光学特性測定装置及び測定方法
【課題】被測定物の光学特性を測定する装置には、被測定物の形状等の制約があり、光強度の感度が悪いという問題があったので、平面から非平面まで測定可能で被測定物の制約条件がなく、感度の優れた全球散乱測定装置及び方法を提供することを目的とする。
【解決手段】2つの楕円体面鏡の各々の焦点の1つを共通焦点にして結合して、3つの焦点を一軸上に有する光学系である双楕円型光学系において、一方の楕円体面鏡を回転させ、回転される楕円体面鏡の焦点に集光する散乱光を検出して、被測定物の全球散乱を測定する。
【解決手段】2つの楕円体面鏡の各々の焦点の1つを共通焦点にして結合して、3つの焦点を一軸上に有する光学系である双楕円型光学系において、一方の楕円体面鏡を回転させ、回転される楕円体面鏡の焦点に集光する散乱光を検出して、被測定物の全球散乱を測定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料などの被測定物に光を入射させ、試料からの散乱光の光強度を測定可能な、感度の優れた光学特性測定装置及び測定方法に関する。また、被測定物の全球散乱を測定するとともに、異方性も測定することができる統合された装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体など電子部品の製造やナノテクノロジー分野での精密計測において、光学特性検査装置の測定精度の向上が望まれている。
【0003】
光を物質に入射した際の光と物質との相互作用を考えると、物質による正反射、拡散反射、(正)透過、拡散透過、そして光吸収の5種類に分類できる。すなわち、反射と透過現象に関しては、入射角度と反射角度が等しい正反射と、入射角度と透過光の角度が等しい(正)透過と、一つの入射角度に対して反射光や透過光が広い空間に発生する散乱(拡散反射と拡散透過を足し合わせた現象)がある。
【0004】
従来、正反射率と(正)透過率を測定するために別々のアクセサリーを用いて相対反射率と絶対透過率を測定してきた。この方法の欠点は各々の測定量の測定精度が異なることである。この問題点を解決するため、透過率測定と反射率測定を統合させた装置を本発明者は開発してきた(特許文献1〜3参照)。
【0005】
物質による光の散乱現象に注目すると、全空間(4π空間)に一様に光が散乱される完全散乱と、ある特定の一部空間に光が散乱される部分散乱がある。前者の完全散乱の例は緩くパッキングされた微小粉末で、後者の例は身の回りに非常に多い。例えばタイル、ペンキの塗られた面、布(縦糸と横糸)、紙面(紙の繊維が網目状になっている)などである。正反射と(正)透過現象を、この部分散乱における「ある特定の一部空間」の極限として見なすことができる。このような例からも、散乱測定のためには、全球散乱(TSS:Total Spherical Scatter)と散乱の異方性(BSDF:Bidirectional Scatter Distribution Function、双方向散乱分布関数)の両方を測ることが必要である。
【0006】
試料からの光散乱の測定分野では、従来技術として積分球を用いる方法とゴニオメーターを用いる方法がある。
【0007】
本発明者は、双楕円型光学系の構造を提案して光学特性測定装置を開発してきた。すでに、双楕円柱面鏡を用いた光学系で、試料の反射率と透過率の測定と共に光散乱を測定できる装置を開発した(特許文献1参照)。この双楕円柱面鏡を用いた光学系は、集光反射手段及び受光反射手段が第1及び第2の楕円柱面鏡によって構成され、第1及び第2の楕円柱面鏡は、中心軸が共通でそれぞれの一つの焦点が一致するようにして、相互の開口部において結合されている。この光学系では、楕円柱面鏡の共通の焦点位置に試料を、残りの2つの焦点位置に切換鏡を配置し、第2の楕円柱面鏡の出射側外部に設けた検出器により測定するものである。
【0008】
また、楕円柱を結合するのではなく、回転楕円体面鏡を2つ結合した構造の光学系を用いて、絶対反射率と絶対透過率を測定する装置を、本発明者は開発した(特許文献2及び3参照)。回転楕円体面鏡を2つ結合した双楕円型光学系の赤道面の断面図を図12に示す。これを装置に組み立てた斜視図を図13に示す。双楕円型光学系の構造を図12、13を参照して説明する。双楕円体面鏡を用いた対称X型光学系(特許文献2参照)は、2個の回転楕円体面鏡E1、E2からなる双楕円体面鏡と、2個のビーム切換鏡RM1、RM2と、試料支持台上の試料1とから構成される。この対称X型光学系は、試料に対する任意の入射角度で入射させる光学配置である。
【0009】
本発明者は、双楕円型光学系の構造の一方の回転楕円体面鏡を所定角回転することが可能な装置を開発して散乱光の異方性の測定を行った(非特許文献1参照)。図14は、拡散透過の測定系における散乱測定の原理を示すものである。双楕円型光学系の構造は、入射側の楕円体面鏡E1と受光側の楕円体面鏡E2を、互いの1つの焦点を共通焦点F0とし、さらに楕円体面鏡E1とE2のそれぞれの残りの焦点をF1とF2とすると、これら3つの焦点が一直線状に並ぶように造られている。図14において、θsは試料に垂直方向からの散乱方向への角度で散乱角度を表す。この測定では、検出器への入射光は検出器の中心を通り検出器の法線方向(図14の一点鎖線)に限られている。φ1は、法線方向と試料面を通る焦点を結ぶ軸となす角度である。楕円体面鏡E2上の点Qと焦点F2、又はF0との距離は、検出器の回転角φ1に依存している。図15は後述するように散乱光の異方性を測定した結果を図示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−257956号公報
【特許文献2】特開2004−45065号公報
【特許文献3】特開2006−234681号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Kawate E.,“Measurement method of optical scatter using a STAR GEM as a scatterometer” In proceedings of the SPIE,vol.7065,2008,706515−1−706515−9
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来の光学特性の検査装置は、透過・反射・散乱の各測定で異なる装置を用いるので測定精度にばらつきがあった。本発明は、光学特性の測定を統合する装置を開発することにより、同じ精度で測定できる装置を開発することを目的とする。例えば、正(Regular)反射(Reflection)測定(RR)、(正)透過測定(RT)と散乱測定(S)を大統合させた新しい測定装置を実現することを目的とする。4π空間への散乱(S)は、入射側の2π空間への拡散反射(DR)と、その後側の2π空間への拡散透過(DT)に分けられる。これらのRR、RT、DRとDTを1台の装置で測定できることを実現するための散乱測定の構造を改良することを目的する。
【0013】
従来の光散乱の測定法である積分球を用いる方法について図16を参照して説明する。図16の(A)は試料に光を入射させないバックグラウンド測定の図であり、(B)は反射測定の図である。積分球の壁面に試料1を貼り付けて、光源Sから出射されて試料1により反射或いは試料を透過した光を球面内部で多重反射させながら光を均一化させて測定している。検出器は紙面に垂直な位置に設置されている。積分球ではRR測定をDR測定に変換して、RT測定をDT測定に変換して測定している。1台の積分球でこれら4種類を測定できるので、積分球はRR、RT、DR、とDTの大統合ができている。しかし、平均化させて測定しているために、散乱の異方性の測定ができないこと、試料への入射角度を変えることができないという欠点があった。また、積分球内部での多重反射のために信号強度が100分の1以下に減衰してしまう欠点があった。強力な光源と、高感度な検出器が利用できる紫外・可視・近赤外領域では、この減衰が問題にならないが、中赤外領域ではS/N比の低下を招いてしまい、積分球を使っての散乱測定ができないという問題があった。
【0014】
従来のゴニオメーターを用いる方法について図17を参照して説明する。図17の(A)は試料を置かないバックグラウンド測定の図であり、(B)は反射測定の図である。ゴニオメーターでは、光源Sからの入射光を固定して、試料1を適当に回転させることで試料への入射角度を可変にしている。ゴニオメーターは、試料表面を一定の見込み角度(例えば10−6sr(sr=ステラジアン))で観測している検出器Dを、試料を中心とした全球面(4π空間)上で移動させながら各点での散乱光強度を測定するものである。このようにゴニオメーターは、散乱の異方性(双方向散乱分布関数)が測定できる装置である。3次元測定のできる代表的ゴニオメーターでは、この全球面を測定するためには、約12,000,000(=4π/10−6)点での測定が必要になる。この1,200万点の信号を足し合わせることで全球散乱が求まり、各々の測定点での信号強度の変化から異方性が求まる。コンピューターの処理能力が高くなった現状でも、検出器を3次元空間で正確に位置と向きをコントロールすることは大変であり、また一つの試料の光照射部分(例えば直径1mmの範囲)を測定(1,200万点)するために莫大な時間を消費する。その上、ゴニオメーター装置は巨大化し非常に高価である。また、試料からの正反射以外の角度に検出器を移動させて測定するので、移動の再現性の誤差により測定誤差が大きかった。このようなゴニオメーターでは、RR、RT、DRとDTの測定の大統合ができている。
【0015】
これら従来の測定法では、被測定物である試料に制約があった。従来の測定法であると、試料形状は通常平面であり、試料の表面状態や大きさにも制約が大きかった。球状や曲面の試料を測定することは不可能であった。また、より感度のよい散乱計が、要望されている。また、光の波長を問わずに、感度のよい散乱計が要望されている。
【0016】
太陽電池の技術分野で利用している光は、200nm〜1μmまでの波長の光であり、それより長波長側の1μm〜50μmの間の光は、太陽電池では利用できていない。この領域の太陽光を効率良く吸収できるデバイスを開発するためには、そのデバイスの表面の拡散反射率を小さくしなければならない。しかし、この測定のために、積分球を用いる方法は先に述べたように使用できない。また、ゴニオメーターを用いる方法では測定時間が長くなりすぎて実用的でない。このために赤外領域で散乱測定のできるデバイスの実現が望まれる。
【0017】
