説明

光学用ポリエステル樹脂の製造方法

【課題】位相差フィルムなど光学基材に好適である耐熱性、波長分散性に優れた光学用ポリエステル樹脂に関し、重縮合時の過剰留出物を抑制した、製造安定性、品質安定性に優れた製造方法を提供する。
【解決手段】フルオレン骨格を有し、仕込み組成中のモノマーユニット分子量82以上の成分が80mol%以上であり、重合時の実質的なエステル交換用過剰成分を除く留出物重量Xが仕込量に対して一定の条件を満たす光学用ポリエステルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学基材や位相差フィルム等に好適な耐熱性、波長分散性に優れた光学用ポリエステル樹脂の製造法に関し、重合時のモノマー、オリゴマー等の過剰留出の抑制されたポリエステルの製造方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
光学用素子は古くから透明性に優れ複屈折が小さいガラスが多く用いられてきた。しかし成形性に劣り軽量化が困難なため、最近では成形性、軽量性に優れ特性制御も容易な高分子材料がディスク基板、レンズ、ケーブル、各種ディスプレイ用フィルム等に特性に応じて使用されている。
【0003】
そのなかで位相差フィルムやプリズムシートなどの機能光学フィルムは、ポリメチルメタクリレート(以下PMMA)やポリカーボネート(以下PC)、環状ポリオレフィン(COC)から構成され液晶ディスプレイなどに利用されている。しかし一般的に、PMMAは吸湿による寸法変化等が大きく、PCは溶融粘度が非常に大きいため成形加工が困難であり、COCは高コストでありフィルム成形も容易でない。
【0004】
例えば位相差フィルムは、複屈折を有することにより、X軸方向、Y軸方向とも同位相の入射光が、位相差フィルムを通過するとX軸方向とY軸方向の出射光に位相のズレを与える機能を有するフィルムを指し示し、たとえば液晶ディスプレイにおいて位相差フィルムは視野角補償、色補償、直線偏光の円偏光への変換、反射防止などの用途に用いられている。反射型および透過型液晶ディスプレイでは偏光板と位相差フィルムを組み合わせ、円偏光板として用いられている。円偏光板は、入射した無偏光の光を円偏光に変換する働きを持つ。ここで円偏光板に用いる位相差フィルムは全ての波長λ(nm)に対し波長の4分の1の位相差であることがよいが、これを1枚で満足するフィルムを得ることは困難であった。
【0005】
COCを用いた場合は、1枚以上の位相差フィルムと偏光板とを位相差フィルムの遅相軸と偏光板の吸収軸が特定の角度となるように積層する必要があり(特許文献1)、構成部材コストおよび貼合コストが大きく、ディスプレイの薄膜化、軽量化には限界がある。
【0006】
また、フルオレンなどのカルド基を有するモノマーをPCに共重合し、可視光領域において広帯域で、1枚で1/4波長に近い位相差が得られる熱可塑性フィルムが開示されている(特許文献2)。しかしこれらの樹脂は、溶融粘度が高いため、溶液流延法により製膜する必要があり、生産性が悪く、また用いる溶媒が環境に悪影響を与えるなどの問題があった。
【0007】
そこで溶融製膜性に優れるポリエステルフィルムとしてフルオレンを共重合したポリエステルフィルムが提案されている(特許文献3)。しかし本方法でも耐熱性、低光弾性係数などの特性を満足するには不十分で、さらに脂環族ジオールなど剛直成分を導入する必要がある。
【0008】
しかしフルオレンポリエステルの重合特性としては一般的なエステル交換法、直接重合法ではフルオレンは嵩高いため重合反応性が悪く、さらに重合反応性が悪い脂環族など高分子量モノマーを共重合する場合には十分な分子量のものが得られない、反応長時間化に伴い着色する、重合時に大量の未反応留出物が発生するといった問題が顕在化する。ここで重合時に未反応留出物が発生する場合には、生成物の組成が安定しないばかりか重合装置の真空ラインの汚染、詰まりを引き起こす。
【0009】
これまでのフルオレンポリエステルの製造法に関する提案においても過剰留出物抑制に関する開示はみられない(特許文献4、5)。
【特許文献1】特開平5−2108号公報
【特許文献2】特開2005−156685号公報
【特許文献3】特開2006−215064号公報
【特許文献4】特開平8−134192号公報
【特許文献5】特開平8−239459号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上述した従来技術の問題点を解決した、耐熱性、波長分散性に優れた光学用ポリエステル樹脂、特に位相差フィルムに好適な光学用ポリエステル樹脂を製造する場合において、重合時の昇華物を抑制した製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】

上記課題を解決するため、本発明は、次の特徴を有するものである
(1)ジオール成分として化学式(A)で表せる環式ジオールのジオール残基を有するポリエステルであって、重合仕込み組成中のモノマーユニット分子量82以上の成分が80mol%以上であり、重合時の実質的なエステル交換用過剰成分を除く留出物重量Xが以下の式を満たす光学用ポリエステルの製造方法。
【0012】
(1) X≦Y×0.1
(2) X≦Y×0.05 + Z×0.3
Y:実質的なエステル交換用過剰成分を除くモノマー仕込重量
Z:モノマーユニット分子量200以上400以下成分の仕込重量
【0013】
【化1】

【0014】
は同一、または異なる炭素数1〜4のアルキル基であり、mは0〜3の整数を示す。
は同一、または異なる炭素数1〜30のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基を示し、nは0〜4の整数を示す。
(2)重合仕込み組成中のモノマーユニット分子量82以上の成分が100mol%以上であることを特徴とする(1)記載の光学用ポリエステル樹脂の製造方法。
(3)重合仕込み組成中にスピログリコールを含有することを特徴とする(1)または(2)記載の光学用ポリエステル樹脂の製造方法。
(4)重合仕込み組成中にスピログリコールを15mol%以上含有することを特徴とする(1)〜(3)いずれか1項記載の光学用ポリエステル樹脂の製造方法。
(5)重合時、重縮合工程において75Torrまで減圧した時点の重合場中の分子量500以下の成分を15wt%以下に制御することを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1項記載の光学用ポリエステルの製造方法。
(6)重合時、重縮合工程において75Torrまで減圧した時点の重合場の温度T75を重合温度をTaとした時に以下の式を満たすように制御することを特徴とする請求項1〜5いずれか1項記載の光学用ポリエステルの製造方法
(3) T75≧Ta−10
(7)重合温度に到達した後に重合場を10Torr以下に減圧制御することを特徴とする(1)〜(6)いずれか1項記載の光学用ポリエステルの製造方法
(8)重縮合工程において使用する触媒の触媒活性パラメータ(AP)が下記式(4)を満たすことを特徴とする(1)〜(7)いずれか1項記載のポリエステル重合触媒。
【0015】
