説明

光学素子保持装置への光学素子の接着方法及びこの方法に用いる光学素子保持装置及びこの光学素子を備えた露光装置

【課題】接着剤を用いて光学素子を光学素子保持装置に接着固定する場合でも、光学素子の歪みや変形を極力除去して、その光学素子を光学素子保持装置に固定することのできる光学素子保持装置への光学素子の接着方法を提供する。
【解決手段】本発明の光学素子保持装置20への光学素子LENの接着方法は、光エネルギーの照射により硬化する第1接着剤20sを用いて局所的に光学素子LENを保持枠部材20Cに仮止めするステップと、光学素子LENの外周部20tを第1接着剤20sよりも硬化時間の遅い第2接着剤20xを用いて保持枠部材20Cに接着固定するステップとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント基板や液晶基板等の基板の製造に用いられる露光装置に関し、更に詳しくは、その露光装置に設けられている光学素子保持装置への光学素子の接着方法及びこの方法に用いる光学素子保持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、プリント基板や液晶基板等の基板の製造に露光装置が用いられている。この露光装置には、光学素子保持装置が設けられている。この光学素子保持装置には、マスクパターン投影用の光学素子としての投影レンズ群が設けられる。
【0003】
そのマスクパターンは、投影レンズ群によりフォトレジスト等の感光材料が塗布された対象ワークの表面に等倍又は2倍程度に拡大して投影されるのが望ましいため、その投影レンズ群には、対象ワークの表面を一度に露光できるように大面積でかつ深い焦点深度を有するものを用いるのが適している。
【0004】
ところで、投影レンズ群を光学素子保持装置に固定する際に、歪みや変形が生じると、例えば、その投影レンズ群が変形すると、主として非点収差が生じ、対象ワークの表面に形成されたマスクパターン像が歪み、解像度が劣化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−343575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、従来、投影レンズ群を接着剤を用いて光学素子保持装置に固定している。しかしながら、従来の接着剤を用いる投影レンズ群の光学素子保持装置への接着方法では、接着剤の収縮により投影レンズが歪みや変形を生じる。その投影レンズ群の歪みや変形を取り除いて、投影レンズ群を光学素子保持装置に固定するのは概して困難である。
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みて為されたもので、接着剤を用いて光学素子を光学素子保持装置に接着固定する場合でも、光学素子の歪みや変形を極力除去して、その光学素子を光学素子保持装置に固定することのできる光学素子保持装置への光学素子の接着方法、この方法に用いる光学素子保持装置及びこの光学素子を備えた露光装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の光学素子保持装置への光学素子の接着方法は、光エネルギーの照射により硬化する第1接着剤を用いて局所的に光学素子を保持枠部材に仮止めし、ついで、光学素子の外周部を第1接着剤よりも硬化時間の遅い第2接着剤を用いてその保持枠部材に接着固定することを特徴とするものである。
【0009】
更には、本発明の光学素子保持装置への光学素子の接着方法は、光学素子保持装置の一部を構成しかつ内周側に光学素子を保持する周壁部が形成された保持枠部材の前記周壁部と前記光学素子の外周部との間でしかもその周回り方向に間隔を開けて存在する少なくとも3箇所に光エネルギーを照射することにより硬化する第1接着剤を介在させてこの第1接着剤に光エネルギーを照射して第1接着剤を硬化させる第1接着剤硬化ステップと、保持枠部材の周壁部の内周側と光学素子の外周部との間に第1接着剤よりも硬化時間が遅い硬化時間特性を有する第2接着剤を介在させてこの第2接着剤を硬化させる第2接着剤硬化ステップと、を実行することにより光学素子を保持枠部材に接着固定するのが望ましい。
【0010】
光学素子は円形状の投影レンズからなり、その周壁部は円形状であり、第1接着剤は、紫外線硬化型接着剤でもよいし、可視光硬化型接着剤でも良い。
【0011】
