説明

光学物品

【課題】位相差フィルムの酸化劣化が防止できる光学物品を提供すること
【解決手段】
本発明の光学物品1は、光入射面と光出射面とが形成された光学素子11と、該光学素子11の光射出面側で選択的に粘着固定される複数の位相差フィルム12と、を備える光学物品1であって、前記位相差フィルム12の光出射面を含む第一領域Bと、前記位相差フィルム12が接合されない前記光学素子11の光出射面を含む第二領域Cとを連続的に被覆するダイアモンドライクカーボン膜3が形成されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光変換素子、その他の光学物品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光ピックアップや液晶プロジェクター、その他の装置において、複数の透光性部材を積層して形成された光学物品が用いられている。
このような光学物品として、複数のガラス部材の間に偏光分離膜と反射膜とを交互に配置し、前記偏光分離膜の光射出面側に位相差板を設けた偏光変換素子(PS変換素子)が知られている。
【0003】
例えば、互いに平行な膜形成面の一方には偏光分離膜が形成され、他方には反射膜が形成されたガラス部材と、これらの膜が形成されないガラス部材とを交互に貼り合わせて偏光ビームスプリッターアレイを形成し、この偏光ビームスプリッターアレイの透光性部材の出射面部分に水晶からなる複数のλ/2位相差板を設けたものが挙げられる(特許文献1参照)。
【0004】
また、位相差板の表面にガスバリア層としてInおよびSnの合金酸化物、SiOx(x=1.0〜2.0))、Al23、ZnO等を用いた液晶表示素子用基板がある(特許文献2参照)。
【0005】
さらに、反射防止膜表面にダイアモンドライクカーボン膜を被覆させることにより、反射防止膜表面の硬度を上昇させ、耐摩耗性を著しく上昇させた時計用カバーガラスがある。(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−298212号公報
【特許文献2】特開2002−156522号公報
【特許文献3】特開2004−93437号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の偏光変換素子は、λ/2位相差板に水晶を用いているため、製造コストが高くなってしまう。そこで、λ/2位相差板に有機性フィルムを用いることが考えられる。
しかし、λ/2位相差板として有機性材料を採用した場合、λ/2位相差板は、大気中の酸素と接触するため、酸化劣化すると言う問題が挙げられる。
また、仮にλ/2位相差板の上にガラス板を配置したとしても、λ/2位相差板が設けられない箇所に空気層が形成されるため、酸素を遮断することができない。さらに、この空気層により透過する光が空気ギャップを生じさせることとなり、所定の屈折率を発揮することができないという問題も挙げられる。
【0008】
特許文献2に記載の液晶表示素子用基板では、特許文献1に記載の偏光変換素子のようにλ/2位相差板が設けられる箇所と、そうでない箇所とで凹凸面を有する場合、InおよびSnの合金酸化物、SiOx(x=1.0〜2.0))、Al23、ZnO等を被覆しても被膜の構造強度が不足するため、特にλ/2位相差板と偏光ビームスプリッターアレイとが接合する接合部近傍において被膜にクラックが生じるおそれがあり、酸素との遮断を維持できないという問題が挙げられる。
【0009】
また、特許文献3に記載の時計用カバーガラスでは、ダイアモンドライクカーボン膜は反射防止膜を被覆することで、反射防止膜の耐摩耗性を向上させている。しかし、位相差フィルムとして有機性フィルムを用いた際、大気中の酸素との接触を遮断させるための示唆が特許文献3には示されていない。
【0010】
本発明の目的は、位相差フィルムの酸化劣化が防止できる光学物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
[適用例1]
本適用例に係わる光学物品は、光入射面と光出射面とが形成された光学素子と、該光学素子の光出射面側に貼着される複数の位相差フィルムと、を備える光学物品であって、前記位相差フィルムの光出射面を含む第一領域と、前記位相差フィルムが貼着されない前記光学素子の光出射面を含む第二領域とを連続的に被覆するダイアモンドライクカーボン膜が形成されることを特徴とする。
