説明

光学活性化合物の製造方法

【課題】
本発明は、4,4−ジ置換−2−置換−5(4H)−オキサゾロン(以下、単にジ置換アズラクトンとも言う。)の新規な加アルコール分解法、さらに通常の手法では得ることが難しい不斉四級炭素を有する光学活性アズラクトン類、及びその開環化合物であるN−アシル化−第四級アミノ酸類を製造する方法を提供する。
【解決手段】
本発明は、銅化合物又は銅錯体から選ばれる触媒の存在下に、ジ置換アズラクトンを加アルコール分解して、対応するN−アシル化−第四級アミノ酸エステルを製造する方法に関する。また、本発明は、ラセミ体のジ置換アズラクトンを、光学活性配位子及び銅化合物の存在下、又は銅−光学活性配位子錯体の存在下で、加アルコール分解して、光学活性ジ置換アズラクトン、及び光学活性N−アシル化−第四級アミノ酸エステルを製造する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学活性化合物の製造方法に関する。詳細には光学活性配位子及び銅化合物の存在下でアズラクトン類を加アルコール分解することにより、速度論的に分割して光学活性化合物を製造する方法である。
【背景技術】
【0002】
アズラクトン類を立体選択的に加水分解または加アルコール分解して光学活性化合物を製造する方法は、光学活性α−アミノ酸の製造方法として重要視され、広く研究が行われてきた。この方法は、光学活性フェロセニルアミン触媒 (非特許文献1)、光学活性アミド触媒 (非特許文献2) 、光学活性チタン化合物を用いる量論反応 (非特許文献3) などの光学活性アミン触媒を用いるものが知られているが、基質一般性も高くなく、高選択性と高収率を同時に満たしているものはない。そして、この方法は、特に、光学活性四級アミノ酸の製造には適しておらず、四級アズラクトン類の加アルコール分解の報告例はない。
加アルコール分解以外の反応では、アミン触媒による不斉アシル移動 (非特許文献4)、ホスフィン触媒による不斉アシル移動 (非特許文献5)、Pd触媒によるアルキル化 (非特許文献6) などが知られており、四級アズラクトン類の不斉合成に適用されているが、基質一般性や触媒活性に問題を残している。
【0003】
第四級アミノ酸は、通常、対応するタンパク質形成アミノ酸を代謝する酵素の有効な阻害因子であることが知られている。第四級アミノ酸の使用により、タンパク質のアミノ酸構造に対し顕著な影響を与えることができ、これらを利用して生理学的に重要なペプチドを修飾し、生理学的に望まれる活性を有するタンパク質を製造することが研究されている。また、このような非天然の第四級アミノ酸を有するタンパク質を生体内で産生させる手法も研究されてきている(特許文献1参照)。さらに、第四級アミノ酸は、インクジェット用の印刷紙のコーティング剤の配位子としての利用も研究されている(特許文献2参照)。
このように第四級アミノ酸、特に光学活性の第四級アミノ酸の利用が拡大している中で、その効率的な製造方法の確立が求められている。このような方法として、天然の第三級アミノ酸から誘導されるアズラクトン(5(4H)−オキサゾロン)の4位にもうひとつの置換基を、光学活性ホスフィン配位子を有するパラジウム錯体の存在下に立体選択的に導入して光学活性アズラクトンとし、これを加水分解又は加アルコール分解して光学活性第四級アミノ酸を製造する方法が報告されている(特許文献3参照)。また、アズラクトンを4,4−ジフルオロ−3−ブテノール誘導体を用いて加アルコール分解する方法も報告されている(特許文献4参照)。
また、アズラクトン自体もインクジェット用の水性インクの分散剤のコンポーネントとしての利用が報告されており(特許文献5参照)、アズラクトン自体の利用も拡大されてきている。
【0004】
【特許文献1】特表2005−502322号公報
【特許文献2】特開2004−122784号公報
【特許文献3】特表2001−519827号公報
【特許文献4】特表2000−501088号公報
【特許文献5】特表2000−510887号公報
【非特許文献1】G. C. Fu, J. Org. Chem. 1998, 63, 3154-3155.
【非特許文献2】A. Berkessel, Angew. Chem. Int. Ed. 2005, 44, 807-811.
【非特許文献3】D. Seebach, 1997, Tetrahedron, 53, 7539-7556.
【非特許文献4】G. C. Fu, J. Am. Chem. Soc. 1998, 120, 11532-11533.)
【非特許文献5】E. Vedejs, J. Am. Chem. Soc. 2003, 125, 13368-13369
【非特許文献6】B. M. Trsost J. Am. Chem. Soc. 1999, 121, 8667-8668.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、4,4−ジ置換−2−置換−5(4H)−オキサゾロン(以下、単にジ置換アズラクトンとも言う。)の新規な加アルコール分解法、さらに通常の手法では得ることが難しい不斉四級炭素を有する光学活性アズラクトン類、及びその開環化合物であるN−アシル化−第四級アミノ酸類を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、銅触媒の存在下でジ置換アズラクトンが容易に加アルコール分解されることを見出した。さらに、本発明者らは、光学活性の配位子を存在させることにより、ラセミ体のアズラクトン類を銅化合物の存在下、アルコールを作用させて、エナンチオ選択的なアズラクトンの速度論的分割が起こることを見出し、その結果、光学活性なアズラクトン類及びその開環化合物である光学活性N−アシル化−第四級アミノ酸エステルが得られることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は以下の内容を包含する。
本発明は、銅化合物又は銅錯体から選ばれる触媒の存在下に、ジ置換アズラクトンを加アルコール分解して、対応するN−アシル化−第四級アミノ酸エステルを製造する方法に関する。また、本発明は、ラセミ体のジ置換アズラクトン(4,4−ジ置換−2−置換−5(4H)−オキザゾロン)を、光学活性配位子及び銅化合物の存在下、又は銅−光学活性配位子錯体の存在下で、加アルコール分解して、光学活性ジ置換アズラクトン、及び光学活性N−アシル化−第四級アミノ酸エステルを製造する方法に関する。
より詳細には、本発明は、
[1] 光学活性配位子及び銅化合物の存在下、又は銅−光学活性配位子錯体の存在下、4,4−ジ置換−2−置換−5(4H)−オキサゾロン(ジ置換アズラクトン)を加アルコール分解して、対応するN−アシル化−第四級アミノ酸エステルを製造する方法。
[2] ジ置換アズラクトンがラセミ体であり、生成するN−アシル化−第四級アミノ酸エステルが光学活性体である[1]に記載の方法。
[3] 光学活性配位子及び銅化合物の存在下、又は銅−光学活性配位子錯体の存在下、ラセミ体の4,4−ジ置換−2−置換−5(4H)−オキサゾロン(ジ置換アズラクトン)を加アルコール分解して、未反応のジ置換アズラクトンを回収することからなるラセミ体のジ置換アズラクトンから光学活性ジ置換アズラクトンを製造する方法。
[4] ジ置換アズラクトンが、下記一般式(1)
【0007】
【化1】

