意味する。
化合物の取得および合成の容易さの観点から、R、RおよびRは独立に、水素原子、またはフッ素置換されていても良い炭素数1〜5のアルキル基が好ましく、水素原子、メチル基、またはエチル基がより好ましく、メチル基が最も好ましい。同様の観点から、Rはメチル基、エチル基、プロピル基、またはブチル基が好ましく、メチル基またはエチル基がより好ましく、メチル基が最も好ましい。
【0052】
一般式(I−A)で表される出発物質の具体例として、表2に例示した(i−A−0)〜(i−A−37)で表される化合物が挙げられる。
【0053】
【表2】

【0054】
表2に例示した出発物質のうち、化合物取得の容易さの観点から、化学式(i−A−0)〜(i−A−9)で表される光学活性化合物が好ましく、化学式(i−A−0)〜(i−A−6)で表される光学活性化合物がより好ましく、化学式(i−A−0)〜(i−A−3)で表される光学活性化合物が最も好ましい。
【0055】
本発明の一般式(I)で表される光学活性化合物の製造方法において、香月シャープレス不斉エポキシ化の工程で使用するチタンテトラアルコキシドとしては、本発明の効果を損なわないものであれば、特に制限されないが、炭素数1〜4のアルコキシド基を有するものが好ましいものとして挙げられる。具体的なチタンテトラアルコキシドとしては、チタンテトラメトキシド、チタンテトラエトキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラn−ブトキシド、チタンテトラt−ブトキシド等が例示され、該香月シャープレス不斉エポキシ化の工程における反応効率の観点から、チタンテトライソプロポキシド(Ti(OiPr))またはチタンテトラt−ブトキシド(Ti(OtBu)4)が最も好ましいものとして挙げられる。
該チタンテトラアルコキシドは、該香月シャープレス不斉エポキシ化の工程における反応効率の観点から、一般式(I−A)で表される出発物質に対して、0.01〜1倍モルを用いるのが好ましく、0.03〜0.5倍モルを用いるのがより好ましく、0.05〜0.1倍モルを用いるのが最も好ましい。
【0056】
本発明の一般式(I)で表される光学活性化合物の製造方法において、香月シャープレス不斉エポキシ化の工程で使用する酒石酸ジアルキルとしては、本発明の効果を損なわないものであれば、特に制限されないが、炭素数1〜3のアルキル基を有するものが好ましいものとして挙げられる。具体的な酒石酸ジアルキルとしては、酒石酸ジメチル、酒石酸ジエチル、酒石酸ジプロピル等が例示され、該香月シャープレス不斉エポキシ化の工程における反応効率の観点から、酒石酸ジメチルまたは酒石酸ジエチルがより好ましく、酒石酸ジメチルが最も好ましい。
前記いずれの酒石酸ジアルキルも光学活性であり、(+)体と(−)体とが存在する。本発明の一般式(I)で表される光学活性化合物のうち、(2R,3S)体を製造する場合は該酒石酸ジアルキルの(+)体を使用する。一方、該(2S,3R)体を製造する場合は、該酒石酸ジアルキルの(−)体を使用する。
該酒石酸ジアルキルは、該香月シャープレス不斉エポキシ化の工程における反応効率の観点から、一般式(I−A)で表される出発物質に対して、0.01〜1倍モルを用いるのが好ましく、0.03〜0.5倍モルを用いるのがより好ましく、0.05〜0.1倍モルを用いるのが最も好ましい。
【0057】
本発明の一般式(I)で表される光学活性化合物の製造方法において、香月シャープレス不斉エポキシ化の工程で使用するアルキルヒドロペルオキシドとしては、本発明の効果を損なわないものであれば、特に制限されず、例えば、メチルヒドロペルオキシド、エチルヒドロペルオキシド、プロピルヒドロペルオキシド、イソプロピルヒドロペルオキシド、ブチルヒドロペルオキシド、t−ブチルヒドロペルオキシド、ヘキシルヒドロペルオキシド、オクチルヒドロペルオキシド、デシルヒドロペルオキシドなどが例示でき、該香月シャープレス不斉エポキシ化の工程における該アルキルヒドロペルオキシドの取り扱い易さの観点から、炭素数4以上のアルキルヒドロペルオキシドを用いることが好ましく、t−ブチルヒドロペルオキシドが最も好ましいものとして挙げられる。
該アルキルヒドロペルオキシドは、該香月シャープレス不斉エポキシ化の工程における反応効率の観点から、一般式(I−A)で表される出発物質に対して、0.1〜20倍モルを用いるのが好ましく、0.5〜10倍モルを用いるのがより好ましく、1〜5倍モルを用いるのが最も好ましい。
【0058】
本発明の一般式(I)で表される光学活性化合物の製造方法において、香月シャープレス不斉エポキシ化の工程で使用する溶媒としては、本発明の効果を損なわないものであれば、特に制限されず、例えば、CHClが挙げられる。
【0059】
本発明の一般式(I)で表される光学活性化合物の製造方法において、香月シャープレス不斉エポキシ化の工程では、反応効率を高める観点から、合成ゼオライトであるモレキュラーシーブスを用いても良い。該モレキュラーシーブスとしては、本発明の効果を損なわないものであれば、特に制限されず、例えば、モレキュラーシーブス4Aが挙げられる。
該モレキュラーシーブス4Aは、該香月シャープレス不斉エポキシ化の工程における反応効率の観点から、該反応を行う際に使用する溶媒に対して、0.01〜50重量/容量%を用いるのが好ましく、0.02〜10重量/容量%を用いるのがより好ましく、0.05〜2重量/容量%を用いるのが最も好ましい。
【0060】
本発明の一般式(I)で表される光学活性化合物の製造方法において、香月シャープレス不斉エポキシ化の工程の圧力、雰囲気、反応温度、および反応時間としては、本発明の効果を損なわないものであれば、特に制限されない。
該工程は、通常、常圧で、アルゴンガスや窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下で行う。該温度は、該香月シャープレス不斉エポキシ化の工程における反応効率および副反応を抑える観点から、−40〜10℃が好ましく、−30〜5℃がより好ましく、−20〜0℃が最も好ましい。該反応時間としては、通常、0.3〜6時間で行うことができる。
【0061】
本発明の一般式(I)で表される光学活性化合物の具体的な製造方法は、香月シャープレス不斉エポキシ化の工程を含むのであれば、特に制限されず、例えば、以下の反応スキーム1に示す四段階の工程で表すことができる。
【0062】
【化22】

【0063】
前記反応スキーム1において、MS4Aはモレキュラーシーブス4Aを意味し、TBHPはt−ブチルヒドロペルオキシドを意味し、cat.(+)-DETは触媒である酒石酸ジエチルの(+)体を意味し、cat.(−)-DETは触媒である酒石酸ジエチルの(−)体を意味し、cat. Ti(Oi−Pr)。は触媒であるチタンテトライソプロポキシドを意味し、dist.CHClは蒸留したジクロロメタンを意味し、PDCは二クロム酸ピリジニウムを意味し、t−BuOHはt−ブタノールを意味し、EtOはジエチルエーテルを意味し、eq.は当量を意味し、rtは室温を意味する。
【0064】
<一般式(II)で示される光学活性化合物>
本発明の第二の態様の光学活性化合物は一般式(II)で示され、該式中、R、RおよびRは独立に、フッ素置換されていても良い炭素数1〜5のアルキル基、アルケニル基、もしくはアルキニル基、または水素原子、エチニル基、ブタ−1−エン−3−イン−1−イル基、もしくはアジ化メチル基であり、Rは炭素数1〜5のアルキル基、イソプロピル基、またはプロパルギル基である。前記炭素数1〜5のアルキル基、アルケニル基、およびアルキニル基は、直鎖状であっても分岐鎖状であっても良い。前記「フッ素置換されていても良い」とは該炭素数1〜5のアルキル基、アルケニル基、もしくはアルキニル基における水素原子の一部または全部が、フッ素原子で置換されていても良いことを意味する。*は不斉炭素を表し、一般式(II)は(2S,3S,10R)体、(2S,3R,10R)体、(2R,3R,10R)体、(2R,3S,10R)体、(2S,3S,10S)体、(2S,3R,10S)体、(2R,3R,10S)体、および(2R,3S,10S)体をそれぞれ表す。
化合物の取得および合成の容易さの観点から、R、RおよびRは独立に、水素原子、またはフッ素置換されていても良い炭素数1〜5のアルキル基が好ましく、水素原子、メチル基、またはエチル基がより好ましく、メチル基が最も好ましい。同様の観点から、Rはメチル基、エチル基、プロピル基、またはブチル基が好ましく、メチル基またはエチル基がより好ましく、メチル基が最も好ましい。
【0065】
一般式(II)で示される光学活性化合物の具体例として、表3に例示した(ii−0)〜(ii−37)で表される光学活性化合物が挙げられる。
【0066】
【表3】

【0067】
表3に例示した光学活性化合物のうち、出発物質の取得および合成の容易さの観点から、化学式(ii−0)〜(ii−9)で表される光学活性化合物が好ましく、化学式(ii−0)〜(ii−6)で表される光学活性化合物がより好ましく、化学式(ii−0)〜(ii−3)で表される光学活性化合物が最も好ましい。
【0068】
<化学式(II−1)、(II−2)、(II−3)、または(II−4)で示される光学活性化合物>
一般式(II)で表される光学活性化合物は、カメムシ目昆虫に対する幼若ホルモン活性を有するが、カメムシ目昆虫に対するより高い幼若ホルモン活性を有する点で、化学式(II−1)〜(II−4)で示される光学活性化合物が好ましい。
【0069】
【化23】

