説明

光学用樹脂及びこれを含有したフィルム

【課題】光弾性係数が小さく耐熱性に優れた光学用樹脂、またこれを用いた光学基材や位相差フィルムに好適な波長分散性に優れた光学用フィルムを提供する。
【解決手段】ポリマー骨格中にカルド構造を含み、カルド構造由来の芳香環量をポリマー骨格中のそれ以外の芳香環量に対して一定以上の比率であるように制御した光学用樹脂、光学用フィルム

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光弾性係数が小さく耐熱性に優れた光学用樹脂に関し、該樹脂を使用した光学基材や位相差フィルム等の光学用フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
光学用素子は古くから透明性に優れ複屈折が小さいガラスが多く用いられてきた。しかし成形性に劣り軽量化が困難なため、最近では成形性、軽量性に優れ特性制御も容易な高分子材料がディスク基板、レンズ、ケーブル、各種ディスプレイ用フィルム等に特性に応じて使用されている。
【0003】
そのなかで位相差フィルムやプリズムシートなどの機能光学フィルムは、ポリメチルメタクリレート(以下PMMA)や環状ポリオレフィン(COC)から構成され液晶ディスプレイなどに利用されている。
【0004】
しかしながら、PMMAは吸湿による寸法変化等が大きく、高コストでありフィルム成形も容易でない。
【0005】
一方、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレンナフタレート(PEN)に代表されるポリエステル、或いはビスフェノールA型ポリカーボネートに代表されるポリカーボネート(PC)からなるフィルムは透明性が高く、成形性も良好であり、各種光学用フィルムとして使用されている。しかしながら、これらのフィルムは複屈折や光弾性係数が非常に大きく、また2軸延伸フィルムは成形性も不足しているため位相差フィルムやプリズムシートには不向きである。
【0006】
そこでこれらのポリエステル、ポリカーボネートを共重合によって改質する方法が検討されており、例えば特許文献1ではフルオレン化合物を導入したPETが、特許文献2では脂肪族ジカルボン酸とフルオレン化合物からなるポリエステルが、特許文献3、4では脂環族ジカルボン酸とフルオレン化合物からなるポリエステルが提案されている。
【0007】
しかし特許文献1記載のポリエステルはテレフタル酸比率も大きいため光弾性係数も大きく光学異方性も残存しやすい。また、特許文献2記載の脂肪族ジカルボン酸とフルオレン化合物からなるポリエステルはガラス転移温度が低いために耐熱性が低く、樹脂としても着色しやすいために光学用樹脂としては不適である。
【0008】
また、特許文献3および4記載の脂環族ジカルボン酸とフルオレン化合物からなるポリエステルは等方性に優れるがこれだけでは光弾性係数の小さい樹脂は得られない。
【特許文献1】特開平3−168211号公報
【特許文献2】特開平7−188401号公報
【特許文献3】特開平9−302077号公報
【特許文献4】特開2004−315676号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述した従来技術の問題点を解決した、光弾性係数が小さく波長分散性、耐熱性に優れた光学用ポリエステル樹脂及びフィルム、特に位相差フィルムに好適な光学用ポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】

上記課題を解決するため、本発明は、次の特徴を有するものである。
(1)化学式(1)で表せるカルド構造を有しており、該カルド構造部分の芳香環の数をAr(X)、ポリマー構造中に含まれるそれ以外の芳香環の数をAr(Y)としたとき、次式(1)を満たし、かつ全モノマーユニットの50mol%以上が芳香環非含有であることを特徴とする光学用樹脂。
【0011】
【化1】

【0012】
Ar(Y)/Ar(X)<1 ・・・ (1)
はエステル基またはカーボネート基であり、R、R は同一、または異なりアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、エーテル基の単一、またはこれら複数の組み合わせからなり、炭素数1〜14,酸素数0〜2である。
(2)R、Rが炭素数1〜4の直鎖アルキル基であることを特徴とする(1)記載の光学用樹脂。
(3)R、Rのいずれかにシクロアルキル基を含有することを特徴とする(1)記載の光学用樹脂。
(4)Tgが100℃以上であることを特徴とする(1)〜(3)いずれか1項記載の光学用樹脂。
(5)光弾性係数が−20×10−12〜20×10−12Pa−1であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1項記載の光学用樹脂。
(6)ジカルボン酸成分が脂環族ジカルボン酸であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれか1項記載の光学用樹脂。
(7)(1)〜(6)のいずれか1項記載の光学用樹脂からなり、波長550nm,450nmにおける位相差RがR(450)/R(550)<1であることを特徴とするフィルム。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、光弾性係数が小さく、波長分散性、耐熱性に優れた光学用ポリエステル及びカーボネート樹脂、またそのフィルムを提供することができる。すなわちたとえば液晶ディスプレイ用位相差フィルムなどに適用した場合には位相差ムラがなく、製造・使用時においても安定した位相差を発現することができる。また波長分散性に優れるため低コストでコントラスト低下や色相変化を少なくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0015】
本発明の光学用樹脂はポリエステルもしくはポリカーボネートが共重合組成の制御のしやすさから好ましく、本樹脂は化学式(1)で表せるカルド構造を含有し、該カルド構造中の芳香環がポリマー構造中のそれ以外の芳香環に対して一定以上含有することを特徴とする。ここで化学式(1)は樹脂を位相差フィルムとしたときに優れた波長分散性を与える。
【0016】
化学式(1)で表せるカルド構造を含有することで位相差フィルムとして用いたときに波長分散性に優れたフィルムを得ることができる。また、該カルド構造中の芳香環とポリマー構造中のそれ以外の芳香環の比率を制御することにより、より少量のカルド構造の共重合で波長分散性を向上することができ、光弾性係数を低く制御することができる。
