説明

光学等方性アクリル樹脂フィルムの製造方法およびその製造方法

【課題】透明性、耐熱性、靱性に優れると共に、光学等方性に優れ、かつ高温多湿等の外部環境の変化に対する耐久性に優れた光学等方性アクリル樹脂フィルムを提供する。
【解決手段】(i)ラクトン環含有単量体単位を含有する熱可塑性共重合体を含有し、下記(a)、(b)および(c)を満たすことを特徴とする光学等方性アクリル樹脂フィルム。(a)ガラス転移温度が120℃以上。(b)引張り破断伸度が10%以上。(c)面内位相差(Re)の絶対値が10nm以下、かつ厚み位相差(Rth)の絶対値が10nm以下。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性、耐熱性、靱性に優れると共に、光学等方性に優れ、かつ高温多湿等の外部環境の変化に対する耐久性に優れた光学等方性アクリル樹脂フィルムおよび偏光板保護フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶テレビや携帯電話等の液晶表示装置には、液晶パネル表面を形成するガラス基板の両側に偏光板を配置することが必要不可欠である。偏光板としては、現在、ポリビニルアルコール(PVA)系フィルムとヨウ素等の二色性材料からなる偏光子の両面に、トリアセチルセルロース(TAC)に代表されるセルロース系の樹脂フィルムを用いた偏光子保護フィルムを貼り合わせたものが、一般に用いられている。
【0003】
セルロース系樹脂フィルムは、透明性が良好で、面内方向の位相差が小さく、実用的な耐熱性と優れた機械強度を持っているため偏光子保護フィルムとして優れた特性を有している。また、透湿度が高いためPVAなどの偏光子との貼り合わせる際にPVAや接着剤の水分透過性に優れるなど加工性も良いため、偏光子保護フィルムとして一般的に用いられている(例えば、特許文献1参照。)
また、偏光子保護フィルムにおいては、一般的に不要な位相差をもつフィルムは好ましくなく、これは偏光子フィルムが高精度の直線偏光機能を有するものであっても、偏光子保護フィルムの位相差や光軸のズレは、偏光子フィルムを通過した直線偏光に楕円偏光性を与えてしまうためであるとされている。
【0004】
フィルムの位相差は面内屈折率が最大となる方向をX軸、X軸に垂直な方向をY軸、フィルムの厚さ方向をZ軸とし、それぞれの軸方向の屈折率をnx、ny、nz、フィルムの厚さをdとすると、面内位相差 Re=(nx−ny)×d、厚み方向位相差 Rth={(nx+ny)/2−nz}×d で表すことができる。
【0005】
前述通りのセルロース系樹脂フィルムは基本的に面内位相差は小さいが、外部応力の作用によって位相差を生じやすく、また、厚み方向位相差が比較的大きなフィルムである。このため、特に、大型の液晶表示装置において、周辺部のコントラストが低下するなどの問題を抱えている。
【0006】
また、当該セルロース系樹脂フィルムは、耐湿熱特性が十分でなく、吸水性も高いため、偏光子の性能低下、吸水による寸法安定性などに課題があり、さらにはセルロース系の樹脂フィルムを偏光子保護フィルムとして用いた偏光板を高温/高湿下において使用すると、その光学特性が大きく低下するという欠点があった。
【0007】
また、セルロース系樹脂フィルムは、斜め方向の入射光に対して位相差を生じる。このような位相差は、近年、液晶ディスプレイの大型化が進むに従い、視野角特性に悪影響を及ぼすようになっている。
【0008】
上記課題を解決するため、近年、セルロース系樹脂フィルムに代わる、透明性・耐熱性・光学等方性に優れる材料の開発およびそれを使用した偏光子保護フィルムの開発が活発化している。ここで光学等方性とは、面内位相差の絶対値、厚み位相差の絶対値、光弾性係数の絶対値のすべてが小さい特性のことをいう。
【0009】
しかしながら、例えば吸水性の小さなポリカーボネートフィルムやポリエチレンテレフタレートフィルムは、光弾性定数が大きく、外部応力の作用によって位相差の変化が生じるため偏光板としての性能低下を生じてしまうという問題があった。
【0010】
また、吸水率が小さく、光弾性定数の小さい環状ポリオレフィン系樹脂フィルムが開示されている(特許文献2、3)が、前記環状ポリオレフィン系樹脂フィルムは、吸水率は小さいものの、透湿度も小さいためPVA等の偏光子を張り合わせる際に、PVA中の水分抜けが悪くなり、膨れや、気泡などの張り合わせ不良が発生するという課題があった。
【特許文献1】特開平07−120617号公報
【特許文献2】特開平05−212828号公報
【特許文献3】特開平06−051117号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、透明性、耐熱性、靱性に優れると共に、光学等方性に優れ、かつ高温多湿等の外部環境の変化に対する耐久性に優れた光学等方性アクリル樹脂フィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち本発明は、以下のとおりである。
1.下記一般式(1)で表される(i)ラクトン環含有単量体単位を含有する熱可塑性共重合体を含有し、下記(a)、(b)および(c)を満たすことを特徴とする光学等方性アクリル樹脂フィルム。
(a)ガラス転移温度が120℃以上。
(b)引張り破断伸度が10%以上。
(c)面内位相差(Re)の絶対値が10nm以下、かつ厚み位相差(Rth)の絶対値が10nm以下。
【0013】
【化1】

【0014】
(上式中、mは0、1のいずれかであり、R〜Rは同一または相異なるものであり、水素原子および炭素数1〜20の有機残基から選ばれるいずれかを表す)
2.前記熱可塑性共重合体が、(i)前記一般式(1)で表されるラクトン環含有単量体単位15〜50重量%、(ii)下記一般式(2)で表される不飽和カルボン酸アルキルエステル単位85〜50重量%を含有してなることを特徴とする1に記載の光学等方性アクリル樹脂フィルム。
【0015】
【化2】