【0012】
上記適用例に係わる光学物品では、第一領域と第二領域とを連続的に被覆するダイアモンドライクカーボン膜が形成されるので、これらの領域の境界に存在する位相差フィルムおよび接合部の厚み方向側面を被覆することができる。このため、位相差フィルムおよび接合部はダイアモンドライクカーボン膜により完全に酸素との接触が遮断される。さらに、ダイアモンドライクカーボン膜はInおよびSnの合金酸化物、SiOx(x=1.0〜2.0))、Al23、ZnO等より構造強度が高く、被膜にクラックが生じにくい。
このことから、位相差フィルムとして有機性フィルムを使用するような場合、位相差フィルムが酸素と接触することによる酸化劣化を防止することができ、さらに、ダイアモンドライクカーボン膜は構造強度が高くクラックが生じにくいので、安定的に位相差フィルムを酸素から遮断することができ、位相差フィルムの耐久性を向上させることができる。
よって、位相差フィルムとして有機性フィルムを用いたとしても、十分な耐久性を発揮することができる。
また、位相差フィルムがダイアモンドライクカーボン膜で被覆されるので、空気層が形成されることがなく、空気ギャップが生じず、所定の屈折率を発揮することができる。
【0013】
[適用例2]
上記適用例に係わる光学物品では、前記ダイアモンドライクカーボン膜の屈折率が1.4以上1.6以下であることが好ましい。
【0014】
上記適用例に係わる光学物品では、ダイアモンドライクカーボン膜の屈折率が1.4以上1.6以下であるので、光学物品として利用するのに必要な光量が得られる透過率を確保することができる。この屈折率が1.4よりも小さい場合は透過率の向上の効果は認められない。逆に、光学物品を構成するその他の光学部材は一般に、屈折率1.4よりも大きいので、ダイアモンドライクカーボン膜の屈折率を1.4よりも小さくした場合は、その他の光学部材との接合面で界面反射が起こりやすく、光学物品としての透過率を下げるだけである。
【0015】
[適用例3]
上記適用例に係わる光学物品では、前記ダイアモンドライクカーボン膜の膜厚が40nm以上であることが好ましい。
【0016】
上記適用例に係わる光学物品では、ダイアモンドライクカーボン膜の膜厚が40nm以上であるので、位相差フィルムが酸素と接触するのを確実に遮断でき、酸素による酸化劣化を確実に防ぐことができる。
【0017】
[適用例4]
上記適用例に係わる光学物品では、前記ダイアモンドライクカーボン膜の表面に酸化珪素膜が形成されることが好ましい。
【0018】
ダイアモンドライクカーボン膜における光の屈折率を下げるにはダイアモンドライクカーボン膜の空孔の体積率を上げることが有効であるが、その反面、酸素の遮断性は低下する。
そこで、上記適用例に係わる光学物品では、ダイアモンドライクカーボン膜の表面に酸化珪素膜が形成されるので、位相差フィルムと酸素との遮断性を補うことができ、酸素による酸化劣化をより一層確実に防ぐことができる。
【0019】
[適用例5]
上記適用例に係わる光学物品では、前記酸化珪素膜の膜厚が60nm以上であることが好ましい。
【0020】
上記適用例に係わる光学物品では、酸化珪素膜の膜厚が60nm以上であるので、位相差フィルムと酸素との遮断を有効に補うことができ、酸素による酸化劣化を防ぐことができる。
【0021】
[適用例6]
上記適用例に係わる光学物品では、前記ダイアモンドライクカーボン膜の空孔の体積率が30%以上60%以下であることが好ましい。
【0022】
上記適用例に係わる光学物品では、ダイアモンドライクカーボン膜の空孔の体積率が30%以上60%以下であるので、ダイアモンドライクカーボン膜における光の屈折率を下げて光の透過率を確保することと、位相差フィルムと酸素との遮断性とを両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第一実施形態における偏光変換素子の平面図と正断面図。
【図2】本発明の第一実施形態における偏光変換素子の製造方法を説明するための断面図。
【図3】本発明の第二実施形態における偏光変換素子の平面図と正断面図。
【図4】本発明の第三実施形態における偏光変換素子の平面図と正断面図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の第一実施形態における偏光変換素子について図1に基づいて説明する。
