説明

光学補償フィルム及びその製造方法

【課題】光軸を制御して、光学補償性能を高くすることができる光学補償フィルムを提供する。
【解決手段】光学補償フィルム1は、基材フィルム2と、基材フィルム2の少なくとも一方の表面に積層された光学異方層3とを備える。基材フィルム2の光学異方層3が積層された表面2aに、幅が5μm以下かつ深さが5μm以下である複数の溝が設けられている。光学異方層3は、粘度が500mPa・s以下である樹脂溶液を塗工することにより形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学補償性能を有する光学補償フィルムであって、例えば、液晶表示装置等に用いられ、液晶表示装置の表示画像を高品位にすることが可能な光学補償フィルム、並びに該光学補償フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置(Liquid Crystal Display:LCD)は、液晶分子が封入されており、かつ電極が組み込まれている液晶セルに、光学フィルム及び偏光板が貼り合わされて構成される。液晶表示装置の動作方式として、TN(Twisted Nematic)モード、STN(Super Twisted Nematic)モード、VA(Vertical Alignment)モード、IPS(In−Plane Switching)モード、OCB(Optically Compensated Bend)モード等があり、液晶分子の配向形態によって主に定義される様々な方式が提案されている。これらはいずれも、液晶分子の電気光学特性を利用して、画像を表示させる。
【0003】
上記液晶表示装置では、偏光板を介して見るディスプレイの画像品位を高める目的で、多様な機能を有する光学フィルムが用いられる。光学フィルムは、透明性及び光学補償性をはじめとして、用途に応じて種々の光学特性を有する必要がある。中でも、液晶が本来有する複屈折性に起因する光学的な歪み、及び視覚方向により表示が着色するなどの視野角依存性を解消するために、上記光学フィルムとして、光学異方性を応用した光学補償フィルムが広く用いられている。
【0004】
様々な液晶表示装置において、上記光学補償フィルムは、例えば、波長変換素子又は視野角改善素子として用いられている。通常、位相差板は偏光板と積層された状態で用いられている。
【0005】
上記光学補償フィルムに光学異方性等を発現させるために、加熱延伸法により、フィルムを延伸して、樹脂分子の配向を制御する方法が知られている。しかしながら、加熱延伸法では、フィルムの全幅にわたって均一に、フィルムを延伸することができない。また、加熱延伸法では、近年需要が多い大型の液晶表示装置に用いられる大型の光学補償フィルムを製造することは困難である。
【0006】
また、上記加熱延伸法により製造される光学補償フィルムの光軸は、一般に、フィルムの長手方向となるか、又は長手方向と直交する方向となる。ところが、偏光板と位相差板とを貼り合わせる場合には、多くの場合、偏光板の光軸と位相差板の光軸とが直交ではなく、平行でもない所定の角度をなすように貼り合わされている。従って、予め製品のサイズよりも少し大きいサイズの偏光板と位相差板とを裁断して用意し、偏光板と位相差板との光軸同士が所定の角度で交差するように、偏光板と位相差板とを貼り合わせた後、所定の寸法になるように偏光板と位相差板との端部が切断されている。この方法では、少し大きい偏光板を得るための裁断工程、少し大きい位相差板を得るための裁断工程、及び偏光板と位相差板とを貼り合わせる工程を個別に行う必要がある。このため、作業工程が煩雑であり、生産性が低く、また裁断により除去されて廃棄される部分も存在するので、コストが高くなる。
【0007】
このような問題を解決するために、フィルムの長手方向ではなく、長手方向に直交する方向でもない方向に、樹脂分子を配向させる方法が種々提案されている。例えば、下記の特許文献1には、フィルムを斜め方向に延伸することにより、樹脂分子を斜め方向に配向させた光学補償フィルムが開示されている。
【0008】
加熱延伸方法とは異なる方法として、屈折率異方性を有し、特定の光学補償性能を発現する樹脂又は化合物を有機溶媒に溶解させた塗液を用いて、樹脂フィルム又はガラス基板上に光学異方層を形成する方法も提案されている。例えば、下記の特許文献2には、基板上に、ホメオトロピック配向性側鎖型液晶ポリマーを塗工し、次いで上記ポリマーを液晶状態においてホメオトロピック配向させ、その配向状態を維持した状態で固定化させることにより得られた光学補償フィルムが開示されている。また、下記の特許文献3には、液晶性化合物を有機溶媒に溶解させた液晶材料を用いて形成されたフィルム層が、プラスチックフィルムなどの支持体上に形成されている光学補償フィルムが開示されている。
【0009】
このような、塗工による樹脂積層型の光学補償フィルムに関しても、延伸フィルムと同様に、偏光板と位相差板とを貼り合わせる工程を考慮すると、光軸を制御することは重要である。下記の特許文献4には、液晶分子の配向状態を制御するために、液晶状態ではネマチック相を有し、かつガラス転移以下の温度ではガラス状態となる液晶分子を含む溶液と、配向規制力がある基板とを用いて、基板の配向規制力によって第1の方向に液晶分子を配向させ、かつ磁場を印加することにより第1の方向に対して45〜90°の角度をなす第2の方向に液晶分子を配向させた光学補償フィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2001−281452号公報
【特許文献2】特開2003−149441号公報
【特許文献3】特開2007−152173号公報
【特許文献4】特開2007−55193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1に記載のような加熱延伸方法により得られた光学補償フィルムでは、分子配向軸すなわち光軸を、フィルムの長手方向に対して斜め方向に傾斜させることは可能であったとしても、光学品質が均一なフィルムを得ることは困難である。また、フィルム面内の所望の傾斜角度方向だけでなくフィルムの幅方向及び厚み方向などの他方向にも、フィルムに変形応力が作用するため、光学異方性を高精度に制御できず、所望の光学性能を有する光学補償フィルムを得ることは困難である。
