説明

光学用延伸フィルムとそれを用いた偏光板および画像表示装置

【課題】負の固有複屈折を有する樹脂を延伸してなる光学用延伸フィルムであって、大きな位相差を実現できるなど、光学的な設計の自由度が高いとともに、耐熱分解特性に優れる延伸フィルムを提供する。
【解決手段】負の固有複屈折を有する樹脂(G)を延伸してなり、樹脂(G)は、(メタ)アクリル酸エステル単位、芳香族ビニル化合物単位および芳香族マレイミド単位を構成単位として有する、固有複屈折が負の重合体(F)を主成分として含み、重合体(F)の重量平均分子量が10万以上30万以下であり、重合体(F)における(メタ)アクリル酸エステル単位の含有率X、芳香族ビニル化合物単位の含有率Yおよび芳香族マレイミド単位の含有率Zが、重量%で表示して、以下の式を満たす光学用延伸フィルムとする。45≦X≦85、10≦Y≦40、5≦Z≦20、Y>Z

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負の固有複屈折を有する樹脂を延伸してなる光学用延伸フィルム、典型的には負の位相差フィルム、と、それを用いた偏光板および画像表示装置とに関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂フィルムを一軸延伸または二軸延伸して得た延伸フィルムが画像表示分野において幅広く使用されている。その一種に、延伸による高分子の配向に基づく複屈折を利用した位相差フィルムがある。位相差フィルムは、液晶表示装置(LCD)における色調補償、視野角補償に広く使用されている。従来、複屈折により生じた位相差に基づく光路長差(レターデーション)が波長の1/4であるλ/4板が、LCDに用いる位相差フィルムとして代表的である。
【0003】
近年、光学的な設計技術の進歩により、また、消費者へのLCDの訴求力向上のために、様々な光学設計に対応可能な位相差フィルムが求められるようになってきている。例えば、液晶表示モードの一種であるインプレーンスイッチング(IPS)モードは、位相差フィルムを用いることなく広い視野角を実現できることが特長である。しかし、液晶セルの光学的な特性上、斜め方向から画面をみたときに光漏れが発生し、いわゆる「黒浮き」による表示画像のコントラストの低下が生じる。一方、IPSモードと競合する液晶表示モードに垂直配向(VA)モードがあるが、VAモードでは、IPSモードのような広い視野角は得られないものの、光漏れの少ない、高コントラストの画像表示を実現できる。現在、VAモードにおける視野角拡大の技術が急速に進歩しており、これに対抗するために、位相差フィルムの配置によるIPSモードでの光漏れの抑制が求められている。
【0004】
IPSモードの液晶セルにおける厚さ方向の屈折率は、面内方向の屈折率よりも小さい。このため、光漏れの抑制には、厚さ方向の位相差Rthが負である「負の位相差フィルム」が必要となる。位相差Rthは、フィルム面内における遅相軸の屈折率をnx、フィルム面内における進相軸の屈折率をny、フィルムの厚さ方向の屈折率をnz、フィルムの厚さをdとしたときに、式{(nx+ny)/2−nz}×dにより与えられる。負の位相差フィルムは、負の固有複屈折を有する樹脂の延伸により得られる。
【0005】
また、LCDに対するさらなる薄型化の要求は強く、その要求に答えるためには、大きな位相差を示す位相差フィルムが望まれる。このため、負の固有複屈折を有する樹脂を延伸してなる光学用延伸フィルムであって、負の位相差フィルムとすることができるとともに、大きな位相差を実現できるなど、光学的な設計の自由度が高いフィルムが求められている。
【0006】
ところで、光学材料として広く使用されているポリメタクリル酸メチル(PMMA)は負の固有複屈折を有している。特開平05-66400号公報には、PMMAフィルムの延伸により、負の位相差フィルムが得られることが記載されている。しかし、PMMAからなる位相差フィルムでは大きな位相差を得ることが難しく、また、光学的な設計の自由度に限りがある。
【0007】
これとは別に、(メタ)アクリル酸エステル単位とその他の構成単位との共重合体からなる光学用延伸フィルムが知られている。
【0008】
特許2886893号公報には、(メタ)アクリル酸メチル単位89〜40重量%、マレイミドおよび/またはN−置換マレイミド単位1〜50重量%、ならびに芳香族ビニル化合物単位10〜30重量%からなり、メルトフローインデックスが所定の範囲にある重合体からなる延伸フィルムが開示されている。特許2886893号公報には、当該フィルムが、白黒表示のLCDの光学補償に用いられることが記載されている。なお、N−置換マレイミド単位として特許2886893号公報に具体的に開示されているN−シクロヘキシルマレイミド単位は、当該単位を有する重合体の分子鎖の配向により、当該重合体に正の固有複屈折を与える作用を有する。
【0009】