また、DVDの光信号ピックアップ光学系や内視鏡には、マイクロ光学素子(凸レンズ、ボールレンズ、偏光板、1/4波長板、偏光プリズム等々)が使われている。曲率半径の短いレンズは各種光学測定が極めて困難である。拡散反射率や(正)透過率を測定して製品の面精度・面粗さを測定できるようになると、製造工程の測定値をフィードバックできるので標準化した工程確立が可能となる。現状、極小球面レンズの無反射コートの状態を測定することは不可能である。このために、コート釜に直径30mmのモニター用平面ガラスを入れ、モニターの反射率や透過率を分光計で測定して顧客に提出している。しかし、現物を測定してデータを得ることが望まれている。
【0018】
マイクロボールレンズからの散乱光を計測する際の問題点について説明する。マイクロボールレンズの曲率半径が、平行入射ビームの半径より小さいとき、入射光と反射光と透過光の予想分布を図18に示す。図面の右方から入射した平行入射ビームは、マイクロボールレンズ試料表面で、一部は反射されて反射ビームとして後方(右手)に広く分布するとともに、一部は透過して透過ビームとしてマイクロボールレンズ試料の前方に部分的に集中する。図18では、マイクロボールレンズの内部で、レンズと空気との境界面で後方に反射されるビームは省略してある。また、図面の右方から入射した平行入射ビームには、マイクロボールレンズ試料表面の脇を素通りするビームも存在している。マイクロボールレンズ試料表面が理想的な無反射コートの場合には、反射ビームが観測されないはずである。レンズに傷が有る場合には、反射ビームの分布が光軸に対しての同心円的分布からずれる。レンズの形状が球面からずれている場合には、透過ビームの分布が光軸に対しての同心円的分布からずれる。これらは、散乱光の異方性が測定できる散乱計で観測可能である。さらに、マイクロボールレンズの性能は、透過光の強度を測定することで評価できるが、このためには全半球透過が重要な指標になる。このように、マイクロボールレンズの散乱を測定する装置が要望されている。
【0019】
本発明者が開発した従来の装置(図14、非特許文献1参照)は、双回転楕円体面鏡を用いて、散乱光の異方性を測定するための装置である。焦点F2には、鏡RM2の代わりに直接検出器を設置し、検出器2は、焦点F2の周りで検出器の回転角φ1が変化するように回転される。焦点F2には散乱光が集まるので、散乱の異方性を測定するために、検出角度を小さくする必要がある。検出器の直前に、検出器の中心とアパーチャーと20mm離して視野絞り(フィールドストップ)の穴が、検出器の法線に一致して一直線状に並ぶように設置した。この穴の直径を0.9mmとすると、検出角度は8×10−4srになる。この状態で、試料無しでレーザー光線を測定した結果と、試料として擦りガラス散乱板からの散乱光を測定した結果を図15に示す。図15は、レーザービームと散乱板とからの散乱光の散乱角度依存性を示す図である。横軸は散乱角度θsで、縦軸は光の強度であり双方向散乱分布関数を表す。図15に示されるように、入射レーザー光(図中の細線)と比べて、散乱板を透過した光(太線)は散乱角度−5から35度にわたり幅が広がっている。図14の装置での散乱光測定は、入射面内(双回転楕円体面鏡の赤道面内)だけに限られてしまう。レーザー光線も散乱光も入射面外の空間に広がっているはずである。これを測定するためには、図14に示される装置の構成を、検出器と一方の回転楕円面鏡E2の集光系の相対的関係を固定したままで、双回転楕円体面鏡の軸(図中の直線CD)の回りで回転楕円面鏡E2を回転させて、−3度から3度の角度における散乱異方性を測定した。しかし、異方性の測定のみが可能であり、全球散乱を測定することは不可能である。
【0020】
本発明は、これらの問題を解決しようとするものであり、平面から非平面まで被測定物の形状や表面状態の制約がなく、かつ感度の優れた光散乱の全球散乱を測定する光学測定装置及び方法を実現することを目的とするものである。また、従来から開発してきた回転楕円体面鏡で作られた光学特性測定装置の構造に従来とは異なる構成を設けて、RR、RT、DR、とDTを1台の装置で測定できることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、上記目的を達成するために、以下の特徴を有するものである。
【0022】
本発明の光学特性測定装置は、双楕円型光学系の一方の楕円体面鏡を回転させ、回転される楕円体面鏡の焦点に集光する散乱光を検出して被測定物の全球散乱を測定することを特徴とする。また、本発明の前記双楕円型光学系は、第1の楕円体面鏡及び第2の楕円体面鏡の各々の焦点の1つを共通焦点にして結合して、3つの焦点を一軸上に有する光学系であることを特徴とする。
【0023】
本発明の光学特性測定装置は、光入射側の前記第1の楕円体面鏡の焦点に、反射板を備え、前記共通焦点に被測定物を配置し、前記第2の楕円体面鏡の焦点に検出器を配置し、前記第2の楕円体面鏡及び前記検出器を、前記一軸の周りに回転させて、被測定物の全球散乱を測定することを特徴とする。また、前記検出器は、被測定物から散乱されて前記第2の楕円体面鏡により集光される光を検出できる広い検出角度を有することを、特徴とする。また、第2の楕円体面鏡は、厚さが所定の領域で薄い形状としてもよい。
【0024】
本発明の光学特性測定装置は、光入射側の前記第1の楕円体面鏡の焦点に、反射板を備え、前記共通焦点に被測定物を配置し、前記第2の楕円体面鏡の焦点を外した位置に、集光用の光学素子と検出器を配置し、前記第2の楕円体面鏡、前記光学素子及び前記検出器を、前記一軸の周りに回転させて被測定物の全球散乱を測定することを特徴とする。また、前記光学素子は、広角レンズであることを特徴とする。また、前記検出器は、前記第2の楕円体面鏡により焦点に集光されて前記集光用の光学素子により集光される光を検出することを特徴とする。
【0025】
本発明の光学特性測定装置は、カーボンナノチューブからなる試料ホルダーを備えることを特徴とする。
【0026】
本発明の光学特性測定装置は、異方性散乱測定を行うときには、検出器の検出角度を制限する光学素子を検出器の前面にさらに設けることを特徴とする。
【0027】
本発明の光学特性測定方法は、双楕円型光学系の一方の楕円体面鏡を回転させ、回転される楕円体面鏡の焦点に集光する散乱光を検出して被測定物の全球散乱を測定することを特徴とする。前記検出は、前記回転される楕円体面鏡の焦点に設けた検出器により検出することを特徴とする。あるいは、前記検出は、前記回転される楕円体面鏡の焦点を外した位置に設けた集光用の光学素子と検出器により検出することを特徴とする。また、本発明の光学特性測定方法において、被測定物の全球散乱測定に加えて異方性散乱測定を行うときには、検出器の検出角度を制限する光学素子を検出器の前面に設けて、測定を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
本発明では、双楕円型光学系の一方の楕円型面鏡を軸の周りに回転させて散乱光を全球散乱測定することにより、従来のゴニオメーターの100倍以上の信号強度が得られる。双楕円型光学系の焦点又は焦点近傍の焦点を外した位置に検出器を配置して、試料で散乱されて楕円型面鏡で反射された光が全て該検出器に集光するようにしているため、検出器の回転角φ1を変える必要がなく、一軸の周りに回転するのみであるから、高精度の測定を行える。また、検出器にアパーチャー等の検出角度を制限する光学素子を設けることにより、被測定物の異方性の散乱の測定も可能となり、全球散乱と異方性散乱とを1つの装置で統合して測定できる。従来感度の低かった波長の光でも高感度で散乱率を測定できる。また、被測定物として平面の基板だけでなく、非平面からの散乱を測定できるので、球状や曲面の形状の試料を測定対象にできる。
【0029】
本発明の装置は、楕円型光学系の焦点に直接検出器を配置するので、簡単な構造で感度のよい全球散乱を測定できる。一方、楕円型光学系の焦点を外した位置に、集光用の光学素子と検出器を配置する装置では、検出器の影による影響をなくすことができる。また、回転する楕円体面鏡の厚さを一部薄くすることにより、検出感度を一様にでき、高性能な測定ができる。さらに、試料ホルダーとしてカーボンナノチューブを用いると、試料ホルダーによる散乱が被測定物の散乱の測定に影響を与えないので、精度のよい測定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施の形態1を説明する図。
【図2】本発明の実施の形態1の装置の斜視図。
【図3】本発明の実施の形態1の装置の側面図。
【図4】本発明の散乱光分布の測定方法を説明する図。
【図5】試料からの拡散反射光を測定した結果を表す図。
【図6】各種試料の拡散反射測定の結果を示す図。
【図7】マイクロボールレンズからの散乱光の空間分布を示す図。
【図8】実施の形態2を説明する図。
【図9】一定入射光に対する角度依存性を示す図。(A)は検出器の回転角φ1依存性を示す図。(B)は受光角度φ依存性を示す図。
【図10】実施の形態3を説明する図。
【図11】実施の形態4を説明する図。
【図12】従来技術の双楕円型光学系の赤道面の断面図。
【図13】従来技術の双楕円型光学系装置を示す斜視図。
【図14】従来技術の散乱測定の原理を示す図。
【図15】従来技術の測定結果を示す図。
【図16】従来技術の積分球を用いる方法を示す図。(A)はバックグラウンド測定の図で、(B)は反射測定の図。
【図17】従来技術のゴニオメーターを用いる方法を示す図。(A)はバックグラウンド測定の図で、(B)は反射測定の図。
【図18】マイクロボールレンズの入射光と反射光と透過光の予想分布図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0032】
(実施の形態1)
試料からの散乱光を計測するための光学特性測定装置に関して、その代表的な構造及び評価結果等について説明する。図1は、実施の形態1の代表的な構成を模式的に示す断面図である。
【0033】
図1に示すように、実施の形態1の装置は、双楕円型光学系の構造の一方の楕円体面鏡を回転させる構成を備え、回転される楕円体面鏡の焦点に集光する散乱光を検出する構成を備えている。
【0034】
双楕円型光学系は、二つの回転楕円体面鏡E1、E2を、夫々の回転軸が同軸上にあるように互いに隣接して配置したもので、この二つの回転楕円体面鏡E1とE2とを、夫々互いに近接した焦点F0を含み回転軸に垂直の面において切断して、夫々の切断面ABが一致するように接続して構成されたものである。回転楕円体面鏡は内部を鏡面に仕上げたものである。光入射側の楕円体面鏡E1と受光側の楕円体面鏡E2を、互いの1つの焦点を共通焦点F0とし、さらに回転楕円体面鏡E1とE2のそれぞれの残りの焦点をF1とF2とすると、これら3つの焦点が一直線状(図1の直線CD)に並ぶ。3つの焦点を結ぶ直線CDを「双楕円体面鏡の軸」と呼ぶ。この直線は上記二つの回転楕円体面鏡E1、E2の回転軸と一致し、双楕円体面鏡の回転軸でもある。この軸と回転楕円体面鏡E1とE2の交点には、入射用透孔C及び孔Dの2つの透孔が形成されている。上記軸上に入射用透孔Cに入射する外部の光源部が配置されている。焦点F1には、ビーム回転鏡3が取り付けられ、共通焦点F0には試料(被測定物)1が取り付けられている。光軸上を進んできた光を、入射用透孔Cを通して双楕円面鏡内部に取り込むと、この光はビーム回転鏡3に達する。この双楕円体面鏡構造では、ビーム回転鏡3を適当に回転することで、試料への任意の入射角度を実現できる。適当に回転したビーム回転鏡3で反射された光は、楕円体面鏡E1でさらに反射され、共通焦点F0上の試料1に入射する。この試料1で反射された光は、楕円体面鏡E2で反射されて焦点F2に集光する。
