説明

光学測定用キュベットを有するマイクロチップおよびその使用方法

【課題】光学測定用キュベットと光軸との位置合わせを正確に行なうことができるマイクロチップおよびその使用方法を提供する。
【解決手段】基板表面上に設けられた溝または厚み方向に貫通する貫通穴を備える第1の基板と、1または2以上の第2の基板とを貼り合わせてなる、光学測定用キュベットを有するマイクロチップであって、該光学測定用キュベットは、上記溝または上記貫通穴と第2の基板の基板表面とから構成され、マイクロチップの少なくとも一部の側壁面において、第2の基板の側壁面は、第1の基板の側壁面より内側に位置するマイクロチップおよびその使用方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNA、タンパク質、細胞、免疫および血液等の生化学検査、化学合成ならびに、環境分析などに好適に使用されるμ−TAS(Micro Total Analysis System)などとして有用なマイクロチップに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療や健康、食品、創薬などの分野で、DNA(Deoxyribo Nucleic Acid)や酵素、抗原、抗体、タンパク質、ウィルスおよび細胞などの生体物質、ならびに化学物質を検知、検出あるいは定量する重要性が増してきており、それらを簡便に測定できる様々なバイオチップおよびマイクロ化学チップ(以下、これらを総称してマイクロチップと称する。)が提案されている。マイクロチップは、実験室で行なっている一連の実験・分析操作を、数cm〜10cm角で厚さ数mm〜数cm程度のチップ内で行なえることから、サンプルおよび試薬が微量で済み、コストが安く、反応速度が速く、ハイスループットな検査ができ、サンプルを採取した現場で直ちに検査結果を得ることができるなど多くの利点を有している。
【0003】
マイクロチップはその内部に流体回路を有しており、該流体回路は、たとえば液体試薬を保持する液体試薬保持部、サンプル(その一例として血液が挙げられる)や液体試薬を計量する計量部、サンプルと液体試薬とを混合する混合部、混合液について分析および/または検査するための光学測定用のキュベット(検出部)などの各部と、これら各部を適切に接続する微細な流路(たとえば、数百μm程度の幅)とから主に構成される。マイクロチップは、典型的には、これに遠心力を印加可能な装置(遠心装置)に載置して使用される。マイクロチップに適切な方向の遠心力を印加することにより、サンプルおよび液体試薬の計量、混合、ならびに該混合液の光学測定用キュベットへの導入等を行なうことができる。光学測定用キュベットに導入された混合液の検査・分析(たとえば、混合液中の特定成分の検出)は、たとえば、混合液が収容された光学測定用キュベットへ、マイクロチップ表面に対して略垂直な角度から検出光を照射し、その透過率等を測定することなどにより行なうことができる。
【0004】
このように、マイクロチップを用いることによって、ポンプ、ピペットおよび攪拌子などを使用する従来の実験・分析系と比較して、極端に少ない溶液量で実験・分析等を行なうことができるが、取り扱う液量が数10μL以下と極めて微量であり、光学測定用キュベットの断面直径を小さくする必要があるため、光学測定用キュベットと検出光の光軸との位置合わせを正確に行なうことが困難な場合があった。特に、遠心力を利用して流体回路内の液体移動等を制御するマイクロチップにおいては、マイクロチップが、該遠心力により、遠心装置におけるマイクロチップ搭載部内でわずかに移動することがあり、上記課題が顕著である。とりわけ、遠心手段と光学測定手段とが一体化されており、光源位置自体を移動させることができない遠心装置を用いる場合にあっては、光源位置の微調整によって光軸との位置合わせができないことから、マイクロチップ自体を、光軸との位置合わせを正確に行なうことができる構造にすることが必要となる。
【0005】
なお、以上本発明についての従来の技術を、出願人の知得した一般技術情報に基づいて説明したが、出願人の記憶する範囲において、出願前までに先行技術文献情報として開示すべき情報を出願人は有していない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記課題の解決策として、検出光が照射される光学測定用キュベットの断面積を大きくし、光軸の位置合わせを容易にすることが考えられるが、これでは光学測定用キュベットに導入されるべき液体の量を増やす必要が生じ、マイクロチップを用いることのメリットが軽減してしまう。