【0012】
特許文献2〜3のような塗工方法を利用した手法では、一般に、長手方向又は長手方向に直交する方向に樹脂分子の配向が制御され、分子配向が任意の方向に制御された光学補償フィルムを得ることは困難である。また、特許文献4に記載の光学補償フィルムでも、樹脂分子を任意の方向に配向制御するには、再現性が不十分であり、光学補償フィルムの光学補償性能が必ずしも安定しない。
【0013】
本発明の目的は、フィルム面内の任意の方向に光軸を制御して、光学補償性能を高くすることができる光学補償フィルム、並びに該光学補償フィルムの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の広い局面によれば、基材フィルムと、上記基材フィルムの少なくとも一方の表面に積層された光学異方層とを備え、上記基材フィルムの上記光学異方層が積層された表面に、幅が5μm以下かつ深さが5μm以下である複数の溝が設けられており、上記光学異方層が、粘度が500mPa・s以下である樹脂溶液を塗工することにより形成されている、光学補償フィルムが提供される。
【0015】
本発明に係る光学補償フィルムのある特定の局面では、光学補償フィルムは長手方向と短手方向とを有し、光軸は、長手方向に対して傾斜している。
【0016】
本発明に係る光学補償フィルムの他の特定の局面では、上記樹脂溶液は、リオトロピック液晶性を有する樹脂を含む。
【0017】
本発明に係る光学補償フィルムの別の特定の局面では、上記溝は、粒子である研磨材で基材フィルムの表面を研磨することにより形成されており、上記粒子である研磨材は、金属粒子、金属の酸化物粒子、金属の炭化物粒子及び炭素粒子からなる群から選択された少なくとも1種である。
【0018】
本発明に係る光学補償フィルムの製造方法は、上記基材フィルムの光学フィルムが積層される少なくとも一方の表面に幅が5μm以下かつ深さが5μm以下である溝を形成する工程と、上記基材フィルムの上記溝が形成された表面に、粘度が500mPa・s以下である樹脂溶液を塗工して、光学異方層を形成する工程とを備える。
【0019】
本発明に係る光学補償フィルムの製造方法のある特定の局面は、粒子である研磨材で基材フィルムの表面を研磨することにより上記溝を形成し、上記粒子である研磨材として、金属粒子、金属の酸化物粒子、金属の炭化物粒子及び炭素粒子からなる群から選択された少なくとも1種が用いられる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る光学補償フィルムは、基材フィルムの上記光学異方層が積層された表面に、幅が5μm以下かつ深さが5μm以下である複数の溝が設けられており、上記光学異方層が、粘度が500mPa・s以下である樹脂溶液を塗工することにより形成されているので、溝ののびる方向を制御することにより、微細な該溝に沿ってフィルム面内の任意の方向に光軸を制御でき、光学補償性能を高くすることができる。
【0021】
本発明に係る光学補償フィルムの製造方法では、上記基材フィルムの光学異方層が積層される少なくとも一方の表面に幅が5μm以下かつ深さが5μm以下である溝を形成した後、上記基材フィルムの上記溝が形成された表面に、粘度が500mPa・s以下である樹脂溶液を塗工して、光学異方層を形成するので、溝ののびる方向を制御することにより、微細な該溝に沿ってフィルム面内の任意の方向に光軸を制御でき、光学補償性能が高い光学補償フィルムを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る光学補償フィルムを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態及び実施例を説明することにより本発明を明らかにする。
【0024】
図1に、本発明の一実施形態に係る光学補償フィルムを断面図で示す。
【0025】
図1に示す光学補償フィルム1は、基材フィルム2と、基材フィルム2の第1の表面2aに積層された光学異方層3とを備える。基材フィルム2の第1の表面2aとは反対側の第2の表面2bには、光学異方層3は積層されていない。基材フィルム2の少なくとも片面に光学異方層が積層されていればよく、第2の表面2bにも光学異方層3が積層されていてもよい。光学補償フィルム1は、基材フィルム2と光学異方層3とが積層された光学補償積層フィルムである。
【0026】
本実施形態では、基材フィルム2の光学異方層3が積層された第1の表面2aに、幅が5μm以下かつ深さが5μm以下である複数の溝が設けられている。溝が微細であるため、図1では、溝の図示は省略されている。光学異方層3は、基材フィルム2の第1の表面2aに、樹脂溶液を塗工することにより形成されている。具体的には、例えば、基材フィルム2の第1の表面2aに、樹脂溶液を塗工した後、溶媒を除去するために乾燥して、光学異方層3が形成されている。
【0027】
本発明の主な特徴は、基材フィルムの光学異方層が積層された表面に、幅が5μm以下かつ深さが5μm以下である複数の微細な溝が設けられており、基材フィルムの該溝が設けられた表面上に、上記光学異方層が、粘度が500mPa・s以下である樹脂溶液を塗工することにより形成されていることである。これによって、微細な溝に沿ってフィルム面内の任意の方向に光軸を制御して、光学補償性能を高くすることができる。本発明に係る光学補償フィルムの使用により、液晶表示装置の表示画像を高品位にすることができる。
【0028】
さらに、本発明者は、上記基材フィルムの表面に設けられた溝が、粒子である研磨材、特に金属粒子、金属の酸化物粒子、金属の炭化物粒子及び炭素粒子からなる群から選択された少なくとも1種の研磨材で研磨することにより形成されている場合には、樹脂分子の配向を任意の方向により一層緻密に制御して、光軸をより一層均一にすることができることを見出した。
【0029】
(樹脂溶液)