【0035】
本実施の形態の装置は、双回転楕円体面鏡からなり、試料が共通焦点に置かれているので、試料から発生した散乱光を、他方の焦点に集光させる機能(積分機能)がある。本発明は、この機能を利用して全球散乱(TSS)測定を行うものである。本実施の形態1では、図1のように、楕円体面鏡E2の焦点F2に直接検出器2を設置し、この検出器2は焦点F2に固定されている。全散乱を測定するために、検出器にはアパーチャーやフィールドストップをつけない。よって、試料から発生した散乱光は、楕円体面鏡で反射されて検出器に積分的に集光される。例えば、入射レーザー光線の試料への入射角度を10度、検出器の回転角φ1(図1)(φ1は、法線方向と試料面を通る焦点を結ぶ軸となす角度である。)を100度に固定する。光源としてレーザーを用いているが、レーザー光に限らない。光源として、分光光度計のD2ランプ、ハロゲンランプ、セラミックランプ、水銀ランプ等を用いることができる。また、波長0.2μm〜500μmの光を用いることができる。
【0036】
図2は、本発明の装置において、楕円体面鏡E2を方位角度ψ回転したときの斜視図を模式的に示した図である。また、図3は、楕円体面鏡E2を方位角度ψ回転したとき本発明の装置を左から見た側面図である。本発明の装置では、2つの回転楕円体面鏡E1E2は、2つの焦点を結ぶ軸を含む水平面から上下に等距離はなれた面に沿って切り落とされた形状である。上下の面の厚さは、例えば40mmである。楕円面鏡の長径と短径がそれぞれ約60mmと50mmである装置を作成した。光入射側の回転楕円体面鏡E1は、図2ないし3の図では垂直に固定されている状態であるが、水平、垂直、任意の角度で全体装置に固定することができる。
【0037】
本発明の特徴である、一方の楕円体面鏡を回転させる構成について詳しく説明する。図4は、本発明の散乱光分布の測定方法を説明する図である。本発明では、図4のように、測定面の回転により全球散乱測定を行う。試料の試料面において反射された散乱光は入射面ばかりではなくて、入射面外にも散乱される。図4には、光の入射面に対して方位角度ψ回転した測定面上の散乱光分布の様子を図示している。光入射面から方位角度ψ回転した測定面上の散乱光は、楕円体面鏡E2で反射されて焦点F2に集光して検出器により検出されるので、測定面上の散乱光を積分的に測定することができる。さらに、楕円体面鏡E2を、楕円体面鏡E1に対して、双楕円面鏡の軸の周りに回転させることにより、光入射面以外の任意の測定面における散乱光分布を、焦点F2に集光して検出器により検出するものである。本実施の形態1では、焦点F2に直接検出器を設置している。全球散乱を測定するためには、測定面を入射面の周りでψ=−180度以下から+180度以上まで回転させる。本実施の形態1の装置は、図1のような構造を備えて、回転楕円体面鏡E2のみを双楕円体面鏡の軸の周りで、360度以上回転させる機構を備えている。また、回転楕円体面鏡E2のみを双楕円体面鏡の軸の周りで回転するので、回転楕円体面鏡E2の形状は、図1から3に図示されるB〜D〜A〜F0〜Bの形状でなくとも、双楕円体面鏡の軸で切断したB〜D〜F0〜Bの形状でも十分である。また、回転楕円体面鏡E1の形状は、図1から3に図示されるB〜C〜A〜F0〜Bの形状でなくとも、双楕円体面鏡の軸で切断したB〜C〜F0〜Bの形状でも十分である。このように、回転楕円体面鏡E1とE2の形状は、焦点F0F1F2に光を集光できる機能を有する範囲で、回転楕円体面の部分構造でよい。
【0038】
本実施の形態1の装置を用いて被測定物として次の試料の測定を行った。試料として、アルミミラー(鏡面反射)とスペクトラロン(標準散乱体)を用いて測定した。図5は、アルミミラー試料とスペクトラロン試料からの拡散反射光を測定した結果を表す。図5において、横軸は楕円体面鏡E2のE1に対する方位角度ψで、縦軸は拡散反射光強度である。なお、図5の方位角度0の位置は、図4の入射面と測定面が一致した位置である。アルミミラーの拡散反射光強度(細線)は、方位角度ψが−23度から+23度の範囲で約46度の方位角度幅を持っていることがわかる。これは、回転楕円体面鏡E2の厚さが40mmためである。この信号の立ち上がりが鋭いのは、鏡面反射のためである。一方、スペクトラロン(太線)は標準散乱体であり全方向に散乱光を発生させているので、なだらかな山をもつ光強度分布になっている。この図5では高さを5倍してある。図5において、拡散反射光強度(点線)の曲線で囲まれた全面積は、アルミミラーの場合6020.05であった。図1の装置で試料無し(アルミミラー無し)のバックグラウンド測定をした結果、拡散反射光強度の曲線で囲まれた全面積は、6300.90であった。アルミミラーの反射率が曲線で囲まれた面積の比で求まると仮定すると、RR=6020.05/6300.90=0.955と得られる。この値を、従来のアルミミラーの反射率約0.9と比較すると、対称X型光学系の測定方法を取り入れていないことを考慮すると、ほぼ一致しているといえる。
【0039】
同じ方法でスペクトラロンの拡散反射率を求めると、DR=1954.17/6300.90=0.310と得られる。このスペクトラロンの拡散反射率は0.99であることが知られている。ここで、スペクトラロンからの散乱光は、半球側(2π空間)へ反射することを考慮する必要がある。また、図1の測定系では回転楕円体面鏡E2だけを回転させているので1/4球空間(π空間)だけを測っていることになる。これを考慮するとスペクトラロンの拡散反射率は0.310×2=0.620となる。まだ37%小さいが、さらに、絶対(拡散)反射率を求めるには、散乱光の検出を確実にすることで、精度をあげることができる。
【0040】
図6に、各種試料の拡散反射測定の結果を示す。本実施の形態1の装置により、スペクトラロン(線61)、タイル(線62)、黒色化鉄(線63)、カーボンナノチューブ(線64)を測定した場合の拡散反射光強度測定の結果が得られた。スペクトラロン(線61)は全面積が1954.17、タイル(線62)は全面積が936.05、黒色化鉄(線63)は全面積が146.56、カーボンナノチューブ(線64)は全面積が0.094であった。先にスペクトラロン試料による絶対(拡散)反射率を求めてあるので、スペクトラロンに対する各試料の相対反射率を求めると、タイル、黒色化鉄、カーボンナノチューブは、それぞれ0.479、0.075、4.8×10−5であった。カーボンナノチューブの値が1桁小さいことを除けば、残りの試料の相対反射率は10%以内で一致している。これらの各測定の所要時間は20分であったが、今後さらに短縮することが可能である。
【0041】
本実施の形態1の装置を用いて、直径2mmの球状のルビー製マイクロボール(球小球)レンズの散乱測定を行った。図7に測定結果を示す。図7は、ルビー製マイクロボールレンズからの拡散光と照射レーザービームの空間分布を示している。照射レーザービームの空間分布であるバックグラウンド信号(図で実線)のピークとほぼ一致した位置に拡散透過信号(点線)が現れて、そのピークから180度ずれたところに、拡散反射信号が現れている。この結果はマイクロボールレンズの図18の予想と定性的に良く一致している。この測定では、極小球レンズを固定するために、1mmのプラス皿ネジの十字の切れ込みのところへ接着剤で球を固定した。
【0042】
従来の積分球を用いた測定では、試料を積分球の側面に接着させて測定しているため、拡散反射測定では、図16(B)のように積分球の内部を向いた半球への反射を測定していた。一方積分球を使った透過反射測定では、図16(B)の試料1を光源S側の積分球の側面に接着させて透過光の積分球の内部を向いた半球への透過を測定していた。これに対して、本発明の装置では、E2を回転することで焦点F0に置いた試料で反射された光と透過した光の両方を測れるわけである。本発明は、このように試料で反射された光と透過した光の両方を測れる全球散乱の測定方法である。
【0043】
(実施の形態2)
本実施の形態2も実施の形態1と同様、双楕円型光学系の構造の一方の楕円体面鏡を回転させる構成を備え、回転される楕円体面鏡の焦点に集光する散乱光を検出する構成を備えている。本実施の形態2では、回転される楕円体面鏡E2を図8のような形状にした。実施の形態2では、楕円体面鏡E2の厚さを一定に保つのではなくて図8に示すように場所により変化させることを特徴としている。楕円体面鏡E2の所定の領域に、厚さを徐々に減少させた領域を設けている。
【0044】
実施の形態2を理解するために、実施の形態1の装置を用いて実際に測定した際における問題をまず説明する。図9(A)は一定入射光に対する信号強度の検出器の回転角φ1依存性を示す図である。また図9(B)は一定入射光に対する信号強度の受光角度φ依存性を示す図である。図9(A)は、外部光源からの一定強度の細いビームを、焦点F1の反射鏡、E1楕円面、焦点F0のアルミミラー、E2楕円面と反射させて、焦点F2の検出器で検出している。焦点F1の反射鏡の角度を変えることで、ビームをE2楕円面の赤道面上をスキャンさせ、そのビームを焦点F2の回りで回転できるように設置した検出器で測定した。検出器は各点で最大信号を測定できるように微小に回転を調整しながら最大信号強度を測定した。この結果を図9(A)の丸印で示す。横軸は焦点F2の検出器の回転角であり、縦軸は信号強度である。信号強度は検出器の回転角により異なっている。
【0045】
図9(A)の丸印の結果には、アルミミラーの反射率が入射角度により変化することを考慮してある。図9(A)で40度のところが楕円体面鏡E1とE2の結合部分(AB面)であるので、信号はこれ以上の角度で出現する。楕円体面鏡E2の左端D点(図1)の軸周りの直径15mmの孔の縁が、検出器の法線方向と一致する角度は176度であり、この角度まで信号を測定できるはずであるが、実際は150度以上では信号を観測できない。これは、焦点F2に置いた検出器の一部が影になるためである(この測定では検出器をF2焦点の周りで回転させている)。この結果から、2つのさらなる課題があることがわかる。第1は、信号強度が0.48〜0.78の間で変化していて、楕円面への入射光量に比例した信号強度になっていないことである。第2は、150度〜176度の間で検出器が影を作っていることである。第1の課題の解決策が本実施の形態2である。実施の形態1の回転楕円体面鏡の厚さが一定であるのに対して、本実施の形態2では、図8に示すように、信号強度(感度)に応じてこの幅を変化させる形状とすることで解決した。つまり、信号強度の大きいところでは、楕円体面鏡の厚さを薄くし、信号強度の小さいところでは、楕円体面鏡の厚さを厚くして、楕円体面鏡E2を回転させたときに、どの検出器の回転角でも信号強度が一定になるように調整した。また、詳しい形状は、光線追跡ソフトを使い形状を求めることができる。
