説明

光学製品の製造方法

【課題】高温高湿の環境下に置かれても、透明性を維持できる、チオウレタン系プラスチック製の基材を有する光学製品の製造方法を提供すること。
【解決手段】チオウレタン系プラスチック製の基材を有する光学製品の製造方法であって、水を除く極性溶媒を基材に含浸させる工程と、極性溶媒を含浸させた基材を加熱処理する工程とを有する。この製造方法を用いて製造された光学製品は、高温高湿の環境下におかれても基材の透明性が低下しにくい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チオウレタン系プラスチック製の基材を有する眼鏡レンズ等の光学製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックレンズは、ガラスレンズに比べ軽量で割れにくく、染色が容易であるなど様々な長所があり、近年、眼鏡用あるいはカメラ用のレンズとして急速に普及してきている。当初、プラスチックレンズの基材には、屈折率が1.50の素材が使われていたが、レンズの薄型化を目指して、高屈折率プラスチックレンズ素材の開発が進められている。高屈折率プラスチックレンズ素材としては、チオウレタン系のプラスチックが提案されている(例えば、特許文献1〜3)。このようなチオウレタン系プラスチックは、1.60以上の屈折率を有しており、薄型のプラスチックレンズの基材用として広く使われている。
【特許文献1】特開平2−270859号公報
【特許文献2】特開平7−252207号公報
【特許文献3】特開2001−342252号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、チオウレタン系プラスチック製の基材を有する光学製品は、高温多湿の環境にさらされると、基材(素材のプラスチック)が吸水しやすいため加水分解が進行し、基材自体の透明性が低下するおそれがある。
【0004】
そこで、本発明の目的は、チオウレタン系プラスチック製の基材を有する光学製品の製造方法であって、高温高湿の環境にさらされても、基材の透明性が低下しにくい光学製品が得られる製造方法を提供することにある。また、その製造方法により、高屈折率プラスチック光学基材を含む光学製品(例えば、高屈折率プラスチックレンズ)であって、高温多湿環境下における耐久性がさらに高い光学製品の提供を可能とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様は、チオウレタン系プラスチック製の基材を有する光学製品の製造方法であって、水を除く極性溶媒(以下、単に極性溶媒という)を基材に含浸させる工程と、極性溶媒を含浸させた基材を加熱処理する工程とを有する。
【0006】
この製造方法は、極性溶媒により基材を処理する工程すなわち極性溶媒を基材に含浸させる工程と、極性溶媒を含浸させた基材を加熱処理する工程とを有し、この製造方法により得られた光学製品のメリットの一つは、高温高湿の環境下に置かれても、基材の透明性が低下しにくいことである。
【0007】
ここで、チオウレタン系プラスチックは、例えば、分子内にイソシアナト基やチオイソシアナト基(イソチオシアナト基)を有する化合物と、メルカプト基を有する化合物とを用いた重合反応により得ることができる。また、極性溶媒を基材に含浸させる工程(極性溶媒により基材を処理する工程)とは、噴霧、コート、あるいは浸漬(ディッピング)等により、極性溶媒分子をチオウレタン系プラスチック製の基材に対して物理的に接触させる工程をいう。これらの処理の中では、極性溶媒分子の浸透性や処理の安定性の点で、浸漬が好ましい。したがって、この製造方法において、含浸させる工程は、極性溶媒に基材を浸漬することを含むことが好ましい。
【0008】
また、この製造方法では、浸漬することは、極性溶媒の温度T1が70〜150℃、浸漬時間H1が0.1〜24時間の範囲内において、以下(A)式の条件を満たし、加熱処理する工程は、基材の温度T2が80〜150℃、基材の加熱処理時間H2が0.1〜24時間の範囲内において、以下(B)式の条件を満たすことが好ましい。
15≦T1×H1≦1680・・・(A)
15≦T2×H2≦1920・・・(B)
【0009】
基材を浸漬する際の極性溶媒の温度T1を70℃以上とすることにより、極性溶媒の基材への浸透が速やかに起こる。また、基材を浸漬する際の極性溶媒の温度T1が150℃以下であるので、基材が黄変しにくい。
【0010】
さらに、加熱処理する際の基材の温度T2を80℃以上とすることにより、熱処理後の基材の高温高湿下における透明性の低下をより抑えることが可能となる。また、加熱処理する際の基材の温度T2が150℃以下であるので、加熱処理時における基材の黄変を抑えることも可能となる。
【0011】
これらの条件に加え、極性溶媒の温度T1と浸漬時間H1との積を上記(A)式の範囲内とすることにより、耐湿性およびレンズ色調が良好であって、ムクミの無いあるいは少ない光学製品を得ることができる。極性溶媒の温度T1と浸漬時間H1との積が15未満であると、耐湿性が劣るおそれがある。また、極性溶媒の温度T1と浸漬時間H1との積が1680を超えると、基材にムクミが生じるおそれがある。
【0012】
さらに、基材の温度T2と基材の加熱処理時間H2との積を上記(B)式の範囲内とすることにより、耐湿性およびレンズ色調が良好であって、ムクミの無いあるいは少ない光学製品を得ることができる。基材の温度T2と基材の加熱処理時間H2との積が15未満であると、耐湿性が劣るおそれがある。また、基材の温度T2と基材の加熱処理時間H2との積が1920を超えると、基材が黄変するおそれがある。
【0013】