(4)AP(min)/T(min)≦1.2
ただし、APは所定量の触媒を用いて所定の重合温度、0.1Torrの減圧度でビスヒドロキシエチルテレフタレートから固有粘度が0.65dl/gのポリエチレンテレフタレートを重合するのに要する時間(min)を示し、Tは酸化ゲルマニウムを触媒として生成ポリエチレンテレフタレートに対して酸化ゲルマニウムとして0.04wt%となるように添加した重合温度285℃の場合のAPである。
(9)樹脂のガラス転移温度が110℃以上であることを特徴とする(1)〜(8)いずれか1項記載の光学用ポリエステル樹脂の製造方法。
(10)樹脂の固有粘度が0.55以上であることを特徴とする(1)〜(9)いずれか1項記載の光学用ポリエステル樹脂の製造方法。
(11)樹脂のb値が12以下であることを特徴とする(1)〜(10)のいずれか1項記載の光学用ポリエステルの製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、耐熱性に優れ、光弾性係数が小さく、位相差フィルムとしたときに優れた波長分散性を示す光学用ポリエステル樹脂の安定した製造方法を提供することができる。すなわち重合時の昇華物が少なく、製造安定性、製品の品質安定性に優れた製造方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0018】
本発明のポリエステル樹脂はジオール成分として化学式(A)で表せる環式ジオールのジオール残基を有するポリエステルであって、重合仕込み組成中のモノマーユニット分子量82以上の成分が80mol%以上であることを特徴とする。
【0019】
【化2】

【0020】
は同一、または異なる炭素数1〜4のアルキル基であり、mは0〜3の整数を示す。
は同一、または異なる炭素数1〜30のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基を示し、nは0〜4の整数を示す。
【0021】
ここで化学式(A)は耐熱性付与の他に位相差フィルムとしたときにの波長分散性を向上させる効果がある。
【0022】
また、ポリエステル樹脂の耐熱性の観点から、モノマーユニットは剛直で高分子量のものが好ましい。モノマーユニット分子量とはモノマーのポリエステル中でのエステル基を除いたそのモノマーに由来する部位の分子量であり、例えばモノマーがジカルボン酸の場合は両末端カルボン酸部分、ジカルボン酸ジエステルの場合は両末端カルボン酸ジエステル部分を差し引いたもの、ジオールの場合は両末端水酸基を差し引いた分子量である。
【0023】
本発明においては重合仕込み組成中のモノマーユニット分子量82以上の成分が80mol%以上であることが好ましく、90mol%以上であることがさらに好ましく、100mol%であることが最も好ましい。本範囲にあることにより、耐熱性に優れたポリエステル樹脂を得ることができる。
【0024】
モノマーユニット分子量82以上の中でも環状構造を含むものがポリエステル樹脂の耐熱性向上の観点から好ましく、その中で脂環構造を含むものが光弾性係数低減の観点から好ましい。
【0025】
また、ジオール成分としてスピログリコールを用いることも好ましい形態である。スピログリコールを共重合することにより、耐熱性に優れ、光弾性係数の小さいポリエステル樹脂を低コストで得ることができる。仕込み量としては重合仕込み組成中にスピログリコールを10mol%以上45mol%以下の範囲で含有することが好ましく、さらに好ましくは15mol%以上40mol%以下、最も好ましくは20mol%以上35mol%以下の範囲で含有することが最も好ましい。仕込み組成が小さすぎると高耐熱性、低光弾性係数といった機能の発現が不十分で、仕込み組成が大きすぎるとフルオレンの共重合比率が小さくなり、位相差フィルムにした場合の波長分散性が低下する。ここで重合仕込み組成中のモル濃度とは、後述するエステル交換過剰分を除いたジカルボン酸成分とジオール成分の仕込みモル量の合計を100mol%とした場合のモル濃度であり、この場合、ジカルボン酸成分とジオール成分のモル量は同じになる。尚、本明細においては、特に断りがない場合はジカルボン酸成分にジカルボン酸ジエステル、ジカルボン酸無水物などのエステル形成誘導体も含むこととする。
【0026】
本発明のポリエステルの製造方法は重合時の実質的なエステル交換用過剰成分を除く留出物重量Xが以下の式(1)(2)を満たすことを特徴とする。
【0027】
(1) X≦Y×0.1
(2) X≦Y×0.05 + Z×0.3
Y:実質的なエステル交換用過剰成分を除くモノマー仕込重量
Z:モノマーユニット分子量200以上400以下成分の仕込重量
筆者らはフルオレンポリエステル重合時の留出物重量をこの範囲に制御することにより、減圧ラインなどの詰まり、重合系の汚染を抑制でき、簡易な洗浄により重合系を初期化できるので製造工程の安定化がはかれ、品質安定性にも寄与することを見いだした。
【0028】
ここで、ポリエステルの重合方法としてはエステル交換法、直接重合法、酸クロライド法等の溶融重合法、溶液重合法、界面重合法等が挙げられるが、本発明の重合では、製造コスト、モノマーの入手しやすさから、一般的なエステル交換法、直接重合法を用いる。
【0029】
エステル交換法は、ジカルボン酸エステルとジオール化合物を反応させ、生成するアルコールを留去しながらエステル交換を行うことによりエステル化合物を得、その後の重縮合反応において減圧下にて過剰のジオール化合物を留去しながら高分子量化をはかる。
【0030】
直接重合法はジカルボン酸とジオールとの脱水反応を行い、エステル化合物を形成した後、減圧下の重縮合反応において過剰のジオール成分を留去しながら高分子量化をはかりポリエステル樹脂を得る方法である。
【0031】
ここで、エステル交換用過剰成分とは、エステル交換法、直接重合法において反応効率を上げることを目的に重合仕込み時にジカルボン酸エステル、ジカルボン酸成分の合計仕込み量の等モルよりも過剰にエチレングリコールなど低沸点のジオール成分を仕込む場合があるが、その過剰部分を指し、ジオール成分が複数種類ある場合はモノマーユニット分子量が小さいものから過剰成分に算入する。また直接重合法の場合は理論留出水量も過剰成分に算入する。
【0032】
エステル交換過剰成分を除く留出物重量Xとは重縮合反応系での総留出重量から仕込み組成から理論的に計算されるエステル交換過剰成分の重量を差し引いた重量である。触媒等添加剤をジオールに希釈して添加する場合、希釈用のジオールがエステル交換用過剰成分の条件に当てはまる場合は過剰成分として計算する。また、触媒等添加剤の希釈に水を用いる場合の水は同じく重合反応に寄与しないので重縮合槽で添加する場合は総留出重量から差し引く。
【0033】
この中でモノマーユニット分子量200以上のものは立体障害があり重合反応性が低く、さらに400以下のものはモノマー状態で減圧時に留出しやすいため、モノマーユニット分子量200以上400以下成分の仕込重量(Z)は留出量に大きな影響を与える。
【0034】