【0008】
(式中、R及びRは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよい複素環基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアリールオキシカルボニル基を表す。Rは、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよいアリール基又は置換基を有していてもよい複素環基を表す。)
で表される化合物であり、アルコールが、次の一般式(4)
OH (4)
(式中、Rは置換基を有していてもよいアルキル基を表す。)
で表されるアルコールであり、
光学活性ジ置換アズラクトンが下記一般式(2)
【0009】
【化2】

(式中、R、R及びRは前記と同じ意味を表し、*は不斉炭素原子を表す。)
で表される光学活性化合物であり、N−アシル化−第四級アミノ酸エステルが下記一般式(3)
【0010】
【化3】

【0011】
(式中、R、R及びRは前記と同じ意味を表し、*は不斉炭素原子を表す。)
で表される化合物である[1]〜[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5] 光学活性配位子が光学活性二座配位子であることを特徴とする[1]〜[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6] 光学活性二座配位子が光学活性ホスフィン化合物、光学活性オキサゾリン化合物又は光学活性ジアミン化合物から選ばれるものであることを特徴とする[5]に記載の製造方法。
[7] 銅化合物が、1価又は2価の銅塩である[1]〜[6]のいずれかに記載の製造方法。
[8] 光学活性配位子及び銅化合物の存在下、又は銅−光学活性配位子錯体の存在下、ラセミ体の4,4−ジ置換−2−置換−5(4H)−オキサゾロン(ジ置換アズラクトン)を加アルコール分解反応に付して、未反応のジ置換アズラクトンを回収することからなる、ラセミ体ジ置換アズラクトンを光学分割する方法。
に関する。
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明における光学活性化合物の製造法は、一般式(1)で表されるアズラクトン類に、光学活性配位子及び銅化合物の存在下、アルコールを作用させ、速度論的分割によって一般式(2)で表される光学活性アズラクトン類及び一般式(3)で表されるアルコールによってアズラクトン類が開環した光学活性エステル化合物を製造する方法である。
本発明の原料である一般式(1)で表されるアズラクトン類は公知の方法で合成することもできるが、市販品を用いることもできる。
一般式(1)における置換基Rが、アルコキシカルボニル基やアリールオキシカルボニル基である場合にアズラクトン類の合成法としては、例えば以下のスキームに従って容易に製造することができる。
【0013】
【化4】

