説明

光学素子用成形型

【課題】多数個取りのプレス成形において、多数個取りの個数を容易に変更可能であり、かつ多数個取りの個数が多くとも成形型内の気体を外部に導く通気路を確実に確保可能な光学素子用成形型を提供する。
【解決手段】複数組の上型110および下型120と、各組の上型および下型が摺動可能な状態で挿入される貫通孔132を有し、互いに密接して配される複数の胴型130と、各胴型の貫通孔に挿入された各組の上型および下型により各胴型の貫通孔内に形成される成形空間150を、互いに密接して配された複数の胴型の外部に連通するように各胴型に設けられた連通路136、138と、を備える。成形型において、複数の胴型は、任意の数の胴型として設定可能であり、任意の形状を構成するように互いに密接して配置可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子用成形型に係り、特に多数個取りのプレス成形を可能にする光学素子用成形型に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、レンズ、プリズムや光通信部品など、高い光学特性を要求されるガラス製の光学素子がプレス成形により大量生産されている。プレス成形では、所定の形状に形成された成形素材(プリフォーム)を用意し、成形素材を高精度の成形面を備えた光学素子用成形型(以下では、成形型とも称する。)内に配置する。そして、成形型を介して成形素材をガラスの屈伏点付近の温度まで加熱した後にプレスし、成形面の形状を成形素材に転写することで光学素子が成形される。
【0003】
プレス成形による生産性を向上させるために、1つの胴型に複数組の上型および下型を組み込み、多数個取りのプレス成形を可能にする成形型が知られている。この種の成形型は、一般に、セパレート式および胴型式に区分される。
【0004】
セパレート式の成形型では、複数の上型が設けられた上モールドダイ、および複数の下型が設けられた下モールドダイが用いられる。そして、上型および下型の間に成形素材が配され、上モールドダイと下モールドダイとの合せ面で光学素子が成形される。セパレート式の成形型では、下モールドダイの成形部分に載置された成形素材が上モールドダイおよび下モールドダイの接近につれて、合せ面が合わさるまで押圧変形される。この場合、合せ面が合わさるまでは、上モールドダイおよび下モールドダイの間隙により、成形空間から外部に通じる通気路が確保される。
【0005】
一方、胴型式の成形型では、例えば下記特許文献1に記載されるように、複数組の上型および下型が摺動可能な状態で挿通される複数の貫通孔を有する共通胴型が用いられる。共通胴型には、上型および下型の成形面により貫通孔内に形成される成形空間を共通胴型の外部に連通する通気孔が貫通孔の孔面から穿設される。胴型式の成形型では、上型および下型の軸ずれ、傾き、ストロークが共通胴型の形状に基づいて規制(調整)されるので、セパレート式の成形型に比して高い精度が要求される光学素子を成形する場合に用いられることが多い。
【0006】
【特許文献1】特開2006−240913号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、多数個取りのプレス成形では、成形装置の利用効率、光学素子の生産効率を向上させるために、成形装置の種類、光学素子の生産要求量などに応じて、多数個取りの個数を変更することが望まれる場合がある。しかし、例えば、従来の胴型式の成形型では、共通胴型に設けられた貫通孔の数が固定されているので、多数個取りの個数を変更する(特に個数を増加させる)ことが容易ではない。また、一般に上型、下型の形状が成形型に応じて異なるので、異なる成形型間で上型、下型を共用することが困難である。
【0008】
一方、多数個取りの個数を増加させるために、上型および下型の組数を多くした場合には、成形型内の通気性を確保することが困難となる。従来の胴型式の成形型では、複数の上下型を例えば同心上に配置した場合には、貫通孔の配置上の制約から内側に配された貫通孔に通気孔を設けることが困難となる。また、配置上の制約を解消するために貫通孔間の距離を拡大すると、成形型が大型化し、成形型内の熱伝達効率が低下してしまう。
【0009】
したがって、従来の胴型式の成形型では、多数個取りの個数を容易に変更できず、また、多数個取りの個数が多くなると成形型内の気体を外部に導く通気路を確実に確保できなくなるという問題があった。