【0016】
(ただし、Rは水素原子および炭素数1〜5のアルキル基から選ばれるいずれかを表し、Rは無置換または水酸基もしくはハロゲンで置換された炭素数1〜6の脂肪族炭化水素基および炭素数3〜6の脂環式炭化水素基から選ばれるいずれかを示す)
3.延伸処理を施していることを特徴とする1または2記載の光学等方性アクリル樹脂フィルム。
4.二軸延伸処理を施していることを特徴とする3に記載の光学等方性アクリル樹脂フィルム。
5.60℃、90%RH、500時間湿熱処理後の面内位相差(Re)の絶対値が10nm以下、かつ厚み位相差(Rth)の絶対値が10nm以下であることを特徴とする1〜4いずれかに記載の光学等方性アクリル樹脂フィルム。
6.60℃、90%RH、500時間湿熱処理後における寸法変化率が、2%以下であることを特徴とする1〜5いずれか記載の光学等方性アクリル樹脂フィルム。
7.フィルムの平均厚みが20〜200μmである1〜6いずれかに記載の光学等方性アクリル樹脂フィルム。
8.(i)下記一般式(1)で表されるラクトン環含有単量体単位15〜50重量%、(ii)下記一般式(2)で表される不飽和カルボン酸アルキルエステル単位85〜50重量%を含有してなる熱可塑性共重合体を製膜し、延伸処理することを特徴とする1〜7いずれかに記載の光学等方性アクリル樹脂フィルムの製造方法。
【0017】
【化3】

【0018】
(上式中、mは0、1のいずれかであり、R〜Rは同一または相異なるものであり、水素原子および炭素数1〜20の有機残基から選ばれるいずれかを表す)
【0019】
【化4】

【0020】
(ただし、Rは水素原子および炭素数1〜5のアルキル基から選ばれるいずれか表し、Rは無置換または水酸基もしくはハロゲンで置換された炭素数1〜6の脂肪族炭化水素基および炭素数3〜6の脂環式炭化水素基から選ばれるいずれかを示す)
9.前記延伸処理が二軸延伸であることを特徴とする8記載の光学等方性アクリル樹脂フィルムの製造方法。
10.1〜7いずれかに記載の光学等方性アクリル樹脂フィルムを含有することを特徴とする偏光板保護フィルム。
11.10に記載の偏光板保護フィルムを用いた偏光板。
12.11に記載の偏光板と位相差フィルムが積層されていることを特徴とする偏光光学フィルム。
13.10に記載の偏光板保護フィルム、11に記載の偏光板および、12に記載の偏光光学フィルムから選ばれる少なくとも1つを有することを特徴とする液晶表示装置。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、透明性、耐熱性、靱性に優れると共に、光学等方性に優れ、かつ高温多湿等の外部環境の変化に対する耐久性に優れた光学等方性アクリル樹脂フィルムおよび、それからなる偏光子保護フィルムおよび、偏光板を得ることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の光学等方性アクリル樹脂フィルムについて具体的に説明する。
【0023】
本発明の光学等方性アクリル樹脂フィルムを構成する熱可塑性共重合体とは、(i)下記一般式(1)で表されるラクトン環含有単量体単位15〜50重量%、(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位50〜85重量%からなる熱可塑性共重合体である。
【0024】
【化5】

【0025】
(上式中、mは0、1のいずれかであり、R〜Rは同一または相異なるものであり、水素原子および炭素数1〜20の有機残基から選ばれるいずれかを表す)
【0026】
前記熱可塑性共重合体中の(i)ラクトン環含有単位の含有量は、熱可塑性共重合体100重量%中に15〜50重量%、より好ましくは15〜45重量%、さらに好ましくは20〜45重量%、最も好ましくは20〜40重量%である。ラクトン環含有単量体単位が15重量%未満である場合、耐熱性向上効果が小さくなるだけでなく、本発明の効果である光学等方性に劣るという問題があり、好ましくない。
【0027】
熱可塑性共重合体中の(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位の含有量は、熱可塑性共重合体100重量%中に50〜85重量%、より好ましくは55〜85重量%、さらに好ましくは55〜80重量%、最も好ましくは60〜80重量%である。
【0028】
また、熱可塑性共重合体は、本発明の効果を損なわない範囲で、その他のビニル系単量体単位の含有量は、熱可塑性共重合体100重量%中に0〜10重量%、好ましくは0〜5重量%である。
【0029】
熱可塑性共重合体における各成分単位の定量には、一般に赤外分光光度計やプロトン核磁気共鳴(1H−NMR)測定機、カーボン核磁気共鳴(13C−NMR)測定機が用いられる。赤外分光法では、グルタル酸無水物単位は、1800cm−1および1760cm−1の吸収が特徴的であり、不飽和カルボン酸単位や不飽和カルボン酸アルキルエステル単位から区別することができる。また、1H−NMR法では、スペクトルの積分比から共重合体組成を決定することができる。例えば、α−メチレン−γ−ブチロラクトン単位とメタクリル酸メチル単位からなる共重合体の場合、重クロロホルム溶媒中で測定された1H−NMRスペクトルの帰属は、0.5〜1.5ppmのピークはメタクリル酸メチル単位のα−メチル基の水素、1.6〜2.1ppmのピークはポリマー主鎖のメチレン基の水素、3.5ppmのピークはメタクリル酸メチル単位のカルボン酸エステル(−COOCH3)の水素、および4.0ppm付近のピークはα−メチレン−γ−ブチロラクトン単位の環内部のメチレン水素である。
【0030】
前記(i)ラクトン環含有単量体単位としては、下記一般式(1)で表される構造のものが好ましく、より好ましくは下記一般式(3)で表されるものであり、最も好ましくはα−メチレン−γ−ブチロラクトン単位である。
【0031】
【化6】

【0032】
(上式中、mは0、1のいずれかであり、R〜Rは同一または相異なるものであり、水素原子および炭素数1〜20の有機残基から選ばれるいずれかを表す)
【0033】
【化7】

【0034】
(上式中、R〜R12は同一または相異なるものであり、水素原子および炭素数1〜20の有機残基から選ばれるいずれかを表す)
【0035】
前記(ii)不飽和カルボン酸アルキルエステル単位としては、下記一般式(2)で表される構造を有するものが好ましい。
【0036】
【化8】