【0046】
実施の形態1のように楕円体面鏡の厚さが一定であると、検出器の測定結果が散乱光の入射角によりばらつきが生じている(図9(A)参照)ので、検出器の欠点を補うためには、楕円体面鏡の厚さを場所により変化させることが有効である。例えば、図8の、幅wを166mm、軸方向の長さlを99mm、厚さhを40mm、最小厚さ25mm(=40×0.48÷0.78)の形状のものを作成した。
【0047】
(実施の形態3)
本実施の形態3は、実施の形態1と同様、双楕円型光学系の構造の一方の楕円体面鏡を回転させる構成を備え、回転される楕円体面鏡の焦点に集光する散乱光を検出する構成を備えている。図10は、本実施の形態3を示す図である。実施の形態1では、回転される楕円体面鏡の焦点に直接検出器を配置したが、本実施の形態3では、焦点F2には検出器を配置せずに、焦点を外した位置に広角レンズ4等の集光用の光学素子を配置して、光学素子を介して検出器2に入射させることを特徴とする。
【0048】
実施の形態3を理解するために、実施の形態1の装置を用いて実際に測定した際における問題を以下説明する。実施の形態1においては、焦点F2に直接配置した検出器へ、双楕円体面鏡の接合面からD点の孔の縁までの広い角度の光が入射する。この検出器に入射する光の双楕円体面鏡の軸からの角度を受光角度(φ)と呼ぶ。図1にこのφも示してある。双楕円体面鏡の接合面(AB面でφ=40度)からD点の孔の縁(φ=176度)までの広い角度の入射光に対して検出器の信号強度は一定でない。例えば、使用する検出器は、検出面が3mm角のフォトダイオードである。136(=176−40)度もの広角に対する検出器の出力の一様性を検査した。検出器の回転角φ1を100度に固定して、焦点F1の反射鏡の角度を変えることで、ビームをE2楕円面の赤道面上をスキャンさせ、検出器の出力結果を図9(B)の実線(φ1=100度)で示す。検出器が光を受光できる角度の範囲は約60度程度であることがわかる。また、図9(A)に図示され実施の形態2の項で説明したように、特に150度〜176度の間で検出器が影を作っている。この図9(B)の点線は、検出器単体の出力信号の受光角度依存性である。実測の曲線と点線は似た傾向を表していて、検出器の性能によっている。
【0049】
これらを解決するために、本実施の形態3のように広角レンズからなる新たな光学系を設けることにより広い角度で精度の良い検出が可能となる。広角レンズからなる光学系を設けることにより、検出器が光を受光する角度を60度以下に押さえ込むことができる。さらにこのレンズが影を作らないように注意すれば、受光角度φ40度〜176度の範囲の信号を検出器に集めることができる。実施の形態1でスペクトラロン試料に関する測定では得られた絶対拡散反射率が37%も小さかったが、これは検出器が136度の広い角度からの散乱光を受光すべきところを約60度の範囲からの散乱光しか受光していなかったことも一つの原因と考えられる。よってスペクトラロン試料の測定においても本実施の形態の装置により測定するとさらに精度の良い検出が可能である。全球散乱を測定する場合には、拡散反射や拡散透過のみならず正反射や正透過を実質的に測定しているともいえるので、実施の形態1或いは形態2或いは形態3の装置により、拡散反射(DR)測定、拡散透過(DT)測定、正反射(RR)測定、正透過(RT)測定を、一台の双楕円体面鏡光学系の装置で全て測定できるようになる。
【0050】
(実施の形態4)
本実施の形態4も実施の形態1と同様、双楕円型光学系の構造の一方の楕円体面鏡を回転させる構成を備え、回転される楕円体面鏡の焦点に集光される散乱光を検出する構成を備えている。実施の形態4では、実施の形態1の装置において、散乱の異方性を測定できるようにするために、検出器の前面に、さらに光学素子を設けて検出器の受光する検出角度を小さく制限することを特徴としている。
【0051】
実施の形態4を図11を参照して説明する。図11は、本発明の装置において散乱の異方性を測定するための構造を示す図である。図11に図示されるように、点線で示されるさまざまな散乱角θsの散乱光は、楕円体面鏡E2で反射されて検出器に入射する。ここで散乱の異方性を測定するためには、回転楕円体面鏡の積分機能のために焦点F2に集まる散乱光を分解して測定しなければならない。そこで、散乱光を分解するために、検出器の前面にアパーチャー5とフィールドストップ(視野絞り)6からなる光学素子を設けて、検出器の受光可能な検出角度を小さく制限した。検出器とアパーチャーとフィールドストップからなる系(検出器系と呼ぶ)を、焦点F2の周りで回転させることで、楕円体面鏡E2面上の散乱の異方性、即ち、図11の点線の1つずつに相当する散乱を測定できる。この場合も、散乱は入射面外にも存在するために、楕円体面鏡E2を双楕円体面鏡の軸の周りでも回転させ、方位角方向においても測定する。
【0052】
(実施の形態5)
実施の形態1から4においては、従来の光学測定で用いられている公知の試料台や試料ホルダーを用いることができる。実施の形態5は、本発明の実施にあたり試料としてマイクロ光学素子を測定する際に特に適する試料ホルダーを提供するものである。
【0053】
マイクロ光学素子の大きさは、直径1mm〜5mm程度であり、この素子の散乱測定を行うためには、微小なマイクロ光学素子を簡便にセットできる試料ホルダーが必要である。さらに、全球散乱と散乱の異方性の測定においては、試料ホルダーに起因する反射光や散乱光の影響が無視できないので、極低反射率の材料を選定して試料ホルダーを製作しなければならない。
【0054】
本実施の形態5では、シリコン基板上に成長させたカーボンナノチューブを試料ホルダーに使う。試料は試料ホルダー上に置くとよい。カーボンナノチューブの反射率は測定すべき光学素子より3桁小さく、さらに光が透過しないという利点がある。さらに、極小球の半径より少し小さい穴をシリコン基板にあけて、その上にカーボンナノチューブを成長させれば、カーボンナノチューブに凹部ができるので、試料ホルダーとして、試料を容易に固定できるのでより望ましい。
【0055】
以上、本実施の形態1から5に示した本発明の装置は、次のような優れた性能を得られた。積分球やゴニオメーターによる測定では部分的にのみ可能であった、全球散乱測定・散乱の異方性測定・散乱の入射角度依存性測定・低反射試料の散乱測定の全測定ができるようになった。また、測定の信号強度は、ゴニオメーターを基準の1としたとき、積分球方式では、1/100以下であったのに対して、本発明の装置では、100倍であった。これは、本発明によれば、回転楕円体面鏡による積分機能のために増加させることができたからである。また、全球散乱測定をするのに要する測定時間は、積分球では5分、ゴニオメーターでは100日であったのに対して、本発明の装置では、20分であった。また、ゴニオメーターは、装置が大きく全自動測定のために必要なパルスモーターが6台必要であるのに対して、本発明の装置は、小型で、必要なパルスモーターが4台ですみ、さらに高精度の測定が可能となった。
【0056】
上記実施の形態等で示した例は、発明を理解しやすくするために記載したものであり、この形態に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の装置は、試料からの散乱光を測定するものであるので、従来の半導体ウエハー等の試料のみならず、多様な散乱面の状態を測定する場合に有用である。また、本発明の装置は、従来の光学測定の対象であった平面試料の他に、従来困難であった非平面からの散乱測定に有用である。
【符号の説明】
【0058】
1、試料
2、検出器
3、反射鏡
4、広角レンズ
5、アパーチャー
6、フィールドストップ
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料などの被測定物に光を入射させ、試料からの散乱光の光強度を測定可能な、感度の優れた光学特性測定装置及び測定方法に関する。また、被測定物の全球散乱を測定するとともに、異方性も測定することができる統合された装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体など電子部品の製造やナノテクノロジー分野での精密計測において、光学特性検査装置の測定精度の向上が望まれている。
【0003】
光を物質に入射した際の光と物質との相互作用を考えると、物質による正反射、拡散反射、(正)透過、拡散透過、そして光吸収の5種類に分類できる。すなわち、反射と透過現象に関しては、入射角度と反射角度が等しい正反射と、入射角度と透過光の角度が等しい(正)透過と、一つの入射角度に対して反射光や透過光が広い空間に発生する散乱(拡散反射と拡散透過を足し合わせた現象)がある。
【0004】
従来、正反射率と(正)透過率を測定するために別々のアクセサリーを用いて相対反射率と絶対透過率を測定してきた。この方法の欠点は各々の測定量の測定精度が異なることである。この問題点を解決するため、透過率測定と反射率測定を統合させた装置を本発明者は開発してきた(特許文献1〜3参照)。
【0005】
物質による光の散乱現象に注目すると、全空間(4π空間)に一様に光が散乱される完全散乱と、ある特定の一部空間に光が散乱される部分散乱がある。前者の完全散乱の例は緩くパッキングされた微小粉末で、後者の例は身の回りに非常に多い。例えばタイル、ペンキの塗られた面、布(縦糸と横糸)、紙面(紙の繊維が網目状になっている)などである。正反射と(正)透過現象を、この部分散乱における「ある特定の一部空間」の極限として見なすことができる。このような例からも、散乱測定のためには、全球散乱(TSS:Total Spherical Scatter)と散乱の異方性(BSDF:Bidirectional Scatter Distribution Function、双方向散乱分布関数)の両方を測ることが必要である。
【0006】
試料からの光散乱の測定分野では、従来技術として積分球を用いる方法とゴニオメーターを用いる方法がある。
【0007】
本発明者は、双楕円型光学系の構造を提案して光学特性測定装置を開発してきた。すでに、双楕円柱面鏡を用いた光学系で、試料の反射率と透過率の測定と共に光散乱を測定できる装置を開発した(特許文献1参照)。この双楕円柱面鏡を用いた光学系は、集光反射手段及び受光反射手段が第1及び第2の楕円柱面鏡によって構成され、第1及び第2の楕円柱面鏡は、中心軸が共通でそれぞれの一つの焦点が一致するようにして、相互の開口部において結合されている。この光学系では、楕円柱面鏡の共通の焦点位置に試料を、残りの2つの焦点位置に切換鏡を配置し、第2の楕円柱面鏡の出射側外部に設けた検出器により測定するものである。