【0017】
位相差フィルムとは、ある波長の光が通過する時に進相軸の位相と、遅相軸の位相に差を生じさせるフィルムであり、本発明において、位相差フィルムとは、例えば1/4波長の位相差を与えるλ/4位相差フィルム、1/2波長の位相差を与えるλ/2位相差フィルムや、視野角拡大フィルム、光学補償フィルムなど位相差を与える全てのフィルムをいう。
【0018】
ここで進相軸とは光が最も早く通過する面内の方向であり、遅相軸とは、これと直交する面内の方向である。
【0019】
例えば1/4波長フィルムは、可視波長域で位相差がそれぞれの波長の1/4であることが望ましい。ここで、波長X(nm)の位相差をR(X)(nm)と記載する。例えば簡単に可視波長域のR(450)、R(550)について説明すると、反射型液晶ディスプレイの位相差フィルムとして用いる場合、位相差フィルムを複数枚積層する方法ではなく1枚で全ての可視波長域の波長の位相差を理想値に近づける広帯域位相差フィルムとするためには、下式(1)を満たすことが好ましい。
【0020】
R(450)/R(550)=(450/4)/(550/4)=0.818 ・・・(1)
これに対し、通常のポリエステル、ポリカーボネート、環状ポリオレフィンなどは下式(2)である。位相差の波長分散に関して下式(2)の状態を順分散であるという。
【0021】
R(450)/R(550)>1 ・・・(2)
一方、理想に近い下式(3)の状態を逆分散であるという。
【0022】
R(450)/R(550)<1 ・・・(3)
構成部材の削減及び貼合コストの削減から1枚で上式(3)を満たす位相差フィルムが求められている。本出願においては逆分散を示すフィルムを波長分散性に優れたフィルムという。
【0023】
逆分散を得るための分子設計としては、分子内で複数の位相差フィルムが重ね合わされた場合と同じ効果があればよい。本出願においては、カルド構造を有する化学式(1)を含有するポリマーが、主鎖方向および主鎖に直交する方向に2種類の位相差フィルムを重ねあわせたのと同じ効果を発現し、逆分散性を示すことが可能となる。
【0024】
ここで化学式(1)のRは共重合のしやすさ、モノマー入手性からエステル基またはカーボネート基であることが好ましい。エステル基である場合は化学式(1)がジカルボン酸型であってもジオール型であってもかまわない。R、R は同一、または異なってもよく、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、エーテル基の単一、またはこれら複数の組み合わせからなることが好ましく、炭素数1〜14,酸素数0〜2であることが好ましい。炭素数、酸素数がこれより大きい場合は反応性、機械的強度が低下するので好ましくない。また炭素数がこれより小さい場合は反応性が低下するので好ましくない。
【0025】
上記化学式(1)で表される構造単位の誘導体としては、
ジオール型としては9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−エチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジエチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−プロピルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジプロピルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソプロピルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジイソプロピルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−n−ブチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジ−n−ブチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソブチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジイソブチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−(1−メチルプロピル)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ビス(1−メチルプロピル)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジフェニルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−ベンジルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジベンジルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(3−ヒドロキシプロポキシ)フェニル]フルオレン9,9−ビス[4−(4−ヒドロキシブトキシ)フェニル]フルオレン、
9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)シクロヘキシル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルシクロヘキシル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3、5−ジメチルシクロヘキシル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−エチルシクロヘキシル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3、5−ジエチルシクロヘキシル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシメトキシ)シクロヘキシル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシメトキシシクロヘキシル)フルオレン、9,9−ビス(4−(3−ヒドロキシプロポキシ)シクロヘキシル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)フルオレン、9,9−ビス(2−ヒドロキシデカヒドロナフチル−6イル)フルオレン、9,9−ビス(2−(2−ヒドロキシメトキシ)デカヒドロナフチル−6イル)フルオレン、9,9−ビス(2−(2−ヒドロキシエトキシ)デカヒドロナフチル−6)フルオレン、