しかし、特許2886893号公報に開示の延伸フィルムでは大きな位相差を得ることが難しく、光学的な設計の自由度に限りがある。さらに、特許2886893号公報に開示の延伸フィルムでは、次の問題が生じることがある。光学用延伸フィルムは、当該フィルムを構成する樹脂の成形により製造されるが、その際に加えられる熱に対して樹脂が、より具体的には樹脂に含まれる重合体が、できるだけ熱分解しないことが重要である。重合体が熱分解すると、得られた延伸フィルムに微小な気泡が発生するなどして、光学用フィルムとして使用できない部分が生じる。成形時における気泡の発生をできるだけ抑制するには、より高い耐熱分解特性を有する樹脂からなる光学用延伸フィルムが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平05-66400号公報
【特許文献2】特許2886893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、負の固有複屈折を有する樹脂を延伸してなる光学用延伸フィルムであって、大きな位相差を実現できるなど、光学的な設計の自由度が高いとともに、耐熱分解特性に優れる延伸フィルムの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の光学用延伸フィルムは、負の固有複屈折を有する樹脂(G)を延伸してなり、前記樹脂(G)は、(メタ)アクリル酸エステル単位、芳香族ビニル化合物単位および芳香族マレイミド単位を構成単位として有する、固有複屈折が負の重合体(F)を主成分として含み、前記重合体(F)の重量平均分子量が10万以上30万以下であり、前記重合体(F)における(メタ)アクリル酸エステル単位の含有率X、芳香族ビニル化合物単位の含有率Yおよび芳香族マレイミド単位の含有率Zが、重量%で表示して、以下の式を満たす。
45≦X≦85
10≦Y≦40
5≦Z≦20
Y>Z
【0013】
本発明の偏光板は、本発明の光学用延伸フィルムを備える。
【0014】
本発明の画像表示装置は、本発明の光学用延伸フィルムを備える。
【発明の効果】
【0015】
本発明の光学用延伸フィルムは、重合体(F)を主成分として含む樹脂(G)を延伸してなる、即ち、重合体(F)を主成分として含む。これにより、光学的な設計の自由度が高く、例えば、大きな位相差を示す負の位相差フィルムとすることができる。本発明の光学用延伸フィルムは、さらに、優れた耐熱分解特性を有する。
【0016】
本発明の光学用延伸フィルムを備える本発明の偏光板は、様々な用途、例えば画像表示装置、に好適に使用できる。また、本発明の光学用延伸フィルムを備える本発明の画像表示装置は、斜めから画像を見たときの光漏れが少ないなど、画像表示特性に優れ、さらなる薄型化の要求に対する対応性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書における「樹脂」は「重合体」よりも広い概念である。樹脂は、例えば1種または2種以上の重合体からなってもよいし、必要に応じて、重合体以外の材料(例えば紫外線吸収剤、酸化防止剤、フィラー、可塑剤などの添加剤)を含んでいてもよい。
【0018】
本発明の光学用延伸フィルム(以下、本発明の延伸フィルム)の説明において、特に記載がない限り、「%」は「重量%」を意味する。
【0019】
[重合体(F)]
重合体(F)における(メタ)アクリル酸エステル単位の含有率X、芳香族ビニル化合物単位の含有率Yおよび芳香族マレイミド単位の含有率Zは、重量%で表示して、以下の式を満たす。
45≦X≦85
10≦Y≦40
5≦Z≦20
Y>Z
【0020】
これらの4つの式で表現された、重合体(F)における上記3種の構成単位の含有率の関係を、「関係B」とする。
【0021】
重合体(F)の固有複屈折は負である。重合体の固有複屈折の正負は、重合体の分子鎖が一軸配向した層(例えば、シートあるいはフィルム)において、当該層の主面に垂直に入射した光のうち、当該層における分子鎖が配向する方向(配向軸)に平行な振動成分に対する「層の屈折率n1」から、配向軸に垂直な振動成分に対する「層の屈折率n2」を引いた値「n1−n2」に基づいて判断できる。固有複屈折の値は、各々の重合体について、その分子構造に基づく計算により求めることができる。
【0022】
樹脂の固有複屈折の正負は、当該樹脂に含まれる各重合体により生じる複屈折の兼ね合いにより決定される。一の重合体からなる樹脂の固有複屈折の正負は、当該重合体の固有複屈折の正負と同一である。
【0023】
重合体(F)が有する構成単位について説明する。
【0024】
((メタ)アクリル酸エステル単位)
重合体(F)における(メタ)アクリル酸エステル単位の含有率Xは、45%以上85%以下である。換言すれば、重合体(F)の全構成単位に占める(メタ)アクリル酸エステル単位の割合は、45%以上85%以下である。
【0025】