保持枠部材は、その投影レンズをその外周部から包囲する環状枠部材と、この環状枠部材に固定される固定部と第1接着剤が塗布されて投影レンズの外周部に密接される密接部とを有する接着用補助部材とから構成されていても良い。
【0012】
密接部は光エネルギーを透過させる透過材料により構成されていても良いし、光エネルギーを通過させる通過穴を有する構成とされていても良い。また、密接部は弾性部を介して固定部に連結されていても良い。
【0013】
保持枠部材の周壁部と光学素子の外周部との間に、第2接着剤が垂れ落ちるのを防止するパッキン部材が介在されていても良い。
【0014】
また、本発明の光学素子保持装置への光学素子の接着方法は、光学素子保持装置の一部を構成しかつ内周側に光学素子を保持する周壁部が形成された保持枠部材の周壁部と光学素子の外周部との間でしかもその周回り方向に間隔を開けて存在する少なくとも3箇所に光エネルギーを照射することにより硬化する第1接着剤を介在させて保持枠部材に対する光学素子の光軸を調整する調整ステップと、第1接着剤に光エネルギーを照射して第1接着剤を硬化させる第1接着剤硬化ステップと、保持枠部材の周壁部と光学素子の外周部との間に第1接着剤よりも硬化時間が遅い硬化時間特性を有する第2接着剤を介在させて第2接着剤を硬化させる第2接着剤硬化ステップと、を実行することにより光学素子を保持枠部材に接着固定する方法であっても良い。
【0015】
保持枠部材は、投影レンズをその外周部から包囲する環状枠部材と環状枠部材に固定される固定部と第1接着剤が塗布されて投影レンズの外周部に密接される密接部とを有する接着用補助部材とから構成され、この接着用補助部材を用いて光学素子の光軸を調整する方法であっても良い。
【0016】
その接着用補助部材は、弾性部を介して密接部と固定部とが連結されていても良い。
【0017】
本発明の光学素子保持装置は、内周側に投影レンズをその外周部から包囲して保持する周壁部が形成された環状枠部材と、
環状枠部材の周回り方向に間隔を開けて少なくとも3箇所に形成された開口部と、環状枠部材に固定される固定部と第1接着剤が塗布されて投影レンズの外周部に密接される密接部とを有して各開口部に配設される接着用補助部材とを備え、接着用補助部材は固定部と密接部との間に弾性部を有し、投影レンズの外周部と環状枠部材の周壁部との間には第1接着剤よりも硬化時間の遅い第2接着剤が介在され、第1接着剤には開口部を通じて光エネルギーを照射することにより硬化する樹脂が用いられていることを特徴とする。
【0018】
保持枠部材の周壁部と光学素子の外周部との間に、第2接着剤が垂れ落ちるのを防止するパッキン部材が介在されていても良い。
【0019】
この光学素子保持装置は、露光装置に用いられる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、光エネルギーの照射により第1接着剤を用いて局所的に光学素子を保持枠部材に仮止めし、ついで、光学素子の外周部を硬化時間の遅い第2接着剤を用いて保持枠部材に固着するので、光学素子の歪みや変形を抑制しつつ光学素子を光学保持装置に固定できるという効果を奏する。
【0021】
また、光エネルギーの照射により第1接着剤を短時間で硬化させて、光学素子を保持枠部材に局所的に仮止めするので、第2接着剤を用いて光学素子をその保持枠部材に固着させる際に、別の光学素子を別の保持枠部材に仮止めでき、生産効率を損なうことなく光学保持装置に光学素子を取り付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は本発明に係る露光装置の構成の一例を模式的に示す説明図である。
【図2】図2は図1に示す光学素子保持装置の構成を拡大して模式的に示す斜視図である。
【図3】図3は投影レンズ群の配置の一例を示す断面図である。
【図4】図4は図3に示す投影レンズ保持装置の上端部に設けられている保持枠部材とこの保持枠部材に固定されている投影レンズとを拡大して部分的に示す斜視図である。
【図5】図5は図4に示す投影レンズを取り除いた状態を示す保持枠部材を示す斜視図である。
【図6】図6は図5に示す接着用補助部材の一例を示す斜視図である。
【図7】図7は図6に示す接着用補助部材の保持枠部材の一部を拡大してかつ断面で示す斜視図である。
【図8】図8は図7に示す保持枠部材への投影レンズの接着状態を説明するための部分拡大斜視図である。