【0037】
(ただし、Rは水素および炭素数1〜5のアルキル基から選ばれるいずれかを表し、Rは無置換または水酸基もしくはハロゲンで置換された炭素数1〜6の脂肪族炭化水素基および炭素数3〜6の脂環式炭化水素基から選ばれるいずれかを示す)
【0038】
熱可塑性共重合体は、基本的には、ラクトン環含有単量体および不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体を共重合させることで製造することができる。その際、本発明の効果を損なわない範囲において、その他のビニル系単量体単位を含む場合には該単位を与えるビニル系単量体を共重合させてもよい。
【0039】
ラクトン環含有単量体の好ましい例としては、下記一般式(4)で表されるものを挙げることができ、さらに好ましい例としては下記一般式(5)で表される単量体を挙げることができる。
【0040】
【化9】

【0041】
(上式中、mは0、1のいずれかであり、R〜Rは同一または相異なるものであり、水素原子および炭素数1〜20の有機残基から選ばれるいずれかを表す)
【0042】
【化10】

【0043】
(上式中、R〜R12は同一または相異なるものであり、水素原子および炭素数1〜20の有機残基から選ばれるいずれかを表す)
【0044】
これらのラクトン環含有単量体の好ましい具体例としては、α−メチレン−γ−ブチロラクトン、α−メチレン−4−メチル−γ−ブチロラクトン、α−メチレン−4,4−ジメチル−γ−ブチロラクトン、α−メチレン−4−エチル−γ−ブチロラクトン、α−メチレン−3−メチル−γ−ブチロラクトン、α−メチレン−3−エチル−γ−ブチロラクトン、α−メチレン−δ−バレロラクトンが好ましく、より好ましくはα−メチレン−γ−ブチロラクトン、α−メチレン−δ−バレロラクトンであり、最も好ましくはα−メチレン−γ−ブチロラクトンである。これらはその1種または2種以上を用いることができる。
【0045】
なお、上記一般式(4)、(5)で表されるラクトン環含有単量体は、共重合すると、それぞれ、下記一般式(1)、(3)で表される構造のラクトン環含有単量体単位(i)を与える。
【0046】
【化11】

【0047】
(上式中、mは0、1のいずれかであり、R〜Rは同一または相異なるものであり、水素原子および炭素数1〜20の有機残基から選ばれるいずれかを表す)
【0048】
【化12】

【0049】
(上式中、R〜R12は同一または相異なるものであり、水素原子および炭素数1〜20の有機残基から選ばれるいずれかを表す)
【0050】
不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体の好ましい例として、下記一般式(6)で表されるものを挙げることができる。
【0051】
【化13】

【0052】
(ただし、Rは水素および炭素数1〜5のアルキル基から選ばれるいずれかを表し、Rは無置換または水酸基もしくはハロゲンで置換された炭素数1〜6の脂肪族炭化水素基および炭素数3〜6の脂環式炭化水素基から選ばれるいずれかを示す)
【0053】
不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体の好ましい具体例としては、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、メタクリル酸n−プロピル、アクリル酸n−ブチル、メタクリル酸n−ブチル、アクリル酸t−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、アクリル酸n−へキシル、メタクリル酸n−へキシル、アクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸クロロメチル、メタクリル酸クロロメチル、アクリル酸2−クロロエチル、メタクリル酸2−クロロエチル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸3−ヒドロキシプロピル、アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル、メタクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル、アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチルおよびメタクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチルなどが挙げられ、なかでもメタクリル酸メチルが最も好ましく用いられる。これらはその1種または2種以上を用いることができる。なお、上記一般式(6)で表される不飽和カルボン酸単量体は、共重合すると上記一般式(2)で表される構造の不飽和カルボン酸アルキルエステル単位(ii)を与える。
【0054】
【化14】

