説明

光学用ガラス

【課題】 光学ガラスに求められる要求特性を全て満足し、しかも、金型や金属製ホルダーに近似した熱膨張係数と高い屈折率と高い硬度を兼ね備えた光学ガラスを提供することである。
【解決手段】 本発明の光学ガラスは、モル百分率で、B 10〜30%、ZnO 5〜30%、La 5〜15%、TeO 10〜45%、Nb 5〜20%、TiO 0〜10%、WO 2〜10%、SiO 0〜5%、Al 0〜5%、CaO 0〜7%、BaO 0〜7%、SrO 0〜7%、LiO 0〜5%、NaO 0〜5%、KO 0〜5%を含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学用ガラスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
光モジュール等の光通信用レンズ、CD、MD、DVD等の各種光ディスクシステムの光ピックアップレンズ、カメラ付き携帯電話、デジタルカメラ、フィルムカメラ等の撮像用レンズには、従来より、屈折率の高い光学ガラスが用いられている。
【0003】
これらの光学ガラスは、一旦、溶融ガラスをインゴットに成形し、これから適当な大きさに切りだした硝材を切削、研磨することで所望の形状にする方法や、上記の硝材を研磨した後、表面に精密加工を施した金型(熱膨張係数:50〜60×10−7/℃程度)に硝材を載せて、加熱プレスすることで金型の表面をガラスに転写させる方法(モールドプレス)や、溶融ガラスをノズル先端から滴下して液滴状に成形した硝材を研磨した後、或いは研磨せずにモールドプレスする方法によって作製される。
【0004】
上記方法で作製された光学ガラスは、封着ガラスを介して、コバール金属(熱膨張係数:45×10−7/℃程度)、Ni−Fe系合金(熱膨張係数:70〜90×10−7/℃程度)、ステンレス鋼(熱膨張係数:90〜120×10−7/℃程度)等の金属製ホルダーに封着固定したり、樹脂を介してプラスチック製ホルダーに接着固定したりして各種レンズ用途に供される。
【0005】
ところで、近年、光学素子は、高機能化、小型化の傾向にあり、光学ガラスには、より高い屈折率(具体的には、屈折率が1.80以上)を有することが求められている。
【0006】
また、光学ガラスには、屈折率以外にも以下のような特性が要求される。
(1)光の損失を低減するために、高い透過率を有すること(具体的には、肉厚10mmにおけるガラスの透過率が、波長500nmにおいて65%以上、波長1300〜1600nmにおいて75%以上であること)。
(2)長期間に亘って使用しても、ガラス表面が変質しないような耐候性を有すること。(3)溶融ガラスをインゴットや液滴状に成形する際に失透しないこと(具体的には、液相温度が1100℃以下であること)。
(4)モールドプレスする際の金型を劣化させないようにするために、ガラスの転移点が低いこと(具体的には、ガラスの転移点が550℃以下であること)。
【0007】
上記要求特性を満足する光学ガラスとして、TeOを主成分としたテルライト系ガラスが提案されている。(特許文献1、2参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−43294号公報
【特許文献2】特開2004−241144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1及び2に示すようなテルライト系ガラスは、熱膨張係数が大きいため、硝材をモールドプレスするための金型や光学ガラスを封着固定するための金属製ホルダーとの熱膨張差が大きくなる。その結果、モールドプレス後の冷却工程において、ガラスの収縮量が金型より大きくなり、金型の表面形状を正確に転写できなかったり、金属製ホルダーとの封着工程において、金属製ホルダーや光学ガラスに応力が生じ、剥離や割れが発生するという問題が生じる。
【0010】
また、上記のテルライト系ガラスは、硬度が低いため、硝材を研削、研磨する際、或いは研削、研磨した後に、硝材の一部が欠けたり、傷が付きやすいという問題が生じる。
【0011】