上記樹脂溶液は、リオトロピック液晶性を有する樹脂を含む溶液であることが好ましい。上記樹脂溶液として、リオトロピック液晶性を有する樹脂を、溶媒に溶解して得られる樹脂溶液が好適に用いられる。上記樹脂溶液に含まれる樹脂は、主鎖にリオトロピック液晶性を示す構造を有する高分子(主鎖型高分子液晶化合物)、又は側鎖に液晶性を示す構造を有する高分子(側鎖型高分子液晶化合物)であることが好ましい。上記樹脂及び樹脂溶液はそれぞれ、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。リオトロピック液晶性を有する樹脂の使用により、基材フィルムの表面に設けられた微細な溝の配向規制力に対して、リオトロピック液晶分子は効果的に応答し、基材フィルムの表面に任意の方向に設けられた溝に沿って、分子を配向させることができる。
【0030】
上記主鎖型高分子液晶化合物としては、例えば、ポリアミド系、ポリエステル系、ポリカーボネート系、ポリイミド系、ポリウレタン系、ポリベンズイミダゾール系、ポリベンズオキサゾール系、ポリベンズチアゾール系、ポリアゾメチン系、ポリエステルアミド系、ポリエステルカーボネート系及びポリエステルイミド系等の高分子液晶化合物、並びにこれらの混合物等が挙げられる。
【0031】
上記側鎖型高分子液晶化合物としては、例えば、ポリアクリレート系、ポリメタクリレート系、ポリビニル系、ポリシロキサン系、ポリエーテル系、ポリマロネート系及びポリエステル系等の直鎖状又は環状構造の骨格に、側鎖としてメソゲン基が結合した高分子液晶化合物、並びにこれらの混合物等が挙げられる。
【0032】
液晶発現温度が80℃未満であると、液晶ディスプレイなどに適用されると、液晶ディスプレイの使用環境によって、液晶性高分子の配向状態を維持することができず、光学補償性能が失われることがある。液晶発現温度が高すぎると、基板フィルムの材質によっては変形又は変質が起こり、光学補償フィルムの価値を著しく低下することがある。従って、上記樹脂溶液に含まれる樹脂は、芳香族ポリアミドであることが特に好ましい。芳香族環基を有するポリアミド樹脂は、高い光学異方性を発揮する樹脂であり、正面レターデーションをはじめとして、優れた光学補償性能を有する。また汎用樹脂と比較して、融点及びガラス転移温度が高く、耐熱性に優れているという大きな特徴を有する。上記芳香族ポリアミド樹脂は、芳香環及びアミド結合を有するので、剛直性、強靭性及び耐薬品性に優れており、かつ高い接着性を発現する。これらの樹脂特性は、光学補償フィルムにおいて特に有利に作用する。上記芳香族ポリアミド樹脂を用いた光学補償フィルムを液晶表示装置に組み込むと、安定した光学補償性能を発揮し、表示画像を高品位に維持できる。特にパネル内でのバックライト光などにより高温下に暴露されても、レターデーション値が変化し難くなる。また、光学異方層が剛直かつ強靭になるために、基材フィルムから光学異方層が剥離し難くなり、かつ光学異方層に欠けが生じ難くなる。このため、光学補償フィルムの価値を高めることができる。
【0033】
上記樹脂溶液に含まれる溶媒は特に限定されない。溶媒として水を用いた場合には、有機溶剤を用いた場合と比較して、コストが安くなり、労働衛生面及び作業面も良好になる。また樹脂溶液の調合が容易になり、特に衛生面及びメンテナンスの面が特に向上することで、光学補償フィルムの生産性が著しく高くなる。さらに、主溶媒として有機溶剤ではなく水を用いることにより、樹脂溶液を塗工した後に水を揮発させた塗膜において、有機溶剤の残留量を低減でき、得られる光学補償フィルムの商品価値を高くすることができる。ただし、樹脂の溶解性又は分散性を向上させ、また基材フィルムへの濡れ性を良くするために、上記樹脂溶液は、有機溶剤を含んでいてもよい。
【0034】
上記樹脂溶液の塗工時の粘度(塗工粘度)は、樹脂溶液の流動性を確保するために重要である。また、上記樹脂溶液の塗工粘度は、基材フィルムの表面に任意の方向に設けられた微細な溝による配向規制力に樹脂分子が効果的に応答し、微細な溝に沿って分子配向する上で重要である。従って、樹脂溶液の塗工粘度は、上記光学補償フィルムの光軸の制御に対して非常に重要である。光軸を効果的に制御するために、上記樹脂溶液の塗工粘度は、500mPa・s以下である。また、上記樹脂溶液の20℃での粘度は、500mPa・s以下であることが好ましい。上記樹脂溶液の塗工粘度は、好ましくは2mPa・s以上、好ましくは100mPa・s以下である。また、上記樹脂溶液の20℃での粘度は、好ましくは2mPa・s以上、好ましくは100mPa・s以下である。上記樹脂溶液の塗工時の粘度が2mPa・s以上及び100mPa・s以下であると、基材フィルム上に塗工された後の樹脂溶液の流動性が高くなり、基材フィルムに対する上記樹脂溶液の濡れ性がより一層高くなる。このため、基材フィルムの表面に設けられた微細な溝による樹脂の分子配向の制御が容易となる。上記樹脂溶液の粘度が高すぎると、樹脂分子の流動性が不足する。さらに、上記樹脂溶液の粘度が高すぎると、リオトロピック液晶のような、塗工時の剪断応力に応答して分子配向する樹脂では、基材フィルムの配向規制力よりも、塗工剪断力による配向規制が優位となることで、光軸制御が困難となり、光学補償性能を損なうことになる。
【0035】
上記樹脂溶液の固形分濃度は、樹脂溶液の粘度に影響する。樹脂溶液の固形分濃度が高いと樹脂溶液の粘度が高くなり、樹脂溶液の固形分濃度が低いと樹脂溶液の粘度が低くなる。従って、上記樹脂溶液の固形分濃度は重要である。上記樹脂溶液の固形分濃度は、1〜20重量%であることが好ましい。上記樹脂溶液の固形分濃度は、より好ましくは3重量%以上、より好ましくは10重量%以下である。上記固形分濃度が上記下限以上及び上記上限以下であると、上記樹脂溶液の粘度がより一層適度になり、より一層望ましい光学異方性を有する光学補償フィルムを得ることができる。
【0036】
上記樹脂溶液の塗工時の温度(塗工温度)は、上記樹脂溶液の粘度に影響を与えることから、上記樹脂溶液の固形分濃度と共に重要である。上記樹脂溶液は、粘度が500mPa・s以下である状態で塗工される。上記樹脂溶液の粘度が500mPa・s以下であるように、上記樹脂溶液の塗工温度は適宜調整される。上記樹脂溶液の温度が高いと、樹脂溶液の粘度は低下し、基材フィルム上に塗工された樹脂溶液の流動性が高くなり、基材フィルムの溝による配向規制力の効果は高くなる。上記樹脂溶液の塗工温度は、樹脂溶液の塗工時の粘度を調整し、かつ基材フィルムへの樹脂溶液の塗工性を損なわない範囲であれば特に限定されない。上記樹脂溶液の塗工温度は、上記樹脂溶液に使用する溶媒の沸点より低く、塗工時の作業環境温度よりも高いことが好ましい。上記樹脂溶液の塗工温度は、15〜95℃であることが好ましい。上記樹脂溶液の塗工温度は、より好ましくは20℃以上、より好ましくは80℃以下である。上記樹脂溶液の溶媒が水である場合には、特に、上記樹脂溶液の塗工温度は上記範囲内であることが好ましい。