【0055】
(ただし、Rは水素および炭素数1〜5のアルキル基から選ばれるいずれかを表し、Rは無置換または水酸基もしくはハロゲンで置換された炭素数1〜6の脂肪族炭化水素基および炭素数3〜6の脂環式炭化水素基から選ばれるいずれかを示す)
【0056】
また、本発明の光学等方性アクリル樹脂フィルムを構成する熱可塑性共重合体の製造においては、本発明の効果を損なわない範囲で、芳香環を含まないその他のビニル系単量体を用いてもかまわない。この芳香環を含まないその他のビニル系単量体は、共重合すると前記の(iv)芳香環を含まないその他のビニル単量体単位を与える。芳香環を含まないその他のビニル系単量体の好ましい具体例としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリルなどのシアン化ビニル単量体、アリルグリシジルエーテル、無水マレイン酸、無水イタコン酸、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、ブトキシメチルアクリルアミド、N−プロピルメタクリルアミド、アクリル酸アミノエチル、アクリル酸プロピルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸エチルアミノプロピル、メタクリル酸シクロヘキシルアミノエチル、N−ビニルジエチルアミン、N−アセチルビニルアミン、アリルアミン、メタアリルアミン、N−メチルアリルアミン、2−イソプロペニル−オキサゾリン、2−ビニル−オキサゾリン、2−アクロイル−オキサゾリンなどを挙げることができる。これらは単独ないし2種以上を用いることができる。
【0057】
本発明の光学等方性アクリル樹脂フィルムを構成する熱可塑性共重合体の重合方法については、基本的にはラジカル重合による、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合、沈殿重合等の公知の重合方法を用いることができる。不純物がより少ない点で溶液重合、塊状重合、懸濁重合、沈殿重合が好ましい。
【0058】
本発明において、熱可塑性共重合体の製造時に用いられるこれらの単量体混合物の割合は、該単量体混合物全体を100重量%として、ラクトン環含有単量体が10〜60重量%、好ましくは15〜55重量%、最も好ましくは15〜45重量%、不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体は40〜90重量%、好ましくは45〜85重量%、最も好ましくは55〜85重量%である。これらに共重合可能な他のビニル系単量体の割合は0〜30重量%、より好ましくは0〜20重量%、さらに好ましくは0〜10重量%である。
【0059】
ラクトン環含有単量体の含有量が10重量%未満の場合には、得られる熱可塑性共重合体中の、上記一般式(1)で表される(i)ラクトン環含有単量体単位の含有量が少なくなり、熱可塑性共重合体の耐熱性、光学等方性に劣る傾向があり好ましくない。一方、ラクトン環含有単量体の含有量が60重量%を超える場合には、得られる熱可塑性共重合体中の、上記一般式(1)で表される(i)ラクトン環含有単量体単位の含有量が多くなり、熱可塑性共重合体の流動性、光学等方性に劣る傾向があり好ましくない。
【0060】
また、本発明の熱可塑性共重合体は、重量平均分子量が1万〜20万であることが好ましく、より好ましくは3万〜15万であり、さらに好ましくは5〜15万である。
【0061】
重量平均分子量が、この範囲にあることにより、流動性に優れ、本発明の光学等方性アクリル樹脂フィルムの機械的強度も高くすることができる。なお、本発明でいう重量平均分子量とは、多角度光散乱ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC−MALLS)で測定した絶対分子量での重量平均分子量を示す。
【0062】
熱可塑性共重合体の分子量制御方法については、例えば、アゾ化合物、過酸化物等のラジカル重合開始剤の添加量、あるいはアルキルメルカプタン、四塩化炭素、四臭化炭素、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、トリエチルアミン等の連鎖移動剤の添加量等により、制御することができる。特に、重合の安定性、取り扱いの容易さ等から、連鎖移動剤であるアルキルメルカプタンの添加量を制御する方法が好ましく使用することができる。
【0063】
本発明に使用されるアルキルメルカプタンとしては、例えば、n−オクチルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、n−オクタデシルメルカプタン等が挙げられ、なかでもt−ドデシルメルカプタンまたはn−ドデシルメルカプタンが好ましく用いられる。
【0064】
これらアルキルメルカプタンの添加量としては、好ましい分子量に制御するために、単量体混合物の全量100重量部に対して、0.2〜5.0重量部が好ましく、より好ましくは0.3〜4.0重量部、さらに好ましくは0.4〜3.0重量部である。
【0065】
かくして得られる本発明の光学等方性アクリル樹脂フィルムはガラス転移温度(Tg)が110℃以上であることが耐熱性の面で好ましい。ガラス転移温度は、115℃以上がより好ましく、120℃以上が特に好ましい。また、上限としては、通常、170℃程度である。なお、ここでいうガラス転移温度とは、示差走査熱量測定器(Perkin Elmer社製DSC−7型)を用いて、昇温速度20℃/分で測定したガラス転移温度(Tg)である。
【0066】
また、本発明の光学等方性アクリル樹脂フィルムを構成する熱可塑性共重合体には、本発明の目的を損なわない範囲で、他の熱可塑性樹脂、例えばポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂などや、熱硬化性樹脂、例えばフェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂などから選ばれた一種以上をさらに含有させることができる。この場合、他の熱可塑性樹脂の好ましい含有量は、熱可塑性共重合体100重量部に対して、99重量部以下、より好ましくは95重量部以下、最も好ましくは90重量部以下である。
【0067】
また、ヒンダードフェノール系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ベンゾエート系、およびシアノアクリレート系の紫外線吸収剤および酸化防止剤、高級脂肪酸や酸エステル系および酸アミド系、さらに高級アルコールなどの滑剤および可塑剤、モンタン酸およびその塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミドおよびエチレンワックスなどの離型剤、亜リン酸塩、次亜リン酸塩などの着色防止剤、ハロゲン系難燃剤、リン系やシリコーン系の非ハロゲン系難燃剤、核剤、アミン系、スルホン酸系、ポリエーテル系などの帯電防止剤、顔料、染料、蛍光増白剤などの着色剤などの添加剤を任意に含有させてもよい。ただし、適用する用途が要求する特性に照らし、その添加剤保有の色が熱可塑性重合体に悪影響を及ぼさず、かつ透明性が低下しない範囲で添加することが好ましい。
【0068】
上記他樹脂や可塑剤、難燃剤等の添加剤を含有させる方法に制限はなく、公知の溶融混練法が用いられ、例えば設定温度150〜300℃に昇温した押出機中で行うことができる。押出機としては、ベント付きの単軸押出機、二軸押出機などを例示することができる。
【0069】
ここで、本明細書中では、便宜上、上記熱可塑性共重合体をフィルム状に成形した後、延伸を施す前のフィルムを「未延伸フィルム」と呼ぶことがある。
【0070】
本発明の光学等方性アクリル樹脂フィルムの未延伸フィルムの製造方法には、公知の方法が使用できる。すなわち、インフレーション法、T−ダイ法、カレンダー法、切削法、溶液キャスト法、エマルション法、ホットプレス法等の製造方法が使用できる。好ましくは、T−ダイ法、溶液キャスト法またはホットプレス法が使用できる。インフレーション法やT−ダイ法による製造法の場合、単軸あるいは二軸押出スクリューのついたエクストルーダ型溶融押出装置等が使用できる。本発明の光学等方性アクリル樹脂フィルムを製造するための溶融押出温度は、好ましくは150〜350℃、より好ましくは200〜300℃である。また、溶融押出装置を使用し溶融混練する場合、着色抑制の点から、ベントを使用し減圧下での溶融混練あるいは窒素気流下での溶融混練を行うことが好ましい。また、溶液キャスト法により本発明のアクリル樹脂フィルムを製造する場合、テトラヒドロフラン、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン等の溶媒が使用できる。好ましい溶媒は、アセトン、メチルエチルケトン、N−メチルピロリドン等である。溶液キャスト法により本発明のアクリル樹脂フィルムを製造する場合、熱可塑性共重合体を前記の1種以上の溶媒に溶かし、その溶液をバーコーター、T−ダイ、バー付きT−ダイ、ダイ・コートなどを用いて、ポリエチレンテレフタレートなどの耐熱フィルム、スチールベルト、金属箔などの平板または曲板(ロール)上に流延し、溶媒を蒸発除去する乾式法、あるいは溶液を凝固液で固化する湿式法等を用いることにより製造できる。
【0071】
本発明の光学等方性アクリル樹脂フィルムは、単層であっても、さらには多層であっても良い。
【0072】
本発明の光学等方性アクリル樹脂フィルムは、延伸を施さずにそのままでもよいが、得られるフィルムの靱性の観点から、未延伸フィルムを成形した後、一軸延伸あるいは二軸延伸して所定の厚みのフィルムを製造することが好ましい。延伸を行うことで、フィルムの靱性を向上させることができる。
【0073】
フィルムの延伸は、未延伸フィルムを成形した後、すぐに連続的に行っても良い。ここで、上記「未延伸フィルム」の状態が瞬間的にしか存在しない場合があり得る。瞬間的にしか存在しない場合には、その瞬間的な、フィルムが形成された後延伸されるまでの状態を未延伸フィルムという。また、未延伸フィルムとは、その後延伸されるのに十分な程度にフィルム状になっていれば良く、完全なフィルムの状態である必要はなく、もちろん、完成したフィルムとしての性能を有さなくても良い。また、必要に応じて、未延伸フィルムを成形した後、一旦フィルムを保管もしくは移動し,その後フィルムの延伸を行っても良い。未延伸フィルムを延伸する方法としては、従来公知の任意の延伸方法が採用され得る。具体的には、例えば、ロールや熱風炉を用いた縦延伸、テンターを用いた横延伸、およびこれらを逐次組み合わせた逐次二軸延伸等がある。また、縦と横を同時に延伸する同時二軸延伸方法も採用可能である。ロール縦延伸を行った後、テンターによる横延伸を行う方法を採用しても良い。
【0074】
本発明の光学等方性アクリル樹脂フィルムは、一軸延伸フィルムの状態で最終製品とすることができる。さらに、延伸工程を組み合わせて行って二軸延伸フィルムとしても良い。二軸延伸を行う場合、本発明の目的を損なわない範囲で、縦延伸と横延伸の温度や倍率などの延伸条件を同等もしくは、意図的に変えてもよい。
【0075】
フィルムの延伸温度および延伸倍率は、得られたフィルムの位相差、機械的強度および表面性、厚み精度を指標として適宜調整することができる。延伸温度の範囲は、DSC法によって求めたフィルムのガラス転移温度をTgとしたときに、好ましくは、Tg−30℃〜Tg+30℃の範囲である。より好ましくは、Tg−10℃〜Tg+30℃の範囲である。さらに好ましくは、Tg〜Tg+30℃以下の範囲である。延伸温度が高すぎる場合、フィルムが軟化・溶融する傾向があり、延伸が困難となるばかりか、得られたフィルムの厚みむらが大きくなりやすく好ましくない。延伸温度がTg−30℃以下であると、延伸時にフィルムに応力がかかり、フィルムが破れる等の工程上の問題を引き起こしやすく好ましくない。
【0076】
また、好ましい延伸倍率は、延伸温度にも依存するが、1.1倍〜5.0倍の範囲であり、より好ましくは、1.1倍〜4.0倍、さらに好ましくは、1.1倍〜3.0倍、最も好ましくは1.1〜2.5倍である。
【0077】
かくして得られる、本発明の光学等方性光学等方性アクリル樹脂フィルムの厚みは、好ましくは10〜200μmであり、より好ましくは15〜170μm、最も好ましくは20〜150μmである。フィルム厚みを上記範囲に制御するには、延伸前の「未延伸フィルム」の厚みを調節することにより可能である。
【0078】
ここで、本発明の光学等方性光学等方性アクリル樹脂フィルムの厚みとは、フィルムを50mm×50mm四方に切り出したフィルムの厚みを測定した平均値である。
【0079】
また、フィルム化の際に、本発明の目的を損なわない範囲で、熱安定剤、紫外線吸収剤、滑剤等の加工性改良剤、あるいは、フィラーなどの公知の添加剤やその他の重合体を含有していてもかまわない。
【0080】
本発明の光学等方性アクリル樹脂フィルムに紫外線吸収剤を含有させることにより、耐候性を向上する他、本発明の光学等方性アクリル樹脂フィルムを用いる液晶表示装置の耐久性も改善することができ実用上好ましい。紫外線吸収剤としては、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−p−クレゾール、2−ベンゾトリアゾール−2−イル−4,6−ジ−t−ブチルフェノール等のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]−フェノールなどのトリアジン系紫外線吸収剤、オクタベンゾン等のベンゾフェノン系紫外線吸収剤等が挙げられ、また、2,4−ジ−t−ブチルフェニル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート等のベンゾエート系光安定剤やビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート等のヒンダードアミン系光安定剤等の光安定剤も使用できる。
