説明

光学測定装置用拭き取り機構

【課題】微量液体試料用光学測定装置において、液体試料を手早くかつ効率よく拭き取ることができる拭き取り機構を提供する。
【解決手段】試料滴下台11に液体試料を滴下し、試料滴下台11と窓板22とを接近させることにより両者の間に液体試料を保持する。この液体試料に光を照射し、透過する光を測定する。測定終了後、窓板ホルダ23を引き上げ、退避していたヘッド14を窓板22と試料滴下台11の間に移動する。その後、窓板ホルダ23を下降させ、窓板22をヘッド14に押し付けるとともに、ヘッド14をその下の試料滴下台11に接触させる。この状態でヘッド14を旋回させて元の位置に戻すことにより、ヘッド14に被せたウエス40が窓板22の下面と試料滴下台11の上面に付着した液体試料を同時に拭き取り除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料載置台に載置された微量液体試料に光を照射してその透過光を測定する光学測定装置に関し、特にその液体試料の拭き取り機構に関する。
【背景技術】
【0002】
紫外可視分光光度計等の分光光度計において、液体試料の透過率や吸光度などの透過特性を測定する際には、液体試料を収容する角形状或いは円筒形状のキュベットセルを用いるのが一般的である。しかし、蛋白質やDNAの定量などの生化学分野では、分析対象である液体試料の量が極めて少量であることが多く、上記のようなキュベットセルを用いることはできない。
【0003】
微量液体試料の分光測定を行う第一の装置として、従来より、米国ナノドロップテクノロジーズ社が販売している分光光度計ND-1000が知られている(非特許文献1参照)。この分光光度計では、図13に示すように、上下に対向させ、所定距離離間して設けた上部側基部80と下部側基部82との間の空間に表面張力により液体試料84を上下方向に架橋して保持する。この状態で上部側基部80内に設けた投光側光ファイバー81から出射した測定光を液体試料84中に通過させ、下部側基部82内に設けた受光側光ファイバー83で受け、分光測定等を行う。
【0004】
また、微量液体試料の分光測定を行う第二の装置として、本件出願人は、図14に示すように、回転可能な円盤状の試料プレート91上の外周近傍に試料保持部92を複数設けた微量液体試料用光学測定装置を国際特許出願した(国際出願番号:PCT/JP06/307032)。この装置では、まず試料供給位置U1で試料保持部92に液体試料を滴下する。次に試料プレート91を回転し、試料保持部92を測定位置U2まで移動させる。この状態でその上面に透明な窓板22を降下させ、光路長を定めた後に透過光の測定を実行する。測定終了後、窓板22を上昇させ、試料保持部92を測定位置U2から拭取位置U3まで移動し、そこに設けられたクリーニングパッド93により液体試料を吸収して除去する。また、窓板22の下面に付着した液体試料は、上述のように窓板22が上昇した状態で、クリーニングパッド93とは別の清掃用ウエス(図示省略)により拭き取る。
【非特許文献1】「ナノドロップ ND−1000 オーバービュー (NanoDrop ND-1000 Overview)」、米国ナノドロップ・テクノロジーズ社 (NanoDrop Technologies)、インターネット<http://www.nanodrop.com/nd-1000-overview.html>、[平成19年7月24日検索]
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した第一の装置によれば、1つの試料の測定を終了した後に次の試料の測定を行う際に投光側・受光側の両方の光ファイバー端面を紙ウエス等の清掃用ウエス(以下、単にウエスと呼ぶ)等で拭う必要がある。こうした作業は1つの試料測定が終了する毎に手作業で行う必要があるため、清掃作業に時間がかかるという問題がある。
【0006】
第二の装置によれば、試料プレート91を回転させる必要があるとともに、試料保持部92と窓板22を別々のウエスで拭き取る必要がある。そのため、機構が複雑になり、部品点数も多くなる。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みて成されたものであり、その目的とするところは、微量液体試料用光学測定装置において、液体試料を手早くかつ効率よく拭き取ることができる拭き取り機構を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために成された本発明に係る光学測定装置用拭き取り機構は、2枚の光透過面を接近させることにより両者の間に液体試料を保持し、該液体試料を透過する光を測定する光学測定装置において、前記両光透過面に付着した液体試料を拭き取るための機構であって、
前記液体試料を拭き取る清掃用ウエスが上下面に取り付けられるサポート部と、
前記サポート部を前記両光透過面の間とその外との間で移動させる移動手段と、
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る光学測定装置用拭き取り機構では、2枚の光透過面の間を離した状態でサポート部を両光透過面の間に入れ、両光透過面を接近させることにより、液体試料が付着する2枚の光透過面がサポート部の上下面に接触する。その状態で、サポート部を両光透過面の間から外に移動させることにより、両光透過面に付着した液体試料を同時に拭き取ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、添付図面に基づき、本発明の一実施例である、液体試料の拭き取り機構を備えた微量液体試料用光学測定装置を説明する。