図1には、本発明の第一実施形態における偏光変換素子の平面図と正断面図が示されている。
図1に示すように、偏光変換素子1は、互いに略平行な光入射面と光出射面とが形成された略板状の偏光分離素子11と、この偏光分離素子11の光出射面側に選択的に貼着される複数の位相差フィルム12と、偏光分離素子11の基材である透光性基板14とを備え、2個の部材が左右対称に接合された構造を有している。
さらに、偏光変換素子1は、位相差フィルム12の光出射面を領域とする第一領域Bと、位相差フィルム12が接合されない偏光分離素子11の光出射面を領域とする第二領域Cとを連続的に被覆するダイアモンドライクカーボン膜3が設けられている。
【0025】
偏光分離素子11は、光出射面に対して所定の角度(図2では、45°)の界面で複数が順次設けられた透光性基板14と、これらの透光性基板14にそれぞれ設けられた偏光分離膜15及び反射膜16とを有する。
透光性基板14は、断面三角形や断面平行四辺形の角柱部材から形成されており、界面を構成する斜面に偏光分離膜15と反射膜16とが交互に配置されている。
透光性基板14を構成する材料としては、BK7等の光学ガラス、白板ガラス、ホウケイ酸ガラス、青板ガラス、サファイアガラスをはじめとするガラスを例示できる。
【0026】
偏光分離膜15は誘電体多層膜で形成され、入射した光線束(S偏光光とP偏光光)を、S偏光の部分光束(S偏光光)とP偏光の部分光束(P偏光光)とに分離し、S偏光光を反射し、P偏光光を透過する機能を有する。
誘電体多層膜は、例えば、SiOよりなる低屈折率層と、MgFよりなる高屈折率層と、LaとAlの重量割合が1:3の混合物よりなる中屈折率層とが、所定の順序及び光学厚膜で形成された多層膜を例示できる。
【0027】
反射膜16は誘電体多層膜又は金属膜で形成され、反射膜16に入射したS偏光光をそのまま反射する機能を有する。反射膜16を構成する多層膜はSiOよりなる低屈折率層とSiOよりなる高屈折率層とが所定の順序及び光学厚膜で交互に形成された多層膜を例示できる。
【0028】
位相差フィルム12は、有機性材料を有する部材であって、厚さが例えば、28μmとされた短冊状の1/2波長フィルムであり、透光性基板14の光出射側面であって偏光分離膜15に対応する第一領域Bにおいて位相差フィルムの光入射面全域に対応する接合部2により密着固定されている。位相差フィルム12の幅寸法は偏光分離膜15と反射膜16との間の寸法と対応している。
【0029】
また、偏光変換素子1の平面視中央領域には、偏光変換素子1が利用される際に光線が透過する光線透過領域Aが設けられている。
なお、位相差フィルム12としては、ポリカーボネート樹脂が挙げられ、例えば、株式会社ポラテクノ社製(型番:WBR-90PC)を例示することができる。また、貼着部2に用いられる粘着剤としては、日東電工(株)製の透明両面接着テープCS9621およびHJ−9150W、住友スリーエム(株)製の接着剤転写テープF−9460および8141、(株)サンエー化研製の粘着テープWR−B2などが挙げられる。なお、フォトボンド300のような光学接着剤を貼着部に用いてもよい。
【0030】
位相差フィルム12が透光性基板14の光出射面と当接する全面が貼着部2となっている。
ダイアモンドライクカーボン膜3は、第一領域Bと、第二領域Cとを連続的に被覆している。具体的には、ダイアモンドライクカーボン膜3は、位相差フィルム12と透光性基板14との光出射面、並びに、位相差フィルム12および接合部2の厚み方向側面を被覆している。さらに、ダイアモンドライクカーボン膜3と位相差フィルム12および接合部2との間には空気が介在していない。このため、位相差フィルム12は、空気と接触することがなく密閉される。
また、ダイアモンドライクカーボン膜3は、屈折率が1.4以上1.6以下であり、膜厚が40nm以上に形成され、空孔の体積率が30%以上60%以下である。
【0031】
本発明の第一実施形態における偏光変換素子の製造方法について図2に基づいて説明する。
図2には、本発明の第一実施形態における偏光変換素子の製造方法を説明するための断面図が示されている。