【0014】
すなわち、α−アミノ酸に塩化ベンゾイルのような酸クロリドを作用させ、アミノ基をアシル化し、続いてDCCのような脱水剤を用いて脱水環化を行い、得られた化合物にクロロギ酸エステルを作用させエノールエステルを生成させ、これをDMAP(4−ジメチルアミノピリジン)の存在下に転位反応を行うことにより本発明の原料であるアズラクトン類が得られる。
本発明の原料化合物である一般式(1)で表されるアズラクトン類における置換基R、R及びRとしては反応に関与しない基であれば特に制限はないが、光学活性体を製造する場合にはRとRが異なる置換基となるものが好ましい。これらの置換基としては、具体的には以下のようなものが挙げられる。
、R及びRにおけるアルキル基としては、直鎖状若しくは分岐状、又は環状の例えば炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜10のアルキル基(環状の場合には炭素数3〜20、好ましくは炭素数3〜10のシクロアルキル基)が挙げられ、具体的にはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、3,3−ジメチル−2−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、シクロプロピルメチル基、シクロヘキシルメチル基などが挙げられる。
【0015】
、R及びRにおけるアルケニル基としては、直鎖状若しくは分岐状、又は環状の例えば炭素数2〜10のアルケニル基(環状の場合には炭素数3〜10、好ましくは5〜10のシクロアルケニル基)が好ましく、具体的にはビニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、1−メチル−3−ブテニル基、5−ヘキセニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられる。
、R及びRにおけるアラルキル基としては、例えば炭素数7〜12のアラルキル基が好ましく、具体的にはベンジル基、2−フェニルエチル基、1−フェニルプロピル基、3−ナフチルプロピル基、4−メトキシベンジル基等が挙げられる。
、R及びRにおける複素環基としては、飽和若しくは不飽和の脂肪族複素環基、又は芳香族複素環基が挙げられる。脂肪族複素環基としては、例えば炭素数2〜14で、異種原子として少なくとも1個、好ましくは1〜3個の例えば窒素原子、酸素原子、硫黄原子等のヘテロ原子を含んでいる、5〜8員、好ましくは5又は6員の単環の脂肪族複素環基、多環又は縮合環の脂肪族複素環基が挙げられる。脂肪族複素環基の具体例としては、例えば、ピロリジル−2−オン基、ピペリジノ基、ピペラジニル基、モルホリノ基、テトラヒドロフリル基、テトラヒドロピラニル基、テトラヒドロチエニル基等が挙げられる。
芳香族複素環基としては、例えば炭素数2〜15で、異種原子として少なくとも1個、好ましくは1〜3個の窒素原子、酸素原子、硫黄原子等の異種原子を含んでいる、5〜8員、好ましくは5又は6員の単環式ヘテロアリール基、多環式又は縮合環式のヘテロアリール基が挙げられ、具体的にはフリル基、チエニル基、ピリジル基、ピリミジル基、ピラジル基、ピリダジル基、ピラゾリル基、イミダゾリル基、オキサゾリル基、チアゾリル基、ベンゾフリル基、ベンゾチエニル基、キノリル基、イソキノリル基、キノキサリル基、フタラジル基、キナゾリル基、ナフチリジル基、シンノリル基、ベンゾイミダゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基等が挙げられる。
、R及びRにおけるアリール基としては、例えば炭素数6〜14の単環式、多環式、又は縮合環式の芳香族炭化水素基が挙げられ、具体的にはフェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナンスリル基、ビフェニル基等が挙げられる。
【0016】
及びRにおけるアルコキシカルボニル基としては、直鎖状でも分岐状でも又は環状でもよい、例えば炭素数2〜20のアルコキシカルボニル基(環状の場合には、炭素数4〜20のアルコキシカルボニル基)が挙げられ、具体例としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基、tert−ブトキシカルボニル基、ペンチルオキシカルボニル基、ヘキシルオキシカルボニル基、2−エチルヘキシルオキシカルボニル基、ラウリルオキシカルボニル基、ステアリルオキシカルボニル基、シクロヘキシルオキシカルボニル基等が挙げられる。
及びRにおけるアリールオキシカルボニル基としては、例えば炭素数7〜20のアリールオキシカルボニル基が挙げられ、その具体例としては、フェノキシカルボニル基、ナフチルオキシカルボニル基等が挙げられる。
これらの基は任意に反応に関与しない置換基によって置換されていてもよい。このような置換基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜4のアルキル基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、トリクロロメチル基等の炭素数1〜3のハロゲン化アルキル基;メトキシ基、エトキシ基などの炭素数1〜4のアルコキシ基;水酸基;アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、ブチリルオキシ基、ピバロイルオキシ基等の炭素数1〜4のアルカノイルオキシ基;アセチル基、ベンゾイル基等のアシル基;メトキシメトキシ基等のアルコキシアルコキシ基;フェニル基、α−ナフチル基、β−ナフチル基などのアリール基;フェノキシ基、α−ナフチル基、β−ナフチル基などのアリールオキシ基;ベンジルオキシ基、フェネチルオキシ基等のアラルキルオキシ基;2H−テトラヒドロピラン−2−イルオキシ基;トリメチルシリルオキシ基、tert−ブチルジメチルシリルオキシ基等の三置換シリルオキシ基;アミノ基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、フェニルアミノ基、ベンジルアミノ基、ベンジルオキシカルボニルアミノ基、tert−ブトキシカルボニルアミノ基等の(置換)アミノ基;前記してきた複素環基などが挙げられる。
【0017】
本発明の一般式(4)で表されるアルコールのRにおけるアルキル基としては、炭素数1〜6の直鎖状又は分岐状のアルキル基が挙げられ、具体的には、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、2−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基等が挙げられる。当該アルキル基は、反応に関与しない任意の置換基で置換されていてもよく、このような置換基としては、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基等の炭素数1〜6の直鎖状又は分岐状のアルコキシ基;トリフルオロメチル基等の炭素数1〜5の直鎖状又は分岐状のアルキル基を有し1〜10個、好ましくは1〜5個のハロゲン原子で置換されたハロゲン化アルキル基;塩素原子、フッ素原子等のハロゲン原子;フェニル基、α−ナフチル基などの炭素数6〜15のアリール基;フェノキシ基、α−ナフチルオキシ基などの炭素数6〜15のアリールオキシ基;ベンジルオキシ基、フェネチルオキシ基などの炭素数7〜16のアラルキルオキシ基等が挙げられる。
本発明の方法で使用される一般式(4)で表されるアルコールの具体例としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−メトキシエタノール、2−クロロエタノール、ベンジルアルコール、トリフルオロメタノールなどが挙げられるが、メタノール、エタノール、2−メトキシエタノールが好ましい例として挙げられる。
【0018】
続いて、本発明に用いられる光学活性配位子について説明する。
本発明に用いられる光学活性配位子としては単座又は二座の配位子が挙げられ、好ましくは光学活性な二座の配位子が用いられる。
光学活性二座配位子としては、配位する原子として窒素原子又はリン原子を有するものが好ましい。具体的には、光学活性ビスホスフィン類、光学活性オキサゾリン類、光学活性ジアミン類等が挙げられる。
光学活性ビスホスフィン類としては,例えば本出願前公知の光学活性ホスフィン類が挙げられ、その一つとして軸不斉構造を有する次の一般式(5)
【0019】
【化5】

【0020】
(式中、R及びRは、同一又は異なっていてもよく、シクロペンチル基;シクロヘキシル基;又は、アルキル基、アルコキシ基若しくはハロゲン原子で置換されていてもよいフェニル基を示す)
で表される化合物が挙げられる。
及びRにおけるフェニル基上の置換基のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等の直鎖状又は分岐状の炭素数1〜6のアルキル基が挙げられ、アルコキシ基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基等の直鎖状又は分岐状の炭素数1〜6のアルコキシ基が挙げられ、ハロゲン原子としては塩素原子、臭素原子、フッ素原子等のハロゲン原子が挙げられる。これらのフェニル環上の置換基は、それぞれ独立して1個〜5個の範囲で複数個存在してもよい。具体的なR及びRとしては、例えばフェニル基、p−トリル基、m−トリル基、3,5−キシリル基、p−tert−ブチルフェニル基、p−メトキシフェニル基、4−メトキシ−3,5−ジ(tert−ブチル)フェニル基、4−メトキシ−3,5−ジメチルフェニル基、p−クロロフェニル基、シクロペンチル基及びシクロヘキシル基等が挙げられる。また、一般式(5)で表される化合物の2つのナフチル環は、それぞれメチル基、tert−ブチル基等のアルキル基;メトキシ基、tert−ブトキシ基等のアルコキシ基;トリメチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、tert−ブチルジメチルシリル基等のトリアルキルシリル基及びトリフェニルシリル基等のトリアリールシリル基などの基で置換されていてもよい。
前記一般式(5)で表される光学活性ビスホスフィンの具体例としては、これらに限定されるものではないが、例えば、2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−1,1’−ビナフチル、2,2’−ビス[ジ(p−トリル)ホスフィノ]−1,1’−ビナフチル、2,2’−ビス[ジ(3,5−キシリル)ホスフィノ]−1,1’−ビナフチル、2,2’−ビス[ジ(3,5−ジ(tert−ブチル)フェニルホスフィノ)−1,1’−ビナフチル、2,2’−ビス[ジ(4−メトキシ−3,5−ジメチルフェニル)ホスフィノ]−1,1’−ビナフチル、2,2’−ビス[ジ(4−メトキシ−3,5−ジ(tert−ブチル)フェニル)ホスフィノ]−1,1’−ビナフチル、2,2’−ビス(ジシクロペンチルホスフィノ)−1,1’−ビナフチル、2,2’−ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)−1,1’−ビナフチル等が挙げられる。
さらに、軸性不斉構造を有する光学活性ビスホスフィンの一つとしては下記一般式(6)
【0021】
【化6】