【0007】
本発明は、このような状況に鑑みなされたものであり、その目的は、光学測定用キュベットと光軸との位置合わせを正確に行なうことができるマイクロチップおよびその使用方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、基板表面上に設けられた溝または厚み方向に貫通する貫通穴を備える第1の基板と、1または2以上の第2の基板とを貼り合わせてなる、光学測定用キュベットを有するマイクロチップであって、該光学測定用キュベットは、上記溝または上記貫通穴と第2の基板の基板表面とから構成され、マイクロチップの少なくとも一部の側壁面において、第2の基板の側壁面は、第1の基板の側壁面より内側に位置するマイクロチップを提供する。ここで、マイクロチップのすべての側壁面において、第2の基板の側壁面が、第1の基板の側壁面より内側に位置していてもよい。
【0009】
本発明のマイクロチップにおいて、第2の基板の基板表面は、第1の基板の基板表面より小さいことが好ましい。
【0010】
また、第2の基板の側壁面が第1の基板の側壁面より内側に位置している、マイクロチップの上記少なくとも一部の側壁面における第1の基板の側壁面は、その表面に突起を有しないことが好ましく、平面であることがより好ましい。
【0011】
また、本発明は、上記いずれかのマイクロチップの使用方法であって、遠心力を印加可能であり、マイクロチップを搭載する部位を有する装置に、マイクロチップを搭載し、マイクロチップに対して、1または2以上の方向の遠心力を印加する工程を含み、該マイクロチップに対して最後に印加される遠心力の方向は、第2の基板の側壁面が第1の基板の側壁面より内側に位置するマイクロチップの上記側壁面が、上記マイクロチップを搭載する部位の内壁面に押し当てられる方向であるマイクロチップの使用方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のマイクロチップは、光学測定用キュベットを主に構成する溝または貫通穴を有する第1の基板の少なくとも一部の側壁面が、貼り合わされる第2の基板の側壁面より外側に位置するように(すなわち、突出するように)構成されている。かかる構成のマイクロチップによれば、第1の基板の当該突出した側壁面を、遠心装置のマイクロチップ搭載部における固定面に押し当てられる面とすることにより、光学測定における検出光の光軸と光学測定用キュベットとの位置合わせ精度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
<第1の実施形態>
図1〜3は、第1の実施形態に係るマイクロチップの一例を示す概略図であり、図1はその概略上面図、図2は概略斜視図、図3は概略分解斜視図である。図1〜3に示されるマイクロチップ100は、第1の基板101と、透明基板である2枚の第2の基板102aおよび102bとを、第2の基板102aおよび102bが第1の基板101を狭持するように貼り合わせてなる。第1の基板101には、厚み方向に貫通する貫通穴103が合計7つ形成されており、2枚の第2の基板102aおよび102bの基板表面が、貫通穴103の開口を封止している。貫通穴103の第2の基板102b側開口部の直径は1mm程度とし、第2の基板102a側開口部の直径は1.5mm程度としている。かかる貫通穴103および第2の基板表面によって形成された空洞部がマイクロチップの光学測定用キュベットとなっており、当該光学測定用キュベットに対して、たとえばマイクロチップ下側からマイクロチップ表面に対して略垂直方向の検出光を照射し、その透過率などを測定することにより、当該光学測定用キュベット内に収容された液体(たとえばサンプル(血液など)と液体試薬との混合液等)の検査・分析(たとえば、該混合液中の特定成分の検出)が行なわれる。なお、マイクロチップ100内部には、光学測定用キュベットのほかに、特に制限されないが、たとえばサンプルや液体試薬を計量する計量部、サンプルと液体試薬とを混合する混合部およびその他必要に応じて設けられる部位、ならびにこれら各部を適切に接続する微細な流路(光学測定用キュベットへ液体を導入するための流路も含む。)が形成されているが、図1〜3において、それらは割愛されている。