図2(A)に示されるような板状の偏光分離素子11の片平面に図2(B)に示すように貼着部2に粘着剤あるいは接着剤を用いて、その上に位相差フィルム12が貼着される。このとき、貼着部2に形成される粘着剤は、位相差フィルム12により押圧されることで、厚みが1μm以下となる。
【0032】
図2(C)に示すように、ダイアモンドライクカーボン膜3は、位相差フィルム12と透光性基板14との光出射面、並びに、位相差フィルム12および貼着部2の厚み方向側面を被覆するように成膜される。このことにより、偏光変換素子1の光出射面全体がダイアモンドライクカーボン膜3に被覆される。
【0033】
次に、ダイアモンドライクカーボン膜3の成膜方法について説明する。
第一実施形態では、ダイアモンドライクカーボン膜3は、プラズマCVD法によって形成され、水素が導入されている。ダイアモンドライクカーボン膜3の形成には、通常のプラズマCVDに用いられる装置を用いることができる。
第一実施形態では、偏光変換素子1をプラズマCVD装置にセットし、装置内にアセチレンガスを充填した後、プラズマを起こしてダイアモンドライクカーボン膜3を形成する。原料ガスは、メタン等の炭化水素ガスである。この原料ガスに、水素を含有させることで、ダイアモンドライクカーボン膜3に水素を導入することができる。
なお、ダイアモンドライクカーボン膜3は、プラズマCVD法以外にも、例えば、スパッタリング法、イオン化蒸着法等によっても形成することができる。
【0034】
このようなダイアモンドライクカーボン膜3をポーラスに形成するためには、プラズマCVDの運転条件のガス圧を高めに設定すればよい。例えば、ガス流量を増大させる、排気を絞るなどして、通常ガス圧の0.2mTorrを1.0mTorrとすると空孔を有するダイアモンドライクカーボン膜3が得られる。
【0035】
ダイアモンドライクカーボン膜3の屈折率は、1.4以上1.6以下であることが好ましい。
ダイアモンドライクカーボン膜3の屈折率が1.4以上1.6以下であれば、十分な透過率を確保することができる。この屈折率が1.4よりも小さい場合、ダイアモンドライクカーボン膜3自体の透過率は確保できるが、光学物品全体の透過率は低下する。光学物品を構成するその他の光学部材は一般に、屈折率1.4よりも大きいので、ダイアモンドライクカーボン膜の屈折率を1.4よりも小さくした場合は、その他の光学部材との接合面で界面反射が起こりやすく、光学物品としての透過率は低下する。
なお、ダイアモンドライクカーボン膜3の屈折率は、ダイアモンドライクカーボン膜3の形成条件等によって調整することができる。例えば、プラズマCVDの運転条件のガス圧や、ガス中の水素分圧を高く設定することにより屈折率を下げることが可能である。
【0036】
ダイアモンドライクカーボン膜3は、空孔の体積率が30%以上60%以下であることが好ましい。
空孔の体積率がこのような範囲にあれば、ダイアモンドライクカーボン膜3の高い構造強度を維持しつつ屈折率を低減することができる。
なお、空孔の体積率は、例えば、プラズマCVDの運転条件のガス圧を高く設定することにより空孔の体積率を制御することができる。
【0037】
ダイアモンドライクカーボン膜3の膜厚は、40nm以上であることが好ましい。
ダイアモンドライクカーボン膜3の膜厚が40nm以上であれば、ダイアモンドライクカーボン膜3の酸素の遮断性を確保でき、位相差フィルム12と酸素との接触を十分に遮断できる。
【0038】
以上の第一実施形態では次の作用効果を奏することができる。
(1)第一実施形態における偏光変換素子1では、第一領域Bと第二領域Cとを連続的に被覆するダイアモンドライクカーボン膜3が形成されるので、これらの領域の境界に存在する位相差フィルム12および接合部2の厚み方向側面を被覆することができる。このため、位相差フィルム12および接合部2はダイアモンドライクカーボン膜3により完全に酸素との接触が遮断される。さらに、ダイアモンドライクカーボン膜3はInおよびSnの合金酸化物、SiOx(x=1.0〜2.0))、Al23、ZnO等より構造強度が高く、被膜にクラックが生じにくい。
このことから、位相差フィルム12として有機性フィルムを使用するような場合、位相差フィルム12が酸素と接触することによる酸化劣化を防止することができ、さらに、ダイアモンドライクカーボン膜3は構造強度が高くクラックが生じにくいので、安定的に位相差フィルム12を酸素から遮断することができ、位相差フィルム12の耐久性を向上させることができる。