【0022】
(式中、R及びRは、同一又は異なっていてもよく、アルキル基、アルコキシ基若しくはハロゲン原子で置換されていてもよいフェニル基、シクロペンチル基、又はシクロヘキシル基を示す。R,R10,R11、R12,R13及びR14は、同一又は異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アシルオキシ基、ハロゲン原子、ハロアルキル基又はジアルキルアミノ基を示し、R10及びR11とが一緒になって置換基を有していてもよいアルキレン鎖又は置換基を有していてもよいアルキレンジオキシ基を形成していてもよく、R13及びR14とが一緒になって置換基を有していてもよいアルキレン鎖又は置換基を有していてもよいアルキレンジオキシ基を形成していてもよい。ただし、R11とR14は水素原子になることはない。)
で表されるビスホスフィン化合物が挙げられる。
及びRにおけるフェニル基上の置換基のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等の直鎖状又は分岐状の炭素数1〜6のアルキル基が挙げられ、アルコキシ基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基等の直鎖状又は分岐状の炭素数1〜6のアルコキシ基が挙げられ、ハロゲン原子としては例えば塩素原子、臭素原子、フッ素原子等が挙げられ、これらの置換基は当該フェニル基の環上にそれぞれ独立して複数個存在してもよい。
具体的なR又はRとしては、フェニル基、p−トリル基、m−トリル基、o−トリル基、3,5−キシリル基、3,5−ジ−tert−ブチルフェニル基、p−tert−ブチルフェニル基、p−メトキシフェニル基、3,5−ジ(tert−ブチル)−4−メトキシフェニル基、p−クロロフェニル基、m−フルオロフェニル基、シクロペンチル基及びシクロヘキシル基等が挙げられる。
また、R,R10,R11、R12,R13及びR14におけるアルキル基としては例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等の直鎖状又は分岐状の炭素数1〜6のアルキル基が挙げられ、アルコキシ基としては例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基等の直鎖状又は分岐状の炭素数1〜6のアルコキシ基が挙げられる。アシルオキシ基としては、例えばアセトキシ基、プロパノイルオキシ基、トリフルオロアセトキシ基及びベンゾイルオキシ基が挙げられ、ハロゲン原子としては、例えば塩素原子、臭素原子、フッ素原子等が挙げられ、ハロアルキル基としては、例えばトリフルオロメチル基等の炭素数1〜4のハロアルキル基が挙げられ、ジアルキルアミノ基としては例えば、ジメチルアミノ基又はジエチルアミノ基等が挙げられる。
【0023】
10及びR11とが一緒になってメチレン鎖を形成する場合、並びにR13及びR14とが一緒になってアルキレン鎖を形成する場合のアルキレン鎖としては、炭素数3〜5のアルキレン鎖が好ましく、具体的にはトリメチレン基、テトラメチレン基及びペンタメチレン基が挙げられる。また、置換基を有していてもよいアルキレン鎖の置換基としては、前記してきたアルキル基及びハロゲン原子等が挙げられ、具体例としては炭素数1〜6の前記したようなアルキル基及びフッ素原子等が挙げられる。
10及びR11とが一緒になって置換基を有していてもよいアルキレンジオキシ基を形成する場合、並びにR13及びR14とが一緒になって置換基を有していてもよいアルキレンジオキシ基を形成する場合のアルキレン鎖としては、炭素数1〜3のアルキレン鎖が好ましく、具体的にはメチレン基、エチレン基及びトリメチレン基が挙げられる。また、当該アルキレンジオキシ基に置換する置換基としては、前記してきたアルキル基及びハロゲン原子等が挙げられ、具体例としては炭素数1〜6の前記したようなアルキル基及びフッ素原子等が挙げられる。
【0024】
前記一般式(6)で表される光学活性ホスフィンの具体例としては、これらに限定されるものではないが、例えば、2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−5,5’,6,6’,7,7’,8,8’−オクタヒドロ−1、1’−ビナフチル(H8−BINAPという)、2,2’−ビス(ジ−p−トリルホスフィノ)−5,5’,6,6’,7,7’,8,8’−オクタヒドロ−1,1’−ビナフチル、2,2’−ビス(ジ−m−トリルホスフィノ)−5,5’,6,6’,7,7’,8,8’−オクタヒドロ−1、1’−ビナフチル、2,2’−ビス(ジ−3,5−キシリルホスフィノ)−5,5’,6,6’,7,7’,8,8’−オクタヒドロ−1、1’−ビナフチル、2,2’−ビス(ジ−p−ターシャリーブチルフェニルホスフィノ)−5,5’,6,6’,7,7’,8,8’−オクタヒドロ−1,1’−ビナフチル、2,2’−ビス(ジ−p−メトキシフェニルホスフィノ)−5,5’,6,6’,7,7’,8,8’−オクタヒドロ−1,1’−ビナフチル、2,2’−ビス(ジ−p−クロロフェニルホスフィノ)−5,5’,6,6’,7,7’,8,8’−オクタヒドロ−1,1’−ビナフチル、2,2’−ビス(ジシクロペンチルホスフィノ)−5,5’,6,6’,7,7’,8,8’−オクタヒドロ−1,1’−ビナフチル、2,2’−ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)−5,5’,6,6’,7,7’,8,8’−オクタヒドロ−1,1’−ビナフチル、((4,4’−ビ−1,3−ベンゾジオキソール)−5、5’−ジイル)ビス(ジフェニルホスフィン)(SEGPHOS)、(4,4’−ビ−1,3−ベンゾジオキソール)−5、5’−ジイル)ビス(ビス(3,5−ジメチルフェニル)ホスフィン)(DM−SEGPHOS)、((4,4’−ビ−1,3−ベンゾジオキソール)−5、5’−ジイル)ビス(ビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−メトキシフェニル)ホスフィン)(DTBM−SEGPHOS)、((4,4’−ビ−1,3−ベンゾジオキソール)−5、5’−ジイル)ビス(ビス(4−メトキシフェニル)ホスフィン)、((4,4’−ビ−1,3−ベンゾジオキソール)−5、5’−ジイル)ビス(ジシクロヘキシルホスフィン)(Cy−SEGPHOS)、((4,4’−ビ−1,3−ベンゾジオキソール)−5、5’−ジイル)ビス(ビス(3,5−ジ−t−ブチルフェニル)ホスフィン)、2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−4,4’,6,6’−テトラメチル−5,5’−ジメトキシ−1,1’−ビフェニル、2,2’−ビス(ジ−p−メトキシフェニルホスフィノ)−4,4’,6,6’−テトラメチル−5,5’−ジメトキシ−1,1’−ビフェニル、2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−4,4’,6,6’−テトラ(トリフルオロメチル)−5,5’−ジメチル−1,1’−ビフェニル、2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−4,6−ジ(トリフルオロメチル)−4’,6’−ジメチル−5’−メトキシ−1,1’−ビフェニル、2−ジシクロヘキシルホスフィノ−2’−ジフェニルホスフィノ−4,4’,6,6’−テトラメチル−5,5’−ジメトキシ−1,1’−ビフェニル、2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−6,6’−ジメチル−1,1−ビフェニル、2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−4,4’,6,6’−テトラメチル−1,1’−ビフェニル、2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−3,3’,6,6’−テトラメチル−1,1’−ビフェニル)、2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−4,4’−ジフルオロ−6,6’−ジメチル−1,1’−ビフェニル、2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−4,4’−ビス(ジメチルアミノ)−6,6’−ジメチル−1,1’−ビフェニル、2,2’−ビス(ジ−p−トリルホスフィノ)−6,6’−ジメチル−1,1’−ビフェニル、2,2’−ビス(ジ−o−トリルホスフィノ)−6,6’−ジメチル−1,1’−ビフェニル、2,2’−ビス(ジ−m−フルオロフェニルホスフィノ)−6,6’−ジメチル−1,1’−ビフェニル、1,11−ビス(ジフェニルホスフィノ)−5,7−ジヒドロベンゾ[c,e]オキセピン、2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−6,6’−ジメトキシ−1,1’−ビフェニル、2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−5,5’,6,6’−テトラメトキシ−1,1’−ビフェニル、2,2’−ビス(ジ−p−トリルホスフィノ)−6,6’−ジメトキシ−1,1’−ビフェニル、2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−4,4’,5,5’,6,6’−ヘキサメトキシ−1,1’−ビフェニル等が挙げられる。
【0025】
本発明においては、前記した光学活性ビスホスフィン以外にも本出願前公知の光学活性ホスフィンを用いることができる。具体的な光学活性ホスフィンとしては、例えば、N,N−ジメチル−1−[1’,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセニル]エチルアミン、2,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン、1−シクロヘキシル−1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、2,3−O−イソプロピリデン−2,3−ジヒドロキシ−1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン、1,2−ビス{(o−メトキシフェニル)フェニルホスフィノ}エタン、1,2−ビス(2,5−ジメチルホスホラノ)ベンゼン、1,2−ビス(2,5−ジメチルホスホラノ)エタン、1−(2,5−ジメチルホスホラノ)−2−(ジフェニルホスフィノ)ベンゼン、5,6−ビス(ジフェニルホスフィノ)−2−ノルボルネン、N,N’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−N,N’−ビス(1−フェニルエチル)エチレンジアミン、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン、2,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ペンタン等が挙げられる。もちろん本発明に用いることができる光学活性ビスホスフィン類はこれらに何ら限定されるものではない。
【0026】
光学活性オキサゾリン類としては、モノオキサゾリン類又はビスオキサゾリン類が挙げられ、モノオキサゾリン類としてはオキサゾリン環の窒素原子のほかに金属に配位可能な原子(例えば、リン原子、窒素原子など)を有する化合物が挙げられ、具体的には2−[2−(ジフェニルホスフィノ)フェニル]−4−(1−メチルエチル)−4,5−ジヒドロオキサゾール、2−[2−(ジフェニルホスフィノ)フェニル]−4−メチル−4,5−ジヒドロオキサゾール等が挙げられる。
光学活性ビスオキサゾリン類としては、例えば下記一般式(7)
【0027】
【化7】