【実施例】
【0011】
図1は本実施例に係る微量液体試料用光学測定装置の概略構成図であり、図2は測定時の液体試料の状態を示す図である。
【0012】
図1において、ベース13上に支持柱15が垂直に立設され、その中間箇所から略水平に延びる試料台10が設置されている。試料台10には測定光を通過させるための孔が設けられ、その上面には液体試料を保持するための透明な試料滴下台11が設けられている。試料滴下台11の上部には、支持柱15に沿って上下に移動可能な窓板ホルダ23が設けられている。窓板ホルダ23の前記試料台10の通過孔に対応する位置には、同様の通過孔が設けられ、その下面には、試料滴下台11と共に液体試料を保持する透明な窓板22が固定されている。
【0013】
支持柱15の上部には略水平方向に測定光を出射する光源16が取り付けられ、その正面には測定光を下方向に、窓板ホルダ23及び試料台10の通過孔に向けて反射する平面鏡17が設けられている。
【0014】
試料台10の通過孔の下方にはスリット19が固定され、その更に下方には回折格子20が設けられている。回折格子20の回折光出射位置にはマルチチャンネル型の検出器21が設けられている。
【0015】
試料台10には、本発明に係るウエス保持機構を備えた液体試料拭き取り機構が設けられている。液体試料拭き取り機構は、試料台10に固定された回転軸34、回転軸34から略水平方向に延出された回転可能なアーム31、そしてアーム31の先端に固定されたヘッド14から成る。ヘッド14の高さは、試料滴下台11の直上となるようにセットされている。
【0016】
液体試料拭き取り機構の詳細を図3〜図5に示す。図3に示すように、ヘッド14は、液体試料を拭き取るための筒状のウエス40と、ウエス40に内包され、芯となるゴムブロック33と、ゴムブロック33を支えるサポータ32と、サポータ32の左右にそれぞれ設けられたアーチバネ35から成る。本実施例では、ヘッド14のサポータ32、その左右のアーチバネ35及びアーム31は1枚の薄い金属板で一体に成形されている。
【0017】
図5に示すように、ゴムブロック33の中心には長手方向に延びる貫通穴が設けられ、サポータ32はこの貫通穴に挿通されることによりゴムブロック33を保持する。ゴムブロック33の上下面には、ウエス40による試料滴下台11及び窓板22の拭き取りを確実にするための長手方向の筋が多数設けられている。この筋は、図3及び図5に示すような直線状のV溝に限らず、うねりながら延伸する波線の溝や、断面が矩形の溝でもよい。
【0018】
図4に示すように、前記金属板は途中に屈曲部39を有し、屈曲部39よりも固定側(回転軸34側)がアーム31となり、自由側がサポータ32となる。この屈曲部39により、ゴムブロック33は常に一定の位置に固定される。なお、1個のゴムブロック33の代わりに、2個のゴムブロックをサポータ32の上下面に貼り合わせる構成にしてもよい。
【0019】
図3に示すように、左右のアーチバネ35は、アーム31の左右から少し延出し、上方に折り曲げられ、そこから前方に延出している。その前方に延出する部分でアーチ形とされており、このアーチ形部分がバネ作用を有する。
【0020】
図6に示すように、回転軸34は直下に設けたバネ36により上下に弾性的に移動可能となっている。これによりヘッド14は、窓板22に押さえられた場合、窓板22及び試料滴下台11に平行な状態を保ったまま、窓板22に従動する。なお、図7に示すように、アーム31の剛性を低くすることにより、同様にヘッド14を窓板22に従動させるようにしてもよい。
【0021】
筒状のウエス40は、吸水性のある厚手の紙ウエス(紙タオル)の1枚もの又はそれを複数枚重ねたものを筒状に巻き、端を接着剤等で固定することで製作することができる。紙ウエスの素材によっては、熱圧を加えることにより接合することも可能である。
【0022】
このような構成を有する本実施例の光学測定装置による微量液体試料の測定方法は次の通りである。まず、窓板ホルダ23を上に引き上げた状態で試料台10の試料滴下台11上に微量の液体試料を滴下し、窓板ホルダ23を下ろして液体試料を試料滴下台11と窓板ホルダ23の窓板22の間に挟む。この状態で光源16を点灯し、測定光を出射する。測定光は集光レンズ18により集光され、試料滴下台11と窓板22の間に保持された液体試料を透過し、その下方に設けられたスリット19で光域が制限される。光域が制限された試料透過光は回折格子20により波長分散され、マルチチャンネル型検出器21により全測定波長の強度が一斉に検出される。これにより、液体試料の分析等が行われる。
【0023】
測定終了後、次の測定のために窓板ホルダ23を引き上げ、試料滴下台11及び窓板22の表面に付着する液体試料を拭き取り除去する。
【0024】