【0014】
本実施形態においては、第1の基板101として黒色基板を用いており、そのサイズは、横(図1におけるA)約62mm×縦(図1におけるB)約30mm×厚さ約9mmである。一方、透明基板である2枚の第2の基板102aおよび102bは、第1の基板101の基板表面より小さい基板表面を有している。具体的には、第2の基板102aおよび102bの基板表面の外形形状は、およそ第1の基板101と同様であるが、第1の基板101に比してわずかに縮小されたサイズを有している(図1参照)。このような第1の基板101と第2の基板102aおよび102bとを適切な配置で貼り合わせることにより、マイクロチップの全外周にわたって、第2の基板102aおよび102bの側壁面が第1の基板101の側壁面よりマイクロチップ内側に位置し、マイクロチップを上および下から見たときに、およそ0.3mmの幅(図1におけるC)で第1の基板101の基板表面が一部露出する領域が形成されている。なお、第2の基板102aおよび102bの厚みは、1.6mmとしている。
【0015】
このように、マイクロチップ100は、光学測定用キュベットを主に構成する貫通穴103を有する第1の基板101の側壁面が、貼り合わされた第2の基板102aおよび102bの側壁面より突出している側壁面領域を有している。本実施形態において、当該突出している側壁面領域は、マイクロチップ全外周にわたって形成されている。以下、第1の基板の側壁面のうち、第2の基板の側壁面より突出している(マイクロチップ外側に位置している)側壁面を第1の基板の「突出側壁面」と呼ぶこととする。このように、光学測定用キュベットを主に構成する部位(貫通穴)が形成された基板が突出側壁面を有するマイクロチップによれば、第1の基板の当該突出側壁面を、遠心装置のマイクロチップ搭載部における固定面に押し当てられる面(以下、「位置合わせ基準面」とも称する)に設定することにより、光学測定における検出光の光軸と光学測定用キュベットとの位置合わせ精度を向上させることができる。以下、この点についてより詳細に説明する。
【0016】
上記したように、本発明のマイクロチップのような内部に流体回路を有するマイクロチップにおいては、流体回路内でサンプル、液体試薬の計量、サンプルと液体試薬との混合、ならびにサンプル、液体試薬および混合液の各部位への移動(たとえば、光学測定用キュベットへのこれら液体の導入)などの一連の操作は、マイクロチップに対して適切な方向の遠心力を印加することにより行なうことができる。マイクロチップへの遠心力の印加は、たとえばマイクロチップを載置するためのマイクロチップ搭載部を有する遠心装置を用いて行なわれる。
【0017】
マイクロチップに遠心力を印加する遠心装置は、たとえば、遠心中心を軸に回転(マイクロチップを公転させるための回転)自在な円形状ステージを有し、該ステージ表面上または該ステージ上に設けられたマイクロチップを自転させるための円形状ステージ表面上に、上記マイクロチップ搭載部が設けられた構成とすることができる。マイクロチップ搭載部の構成は、特に制限されず、たとえば、マイクロチップ外形と略同一の形状を有するマイクロチップを嵌め込むための溝とすることもできるし、あるいは搭載したマイクロチップを支持する固定壁から構成することもできる。図4は、マイクロチップ支持用の固定壁から構成されるマイクロチップ搭載部を備える遠心装置に、マイクロチップを搭載した状態を示す概略斜視図である。図4に示されるように、マイクロチップ搭載部200には、搭載したマイクロチップの位置を固定するための、たとえば板バネやスプリング等を用いた固定具203を付設することができる。遠心装置の円形状ステージ201上に設けられた、マイクロチップ支持用の固定壁202aおよび202bに沿うように載置されたマイクロチップは、固定具203で押さえられ、かかる状態で円形状ステージ201を回転させることにより遠心力が印加される。
【0018】