本発明の目的は、上記した要求特性項目(1)〜(4)の全てを満足し、しかも、高い屈折率を有し、金型や金属製ホルダーに近似した熱膨張係数と高い硬度を兼ね備えた光学ガラスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の光学ガラスは、モル百分率で、B 10〜30%、ZnO 5〜30%、La 5〜15%、TeO 10〜45%、Nb 5〜20%、TiO 0〜10%、WO 2〜10%、SiO 0〜5%、Al 0〜5%、CaO 0〜7%、BaO 0〜7%、SrO 0〜7%、LiO 0〜5%、NaO 0〜5%、KO 0〜5%を含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の光学ガラスは、高い屈折率を有し、モールドプレスする際の金型や光学ガラスを封着固定する際の金属製ホルダーに近似した熱膨張係数と高い硬度を兼ね備えている。また、ガラスの転移点や液相温度が低く量産性に優れ、更に、高い透過率と耐候性を有している。それ故、光学ガラスとして好適である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の光学ガラスは、高い透過率と耐候性を有すると共に、テルライト系ガラスよりも低い熱膨張係数と高い硬度を有するB−ZnO−La系ガラスを基本組成としている。しかし、B、ZnO、Laのみでは、ガラスの屈折率が低く、ガラスの転移点が高く、また、ガラス化範囲が非常に狭い。
【0015】
そこで、本発明の光学ガラスは、B−ZnO−La系ガラスに、ガラスの屈折率を高める成分であるNbを添加し、更に、ガラス化範囲を大幅に広げ、しかも、転移点を低下させ、屈折率を高める成分であるTeOを必須成分として添加している。このようにすることで、上記の欠点を改善し、高い屈折率を維持しながら、モールドプレスする際の金型や光学ガラスを封着固定する際の金属製ホルダーに近似した熱膨張係数と高い硬度を兼ね備えることができる。
【0016】
本発明の光学ガラスの組成範囲を上記のように限定した理由を述べる。
【0017】
は、ガラスの骨格を形成する成分である。その含有量は10〜30%、好ましくは13〜27%、より好ましくは15〜25%である。Bの含有量が30%より多くなると、高い屈折率を有するガラスが得難くなる。一方、10%より少なくなると、ガラス化し難くなったり、高い硬度を有するガラスが得難くなる。
【0018】
ZnOは、ガラスの骨格を形成する成分である。その含有量は5〜30%、好ましくは10〜28%、より好ましくは10〜25%である。ZnOの含有量が30%より多くなると、ZnOに起因する失透ブツが析出しやすくなる。一方、5%より少なくなると、ガラス化し難くなったり、高い硬度を有するガラスが得難くなる。
【0019】
Laは、ガラスの骨格を形成する成分である。その含有量は5〜15%、好ましくは5〜13%、より好ましくは5〜10%である。Laの含有量が15%より多くなると、Laに起因する失透ブツが析出しやすくなる。一方、5%より少なくなると、ガラス化し難くなったり、高い硬度を有するガラスが得難くなる。
【0020】
TeOは、ガラス化範囲を大幅に広げて、失透ブツの析出を顕著に抑え、屈折率を高めるが失透性が強い成分であるNb、TiO、WOの添加を可能にする成分である。また、ガラスの転移点を低下させると共に、屈折率を高める成分でもある。その含有量は10〜45%、好ましくは20〜45%、より好ましくは25〜40%である。TeOの含有量が45%より多くなると、熱膨張係数が大きくなりすぎて、金型や金属製ホルダーに近似する熱膨張係数を有するガラスが得難くなる。また、高い硬度や高い透過率を有するガラスが得難くなる。一方、10%より少なくなると、上記の効果が得難くなる。
【0021】
Nbは、屈折率を顕著に高める成分である。その含有量は5〜20%、好ましくは5〜17%、より好ましくは5〜15%である。Nbの含有量が20%より多くなると、Nbに起因する失透ブツが析出しやすくなる。また、高い透過率を有するガラスが得難くなる。一方、5%より少なくなると、高い屈折率を有するガラスが得難くなる。
【0022】
TiOは、屈折率を顕著に高める成分であるが、TiOに起因する失透ブツを著しく析出させたり、透過率を低下させる成分でもあるため、この成分の含有量は0〜10%、好ましくは0〜5%に制限される。