【0008】
また、楕円柱を結合するのではなく、回転楕円体面鏡を2つ結合した構造の光学系を用いて、絶対反射率と絶対透過率を測定する装置を、本発明者は開発した(特許文献2及び3参照)。回転楕円体面鏡を2つ結合した双楕円型光学系の赤道面の断面図を図12に示す。これを装置に組み立てた斜視図を図13に示す。双楕円型光学系の構造を図12、13を参照して説明する。双楕円体面鏡を用いた対称X型光学系(特許文献2参照)は、2個の回転楕円体面鏡E1、E2からなる双楕円体面鏡と、2個のビーム切換鏡RM1、RM2と、試料支持台上の試料1とから構成される。この対称X型光学系は、試料に対する任意の入射角度で入射させる光学配置である。
【0009】
本発明者は、双楕円型光学系の構造の一方の回転楕円体面鏡を所定角回転することが可能な装置を開発して散乱光の異方性の測定を行った(非特許文献1参照)。図14は、拡散透過の測定系における散乱測定の原理を示すものである。双楕円型光学系の構造は、入射側の楕円体面鏡E1と受光側の楕円体面鏡E2を、互いの1つの焦点を共通焦点F0とし、さらに楕円体面鏡E1とE2のそれぞれの残りの焦点をF1とF2とすると、これら3つの焦点が一直線状に並ぶように造られている。図14において、θsは試料に垂直方向からの散乱方向への角度で散乱角度を表す。この測定では、検出器への入射光は検出器の中心を通り検出器の法線方向(図14の一点鎖線)に限られている。φ1は、法線方向と試料面を通る焦点を結ぶ軸となす角度である。楕円体面鏡E2上の点Qと焦点F2、又はF0との距離は、検出器の回転角φ1に依存している。図15は後述するように散乱光の異方性を測定した結果を図示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−257956号公報
【特許文献2】特開2004−45065号公報
【特許文献3】特開2006−234681号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Kawate E.,“Measurement method of optical scatter using a STAR GEM as a scatterometer” In proceedings of the SPIE,vol.7065,2008,706515−1−706515−9
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来の光学特性の検査装置は、透過・反射・散乱の各測定で異なる装置を用いるので測定精度にばらつきがあった。本発明は、光学特性の測定を統合する装置を開発することにより、同じ精度で測定できる装置を開発することを目的とする。例えば、正(Regular)反射(Reflection)測定(RR)、(正)透過測定(RT)と散乱測定(S)を大統合させた新しい測定装置を実現することを目的とする。4π空間への散乱(S)は、入射側の2π空間への拡散反射(DR)と、その後側の2π空間への拡散透過(DT)に分けられる。これらのRR、RT、DRとDTを1台の装置で測定できることを実現するための散乱測定の構造を改良することを目的する。
【0013】
従来の光散乱の測定法である積分球を用いる方法について図16を参照して説明する。図16の(A)は試料に光を入射させないバックグラウンド測定の図であり、(B)は反射測定の図である。積分球の壁面に試料1を貼り付けて、光源Sから出射されて試料1により反射或いは試料を透過した光を球面内部で多重反射させながら光を均一化させて測定している。検出器は紙面に垂直な位置に設置されている。積分球ではRR測定をDR測定に変換して、RT測定をDT測定に変換して測定している。1台の積分球でこれら4種類を測定できるので、積分球はRR、RT、DR、とDTの大統合ができている。しかし、平均化させて測定しているために、散乱の異方性の測定ができないこと、試料への入射角度を変えることができないという欠点があった。また、積分球内部での多重反射のために信号強度が100分の1以下に減衰してしまう欠点があった。強力な光源と、高感度な検出器が利用できる紫外・可視・近赤外領域では、この減衰が問題にならないが、中赤外領域ではS/N比の低下を招いてしまい、積分球を使っての散乱測定ができないという問題があった。
【0014】
従来のゴニオメーターを用いる方法について図17を参照して説明する。図17の(A)は試料を置かないバックグラウンド測定の図であり、(B)は反射測定の図である。ゴニオメーターでは、光源Sからの入射光を固定して、試料1を適当に回転させることで試料への入射角度を可変にしている。ゴニオメーターは、試料表面を一定の見込み角度(例えば10−6sr(sr=ステラジアン))で観測している検出器Dを、試料を中心とした全球面(4π空間)上で移動させながら各点での散乱光強度を測定するものである。このようにゴニオメーターは、散乱の異方性(双方向散乱分布関数)が測定できる装置である。3次元測定のできる代表的ゴニオメーターでは、この全球面を測定するためには、約12,000,000(=4π/10−6)点での測定が必要になる。この1,200万点の信号を足し合わせることで全球散乱が求まり、各々の測定点での信号強度の変化から異方性が求まる。コンピューターの処理能力が高くなった現状でも、検出器を3次元空間で正確に位置と向きをコントロールすることは大変であり、また一つの試料の光照射部分(例えば直径1mmの範囲)を測定(1,200万点)するために莫大な時間を消費する。その上、ゴニオメーター装置は巨大化し非常に高価である。また、試料からの正反射以外の角度に検出器を移動させて測定するので、移動の再現性の誤差により測定誤差が大きかった。このようなゴニオメーターでは、RR、RT、DRとDTの測定の大統合ができている。
【0015】
これら従来の測定法では、被測定物である試料に制約があった。従来の測定法であると、試料形状は通常平面であり、試料の表面状態や大きさにも制約が大きかった。球状や曲面の試料を測定することは不可能であった。また、より感度のよい散乱計が、要望されている。また、光の波長を問わずに、感度のよい散乱計が要望されている。
【0016】
太陽電池の技術分野で利用している光は、200nm〜1μmまでの波長の光であり、それより長波長側の1μm〜50μmの間の光は、太陽電池では利用できていない。この領域の太陽光を効率良く吸収できるデバイスを開発するためには、そのデバイスの表面の拡散反射率を小さくしなければならない。しかし、この測定のために、積分球を用いる方法は先に述べたように使用できない。また、ゴニオメーターを用いる方法では測定時間が長くなりすぎて実用的でない。このために赤外領域で散乱測定のできるデバイスの実現が望まれる。
【0017】
また、DVDの光信号ピックアップ光学系や内視鏡には、マイクロ光学素子(凸レンズ、ボールレンズ、偏光板、1/4波長板、偏光プリズム等々)が使われている。曲率半径の短いレンズは各種光学測定が極めて困難である。拡散反射率や(正)透過率を測定して製品の面精度・面粗さを測定できるようになると、製造工程の測定値をフィードバックできるので標準化した工程確立が可能となる。現状、極小球面レンズの無反射コートの状態を測定することは不可能である。このために、コート釜に直径30mmのモニター用平面ガラスを入れ、モニターの反射率や透過率を分光計で測定して顧客に提出している。しかし、現物を測定してデータを得ることが望まれている。
【0018】
マイクロボールレンズからの散乱光を計測する際の問題点について説明する。マイクロボールレンズの曲率半径が、平行入射ビームの半径より小さいとき、入射光と反射光と透過光の予想分布を図18に示す。図面の右方から入射した平行入射ビームは、マイクロボールレンズ試料表面で、一部は反射されて反射ビームとして後方(右手)に広く分布するとともに、一部は透過して透過ビームとしてマイクロボールレンズ試料の前方に部分的に集中する。図18では、マイクロボールレンズの内部で、レンズと空気との境界面で後方に反射されるビームは省略してある。また、図面の右方から入射した平行入射ビームには、マイクロボールレンズ試料表面の脇を素通りするビームも存在している。マイクロボールレンズ試料表面が理想的な無反射コートの場合には、反射ビームが観測されないはずである。レンズに傷が有る場合には、反射ビームの分布が光軸に対しての同心円的分布からずれる。レンズの形状が球面からずれている場合には、透過ビームの分布が光軸に対しての同心円的分布からずれる。これらは、散乱光の異方性が測定できる散乱計で観測可能である。さらに、マイクロボールレンズの性能は、透過光の強度を測定することで評価できるが、このためには全半球透過が重要な指標になる。このように、マイクロボールレンズの散乱を測定する装置が要望されている。
【0019】
本発明者が開発した従来の装置(図14、非特許文献1参照)は、双回転楕円体面鏡を用いて、散乱光の異方性を測定するための装置である。焦点F2には、鏡RM2の代わりに直接検出器を設置し、検出器2は、焦点F2の周りで検出器の回転角φ1が変化するように回転される。焦点F2には散乱光が集まるので、散乱の異方性を測定するために、検出角度を小さくする必要がある。検出器の直前に、検出器の中心とアパーチャーと20mm離して視野絞り(フィールドストップ)の穴が、検出器の法線に一致して一直線状に並ぶように設置した。この穴の直径を0.9mmとすると、検出角度は8×10−4srになる。この状態で、試料無しでレーザー光線を測定した結果と、試料として擦りガラス散乱板からの散乱光を測定した結果を図15に示す。図15は、レーザービームと散乱板とからの散乱光の散乱角度依存性を示す図である。横軸は散乱角度θsで、縦軸は光の強度であり双方向散乱分布関数を表す。図15に示されるように、入射レーザー光(図中の細線)と比べて、散乱板を透過した光(太線)は散乱角度−5から35度にわたり幅が広がっている。図14の装置での散乱光測定は、入射面内(双回転楕円体面鏡の赤道面内)だけに限られてしまう。レーザー光線も散乱光も入射面外の空間に広がっているはずである。これを測定するためには、図14に示される装置の構成を、検出器と一方の回転楕円面鏡E2の集光系の相対的関係を固定したままで、双回転楕円体面鏡の軸(図中の直線CD)の回りで回転楕円面鏡E2を回転させて、−3度から3度の角度における散乱異方性を測定した。しかし、異方性の測定のみが可能であり、全球散乱を測定することは不可能である。
【0020】
本発明は、これらの問題を解決しようとするものであり、平面から非平面まで被測定物の形状や表面状態の制約がなく、かつ感度の優れた光散乱の全球散乱を測定する光学測定装置及び方法を実現することを目的とするものである。また、従来から開発してきた回転楕円体面鏡で作られた光学特性測定装置の構造に従来とは異なる構成を設けて、RR、RT、DR、とDTを1台の装置で測定できることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、上記目的を達成するために、以下の特徴を有するものである。
