光学記録媒体、光記録材料および金属錯体化合物
【課題】短波長レーザ光を用いて高密度光情報の記録及び/または再生可能な光学記録媒体を提供すること。
【解決手段】波長350nm〜530nmの短波長レーザ光を用いて高密度光情報の記録及び/または再生が可能な光学記録媒体であって、基板上に形成された金属錯体化合物を含む記録層を備え、金属錯体化合物は、一般式[I]または一般式[II]で表される環状β−ジケトンアゾ化合物と、これらの環状β−ジケトンアゾ化合物に配位する2価金属イオンとから構成される。
【解決手段】波長350nm〜530nmの短波長レーザ光を用いて高密度光情報の記録及び/または再生が可能な光学記録媒体であって、基板上に形成された金属錯体化合物を含む記録層を備え、金属錯体化合物は、一般式[I]または一般式[II]で表される環状β−ジケトンアゾ化合物と、これらの環状β−ジケトンアゾ化合物に配位する2価金属イオンとから構成される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学記録媒体等に関し、より詳しくは、青色レーザに対応が可能な耐光性に優れた光学記録媒体等に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、CD−R/RW、DVD−R/RW、MO等の各種光学記録媒体は、大容量の情報を記憶でき、また、DVD−RAMのようにランダムアクセスが容易であるために、コンピュータ等の情報処理装置における外部記憶装置として広く認知され普及している。これらの中で、追記型光記録媒体のCD−RやDVD−Rは、有機色素化合物が含有される記録層を設けた有機色素系光記録媒体として、低コストで且つ製造も容易であるという点で、優位性を有するものと考えられている。
一般に、CD−RやDVD−R等として市販されている光学記録媒体の場合、例えば、CD−Rの場合は、波長780nm程度のレーザ光による情報の記録・再生に適するように、また、DVD−Rの場合は、波長600nm〜700nm程度のレーザ光による情報の記録・再生に適するように設計されている。このようなCD−RやDVD−R用の記録用の色素としては、例えば、アゾ化合物が用いられている(特許文献1、特許文献2、特許文献3参照)。
【0003】
【特許文献1】国際公開第91/018950号公報
【特許文献2】特開平09−277703号公報
【特許文献3】特開2001−271001号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、取り扱われる情報量の増大により、媒体の記録密度を高めることが望まれている。特に、近年、開発が著しい青色レーザ光等の発振波長の短いレーザ光を用いて、情報を高密度に記録再生可能な光学記録媒体が提唱されつつある。
このような要請に対し、従来の比較的長波長のレーザ光を用いて情報の光学的記録・再生を行う光記録媒体は、より短波長のレーザ光を用いて情報の記録・再生を試みると、反射率が低下し、充分な記録・再生が困難であるという問題を有している。
【0005】
例えば、前述の特許文献1に記載されている光学記録媒体においては、記録用の色素としては、N,N−ジアルキルアニリン骨格のカップラー成分を有するアゾ化合物を用いている。このようなN,N−ジアルキルアニリン骨格を有することにより、モル吸光係数が非常に大きい色素が得られる傾向にある。しかし、このようなアゾ化合物と金属との錯体であるアゾ金属キレート化合物溶液の吸収スペクトルは、λmaxが500nm以上で観察される。このため、このような含金属アゾ錯体化合物からなる色素を含む塗布膜の吸収スペクトルは、レーザ波長の405nm付近には、ほとんど吸収スペクトルが観察されず、青色レーザ光に対する感度が低い傾向があるという問題がある。
【0006】
また、特許文献2に記載されている光学記録媒体においては、記録用の色素として、ピリドン骨格のカップラー成分を有するアゾ化合物を用いている。このようなアゾ化合物の吸収スペクトルは、より短波長側にλmaxを持つことが知られているが、ジアゾ成分としてベンゾチアゾールやチアゾール骨格を有するアゾ化合物と金属との金属キレート化合物の吸収スペクトルは、レーザー波長405nm付近の吸収が少ない。
【0007】
また、特許文献3においては、β―ケトエステル等を含む鎖状β−ジケトン骨格をカップラー成分として有するアゾ化合物と金属との錯体である含金属アゾ錯体化合物は、短波長側に吸収スペクトルの吸収が観察されることが報告されている。しかし、このような鎖状β−ジケトン骨格をカップラー成分として有するアゾ化合物は、合成の際の収率が低い、固形化しにくい、あるいは生成物の純度が低い等の製造上改良すべき問題があり、さらに検討を要するという問題がある。
【0008】
さらに、本発明者等らは、短波長側に吸収が観察されるイソキサゾール等のジアゾ成分及びピリドン等のカップラー成分を有するアゾ化合物と金属との金属アゾキレート色素が、レーザ波長350nm〜530nmの青色光領域に吸収を有することを報告した(特願2005−95905)。しかし、さらに検討を進めると、このアゾ化合物は、カップラー成分とジアゾ成分との最適な組み合わせに制限があるため分子のデザインが限られ、分子構造上さらに短波長化することは難しい。また、ジアゾ成分としてイソキサゾールを用いたアゾ化合物の耐光性をさらに改良する必要があることが判明している。
【0009】
本発明は、上述したように、短波長である青色レーザ光を用いて、高密度の光情報の記録及び/または再生が行われる光学記録媒体を開発する際に浮き彫りになった問題を解決すべくなされたものである。
即ち、本発明の目的は、短波長のレーザ光を用いて、高密度の光情報の記録及び/または再生が可能である光学記録媒体を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、短波長のレーザ光を用いて光情報の記録が可能な光記録材料を提供することにある。
さらに、本発明の他の目的は、光記録材料として有用な金属錯体化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで本発明者等は鋭意検討の結果、環状β−ジケトン構造をカップラー成分として有するジアソ化合物が短波長側に高感度の吸収が観察されることを見出し、かかる知見に基づき本発明を完成した。
かくして本発明によれば、基板と、基板上に直接又は他の層を介して設けられ、光が照射されることにより情報の記録及び/又は再生が可能な記録層と、を有し、記録層は、環状β−ジケトン構造のカップラー成分と含窒素複素芳香環構造のジアゾ成分とを有するアゾ化合物及びアゾ化合物が配位する金属イオンから構成される金属錯体化合物を含むことを特徴とする光学記録媒体が提供される。
【0011】
ここで、本発明が適用される光学記録媒体は、記録層に含まれる金属錯体化合物を構成するアゾ化合物としては、環状β−ジケトン構造のカップラー成分と含窒素複素芳香環構造のジアゾ成分とを有する化合物であれば限定されないが、化合物の安定性や合成の容易さの観点から、カップラー構造としては、5員環〜7員環が好ましい。中でも、下記一般式[I]または一般式[II]で表される環状β−ジケトンアゾ化合物であることが好ましい。このような環状β−ジケトンアゾ化合物が記録層に含まれることにより、短波長のレーザ光を用いて、高密度の光情報の記録及び/または再生が可能である光学記録媒体を得ることができる。
【0012】
【化1】
【0013】
(一般式[I]または一般式[II]中、環Aは含窒素複素芳香環である。一般式[I]中のX、Y、Z及び一般式[II]中のX’、Y’は、各々独立に、置換基を有しても良い炭素原子、酸素原子、硫黄原子、窒素原子から選ばれるいずれか1種であり、これらはβ−ジケトン構造とともに5員環または6員環を形成する。)
環状β−ジケトンアゾ化合物におけるカップラー成分としては、飽和または不飽和の5員環〜7員環の炭化水素環もしくは複素環の縮合環を有する環状β−ジケトン構造を有するものが好ましい。
【0014】
また、ジアゾ成分としては、5員環もしくは6員環の単環、または、5員環または6員環の2縮合環からなる含窒素複素芳香環構造を有するものが好ましい。
さらに、金属イオンとして、周期表の7A族、8族、1B族及び2B族から選ばれる2価の金属のイオンが好ましく、特に、ニッケル、コバルト、亜鉛、銅、マンガンから選ばれる少なくとも1種の金属のイオンが好ましい。
【0015】
本発明が適用される光学記録媒体は、このような環状β−ジケトン構造を有するアゾ化合物と金属との錯体化合物を含み記録層をもうけることにより、波長が350nm〜530nmのレーザ光を用いて、情報の記録を行うことができる。
【0016】
また、本発明によれば、環状β−ジケトン構造のカップラー成分と含窒素複素芳香環構造のジアゾ成分とを有するアゾ化合物と、アゾ化合物が配位する金属イオンから構成される含金属環状β−ジケトンアゾ化合物に、必要に応じて他の成分を含む光記録材料が提供される。
また、アゾ基に結合した環状β−ジケトン構造及び含窒素複素芳香環を有するアゾ化合物と2価の金属イオンとから構成される金属錯体化合物において、環状β−ジケトン構造としては、メルドラム酸、テトロン酸、バルビツール酸、チオバルビツール酸、ヒドロキシクマリン、ヒドロキシカルボスチリル、ピラゾリジンジオン、インダンジオン、シクロヘキサンジオン及びジケトピリミジンから選ばれるいずれか1種の骨格を有するものが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、短波長のレーザ光を用いて、高密度の光情報の記録及び/または再生が可能な光学記録媒体が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、実施の形態と記す)について詳細に説明する。但し、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。また、使用する図面は、本実施の形態を説明するために使用するものであり、実際の大きさを表すものではない。
また、本実施の形態において、後述する構造式にて定義するR1〜R25は、必要に応じて置換基を有していてもよい。但し、その場合の「置換基」、後述する「置換されてもよい」、「置換基を有していてもよい」なる記載における「置換基」には、例えば、カルボキシル基やスルホン酸基等の水溶性基は含まれない。
【0019】
(アゾ化合物)
本実施の形態において使用する環状β−ジケトンアゾ化合物(以下、単に、「アゾ化合物」と記すことがある。)は、環状β−ジケトン構造のカップラー成分と含窒素複素芳香環構造のジアゾ成分とを有する化合物であれば限定されないが、前述したように、下記一般式[I]または一般式[II]で表される構造を有するものであることが好ましい。ここで、一般式[I]または一般式[II]において、一般に、アゾ基(−N=N−)の左側の含窒素複素芳香環をジアゾ成分と呼び、右側の環状β−ジケトン構造はカップラー成分と呼ばれる。これらの構造は、ケト(keto)−エノール(enol)の互変異性構造をとり、例えば、一般式[I]の構造では下記の様な構造をとりうる。本文中では、ケト(keto)−エノール(enol)の互変異性構造は、金属イオンとの錯体を形成する際に、エノール(enol)の水素原子が外れて−O−の形で配位するため、エノール(enol)型で統一している。
【0020】
【化2】
【0021】
【化3】
【0022】
(カップラー成分)
先ず、カップラー成分について説明する。
一般式[I]または一般式[II]で表されるアゾ化合物のカップラー成分におけるX、X’、Y、Y’、Zは、各々独立に、水素原子を除く置換基を有していてもよい炭素原子、酸素原子、硫黄原子、N−R1で表される窒素原子、C=O、C=S、C=NR2のいずれか1種を表し、β−ジケトン構造とともに5員環構造または6員環構造の環状β−ジケトン構造を形成する。ここで、R1は、水素原子、直鎖または分岐のアルキル基、環状アルキル基、アラルキル基、アリール基、複素環基、−COR3で表されるアシル基、−NR4R5で表されるアミノ基のいずれか1種を表す。R2は、水素原子、直鎖または分岐のアルキル基、アリール基を表す。R3は、炭化水素基または複素環基を表す。R4、R5は、水素原子、炭化水素基または複素環基を表す。尚、これらのアルキル鎖部分やアラルキル基のアルキル鎖部分は、前述した置換アルキル鎖と同様な置換基で置換されてもよい。
【0023】
環状β−ジケトン構造の具体例としては、例えば、シクロヘキサンジオン、メルドラム酸、シクロペンタジオン、ピラゾリジンジオン、テトロン酸、テトラム酸、バルビツール酸、チオバルビツール酸、インダンジオン、4−ヒドロキシ−α−ピロン、4−ヒドロキシ−α−ピリドン、4−ヒドロキシクマリン、4−ヒドロキシカルボスチリルを表す構造等が挙げられる。
【0024】
ここで、X、X’、Y、Y’、Zとして各々選ばれる組み合わせ、並び方は特に制限されるものではないが、各々単結合で結ばれる場合、例えば下記に示す構造が挙げられる。
【0025】
【化4】
【0026】
X、X’、Y、Y’、Zが炭素原子を表す場合、水素原子を除く置換基として、さらにアルキル鎖を有していても良い。この場合、アルキル鎖は1種、同種のものが2種、異種のものとの組み合わせでも良い。また、炭素原子の先で環状になり、スピロ環を形成してもよい。このような構造の例として、下記に示すように、X、Zを酸素原子、Yを炭素原子とした場合に、置換基としてアルキル鎖を導入した場合の例を示す。
【0027】
【化5】
【0028】
置換基としてのアルキル鎖の炭素数は1〜16程度が好ましい。置換基としてのアルキル鎖の長さが過度に長いと、生成物が固体化しにくい傾向があり、単位重量あたりの吸光度を表すグラム吸光係数が低下する傾向がある。
【0029】
また、X、X’、Y、Y’、Zが炭素原子またはN−R1で表される窒素原子の場合、隣接する両者の結合は単結合であっても二重結合であってもよい。このように不飽和結合を有する構造としては、例えば、下記に示すような構造が挙げられる。
【0030】
【化6】
【0031】
また、X、X’、Y、Y’、Zが炭素原子、N−R1で表される窒素原子、C=NR2の場合、隣接するもの同士で互いに縮合し、飽和または不飽和の炭化水素環あるいは複素環を形成してもよい。このような構造としては例えば、下記に示すような構造が挙げられる。
【0032】
【化7】
【0033】
これら縮合構造の中で好ましい構造としては、飽和または不飽和の5員環〜7員環の炭化水素環または複素環であり、中でも特に好ましいのは、隣接するX、X’、Y、Y’、Zがいずれも炭素原子で、6員環の飽和または不飽和の炭化水素環を形成する場合が挙げられる。
【0034】
このようなX、X’、Y、Y’、Zで表される構造として特に好ましい構造は、下記に示されるシクロヘキサンジオン、メルドラム酸、シクロペンタジオン、ピラゾリジンジオン、テトロン酸、テトラム酸、バルビツール酸、チオバルビツール酸、インダンジオン、4−ヒドロキシ−α−ピロン、4−ヒドロキシ−α−ピリドン、ジケトピリミジン、4−ヒドロキシクマリン、4−ヒドロキシカルボスチリルが挙げられる。
【0035】
【化8】
【0036】
(ジアゾ成分)
次に、ジアゾ成分について説明する。
一般式[I]または一般式[II]において、ジアゾ成分における環Aは、環Aが結合している炭素原子及び窒素原子とともに形成される含窒素複素芳香環を表す。含窒素複素芳香環の構造は、配位可能な位置に窒素原子を有していれば単環でも縮合環でも良い。芳香環としては、例えば、以下に示す含窒素複素芳香環が挙げられる。
【0037】
【化9】
【0038】
上述した含窒素複素芳香環中のD1〜D9は、各々独立に、水素原子、炭素数1〜炭素数6の直鎖または分岐のアルキル基、炭素数3〜炭素数9の環状アルキル基、炭素数7〜炭素数12のアラルキル基、―COR3で表されるアシル基のいずれか1種を表す。
【0039】
これらの構造において、環Aの構造としては、吸収波長や溶解性の点から、5員環〜6員環の単環または2縮合環の含窒素複素芳香環が好ましい。その中でも特に好ましいものは、イソキサゾール、トリアゾール、オキサゾール、チアジアゾール、ピラゾール、ピリジン、ピリミジン、イミダゾール、チアゾール、イソチアゾール、ベンゾチアゾール、ベンズイソキサゾール、ベンズオキサゾール、ベンズイミダゾールが挙げられる。