【0037】
上記樹脂溶液の粘度は、添加剤の使用により調整することも可能である。具体的には、分子構造内に親水性官能基と疎水性官能基とを共に有する界面活性剤を添加剤として用いることにより、上記樹脂溶液の粘度を低くすることができる。また界面活性剤の使用により、上記樹脂溶液の濡れ性を高めることもできる。上記界面活性剤として、アニオン性、カチオン性、両イオン性及び非イオン性など各種の界面活性剤を使用できる。発泡による塗工不良発生などの問題が比較的生じ難いことから、非イオン性界面活性剤が好ましい。樹脂溶液中の界面活性剤の含有量は、本発明の効果を低下させない範囲で適宣調整される。上記樹脂溶液100重量%中、界面活性剤の含有量は0.01〜0.1重量%であることが好ましい。
【0038】
上記樹脂溶液には、本発明の効果を低下させない範囲で、帯電防止剤、酸化防止剤、無機滑剤、有機滑剤、乳化剤、pH調整剤、紫外線吸収剤、消泡剤、顔染料及び結晶核剤などの各種の添加剤が配合されていてもよい。
【0039】
(基材フィルム)
上記基材フィルムは、光学的に透明であり、残留位相差が少ないことが好ましい。上記基材フィルムの材質としては、例えば、アクリル、ポリエステル、ポリプロピレン、トリアセチルセルロース、シクロオレフィン、ポリカーボネート、ポリサルホン、ポリアリレート及びガラス等が挙げられる。
【0040】
上記基材フィルムの平均厚みは特に限定されない。所定の光学補償性能が損なわれないように、かつ一定の機械的強度を有するように、更に液晶表示装置へ積層される際に重視される部材の軽量化等を考慮して、上記基材フィルムの厚みは適宜設定される。上記基材フィルムの平均厚みは、20〜200μmであることが好ましい。上記基材フィルムの平均厚みは、より好ましくは40μm以上、より好ましくは100μm以下である。
【0041】
上記基材フィルムの表面には、微細な溝が設けられている。基材フィルムの上記溝が設けられた表面上に配置された樹脂分子に対して、上記溝は配向規制力を発揮し、分子配向起点となる。従って、微細な溝を任意の方向に賦形することで、上記光学異方層の分子配向を、任意の方向に制御できる。上記溝ののびる方向を制御することにより、フィルムの長手方向又は長手方向と直交する方向に限定されることなく、長手方向から傾斜した方向を含めて、上記光学異方層の分子配向を制御できる。このため、上記光学補償フィルムに多様な光軸を付与することができる。
【0042】
上記溝が一定の配向規制効果を発揮するためには、上記溝の幅及び深さは重要である。また、上記溝の幅及び深さによっては、上記光学補償フィルムの透明性が、主に基材フィルムと光学異方層との界面の光散乱により損なわれる。このため、本発明の目的を阻害しない範囲で、溝の幅及び深さは小さい方が好ましい。上記溝の幅及び深さは、5.0μm以下であり、1.0μm以下であることがより好ましい。
【0043】
上記基材フィルムの表面に設けられた溝は、粒子である研磨材で研磨することにより形成されていることが好ましい。基材フィルムの表面を粒子である研磨材で研磨することにより、上記基材フィルムの表面に溝を形成することが好ましい。上記粒子である研磨材は、金属粒子、金属の酸化物粒子、金属の炭化物粒子及び炭素粒子からなる群から選択された少なくとも1種であることが好ましい。上記研磨材としては、具体的には、酸化アルミニウム粒子、酸化クロム粒子、炭化ケイ素粒子及びダイヤモンド粒子等が挙げられる。
【0044】
上記研磨には、研磨材を表面に有するテープ(以下、研磨テープともいう)を用いることが好ましい。例えば、基材上に上記研磨材をバインダー樹脂に分散させたスラリーを塗布することにより、基材上に研磨層が担持された研磨テープが得られる。上記研磨テープの製造方法は、例えば特開平07−100769号公報に具体的に記載されている。なお、上記研磨テープは、利用形態に応じて、スリット加工等により寸法を調整して使用してもよい。
【0045】
上記研磨テープに用いられる上記基材の材質としては、ポリエステル、ナイロン、ポリオレフィン及びアクリル等が挙げられる。上記基材として、発泡成形体、織布、不織布及びこれらの複合体を用いてもよい。
【0046】
上記粒子である研磨材の平均粒子径は、0.2〜3μmであることが好ましい。上記研磨材の平均粒子径は、より好ましくは0.5μm以上、より好ましくは2μm以下である。上記粒子径は、研磨材が真球状である場合には直径を示し、真球状以外の形状である場合には最大径を示す。上記研磨材の平均粒子径が上記下限以上であると、基材フィルムの表面を研磨する際、接触摩擦が大きくなりすぎず、研磨時に基材フィルムの搬送に支障が生じ難い。上記研磨材の平均粒子径が上記上限以下であると、溝の幅及び深さが大きくなりすぎず、光学補償フィルムの透明性をより一層高めることができる。
【0047】
一般に、基材フィルム上に液晶材料を塗工し、液晶分子を配向させるためには、通常、配向膜を有する基材フィルムが用いられる。この配向膜を有する基材フィルムを用いて、配向膜によって液晶分子を特定の方向に配列させることで、配向方向によって決定される光軸が制御されている。しかし、この場合には、配向膜を形成する必要があり、経済的ではない。
【0048】