よって、位相差フィルム12として有機性フィルムを用いたとしても、十分な耐久性を発揮することができる。
また、位相差フィルム12がダイアモンドライクカーボン膜3で被覆されるので、空気層が形成されることがなく、空気ギャップが生じず、所定の屈折率を発揮させることができる。
【0039】
(2)第一実施形態における偏光変換素子1では、ダイアモンドライクカーボン膜3の屈折率が1.4以上1.6以下であるので、偏光変換素子1として利用するのに必要な光量が得られる透過率を確保することができる。
【0040】
(3)第一実施形態における偏光変換素子1では、ダイアモンドライクカーボン膜3の膜厚が40nm以上であるので、位相差フィルム12が酸素と接触するのを確実に遮断でき、酸素による酸化劣化を確実に防ぐことができる。
【0041】
(4)第一実施形態における偏光変換素子1では、ダイアモンドライクカーボン膜3の空孔の体積率が30%以上60%以下であるので、ダイアモンドライクカーボン膜3における光の屈折率を下げて光の透過率を確保することと、位相差フィルム12と酸素との遮断性とを両立することができる。
【0042】
次に、本発明の第二実施形態における偏光変換素子について図3に基づいて説明する。
なお、第二実施形態は、第一実施形態とは、ダイアモンドライクカーボン膜3の上にさらに酸化珪素膜4が設けられていることが異なるものであり、その他の構成は第一実施形態と同様である。
図3には、本発明の第二実施形態における偏光変換素子の平面図と正断面図が示されている。
図3に示すように、第二実施形態における偏光変換素子1では、ダイアモンドライクカーボン膜3の光出射面側に酸化珪素膜4が設けられている。
この酸化珪素膜4は、ダイアモンドライクカーボン膜3と同様に第一領域Bと、第二領域Cとを連続的に被覆している。具体的には、酸化珪素膜4は、ダイアモンドライクカーボン膜の光出射面の全面を被覆しており、酸化珪素膜4とダイアモンドライクカーボン膜3との間には空気が介在していない。このため、位相差フィルム12は、ダイアモンドライクカーボン膜3により酸素との接触を遮断されるほか酸化珪素膜4によっても酸素との接触を遮断されている。
また、酸化珪素膜4は、膜厚が60nm以上に形成されている。酸化珪素膜4の成膜方法としては、プラズマCVD法、スパッタリング法、イオン化蒸着法等によって形成することができる。
【0043】
以上の第二実施形態では第一実施形態の(1)〜(4)と同様の作用効果を奏することができ、さらに、次の作用効果を奏することができる。
【0044】
(5)ダイアモンドライクカーボン膜3における光の屈折率を下げるにはダイアモンドライクカーボン膜3の空孔の体積率を上げることが有効であるが、その反面、酸素の遮断性は低下する。
そこで、第二実施形態における偏光変換素子1では、ダイアモンドライクカーボン膜3の表面に酸化珪素膜4が形成されるので、位相差フィルム12と酸素との遮断性を補うことができ、酸素による酸化劣化をより一層確実に防ぐことができる。
【0045】
(6)第二実施形態における偏光変換素子1では、酸化珪素膜4の膜厚が60nm以上であるので、位相差フィルム12と酸素との遮断を有効に補うことができ、酸素による酸化劣化を防ぐことができる。
【0046】
(7)第二実施形態における偏光変換素子1では、ダイアモンドライクカーボン膜3の上から酸化珪素膜4を成膜するので、この酸化珪素膜4を偏光変換素子1の上層に形成される反射防止膜として兼用することができる。このため、偏光変換素子1の構成が簡略化でき、生産性を向上させることができる。
【0047】
次に、本発明の第三実施形態における偏光変換素子について図4に基づいて説明する。
なお、第三実施形態は、第一実施形態とは、位相差フィルム12が偏光分離素子11に接合される接合部2の設けられる箇所が異なるものであり、その他の構成は第一実施形態と同様である。
図4には、本発明の第三実施形態における偏光変換素子の平面図と正断面図が示されている。
図4に示すように、接合部2は、偏光分離素子11の光出射面側の外縁において、長辺方向に沿って2箇所設けられている。
この接合部2において、位相差フィルム12は、両端が偏光分離素子11に接合されている。また、これら2箇所に設けられた接合部2に挟まれた領域には、第三実施形態における偏光変換素子1がプロジェクター、その他の光学装置に組み込まれた際に、光源側から送られる光線が偏光変換素子1に入射する光線透過領域Aがある。
【0048】
以上の第三実施形態では第一実施形態の(1)〜(4)と同様の作用効果を奏することができ、さらに、次の作用効果を奏することができる。
(8)第三実施形態における偏光変換素子1では、位相差フィルム12が光線透過領域Aの外側に位置する接合部2において接合されている。
このため、偏光変換素子1を透過する光線は、接合部2を透過することがないので、接合部2に塗布される粘着剤を透過することによる光学的影響を防止することができる。よって、偏光変換素子1の偏光変換精度を向上させることができる。
さらに、接合部2の粘着剤に光線が照射されないので、青色光成分の擬似的紫外線による粘着剤の劣化および黄変を防止することができる。
【0049】
なお、本発明は前述の第一実施形態から第三実施形態までに限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
第一実施形態から第三実施形態では、光学物品として偏光変換素子1を用いたが、これに限られない。例えば、位相差変換板に適用してもよく、この場合、ガラス基板の上に有機性の位相差フィルムを接合し、その上からダイアモンドライクカーボン膜3を形成して位相差フィルムを酸素から遮断してもよい。
第三実施形態では、ダイアモンドライクカーボン膜3の上に第二実施形態の酸化珪素膜4を形成しないものとしたが、これに限らず、第三実施形態においても酸化珪素膜4を形成してもよい。
第三実施形態では、貼着部2に粘着剤を用いて位相差フィルム12を偏光分離素子11に接合したが、これに限られず、例えば、粘着剤の代わりに接着剤を用いてもよく、位相差フィルム12が偏光分離素子11に貼着される構成であればいずれでもよい。
【0050】
[実施例]
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0051】
以下の方法により透光性基板14にダイアモンドライクカーボン膜3を形成した。
透光性基板14としてのサファイアガラスを120℃の熱硫酸中に10分間浸漬し、純水でよくリンスした後、120℃に設定した大気中オーブンで30分間乾燥した。
洗浄した透光性基板14をプラズマCVD装置にセットし、所定濃度の水素を含むアセチレンガスを1.50SCCMで導入し、1.0mTorrとした。この状態で、プラズマを発生させ、ダイアモンドライクカーボン膜3を厚さ100nmになるように形成した。
ここで、水素含有量の異なるアセチレンガスを用いることで、水素含有量の異なるダイアモンドライクカーボン膜3が形成された透光性基板14を得た。
【0052】
位相差フィルム12に上記の成膜方法を用いてダイアモンドライクカーボン膜3を形成した。
また、以下の方法により酸化珪素膜4を位相差フィルム12に形成した。
位相差フィルム12をスパッタ装置にセットし、チャンバー内を120℃、10−6Torrとした後、アルゴンガスを9.0SCCM、酸素を9.5SCCMで導入し、0.2mTorrとした。この状態において、SiOターゲットに、スパッタパワー1500Wを印加してスパッタした。
【0053】
以上の透光性基板14および位相差フィルム12を、以下の方法により評価した。
水素濃度:ダイアモンドライクカーボン膜3の水素濃度を、SIMSを用いて測定した。
屈折率:ダイアモンドライクカーボン膜3の屈折率を、エリプソメーターを用いて測定した。
透過率:ダイアモンドライクカーボン膜3の透過率を、分光光度計を用いて測定した。
酸素の透過量:ダイアモンドライクカーボン膜3および酸化珪素膜4の酸素の遮断性を、MODERN CONTROL社製 OX−TRANTWINを用いて測定した。
空孔の体積率:ダイアモンドライクカーボン膜3の空孔の体積率を、X線小角散乱法で空孔径分布を測定して算出した。
これらの評価の結果を、以下の表1から表4にまとめる。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【0056】
【表3】

【0057】
【表4】

【0058】
表1から表4の結果を以下に考察する。