関係Bが満たされている状態から、(メタ)アクリル酸エステル単位の含有率Xを45%未満に変化させると、芳香族ビニル化合物単位および芳香族マレイミド単位の含有率が相対的に大きくなることで、重合体の熱的バランスが崩れ、延伸フィルムの耐熱分解特性が低下する。また、(メタ)アクリル酸エステル単位に由来する、高い透明性および優れた機械的特性が得られなくなる。一方、関係Bが満たされている状態から、(メタ)アクリル酸エステル単位の含有率Xを85%を超えて変化させると、芳香族ビニル化合物単位および芳香族マレイミド単位の含有率が相対的に小さくなることで、重合体の熱的バランスが崩れ、延伸フィルムの耐熱分解特性が低下する。また、重合体(F)の固有複屈折の絶対値が小さくなることで延伸フィルムとしての大きな位相差の発現が困難となり、(メタ)アクリル酸エステル単位の種類およびその含有量によっては、重合体の固有複屈折が正となる。
【0026】
なお、重合体(F)が有する全構成単位のうち、(メタ)アクリル酸エステル単位が占める割合が最も大きいことから、重合体(F)はアクリル重合体である。
【0027】
重合体(F)における(メタ)アクリル酸エステル単位の含有率Xは、55%以上82%以下が好ましい。
【0028】
(メタ)アクリル酸エステル単位は、以下の式(1)に示す構成単位である。式(1)におけるR1は水素原子またはメチル基であり、R2は、炭素数1〜18の範囲の直鎖もしくは環状アルキル基である。当該アルキル基の一部が、水酸基または芳香族基により置換されていてもよい。この芳香族基は、アリール基(置換基を有していてもよい)のほか、複素芳香族基をも含む。
【0029】
【化1】

【0030】
(メタ)アクリル酸エステル単位は、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸i−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸カルバゾイルエチルの各単量体の重合により形成される構成単位である。
【0031】
なかでも、高い透明性および優れた機械的特性を有する延伸フィルムが得られることから、メタクリル酸メチル単位(MMA単位)が好ましい。また、MMA単位は、弱いながら、重合体(F)に負の固有複屈折を与える作用を有しており、(メタ)アクリル酸エステル単位がMMA単位である場合、重合体(F)の固有複屈折が負に大きくなることで、本発明の延伸フィルムの光学的設計の自由度がさらに向上する。
【0032】
重合体に負(あるいは正)の固有複屈折を与える作用を有する構成単位とは、当該単位のホモポリマーを形成したときに、形成したホモポリマーの固有複屈折が負(あるいは正)となる構成単位をいう。重合体自体の固有複屈折の正負は、当該単位によって生じる複屈折と、重合体が有するその他の構成単位によって生じる複屈折との兼ね合いにより決定される。
【0033】
(芳香族ビニル化合物単位)
芳香族ビニル化合物単位は、重合体(F)の固有複屈折を負に大きくする作用を有する。このため、重合体(F)が構成単位として芳香族ビニル化合物単位を有することにより、大きな位相差を示す延伸フィルムの実現が可能となり、その光学的な設計の自由度が向上する。
【0034】
重合体(F)における芳香族ビニル化合物単位の含有率Yは、10%以上40%以下である。ただし、含有率Yは、重合体(F)における芳香族マレイミド単位の含有率Zよりも大きい必要がある。関係Bが満たされている状態から、芳香族ビニル化合物単位の含有率Yを10%未満に変化させるか、含有率Yを40%を超えて変化させるか、あるいは含有率Yを含有率Z以下(Y≦Z)とすると、重合体の熱的バランスが崩れ、延伸フィルムの耐熱分解特性が低下する。また、関係Bが満たされている状態から、芳香族ビニル化合物単位の含有率Yを10%未満に変化させると、重合体(F)の固有複屈折の絶対値が小さくなることで、延伸フィルムとしての大きな位相差の発現が困難となり、その光学的な設計の自由度が低下する。関係Bが満たされている状態から、芳香族ビニル化合物単位の含有率Yを40%を超えて変化させると、重合体(F)のガラス転移温度(Tg)が低下することで、延伸フィルムの耐熱性が低下し、LCDなどの画像表示装置への使用に適さなくなる。また、延伸フィルムの透明性が低下する。
【0035】
重合体(F)における芳香族ビニル化合物単位の含有率Yは、15%以上35%以下が好ましい。
【0036】
芳香族ビニル化合物単位は、以下の式(2)に示す構成単位である。式(2)におけるR3は芳香族基であり、R4は水素原子であり、R5およびR6は、互いに独立して、水素原子またはメチル基である。
【0037】
【化2】

【0038】
3が芳香族基の場合、R3はアリール基(置換基を有していてもよい)のほか、複素芳香族基であってもよい。
【0039】
芳香族ビニル化合物単位は、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、メトキシスチレン、ビニルトルエン、ハロゲン化スチレンの各単量体に由来する単位である。なかでも、高い透明性および大きな位相差を示す延伸フィルムが得られることから、スチレン単位が好ましい。
【0040】
芳香族ビニル化合物単位は、上記式(2)に示すように、複素芳香族ビニル化合物単位であってもよく、例えば、ビニルカルバゾール、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール、ビニルチオフェンの各単量体の重合により形成される構成単位であってもよい。