【0040】
一般式[I]、一般式[II]において、環Aは、水素原子を除く任意の置換基を有していてもよい。これらの置換基の例としては、以下のようなものが挙げられる。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−へプチル基等の置換されてもよい炭素数1〜炭素数18の直鎖または分岐のアルキル基;シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、アダマンチル基等の置換されてもよい炭素数3〜炭素数18の環状アルキル基;ビニル基、プロペニル基、ヘキセニル基等の置換されてもよい炭素数2〜炭素数18の直鎖または分岐のアルケニル基;シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等の置換されてもよい炭素数3〜炭素数18の環状アルケニル基;2−チエニル基、2−ピリジル基、4−ピペリジル基、モルホリノ基等の置換されてもよい飽和または不飽和の複素環基;フェニル基、トリル基、キシリル基、メシチル基、ナフチル基等の置換されてもよい炭素数6〜炭素数18のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等の置換されてもよい炭素数7〜炭素数20のアラルキル基;メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基等の置換されてもよい炭素数1〜炭素数18の直鎖または分岐のアルコキシ基;プロペニルオキシ基、ブテニルオキシ基、ペンテニルオキシ基等の置換されてもよい炭素数3〜炭素数18の直鎖または分岐のアルケニルオキシ基;メチルチオ基、エチルチオ基、n−プロピルチオ基、n−ブチルチオ基、sec−ブチルチオ基、tert−ブチルチオ基等の置換されてもよい炭素数1〜炭素数18の直鎖または分岐のアルキルチオ基が挙げられる。
【0041】
さらに、他の具体例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;ニトロ基;シアノ基;メルカプト基;ヒドロキシ基;ホルミル基;−COR3で表されるアシル基;−NR4R5で表されるアミノ基;−NHCOR6で表されるアシルアミノ基;−NHCOOR7で表されるカーバメート基;−COOR8で表されるカルボン酸エステル基;−OCOR9で表されるアシルオキシ基;−CONR10R11で表されるカルバモイル基;−SO2R12で表されるスルホニル基;−SOR13で表されるスルフィニル基;−SO2NR14R15で表されるスルファモイル基;−SO3R16で表されるスルホン酸エステル基;−NHSO2R17で表されるスルホンアミド基が挙げられる。これらの置換基の結合位置は特に限定されず、置換基の数も無置換から複数個まで可能である。複数の置換基を有する場合、同種でも異なってもよい。
【0042】
ここで、前述した置換基において、R3、R6、R7、R8、R9、R12、R13、R16、R17は、炭化水素基または複素環基を表し、R4、R5、R10、R11、R14、R15は、水素原子、炭化水素基、複素環基のいずれか1種を表す。これらは必要に応じて置換されてもよい。
【0043】
このようなR3〜R17で表される炭化水素基とは、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−へプチル基等の炭素数1〜炭素数18の直鎖または分岐のアルキル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、アダマンチル基等の炭素数3〜炭素数18の環状アルキル基、ビニル基、プロペニル基、ヘキセニル基等の炭素数2〜炭素数18の直鎖または分岐のアルケニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等の炭素数3〜炭素数18の環状アルケニル基、ベンジル基、フェネチル基等の炭素数7〜炭素数20のアラルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、メシチル基等の炭素数6〜炭素数18アリール基が挙げられる。これらの基のアルキル鎖部分及びアリール基部分は、後述するR2〜R5のアルキル鎖部分が有し得る置換基でさらに置換されていてもよい。
【0044】
また、R3〜R17で表される複素環基は、4−ピペリジル基、モルホリノ基、2−モルホリニル基、ピペラジル基等の飽和複素環;2−フリル基、2−ピリジル基、2−チアゾリル基、2−キノリル基等の芳香族複素環が挙げられる。これらは複数のヘテロ原子を含んでいても、さらに置換基を有していてもよく、また結合位置も問わない。複素環としては、5員環〜6員環の飽和複素環、5員環〜6員環の単環及びその2縮合環の芳香族複素環が好ましい構造である。
【0045】
次に、前述した、アシル基、アミノ基、アシルアミノ基、カーバメート基、カルボン酸エステル基、アシルオキシ基、カルバモイル基、スルホニル基、スルフィニル基、スルファモイル基、スルホン酸エステル基、スルホンアミド基について、具体的な化合構造を例示する。
アシル基(−COR11)としては、以下の構造の官能基等が挙げられる。
【0046】
【化10】
【0047】
アミノ基(−NR12R13)としては、以下の構造の官能基等が挙げられる。
【0048】
【化11】
【0049】
アシルアミノ基(−NHCOR14)としては、以下の構造の官能基等が挙げられる。
【0050】
【化12】
【0051】
カーバメート基(−NHCOOR15)としては、以下の構造の官能基等が挙げられる。
【0052】
【化13】
【0053】
カルボン酸エステル基(−COOR16)としては、以下の構造の官能基等が挙げられる。
【0054】
【化14】
【0055】
アシルオキシ基(−OCOR17)としては、以下の構造の官能基等が挙げられる。
【0056】
【化15】
【0057】
カルバモイル基(−CONR18R19)としては、以下の構造の官能基等が挙げられる。
【0058】
【化16】
【0059】
スルホニル基(−SO2R20)としては、以下の構造の官能基等が挙げられる。
【0060】
【化17】
【0061】
スルフィニル基(−SOR21)としては、以下の構造の官能基等が挙げられる。
【0062】
【化18】
【0063】
スルファモイル基(−SO2NR22R23)としては、以下の構造の官能基等が挙げられる。
【0064】
【化19】
【0065】
スルホン酸エステル基(−SO3R24)としては、以下の構造の官能基等が挙げられる。
【0066】
【化20】
【0067】
スルホンアミド基(−NHSO2R25)としては、以下の構造の官能基等が挙げられる。
【0068】
【化21】
【0069】
前述した一般式[I]または一般式[II]において、置換基としての直鎖または分岐のアルキル基、環状アルキル基、直鎖または分岐のアルケニル基、環状アルケニル基、直鎖または分岐のアルコキシ基、直鎖または分岐のアルキルチオ基と、R3〜R17が示すアルキル基のアルキル鎖部分とは、さらに置換基を有することがある。このような置換基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基等の炭素数1〜炭素数10のアルコキシ基;メトキシメトキシ基、エトキシメトキシ基、プロポキシメトキシ基、エトキシエトキシ基、プロポキシエトキシ基、メトキシブトキシ基等の炭素数2〜炭素数12のアルコキシアルコキシ基;メトキシメトキシメトキシ基、メトキシメトキシエトキシ基、メトキシエトキシメトキシ基、エトキシエトキシメトキシ基等の炭素数3〜炭素数15のアルコキシアルコキシアルコキシ基;フェノキシ基、トリルオキシ基、キシリルオキシ基、ナフチルオキシ基等の炭素数6〜炭素数12のアリールオキシ基;アリルオキシ基、ビニルオキシ基等の炭素数2〜炭素数12のアルケニルオキシ基等が例示される。
【0070】
さらに、他の置換基として、2−チエニル基、2−ピリジル基、4−ピペリジル基、モルホリノ基等の複素環基;シアノ基;ニトロ基;ヒドロキシル基;メルカプト基;メチルメルカプト基、エチルメルカプト基等のアルキルチオ基;アミノ基、N,N−ジメチルアミノ基、N,N−ジエチルアミノ基等の炭素数1〜炭素数10のアルキルアミノ基;メチルスルホニルアミノ基、エチルスルホニルアミノ基、n−プロピルスルホニルアミノ基等の炭素数1〜炭素数6のアルキルスルホニルアミノ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;メチルカロボニル基、エチルカルボニル基、イソプロピルカルボニル基等のアルキルカルボニル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル等の炭素数2〜炭素数7のアルコキシカルボニル基;メチルカルボニルオキシ基、エチルカルボニルオキシ基、n−プロピルカルボニルオキシ基、イソプロピルカルボニルオキシ基、n−ブチルカルボニルオキシ基等の炭素数2〜炭素数7のアルキルカルボニルオキシ基;メトキシカルボニルオキシ基、エトキシカルボニルオキシ基、n−プロポキシカルボニルオキシ基、イソプロポキシカルボニルオキシ基、n−ブトキシカルボニルオキシ基等の炭素数2〜炭素数7のアルコキシカルボニルオキシ基等が挙げられる。
【0071】
ジアゾ成分における環Aが有する置換基としては、特に限定されるものではないが、合成の容易さや塗布溶媒への溶解性等の点から、好ましいものとしては、水素原子、炭素数1〜炭素数12の直鎖または分岐のアルキル基、炭素数3〜炭素数10の環状アルキル基、炭素数2〜炭素数12の直鎖または分岐のアルケニル基、炭素数7〜炭素数18のアラルキル基、炭素数1〜炭素数12の直鎖または分岐のアルコキシ基、炭素数1〜炭素数12の直鎖または分岐のアルキルチオ基、炭素数6〜炭素数18のアリール基、飽和または不飽和の複素環基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、メルカプト基、ヒドロキシ基、ホルミル基、−COR11で表されるアシル基、−NR4R5で表されるアミノ基;−NHCOR6で表されるアシルアミノ基;−NHCOOR7で表されるカーバメート基;−COOR8で表されるカルボン酸エステル基;−OCOR9で表されるアシルオキシ基;−CONR10R11で表されるカルバモイル基;−SO2R12で表されるスルホニル基;−SOR13で表されるスルフィニル基;−SO2NR14R15で表されるスルファモイル基;−SO3R16で表されるスルホン酸エステル基;−NHSO2R17で表されるスルホンアミド基が挙げられる。
【0072】
一般式[I]または一般式[II]で表されるアゾ化合物の分子量は、1000以下が好ましく、700以下が特に好ましい。分子量が過度に大きいと、グラム吸光係数が減少し、色素の量に対して吸収が小さくなるのであまり好ましくはない。
一般式[I]または一般式[II]で表されるアゾ化合物の好ましい例としては、下記に示す化合物((1)〜(189))が挙げられる。
【0073】
【化22】
【0074】
【化23】
【0075】
【化24】
【0076】
【化25】
【0077】
【化26】
【0078】
【化27】
【0079】
【化28】
【0080】
【化29】
【0081】
【化30】
【0082】
【化31】
【0083】
【化32】
【0084】
【化33】
【0085】
【化34】
【0086】
【化35】
【0087】
【化36】
【0088】
【化37】
【0089】
【化38】
【0090】
(金属)
次に、一般式[I]または一般式[II]で示すアゾ化合物と配位して金属錯体化合物である含金属環状β−ジケトンアゾ化合物を形成する金属について説明する。
一般式[I]または一般式[II]で示すアゾ化合物と配位して含金属環状β−ジケトンアゾ化合物を形成する金属としては、アゾ化合物との配位形成能力があれば特に種類は問わず、遷移元素でも典型元素でもよく、またその酸化数も問わない。また、含金属環状β−ジケトンアゾ化合物における金属とアゾ化合物との比も特に限定されず、アゾ化合物及び金属以外に、電荷を有する対イオンを含む形で錯体を形成してもよい。このような金属としては、例えば、周期表の7A族、8族、1B族及び2B族から選ばれる金属が挙げられる。これらの中でも、ニッケル、コバルト、銅、鉄、亜鉛、マンガン、白金、パラジウム等が好ましい。
【0091】
(金属錯体化合物)
前述したように、一般式[I]または一般式[II]で示すアゾ化合物は、アゾ化合物との配位形成能力を有する金属と配位して、金属錯体化合物を形成する。アゾ化合物と金属とが形成する錯体構造において、好ましい構造としては、アゾ化合物が(−1)価の電荷を有する3座配位子となりやすいため、錯体の形成しやすさから、2価の遷移金属1に対しアゾ化合物2の割合で配位した構造(6配位構造)が好ましい。中でも特に、ニッケル、コバルト、銅、鉄、亜鉛、マンガン等の2価の遷移金属との配位構造が好ましい。また、配位子として複数種のアゾ化合物が金属に配位した含金属環状β−ジケトンアゾ化合物でもよく、また記録層に複数種の含金属環状β−ジケトンアゾ化合物を含有していてもよい。
【0092】
このような金属錯体化合物としては、例えば、以下に示すものが挙げられる。即ち、メルドラム酸系カップラー成分と、イソキサゾール、ベンズイソキサゾール、ピラゾール、トリアゾール、イミダゾール、ベンズイミダゾール、チアゾール、ベンゾチアゾールチアジアゾール、ピリジンから選ばれるジアゾ成分と、から成るアゾ化合物を配位子とする金属錯体化合物;テトロン酸系カップラー成分と、イソキサゾール、ベンズイソキサゾール、ピラゾール、トリアゾール、イミダゾール、ベンズイミダゾール、チアゾール、ベンゾチアゾールチアジアゾール、ピリジンから選ばれるジアゾ成分と、から成るアゾ化合物を配位子とする金属錯体化合物;ヒドロキシクマリン系カップラー成分と、イソキサゾール、ベンズイソキサゾール、ピラゾール、トリアゾール、イミダゾール、ベンズイミダゾール、チアゾール、ベンゾチアゾールチアジアゾール、ピリジンから選ばれるジアゾ成分と、から成るアゾ化合物を配位子とする金属錯体化合物;ヒドロキシカルボスチリル系カップラー成分と、イソキサゾール、ベンズイソキサゾール、ピラゾール、トリアゾール、イミダゾール、ベンズイミダゾール、チアゾール、ベンゾチアゾールチアジアゾール、ピリジンから選ばれるジアゾ成分と、から成るアゾ化合物を配位子とする金属錯体化合物;インダンジオン系カップラー成分と、イソキサゾール、ベンズイソキサゾール、ピラゾール、トリアゾール、ベンズイミダゾールから選ばれるジアゾ成分と、から成るアゾ化合物を配位子とする金属錯体化合物;バルビツール酸系カップラー成分と、イソキサゾール、ベンズイソキサゾール、ピラゾール、トリアゾール、ベンズイミダゾールから選ばれるジアゾ成分と、から成るアゾ化合物を配位子とする金属錯体化合物;チオバルビツール酸系カップラー成分と、イソキサゾール、ベンズイソキサゾール、ピラゾール、トリアゾール、ベンズイミダゾールから選ばれるジアゾ成分と、から成るアゾ化合物を配位子とする金属錯体化合物等が挙げられる。このように、ジアゾ成分とカップラー成分とを適宜組み合わせることにより、金属錯体化合物の吸収帯の波長や吸光度、溶解性を所望のものに調整することができる可能性がある。
【0093】
(光学記録媒体)
次に、本実施の形態が適用される光学記録媒体について説明する。本実施の形態が適用される光学記録媒体は、少なくとも、基板と、一般式[I]または一般式[II]で表されるアゾ化合物に金属が配位した含金属環状β−ジケトンアゾ化合物(以下、単に、「含金属環状β−ジケトンアゾ化合物」と記すことがある。)を含む記録層とを有する。尚、必要に応じて、さらに下引き層、反射層、保護層等を設けても良い。
【0094】
図1は、本実施の形態が適用される光学記録媒体100の第1の実施の形態(この例では、CD−Rを示す。)を説明する図である。図1に示される光学記録媒体100は、案内溝11を有する光透過性材料からなる基板10と、基板10上に設けられた情報記録層20とを有している。また、情報記録層20は、記録層21と、記録層21上に積層された反射層22及び保護層23とが順番に積層されている。光学記録媒体100は、基板10側から照射されるレーザ光により、情報の記録及び/または再生が行われる。尚、説明の便宜上、光学記録媒体100において、保護層23が存在する側を上方、基板10が存在する側を下方とし、これらの方向に対応する各層の各面を、それぞれ各層の上面及び下面としている。