【0028】
(式中、R15、R16、R17及びR18は同一又は異なる基であり、水素原子(但し、R15及びR16は同時に水素原子ではなく、R17及びR18は同時に水素原子ではない。);炭素数1〜6のアルキル基;炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基及びハロゲン原子からなる群から選ばれる置換基で置換されていてもよいフェニル基;又は炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基及びハロゲン原子からなる群から選ばれる置換基で置換されていてもよいベンジル基を表す。また、R15、R16、R17及びR18が置換している炭素原子の少なくとも一つ、好ましくは2つは不斉炭素原子である。Aは1,2−フェニレン基、1,1’−ビフェニル−2,2’−ジイル基又は1,1’−ビナフタレン−2,2’−ジイル基を表し、ビナフタレンジイル基である場合は軸不斉構造を有してもよい。)
で表されるビスオキサゾリン化合物が挙げられる。
光学活性ジアミン化合物としては、例えば下記一般式(8)
【0029】
【化8】

【0030】
(式中、R19、R20、R21、R22、R23、R24、R25及びR26は、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有してもよい飽和又は不飽和炭化水素基、ウレタン基、又はスルホニル基等であり、R21、R22、R23、及びR24はこれらが結合している炭素原子が不斉炭素原子又は軸性不斉になる基である。)
で表される光学活性ジアミン化合物が挙げられる。
一般式(8)における飽和又は不飽和炭化水素基としては、前記してきた直鎖状、分岐状、又は環状のアルキル基;直鎖状、分岐状、又は環状のアルケニル基;単環式、多鑑識、又は縮合環式のアリール基;単環式、多環式、又は縮合環式のアラルキル基などが挙げられ、その置換基としては、前記してきた置換基が挙げられる。
具体的には、例えば、光学活性の1,2−ジフェニルエチレンジアミン、1,2−シクロヘキサンジアミン、1,2−シクロヘプタンジアミン、2,3−ジメチルヘプタンジアミン、1−メチル−2,2−ジフェニルエチレンジアミン、1−イソブチル−2,2−ジフェニルエチレンジアミン、1−イソプロピル−2,2−ジフェニルエチレンジアミン、1−メチル−2,2−ジ(p−メトキシフェニル)エチレンジアミン、1−イソブチル−2,2−ジ(p−メトキシフェニル)エチレンジアミン、1−イソプロピル−2,2−ジ(p−メトキシフェニル)エチレンジアミン、1−ベンジル−2,2−ジ(p−メトキシフェニル)エチレンジアミン、1−メチル−2,2−ジナフチルエチレンジアミン、1−イソブチル−2,2−ジナフチルエチレンジアミン、1−イソプロピル−2,2−ジナフチルエチレンジアミンなどが挙げられる。
【0031】
本発明に用いられる銅化合物としては、一価又は二価の銅化合物であれば特に制限はなく、具体的には、例えば、トリフルオロメタンスルホン酸銅(I)、トリフルオロメタンスルホン酸銅(II)、酢酸銅(I)、酢酸銅(II)、臭化銅(I)、臭化銅(II)、塩化銅(I)、塩化銅(II)、テトラキスアセトニトリル銅(I)ヘキサフルオロリン酸塩等の無水和物又は水和物が挙げられ、なかでも酢酸銅(II)が好ましい。銅化合物は、それぞれ単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
前記した光学活性配位子及び銅化合物は、本発明の方法の原料であるアズラクトン類に対して触媒量で用いることにより、速度論的分割を行うことができ、対応する光学活性化合物を得ることができる。触媒の使用量は通常10モル%以下で十分である。
また、本発明の方法は、前記した光学活性配位子及び銅化合物を混合して使用する代わりに、予め両者を原料として銅−光学活性配位子錯体を調製し、この錯体を触媒として使用することもできる。
【0032】
本発明の方法は、一般式(4)で表されるアルコールは、一般式(1)で表されるアズラクトン類の片方の鏡像体と速度論的に反応するために、一般式(1)で表されるアズラクトン類を基準として、量論量の0.5モル以上、好ましくは0.5〜50.0のモル比で用いられる。より好ましくは、上記モル比は0.5〜10.0であり、より好ましくは、0.5〜2.0である。
本発明にかかる反応は、原料のアズラクトン類が固体で無い限り、無溶媒でも充分に反応が進行するが、通常は有機溶媒中で行われる。
溶媒は任意のものを用いることができるが、アルコールを溶解するものが好ましい。
具体的な溶媒としては、例えば、トルエン、ベンゼン、クロロベンゼン、アニソール等の置換ベンゼン類、ジクロロメタン、1,2-ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素、アセトニトリル等のニトリル類、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジグライム等のエーテル類、アセトン等のケトン類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類、ジメチルスルホキサイドなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
反応温度はあまりに低温では反応が有利な速度で進行せず、あまりに高温では触媒が分解するので、通常は0℃から100℃の範囲から選ばれ、好ましくは0℃から50℃の範囲で実施される。反応時間は、原料として使用するアズラクトン類の種類及び量、反応温度その他の条件等により自ずから異なるが、通常1時間から一週間である。本発明の方法は速度論的方法であることから、一般に反応時間は、速度論的に分割すべきアズラクトン類の変換率に応じて決定される。例えば、速度論的選択性が余り大きくない触媒を使用する場合には、変換率が低い段階で反応を停止するほうがより好ましい光学収率を得ることができる。
【0033】
本発明にかかる反応は、空気中等の酸素の存在下でも進行するが、触媒の種類により、あるいは原料や生成物の種類により酸素に敏感なものもあるので、そのような場合には、空気や酸素を排除して、アルゴン、窒素等の不活性ガス雰囲気下で反応を行うのが好ましい。
反応後の後処理は、必要に応じてろ過、抽出、クロマトグラフィー、蒸留、再結晶等の公知の単離精製方法等を適宜組み合わせて行うことにより目的の生成物を単離することができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明は、通常の光学分割法によっては、分割が困難なジ置換アズラクトン類を簡便な方法で分割する方法を提供するものであり、本発明の方法によれば、光学活性ジ置換アズラクトン類を得ることができる。また、本発明の方法によれば、ジ置換アズラクトン類の片方の鏡像体のみが選択的に加アルコール分解された、光学活性第四級アミノ酸エステルを提供することができる。本発明の方法により、光学活性第四級アミノ酸等の不斉合成が可能となり、従来合成や分割が難しいとされていた第四級アミノ酸の光学活性体を容易に供給することができ、このような非天然型のアミノ酸を用いた生理活性物質の医薬品、農薬、化粧品などへの応用が期待できる。
【0035】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によりなんら限定されるものではない。
なお、下記の実施例において、変換率は2種類の生成物の収率から決定した。光学純度は光学活性カラムによる高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で測定した。HPLCのカラムにはChiralcel OD 又はChiralpak AD-Hを用い、 溶離液としてはヘキサン/イソプロパノール系を用いた。
生成物の同定はNMRスペクトル(Bruker ARX400)を用いて行った。なお、以下の式中のMeはメチル基を、Etはエチル基を、Phはフェニル基をそれぞれ表す。
【実施例1】
【0036】
実施例1〜7 アズラクトンの速度論的分割
次式で示される反応により、各種のホスフィン配位子を使用して、2−メトキシエタノールによるジ置換アズラクトンの加アルコール分解反応を行った。
【0037】
【化9】