【0041】
(芳香族マレイミド単位)
芳香族マレイミド単位は、芳香族ビニル化合物単位ほど強くはないが、重合体(F)の固有複屈折を負に大きくする作用を有する。このため、重合体(F)が構成単位として芳香族マレイミド単位を有することにより、大きな位相差を示す延伸フィルムの実現が可能となり、その光学的な設計の自由度が向上する。
【0042】
また、芳香族マレイミド単位は、芳香族ビニル化合物単位による重合体(F)のTgの低下を補償し、延伸フィルムの耐熱性を向上させる作用を有する。高い耐熱性を有する延伸フィルムは、LCDなどの画像表示装置に好適である。
【0043】
重合体(F)における芳香族マレイミド単位の含有率Zは、5%以上20%以下である。ただし、含有率Zは、重合体(F)における芳香族ビニル化合物単位の含有率Yよりも小さい必要がある。関係Bが満たされている状態から、芳香族マレイミド単位の含有率Zを5%未満に変化させるか、含有率Zを20%を超えて変化させるか、あるいは含有率Zを含有率Y以上(Y≦Z)とすると、重合体の熱的バランスが崩れ、延伸フィルムの耐熱分解特性が低下する。また、関係Bが満たされている状態から、芳香族マレイミド単位の含有率Zを5%未満に変化させると、重合体(F)の固有複屈折の絶対値が小さくなることで、延伸フィルムとしての大きな位相差の発現が困難となり、その光学的な設計の自由度が低下する。また、延伸フィルムのガラス転移温度(Tg)が低下する。関係Bが満たされている状態から、芳香族マレイミド単位の含有率Zを20%を超えて変化させると、延伸フィルムの可撓性が低下する。
【0044】
重合体(F)における芳香族マレイミド単位の含有率Zは、8%以上12%以下が好ましい。
【0045】
芳香族マレイミド単位は、以下の式(3)に示す構成単位である。式(3)におけるAr基は、置換基を有していてもよいアリール基である。
【0046】
【化3】

【0047】
芳香族マレイミド単位は、例えば、N−フェニルマレイミド、N−クロルフェニルマレイミド、N−メチルフェニルマレイミド、N−ナフチルマレイミド、N−ヒドロキシフェニルマレイミド、N−メトキシフェニルマレイミド、N−カルボキシフェニルマレイミド、N−ニトロフェニルマレイミド、N−トリブロモフェニルマレイミドの各単量体の重合により形成される構成単位である。なかでも、高いTgおよび大きな位相差を発現可能な延伸フィルムが得られることから、N−フェニルマレイミド単位が好ましい。
【0048】
重合体(F)における(メタ)アクリル酸エステル単位の含有率X、芳香族ビニル化合物単位の含有率Yおよび芳香族マレイミド単位の含有率Zは、重量%で表示して、式55≦X≦82、15≦Y≦35および8≦Z≦12を満たすことが好ましい。
【0049】
(その他の構成単位)
重合体(F)は、固有複屈折が負であるとともに、本発明の効果が得られる限り、(メタ)アクリル酸エステル単位、芳香族ビニル化合物単位および芳香族マレイミド単位以外の構成単位を含んでいてもよい。当該単位の含有率は、例えば5%未満である。
【0050】
重合体(F)における構成単位の含有率は、公知の手法、例えば1H核磁気共鳴(1H−NMR)あるいは赤外線分光分析(IR)により求めることができる。
【0051】
(重量平均分子量)
重合体(F)の重量平均分子量は、10万以上30万以下である。重量平均分子量が10万未満では、本発明の延伸フィルムの可撓性が低下する。一方、重量平均分子量が30万を超えると、フィルム成形時の流動性を確保できず、重合体(F)を主成分として含む樹脂(G)のフィルム化が困難となる。
【0052】
重合体(F)の重量平均分子量は、延伸フィルムの可撓性の観点から、15万以上が好ましい。
【0053】
重合体(F)は、公知の方法により製造できる。例えば、上述した(メタ)アクリル酸エステル単量体、芳香族ビニル化合物単量体および芳香族マレイミド単量体を含む単量体群を重合して、重合体(F)を形成できる。
【0054】
単量体群の重合には、懸濁重合、乳化重合、溶液重合などの各種の重合法を適用できる。なかでも、得られた重合体(F)における芳香族マレイミド単量体の残存量を低減できることから、溶液重合が好ましい。
【0055】
溶液重合は公知の手法に従えばよい。溶液重合に用いる重合溶媒は、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、メチルイソブチルケトン、ブチルセロソルブ、ジメチルホルムアルデヒド、2−メチルピロリドン、メチルエチルケトンなどの一般的な重合溶媒を適宜選択して用いることができる。
【0056】
[延伸フィルム]
本発明の延伸フィルムは、重合体(F)を主成分として含む樹脂(G)を延伸してなる。延伸の前後によってフィルムの組成は変化しないため、本発明の延伸フィルムは、重合体(F)を主成分として含む樹脂(G)からなる。換言すれば、本発明の延伸フィルムは、重合体(F)を主成分として含む。
【0057】