【0023】
WOは、屈折率を高めると共に、Nb、TiOに起因する失透ブツの析出を抑える成分でもあるが、WOに起因する失透ブツを著しく析出させたり、透過率を低下させる成分でもあるため、この成分の含有量は0〜10%、好ましくは0〜5%に制限される。
【0024】
SiO及びAlは、ガラスの硬度や耐候性を向上させる成分であるが、屈折率を著しく低下させる成分でもあるため、これら成分の含有量はそれぞれ0〜5%、好ましくは0〜3%に制限される。
【0025】
CaO、BaO及びSrOは、ガラス化範囲を広げる成分であるが、屈折率を低下させる成分でもあるため、これら成分の含有量はそれぞれ0〜7%、好ましくは0〜5%に制限される。
【0026】
LiO、NaO及びKOは、ガラスの転移点を低下させる成分であるが、屈折率を著しく低下させる成分でもあるため、これら成分の含有量はそれぞれ0〜5%、好ましくは0〜3%に制限される。
【0027】
上記組成を有するガラスは、屈折率(nd)を1.80以上、熱膨張係数を60〜120×10−7/℃、ビッカース硬度(Hv)を450以上、液相温度を1100℃以下、転移点(Tg)を550℃以下、さらに、肉厚10mmにおけるガラスの透過率が、波長500nmにおいて65%以上、波長1300〜1600nmにおいて75%以上にすることができる。
【0028】
尚、屈折率(nd)が1.80以上(好ましくは1.90以上、より好ましくは1.95以上)であれば、より高機能で小型の光学素子が得やすくなる。
【0029】
熱膨張係数が60〜120×10−7/℃(好ましくは60〜100×10−7/℃、より好ましくは70〜90×10−7/℃)であれば、金型や金属製ホルダーとの熱膨張差が小さくなり、プレス成形の際、金型の表面形状を正確に転写することができる。また、金属製ホルダーとの封着工程において、熱応力による剥離や割れを抑えることができる。
【0030】
ビッカース硬度(Hv)が450以上(好ましくは500以上、より好ましくは550以上)であれば、研削、研磨する際に、欠けや傷の発生を抑えることができる。
【0031】
また、液相温度が1100℃以下(好ましくは1050℃以下、より好ましくは1000℃以下)であれば、成形工程中での失透を抑えることができる。
【0032】
転移点(Tg)が550℃以下(好ましくは540℃以下、より好ましくは530℃以下)であれば、低温でのプレス成形が可能となり、金型の劣化を抑制することができる。
【0033】
さらに、波長500nmにおいて65%以上(好ましくは68%以上、より好ましくは70%以上)、波長1300〜1600nmにおいて75%以上(好ましくは78%以上、より好ましくは80%以上)であれば、光の損失を低減できる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明の光学ガラスを実施例に基づいて詳細に説明する。
【0035】
表1及び2は本発明の実施例(試料No.1〜7)と比較例(試料No.8)をそれぞれ示している。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
表中の各試料は、次のようにして調製した。
【0039】
まず表に示す組成になるようにガラス原料を調合し、白金ルツボを用いて1100℃で2時間溶融した。溶融後、融液をカーボン板上に流しだし、更にアニール後、各測定に適した試料を作製した。
【0040】
得られた試料について、屈折率(nd)、アッベ数(νd)、熱膨張係数、ビッカース硬度(Hv)、液相温度、転移点(Tg)、ガラスの透過率、及び耐候性を評価した。それらの結果を各表に示す。
【0041】
表から明らかなように、本発明の実施例である試料No.1〜7の各試料は、屈折率(nd)が1.982以上と高く、アッベ数(νd)が22.3〜28.6であった。熱膨張係数は、74〜88×10−7/℃で、金型や金属製ホルダーに近似した熱膨張係数であり、ビッカース硬度(Hv)は、550以上と高かった。また、液相温度は975℃以下と低く、転移点も510℃以下と低かった。更に、波長500nmにおける透過率は70.5%以上と高く、波長1300〜1600nmにおける透過率も82.0%以上と高かった。また、高温高湿試験後の試料表面にも変質は認められず、耐候性にも優れていた。