【0022】
本発明の光学特性測定装置は、双楕円型光学系の一方の楕円体面鏡を回転させ、回転される楕円体面鏡の焦点に集光する散乱光を検出して被測定物の全球散乱を測定することを特徴とする。また、本発明の前記双楕円型光学系は、第1の楕円体面鏡及び第2の楕円体面鏡の各々の焦点の1つを共通焦点にして結合して、3つの焦点を一軸上に有する光学系であることを特徴とする。
【0023】
本発明の光学特性測定装置は、光入射側の前記第1の楕円体面鏡の焦点に、反射板を備え、前記共通焦点に被測定物を配置し、前記第2の楕円体面鏡の焦点に検出器を配置し、前記第2の楕円体面鏡及び前記検出器を、前記一軸の周りに回転させて、被測定物の全球散乱を測定することを特徴とする。また、前記検出器は、被測定物から散乱されて前記第2の楕円体面鏡により集光される光を検出できる広い検出角度を有することを、特徴とする。また、第2の楕円体面鏡は、厚さが所定の領域で薄い形状としてもよい。
【0024】
本発明の光学特性測定装置は、光入射側の前記第1の楕円体面鏡の焦点に、反射板を備え、前記共通焦点に被測定物を配置し、前記第2の楕円体面鏡の焦点を外した位置に、集光用の光学素子と検出器を配置し、前記第2の楕円体面鏡、前記光学素子及び前記検出器を、前記一軸の周りに回転させて被測定物の全球散乱を測定することを特徴とする。また、前記光学素子は、広角レンズであることを特徴とする。また、前記検出器は、前記第2の楕円体面鏡により焦点に集光されて前記集光用の光学素子により集光される光を検出することを特徴とする。
【0025】
本発明の光学特性測定装置は、カーボンナノチューブからなる試料ホルダーを備えることを特徴とする。
【0026】
本発明の光学特性測定装置は、異方性散乱測定を行うときには、検出器の検出角度を制限する光学素子を検出器の前面にさらに設けることを特徴とする。
【0027】
本発明の光学特性測定方法は、双楕円型光学系の一方の楕円体面鏡を回転させ、回転される楕円体面鏡の焦点に集光する散乱光を検出して被測定物の全球散乱を測定することを特徴とする。前記検出は、前記回転される楕円体面鏡の焦点に設けた検出器により検出することを特徴とする。あるいは、前記検出は、前記回転される楕円体面鏡の焦点を外した位置に設けた集光用の光学素子と検出器により検出することを特徴とする。また、本発明の光学特性測定方法において、被測定物の全球散乱測定に加えて異方性散乱測定を行うときには、検出器の検出角度を制限する光学素子を検出器の前面に設けて、測定を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
本発明では、双楕円型光学系の一方の楕円型面鏡を軸の周りに回転させて散乱光を全球散乱測定することにより、従来のゴニオメーターの100倍以上の信号強度が得られる。双楕円型光学系の焦点又は焦点近傍の焦点を外した位置に検出器を配置して、試料で散乱されて楕円型面鏡で反射された光が全て該検出器に集光するようにしているため、検出器の回転角φ1を変える必要がなく、一軸の周りに回転するのみであるから、高精度の測定を行える。また、検出器にアパーチャー等の検出角度を制限する光学素子を設けることにより、被測定物の異方性の散乱の測定も可能となり、全球散乱と異方性散乱とを1つの装置で統合して測定できる。従来感度の低かった波長の光でも高感度で散乱率を測定できる。また、被測定物として平面の基板だけでなく、非平面からの散乱を測定できるので、球状や曲面の形状の試料を測定対象にできる。
【0029】
本発明の装置は、楕円型光学系の焦点に直接検出器を配置するので、簡単な構造で感度のよい全球散乱を測定できる。一方、楕円型光学系の焦点を外した位置に、集光用の光学素子と検出器を配置する装置では、検出器の影による影響をなくすことができる。また、回転する楕円体面鏡の厚さを一部薄くすることにより、検出感度を一様にでき、高性能な測定ができる。さらに、試料ホルダーとしてカーボンナノチューブを用いると、試料ホルダーによる散乱が被測定物の散乱の測定に影響を与えないので、精度のよい測定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施の形態1を説明する図。
【図2】本発明の実施の形態1の装置の斜視図。
【図3】本発明の実施の形態1の装置の側面図。
【図4】本発明の散乱光分布の測定方法を説明する図。
【図5】試料からの拡散反射光を測定した結果を表す図。
【図6】各種試料の拡散反射測定の結果を示す図。
【図7】マイクロボールレンズからの散乱光の空間分布を示す図。
【図8】実施の形態2を説明する図。
【図9】一定入射光に対する角度依存性を示す図。(A)は検出器の回転角φ1依存性を示す図。(B)は受光角度φ依存性を示す図。
【図10】実施の形態3を説明する図。
【図11】実施の形態4を説明する図。
【図12】従来技術の双楕円型光学系の赤道面の断面図。
【図13】従来技術の双楕円型光学系装置を示す斜視図。
【図14】従来技術の散乱測定の原理を示す図。
【図15】従来技術の測定結果を示す図。
【図16】従来技術の積分球を用いる方法を示す図。(A)はバックグラウンド測定の図で、(B)は反射測定の図。
【図17】従来技術のゴニオメーターを用いる方法を示す図。(A)はバックグラウンド測定の図で、(B)は反射測定の図。
【図18】マイクロボールレンズの入射光と反射光と透過光の予想分布図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0032】
(実施の形態1)
試料からの散乱光を計測するための光学特性測定装置に関して、その代表的な構造及び評価結果等について説明する。図1は、実施の形態1の代表的な構成を模式的に示す断面図である。
【0033】
図1に示すように、実施の形態1の装置は、双楕円型光学系の構造の一方の楕円体面鏡を回転させる構成を備え、回転される楕円体面鏡の焦点に集光する散乱光を検出する構成を備えている。
【0034】
双楕円型光学系は、二つの回転楕円体面鏡E1、E2を、夫々の回転軸が同軸上にあるように互いに隣接して配置したもので、この二つの回転楕円体面鏡E1とE2とを、夫々互いに近接した焦点F0を含み回転軸に垂直の面において切断して、夫々の切断面ABが一致するように接続して構成されたものである。回転楕円体面鏡は内部を鏡面に仕上げたものである。光入射側の楕円体面鏡E1と受光側の楕円体面鏡E2を、互いの1つの焦点を共通焦点F0とし、さらに回転楕円体面鏡E1とE2のそれぞれの残りの焦点をF1とF2とすると、これら3つの焦点が一直線状(図1の直線CD)に並ぶ。3つの焦点を結ぶ直線CDを「双楕円体面鏡の軸」と呼ぶ。この直線は上記二つの回転楕円体面鏡E1、E2の回転軸と一致し、双楕円体面鏡の回転軸でもある。この軸と回転楕円体面鏡E1とE2の交点には、入射用透孔C及び孔Dの2つの透孔が形成されている。上記軸上に入射用透孔Cに入射する外部の光源部が配置されている。焦点F1には、ビーム回転鏡3が取り付けられ、共通焦点F0には試料(被測定物)1が取り付けられている。光軸上を進んできた光を、入射用透孔Cを通して双楕円面鏡内部に取り込むと、この光はビーム回転鏡3に達する。この双楕円体面鏡構造では、ビーム回転鏡3を適当に回転することで、試料への任意の入射角度を実現できる。適当に回転したビーム回転鏡3で反射された光は、楕円体面鏡E1でさらに反射され、共通焦点F0上の試料1に入射する。この試料1で反射された光は、楕円体面鏡E2で反射されて焦点F2に集光する。
【0035】
本実施の形態の装置は、双回転楕円体面鏡からなり、試料が共通焦点に置かれているので、試料から発生した散乱光を、他方の焦点に集光させる機能(積分機能)がある。本発明は、この機能を利用して全球散乱(TSS)測定を行うものである。本実施の形態1では、図1のように、楕円体面鏡E2の焦点F2に直接検出器2を設置し、この検出器2は焦点F2に固定されている。全散乱を測定するために、検出器にはアパーチャーやフィールドストップをつけない。よって、試料から発生した散乱光は、楕円体面鏡で反射されて検出器に積分的に集光される。例えば、入射レーザー光線の試料への入射角度を10度、検出器の回転角φ1(図1)(φ1は、法線方向と試料面を通る焦点を結ぶ軸となす角度である。)を100度に固定する。光源としてレーザーを用いているが、レーザー光に限らない。光源として、分光光度計のD2ランプ、ハロゲンランプ、セラミックランプ、水銀ランプ等を用いることができる。また、波長0.2μm〜500μmの光を用いることができる。
【0036】
図2は、本発明の装置において、楕円体面鏡E2を方位角度ψ回転したときの斜視図を模式的に示した図である。また、図3は、楕円体面鏡E2を方位角度ψ回転したとき本発明の装置を左から見た側面図である。本発明の装置では、2つの回転楕円体面鏡E1E2は、2つの焦点を結ぶ軸を含む水平面から上下に等距離はなれた面に沿って切り落とされた形状である。上下の面の厚さは、例えば40mmである。楕円面鏡の長径と短径がそれぞれ約60mmと50mmである装置を作成した。光入射側の回転楕円体面鏡E1は、図2ないし3の図では垂直に固定されている状態であるが、水平、垂直、任意の角度で全体装置に固定することができる。
【0037】
本発明の特徴である、一方の楕円体面鏡を回転させる構成について詳しく説明する。図4は、本発明の散乱光分布の測定方法を説明する図である。本発明では、図4のように、測定面の回転により全球散乱測定を行う。試料の試料面において反射された散乱光は入射面ばかりではなくて、入射面外にも散乱される。図4には、光の入射面に対して方位角度ψ回転した測定面上の散乱光分布の様子を図示している。光入射面から方位角度ψ回転した測定面上の散乱光は、楕円体面鏡E2で反射されて焦点F2に集光して検出器により検出されるので、測定面上の散乱光を積分的に測定することができる。さらに、楕円体面鏡E2を、楕円体面鏡E1に対して、双楕円面鏡の軸の周りに回転させることにより、光入射面以外の任意の測定面における散乱光分布を、焦点F2に集光して検出器により検出するものである。本実施の形態1では、焦点F2に直接検出器を設置している。全球散乱を測定するためには、測定面を入射面の周りでψ=−180度以下から+180度以上まで回転させる。本実施の形態1の装置は、図1のような構造を備えて、回転楕円体面鏡E2のみを双楕円体面鏡の軸の周りで、360度以上回転させる機構を備えている。また、回転楕円体面鏡E2のみを双楕円体面鏡の軸の周りで回転するので、回転楕円体面鏡E2の形状は、図1から3に図示されるB〜D〜A〜F0〜Bの形状でなくとも、双楕円体面鏡の軸で切断したB〜D〜F0〜Bの形状でも十分である。また、回転楕円体面鏡E1の形状は、図1から3に図示されるB〜C〜A〜F0〜Bの形状でなくとも、双楕円体面鏡の軸で切断したB〜C〜F0〜Bの形状でも十分である。このように、回転楕円体面鏡E1とE2の形状は、焦点F0F1F2に光を集光できる機能を有する範囲で、回転楕円体面の部分構造でよい。