【0010】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、多数個取りのプレス成形において、多数個取りの個数を容易に変更可能であり、かつ多数個取りの個数が多くとも成形型内の気体を外部に導く通気路を確実に確保可能な、新規かつ改良された光学素子用成形型を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、複数組の上型および下型と、各組の上型および下型が摺動可能な状態で挿入される貫通孔を有し、互いに密接して配される複数の胴型と、各胴型の貫通孔に挿入された各組の上型および下型により各胴型の貫通孔内に形成される成形空間を、互いに密接して配された複数の胴型の外部に連通するように各胴型に設けられた連通路と、を備える光学素子用成形型が提供される。
【0012】
かかる構成によれば、成形型が複数組の上型、下型、および胴型により構成され、複数の胴型が互いに密接して配されるので、成形装置の種類、生産要求量などに応じて多数個取りの個数を容易に変更することができる。また、連通路によって、複数の胴型の貫通孔内に形成される成形空間が、互いに密接して配された複数の胴型の外部に連通されるので、成形型内の気体を外部に導く通気路を確実に確保することができる。
【0013】
また、上記連通路は、成形空間を各胴型の側面に連通する孔部、および孔部に連通して各胴型の側面に設けられた溝部を有し、胴型の溝部は、互いに密接して配された他の胴型の溝部と連通するように設けられてもよい。これにより、複数の胴型内の成形空間が、当該胴型の孔部および溝部から他の胴型の溝部を通じて、互いに密接して配された複数の胴型の外部に連通される。
【0014】
また、上記各胴型は、正多角柱状の形状を有してもよい。これにより、複数の胴型を互いに密接して配することが可能となるので、成形型の大型化および成形型内の熱伝達効率の低下を招くことなしに、多数個取りの個数を増加させることができる。
【0015】
また、上記各胴型は、側面に設けられた位置決め係合部を有し、胴型の位置決め係合部は、互いに密接して配された他の胴型の位置決め係合部と係合するように設けられてもよい。これにより、隣接する胴型間で生じる配置上のズレが位置決め係合部により規制されるので、上下型間の軸ずれが生じ難くなり、隣接する胴型間で対面する溝部のズレが生じ難くなる。
【0016】
また、上記複数の胴型は、同一の形状を有してもよい。また、上記複数の胴型は、同心上に互いに密接して配されてもよい。また、上記光学素子用成形型は、互いに密接して配された複数の胴型の輪郭形状を保持する保持部をさらに備えてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、多数個取りのプレス成形において、多数個取りの個数を容易に変更可能であり、かつ多数個取りの個数が多くとも成形型内の気体を外部に導く通気路を確実に確保可能な光学素子用成形型を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、添付した図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0019】
本発明の第1の実施形態に係る光学素子用成形型100(以下では、成形型100とも称する。)は、多数個取りのプレス成形を可能にする胴型式の成形型100である。以下では、従来技術に係る成形型500と第1の実施形態に係る成形型100とを対比しながら説明する。
【0020】
(従来技術に係る成形型)
図10は、従来技術に係る成形型500を含むプレス成形装置を示す模式図であり、図11は、図10に示した成形型500を示す斜視図である。
【0021】
図10に示すように、プレス成形装置は、成形型500、上プレート10、下プレート12、加熱ランプ14、断熱筒16、上軸18、下軸20、駆動装置22、荷重検出装置24、制御装置26を含んで構成される。
【0022】
成形型500の下方には下軸20により支持された下プレート12が配され、成形型500の上方には上軸18により支持された上プレート10が配される。成形型500の周囲には、加熱ランプ14が配され、成形型500、上プレート10、下プレート12、加熱ランプ14の周囲には、成形型500、上プレート10、下プレート12、加熱ランプ14を含む成形室28を囲む断熱筒16が配される。駆動装置22は、下軸20を介して下プレート12を昇降させ、荷重検出装置24は、プレス荷重を検出する。制御部26は、成形型500に装着された熱電対(不図示)の検出温度、荷重検出装置24の検出荷重などに応じて、加熱ランプ14、駆動装置22、図示されていない冷却装置およびパージ装置などを制御する。下プレート12上に載置された成形型500は、下プレート12が上昇することで上プレート12に対して押し付けられ、成形空間550に配置された成形素材1をプレスする。