【図9】図9は接着用補助部材の他の構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明に係る光学素子保持装置への光学素子の接着方法をこれに用いる光学素子保持装置及びこの光学素子保持装置を備えた露光装置と共に図面を参照しつつ説明する。
【実施例】
【0024】
図1は、本発明に係る光学素子保持装置への光学素子の接着方法を用いて製作された光学素子保持装置20を有する露光装置10の構成を模式的に示す説明図である。図2は図1に示す光学素子保持装置20の構成を模式的に示す斜視図である。
(露光装置10の全体構成)
露光装置10は、図1に示すように、照明光学系1として、光軸方向に沿って出射側から順に、光源部11と、コールドミラー12と、露光シャッタ13と、紫外線バンドパスフィルタ14と、インテグレータレンズ15と、コリメータレンズ16と、平面鏡17とを有する。
【0025】
また、この露光装置10は、マスクステージ機構2として、マスクステージ18と、マスクブラインド19とを有すると共に、投影レンズ機構としての光学素子保持装置20と、歪補正部21と、投影露光ステージ22とを有する。この露光装置10は、露光用光束として紫外光を用いる。
【0026】
光源部11は、この実施例では、水銀ランプ11aと楕円反射鏡11bとからなる。水銀ランプ11aは楕円反射鏡11bの第1焦点位置に配置されている。水銀ランプ11aは、制御部24により点灯・消灯される。水銀ランプ11aからの光をは楕円反射鏡11bにより反射されてコールドミラー12に導かれる。
【0027】
コールドミラー12は、赤外領域の熱線を透過させかつ他の波長帯域の光を反射する。これにより赤外領域の熱線が分離される。コールドミラー12により反射された光は、露光シャッタ13、紫外線バンドパスフィルタ14に導かれる。
【0028】
その露光シャッタ13は、コールドミラー12により反射された光の透過・遮断の切り替えに用いられる。その露光シャッタ13は、コールドミラー12と紫外線バンドパスフィルタ14との間の光路に照明系移動機構25により出入される。
【0029】
この露光シャッタ13が、その光路から退避されると対象ワーク23が露光され、光路に進入すると対象ワーク23の露光が停止される。なお、対象ワーク23は投影露光ステージ22に載置される。
【0030】
紫外線バンドパスフィルタ14は、紫外線領域の光を透過する。この実施例では、波長365nmの水銀のスペクトル線であるi線を透過するi線バンドパスフィルタにより構成されている。
【0031】
コールドミラー12からの反射光は、紫外線バンドパスフィルタ14により紫外線(i線)の波長帯域の光(実際には、i線の波長帯域の近傍の強度が高い紫外光)となって、インテグレータレンズ15に導かれる。
【0032】
インテグレータレンズ15は、その紫外光の照度ムラを打ち消し、対象ワーク23の照射面の周辺部まで含めてその照射面に均一な照度分布を形成するのに用いる。すなわち、その紫外光は、インテグレータレンズ15により均一な照度分布とされて、コリメータレンズ16に導かれる。
【0033】
その紫外光は、コリメータレンズ16により平行光束とされて平面鏡17に導かれ、その平面鏡17によりマスクステージ18に向けて反射される。
【0034】
マスクステージ18は、平面鏡17による反射光路上に設けられている。このマスクステージ18はマスク18aを有する。このマスク18aにはマスクパターンが形成されている。このマスク18aはその反射光路の光軸(投影光軸)Oに直交する方向にマスクステージ18により移動される。
【0035】
マスクステージ18は、マスク18aが取り外し可能とされ、そのマスク18aとは異なるマスクパターンを有するマスクをそのマスクステージ18に取り付けることができる。
【0036】
各マスクには、複数のマスク側アライメントマーク(図示を略す)が設けられている。平面鏡17により反射された紫外光は、マスク18aを透過して、マスク18aを照明する。これにより、マスクパターンの形状に対応するマスクパターン像を形成するマスクパターン像形成光束が図2に拡大して示す光学素子保持装置20に導かれる。
【0037】
その照射光学系1は、照明系移動機構25により、マスクステージ18に対して、光軸Oと直交する平面内でX軸方向、Y軸方向に移動可能とされている。その照明系移動機構25は、制御部24により駆動制御される。
【0038】