さらに、配向膜を形成する際には、ポリイミド又はポリビニルアルコールよりなる下塗り層を基材フィルムの表面に形成し、その下塗り層に繊維束を放射状に取り付けたバフ処理ロールを基材の表面に接触させて研磨する方法が行われている。この研磨する方法は、バフ処理とも呼ばれている。これによって、基材フィルムの長手方向、即ち搬送方向に沿って微細な溝を賦形する。この溝は、液晶分子の配向起点になる。なお、基材フィルムの表面を直接バフ処理することもある。しかしながら、このようなバフ処理を施すと、処理後の基材フィルムの表面に、バフ処理繊維束の欠損に由来する繊維砕片が残存することが多い。繊維砕片は光学補償フィルムにおいて異物となり、得られる光学補償フィルムに光学的欠点が生じる原因となる。このため、バフ処理を施すと、光学補償フィルムの製品価値が低下する。また、上記光学的欠点を無くすために、水洗などの基材フィルムの表面を洗浄する工程を別途設ける必要があり、生産性が低下する。さらに、上記繊維束はロール形状であることから、基材フィルムの搬送方向に実質的に平行方向にのみ溝が賦形され、基材フィルムの長手方向に対して傾斜した方向、又は長手方向及び短手方向から傾斜した方向に溝が延びるように、連続的に溝を形成することは不可能である。従って、基材フィルムは、上記繊維束を取り付けたバフ処理ロールにより、研磨処理されないことが好ましい。
【0049】
これに対して、上記研磨テープで基材フィルムの表面を研磨する場合、基材フィルムの表面に接触する研磨テープ部分は実質的に球面であり、かつ均一である。このため、上記研磨テープを用いて研磨を行うと、非常に均一で微細な溝を形成できる。従って、配向膜を有さない基材フィルムを用いても、更にラビング処理されていない基材フィルムを用いても、得られる光学補償フィルムの光学補償性能を高めることができる。さらに、樹脂フィルムと発泡成形体、樹脂フィルムと織布、又は樹脂フィルムと不織布とを組み合わせた複合担持基材を使用することで、発泡構造又は微細な繊維束構造がポケットとなって、上記基材フィルムの表面を研磨した際に発生する樹脂片等の研磨屑が取り込まれる。このため、上記ラビング処理では得られない光学欠点の発生防止性能が充分に得られ、光学補償フィルムとしての商品価値を更に高めることができる。
【0050】
上記基材フィルムの表面に設けられた複数の溝は、一定方向に配列されていることが好ましく、一定方向に平行に配列されていることが好ましい。複数の溝は互いに略平行に配置されていることが好ましい。光学補償フィルムは長手方向(長さ方向)と短手方向(幅方向)とを有し、上記複数の溝は、フィルムの長手方向に対して平行であるか又は傾斜していることが好ましく、長手方向に対して傾斜していることが好ましく、長手方向と短手方向とに対して傾斜していることが好ましい。複数の各溝がのびる方向(溝の長手方向)は、フィルムの長手方向に対して平行であるか又は傾斜していることが好ましく、長手方向に対して傾斜していることが好ましく、長手方向と短手方向とに対して傾斜していることが好ましい。配向起点となる溝がフィルムの長手方向に対して傾斜していると、すなわちフィルムの長手方向に対して斜め方向に溝が賦形されていると、基材フィルムの表面上に塗工により形成される光学異方層の光軸を、フィルム長手方向に対して、傾斜させることができる。従って、本発明に係る光学補償フィルムを、例えば、位相差板の原反フィルムとして用いた場合、光学フィルムを偏光板の原反フィルムにフィルムの長手方向を一致させて積層した場合であっても、両者の光軸が交差するように配置された積層構造を容易に得ることができる。従って、例えば液晶表示装置の波長変換素子又は視野角改善素子を得る際に、工程数及びコストを低減でき、かつ波長変換素子又は視野角改善素子の光学特性を向上させることができる。
【0051】
上記基材フィルムの表面に、上記研磨材により複数の溝を形成する手法は特に限定されない。特に、基材フィルムの長手方向又は短手方向に対して傾斜した方向に、平行かつ一様に微細な溝を形成することは重要である。溝を形成する具体的な手法として、例えば、搬送される基材フィルムの搬送方向と直交する方向に上記研磨テープを、基材フィルム表面に一定の圧力を掛けながら線接触させることにより、上記基材フィルム表面に、フィルム搬送方向即ち長手方向に対して傾斜した溝を形成する方法が挙げられる。その際、基材フィルムと研磨テープとの接触部分において、基材フィルムは、ゴムなど一定の弾性を有する素材により形成された支持ロールで保持することが好ましい。上記研磨材テープで研磨する際に、接触摩擦によって基材フィルムの搬送状態が不安定になることを抑制するために、フィルム搬送に支障をきたすことのない程度に高い張力で、かつ出来るだけ大きなラップ角度で、基材フィルムをロールで保持することが好ましい。
【0052】
上記研磨テープは、例えば、上記基材フィルムの搬送方向に対し、直交方向に走行させながら、基材フィルムに接触される。これにより、基材フィルムの表面が研磨される。その際、研磨テープの搬送方法及び基材フィルムへの接触方法は重要である。研磨テープの搬送方法としては、例えばゴムなど一定の弾性を有する素材により形成されたエンドレスベルトを具備した、コンベアユニットのベルト表面で、上記研磨テープを支持搬送させる方法、並びに小径の支持ロールを平滑に複数配置したロールコンベアユニットで、上記研磨テープを支持搬送させる方法等が挙げられる。また、上記基材フィルムの表面に上記研磨テープを接触させる方法として、上記コンベア装置及びロールユニット全体に一定の圧力を掛けながら、研磨テープを搬送しながら、研磨テープの表面を基材フィルム表面へ接触させる方法、並びに研磨テープを上記搬送接触装置により支持することなく、基材フィルムの接触面に対して研磨テープ背面から、高圧空気で負荷することで、研磨テープを基材フィルムの表面に加圧接触させる方法などを例示できる。
【0053】
上記溝の形成方向は、上記基材フィルムの搬送速度と上記研磨テープの搬送速度の比によって決定される。即ち、基材フィルム搬送速度が研磨テープ搬送速度より速いと、研磨方向即ち溝の形成方向は、基材フィルム搬送方向に対して0〜45°の角度範囲に制御される。一方、研磨テープ搬送速度が基材フィルム搬送速度よりも速いと、溝の形成方向は、基材フィルム搬送方向に対して45〜90°の範囲に制御される。基材フィルムと研磨テープとの搬送速度が同一であれば、溝の形成方向は、基材フィルム搬送方向に対して45°となる。研磨による溝の形成方向は特に限定されず、補償対象となる偏光板及び液晶表示装置の光学特性に応じて、適宣選択できる。上記偏光板の貼り合わせ工程における作業効率及び製品収率に鑑みて、基材フィルムの長手方向又は短手方向に対して、溝の形成方向すなわち溝の長手方向は、40〜50°傾斜しているのが好ましい。従って、基材フィルムと研磨テープとの搬送速度比は、0.84〜1.20の範囲内であることが好ましい。