ここで、主成分とは、樹脂あるいは延伸フィルムにおける含有率が50%以上であることを意味する。これを別の観点から見ると、本発明の延伸フィルムは、上述した効果が得られる限り、重合体(F)以外の重合体を含んでいてもよい。重合体(F)以外の重合体は、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、アクリロニトリル、メチルビニルケトン、エチレン、プロピレン、酢酸ビニルなどの単量体1種類以上を用いた重合体(共重合体)であり、好ましくはスチレン−アクリロニトリル共重合体である。
【0058】
本発明の延伸フィルムにおける重合体(F)の含有率は、70%以上が好ましく、80%以上がより好ましい。また、本発明の延伸フィルムは、重合体(F)のみを重合体として含むフィルムであってもよい。なお、本発明の延伸フィルムにおける重合体(F)の含有率は、公知の手法、例えば1H−NMRあるいはIRにより求めることができる。
【0059】
本発明の延伸フィルムは、紫外線吸収剤、酸化防止剤、フィラーなどの任意の添加剤を含んでいてもよい。
【0060】
本発明の延伸フィルムは、通常、一軸延伸性または二軸延伸性のフィルムであり、延伸による重合体(F)の配向に基づく(重合体(F)以外の重合体を含む場合には当該重合体と重合体(F)との配向に基づく)光学特性を示す。
【0061】
本発明の延伸フィルムは、重合体(F)を主成分として含むことにより、大きな位相差を発現できる。換言すれば、本発明の延伸フィルムは、とりうる位相差の範囲が広い。
【0062】
本発明の延伸フィルムが示す位相差は、延伸の程度の調整(例えば、延伸方法、延伸温度、延伸倍率などの調整)により制御できる。また、本発明の延伸フィルムが示す厚さ方向の位相差Rthは、フィルムの厚さにより制御することも可能である。
【0063】
本発明の延伸フィルムの厚さは特に限定されないが、例えば10μm〜500μmであり、20μm〜300μmが好ましく、30μm〜100μmが特に好ましい。
【0064】
本発明の延伸フィルムは、重合体(F)を主成分として含む、固有複屈折が負の樹脂(G)を延伸してなる。本発明の延伸フィルムは、樹脂(G)の延伸の程度を弱くすることで、厚さ方向の位相差Rthがほぼゼロである光学用延伸フィルムとすることができるが、典型的には、負の位相差フィルムとなる。
【0065】
「負の位相差フィルム」とは、上述したように、厚さ方向の位相差Rthが負であるフィルムをいう。位相差Rthは、フィルム面内における遅相軸の屈折率をnx、フィルム面内における進相軸の屈折率をny、フィルムの厚さ方向の屈折率をnz、フィルムの厚さをdとしたときに、式{(nx+ny)/2−nz}×dにより与えられる。なお、本明細書における屈折率nx、ny、nzは、波長589nmの光に対する屈折率である。
【0066】
負の位相差フィルムでは、屈折率nx、ny、nzは、nz≧nx>nyまたはnz>nx≧nyの関係にある。nx、ny、nzが、nz=nx>nyの関係にあるとき、本発明の延伸フィルムはネガティブAプレートとなる。nx、ny、nzが、nz>nx=nyの関係にあるとき、本発明の延伸フィルムはポジティブCプレートとなる。nx、ny、nzは、nx>nz>nyかつnz>(nx+ny)/2の関係にあってもよい。
【0067】
従来、負の位相差フィルムは、特開平05-157911号公報に記載されている特殊な延伸法(当該公報の方法では、フィルムをその厚さ方向に延伸する)により製造されるが、本発明の延伸フィルムは、このような特殊な延伸法によらずとも、通常の延伸(フィルムの面内方向の延伸)により製造できる。
【0068】
本発明の延伸フィルムにおける厚さ方向の位相差Rthは、例えば、−50nmから−500nmの範囲である。また、本発明の延伸フィルムにおける面内位相差Reは、例えば、0nmから540nmの範囲である。面内位相差Reは、式(nx−ny)×dにより与えられる。
【0069】
厚さ方向の位相差Rthおよび面内位相差Reが上記範囲にある負の位相差フィルムをIPSモードのLCDに配置することにより、斜めから画面を見たときの光漏れを抑制でき、高コントラストおよび低い色ずれの画像表示を実現できる。
【0070】
本発明の延伸フィルムにおける位相差Rthおよび位相差Reの値、ならびに屈折率nx、nyおよびnzの関係は、目的とする光学特性に応じて選択できる。
【0071】
本発明の延伸フィルムは、一軸延伸性であっても二軸延伸性であってもよい。位相差など、目的とする光学特性に応じて選択できる。
【0072】
本発明の延伸フィルムは、光学特性が同一または異なる2以上の層が積層された積層構造を有していてもよい。
【0073】
本発明の延伸フィルムは、高い耐熱分解特性を有する。JIS K7120に規定された熱重量測定法により求めた本発明の延伸フィルムの5%加熱減量温度は、例えば300℃以上であり、重合体(F)における芳香族ビニル化合物単位の含有率Yおよび芳香族マレイミド単位の含有率Z、重合体(F)における含有率Yと含有率Zとの比、ならびに延伸フィルムにおける重合体(F)の含有率などによっては、320℃以上、350℃以上、さらには360℃以上となる。
【0074】