所定の遠心操作が施された後、円形状ステージ201下部に位置する光学測定装置(図示せず)より、マイクロチップの光学測定用キュベットに向けて検出光が照射され、その透過率等を測定することにより、検査・分析が行なわれる。複数の光学測定用キュベットを有する本実施形態のマイクロチップにおいては、異なる種類の液体を各光学測定用キュベットに収容することが可能となっており、1つのマイクロチップで複数の検査・分析を行なうことができる。各光学測定用キュベットへの検出光の照射は、円形状ステージ201を回転させて、各光学測定用キュベットを、検出光の光軸上に順に配置していくことにより行なうことができる。
【0019】
ここで、上記のように、マイクロチップ搭載部200に搭載されたマイクロチップは、たとえ固定具等により支持されている場合であっても、遠心力の印加により、当該マイクロチップ搭載部200内でわずかに移動することがあり、これにより、光学測定用キュベットと検出光の光軸との位置がずれて光学測定が困難となる場合がある。したがって、このような位置ずれを解消して、光学測定用キュベットの開口部が光軸上に配置できるようにするためには、少なくとも、マイクロチップに対して最後に印加される遠心力(すなわち、光学測定直前に印加される遠心力)の方向を、マイクロチップのいずれかの側壁面が、たとえば固定壁202aに押し当てられる方向とし(図4参照)、遠心操作とともに、マイクロチップ搭載部200内におけるマイクロチップの位置を微調整し、光学測定にあたり、適切な位置に配置、固定しておくことが肝要である。この際、マイクロチップ搭載部200は、マイクロチップが固定壁に押し当てられ、位置調整されると、光学測定用キュベットが、円形状ステージ201の回転により光軸上に配置され得る位置に設置する。なお、マイクロチップ搭載部が、マイクロチップを嵌め込むための溝とした場合、マイクロチップの側壁面を押し当てる固定壁は、当該溝の内壁面となる。
【0020】
しかしながら、このような最後の遠心操作によって、マイクロチップ側壁面をマイクロチップ搭載部の固定壁の内壁面に押し当てることができた場合であっても、本発明によらないマイクロチップにあっては、次の理由から、検出光の光軸と光学測定用キュベットとの位置合わせが困難となる場合がある。すなわち、第1の基板の側壁面と第2の基板の側壁面とが、同一面を形成するように構成されたマイクロチップ(すなわち、第1の基板が突出側壁面を有しないマイクロチップ)または、第2の基板の側壁面が第1の基板の側壁面より外側に位置するマイクロチップ(すなわち、第2の基板が突出側壁面を有するマイクロチップ)においては、当該マイクロチップ製造時における第1の基板および第2の基板の寸法の振れ、ならびに第1の基板と第2の基板とを貼り合わせる際の位置ずれなど、マイクロチップ側壁面構造に振れを生じさせる多くの製造上の要因を孕んでいる。たとえば、第1の基板の側壁面と第2の基板の側壁面とが、同一面を形成するように構成されたマイクロチップにおいては、第1の基板と第2の基板とを貼り合わせる際のわずかな位置ずれなどにより、第1の基板または第2の基板の側壁面が突出し得る。また、第2の基板の側壁面が第1の基板の側壁面より外側に位置するマイクロチップにおいては、第1の基板と第2の基板とを貼り合わせる際のわずかな位置ずれなどにより、突出の程度がマイクロチップごとに変化し得る。
【0021】
したがって、上記のようなマイクロチップにあっては、突出側壁面の突出精度を十分に制御することが困難であるために、マイクロチップ間でのマイクロチップ側壁面構造の振れが大きくなる傾向にあり、遠心力の印加によって、マイクロチップ側壁面をマイクロチップ搭載部の固定壁の内壁面に押し当てる操作を行なった場合であっても、マイクロチップ間で、光学測定用キュベットと該内壁面との相対的位置関係にバラツキが生じやすく、結果、光学測定用キュベットと検出光の光軸との位置合わせが困難となる場合が生じやすい。また、第1の基板と第2の基板との貼り合わせズレが生じた場合、光学測定用キュベットの座標にずれが生じたり、光学測定用キュベットにおける光の入射する面と光軸との垂直性が悪化することが想定される。
【0022】
一方、光学測定用キュベットを構成する貫通穴が設けられた第1の基板に突出側壁面を有する本実施形態のマイクロチップによれば、光学測定用キュベットと光軸との位置合わせ精度は、主に、第1の基板の寸法精度(第1の基板における貫通穴の位置精度など)に依存するだけであるため、第2の基板の微小な寸法振れや基板貼り合わせ時における第2の基板の微小な位置ずれに関わらず、光軸との正確な位置合わせが達成できる。このように、本実施形態において、光学測定用キュベットと光軸との位置合わせ精度が、主に、第1の基板の寸法精度に依存するのは、光学測定用キュベットを構成する主要な部位(貫通穴)が第1の基板に形成されているからである。