【0054】
上記基材フィルム及び研磨テープの搬送速度は、上記溝を形成する際の研磨テープとの接触負荷に影響を与えることから重要である。特に搬送速度が速すぎると、基材フィルムと研磨テープとの接触負荷が大きくなることで、基材フィルムの搬送に支障が生じることがある。従って、上記基材フィルム及び研磨テープの搬送速度はそれぞれ、50m/分以下であることが好ましい。
【0055】
上記研磨テープの基材フィルムへの接触負荷は、溝の形成密度、及び基材フィルムの搬送状態に影響を与えることから重要である。基材フィルムに対する研磨テープの接触は、上述の方法などで実施される。その際、研磨テープの接触圧力を調整することが好ましく、接触圧力は0.2〜0.8MPaであることが好ましい。接触圧力が0.2MPa以上であると、基材フィルムに対する研磨テープの接触が緩くなりすぎず、溝をより一層均一に形成できる。接触圧力が0.8MPa以下であると、基材フィルムと研磨テープとの間の動摩擦が大きくなりすぎず、基材フィルムの搬送に支障が生じ難い。
【0056】
上記光学補償フィルムの光学補償性能を更に強化する目的で、上記基材フィルムが表面に配向膜を有し、更に基材フィルムの配向膜の表面に溝を形成してもよい。上記配向膜は、配向膜となる樹脂を基材フィルムの表面に下塗りすることにより形成される。配向膜となる樹脂としては、ポリイミド及びポリビニルアルコール等が挙げられる。
【0057】
研磨処理前後において、上記基材フィルムは、コロナ処理、プラズマ処理、紫外線照射又は各種薬品処理等の表面活性処理が施されていてもよい。また塗工加工又は蒸着による各種の機能コーティング又はラミネート等を行うことにより、基材フィルムに諸性能を付加し、基材フィルムの利用価値を更に向上させることもできる。
【0058】
上記基材フィルムは、本発明の目的を阻害しない範囲で、必要に応じて、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、帯電防止剤、難燃助剤及び可塑剤等の従来公知の添加剤を含んでいてもよい。
【0059】
(光学異方層及び光学異方層の形成方法)
基材フィルム上に、上記樹脂溶液を塗工する方法は、特に限定されない。塗工方法として、光学的に透明で均質な膜を形成し得る各種の塗工方法が適宜用いられる。上記塗工方法としては、例えば、ダイコート法、バーコート法、ロールコート法、ナイフコート法、グラビアコート法、マイクログラビアコート法、オフセットグラビアコート法、リップコート法、浸漬法、スプレーコート法及びスピンコート法等が挙げられる。これらの塗工方法のうち1つの方法を用いてもよく、2つ以上の方法を用いてもよい。
【0060】
上記基材フィルム上に、上記樹脂溶液を塗工した後、塗膜中の水を乾燥して除去することにより、光学異方層を形成できる。乾燥温度は、上記基材フィルムのガラス転移温度以下であることが好ましい。乾燥温度は、樹脂溶液中の溶媒の沸点以下であることが好ましい。樹脂溶液中の溶媒が水である場合には、乾燥温度は、水の沸点以下であることが好ましい。塗工後の液晶樹脂分子の配向を崩さないように乾燥することが好ましい。乾燥温度は、10〜100℃であることが好ましい。乾燥温度は、より好ましくは20℃以上、より好ましくは60℃以下である。
【0061】
塗膜に熱風などの風をあてて乾燥する場合には、風圧は、未乾燥状態の塗膜が力学的負荷により乱されることがなく、かつ上記基材フィルム及び塗膜における熱的負荷が大きくなりすぎないように、適宜設定される。風圧は、0.1〜1.0MPaであることが好ましい。風圧は、好ましくは0.3MPa以上、好ましくは0.8MPa以下である。
【0062】
上記乾燥時間は5秒〜1時間であることが好ましい。上記乾燥温度は、より好ましくは10秒以上、更に好ましくは20秒以上、より好ましくは30分以下、更に好ましくは10分以下である。乾燥時間が短すぎると、溶媒の揮発が不十分となるので、塗膜は脆弱になる。乾燥時間が長すぎると、光学異方層を構成する液晶樹脂分子の配向が緩和され、光学補償性能が低下する傾向がある。
【0063】
上記光学異方層の厚みは特に限定されない。光学補償フィルムに対して要求される光学補償性能及び厚さに応じて決定される。上記光学異方層の平均厚みは、0.2〜10μmであることが好ましい。上記光学異方層の平均厚みは、より好ましくは0.5μm以上、より好ましくは5μm以下である。
【0064】
基材フィルム上に、上記樹脂溶液を塗工する方法は、特に限定されない。塗工方法として、光学的に透明で均質な膜を形成し得る各種の塗工方法が適宜用いられる。上記塗工方法としては、例えば、ダイコート法、バーコート法、ロールコート法、ナイフコート法、グラビアコート法、マイクログラビアコート法、オフセットグラビアコート法、リップコート法、浸漬法、スプレーコート法及びスピンコート法等が挙げられる。これらの塗工方法のうち1つの方法を用いてもよく、2つ以上の方法を用いてもよい。
【0065】
上記基材フィルムの表面上に、上記樹脂溶液を塗工する際の塗工速度は、1〜1000m/分であることが好ましい。上記塗工速度は、より好ましくは5m/分以上、より好ましくは30m/分以下である。リオトロピック液晶性を有する樹脂は、塗工剪断力によって分子配向することから、塗工速度が速すぎると、樹脂分子が塗工方向に優先して配向ようになり、基材フィルムの表面に設けられた溝による配向制御が困難となる。
【0066】
(光学補償フィルム)
本発明に係る光学補償フィルムは長手方向と短手方向とを有し、光軸は、長手方向に対して平行であるか又は傾斜していることが好ましく、長手方向に対して傾斜していることが好ましく、長手方向と短手方向とに対して傾斜していることが好ましい。上記光学補償フィルムの光軸は、補償対象となる偏光板および液晶表示装置の光学特性に応じて、適宣選択できる。上記偏光板貼り合わせ工程における作業効率及び製品収率に鑑みて、上記光学補償フィルムの光軸は、フィルム長手方向又は短手方向に対して40〜50°傾斜していることが好ましい。本発明に係る光学補償フィルムを、例えば、位相差板の原反フィルムとして用いた場合、光学フィルムを偏光板の原反フィルムにフィルムの長手方向を一致させて積層した場合であっても、両者の光軸が交差するように配置された積層構造を容易に得ることができる。従って、例えば液晶表示装置の波長変換素子又は視野角改善素子を得る際に、工程数及びコストを低減でき、かつ波長変換素子又は視野角改善素子の光学特性を向上させることができる。