【0070】
【化24】

【0071】
【化25】

【0072】
【化26】

【0073】
該化学式において、破線は紙面に対して奥方向への結合を表し、楔形は紙面に対して手前方向の結合を表す。したがって、化学式(II−1)は(2S,3R,10R)体を表し、化学式(II−2)は(2R,3S,10R)体を表し、化学式(II−3)は(2S,3R,10S)体を表し、化学式(II−4)は(2R,3S,10S)体をそれぞれ表す。
【0074】
<一般式(II)で示される光学活性化合物の製造方法>
本発明の一般式(II)で表される光学活性化合物の製造方法は、一般式(I)で表される化合物を出発物質として、シャープレス不斉ジヒドロキシ化する工程を含む。
【0075】
本発明の一般式(II)で表される光学活性化合物の製造方法は、シャープレス不斉ジヒドロキシ化の工程として、溶媒中、キラル三級アミンと四酸化オスミウムと一般式(I)で表される出発物質とを混合して、一般式(I)を酸化する工程を含んでいてもよい。
【0076】
本発明の一般式(II)で表される化合物の製造方法において使用する出発物質は一般式(I)で表され、該式中、R、RおよびRは独立に、フッ素置換されていても良い炭素数1〜5のアルキル基、アルケニル基、もしくはアルキニル基、または水素原子、エチニル基、ブタ−1−エン−3−イン−1−イル基、もしくはアジ化メチル基であり、Rは炭素数1〜5のアルキル基、イソプロピル基、またはプロパルギル基である。前記炭素数1〜5のアルキル基、アルケニル基、およびアルキニル基は、直鎖状であっても分岐鎖状であっても良い。前記「フッ素置換されていても良い」とは該炭素数1〜5のアルキル基、アルケニル基、もしくはアルキニル基における水素原子の一部または全部が、フッ素原子で置換されていても良いことを意味する。該出発物質として用いることのできる、一般式(I)で表される光学活性化合物の具体例としては、例えば、化学式(I−0)〜(I−37)を挙げることができる。
【0077】
一般式(I)で表される該出発物質のうち、化合物取得の容易さの観点から、化学式(i−0)〜(i−9)で表される光学活性化合物および該光学異性体が好ましく、化学式(i−0)〜(i−6)で表される光学活性化合物および該光学異性体がより好ましく、化学式(i−0)〜(i−3)で表される光学活性化合物および該光学異性体が最も好ましい。
【0078】
本発明の一般式(II)で表される光学活性化合物の製造方法において、シャープレス不斉ジヒドロキシ化の工程で使用するキラル三級アミンとしては、本発明の効果を損なわないものであれば、特に制限されない。該キラル三級アミンとしては、例えば、不斉配位子である(DHQ)PHAL、(DHQ)pyr、もしくは(DHQ)AQN、または(DHQD)PHAL、(DHQD)pyr、もしくは(DHQD)AQNを用いることができる。本発明の一般式(II)で表される光学活性化合物のうち、(2S,3R,10R)体および(2R,3S,10R)体を製造する場合は、(DHQ)PHAL、(DHQ)pyr、もしくは(DHQ)AQNを用いることができ、一方、(2S,3R,10S)体および(2R,3S,10S)体を製造する場合は、(DHQD)PHAL、(DHQD)pyr、もしくは(DHQD)AQNを用いることができる。
該キラル三級アミンは、該シャープレス不斉ジヒドロキシ化の工程における反応効率の観点から、一般式(I)で表される出発物質に対して、0.001〜1倍モルを用いるのが好ましく、0.005〜0.5倍モルを用いるのがより好ましく、0.01〜0.2倍モルを用いるのが最も好ましい。
【0079】
本発明の一般式(II)で表される光学活性化合物の製造方法において、シャープレス不斉ジヒドロキシ化の工程で使用する四酸化オスミウムとしては、本発明の効果を損なわないものであれば、特に制限されない。該四酸化オスミウムとしては、例えば、KOsO(OH)を用いることができる。
該四酸化オスミウムは、該シャープレス不斉ジヒドロキシ化の工程における反応効率の観点から、一般式(I)で表される出発物質に対して、0.001〜1倍モルを用いるのが好ましく、0.005〜0.5倍モルを用いるのがより好ましく、0.01〜0.2倍モルを用いるのが最も好ましい。
【0080】
本発明の一般式(II)で表される光学活性化合物の製造方法において、シャープレス不斉ジヒドロキシ化の工程では、反応効率を高める観点から、共酸化剤を用いても良い。該共酸化剤としては、本発明の効果を損なわないものであれば、特に制限されず、例えば、アミンオキシドまたはフェリシアン化物が挙げられ、KFe(CN)が好ましいものとして例示できる。
該共酸化剤は、該シャープレス不斉ジヒドロキシ化の工程における反応効率の観点から、一般式(I)で表される出発物質に対して、それぞれ、0.1〜30倍モルを用いるのが好ましく、0.5〜20倍モルを用いるのがより好ましく、1〜10倍モルを用いるのが最も好ましい。
【0081】
本発明の一般式(II)で表される光学活性化合物の製造方法において、シャープレス不斉ジヒドロキシ化の工程では、反応効率を高める観点から、炭酸カリウム(KCO)を添加しても良い。
該炭酸カリウムは、該シャープレス不斉ジヒドロキシ化の工程における反応効率の観点から、一般式(I)で表される出発物質に対して、それぞれ、0.1〜30倍モルを用いるのが好ましく、0.5〜20倍モルを用いるのがより好ましく、1〜10倍モルを用いるのが最も好ましい。
【0082】
本発明の一般式(II)で表される光学活性化合物の製造方法において、シャープレス不斉ジヒドロキシ化の工程では、反応効率を高める観点から、スルホンアミドを添加しても良い。該スルホンアミドとしては、本発明の効果を損なわないものであれば、特に制限されず、例えば、CHSONHが好ましいものとして例示できる。
該スルホンアミドは、該シャープレス不斉ジヒドロキシ化の工程における反応効率の観点から、一般式(I)で表される出発物質に対して、0.1〜30倍モルを用いるのが好ましく、0.5〜20倍モルを用いるのがより好ましく、1〜10倍モルを用いるのが最も好ましい。
【0083】
前記キラル三級アミンと前記四酸化オスミウムと前記共酸化剤と前記KCOとを混合した試薬として、いわゆるAD−mix−αおよびAD−mix−βと呼ばれる試薬が、それぞれ試薬会社から販売されている。本発明の効果を損なわない限り、前記AD−mix−α又はβ試薬を、本発明の一般式(II)で表される光学活性化合物の製造方法におけるシャープレス不斉ジヒドロキシ化の工程で用いても良い。該場合、本発明の一般式(II)で表される光学活性化合物のうち、(2S,3R,10R)体および(2R,3S,10R)体を製造する場合は、AD−mix−αを用いることができ、一方、(2S,3R,10S)体および(2R,3S,10S)体を製造する場合は、AD−mix−βを用いることができる。
【0084】
本発明の一般式(II)で表される光学活性化合物の製造方法において、シャープレス不斉ジヒドロキシ化の工程で使用する溶媒としては、本発明の効果を損なわないものであれば、特に制限されず、例えば、t−ブタノール/水混合溶媒(1/1,容積比)が挙げられる。
【0085】
本発明の一般式(II)で表される光学活性化合物の製造方法において、シャープレス不斉ジヒドロキシ化の工程の圧力、雰囲気、反応温度、および反応時間としては、本発明の効果を損なわないものであれば、特に制限されない。
該工程は、通常、常圧で、空気雰囲気下で行うことができる。該温度は、該香月シャープレス不斉エポキシ化の工程における反応効率および副反応を抑える観点から、−20〜10℃が好ましく、−10〜5℃がより好ましく、−5〜0℃が最も好ましい。該反応時間としては、通常、12〜96時間で行うことができる。
【0086】
本発明の一般式(II)で表される光学活性化合物の具体的な製造方法は、シャープレス不斉ジヒドロキシ化の工程を含むのであれば、特に制限されず、例えば、以下の反応スキーム2に示す三段階の工程で表すことができる。
【0087】
【化27】

【0088】
前記反応スキーム2において、MeSONHはCHSONHを意味し、MsClは塩化メチルスルホニル(CHSOCl)を意味し、t−BuOH/HO(1:1)はt−ブタノール/水混合溶媒(1/1,容積比)を意味し、dist.pyridineは蒸留したピリジンを意味し、dist.CHClは蒸留したジクロロメタンを意味し、dist.MeOHは蒸留したメタノールを意味し、eq.は当量を意味し、rtは室温を意味する。
【0089】
<一般式(III)で示される光学活性化合物>
本発明の第三の態様の光学活性化合物は一般式(III)で示され、該式中、R、R、R、RおよびRは独立に、フッ素置換されていても良い炭素数1〜5のアルキル基、アルケニル基、もしくはアルキニル基、または水素原子、エチニル基、ブタ−1−エン−3−イン−1−イル基、もしくはアジ化メチル基であり、Rは炭素数1〜5のアルキル基、イソプロピル基、またはプロパルギル基であり、RおよびRは、結合して環を形成していても良い。前記炭素数1〜5のアルキル基、アルケニル基、およびアルキニル基は、直鎖状であっても分岐鎖状であっても良い。前記「フッ素置換されていても良い」とは該炭素数1〜5のアルキル基、アルケニル基、もしくはアルキニル基における水素原子の一部または全部が、フッ素原子で置換されていても良いことを意味する。*は不斉炭素を表し、一般式(III)は(2R,3R)体、(2R,3S)体、(2S,3S)体および(2S,3R)体をそれぞれ表す。尚、一般式(III)において、R、R、およびRが結合する炭素原子が不斉炭素である場合には、該一般式および該一般式から導かれる化学式は、該不斉炭素のR体およびS体のそれぞれの光学異性体を表す。
出発物質の取得および合成の容易さの観点から、R、R、R、およびRは独立に、水素原子、またはフッ素置換されていても良い炭素数1〜5のアルキル基が好ましく、水素原子、メチル基、またはエチル基がより好ましく、メチル基が最も好ましい。また、同様の観点から、Rは水素原子、またはフッ素置換されていても良い炭素数1〜5のアルキル基が好ましく、水素原子、メチル基、またはエチル基がより好ましく、水素原子が最も好ましい。さらに、同様の観点から、Rはメチル基、エチル基、プロピル基、またはブチル基が好ましく、メチル基またはエチル基がより好ましく、メチル基が最も好ましい。
【0090】
<化学式(III−1)または(III−2)で示される光学活性化合物>
一般式(III)で表される光学活性化合物は、カメムシ目昆虫に対する幼若ホルモン活性を有するが、カメムシ目昆虫に対するより高い幼若ホルモン活性を有する点で、下記化学式(III−1)または(III−2)で示される光学活性化合物が好ましい。
【0091】
【化28】

【0092】
【化29】

該化学式において、破線は紙面に対して奥方向への結合を表し、楔形は紙面に対して手前方向の結合を表す。したがって、化学式(III−1)は(2R,3S)体を表し、化学式(III−2)は(2S,3R)体をそれぞれ表す。また、化学式(III−1)および(III−2)中、メチル基の結合する7位の不斉炭素における絶対配置は、RまたはSの何れであっても良い。
【0093】
一般式(III)で示される光学活性化合物の具体例として、表4に例示した(iii−0)〜(iii−12’)で表される光学活性化合物および表5に例示した(iii−13)〜(iii−24’)で表される光学活性化合物が挙げられる。
【0094】
【表4】

【0095】
【表5】

【0096】
表4および表5に例示した光学活性化合物のうち、出発物質の取得および合成の容易さの観点から、化学式(iii−0)〜(iii−9)で表される光学活性化合物が好ましく、化学式(iii−0)〜(iii−7)で表される光学活性化合物がより好ましく、化学式(iii−0)〜(iii−2)で表される光学活性化合物が最も好ましい。
【0097】
<組成物(ア)および(イ)の製造方法>
本発明において、組成物(ア)は、化学式(G1)で表される化合物を、ダルツェン反応によってエポキシ化して、化学式(G2)で表される化合物を得る工程により製造することができる。
本発明において、組成物(イ)は、化学式(G1)で表される化合物を、ダルツェン反応によってエポキシ化して、化学式(G2)で表される化合物を得る工程と、該化学式(G2)で表される化合物をエポキシ化する工程とにより製造することができる。
【0098】
組成物(ア)および(イ)を製造する方法において、出発物質である化学式(G1)で表される化合物としては、該式中の波線で示した結合が表すように、E体、Z体またはそれらの任意の混合物を用いることができる。該出発物質におけるE体およびZ体の混合比としては、本発明の効果を損なわない限り、任意の比で混合することができる。該反応の効率および組成物(ア)および(イ)が含む光学活性化合物種に多様性を持たせる観点から、前記混合比はE体:Z体=2:8〜8:2が好ましく、E体:Z体=3:7〜7:3がより好ましく、E体:Z体=4:6〜6:4が最も好ましい。
【0099】
一般に、ダルツェン反応(ダルツェン縮合)とはアルデヒドまたはケトンとα−ハロゲン酸エステル(α−ハロゲン化カルボン酸エステル)を塩基触媒下に縮合させ、グリシドエステル(α,β−エポキシエステル)を生成する反応である。組成物(ア)および(イ)を製造する方法における、「ダルツェン反応」の記載も一般的な意味で用いる。
【0100】
組成物(ア)および(イ)を製造する方法において、出発物質である化学式(G1)で表される化合物をダルツェン反応によってエポキシ化して、化学式(G2)で表される化合物を得る方法としては、本発明の効果を損なわなければ特に制限されない。
組成物(ア)および(イ)を製造する方法において、ダルツェン反応で用いることのできる塩基触媒としては、本発明の効果を損なわなければ特に制限されず、例えば、アルカリ金属アルコキシドまたはアルカリ金属アミドが挙げられる。具体例としては、カリウムt−ブトキシド、ナトリウムアミド、またはリチウムジイソプロピルアミドが挙げられ、カリウムt−ブトキシドを好適に用いることができる。
また、組成物(ア)および(イ)を製造する方法において、ダルツェン反応で用いることのできるα−ハロゲン化カルボン酸エステルとしては、本発明の効果を損なわなければ特に制限されず、例えば、クロロ酢酸メチルまたはブロモ酢酸メチルが挙げられ、クロロ酢酸メチルを好適に用いることができる。
【0101】
該ダルツェン反応を行う方法の具体例として、カリウムt−ブトキシドのt−ブタノール溶液に対して、容積比で0.2倍量のTHFを添加した混和溶液に、化学式(G1)で表される化合物とクロロ酢酸メチルとを加えて攪拌しながら反応させた後、飽和塩化アンモニウム水溶液でクエンチする方法が例示できる。該方法を用いた場合、通常、カリウムt−ブトキシドと化学式(G1)で表される化合物とのモル比は0.6〜1.4で行うことができ、クロロ酢酸メチルと化学式(G1)で表される化合物とのモル比は0.8〜1.2で行うことができる。該攪拌による反応は、通常、6〜24時間で行うことができる。
【0102】
組成物(イ)を製造する方法において、前段のダルツェン反応で得られた、化学式(G2)で表される化合物をエポキシ化する方法としては、本発明の効果を損なわなければ特に制限されず、例えば、酸化剤であるメタクロロ過安息香酸(mCPBA)を添加して攪拌する方法が挙げられる。該方法を用いた場合、通常、mCPBAの添加量としては、化学式(G2)で表される化合物に対して0.8〜1.2倍モルで反応させることができ、該反応温度としては、0℃で好適に行うことができる。該攪拌による反応は通常、0.5〜3時間で行うことができる。
【0103】
組成物(ア)の製造方法としては、化学式(G1)で表される化合物を、ダルツェン反応によってエポキシ化して、化学式(G2)で表される化合物を得る工程を含むのであれば、特に制限されず、例えば、以下の反応スキーム3に示す一段階の工程で表すことができる。
【0104】
【化30】