9H−フルオレン−9,9−ジメタノール、9H−フルオレン−9,9−ジエタノール、9H−フルオレン−9,9−ジプロパノール、9H−フルオレン−9,9−ジイソプロパノール、9H−フルオレン−9,9−ジブタノール、9H−フルオレン−9,9−ジペンタノール、9H−フルオレン−9,9−ジヘキサノール等が例示されるがこれに限定されない。これらの成分は単独でも2種類以上用いてもよい。
【0026】
またカルボン酸型としては9,9−ビス(4−(2―カルボキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ベンゾイックアシッド)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−カルボキシエトキシ)シクロヘキシル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−カルボキシエトキシ)−3−メチルシクロヘキシル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−カルボキシエトキシ)−3、5−ジメチルシクロヘキシル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−カルボキシエトキシ)−3−エチルシクロヘキシル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−カルボキシエトキシ)−3、5−ジエチルシクロヘキシル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−カルボキシメトキシ)シクロヘキシル)フルオレン、9,9−ビス(4−カルボキシメトキシシクロヘキシル)フルオレン、9,9−ビス(4−(3−カルボキシプロポキシ)シクロヘキシル)フルオレン、9,9−ビス(4−カルボキシシクロヘキシル)フルオレン、9,9−ビス(2−カルボキシデカヒドロナフチル−6イル)フルオレン、9,9−ビス(2−(2−カルボキシメトキシ)デカヒドロナフチル−6イル)フルオレン、9,9−ビス(2−(2−カルボキシエトキシ)デカヒドロナフチル−6)フルオレン、フルオレン−9,9−ジカルボン酸、9,9−ビス(カルボキシメチル)フルオレン、9,9−ビス(カルボキシエチル)フルオレン、9,9−ビス(カルボキシプロピル)フルオレン、9,9−ビス(カルボキシイソプロピル)フルオレン、9,9−ビス(カルボキシペンチル)フルオレン、9,9−ビス(カルボキシヘキシル)フルオレン等が例示されるがこれに限定されない。またメチルエステル体、エチルエステル体等のエステル誘導体も反応方法により好ましく用いることができる。これらの成分は単独でも2種類以上用いてもよい。
【0027】
これらカルド構造をもつもののうち、 R、Rが炭素数1〜4の直鎖アルキル基である化合物は反応性、光弾性係数低減、耐熱性の点で好ましい。このなかで9H−フルオレン−9,9−ジメタノール、9H−フルオレン−9,9−ジエタノールが特に好ましい。
【0028】
またR、Rのいずれかにシクロアルキル基を含有する化合物は光弾性係数低減、耐熱性の点で好ましい。このなかで9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)シクロヘキシル)フルオレンが特に好ましい。
【0029】
本発明は該カルド構造部分の芳香環の数をAr(X)、ポリマー構造中に含まれるそれ以外の芳香環の数をAr(Y)としたとき、式(1)を満たすことを特徴とする。
【0030】
Ar(Y)/Ar(X)が1より大きいと波長分散性向上のために、樹脂中により多くのフルオレン等の芳香環を含有することになるので光弾性係数が高くなる。Ar(Y)/Ar(X)は0.9未満であることがより好ましく、0.75未満であることがさらに好ましい。
【0031】
ここで、芳香環の数はベンゼン環を1としたとき、ナフタレン環は2、アントラセン環は3として数え、(化1)でR2、R3が含有する芳香環はAr(Y)に含まれる。
【0032】
本発明の樹脂は芳香環を主鎖と直交方向にもつフルオレンを含有することで位相差の逆分散性を付与している。ここで位相差とは(4)〜(5)式のようにポリマーの固有複屈折Δnと関係づけられ、これは(6)式より分極率異方性であるΔPに比例する。
【0033】
R=Δn・d・・・・・(4)
Δn=f・Δn・・・・・(5)
【0034】
【数1】

【0035】
R:位相差、Δn:複屈折、d:フィルム厚さ(光路長)、f:配向関数、Δn:固有複屈折、ΔP:分極率(ΔP=P−P)、P=分子鎖軸の分極率、P=分子鎖と直交な分極率、M:分子量、n=屈折率、N:アボガドロ数
ここで分子構造として分極率ΔPが大きなものとしては芳香環、C=C2重結合、C=O2重結合が挙げられ、これらの構造が特にポリマーの複屈折に大きな影響を与える。つまり例えばフルオレンポリエステルやフルオレンカーボネートでは主鎖方向に配向するエステル基、カーボネート基と主鎖に対して直交方向に配向する芳香環を持っているため、それぞれ主鎖方向と直交方向にΔPを与え、フィルムに成形した場合に主鎖方向および主鎖に直交する方向に複屈折をもった2種類の位相差フィルムを重ねあわせたのと同じ効果を発現している。そのため、フルオレンポリエステル、フルオレンカーボネートではより優れた波長分散性を得るにはフルオレン以外の複屈折に影響を与える構造成分の比率を小さく制御することが重要である。例えばフルオレン以外に共重合成分として主鎖方向に配向する芳香環を過剰に導入した場合は主鎖方向に配向した芳香族、エステル基、カーボネート基の波長分散性のみがより強く反映されるためフィルムを重ね合わせた効果が発現せず逆分散性を示さない。
【0036】
また、本発明の樹脂は全モノマーユニットの50mo%以上が芳香環非含有であることを特徴とする。芳香族非含有のモノマーユニットを本範囲にすることにより、光弾性係数を低く制御することができる。芳香族非含有のモノマーユニットは50mol%以上である必要があり、70mol%以上であることが好ましい。ここで、ポリカーボネートのモノマーユニット比率の算出において、ホスゲン、ジフェニルカーボネート等のポリマーのカーボネート基のみとなるモノマーは計算から除外する。
【0037】