耐熱分解特性とは異なり、光学用延伸フィルムとしての使用時における耐熱性の指標となる本発明の延伸フィルムのTgは、例えば120℃以上であり、重合体(F)における芳香族ビニル化合物単位の含有率Yおよび芳香族マレイミド単位の含有率Z、重合体(F)における含有率Yと含有率Zとの比、ならびに延伸フィルムにおける重合体(F)の含有率などによっては、本発明の延伸フィルムのTgは130℃以上、さらには140℃以上となる。延伸フィルムのTgは、JIS K7121に準拠して求めることができる。
【0075】
本発明の延伸フィルムの用途は特に限定されず、従来の光学用延伸フィルムと同様の用途(例えば、LCDなどの画像表示装置)への使用が可能である。より具体的には、本発明の延伸フィルムを、IPSモード、OCB(optically compensated birefringence)モードのLCDにおける光学補償フィルムとして使用できる。
【0076】
本発明の延伸フィルムは、その位相差および波長分散性の調整を目的として、他の光学部材(例えば位相差フィルム)と組み合わせることができる。
【0077】
本発明の延伸フィルムは公知の手法により形成できる。例えば、重合体(F)を主成分として含む樹脂(G)をフィルムとし、得られた樹脂フィルムを所定の方向に一軸延伸または二軸延伸することで当該フィルムに含まれる重合体の分子鎖を配向させればよい。
【0078】
重合体(F)を主成分とする樹脂(G)をフィルム化する方法は特に限定されない。樹脂(G)が溶液状である場合、例えばキャスト成形すればよい。樹脂(G)が固形状である場合、溶融押出やプレス成形などの成形手法を用いればよい。
【0079】
得られた樹脂フィルムを一軸または二軸延伸する方法は特に限定されず、公知の手法に従えばよい。一軸延伸は、典型的には、フィルムの幅方向の変化を自由とする自由端一軸延伸である。二軸延伸は、典型的には逐次二軸延伸である。延伸方法、延伸温度および延伸倍率は、目的とする光学特性および機械的特性などに応じて、適宜選択すればよい。
【0080】
(偏光板)
本発明の偏光板の構造は、上記本発明の光学用延伸フィルムを備える限り、特に限定されない。本発明の偏光板は、例えば、偏光子の片面または両面に偏光子保護フィルムを接合させた構造を有する。このとき、少なくとも1つの偏光子保護フィルムが、本発明の光学用延伸フィルムであってもよいし、偏光板が、偏光子および偏光子保護フィルム以外の層を有しており、当該層が本発明の光学用延伸フィルムであってもよい。
【0081】
偏光子は特に限定されず、例えば、ポリビニルアルコールフィルムを染色、延伸して得た偏光子;脱水処理したポリビニルアルコールあるいは脱塩酸処理したポリ塩化ビニルなどのポリエン偏光子;多層積層体あるいはコレステリック液晶を用いた反射型偏光子;薄膜結晶フィルムからなる偏光子などの公知の偏光子である。なかでも、ポリビニルアルコールを染色、延伸して得た偏光子が好ましい。
【0082】
本発明の偏光板の構造の典型的な一例は、ポリビニルアルコールをヨウ素または二色性染料などの二色性物質により染色した後に一軸延伸して得た偏光子の片面または両面に、偏光子保護フィルムとして、本発明の光学用延伸フィルムを接合させた構造である。
【0083】
(画像表示装置)
本発明の画像表示装置の構造は、上記本発明の光学用延伸フィルムを備える限り、特に限定されない。本発明の画像表示装置は、例えば液晶表示装置(LCD)であり、当該LCD装置の画像表示部が、液晶セル、偏光板、バックライトなどの部材とともに、本発明の光学用延伸フィルムを備える。本発明の画像表示装置は、典型的には、光学補償フィルムとして本発明の光学用延伸フィルムを備える。偏光板の偏光子保護フィルムとして、本発明の光学用延伸フィルムを備えていてもよい。
【0084】
LCDの画像表示モードは特に限定されないが、負の固有複屈折を有する樹脂を延伸してなる本発明の光学用延伸フィルムは、IPSモードまたはOCBモードへの使用が好適である。
【実施例】
【0085】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明する。本発明は、以下に示す実施例に限定されない。
【0086】
最初に、実施例において作製した重合体および延伸フィルムの評価方法を示す。
【0087】
[重量平均分子量]
重合体の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、ポリスチレン換算により求めた。測定に用いた装置および測定条件は以下の通りである。
システム:東ソー製
カラム:TSK-GEL SuperHZM-M 6.0×150 2本直列
ガードカラム:TSK-GEL SuperHZ-L 4.6×35 1本
リファレンスカラム:TSK-GEL SuperH-RC 6.0×150 2本直列
溶離液:クロロホルム 流量0.6mL/分
カラム温度:40℃
【0088】
[ガラス転移温度]
重合体のガラス転移温度(Tg)は、JIS K7121に準拠して求めた。具体的には、示差走査熱量計(リガク社製、DSC−8230)を用い、窒素ガス雰囲気下、約10mgのサンプルを常温から200℃まで昇温(昇温速度20℃/分)して得られたDSC曲線から、始点法により評価した。リファレンスには、α−アルミナを用いた。