製造工程安定化、品質安定化の観点からは、Zが大きい場合には式(1)を、Zが小さい場合にはより許容範囲の狭い式(2)を満たす必要があることを見いだした。これは例えば系中に同じ重量の残留オリゴマーがあった場合でも、Z成分比率が小さいオリゴマーの方が連続バッチ重合の場合においても次バッチへの影響が大きいからである。これはおそらくZ成分比率が小さいオリゴマーの方がモル数が大きい為に組成に影響を与えるジカルボン酸成分のモル数が大きいからだと考えられる。
【0035】
筆者らは留出物量を式(1)(2)の範囲に抑制する方法を鋭意検討した結果、重縮合時のある減圧度における重合場中の低分子量成分を一定範囲以下に制御することが効果的であることを見いだした。
【0036】
すなわち、本発明は重合時、重縮合工程において75Torrまで減圧した時点の重合場中の分子量500以下の成分を15wt%以下に制御することを特徴とする。低分子量成分が該範囲内に制御することにより、モノマー、オリゴマーなど未反応成分の留出を抑制することができる。分子量500以下の成分は15wt%以下であることが好ましく、10wt%以下であることがさらに好ましい。最も好ましくは5wt%以下である。ここで重合場とは重合溶液のことであり、反応槽中の蒸気、留出物、槽壁、攪拌翼への付着物は含まない。
【0037】
具体的に重縮合時の低分子量成分を抑制する方法としては該減圧度時点の重合場温度を上げる(昇温速度を上げる、重合温度を上げる)、触媒活性を上げる等の方法で該減圧度時点での重合度を上げることが有効である。
【0038】
これらのことから、重合時、重縮合工程において75Torrまで減圧した時点の重合場の温度T75を重合温度をTaとした時に以下の式を満たすように制御することも好ましい製造方法である。
【0039】
(3) T75≧Ta−10
ここで重合温度とは重縮合工程で昇温後、触媒活性温度近傍で一定に保つ実質的に高分子量化をはかる温度である。T75をこの範囲に制御することにより、重合度を上げ、分子量500以下の成分比率を減らすことができる。
【0040】
また、重合温度に到達した後に重合場を10Torr以下に減圧制御することも好ましい製造方法である。重縮合工程の昇温、減圧時において減圧完了時点を昇温完了時点よりも遅くすることにより10Torr前後で特に大量に留出するオリゴマー成分の留出を抑制することができる。
【0041】
また、重縮合工程において使用する触媒の触媒活性パラメータ(AP)が下記式(4)を満たすことを特徴とするポリエステル重合触媒を用いることも好ましい。
【0042】
(4)AP(min)/T(min)≦1.2
またAP/T≦1であることがさらに好ましく、AP/T≦0.95であることがさらに好ましい。
ただし、APは実際に使用する触媒を用いて実際の重合温度、0.1Torrの減圧度でビスヒドロキシエチルテレフタレートから固有粘度が0.65dl/gのポリエチレンテレフタレートを重合するのに要する時間(min)を示し、Tは酸化ゲルマニウムを触媒として生成ポリエチレンテレフタレートに対して酸化ゲルマニウムとして0.04wt%となるように添加した重合温度285℃の場合のAPである。重縮合工程に高活性の触媒を使用することで減圧初期から重合度を上げ、低分子量成分を減らすことができる。
【0043】
これらの留出物抑制の為の手法は、単独で用いても良いが、複数を組み合わせても良い。
【0044】
本発明のポリエステル樹脂のガラス転移温度Tgは110℃以上であることが好ましく、115℃以上であることがさらに好ましい。また120℃以上であることが最も好ましい。ガラス転移温度110℃よりも低い場合は例えば位相差フィルムにした場合、フィルムの使用環境にもよるが配向緩和等の問題が発生し、長期の位相差安定性が保てないことがあり好ましくない。一方、一般的にフィルムの延伸はTg付近で行うので、Tgが高すぎるとフィルムの延伸に必要な温度が高くなる。そのため、コストが高くなり生産性が低下することがあり、上限は特にないが一般的には300℃以下であればよい。Tgを該範囲に制御するには共重合成分にデカリン構造、トリシクロデセン構造、ノルボルナン構造のような剛直な構造の脂環構造、ベンゼン環、ナフタレン環、フルオレン環、9,9−ビスフェニルフルオレン構造などの芳香族構造などを高mol比で共重合していることが好ましい。
【0045】
また、本発明のポリエステル樹脂は固有粘度が0.55以上、さらに好ましくは0.60以上であることが好ましい。0.55よりも小さい場合、例えば位相差フィルムにした場合、フィルムの延伸性が不足し所望の位相差を発現できない。本発明において、固有粘度はオルトクロロフェノールを溶媒とし、25℃で測定したものである。
【0046】
ポリエステル樹脂組成物の色調は黄味ができるだけ少ないことが好ましい。この黄味を
表す指標としてたとえばb値があるが、このb値は12以下であることが好ましい。本発
明におけるb値とは、ハンター型色差計を用いて測定したものであり、L値、a値、b値
で表示されるもののうちb値のことをいう。b値は黄味を示す指標であり、b値が大きい
場合には黄味が強く、b値が小さい場合には黄味が弱いことを示す。b値が12より大きい場合、黄味が強いために光学用フィルムとして使用することが困難となる。b値は小さいほど黄味が弱いが、さらに好ましくは10以下であり、最も好ましくは6以下で
ある。このb値を12以下とするには触媒活性を上げる、反応性の高いモノマーを選択するなど重合所用時間を短くすることが有効である。
【0047】
以下、本発明の光学用ポリエステル樹脂の製造方法について具体的に記述するが、これに制限されない。
【0048】
本発明の樹脂の重合方法に限定はなく、公知の重合法、例えば、ジカルボン酸とジオールを誘導体とする直接重合法、ジカルボン酸ジエステルとジオールを用いるエステル交換法などを用いることができる。
【0049】
本発明のポリエステルのグリコール成分としては化学式(A)で示されるフルオレン誘導体を含有する。ここでフルオレン誘導体は耐熱性の付与の他に樹脂を位相差フィルムとした場合の波長分散性を向上させる効果がある。位相差フィルムとは、ある波長の光が通過する時に進相軸の位相と、遅相軸の位相に差を生じさせるフィルムであり、本発明において、位相差フィルムとは、例えば1/4波長の位相差を与えるλ/4位相差フィルム、1/2波長の位相差を与えるλ/2位相差フィルムや、視野角拡大フィルム、光学補償フィルムなど位相差を与える全てのフィルムをいう。
【0050】
ここで進相軸とは光が最も早く通過する面内の方向であり、遅相軸とは、これと直交する面内の方向である。
【0051】
例えば1/4波長フィルムは、可視波長域で位相差がそれぞれの波長の1/4であることが望ましい。ここで、波長X(nm)の位相差をR(X)(nm)と記載する。例えば簡単に可視波長域のR(450)、R(550)について説明すると、反射型液晶ディスプレイの位相差フィルムとして用いる場合、位相差フィルムを複数枚積層する方法ではなく1枚で全ての可視波長域の波長の位相差を理想値に近づける広帯域位相差フィルムとするためには、下式(1)を満たすことが好ましい。
【0052】
R(450)/R(550)=(450/4)/(550/4)=0.818 ・・・(1)
これに対し、通常のポリカーボネート、環状ポリオレフィンなどは下式(2)である。位相差の波長分散に関して下式(2)の状態を順分散であるという。