この製造方法では、チオウレタン系プラスチック製の基材への極性溶媒分子の含浸(例えば浸透)の容易さを考慮した場合、基材に含浸させる処理工程における温度は高いほうが好ましく、それ故、処理操作が容易な大気圧下を考慮すると、極性溶媒は、その1気圧(101,325Pa)における沸点が100℃以上のものであることが好ましい。
【0014】
この製造方法で製造される光学製品としては、チオウレタン系プラスチック製の基材を有し、高温高湿下におかれる可能性がある製品であれば任意である。この製造方法は、特に、眼鏡等に用いられるプラスチックレンズ基材を有する光学製品の製造に好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を、実施形態を参照して詳細に説明する。本発明の一実施形態にかかる光学製品の製造方法は、例えば、チオウレタン系プラスチック製の基材を有する眼鏡用プラスチックレンズの製造方法である。その製造方法には、水を除く極性溶媒により基材を処理する工程(水を除く極性溶媒を基材に含浸させる工程)と、水を除く極性溶媒を含浸させた基材を加熱処理する工程とが含まれている。以下、水を除く極性溶媒を単に極性溶媒という。
【0016】
〔基材〕
基材は、チオウレタン系プラスチック製である(チオウレタンプラスチックを素材としている)。基材の素材として用いられるチオウレタン系プラスチックは、例えば、イソシ
アナト基またはイソチオシアナト基を持つ化合物と、メルカプト基を持つ化合物とを反応(重合)させることによって製造される。イソシアナト基またはイソチオシアナト基を持つ化合物としては、公知の化合物が何ら制限なく使用できる。
【0017】
イソシアナト基を持つ化合物の具体例としては、1,2−ジイソシアナトベンゼン、1,3−ジイソシアナトベンゼン、1,4−ジイソシアナトベンゼン、2,4−ジイソシアナトトルエン、エチルフェニレンジイソシアナート、イソプロピルフェニレンジイソシアナート、ジメチルフェニレンジイソシアナート、ジエチルフェニレンジイソシアナート、ジイソプロピルフェニレンジイソシアナート、トリメチルベンゼントリイソシアナート、ベンゼントリイソシアナート、ビフェニルジイソシアナート、トルイジンジイソシアナート、4,4’−メチレンビス(フェニルイソシアナート)、4,4’−メチレンビス(2−メチルフェニルイシソアナート)、ビベンジル−4,4’−ジイソシアナート、ビス(イソシアナトフェニル)エチレン、イソホロンジイソシアナート、シクロヘキサンジイソシアナート、メチルシクロヘキサンジイソシアナート、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアナート)、4,4’−メチレンビス(2−メチルシクロヘキシルイソシアナート)、3,8−ビス(イシソアナトメチル)トリシクロデカン、3,9−ビス(イソシアナトメチル)トリシクロデカン、4,8−ビス(イソシアナトメチル)トリシクロデカン、4,9−ビス(イソシアナトメチル)トリシクロデカン、m−キシリレンジイソシアナート、ノルボルナンジイソシアナート等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、混合して用いてもよい。
【0018】
イソチオシアナト基を持つ化合物の具体例としては、1,2−ジイソチオシアナトエタン、1,3−ジイソチオシアナトプロパン、1,4−ジイソチオシアナトブタン、1,6−ジイソチオシアナトヘキサン、p−フェニレンジイソプロピリデンジイソチオシアナート等の脂肪族イソチオシアナート、シクロヘキサンジイソチオシアナート等の脂環族イソチオシアナート、1,2−ジイソチオシアナトベンゼン、1,3−ジイソチオシアナトベンゼン、1,4−ジイソチオシアナトベンゼン、2,4−ジイソチオシアナトトルエン、2,5−ジイソチオシアナト−m−キシレン、4,4’−ジイソチオシアナト−1,1’−ビフェニル、1,1’−メチレンビス(4−イソチオシアナトベンゼン)、1,1′−メチレンビス(4−イソチオシアナト−2−メチルベンゼン)、1,1’−メチレンビス(4−イソチオシアナト−3−メチルベンゼン)、1,1’−(1,2−エタンジイル)ビス(4−イソチオシアナトベンゼン)、4,4’−ジイソチオシアナトベンゾフェノン、4,4’−ジイソチオシアナト−3,3′−ジメチルベンゾフェノン、ベンズアニリド−3,4’−ジイソチオシアナート、ジフェニルエーテル−4,4’−ジイソチオシアナート、ジフェニルアミン−4,4’−ジイソチオシアナート等の芳香族イソチオシアナート、2,4,6−トリイソチオシアナト−1,3,5−トリアジン等の複素環含有イソチオシアナート、さらには、ヘキサンジオイルジイソチオシアナート、ノナンジオイルジイソチオシアナート、カルボニックジイソチオシアナート、1,3−ベンゼンジカルボニルジイソチオシアナート、1,4−ベンゼンジカルボニルジイソチオシアナート、(2,2′−ビピリジン)−4,4’−ジカルボニルジイソチオシアナート等のカルボニルイソチオシアナートが挙げられる。
【0019】
また、メルカプト基を持つ化合物としても、公知の物を用いることができる。
【0020】
メルカプト基を持つ化合物としては、例えば、3−メルカプト−1,2−プロパンジオール、グリセリンジ(メルカプトアセテート)、1−ヒドロキシ−4−メルカプトシクロヘキサン、2,4−ジメルカプトフェノール、2−メルカプトハイドロキノン、4−メルカプトフェノール、3,4−ジメルカプト−2−プロパノール、1,3−ジメルカプト−2−プロパノール、2,3−ジメルカプト−1−プロパノール、1,2−ジメルカプト−1,3−ブタンジオール、ペンタエリスリトールトリス(3−メルカプトプロピオネート