マスクステージ18と光学素子保持装置20との間に、マスクブラインド19が設けられている。マスクブラインド19は、マスク18aを通過したマスクパターン像形成光束の進行光路に進退可能に設けられている。
【0039】
このマスクブラインド19は、マスク18aのマスクパターンのうち所望の領域のみのマスクパターン像を、対象ワーク23上に形成する機能を有する。このマスクブラインド19は、マスクブラインド駆動機構26により駆動され、このマスクブラインド駆動機構26も制御部24により駆動制御される。
【0040】
光学素子保持装置20は、対象ワーク23に、マスクパターン像を投影するのに用いられる。そのマスク18aに形成されたマスクパターンは適宜変倍され、これにより、対象ワーク23の表面にマスクパターン像が形成される。
【0041】
光学素子保持装置20の内部には図3に示すように投影レンズ群LENSが設けられている。その光学素子保持装置20の構成については後述する。
【0042】
対象ワーク23の表面とマスク18aとはその投影レンズ群LENSにより光学的に共役とされている。
【0043】
その光学素子保持装置20と投影露光ステージ22との間に、歪補正部21が設けられている。歪補正部21は、対象ワーク23の歪みに応じて、対象ワーク23の表面である結像面に形成されるマスクパターン像を変形させるのに用いる。
【0044】
この歪補正部21は、歪補正駆動機構28により駆動され、この歪補正駆動機構28も制御部24により駆動制御される。
【0045】
投影露光ステージ22は、ステージ駆動機構29により対象ワーク23を光軸Oに直交する平面内でX−Y方向に移動可能とされ、投影露光ステージ22による対象ワーク23の保持には適宜の手段を用いる。そのステージ駆動機構29の駆動制御にも制御部24を用いる。
【0046】
なお、その対象ワーク23には、シリコンウエハやガラス基板やプリント基板等に、紫外線(i線)に対して光反応するフォトレジスト等の感光材料が塗布または張り付けられている。
(光学素子保持装置20の概略構成)
その光学素子保持装置20は、図2に示すように、レンズ鏡筒部20Aを有する。このレンズ鏡筒部20Aには光学素子としての投影レンズ群LENSが図3に拡大して示すように配置される。
【0047】
その図3には、構造物(図示を略す)にレンズ鏡筒部20Aを固定する取付けフランジ部20B(図2参照)よりも上部側のレンズ群LENSが示されている。取付けフランジ20Bよりも下部側の投影レンズ群LENSの図示は省略する。
【0048】
その投影レンズLENは図4に示すように保持枠部材20Cを介してレンズ鏡筒部20Aに固定される。その保持枠部材20Cはレンズ鏡筒部20Aの内周部に図3に示すビス20Dにより固定されていても良いし、レンズ鏡筒部20Aの端面20A’に直接図3に示すビス20Eにより固定されて、レンズ鏡筒部20Aの一部を構成していても良い。
【0049】
ここでは、保持枠部材20Cは、レンズ鏡筒部20Aの端面20A’に取り付けられているものとして説明する。
(保持枠部材20Cの構成)
図5はその保持枠部材20Cの斜視図を示している。この保持枠部材20Cは、金属製の環状枠部材から構成されている。この環状枠部材は、内周側に円形状の投影レンズLENをその外周部20tから包囲して保持する円形状の周壁部20aを有する。その環状枠部材は上下に間隔を開けて対向する上フランジ20b、下フランジ20cを有する。
【0050】
その下フランジ20cには周回り方向に間隔を開けてビス留め穴20dが形成され、その上フランジにはビス留め穴20dに対向するビス抜き穴20eが形成されている。その下フランジ20cの下面20c’はレンズ鏡筒部20Aの端面に対する基準面とされている。
【0051】
その周壁部20aには環状段差部20fが設けられ、この環状段差部20fにはその周回り方向に間隔を開けて下側から投影レンズLENを支承する半円柱形状の3個の支承突起20gが形成されている。ここでは、その支承突起20gは光軸Oの周回り方向に120度略対称位置に配置されている。その支承突起20gの個数は3個であるが、3個以上であれば、これに限られるものではない。
【0052】
周壁部20aには、図6に一部を拡大して示すように、その周回り方向に間隔を開けて少なくとも3箇所に開口部20hが形成されている。ここでは、この開口部20hはその支承突起20gに対応する箇所に配置されているが、これに限られるものではない。
【0053】