【0095】
(基板10)
基板10は、基本的に記録光及び再生光の波長において透明な材料であれば、様々な材料を使用することができる。具体的には、例えば、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリオレフィン系樹脂(特に、非晶質ポリオレフィン)、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン樹脂、エポキシ樹脂等の樹脂;ガラスが挙げられる。また、ガラス上に光硬化性樹脂等の放射線硬化性樹脂からなる樹脂層を設けた構造が挙げられる。中でも、高生産性、コスト、耐吸湿性等の観点からは、射出成型法にて使用されるポリカーボネート樹脂、耐薬品性及び耐吸湿性等の観点からは、非晶質ポリオレフィンが好ましい。さらに、高速応答等の観点からは、ガラスが好ましい。樹脂製の基板10を使用した場合または記録層21と接する側(上側)に樹脂層を設けた基板10を使用した場合には、上面に、記録再生光の案内溝やピットを形成してもよい。案内溝の形状としては、光学記録媒体100の中心を基準とした同心円状の形状やスパイラル状の形状が挙げられる。スパイラル状の案内溝を形成する場合には、溝ピッチが0.2μm〜1.2μm程度であることが好ましい。
【0096】
(記録層21)
記録層21は、基板10の上側に直接または必要に応じて基板10上に設けた下引き層等の上側に形成され、一般式[I]または一般式[II]で表されるアゾ化合物に金属が配位した含金属環状β−ジケトンアゾ化合物が含まれる。記録層21の成膜方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、ドクターブレード法、キャスト法、スピンコート法、浸漬法等、一般に行なわれている様々な薄膜形成法が挙げられる。量産性やコストの観点からは、スピンコート法が好ましく、均一な厚さの記録層21が得られるという観点からは、塗布法よりも真空蒸着法等の方が好ましい。スピンコート法による成膜の場合、回転数は500rpm〜15000rpmが好ましい。また、必要に応じて、スピンコートの後に、加熱する、溶媒蒸気にあてる等の処理を施しても良い。
【0097】
ドクターブレード法、キャスト法、スピンコート法、浸漬法等の塗布法により記録層21を形成する場合に、含金属環状β−ジケトンアゾ化合物を溶解させて基板10に塗布するために使用する塗布溶媒は、基板10を侵食しない溶媒であれば特に限定されない。具体的には、例えばジアセトンアルコール、3−ヒドロキシ−3−メチル−2−ブタノン等のケトンアルコール系溶媒;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等のセロソルブ系溶媒;n−ヘキサン、n−オクタン等の鎖状炭化水素系溶媒;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、n−ブチルシクロヘキサン、tert−ブチルシクロヘキサン、シクロオクタン等の環状炭化水素系溶媒;テトラフルオロプロパノール、オクタフルオロペンタノール、ヘキサフルオロブタノール等のパーフルオロアルキルアルコール系溶媒;乳酸メチル、乳酸エチル、2−ヒドロキシイソ酪酸メチル等のヒドロキシカルボン酸エステル系溶媒等が挙げられる。
【0098】
真空蒸着法を用いる場合には、例えば、含金属環状β−ジケトンアゾ化合物と、必要に応じて他の色素や各種添加剤等の記録層成分とを、真空容器内に設置されたるつぼに入れ、この真空容器内を適当な真空ポンプで10−2Pa〜10−5Pa程度にまで排気した後、るつぼを加熱して記録層成分を蒸発させ、るつぼと向き合って置かれた基板上に蒸着させることによって、記録層21を形成する。
【0099】
また、記録層21には、含金属環状β−ジケトンアゾ化合物に加えて、安定性や耐光性の向上のために、様々な添加剤として、例えば、遷移金属キレート化合物(例えば、アセチルアセトナートキレート、ビスフェニルジチオール、サリチルアルデヒドオキシム、ビスジチオ−α−ジケトン等)等の一重項酸素クエンチャーを含有させたり、記録感度の向上のために、金属系化合物等の記録感度向上剤を含有させたりしても良い。ここで、金属系化合物とは、遷移金属等の金属が原子、イオン、クラスター等の形で化合物に含まれるものを言い、例えばエチレンジアミン系錯体、アゾメチン系錯体、フェニルヒドロキシアミン系錯体、フェナントロリン系錯体、ジヒドロキシアゾベンゼン系錯体、ジオキシム系錯体、ニトロソアミノフェノール系錯体、ピリジルトリアジン系錯体、アセチルアセトナート系錯体、メタロセン系錯体、ポルフィリン系錯体のような有機金属化合物が挙げられる。金属原子としては特に限定されないが、遷移金属であることが好ましい。
【0100】
なお、記録層21には、必要に応じて、含金属環状β−ジケトンアゾ化合物を複数種類併用しても良い。さらに、記録層21には、含金属環状β−ジケトンアゾ化合物に加え、必要に応じて他系統の色素を併用することもできる。他系統の色素としては、主として記録用レーザ光の発振波長域に適度な吸収を有するものであればよく、特に制限されない。また、CD−R等に使用され、770nm〜830nmの波長帯域中に発振波長を有する近赤外レーザ光を用いた記録・再生に適する色素や、DVD−R等に使用され、620nm〜690nmの波長帯域中に発振波長を有する赤色レーザ光を用いた記録・再生に適する色素等を、含金属環状β−ジケトンアゾ化合物と併用して記録層21に含有させることにより、異なる波長帯域に属する複数種のレーザ光を用いた記録・再生に対応する光学記録媒体100を製造することもできる。
【0101】
含金属環状β−ジケトンアゾ化合物以外の他系統の色素としては、含金属アゾ系色素、ベンゾフェノン系色素、フタロシアニン系色素、ナフタロシアニン系色素、シアニン系色素、アゾ系色素、スクアリリウム系色素、含金属インドアニリン系色素、トリアリールメタン系色素、メロシアニン系色素、アズレニウム系色素、ナフトキノン系色素、アントラキノン系色素、インドフェノール系色素、キサンテン系色素、オキサジン系色素、ピリリウム系色素等が挙げられる。
【0102】
さらに、必要に応じて、バインダー、レベリング剤、消泡剤等を併用することもできる。好ましいバインダーとしては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ニトロセルロース、酢酸セルロース、ケトン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリビニルブチラール、ポリカーボネート、ポリオレフィン等が挙げられる。
【0103】
記録層21の膜厚は、記録方法等により適した膜厚が異なる為、特に限定するものではないが、記録を可能とするためにはある程度の膜厚が必要とされるため、通常、少なくとも1nm以上であり、好ましくは5nm以上である。但しあまり厚すぎても記録が良好に行えなくなるおそれがあり、通常300nm以下、好ましくは200nm以下、より好ましくは100nm以下である。
【0104】
反射層22は、記録層21上に形成されている。反射層22の膜厚は、好ましくは50nm〜300nmである。反射層22の材料としては、再生光の波長において充分高い反射率を有する材料、例えば、Au、Al、Ag、Cu、Ti、Cr、Ni、Pt、Ta、Pd等の金属を、単独あるいは合金にして用いることができる。これらの中でもAu、Al、Agは反射率が高く、反射層22の材料として適している。また、これらの金属を主成分とした上で、加えて他の材料を含有させても良い。ここで主成分とは、含有率が50%以上のものをいう。
【0105】
主成分以外の他の材料としては、例えば、Mg、Se、Hf、V、Nb、Ru、W、Mn、Re、Fe、Co、Rh、Ir、Cu、Zn、Cd、Ga、In、Si、Ge、Te、Pb、Po、Sn、Bi、Ta、Ti、Pt、Pd、Nd等の金属及び半金属を挙げることができる。中でもAgを主成分とするものは、コストが安い点、高反射率が出やすい点、後述する印刷受容層を設けた場合に地色が白く美しいものが得られる点等から、特に好ましい。
【0106】
例えば、AgにAu、Pd、Pt、Cu、及びNdから選ばれる一種以上を0.1原子%〜5原子%程度含有させた合金は、高反射率、高耐久性、高感度且つ低コストであり好ましい。具体的には、例えば、AgPdCu合金、AgCuAu合金、AgCuAuNd合金、AgCuNd合金等である。金属以外の材料としては、低屈折率薄膜と高屈折率薄膜を交互に積み重ねて多層膜を形成し、これを反射層22として用いることも可能である。
【0107】
反射層22を形成する方法としては、例えば、スパッタリング法、イオンプレーティング法、化学蒸着法、真空蒸着法等が挙げられる。また、基板10の上や反射層22の下に、反射率の向上、記録特性の改善、密着性の向上等のために、公知の無機系または有機系の中間層、接着層を設けることもできる。
【0108】
保護層23は、反射層22の上に形成される。保護層23の材料は、反射層22を外力から保護するものであれば、特に限定されない。有機物質の材料としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、電子線硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂等を挙げることができる。
【0109】
また、無機物質としては、酸化ケイ素、窒化ケイ素、MgF2、SnO2等が挙げられる。熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等を用いる場合は、適当な溶剤に溶解して調製した塗布液を反射層22の上に塗布して乾燥させれば、保護層23を形成することができる。紫外線硬化性樹脂を用いる場合は、そのまま反射層22の上に塗布するか、または適当な溶剤に溶解して調製した塗布液を反射層22の上に塗布し、紫外線光を照射して硬化させることによって、保護層23を形成することができる。
【0110】
紫外線硬化性樹脂としては、例えば、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート等のアクリレート系樹脂を用いることができる。これらの材料は、単独で用いても、複数種を混合して用いても良い。また、保護層は、単層として形成しても、多層として形成してもよい。
【0111】
保護層23の形成方法としては、記録層21と同様に、スピンコート法やキャスト法等の塗布法や、スパッタリング法や化学蒸着法等の方法が用いられるが、中でもスピンコート法が好ましい。保護層23の膜厚は、その保護機能を果たすためにはある程度の厚みが必要とされるため、一般に0.1μm以上であり、好ましくは3μm以上である。但しあまり厚すぎると、効果が変わらないだけでなく保護層23の形成に時間がかかったりコストが高くなる虞があるので通常100μm以下であり、好ましくは30μm以下である。
【0112】
上述したように、光学記録媒体100の層構造として、基板10、記録層21、反射層22、保護層23をこの順に積層して成る構造を例に採って説明したが、この他の層構造を採っても構わない。例えば、上例の層構造における保護層23の上面に、または上例の層構造から保護層23を省略して反射層22の上面に、さらに別の基板を貼り合わせてもよい。この際の基板は、何ら層を設けていない基板そのものであってもよく、貼り合わせ面またはその反対面に反射層等任意の層を有するものでも良い。また、同じく上例の層構造を有する光学記録媒体や、上例の層構造から保護層を省略した光学記録媒体を、それぞれの保護層及び/または反射層の上面を相互に対向させて2枚貼り合わせてもよい。
【0113】
次に、光学記録媒体の第2の実施の形態について説明する。
図2は、本実施の形態が適用される光学記録媒体200の第2の実施の形態(この例では、膜面入射型の媒体)を説明する図である。第1の実施の形態の光学記録媒体100と共通する部分は同じ符号を付し、説明を省略する。
【0114】
図2に示される光学記録媒体200は、所定の案内溝31を有する基板30と、基板30上に設けられた情報記録層40とを有している。また、情報記録層40は、反射層42と、反射層42上に積層された記録層41及び保護被膜43とが順番に積層されている。光学記録媒体200は、保護被膜43側から照射されるレーザ光により、情報の記録・再生が行われる。
【0115】
保護被膜43は、フィルムまたはシート状のものを接着剤によって貼り合わせてもよく、また、前述の保護層23(図1)と同様の材料を用い、成膜用の塗液を塗布し硬化または乾燥することにより形成しても良い。保護被膜43の厚さは、その保護機能を果たすためにはある程度の厚さが必要とされるため、一般に、0.1μm以上であり、好ましくは3μm以上である。但しあまり厚すぎると、効果が変わらないだけでなく保護被膜43の形成に時間がかかったりコストが高くなるおそれがあるので通常300μm以下であり、好ましくは200μm以下である。尚、記録層41、反射層42等の各層は通常、前述の光学記録媒体100(図1)と同様のものが用い得る。但し、本層構成では基板30は透明である必要はなく、従って、前述の材料以外にも、不透明な樹脂、セラミック、金属(合金を含む)等が用いられる。このような層構成においても、上記各層間には、本発明の特性を損なわない限り、必要に応じて任意の層を有してよい。
【0116】
ところで、光学記録媒体100,200の記録密度を上げるための一つの手段として、対物レンズの開口数(NA)を上げることがある。これにより情報記録面に集光される光スポットを微小化できる。しかしながら、対物レンズの開口数(NA)を上げると、記録・再生を行うためにレーザ光を照射した際に、光学記録媒体100,200の反り等に起因する光スポットの収差が大きくなりやすいため、良好な記録再生信号が安定して得られない場合がある。このような収差は、レーザ光が透過する透明基板や保護被膜の膜厚が厚いほど大きくなりやすいので、収差を小さくするためには基板や保護被膜をできるだけ薄くするのが好ましい。ただし、通常、基板10,30は光学記録媒体100,200の強度を確保するためにある程度の厚みを要するので、この場合、光学記録媒体200の構造(基板30、反射層42、記録層41、保護被膜43なる基本的層構成の光学記録媒体200)を採用するのが好ましい。光学記録媒体100の基板10を薄くするのに比べると、光学記録媒体200の保護被膜43は薄くしやすいため、好ましくは光学記録媒体200を用いる。
【0117】
但し、光学記録媒体100の構造(基板10、記録層21、反射層22、保護層23なる基本的層構成の光学記録媒体100)であっても、記録・再生用レーザ光が通過する透明な基板10の厚さを50μm〜300μm程度にまで薄くすることにより、収差を小さくして使用できるようになる。また、他の各層の形成後に、記録・再生レーザ光の入射面(通常は、基板10の下面)に、表面の保護やゴミ等の付着防止の目的で、紫外線硬化樹脂層や無機系薄膜等を成膜形成してもよく、記録・再生レーザ光の入射面ではない面(通常は、反射層22や保護層23の上面)に、インクジェット、感熱転写等の各種プリンタあるいは各種筆記具を用いて記入や印刷が可能な印刷受容層を設けてもよい。
【0118】
本実施の形態が適用される光学記録媒体100,200において、情報の記録・再生のために使用するレーザ光は、高密度記録を実現する観点から波長が短いほど好ましいが、特に波長350nm〜530nmのレーザ光が好ましい。かかるレーザ光の代表例として、中心波長405nm、410nm、515nmのレーザ光が挙げられる。
【0119】
波長350nm〜530nmのレーザ光は、波長405nm、410nmの青色または515nmの青緑色の高出力半導体レーザ光を使用することによって得られる。また、その他にも、例えば、(a)基本発振波長が740nm〜960nmの連続発振可能な半導体レーザ光、及び(b)半導体レーザ光によって励起される基本発振波長740nm〜960nmの連続発振可能な固体レーザ光の何れかの発振レーザ光を、第二高調波発生素子(SHG)により波長変換することによっても得られる。