)、ペンタエリスリトールモノ(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールビス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールトリス(チオグリコレート)、ジペンタエリスリトールペンタキス(3−メルカプトプロピオネート)、ヒドロキシメチル−トリス(メルカプトエチルチオメチル)メタン、1−ヒドロキシエチルチオ−3−メルカプトエチルチオベンゼン、メタンジチオール、1,2−エタンジチオール、1,1−プロパンジチオール、1,2−プロパンジチオール、1,3−プロパンジチオール、2,2−プロパンジチオール、1,6−ヘキサンジチオール、1,2,3−プロパントリチオール、1,1−シクロヘキサンジチオール、1,2−シクロヘキサンジチオール、2,2−ジメチルプロパン−1,3−ジチオール、3,4−ジメトキシブタン−1,2−ジチオール、2−メチルシクロヘキサン−2,3−ジチオール、1,1−ビス(メルカプトメチル)シクロヘキサン、チオリンゴ酸ビス(2−メルカプトエチルエステル)、2,3−ジメルカプト−1−プロパノール(2−メルカプトアセテート)、2,3−ジメルカプト−1−プロパノール(3−メルカプトプロピオネート)、ジエチレングリコールビス(2−メルカプトアセテート)、ジエチレングリコールビス(3−メルカプトプロピオネート)、1,2−ジメルカプトプロピルメチルエーテル、2,3−ジメルカプトプロピルメチルエーテル、2,2−ビス(メルカプトメチル)−1,3−プロパンジチオール、ビス(2−メルカプトエチル)エーテル、エチレングリコールビス(2−メルカプトアセテート)、エチレングリコールビス(3−メルカプトプロピオネート)、トリメチロールプロパンビス(2−メルカプトアセテート)、トリメチロールプロパンビス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(2−メルカプトアセテート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、テトラキス(メルカプトメチル)メタン等の脂肪族ポリチオール化合物、1,2−ジメルカプトベンゼン、1,3−ジメルカプトベンゼン、1,4−ジメルカプトベンゼン、1,2−ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,3−ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,4−ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,2−ビス(メルカプトエチル)ベンゼン、1,3−ビス(メルカプトエチル)ベンゼン、1,4−ビス(メルカプトエチル)ベンゼン、1,2,3−トリメルカプトベンゼン、1,2,4−トリメルカプトベンゼン、1,3,5−トリメルカプトベンゼン、1,2,3−トリス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,2,4−トリス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,3,5−トリス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,2,3−トリス(メルカプトエチル)ベンゼン、1,2,4−トリス(メルカプトエチル)ベンゼン、1,3,5−トリス(メルカプトエチル)ベンゼン、2,5−トルエンジチオール、3,4−トルエンジチオール、1,3−ジ(p−メトキシフェニル)プロパン−2,2−ジチオール、1,3−ジフェニルプロパン−2,2−ジチオール、フェニルメタン−1,1−ジチオール、2,4−ジ(p−メルカプトフェニル)ペンタン等の芳香族ポリチオール、1,2−ビス(メルカプトエチルチオ)ベンゼン、1,3−ビス(メルカプトエチルチオ)ベンゼン、1,4−ビス(メルカプトエチルチオ)ベンゼン、1,2,3−トリス(メルカプトメチルチオ)ベンゼン、1,2,4−トリス(メルカプトメチルチオ)ベンゼン、1,3,5−トリス(メルカプトメチルチオ)ベンゼン、1,2,3−トリス(メルカプトエチルチオ)ベンゼン、1,2,4−トリス(メルカプトエチルチオ)ベンゼン、1,3,5−トリス(メルカプトエチルチオ)ベンゼン等、およびこれらの核アルキル化物等のメルカプト基以外に硫黄原子を含有する芳香族ポリチオール化合物、ビス(メルカプトメチル)スルフィド、ビス(メルカプトメチル)ジスルフィド、ビス(メルカプトエチル)スルフィド、ビス(メルカプトエチル)ジスルフィド、ビス(メルカプトプロピル)スルフィド、ビス(メルカプトメチルチオ)メタン、ビス(2−メルカプトエチルチオ)メタン、ビス(3−メルカプトプロピルチオ)メタン、1,2−ビス(メルカプトメチルチオ)エタン、1,2−ビス(2−メルカプトエチルチオ)エタン、1,2−ビス(3−メルカプトプロピル)エタン、1,3−ビス(メルカプトメチルチオ)プロパン、1,3−ビス(2−メルカプトエチルチオ)プロパン、1,3−ビス(3−メルカプトプロピルチオ)プロパン、1,2,3−トリス(メルカプトメチルチオ)プロパン、1,2,3−トリス(2−メルカプトエチルチオ)プロパン、1,2,3−ト