本樹脂はガラス転移温度が100℃以上であることが好ましい。本樹脂を例えば液晶テレビに位相差フィルム、反射フィルム、保護フィルムなど各種用途で使用する場合、バックライトなどの内部の熱や、外部環境の熱により加熱されるが、この加熱により特性が変化しない耐熱性が必要である。環境温度がTgを超えると、分子が動きやすくなるため、寸法、形状変化や、位相差フィルムの場合位相差が変化することがある。室内で使用される一般的な液晶テレビに使用する光学用フィルムとして、100℃以上のTgを有することが好ましい。Tgを高く制御するためには、樹脂に環状分子構造を多く含むことが好ましい。ここで環状分子構造は脂環、芳香環、或いは一部に多重結合を含有していてもよく、水素原子、窒素原子、珪素原子、硫黄原子、リン原子など炭素原子、酸素原子以外の原子も含有しても良い。
【0038】
本発明の樹脂は光弾性係数が小さい方が好ましい。例えば本樹脂を液晶フィルム用位相差フィルムに用いた場合、位相差フィルムに貼り合わされた他の部材の熱膨張、あるいは偏光フィルムの収縮、額縁による押しつけなどにより発生する残留応力がかかる。ここで光弾性係数が大きいと残留応力により、位相差の変化が生じ、位相差ムラが発生し、コントラストの低減や色相変化を起こすことがあり好ましくない。光弾性係数は小さければ小さいほど応力に対する位相差変化が小さいため好ましく、好ましくは−20×10−12Pa−1〜20×10−12Pa−1であり、より好ましくは−15×10−12Pa−1〜15×10−12Pa−1、さらに好ましくは−10×10−12Pa−1〜10×10−12Pa−1である。光弾性係数を低く制御するには樹脂中の芳香環、エステル基、カーボネート基などπ電子リッチな官能基比率を小さく制御することが好ましい。また、光弾性係数を小さく制御するためには、ポリカーボネートよりもポリエステルの方がより好ましい。樹脂がポリエステルの場合は、高Tgと低光弾性係数を両立させるために、モノマーのジカルボン酸成分は脂環族ジカルボン酸であることが好ましい。
【0039】
また、本発明の樹脂は各種光学用フィルム、レンズ等に使用することができるが、その中でも本樹脂を使用し波長550nmにおける位相差R(550)と波長450nmにおける位相差R(450)とが、次式(3)を満たすことを特徴とする位相差フィルムもまた、本発明の好ましい形態である。
【0040】
R(450)/R(550)<1・・・(3)
本発明の樹脂を使用することにより、光弾性係数が低く、耐熱性に優れた位相差フィルムを得ることができ、上記範囲に制御することにより、波長分散性に優れた位相差フィルムを得ることができる。位相差フィルムを上記式の範囲内に制御する方法としてはフルオレン濃度を高く、フルオレン以外の芳香環、エステル基、カーボネート基など2重結合濃度を低く制御すればよい。樹脂のままでは分子鎖が配向しておらず、位相差が発現しないが、製膜時に延伸配向させることで位相差を発現し、(3)式を満たすフィルムが得られる。
【0041】
以下、本発明の樹脂及びフィルムの製造方法について具体的に記述するが、これに制限されない。
【0042】
本発明の樹脂の重合方法に限定はなく、公知の重合法、例えば、ジカルボン酸とグリコールを誘導体とするエステル化法、ジカルボン酸ジエステルとグリコールを用いるエステル交換法などを用いることができる。
本発明のポリエステルのグリコール成分は規定したもの以外は特に制約はなく、他成分として各種グリコールを使用することができる。例えば、エチレングリコール、トリメチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、などの脂肪族ジオール、脂環式ジオールとしてはシクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジエタノール、デカヒドロナフタレンジメタノール、デカヒドロナフタレンジエタノール、ノルボルナンジメタノール、ノルボルナンジエタノール、トリシクロデカンジメタノール、トリシクロデカンジエタノール、テトラシクロドデカンジメタノール、テトラシクロデカンジエタノール、デカリンジメタノール、デカリンジエタノール等の飽和脂環式1級ジオール、2,6−ジヒドロキシ−9−オキサビシクロ[3,3,1]ノナン、3,9−ビス(2−ヒドロキシー1,1−ジメチルエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン(以下スピログリコールとする)等の飽和ヘテロ環1級ジオール、その他シクロヘキサンジオール、ビシクロヘキシル−4,4’−ジオール、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン、2,2−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)シクロヘキシル)プロパン、シクロペンタンジオール、3−メチル−1,2−シクロペンタンジオール、4−シクロペンテン−1,3−ジオール、イソソルベートなどの各種脂環式ジオールが例示できる。またジオール以外にトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどの多官能アルコールも用いることができる。しかし特に例示したグリコール成分に限定しない。これらの中で耐熱性向上(環式原子濃度向上)の点から各種環式ジオールが好ましく、光弾性係数低減、波長分散性向上(2重結合原子濃度低減、エステル基濃度低減)の観点から例えばシクロヘキサンジメタノール、スピログリコール、トリシクロデカンジメタノール、デカリンジメタノール等が好ましい。また、本発明の目的を損なわない範囲において2種類以上組み合わせることができ、例えばスピログリコールとエチレングリコールの組み合わせにより耐熱性、光弾性係数と延伸性を調節することができる。
【0043】