【0038】
本実施の形態1の装置を用いて被測定物として次の試料の測定を行った。試料として、アルミミラー(鏡面反射)とスペクトラロン(標準散乱体)を用いて測定した。図5は、アルミミラー試料とスペクトラロン試料からの拡散反射光を測定した結果を表す。図5において、横軸は楕円体面鏡E2のE1に対する方位角度ψで、縦軸は拡散反射光強度である。なお、図5の方位角度0の位置は、図4の入射面と測定面が一致した位置である。アルミミラーの拡散反射光強度(細線)は、方位角度ψが−23度から+23度の範囲で約46度の方位角度幅を持っていることがわかる。これは、回転楕円体面鏡E2の厚さが40mmためである。この信号の立ち上がりが鋭いのは、鏡面反射のためである。一方、スペクトラロン(太線)は標準散乱体であり全方向に散乱光を発生させているので、なだらかな山をもつ光強度分布になっている。この図5では高さを5倍してある。図5において、拡散反射光強度(点線)の曲線で囲まれた全面積は、アルミミラーの場合6020.05であった。図1の装置で試料無し(アルミミラー無し)のバックグラウンド測定をした結果、拡散反射光強度の曲線で囲まれた全面積は、6300.90であった。アルミミラーの反射率が曲線で囲まれた面積の比で求まると仮定すると、RR=6020.05/6300.90=0.955と得られる。この値を、従来のアルミミラーの反射率約0.9と比較すると、対称X型光学系の測定方法を取り入れていないことを考慮すると、ほぼ一致しているといえる。
【0039】
同じ方法でスペクトラロンの拡散反射率を求めると、DR=1954.17/6300.90=0.310と得られる。このスペクトラロンの拡散反射率は0.99であることが知られている。ここで、スペクトラロンからの散乱光は、半球側(2π空間)へ反射することを考慮する必要がある。また、図1の測定系では回転楕円体面鏡E2だけを回転させているので1/4球空間(π空間)だけを測っていることになる。これを考慮するとスペクトラロンの拡散反射率は0.310×2=0.620となる。まだ37%小さいが、さらに、絶対(拡散)反射率を求めるには、散乱光の検出を確実にすることで、精度をあげることができる。
【0040】
図6に、各種試料の拡散反射測定の結果を示す。本実施の形態1の装置により、スペクトラロン(線61)、タイル(線62)、黒色化鉄(線63)、カーボンナノチューブ(線64)を測定した場合の拡散反射光強度測定の結果が得られた。スペクトラロン(線61)は全面積が1954.17、タイル(線62)は全面積が936.05、黒色化鉄(線63)は全面積が146.56、カーボンナノチューブ(線64)は全面積が0.094であった。先にスペクトラロン試料による絶対(拡散)反射率を求めてあるので、スペクトラロンに対する各試料の相対反射率を求めると、タイル、黒色化鉄、カーボンナノチューブは、それぞれ0.479、0.075、4.8×10−5であった。カーボンナノチューブの値が1桁小さいことを除けば、残りの試料の相対反射率は10%以内で一致している。これらの各測定の所要時間は20分であったが、今後さらに短縮することが可能である。
【0041】
本実施の形態1の装置を用いて、直径2mmの球状のルビー製マイクロボール(球小球)レンズの散乱測定を行った。図7に測定結果を示す。図7は、ルビー製マイクロボールレンズからの拡散光と照射レーザービームの空間分布を示している。照射レーザービームの空間分布であるバックグラウンド信号(図で実線)のピークとほぼ一致した位置に拡散透過信号(点線)が現れて、そのピークから180度ずれたところに、拡散反射信号が現れている。この結果はマイクロボールレンズの図18の予想と定性的に良く一致している。この測定では、極小球レンズを固定するために、1mmのプラス皿ネジの十字の切れ込みのところへ接着剤で球を固定した。
【0042】
従来の積分球を用いた測定では、試料を積分球の側面に接着させて測定しているため、拡散反射測定では、図16(B)のように積分球の内部を向いた半球への反射を測定していた。一方積分球を使った透過反射測定では、図16(B)の試料1を光源S側の積分球の側面に接着させて透過光の積分球の内部を向いた半球への透過を測定していた。これに対して、本発明の装置では、E2を回転することで焦点F0に置いた試料で反射された光と透過した光の両方を測れるわけである。本発明は、このように試料で反射された光と透過した光の両方を測れる全球散乱の測定方法である。
【0043】
(実施の形態2)
本実施の形態2も実施の形態1と同様、双楕円型光学系の構造の一方の楕円体面鏡を回転させる構成を備え、回転される楕円体面鏡の焦点に集光する散乱光を検出する構成を備えている。本実施の形態2では、回転される楕円体面鏡E2を図8のような形状にした。実施の形態2では、楕円体面鏡E2の厚さを一定に保つのではなくて図8に示すように場所により変化させることを特徴としている。楕円体面鏡E2の所定の領域に、厚さを徐々に減少させた領域を設けている。
【0044】
実施の形態2を理解するために、実施の形態1の装置を用いて実際に測定した際における問題をまず説明する。図9(A)は一定入射光に対する信号強度の検出器の回転角φ1依存性を示す図である。また図9(B)は一定入射光に対する信号強度の受光角度φ依存性を示す図である。図9(A)は、外部光源からの一定強度の細いビームを、焦点F1の反射鏡、E1楕円面、焦点F0のアルミミラー、E2楕円面と反射させて、焦点F2の検出器で検出している。焦点F1の反射鏡の角度を変えることで、ビームをE2楕円面の赤道面上をスキャンさせ、そのビームを焦点F2の回りで回転できるように設置した検出器で測定した。検出器は各点で最大信号を測定できるように微小に回転を調整しながら最大信号強度を測定した。この結果を図9(A)の丸印で示す。横軸は焦点F2の検出器の回転角であり、縦軸は信号強度である。信号強度は検出器の回転角により異なっている。
【0045】
図9(A)の丸印の結果には、アルミミラーの反射率が入射角度により変化することを考慮してある。図9(A)で40度のところが楕円体面鏡E1とE2の結合部分(AB面)であるので、信号はこれ以上の角度で出現する。楕円体面鏡E2の左端D点(図1)の軸周りの直径15mmの孔の縁が、検出器の法線方向と一致する角度は176度であり、この角度まで信号を測定できるはずであるが、実際は150度以上では信号を観測できない。これは、焦点F2に置いた検出器の一部が影になるためである(この測定では検出器をF2焦点の周りで回転させている)。この結果から、2つのさらなる課題があることがわかる。第1は、信号強度が0.48〜0.78の間で変化していて、楕円面への入射光量に比例した信号強度になっていないことである。第2は、150度〜176度の間で検出器が影を作っていることである。第1の課題の解決策が本実施の形態2である。実施の形態1の回転楕円体面鏡の厚さが一定であるのに対して、本実施の形態2では、図8に示すように、信号強度(感度)に応じてこの幅を変化させる形状とすることで解決した。つまり、信号強度の大きいところでは、楕円体面鏡の厚さを薄くし、信号強度の小さいところでは、楕円体面鏡の厚さを厚くして、楕円体面鏡E2を回転させたときに、どの検出器の回転角でも信号強度が一定になるように調整した。また、詳しい形状は、光線追跡ソフトを使い形状を求めることができる。
【0046】
実施の形態1のように楕円体面鏡の厚さが一定であると、検出器の測定結果が散乱光の入射角によりばらつきが生じている(図9(A)参照)ので、検出器の欠点を補うためには、楕円体面鏡の厚さを場所により変化させることが有効である。例えば、図8の、幅wを166mm、軸方向の長さlを99mm、厚さhを40mm、最小厚さ25mm(=40×0.48÷0.78)の形状のものを作成した。
【0047】
(実施の形態3)
本実施の形態3は、実施の形態1と同様、双楕円型光学系の構造の一方の楕円体面鏡を回転させる構成を備え、回転される楕円体面鏡の焦点に集光する散乱光を検出する構成を備えている。図10は、本実施の形態3を示す図である。実施の形態1では、回転される楕円体面鏡の焦点に直接検出器を配置したが、本実施の形態3では、焦点F2には検出器を配置せずに、焦点を外した位置に広角レンズ4等の集光用の光学素子を配置して、光学素子を介して検出器2に入射させることを特徴とする。
【0048】
実施の形態3を理解するために、実施の形態1の装置を用いて実際に測定した際における問題を以下説明する。実施の形態1においては、焦点F2に直接配置した検出器へ、双楕円体面鏡の接合面からD点の孔の縁までの広い角度の光が入射する。この検出器に入射する光の双楕円体面鏡の軸からの角度を受光角度(φ)と呼ぶ。図1にこのφも示してある。双楕円体面鏡の接合面(AB面でφ=40度)からD点の孔の縁(φ=176度)までの広い角度の入射光に対して検出器の信号強度は一定でない。例えば、使用する検出器は、検出面が3mm角のフォトダイオードである。136(=176−40)度もの広角に対する検出器の出力の一様性を検査した。検出器の回転角φ1を100度に固定して、焦点F1の反射鏡の角度を変えることで、ビームをE2楕円面の赤道面上をスキャンさせ、検出器の出力結果を図9(B)の実線(φ1=100度)で示す。検出器が光を受光できる角度の範囲は約60度程度であることがわかる。また、図9(A)に図示され実施の形態2の項で説明したように、特に150度〜176度の間で検出器が影を作っている。この図9(B)の点線は、検出器単体の出力信号の受光角度依存性である。実測の曲線と点線は似た傾向を表していて、検出器の性能によっている。
【0049】
これらを解決するために、本実施の形態3のように広角レンズからなる新たな光学系を設けることにより広い角度で精度の良い検出が可能となる。広角レンズからなる光学系を設けることにより、検出器が光を受光する角度を60度以下に押さえ込むことができる。さらにこのレンズが影を作らないように注意すれば、受光角度φ40度〜176度の範囲の信号を検出器に集めることができる。実施の形態1でスペクトラロン試料に関する測定では得られた絶対拡散反射率が37%も小さかったが、これは検出器が136度の広い角度からの散乱光を受光すべきところを約60度の範囲からの散乱光しか受光していなかったことも一つの原因と考えられる。よってスペクトラロン試料の測定においても本実施の形態の装置により測定するとさらに精度の良い検出が可能である。全球散乱を測定する場合には、拡散反射や拡散透過のみならず正反射や正透過を実質的に測定しているともいえるので、実施の形態1或いは形態2或いは形態3の装置により、拡散反射(DR)測定、拡散透過(DT)測定、正反射(RR)測定、正透過(RT)測定を、一台の双楕円体面鏡光学系の装置で全て測定できるようになる。
【0050】
(実施の形態4)
