説明

光学活性N−ベンジル−3−ピロリジノールの製造方法

【課題】本発明は、工業的に利用可能な、(R)-N-ベンジル-3-ピロリジノールの製造方法を提供することにある。
【解決手段】還元型補酵素の存在下、N-ベンジル-3-ピロリジノンを不斉還元し(R)-N-ベンジル-3-ピロリジノールを生成する活性を有し、かつ、下記(a)の酵素の生物学的活性を維持する酵素活性物質を、N-ベンジル-3-ピロリジノンに作用させ、(R)-N-ベンジル-3-ピロリジノールを製造する方法;(a)配列番号:1または配列番号:2に記載されたアミノ酸配列を有する酵素。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品合成の原料として有用な、(R)-N-ベンジル-3-ピロリジノールを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(R)-N-ベンジル-3-ピロリジノールの生化学的製造方法としては、ラセミ体のN-ベンジル-3-ピロリジノールにリパーゼ、エステラーゼなどを作用させて光学分割する方法や光学分割剤を用いたジアステレオマー分割法が知られている(例えば特許文献1、特許文献2、特許文献3参照)。光学分割法の場合、理論収率は50%以下であり、効率的なラセミ化法がないと安価に製造できないうえに、リパーゼあるいは光学活性マンデル酸などの分割剤も高価である、など問題点がある。
【0003】
また、N-ベンジル-3-ピロリジノンを酵素あるいは微生物で不斉還元する方法も知られている(例えば特許文献4、特許文献5、特許文献6参照)。しかしながら、いずれの方法においても基質仕込み濃度および生成物への変換率が非常に低く、実用レベルに耐えられるものではない。
【特許文献1】特開平5−227991号公報
【特許文献2】特開平1−141600号公報
【特許文献3】特開昭61−267577号公報
【特許文献4】特開平6−141876号公報
【特許文献5】特開平10−150998号公報
【特許文献6】特開平17−117905号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、工業的に利用可能な、(R)-N-ベンジル-3-ピロリジノールの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
N-ベンジル-3-ピロリジノンを原料とし、微生物や酵素を用いた不斉還元反応により(R)-N-ベンジル-3-ピロリジノールを製造する方法は、理論収率100%であり、工業的な製造方法として適している。たとえば、これまでに報告されている特許文献5では、微生物を用いて(R)-N-ベンジル-3-ピロリジノールを合成しているが、培養液:反応液の比率が5:1と大量の菌体を使用しているにも関わらず、(R)-N-ベンジル-3-ピロリジノールの生成量は、2g/Lと低いものであった。
【0006】
そこで、本願発明者らは、種々の酵素を用いて不斉還元反応を行なった結果、トロピノン還元酵素−Iが高い光学純度の(R)-N-ベンジル-3-ピロリジノールを極めて効率良く生成することを見出し、本発明を完成した。生成した(R)-N-ベンジル-3-ピロリジノールの光学純度は90%ee(R)以上、生成濃度は20g/L以上であり、従来からの報告例と比較して大きく上回る結果が得られた。
【0007】
トロピノン還元酵素−Iは、植物中のアルカロイド合成に重要な役割を有する酵素であり、生理的にはトロピノンを還元し、トロピンを生成する。また、本酵素は、3−キヌクリジノンを還元し、(R)-3-キヌクリジノールを生成することが本発明者らにより報告されている (特開2003-230398号公報)。しかし、本酵素がN-ベンジル-3-ピロリジノンに作用することは、これまで報告はない。しかも、高濃度の(R)-N-ベンジル-3-ピロリジノールを90%ee以上の高い光学純度で生産することは予想できなかった。
【0008】
すなわち、本発明は、以下を含む。
〔1〕 還元型補酵素の存在下、N-ベンジル-3-ピロリジノンを不斉還元し(R)-N-ベンジル-3-ピロリジノールを生成する活性を有し、かつ、下記(a)の酵素の生物学的活性を維持する酵素活性物質を、N-ベンジル-3-ピロリジノンに作用させ、(R)-N-ベンジル-3-ピロリジノールを回収する工程を含む、(R)-N-ベンジル-3-ピロリジノールの製造方法;
(a)配列番号:1または配列番号:2に記載されたアミノ酸配列を有する酵素。
〔2〕 前記酵素活性物質が、下記(a)から(e)のいずれかに記載の酵素である、〔1〕に記載の方法;
(a)配列番号:1および/または配列番号:2に記載されたアミノ酸配列を有する酵素、
(b)配列番号:1および/または配列番号:2に記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/もしくは付加されたアミノ酸配列を有する酵素、
(c)配列番号:3および/または配列番号:4に記載された塩基配列がコードするアミノ酸配列を有する酵素、
(d)配列番号:3および/または配列番号:4に記載された塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによりコードされるアミノ酸配列を有する酵素、
(e)配列番号:1および/または配列番号:2に記載のアミノ酸配列と70%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有する酵素。
〔3〕 前記酵素活性物質が、Datura属またはHyoscyamus属に属する植物に由来する酵素活性物質であることを特徴とする〔1〕に記載の方法。
〔4〕 前記Datura属に属する植物が、Datura stramoniumであることを特徴とする〔3〕に記載の方法。
〔5〕 前記Hyoscyamus属に属する植物が、Hyoscyamus nigerであることを特徴とする〔3〕に記載の方法。
〔6〕 前記酵素活性物質が、下記(a)から(e)のいずれかに記載の酵素であって、N-ベンジル-3-ピロリジノンを不斉還元し(R)-N-ベンジル-3-ピロリジノール生成活性を有する酵素をコードするDNAを含むベクターにより形質転換された形質転換体、またはその処理物である、〔1〕に記載の方法;
(a)配列番号:1および/または配列番号:2に記載されたアミノ酸配列を有する酵素、
(b)配列番号:1および/または配列番号:2に記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/もしくは付加されたアミノ酸配列を有する酵素、
(c)配列番号:3および/または配列番号:4に記載された塩基配列がコードするアミノ酸配列を有する酵素、
(d)配列番号:3および/または配列番号:4に記載された塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによりコードされるアミノ酸配列を有する酵素、
(e)配列番号:1および/または配列番号:2に記載のアミノ酸配列と70%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有する酵素。
〔7〕 前記ベクターが、更に酸化型補酵素を還元型補酵素に再生する酵素をコードするDNAをともに含む、〔6〕に記載の方法。
〔8〕 前記酸化型補酵素を還元型補酵素に再生する酵素が、グルコース脱水素酵素である、〔7〕に記載の方法。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
酵素活性物質
本発明で用いることのできる酵素活性物質は、N-ベンジル-3-ピロリジノンを不斉還元し、(R)-N-ベンジル-3-ピロリジノール生成する活性を有し、下記(a)の酵素の生物学的活性を維持するものであれば、任意の酵素活性物質を用いることができる。
(a)配列番号:1または配列番号:2に記載されたアミノ酸配列を有する酵素。
【0010】