【0120】
尚、SHGとしては、反転対称性を欠くピエゾ素子であればいかなるものでもよいが、KDP、ADP、BNN、KN、LBO、化合物半導体等が好ましい。第二高調波の具体例として、基本発振波長が860nmの半導体レーザ光の場合には、その基本発振波長の倍波である430nm、また、半導体レーザ光励起の固体レーザ光の場合には、CrドープしたLiSrAlF6結晶(基本発振波長860nm)からの倍波の430nm等が挙げられる。
【0121】
本実施の形態が適用される光学記録媒体100,200に、情報の記録を行なう際、光学記録媒体100の場合は、記録層21に対して、基板10側から基板10を透過させ、また、光学記録媒体200の場合は、記録層41に対して、保護被膜43側から保護被膜43を透過させ、通常、0.4μm〜0.6μm程度に集束したレーザ光を照射する。記録層21,41のレーザ光が照射された部分は、レーザ光のエネルギーを吸収することによって分解、発熱、溶解等の熱的変形を起こすため、光学的特性が変化する。記録層21,41に記録された情報の再生を行なう際には、同じく記録層21,41に対して(通常は、記録時と同じ方向から)、よりエネルギーの低いレーザ光を照射する。記録層21,41において、光学的特性の変化が起きた部分(すなわち、情報が記録された部分)の反射率と、変化が起きていない部分の反射率との差を読みとることにより、情報の再生が行なわれる。
【実施例】
【0122】
以下に実施例に基づき、本実施の形態をさらに具体的に説明するが、尚、本実施の形態はその要旨を越えない限り、これら実施例によって限定されるものではない。
【0123】
(合成方法)
含金属環状β−ジケトンアゾ化合物の合成方法については特に限定されないが、通常、次のような合成方法が挙げられる。即ち、先ず、芳香族複素環アミンを、酸性溶液中で、亜硝酸ナトリウムやニトロシル硫酸を添加してジアゾ化してジアゾ成分を合成する。次に、このジアゾ成分を0℃付近でカップラー成分を溶解した溶液に滴下してアゾ化合物を合成する。続いて、合成したアゾ化合物を適当な溶媒に溶かした溶液中に金属塩の溶液を滴下し、金属錯体化合物を合成する。下記の例では、ジアゾ化合物と2価の金属イオンとの、2:1の金属錯体化合物を合成した場合の構造を示している。
【0124】
【化39】
【0125】
(実施例1)
(a)合成例
下記構造式[1]で示される3−アミノ−5−メチルイソキサゾール2.45g(0.025mol−東京化成株式会社製)を酢酸25ml、プロピオン酸8.5ml、濃硫酸1ml溶液中に撹拌溶解させ、0℃〜5℃に冷却した。ここに43%ニトロシル硫酸8.85gを10℃以下を保つように滴下してジアゾ液を調製した。一方、別の容器に下記[2]で表される1,3−ジエチル−2−チオバルビツール酸5g(0.025mol−Aldrich品)、酢酸ナトリウム7.5g、尿素1gをメタノール100ml、水20ml中に撹拌溶解させ、塩酸でpHを5に調整して0℃〜5℃に冷却した。
【0126】
【化40】
【0127】
この溶液に、前述したジアゾ液を、5℃以下で、14%アンモニア水溶液でpH4〜pH5に保ちながら滴下した。滴下終了後、30分撹拌を行い、反応液を濾過した。濾過物は無機塩を除くために水500mlに懸濁させ、30分程度撹拌後濾過した。さらに濾過物をメタノール200mlに懸濁させ撹拌、濾過してこれを真空中で加熱乾燥させ、アゾ化合物6.847g(収率88.5%)を得た。このアゾ化合物のMS測定(EI)を行い、目的化合物と一致するm/z=309を確認した(例示化合物(115))。
【0128】
また、例示化合物(115)の1H−NMR(CDCl3(δ=ppm)MHz)を測定したところ、1.31(6H、t、1,3N−CH2CH3)、2.46(3H、s、5’−CH3)、4.55(4H、m、1,3N−CH2CH3)、6.51(1H、s、4’−H)となり、目的の化合物と一致するピークであった。例示化合物(115)のクロロホルム中でのλmax=383.5nm、モル吸光係数は3.9×104であった。図3に、例示化合物(115)の溶液スペクトルを示す。
【0129】
【化41】
【0130】
次に、例示化合物(115)1.86g(0.006モル)をテトラハイドロフラン46mlに撹拌溶解し、不溶物が混ざらないように濾過した後、濾液に酢酸ニッケル0.896g(0.0036モル)/メタノール15ml溶液を滴下した。反応液は1時間撹拌後、エバポレーターで真空にして溶媒を留去し固体を析出させ、水50mlを加えて撹拌、濾過を行った。濾過物はイソプロピルエーテルで洗浄し、真空中で加熱乾燥させ、下記構造式[3]で示される化合物1.66g(収率81.7%)を得ることができた(金属錯体化合物(1)とする)。
金属錯体化合物(1)のクロロホルム中のλmax=428nm、モル吸光係数は5.4×104であった。図4に、金属錯体化合物(1)溶液のスペクトルを示す。
【0131】
【化42】
【0132】
(b)光学記録媒体の評価
前述した金属錯体化合物(1)をオクタフルオロペンタノールに溶解し、1wt%に調整した。これを濾過して出来た溶解液を直径120mm、厚さ0.6mmの射出成形型ポリカーボネート樹脂基板上に滴下し、スピナー法により塗布(500rpm)し、塗布後100℃で30分間乾燥した。この塗布膜の最大吸収波長(λmax)は427.5nmであった。図5に、金属錯体化合物(1)を塗布した塗布膜のスペクトルを示す。
【0133】
この金属錯体化合物(1)を塗布したディスクの切片を、耐光性試験機(株式会社東洋精機製作所製:サンテストXLS+)を使用して、Xeランプを63℃、550mWで40時間照射した。その後、Xeランプの照射前のλmaxの吸光度と、Xeランプの照射後のλmaxの吸光度とを紫外線測定器でそれぞれ測定し、Xeランプの照射前のλmaxの吸光度に対するXeランプの照射後のλmaxの吸光度の割合(%)は、55.1%であった。尚、吸光度の数値が大きいほど耐光性が良好である。
【0134】
また、このように形成した塗布膜上に、必要に応じてスパッタリング法にてAg等を製膜して反射層を形成し、さらに紫外線硬化樹脂をスピンコート等にて塗布・紫外線照射により硬化させて保護層を形成して光学記録媒体とすることができる。この光学記録媒体は、塗布膜のλmaxの値より、例えば、中心波長405nmの半導体レーザ光による記録再生が可能である。即ち、含金属環状β―ジケトンアゾ化合物が、青色レーザ光の記録に対して、有効な構造の化合物であることが分かる。
【0135】
(光記録媒体の調製方法及び記録例)
前述の金属錯体化合物(1)をテトラフルオロプロパノールに溶解し、0.9wt%に調整した。これを濾過してできた溶解液をトラックピッチ400nm、溝幅220nm、溝深さ60nmの溝を持つ直径120mm、厚さ0.6mmの射出成型ポリカーボネート樹脂基板に滴下し、スピナー法により塗布した。なお、塗布は、回転数800rpmから7000rpmへ13秒かけて回転数を上げ、7000rpmで2秒間保持して行った。更に75℃で18分間乾燥し、記録層とした。次いで、スパッタリング法にて銀合金を120nmの厚さで成膜し、反射層を形成した。その後、UV硬化性樹脂からなる保護コート剤をスピナー法により塗布し、UV光を照射して厚さ5μmの保護層を形成させた。更に、遅延硬化型接着剤を用いて、保護層のある面に、厚さ0.6mmのポリカーボネート製基板を接着して、評価用の光学記録媒体を調製した。
【0136】
(c)記録例
前述した評価用の光学記録媒体を線速度6.61m/secで回転させながら、波長405nm(対物レンズの開口数NA=0.65)のレーザ光で、8Tマーク/8Tスペースの単一周波数信号を溝上に記録した。なお、Tは、周波数65MHzに対応する基準クロック周期である。記録パルスストラテジーとして、分割パルス数はマーク長をnTとして(n−1)、先頭記録パルス幅2T、後続記録パルス幅0.5T、バイアスパワー3.0mW、再生パワー0.4mW、記録パワーを可変とした。その結果、7.5mWで変調度51%の信号が記録できた。変調度は、パルスストラテジー等記録条件の最適化によって、より大きくなると考えられる。
【0137】
(実施例2)
(a)合成例
下記構造式[4]で示される2−アミノチアゾール3.5g(0.035mol−株式会社東京化成製)を酢酸50ml、リン酸35g、濃硫酸5g溶液中に撹拌溶解させ、0℃〜5℃に冷却した。ここに43%ニトロシル硫酸12.39gを10℃以下を保つように滴下してジアゾ液を調製した。一方、別の容器に下記[5]で表される化合物5.3g(1.05等量−株式会社東京化成製)、酢酸ナトリウム10.5g、尿素1.4gをメタノール140ml、水35ml中に溶解させ、塩酸でpHを5に調整して0℃〜5℃に冷却した。
【0138】
【化43】
【0139】
この溶液に先ほどのジアゾ液を5℃以下で、14%アンモニア水溶液でpH4〜5に保ちながら滴下した。滴下終了後、30分撹拌を行い、反応液を濾過した。濾過物は無機塩を除くために水500mlに懸濁させ、30分程度撹拌、濾過した。さらに濾過物をメタノール150mlに懸濁させ撹拌、濾過してこれを真空中で加熱乾燥させ、アゾ化合物6.458g(収率72.3%)を得た。このアゾ化合物のクロロホルム中のλmax=384.5nm、モル吸光係数は1.7×104であった。
【0140】
このアゾ化合物のMS測定(EI)を行い、目的化合物と一致するm/z=255を確認した。1H−NMR(CDCl3(δ=ppm)MHz)を測定したところ、1.83(6H、s、2、2−CH3)、7.12(1H、d、5’−H)、7.55(1H、d、4’−H)、13.76(1H、s、6−OH)となり、目的の化合物と一致するピークであった(例示化合物(116))。
【0141】
【化44】
【0142】
例示化合物(116)で示される化合物1.53g(0.006モル)をテトラハイドロフラン28mlに撹拌溶解し、不溶物が混ざらないように濾過した後、濾液に酢酸ニッケル4水和物0.9g(0.0036モル)/メタノール16ml溶液を滴下した。反応液は1時間撹拌し、その後濾過をして生成物を除いた。得られた固体は水で洗い、真空中で加熱乾燥させ、下記構造式[6]で示される化合物1.552g(収率91.2%)を得ることができた(金属錯体化合物(2)とする)。金属錯体例示化合物(141)の化合物のクロロホルム中のλmax=420.5nm、モル吸光係数は3.9×104であった。
【0143】
【化45】
【0144】
(b)光学記録媒体の評価
金属錯体化合物(2)をオクタフルオロペンタノールに溶解し、1wt%に調整した。これを濾過して出来た溶解液を直径120mm、厚さ0.6mmの射出成形型ポリカーボネート樹脂基板上に滴下し、スピナー法により塗布し、塗布後100℃で30分間乾燥した。この塗布膜の最大吸収波長(λmax)は423.5nmであった。図6は、金属錯体化合物(2)を塗布した塗布膜のスペクトルを示す。
【0145】
尚、光学記録媒体は以下のとおり調製した。金属錯体化合物(2)を塗布したディスクの切片を、実施例1と同様にして耐光性試験機(株式会社東洋精機製作所製:サンテストXLS+)を使用して、Xeランプを63℃、550mWで40時間照射して耐光性を評価したところ、97.2%であった。
【0146】
前述の金属錯体化合物(2)をテトラフルオロプロパノールに溶解し、0.9wt%に調整した。これを濾過してできた溶解液をトラックピッチ400nm、溝幅220nm、溝深さ60nmの溝を持つ直径120mm、厚さ0.6mmの射出成型ポリカーボネート樹脂基板に滴下し、スピナー法により塗布した。なお、塗布は、回転数800rpmから7000rpmへ13秒かけて回転数を上げ、7000rpmで2秒間保持して行った。更に75℃で18分間乾燥し、記録層とした。次いで、スパッタリング法にて銀合金を120nmの厚さで成膜し、反射層を形成した。その後、UV硬化性樹脂からなる保護コート剤をスピナー法により塗布し、UV光を照射して厚さ5μmの保護層を形成させた。更に、遅延硬化型接着剤を用いて、保護層のある面に、厚さ0.6mmのポリカーボネート製基板を接着して、評価用の光学記録媒体を調製した。
【0147】
(c)記録例
前述した評価用の光学記録媒体を線速度6.61m/secで回転させながら、波長405nm(対物レンズの開口数NA=0.65)のレーザ光で、8Tマーク/8Tスペースの単一周波数信号を溝上に記録した。なお、Tは、周波数65MHzに対応する基準クロック周期である。記録パルスストラテジーとして、分割パルス数はマーク長をnTとして(n−1)、先頭記録パルス幅2T、後続記録パルス幅0.5T、バイアスパワー3.0mW、再生パワー0.4mW、記録パワーを可変とした。その結果、6.5mWで変調度51%の信号が記録できた。変調度は、パルスストラテジー等記録条件の最適化によって、より大きくなると考えられる。
【0148】
(実施例3)
(a)合成例
実施例2で合成した例示化合物(116)1.53g(0.006モル)をテトラハイドロフラン28mlに撹拌溶解し、不溶物が混ざらないように濾過した後、濾液に酢酸コバルト0.9g(0.0036モル)/メタノール16ml溶液を滴下した。反応液は1時間撹拌し、その後濾過をして生成物を濾別した。得られた固体は水で洗い、真空中で加熱乾燥させ、下記構造式[7]で示される化合物1.22g(収率71.6%)を得ることができた。この化合物のクロロホルム中のλmax=417.5nm、モル吸光係数は3.3×104であった(金属錯体化合物(3)とする。)
【0149】
【化46】
【0150】
(b)光学記録媒体の評価
金属錯体化合物(3)をオクタフルオロペンタノールに溶解し、1wt%に調整した。これを濾過して出来た溶解液を、直径120mm、厚さ0.6mmの射出成形型ポリカーボネート樹脂基板上に滴下し、スピナー法により塗布し、塗布後100℃で30分間乾燥した。この塗布膜の最大吸収波長(λmax)は420.5nmであった。図7に、金属錯体化合物(3)を塗布した塗布膜のスペクトルを示す。
【0151】
この金属錯体化合物(3)を塗布したディスクの切片を、実施例1と同様にして耐光性試験機(株式会社東洋精機製作所製:サンテストXLS+)を使用して、Xeランプを63℃、550mWで40時間照射して耐光性を評価したところ、94.1%であった。
【0152】
(光記録媒体の調製方法及び記録例)
前述の金属錯体化合物(3)をテトラフルオロプロパノールに溶解し、0.9wt%に調整した。これを濾過してできた溶解液をトラックピッチ400nm、溝幅220nm、溝深さ60nmの溝を持つ直径120mm、厚さ0.6mmの射出成型ポリカーボネート樹脂基板に滴下し、スピナー法により塗布した。なお、塗布は、回転数800rpmから7000rpmへ13秒かけて回転数を上げ、7000rpmで2秒間保持して行った。更に75℃で18分間乾燥し、記録層とした。次いで、スパッタリング法にて銀合金を120nmの厚さで成膜し、反射層を形成した。その後、UV硬化性樹脂からなる保護コート剤をスピナー法により塗布し、UV光を照射して厚さ5μmの保護層を形成させた。更に、遅延硬化型接着剤を用いて、保護層のある面に、厚さ0.6mmのポリカーボネート製基板を接着して、評価用の光学記録媒体を調製した。
【0153】
(c)記録例
前述した評価用の光学記録媒体を線速度6.61m/secで回転させながら、波長405nm(対物レンズの開口数NA=0.65)のレーザ光で、8Tマーク/8Tスペースの単一周波数信号を溝上に記録した。なお、Tは、周波数65MHzに対応する基準クロック周期である。記録パルスストラテジーとして、分割パルス数はマーク長をnTとして(n−1)、先頭記録パルス幅2T、後続記録パルス幅0.5T、バイアスパワー3.0mW、再生パワー0.4mW、記録パワーを可変とした。その結果、6.4mWで変調度48.4%の信号が記録できた。変調度は、パルスストラテジー等記録条件の最適化によって、より大きくなると考えられる。
【0154】
(実施例4〜実施例151)