【0023】
図10および図11に示すように、従来の成形型500は、複数組の上型510および下型520、共通胴型530、保持台540を含んで構成される。上型510および下型520は、円柱状の本体部512、522、本体部512、522の一端に設けられたフランジ部514、524からなり、本体部512、522の他端には成形面516、526が設けられている。共通胴型530は、円柱状の形状を有し、同一円周上に設けられた複数の貫通孔532、貫通孔532の孔面から共通胴型530の外周面に向けて設けられた通気孔536を有する。また、共通胴型530は、貫通孔532より大きな断面で貫通孔532の上端に設けられたフランジ受部534、および同様に貫通孔532の下端に設けられたフランジ受部535(不図示)を有する。保持台540は、下型520および共通胴型530の下面を支持した状態で、下型520および共通同型530を保持する。
【0024】
成形型500の組立に際して、複数の下型520は、フランジ部524の下面が保持台540の上面に対して組立てられる。共通胴型530は、下面が保持台540の上面に当接し、フランジ受部535の下面が下型520のフランジ部524の上面に当接し、貫通孔532の孔面が下型520の本体部522の周面に摺接するように、保持台540および下型520に対して組立てられる。複数の上型510は、本体部512の周面が貫通孔532の孔面に摺接するように、共通胴型530に対して組立てられる。成形型500が組立てられた状態で、上型510の成形面516、下型520の成形面526、および貫通孔532の孔面により、共通胴型530内には成形空間550が形成される。共通胴型530内の各成形空間550は、通気孔536を通じて共通胴型530の外部に連通される。
【0025】
従来の成形型500を有するプレス成形装置では、前処理工程、パージ工程、加熱工程、プレス工程、冷却工程、後処理工程からなるプレス成形処理が行われる。前処理工程では、保持台540、複数の下型520、および共通胴型530が組立てられた状態で、複数の下型520の成形面526上に成形素材1が配置され、複数の上型510が組立てられる。ここで、上型510は、成形面516が成形素材1に当接し、フランジ部514の下面がフランジ受部534の上面に当接していない状態で、共通胴型530に対して組立てられる。パージ工程では、成形室28内の空気が不活性ガスに置換され、成形空間550内の空気も通気孔536を通じて不活性ガスに置換される。
【0026】
加熱工程では、成形型500の周囲に配置された加熱ランプ14により、成形型500を通じて成形素材1がガラスの屈伏点付近の温度まで加熱される。プレス工程では、上型510を下型520に対してプレスすることで、上型510および下型520の成形面516、526が成形素材1に転写される。ここで、上型510は、フランジ部514の下面がフランジ受部534の上面に当接することで、下型520に対するプレス量が規制される。また、成形空間550に閉じ込められたガスは、通気孔536を通じて共通胴型530の外部に排出される。
【0027】
冷却工程では、成形室28内に冷却ガスが供給され、成形素材1から成形された光学素子が所定の冷却温度まで冷却される。後処理工程では、複数の上型510、または共通胴型530および複数の上型510が成形型500から取り外され、複数の下型520から複数の光学素子が取出される。
【0028】
ここで、多数個取りの個数を増加させるために、図10および図11に示すような従来の成形型500を用いて複数組の上型510および下型520を同心上(複数の円周上)に配置する場合を想定する。同心上に配置された複数の貫通孔532から共通胴型530の外周面に向けて、従来の成形型500と同様に通気孔536を設ける場合には、貫通孔532の配置上の制約から貫通孔532間の距離を拡大する必要が生じ、成形型500の大型化、成形型500内の熱伝達効率の低下を招くことになる。また、円筒状の共通胴型530を用いて、内側の円周上に配置される貫通孔532から共通胴型530の内周面に向けて通気孔536を設けることも考えられるが、先の場合と同様の結果を招いてしまう。
【0029】