【0089】
[面内位相差Re]
延伸フィルムの面内位相差Reは、全自動複屈折計(王子計測機器製、KOBRA−WR)を用いて、測定波長589nmで評価した。
【0090】
[厚さ方向の位相差Rth]
延伸フィルムの厚さ方向の位相差Rthは、全自動複屈折計(王子計測機器製、KOBRA−WR)を用いて、測定波長を589nmとし、遅相軸を傾斜軸として40°傾斜して測定した値を基に算出した。
【0091】
[固有複屈折の正負]
延伸フィルムを構成する重合体の固有複屈折の正負は、全自動複屈折計(王子計測機器製、KOBRA−WR)を用いて当該フィルムの配向角を求め、その値に基づいて評価した。測定された配向角が0°近傍の場合、延伸フィルムを構成する重合体の固有複屈折は正であり、測定された配向角が90°近傍の場合、延伸フィルムを構成する重合体の固有複屈折は負である。
【0092】
[5%加熱減量温度]
延伸フィルムの(延伸フィルムを構成する重合体の)5%加熱減量温度(重合体を一定の速度で昇温したときに、その重量が5%減少した時点の温度)は、JIS K7120の規定に準拠し、示差熱量天秤(リガク社製、TG−8120)を用いて、サンプル質量10mg、昇温速度10℃/分、窒素雰囲気下の条件で評価した。
【0093】
[可撓性]
延伸フィルムの可撓性は、温度25℃、相対湿度65%RHの雰囲気下に1時間静置した幅15mm、長さ80mmの試験片を用い、MIT形耐折度試験機(テスター産業製、MIT BE−201型)を用いて、荷重を200gとし、JIS P8115に準拠して求めた。
【0094】
(製造例1)
攪拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた反応装置に、単量体としてN−フェニルマレイミド(PMI)70重量部およびメタクリル酸メチル(MMA)490重量部と、重合溶媒としてトルエン620重量部とを仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温させた。昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤として1.1重量部のt−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富社製、商品名:ルパゾール570)を添加した。ここに、スチレン(St)140重量部、トルエン50重量部およびt−アミルパーオキシイソノナノエート2.1重量部の混合溶液を2時間かけて滴下させ、さらに6時間、溶液重合を進行させた。
【0095】
次に、このようにして得た重合溶液を、減圧下240℃で1時間乾燥させて、MMA単位、St単位およびPMI単位からなる透明な重合体(F−1)を得た。重合体(F−1)の組成は、MMA:St:PMI=70%:20%:10%である。
【0096】
重合体(F−1)のTgは127℃であり、重量平均分子量は15.0万であった。
【0097】
(製造例2)
単量体として420重量部のMMAおよび210重量部のStを用いた以外は、製造例1と同様にして、溶液重合を進行させた。
【0098】
次に、このようにして得た重合溶液を、減圧下240℃で1時間乾燥させて、MMA単位、St単位およびPMI単位からなる透明な重合体(F−2)を得た。重合体(F−2)の組成は、MMA:St:PMI=60%:30%:10%である。
【0099】
重合体(F−2)のTgは127℃であり、重量平均分子量は14.3万であった。
【0100】
(製造例3)
単量体として560重量部のMMAおよび70重量部のStを用いた以外は、製造例1と同様にして、溶液重合を進行させた。
【0101】
次に、このようにして得た重合溶液を、減圧下240℃で1時間乾燥させて、MMA単位、St単位およびPMI単位からなる透明な重合体(P−1)を得た。重合体(P−1)の組成は、MMA:St:PMI=80%:10%:10%である。
【0102】
重合体(P−1)のTgは127℃であり、重量平均分子量は15.5万であった。
【0103】
(製造例4)
単量体として595重量部のMMAおよび35重量部のStを用いた以外は、製造例1と同様にして、溶液重合を進行させた。
【0104】
次に、このようにして得た重合溶液を、減圧下240℃で1時間乾燥させて、MMA単位、St単位およびPMI単位からなる透明な重合体(P−2)を得た。重合体(P−2)の組成は、MMA:St:PMI=85%:5%:15%である。
【0105】
重合体(P−2)のTgは127℃、重量平均分子量は16.3万であった。
【0106】
(実施例1)
製造例1で作製した重合体(F−1)をプレス成形機により250℃でプレス成形して、厚さ180μmのフィルムとした。次に、作製したフィルムを、二軸延伸装置(東洋精機製作所製TYPE EX4)を用いて、MD方向の延伸倍率が2倍、これに続くTD方向の延伸倍率が1.5倍となるように、延伸温度137℃(即ち、重合体(F−1)のTg+10℃)で逐次二軸延伸して、厚さ61μmの延伸フィルム(F1)を得た。なお、以降の実施例2および比較例1、2におけるフィルムの延伸には上記延伸装置を用いた。