【0023】
本実施形態のマイクロチップ100においては、その側壁面全体にわたって第1の基板の突出側壁面を有している。したがって、マイクロチップ搭載部の固定壁の内壁面に押し当てられることとなる「位置合わせ基準面」は、マイクロチップのいずれの側壁面であってもよい。ただし、光学測定用キュベットと光軸との位置合わせ精度が第1の基板の寸法精度に依存することを考慮すると、光学測定用キュベット最近傍の側壁面の突出側壁面を位置合わせ基準面とすることが好ましい。この点において、本実施形態のマイクロチップ100においては、図2および3に示される突出側壁面XおよびX’もしくは、これと対向する側に位置する側壁面における突出側壁面を位置合わせ基準面とすることが好ましい。ここで、突出側壁面XおよびX’は、同一平面上にある。図5は、本実施形態のマイクロチップ100を遠心装置のマイクロチップ搭載部に搭載し、矢印の方向の遠心力を印加してマイクロチップ100の位置調整を行なう様子を示す概略斜視図である。図5においては、突出側壁面XおよびX’を位置合わせ基準面としている。矢印方向の遠心力の印加により、突出側壁面XおよびX’が、固定壁202aの内壁面に押し当てられ、密着されている。これにより、マイクロチップ搭載部内でのマイクロチップ100の位置合わせが行なわれる。
【0024】
位置合わせ基準面に設定する第1の基板の突出側壁面は、その表面に突起を有しないことが好ましい。たとえば、第1の基板を射出成形により作製する場合においては、ゲート位置が第1の基板の側壁面内に設定される場合があるが、これに起因して側壁面に突起が形成される場合がある。したがって、側壁面内にゲート位置が設定される場合には、位置合わせ基準面としない側壁面にゲート位置を設けることが好ましい。位置合わせ基準面に突起が存在すると、その突起の程度によって、光学測定用キュベットと固定壁の内壁面との相対的位置関係にバラツキが生じ、結果、光学測定用キュベットと検出光の光軸との位置合わせが困難となる場合があるためである。
【0025】
また、位置合わせ基準面に設定する第1の基板の突出側壁面は、平面であることが好ましい。これにより、遠心力を印加して、位置合わせ基準面を固定壁の内壁面に押し当てることによりマイクロチップの位置合わせを行なう際、面で位置合わせを行なうことができるため、位置合わせの精度を向上させることができる。第1の基板も突出側壁面が局面や点状である場合には、該壁面が固定壁の内壁面に押し当てられた際、正確な位置合わせが行なえないことがある。
【0026】
また、位置合わせ基準面に設定する第1の基板の突出側壁面は、マイクロチップが有する側壁面のうち、最も飛び出している側壁面であることが好ましい。これにより、マイクロチップ搭載部を比較的容易に作成することができる。上記したように、遠心装置におけるマイクロチップ搭載部は、たとえばマイクロチップを嵌め込むための溝(ホルダー)とすることができるが、マイクロチップが突出側壁面より飛び出した側壁面を有する場合、当該溝の固定壁への突出側壁面(基準面)の押し当てが阻害されないよう、当該飛び出した側壁面を逃がすような(たとえば、当該飛び出した部分を収容できるような)構造をマイクロチップ搭載部の溝(ホルダー)に形成する必要がある。しかし、このようなマイクロチップ搭載部の構造は、射出成形やドリル成形では作成困難な場合がある。なお、第1の基板に突出側壁面を有する本実施形態のマイクロチップによれば、上記と同様の理由により、マイクロチップ搭載部の作成が容易となる。すなわち、第2の基板が突出側壁面を有し、第1の基板の側壁面を位置合わせ基準面に設定する場合には、マイクロチップ搭載部に第2の基板の当該突出部分を逃がす構造を形成する必要があるが、このような構造は作成困難な場合がある。
【0027】
本実施形態のマイクロチップは、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の変形を施すことができる。まず、上記したマイクロチップの寸法に関する数値は、一例であり、上記数値に限定されるものではない。また、本実施形態では、第1の基板101側壁面の第2の基板に対する突出幅(図1におけるC)を、およそ0.3mmとしたが、これに限定されるものではなく、第1の基板の縦横の長さを上記値とした場合、1mm以下程度とすることができる。当該突出幅は、マイクロチップ全外周にわたって均一である必要はなく、また、第2の基板102aに対する突出幅と第2の基板102bに対する突出幅は同じであっても異なっていてもよい。