【0081】
また、本発明の光学等方性アクリル樹脂フィルムについては、波長580nmに対する面内位相差(Re)の絶対値は、好ましくは10nm以下、より好ましくは7nm以下、最も好ましくは5nm以下である。また、波長580nmに対する厚み位相差(Rth)の絶対値は、好ましくは10nm以下、より好ましくは7nm以下、最も好ましくは5nm以下である。
【0082】
ここでいう波長580nmの光に対するReおよびRthとは、楕円偏光測定装置(王子計測機器(株)製 製品名「KOBRA−WPR」)を用いて、平行ニコル回転法により、サンプル(40mm×40mm×約40μm厚)中央の値を測定したものであり、下記式で表される。
Re=(nx−ny)×d ・・・・・・・・(1)
Rth={(nx+ny)/2−nz}×d ・・・・・・・・(2)
ここで、
nx:平面の屈折率が最大となる方向(x軸)の屈折率
ny:x軸と垂直方向(y軸)の屈折率
nz:厚さ方向(z軸)の屈折率
d :フィルム厚さ(nm)
である。
【0083】
ここで、ReおよびRthを測定する際のフィルム厚さdは、JIS K 7130−1999に従い測定した値であり、好ましくは40±8μm以内、より好ましくは40±5μm以内である。
【0084】
本発明のアクリル樹脂フィルムについては、波長580nmの光に対する光弾性係数の絶対値が10×10−12 Pa−1以下であることが好ましく、より好ましくは7×10−12Pa−1以下、最も好ましくは5×10−12Pa−1以下である。光弾性係数の絶対値が10×10−12 Pa−1以下であると、例えば、フィルムに応力がかかった場合に、位相差の変化が大きくなることがないので好ましい。ここでいう波長580nmの光に対する光弾性係数とは、楕円偏光測定装置(王子計測機器(株)製 製品名「KOBRA−WPR」)を用いて、サンプル(サイズ15mm×100mm×約40μm厚)の両端を挟んで応力(0.01〜10N)をかけながら、サンプル中央の位相差値(23℃/580nm)を測定し、応力と位相差の関数の傾きから算出した値である。
【0085】
例えば、光学用フィルムの一つである光学等方性アクリル樹脂フィルムについては、光学等方性に優れること、すなわち面内・厚み位相差および光弾性係数の絶対値が小さいことが必要とされ、本発明の光学等方性アクリル樹脂フィルムは、この様な用途に好適に使用できる。
【0086】
本発明の光学等方性アクリル樹脂フィルムの60℃、90%RH下での500時間湿熱処理後のReの絶対値は、好ましくは10nm以下、より好ましくは7nm以下、最も好ましくは5nm以下であり、Rthの絶対値は、好ましくは10nm以下、より好ましくは7nm以下、最も好ましくは5nm以下である。
【0087】
本発明の光学等方性アクリル樹脂フィルムの引張試験における破断伸度は、好ましくは10%以上、より好ましくは12%以上である。ここでいう破断伸度とは、引張試験機(オリエンテック(株)社製 製品名「RTA−1T」)を用いて、サンプル(20mm×50mm)をチャックに取り付け、チャック間距離20mm、引張速度200mm/minで引張試験を実施した際の、MD方向(フィルム流れ方向)およびTD方向(フィルム流れと垂直方向)の破断伸度の平均値のことである。破断伸度が10%未満であると、フィルムの成形加工時に破壊するおそれがあり、製造工程上好ましくない。
【0088】
本発明の光学等方性アクリル樹脂フィルムの60℃、90%RH下での500時間湿熱処理後の寸法変化率は、好ましくは2%以下、より好ましくは1.0%以下、更に好ましくは0.5%以下である。寸法変化率が2%以上であると、高温多湿時の光学特性の変化が大きくなるという問題がある。ここでいう寸法変化率とは、フィルムに30mm×30mmの正方形を描き、万能投影機(ニコン社製V−12)で湿熱処理前の4辺の正確な長さを測定し、その平均値を算出する(D0)。そのフィルムを60℃×90%RHの恒温恒湿槽(タバイ社製LHL−112)中に入れ、500時間処理後、再度万能投影機により、正方形の4辺の正確な長さを測定し、その平均値を算出し(D1)、寸法変化率を次式で算出する。
寸法変化率(%)=(D1−D0)/D0×100 ・・・・・・・(3)
【0089】
本発明の光学等方性アクリル樹脂フィルムの用途は、特に制限はないが、優れた透明性、耐熱性、靱性、光学特性を活かせる用途が好ましい。好ましい用途例として、例えば、液晶ディスプレイ、フラットパネルディスプレイ、プラズマディスプレイの偏光板、偏光子保護フィルム、位相差フィルム、光拡散フィルム、視野角拡大フィルム、反射フィルム、反射防止フィルム、防眩フィルム、輝度向上フィルム、プリズムシート、タッチパネル用導光フィルム、各種光ディスク(VD、CD、DVD、MD、LD等)の基板保護フィルム等の光学用フィルム用途が挙げられる。中でも、優れた光学等方性、高温多湿時の耐久性を有することから、偏光子保護フィルムとして極めて有用である。
【0090】
以下、実施例により本発明の構成、効果をさらに具体的に説明する。ただし、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0091】
参考例1
熱可塑性共重合体(A−1)の作成
メタクリル酸メチル20重量部、アクリルアミド80重量部、過硫酸カリウム0.3重量部およびイオン交換水1500重量部を反応器中に仕込み、反応器中を窒素ガスで置換しながら70℃に保った。単量体が完全に、重合体に転化するまで反応を続け、メタクリル酸メチル/アクリルアミド共重合体の水溶液を得た。得られた水溶液を懸濁剤として使用した。容量が5リットルで、バッフルおよびファウドラ型撹拌翼を備えたステンレス製オートクレーブに、前記のメタクリル酸メチル/アクリルアミド共重合体懸濁剤0.05重量部をイオン交換水165重量部に溶解した溶液を供給し、400rpmで撹拌し、系内を窒素ガスで置換した。次に、下記混合物質を反応系を撹拌しながら添加し、70℃に昇温した。内温が70℃に達した時点を重合開始として、180分間保ち、重合を終了した。以降、通常の方法に従い、反応系の冷却、ポリマーの分離、洗浄、乾燥を行い、ビーズ状の共重合体(a−1)を得た。この共重合体(A−1)の重合率は98%であった。
α−メチレン−γ−ブチロラクトン 25重量部
メタクリル酸メチル 75重量部
n−ドデシルメルカプタン 0.6重量部
ラウロリルパーオキサイド 0.4重量部。
【0092】
次いで、得られた(A−1)を2軸押出機(TEX30(日本製鋼社製、L/D=44.5)を用いてシリンダー温度280℃、スクリュー回転数100rpmで混練し、ペレット状の熱可塑性共重合体を得た。次いで、ペレットを80℃で8時間乾燥し、1H−NMRにより組成分析を行った結果、α−メチレン−γ−ブチロラクトン(MBL)単位22重量%、メタクリル酸メチル単位78重量%であった。GPC測定によるMwは11.1万、DSC測定によるガラス転移温度は、123℃であった。
【0093】
参考例2
熱可塑性共重合体(A−2)の作成
混合組成を下記に変更した以外は、参考例1と同様にして、ペレット状の熱可塑性共重合体(A−2)を得た。
α−メチレン−γ−ブチロラクトン 35重量部
メタクリル酸メチル 65重量部
n−ドデシルメルカプタン 0.6重量部
ラウロリルパーオキサイド 0.4重量部。
【0094】
得られた熱可塑性共重合体(A−2)のペレットを80℃で8時間乾燥し、1H−NMRにより組成分析を行った結果、α−メチレン−γ−ブチロラクトン(MBL)単位31重量%、メタクリル酸メチル単位69重量%であった。GPC測定によるMwは12.2万、DSC測定によるガラス転移温度は、132℃であった。
【0095】
参考例3
熱可塑性共重合体(A−3)の作成
混合組成を下記に変更した以外は、参考例1と同様にして、ペレット状の熱可塑性共重合体(A−3)を得た。
α−メチレン−γ−ブチロラクトン 50重量部
メタクリル酸メチル 50重量部
n−ドデシルメルカプタン 0.6重量部
ラウロリルパーオキサイド 0.4重量部。
【0096】
得られた熱可塑性共重合体(A−3)のペレットを80℃で8時間乾燥し、1H−NMRにより組成分析を行った結果、α−メチレン−γ−ブチロラクトン(MBL)単位45重量%、メタクリル酸メチル単位55重量%であった。GPC測定によるMwは11.5万、DSC測定によるガラス転移温度は、141℃であった。
【0097】
参考例4
熱可塑性共重合体(A−4)の作成
混合組成を下記に変更した以外は、参考例1と同様にして、ペレット状の熱可塑性共重合体(A−4)を得た。
α−メチレン−γ−ブチロラクトン 5重量部
メタクリル酸メチル 95重量部
n−ドデシルメルカプタン 0.6重量部
ラウロリルパーオキサイド 0.4重量部。
【0098】
得られた熱可塑性共重合体(A−4)のペレットを80℃で8時間乾燥し、1H−NMRにより組成分析を行った結果、α−メチレン−γ−ブチロラクトン(MBL)単位5重量%、メタクリル酸メチル単位95重量%であった。GPC測定によるMwは11.5万、DSC測定によるガラス転移温度は、112℃であった。
【0099】
参考例5
熱可塑性共重合体(A−5)の作成
混合組成を下記に変更した以外は、参考例1と同様にして、ペレット状の熱可塑性共重合体(A−5)を得た。
α−メチレン−γ−ブチロラクトン 65重量部
メタクリル酸メチル 35重量部
n−ドデシルメルカプタン 0.6重量部
ラウロリルパーオキサイド 0.4重量部。
【0100】
得られた熱可塑性共重合体(A−5)のペレットを80℃で8時間乾燥し、1H−NMRにより組成分析を行った結果、α−メチレン−γ−ブチロラクトン(MBL)単位60重量%、メタクリル酸メチル単位40重量%であった。GPC測定によるMwは11.6万、DSC測定によるガラス転移温度は、152℃であった。
【0101】
参考例6
熱可塑性共重合体(A−6)の作成
混合組成を下記に変更した以外は、参考例1と同様にして、ペレット状の熱可塑性共重合体(A−6)を得た。
メタクリル酸メチル 100重量部
n−ドデシルメルカプタン 0.6重量部
ラウロリルパーオキサイド 0.4重量部。
【0102】
GPC測定によるMwは11.2万、DSC測定によるガラス転移温度は、108℃であった。
【0103】
実施例1〜3、比較例1〜3
参考例1〜6で得られたペレット状の熱可塑性共重合体(A−1〜A−3)を、リップ間隔0.6mmに調整したT−ダイ付き二軸溶融混練機HK−25D(パーカーコーポレーション社製)に供し、ガラス転移温度(Tg)+130℃の温度で溶融製膜を実施した。ドラム温度を130℃とし、巻き取り速度を調整することにより、約80μm厚のフィルムを得た。得られたフィルムをフィルム自動二軸延伸装置IMC−11A9型(井元製作所製)に供し、Tg+10℃の温度で、1.5倍同時二軸延伸を実施し、平均厚み40μmのフィルムを得た。
【0104】
比較例4
塩化メチレンとメタノールの混合溶剤から溶液キャスティング法によりトリアセチルセルロース(TAC)フィルム(富士写真フイルム社製フジタック:平均厚み40μm)を製膜し、評価した。
【0105】
上記により得られたフィルムの各種物性の測定方法を以下に記載する。
【0106】
(1)透明性(全光線透過率およびヘイズ)
得られたフィルムを、東洋精機社製直読ヘイズメーターに供し、23℃での全光線透過率(%)、ヘイズ(曇度)(%)を測定し、透明性を評価した。
【0107】
(2)光学等方性(光弾性係数、面内位相差および厚み位相差)
得られたフィルムを、15mm×100mmの大きさに切削し、楕円偏光測定装置(王子計測機器(株)製 製品名「KOBRA−WPR」)に供し、そのフィルムの両端を挟んで応力(0.01〜10N)をかけながら、サンプル中央の位相差値(23℃/580nm)を測定し、応力と位相差の関数の傾きから算出した。
【0108】
また、得られたフィルムを、40mm×40mmの大きさに切削し、楕円偏光測定装置(王子計測機器(株)製 製品名「KOBRA−WPR」)に供し、平行ニコル回転法により、波長580nmに対する面内位相差(Re)および厚み位相差(Rth)について、フィルム中央の値を測定した。
【0109】
(3)靱性(引張破断伸度)
得られたフィルムを、20mm×100mmに切削し、引張試験機(オリエンテック(株)社製 製品名「RTA−1T」)に供し、チャック間距離20mm、引張速度200mm/minで引張試験を実施した際の、MD方向(フィルム流れ方向)およびTD方向(フィルム流れと垂直方向)5本ずつの破断伸度を測定し、計10本の平均値を算出した。
【0110】
(4)耐熱性(乾熱処理後の寸法変化率)
得られたフィルムに30mm×30mmの正方形を描き、万能投影機(ニコン社製V−12)で処理前の4辺の正確な長さを測定し、その平均値を算出しD0とした。そのフィルムを90℃のハイテンプオーブン(タバイ社製HPS−222)中に入れ、48時間乾熱処理後、再度万能投影機により、正方形の4辺の正確な長さを測定し、その平均値を算出し(D1)、寸法変化率を次式で算出した。
寸法変化率(%)=(D1−D0)/D0×100。
【0111】
(5)耐久性(湿熱処理後の面内位相差、厚み位相差、寸法変化率)
上記(2)項によりReおよびRthを測定したフィルムを、60℃、90%RHの恒温恒湿槽(タバイ社製LHL−112)に供し、500時間湿熱処理を実施した。湿熱処理後のフィルムのReおよびRthを上記(2)項と同様にして評価した。
【0112】
また、上記(4)項と同様にして、得られたフィルムに30mm×30mmの正方形を描き、万能投影機(ニコン社製V−12)で処理前の4辺の正確な長さを測定した。そのフィルムを60℃、90%RHの恒温恒湿槽(タバイ社製LHL−112)に供し、500時間湿熱処理を実施した。500時間湿熱処理後の寸法変化率を上記(4)項と同様にして算出した。
【0113】
【表1】