【0053】
R(450)/R(550)>1 ・・・(2)
一方、理想に近い下式(3)の状態を逆分散であるという。
【0054】
R(450)/R(550)<1 ・・・(3)
構成部材の削減及び貼合コストの削減から1枚で上式(3)を満たす位相差フィルムが求められている。本出願においては逆分散を示すフィルムを波長分散性に優れたフィルムという。
【0055】
逆分散を得るための分子設計としては、分子内で複数の位相差フィルムが重ね合わされた場合と同じ効果があればよい。本出願においては、カルド構造を有する化学式(A)を含有するポリマーが、主鎖方向および主鎖に直交する方向に2種類の位相差フィルムを重ねあわせたのと同じ効果を発現し、逆分散性を示すことが可能となる。
【0056】
ここで化学式(A)のRは同一であってエチル基であることが好ましく、m=1であることが好ましい。アルキル基の炭素数が大きい場合はTgが下がることがあるので好ましくなく、m=0の場合は重合の反応性が低下し機械的強度が低下するので好ましくない。Rはアルキル基、シクロアルキル基、アリール基であり、nはn=0〜4であれば良いが好ましくはn=0である。n≧1の場合は重合の反応性が低下し機械的強度が低下するので好ましくない。
【0057】
上記化学式(A)で表される構造単位の誘導体としては、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−エチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジエチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−プロピルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジプロピルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソプロピルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジイソプロピルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−n−ブチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジ−n−ブチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソブチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジイソブチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−(1−メチルプロピル)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ビス(1−メチルプロピル)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジフェニルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−ベンジルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジベンジルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(3−ヒドロキシプロポキシ)フェニル]フルオレン9,9−ビス[4−(4−ヒドロキシブトキシ)フェニル]フルオレン等が挙げられ、これらの中でも、光弾性係数、耐熱性、重合性の観点から9,9−ビス(4−(2―ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンが好ましい。また、これらの成分は単独でも2種類以上用いてもよい。また、これらフルオレン誘導体の仕込み組成としては特に制限されないが、5mol%以上40mol%以下が好ましく、さらに好ましくは10mol%以上35mol%以下である。本範囲よりも小さいと耐熱性、逆分散性を発現するのに不十分で、本範囲よりも大きいと重合反応性が低下し、光弾性係数も大きくなる。また、逆分散性発現に関しては、芳香環などの2重結合原子のないモノマーの共重合比率を大きくすることが有効である。
【0058】
ジオール成分はフルオレン誘導体以外は特に制約はなく、各種ジオールを使用することができる。例えば、エチレングリコール、トリメチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、などの脂肪族ジオール、脂環式ジオールとしてはシクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジエタノール、デカヒドロナフタレンジメタノール、デカヒドロナフタレンジエタノール、ノルボルナンジメタノール、ノルボルナンジエタノール、トリシクロデカンジメタノール、トリシクロデカンジエタノール、テトラシクロドデカンジメタノール、テトラシクロデカンジエタノール、デカリンジメタノール、デカリンジエタノール等の飽和脂環式1級ジオール、2,6−ジヒドロキシ−9−オキサビシクロ[3,3,1]ノナン、3,9−ビス(2−ヒドロキシー1,1−ジメチルエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン(スピログリコール)、5−メチロール−5−エチル−2−(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−1,3−ジオキサン等の飽和ヘテロ環1級ジオール、その他シクロヘキサンジオール、ビシクロヘキシル−4,4’−ジオール、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシルプロパン)、2,2−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)シクロヘキシル)プロパン、シクロペンタンジオール、3−メチル−1,2−シクロペンタンジオール、4−シクロペンテン−1,3−ジオール、イソソルビドなどの各種脂環式ジオールやビスフェノールA、ビスフェノールS、スチレングリコールなどの芳香環式ジオールが例示できる。またジオール以外にトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどの多官能アルコールも用いることができる。しかし特に例示したグリコール成分に限定しない。
【0059】