その開口部20hには、接着用補助部材20iが設けられている。この接着用補助部材20iは図7に拡大して示すように、固定部20jと密接部20kとを有する。固定部20jと密接部20kとは弾性部20mを介して互いに連結される。
【0054】
ここでは、接着用補助部材20iは金属製のブロック20i’により構成され、ブロック20i’に切り欠き20n、20pを形成することにより、固定部20jと弾性部20mとが画成される。
【0055】
固定部20jにはネジ挿通穴20j’が形成されている。環状段差部20fには開口部20hの形成箇所にネジ穴(図示を略す)が形成されている。接着用補助部材20iは、固定ネジ20qによりその環状段差部20fに固定される。そのネジ挿通穴20j’は固定ネジ20qに対して若干の遊びを持たせて形成されている。これにより、環状枠部材に対して投影レンズLENの光軸を調整することが可能である。
【0056】
弾性部20mにはネジ穴20m’が形成されている。密接部20kは紫外線を透過可能な透過材料としての直方体形状のアクリル板から構成されている。この密接部20kは固定ネジ20rにより弾性部20mに固定されている。
【0057】
その密接部20kには投影レンズLENの外周部(コバ部)に臨む側の面に光エネルギーを照射することにより硬化する第1接着剤20sが塗布されている。その第1接着剤20sには、ここでは、紫外線硬化型の樹脂が用いられているが、可視光硬化型の樹脂を用いても良い。
(投影レンズLENの保持枠部材への接着方法)
この保持枠部材20Cへの投影レンズLENの組み付けは、以下に説明する工程を経て行われる。
【0058】
最初に、環状枠部材の開口部20hに接着用補助部材20iを取付け、投影レンズLENを保持枠部材20Cに載置する。
【0059】
ついで、公知の偏心検査装置(図示を略す)を用いて投影レンズLENの光軸の環状枠部材に対する偏心具合を確認し、光学設計で予定した交差範囲外である場合には、固定ネジ20qを緩めるかあるいは締め付けるかによって各接着用補助部材20iを調整する。その際、投影レンズLENの光軸の直角出しも行われる。
【0060】
投影レンズLENの外周部20tには密接部20kが十数μmの間隔を開けて第1接着部材20sを介して密接している。
【0061】
次に、開口部20hを通じて第1接着部材20sに光エネルギーとしての紫外線(UV光)を照射する。これにより、第1接着部材20sが短時間で硬化する。ついで、図8に示すように、周壁部20aと投影レンズLENの外周部20tとの間に後述する第2接着剤が垂れ落ちるのを防止するパッキン部材20wを介挿する。そのパッキン部材20wには例えばフッ素製のゴム紐が用いられるが、これに限られるものではない。
【0062】
その次に、投影レンズLENの外周部20tと環状枠部材の周壁部20aとの間に第2接着剤20xを注入する。第2接着剤20xは第1接着剤20sよりも硬化時間の遅い硬化時間特性を有する自然硬化型の樹脂を用いる。
【0063】
なお、この実施例では、パッキン部材20wを周壁部20aと外周部20tとの間に介在させて、第2接着剤20xが垂れ流れ落ちるのを防止する構成としたが、粘性の大きい樹脂を第2接着剤20xに用いることにすれば、必ずしもパッキン部材20wを設ける必要はないものである。
【0064】
このように、この投影レンズLENの保持装置への接着方法では、光学素子保持装置20の一部を構成しかつ内周側に光学素子を保持する周壁部20aが形成された保持枠部材20Cの周壁部20aと光学素子の外周部との間でしかもその周回り方向に間隔を開けて存在する少なくとも3箇所に光エネルギーを照射することにより硬化する第1接着剤20sを介在させて保持枠部材20Cに対する光学素子の光軸を調整する調整ステップと、第1接着剤20sに光エネルギーを照射して第1接着剤20sを硬化させる第1接着剤硬化ステップと、保持枠部材20Cの周壁部20aと光学素子の外周部20tとの間に第1接着剤20sよりも硬化時間が遅い硬化時間特性を有する第2接着剤20xを介在させて第2接着剤20xを硬化させる第2接着剤硬化ステップとを実行することにより光学素子が保持枠部材20Cに接着固定される。
【0065】
要約すると、この投影レンズLENの保持装置の接着方法においては、光エネルギーの照射により硬化する第1接着剤20sを用いて局所的に光学素子を保持枠部材20Cに仮止めし、ついで、光学素子の外周部20tを第1接着剤20sよりも硬化時間の遅い第2接着剤20xを用いて保持枠部材20Cに固着する。従って、光学素子の歪みや変形を抑制しつつ光学素子を光学保持装置20に固定できるという効果を奏する。