【0105】
組成物(イ)の製造方法としては、化学式(G1)で表される化合物を、ダルツェン反応によってエポキシ化して、化学式(G2)で表される化合物を得る工程と、該化学式(G2)で表される化合物をエポキシ化する工程とを含むのであれば、特に制限されず、例えば、以下の反応スキーム3’に示す二段階の工程で表すことができる。
【0106】
【化31】

【0107】
前記反応スキーム3および3’において、Meはメチル基を意味し、t−BuOKはカリウムt−ブトキシドを意味し、t−BuOH−THFはt−ブタノールとTHFの混和溶液を意味する。また、波線で示した結合は、E体、Z体またはそれらの任意の混合物であることを表す。すなわち、波線で示した結合をもつ化学式で表される化合物は、該結合に由来する立体異性体の混合物であっても良いことを意味する。*は不斉炭素を表す。
【0108】
<組成物(ウ)の製造方法>
本発明において、組成物(ウ)は、一般式(III−A)で表される化合物と、一般式(III−B)で表される化合物とを反応させて、一般式(III−C)で表される化合物を得る工程と、次いで化学式(III−C)で表される化合物を水素添加することによって、一般式(III−D)で表される化合物を得る工程と、次いで、一般式(III−D)で表される化合物と一般式(III−E)で表される化合物とを反応させる工程とにより製造することができる。
【0109】
組成物(ウ)の製造方法において、一般式(III−A)で表されるアルデヒドと一般式(III−B)で表されるホスホランとを、有機溶媒中で加熱することによって反応させることができ、一般式(III−C)で表されるケトンを得ることができる。次いで該ケトンを、有機溶媒中、水素雰囲気下で触媒とともに攪拌することによって水素添加することができ、一般式(III−D)で表される化合物を得ることができる。次いで、一般式(III−D)で表される化合物と一般式(III−E)で表される化合物とを、アルカリ金属アルコキシドとテトラヒドロキシフラン(THF)とを用いて、反応させることができる。
【0110】
組成物(ウ)を製造する方法においては、出発物質として一般式(III−A)で表される化合物を使用する。該式中、R、R、RおよびRは独立に、フッ素置換されていても良い炭素数1〜5のアルキル基、アルケニル基、もしくはアルキニル基、または水素原子、エチニル基、ブタ−1−エン−3−イン−1−イル基、もしくはアジ化メチル基である。前記炭素数1〜5のアルキル基、アルケニル基、およびアルキニル基は、直鎖状であっても分岐鎖状であっても良い。前記「フッ素置換されていても良い」とは該炭素数1〜5のアルキル基、アルケニル基、もしくはアルキニル基における水素原子の一部または全部が、フッ素原子で置換されていても良いことを意味する。尚、一般式(III−A)で表される化合物において、RおよびRが結合する炭素原子が不斉炭素である場合には、該一般式および該一般式から導かれる化学式は、該不斉炭素のR体およびS体のそれぞれの光学異性体を表す。
化合物取得の容易さの観点から、R、R、およびRは独立に、水素原子、またはフッ素置換されていても良い炭素数1〜5のアルキル基が好ましく、水素原子、メチル基、またはエチル基がより好ましく、メチル基が最も好ましい。また、同様の観点から、Rは水素原子、またはフッ素置換されていても良い炭素数1〜5のアルキル基が好ましく、水素原子、メチル基、またはエチル基がより好ましく、水素原子が最も好ましい。
【0111】
一般式(III−A)で表される化合物の具体例として、表6に例示した(iii−A−0)〜(iii−A−24)が挙げられる。
【0112】
【表6】

【0113】
表6に例示した化合物のうち、該出発物質としては、化合物取得の容易さの観点から、化学式(iii−A−0)〜(iii−A−9)で表される化合物が好ましく、化学式(iii−A−0)〜(iii−A−7)で表される化合物がより好ましく、化学式(iii−A−0)〜(iii−A−3)で表される化合物が最も好ましい。
【0114】
組成物(ウ)を製造する方法においては、一般式(III−B)で表される化合物を使用する。該式中、Rは、フッ素置換されていても良い炭素数1〜5のアルキル基、アルケニル基、もしくはアルキニル基、または水素原子、エチニル基、ブタ−1−エン−3−イン−1−イル基、もしくはアジ化メチル基である。前記炭素数1〜5のアルキル基、アルケニル基、およびアルキニル基は、直鎖状であっても分岐鎖状であっても良い。前記「フッ素置換されていても良い」とは該炭素数1〜5のアルキル基、アルケニル基、もしくはアルキニル基における水素原子の一部または全部が、フッ素原子で置換されていても良いことを意味する。
化合物取得の容易さの観点から、Rは、水素原子、またはフッ素置換されていても良い炭素数1〜5のアルキル基が好ましく、水素原子、メチル基、またはエチル基がより好ましく、メチル基が最も好ましい。
【0115】
一般式(III−B)で示される化合物の具体例として、以下に例示したものが挙げられる。
【0116】
【化32】

【0117】
一般式(iii−B)で表される化合物の前記具体例のうち、該出発物質としては、化合物取得の容易さの観点から、化学式(iii−B−1)〜(iii−B−4)で表される化合物が好ましく、化学式(iii−B−1)〜(iii−B−3)で表される化合物がより好ましく、化学式(iii−B−2)〜(iii−B−3)で表される化合物が最も好ましい。
【0118】
組成物(ウ)を製造する方法において、一般式(III−A)で表される化合物と、一般式(III−B)で表される化合物とを反応させる方法としては、本発明の効果を損なわずに一般式(III−C)を得るものであれば、特に制限されず、例えばトルエン中で加熱する方法が挙げられる。
該反応効率の観点から、該加熱温度としては、80〜120℃で加熱することが好ましく、90〜110℃で加熱することがより好ましく、95〜105℃で加熱することが最も好ましい。また、該加熱による反応時間は、通常8〜18時間で行うことができる。
また、該反応効率の観点から、一般式(III−A)で表される化合物と、一般式(III−B)で表される化合物とのモル比は、0.8〜1.2が好ましい。
【0119】
一般式(III−C)で表される化合物は、E体もしくはZ体、またはそれらの混合物であってもよい。いずれの化合物であっても、次の水素添加によって、一般式(III−D)で表される化合物を得ることができる。
【0120】
組成物(ウ)を製造する方法において、前段の反応で得られた一般式(III−C)に水素添加する方法としては、本発明の効果を損なわずに一般式(III−D)で表される化合物を得るものであれば、特に制限されず、例えば水素ガス雰囲気下で触媒を用いて水素添加する方法が挙げられる。
該水素添加の方法としては、例えば、前段の反応で得られた一般式(III−C)のヘキサン溶液に対して、パラジウムカーボン触媒(Pd−C)を酢酸エチルに懸濁した液を加えて、水素ガス雰囲気下で攪拌する方法が好適な方法として挙げることができる。該水素添加反応の時間は、通常、2〜6時間で行うことができる。
【0121】
組成物(ウ)を製造する方法においては、一般式(III−E)で表される化合物を使用する。該式中、Rは炭素数1〜5のアルキル基、イソプロピル基、またはプロパルギル基であり、Xはハロゲン原子である。前記炭素数1〜5のアルキル基は、直鎖状であっても分岐鎖状であっても良い。
化合物取得の容易さの観点から、Rの具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基が好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基がより好ましく、メチル基、またはエチル基が最も好ましい。また、該ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、およびヨウ素原子が挙げられ、反応効率の観点から、塩素原子および臭素原子がより好ましく、塩素原子が最も好ましいものとして挙げられる。
【0122】
一般式(III−E)で示される化合物の具体例として、以下に例示したものが挙げられる。
【0123】
【化33】

【0124】
一般式(III−E)で表される化合物の前記具体例のうち、該出発物質としては、化合物取得の容易さ及び反応効率の観点から、化学式(III−E−1)〜(III−E−6)で表される化合物が好ましく、化学式(III−B−1)〜(III−B−3)で表される化合物がより好ましく、化学式(III−B−1)で表される化合物が最も好ましい。
【0125】
組成物(ウ)を製造する方法において、前段の反応で得られた一般式(III−D)に一般式(III−E)で表される化合物を反応させる方法としては、本発明の効果を損なわずに一般式(III)で表される化合物を得られるものであれば、特に制限されず、例えば、アルカリ金属アルコキシドを含むt−ブタノールとテトラヒドロフラン(THF)との混和液に、一般式(III−D)と一般式(III−E)で表される化合物とを加えて攪拌し、ついで、飽和塩化アンモニウム水溶液でクエンチする方法が挙げられる。
該アルカリ金属アルコキシドとしては、本発明の効果を損なわないものであれば特に制限されず、例えば、カリウムt−ブトキシドが好適なものとして挙げられる。該攪拌操作における反応時間は、通常8〜24時間で行うことができる。
該反応効率の観点から、一般式(III−D)で表される化合物と、一般式(III−E)で表される化合物とのモル比は、0.8〜1.2が好ましい。また、該カリウムt−ブトキシドと一般式(III−D)で表される化合物とのモル比は、0.6〜1.5が好ましい。該アルカリ金属アルコキシドを含むt−ブタノールとTHFとの容積比は、通常、t−ブタノール:THF=10:1〜2:1で行うことができ、6:1〜4:1がより好ましく、5:1が最も好ましい。
【0126】
組成物(ウ)の具体的な製造方法としては、一般式(III−A)で表される化合物と、一般式(III−B)で表される化合物とを反応させて、一般式(III−C)で表される化合物を得る工程と、次いで化学式(III−C)で表される化合物を水素添加することによって、一般式(III−D)で表される化合物を得る工程と、次いで、一般式(III−D)で表される化合物と一般式(III−E)で表される化合物とを反応させる工程とを含むのであれば、特に制限されず、例えば、以下の反応スキーム4に示す三段階の工程で表すことができる。
【0127】
【化34】