リス(3−メルカプトプロピルチオ)プロパン、1,2−ビス[(2−メルカプトエチル)チオ]−3−メルカプトプロパン、4−メルカプトメチル−3,6−ジチア−1,8−オクタンジチオール、4,8−ジメルカプトメチル−1,11−メルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン、4,7−ジメルカプトメチル−1,11−メルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン、5,7−ジメルカプトメチル−1,11−メルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン、テトラキス(メルカプトメチルチオメチル)メタン、テトラキス(2−メルカプトエチルチオメチル)メタン、テトラキス(3−メルカプトプロピルチオメチル)メタン、ビス(2,3−ジメルカプトプロピル)スルフィド、ビス(1,3−ジメルカプトプロピル)スルフィド、2,5−ジメルカプト−1,4−ジチアン、2,5−ジメルカプトメチル−1,4−ジチアン、2,5−ジメルカプトメチル−2,5−ジメチル−1,4−ジチアン、ビス(メルカプトメチル)ジスルフィド、ビス(メルカプトエチル)ジスルフィド、ビス(メルカプトプロピル)ジスルフィド等、およびこれらのチオグリコール酸およびメルカプトプロピオン酸のエステル、ヒドロキシメチルスルフィドビス(2−メルカプトアセテート)、ヒドロキシメチルスルフィドビス(3−メルカプトプロピオネート)、ヒドロキシエチルスルフィドビス(2−メルカプトアセテート)、ヒドロキシエチルスルフィドビス(3−メルカプトプロピオネート)、ヒドロキシプロピルスルフィドビス(2−メルカプトアセテート)、ヒドロキシプロピルスルフィドビス(3−メルカプトプロピオネート)、ヒドロキシメチルジスルフィドビス(2−メルカプトアセテート)、ヒドロキシメチルジスルフィドビス(3−メルカプトプロピオネート)、ヒドロキシエチルジスルフィドビス(2−メルカプトアセテート)、ヒドロキシエチルジスルフィドビス(3−メルカプトプロピオネート)、ヒドロキシプロピルジスルフィドビス(2−メルカプトアセテート)、ヒドロキシプロピルジスルフィドビス(3−メルカプトプロピオネート)、2−メルカプトエチルエーテルビス(2−メルカプトアセテート)、2−メルカプトエチルエーテルビス(3−メルカプトプロピオネート)、1,4−ジチアン−2,5−ジオールビス(2−メルカプトアセテート)、1,4−ジチアン−2,5−ジオールビス(3−メルカプトプロピオネート)、チオジグリコール酸ビス(2−メルカプトエチルエステル)、チオジプロピオン酸ビス(2−メルカプトエチルエステル)、4,4−チオジブチル酸ビス(2−メルカプトエチルエステル)、ジチオジグリコール酸ビス(2−メルカプトエチルエステル)、ジチオジプロピオン酸ビス(2−メルカプトエチルエステル)、4,4−ジチオジブチル酸ビス(2−メルカプトエチルエステル)、チオジグリコール酸ビス(2,3−ジメルカプトプロピルエステル)、チオジプロピオン酸ビス(2,3−ジメルカプトプロピルエステル)、ジチオグリコール酸ビス(2,3−ジメルカプトプロピルエステル)、ジチオジプロピオン酸ビス(2,3−ジメルカプトプロピルエステル)等のメルカプト基以外に硫黄原子を含有する脂肪族ポリチオール化合物が挙げられる。
【0021】
また、メルカプト基を持つ化合物としては、下記一般式(1)で示される、分子内に2個以上のメルカプト基を持つポリチオール化合物が好適である。このようなポリチオール化合物を原料にすると、後述する極性溶媒による基材処理により、高温高湿の環境下に置かれた場合に、透明性の低下が、より少ないチオウレタン系プラスチック製の基材を有する光学製品を得ることができる。
−(SCHSH) ・・・(1)
ここで、Rは、芳香環を除く有機残基を示す。nは2以上の整数である。
【0022】
一般式(1)で示されるポリチオール化合物は、以下に示す種々の化合物を含む。メルカプト基を持つ化合物としては、これらの化合物(ポリチオール化合物)の1つまたは複数を採用することができる。一般式(1)で示されるポリチオール化合物の好適な例は、1,1,3,3−テトラキス(メルカプトメチルチオ)プロパンおよび1,1,2,2−テトラキス(メルカプトメチルチオ)エタンであり、一方あるいは双方を用いても良い。その他に一般式(1)で示されるポリチオール化合物としては、例えば、1,2,5−ト
リメルカプト−4−チアペンタン、3,3−ジメルカプトメチル−1,5−ジメルカプト−2,4−ジチアペンタン、3−メルカプトメチル−1,5−ジメルカプト−2,4−ジチアペンタン、3−メルカプトメチルチオ−1,7−ジメルカプト−2,6−ジチアヘプタン、3,6−ジメルカプトメチル−1,9−ジメルカプト−2,5,8−トリチアノナン、3,7−ジメルカプトメチル−1,9−ジメルカプト−2,5,8−トリチアノナン、4,6−ジメルカプトメチル−1,9−ジメルカプト−2,5,8−トリチアノナン、3−メルカプトメチル−1,6−ジメルカプト−2,5−ジチアヘキサン、3−メルカプトメチルチオ−1,5−ジメルカプト−2−チアペンタン、1,1,2,2−テトラキス(メルカプトメチルチオ)エタン、1,4,8,11−テトラメルカプト−2,6,10−トリチアウンデカン、1,4,9,12−テトラメルカプト−2,6,7,11−テトラチアドデカン、2,3−ジチア−1,4−ブタンジチオール、2,3,5,6−テトラチア−1,7−ヘプタンジチオール、2,3,5,6,8,9−ヘキサチア−1,10−デカンジチオール、4,5−ビス(メルカプトメチルチオ)−1,3−ジチオラン、4,6−ビス(メルカプトメチルチオ)−1,3−ジチアン、2−ビス(メルカプトメチルチオ)メチル−1,3−ジチエタン、2−(2,2−ビス(メルカプトメチルチオ)エチル)−1,3−ジチエタン等が挙げられる。
【0023】
前記したイシソアナト基またはイソチオシアナト基を持つ化合物と、メルカプト基を持つ化合物との重合方法は、特に限定されるものではない。一般に、チオウレタン系プラスチックの製造に用いられている重合方法が、何ら制限なく使用できる。例えば、前記した2種の化合物を混合した後、周知の硬化触媒を添加、混合し、加熱または紫外線照射によって硬化させることによりチオウレタン系プラスチックを得ることができる。
【0024】
硬化触媒の具体例としては、エチルアミン、エチレンジアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン等のアミン化合物、ジブチル錫ジクロライド、ジメチル錫ジクロライド等が挙げられる。