ここで、本発明における「生物学的活性」とは、N-ベンジル-3-ピロリジノンを不斉還元し、(R)-N-ベンジル-3-ピロリジノール生成すること、還元型補酵素を必要とすることをいう。「生物学的活性の維持」とは、元の酵素が触媒する少なくとも一つの反応を触媒する能力が維持されることをいう。「活性の維持」には、同じ活性レベルのみならず、より高い活性も含まれる。また、活性のレベルが低下する場合であっても、実質的に同等の活性であれば、活性の維持に含まれる。実質的に同等とは、元の活性に対して、たとえば50%〜100%、通常70〜100%、好ましくは80〜100%、より好ましくは90、あるいは95〜100%の活性を言う。
【0011】
本発明における好ましい酵素活性物質は、N-ベンジル-3-ピロリジノンを基質として、少なくとも90%ee(R)以上、望ましくは95%ee(R)以上の光学純度の光学活性N-ベンジル-3-ピロリジノールを生成することができる酵素活性物質である。生成物の光学純度は、反応生成物の光学分割カラム、例えば、CHIRALCEL OD-H(ダイセル化学工業(株)製)を用い、n-ヘキサン/イソプロピルアルコール/ジエチルアミン(95/5/0.1)の溶離液を用いた解析によって確認できる。
【0012】
ここで、本明細書において「酵素活性物質」とは、酵素(精製酵素)、トロピノン還元酵素−Iを含む微生物菌体、植物、その培養細胞、形質転換体、または、その処理物が含まれる。
【0013】
(酵素)
このような酵素活性物質のうち酵素として、具体的に下記(a)から(e)のいずれかに記載の酵素が挙げられる。
(a)配列番号:1および/または配列番号:2に記載されたアミノ酸配列を有する酵素、
(b)配列番号:1および/または配列番号:2に記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/もしくは付加されたアミノ酸配列を有する酵素、
(c)配列番号:3および/または配列番号:4に記載された塩基配列がコードするアミノ酸配列を有する酵素、
(d)配列番号:3および/または配列番号:4に記載された塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによりコードされるアミノ酸配列を有する酵素、
(e)配列番号:1および/または配列番号:2に記載のアミノ酸配列と70%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有する酵素。
【0014】
本発明に用いることのできる酵素活性物質の由来に特に制限はないが、好ましい酵素活性物質のうち好ましい酵素の一つは、トロピノン還元酵素−Iである。トロピノン還元酵素−I活性とは、トロピノンに作用してトロピンを生成する活性をいう。トロピノン還元酵素には、トロピノンから互いに逆の立体配置を持つトロピンとシュードトロピンを生成する二種類の還元酵素が報告されている。これらの酵素は、それぞれトロピノン還元酵素−I(EC.1.1.1.206)、およびトロピノン還元酵素−II(EC1.1.1.236)と名づけられている。これらの酵素は、ヒヨスチアミンやスコポラミンなどのトロパンアルカロイド生合成経路の分岐点に位置する反応を触媒する。すなわちトロピノン還元酵素−Iとは、トロピノンに作用してトロピンを生成する活性を有する酵素(EC.1.1.1.206)を指す。
【0015】
また、酵素活性物質は、たとえばDatura属、あるいはHyoscyamus属に属する植物から得ることができる。より具体的には、Datura stramonium 由来のトロピノン還元酵素−I(Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A.,90,9591-9595(1993))、あるいはHyoscyamus niger 由来のトロピノン還元酵素−I(Biosci. Biotechnol. Biochem., 63(10), 1819-1822(1999))が公知である。このような酵素活性物質として利用できる精製酵素は、例えばDatura stramonium(Phytochemistry,37(2),391-400(1994))や、Hyoscyamus niger(Plant Physiol.,100, 836-845(1992))等の植物体から公知の方法によって単離することができる。
【0016】
このようなトロピノン還元酵素−Iは、具体的にはDatura stramonium由来の酵素としては、配列番号:1に記載のアミノ酸配列からなる酵素、Hyoscyamus niger由来の酵素としては、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなる酵素が挙げられる。
【0017】
その他、種々の生物に由来する酵素も、N-ベンジル-3-ピロリジノンを還元して(R)-N-ベンジル-3-ピロリジノールを生成する活性を有する限り利用することができる。他の生物由来の酵素としては、例えばBrugmansia candida x aurea hybrid (Phytochemistry, 52, 871-878 (1999))、Atropa belladonna (Plant Physiol., 100, 836-845 (1992))、Physalis philadelphica (Plant Physiol., 100, 836-845 (1992))、Solanum tuberosum (DNA Databank of JAPAN (DDBJ)) 由来のトロピノン還元酵素−Iなどが挙げられる。
【0018】
本発明で用いる酵素の活性は、以下のような方法によって測定することができる。すなわち、100mM リン酸カリウム緩衝液(pH 6.5)、0.2mM NADPH、4mM トロピノン および酵素を含む反応液中で、30℃で反応させ、NADPHの減少による340nmの吸収の減少を測定することにより、トロピノン還元活性を測定することができる。また、100mMリン酸カリウム緩衝液(pH 6.5)、0.2mM NADPH、10mM N-ベンジル-3-ピロリジノン及び酵素を含む反応液中で、30℃で反応させ、NADPHの減少による340nmの吸収の減少を測定することにより、N-ベンジル-3-ピロリジノン還元活性を測定することができる。それぞれ、1Uは、1分間に1μmolのNADPHの減少を触媒する酵素量とした。
【0019】
本発明で用いることのできる酵素はまた、配列番号:1または2に記載のアミノ酸配列からなる酵素のホモログを含む。本発明で用いる酵素のホモログとは、配列番号:1または2に記載のアミノ酸配列に1もしくは複数のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列を含み、該タンパク質が、配列番号:1または2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質の生物学的活性を維持していることを意味する。該生物学的活性を維持している限り、アミノ酸の欠失、置換、挿入および/または付加は許容される。生物学的活性の維持の意味は前記のとおりである。
【0020】
本発明において、配列番号:1または2に記載のアミノ酸配列からなる酵素の活性とは、酵素が、N-ベンジル-3-ピロリジノンを不斉還元し、(R)-N-ベンジル-3-ピロリジノール生成活性を有することを意味する。本発明におけるタンパク質の生物学的活性、すなわちN-ベンジル-3-ピロリジノンを還元して(R)-N-ベンジル-3-ピロリジノールを生成する活性の評価方法は既に述べた。
【0021】
具体的には、配列番号:1または2に記載のアミノ酸配列において、たとえば100以下、通常50以下、好ましくは30以下、より好ましくは15以下、更に好ましくは10以下、あるいは5以下のアミノ酸残基の変異は許容される。
【0022】
タンパク質においてアミノ酸残基を置換する場合、特に、側鎖の化学的性質が類似したアミノ酸による置換、いわゆる保存的なアミノ酸置換を行うことが好ましい。アミノ酸は、それらの側鎖の化学的性質に従い、例えば、次のように分類される:
(1)中性疎水性側鎖(アラニン、トリプトファン、バリン、フェニルアラニン、プロリン、メチオニン、ロイシン);
(2)中性極性側鎖(アスパラギン、グリシン、グルタミン、システイン、セリン、チロシン、トレオニン);
(3)塩基性側鎖(アルギニン、ヒスチジン、リシン);
(4)酸性側鎖(アスパラギン酸、グルタミン酸);
(5)脂肪族側鎖(アラニン、イソロイシン、グリシン、バリン、ロイシン);
(6)脂肪族水酸基側鎖(セリン、トレオニン);