【0028】
また、本実施形態においては、マイクロチップの全外周にわたって突出側壁面が形成されているが、これに限定されるものではなく、少なくとも位置合わせ基準面に設定する領域に突出側壁面が形成されていればよい。ただし、基板製造時における寸法精度の制御および基板貼り合わせ時の貼り合わせ位置精度の制御のし易さ等を考慮すると、第1の基板表面の外形形状と略相似形であって、わずかに縮小されたサイズを有する第2の基板を作製し、これを第1の基板に貼付することにより、全外周にわたって突出側壁面が形成されたマイクロチップを作製する手法が好ましい。
【0029】
また、本実施形態では、第1の基板に光学測定用キュベットを構成する貫通穴を7個設けているが、これに限定されるものではなく、光学測定用キュベットは1個以上あればよい。第1の基板は、必ずしも黒色基板である必要はなく、透明基板であってもよいし、他の着色基板であってもよい。ただし、第1の基板と第2の基板とを光照射による基板表面の融着により接着する場合であって、第2の基板を透明基板とした場合には、第1の基板は着色基板とすることが好ましく、黒色基板とすることがより好ましい。黒色化は、たとえば基板材料となる樹脂にカーボンブラック等の黒色顔料などを添加することにより行なうことができる。第2の基板は、必ずしも全体が透明である必要はないが、少なくとも第1の基板の貫通穴の開口部を封止する領域は、光学測定を行なえるようにするために透明にする必要がある。
【0030】
さらに、マイクロチップの外形形状は、本実施形態の形状に限定されるものではなく、種々の形状を採り得る。図6は、本発明のマイクロチップの別の一例を示す概略斜視図である。図6に示されるマイクロチップ400は、図1〜3のマイクロチップと同様に、第1の基板401と、透明基板である2枚の第2の基板402aおよび402bとを、第2の基板102aおよび102bが第1の基板101を狭持するように貼り合わせてなり、第1の基板の突出側壁面がマイクロチップ全外周にわたって形成されている。図6に示されるマイクロチップにおいては、たとえば突出側壁面Yやこれと対向する側に位置する側壁面における突出側壁面を位置合わせ基準面とすることができる。
【0031】
<第2の実施形態>
図7〜9は、第2の実施形態に係るマイクロチップの一例を示す概略図であり、図7はその概略上面図、図8は概略側面図、図9は概略斜視図である。図7〜9に示されるマイクロチップ500は、透明基板である第1の基板501と、黒色基板である第2の基板502とを、第1の基板501の表面に設けられた溝503の開口部が第2の基板502の基板表面によって封止されるように、貼り合わせてなる。かかる溝503および第2の基板表面によって形成された空洞部がマイクロチップの光学測定用キュベットとなっている。本実施形態のマイクロチップにおいて検出光は、たとえばマイクロチップ表面に対し略平行な角度で、光学測定用キュベットへ照射される。なお、図7〜9において、上記図1〜3の場合と同様に、流体回路のその他の部位および流路は割愛されている。
【0032】
本実施形態のマイクロチップにおいて、第2の基板502は、第1の基板501の基板表面より小さい基板表面を有している。具体的には、第2の基板502の基板表面の外形形状は、およそ第1の基板501と同様であるが、第1の基板501に比してわずかに縮小されたサイズを有している(図7参照)。このような第1の基板501と第2の基板502とを貼り合わせることにより、マイクロチップの全外周にわたって、光学測定用キュベットを主に構成する部位(溝)が形成された基板である第1の基板に突出側壁面が形成される。かかる構成により、上記第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0033】