これらの中で耐熱性の観点からモノマーユニット分子量82以上のジオールが好ましく、ヘキサンジオールなどの脂肪族ジオール、脂環式ジオールとしてはシクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジエタノール、デカヒドロナフタレンジメタノール、デカヒドロナフタレンジエタノール、ノルボルナンジメタノール、ノルボルナンジエタノール、トリシクロデカンジメタノール、トリシクロデカンジエタノール、テトラシクロドデカンジメタノール、テトラシクロデカンジエタノール、デカリンジメタノール、デカリンジエタノール等の飽和脂環式1級ジオール、2,6−ジヒドロキシ−9−オキサビシクロ[3,3,1]ノナン、3,9−ビス(2−ヒドロキシー1,1−ジメチルエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン(スピログリコール)、5−メチロール−5−エチル−2−(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−1,3−ジオキサン等の飽和ヘテロ環1級ジオール、その他シクロヘキサンジオール、ビシクロヘキシル−4,4’−ジオール、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシルプロパン)、2,2−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)シクロヘキシル)プロパン、シクロペンタンジオール、3−メチル−1,2−シクロペンタンジオール、4−シクロペンテン−1,3−ジオール、イソソルビドなどの各種脂環式ジオールやビスフェノールA、ビスフェノールS、スチレングリコールなどの芳香環式ジオールが例示できる。またジオール以外にトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどの多官能アルコールが好ましく、中でも環式ジオールが好ましい。また光弾性係数低減、波長分散性向上(2重結合原子濃度低減)の観点から例えばシクロヘキサンジメタノール、スピログリコール、トリシクロデカンジメタノール、デカリンジメタノール等が好ましい。また、本発明の目的を損なわない範囲において2種類以上組み合わせることができ、例えばスピログリコールとエチレングリコールの組み合わせにより耐熱性、光弾性係数と延伸性を調節することができる。
【0060】
また本発明のポリエステルのジカルボン酸成分としては特に制約はなく、一般的なポリエステル樹脂の原料を用いることができる。例えば芳香族ジカルボン酸、鎖状脂肪族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸、およびこれらのエステル形成性誘導体が挙げられる。エステル形成性誘導体としては、テレフタル酸無水物のような酸無水物、ジカルボン酸に対応する酸クロライドのような酸ハライド、テレフタル酸ジメチルのような低級アルキルエステルなどを使用することができる。芳香族ジカルボン酸としては、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルエーテル−4,4’−ジカルボン酸、4,4’−ジフェニルメタンジカルボン酸、ベンジルマロン酸などが挙げられる。鎖状脂肪族ジカルボン酸としては、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、メチルマロン酸、エチルマロン酸、2,2−ジメチルコハク酸、2,3−ジメチルコハク酸、2,3−ジメチルコハク酸、3−メチルグルタル酸、3,3−ジメチルグルタル酸などが挙げられる。脂環族ジカルボン酸としては、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、シクロペンタンジカルボン酸、2,6−デカリンジカルボン酸、1,5−デカリンジカルボン酸、1,6−デカリンジカルボン酸、2,7−デカリンジカルボン酸、2,3−デカリンジカルボン酸、2,3−ノルボルナンジカルボン酸、ビシクロ[2,2,1]ヘプタン−3,4−ジカルボン酸、などの飽和脂環式ジカルボン酸や、cis−5−ノルボルネン−エンド−2,3−ジカルボン酸、メチル−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸、cis−1,2、3,6−テトラヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸、3,4,5,6−テトラヒドロフタル酸などの不飽和脂環式ジカルボン酸が例示できる。またジカルボン酸以外に多官能成分として、トリメリット酸、ピロメリット酸などの多官能カルボン酸成分も用いることができる。
【0061】
これらの中で耐熱性向上の観点から好ましくはモノマーユニット分子量82以上のジカルボン酸が好ましく、ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルエーテル−4,4’−ジカルボン酸、4,4’−ジフェニルメタンジカルボン酸、ベンジルマロン酸スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、メチルマロン酸、エチルマロン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、2,6−デカリンジカルボン酸、1,5−デカリンジカルボン酸、1,6−デカリンジカルボン酸、2,7−デカリンジカルボン酸、2,3−デカリンジカルボン酸、2,3−ノルボルナンジカルボン酸、ビシクロ[2,2,1]ヘプタン−3,4−ジカルボン酸、cis−5−ノルボルネン−エンド−2,3−ジカルボン酸、メチル−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸、cis−1,2、3,6−テトラヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸、3,4,5,6−テトラヒドロフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸が例示できる。中でもさらなる耐熱性、光弾性係数低減、波長分散性向上の観点から好ましくは例えば1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、2,6−デカリンジカルボン酸であり、より好ましくは2,6−デカリンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸である。本発明の目的を損なわない範囲で、単独でまたは二種以上組み合わせて用いることができ、例えばテレフタル酸、2,6−デカリンジカルボン酸を併用することで光弾性係数、耐熱性、位相差を調節することができる。
【0062】
エステル交換反応触媒、重縮合触媒には特に制限されないが各種触媒を使用することができる。
【0063】
例えばエステル交換反応触媒ではアルカリ金属、アルカリ土類金属、Zn,Co,Mnなどの金属化合物が好ましく用いられ、特にMnは活性が強く好ましい。また、金属化合物はポリエステルに可溶なものが好ましく、特に酢酸塩が好ましい。
【0064】
光学用ポリエステル樹脂の重縮合触媒にはTi,Sb,Ge化合物を重合触媒として用いることが好ましい。これらの触媒は、ポリエステル樹脂に求められる特性に応じて使い分けたり、併用したりしてもよい。例えばTiは触媒活性が強く、ポリエステルの生産性が高いものの、着色しやすい。Sbはバランスのとれた特性を有するが、Sb金属粒子が析出しやすく、ポリエステル樹脂の透明性が損なわれやすい。Geはコストの高い触媒であるが、光学用ポリエステル樹脂には最も好ましい。Ge触媒としては、結晶性2酸化ゲルマニウムをエチレングリコールに溶解したものが好ましい。