【0067】
本発明に係る光学補償フィルムは、フィルムの光軸主方向に対する光軸ばらつき精度が0.5°以内であることが好ましい。本発明に係る光学補償フィルムを、例えば、位相差板の原反フィルムとして用いた場合、光学フィルムを偏光板の原反フィルムにフィルムの長手方向を一致させて積層した場合であっても、両者の光軸が交差するように配置された積層構造を容易に得ることができる。従って、例えば液晶表示装置の波長変換素子又は視野角改善素子を得る際に、光学特性を向上させることができる。なお、光軸のばらつき精度が0.5°を超えると、偏光板と貼り合わせて液晶表示装置に組み込んだ場合に、それぞれの光軸が所望の角度からずれることにより表示むらが生じるなどして、表示画質が低下し、光学補償フィルムとしての商品価値が低下する。
【0068】
本発明に係る光学補償フィルムは、下記式(1)で定義される正面レターデーションR0(nm)が、50〜500nmであることが好ましい。
【0069】
R0(nm)=|nx−ny|×d・・・式(1)
上記式(1)中、nxは光学補償フィルム面内の最大屈折率を表し、nyは光学補償フィルム面内のnx方向と直交する方向の屈折率を表し、dは光学補償フィルムの平均厚み(nm)を表す。
【0070】
正面レターデーションR0が50〜500nmであると、光学補償フィルムを液晶表示装置に組み込むと、表示画像を高品位にすることができる。正面レターデーションR0が50〜500nmの範囲を逸脱すると、液晶を通過する際の複屈折を補償しきれず、光学補償フィルムとしての商品価値が低下する。
【0071】
本発明に係る光学補償フィルムは、下記式(2)で定義されるNz係数が、0.0〜5.0であることが好ましい。
【0072】
Nz係数=(nx−nz)/(nx−ny) ・・・式(2)
上記式(2)中、nxは光学補償フィルム面内の最大屈折率を表し、nyは光学補償フィルム面内のnx方向と直交する方向の屈折率を表し、nzはnx方向及びny方向と直交する方向の屈折率を表す。
【0073】
Nz係数が0.0〜5.0であると、光学補償フィルムを液晶表示装置に組み込むと、液晶表示装置の視野角を広くし、コントラストを高めることができる。従って、液晶表示装置の表示画像を高品位にすることができる。
【0074】
上記光学補償フィルムのヘイズ値は、5%以下であることが好ましく、3%以下であることがより好ましく、2%以下であることが特に好ましい。ヘイズ値が低いほど、光学補償フィルムが偏光板保護フィルム等に用いられた場合に、光洩れ等が生じ難くなる。
【0075】
上記光学補償フィルムを各種処理液に浸漬して化学処理し、光学異方層の膜強度又は外観を、更に高めることも可能である。上記光学補償フィルムの表面は、コロナ処理、プラズマ処理、紫外線照射及び各種薬品処理等による表面活性処理が施されてもよい。光学補償フィルムの表面に、塗工加工又は蒸着による各種の機能コーティング又はラミネート等を行うことにより、光学補償フィルムに諸性能を付加し、光学補償フィルムの利用価値を更に向上させることもできる。
【0076】
以下に実施例を挙げて、本発明を更に詳しく説明する。本発明はこれら実施例に限定されない。
【0077】
(基材フィルムの作製例1)
ポリエチレンテレフタレート樹脂(融点:259℃、ガラス転移温度:69℃、ユニチカ社製、以下PETと記載することがある)を用意した。このポリエチレンテレフタレート樹脂を、280℃で一軸溶融押出成形装置に供給して、溶融混練し、押出装置先端に取付けたTダイからフィルム状に溶融押出しした。溶融押出しされたフィルムを、ピニングワイヤー方式により表面温度20℃及び速度20m/分の回転ドラムに密着させて急冷した。得られた樹脂シートを、JIS K6253に準拠して測定されたデュロメータ硬度が90Aである直径180mmのウレタンゴムロールに対して、ラップ角度180度で支持した。一方、酸化アルミニウム粒子である研磨材を担持した100mm幅の研磨テープ(研磨材の平均粒子径:1μm、日本ミクロコーティング社製)の巻物を連続して繰り出し、上記樹脂シートの走行方向に対して直交方向に搬送し、巻取用コアにロール状に巻取るようにテープ搬送ラインを配置した。更に、研磨テープ搬送ラインの途中で、硬度90Aのウレタンゴム製ベルトの搬送機構、及び高圧シリンダー機構を具備したコンベア装置のベルト表面に上記研磨テープを支持し、搬送速度20m/分で研磨テープを搬送しながら、ゴムロールに支持搬送された樹脂シート表面に、上記シリンダーによりコンベア装置ユニットを移動することで、研磨テープ表面を0.2MPaの負荷で加圧接触させ、樹脂シートの表面を研磨した。研磨終了後の樹脂シートの表面に、ブロッキング防止の挟合紙として、厚み25μmの二軸延伸PETフィルム(三菱化学ポリエステルフィルム社製)を貼合わせながらロール状に巻取り、幅650mm及び平均厚み100μmの基材フィルム(A)(無配向PETフィルム)を作製した。
【0078】
(基材フィルムの作製例2)
ポリエチレンテレフタレート樹脂を、ノルボルネン系樹脂(商品名「ゼオノア1600」、ガラス転移温度:168℃、日本ゼオン社製、以下COPと記載することがある)に変更したこと、押出成形温度を280℃から300℃に変更したこと以外は、作製例1と同様にして幅650mm及び平均厚み80μmの基材フィルム(B)(無配向COPフィルム)を作製した。
【0079】
(基材フィルムの作製例3)
研磨処理をしなかったこと以外は、作製例1と同様にして幅650mm及び平均厚み100μmの基材フィルム(C)(無配向PETフィルム)を作製した。
【0080】
(基材フィルムの作製例4)
作製例3で得られた基材フィルム(C)の表面を、ナイロン6製フェルトを用いてバフ処理した後、処理面をシャワー噴流水で洗浄し、表面の残存水分を圧搾空気で除去して、基材フィルム(D)(無配向PETフィルム)を作製した。
【0081】
(実施例1)