表1より、透光性基板14に形成したダイアモンドライクカーボン膜3の屈折率が1.6以下の範囲であるとき、光の透過率が90%であることが確認できた。このことより、ダイアモンドライクカーボン膜3の屈折率が1.6以下であれば、偏光変換素子1として利用するのに必要な光量が得られる透過率を確保できることがわかった。なお、このダイアモンドライクカーボン膜3の屈折率が1.4よりも小さい場合は、光学物品全体の透過率を下げる要因が別に発生する。光学物品を構成するその他の光学部材の屈折率が1.4よりも大きく、概ね1.5前後であるので、それらとの界面での界面反射が起こりやすくなり、光学物品としての透過率を下げるだけである。その他の光学部材とは例えば、屈折率1.523の白板(SHOTT社製ガラスB270)、屈折率が約1.58前後の位相差フィルムが例示される。
【0059】
表2より、位相差フィルム12に形成したダイアモンドライクカーボン膜3の空孔の体積率が30%以上60%以下であるとき、ダイアモンドライクカーボン膜3の屈折率が1.4以上1.6以下の範囲になることが確認できた。このことより、ダイアモンドライクカーボン膜3の屈折率が1.4以上1.6以下であれば、偏光変換素子1として利用するのに必要な光量が得られる透過率を確保できることがわかった。
【0060】
表3より、位相差フィルム12に形成したダイアモンドライクカーボン膜3の膜厚が40nm以上であるとき、酸素透過量が0.9cc/m2.24H.atm以下となることが確認できた。このことより、ダイアモンドライクカーボン膜3の膜厚が40nm以上であれば、位相差フィルム12が酸素と接触するのを確実に遮断でき、酸素による酸化劣化を確実に防げることがわかった。
【0061】
表4より、位相差フィルム12に形成した酸化珪素膜4の膜厚が60nm以上であるとき、酸素透過量が1cc/m2.24H.atm以下となることが確認できた。このことより、酸化珪素膜4の膜厚が60nm以上であれば、位相差フィルム12と酸素との遮断を有効に補うことができ、酸素による酸化劣化を防げることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、プロジェクター、その他の装置に用いられる偏光変換素子、その他の光学物品に利用できる。
【符号の説明】
【0063】
1…偏光変換素子(光学物品)、3…ダイアモンドライクカーボン膜、4…酸化珪素膜、11…偏光分離素子(光学素子)、12…位相差フィルム、B…第一領域、C…第二領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光入射面と光出射面とが形成された光学素子と、該光学素子の光出射面側に貼着される複数の位相差フィルムと、を備える光学物品であって、
前記位相差フィルムの光出射面を含む第一領域と、前記位相差フィルムが貼着されない前記光学素子の光出射面を含む第二領域とを連続的に被覆するダイアモンドライクカーボン膜が形成されることを特徴とする光学物品。
【請求項2】
請求項1に記載の光学物品において、
前記ダイアモンドライクカーボン膜の屈折率が1.4以上1.6以下であることを特徴とする光学物品。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の光学物品において、
前記ダイアモンドライクカーボン膜の膜厚が40nm以上であることを特徴とする光学物品。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の光学物品において、
前記ダイアモンドライクカーボン膜の表面に酸化珪素膜が形成されることを特徴とする光学物品。
【請求項5】
請求項4に記載の光学物品において、
前記酸化珪素膜の膜厚が60nm以上であることを特徴とする光学物品。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の光学物品において、
前記ダイアモンドライクカーボン膜の空孔の体積率が30%以上60%以下であることを特徴とする光学物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−112995(P2011−112995A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−271207(P2009−271207)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】