【0128】
前記反応スキーム4において、PhPはトリフェニルホスフィンを意味し、Meはメチル基を意味し、t−BuOKはカリウムt−ブトキシドを意味し、t−BuOHはt−ブタノールを意味する。また、波線で示した結合は、楔形で表せる結合及び/又は破線で表せる結合を意味する。すなわち、波線で示した結合をもつ化学式で表される化合物は、該結合に由来する立体異性体の混合物であっても良いことを意味する。
【0129】
<カメムシ目昆虫に対する幼若ホルモン>
昆虫の分類群の一つであるカメムシ目(Hemiptera)は半翅目とも呼ばれ、異翅類(Heteroptera)と同翅類(Homoptera)とに分けられる。異翅類に分類される昆虫としては、例えば、カメムシ、カスミカメムシ、ナガカメムシ、ホシカメムシ、およびサシガメ等が挙げられる。同翅類に分類される昆虫としては、例えば、セミ、ウンカ、ヨコバイ、アブラムシ、カイガラムシ、およびコナジラミ等が挙げられる。
【0130】
本発明の光学活性化合物が有するカメムシ目昆虫に対する幼若ホルモン活性とは、カメムシ目昆虫に該光学活性化合物を投与した場合の、該カメムシ目昆虫の正常な変態を抑制することをいう。
【0131】
本発明の光学活性化合物を有効成分とする昆虫制御剤は、カメムシ目昆虫の体内に摂取または吸収された場合に、該カメムシ目昆虫の正常な変態を抑制することができる。また、該昆虫制御剤は、カメムシ目昆虫の体内に摂取または吸収された場合に、該カメムシ目昆虫の正常な生殖行動を抑制し得る繁殖阻害剤として使用することもできる。さらに、該昆虫制御剤は、カメムシ目昆虫の体内に摂取または吸収された場合に、該カメムシ目昆虫を死に至らしめ得る殺虫剤として使用することもできる。
【0132】
本発明の光学活性化合物を昆虫制御剤としてカメムシ目昆虫に投与する方法としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限されず、例えば、本発明の光学活性化合物または該光学活性化合物を含有する組成物を、溶媒に溶解または分散させて、該溶液を該カメムシ目昆虫に対して直接塗布または散布する方法、または該カメムシ目昆虫の生活圏に対して散布する方法が挙げられる。また、別の例として、本発明の光学活性化合物または該光学活性化合物を含有する組成物を、粉体として、該カメムシ目昆虫または該カメムシ目昆虫の生活圏に対して散布して、該粉体を該カメムシ目昆虫に接触させる方法が挙げられる。さらに、別の例として、本発明の光学活性化合物または該光学活性化合物を含有する組成物を、餌に含有させて該カメムシ目昆虫に与える方法も挙げられる。
【実施例】
【0133】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら制約されるものではない。
【0134】
<天然の幼若ホルモン化合物の抽出>
カメムシ目昆虫であるチャバネアオカメムシのアラタ体を摘出し、その培養液に分泌される化合物を得た。さらに詳しくは、まず、茨城県常総市で採集したチャバネアオカメムシ(Plautia crossota stali)を20世代以上に渡って飼育した。飼育は、16時間の明条件:8時間の暗条件の光条件制御下において、25℃の実験室で行った。該カメムシには餌として、生ピーナッツ、乾燥ダイズ、0.05%L−アスコルビン酸ナトリウムおよび0.025%L−システイン水溶液を与えた。次に、飼育した該カメムシの首の膜に開けた穴から、側心体−アラタ体連合体を背脈間の小片とともに摘出して、該摘出複合体を50μLの最少基礎培地で培養した。該最少培地としては、Hank塩および5ppm‐TWEEN80を含み、L−グルタミン酸と重炭酸ナトリウムを含まず、20mM‐HEPESでpH7.2に調製したものを使用した。培養方法としては、前記50μLの培養液に対して、5〜10個体のカメムシから摘出された前記アラタ体の複合体を入れて、ガラス試験管中で培養した。30℃で6時間培養した後、該培養液から50μLのヘキサンで3回抽出し、該分離したヘキサン相を統合して、天然のカメムシ目昆虫の幼若ホルモンを含有するヘキサン抽出液として、−20℃で使用時まで保存した。
【0135】
<天然の幼若ホルモン化合物の分析>
前記天然の幼若ホルモンを含むヘキサン抽出液のガスクロマトグラフィ‐化学イオン化法質量分析(GC−MS)を行い、該[M+NHのm/zが300であることを明らかにした。その際に用いた装置はGCMS‐QP2010plus(島津製作所製)にRt−βDEXcstカラム(内径0.25mm,30m長,0.25μmフィルム厚)を設置したものであり、該測定は、カラムを170℃に加熱して、50cm/秒の流速のHeのキャリアガスで行った。
また、前記天然の幼若ホルモンを含むヘキサン抽出液を、高分解能の高速原子衝突法(Fast Atom Bombardment法:FAB法)によって高精度に質量分析した結果、前記天然の幼若ホルモン化合物のイオンピーク[M+H]は283.1885であり、該組成式はC1627であるという結論を得た。
さらに、前記天然の幼若ホルモンを含むヘキサン抽出液の薄層クロマトグラフィー分析によって、前記天然の幼若ホルモン化合物は、従来の幼若ホルモンとは異なる構造であった。
【0136】
<カメムシ目昆虫に対する幼若ホルモン活性の検定>
合成した光学活性化合物または該光学活性化合物を含有する組成物をヘキサンに溶解または懸濁した液を昆虫制御剤の一例として使用し、該カメムシ目昆虫に対する幼若ホルモン活性を検定した。すなわち、後述する方法によって該昆虫制御剤をチャバネアオカメムシに投与し、該カメムシに現れた形態の異常を測定した。該カメムシの形態を測定する具体的な方法を、図1を参照して説明する。
図1のA〜Cは、チャバネアオカメムシの幼虫または成虫の形態を示す。図1のAは正常な5齢(終齢)幼虫の形態を示し、図1のBは正常な成虫の形態を示し、図1のCは該昆虫制御剤の投与によって形態異常が現れた幼虫様の成虫を示す。図1のスケールバーは5mmの長さを示し、図1のA〜Cは同じスケールで示してある。図1のBにおいて、「a」は前翅の長さを示し、「b」は前胸背板の幅を示し、「c」は小盾板の長さを示す。図1のCにおいて、「a’」は前翅の長さを示し、「b’」は前胸背板の幅を示し、「c’」は小盾板の長さを示す。成虫期の該カメムシにおいて、前翅の長さを前胸背板の長さで割った値(a÷bおよびa’÷b’の値)を「前翅の相対長」と呼び、小盾板の長さを前胸背板の長さで割った値(c÷bおよびc’÷b’の値)を「小盾板の相対長」と呼ぶこととする。
さて、本例では、該昆虫制御剤の含有する光学活性化合物を投与したことによって、前記前翅の相対長及または前記小盾板の相対長が短縮した場合に、「該光学活性化合物は、カメムシ目昆虫に対して幼若ホルモン活性を有する」と説明する。
【0137】
該昆虫制御剤をチャバネアオカメムシに投与する具体的な方法は、以下の通りである。該カメムシが5齢幼虫になるために4回目の脱皮を行う日または該翌日において、該カメムシの腹部の背側に1μLの前記昆虫制御剤を塗布する方法を用いた。該カメムシは次の脱皮の際変態して成虫となる。該成虫期のカメムシの形態を測定することによって、前述のように、前翅および小盾板の相対長を求める。
【0138】
[実施例1]
<組成物(ア)および(イ)の合成例>
添加漏斗を取り付けた三口丸底フラスコ中で、t−ブタノール5mLに溶解したカリウムt−ブトキシド336mg(3mmol)とTHF1mLと混和溶液に、(E)体と(Z)体を6:4で含有する6,10−ジメチルウンデカ−5,9−ジエン−2−オン288mg(2mmol)とクロロ酢酸メチル238mg(2.2mmol)とを加えて12時間攪拌した後、飽和塩化アンモニウム水溶液でクエンチした。該反応液からヘキサン/酢酸エチル(1/1,容積比)で2回抽出して、得られた有機相を飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥して、短いシリカゲルパッドで濾過した後、減圧濃縮した。得られた残渣を、シリカゲルのフラッシュカラムクロマトグラフィーによって精製し、3−(4,8−ジメチルノナ−3,7−ジエニル)−3−メチルオキシラン−2−カルボン酸メチル、すなわち、組成物(ア)である薄黄色油状混合物186mgを収率35%で得た(反応スキーム5)。
H―NMR (400 MHz, CDCl) δ5.1−5.0 (2H, m), 3.78, 3.77, and 3.76 (each s, 3H), 3.40−3.30 (m, 1H), 2.10−1.90 (m, 6H), 1.80−1.60 (9H, m), 1.38 (s, 3H), 1.34 and 1.33 (each s, 3H)。
【0139】
ジクロロメタン25mLと5%アンモニア水溶液10mLの混和溶液に溶解した前記3−(4,8−ジメチルノナ−3,7−ジエニル)−3−メチルオキシラン−2−カルボン酸メチル130mg(0.5mmol)に対して、メタクロロ過安息香酸(mCPBA)86mg(0.5mmol)を0℃で加えて1時間攪拌した後、飽和塩化ナトリウム水溶液を添加した。該混合液から酢酸エチルで2回抽出して得た有機相を、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過して、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルのフラッシュカラムクロマトグラフィーによって精製し、3−(6−(3,3−ジメチルオキシラン−2−イル)−4−メチルヘキサ−3−エニル)−3−メチルオキシラン−2−カルボン酸メチル、および、3−メチル−3−(2−(3−メチル−3−(4−メチルペンタ−3−エニル)オキシラン−2−イル)エチル)オキシラン−2−カルボン酸メチル、すなわち、組成物(イ)である薄黄色油状混合物56.4mgを収率40%で得た(反応スキーム5)。
H−NMR (400 MHz, CDCl) δ5.1−5.0 (1H, m), 3.78 and 3.77 (each s, 3H), 3.38 and 3.32 (each s, 1H), 2.75−2.65 (m, 1H), 2.48−2.44 (m, 0.5H), 2.30−2.24 (0.5H, m), 2.20−2.0 (3H, m), 2.13 (s, 3H), 1.70−1.18 (13H, m), HRMS (EI) calcd for C1626 282.1831, found 282.1823。
また、前記精製時に、前記3−(4,8−ジメチルノナ−3,7−ジエニル)−3−メチルオキシラン−2−カルボン酸メチル41.2mgを収率32%で回収した。
【0140】
【化35】