【0038】
20mLのシュレンク管に酢酸銅(II)(1.9mg, 0.010mmol)を加え、真空下、50〜60℃で3分間加熱した。続いて、このシュレンク管をアルゴン置換した後、光学活性配位子としてのホスフィン化合物 (0.012mmol)、トルエン(1.0mL)を加え、45℃で1時間撹拌した。室温まで放冷した後、アズラクトン(0.50mmol)のトルエン(1.0mL)溶液及び2−メトキシエタノール(1.0mmol)を加え、20℃インキュベートした。生成物と基質はシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/ジエチルエーテル)で単離し、それぞれの光学純度(ee%)を測定した。
実施例1で使用したホスフィン化合物は次式
【0039】
【化10】

【0040】
で表されるDTBM−SEGPHOSの(−)体である。
【実施例2】
【0041】
実施例1のホスフィン化合物として、次式
【0042】
【化11】

【0043】
で表されるDM−BINAPの(S)体をホスフィン化合物として使用し、実施例1と同様に行った。
【実施例3】
【0044】
実施例1のホスフィン化合物として、次式
【0045】
【化12】

【0046】
で表されるT−BINAPの(R)体をホスフィン化合物として使用し、実施例1と同様に行った。
【実施例4】
【0047】
実施例1のホスフィン化合物として、次式
【0048】
【化13】

【0049】
で表されるBINAPの(S)体をホスフィン化合物として使用し、実施例1と同様に行った。
【実施例5】
【0050】
実施例1のホスフィン化合物として、次式
【0051】
【化14】

【0052】
で表されるi−Pr−DuPHOSの(+)体をホスフィン化合物として使用し、実施例1と同様に行った。
【実施例6】
【0053】
実施例1のホスフィン化合物として、次式
【0054】
【化15】

【0055】
で表されるMOPの(R)体をホスフィン化合物として使用し、実施例1と同様に行った。
【実施例7】
【0056】
実施例1のホスフィン化合物として、次式
【0057】
【化16】

【0058】
で表されるi−Pr−OxTPPの(R)体をホスフィン化合物として使用し、実施例1と同様に行った。
【0059】
実施例1〜7に記載の種々のホスフィン化合物について検討した結果を以下の表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
なお、表1中の各記号は以下の意味を表す。以下の表においても同様である。
ee-S:基質の光学純度
ee-P:生成物の光学純度
krels及びkrelpは、それぞれ原料及び生成物の相対速度定数を示し、次式で定義される値である。
krels = ln{(1-conv.)(1-eeS)}/ln{(1-conv.)(1+eeS)}
krelp = ln{1-conv.(1+eeP)}/ln{1-conv.(1-eeP)}
式中、lnは自然対数を示し、conv.は原料の転換率(小数)を示し、eeSは原料のエナンチオ過剰率(小数)を示し、eePは生成物のエナンチオ過剰率(小数)を示す。
【実施例8】
【0062】
実施例8〜9 アズラクトンの速度論的分割
次式で示される反応により、各種の銅化合物を用いて、2−メトキシエタノールを用いたジ置換アズラクトンの加アルコール分解反応を行った。
【0063】
【化17】

【0064】
20mLのシュレンク管にトリフルオロ酢酸銅(II)(0.010mmol)を加え、真空下、50〜60℃で3分間加熱した。続いて、このシュレンク管をアルゴン置換した後、光学活性配位子として(−)−DTBM−SEGPHOS (0.012mmol)、トルエン(1.0mL)を加え、45℃で1時間撹拌した。室温まで放冷した後、アズラクトン(0.50mmol)のトルエン(1.0mL)溶液及び2−メトキシエタノール(1.0mmol)を加え、20℃インキュベートした。生成物と基質はシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/ジエチルエーテル)で単離し、それぞれの光学純度(ee%)を測定した。
【実施例9】
【0065】
実施例8のトリフルオロ酢酸銅(II)に代えて、塩化銅(I)を用いて、実施例8と同様に行った。
【0066】
実施例8及び9に記載の種々の銅化合物について検討した結果を以下の表2に示す。
【0067】
【表2】

【0068】
表中の記号の意味は、表1と同じである。
【実施例10】
【0069】
実施例10〜12 アズラクトンの速度論的分割
次式で示される反応のより、各種のアルコールを用いて、酢酸銅によるジ置換アズラクトンの加アルコール分解を行った。
【0070】
【化18】

【0071】
20mLのシュレンク管に酢酸銅(0.010mmol)を加え、真空下、50〜60℃で3分間加熱した。続いて、このシュレンク管をアルゴン置換した後、光学活性配位子として(−)−DTBM−SEGPHOS (0.012mmol)、トルエン(1.0mL)を加え、45℃で1時間撹拌した。室温まで放冷した後、アズラクトン(0.50mmol)のトルエン(1.0mL)溶液及びn−ブタノール(1.0mmol)を加え、20℃インキュベートした。生成物と基質はシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/ジエチルエーテル)で単離し、それぞれの光学純度(ee%)を測定した。
【実施例11】
【0072】
実施例10のn−ブタノールに代えて2−クロロエタノールを用いて、実施例10と同様に行った。
【実施例12】
【0073】
実施例10のn−ブタノールに代えてメタノールを用いて、実施例10と同様に行った。
【0074】
実施例10〜12に記載の種々のアルコールについて検討した結果を以下の表3に示す。
【0075】
【表3】