以下、前記の合成法と同様の方法で、例示アゾ化合物(115)〜例示アゾ化合物(189)を合成した後、さらに金属錯体化し、実施例1と同様にして調製した塗布膜の吸収スペクトルを測定した。これらの金属錯体化合物の溶液中(クロロホルム)での最大吸収波長、モル吸光係数、塗布膜での最大吸収波長(塗布溶媒はオクタフルオロペンタノールまたはテトラフルオロプロパノールを適宜選択して使用)を測定した。また、これらの塗布膜の耐光性試験を行った。結果を、実施例1〜実施例3と共に表1〜表7に示す。
【0155】
【表1】
【0156】
【表2】
【0157】
【表3】
【0158】
【表4】
【0159】
【表5】
【0160】
【表6】
【0161】
【表7】
【0162】
含金属環状β−ジケトンアゾ化合物の波長は、ジアゾ成分、カップラー成分及び金属イオンの組み合わせで決まり、同一のカップラー成分及び金属であれば、波長が長いジアゾ成分を使うほどより長波長の化合物ができる。また、同様に同一のジアゾ成分及び金属であれば、より長波長のカップラー成分を用いても、長波長の含金属環状β−ジケトンアゾ化合物を合成できる。これらの順番は置換基などにより前後するが、実施例の範囲で図示すると、概ね以下のような順番が見られる。
【0163】
【化47】
【0164】
カップラー成分との組み合わせや金属の種類により変動するが、およその傾向としては耐光性はジアゾ成分に由来する割合が高く、波長的に短いジアゾ成分であるイソキサゾール、トリアゾールが低めでの傾向が見られ、波長的に長いチアゾールやベンゾチアゾールの方が耐光性のよい結果が得られている。そのためより短いカップラー成分と波長の長いジアゾ成分をを用いることでこれらの耐光性の強い化合物を合成することができる。これらのジアゾ成分とカップラー成分の組み合わせ以外にも、ジアゾ成分の置換基や金属の種類により、目的の波長に適した化合物を合成することができる。以上のようにして、例えば、表1に示す含金属環状β−ジケトンアゾ化合物は、波長368.5nm〜482nmの広い範囲をカバーすることができる。
【0165】
また、このように形成した塗布膜上に、必要に応じてスパッタリング法にてAg等を製膜して反射層を形成し、さらに紫外線硬化樹脂をスピンコート等にて塗布・紫外線照射により硬化させて保護層を形成し、光学記録媒体とすることができる。この光学記録媒体は、塗布膜のλmaxの値より、例えば、中心波長405nmの半導体レーザ光による記録再生が可能である。即ち、前記一般式[I]または一般式[II]で示されるアゾ化合物と金属とからなる含金属環状β−ジケトンアゾ化合物が、青色レーザ光の記録に対して、有効な構造の化合物であることが分かる。
【0166】
また、表1〜表7に示す結果から、金属錯体化合物の耐光性は、ジアゾ成分、カップラー成分または金属イオンの種類に影響される傾向がある。例えば、イソキサゾールをジアゾ成分とする場合(実施例1、5、8、23〜27、38、41)、耐光性の最大値は65.2%に留まる。また、カップラー成分が同一の金属錯体化合物を使用した実施例2及び実施例3の場合の耐光性が90%を超えるのに対して、これらとは異なるカップラー成分を有する金属錯体化合物を使用した実施例8の場合は42.9%に留まる。さらに、同一のアゾ化合物に対してCoイオンとの金属錯体化合物を使用する実施例25の耐光性65.2%に対して、Znイオンとの金属錯体化合物を使用する実施例27の耐光性は1.7%に低下する。
【0167】
尚、耐光性が低い金属錯体化合物については、耐光性が良好な他の金属錯体化合物や、例えば、従来CD−R等に使用されている有機色素化合物等を混合することにより、耐光性光を光学記録媒体の実用レベルに向上させることが可能である。
【0168】
また、耐光性が低い金属錯体化合物については、一重項酸素クエンチャー効果をもつ化合物(例えば、アセチルアセトナートキレート、ビスフェニルジチオール、サリチルアルデヒドオキシム、ビスジチオ−α−ジケトン等)を含有させることも効果的である。
【0169】
(比較例1)
比較のため、下記に示される化合物[8]を合成し、光学記録媒体としての評価を行った。
(a)製造例
下記構造式[8]で示される2−アミノ−6−メチルベンゾチアゾール((株)東京化成品)と1−n−ブチル−3−シアノ−4−メチル−6−ヒドロキシ−2−ピリドンとから下記化合物[9]を合成した。化合物[9]のクロロホルム中でのλmaxは453.5nm、モル吸光係数は3.2×104であった。
【0170】
【化48】
【0171】
【化49】
【0172】
この化合物[9]を酢酸ニッケルで含金化し下記化合物[10]を得た。化合物[10]のクロロホルム中でのλmaxは524nm、モル吸光係数は7.4×104であった。
【0173】
【化50】
【0174】
(b)光学記録媒体例
この化合物[10]をオクタフルオロペンタノールに溶解し、1wt%に調整したが、溶解性が低く半分ほど解け残りがあった。これを濾過し、出来た溶解液を直径120mm、厚さ0.6mmの射出成形型ポリカーボネート樹脂基板上に滴下し、スピナー法により塗布(500rpm)し、塗布後100℃で30分間乾燥した。この塗布膜の最大吸収波長(λmax)は542.5nmであった。しかし、波長405nmには吸収がわずかしかなく、中心波長405nmのレーザ光に対して記録が期待できないことが分かる。
【0175】
図8に、化合物[10]の吸収スペクトルを示す。尚、カップラー成分としてメルドラム酸を用いたニッケル錯体(実施例15)のスペクトルと重ねて示した。図8に示すように、化合物[10]は、405nmの吸収が大きい実施例15の錯体化合物と比べ、ジアゾ成分として同一のベンゾチアゾールを用いた含金属アゾ化合物であっても、カップラー成分が異なることにより青色レーザ光の記録に対して不充分な色素化合物であることが分かる。
【0176】
(比較例2)
比較のため、下記に示される化合物[11]を合成し、光学記録媒体としての評価を行った。
(a)製造例
2−アミノ−5−メチル−1,3,4−チアジアゾール((株)東京化成品)を類似の方法でジアゾ化し、実施例1と同様の条件でカップリングして下記化合物[11]を合成した。化合物[11]は、クロロホルム中でのλmaxは409.5nm、モル吸光係数は3.0×104であった。
【0177】
【化51】
【0178】
この化合物[11]を、比較例1と同様に酢酸ニッケルで含金化して下記化合物[12]を合成した。化合物[12]は、クロロホルム中でのλmaxは494nm、モル吸光係数は7.1×104であった。図9に、化合物[12]の吸収スペクトルを示す。尚、カップラー成分としてバルビツール酸を用いたニッケル錯体(実施例32)のスペクトルと重ねて示した。図9に示すように、化合物[12]は、405nmの吸収が大きい実施例32の金属錯体化合物と比べ、青色レーザ光の記録に対して不充分な色素化合物であることが分かる。
【0179】
【化52】
【0180】
(b)光学記録媒体例
この化合物[12]をオクタフルオロペンタノールに溶解し、1wt%に調整したが、溶解性が低くほとんど溶解しなかった。これを濾過し、出来た溶解液を直径120mm、厚さ0.6mmの射出成形型ポリカーボネート樹脂基板上に滴下し、スピナー法により塗布(500rpm)し、塗布後100℃で30分間乾燥した。しかし、溶解性が悪いため塗布膜の吸収スペクトルは得られなかった。
以上の結果から、カップラー成分としてピリドン骨格を用いると、ジアゾ成分としては1,3,4−チアジアゾールでも十分に長く、前項のベンゾチアゾールや、チアゾールも使用できないことが明らかである。
【0181】
(比較例3)
比較のため、鎖状のβ−ジケトンのカップラー成分を用いたものを使用してアゾ化合物の合成を行った。
(a)製造例
下記構造式[13]で示される2−アミノ−4−メチルチアゾール1.4g(0.013mol−(株)東京化成品)を、酢酸6ml、プロピオン酸2ml、濃硫酸1.3ml溶液中に撹拌溶解させ、0℃〜5℃に冷却した。ここに43%ニトロシル硫酸4.6gを10℃以下を保つように滴下してジアゾ液を調製した。
【0182】
一方、別の容器に下記化学式[14]で表されるテノイルトリフルオロアセトン2.8g(1等量−株式会社東京化成品)、酢酸ナトリウム4.3g、尿素0.43gをメタノール50ml、水5ml中に溶解させ、20%NaOH水溶液でpH11に調整して0℃〜5℃に冷却した。この溶液に、前述のジアゾ液を5℃以下で、アンモニア水溶液でpH10に保ちながら滴下した。滴下終了後、30分撹拌を行い、反応液を濾過した。濾液は水にあけて濃塩酸を滴下して溶液を酸性にして反応物を析出させた。これを濾過、水洗いし、真空中で加熱乾燥させ、下記化学式[15]で示される化合物0.96gを、収率21%で得た。
【0183】
図10に、化学式[15]の吸収スペクトルを示す。この化学式[15]で示される化合物のクロロホルム中のλmax=399.5nm、モル吸光係数は1.0×104であった。このように、化学式[15]で示される化合物の収率は低く、モル吸光係数も低いことが分かる。
【0184】
【化53】
【0185】
【化54】
【0186】
(比較例4)
比較のため、同程度λmaxに吸収を持ち、下記に示される化合物[16]の光学記録媒体としての評価を行った。
下記[16]で表される構造式を持つシアニン色素((株)日本感光色素研究所品 NK−1204)のクロロホルム中のλmaxは407.5nm、モル吸光係数は8.2×104であった。この溶液スペクトルを図11に示す。
【0187】
【化55】
【0188】
この化合物[16]をオクタフルオロペンタノールに溶解し、1wt%に調整してこれを濾過し、出来た溶解液を直径120mm、厚さ0.6mmの射出成形型ポリカーボネート樹脂基板上に滴下し、スピナー法により塗布(500rpm)し、塗布後100℃で30分間乾燥した。この塗布膜の最大吸収波長(λmax)は371.5nmであった。このスペクトルを図12に示す。
溶液のスペクトル図11と比較してみると明らかなように、塗布膜のスペクトルが著しく変形している。これは目視では観測できなかったが、ディスク表面上に部分的に結晶化している可能性がある。
この色素を塗布したディスクの切片を用い、実施例1と同様な方法でλmaxの吸光度の割合(耐光性)を評価したところ、18%であった。
【0189】
(比較例5)
同様の比較のため下記に示される化合物[17]の光学記録媒体としての評価を行った。
下記[17]で表される2−[2−furan−2−yl]vinyl]−4,6−bis−(trichloromethyl)−1,3,5−triazine((株)東京化成品)のクロロホルム中のλmaxは375nm、モル吸光係数は3.5×104であった。
【0190】
【化56】
【0191】
この化合物[17]を乳酸メチルに溶解し、1wt%に調整してこれを濾過し、出来た溶解液を直径120mm、厚さ0.6mmの射出成形型ポリカーボネート樹脂基板上に滴下し、スピナー法により塗布(500rpm)し、塗布後100℃で30分間乾燥した。しかし基板表面が白濁して結晶化を起こしてしまい良好なスペクトルは得られなかった。
【0192】
比較例4および比較例5の結果から明らかなように、たとえ同程度の領域に吸収をもつ色素であっても、光学記録媒体として必要とされる塗布膜の生成しやすさや耐光性は大きく異なる。一般的に、塗布膜形成時の結晶化は小さい分子や平面性の高い分子ほど顕著に表れる傾向が見られるが、本発明の実施例で用いた含金属アゾ錯体化合物は、2分子のアゾ色素と1つの金属イオンからなり、立体的に嵩高い分子構造をもつため、基板表面で結晶化しにくい特徴が見られる。また錯体を形成することによりアゾ色素単体に比べ耐光性が向上している。以上のことからも本発明が光学記録媒体の色素として非常に有用であることは明らかである。
【0193】
以上のことから、カップラー成分としては、鎖状β−ジケトン構造より、環状β−ジケトン構造のものが、反応収率が良く、また高いモル吸光係数の化合物が得られることが分かる。この理由としては、カップラー成分が環状構造の場合、反応部位である活性メチレン基が固定化されるため、反応性が向上し、また生成物がより平面的な構造をとりやすいので共役系が延びやすくなること等が考えられる。
【0194】
(実施例152)
実施例1で得られた光学記録媒体について、記録、再生特性を評価するために、DVDフォーラムにより定められたHD DVD−R規格Ver1.0に準拠した方式で、同規格にあるPRSNR(Partial Response SNR)の評価を行なった。
評価は、得られた光学記録媒体に対し、レーザー波長405nm、NA(開口数)0.65のテスター(パルステック社製ODU−1000)を用い、線速度6.61m/s、最短マーク長204nmで記録を行なって、PRSNRの最大値が得られるよう記録パワーを最適化した。
その結果、記録メカニズムはLow To High型であり、最適記録パワーは7.8mWであった。光学記録媒体のPRSNRは32.8と、規格とされるPRSNR値である15を大きく上回る結果であった。
【0195】
(実施例153〜実施例198)
色素として表8〜表10に示す化合物を使用した以外は、実施例152と同様の条件で光学記録媒体を作製し、実施例152と同様の方法で評価を行なった。なお、記録感度や記録特性は、色素薄膜の厚さや記録方法にも左右されるので、良好な記録特性が得られるように、塗布溶液の濃度(0.9〜1.2重量%)やスピンコートのプログラム、ディスクの溝形状、記録パルス幅等を適時最適化して実施した。
【0196】
実施例152の結果と共に、実施例153〜実施例198の最適記録パワーおよびPRSNRの値を表8〜表10に示す。表8〜表10から明らかなように、多くの例で、HD DVD―Rの規格においても、感度10mW以下、PRSNR=15を上回るものであった。なお、記録メカニズムはLow To High型であった。
【0197】
【表8】
【0198】
【表9】
【0199】
【表10】
【0200】
記録感度や記録特性の値は、色素の構造、スペクトル形状、色素の熱分解開始温度、錯体を形成する金属の種類などでも変化するが、例えば、実施例153と同じカップラー成分を用いてより長波長化した実施例157とを比較してみると、実施例157の方がPRSNRの低下が見られた。このことから、色素の塗布膜のλmaxが405nmより大きく外れると記録特性が低下する傾向が見られる。これは記録原理がLow To High型であるためのものであり、記録波長にある程度の吸収が必要とされるためであると考えられる。そのため、記録特性を向上させるために、より短波長に吸収を与えるカップラー成分が必要とされることが明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0201】
【図1】本実施の形態が適用される光学記録媒体の第1の実施の形態(CD−R)を説明する図である。
【図2】本実施の形態が適用される光学記録媒体の第2の実施の形態(膜面入射型の媒体)を説明する図である。
【図3】例示化合物(115)の溶液スペクトルである。
【図4】金属錯体化合物(1)溶液のスペクトルである。
【図5】金属錯体化合物(1)を塗布した塗布膜のスペクトルである。
【図6】金属錯体化合物(2)を塗布した塗布膜のスペクトルである。
【図7】金属錯体化合物(3)を塗布した塗布膜のスペクトルである。
【図8】化合物[10](実線)と実施例15の錯体化合物(破線)の吸収スペクトルである。
【図9】化合物[12](実線)と実施例32の錯体化合物(破線)の吸収スペクトルである。
【図10】化学式[15]の吸収スペクトルである。
【図11】化合物[16]の吸収スペクトルである。
【図12】化合物[16]の塗布膜の吸収スペクトルである。
【符号の説明】
【0202】
10,30…基板、11,31…案内溝、20,40…情報記録層、21,41…記録層、22,42…反射層、23…保護層、43…保護被膜、100,200…光学記録媒体
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学記録媒体等に関し、より詳しくは、青色レーザに対応が可能な耐光性に優れた光学記録媒体等に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、CD−R/RW、DVD−R/RW、MO等の各種光学記録媒体は、大容量の情報を記憶でき、また、DVD−RAMのようにランダムアクセスが容易であるために、コンピュータ等の情報処理装置における外部記憶装置として広く認知され普及している。これらの中で、追記型光記録媒体のCD−RやDVD−Rは、有機色素化合物が含有される記録層を設けた有機色素系光記録媒体として、低コストで且つ製造も容易であるという点で、優位性を有するものと考えられている。