また本発明のポリエステルの他のジカルボン酸成分としては特に制約はなく、一般的なポリエステル樹脂の原料を用いることができる。例えば芳香族ジカルボン酸、鎖状脂肪族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸、およびこれらのエステル形成性誘導体が挙げられる。エステル形成性誘導体としては、テレフタル酸無水物のような酸無水物、ジカルボン酸に対応する酸クロライドのような酸ハライド、テレフタル酸ジメチルのような低級アルキルエステルなどを使用することができる。芳香族ジカルボン酸としては、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルエーテル−4,4’−ジカルボン酸、4,4’−ジフェニルメタンジカルボン酸、ベンジルマロン酸などが挙げられる。鎖状脂肪族ジカルボン酸としては、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、メチルマロン酸、エチルマロン酸、2,2−ジメチルコハク酸、2,3−ジメチルコハク酸、2,3−ジメチルコハク酸、3−メチルグルタル酸、3,3−ジメチルグルタル酸などが挙げられる。脂環族ジカルボン酸としては、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、シクロペンタンジカルボン酸、2,6−デカリンジカルボン酸、1,5−デカリンジカルボン酸、1,6−デカリンジカルボン酸、2,7−デカリンジカルボン酸、2,3−デカリンジカルボン酸、2,3−ノルボルナンジカルボン酸、ビシクロ[2,2,1]ヘプタン−3,4−ジカルボン酸、などの飽和脂環式ジカルボン酸や、cis−5−ノルボルネン−エンド−2,3−ジカルボン酸、メチル−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸、cis−1,2、3,6−テトラヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸、3,4,5,6−テトラヒドロフタル酸などの不飽和脂環式ジカルボン酸が例示できる。またジカルボン酸以外に多官能成分として、トリメリット酸、ピロメリット酸などの多官能カルボン酸成分も用いることができる。これらの中で耐熱性向上(環式原子濃度向上)のから好ましくは例えばテレフタル酸、イソフタル酸、2,6−デカリンジカルボン酸であり、光弾性係数低減、波長分散性向上(2重結合原子濃度低減、エステル基濃度低減)の観点から好ましくは例えば1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、2,6−デカリンジカルボン酸であり、より好ましくはテレフタル酸、2,6−デカリンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸である。本発明の目的を損なわない範囲で、単独でまたは二種以上組み合わせて用いることができ、例えばテレフタル酸、2,6−デカリンジカルボン酸を併用することで光弾性係数、耐熱性、位相差を調節することができる。
【0044】
重合法がエステル交換法の場合、例えば2,6−デカリンジカルボン酸ジメチル、9,9−ビス(4−(2―ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、トリシクロ[5,2,1,0 2,6]デカンジメタノール、エチレングリコールを用いる場合、2,6−デカリンジカルボン酸ジメチル、9,9−ビス(4−(2―ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、トリシクロ[5,2,1,0 2,6]デカンジメタノール、エチレングリコールを所定のポリマー組成となるように反応容器へ仕込む。この際、エチレングリコールを全ジカルボン酸成分に対して1.7〜2.3モル倍添加することにより反応性が良好になる。これらを150℃程度で溶融後、触媒として酢酸マンガンを添加し撹拌する。150℃で、これらのモノマー成分は均一な溶融液体となる。ついで235℃まで徐々に昇温しながらメタノールを留出させ、エステル交換反応を実施する。エステル反応終了後、トリメチルリン酸を加え、撹拌後に水を蒸発させる。さらに、二酸化ゲルマニウムのエチレングリコール溶液を添加後、反応物を重合装置へ仕込み、装置内温度を徐々に285℃まで昇温しながら、装置内圧力を常圧から133Pa以下まで減圧し、エチレングリコールを留出させる。重合反応の進行に従って反応物の粘度が上昇する。所定の撹拌トルクとなった時点で反応を終了し、重合装置から樹脂を水槽へストランド状に吐出する。吐出された樹脂は水槽で急冷し、巻き取り後カッターでチップとする。得られた樹脂は95℃の温水が満たされた水槽に投入して5時間水処理を行う。水処理後、脱水機を用いて樹脂から水分を除去し、ファインも取り除く。このようにして本発明の樹脂を得ることができるが、上記方法に限定されるわけではない。
【0045】
本樹脂がポリカーボネートの場合は重合法としては酸結合剤の存在下に、ジオール成分とホスゲンとの反応を行う方法(溶液法)、または炭酸ジエステルとを加熱溶融下、エステル交換をさせる方法(溶融法)が好ましく採用される。
【0046】
ジオール成分としては上記フルオレン成分、エステル用ジオールの項であげたものや、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン〔通称ビスフェノールA〕、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン等も例示される。ポリエステル同様、2種以上使用してもよい。
【0047】
重合は例えば溶融法の場合、炭酸ジエステルとしてはジフェニルカーボネート、ビス(クロロフェニル)カーボネート、ジナフチルカーボネート、ビス(ジフェニル)カーボネート、ジメチルカーボネート等が例示でき、これをジオール化合物1モルに対し0.96〜1.2モルの割合で用いることが好ましい。また、触媒を用いてもよく、ポリエステル同様、通常のエステル交換触媒が使用できる。具体的には不活性ガスの存在下に120〜180℃でジオール化合物と炭酸ジエステル及び触媒を加熱しながら溶融混合する。その後減圧しながら150〜350℃の反応温度まで昇温し生成するアルコールまたはフェノールを留出させてエステル交換反応を進行させる。最終的には100Pa以下まで減圧し、反応を完結させ樹脂を得ることができるが上記方法に限定されるわけではない。
【0048】
次に本発明の位相差フィルムの製膜について述べる。
【0049】
製膜方法については、公知の製膜方法を用いて製膜することができる。すなわち、インフレーション法、T−ダイ法、カレンダー法、切削法、流延法、エマルション法、ホットプレス法などの製造方法が使用できるが、厚みムラ減少、異物削減の観点からT−ダイ法、流延法、ホットプレス法が好ましく使用できる。インフレーション法やT−ダイ法による製造法の場合、単軸あるいはニ軸押出しスクリューのついたエクストルーダ溶融押出し装置が使用できる。好ましくはL/D=25以上120以下のニ軸混練押出機が着色を防ぐため好ましい。また、溶融押出装置を使用し溶融混練する場合、着色抑制の観点から、ベントを使用し減圧下での溶融混練あるいは窒素気流下での溶融混練を行うことが好ましい。特に本発明のポリエステル樹脂フィルムは非晶性であるため乾燥が難しいので、ベント式押出機は乾燥しなくても溶融押出しできるために好ましく用いられる。