(7)アミン含有側鎖(アスパラギン、アルギニン、グルタミン、ヒスチジン、リシン);
(8)芳香族側鎖(チロシン、トリプトファン、フェニルアラニン);および
(9)硫黄含有側鎖(システイン、メチオニン)。
【0023】
当業者であれば、配列番号:1または2に記載のアミノ酸に部位特異的変異導入法(Nucleic Acid Res. 10,pp.6487 (1982) , Methods in Enzymol.100,pp.448 (1983), Molecular Cloning 2ndEdt., Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989) , PCR A Practical Approach IRL Press pp.200 (1991) )などを用いて、適宜置換、欠失、挿入、および/または付加変異を導入することにより、酵素の構造を改変することができる。また、アミノ酸の変異は自然界において生じることもあり、人工的にアミノ酸を変異した酵素のみならず、自然界においてアミノ酸が変異した酵素も本発明の方法において用いることができる。
【0024】
さらに、本発明で用いる酵素のホモログとは、配列番号:1または2に示されるアミノ酸配列と少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上のホモロジーを有するタンパク質であって、該タンパク質が、配列番号:1または2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質の生物学的活性を維持している場合を含む。生物学的活性の維持の意味は前記のとおりである。
【0025】
アミノ酸配列の同一性は、比較したい2つの配列を、アミノ酸がなるべく一致するように適宜ギャップを挿入して整列させ、配列番号:1または2の全長に対する一致するアミノ酸の割合として算出することができる。アミノ酸配列の整列(アライメント)は、所望のコンピュータプログラムを利用することができ、例えばCLUSTAL W(Higgins, D. et al. (1994) Nucleic Acids Res. 22:4673-4680)、またはBLAST(National Center for Biothchnology Information)などを用いることができる。ギャップはミスマッチしたアミノ酸と同様に扱い、配列全長のアミノ酸数(ギャップを含む)のうち、両者の配列で一致したアミノ酸数の割合として同一性が決定される。但し、両方の配列の同じ位置に共にギャップを入れた場合には、そのギャップは計算から除外する。
【0026】
また、本発明の方法においては、配列番号:1または2のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNAまたは該DNAのホモログ、または該アミノ酸配列にホモロジーを有するタンパク質をコードするDNAまたは該DNAのホモログも、その産物である酵素が元の酵素の生物学的活性を維持している限り、本発明に利用することができる。生物学的活性の維持の意味は前記のとおりである。
【0027】
具体的には、発明で用いることのできる酵素としては、配列番号:3または配列番号:4に記載された塩基配列がコードするアミノ酸配列を有する酵素、または配列番号:3または配列番号:4に記載された塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによりコードされるアミノ酸配列を有する酵素が挙げられる。
【0028】
配列番号:3に記載の塩基配列はDatura stramonium(Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. ,90 , 9591-9595 (1993)) 、配列番号:4に記載の塩基配列はHyoscyamus niger(Biosci. Biotechnol. Biochem.,63(10),1819-1822(1999))に記載がある。これらの酵素(トロピノン還元酵素−I)をコードする遺伝子の塩基配列情報は、DNA Databank of JAPAN(DDBJ)、EMBL、Gene-BankなどのDNAに関するデータベースに登録されている。これらの塩基配列情報に基づいて、目的とする遺伝子を当該生物から取得することができる。遺伝子の取得には、PCRやハイブリダイズスクリーニングが用いられる。また、DNA合成によって遺伝子の全長を化学的に合成することもできる。
【0029】
更に上記塩基配列情報に基づいて、上記以外の生物に由来するトロピノン還元酵素−I遺伝子を取得することもできる。たとえば、上記塩基配列もしくはその一部の配列をプローブとして他の生物から調製したDNAに対しストリンジェントな条件下でハイブリダイゼーションを行なうことにより、種々の生物由来のトロピノン還元酵素−Iを単離することができる。
【0030】
本発明において、ストリンジェントな条件とは、例えばECL direct nucleic acid labeling and detection system(Amersham Pharmacia Biotech社製)を用いて、マニュアルに記載の条件(例えば、wash:42℃、0.5×SSCを含むprimary wash buffer)においてハイブリダイズすることを言う。より具体的な「ストリンジェントな条件」とは、例えば、通常、42℃、2×SSC、0.1%SDSの条件であり、好ましくは50℃、2×SSC、0.1%SDSの条件であり、さらに好ましくは、65℃、0.1×SSCおよび0.1% SDSの条件である。これら温度、塩濃度に加えて、プローブ濃度、プローブの長さ、反応時間を含む複数の要素がハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響する。当業者であればこれら要素を適宜選択することでストリンジェンシーを調節することができる。
【0031】
たとえばハイブリダイゼーションに使用するプローブの塩基配列は、配列番号:3または4に記載の塩基配列から選択することができる。たとえば、少なくとも20個、好ましくは少なくとも30個、例えば40、60または100個の連続した塩基配列を有するDNAをプローブとすることができる。あるいは、配列番号:3または4に記載した塩基配列の全長を有するDNAをプローブとすることもできる。
【0032】
ハイブリダイゼーション法の詳細な手順については、「Molecular Cloning, A Laboratory Manual 2nd ed.」(Cold Spring Harbor Press(1989)、特にSection9.47-9.58)、「Current Protocols in Molecular Biology」(John Wiley&Sons(1987-1997)、特にSection6.3-6.4)、「DNA Cloning 1: Core Techniques, A Practical Approach 2nd ed.」(Oxford University(1995)、特にSection2.10)等を参照することができる。
【0033】
ストリンジェントな条件下でハイブリダイズできるDNAは、配列番号:1または2に記載のアミノ酸配列と高い相同性を有するアミノ酸配列をコードしている可能性が高い。具体的には、配列番号:1または2に示されるアミノ酸配列と少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは90%以上、更に好ましくは95%あるいは98%、特に好ましくは99%以上のホモロジーを有するアミノ酸配列をコードするDNAは、本発明における好ましいDNAに含まれる。このような高いホモロジーを有するタンパク質同士は、同じまたは類似した活性を有する可能性が高い。
【0034】