一般に、CD−RやDVD−R等として市販されている光学記録媒体の場合、例えば、CD−Rの場合は、波長780nm程度のレーザ光による情報の記録・再生に適するように、また、DVD−Rの場合は、波長600nm〜700nm程度のレーザ光による情報の記録・再生に適するように設計されている。このようなCD−RやDVD−R用の記録用の色素としては、例えば、アゾ化合物が用いられている(特許文献1、特許文献2、特許文献3参照)。
【0003】
【特許文献1】国際公開第91/018950号公報
【特許文献2】特開平09−277703号公報
【特許文献3】特開2001−271001号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、取り扱われる情報量の増大により、媒体の記録密度を高めることが望まれている。特に、近年、開発が著しい青色レーザ光等の発振波長の短いレーザ光を用いて、情報を高密度に記録再生可能な光学記録媒体が提唱されつつある。
このような要請に対し、従来の比較的長波長のレーザ光を用いて情報の光学的記録・再生を行う光記録媒体は、より短波長のレーザ光を用いて情報の記録・再生を試みると、反射率が低下し、充分な記録・再生が困難であるという問題を有している。
【0005】
例えば、前述の特許文献1に記載されている光学記録媒体においては、記録用の色素としては、N,N−ジアルキルアニリン骨格のカップラー成分を有するアゾ化合物を用いている。このようなN,N−ジアルキルアニリン骨格を有することにより、モル吸光係数が非常に大きい色素が得られる傾向にある。しかし、このようなアゾ化合物と金属との錯体であるアゾ金属キレート化合物溶液の吸収スペクトルは、λmaxが500nm以上で観察される。このため、このような含金属アゾ錯体化合物からなる色素を含む塗布膜の吸収スペクトルは、レーザ波長の405nm付近には、ほとんど吸収スペクトルが観察されず、青色レーザ光に対する感度が低い傾向があるという問題がある。
【0006】
また、特許文献2に記載されている光学記録媒体においては、記録用の色素として、ピリドン骨格のカップラー成分を有するアゾ化合物を用いている。このようなアゾ化合物の吸収スペクトルは、より短波長側にλmaxを持つことが知られているが、ジアゾ成分としてベンゾチアゾールやチアゾール骨格を有するアゾ化合物と金属との金属キレート化合物の吸収スペクトルは、レーザー波長405nm付近の吸収が少ない。
【0007】
また、特許文献3においては、β―ケトエステル等を含む鎖状β−ジケトン骨格をカップラー成分として有するアゾ化合物と金属との錯体である含金属アゾ錯体化合物は、短波長側に吸収スペクトルの吸収が観察されることが報告されている。しかし、このような鎖状β−ジケトン骨格をカップラー成分として有するアゾ化合物は、合成の際の収率が低い、固形化しにくい、あるいは生成物の純度が低い等の製造上改良すべき問題があり、さらに検討を要するという問題がある。
【0008】
さらに、本発明者等らは、短波長側に吸収が観察されるイソキサゾール等のジアゾ成分及びピリドン等のカップラー成分を有するアゾ化合物と金属との金属アゾキレート色素が、レーザ波長350nm〜530nmの青色光領域に吸収を有することを報告した(特願2005−95905)。しかし、さらに検討を進めると、このアゾ化合物は、カップラー成分とジアゾ成分との最適な組み合わせに制限があるため分子のデザインが限られ、分子構造上さらに短波長化することは難しい。また、ジアゾ成分としてイソキサゾールを用いたアゾ化合物の耐光性をさらに改良する必要があることが判明している。
【0009】
本発明は、上述したように、短波長である青色レーザ光を用いて、高密度の光情報の記録及び/または再生が行われる光学記録媒体を開発する際に浮き彫りになった問題を解決すべくなされたものである。
即ち、本発明の目的は、短波長のレーザ光を用いて、高密度の光情報の記録及び/または再生が可能である光学記録媒体を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、短波長のレーザ光を用いて光情報の記録が可能な光記録材料を提供することにある。
さらに、本発明の他の目的は、光記録材料として有用な金属錯体化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで本発明者等は鋭意検討の結果、環状β−ジケトン構造をカップラー成分として有するジアソ化合物が短波長側に高感度の吸収が観察されることを見出し、かかる知見に基づき本発明を完成した。
かくして本発明によれば、基板と、基板上に直接又は他の層を介して設けられ、光が照射されることにより情報の記録及び/又は再生が可能な記録層と、を有し、記録層は、環状β−ジケトン構造のカップラー成分と含窒素複素芳香環構造のジアゾ成分とを有するアゾ化合物及びアゾ化合物が配位する金属イオンから構成される金属錯体化合物を含むことを特徴とする光学記録媒体が提供される。
【0011】
ここで、本発明が適用される光学記録媒体は、記録層に含まれる金属錯体化合物を構成するアゾ化合物としては、環状β−ジケトン構造のカップラー成分と含窒素複素芳香環構造のジアゾ成分とを有する化合物であれば限定されないが、化合物の安定性や合成の容易さの観点から、カップラー構造としては、5員環〜7員環が好ましい。中でも、下記一般式[I]または一般式[II]で表される環状β−ジケトンアゾ化合物であることが好ましい。このような環状β−ジケトンアゾ化合物が記録層に含まれることにより、短波長のレーザ光を用いて、高密度の光情報の記録及び/または再生が可能である光学記録媒体を得ることができる。
【0012】
【化1】
【0013】
(一般式[I]または一般式[II]中、環Aは含窒素複素芳香環である。一般式[I]中のX、Y、Z及び一般式[II]中のX’、Y’は、各々独立に、置換基を有しても良い炭素原子、酸素原子、硫黄原子、窒素原子から選ばれるいずれか1種であり、これらはβ−ジケトン構造とともに5員環または6員環を形成する。)
環状β−ジケトンアゾ化合物におけるカップラー成分としては、飽和または不飽和の5員環〜7員環の炭化水素環もしくは複素環の縮合環を有する環状β−ジケトン構造を有するものが好ましい。
【0014】
また、ジアゾ成分としては、5員環もしくは6員環の単環、または、5員環または6員環の2縮合環からなる含窒素複素芳香環構造を有するものが好ましい。
さらに、金属イオンとして、周期表の7A族、8族、1B族及び2B族から選ばれる2価の金属のイオンが好ましく、特に、ニッケル、コバルト、亜鉛、銅、マンガンから選ばれる少なくとも1種の金属のイオンが好ましい。
【0015】
本発明が適用される光学記録媒体は、このような環状β−ジケトン構造を有するアゾ化合物と金属との錯体化合物を含み記録層をもうけることにより、波長が350nm〜530nmのレーザ光を用いて、情報の記録を行うことができる。
【0016】
また、本発明によれば、環状β−ジケトン構造のカップラー成分と含窒素複素芳香環構造のジアゾ成分とを有するアゾ化合物と、アゾ化合物が配位する金属イオンから構成される含金属環状β−ジケトンアゾ化合物に、必要に応じて他の成分を含む光記録材料が提供される。
また、アゾ基に結合した環状β−ジケトン構造及び含窒素複素芳香環を有するアゾ化合物と2価の金属イオンとから構成される金属錯体化合物において、環状β−ジケトン構造としては、メルドラム酸、テトロン酸、バルビツール酸、チオバルビツール酸、ヒドロキシクマリン、ヒドロキシカルボスチリル、ピラゾリジンジオン、インダンジオン、シクロヘキサンジオン及びジケトピリミジンから選ばれるいずれか1種の骨格を有するものが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、短波長のレーザ光を用いて、高密度の光情報の記録及び/または再生が可能な光学記録媒体が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、実施の形態と記す)について詳細に説明する。但し、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。また、使用する図面は、本実施の形態を説明するために使用するものであり、実際の大きさを表すものではない。
また、本実施の形態において、後述する構造式にて定義するR1〜R25は、必要に応じて置換基を有していてもよい。但し、その場合の「置換基」、後述する「置換されてもよい」、「置換基を有していてもよい」なる記載における「置換基」には、例えば、カルボキシル基やスルホン酸基等の水溶性基は含まれない。
【0019】
(アゾ化合物)
本実施の形態において使用する環状β−ジケトンアゾ化合物(以下、単に、「アゾ化合物」と記すことがある。)は、環状β−ジケトン構造のカップラー成分と含窒素複素芳香環構造のジアゾ成分とを有する化合物であれば限定されないが、前述したように、下記一般式[I]または一般式[II]で表される構造を有するものであることが好ましい。ここで、一般式[I]または一般式[II]において、一般に、アゾ基(−N=N−)の左側の含窒素複素芳香環をジアゾ成分と呼び、右側の環状β−ジケトン構造はカップラー成分と呼ばれる。これらの構造は、ケト(keto)−エノール(enol)の互変異性構造をとり、例えば、一般式[I]の構造では下記の様な構造をとりうる。本文中では、ケト(keto)−エノール(enol)の互変異性構造は、金属イオンとの錯体を形成する際に、エノール(enol)の水素原子が外れて−O−の形で配位するため、エノール(enol)型で統一している。
【0020】
【化2】
【0021】
【化3】
【0022】
(カップラー成分)
先ず、カップラー成分について説明する。
一般式[I]または一般式[II]で表されるアゾ化合物のカップラー成分におけるX、X’、Y、Y’、Zは、各々独立に、水素原子を除く置換基を有していてもよい炭素原子、酸素原子、硫黄原子、N−R1で表される窒素原子、C=O、C=S、C=NR2のいずれか1種を表し、β−ジケトン構造とともに5員環構造または6員環構造の環状β−ジケトン構造を形成する。ここで、R1は、水素原子、直鎖または分岐のアルキル基、環状アルキル基、アラルキル基、アリール基、複素環基、−COR3で表されるアシル基、−NR4R5で表されるアミノ基のいずれか1種を表す。R2は、水素原子、直鎖または分岐のアルキル基、アリール基を表す。R3は、炭化水素基または複素環基を表す。R4、R5は、水素原子、炭化水素基または複素環基を表す。尚、これらのアルキル鎖部分やアラルキル基のアルキル鎖部分は、前述した置換アルキル鎖と同様な置換基で置換されてもよい。
【0023】
環状β−ジケトン構造の具体例としては、例えば、シクロヘキサンジオン、メルドラム酸、シクロペンタジオン、ピラゾリジンジオン、テトロン酸、テトラム酸、バルビツール酸、チオバルビツール酸、インダンジオン、4−ヒドロキシ−α−ピロン、4−ヒドロキシ−α−ピリドン、4−ヒドロキシクマリン、4−ヒドロキシカルボスチリルを表す構造等が挙げられる。
【0024】
ここで、X、X’、Y、Y’、Zとして各々選ばれる組み合わせ、並び方は特に制限されるものではないが、各々単結合で結ばれる場合、例えば下記に示す構造が挙げられる。
【0025】
【化4】
【0026】
X、X’、Y、Y’、Zが炭素原子を表す場合、水素原子を除く置換基として、さらにアルキル鎖を有していても良い。この場合、アルキル鎖は1種、同種のものが2種、異種のものとの組み合わせでも良い。また、炭素原子の先で環状になり、スピロ環を形成してもよい。このような構造の例として、下記に示すように、X、Zを酸素原子、Yを炭素原子とした場合に、置換基としてアルキル鎖を導入した場合の例を示す。
【0027】
【化5】
【0028】
置換基としてのアルキル鎖の炭素数は1〜16程度が好ましい。置換基としてのアルキル鎖の長さが過度に長いと、生成物が固体化しにくい傾向があり、単位重量あたりの吸光度を表すグラム吸光係数が低下する傾向がある。
【0029】
また、X、X’、Y、Y’、Zが炭素原子またはN−R1で表される窒素原子の場合、隣接する両者の結合は単結合であっても二重結合であってもよい。このように不飽和結合を有する構造としては、例えば、下記に示すような構造が挙げられる。
【0030】
【化6】
【0031】
また、X、X’、Y、Y’、Zが炭素原子、N−R1で表される窒素原子、C=NR2の場合、隣接するもの同士で互いに縮合し、飽和または不飽和の炭化水素環あるいは複素環を形成してもよい。このような構造としては例えば、下記に示すような構造が挙げられる。
【0032】
【化7】
【0033】
これら縮合構造の中で好ましい構造としては、飽和または不飽和の5員環〜7員環の炭化水素環または複素環であり、中でも特に好ましいのは、隣接するX、X’、Y、Y’、Zがいずれも炭素原子で、6員環の飽和または不飽和の炭化水素環を形成する場合が挙げられる。
【0034】
このようなX、X’、Y、Y’、Zで表される構造として特に好ましい構造は、下記に示されるシクロヘキサンジオン、メルドラム酸、シクロペンタジオン、ピラゾリジンジオン、テトロン酸、テトラム酸、バルビツール酸、チオバルビツール酸、インダンジオン、4−ヒドロキシ−α−ピロン、4−ヒドロキシ−α−ピリドン、ジケトピリミジン、4−ヒドロキシクマリン、4−ヒドロキシカルボスチリルが挙げられる。
【0035】
【化8】
【0036】
(ジアゾ成分)
次に、ジアゾ成分について説明する。
一般式[I]または一般式[II]において、ジアゾ成分における環Aは、環Aが結合している炭素原子及び窒素原子とともに形成される含窒素複素芳香環を表す。含窒素複素芳香環の構造は、配位可能な位置に窒素原子を有していれば単環でも縮合環でも良い。芳香環としては、例えば、以下に示す含窒素複素芳香環が挙げられる。
【0037】
【化9】
【0038】
上述した含窒素複素芳香環中のD1〜D9は、各々独立に、水素原子、炭素数1〜炭素数6の直鎖または分岐のアルキル基、炭素数3〜炭素数9の環状アルキル基、炭素数7〜炭素数12のアラルキル基、―COR3で表されるアシル基のいずれか1種を表す。
【0039】
これらの構造において、環Aの構造としては、吸収波長や溶解性の点から、5員環〜6員環の単環または2縮合環の含窒素複素芳香環が好ましい。その中でも特に好ましいものは、イソキサゾール、トリアゾール、オキサゾール、チアジアゾール、ピラゾール、ピリジン、ピリミジン、イミダゾール、チアゾール、イソチアゾール、ベンゾチアゾール、ベンズイソキサゾール、ベンズオキサゾール、ベンズイミダゾールが挙げられる。
【0040】
一般式[I]、一般式[II]において、環Aは、水素原子を除く任意の置換基を有していてもよい。これらの置換基の例としては、以下のようなものが挙げられる。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−へプチル基等の置換されてもよい炭素数1〜炭素数18の直鎖または分岐のアルキル基;シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、アダマンチル基等の置換されてもよい炭素数3〜炭素数18の環状アルキル基;ビニル基、プロペニル基、ヘキセニル基等の置換されてもよい炭素数2〜炭素数18の直鎖または分岐のアルケニル基;シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等の置換されてもよい炭素数3〜炭素数18の環状アルケニル基;2−チエニル基、2−ピリジル基、4−ピペリジル基、モルホリノ基等の置換されてもよい飽和または不飽和の複素環基;フェニル基、トリル基、キシリル基、メシチル基、ナフチル基等の置換されてもよい炭素数6〜炭素数18のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等の置換されてもよい炭素数7〜炭素数20のアラルキル基;メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基等の置換されてもよい炭素数1〜炭素数18の直鎖または分岐のアルコキシ基;プロペニルオキシ基、ブテニルオキシ基、ペンテニルオキシ基等の置換されてもよい炭素数3〜炭素数18の直鎖または分岐のアルケニルオキシ基;メチルチオ基、エチルチオ基、n−プロピルチオ基、n−ブチルチオ基、sec−ブチルチオ基、tert−ブチルチオ基等の置換されてもよい炭素数1〜炭素数18の直鎖または分岐のアルキルチオ基が挙げられる。