【0050】
積層フィルムとするには、2台以上の押出機を用い、積層口金やフィードブロック等で直接ポリエステルを積層し、押し出すことで製造することができる。
【0051】
キャスト方法は溶融した樹脂をギア―ポンプで計量した後にTダイ口金から吐出させ、冷却されたドラム状に、密着手段である静電印加法、エアーチャンバー法、エアーナイフ法、プレスロール法などでドラムなどの冷却媒体に密着冷却固化させて室温まで急冷し、未延伸フィルムを得ることが好ましい。押出温度としては(Tg+40)℃〜(Tg+220)℃の範囲のいずれかの温度で行うことができる。本発明の樹脂フィルムでは良好な平面性や均一な厚み、光学特性が要求されるため、静電印加法が特に好ましく用いられる。
また、流延法により未延伸のフィルムを製造する場合、テトラヒドロフラン、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン等の溶剤が使用可能であり、好ましくはアセトン、メチルエチルケトンあるいはN−メチルピロリドン等が使用できる。該フィルムは、本発明の光学用樹脂を上記の1種以上の溶剤に溶かし、その溶液をバーコーター、Tダイ、バー付きTダイ、ダイ・コートなどを用いて、ポリエチレンテレフタレートなどの耐熱フィルム、スチールベルト、金属箔などの平板または曲板(ロール)上に流延し、溶剤を蒸発除去する乾式法あるいは溶液を凝固液で固化する湿式法等を用いることにより製造できる。
【0052】
上記に記載の製膜方法により製造した未延伸フィルムを、(Tg−40)℃〜(Tg+40)℃の範囲のいずれかの温度で一軸延伸、二軸延伸などの方法で延伸することにより、位相差を付与したフィルムを得ることができる。二軸延伸の延伸方式は特に限定はなく、逐次二軸延伸、同時二軸延伸などの方法を用いることができる。延伸温度は好ましくは(Tg−30)℃〜(Tg+30)℃の範囲であり、より好ましくは(Tg−10)℃〜(Tg+20)℃の範囲である。延伸温度が高すぎると十分な位相差が得られないことがあり、低すぎるとフィルム破れが生じやすくなるため好ましくない。延伸倍率は、目的とした位相差に応じて決めることができる。例えば、波長550nmの光において、厚さ50μm以下および位相差137.5nm以上の樹脂フィルムを得るためには、1.5倍以上の延伸倍率であることが肝要である。延伸速度には特に限定はないが50〜10000%/分が好ましい。延伸速度が遅すぎると、十分な位相差が得られないことや生産性が低くなり、早過ぎるとフィルム破れが生じることがあるので好ましくない。
【0053】
本発明のフィルムを延伸した後のフィルム厚みは5〜300μmであることが好ましい。より好ましくは7〜150μmであり、さらに好ましくは10〜80μmである。5μm未満の場合はフィルムのハンドリングが困難になることがあり、300μmを超える場合は光線透過率が低くなることがあり、また本発明の位相差フィルムを用いた液晶ディスプレイの薄型化、軽量化の観点で好ましくない。
【0054】
本発明の光学用フィルムには、表面形成剤、加工性改善剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、滑剤、ブロッキング防止剤、核剤、可塑剤、防曇剤、着色剤、分散剤、赤外線吸収剤等の添加剤を添加することができる。
添加剤は無色であっても有色であっても構わないが、光学フィルムの特徴を損ねない為には無色透明であることが好ましい。表面形成を目的とした添加剤としては例えば、無機粒子ではSiO、TiO、Al、CaSO、BaSO、CaCO、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、フラーレン、ゼオライト、その他の金属微粉末等が挙げられる。また、好ましい有機粒子としては、例えば架橋ポリビニルベンゼン、架橋アクリル、架橋ポリスチレン、ポリエステル粒子、ポリイミド粒子、フッ素樹脂粒子等の有機高分子からなる粒子、あるいは、表面に上記有機高分子で被覆などの処理を施した無機粒子が挙げられる。
【0055】
また、逆分散性を損なわない範囲において、他の透明性樹脂とのアロイであっても構わない。アロイ成分としては各種アクリル、ポリエステル、ポリカーボネート、環状オレフィン等が挙げられるが、本発明の樹脂を50重量%以上含有ことが望ましい。アロイ成分がポリエステルもしくはポリカーボネートの場合は、樹脂成分全体としても本発明を満たすことが望ましい。
【0056】
なお、上記した本発明の光学用樹脂フィルムは、他の光透過性フィルムとの積層フィルムであっても構わない。また、位相差フィルムとして使用する以外にも、フィルムに2色性色素を添加し、偏光板とすることも可能である。
【0057】
また本樹脂はプリズムシートやレンズシートに使用することも好ましいが、これらを製造する場合はホットプレス法で製造することが好ましい。製造方法としては成型させる金型を準備し、これをTg+10〜+50℃程度に加熱し、未延伸または延伸の終了したポリエステルシート、フィルムにプレスする。プレスしたら1分ほど圧力をかけ続け、そのままの状態でTg以下まで冷却する。金型が樹脂のTg以下となったところで金型とフィルムを剥離する。
【実施例】
【0058】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。
【0059】
なお、物性の測定方法、効果の評価方法は次の方法に従って行った。
【0060】
(1)ガラス転移温度(Tg)
下記測定器を用いて測定した。
【0061】
装置:示差走査熱量計 DSC−7型(Perkin Elmer社製)
測定条件:窒素雰囲気下
測定範囲:25〜300℃
昇温速度:20℃/分
JIS−K7121(制1987)の9.3項の中間点ガラス転移温度の求め方に従い、測定チャーとの各ベースラインの延長した直線から縦軸補講に等距離にある直線と、ガラス単位の階段状変化部分の曲線とが交わる点の温度とした。
(2)光弾性係数(Cσ)
下記測定器を用いて測定した。
【0062】
装置:セルギャップ検査装置 RETS−1200(大塚電子株式会社製)
サンプルサイズ:20mm×50mm
測定スポット径:φ5mm
光源:589nm