この拭き取り作業を図1、図6、及び図8を用いて説明する。窓板ホルダ23が、図1に示すように試料滴下台11から十分離れた位置で停止すると、図8(a)の位置に退避していたヘッド14は、回転軸34を中心に試料台10に平行に旋回し、窓板22と試料滴下台11の間に移動する(図8(b))。その後、窓板ホルダ23を下降させ、窓板22をヘッド14に押し付ける。このとき、図6に示すように回転軸34が下方に移動するため、ヘッド14はその下の試料滴下台11にも接触する。この状態でヘッド14を旋回させて図8(a)の位置に戻すことにより、ヘッド14に被せたウエス40が窓板22の下面と試料滴下台11の上面に付着した液体試料を同時に拭き取る。ここで、ヘッド14の旋回は手動で行ってもよいし、モータ等を用いて自動的に行ってもよい。自動的に行う場合、窓板ホルダ23及びヘッド14の動きを試料測定シーケンスに組み込み、全てを自動化することが望ましい。
【0025】
必要な場合には1回の測定毎、そうでない場合には複数回の測定毎に、ウエス40を交換する。ウエス40の取り外し及び装着は、ヘッド14の左右のアーチバネ35を指で押さえることにより簡単に行うことができる。
【0026】
上記説明においてはヘッド14を試料台10に平行に旋回させ、窓板22及び試料滴下台11の接液面に平行に移動させることとしたが、図9(a)(b)に示すようにヘッド14をレール37に沿って平行移動させてもよく、また、図10(a)(b)に示すように試料滴下台11の表面に平行なアーム41を軸としてヘッド44を回転させてもよい。なお、図9及び図10には窓板22又は試料滴下台11のいずれかしか描かれていないが、上記ヘッド14の旋回の場合と同様、窓板22及び試料滴下台11を同時に拭き取ることができる。
【0027】
ウエス40を保持するための弾性手段としては、図11に示すように、ゴムブロック33の側面にゴムブロック33と一体に設けた凸起部38を用いてもよい。なお、いずれの弾性手段もゴムブロック33の両側面ではなく片面のみに設けてもよい。
【0028】
ウエスは、シート状ウエスをゴムブロック33の上下面に1枚ずつ両面テープで固定したり、図12のようにシート状ウエス41の端部をゴムブロック53の側面に設けた切り込み42に差し込んで固定してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施例である微量液体試料用光学測定装置の概略構成図。
【図2】測定時の液体試料12の状態を示す図。
【図3】液体試料拭き取り機構の構成を示す斜視図。
【図4】液体試料拭き取り機構の断面図。
【図5】ヘッド14の端面図。
【図6】回転軸34の移動を示す概念側面図。
【図7】アーム31の変形を示す概念側面図。
【図8】ヘッド14の旋回を示す概略平面図。
【図9】ヘッド14の平行移動を示す概念平面図。
【図10】ヘッド14の回転を示す概念斜視図。
【図11】ゴムブロック33の側面に凸起部38を設けた液体試料拭き取り機構の平面図。
【図12】シート状ウエス41を取り付けたゴムブロック53の端面図
【図13】従来の微量液体試料の分光測定を行う第一の装置における液体試料の保持方法の説明図。
【図14】従来の微量液体試料の分光測定を行う第二の装置における試料プレート上面を示す図。
【符号の説明】
【0030】
10…試料台
11…試料滴下台
12…液体試料
13…ベース
14、44…ヘッド
15…支持柱
16…光源
17…平面鏡
18…集光レンズ
19…スリット
20…回折格子
21…検出器
22…窓板
23…窓板ホルダ
31、41…アーム
32…サポータ
33、53…ゴムブロック
34…回転軸
35…アーチバネ
36…バネ
37…レール
38…凸起部
39…屈曲部
40…ウエス
41…シート状ウエス
42…切り込み

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2枚の光透過面を接近させることにより両者の間に液体試料を保持し、該液体試料を透過する光を測定する光学測定装置において、前記両光透過面に付着した液体試料を拭き取るための機構であって、
前記液体試料を拭き取る清掃用ウエスが上下面に取り付けられるサポート部と、
前記サポート部を前記両光透過面の間とその外との間で移動させる移動手段と、
を備えることを特徴とする光学測定装置用拭き取り機構。
【請求項2】
前記移動手段が前記サポート部を両光透過面に平行に旋回させることを特徴とする請求項1に記載の光学測定装置用拭き取り機構。
【請求項3】
前記移動手段が前記サポート部を両光透過面に平行に平行移動させることを特徴とする請求項1に記載の光学測定装置用拭き取り機構。
【請求項4】
前記移動手段が前記サポート部を、両光透過面に平行な軸を中心に回転させることを特徴とする請求項1に記載の光学測定装置用拭き取り機構。
【請求項5】
前記サポート部が、前記光透過面の移動方向に従動可能となっていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の光学測定装置用拭き取り機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−36664(P2009−36664A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−201876(P2007−201876)
【出願日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】