【0141】
[実施例2]
<組成物(ウ)の合成例>
添加漏斗を取り付けた三口丸底フラスコ中で、7−メトキシ−3,7−ジメチルオクタナル2.79g(15mmol)を溶解したトルエン100mLに、(アセチルメチレン)トリフェニルホスホラン5.1g(15.75mmol)を室温で加えた。該溶液を12時間100℃に加熱した後、室温にまで冷却してから、減圧濃縮した。得られた残渣にヘキサン100mLを加えて懸濁し、シリカゲルパッドでろ過した後、減圧濃縮して、粗(E)−10−メトキシ−6,10−ジメチルウンデカ−3−エン−2−オン3.21g(収率95%)を薄黄色の油状物質として得た。該粗化合物は精製せずに、次の合成ステップで用いた。前記粗化合物2.36g(10.5mmol)を、パラジウムカーボン触媒(Pd−C触媒)100mgを懸濁した酢酸エチル100mLに加え、水素ガス雰囲気下で3.5時間攪拌した。該懸濁液をセライトパッドでろ過し、減圧濃縮して得られた粗10−メトキシ−6,10−ジメチルウンデカン−2−オン2.09g(収率88%)を精製せずに、次の合成ステップで用いた。カリウムt−ブトキシド740mg(6.6mmol)を溶解したt−ブタノール10mLとテトラヒドロフラン(THF)2mLの混和液に、前記粗10−メトキシ−6,10−ジメチルウンデカン−2−オン1g(4.4mmol)とクロロ酢酸メチル530mg(4.84mmol)を加えて、12時間攪拌した後、飽和塩化アンモニウム水溶液でクエンチした。該反応液からヘキサン/酢酸エチル(1/1,容積比)で2回抽出して、得られた有機相を飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥して、短いシリカゲルパッドで濾過した後、減圧濃縮した。得られた残渣を、シリカゲルのフラッシュカラムクロマトグラフィーによって精製し、4種のジアステレオマーを含有する3−(8−メトキシ−4,8−ジメチルノニル)−3−メチルオキシラン−2−カルボン酸メチル、すなわち、組成物(ア)である薄黄色油状組成物211mgを収率16%で得た(反応スキーム6)。
H−NMR (400 MHz, CDCl) d 3.79 and 3.78 (each s, 3H), 3.33 and 3.30 (each d, J = 2.6 Hz), 3.17 (s, 3H), 1.75−1.00 (m, 26H), 0.92−0.82 (m, 3H)。
【0142】
【化36】

【0143】
[実施例3]
<組成物(ア)および(イ)が有するカメムシ目昆虫に対する幼若ホルモン活性>
実施例1で合成した組成物(ア)または(イ)をヘキサンに溶解し、前述の方法で、チャバネアオカメムシに投与した。また、該組成物を含まないヘキサンを対照として投与した。該結果を図2に示した。
図2のグラフAにおいて、縦軸は該カメムシの前翅の相対長を示し、横軸は該組成物(ア)または(イ)の投与量(μg)を示す。図2のグラフBにおいては、縦軸は該カメムシの小盾板の相対長を示し、横軸は該組成物(ア)または(イ)の投与量(μg)を示す。図2のグラフAおよびB中、「●」は組成物(ア)の結果を示し、「□」は組成物(イ)の結果を示し、「◆」は化合物を含まない溶媒であるヘキサンのみを投与した対照の結果を示す。各測定点は、5個体のチャバネアオカメムシに対して行った結果の平均値を示し、エラーバーは該標準偏差を示す。
【0144】
図2のグラフAを参照すると、該組成物(ア)は1μgの投与量では前翅の相対長が短縮する効果は現れず、10μgの投与量で該効果が現れた。一方、該組成物(イ)は1μgの投与量で前翅の相対長が短縮する効果が現れ、10μgまで投与量依存的に該効果が現れた。図2のグラフBを参照すると、該組成物(ア)は1μgの投与量では小盾板の相対長が短縮する効果は現れず、10μgの投与量で該効果が現れた。一方、該組成物(イ)は1μgの投与量で該効果が現れたが、10μgに投与量を増加しても1μgの投与量と該効果は同程度であった。
以上の結果から、該組成物(ア)および(イ)は、カメムシ目昆虫に対して幼若ホルモン活性を有することを確認した。また、該組成物(イ)の方が該組成物(ア)よりも少ない投与量で該幼若ホルモン活性を現すことを確認した。
【0145】
[実施例4]
<組成物(ウ)が有するカメムシ目昆虫に対する幼若ホルモン活性>
実施例3の前記組成物(ア)および(イ)に代えて、実施例2で合成した組成物(ウ)を用いて、前述の幼若ホルモン活性を調べたところ、該組成物(ウ)は、1μgの投与量では、前述のカメムシの前翅の相対長および小盾板の相対長を短縮する効果を現わさず、10μgの投与量で該効果を現すことを確認した。すなわち、該組成物(ウ)は、カメムシ目昆虫に対して幼若ホルモン活性を有することを確認した。
【0146】
[実施例5]
<化学式(I−1)で示される光学活性化合物の合成>
添加漏斗を取り付けた三口丸底フラスコ中の蒸留ジクロロメタン35mLにモレキュラーシーブス4A0.3gを加え、−20℃に冷却して、アルゴン雰囲気下で攪拌し、L−(+)−DET0.124g(0.601mmol)とTi(OiPr)0.15mL(0.5mmol)とを加えた。次に、添加漏斗から、5.5mol・L−1に調製したTBHPのデカン溶液3.64mL(20mmol)を5分間で徐々に加えた。30分後、蒸留ジクロロメタン5mLに溶解したトランス,トランス−ファルネソール2.22g(10mmol)を30分間かけて徐々に加えた。3.5時間後、それまで−20℃であった反応溶液を0℃にした。次に、硫酸鉄七水和物3.3g(12mmol)と(+)−酒石酸1g(6mmol)とを溶解した水溶液10mLを0℃で攪拌し、該水溶液に対して前記反応溶液を加え、0℃でさらに10分間攪拌した。分離した水相からジエチルエーテルmLで抽出を3回繰り返した。得られたジエチルエーテル90mLに対して、30%水酸化ナトリウム水溶液10mL加えて2相に分離した溶液を、0℃に冷却しながら1時間激しく攪拌した。5mLの水を添加して該溶液を希釈し、分離した水相からジエチルエーテルで抽出を3回繰り返した。該ジエチルエーテルを統合して、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた後、濾過し、減圧濃縮して、下記化合物(1)の粗残渣を得た(反応スキーム7)。
【0147】
【化37】

【0148】
化合物(1)の粗残渣を溶解したジクロロメタン100mL中に、セライト12gとPDC15.1g(40mmol)とを室温、アルゴン雰囲気下で加えた。室温で24時間激しく攪拌し、無水硫酸マグネシウム26.8gとジエチルエーテル200mLとを加えて、濾過し、減圧濃縮して、下記化合物(2)の粗残渣を得た(反応スキーム8)。
【0149】
【化38】

【0150】
化合物(2)の粗残渣を溶解したt−ブタノール/水混和溶媒(5/1,容積比)200mL中に、2−メチル−2−ブテン8.5mL(80mmol)とリン酸二水素ナトリウム二水和物(NaHPO・2HO)1.72g(10mmol)とを加え、次に、80%亜塩素酸ナトリウム(NaClO)1.13g(10mmol)を0℃で添加した。その後、0℃であった反応溶液を室温へ戻した。室温で反応溶液を攪拌し、30分後に反応が終了していることをNMRで確認した。反応が終了した溶液から、ジエチルエーテルで抽出を3回行い、飽和塩化ナトリウム水溶液で2回洗浄した。該ジエチルエーテルを統合し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、濾過し、減圧乾燥して、下記化合物(3)の粗残渣を得た(反応スキーム9)。
【0151】
【化39】

【0152】
化合物(3)の粗残渣を溶解したジエチルエーテル10mLに対して、ジアゾメタンのジエチルエーテル溶液(10mL,0.7M)を0℃で添加し、30分攪拌した後、減圧濃縮した。得られた粗残渣を、ヘキサン/酢酸エチルの混和溶媒(70/1,60/1,50/1,30/1;容積比)を順に溶出液としたシリカゲルのフラッシュカラムクロマトグラフィーによって精製し、無色油状の下記化合物(4)、すなわち化学式(I−1)で表される光学活性化合物、1.14gを収率43%(4段階反応),光学収率52%eeで得た(反応スキーム10)。
[α]26 −42.8(c 0.58, MeOH); FTIR(neat)2970, 2918, 2860, 1759, 1441, 1408, 1385, 1292, 1203 cm−1; H NMR (400 MHz, CDCl3)δ5.10−5.06 (m,2H), 3.77 (s,3H), 3.34(s,1H), 2.15−2.02 (m,4H), 1.98−1.94(m,2H), 1.76−1.68(m,1H), 1.66(s,3H), 1.58(s,3H), 1.58(s,3H), 1.57−1.50(m,1H), 1.34(s,3H); 13C NMR(100 MHz, CDCl) δ169.1, 136.2, 131.4, 124.2, 122.7, 62.6, 58.6, 52.2, 39.6, 37.8, 26.6, 25.7, 23.5, 17.7, 16.2, 16.0; HRMS(CI)m/z(M+H) calcd for [C1627+H] 267.3758, found 267.1954。
【0153】
【化40】

【0154】
光学収率eeは、CHIRALPAK 1A(0.46φ×25cm)カラムを設置したダイレクトインジェクション方式のHPLCを使用して、エタノール/ヘキサン混和溶媒(1/99,容積比)で1.0mL/分の流速で分析した。UV検出器の波長は190 nmとした。化合物(4)の保持時間は5.76分であった。
【0155】
[実施例6]
<化学式(I−2)で示される光学活性化合物の合成>
添加漏斗を取り付けた三口丸底フラスコ中の蒸留ジクロロメタン87.5mLにモレキュラーシーブス4A0.75gを加え、−20℃に冷却して、アルゴン雰囲気下で攪拌し、D−(−)−DET0.310g(1.5mmol)とTi(OiPr)0.37mL(1.26mmol)とを加えた。次に、添加漏斗から、5.5mol・L−1に調製したTBHPのデカン溶液9.1mL(50mmol)を5分間で徐々に加えた。30分後、蒸留ジクロロメタン10mLに溶解したトランス,トランス−ファルネソール5.56g(25mmol)を30分間かけて徐々に加えた。3.5時間後、それまで−20℃であった反応溶液を0℃にした。次に、硫酸鉄七水和物8.25g(30mmol)と(+)−酒石酸2.51g(15mmol)とを溶解した水溶液25mLを0℃で攪拌し、該水溶液に対して前記反応溶液を加え、0℃でさらに10分間攪拌した。分離した水相からジエチルエーテルで抽出を3回繰り返した。得られたジエチルエーテル120mLに対して、30%水酸化ナトリウム水溶液10mL加えて2相に分離した溶液を、0℃に冷却しながら1時間激しく攪拌した。15mLの水を添加して該溶液を希釈し、分離した水相からジエチルエーテルで抽出を3回繰り返した。該ジエチルエーテルを統合して、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた後、濾過し、減圧濃縮して、下記化合物(9)の粗残渣を得た(反応スキーム11)。
【0156】
【化41】

【0157】
化合物(9)の粗残渣を溶解したジクロロメタン250mL中に、セライト30gとPDC37.6g(100mmol)とを室温、アルゴン雰囲気下で加えた。室温で24時間激しく攪拌し、無水硫酸マグネシウム67.0gとジエチルエーテル500mLとを加えて、濾過し、減圧濃縮して、下記化合物(10)の粗残渣を得た(反応スキーム12)。
【0158】
【化42】

【0159】
化合物(10)の粗残渣を溶解したt−ブタノール/水混和溶媒(5/1,容積比)500mL中に、2−メチル−2−ブテン21.2mL(200mmol)とリン酸二水素ナトリウム二水和物(NaHPO・2HO)11.7g(75mmol)とを加え、次に、80%亜塩素酸ナトリウム(NaClO)2.83g(25mmol)を0℃で添加した。その後、0℃であった反応溶液を室温へ戻した。室温で反応溶液を攪拌し、1.5時間後に反応が終了していることをNMRで確認した。反応が終了した溶液から、ジエチルエーテルで抽出を3回行い、飽和塩化ナトリウム水溶液で2回洗浄した。該ジエチルエーテルを統合し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、濾過し、減圧乾燥して、下記化合物(11)の粗残渣を得た(反応スキーム13)。
【0160】
【化43】