サンプルの厚みをd(nm)とし、長手方向の両端を挟み、長手方向に9.8×10Paの応力σ(Pa−1)をかけた。この状態で、位相差R(nm)を測定した。張力をかける前の位相差をR、かけた後の位相差をRとし、下の式を用いて光弾性係数Cσ(Pa−1)を計算した。
【0063】
Cσ=(R―R)/(σ×d)。
(3)逆分散性(R(450)/R(550))
下記測定器を用いて測定した。
【0064】
装置:自動複屈折計 KOBRA−21ADH/DSP (王子計測機器製)
測定径:φ5mm
測定波長:400〜800nm
波長x(nm)の時の位相差をR(x)(nm)と記載した。
【0065】
また、R(450)(nm)、R(550)(nm)の値は、次式のコーシーの式を用いて算出した。式のa〜dの算出に用いた波長は480.4nm、548.3nm、628.2nm、752.7nmの4つである。
【0066】
R(λ)=a+b/λ+c/λ+d/λ
算出したR(450)(nm)、R(550)(nm)からR(450)(nm)/R(550)(nm)を算出し、下記のランク付けをおこなった。
【0067】
○:R(450)(nm)/R(550)<1
×:R(450)(nm)/R(550)≧1
(参考例)チタン触媒(乳酸チタンナトリウムキレート化合物)の調整
攪拌機、凝縮器及び温度計を備えた3リットルのフラスコ中の温水(371g)に乳酸(226.8g、2.52モル)を溶解させ攪拌した。この攪拌されている溶液に滴下漏斗からチタンテトライソプロポキシド(288g、1.0モル)をゆっくり加えた。この混合物を1時間加熱、還流させて曇った溶液を生成させ、これよりイソプロパノール/水混合物を減圧下にて蒸留した。その生成物を70℃以下の温度まで冷却し、その攪拌されている溶液に水酸化ナトリウムの32wt%水溶液(380g、3.04モル)を滴下漏斗によってゆっくり加えた。得られた生成物を濾過し、次いでエチレングリコール(504g、8モル)と混合し、減圧下で加熱してイソプロパノール/水を除去し、わずかに曇った淡黄色の生成物(チタン含有量5.6wt%)を得た。
【0068】
実施例1
2,6−デカリンジカルボン酸メチル61.3質量部、スピログリコール29.3質量部、9H−フルオレン−9,9‘−ジメタノール21.8質量部 エチレングリコール29.9質量部(ジカルボン酸成分の2倍モル)の割合でそれぞれ計量し、エステル交換反応装置に仕込み、内容物を150℃で溶融した後、触媒として酢酸マンガン4水塩を0.06質量部添加し撹拌した。
【0069】
30分かけて205℃まで昇温し、さらに60分かけて235℃まで昇温しながらメタノールを留出させた。所定量のメタノールが留出したのち、触媒の失活剤としてトリメチルリン酸を0.02質量部含んだエチレングリコール溶液を加え、5分間攪拌してエステル交換反応を停止した。
【0070】
二酸化ゲルマニウムを0.04質量部含んだエチレングリコール溶液を添加後、反応物を重合装置へ仕込み、装置内温度を90分かけて235℃から290℃まで昇温しながら、装置内圧力を常圧から真空へ減圧しエチレングリコールを留出させる。重合反応の進行にしたがって反応物の粘度が上昇し、所定の撹拌トルクとなった時点で反応の終了とする。反応終了時は重合装置内を窒素ガスにて常圧に戻し、重合装置下部のバルブを開けてガット状のポリエステルを水槽へ吐出した。吐出されたポリエステル樹脂は水槽で急冷後、カッターにてカッティングしチップとした。
【0071】
このようにしてポリエステルチップを得た。
(ポリエステルの水処理)
得られたポリエステルチップは95℃のイオン交換水で満たされた水槽に投入し、5時間水処理した。水処理の終了したチップは脱水機によって水と分離した。この水処理によってポリエステルチップに含まれていたファインも除去した。
(ポリエステルフィルムの製膜)
得られたポリエステル樹脂のチップを減圧乾燥した後、次のようなホットプレス法を用いて製膜した。金属板の上にポリイミドフィルムを重ね、そのポリイミドフィルム上に内側の枠が8cm四方である金属の枠を重ねた。金属の枠内の中央部にチップ3.5gを乗せた。さらにポリイミドフィルムと金属板を重ね、270℃で2分間予熱の後、10kgf/cmの圧力で10秒間プレスした。
【0072】
プレス終了後、フィルムを挟んだ金属板を水につけてフィルムを冷却固化し、金属枠からフィルムを切り出した。
【0073】
さらに切り出したフィルムを長方形に切り、長手方向の両端を保持して、Tg+10℃のオーブン中で、1%/秒の延伸速度、2.5倍の延伸倍率で一軸延伸を行った。
【0074】
樹脂のTg、未延伸フィルムの光弾性係数、一軸延伸後のフィルムの波長分散性の結果を表1に示す。
【0075】
この結果、光弾性係数が低く、耐熱性に優れたポリエステル樹脂であり、1軸延伸後のフィルムは逆分散性を示した。
【0076】
実施例2
原料組成の変更および重合触媒を二酸化ゲルマニウムから乳酸チタンナトリウムキレート(参考例で調整、チタン含有量として20ppmとなるように添加)に変更し、これ以外は実施例1と同様にしてポリエステルチップとフィルムを得た。組成、樹脂のTg、未延伸フィルムの光弾性係数、一軸延伸後のフィルムの波長分散性の結果を表1に示す。
【0077】
実施例3
原料組成および、エステル交換反応後の失活剤をトリメチルリン酸からトリエチルホスホノアセテート0.02質量部に、重合触媒を二酸化ゲルマニウムから三酸化アンチモン0.03質量部に変更した以外は実施例1と同様にしてポリエステルチップとフィルムを得た。組成、樹脂のTg、未延伸フィルムの光弾性係数、一軸延伸後のフィルムの波長分散性の結果を表1に示す。
【0078】
実施例4〜7
原料組成を変更した以外は実施例1と同様にしてポリエステルチップとフィルムを得た。組成、樹脂のTg、未延伸フィルムの光弾性係数、一軸延伸後のフィルムの波長分散性の結果を表1に示す。
【0079】
実施例8
1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチル34.7質量部、4,4’−(9−フルオレニリデン)ビスベンゾイックアシッドメチルエステル37.7質量部、エチレングリコール35.9質量部(ジカルボン酸成分の2倍モル)、水添ビスフェノキシエタノールフルオレン26.0質量部の割合でそれぞれ計量し、エステル交換反応装置に仕込み、内容物を150℃で溶融した後、触媒として酢酸マンガン4水塩を0.06質量部添加し撹拌した。
【0080】