【0066】
また、光エネルギーの照射により第1接着剤20sを短時間で硬化させて、光学素子を保持枠部材20Cに局所的に仮止めするので、第2接着剤20xを用いて光学素子をその保持枠部材20Cに固着させる際に、別の光学素子を別の保持枠部材に仮止めでき、生産効率を損なうことなく光学保持装置に光学素子を取り付けることができる。
【0067】
以上説明した投影レンズLENの保持装置への接着方法は、保持枠部材20Cに対する光学素子の光軸を調整する調整ステップを実行した後、第1接着剤20sを用いて局所的に光学素子を保持枠部材20Cに仮止めすることにしたが、保持枠部材20Cに対する光学素子の調整を行う必要のないほど、高精度の保持枠部材20Cを用いれば、以下に説明する方法を用いることもできる。
【0068】
すなわち、光学素子保持装置の一部を構成しかつ内周側に光学素子を保持する周壁部が形成された保持枠部材20Cの周壁部20aと光学素子の外周部20tとの間でしかもその周回り方向に間隔を開けて存在する少なくとも3箇所に光エネルギーを照射することにより硬化する第1接着剤20sを介在させて第1接着剤20sに光エネルギーを照射して第1接着剤20sを硬化させる第1接着剤硬化ステップと、保持枠部材20Cの周壁部20aと光学素子の外周部20tとの間に第1接着剤20sよりも硬化時間が遅い硬化時間特性を有する第2接着剤20xを介在させて第2接着剤20xを硬化させる第2接着剤硬化ステップとを実行することにより光学素子を保持枠部材20Cに接着固定しても良い。
【0069】
投影レンズ群LENSを保持する他の保持枠部材20Cにも、以上説明した接着方法を適用することができる。これらの保持枠部材20Cは、レンズ鏡筒部20Aに公知の偏心検査装置(図示を略す)を用いて、心出しを行いつつ取り付けられる。
(接着用補助部材20iの構成の他の実施例)
図9は本発明に係る接着方法に用いる接着用補助部材20iの他の構成を示す斜視図である。この実施例では、固定部20jは板バネ部材から構成されている。固定部20jは固定ネジ20qにより環状段差部20fに固定される。
【0070】
弾性部20mは板バネ部材を切り欠いて折り曲げ起立させることにより形成されている。この弾性部20mには密接部20kとしての直方体形状のアクリル板が固定ネジ20rにより固定されている。そのアクリル板には第1接着剤20sが塗布されている。
【0071】
ここでは、密接部20kを光エネルギーを透過可能なアクリル板により形成したが、アクリル板を設ける代わりに、光エネルギーを通過させる切り欠き、貫通穴を含む通過穴(図示を略す)により構成しても良い。
【符号の説明】
【0072】
10…露光装置
20…光学素子保持装置
20A…レンズ鏡筒部
20C…保持枠部材
20t…外周部
20a…周壁部
20i…接着用補助部材
20j…固定部
20k…密接部
20m…弾性部
20s…第1接着剤
20x…第2接着剤
LEN…投影レンズ(光学素子)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光エネルギーの照射により硬化する第1接着剤を用いて局所的に光学素子を保持枠部材に仮止めし、ついで、光学素子の外周部を第1接着剤よりも硬化時間の遅い第2接着剤を用いて前記保持枠部材に接着固定することを特徴とする光学素子保持装置への光学素子の接着方法。
【請求項2】
光学素子保持装置の一部を構成しかつ内周側に光学素子を保持する周壁部が形成された保持枠部材の前記周壁部と前記光学素子の外周部との間でしかもその周回り方向に間隔を開けて存在する少なくとも3箇所に光エネルギーを照射することにより硬化する第1接着剤を介在させて該第1接着剤に前記光エネルギーを照射して前記第1接着剤を硬化させる第1接着剤硬化ステップと、
前記保持枠部材の周壁部の内周側と前記光学素子の外周部との間に前記第1接着剤よりも硬化時間が遅い硬化時間特性を有する第2接着剤を介在させて該第2接着剤を硬化させる第2接着剤硬化ステップと、を実行することにより前記光学素子を前記保持枠部材に接着固定することを特徴とする光学素子保持装置への光学素子の接着方法。
【請求項3】
前記光学素子は円形状の投影レンズからなり、前記周壁部は円形状であり、前記第1接着剤は紫外線硬化型接着剤であることを特徴とする請求項2に記載の光学素子保持装置への光学素子の接着方法。