リオトロピック液晶性を有する芳香族ポリアミド樹脂(テレフタレート成分50モル%と、ジスルホニルベンジジン成分50モル%との重縮合物)をイオン交換水に加え、固形分濃度が5重量%である樹脂溶液を得た。
【0082】
基材フィルム(A)を、連続的に20m/分の一定速度でロール搬送により巻出しながら、2kW/mの出力でコロナ処理した。その後、吐出量150g/分に流量調整したスロットダイコーターを用いて、基材フィルムの表面上に、上記樹脂溶液を20℃で塗工し、塗膜を形成した。その後、塗膜が形成された基材フィルムを直ちに、加熱炉へ導入して、温度50℃及び風圧0.5Mpaの圧搾熱風で20秒間、塗膜の表面を乾燥処理した。室温まで冷却した後、巻取張力100N/mで巻取用コアにロール状に巻取り、光学補償フィルムを得た。
【0083】
(実施例2〜8)
基材フィルムの種類、粒子である研磨材の平均粒子径、研磨テープの搬送速度、樹脂溶液の固形分濃度及び樹脂溶液の粘度を、下記の表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして光学補償フィルムを得た。
【0084】
(比較例1)
樹脂溶液の固形分濃度を下記の表1に示すように変更し、更に樹脂溶液の吐出量を60g/分に変更したこと以外は、実施例1と同様にして光学補償フィルムを得た。
【0085】
(比較例2)
基材フィルム(A)を基材フィルム(C)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして光学補償フィルムを得た。
【0086】
(比較例3)
基材フィルム(A)を基材フィルム(D)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして光学補償フィルムを得た。
【0087】
(評価)
(1)溶液粘度
樹脂溶液の温度を、樹脂溶液の塗工温度である20℃に保温し、JIS K7117に準拠して、B型粘度計(東機産業社製、型番「BLII」)を用いて樹脂溶液の粘度を測定した。
【0088】
(2)基材フィルムの表面に形成された溝の幅及び深さ
基材フィルムの表面を、原子間力顕微鏡(キーエンス社製、型番「VN−8000」)を用いて観察した。得られた三次元拡大画像のフィルム断面から、基材フィルムに形成されている溝10点の幅を計測し、得られた数値を平均して、溝の幅とした。また中心線平均表面粗さRaを計測し、溝の深さとした。
【0089】
(3)光学補償フィルムの光軸
フィルム幅に対して、長手方向50mm、幅方向は全幅で帯状フィルム片を採取した。自動複屈折測定装置(大塚電子社製、型番「RETS」)を用いて、フィルム片を幅方向に25mm間隔に測定し、各位置の配向角度測定値の絶対値の平均値を光軸とした。なお、フィルム幅方向の光軸は、長手方向を基準とした。
【0090】
(4)光学補償フィルムの正面レターデーション値R0
自動複屈折測定装置(王子計測機器社製、型番「KOBRA−WR」)を用いて、測定光の波長を550nmとして、光学補償フィルムの長手方向に直交する軸を基準軸とし、光学補償フィルムを幅方向に50mm間隔で測定して、平均値を算出し、光学補償フィルムの正面レターデーション値R0とした。
【0091】
(5)光学補償フィルムの曇度
曇度計(東京電色社製、型番「TC−H3DPK」を用いて、光学補償フィルムを幅方向に50mm間隔で測定して、平均値を算出し、光学補償フィルムの曇度とした。
【0092】
(6)光学補償フィルムの外観
得られた光学補償フィルムをクロスニコルに配設した偏光板間に挟んで、目視により観察し、下記の基準により光学補償フィルムの外観を評価した。
【0093】
[光学補償フィルムの外観]
○:点状、線状及び面状のいずれの形状の色むら及び光抜けも認められず、均質な外観であった
×:点状、線状又は面状の色むら及び光抜け内の少なくとも一つが確認され、部分的に不均質な外観であった。
【0094】
結果を下記の表1に示す。
【0095】
【表1】

【符号の説明】
【0096】
1…光学補償フィルム
2…基材フィルム
2a…第1の表面
2b…第2の表面
3…光学異方層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムと、
前記基材フィルムの少なくとも一方の表面に積層された光学異方層とを備え、
前記基材フィルムの前記光学異方層が積層された表面に、幅が5μm以下かつ深さが5μm以下である複数の溝が設けられており、
前記光学異方層が、粘度が500mPa・s以下である樹脂溶液を塗工することにより形成されている、光学補償フィルム。
【請求項2】
長手方向と短手方向とを有し、
光軸が、長手方向に対して傾斜している、請求項1に記載の光学補償フィルム。
【請求項3】
前記樹脂溶液が、リオトロピック液晶性を有する樹脂を含む、請求項1又は2に記載の光学補償フィルム。
【請求項4】
前記溝が、粒子である研磨材で基材フィルムの表面を研磨することにより形成されており、
前記粒子である研磨材が、金属粒子、金属の酸化物粒子、金属の炭化物粒子及び炭素粒子からなる群から選択された少なくとも1種である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の光学補償フィルム。
【請求項5】
前記基材フィルムの少なくとも一方の表面に幅が5μm以下かつ深さが5μm以下である溝を形成する工程と、
前記基材フィルムの前記溝が形成された表面に、粘度が500mPa・s以下である樹脂溶液を塗工して、光学異方層を形成する工程とを備える、光学補償フィルムの製造方法。
【請求項6】
粒子である研磨材で基材フィルムの表面を研磨することにより前記溝を形成し、
前記粒子である研磨材として、金属粒子、金属の酸化物粒子、金属の炭化物粒子及び炭素粒子からなる群から選択された少なくとも1種を用いる、請求項5に記載の光学補償フィルムの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−248310(P2011−248310A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−124437(P2010−124437)
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】