本発明において、塩基配列、あるいはアミノ酸配列のホモロジーは、Lipman-Pearson法(Science (1985)227:1435-41)によるプログラムを用いて計算した値を表す。タンパク質のホモロジーは、アミノ酸配列に関するデータベースを利用して検索することができる。例えばSWISS-PROT、PIR、DAD等のタンパク質のアミノ酸に配列情報を蓄積したデータベースを利用することができる。あるいはDNAのホモロジーは、塩基配列情報を蓄積したデータベースを利用して検索することができる。DDBJ、EMBLまたはGenBank等のDNAに関するデータベースが公知である。これらのデータベースにおいては、DNAの塩基配列を元に予想されたアミノ酸配列情報を利用することもできる。各種の配列情報は、これらのデータベース等を対象に、BLAST、FASTA等のプログラムを利用して検索することができる。ここに例示したデータベースは、いずれもインターネット(例えば、 http://www.ncbi.nlm.nih.gov.)を通じて利用することができる。
【0035】
さらに、本発明で用いるDNAのホモログとしては、配列番号:1または2に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、N-ベンジル-3-ピロリジノンを還元して(R)-N-ベンジル-3-ピロリジノールを生成する活性を有するタンパク質をコードするDNAを挙げることができる。当業者は、ある塩基配列を元に、適宜置換、欠失、挿入、および/または付加変異を導入することにより、このようなポリヌクレオチドのホモログを得ることができる。たとえば、配列番号:3または4に記載の塩基配列からなるDNAに、部位特異的変異導入法(Nucleic Acids Res (1982) 10:6487;Methods in Enzymol (1983) 100:448;Molecular Cloning 2nd Edt., Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989);PCR A Practical Approach, IRL Press(1991) pp.200)などを用いて、任意の変異を導入することができる。
【0036】
本発明で用いることのできるDNAは、天然よりクローニングされたゲノムDNA、及びcDNAの他、合成によって得られるDNAも含まれる。本発明で用いるDNAは、例えば、配列番号:3または4に記載の配列情報を元に、周知の手法により合成することができる。
【0037】
なお、Datura stramoniumHyoscyamus niger 由来のトロピノン還元酵素−Iは、いずれも本発明に利用することができる酵素活性を有していた。両者のホモロジーは88%である。ここでいうホモロジーとは、たとえば、BLAST programを用いたIdentityの相同性の値を示す。
【0038】
(形質転換体と処理物)
本発明における他の好ましい酵素活性物質として、前記(a)〜(e)に記載された酵素をコードするDNAを含むベクターにより形質転換された形質転換体、もしくはその処理物を用いることもできる。
【0039】
適当なベクターとして、プラスミド、コスミド、ウイルス、バクテリオファージ等の種々のベクターを挙げることができる(Molecular Cloning, A Laboratory Manual 2nd ed., Cold Spring Harbor Press(1989); Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley&Sons(1987)参照)。本発明で用いる好ましいベクターとしては、これに限定されるわけではないが、例えば、大腸菌における発現ベクターpSE420Dに前記(a)〜(e)に記載された酵素をコードする遺伝子を発現可能に挿入したpK4EC等が挙げられる。
【0040】
本発明で用いることのできる組換えベクターは、分子生物学、生物工学及び遺伝子工学の分野において慣用されている技術に準じて構築することができる(Molecular Cloning, A Laboratory Manual 2nd ed., Cold Spring Harbor Press(1989); Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley&Sons(1987)参照)。微生物等を宿主として、DNAを発現させるためには、まず、当該微生物中において安定に存在するプラスミドベクターまたはファージベクター中に該DNAを導入し、その遺伝情報を転写・翻訳させる必要がある。そのためには、通常、プロモーターを本発明のポリヌクレオチドの5’側上流に配置する。プロモーターは、転写・翻訳を制御するユニットである。
【0041】
そしてDNAの3’側下流には、ターミネーターを配置するのが好ましい。プロモーター及びターミネーターとしては、宿主として利用する微生物中において機能するものを選択することができる。各種微生物において利用可能なベクター、プロモーター及びターミネーター等の制御配列は、「微生物学基礎講座8遺伝子工学」(共立出版)などで参照することができる。また特に酵母の制御配列について、Adv Biochem Eng (1990) 43:75-102及びYeast (1992) 8:423-88等に詳細に記述されている。その他、必要に応じて、エンハンサー、オペレーター配列、開始シグナル、ポリアデニル化シグナル、リボソーム結合部位等の転写及び/または翻訳に必要な制御配列を組込むことができる。
【0042】
前記ベクターは、好ましくは、挿入されたDNAの発現に必要とされる制御配列の全ての構成成分を含むものである。さらに該ベクターは、ベクターが導入された宿主細胞を選択するための選択マーカーを含むことができる。
【0043】
本発明では、DNAに、シグナルペプチドをコードする配列を付加することもできる。シグナルペプチドの付加によって、宿主細胞内で発現されたタンパク質を小胞体内腔に移行させることができる。あるいは、グラム陰性菌を宿主とする場合には、シグナルペプチドによって、宿主細胞内で発現されたタンパク質を、ペリプラズム内、または細胞外へと移行させることができる。利用する宿主細胞において機能することができる任意のシグナルペプチドを利用することができる。したがって、宿主にとって異種由来のシグナルペプチドを利用することもできる。さらに必要に応じ、DNAのベクターへの導入に当たって、リンカー、開始コドン(ATG)、終止コドン(TAA、TAGまたはTGA)等を付加することもできる。
【0044】
前記DNAを発現させるための宿主は、該DNAを含む組換えベクターによって形質転換することができ、かつN-ベンジル-3-ピロリジノンを還元して(R)-N-ベンジル-3-ピロリジノールを生成する活性を有するタンパク質を発現することができる生物であれば特に制限されない。形質転換体の対象となる微生物としては、例えば以下のような微生物を示すことができる。
【0045】
(1)宿主ベクター系の開発されている細菌
・エシェリヒア(Escherichia)属
・バチルス(Bacillus)属
・シュードモナス(Pseudomonas)属
・セラチア(Serratia)属
・ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属
・コリネバクテリイウム(Corynebacterium)属
・ストレプトコッカス(Streptococcus)属
・ラクトバチルス(Lactobacillus)属など
【0046】
(2)宿主ベクター系の開発されている放線菌
・ロドコッカス(Rhodococcus)属
・ストレプトマイセス(Streptomyces)属など
【0047】
(3)宿主ベクター系の開発されている酵母
・サッカロマイセス(Saccharomyces)属
・クライベロマイセス(Kluyveromyces)属
・シゾサッカロマイセス(Schizosaccharomyces)属
・チゴサッカロマイセス(Zygosaccharomyces)属
・ヤロウイア(Yarrowia)属
・トリコスポロン(Trichosporon)属
・ロドスポリジウム(Rhodosporidium)属
・ピキア(Pichia)属
・キャンディダ(Candida)属など
【0048】
(4)宿主ベクター系の開発されているカビ
・ノイロスポラ(Neurospora)属
・アスペルギルス(Aspergillus)属
・セファロスポリウム(Cephalosporium)属
・トリコデルマ(Trichoderma)属など
【0049】