【0041】
さらに、他の具体例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;ニトロ基;シアノ基;メルカプト基;ヒドロキシ基;ホルミル基;−COR3で表されるアシル基;−NR4R5で表されるアミノ基;−NHCOR6で表されるアシルアミノ基;−NHCOOR7で表されるカーバメート基;−COOR8で表されるカルボン酸エステル基;−OCOR9で表されるアシルオキシ基;−CONR10R11で表されるカルバモイル基;−SO2R12で表されるスルホニル基;−SOR13で表されるスルフィニル基;−SO2NR14R15で表されるスルファモイル基;−SO3R16で表されるスルホン酸エステル基;−NHSO2R17で表されるスルホンアミド基が挙げられる。これらの置換基の結合位置は特に限定されず、置換基の数も無置換から複数個まで可能である。複数の置換基を有する場合、同種でも異なってもよい。
【0042】
ここで、前述した置換基において、R3、R6、R7、R8、R9、R12、R13、R16、R17は、炭化水素基または複素環基を表し、R4、R5、R10、R11、R14、R15は、水素原子、炭化水素基、複素環基のいずれか1種を表す。これらは必要に応じて置換されてもよい。
【0043】
このようなR3〜R17で表される炭化水素基とは、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−へプチル基等の炭素数1〜炭素数18の直鎖または分岐のアルキル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、アダマンチル基等の炭素数3〜炭素数18の環状アルキル基、ビニル基、プロペニル基、ヘキセニル基等の炭素数2〜炭素数18の直鎖または分岐のアルケニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等の炭素数3〜炭素数18の環状アルケニル基、ベンジル基、フェネチル基等の炭素数7〜炭素数20のアラルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、メシチル基等の炭素数6〜炭素数18アリール基が挙げられる。これらの基のアルキル鎖部分及びアリール基部分は、後述するR2〜R5のアルキル鎖部分が有し得る置換基でさらに置換されていてもよい。
【0044】
また、R3〜R17で表される複素環基は、4−ピペリジル基、モルホリノ基、2−モルホリニル基、ピペラジル基等の飽和複素環;2−フリル基、2−ピリジル基、2−チアゾリル基、2−キノリル基等の芳香族複素環が挙げられる。これらは複数のヘテロ原子を含んでいても、さらに置換基を有していてもよく、また結合位置も問わない。複素環としては、5員環〜6員環の飽和複素環、5員環〜6員環の単環及びその2縮合環の芳香族複素環が好ましい構造である。
【0045】
次に、前述した、アシル基、アミノ基、アシルアミノ基、カーバメート基、カルボン酸エステル基、アシルオキシ基、カルバモイル基、スルホニル基、スルフィニル基、スルファモイル基、スルホン酸エステル基、スルホンアミド基について、具体的な化合構造を例示する。
アシル基(−COR11)としては、以下の構造の官能基等が挙げられる。
【0046】
【化10】
【0047】
アミノ基(−NR12R13)としては、以下の構造の官能基等が挙げられる。
【0048】
【化11】
【0049】
アシルアミノ基(−NHCOR14)としては、以下の構造の官能基等が挙げられる。
【0050】
【化12】
【0051】
カーバメート基(−NHCOOR15)としては、以下の構造の官能基等が挙げられる。
【0052】
【化13】
【0053】
カルボン酸エステル基(−COOR16)としては、以下の構造の官能基等が挙げられる。
【0054】
【化14】
【0055】
アシルオキシ基(−OCOR17)としては、以下の構造の官能基等が挙げられる。
【0056】
【化15】
【0057】
カルバモイル基(−CONR18R19)としては、以下の構造の官能基等が挙げられる。
【0058】
【化16】
【0059】
スルホニル基(−SO2R20)としては、以下の構造の官能基等が挙げられる。
【0060】
【化17】
【0061】
スルフィニル基(−SOR21)としては、以下の構造の官能基等が挙げられる。
【0062】
【化18】
【0063】
スルファモイル基(−SO2NR22R23)としては、以下の構造の官能基等が挙げられる。
【0064】
【化19】
【0065】
スルホン酸エステル基(−SO3R24)としては、以下の構造の官能基等が挙げられる。
【0066】
【化20】
【0067】
スルホンアミド基(−NHSO2R25)としては、以下の構造の官能基等が挙げられる。
【0068】
【化21】
【0069】
前述した一般式[I]または一般式[II]において、置換基としての直鎖または分岐のアルキル基、環状アルキル基、直鎖または分岐のアルケニル基、環状アルケニル基、直鎖または分岐のアルコキシ基、直鎖または分岐のアルキルチオ基と、R3〜R17が示すアルキル基のアルキル鎖部分とは、さらに置換基を有することがある。このような置換基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基等の炭素数1〜炭素数10のアルコキシ基;メトキシメトキシ基、エトキシメトキシ基、プロポキシメトキシ基、エトキシエトキシ基、プロポキシエトキシ基、メトキシブトキシ基等の炭素数2〜炭素数12のアルコキシアルコキシ基;メトキシメトキシメトキシ基、メトキシメトキシエトキシ基、メトキシエトキシメトキシ基、エトキシエトキシメトキシ基等の炭素数3〜炭素数15のアルコキシアルコキシアルコキシ基;フェノキシ基、トリルオキシ基、キシリルオキシ基、ナフチルオキシ基等の炭素数6〜炭素数12のアリールオキシ基;アリルオキシ基、ビニルオキシ基等の炭素数2〜炭素数12のアルケニルオキシ基等が例示される。
【0070】
さらに、他の置換基として、2−チエニル基、2−ピリジル基、4−ピペリジル基、モルホリノ基等の複素環基;シアノ基;ニトロ基;ヒドロキシル基;メルカプト基;メチルメルカプト基、エチルメルカプト基等のアルキルチオ基;アミノ基、N,N−ジメチルアミノ基、N,N−ジエチルアミノ基等の炭素数1〜炭素数10のアルキルアミノ基;メチルスルホニルアミノ基、エチルスルホニルアミノ基、n−プロピルスルホニルアミノ基等の炭素数1〜炭素数6のアルキルスルホニルアミノ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;メチルカロボニル基、エチルカルボニル基、イソプロピルカルボニル基等のアルキルカルボニル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル等の炭素数2〜炭素数7のアルコキシカルボニル基;メチルカルボニルオキシ基、エチルカルボニルオキシ基、n−プロピルカルボニルオキシ基、イソプロピルカルボニルオキシ基、n−ブチルカルボニルオキシ基等の炭素数2〜炭素数7のアルキルカルボニルオキシ基;メトキシカルボニルオキシ基、エトキシカルボニルオキシ基、n−プロポキシカルボニルオキシ基、イソプロポキシカルボニルオキシ基、n−ブトキシカルボニルオキシ基等の炭素数2〜炭素数7のアルコキシカルボニルオキシ基等が挙げられる。
【0071】
ジアゾ成分における環Aが有する置換基としては、特に限定されるものではないが、合成の容易さや塗布溶媒への溶解性等の点から、好ましいものとしては、水素原子、炭素数1〜炭素数12の直鎖または分岐のアルキル基、炭素数3〜炭素数10の環状アルキル基、炭素数2〜炭素数12の直鎖または分岐のアルケニル基、炭素数7〜炭素数18のアラルキル基、炭素数1〜炭素数12の直鎖または分岐のアルコキシ基、炭素数1〜炭素数12の直鎖または分岐のアルキルチオ基、炭素数6〜炭素数18のアリール基、飽和または不飽和の複素環基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、メルカプト基、ヒドロキシ基、ホルミル基、−COR11で表されるアシル基、−NR4R5で表されるアミノ基;−NHCOR6で表されるアシルアミノ基;−NHCOOR7で表されるカーバメート基;−COOR8で表されるカルボン酸エステル基;−OCOR9で表されるアシルオキシ基;−CONR10R11で表されるカルバモイル基;−SO2R12で表されるスルホニル基;−SOR13で表されるスルフィニル基;−SO2NR14R15で表されるスルファモイル基;−SO3R16で表されるスルホン酸エステル基;−NHSO2R17で表されるスルホンアミド基が挙げられる。
【0072】
一般式[I]または一般式[II]で表されるアゾ化合物の分子量は、1000以下が好ましく、700以下が特に好ましい。分子量が過度に大きいと、グラム吸光係数が減少し、色素の量に対して吸収が小さくなるのであまり好ましくはない。
一般式[I]または一般式[II]で表されるアゾ化合物の好ましい例としては、下記に示す化合物((1)〜(189))が挙げられる。
【0073】
【化22】
【0074】
【化23】
【0075】
【化24】
【0076】
【化25】
【0077】
【化26】
【0078】
【化27】
【0079】
【化28】
【0080】
【化29】
【0081】
【化30】
【0082】
【化31】
【0083】
【化32】
【0084】
【化33】
【0085】
【化34】
【0086】
【化35】
【0087】
【化36】
【0088】
【化37】
【0089】
【化38】
【0090】
(金属)
次に、一般式[I]または一般式[II]で示すアゾ化合物と配位して金属錯体化合物である含金属環状β−ジケトンアゾ化合物を形成する金属について説明する。
一般式[I]または一般式[II]で示すアゾ化合物と配位して含金属環状β−ジケトンアゾ化合物を形成する金属としては、アゾ化合物との配位形成能力があれば特に種類は問わず、遷移元素でも典型元素でもよく、またその酸化数も問わない。また、含金属環状β−ジケトンアゾ化合物における金属とアゾ化合物との比も特に限定されず、アゾ化合物及び金属以外に、電荷を有する対イオンを含む形で錯体を形成してもよい。このような金属としては、例えば、周期表の7A族、8族、1B族及び2B族から選ばれる金属が挙げられる。これらの中でも、ニッケル、コバルト、銅、鉄、亜鉛、マンガン、白金、パラジウム等が好ましい。
【0091】
(金属錯体化合物)
前述したように、一般式[I]または一般式[II]で示すアゾ化合物は、アゾ化合物との配位形成能力を有する金属と配位して、金属錯体化合物を形成する。アゾ化合物と金属とが形成する錯体構造において、好ましい構造としては、アゾ化合物が(−1)価の電荷を有する3座配位子となりやすいため、錯体の形成しやすさから、2価の遷移金属1に対しアゾ化合物2の割合で配位した構造(6配位構造)が好ましい。中でも特に、ニッケル、コバルト、銅、鉄、亜鉛、マンガン等の2価の遷移金属との配位構造が好ましい。また、配位子として複数種のアゾ化合物が金属に配位した含金属環状β−ジケトンアゾ化合物でもよく、また記録層に複数種の含金属環状β−ジケトンアゾ化合物を含有していてもよい。
【0092】
このような金属錯体化合物としては、例えば、以下に示すものが挙げられる。即ち、メルドラム酸系カップラー成分と、イソキサゾール、ベンズイソキサゾール、ピラゾール、トリアゾール、イミダゾール、ベンズイミダゾール、チアゾール、ベンゾチアゾールチアジアゾール、ピリジンから選ばれるジアゾ成分と、から成るアゾ化合物を配位子とする金属錯体化合物;テトロン酸系カップラー成分と、イソキサゾール、ベンズイソキサゾール、ピラゾール、トリアゾール、イミダゾール、ベンズイミダゾール、チアゾール、ベンゾチアゾールチアジアゾール、ピリジンから選ばれるジアゾ成分と、から成るアゾ化合物を配位子とする金属錯体化合物;ヒドロキシクマリン系カップラー成分と、イソキサゾール、ベンズイソキサゾール、ピラゾール、トリアゾール、イミダゾール、ベンズイミダゾール、チアゾール、ベンゾチアゾールチアジアゾール、ピリジンから選ばれるジアゾ成分と、から成るアゾ化合物を配位子とする金属錯体化合物;ヒドロキシカルボスチリル系カップラー成分と、イソキサゾール、ベンズイソキサゾール、ピラゾール、トリアゾール、イミダゾール、ベンズイミダゾール、チアゾール、ベンゾチアゾールチアジアゾール、ピリジンから選ばれるジアゾ成分と、から成るアゾ化合物を配位子とする金属錯体化合物;インダンジオン系カップラー成分と、イソキサゾール、ベンズイソキサゾール、ピラゾール、トリアゾール、ベンズイミダゾールから選ばれるジアゾ成分と、から成るアゾ化合物を配位子とする金属錯体化合物;バルビツール酸系カップラー成分と、イソキサゾール、ベンズイソキサゾール、ピラゾール、トリアゾール、ベンズイミダゾールから選ばれるジアゾ成分と、から成るアゾ化合物を配位子とする金属錯体化合物;チオバルビツール酸系カップラー成分と、イソキサゾール、ベンズイソキサゾール、ピラゾール、トリアゾール、ベンズイミダゾールから選ばれるジアゾ成分と、から成るアゾ化合物を配位子とする金属錯体化合物等が挙げられる。このように、ジアゾ成分とカップラー成分とを適宜組み合わせることにより、金属錯体化合物の吸収帯の波長や吸光度、溶解性を所望のものに調整することができる可能性がある。
【0093】
(光学記録媒体)
次に、本実施の形態が適用される光学記録媒体について説明する。本実施の形態が適用される光学記録媒体は、少なくとも、基板と、一般式[I]または一般式[II]で表されるアゾ化合物に金属が配位した含金属環状β−ジケトンアゾ化合物(以下、単に、「含金属環状β−ジケトンアゾ化合物」と記すことがある。)を含む記録層とを有する。尚、必要に応じて、さらに下引き層、反射層、保護層等を設けても良い。
【0094】
図1は、本実施の形態が適用される光学記録媒体100の第1の実施の形態(この例では、CD−Rを示す。)を説明する図である。図1に示される光学記録媒体100は、案内溝11を有する光透過性材料からなる基板10と、基板10上に設けられた情報記録層20とを有している。また、情報記録層20は、記録層21と、記録層21上に積層された反射層22及び保護層23とが順番に積層されている。光学記録媒体100は、基板10側から照射されるレーザ光により、情報の記録及び/または再生が行われる。尚、説明の便宜上、光学記録媒体100において、保護層23が存在する側を上方、基板10が存在する側を下方とし、これらの方向に対応する各層の各面を、それぞれ各層の上面及び下面としている。
【0095】
(基板10)
基板10は、基本的に記録光及び再生光の波長において透明な材料であれば、様々な材料を使用することができる。具体的には、例えば、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリオレフィン系樹脂(特に、非晶質ポリオレフィン)、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン樹脂、エポキシ樹脂等の樹脂;ガラスが挙げられる。また、ガラス上に光硬化性樹脂等の放射線硬化性樹脂からなる樹脂層を設けた構造が挙げられる。中でも、高生産性、コスト、耐吸湿性等の観点からは、射出成型法にて使用されるポリカーボネート樹脂、耐薬品性及び耐吸湿性等の観点からは、非晶質ポリオレフィンが好ましい。さらに、高速応答等の観点からは、ガラスが好ましい。樹脂製の基板10を使用した場合または記録層21と接する側(上側)に樹脂層を設けた基板10を使用した場合には、上面に、記録再生光の案内溝やピットを形成してもよい。案内溝の形状としては、光学記録媒体100の中心を基準とした同心円状の形状やスパイラル状の形状が挙げられる。スパイラル状の案内溝を形成する場合には、溝ピッチが0.2μm〜1.2μm程度であることが好ましい。