【0065】
Ge化合物を重合触媒として用いた場合、重合の終了したポリエステルを水処理することが好ましい。水処理とは温度が50〜120℃の温水や水蒸気にポリエステルチップを10分〜10時間晒す処理であり、該処理によってGe触媒を失活させることができる。Ge触媒を失活させると、ポリエステルの繰り返し溶融時における熱安定性が向上するために好ましい。
【0066】
またこの他、ポリエステルの繰り返し溶融時の耐熱性を高めるために各種リン化合物を添加することも好ましく、ポリエステル樹脂の製膜時の静電引加性を付与するためにアルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物を添加することも好ましい。
【0067】
重合法がエステル交換法の場合、例えば2,6−デカリンジカルボン酸ジメチル、9,9−ビス(4−(2―ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、スピログリコール、エチレングリコールを用いる場合、2,6−デカリンジカルボン酸ジメチル、9,9−ビス(4−(2―ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、スピログリコール、エチレングリコールを所定のポリマー組成となるように反応容器へ仕込む。この際、エチレングリコールを全ジカルボン酸成分に対して1.7〜2.3モル倍添加することにより反応性が良好になる。これらを150℃程度で溶融後、触媒として酢酸マンガンを添加し撹拌する。150℃で、これらのモノマー成分は均一な溶融液体となる。ついで235℃まで徐々に昇温しながらメタノールを留出させ、エステル交換反応を実施する。エステル反応終了後、トリメチルリン酸を加え、撹拌後に水を蒸発させる。さらに、二酸化ゲルマニウムのエチレングリコール溶液を添加後、反応物を重合装置へ仕込み、装置内温度を徐々に重合温度の285℃まで昇温しながら、装置内圧力を常圧から0.1Torr以下まで減圧し、エチレングリコールを留出させる。重合反応の進行に従って反応物の粘度が上昇する。所定の撹拌トルクとなった時点で反応を終了し、重合装置から樹脂を水槽へストランド状に吐出する。吐出された樹脂は水槽で急冷し、巻き取り後カッターでチップとする。得られた樹脂は95℃の温水が満たされた水槽に投入して5時間水処理を行う。水処理後、脱水機を用いて樹脂から水分を除去し、ファインも取り除く。このようにして本発明の樹脂を得ることができるが、上記方法に限定されるわけではない。
【0068】
本発明のポリエステル樹脂は、フィルムとしての特性向上を目的として表面形成剤、加工性改善剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、滑剤、ブロッキング防止剤、核剤、可塑剤、防曇剤、着色剤、分散剤、赤外線吸収剤等の添加剤を添加することができる。
添加剤は無色であっても有色であっても構わないが、光学フィルムの特徴を損ねない為には無色透明であることが好ましい。表面形成を目的とした添加剤としては例えば、無機粒子ではSiO、TiO、Al、CaSO、BaSO、CaCO、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、フラーレン、ゼオライト、その他の金属微粉末等が挙げられる。また、好ましい有機粒子としては、例えば架橋ポリビニルベンゼン、架橋アクリル、架橋ポリスチレン、ポリエステル粒子、ポリイミド粒子、フッ素樹脂粒子等の有機高分子からなる粒子、あるいは、表面に上記有機高分子で被覆などの処理を施した無機粒子が挙げられる。
【0069】
なお、本発明の光学用ポリエステル樹脂は、フィルム化した場合の形状が他の光透過性フィルムとの積層フィルムであっても構わない。また、位相差フィルムとして使用する以外にも、フィルムに2色性色素を添加し、偏光板とすることも可能である。
【0070】
また本ポリエステル樹脂はプリズムシートやレンズシートに使用することも好ましい。
【実施例】
【0071】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明するが、これに限定されない。
【0072】
なお、物性の測定方法、効果の評価方法は次の方法に従って行った。
【0073】
(1)ガラス転移温度(Tg)
下記測定器を用いて測定した。
【0074】
装置:示差走査熱量計 DSC−7型(Perkin Elmer社製)
測定条件:窒素雰囲気下
測定範囲:25〜300℃
昇温速度:20℃/分
JIS−K7121(制1987)の9.3項の中間点ガラス転移温度の求め方に従い、測定チャートの各ベースラインの延長した直線から縦軸補講に等距離にある直線と、ガラス単位の階段状変化部分の曲線とが交わる点の温度とした。
(2)75Torrまで減圧した時点の重合場中の分子量500以下の成分(C500
重縮合反応時において該減圧度時点で反応槽を窒素還流下で常圧に戻し、重合液をステンレス容器にサンプリングし、氷浴中で速やかに室温まで急冷した。該サンプルをGPC測定により分子量500以下の成分C500(wt%)を算出した。重縮合に用いた系はサンプリング後廃棄した。
【0075】
装置:高速GPC装置 HLC−8220GPC(東ソー株式会社製)
検出器:示差屈折率検出器RI
カラム:TSKgel GMHxl 2本、TSK gel G2500Hxl 1本
溶媒:テトラヒドロフラン
標準試料:単分散ポリスチレン(東ソー株式会社製)
(3)留出物重量X
重縮合反応終了後、反応系中の総留出物重量を算出した。具体的には重合槽壁、攪拌棒、減圧ラインに付着した昇華留出物量、減圧トラップ中の液状留出物重量を合計し、仕込み組成から算出されるエステル交換用過剰成分を差し引いた重量をXとした。
(4)ポリマーの固有粘度
オルトクロロフェノールを溶媒として25℃で測定した。
(5)連続バッチ重合安定性
重合、留出物サンプリング後にEG洗浄操作として重縮合槽にEGを150重量部添加し、常圧、200℃にて2時間攪拌保持し、EGを重縮合槽下部吐出部から排出した。この後2回目の重合、EG洗浄、3回目の重合を行い、重合2回目のb値に対し3回目の樹脂のb値との差が10%未満のものを○、10%以上のものを×とした。
(参考例)チタン触媒(乳酸チタンナトリウムキレート化合物)の調整
攪拌機、凝縮器及び温度計を備えた3リットルのフラスコ中の温水(371g)に乳酸(226.8g、2.52mol)を溶解させ攪拌した。この攪拌されている溶液に滴下漏斗からチタンテトライソプロポキシド(288g、1.0mol)をゆっくり加えた。この混合物を1時間加熱、還流させて曇った溶液を生成させ、これよりイソプロパノール/水混合物を減圧下にて蒸留した。その生成物を70℃以下の温度まで冷却し、その攪拌されている溶液に水酸化ナトリウムの32wt%水溶液(380g、3.04mol)を滴下漏斗によってゆっくり加えた。得られた生成物を濾過し、次いでエチレングリコール(504g、8mol)と混合し、減圧下で加熱してイソプロパノール/水を除去し、わずかに曇った淡黄色の生成物(チタン含有量5.6wt%)を得た。
【0076】
実施例1