(第1の実施形態に係る成形型100)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る成形型100を示す模式図であり、図2は、図1に示した成形型100を示す斜視図である。
【0030】
図1および図2に示すように、第1の実施形態に係る成形型100は、複数組の上型110および下型120、複数の胴型130、保持台140を含んで構成される。上型110および下型120は、従来の成形型500と同様に、本体部112、122およびフランジ部114、124からなる。胴型130は、六角柱状の形状(正六角形の断面形状)を有し、貫通孔132、フランジ受部134、135(図4参照)、および詳細を後述する連通路を構成する孔部136および溝部138を有する。保持台140は、胴型130の輪郭形状を保持するとともに、下型120のフランジ部124の下面を支持して成形時の押圧力を下型120に伝達する。なお、成形型100では、成形装置の種類、光学素子の生産所要量に応じて、複数組の上型110、下型120、および胴型130の組数および保持台140の形状を変更することで、多数個取りの個数を容易に変更することができる。
【0031】
図3は、図1に示した成形型100の要部を示す分解斜視図である。また、図4は、図1に示した成形型100を構成する胴型130の構造を示す説明図である。図4には、胴型130の上面、下面、2つの側面、およびA−A線沿いの断面が示されている。図5は、図4に示した構造を有する複数の胴型130により構成される連通路を示す説明図である。図5には、図1に示したように同心上に互いに密接して配された複数の胴型130において連通路沿いの断面(図4に示すA−A線沿いの断面に相当する。)が示されている。
【0032】
図3および図4に示すように、胴型130は、六角柱状の形状(正六角形の断面形状)を有し、上型110および下型120の本体部112、122が挿通されるように設けられた貫通孔132、および連通路を構成する孔部136および溝部138を有する。また、胴型130は、貫通孔132の上端に上型110のフランジ部114が嵌合するように設けられたフランジ受部134、および同様に貫通孔132の下端に下型120のフランジ部124が嵌合するように設けられたフランジ受部135を有する。なお、胴型130は、角部に面取りが施された断面形状を有してもよい。胴型130内には、上型110および下型120の成形面116、126、および貫通孔132の孔面により成形空間150が形成される。
【0033】
連通路は、成形空間150を胴型130の側面に連通する孔部136、および孔部136に連通して胴型130の側面に設けられた溝部138からなる。孔部136は、加熱軟化した成形素材1が流出しないように構成された微細孔からなり、一端が成形空間150に開口し、他端が溝部138に開口するように設けられる。なお、図3および図4には、6つの孔部136が胴型130の各側面に設けられた溝部138に連通するように設けられた胴型130が示されているが、1つ以上の孔部136が胴型130の側面に設けられた溝部138に連通するように設けられてもよい。溝部138は、図5に示すように、互いに密接して配された胴型130において、胴型130同士の密接面に設けられた一方の胴型130の溝部138が他方の胴型130の溝部138に連通するように設けられる。なお、密接する胴型130の溝部138は、互いに連通していれば、互いに対面して設けられてもよく、互いに交差して設けられてもよい。
【0034】
連通路は、複数の胴型130の貫通孔132内に形成される成形空間150を、互いに密接して配された複数の胴型130の外部(成形型100の外部)に連通するように設けられる。つまり、図5に示す場合では、連通路は、同心上に互いに密接して配された複数の胴型130において、内側の円周上および中央部に配された7個の胴型130内の成形空間150を外側の同心上に配された12個の胴型130の外部(成形型100の外部)に連通するように設けられている。
【0035】
成形型100の組立に際して、複数の下型120は、フランジ部124の下面が保持台140の上面に対して組立てられる。胴型130は、下面が保持台140の上面に当接し、フランジ受部135の下面が下型120のフランジ部124の上面に当接し、貫通孔132の孔面が下型120の本体部122の周面に摺接するように、保持台140および下型120に対して組立てられる。また、胴型130は、同心上に互いに密接するように配置される。複数の上型110は、本体部112の周面が貫通孔132の孔面に摺接するように、胴型130に対して組立てられる。複数の胴型130内の成形空間150は、同心状に配された複数の胴型130の外部に連通路を通じて連通される。