【0161】
化合物(11)の粗残渣を溶解したジエチルエーテル20mLに対して、ジアゾメタンのジエチルエーテル溶液(10mL,0.7M)を0℃で添加し、30分攪拌した後、減圧濃縮した。得られた粗残渣を、ヘキサン/酢酸エチルの混和溶媒(70/1,60/1,50/1,30/1;容積比)を順に溶出液としたシリカゲルのフラッシュカラムクロマトグラフィーによって精製し、無色油状の下記化合物(12)、すなわち化学式(I−2)で表される光学活性化合物、3.94gを収率59%(4段階反応),光学収率42%eeで得た(反応スキーム14)。
[α]26D +42.1 (c 0.56, MeOH); FTIR(neat)2970, 2918, 2860, 1759, 1441, 1408, 1385, 1292, 1203 cm−1; H NMR (400 MHz, CDCl) δ5.12−5.08 (m, 2H), 3.78 (s, 3H), 3.36 (s, 1H), 2.13−2.04 (m, 4H), 2.00−1.94 (m, 2H), 1.76−1.70 (m, 1H), 1.66 (s, 3H), 1.60 (s, 3H), 1.60 (s, 3H), 1.58−1.53 (m, 1H), 1.36 (s, 3H); 13C NMR (100 MHz, CDCl) δ169.1, 136.2, 131.4, 124.2, 122.7, 62.6, 58.6, 52.2, 39.6, 37.8, 26.6, 25.7, 23.5, 17.7, 16.2, 16.0; HRMS (CI) m/z (M+H) calcd for [C1627+H] 267.3758, found 267.1954。
【0162】
【化44】

【0163】
光学収率eeは、CHIRALPAK 1A(0.46φ×25cm)カラムを設置したダイレクトインジェクション方式のHPLCを使用して、エタノール/ヘキサン混和溶媒(1/99,容積比)で1.0mL/分の流速で分析した。UV検出器の波長は190 nmとした。化合物(12)の保持時間は6.44分であった。
【0164】
[実施例7]
<化学式(II−1)で表される光学活性化合物の合成>
添加漏斗を取り付けた三口丸底フラスコ中で、AD−mix−α試薬(Aldrich社製)1.4gを溶解したt−ブタノール/水混和溶媒(1/1,容積比)10mLをよく攪拌し、CHSONH95mg(1mmol)を添加した。該懸濁液を0℃で攪拌し、前記化合物(12)0.277g(1mmol)を加えた。該反応液を23時間攪拌した後、Na1.5gを加えて、それまで0℃であった反応液を室温へ戻した。つぎに、ジクロロメタン10mLを加えて、有機相を分離除去した。残った水相から、酢酸エチルで3回抽出した。該酢酸エチルを統合し、2Mの水酸化カリウム水溶液で洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過して、減圧濃縮した。得られた粗残渣を、ヘキサン/酢酸エチルの混和溶媒(10/1,7/2,2/1,3/2;容積比)を順に溶出液としたシリカゲルのフラッシュカラムクロマトグラフィーによって精製し、未反応の化合物(12)53.2mg(20%)を回収し、また、下記化合物(15)および該分離不能な位置異性体(20:21)の混合物122.7mg(41%)を粘性の高い油状物質として得た(反応スキーム15)。
FTIR (neat) 2958, 2925, 2858, 1757, 1441, 1288, 1205, 760 cm−1; H NMR (400 MHz, CDCl)δ5.18 (t, J = 6.6, 1H), 3.79 (s, 3H), 3.39−3.33 (m, 1H), 3.35 (s, 1H), 2.28−2.07 (m, 4H), 1.77−1.68 (m, 1H), 1.65−1.56 (m, 2H), 1.63 (s, 3H), 1.46−1.39 (m, 1H), 1.36 (s, 3H), 1.20 (s, 3H), 1.16 (s, 3H) ; HRMS (EI) m/z (M) calcd for [C1628] 300.3905, found 300.1935。
【0165】
【化45】

【0166】
化合物(15)121mg(0.4mmol)を溶解した蒸留ジクロロメタン12.9mLに対して、乾燥ピリジン1.29mL(16mmol)を加えた。該溶液を0℃に冷却し、塩化メチルスルホニル0.32mL(4.15mmol)を添加した。5分後に、再び該溶液を室温に戻して4時間攪拌した後、ジクロロメタン12.9mLを加えた。該溶液を飽和硫酸銅水溶液、蒸留水、飽和塩化ナトリウム水溶液で2回ずつ洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過して、減圧濃縮した。得られたメシラートに、無水メタノール(absolute methanol)26mLと炭酸カリウム640mg(4.64mmol)を加え、30分間激しく攪拌した後、酸化マグネシウム添加のシリカゲルのカラム(Florisil(商標);US SILICA COMPANY製)で濾過して、該カラムをヘキサンで洗浄して、該ろ液を減圧濃縮した。濃縮液は水相と有機相とに分離しており、生成物は該2相の界面に第三の相を形成した。該第三の相を回収し、また、前記水相からヘキサンで3回抽出して、前記第三の相と統合した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過して、減圧濃縮した。得られた粗残渣を、ヘキサン/酢酸エチルの混和溶媒(30/1,10/1,5/1;容積比)を順に溶出液としたシリカゲルのフラッシュカラムクロマトグラフィーによって精製し、無色油状の下記化合物(16)、すなわち化学式(II−1)で表される光学活性化合物、70.7mgを収率63%(2段階反応),光学収率91%eeで得た(反応スキーム16)。
[α]25 +52.9 (c 0.67, MeOH); FTIR (neat) 2958, 2926, 2858, 1757, 1441, 1383, 1290, 1250, 1203 cm−1; H NMR (600 MHz, C)δ5.06 (dd, J = 6.8, 6.6 Hz, 1H), 3.30 (s, 3H), 3.20 (s, 1H), 2.55 (dd, J = 6.2, 6.0 Hz, 1H), 2.10 (ddd, J = 14.7, 8.6, 6.7, 1H), 2.00 (ddd, J = 14.9, 7.7, 7.4, 1H), 1.95 (q, J = 7.3, 2H), 1.56 (m, 1H), 1.51 (m, 1H), 1.49 (ddd, J = 14.2, 7.6, 5.8, 1H), 1.44 (s, 3H), 1.33 (ddd, J = 13.9, 8.6, 7.4, 1H), 1.27 (s, 3H), 1.15 (s, 3H), 1.10 (s, 3H); 13C NMR (150 MHz, C) δ168.7, 135.3, 123.7, 63.4, 62.0, 58.4, 57.3, 51.4, 37.9, 36.8, 27.8, 25.0, 23.7, 18.9, 16.2, 15.9; HRMS (CI) m/z (M+H) calcd for [C1627+H] 283.3752, found 283.1899。
【0167】
【化46】

【0168】
光学収率eeは、CHIRALPAK 1A(0.46φ×25cm)カラムを設置したダイレクトインジェクション方式のHPLCを使用して、エタノール/ヘキサン混和溶媒(1/99,容積比)で1.0mL/分の流速で分析した。UV検出器の波長は200 nmとした。化合物(16)の保持時間は33.03分であった。
【0169】
[実施例8]
<化学式(II−2)で表される光学活性化合物の合成>
添加漏斗を取り付けた三口丸底フラスコ中で、AD−mix−α試薬(Aldrich社製)2.52gを溶解したt−ブタノール/水混和溶媒(1/1,容積比)18mLをよく攪拌し、CHSONH170mg(1.8mmol)を添加した。該懸濁液を0℃で攪拌し、前記化合物(4)0.48g(1.8mmol)を加えた。該反応液を13時間攪拌した後、Na2.7gを加えて、それまで0℃であった反応液を室温へ戻した。つぎに、ジクロロメタン18mLを加えて、有機相を分離除去した。残った水相から、酢酸エチルで3回抽出した。該酢酸エチルを統合し、2Mの水酸化カリウム水溶液で洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過して、減圧濃縮した。得られた粗残渣を、ヘキサン/酢酸エチルの混和溶媒(10/1,7/2,2/1,3/2;容積比)を順に溶出液としたシリカゲルのフラッシュカラムクロマトグラフィーによって精製し、未反応の化合物(4)102.6mg(21%)を回収し、また、下記化合物(7)および該分離不能な位置異性体(18:10)の混合物150.6mg(28%)を粘性の高い油状物質として得た(反応スキーム17)。
FTIR (neat) 3442, 2976, 1753, 1442, 1387, 1215, 1084, 760 cm−1; H NMR (400 MHz, CDCl)δ5.18 (t, J = 7.1, 1H), 3.78 (s, 3H), 3.36−3.32 (m, 1H), 3.36 (s, 1H), 2.28−2.22 (m, 1H), 2.17−2.05 (m, 3H), 1.77−1.70 (m, 1H), 1.63 (s, 3H), 1.64−1.56 (m, 2H), 1.46−1.38 (m, 1H), 1.36 (s, 3H), 1.20 (s, 3H), 1.16 (s, 3H); HRMS (EI) m/z (M) calcd for [C1628] 300.3905, found 300.1935。
【0170】
【化47】

【0171】
化合物(7)97.4mg(0.324mmol)を溶解した蒸留ジクロロメタン10.3mLに対して、乾燥ピリジン1.03mL(12.8mmol)を加えた。該溶液を0℃に冷却し、塩化メチルスルホニル0.26mL(3.3mmol)を添加した。5分後に、再び該溶液を室温に戻して4時間攪拌した後、ジクロロメタン10.3mLを加えた。該溶液を飽和硫酸銅水溶液、蒸留水、飽和塩化ナトリウム水溶液で2回ずつ洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過して、減圧濃縮した。得られたメシラートに、無水メタノール(absolute methanol)20.6mLと炭酸カリウム513mg(3.71mmol)を加え、30分間激しく攪拌した後、酸化マグネシウム添加のシリカゲルのカラム(Florisil(商標);US SILICA COMPANY製)で濾過して、該カラムをヘキサンで洗浄して、該ろ液を減圧濃縮した。濃縮液は水相と有機相とに分離しており、生成物は該2相の界面に第三の相を形成した。該第三の相を回収し、また、前記水相からヘキサンで3回抽出して、前記第三の相と統合した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過して、減圧濃縮した。得られた粗残渣を、ヘキサン/酢酸エチルの混和溶媒(30/1,10/1,5/1;容積比)を順に溶出液としたシリカゲルのフラッシュカラムクロマトグラフィーによって精製し、無色油状の下記化合物(8)、すなわち化学式(II−2)で表される光学活性化合物、51.6mgを収率57%(2段階反応),光学収率91%eeで得た(反応スキーム18)。
[α]25 −42.1 (c 1.00, MeOH); FTIR (neat) 2962, 2931, 1759, 1458, 1387, 1205 cm−1; H NMR (600 MHz, C)δ5.06 (dd, J = 6.9, 6.5 Hz, 1H), 3.30 (s, 3H), 3.20 (s, 1H), 2.55 (dd, J = 6.9, 6.5 Hz, 1H), 2.10 (ddd, J = 14.7, 8.8, 6.6, 1H), 2.00 (ddd, J = 14.4, 7.9, 6.6, 1H), 1.95 (q, J = 7.5, 2H), 1.60−1.45 (m, 2H), 1.48 (dt, J = 14.0, 7.6, 1H), 1.44 (s, 3H), 1.33 (dt, J = 13.9, 8.1, 1H), 1.26 (s, 3H), 1.15 (s, 3H), 1.10 (s, 3H); 13C NMR (150 MHz, C) δ168.7, 135.3, 123.8, 63.4, 62.0, 58.4, 57.3, 51.4, 37.9, 36.8, 27.9, 24.9, 23.7, 18.9, 16.2, 15.9; HRMS (CI) m/z (M+H) calcd for [C1627+H] 283.3752, found 283.1899。
【0172】
【化48】