【0107】
(実施例2)
製造例2で作製した重合体(F−2)をプレス成形機により250℃でプレス成形して、厚さ180μmのフィルムとした。次に、作製したフィルムを、MD方向の延伸倍率が2倍、これに続くTD方向の延伸倍率が1.5倍となるように、延伸温度137℃(即ち、重合体(F−2)のTg+10℃)で逐次二軸延伸して、厚さ63μmの延伸フィルム(F2)を得た。
【0108】
(比較例1)
製造例3で作製した重合体(P−1)をプレス成形機により250℃でプレス成形して、厚さ180μmのフィルムとした。次に、作製したフィルムを、MD方向の延伸倍率が2倍、これに続くTD方向の延伸倍率が1.5倍となるように、延伸温度137℃(即ち、重合体(P−1)のTg+10℃)で逐次二軸延伸して、厚さ60μmの延伸フィルム(F3)を得た。なお、重合体(P−1)のプレス成形により作製したフィルムの端部に、微小な気泡が発生していることが確認できた。プレス成形時に重合体(P−1)に加えられた熱により、重合体(P−1)の一部が熱分解され、気泡が発生したと推定される。重合体(F−1)および(F−2)のプレス成形によって得られたフィルムには、このような気泡は見られなかった。
【0109】
(比較例2)
製造例4で作製した重合体(P−2)をプレス成形機により250℃でプレス成形して、厚さ180μmのフィルムとした。次に、作製したフィルムを、MD方向の延伸倍率が2倍、これに続くTD方向の延伸倍率が1.5倍となるように、延伸温度137℃(即ち、重合体(P−2)のTg+10℃)で逐次二軸延伸して、厚さ58μmの延伸フィルム(F4)を得た。なお、重合体(P−2)のプレス成形により作製したフィルムの端部に、微小な気泡が発生していることが確認できた。プレス成形時に重合体(P−2)に加えられた熱により、重合体(P−2)の一部が熱分解され、気泡が発生したと推定される。
【0110】
実施例1、2および比較例1、2で作製した各延伸フィルムの評価結果を、以下の表1に示す。表1における面内位相差Reおよび厚さ方向の位相差Rthともに実測値である。
【0111】
【表1】

【0112】
表1に示すように、実施例1、2で作製した延伸フィルムF1、F2では、比較例1、2で作製した延伸フィルムF3、F4に比べて、厚さ方向の大きな負の位相差と高い5%加熱減量温度とを実現できた。即ち、本発明により、大きな位相差と優れた耐熱分解特性とを有する負の位相差フィルムを実現できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明の光学用延伸フィルムは、従来の光学用延伸フィルムと同様の用途に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負の固有複屈折を有する樹脂(G)を延伸してなり、
前記樹脂(G)は、(メタ)アクリル酸エステル単位、芳香族ビニル化合物単位および芳香族マレイミド単位を構成単位として有する、固有複屈折が負の重合体(F)を主成分として含み、
前記重合体(F)の重量平均分子量が、10万以上30万以下であり、
前記重合体(F)における(メタ)アクリル酸エステル単位の含有率X、芳香族ビニル化合物単位の含有率Yおよび芳香族マレイミド単位の含有率Zが、重量%で表示して、以下の式を満たす光学用延伸フィルム。
45≦X≦85
10≦Y≦40
5≦Z≦20
Y>Z
【請求項2】
前記含有率X、YおよびZが、重量%で表示して、
55≦X≦82
15≦Y≦35
8≦Z≦12
である請求項1に記載の光学用延伸フィルム。
【請求項3】
ガラス転移温度が120℃以上である請求項1に記載の光学用延伸フィルム。
【請求項4】
前記(メタ)アクリル酸エステル単位が、メタクリル酸メチル単位である請求項1に記載の光学用延伸フィルム。
【請求項5】
前記芳香族ビニル化合物単位が、スチレン単位である請求項1に記載の光学用延伸フィルム。
【請求項6】
前記芳香族マレイミド単位が、N-フェニルマレイミド単位である請求項1に記載の光学用延伸フィルム。
【請求項7】
JIS K7120に規定された熱重量測定法により求めた5%加熱減量温度が、300℃以上である請求項1に記載の光学用延伸フィルム。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の光学用延伸フィルムを備える偏光板。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載の光学用延伸フィルムを備える画像表示装置。

【公開番号】特開2011−38053(P2011−38053A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−189252(P2009−189252)
【出願日】平成21年8月18日(2009.8.18)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】