【0036】
次に、成形型100を有するプレス成形装置により行われるプレス成形処理について説明する。なお、成形型100を有するプレス成形装置は、図1に示したプレス成形装置と基本的に同一の構成を有する。前処理工程では、保持台140、複数の下型120、および複数の胴型130が組立てられた状態で、複数の下型120の成形面126上に成形素材1が配置され、複数の上型110が組立てられる。
【0037】
パージ工程では、予め成形室28内および成形空間150内の空気を排出することで、いわゆる真空引きが行われる。ここで、内側の円周上および中央部に配された7個の各胴型130内の成形空間150は、各胴型130の孔部136および溝部138、ならびに他の胴型130内の成形空間150(成形面116、126と成形素材1との隙間)、孔部136および溝部138を通じて外側の円周上に配された12個の胴型130の外部(成形型100の外部)に連通している。また、外側の円周上に配された12個の各胴型130内の成形空間150は、各胴型130の孔部136および溝部138、または孔部136、あるいは他の胴型130内の成形空間150(成形面116、126と成形素材1との隙間)、孔部136および溝部138を通じて成形型100の外部に連通している。これにより、孔部136および溝部138を通じて成形空間150内の空気を成形型100の外部に円滑に排出することができる。
【0038】
そして、真空引きが行われた後、成形室28内および成形空間150内に不活性ガスが導入されてパージが行われる。ここでも、真空引きの場合と同様に、孔部136および溝部138を通じて成形空間150内に不活性ガスを円滑に導入することができる。なお、上記説明では、パージ工程が行われる場合について説明したが、真空引きを行った後に不活性ガスを導入しない状態で、以下の成形工程が真空中で行われる場合もある。
【0039】
加熱工程では、成形型100の周囲に配置された加熱ランプ14により、成形型100(成形型100内での熱伝達)を通じて成形素材1がガラスの屈伏点付近の温度まで加熱される。
【0040】
プレス工程では、上型110を下型120に対してプレスすることで、上型110および下型120の成形面116、126が成形素材1に転写される。成形空間150に閉じ込められたガスは、連通路を通じて外側の円周上に配された胴型130の外部に排出される。ここで、内側の円周上および中央部に配された7個の各胴型130内の成形空間150は、各胴型130の孔部136および溝部138、ならびに他の胴型130の孔部136および溝部138を通じて外側の円周上に配された12個の胴型130の外部(成形型100の外部)に連通している。また、外側の円周上に配された12個の各胴型130内の成形空間150は、各胴型130の孔部136および溝部138を通じて成形型100の外部に連通している。これにより、孔部136および溝部138を通じて成形空間150内に閉じ込められたガスを成形型100の外部に円滑に排出することができる。
【0041】
冷却工程では、成形室150内に冷却ガスが供給され、成形素材1から成形された光学素子が成形型100(成形型100内での熱伝達)を通じて所定の冷却温度まで冷却される。ここでも、パージ工程の場合と同様に、孔部136および溝部138を通じて、成形空間150内の熱気を成形型100の外部に円滑に排出した上で、胴型130の側面に形成された溝部138を通じて成形空間150の内部まで冷却ガスを円滑に導入することができ、冷却効率も向上させることができる。
【0042】
後処理工程では、複数の上型110、または複数の胴型130および複数の上型110が成形型100から取り外され、複数の下型120から複数の光学素子が取出される。なお、加熱工程および冷却工程では、内側の円周上および中央部に配された胴型130と外側の円周上に配された胴型130との間で温度変化に差が生じることになるが、均熱工程を設けることで温度変化が抑制される。
【0043】
以上説明したように、第1の実施形態に係る成形型100によれば、成形型100が複数組の上型110、下型120、および胴型130により構成され、複数の胴型130が互いに密接して配されるので、成形装置の種類、生産所要量などに応じて多数個取りの個数を容易に変更することができる。また、連通路(孔部136、溝部138)によって、複数の胴型130の貫通孔132内に形成される成形空間150が、互いに密接して配された複数の胴型130の外部(成形型100の外部)に連通されるので、成形型100内の気体を外部に導く通気路を確実に確保することができる。