【0114】
実施例1〜3より、本発明の光学等方性アクリル樹脂フィルムは、透明性、光学等方性、靱性および耐熱性に均衡して優れるとともに、湿熱処理時の耐久性に優れるため、偏光子保護フィルム等の光学用フィルムとして極めて有用である。
【0115】
一方、比較例1および2の様に、α−メチレン−γ−ブチロラクトン単位の共重合量が50重量%の範囲にない場合、靱性に優れるものの、光学等方性に劣り、光学用フィルムへの展開は困難である。
【0116】
また、比較例3、4の様に、α−メチレン−γ−ブチロラクトン単位を含有しない共重合体からなる光学等方性アクリル樹脂フィルムの場合、透明性に優れるものの、光学等方性、耐熱性、耐久性のいずれを満たすフィルムは得られず、光学用フィルムへの展開は極めて困難である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)で表される(i)ラクトン環含有単量体単位を含有する熱可塑性共重合体を含有し、下記(a)、(b)および(c)を満たすことを特徴とする光学等方性アクリル樹脂フィルム。
(a)ガラス転移温度が120℃以上。
(b)引張り破断伸度が10%以上。
(c)面内位相差(Re)の絶対値が10nm以下、かつ厚み位相差(Rth)の絶対値が10nm以下。
【化1】