【0173】
光学収率eeは、CHIRALPAK 1A(0.46φ×25cm)カラムを設置したダイレクトインジェクション方式のHPLCを使用して、エタノール/ヘキサン混和溶媒(1/99,容積比)で1.0mL/分の流速で分析した。UV検出器の波長は200 nmとした。化合物(8)の保持時間は20.55分であった。
【0174】
[実施例9]
<化学式(II−3)で表される光学活性化合物の合成>
添加漏斗を取り付けた三口丸底フラスコ中で、AD−mix−β試薬(Aldrich社製)2.8gを溶解したt−ブタノール/水混和溶媒(1/1,容積比)20mLをよく攪拌し、CHSONH190mg(2mmol)を添加した。該懸濁液を0℃で攪拌し、化合物(12)0.532g(2mmol)を加えた。該反応液を10.5時間攪拌した後、Na3.0gを加えて、それまで0℃であった反応液を室温へ戻した。つぎに、ジクロロメタン20mLを加えて、有機相を分離除去した。残った水相から、酢酸エチルで3回抽出した。該酢酸エチルを統合し、2Mの水酸化カリウム水溶液で洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過して、減圧濃縮した。得られた粗残渣を、ヘキサン/酢酸エチルの混和溶媒(10/1,7/2,2/1,3/2;容積比)を順に溶出液としたシリカゲルのフラッシュカラムクロマトグラフィーによって精製し、未反応の化合物(12)172mg(32%)を回収し、また、下記化合物(13)および該分離不能な位置異性体(22:13)の混合物211mg(35%)を粘性の高い油状物質として得た(反応スキーム19)。
FTIR (neat) 3442, 2976, 1753, 1442, 1387, 1215, 1084, 760 cm−1; H NMR (400 MHz, CDCl)δ5.18 (t, J = 7.1, 1H), 3.79 (s, 3H), 3.35 (s, 1H), 3.35−3.32 (m, 1H), 2.28−2.21 (m, 1H), 2.17−2.07 (m, 3H), 1.77−1.68 (m, 1H), 1.64−1.56 (m, 2H), 1.62 (s, 3H), 1.46−1.38 (m, 1H), 1.36 (s, 3H), 1.20 (s, 3H), 1.16 (s, 3H) ; HRMS (EI) m/z (M) calcd for [C1628] 300.3905, found 300.1935。
【0175】
【化49】

【0176】
化合物(13)155mg(0.52mmol)を溶解した蒸留ジクロロメタン16.7mLに対して、乾燥ピリジン1.67mL(20.8mmol)を加えた。該溶液を0℃に冷却し、塩化メチルスルホニル0.41mL(5.33mmol)を添加した。5分後に、再び該溶液を室温に戻して4時間攪拌した後、ジクロロメタン16.7mLを加えた。該溶液を飽和硫酸銅水溶液、蒸留水、飽和塩化ナトリウム水溶液で2回ずつ洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過して、減圧濃縮した。得られたメシラートに、無水メタノール(absolute methanol)33.4mLと炭酸カリウム830mg(6.03mmol)を加え、30分間激しく攪拌した後、酸化マグネシウム添加のシリカゲルのカラム(Florisil(登録商標);US SILICA COMPANY製)で濾過して、該カラムをヘキサンで洗浄して、該ろ液を減圧濃縮した。濃縮液は水相と有機相とに分離しており、生成物は該2相の界面に第三の相を形成した。該第三の相を回収し、また、前記水相からヘキサンで3回抽出して、前記第三の相と統合した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過して、減圧濃縮した。得られた粗残渣を、ヘキサン/酢酸エチルの混和溶媒(30/1,10/1,5/1;容積比)を順に溶出液としたシリカゲルのフラッシュカラムクロマトグラフィーによって精製し、無色油状の下記化合物(14)、すなわち化学式(II−3)で表される光学活性化合物、81.9mgを収率56%(2段階反応),光学収率96%eeで得た(反応スキーム20)。
[α]25 +40.2 (c 1.00, MeOH); FTIR (neat) 2960, 2927, 2863, 1759, 1441, 1381, 1290, 1252, 1203 cm−1; H NMR (600 MHz, C)δ5.06 (dd, J = 6.9, 6.8 Hz, 1H), 3.30 (s, 3H), 3.20 (s, 1H), 2.55 (dd, J = 6.2, 6.0 Hz, 1H), 2.10 (ddd, J = 14.7, 8.7, 6.4, 1H), 2.00 (ddd, J = 14.5, 7.8, 7.3, 1H), 1.95 (q, J = 7.5, 2H), 1.56 (m, 1H), 1.52 (m, 1H), 1.48 (dt, J = 13.8, 7.6, 1H), 1.44 (s, 3H), 1.33 (dt, J = 13.9, 8.0, 1H), 1.26 (s, 3H), 1.15 (s, 3H), 1.10 (s, 3H); 13C NMR (150 MHz, C) δ168.7, 135.3, 123.8, 63.4, 62.0, 58.4, 57.3, 51.4, 37.9, 36.8, 27.9, 25.0, 23.8, 18.9, 16.2, 15.9; HRMS (CI) m/z (M+H) calcd for [C1627+H] 283.3752, found 283.1899。
【0177】
【化50】

【0178】
光学収率eeは、CHIRALPAK 1A(0.46φ×25cm)カラムを設置したダイレクトインジェクション方式のHPLCを使用して、エタノール/ヘキサン混和溶媒(1/99,容積比)で1.0mL/分の流速で分析した。UV検出器の波長は200 nmとした。化合物(14)の保持時間は23.73分であった。
【0179】
[実施例10]
<化学式(II−4)で表される光学活性化合物の合成>
添加漏斗を取り付けた三口丸底フラスコ中で、AD−mix−β試薬(Aldrich社製)1.4gを溶解したt−ブタノール/水混和溶媒(1/1,容積比)10mLをよく攪拌し、CHSONH95mg(1mmol)を添加した。該懸濁液を0℃で攪拌し、前記化合物(4)0.277g(1mmol)を加えた。該反応液を27時間攪拌した後、Na1.5gを加えて、それまで0℃であった反応液を室温へ戻した。つぎに、ジクロロメタン10mLを加えて、有機相を分離除去した。残った水相から、酢酸エチルで3回抽出した。該酢酸エチルを統合し、2Mの水酸化カリウム水溶液で洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過して、減圧濃縮した。得られた粗残渣を、ヘキサン/酢酸エチルの混和溶媒(10/1,7/2,2/1,3/2;容積比)を順に溶出液としたシリカゲルのフラッシュカラムクロマトグラフィーによって精製し、未反応の化合物(4)23mg(9%)を回収し、また、下記化合物(5)および該分離不能な位置異性体(35:8)の混合物129mg(43%)を粘性の高い油状物質として得た(反応スキーム21)。
FTIR (neat) 2958, 2925, 2858, 1757, 1441, 1288, 1205, 760 cm−1; H NMR (400 MHz, CDCl)δ5.18 (t, J = 6.9, 1H), 3.79 (s, 3H), 3.37−3.34 (m, 1H), 3.35 (s, 1H), 2.27−2.07 (m, 4H), 1.77−1.68 (m, 1H), 1.65−1.56 (m, 2H), 1.63 (s, 3H), 1.46−1.37 (m, 1H), 1.36 (s, 3H), 1.20 (s, 3H), 1.16 (s, 3H); HRMS (EI) m/z (M) calcd for [C1628] 300.3905, found 300.1935。
【0180】
【化51】

【0181】
化合物(5)126mg(0.42mmol)を溶解した蒸留ジクロロメタン13.5mLに対して、乾燥ピリジン1.35mL(16.8mmol)を加えた。該溶液を0℃に冷却し、塩化メチルスルホニル0.33mL(4.3mmol)を添加した。5分後に、再び該溶液を室温に戻して4時間攪拌した後、ジクロロメタン13.5mLを加えた。該溶液を飽和硫酸銅水溶液、蒸留水、飽和塩化ナトリウム水溶液で2回ずつ洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過して、減圧濃縮した。得られたメシラートに、無水メタノール(absolute methanol)27mLと炭酸カリウム673mg(4.87mmol)を加え、30分間激しく攪拌した後、酸化マグネシウム添加のシリカゲルのカラム(Florisil(商標);US SILICA COMPANY製)で濾過して、該カラムをヘキサンで洗浄して、該ろ液を減圧濃縮した。濃縮液は水相と有機相とに分離しており、生成物は該2相の界面に第三の相を形成した。該第三の相を回収し、また、前記水相からヘキサンで3回抽出して、前記第三の相と統合した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過して、減圧濃縮した。得られた粗残渣を、ヘキサン/酢酸エチルの混和溶媒(30/1,10/1,5/1;容積比)を順に溶出液としたシリカゲルのフラッシュカラムクロマトグラフィーによって精製し、無色油状の下記化合物(6)、すなわち化学式(II−4)で表される光学活性化合物、67.2mgを収率57%(2段階反応),光学収率99%eeで得た(反応スキーム22)。
[α]25 −58.1 (c 0.56, MeOH); FTIR (neat) 2960, 2926, 1759, 1441, 1383, 1290, 1252, 1205, 1034 cm−1; H NMR (600 MHz, C)δ5.06 (dd, J = 6.9, 6.6 Hz, 1H), 3.30 (s, 3H), 3.20 (s, 1H), 2.55 (dd, J = 6.4, 5.9 Hz, 1H), 2.10 (ddd, J = 14.8, 8.7, 6.7, 1H), 2.00 (dt, J = 15.0, 7.5, 1H), 1.95 (q, J = 7.3, 2H), 1.63−1.461 (m, 2H), 1.49 (ddd, J = 14.7, 8.3, 6.2, 1H), 1.44 (s, 3H), 1.33 (ddd, J = 13.9, 8.7, 7.3, 1H), 1.27 (s, 3H), 1.15 (s, 3H), 1.10 (s, 3H); 13C NMR (150 MHz, C) δ168.7, 135.3, 123.7, 63.4, 62.0, 58.4, 57.3, 51.4, 37.9, 36.8, 27.8, 24.9, 23.7, 18.9, 16.2, 15.9; HRMS (CI) m/z (M+H) calcd for [C1627+H] 283.3752, found 283.1899。
【0182】
【化52】