2,6−デカリンジカルボン酸メチル(トランス98%)46.4質量部、スピログリコール33.3質量部、9,9−ビス(4−(2ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン32.0質量部 エチレングリコール22.6質量部(ジカルボン酸成分の2倍モル)の割合でそれぞれ計量し、温度計、攪拌機を備えたエステル交換反応装置に仕込み、内容物を150℃で溶融した後、触媒として酢酸マンガン4水塩を0.06質量部含んだエチレングリコール溶液、KOHを0.01質量部含んだエチレングリコール溶液を添加し撹拌した。
【0077】
30分かけて205℃まで昇温し、さらに60分かけて235℃まで昇温しながらメタノールを留出させた。所定量のメタノールが留出したのち、触媒の失活剤としてトリメチルリン酸を0.02質量部含んだ水溶液を加え、5分間攪拌して水を蒸発させエステル交換反応を停止した。
【0078】
二酸化ゲルマニウムを0.04質量部含んだエチレングリコール溶液を添加後、反応物を温度計、攪拌機、減圧装置を備えた重合装置へ仕込み、装置内温度を90分かけて235℃から290℃まで昇温しながら、装置内圧力を常圧から真空へ90分かけて減圧し(減圧プログラム2)エチレングリコールを留出させる。重合反応の進行にしたがって反応物の粘度が上昇し、所定の撹拌トルクとなった時点で反応の終了とする。反応終了時は重合装置内を窒素ガスにて常温に戻し、重合装置下部のバルブを開けてガット状のポリエステルを水槽へ吐出した。吐出されたポリエステル樹脂は水槽で急冷後、カッターにてカッティングしチップとした。
【0079】
このようにしてポリエステルチップを得た。重合装置、トラップ等から回収された留出物は37.3質量部であり、モノマー仕込み時のエステル交換用過剰EG22.6質量部と触媒希釈に用いたEG(これもエステル交換用過剰EG)4.0質量部を差し引いた留出物量Xは10.7質量部であった。
(ポリエステルの水処理)
得られたポリエステルチップは95℃のイオン交換水で満たされた水槽に投入し、5時間水処理した。水処理の終了したチップは脱水機によって水と分離した。
【0080】
仕込み組成、樹脂のTg、固有粘度、b値、X、連続重合安定性の結果を表1に示す。
【0081】
この結果、耐熱性に優れたポリエステル樹脂であり、留出量Xも小さく、連続バッチ重合安定性も良好であった。1軸延伸後のフィルムは逆分散性を示した。
【0082】
実施例2
エステル交換反応触媒のKOHの添加をやめ、重縮合工程の減圧プログラムを常温から真空へ120分かけて減圧するもの(減圧プログラム3)に変更した以外は実施例1と同様にポリエステル樹脂を得た。仕込み組成と結果を表1に示す。75Torr減圧時の温度が上がり、重合温度に到達した後で10Torr以下に制御したため、留出物量Xは小さくなり、連続バッチ重合安定性も良好であった。
【0083】
実施例3
重縮合工程の減圧プログラムを常温から真空へ150分かけて減圧するもの(減圧プログラム4)に変更した以外は実施例2と同様にポリエステル樹脂を得た。仕込み組成と結果を表1に示す。75Torr減圧時の温度がさらに上がり、重合温度に到達した後で10Torr以下に制御したため、留出物量Xはさらに小さくなり、連続バッチ重合安定性も良好であった。
【0084】
実施例4
エステル交換反応触媒のKOHの添加をやめ、重縮合触媒を二酸化ゲルマニウムから乳酸チタンナトリウムキレート(参考例で調整)に変更し、重合温度を260℃に変更した以外は実施例1と同様にポリエステル樹脂を得た。仕込み組成と結果を表1に示す。触媒活性が大きいことから留出物量Xがさらに小さくなり、連続バッチ重合安定性も良好であった。
【0085】
実施例5
ジカルボン酸成分の共重合成分をデカリンジカルボン酸ジメチルからシクロヘキサンカルボン酸ジメチルに変更した以外は実施例2と同様にポリエステル樹脂を得た。仕込み組成と結果を表1に示す。75Torr減圧時の温度が高く、重合温度に到達した後で10Torr以下に制御したため留出物量Xが小さく、連続バッチ重合安定性も良好であった。
【0086】
実施例6
2,6−デカリンジカルボン酸メチル(トランス98%)43.0質量部、スピログリコール25.7質量部、9,9−ビス(4−(2ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン33.3質量部 エチレングリコール26.2質量部(ジカルボン酸成分の2倍モル)の割合でそれぞれ計量し、エステル交換反応装置に仕込み、内容物を150℃で溶融した後、触媒として酢酸マンガン4水塩を0.06質量部含んだエチレングリコール溶液を添加し撹拌した。
30分かけて205℃まで昇温し、さらに60分かけて235℃まで昇温しながらメタノールを留出させた。所定量のメタノールが留出したのち、60分かけて200℃まで反応容器内の温度を下げ、cis−1,2,3,6―テトラヒドロフタル酸を7.2質量部の割合で加えた。再び60分かけて235℃まで昇温し、触媒の失活剤としてトリメチルリン酸を0.02質量部加え、水を蒸発させエステル交換反応を停止した。それ以外は実施例1と同様に重縮合反応を行い、ポリエステル樹脂を得た。仕込み組成と結果を表1に示す。留出物量Xは小さく、連続バッチ重合安定性も良好であった。
【0087】
実施例7
エステル交換反応触媒のKOHの添加をやめ、仕込み組成を変更した以外は実施例1と同様にしてポリエステル樹脂を得た。仕込み組成と結果を表1に示す。留出物量Xは小さく、連続バッチ重合安定性も良好であった。
【0088】
実施例8
温度計、攪拌機、減圧装置を備えた反応器にシクロヘキサンジカルボン酸92.5質量部、エチレングリコール10質量部、9,9−ビス(4−(2ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン188.4質量部を加え攪拌しながら徐々に加熱溶解させ、温度220〜230℃にてエステル化反応をおこなった後、酸化ゲルマニウム0.068質量部含んだエチレングリコール溶液を加え、装置内温度を90分かけて235℃から290℃まで昇温しながら、装置内圧力を常圧から真空へ120分かけて減圧し(減圧プログラム3)エチレングリコールを留出させる。重合反応の進行にしたがって反応物の粘度が上昇し、所定の撹拌トルクとなった時点で反応の終了とする。反応終了時は重合装置内を窒素ガスにて常温に戻し、重合装置下部のバルブを開けてガット状のポリエステルを水槽へ吐出した。以後は実施例1と同様にしてポリエステルチップとフィルムを得た。仕込み組成と結果を表1に示す。75Torr減圧時の温度が高く、重合温度に到達した後で10Torr以下に制御したため留出物量Xが小さく、連続バッチ重合安定性も良好であった。
【0089】
比較例1
エステル交換反応触媒のKOHの添加をやめた以外は実施例1と同様にポリエステル樹脂を得た。仕込み組成と結果を表1に示す。触媒活性が小さくなったことから留出物量Xが大きくなり、連続バッチ重合安定性は不良であった。
【0090】
比較例2
重縮合工程の減圧プログラムを常温から真空へ60分かけて減圧するもの(減圧プログラム1)に変更した以外は比較例1と同様にポリエステル樹脂を得た。組成と結果を表1に示す。75Torr減圧時の温度が下がり、重合温度に到達する前に10Torr以下に制御したため、留出物量Xはさらに大きくなり、連続バッチ重合安定性は不良であった。