(上式中、mは0、1のいずれかであり、R〜Rは同一または相異なるものであり、水素原子および炭素数1〜20の有機残基から選ばれるいずれかを表す)
【請求項2】
前記熱可塑性共重合体が、(i)前記一般式(1)で表されるラクトン環含有単量体単位15〜50重量%、(ii)下記一般式(2)で表される不飽和カルボン酸アルキルエステル単位85〜50重量%を含有してなることを特徴とする請求項1に記載の光学等方性アクリル樹脂フィルム。
【化2】

(ただし、Rは水素原子および炭素数1〜5のアルキル基から選ばれるいずれかを表し、Rは無置換または水酸基もしくはハロゲンで置換された炭素数1〜6の脂肪族炭化水素基および炭素数3〜6の脂環式炭化水素基から選ばれるいずれかを示す)
【請求項3】
延伸処理を施していることを特徴とする請求項1または2記載の光学等方性アクリル樹脂フィルム。
【請求項4】
二軸延伸処理を施していることを特徴とする請求項3に記載の光学等方性アクリル樹脂フィルム。
【請求項5】
60℃、90%RH、500時間湿熱処理後の面内位相差(Re)の絶対値が10nm以下、かつ厚み位相差(Rth)の絶対値が10nm以下であることを特徴とする請求項1〜4いずれかに記載の光学等方性アクリル樹脂フィルム。
【請求項6】
60℃、90%RH、500時間湿熱処理後における寸法変化率が、2%以下であることを特徴とする請求項1〜5いずれか記載の光学等方性アクリル樹脂フィルム。
【請求項7】
フィルムの平均厚みが20〜200μmである請求項1〜6いずれかに記載の光学等方性アクリル樹脂フィルム。
【請求項8】
(i)下記一般式(1)で表されるラクトン環含有単量体単位15〜50重量%、(ii)下記一般式(2)で表される不飽和カルボン酸アルキルエステル単位85〜50重量%を含有してなる熱可塑性共重合体を製膜し、延伸処理することを特徴とする請求項1〜7いずれかに記載の光学等方性アクリル樹脂フィルムの製造方法。
【化3】