【0025】
具体的な重合方法としては、例えば、次に示すような注型重合法が用いられる。
【0026】
まず、前記した2種の化合物を所定の調合比で混合し、必要に応じて他の重合性単量体を混合した上、さらに必要に応じて紫外線吸収剤、酸化防止剤、内部離型剤、ブルーイング剤、および硬化触媒を添加し、十分に攪拌して均一にする。このようにして調合した重合性組成物を、ガラスや金属製の型(モールド)に注入し、加熱または紫外線等の照射により重合硬化反応を進める。十分に硬化させた後で、型を取り外すことにより、例えば眼鏡レンズの形状をしたチオウレタン系プラスチック製の基材を得ることができる。この時の重合方法としては、熱重合法による重合方式が、重合後の基材(レンズ基材等)の歪み防止などの観点から好ましい。熱重合法による重合硬化に際しての重合条件としては、通常、0℃〜40℃から重合を開始し、重合中の最高温度が80℃〜140℃となるような重合パターンで加熱を行う。その際の重合時間は、通常5〜60時間の範囲であり、好ましくは10〜30時間で行われる。また、重合終了後、型から離型された基材に対して、必要に応じて内部歪みの除去や残留応力の除去を目的とし、アニール処理が行われる。アニール処理の条件としては、通常は、60℃〜140℃の温度で10分〜5時間程度の熱処理がなされ、中でも、100℃〜130℃で30分〜3時間の熱処理が好ましい。
【0027】
〔極性溶媒による処理〕
前記した重合方法により得られたチオウレタン系プラスチック製の基材は、極性溶媒により処理される。
【0028】
極性溶媒による処理とは、極性溶媒を基材に含浸させることであって、噴霧、コート、あるいは浸漬(ディッピング)等により、極性溶媒分子をチオウレタン系プラスチックに
対して物理的に接触させる工程をいう。これらの処理の中では、極性溶媒分子による浸透効果が高い点で、浸漬が好ましい。
【0029】
極性溶媒としては、水が除かれる他は、特に限定される物ではなく、公知の化合物が何ら制限なく使用できる。極性溶媒としては、例えば、シクロヘキサノン、メチルアミルケトン等のケトン系溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)のようなケトピロール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート等のセロソルブ系溶媒、酢酸ブチル、酢酸アミル、酪酸エチル、酪酸ブチル、ジエチルオキサレート、ピルビン酸エチル、エチル−2−ヒドロキシブチレート、エチルアセトアセテート、乳酸メチル、乳酸エチル、3−メトキシプロピオン酸メチル等のエステル系溶媒、その他、線状または環状脂肪族系溶媒が挙げられる。
【0030】
また、下記一般式(2)〜(4)で示される化合物も極性溶媒として好適に用いられる。
【0031】
【化1】

ここで、RとRは、いずれも炭素数1〜5のアルキル基である。また、Rは、炭素数1〜20のアルキル基である。一般式(2)で示される具体的な化合物としては、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸ブチル、アセト酢酸ペンチル、アセト酢酸ヘキシル、アセト酢酸ヘプチル、アセト酢酸ベンジル、アセト酢酸オクチル等が挙げられる。さらに、一般式(2)で示される具体的な化合物としては、3-ケト-n-吉草酸メ
チル、レブリン酸メチル、3-ケト-n-ヘキサン酸メチル等が挙げられる。特にアセト酢
酸エチルが作業性の良さ、含浸が容易などの点から好ましい。
【0032】
(R−OH) ・・・(3)
ここで、Rは、炭素数4〜20の脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素、芳香族炭化水素、複素環化合物から選ばれる有機残基である。mは、1または2の整数である。一般式(3)で示される具体的な化合物としては、n−ブタノール、ヘプタノール、ヘキサノール、ジアセトンアルコール、フルフリルアルコール、フェノール、ベンジルアルコール、2−フェニルエチルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール等が挙げられ、特にベンジルアルコール、2−フェニルエチルアルコールが作業性の良さ、含浸が容易などの点から好ましい。
【0033】
【化2】

ここで、Rは、炭素数1〜20のアルキル基である。Rは、炭素数1〜5のアルキル基あるいは水素である。一般式(4)で示される具体的な化合物としては、メタンスル
ホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、メタンスルホン酸エチル、エタンスルホン酸エチル、ベンゼンスルホン酸エチル、スルホン酸イソプロピル等が挙げられ、特にドデシルベンゼンスルホン酸が作業性の良さ、含浸が容易などの点から好ましい。
【0034】
このような本発明の一実施形態にかかる光学製品の製造方法によれば、チオウレタン系プラスチック製の基材を有する光学製品を製造する工程が、水を除く極性溶媒を基材に含浸させる工程と、極性溶媒を含浸させた基材を加熱処理する工程とを含むので、含浸および加熱処理後のチオウレタン系プラスチック製基材を有する光学製品は、高温高湿下に置かれても、基材の透明性が低下することがない。従って、本発明の一実施形態にかかる光学製品の製造方法は、眼鏡用プラスチックレンズのような光学製品の前処理方法として非常に優れている。
【0035】