【0091】
比較例3
重縮合触媒の添加量を減らした以外は実施例7と同様にしてポリエステル樹脂を得た。仕込み組成と結果を表1に示す。触媒活性が低下したため、留出物量Xはさらに大きくなり、連続バッチ重合安定性は不良であった。
【0092】
比較例4
共重合仕込み組成を変更した以外は比較例1と同様にしてポリエステル樹脂を得た。仕込み組成と結果を表1に示す。モノマーユニット分子量82以上の仕込み成分が少ないため耐熱性が低くかった。
【0093】
比較例5
重縮合工程の減圧プログラムを常温から真空へ90分かけて減圧するもの(減圧プログラム2)に変更した以外は実施例8と同様にポリエステル樹脂を得た。組成と結果を表1に示す。75Torr減圧時の温度が下がったため、留出物量Xはさらに大きくなり、連続バッチ重合安定性は不良であった。
【0094】
なお、実施例、比較例で用いた原料の略号は以下の通りである。
【0095】
TPA:テレフタル酸ジメチル
CHDA:1,4−シクロヘキサンカルボン酸ジメチル
(シス体/トランス体=70/30)
DDC:2,6−デカリンジカルボン酸ジメチル(トランス体69mol%以上)
THPA:cis−1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸
BPEF:9,9−ビス(4−(2ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン
〔化学式(1)でRがエチル基、m=1、n=0に相当〕
TCDM:トリシクロ[5,2,1,0 2,6]デカンジメタノール
SPG:スピログリコール
EG:エチレングリコール
TMPA:トリメチルリン酸
75:重縮合工程において75Torrまで減圧した時点の重合場の温度
500:重合工程減圧度75Torr時点の重合場中の分子量500以下の成分
AP:触媒活性パラメータ、
T:0.04wt%酸化ゲルマニウム、285℃の触媒活性パラメータ
X:重合時の実質的なエステル交換用過剰成分を除く留出物重量
Y:実質的なエステル交換用過剰成分を除くモノマー仕込重量
Z:モノマーユニット分子量200以上400以下成分の仕込重量
【0096】
【表1】

【0097】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】重縮合工程減圧プログラム
【図2】重縮合工程昇温プログラム
【符号の説明】
【0099】
NO.1;重縮合工程減圧プログラムNO.1(60分)
NO.2;重縮合工程減圧プログラムNO.2(90分)
NO.3;重縮合工程減圧プログラムNO.3(120分)
NO.4;重縮合工程減圧プログラムNO.4(150分)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジオール成分として化学式(A)で表せる環式ジオールのジオール残基を有するポリエステルであって、重合仕込み組成中のモノマーユニット分子量82以上の成分が80mol%以上であり、重縮合時の実質的なエステル交換用過剰成分を除く留出物重量Xが以下の式(1)(2)を満たす光学用ポリエステルの製造方法。
(1) X≦Y×0.1
(2) X≦Y×0.05 + Z×0.3
Y:実質的なエステル交換用過剰成分を除くモノマー仕込重量
Z:モノマーユニット分子量200以上400以下成分の仕込重量
【化1】

は同一、または異なる炭素数1〜4のアルキル基であり、mは0〜3の整数を示す。
は同一、または異なる炭素数1〜30のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基を示し、nは0〜4の整数を示す。
【請求項2】
重合仕込み組成中のモノマーユニット分子量82以上の成分が100mol%以上であることを特徴とする請求項1記載の光学用ポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項3】
重合仕込み組成中にスピログリコールを含有することを特徴とする請求項1または2記載の光学用ポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項4】
重合仕込み組成中にスピログリコールを10mol%以上含有することを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載の光学用ポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項5】
重合時、重縮合工程において75Torrまで減圧した時点の重合場中の分子量500以下の成分を15wt%以下に制御することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の光学用ポリエステルの製造方法。
【請求項6】
重合時、重縮合工程において75Torrまで減圧した時点の重合場の温度T75を重合温度をTaとした時に以下の式を満たすように制御することを特徴とする請求項1〜5いずれか1項記載の光学用ポリエステルの製造方法。
(3) T75≧Ta−10
【請求項7】
重合温度に到達した後に重合場を10Torr以下に減圧制御することを特徴とする請求項1〜6いずれか1項記載の光学用ポリエステルの製造方法。
【請求項8】
重縮合工程において使用する触媒の触媒活性パラメータ(AP)が下記式(4)を満たすことを特徴とする請求項1〜7いずれか1項記載のポリエステル重合触媒。
(4)AP(min)/T(min)≦1.2
ただし、APは所定量の触媒を用いて所定の重合温度、0.1Torrの減圧度でビスヒドロキシエチルテレフタレートから固有粘度が0.65dl/gのポリエチレンテレフタレートを重合するのに要する時間(min)を示し、Tは酸化ゲルマニウムを触媒として生成ポリエチレンテレフタレートに対して酸化ゲルマニウムとして0.04wt%となるように添加した重合温度285℃の場合のAPである。
【請求項9】
樹脂のガラス転移温度が110℃以上であることを特徴とする請求項1〜8いずれか1項記載の光学用ポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項10】
樹脂の固有粘度が0.55以上であることを特徴とする請求項1〜9いずれか1項記載の光学用ポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項11】
樹脂のb値が12以下であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項記載の光学用ポリエステルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−81656(P2008−81656A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−265068(P2006−265068)
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】