(上式中、mは0、1のいずれかであり、R〜Rは同一または相異なるものであり、水素原子および炭素数1〜20の有機残基から選ばれるいずれかを表す)
【化4】

(ただし、Rは水素原子および炭素数1〜5のアルキル基から選ばれるいずれか表し、Rは無置換または水酸基もしくはハロゲンで置換された炭素数1〜6の脂肪族炭化水素基および炭素数3〜6の脂環式炭化水素基から選ばれるいずれかを示す)
【請求項9】
前記延伸処理が二軸延伸であることを特徴とする請求項8記載の光学等方性アクリル樹脂フィルムの製造方法。
【請求項10】
請求項1〜7いずれかに記載の光学等方性アクリル樹脂フィルムを含有することを特徴とする偏光板保護フィルム。
【請求項11】
請求項10に記載の偏光板保護フィルムを用いた偏光板。
【請求項12】
請求項11に記載の偏光板と位相差フィルムが積層されていることを特徴とする偏光光学フィルム。
【請求項13】
請求項10に記載の偏光板保護フィルム、請求項11に記載の偏光板および、請求項12に記載の偏光光学フィルムから選ばれる少なくとも1つを有することを特徴とする液晶表示装置。

【公開番号】特開2009−41007(P2009−41007A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−186844(P2008−186844)
【出願日】平成20年7月18日(2008.7.18)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】