例えばエシェリヒア属、特に大腸菌(Escherichia coli)においては、プラスミドベクターとして、pBR、pUC系プラスミドを利用でき、lac(β-ガラクトシダーゼ)、trp(トリプトファンオペロン)、tac、trc(lac、trpの融合)、λファージ PL、PR等に由来するプロモーターが利用できる。また、ターミネーターとしては、trpA由来、ファージ由来、rrnBリボソーマルRNA由来のターミネーターを用いることができる。特に、市販のpSE420(Invitrogen製)のマルチクローニングサイトを一部改変したベクターpSE420D(特開2000-189170に記載)は、エシェリヒア属細菌を宿主とした場合の好適なベクターである。
【0050】
バチルス属においては、ベクターとしてpUB110系プラスミド、pC194系プラスミド等が利用可能であり、これらのベクターを利用した場合、本発明のポリヌクレオチドを宿主染色体にインテグレートすることもできる。また、プロモーター、ターミネーターとしては、apr(アルカリプロテアーゼ)、npr(中性プロテアーゼ)、amy(α-アミラーゼ)等が利用できる。
【0051】
シュードモナス属においては、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)、シュードモナス・セパシア(Pseudomonas cepacia)等で宿主ベクター系が開発されている。トルエン化合物の分解に関与するプラスミドTOLプラスミドを基本にした広宿主域ベクター(RSF1010等に由来する自律的複製に必要な遺伝子を含む)pKT240等が利用可能であり、プロモーター・ターミネーターとして、リパーゼ(特開平5-284973)遺伝子由来のものが利用できる。
【0052】
ブレビバクテリウム属、特にブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(Brevibacterium lactofermentum)においては、pAJ43(Gene(1985)39:281)等のプラスミドベクターが利用可能である。プロモーター・ターミネーターとしては、大腸菌で使用されているプロモーター、ターミネーターがそのまま利用可能である。
【0053】
コリネバクテリウム属、特にコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)においては、pCS11(特開昭57-183799)、pCB101(Mol Gen Genet(1984)196:175等のプラスミドベクターが利用可能である。
【0054】
ストレプトコッカス属においては、pHV1301(FEMS Microbiol Lett(1985) 26:239)、pGK1(Appl Environ Microbiol (1985)50:94)等がプラスミドベクターとして利用可能である。
【0055】
ラクトバチルス属においては、ストレプトコッカス属用に開発されたpAMβ1(J Bacteriol(1979)137: 614)等がベクターとして利用可能であり、プロモーターとしては、大腸菌で利用されているものが利用可能である。
【0056】
ロドコッカス属においては、ロドコッカス・ロドクロウス(Rhodococcus rhodochrous)から単離されたプラスミドベクターが使用可能である(J Gen Microbiol(1992)138:1003)。
【0057】
ストレプトマイセス属においては、HopwoodらのGenetic Manipulation of Streptomyces: A Laboratory Manual Cold Spring Harbor Laboratories (1985)に記載の方法に従って、プラスミドを構築することができる。特に、ストレプトマイセス・リビダンス(Streptomyces lividans)においては、pIJ486(Mol Gen Genet (1986) 203: 468-78)、pKC1064(Gene (1991) 103:97-9)、pUWL-KS (Gene (1995) 165:149-50)が使用できる。また、ストレプトマイセス・バージニア(Streptomyces virginiae)においても、同様のプラスミドを使用することができる(Actinomycetol (1997) 11:46-53)。
【0058】
サッカロマイセス属、特にサッカロマイセス・セレビジアエ(Saccharomyces cerevisiae) においては、YRp系、YEp系、YCp系、YIp系プラスミドが利用可能である。また、染色体内に多コピー存在するリボソームDNAとの相同組み換えを利用したインテグレーションベクター(EP537456等)は、多コピーで遺伝子を導入でき、かつ安定に遺伝子を保持できるため極めて有用である。また、ADH(アルコール脱水素酵素)、GAPDH(グリセルアルデヒド-3-リン酸脱水素酵素)、PHO(酸性フォスファターゼ)、GAL(β-ガラクトシダーゼ)、PGK(ホスホグリセレートキナーゼ)、ENO(エノラーゼ)等のプロモーター・ターミネーターが利用可能である。
【0059】
クライベロマイセス属、特にクライベロマイセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis) においては、サッカロマイセス・セレビジアエ由来2μm系プラスミド、pKD1系プラスミド(J Bacteriol (1981) 145:382-90)、キラー活性に関与するpGKl1由来プラスミド、クライベロマイセス属における自律増殖遺伝子KARS系プラスミド、リボソーム DNA等との相同組み換えにより染色体中にインテグレート可能なベクタープラスミド(EP537456等)等が利用可能である。また、ADH、PGK等に由来するプロモーター・ターミネーターが利用可能である。
【0060】
シゾサッカロマイセス属においては、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe) 由来のARS (自律複製に関与する遺伝子)及びサッカロマイセス・セレビジアエ由来の栄養要求性を相補する選択マーカーを含むプラスミドベクターが利用可能である(Mol Cell Biol (1986) 6:80)。また、シゾサッカロマイセス・ポンベ由来のADHプロモーター等が利用できる(EMBO J (1987) 6:729)。特に、pAUR224は、宝酒造から市販されており容易に利用できる。
【0061】
チゴサッカロマイセス属においては、チゴサッカロマイセス・ロウキシ(Zygosaccharomyces rouxii) 由来のpSB3(Nucleic Acids Res. 13:4267(1985))等に由来するプラスミドベクターが利用可能であり、サッカロマイセス・セレビジアエ由来 PHO5 プロモーター、及びチゴサッカロマイセス・ロウキシ由来 GAP-Zr(グリセルアルデヒド-3-リン酸脱水素酵素)のプロモーター(Agri Biol Chem (1990) 54:2521)等が利用可能である。
【0062】
ピキア属においては、ピキア・アンガスタ(Pichia angusta;旧名:ハンゼヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha))を用いた宿主ベクター系が開発されている。ベクターとしては、ピキア・アンガスタ由来自律複製に関与する遺伝子(HARS1、HARS2)も利用可能であるが、比較的不安定であるため、染色体への多コピーインテグレーションが有効である(Yeast (1991) 7:431-43)。また、メタノール等で誘導されるAOX(アルコールオキシダーゼ)、FDH(ギ酸脱水素酵素)のプロモーター等が利用可能である。また、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)等について、ピキア由来自律複製に関与する遺伝子 (PARS1、 PARS2)等を利用した宿主ベクター系が開発されており(Mol Cell Biol (1985) 5:3376)、高濃度培養とメタノールで誘導可能なAOX等の強いプロモーターが利用できる(Nucleic Acids Res (1987) 15:3859)。
【0063】