ここで、水を除く極性溶媒がチオウレタン系プラスチック製の基材の透明性の低下を防ぐ作用機構は必ずしも明確ではないが、例えば、極性溶媒分子がチオウレタン系プラスチックを構成する極性基に配位することにより、水分子の接近を妨げていることが考えられる。あるいは、極性溶媒による処理で、チオウレタン系プラスチック製の基材の化学構造に何らかの変化が起こっている可能性も考えられる。
【0036】
極性溶媒を基材に含浸させる処理工程が浸漬による処理を含む場合、基材への極性溶媒分子の浸透を考慮すると、極性溶媒を基材に含浸させる処理工程(極性溶媒に基材を浸漬させる処理工程)における極性溶媒の温度は70℃以上であることが好ましく、90℃以上であることがより好ましい。ただし、極性溶媒に基材を浸漬させる処理工程における極性溶媒の温度が高すぎると、チオウレタン系プラスチック製の基材自体の黄変を招くおそれもあり、150℃以下であることが好ましい。
【0037】
また、浸漬による処理操作が容易な大気圧下を考慮すると、極性溶媒の1気圧(101,325Pa)における沸点は100℃以上であることが好ましく、必要に応じてそのような極性溶媒を選定すればよい。ただし、極性溶媒の沸点を超えるような処理温度が必要であれば、高圧に耐え得るタンク等を用いて浸漬処理を行ってもよい。
【0038】
ここで、基材中には極性溶媒が浸透すればよく、浸漬等の処理時間は特に制限されない。ただし、基材の浸漬等の処理時間は、好ましくは1分間〜24時間、より好ましくは0.1時間(6分間)〜24時間、さらに好ましくは10分間〜10時間である。基材の浸漬等の処理時間が1分以下では、極性溶媒の浸透が不十分であり、基材の耐湿性向上に対する効果が小さい。一方、24時間以上浸漬させると極性溶媒の過剰浸透により基材にムクミが発生するおそれがある。基材を極性溶媒に浸漬する場合、浸漬時間は0.1時間〜24時間であることが好ましい。
【0039】
また、本実施形態では、前記した極性溶媒による処理工程(極性溶媒を基材に含浸させる処理工程)後に、基材を80〜150℃で熱処理することが好ましい。チオウレタン系プラスチック製の基材を80℃以上で熱処理すると、熱処理後の基材の高温高湿下における透明性の低下をより抑えることが可能となる。また、熱処理温度が150℃以下あると、熱処理時における基材の黄変を抑えることも可能となる。
【0040】
また、熱処理時間には、特に制限はなく、好ましくは0.1時間(6分間)〜24時間、より好ましくは10分間〜24時間、さらに好ましくは30分間〜10時間である。0.1時間以下では、熱処理が不十分であり、極性溶媒がしっかりと浸入または浸透しないことに起因して基材の耐湿性が向上しにくい。24時間以上では、熱処理過剰となり、熱処理温度が高いとレンズが黄変するおそれもあり、生産性も低下する。
【0041】
また、本実施形態では、含浸させる工程は、水を除く極性溶媒に基材を浸漬することを含んでいる。そして、水を除く極性溶媒に基材を浸漬する工程は、上述の条件に加えて、極性溶媒の温度T1と浸漬時間H1との積が以下(A)式の条件を満たすようにしている。
15≦T1×H1≦1680・・・(A)
【0042】
極性溶媒の温度T1と浸漬時間H1との積を上記(A)式の範囲内とすることにより、耐湿性およびレンズ色調が良好であって、ムクミの無いあるいは少ない光学製品を得ることができる。
【0043】
さらに、本実施形態では、加熱処理する工程は、上述の条件に加えて、基材の温度T2と基材の加熱処理時間H2との積が以下(B)式の条件を満たすようにしている。
15≦T2×H2≦1920・・・(B)
【0044】
基材の温度T2と基材の加熱処理時間H2との積を上記(B)式の範囲内とすることにより、耐湿性およびレンズ色調が良好であって、ムクミの無いあるいは少ない光学製品を得ることができる。
【0045】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【0046】
例えば、前記した処理により得られたチオウレタン系プラスチック製基材を用いて眼鏡レンズを製造する場合などは、表面の傷防止のために、基材表面にハードコート層を設けることが好ましい。
【0047】
ハードコート層の好ましい例としては、下記(イ)および(ロ)を主成分とするコーティング組成物を塗布し硬化させた物が挙げられる。
(イ)少なくとも一種以上の反応基を有するシラン化合物の一種以上。
(ロ)酸化ケイ素、酸化アンチモン、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化スズ、酸化タンタル、酸化タングステン、酸化アルミニウム等の無機酸化物微粒子、酸化チタン、酸化セリウム、酸化ジルコニア、酸化ケイ素、酸化鉄、酸化スズ、酸化タングステンのうちの2つ以上を用いた複合無機酸化物微粒子。
【0048】
(ロ)の成分は、ハードコート層の屈折率を調整し、かつ、硬度を高めるのに有効な成分であり、単独または混合して用いることができる。しかし、(ロ)の成分だけでは成膜性が悪く、(イ)の成分を併用する事によって透明で強靭な膜が得られる。(イ)の成分は、そのまま使用することも可能であるが加水分解して使用する方が膜の耐水性や硬度を向上させることができることから好ましい。
【0049】
ハードコート層の厚さは、通常0.2μm〜10μm程度が好ましく、より好ましくは、1μm〜3μm程度である。
【0050】
また、光線透過率を高め、表面反射によるちらつきを防止するために、反射防止層を成層することが好ましい。
【0051】
反射防止層としては、屈折率の異なる薄膜を積層して得られる単層または多層の膜であり、反射率の低減されるものであれば、無機物でも有機物でも可能である。表面の硬度や干渉縞の防止を重視するためには、無機物からなる単層または多層の反射防止層を設けることが好ましい。使用できる無機物としては、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ジル