本実施の形態4も実施の形態1と同様、双楕円型光学系の構造の一方の楕円体面鏡を回転させる構成を備え、回転される楕円体面鏡の焦点に集光される散乱光を検出する構成を備えている。実施の形態4では、実施の形態1の装置において、散乱の異方性を測定できるようにするために、検出器の前面に、さらに光学素子を設けて検出器の受光する検出角度を小さく制限することを特徴としている。
【0051】
実施の形態4を図11を参照して説明する。図11は、本発明の装置において散乱の異方性を測定するための構造を示す図である。図11に図示されるように、点線で示されるさまざまな散乱角θsの散乱光は、楕円体面鏡E2で反射されて検出器に入射する。ここで散乱の異方性を測定するためには、回転楕円体面鏡の積分機能のために焦点F2に集まる散乱光を分解して測定しなければならない。そこで、散乱光を分解するために、検出器の前面にアパーチャー5とフィールドストップ(視野絞り)6からなる光学素子を設けて、検出器の受光可能な検出角度を小さく制限した。検出器とアパーチャーとフィールドストップからなる系(検出器系と呼ぶ)を、焦点F2の周りで回転させることで、楕円体面鏡E2面上の散乱の異方性、即ち、図11の点線の1つずつに相当する散乱を測定できる。この場合も、散乱は入射面外にも存在するために、楕円体面鏡E2を双楕円体面鏡の軸の周りでも回転させ、方位角方向においても測定する。
【0052】
(実施の形態5)
実施の形態1から4においては、従来の光学測定で用いられている公知の試料台や試料ホルダーを用いることができる。実施の形態5は、本発明の実施にあたり試料としてマイクロ光学素子を測定する際に特に適する試料ホルダーを提供するものである。
【0053】
マイクロ光学素子の大きさは、直径1mm〜5mm程度であり、この素子の散乱測定を行うためには、微小なマイクロ光学素子を簡便にセットできる試料ホルダーが必要である。さらに、全球散乱と散乱の異方性の測定においては、試料ホルダーに起因する反射光や散乱光の影響が無視できないので、極低反射率の材料を選定して試料ホルダーを製作しなければならない。
【0054】
本実施の形態5では、シリコン基板上に成長させたカーボンナノチューブを試料ホルダーに使う。試料は試料ホルダー上に置くとよい。カーボンナノチューブの反射率は測定すべき光学素子より3桁小さく、さらに光が透過しないという利点がある。さらに、極小球の半径より少し小さい穴をシリコン基板にあけて、その上にカーボンナノチューブを成長させれば、カーボンナノチューブに凹部ができるので、試料ホルダーとして、試料を容易に固定できるのでより望ましい。
【0055】
以上、本実施の形態1から5に示した本発明の装置は、次のような優れた性能を得られた。積分球やゴニオメーターによる測定では部分的にのみ可能であった、全球散乱測定・散乱の異方性測定・散乱の入射角度依存性測定・低反射試料の散乱測定の全測定ができるようになった。また、測定の信号強度は、ゴニオメーターを基準の1としたとき、積分球方式では、1/100以下であったのに対して、本発明の装置では、100倍であった。これは、本発明によれば、回転楕円体面鏡による積分機能のために増加させることができたからである。また、全球散乱測定をするのに要する測定時間は、積分球では5分、ゴニオメーターでは100日であったのに対して、本発明の装置では、20分であった。また、ゴニオメーターは、装置が大きく全自動測定のために必要なパルスモーターが6台必要であるのに対して、本発明の装置は、小型で、必要なパルスモーターが4台ですみ、さらに高精度の測定が可能となった。
【0056】
上記実施の形態等で示した例は、発明を理解しやすくするために記載したものであり、この形態に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の装置は、試料からの散乱光を測定するものであるので、従来の半導体ウエハー等の試料のみならず、多様な散乱面の状態を測定する場合に有用である。また、本発明の装置は、従来の光学測定の対象であった平面試料の他に、従来困難であった非平面からの散乱測定に有用である。
【符号の説明】
【0058】
1、試料
2、検出器
3、反射鏡
4、広角レンズ
5、アパーチャー
6、フィールドストップ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
双楕円型光学系の一方の楕円体面鏡を回転させ、回転される楕円体面鏡の焦点に集光する散乱光を検出して被測定物の全球散乱を測定することを特徴とする光学特性測定装置。
【請求項2】
前記双楕円型光学系は、第1の楕円体面鏡及び第2の楕円体面鏡の各々の焦点の1つを共通焦点にして結合して、3つの焦点を一軸上に有する光学系であることを特徴とする請求項1記載の光学特性測定装置。
【請求項3】
光入射側の前記第1の楕円体面鏡の焦点に、反射板を備え、
前記共通焦点に被測定物を配置し、
前記第2の楕円体面鏡の焦点に検出器を配置し、
前記第2の楕円体面鏡及び前記検出器を、前記一軸の周りに回転させて、被測定物の全球散乱を測定することを特徴とする請求項2記載の光学特性測定装置。
【請求項4】
前記検出器は、被測定物から散乱されて前記第2の楕円体面鏡により集光される光を検出できる広い検出角度を有することを、特徴とする請求項3記載の光学特性測定装置。
【請求項5】
前記第2の楕円体面鏡は、厚さが所定の領域で薄い形状であることを特徴とする請求項3記載の光学特性測定装置。
【請求項6】
光入射側の前記第1の楕円体面鏡の焦点に、反射板を備え、
前記共通焦点に被測定物を配置し、
前記第2の楕円体面鏡の焦点を外した位置に、集光用の光学素子と検出器を配置し、
前記第2の楕円体面鏡、前記光学素子及び前記検出器を、前記一軸の周りに回転させて被測定物の全球散乱を測定することを特徴とする請求項2記載の光学特性測定装置。
【請求項7】
前記光学素子は、広角レンズであることを特徴とする請求項6記載の光学特性測定装置。
【請求項8】
前記検出器は、前記第2の楕円体面鏡により焦点に集光されて前記集光用の光学素子により集光される光を検出することを特徴とする請求項6記載の光学特性測定装置。
【請求項9】
カーボンナノチューブからなる試料ホルダーを備えることを特徴とする請求項1記載の光学特性測定装置。
【請求項10】
前記光学特性測定装置は、異方性散乱測定を行うときには、検出器の検出角度を制限する光学素子を検出器の前面にさらに設けることを特徴とする請求項1記載の光学特性測定装置。
【請求項11】
双楕円型光学系の一方の楕円体面鏡を回転させ、回転される楕円体面鏡の焦点に集光する散乱光を検出して被測定物の全球散乱を測定することを特徴とする光学特性測定方法。
【請求項12】
前記検出は、前記回転される楕円体面鏡の焦点に設けた検出器により検出することを特徴とする請求項11記載の光学特性測定方法。
【請求項13】
前記検出は、前記回転される楕円体面鏡の焦点を外した位置に設けた集光用の光学素子と検出器により検出することを特徴とする請求項11記載の光学特性測定方法。
【請求項14】
請求項11記載の光学特性測定方法において、異方性散乱測定を行うときには、検出器の検出角度を制限する光学素子を検出器の前面に設けて測定を行うことを特徴とする請求項11記載の光学特性測定方法。
【請求項1】
双楕円型光学系の一方の楕円体面鏡を回転させ、回転される楕円体面鏡の焦点に集光する散乱光を検出して被測定物の全球散乱を測定することを特徴とする光学特性測定装置。
【請求項2】
前記双楕円型光学系は、第1の楕円体面鏡及び第2の楕円体面鏡の各々の焦点の1つを共通焦点にして結合して、3つの焦点を一軸上に有する光学系であることを特徴とする請求項1記載の光学特性測定装置。
【請求項3】
光入射側の前記第1の楕円体面鏡の焦点に、反射板を備え、
前記共通焦点に被測定物を配置し、
前記第2の楕円体面鏡の焦点に検出器を配置し、
前記第2の楕円体面鏡及び前記検出器を、前記一軸の周りに回転させて、被測定物の全球散乱を測定することを特徴とする請求項2記載の光学特性測定装置。
【請求項4】
前記検出器は、被測定物から散乱されて前記第2の楕円体面鏡により集光される光を検出できる広い検出角度を有することを、特徴とする請求項3記載の光学特性測定装置。
【請求項5】
前記第2の楕円体面鏡は、厚さが所定の領域で薄い形状であることを特徴とする請求項3記載の光学特性測定装置。
【請求項6】
光入射側の前記第1の楕円体面鏡の焦点に、反射板を備え、
前記共通焦点に被測定物を配置し、
前記第2の楕円体面鏡の焦点を外した位置に、集光用の光学素子と検出器を配置し、
前記第2の楕円体面鏡、前記光学素子及び前記検出器を、前記一軸の周りに回転させて被測定物の全球散乱を測定することを特徴とする請求項2記載の光学特性測定装置。
【請求項7】
前記光学素子は、広角レンズであることを特徴とする請求項6記載の光学特性測定装置。
【請求項8】
前記検出器は、前記第2の楕円体面鏡により焦点に集光されて前記集光用の光学素子により集光される光を検出することを特徴とする請求項6記載の光学特性測定装置。
【請求項9】
カーボンナノチューブからなる試料ホルダーを備えることを特徴とする請求項1記載の光学特性測定装置。
【請求項10】
前記光学特性測定装置は、異方性散乱測定を行うときには、検出器の検出角度を制限する光学素子を検出器の前面にさらに設けることを特徴とする請求項1記載の光学特性測定装置。
【請求項11】
双楕円型光学系の一方の楕円体面鏡を回転させ、回転される楕円体面鏡の焦点に集光する散乱光を検出して被測定物の全球散乱を測定することを特徴とする光学特性測定方法。
【請求項12】
前記検出は、前記回転される楕円体面鏡の焦点に設けた検出器により検出することを特徴とする請求項11記載の光学特性測定方法。
【請求項13】
前記検出は、前記回転される楕円体面鏡の焦点を外した位置に設けた集光用の光学素子と検出器により検出することを特徴とする請求項11記載の光学特性測定方法。
【請求項14】
請求項11記載の光学特性測定方法において、異方性散乱測定を行うときには、検出器の検出角度を制限する光学素子を検出器の前面に設けて測定を行うことを特徴とする請求項11記載の光学特性測定方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2010−276363(P2010−276363A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−126542(P2009−126542)
【出願日】平成21年5月26日(2009.5.26)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月26日(2009.5.26)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
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