キャンディダ属においては、キャンディダ・マルトーサ(Candida maltosa)、キャンディダ・アルビカンス(Candida albicans)、キャンディダ・トロピカリス(Candida tropicalis)、キャンディダ・ウチルス(Candida utilis) 等について宿主ベクター系が開発されている。キャンディダ・マルトーサにおいては、キャンディダ・マルトーサ由来ARSがクローニングされ(Agri Biol Chem (1987) 51:1587)、これを利用したベクターが開発されている。また、キャンディダ・ウチルスにおいては、染色体インテグレートタイプのベクターでは、強力なプロモーターが開発されている(特開平08-173170)。
【0064】
アスペルギルス属においては、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・オリジー(Aspergillus oryzae) 等が最もよく研究されている。これらを宿主とするプラスミドが利用可能であり、染色体への所望遺伝子のインテグレーションを行うことができる。菌体外プロテアーゼ及びアミラーゼ由来のプロモーターも利用可能である(Trends in Biotechnology (1989) 7:283-7)。
【0065】
トリコデルマ属においては、トリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)を利用した宿主ベクター系が開発されており、菌体外セルラーゼ遺伝子由来プロモーター等が利用できる(Biotechnology (1989) 7:596-603)。
【0066】
また、微生物以外でも、植物及び動物を宿主とする様々な宿主ベクター系が開発されている。例えば、大量に異種タンパク質を発現させる系として、蚕を用いた昆虫ベクター系(Nature (1985) 315:592-4)、並びに、菜種、トウモロコシ及びジャガイモ等の植物ベクター系が開発されており、好適に利用できる。
【0067】
ベクターへのDNAの導入は、制限酵素サイトを利用したリガーゼ反応により行うことができる(Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley&Sons(1987) Section 11.4-11.11; Molecular Cloning, A Laboratory Manual 2nd ed., Cold Spring Harbor Press(1989) Section 5.61-5.63)。また、使用する宿主のコドン使用頻度を考慮し、必要に応じポリヌクレオチド配列の改変を行い、発現効率の高いベクターを設計するようにしてもよい(Grantham et al., Nucleic Acids Res (1981) 9:r43-74)。
【0068】
上述のように、様々な細胞が宿主細胞株として確立されている。そして、各細胞株に適した発現ベクターの導入法も公知であり、当業者であれば、各選択した宿主細胞に好適な導入法を選択することができる。例えば、原核細胞については、カルシウム処理、エレクトポレーションによる形質転換等が知られている。また、植物細胞については、アグロバクテリウムを用いた方法が公知であり、哺乳動物細胞についてはリン酸カルシウム沈降法を例示することができる。本発明は特にこれらの方法に限定されるわけではなく、選択した宿主に応じ、その他公知の核マイクロインジェクション、プロトプラスト融合、DEAE-デキストラン法、細胞融合、電気パルス穿孔法、リポフェクタミン法(GIBCO BRL)、FuGENE6試薬(Boehringer-Mannheim)を用いた方法をはじめとする種々の公知の方法により発現ベクターの導入を行うことができる。
【0069】
以上のようにしてDNAを含む組換えベクターにより形質転換された形質転換体を培養することにより、N-ベンジル-3-ピロリジノンを還元して(R)-N-ベンジル-3-ピロリジノールを生成する活性を有するタンパク質を製造することができる。
【0070】
形質転換体の培養方法は特に限定されず、選択した各宿主細胞の生育に適し、かつ、本発明の酵素の生産に最も適した培地、温度、時間等の条件を選択することが望ましい。形質転換体からの酵素の精製は、当業者に公知の方法により行なうことができる。たとえば、形質転換体は、宿主の生育に適した培地で培養し、十分に増殖させた後に菌体を回収し、2−メルカプトエタノールやフェニルメタンフルホニルフルオリド等の還元剤やプロテアーゼ阻害剤を加えた緩衝液中で破砕して無細胞抽出液とする。無細胞抽出液から、タンパク質の溶解度による分画(有機溶媒による沈澱や硫安などによる塩析など)や、陽イオン交換、陰イオン交換、ゲルろ過、疎水性クロマトグラフィーや、キレート、色素、抗体などを用いたアフィニティークロマトグラフィーなどを適宜組み合わせることにより酵素を精製することができる。
【0071】
本発明で用いる処理物は、生物細胞に対して、物理処理、生化学的処理、あるいは化学的処理等を行った産物を指す。生物細胞は、上記酵素を含む植物細胞に加え、当該酵素の遺伝子を発現可能に保持する形質転換体も含まれる。また処理物を得るための物理処理には、凍結融解処理、超音波処理、加圧処理、浸透圧差処理、あるいは磨砕処理等が含まれる。また生化学的処理とは、具体的にはリゾチームなどの細胞壁溶解酵素処理を示すことができる。更に、化学的処理としては、界面活性剤、トルエン、キシレン、またはアセトンなどの有機溶媒との接触処理などが挙げられる。このような処理によって細胞膜の透過性を変化させた微生物、あるいはガラスビーズや酵素処理によって菌体を破砕した無細胞抽出液やそれを部分精製したものなどは処理物に含まれる。
【0072】
また、本発明で用いる生物細胞あるいは処理物は、たとえばポリアクリルアミド法、含硫多糖ゲル法(κ-カラギーナンゲル法など)、アルギン酸ゲル法、寒天ゲル法、イオン交換樹脂法などの公知方法により固定化して使用することもできる。
【0073】
補酵素
本発明に係る光学活性(R)-N-ベンジル-3-ピロリジノールの製造方法においては、補酵素の再生系を組み合わせることができる。N-ベンジル-3-ピロリジノンを還元して(R)-N-ベンジル-3-ピロリジノールを生成する過程で、本発明で用いる酵素活性物質(たとえばトロピノン還元酵素−I)は還元型補酵素を要求する。還元型補酵素としては、NADPHやNADHを利用することができる。たとえばNADPHを還元型補酵素に用いた場合、酵素活性物質による還元反応に付随して、NADPHからNADP+が生成する。NADP+は、適当な基質の酸化反応を利用することによって、再び還元型であるNADPHに再生することができる。NADP+からNADPHへの再生は、植物、微生物、形質転換体の含有するNADP+からNADPHを再生する酵素によって行なうことができる。NADPHの再生反応を触媒する酵素は、単一であっても良いし、複数の酵素で構成される多段階反応であってもよい。複数の酵素によって目的とする酵素反応が支えられているとき、一連の酵素反応を構成する酵素の集合を酵素系と呼ぶ。
【0074】
これらNADP+還元能は、反応系にグルコース、スクロースなどの糖、有機酸、またはエタノール、イソプロパノールなどのアルコールを添加することにより、増強することができる。また、NADP+からNADPHを生成する能力を有する酵素を用いてNADPHの再生を行なうことができる。NADPHの生成に有用な酵素を以下に示す。
【0075】
グルコース脱水素酵素、
グルタミン酸脱水素酵素、
ギ酸脱水素酵素、
リンゴ酸脱水素酵素、
グルコース−6−リン酸脱水素酵素、
ホスホグルコン酸脱水素酵素、
アルコール脱水素酵素、
グリセロール脱水素酵素。
【0076】
これらの酵素は、精製酵素のみならず、当該酵素を有する植物、微生物、その処理物、あるいは部分精製酵素として用いることができる。たとえばグルコース脱水素酵素の場合には、グルコースからδ−グルコノラクトンへの酸化に伴ってNADP+からNADPHへの再生が行われる。
【0077】
これらのNADPH再生に必要な反応を構成する成分は、本発明を構成する還元酵素反応系に添加、もしくは固定化したものを添加することができる。あるいはNADPHの交換が可能な膜を介して前記反応系に接触させることができる。
【0078】