コニウム、酸化チタニウム、酸化セリウム、酸化ハフニウム、フッ化マグネシウム等の酸化物あるいはフッ化物が挙げられ、イオンプレーティング、真空蒸着、スパッタリング等のいわゆるPVD法によって施すことができる。また、有機物を含む反射防止層の一例としては、下記一般式で表される有機ケイ素化合物からなる成分と、シリカ系微粒子とを含むものが挙げられる。
1112SiX4−q−p
ただし、上記一般式中、R11は重合可能な反応基を有する有機基、R12は炭素数1〜6の炭化水素基、Xは加水分解性基、pおよびqは、少なくとも一方は1であり、他方は0または1である。
【0052】
なお、上述した重合方法により製造されたチオウレタン系プラスチック製の基材には、用途に応じて染色処理が施される。また、光学製品(例えば眼鏡用プラスチックレンズ)の染色は、基材に直接行うこともあるが、プライマー層やハードコート層等を形成した後に行うこともある。
【0053】
プライマー層は必須ではないが、一般に基材とハードコート層との密着性の向上、耐衝撃性の向上、染色性の改善等の目的で、基材とハードコート層との間に設けられる。このようなプライマー層は、例えば、極性基を有する有機樹脂ポリマーや、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化スズ、酸化ケイ素等の金属酸化物微粒子を含んでいてもよい。
【実施例】
【0054】
次に、光学製品として眼鏡用プラスチックレンズ(以下、単に「レンズ」ともいう)を用いた実施例および比較例により本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明はこれらの例によって何等限定されるものではない。
【0055】
[実施例1]
(レンズ基材の製造工程)
m−キシリレンジイソシアナートおよびノルボルネンジイソシアナートの同量混合物98.5gと、1,1,3,3−テトラキス(メルカプトメチルチオ)プロパンを主成分とするポリチオール組成物101.9gとを、所定の調合タンク内で混合攪拌した。その際、調合タンク内の温度を30℃に保持しながら攪拌を行った。次いで、内部離型剤(stepan社製 ZelecUN)0.20g、紫外線吸収剤(シプロ化成株式会社製 SEESORB701)0.10gをこの調合タンク内に添加して攪拌し、完全に溶解させ
た。その後、重合触媒としてジブチル錫ジクロライド0.04gを加えて、30℃に保持しながら良く攪拌して溶解させた後、調合タンク内を5mmHgに減圧して攪拌を続けながら30分間脱気を行った。
【0056】
得られた原料(重合用組成物)を、テープにて外周部を封止した2枚(一対)のレンズ成形用ガラス型中に注入し、35℃から120℃まで20時間かけて昇温させて重合硬化させた。なお、本実施例では、レンズの度数が−6Dとなるようなガラス型を使用した。
【0057】
その後、ガラス型から硬化したレンズ基材を離型し、130℃で2時間加熱してアニール処理を行った。アニール処理後のレンズ基材の外観をプロジェクタと水銀灯により確認したところ、歪や白濁は認められなかった。
【0058】
(極性溶媒による浸漬工程)
前記した製造工程により得られたレンズ基材を、70℃に加熱したアセト酢酸エチル(Ac−Et 沸点(1気圧) 184℃)に1時間浸漬した。
極性溶媒の温度(含浸温度、浸漬温度)T1:70℃
基材の浸漬時間(含浸時間)H1:1時間
極性溶媒の温度T1と浸漬時間H1との積(T1×H1):70
【0059】
(熱処理(加熱処理)工程)
浸漬工程後、レンズ基材を、120℃で2時間熱処理を行った。
基材の温度(アニール温度)T2:120℃
基材の加熱処理時間(アニール時間)H2:2時間
基材の温度T2と基材の加熱処理時間H2との積(T2×H2):240
【0060】
[実施例2〜10]
実施例1と同様の条件でレンズ基材を製造した後、表1に示す条件で極性溶媒への浸漬および熱処理を行った。
【0061】
なお、実施例9では、極性溶媒として、ベンジルアルコール(Bz−OH 沸点(1気圧) 200℃)を用いた。また、実施例10では、極性溶媒として、2−フェニルエチルアルコール(Fe−OH 沸点(1気圧) 219℃)を用いた。
【0062】
[比較例1]
実施例1と同様の条件でレンズ基材を製造したが、極性溶媒への浸漬と熱処理のいずれも行わなかった。
【0063】
[比較例2]
実施例1と同様の条件でレンズ基材を製造し、70℃に加熱したアセト酢酸エチルに2時間浸漬したが、熱処理は行わなかった。
【0064】
[比較例3]
実施例1と同様の条件でレンズ基材を製造したが、極性溶媒への浸漬は行わず、120℃で2時間熱処理を行った。
【0065】
[比較例4〜15]
実施例1と同様の条件でレンズ基材を製造した後、表2に示す条件で極性溶媒への浸漬および熱処理を行った。
【0066】
[評価方法]
前記した各実施例・比較例により得られた眼鏡用プラスチックレンズについて、以下のようにして、耐湿性とレンズ色調とムクミとを評価した。結果を、表1および表2に示す。
【0067】
(耐湿性)
温度60℃、相対湿度100%に設定した恒温恒湿槽の中に、実施例・比較例の各眼鏡用プラスチックレンズを2週間放置した。そして、以下の基準で耐湿性を評価した。
○:2週間経過してもレンズ(基材)の透明性に変化が見られないもの
△:放置後1週間〜2週間の間にレンズ(基材)の透明性が若干低下していたが実用上問題ないもの
×:放置後1週間以内にレンズ(基材)の透明性が著しく低下していたもの
【0068】
(レンズの色調)
目視により各眼鏡用プラスチックレンズの外観を観察し、以下の基準で評価した。
○:黄変が事実上なく無色透明であるもの
△:黄変が若干認められるものの実用上問題ないもの
×:黄変が著しく、実用に耐えないもの
【0069】
(ムクミ)