【0042】
これに対し、比較例である試料No.8は、熱膨張係数が、136×10−7/℃と大きく、プレス成形の際、金型の表面形状を正確に転写できなかったり、金属製ホルダーとの封着工程において、熱応力による剥離や割れが発生することが予想される。また、ビッカース硬度(Hv)が400と低く、研削、研磨する際に、硝材の一部に欠けが生じたり、傷が付くことが予想される。
【0043】
尚、屈折率(nd)については、屈折率計を用いて、ヘリウムランプのd線(587.6nm)に対する測定値で示した。
【0044】
アッベ数(νd)については、上記したd線の屈折率と水素ランプのF線(486.1nm)、同じく水素ランプのC線(656.3nm)の屈折率の値を用い、アッベ数(νd)={(nd−1)/(nF−nC)}式から算出した。
【0045】
熱膨張係数については、直径5.0mm、長さ20mmの円柱状の試料を作製し、ディラトメーターで30〜300℃における平均熱膨張係数を測定した。
【0046】
ビッカース硬度(Hv)については、鏡面研磨したガラス表面に、ビッカース圧子を50g、15秒間の条件で押圧し、JIS Z2244に基いて測定した。
【0047】
液相温度については、以下の要領で行った。まず、各試料をそれぞれ300〜500μmの大きさに粉砕、洗浄し、これを白金製のボートに入れて700〜1200℃の温度勾配炉に移して1時間保持し、温度勾配炉より白金製のボートを取り出した。その後、白金製のボートからガラスを取り出した。このようにして得られたサンプルを偏光顕微鏡で観察し、結晶の析出点を測定し、これを液相温度とした。
【0048】
転移点(Tg)については、熱膨張係数を測定する際に得られる熱膨張曲線の低温領域と異常膨張領域の直線をそれぞれ延長し、その交点に対応する温度を転移点として求めた。
【0049】
透過率については、肉厚が10mmになるように、両面を鏡面研磨し、分光光度計にて波長300〜1600nmにおける試料の透過率を測定し、500nm、1300nm、1400nm、1500nm、1600nmにおける透過率を示した。
【0050】
耐候性は、片面を鏡面研磨した試料を作製し、その試料を、60℃、90%の高温高湿の環境下に1000時間放置し、その後、試料表面を実体顕微鏡で観察し、変質の有無を評価した。尚、変質が認められなかったものを「○」、変質が認められたものを「×」とした。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モル百分率で、B 10〜30%、ZnO 5〜30%、La 5〜15%、TeO 10〜45%、Nb 5〜20%、TiO 0〜10%、WO 2〜10%、SiO 0〜5%、Al 0〜5%、CaO 0〜7%、BaO 0〜7%、SrO 0〜7%、LiO 0〜5%、NaO 0〜5%、KO 0〜5%を含有することを特徴とする光学ガラス。
【請求項2】
屈折率(nd)が1.80以上、熱膨張係数が60〜120×10−7/℃、ビッカース硬度(Hv)が450以上、液相温度が1100℃以下、転移点(Tg)が550℃以下であることを特徴とする請求項1記載の光学ガラス。
【請求項3】
肉厚10mmにおけるガラスの透過率が、波長500nmにおいて65%以上、波長1300〜1600nmにおいて75%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の光学ガラス。

【公開番号】特開2011−153072(P2011−153072A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−98995(P2011−98995)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【分割の表示】特願2004−375242(P2004−375242)の分割
【原出願日】平成16年12月27日(2004.12.27)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】