【0044】
上記説明では、胴型130が六角柱状(正六角形の断面形状)の形状を有し、複数の胴型130が同心上に互いに密接して配される場合について説明したが、胴型130は、例えば図6および図7に示すように他の形状を有してもよい。なお、図6および図7に示す胴型の形状は、あくまでも例示であり、胴型は、他の正多角形の形状を有してもよい。図6および図7は、図1に示した構造と異なる構造の成形型200、300における連通路の構成を示す説明図である。以下では、図6および図7に示す成形型200、300について説明するが、図1に示した成形型100と重複する説明は省略する。
【0045】
図6に示す成形型200は、三角柱状の形状(正三角形の断面形状)を有する複数の胴型230により構成されている。図6に示す胴型230は、貫通孔232、連通路を構成する孔部236および溝部238を含んで構成され、同心上に互いに密接して配された複数の胴型230により連通路が構成されている。連通路は、内側の円周上に配された6個の胴型230内の成形空間250を外側の円周上に配された18個の胴型230の外部(成形型200の外部)に連通するように形成されている。
【0046】
図7に示す成形型300は、四角柱状の形状(正方形の断面形状)を有する複数の胴型330により構成されている。図7に示す胴型330も、貫通孔332、連通路を構成する孔部336および溝部338を含んで構成され、同心上に互いに密接して配された複数の胴型330により連通路が構成されている。連通路は、内側の円周上に配された4個の胴型330内の成形空間350を外側の円周上に配された12個の胴型330の外部(成形型300の外部)に連通するように形成されている。
【0047】
(変形例)
図8は、第1の実施形態の変形例に係る成形型200’を示す説明図である。図8には、図5〜図7の場合と同様に、複数の胴型230、230’により構成される連通路が示されている。上記実施形態に係る成形型200では、同一の形状を有する複数の胴型230が互いに密接して配されている。一方、本変形例に係る成形型200’は、異なる形状を有する複数の胴型230、230’が互いに密接して配されている。
【0048】
例えば図8に示す成形型200’では、図6に示した成形型200を構成する複数の胴型230のうち内側に配された6つの胴型230が六角柱状(正六角形の断面形状)を有する胴型230’として一体化され、その周囲に三角形状(正三角形の断面形状)を有する18の胴型230が密接して配されている。なお、成形型200’は、一体化された胴型230’を複数含むように構成されてもよい。六角柱状の胴型230’には、6つの貫通孔232が六角形状に配されて設けられ、各貫通孔232の孔面からは、各貫通孔232を胴型230’の外周に設けられた溝部238に連通する6つの孔部236が設けられている。六角柱状の胴型230’の溝部238は、密接して配された三角柱状の各胴型230の溝部238と連通するように設けられている。これにより、成形型200’を構成する複数の胴型230、230’に設けられた貫通孔232同士が連通路(孔部236、溝部238)を通じて連通される。
【0049】
かかる構成によれば、一体化された胴型230’と一体化されていない胴型230を組合せ、または一体化された胴型230’同士を組合せることでも、多数個取りの個数を容易に変更することができ、成形型200’内の気体を外部に導く通気路を確実に確保することができる。
【0050】
(第2の実施形態に係る成形型400)
図9は、本発明の第2の実施形態に係る成形型400の要部を示す分解斜視図である。以下では、第2の実施形態に係る成形型400について説明するが、第1の実施形態に係る成形型100と重複する説明は省略する。
【0051】
図9に示す成形型400は、複数組の上型410および下型420、複数の胴型430を含んで構成される。上型410および下型420は、本体部412、422、フランジ部414、424、および成形面416、426からなり、胴型430は、六角柱状の形状(正六角形の断面形状)を有し、貫通孔432、フランジ受部434、435(不図示)、ならびに連通路を構成する孔部436および溝部438を有する。また、胴型430内には、上型410および下型420の成形面416、426、および貫通孔432の孔面により成形空間450が形成される。ここで、第2の実施形態に係る成形型400は、胴型430の側面に設けられた位置決め係合部460に特徴を有する。
【0052】