【請求項4】
前記光学素子は円形状の投影レンズからなり、前記周壁部は円形状であり、前記第1接着剤は可視光硬化型接着剤であることを特徴とする請求項2に記載の光学素子保持装置への光学素子の接着方法。
【請求項5】
前記保持枠部材は、前記投影レンズをその外周部から包囲する環状枠部材と、該環状枠部材に固定される固定部と前記第1接着剤が塗布されて前記投影レンズの外周部に密接される密接部とを有する接着用補助部材とから構成されていることを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の光学素子保持装置への光学素子の接着方法。
【請求項6】
前記密接部は光エネルギーを透過させる透過材料により構成されていることを特徴とする請求項5に記載の光学素子保持装置への光学素子の接着方法。
【請求項7】
前記密接部は光エネルギーを通過させる通過穴を有する構成とされていることを特徴とする請求項5に記載の光学素子保持装置への光学素子の接着方法。
【請求項8】
前記密接部は弾性部を介して前記固定部に連結されていることを特徴とする請求項5に記載の光学素子保持装置への光学素子の接着方法。
【請求項9】
前記保持枠部材の周壁部と前記光学素子の外周部との間に前記第2接着剤が垂れ落ちるのを防止するパッキン部材が介在されていることを特徴とする請求項5ないし請求項8のいずれか1項に記載の光学素子保持装置への光学素子の接着方法。
【請求項10】
光学素子保持装置の一部を構成しかつ内周側に光学素子を保持する周壁部が形成された保持枠部材の周壁部と前記光学素子の外周部との間でしかもその周回り方向に間隔を開けて存在する少なくとも3箇所に光エネルギーを照射することにより硬化する第1接着剤を介在させて前記保持枠部材に対する前記光学素子の光軸を調整する調整ステップと、
前記第1接着剤に前記光エネルギーを照射して前記第1接着剤を硬化させる第1接着剤硬化ステップと、
前記保持枠部材の周壁部と前記光学素子の外周部との間に前記第1接着剤よりも硬化時間が遅い硬化時間特性を有する第2接着剤を介在させて該第2接着剤を硬化させる第2接着剤硬化ステップと、を実行することにより前記光学素子を前記保持枠部材に接着固定することを特徴とする光学素子保持装置への光学素子の接着方法。
【請求項11】
前記保持枠部材は、前記光学素子としての投影レンズをその外周部から包囲する環状枠部材と該環状枠部材に固定される固定部と第1接着剤が塗布されて前記投影レンズの外周部に密接される密接部とを有する接着用補助部材とから構成され、該接着用補助部材を用いて前記投影レンズの光軸を調整することを特徴とする請求項10に記載の光学素子保持装置への光学素子の接着方法。
【請求項12】
前記接着用補助部材は、弾性部を介して前記密接部と前記固定部とが連結されていることを特徴とする請求項11に記載の光学素子保持装置への光学素子の接着方法。
【請求項13】
内周側に投影レンズをその外周部から包囲して保持する周壁部が形成された環状枠部材と、
該環状枠部材の周回り方向に間隔を開けて少なくとも3箇所に形成された開口部と、
前記環状枠部材に固定される固定部と第1接着剤が塗布されて前記投影レンズの外周部に密接される密接部とを有して前記各開口部に配設される接着用補助部材とを備え、該接着用補助部材は前記固定部と前記密接部との間に弾性部を有し、前記投影レンズの外周部と前記環状枠部材の周壁部との間には前記第1接着剤よりも硬化時間の遅い第2接着剤が介在され、前記第1接着剤には前記開口部を通じて光エネルギーを照射することにより硬化する樹脂が用いられていることを特徴とする光学素子保持装置。
【請求項14】
前記環状枠部材の周壁部と前記投影レンズの外周部との間に前記第2接着剤が垂れ落ちるのを防止するパッキン部材が介在されていることを特徴とする請求項13に記載の光学素子保持装置。
【請求項15】
請求項13又は請求項14に記載の光学素子保持装置を有する露光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−74089(P2013−74089A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−211887(P2011−211887)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000220343)株式会社トプコン (904)
【Fターム(参考)】