また、トロピノン還元酵素−Iを含む前記(a)から(e)のいずれかに記載の酵素をコードするDNAを含む組換えベクターで形質転換した形質転換体を、本発明の(R)-N-ベンジル-3-ピロリジノールの製造方法に利用する場合には、NADPH再生のための付加的な反応系を不要とできる場合がある。すなわち、NADPH再生活性の高い生物を宿主として用いることにより、形質転換体を用いた還元反応において、NADPH再生用の酵素を添加することなく効率的な反応を行なえる。
【0079】
あるいは前記NADPH再生に利用可能な酵素の遺伝子を、トロピノン還元酵素−Iを含む前記(a)から(e)のいずれかに記載の酵素をコードするDNAと同時に導入した宿主を利用することもできる。このような形質転換体の利用によって、NADPH再生酵素とトロピノン還元酵素−Iを含む前記(a)から(e)のいずれかに記載の酵素の発現、並びに基質の還元反応を、より効率的に行なうこともできる。これらの2つ、もしくは、それ以上の遺伝子の宿主への導入には、不和合性をさけるために複製起源の異なる複数のベクターに別々に遺伝子を導入した組み換えベクターにより宿主を形質転換する方法や、単一のベクターに両遺伝子を導入する方法、片方、もしくは、両方の遺伝子を染色体中に導入する方法などを利用することができる。
【0080】
本発明におけるNADPH再生に利用可能なグルコース脱水素酵素として、バシラス・メガテリウム(Bacillus megaterium)、バシラス・セレウス(Bacillus cereus)、バシラス・サブチルス(Bacillus subtilis)に由来するグルコース脱水素酵素や、サーモプラズマ・アシドフィラム(Thermoplasma acidophilum)に由来するグルコース脱水素酵素を示すことができる。これら酵素をコードする遺伝子は既に単離されている(Proc. Natl. Acad. Sci U.S.A.,80,785-789(1983); Eur. J. Biochem.,211,549-554(1993)) 。あるいは既に明らかにされているその塩基配列に基づいて、PCRやハイブリダイズスクリーニングによって、当該微生物から取得することもできる。
【0081】
単一のベクター中に複数の遺伝子を導入する場合には、プロモーター、ターミネーターなど発現制御に関わる領域をそれぞれの遺伝子に連結する方法やラクトースオペロンのような複数のシストロンを含むオペロンとして発現させることも可能である。
【0082】
単一のベクターにトロピノン還元酵素−Iを含む前記(a)から(e)のいずれかに記載の酵素とグルコース脱水素酵素を導入したプラスミドは、例えばpSE420D(特開2000-189170)に各遺伝子をタンデムに連結して取得することができる。Datura stramonium 由来のトロピノン還元酵素−IとBacillus subtilis由来のグルコース脱水素酵素を導入されたプラスミドpSG-DSR1(FERM P-18395)、Hyoscyamus niger 由来のトロピノン還元酵素−IとBacillus subtilis由来のグルコース脱水素酵素を導入されたプラスミドpSG-HNR1(FERM P-18396)は、それぞれ以下のとおり特許生物寄託センターに寄託されている。
【0083】
プラスミドpSG-DSR1、またはpSG-HNR1の寄託:
(a)寄託機関の名称・あて名
名称:独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター
(旧名称:通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所)
あて名:日本国茨城県つくば市東1丁目1番3号中央第6(郵便番号305-8566)
(b)寄託日 平成13年6月22日
(c)受託番号 FERM P-18395 (pSG-DSR1)
受託番号 FERM P-18396 (pSG-HNR1)
【0084】
反応
本発明による光学活性な(R)-N-ベンジル-3-ピロリジノールの製造方法を構成する酵素反応は、還元型補酵素の存在下、前記酵素活性物質を、基質であるN-ベンジル-3-ピロリジノンを含む反応溶液と接触させることにより、実施することができる。
【0085】
反応は、水性媒体中、水性媒体と水可溶性の有機溶媒との混合系、あるいは水不溶性の溶媒との二相系中において行なうことができる。水性媒体としては、リン酸緩衝液、トリス−塩酸緩衝液などの中性付近に緩衝能を有する緩衝液が挙げられる。あるいは酸とアルカリを用いて反応中のpH変化を好ましい範囲にとどめることが可能であれば、緩衝液を特に使う必要はない。水に溶解しにくい有機溶媒としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、キシレン、トルエン、クロロホルム、n-ヘキサン、イソオクタン、メチルイソブチルケトン、メチル-t-ブチルエーテル、n-ブタノールなどを用いることができる。あるいは、エタノール、アセトン、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル等の有機溶媒と水性媒体との混合系中で行なうこともできる。
【0086】
二相系では、酵素活性物質は、そのまま、あるいは水や緩衝液の溶液として供給される。基質化合物を水、緩衝液またはエタノール等の水溶性溶媒に溶解させて反応系に供給することもできる。この場合は、酵素活性物質とともに単一相の反応系を構成することになる。その他、本発明の反応は、固定化酵素、膜リアクターなどを利用して行なうことも可能である。なお、酵素活性物質と反応溶液の接触形態はこれらの具体例に限定されない。反応溶液とは、基質を酵素活性の発現に望ましい環境を与える適当な溶媒に溶解したものである。
【0087】
反応条件としてはたとえば、以下の条件が挙げられる。
・基質濃度:0.01-50%、好ましくは、0.1-30%
・反応温度:4-60℃、好ましくは25-40℃
・pH:4-9、好ましくは6.0-8.5
【0088】
反応系には必要に応じて補酵素NADP+またはNADPHを0.001mM-100mM、好ましくは、0.002-1.0mM添加することができる。また、基質は反応開始時に一括して添加するか、あるいは連続的もしくは非連続的に添加することができる。
【0089】
NADPHの再生反応用の化合物は、基質であるN-ベンジル-3-ピロリジノンに対して、モル比でたとえば0.1−20倍、好ましくは0.5−5倍の量を添加することができる。またNADPH再生反応用の酵素は、トロピノン還元酵素−Iに比較して酵素活性で0.1−100倍、好ましくは0.5−20倍程度添加することができる。以下にNADPHの再生反応用の化合物と、当該化合物を利用してNADPHを再生する酵素の組み合せの例を示した。
【0090】
グルコース(グルコース脱水素酵素)
ギ酸(ギ酸脱水素酵素)
エタノールまたは2-プロパノール(アルコール脱水素酵素)
L−グルタミン酸(グルタミン酸脱水素酵素)
L−リンゴ酸(リンゴ酸脱水素酵素、または有機酸脱水素酵素)
【0091】
N-ベンジル-3-ピロリジノンを還元することにより生成する、(R)-N-ベンジル-3-ピロリジノールの回収は、公知の方法により行うことができ限定されない。たとえば(R)-N-ベンジル-3-ピロリジノールの回収は、菌体、タンパク質の遠心分離、膜処理等による分離、溶媒抽出、蒸留、結晶化等を適当に組み合わせることにより行なうことができる。
【0092】
より具体的には、たとえば、(R)-N-ベンジル-3-ピロリジノールを含む反応液を遠心分離することにより菌体を除去し、限外濾過などにより蛋白質を除去した後に、水溶液に水酸化ナトリウムを加えてpHを12以上にした後、酢酸エチル、酢酸ブチル、キシレン、トルエン、クロロホルム、n-ヘキサン、イソオクタン、メチルイソブチルケトン、メチル-t-ブチルエーテル、n-ブタノールなどを用いて(R)-N-ベンジル-3-ピロリジノールを抽出し、溶媒を減圧下に留去することにより回収することができる。あるいは、抽出溶媒液に塩酸を滴下することにより生成する塩酸塩として回収することもできる。目的物は、必要によりシリカゲルカラムクロマトグラフィー、蒸留によりさらに精製することができる。
【実施例】
【0093】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