【0076】
表中の記号の意味は表1と同じである。
【実施例13】
【0077】
実施例13〜19 アズラクトンの速度論的分割
次式で示される反応において、置換基R及びR’を有する各種のジ置換アズラクトンを用いて、酢酸銅の存在下でのジ置換アズラクトンの2−メトキシエタノールによる加アルコール分解反応を行った。
【0078】
【化19】

【0079】
20mLのシュレンク管に酢酸銅(0.010mmol)を加え、真空下、50〜60℃で3分間加熱した。続いて、このシュレンク管をアルゴン置換した後、光学活性配位子として(−)−DTBM−SEGPHOS (0.012mmol)、トルエン(1.0mL)を加え、45℃で1時間撹拌した。室温まで放冷した後、式中のR基がメチル基でR’基がベンジル基であるアズラクトン(0.50mmol)のトルエン(1.0mL)溶液及び2−メトキシエタノール(1.0mmol)を加え、20℃インキュベートした。生成物と基質はシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/ジエチルエーテル)で単離し、それぞれの光学純度(ee%)を測定した。
【実施例14】
【0080】
実施例13のR基がメチル基でR’基がベンジル基であるアズラクトンに代えて、R基がメチル基でR’基がi−プロピル基であるアズラクトンを用いて、実施例13と同様に行った。
【実施例15】
【0081】
実施例13のR基がメチル基でR’基がベンジル基であるアズラクトンに代えて、R基がメチル基でR’基がアリル基であるアズラクトンを用いて、実施例13と同様に行った。
【実施例16】
【0082】
実施例13のR基がメチル基でR’基がベンジル基であるアズラクトンに代えて、R基がメチル基でR’基がi−ブチル基であるアズラクトンを用いて、実施例13と同様に行った。
【実施例17】
【0083】
実施例13のR基がメチル基でR’基がベンジル基であるアズラクトンに代えて、R基がメチル基でR’基がフェニル基であるアズラクトンを用いて、実施例13と同様に行った。
【実施例18】
【0084】
実施例13のR基がメチル基でR’基がベンジル基であるアズラクトンに代えて、R基がベンジル基でR’基がエチル基であるアズラクトンを用いて、実施例13と同様に行った。
【実施例19】
【0085】
実施例13のR基がメチル基でR’基がベンジル基であるアズラクトンに代えて、R基がi−ブチル基でR’基がエチル基であるアズラクトンを用いて、実施例13と同様に行った。
【実施例20】
【0086】
実施例13のR基がメチル基でR’基がベンジル基であるアズラクトンに代えて、R基がエチル基でR’基がベンジル基であるアズラクトンを用いて、実施例13と同様に行った。
【実施例21】
【0087】
実施例13のR基がメチル基でR’基がベンジル基であるアズラクトンに代えて、R基がn−プロピル基でR’基がベンジル基であるアズラクトンを用いて、実施例13と同様に行った。
【0088】
実施例13〜21に記載の種々のアズラクトンについて検討した結果を以下の表4に示す。
【0089】
【表4】

【0090】
表4中における記号の意味は表1と同じである。なお、表4中のi-Prはイソプロピル基を示し、allylはアリル基を示し、i-Buはイソブチル基を示し、Bnはベンジル基を表す。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明は、ラセミ体のジ置換アズラクトンの新規な分割方法、及び光学活性第四級アミノ酸誘導体の新規な製造方法を提供するものであり、インクジェット用インク組成物や各種の生理活性物質の原料となる化学物質の新規かつ有用な製造方法を提供するものである。したがって、本発明は産業上の利用可能性を有している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学活性配位子及び銅化合物の存在下、又は銅−光学活性配位子錯体の存在下、4,4−ジ置換−2−置換−5(4H)−オキサゾロン(ジ置換アズラクトン)を加アルコール分解して、対応するN−アシル化−第四級アミノ酸エステルを製造する方法。
【請求項2】
ジ置換アズラクトンがラセミ体であり、生成するN−アシル化−第四級アミノ酸エステルが光学活性体である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
光学活性配位子及び銅化合物の存在下、又は銅−光学活性配位子錯体の存在下、ラセミ体の4,4−ジ置換−2−置換−5(4H)−オキサゾロン(ジ置換アズラクトン)を加アルコール分解して、未反応のジ置換アズラクトンを回収することからなるラセミ体のジ置換アズラクトンから光学活性ジ置換アズラクトンを製造する方法。
【請求項4】
ジ置換アズラクトンが、下記一般式(1)
【化1】

(式中、R及びRは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよい複素環基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアリールオキシカルボニル基を表す。Rは、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよいアリール基又は置換基を有していてもよい複素環基を表す。)
で表される化合物であり、アルコールが、次の一般式(4)
OH (4)
(式中、Rは置換基を有していてもよいアルキル基を表す。)
で表されるアルコールであり、
光学活性ジ置換アズラクトンが下記一般式(2)
【化2】

(式中、R、R及びRは前記と同じ意味を表し、*は不斉炭素原子を表す。)
で表される光学活性化合物であり、N−アシル化−第四級アミノ酸エステルが下記一般式(3)
【化3】

(式中、R、R及びRは前記と同じ意味を表し、*は不斉炭素原子を表す。)
で表される化合物である請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
光学活性配位子が光学活性二座配位子であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
光学活性二座配位子が光学活性ホスフィン化合物、光学活性オキサゾリン化合物又は光学活性ジアミン化合物から選ばれるものであることを特徴とする請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
銅化合物が、1価又は2価の銅塩である請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
光学活性配位子及び銅化合物の存在下、又は銅−光学活性配位子錯体の存在下、ラセミ体の4,4−ジ置換−2−置換−5(4H)−オキサゾロン(ジ置換アズラクトン)を加アルコール分解反応に付して、未反応のジ置換アズラクトンを回収することからなる、ラセミ体ジ置換アズラクトンを光学分割する方法。

【公開番号】特開2006−248916(P2006−248916A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−63877(P2005−63877)
【出願日】平成17年3月8日(2005.3.8)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【出願人】(000169466)高砂香料工業株式会社 (194)
【Fターム(参考)】