30分かけて205℃まで昇温し、さらに60分かけて235℃まで昇温しながらメタノールを留出させた。その後、60分かけて200℃まで反応容器内の温度を下げ、cis−1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸を5.4質量部の割合で加えた。再び60分かけて235℃まで昇温し、所定量のメタノールが留出したのち、触媒の失活剤としてトリメチルリン酸を0.02質量部含んだエチレングリコール溶液を加え、5分間攪拌してエステル交換反応を停止した。
【0081】
その後二酸化ゲルマニウムを0.04質量部含んだエチレングリコール溶液を添加後、反応物を重合装置へ仕込み、装置内温度を90分かけて235℃から290℃まで昇温しながら、装置内圧力を常圧から真空へ減圧しエチレングリコールを留出させる。重合反応の進行にしたがって反応物の粘度が上昇し、所定の撹拌トルクとなった時点で反応の終了とする。反応終了時は重合装置内を窒素ガスにて常温に戻し、重合装置下部のバルブを開けてガット状のポリエステルを水槽へ吐出した。吐出されたポリエステル樹脂は水槽で急冷後、カッターにてカッティングしチップとした。このようにしてポリエステルチップを得た。それ以外は実施例1と同様にフィルムを得た。組成、樹脂のTg、未延伸フィルムの光弾性係数、一軸延伸後のフィルムの波長分散性の結果を表1に示す。
【0082】
実施例9
9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)シクロヘキシル)フルオレン56.1質量部、水添ビスフェノールA37.4質量部、ジフェニルカーボネートを53.4質量部、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドを0.04質量部、水酸化ナトリウム2×10−4質量部を撹拌装置、蒸留器及び減圧器を備えた反応相に仕込み窒素置換した後、150℃で溶解した。30分攪拌後、30分かけて徐々に減圧、昇温し15kPa、180℃とした。さらに同圧で120分かけて240℃まで昇温し生成するフェノールを溜去した。その後同温度で徐々に真空に減圧し4時間攪拌下反応させた。失活剤としてドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルスルホニウム塩を1.2×10−2質量部添加後、重合装置内を窒素ガスにて常圧に戻し、重合装置下部のバルブを開けてガット状のポリカーボネートを水槽へ吐出した。吐出されたポリカーボネート樹脂は水槽で急冷後、カッターにてカッティングしチップとした。
【0083】
本ポリカーボネート樹脂から実施例1同様にフィルムを得た。組成、樹脂のTg、未延伸フィルムの光弾性係数、一軸延伸後のフィルムの波長分散性の結果を表1に示す。
【0084】
比較例1〜4
原料組成を変更した以外は実施例1と同様にしてポリエステルチップとフィルムを得た。組成、樹脂のTg、未延伸フィルムの光弾性係数、一軸延伸後のフィルムの波長分散性の結果を表1に示す。いずれも光弾性係数が高く、比較例2、4においては逆分散性を示さなかった。
なお、実施例、比較例で用いた原料の構造は以下の通りである。
【0085】
【化2】

【0086】
【化3】

【0087】
【化4】

【0088】
A:テレフタル酸ジメチル
B:1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチル(シス体/トランス体=70/30)
C:2,6−デカリンジカルボン酸ジメチル
D:cis−1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸
Ea:4,4’−(9−フルオレニリデン)ビスベンゾイックアシッドメチルエステル
Eb:9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン
Ec:9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)シクロヘキシル)フルオレン
Ed:9−(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル),9−(4−(2−ヒドロキシエトキシ)シクロヘキシル)フルオレン
Ee:9H−フルオレン−9,9−ジメタノール
Ef:9H−フルオレン−9,9−ジエタノール
F:スピログリコール
G:水添ビスフェノールA
H:エチレングリコール
【0089】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式(1)で表せるカルド構造を有しており、該カルド構造部分の芳香環の数をAr(X)、ポリマー構造中に含まれるそれ以外の芳香環の数をAr(Y)としたとき、次式(1)を満たし、かつ全モノマーユニットの50mol%以上が芳香環非含有であることを特徴とする光学用樹脂。
【化1】

Ar(Y)/Ar(X)<1 ・・・ (1)
はエステル基またはカーボネート基であり、R、R は同一、または異なりアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、エーテル基の単一、またはこれら複数の組み合わせからなり、炭素数1〜14,酸素数0〜2である。
【請求項2】
、Rが炭素数1〜4の直鎖アルキル基であることを特徴とする請求項1記載の光学用樹脂。
【請求項3】
、Rのいずれかにシクロアルキル基を含有することを特徴とする請求項1記載の光学用樹脂。
【請求項4】
Tgが100℃以上であることを特徴とする請求項1〜3記載のいずれか1項記載の光学用樹脂。
【請求項5】
光弾性係数が−20×10−12〜20×10−12Pa−1であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の光学用樹脂。
【請求項6】
ジカルボン酸成分が脂環族ジカルボン酸であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の光学用樹脂。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項記載の光学用樹脂からなり、波長550nm,450nmにおける位相差RがR(450)/R(550)<1であることを特徴とするフィルム。

【公開番号】特開2009−29879(P2009−29879A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−193543(P2007−193543)
【出願日】平成19年7月25日(2007.7.25)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】