【0183】
光学収率eeは、CHIRALPAK 1A(0.46φ×25cm)カラムを設置したダイレクトインジェクション方式のHPLCを使用して、エタノール/ヘキサン混和溶媒(1/99,容積比)で1.0mL/分の流速で分析した。UV検出器の波長は200 nmとした。化合物(6)の保持時間は16.38分であった。
【0184】
<合成した光学活性化合物と天然の幼若ホルモン化合物との構造比較>
次に、上記実施例8および10で合成した化学式(II−2)および(II−4)で示される光学活性化合物、すなわち化合物(8)および(16)と前述のヘキサン抽出液に含まれる天然の幼若ホルモン化合物との、ガスクロマトグラフィ‐化学イオン化法質量分析(GC−MS)を行った。その際に用いた装置はGCMS‐QP2010plus(島津製作所製)にRt−βDEXcstカラム(内径0.25mm,30m長,0.25μmフィルム厚)を設置したものであり、該測定は、カラムを170℃に加熱して、50cm/秒の流速のHeのキャリアガスで行った。前記天然の幼若ホルモン化合物を単独でインジェクションして得たクロマトグラムと、化合物(8)および(16)を同時にインジェクションして得たクロマトグラムと、化合物(8)、(16)および前記天然の幼若ホルモン化合物を同時にインジェクションして得たクロマトグラムとを比較した。該結果、天然の幼若ホルモン化合物を単独でインジェクションした場合には、保持時間45.8分の単一ピークであった。同時にインジェクションした場合には、化合物(16)の保持時間は44.5分であり、一方、化合物(8)および前記天然の幼若ホルモン化合物の保持時間は45.8分で同一であった。また、全イオンモニタリングおよび選択イオンモニタリング([M+NHのm/z=300)においても、同時にインジェクションした際には、化合物(8)のピークに前記天然の幼若ホルモン化合物のピークが完全に重なって相加的にピークが増加した。
以上の結果から、化学式(II−2)で表される光学活性化合物が、前記天然の幼若ホルモン化合物と同一の化合物であるとの結論を得た。
【0185】
[実施例11]
<合成した光学活性化合物の有するカメムシ目昆虫に対する幼若ホルモン活性>
実施例3の前記組成物(ア)および(イ)に代えて、実施例7〜10で合成した化学式(II−1)〜(II−4)で示される光学活性化合物を用いて、前述の幼若ホルモン活性を調べた結果を図3に示す。
図3のグラフAにおいて、縦軸は前述の前翅の相対長を示し、横軸は該光学活性化合物の投与量(μg)を示す。図3のグラフBにおいては、縦軸は前述の小盾板の相対長を示し、横軸は該光学活性化合物の投与量(μg)を示す。図3のグラフAおよびB中、「△」は化合物(II−1)の結果を示し、「○」は化合物(II−2)の結果を示し、「▼」は化合物(II−3)の結果を示し、「◇」は化合物(II−4)の結果を示し、「◆」は化合物を含まない溶媒であるヘキサンのみを投与した対照の結果を示す。各測定点は、8〜14個体のチャバネアオカメムシに対して行った結果の平均値を示し、エラーバーは該標準偏差を示す。
【0186】
図3のグラフAを参照すると、化合物(II−2)および(II−4)は0.01μgの投与量で前翅の相対長が短縮する効果が現れ、0.1μgまで投与量依存的に該効果が現れたが、1.0μgに投与量を増加しても0.1μgの投与量と該効果は同程度であった。一方、化合物(II−1)および(II−3)は1μgの投与量でも該効果は現れず、5μgの投与量で該効果が現れた。
図3のグラフBを参照すると、図3のグラフAの結果と同じ傾向が確認された。すなわち、化合物(II−2)および(II−4)は0.01μgの投与量で小盾板の相対長が短縮する効果が現れ、0.1μgまで投与量依存的に該効果が現れたが、1.0μgに投与量を増加しても0.1μgの投与量と該効果は同程度であった。一方、化合物(II−1)および(II−3)は1μgの投与量でも該効果は現れず、5μgの投与量で該効果が現れた。
以上の結果から、化学式(II−1)〜(II−4)で示される光学活性化合物は、カメムシ目昆虫に対して幼若ホルモン活性を有することを確認した。また、化合物(II−2)および(II−4)の方がより少ない投与量で該幼若ホルモン活性を現すことを確認した。
【0187】
本発明の化学式(I−1)、(I−2)および(II−1)〜(II−4)で表される光学活性化合物は、カメムシ目昆虫に対する幼若ホルモン活性を有する。その理由として、化学式(II−2)が天然のカメムシ目昆虫の幼若ホルモン化合物と同一の分子構造であることにより、該幼若ホルモン活性を有することが考えられる。該他の光学活性化合物が該幼若ホルモン活性を有する理由は明らかではないが、該光学活性化合物の分子構造が、前記天然のカメムシ目昆虫の幼若ホルモン化合物の分子構造と類似していることにより、同様の幼若ホルモン活性を有することが考えられる。
また、組成物(ア)および組成物(イ)は、カメムシ目昆虫に対する幼若ホルモン活性を有する。その理由は明らかではないが、該組成物に含まれる光学活性化合物の分子構造が、前記天然のカメムシ目昆虫の幼若ホルモン化合物の分子構造と類似していることにより、同様の幼若ホルモン活性を有することが考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0188】
【図1】チャバネアオカメムシの5齢幼虫および成虫の形態
【図2】合成した光学活性化合物を含有する組成物が有する幼若ホルモン活性
【図3】合成した光学活性化合物が有する幼若ホルモン活性
【符号の説明】
【0189】
a… 前翅の長さ,b… 前胸背板の幅,c… 小盾板の長さ
a’… 前翅の長さ,b’… 前胸背板の幅,c’… 小盾板の長さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)
【化1】

で示される光学活性化合物。
[式中、R、RおよびRは独立に、フッ素置換されていても良い炭素数1〜5のアルキル基、アルケニル基、もしくはアルキニル基、または水素原子、エチニル基、ブタ−1−エン−3−イン−1−イル基、もしくはアジ化メチル基であり;Rは炭素数1〜5のアルキル基、イソプロピル基、またはプロパルギル基である。*は不斉炭素を表す。]
【請求項2】
下記化学式(I−1)、
【化2】

または、下記化学式(I−2)
【化3】

で示される光学活性化合物。
【請求項3】
下記化学式(I−1)、(I−2)、(k−1)、(k−2)、(k−3)、(k−4)、(k−5)、または(k−6)で示される光学活性化合物。
【化4】

【請求項4】
下記一般式(II)
【化5】

で示される光学活性化合物。
[式中、R、RおよびRは独立に、フッ素置換されていても良い炭素数1〜5のアルキル基、アルケニル基、もしくはアルキニル基、または水素原子、エチニル基、ブタ−1−エン−3−イン−1−イル基、もしくはアジ化メチル基であり;Rは炭素数1〜5のアルキル基、イソプロピル基、またはプロパルギル基である。*は不斉炭素を表す。]
【請求項5】
下記化学式(II−1)、
【化6】

下記化学式(II−2)、
【化7】

下記化学式(II−3)、
【化8】

または、下記化学式(II−4)
【化9】

で示される光学活性化合物。
【請求項6】
下記化学式(II−1)、(II−2)、(II−3)、(II−4)、(m−1)、(m−2)、(m−3)、(m−4)、(m−5)、(m−6)、(m−7)、(m−8)、(m−9)、(m−10)、(m−11)、(m−12)、(m−13)、(m−14)、(m−15)、(m−16)、(m−17)、(m−18)、(m−19)、(m−20)、(m−21)、(m−22)、(m−23)、(m−24)、(m−25)、(m−26)、(m−27)、または(m−28)で示される光学活性化合物。
【化10】

【化11】

【化12】

【化13】

【請求項7】
下記一般式(III)
【化14】

で示される光学活性化合物。
[式中、R、R、R、RおよびRは独立に、フッ素置換されていても良い炭素数1〜5のアルキル基、アルケニル基、もしくはアルキニル基、または水素原子、エチニル基、ブタ−1−エン−3−イン−1−イル基、もしくはアジ化メチル基であり;Rは炭素数1〜5のアルキル、イソプロピル基、またはプロパルギル基であり;RおよびRは、結合して環を形成していても良い。*は不斉炭素を表す。]
【請求項8】
下記化学式(III−1)、
【化15】

または、下記化学式(III−2)
【化16】

で示される光学活性化合物。
【請求項9】
下記一般式(I−A)、
【化17】

[式中、R、RおよびRは独立に、フッ素置換されていても良い炭素数1〜5のアルキル基、アルケニル基、もしくはアルキニル基、または水素原子、エチニル基、ブタ−1−エン−3−イン−1−イル基、もしくはアジ化メチル基である。]、
で表される化合物を、香月シャープレス不斉エポキシ化することを特徴とする、請求項1〜2の何れか一項に記載の光学活性化合物の製造方法。
【請求項10】
下記化学式(G1)
【化18】

[式中、波線で示した結合は、E体、Z体またはそれらの任意の混合物であることを表す。]
で表される化合物を、ダルツェン反応によってエポキシ化して、下記化学式(G2)
【化19】

[式中、波線で示した結合は、E体、Z体またはそれらの任意の混合物であることを表し;*は不斉炭素を表す。]で表される化合物を得る工程、
を含むことを特徴とする、請求項3に記載の光学活性化合物のうち、いずれか1種以上を含有する組成物(ア)の製造方法。
【請求項11】
前記一般式(I)で表される化合物を、シャープレス不斉ジヒドロキシ化することを特徴とする、請求項4〜5の何れか一項に記載の光学活性化合物の製造方法。
【請求項12】
下記化学式(G1)
【化20】

[式中、波線で示した結合は、E体、Z体またはそれらの任意の混合物であることを表す。]
で表される化合物を、ダルツェン反応によってエポキシ化して、下記化学式(G2)
【化21】

[式中、波線で示した結合は、E体、Z体またはそれらの任意の混合物であることを表し;*は不斉炭素を表す。]で表される化合物を得る工程と、
該化学式(G2)で表される化合物をエポキシ化する工程と、
を含むことを特徴とする、請求項6に記載の光学活性化合物のうち、いずれか1種以上を含有する組成物(イ)の製造方法。
【請求項13】
下記一般式(III−A)、
【化22】

[式中、R、R、RおよびRは独立に、フッ素置換されていても良い炭素数1〜5のアルキル基、アルケニル基、もしくはアルキニル基、または水素原子、エチニル基、ブタ−1−エン−3−イン−1−イル基、もしくはアジ化メチル基を表す。]
で表される化合物と、下記一般式(III−B)、
【化23】

[式中、Rはフッ素置換されていても良い炭素数1〜5のアルキル基、アルケニル基、もしくはアルキニル基、または水素原子、エチニル基、ブタ−1−エン−3−イン−1−イル基、もしくはアジ化メチル基を表す。]、
で表される化合物とを反応させて、下記一般式(III−C)
【化24】

[式中、R、R、R、RおよびRは独立に、フッ素置換されていても良い炭素数1〜5のアルキル基、アルケニル基、もしくはアルキニル基、または水素原子、エチニル基、ブタ−1−エン−3−イン−1−イル基、もしくはアジ化メチル基を表す。]
で表される化合物を得る工程と、
次いで一般式(III−C)で表される化合物を水素添加することによって、下記一般式(III−D)
【化25】

[式中、R、R、R、RおよびRは独立に、フッ素置換されていても良い炭素数1〜5のアルキル基、アルケニル基、もしくはアルキニル基、または水素原子、エチニル基、ブタ−1−エン−3−イン−1−イル基、もしくはアジ化メチル基を表す。]
で表される化合物を得る工程と、
次いで、一般式(III−D)で表される化合物と下記一般式(III−E)、
【化26】

[式中、Rは炭素数1〜5のアルキル基、イソプロピル基、またはプロパルギル基であり;Xはハロゲン原子を表す。]、
で表される化合物とを反応させる工程とを含むことを特徴とする、
請求項7に記載の光学活性化合物のうち、いずれか1種以上を含有する組成物(ウ)の製造方法。
【請求項14】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の光学活性化合物を、カメムシ目昆虫に対する幼若ホルモン活性の有効成分とすることを特徴とする昆虫制御剤。
【請求項15】
請求項3に記載の光学活性化合物のうち、いずれか1種以上を含有する組成物(ア)を、カメムシ目昆虫に対する幼若ホルモン活性の有効成分とすることを特徴とする昆虫制御剤。
【請求項16】
請求項6に記載の光学活性化合物のうち、いずれか1種以上を含有する組成物(イ)を、カメムシ目昆虫に対する幼若ホルモン活性の有効成分とすることを特徴とする昆虫制御剤。
【請求項17】
請求項7に記載の光学活性化合物のうち、いずれか1種以上を含有する組成物(ウ)を、カメムシ目昆虫に対する幼若ホルモン活性の有効成分とすることを特徴とする昆虫制御剤。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−13410(P2010−13410A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−176363(P2008−176363)
【出願日】平成20年7月4日(2008.7.4)
【出願人】(501167644)独立行政法人農業生物資源研究所 (200)
【出願人】(506122327)公立大学法人大阪市立大学 (122)
【Fターム(参考)】