本発明におけるN-ベンジル-3-ピロリジノン、(R)-N-ベンジル-3-ピロリジノールの定量は、ガスクロマトグラフィー(カラム:Thermon3000 Chromosorb 5% AW-DMCS(φ3mm×2.1m)、カラム温度:200℃、キャリアガス:窒素、検出:FID)により行なった。また、光学純度の測定は、液体クロマトグラフィー(カラム:CHIRALCEL OD-H(ダイセル化学工業(株)製)、溶離液:n-へキサン/イソプロパノール/ジエチルアミン=95/5/0.1、カラム温度:40℃、流速:0.5mL/min、検出:254nm)により行なった。
【0094】
[実施例1](トロピノン還元酵素−Iの大腸菌による生産)
トロピノン還元酵素−Iとグルコース脱水素酵素を共発現するプラスミドpSG-DSR1、および、pSG-HNR1(特開2003-230398)で形質転換された大腸菌JM109株を、それぞれアンピシリンを含む液体LB培地で終夜30℃培養し、0.1mM IPTGを加え、さらに4時間培養を行った。なお、pSG-DSR1が発現したトロピノン還元酵素−IをDsTR1、pSG-HNR1が発現したトロピノン還元酵素−IをHnTR1とした。
【0095】
菌体を遠心分離により集菌した後、0.02% 2-メルカプトエタノール、0.5M NaClを含む50mM トリス−塩酸緩衝液(pH 8.5)に懸濁し、密閉式超音波破砕装置UCD-200TM(コスモバイオ製)を用いて3分間処理することで、菌体を破砕した。菌体破砕液を遠心分離し、その上清を菌体抽出液中として回収した。
【0096】
[実施例2](N-ベンジル-3-ピロリジノン還元活性の測定)
実施例1で調製したトロピノン還元酵素−I(DsTR1およびHnTR1)にトロピノンおよびN-ベンジル-3-ピロリジノンをそれぞれ作用させ、その還元活性を測定した。還元活性の測定は、次のようにして行った。
【0097】
還元活性測定法
50mM リン酸カリウム緩衝液(pH 6.5)、0.2mM NADPH及び酵素を含む反応液中に、基質(2mM N-ベンジル-3-ピロリジノンあるいは4mM トロピノン)を加えて30℃で反応させ、NADPHの減少にともなう340nmの吸光度の減少を測定する。1Uは、1分間に1μmolのNADPHの減少を触媒する酵素量とした。
その還元反応の活性をトロピノンの還元を100とした相対活性で表し、表1に示した。
【0098】
【表1】

【0099】
[実施例3](トロピノン還元酵素−Iによる(R)-N-ベンジル-3-ピロリジノールの生産)
トロピノン還元酵素−Iとグルコース脱水素酵素を共発現するプラスミドpSG-DSR1、および、pSG-HNR1で形質転換された大腸菌JM109株を、それぞれアンピシリンを含む液体LB培地50mLで終夜30℃培養し、0.1mM IPTGを加え、さらに4時間培養を行った。
【0100】
培養液1mL分の菌体を遠心分離により集菌した後、228mM (40g/L) N-ベンジル-3-ピロリジノン、342mM グルコースを含む400mM リン酸カリウム緩衝液 (pH 6.5) 1mLに懸濁し、20℃で20時間振とう反応を行った。反応後、N-ベンジル-3-ピロリジノンとN-ベンジル-3-ピロリジノールの定量を行なった結果、DsTR1は収率98.6%、HnTR1は収率71.0%でN-ベンジル-3-ピロリジノールを生成していた。
【0101】
さらに、反応液のpHを水酸化ナトリウム水溶液にてpHを12以上にした後、トルエンで抽出し、脱溶媒した残渣にヘキサン加えて溶解させた後、高速液体クロマトグラフィーにて(R)-N-ベンジル-3-ピロリジノールの光学純度を分析した。その結果、DsTR1は97.1%ee(R)、HnTR1は91.0%ee(R)であった。また、生成濃度は、DsTR1は42.8g/L、HnTR1は29.1g/Lであった。結果を表2に示した。
【0102】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明によれば、N-ベンジル-3-ピロリジノンから(R)-N-ベンジル-3-ピロリジノールの合成を効率良く行なうことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元型補酵素の存在下、N-ベンジル-3-ピロリジノンを不斉還元し(R)-N-ベンジル-3-ピロリジノールを生成する活性を有し、かつ、下記(a)の酵素の生物学的活性を維持する酵素活性物質を、N-ベンジル-3-ピロリジノンに作用させ、(R)-N-ベンジル-3-ピロリジノールを回収する工程を含む、(R)-N-ベンジル-3-ピロリジノールの製造方法;
(a)配列番号:1または配列番号:2に記載されたアミノ酸配列を有する酵素。
【請求項2】
前記酵素活性物質が、下記(a)から(e)のいずれかに記載の酵素である、請求項1に記載の方法;
(a)配列番号:1および/または配列番号:2に記載されたアミノ酸配列を有する酵素、
(b)配列番号:1および/または配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/もしくは付加されたアミノ酸配列を有する酵素、
(c)配列番号:3および/または配列番号:4に記載された塩基配列がコードするアミノ酸配列を有する酵素、
(d)配列番号:3および/または配列番号:4に記載された塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによりコードされるアミノ酸配列を有する酵素、
(e)配列番号:1および/または配列番号:2に記載のアミノ酸配列と70%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有する酵素。
【請求項3】
前記酵素活性物質が、Datura属またはHyoscyamus属に属する植物に由来する酵素活性物質であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記Datura属に属する植物が、Datura stramoniumであることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記Hyoscyamus属に属する植物が、Hyoscyamus nigerであることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記酵素活性物質が、下記(a)から(e)のいずれかに記載の酵素であって、N-ベンジル-3-ピロリジノンを不斉還元し(R)-N-ベンジル-3-ピロリジノール生成活性を有する酵素をコードするDNAを含むベクターにより形質転換された形質転換体、またはその処理物である、請求項1に記載の方法;
(a)配列番号:1および/または配列番号:2に記載されたアミノ酸配列を有する酵素、
(b)配列番号:1および/または配列番号:2に記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/もしくは付加されたアミノ酸配列を有する酵素、
(c)配列番号:3および/または配列番号:4に記載された塩基配列がコードするアミノ酸配列を有する酵素、
(d)配列番号:3および/または配列番号:4に記載された塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによりコードされるアミノ酸配列を有する酵素、
(e)配列番号:1および/または配列番号:2に記載のアミノ酸配列と70%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有する酵素。
【請求項7】
前記ベクターが、更に酸化型補酵素を還元型補酵素に再生する酵素をコードするDNAをともに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記酸化型補酵素を還元型補酵素に再生する酵素が、グルコース脱水素酵素である、請求項7に記載の方法。

【公開番号】特開2007−189923(P2007−189923A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−9418(P2006−9418)
【出願日】平成18年1月18日(2006.1.18)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】