ここで、本実施形態のマイクロチップでは、位置合わせ基準面をいずれの突出側壁面に設定することも可能である。たとえば、図9を参照して、突出側壁面Z1、Z2またはZ3を位置合わせ基準面とすることもできるし、他の突出側壁面を位置合わせ基準面とすることもできる。ただし、光学測定用キュベットと光軸との位置合わせ精度が第1の基板の寸法精度に依存することを考慮すると、光学測定用キュベット最近傍の側壁面の突出側壁面を位置合わせ基準面とすることが好ましい。さらに、光学測定用キュベットと光軸との平行性、光学測定用キュベットの光入射端面と光軸との垂直性をも考慮すると、突出側壁面Z2またはZ3を位置合わせ基準面とすることが好ましい。位置合わせ基準面とする第1の基板の突出側壁面は、突起を有していないことが好ましく、平面であることがより好ましい。また、本実施形態のマイクロチップは、上記第1の実施形態と同様の変形を施すことができる。
【0034】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るマイクロチップの一例を示す概略上面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係るマイクロチップの一例を示す概略斜視図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係るマイクロチップの一例を示す概略分解斜視図である。
【図4】マイクロチップ支持用の固定壁から構成されるマイクロチップ搭載部を備える遠心装置にマイクロチップを搭載した状態を示す概略斜視図である。
【図5】第1の実施形態のマイクロチップを遠心装置のマイクロチップ搭載部に搭載し、遠心力を印加してマイクロチップの位置調整を行なう様子を示す概略斜視図である。
【図6】本発明のマイクロチップの別の一例を示す概略斜視図である。
【図7】本発明の第2の実施形態に係るマイクロチップの一例を示す概略上面図である。
【図8】本発明の第2の実施形態に係るマイクロチップの一例を示す概略側面図である。
【図9】本発明の第2の実施形態に係るマイクロチップの一例を示す概略斜視図である。
【符号の説明】
【0036】
100,400,500 マイクロチップ、101,401,501 第1の基板、102a,102b,402a,402b,502 第2の基板、103,403 貫通穴、200 マイクロチップ搭載部、201 円形状ステージ、202a,202b 固定壁、203 固定具、503 溝。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板表面上に設けられた溝または厚み方向に貫通する貫通穴を備える第1の基板と、1または2以上の第2の基板とを貼り合わせてなる、光学測定用キュベットを有するマイクロチップであって、
前記光学測定用キュベットは、前記溝または前記貫通穴と前記第2の基板の基板表面とから構成され、
前記マイクロチップの少なくとも一部の側壁面において、前記第2の基板の側壁面は、前記第1の基板の側壁面より内側に位置するマイクロチップ。
【請求項2】
前記マイクロチップのすべての側壁面において、前記第2の基板の側壁面は、前記第1の基板の側壁面より内側に位置する請求項1に記載のマイクロチップ。
【請求項3】
前記第2の基板の基板表面は、前記第1の基板の基板表面より小さい請求項1または2に記載のマイクロチップ。
【請求項4】
マイクロチップの前記少なくとも一部の側壁面における前記第1の基板の側壁面は、その表面に突起を有しない請求項1〜3のいずれかに記載のマイクロチップ。
【請求項5】
マイクロチップの前記少なくとも一部の側壁面における前記第1の基板の側壁面は、平面である請求項4に記載のマイクロチップ。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のマイクロチップの使用方法であって、
遠心力を印加可能であり、マイクロチップを搭載する部位を有する装置に、前記マイクロチップを搭載し、前記マイクロチップに対して、1または2以上の方向の遠心力を印加する工程を含み、
ここで、前記マイクロチップに対して最後に印加される遠心力の方向は、前記第2の基板の側壁面が前記第1の基板の側壁面より内側に位置するマイクロチップの前記側壁面が、前記マイクロチップを搭載する部位の内壁面に押し当てられる方向であるマイクロチップの使用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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