目視により各眼鏡用プラスチックレンズの外観を観察し、以下の基準で評価した。
○:ムクミが事実上なく平滑な面であるもの
△:ムクミが若干認められるものの実用上問題ないもの
×:ムクミが著しく、面アレしているもの
なお、レンズのムクミとは、レンズ中に極性溶媒が含侵しすぎて、レンズ表面が「水ぶくれ」しているような状態のことを指している。ムクミが発生すると、レンズ表面に凹凸が出来るため、外観品質が好ましくない。
【0070】
【表1】

【0071】
【表2】

【0072】
[評価結果]
表1の結果より、実施例1〜10では、高温高湿下における透明性の低下(耐湿性)、レンズの色調、およびレンズのムクミについて、いずれも実用上問題ないことが認められた。これらの実施例1〜10の浸漬工程と、加熱処理工程とは、以下の条件を全て満たす

【0073】
浸漬工程
極性溶媒の温度T1: 70〜150℃
基材の浸漬時間H1: 0.1〜24時間
積(T1×H1): 15≦T1×H1≦1680
加熱処理工程
基材の温度T2: 80〜150℃
基材の加熱処理時間H2: 0.1〜24時間
積(T2×H2): 15≦T2×H2≦1920
【0074】
これに対して、表2の結果より、比較例1〜15では、レンズ基材を上述したような所望の条件を全て満たすような工程で浸漬・熱処理を行っていないため、耐湿性、レンズ色調、或いはムクミにおいて、実用上問題が生じた。
【0075】
すなわち、比較例1は、浸漬工程および加熱処理工程を行わなかったため、良好な耐湿性が得られなかったと考えられる。比較例2は、加熱処理工程を行わなかったため、良好な耐湿性が得られなかったと考えられる。比較例3は、浸漬工程を行わなかったため、良好な耐湿性が得られなかったと考えられる。
【0076】
また、比較例4は、極性溶媒の温度(浸漬温度、含浸温度)T1が低すぎたため、極性溶媒の基材への浸透が進まず、良好な耐湿性が得られなかったと考えられる。
【0077】
比較例5は、極性溶媒の温度(浸漬温度、含浸温度)T1が高すぎたため、基材が黄変したと考えられる。
【0078】
比較例6は、基材の浸漬時間(含浸時間)H1が短すぎたため、また、極性溶媒の温度T1と浸漬時間H1との積(T1×H1)が小さくなりすぎたため、極性溶媒の基材への浸透が進まず、良好な耐湿性が得られなかったと考えられる。
【0079】
比較例7は、基材の浸漬時間(含浸時間)H1が長すぎたため、また、極性溶媒の温度T1と浸漬時間H1との積(T1×H1)が大きくなりすぎたため、基材にムクミが生じたと考えられる。
【0080】
比較例8は、基材の温度(アニール温度)T2が低すぎたため、良好な耐湿性が得られなかったと考えられる。
【0081】
比較例9は、基材の温度(アニール温度)T2が高すぎたため、基材が黄変したと考えられる。
【0082】
比較例10は、基材の加熱処理時間(アニール時間)H2が短すぎたため、また、基材の温度T2と基材の加熱処理時間H2との積(T2×H2)が小さくなりすぎたため、良好な耐湿性が得られなかったと考えられる。
【0083】
比較例11は、基材の温度T2と基材の加熱処理時間H2との積(T2×H2)が大きすぎたため、基材が黄変したと考えられる。
【0084】
比較例12は、極性溶媒の温度T1と浸漬時間H1との積(T1×H1)が小さすぎたため、良好な耐湿性が得られなかったと考えられる。
【0085】
比較例13は、極性溶媒の温度T1と浸漬時間H1との積(T1×H1)が大きすぎたため、基材が若干黄変するとともに、基材にムクミが生じたと考えられる。
【0086】
比較例14は、基材の加熱処理時間(アニール時間)H2が長すぎたため、また、基材の温度T2と基材の加熱処理時間H2との積(T2×H2)が大きくなりすぎたため、基材が黄変したと考えられる。
【0087】
比較例15は、基材の温度T2と基材の加熱処理時間H2との積(T2×H2)が小さすぎたため、良好な耐湿性が得られなかったと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明は、光学製品、例えば、眼鏡用プラスチックレンズの製造方法として利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チオウレタン系プラスチック製の基材を有する光学製品の製造方法であって、
水を除く極性溶媒を前記基材に含浸させる工程と、
前記極性溶媒を含浸させた前記基材を加熱処理する工程とを有する、製造方法。
【請求項2】
請求項1において、前記含浸させる工程は、前記極性溶媒に前記基材を浸漬することを含む、製造方法。
【請求項3】
請求項2において、前記浸漬することは、前記極性溶媒の温度T1が70〜150℃、前記基材の浸漬時間H1が0.1〜24時間の範囲内において、以下の条件を満たし、
前記加熱処理する工程は、前記基材の温度T2が80〜150℃、前記基材の加熱処理時間H2が0.1〜24時間の範囲内において、以下の条件を満たす、製造方法。
15≦T1×H1≦1680
15≦T2×H2≦1920
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかにおいて、前記極性溶媒は、1気圧における沸点が100℃以上のものである、製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかにおいて、前記基材は、プラスチックレンズ基材である、製造方法。

【公開番号】特開2008−15465(P2008−15465A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−351206(P2006−351206)
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】