図9に示すように、胴型430の側面には、互いに係合するV字状の凸部または凹部からなる位置決め係合部460が設けられている。位置決め係合部460は、溝部436と干渉しないように胴型430の側面の上部および下部に設けられている。位置決め係合部460は、同心上に互いに密接して配された複数の胴型430において、隣接する胴型430間で位置決めを行い、胴型430間で生じる配置上のズレを規制する。なお、位置決め係合部460は、胴型430の6つの側面に設けられる代わりに、特定の側面に設けられてもよい。また、位置決め係合部460は、V字状の凹凸部として設けられる代わりに、他の形状で設けられてもよい。
【0053】
以上説明したように、第2の実施形態に係る成形型400によれば、隣接する胴型430間で生じる配置上のズレが位置決め係合部460により規制されるので、上下型410、420間の軸ずれが生じ難くなり、隣接する胴型430間で対面する溝部438のズレが生じ難くなる。
【0054】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る成形型を示す模式図である。
【図2】図1に示した成形型を示す斜視図である。
【図3】図1に示した成形型の要部を示す分解斜視図である。
【図4】図1に示した成形型を構成する胴型の構造を示す説明図である。
【図5】図4に示した構造を有する複数の胴型により構成される連通路を示す説明図である。
【図6】図1に示した構造と異なる構造の成形型における連通路の構成を示す説明図である。
【図7】図1に示した構造と異なる構造の成形型における連通路の構成を示す説明図である。
【図8】第1の実施形態の変形例に係る成形型を示す説明図である。
【図9】本発明の第2の実施形態に係る成形型の要部を示す分解斜視図である。
【図10】従来技術に係る成形型を含むプレス成形装置を示す模式図である。
【図11】図10に示した成形型を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0056】
100、200、200’、300、400 成形型
110、210、310、410 上型
120、220、320、420 下型
130、230、230’、330、430 胴型
132、232、332、432 貫通孔
136、236、336、436 孔部
138、238、338、438 溝部
140 保持台
150、250、350、450 成形空間
460 位置決め係合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数組の上型および下型と、
前記各組の上型および下型が摺動可能な状態で挿入される貫通孔を有し、互いに密接して配される複数の胴型と、
前記各胴型の貫通孔に挿入された前記各組の上型および下型により前記各胴型の貫通孔内に形成される成形空間を、互いに密接して配された前記複数の胴型の外部に連通するように前記各胴型に設けられた連通路と、
を備える光学素子用成形型。
【請求項2】
前記連通路は、前記成形空間を前記各胴型の側面に連通する孔部、および前記孔部に連通して前記各胴型の側面に設けられた溝部を有し、
前記胴型の溝部は、互いに密接して配された他の前記胴型の溝部と連通するように設けられる、請求項1に記載の光学素子用成形型。
【請求項3】
前記各胴型は、正多角柱状の形状を有する、請求項1または2に記載の光学素子用成形型。
【請求項4】
前記複数の胴型は、同一の形状を有する、請求項1から3のいずれかに記載の光学素子用成形型。
【請求項5】
前記各胴型は、側面に設けられた位置決め係合部を有し、
前記胴型の位置決め係合部は、互いに密接して配された他の胴型の位置決め係合部と係合するように設けられる、請求項1から4のいずれかに記載の光学素子用成形型。
【請求項6】
前記複数の胴型は、同心上に互いに密接して配される、請求項1から5のいずれかに記載の光学素子用成形型。
【請求項7】
互いに密接して配された前記複数の胴型の輪郭形状を保持する保持部をさらに備える、請求項1から6のいずれかに記載の光学素子用成形型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−18463(P2010−18463A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−179370(P2008−179370)
【出願日】平成20年7月9日(2008.7.9)
【出願人】(000005430)フジノン株式会社 (2,231)
【Fターム(参考)】