【0096】
(記録層21)
記録層21は、基板10の上側に直接または必要に応じて基板10上に設けた下引き層等の上側に形成され、一般式[I]または一般式[II]で表されるアゾ化合物に金属が配位した含金属環状β−ジケトンアゾ化合物が含まれる。記録層21の成膜方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、ドクターブレード法、キャスト法、スピンコート法、浸漬法等、一般に行なわれている様々な薄膜形成法が挙げられる。量産性やコストの観点からは、スピンコート法が好ましく、均一な厚さの記録層21が得られるという観点からは、塗布法よりも真空蒸着法等の方が好ましい。スピンコート法による成膜の場合、回転数は500rpm〜15000rpmが好ましい。また、必要に応じて、スピンコートの後に、加熱する、溶媒蒸気にあてる等の処理を施しても良い。
【0097】
ドクターブレード法、キャスト法、スピンコート法、浸漬法等の塗布法により記録層21を形成する場合に、含金属環状β−ジケトンアゾ化合物を溶解させて基板10に塗布するために使用する塗布溶媒は、基板10を侵食しない溶媒であれば特に限定されない。具体的には、例えばジアセトンアルコール、3−ヒドロキシ−3−メチル−2−ブタノン等のケトンアルコール系溶媒;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等のセロソルブ系溶媒;n−ヘキサン、n−オクタン等の鎖状炭化水素系溶媒;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、n−ブチルシクロヘキサン、tert−ブチルシクロヘキサン、シクロオクタン等の環状炭化水素系溶媒;テトラフルオロプロパノール、オクタフルオロペンタノール、ヘキサフルオロブタノール等のパーフルオロアルキルアルコール系溶媒;乳酸メチル、乳酸エチル、2−ヒドロキシイソ酪酸メチル等のヒドロキシカルボン酸エステル系溶媒等が挙げられる。
【0098】
真空蒸着法を用いる場合には、例えば、含金属環状β−ジケトンアゾ化合物と、必要に応じて他の色素や各種添加剤等の記録層成分とを、真空容器内に設置されたるつぼに入れ、この真空容器内を適当な真空ポンプで10−2Pa〜10−5Pa程度にまで排気した後、るつぼを加熱して記録層成分を蒸発させ、るつぼと向き合って置かれた基板上に蒸着させることによって、記録層21を形成する。
【0099】
また、記録層21には、含金属環状β−ジケトンアゾ化合物に加えて、安定性や耐光性の向上のために、様々な添加剤として、例えば、遷移金属キレート化合物(例えば、アセチルアセトナートキレート、ビスフェニルジチオール、サリチルアルデヒドオキシム、ビスジチオ−α−ジケトン等)等の一重項酸素クエンチャーを含有させたり、記録感度の向上のために、金属系化合物等の記録感度向上剤を含有させたりしても良い。ここで、金属系化合物とは、遷移金属等の金属が原子、イオン、クラスター等の形で化合物に含まれるものを言い、例えばエチレンジアミン系錯体、アゾメチン系錯体、フェニルヒドロキシアミン系錯体、フェナントロリン系錯体、ジヒドロキシアゾベンゼン系錯体、ジオキシム系錯体、ニトロソアミノフェノール系錯体、ピリジルトリアジン系錯体、アセチルアセトナート系錯体、メタロセン系錯体、ポルフィリン系錯体のような有機金属化合物が挙げられる。金属原子としては特に限定されないが、遷移金属であることが好ましい。
【0100】
なお、記録層21には、必要に応じて、含金属環状β−ジケトンアゾ化合物を複数種類併用しても良い。さらに、記録層21には、含金属環状β−ジケトンアゾ化合物に加え、必要に応じて他系統の色素を併用することもできる。他系統の色素としては、主として記録用レーザ光の発振波長域に適度な吸収を有するものであればよく、特に制限されない。また、CD−R等に使用され、770nm〜830nmの波長帯域中に発振波長を有する近赤外レーザ光を用いた記録・再生に適する色素や、DVD−R等に使用され、620nm〜690nmの波長帯域中に発振波長を有する赤色レーザ光を用いた記録・再生に適する色素等を、含金属環状β−ジケトンアゾ化合物と併用して記録層21に含有させることにより、異なる波長帯域に属する複数種のレーザ光を用いた記録・再生に対応する光学記録媒体100を製造することもできる。
【0101】
含金属環状β−ジケトンアゾ化合物以外の他系統の色素としては、含金属アゾ系色素、ベンゾフェノン系色素、フタロシアニン系色素、ナフタロシアニン系色素、シアニン系色素、アゾ系色素、スクアリリウム系色素、含金属インドアニリン系色素、トリアリールメタン系色素、メロシアニン系色素、アズレニウム系色素、ナフトキノン系色素、アントラキノン系色素、インドフェノール系色素、キサンテン系色素、オキサジン系色素、ピリリウム系色素等が挙げられる。
【0102】
さらに、必要に応じて、バインダー、レベリング剤、消泡剤等を併用することもできる。好ましいバインダーとしては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ニトロセルロース、酢酸セルロース、ケトン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリビニルブチラール、ポリカーボネート、ポリオレフィン等が挙げられる。
【0103】
記録層21の膜厚は、記録方法等により適した膜厚が異なる為、特に限定するものではないが、記録を可能とするためにはある程度の膜厚が必要とされるため、通常、少なくとも1nm以上であり、好ましくは5nm以上である。但しあまり厚すぎても記録が良好に行えなくなるおそれがあり、通常300nm以下、好ましくは200nm以下、より好ましくは100nm以下である。
【0104】
反射層22は、記録層21上に形成されている。反射層22の膜厚は、好ましくは50nm〜300nmである。反射層22の材料としては、再生光の波長において充分高い反射率を有する材料、例えば、Au、Al、Ag、Cu、Ti、Cr、Ni、Pt、Ta、Pd等の金属を、単独あるいは合金にして用いることができる。これらの中でもAu、Al、Agは反射率が高く、反射層22の材料として適している。また、これらの金属を主成分とした上で、加えて他の材料を含有させても良い。ここで主成分とは、含有率が50%以上のものをいう。
【0105】
主成分以外の他の材料としては、例えば、Mg、Se、Hf、V、Nb、Ru、W、Mn、Re、Fe、Co、Rh、Ir、Cu、Zn、Cd、Ga、In、Si、Ge、Te、Pb、Po、Sn、Bi、Ta、Ti、Pt、Pd、Nd等の金属及び半金属を挙げることができる。中でもAgを主成分とするものは、コストが安い点、高反射率が出やすい点、後述する印刷受容層を設けた場合に地色が白く美しいものが得られる点等から、特に好ましい。
【0106】
例えば、AgにAu、Pd、Pt、Cu、及びNdから選ばれる一種以上を0.1原子%〜5原子%程度含有させた合金は、高反射率、高耐久性、高感度且つ低コストであり好ましい。具体的には、例えば、AgPdCu合金、AgCuAu合金、AgCuAuNd合金、AgCuNd合金等である。金属以外の材料としては、低屈折率薄膜と高屈折率薄膜を交互に積み重ねて多層膜を形成し、これを反射層22として用いることも可能である。
【0107】
反射層22を形成する方法としては、例えば、スパッタリング法、イオンプレーティング法、化学蒸着法、真空蒸着法等が挙げられる。また、基板10の上や反射層22の下に、反射率の向上、記録特性の改善、密着性の向上等のために、公知の無機系または有機系の中間層、接着層を設けることもできる。
【0108】
保護層23は、反射層22の上に形成される。保護層23の材料は、反射層22を外力から保護するものであれば、特に限定されない。有機物質の材料としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、電子線硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂等を挙げることができる。
【0109】
また、無機物質としては、酸化ケイ素、窒化ケイ素、MgF2、SnO2等が挙げられる。熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等を用いる場合は、適当な溶剤に溶解して調製した塗布液を反射層22の上に塗布して乾燥させれば、保護層23を形成することができる。紫外線硬化性樹脂を用いる場合は、そのまま反射層22の上に塗布するか、または適当な溶剤に溶解して調製した塗布液を反射層22の上に塗布し、紫外線光を照射して硬化させることによって、保護層23を形成することができる。
【0110】
紫外線硬化性樹脂としては、例えば、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート等のアクリレート系樹脂を用いることができる。これらの材料は、単独で用いても、複数種を混合して用いても良い。また、保護層は、単層として形成しても、多層として形成してもよい。
【0111】
保護層23の形成方法としては、記録層21と同様に、スピンコート法やキャスト法等の塗布法や、スパッタリング法や化学蒸着法等の方法が用いられるが、中でもスピンコート法が好ましい。保護層23の膜厚は、その保護機能を果たすためにはある程度の厚みが必要とされるため、一般に0.1μm以上であり、好ましくは3μm以上である。但しあまり厚すぎると、効果が変わらないだけでなく保護層23の形成に時間がかかったりコストが高くなる虞があるので通常100μm以下であり、好ましくは30μm以下である。
【0112】
上述したように、光学記録媒体100の層構造として、基板10、記録層21、反射層22、保護層23をこの順に積層して成る構造を例に採って説明したが、この他の層構造を採っても構わない。例えば、上例の層構造における保護層23の上面に、または上例の層構造から保護層23を省略して反射層22の上面に、さらに別の基板を貼り合わせてもよい。この際の基板は、何ら層を設けていない基板そのものであってもよく、貼り合わせ面またはその反対面に反射層等任意の層を有するものでも良い。また、同じく上例の層構造を有する光学記録媒体や、上例の層構造から保護層を省略した光学記録媒体を、それぞれの保護層及び/または反射層の上面を相互に対向させて2枚貼り合わせてもよい。
【0113】
次に、光学記録媒体の第2の実施の形態について説明する。
図2は、本実施の形態が適用される光学記録媒体200の第2の実施の形態(この例では、膜面入射型の媒体)を説明する図である。第1の実施の形態の光学記録媒体100と共通する部分は同じ符号を付し、説明を省略する。
【0114】
図2に示される光学記録媒体200は、所定の案内溝31を有する基板30と、基板30上に設けられた情報記録層40とを有している。また、情報記録層40は、反射層42と、反射層42上に積層された記録層41及び保護被膜43とが順番に積層されている。光学記録媒体200は、保護被膜43側から照射されるレーザ光により、情報の記録・再生が行われる。
【0115】
保護被膜43は、フィルムまたはシート状のものを接着剤によって貼り合わせてもよく、また、前述の保護層23(図1)と同様の材料を用い、成膜用の塗液を塗布し硬化または乾燥することにより形成しても良い。保護被膜43の厚さは、その保護機能を果たすためにはある程度の厚さが必要とされるため、一般に、0.1μm以上であり、好ましくは3μm以上である。但しあまり厚すぎると、効果が変わらないだけでなく保護被膜43の形成に時間がかかったりコストが高くなるおそれがあるので通常300μm以下であり、好ましくは200μm以下である。尚、記録層41、反射層42等の各層は通常、前述の光学記録媒体100(図1)と同様のものが用い得る。但し、本層構成では基板30は透明である必要はなく、従って、前述の材料以外にも、不透明な樹脂、セラミック、金属(合金を含む)等が用いられる。このような層構成においても、上記各層間には、本発明の特性を損なわない限り、必要に応じて任意の層を有してよい。
【0116】
ところで、光学記録媒体100,200の記録密度を上げるための一つの手段として、対物レンズの開口数(NA)を上げることがある。これにより情報記録面に集光される光スポットを微小化できる。しかしながら、対物レンズの開口数(NA)を上げると、記録・再生を行うためにレーザ光を照射した際に、光学記録媒体100,200の反り等に起因する光スポットの収差が大きくなりやすいため、良好な記録再生信号が安定して得られない場合がある。このような収差は、レーザ光が透過する透明基板や保護被膜の膜厚が厚いほど大きくなりやすいので、収差を小さくするためには基板や保護被膜をできるだけ薄くするのが好ましい。ただし、通常、基板10,30は光学記録媒体100,200の強度を確保するためにある程度の厚みを要するので、この場合、光学記録媒体200の構造(基板30、反射層42、記録層41、保護被膜43なる基本的層構成の光学記録媒体200)を採用するのが好ましい。光学記録媒体100の基板10を薄くするのに比べると、光学記録媒体200の保護被膜43は薄くしやすいため、好ましくは光学記録媒体200を用いる。
【0117】
但し、光学記録媒体100の構造(基板10、記録層21、反射層22、保護層23なる基本的層構成の光学記録媒体100)であっても、記録・再生用レーザ光が通過する透明な基板10の厚さを50μm〜300μm程度にまで薄くすることにより、収差を小さくして使用できるようになる。また、他の各層の形成後に、記録・再生レーザ光の入射面(通常は、基板10の下面)に、表面の保護やゴミ等の付着防止の目的で、紫外線硬化樹脂層や無機系薄膜等を成膜形成してもよく、記録・再生レーザ光の入射面ではない面(通常は、反射層22や保護層23の上面)に、インクジェット、感熱転写等の各種プリンタあるいは各種筆記具を用いて記入や印刷が可能な印刷受容層を設けてもよい。
【0118】
本実施の形態が適用される光学記録媒体100,200において、情報の記録・再生のために使用するレーザ光は、高密度記録を実現する観点から波長が短いほど好ましいが、特に波長350nm〜530nmのレーザ光が好ましい。かかるレーザ光の代表例として、中心波長405nm、410nm、515nmのレーザ光が挙げられる。
【0119】
波長350nm〜530nmのレーザ光は、波長405nm、410nmの青色または515nmの青緑色の高出力半導体レーザ光を使用することによって得られる。また、その他にも、例えば、(a)基本発振波長が740nm〜960nmの連続発振可能な半導体レーザ光、及び(b)半導体レーザ光によって励起される基本発振波長740nm〜960nmの連続発振可能な固体レーザ光の何れかの発振レーザ光を、第二高調波発生素子(SHG)により波長変換することによっても得られる。
【0120】
尚、SHGとしては、反転対称性を欠くピエゾ素子であればいかなるものでもよいが、KDP、ADP、BNN、KN、LBO、化合物半導体等が好ましい。第二高調波の具体例として、基本発振波長が860nmの半導体レーザ光の場合には、その基本発振波長の倍波である430nm、また、半導体レーザ光励起の固体レーザ光の場合には、CrドープしたLiSrAlF6結晶(基本発振波長860nm)からの倍波の430nm等が挙げられる。
【0121】
本実施の形態が適用される光学記録媒体100,200に、情報の記録を行なう際、光学記録媒体100の場合は、記録層21に対して、基板10側から基板10を透過させ、また、光学記録媒体200の場合は、記録層41に対して、保護被膜43側から保護被膜43を透過させ、通常、0.4μm〜0.6μm程度に集束したレーザ光を照射する。記録層21,41のレーザ光が照射された部分は、レーザ光のエネルギーを吸収することによって分解、発熱、溶解等の熱的変形を起こすため、光学的特性が変化する。記録層21,41に記録された情報の再生を行なう際には、同じく記録層21,41に対して(通常は、記録時と同じ方向から)、よりエネルギーの低いレーザ光を照射する。記録層21,41において、光学的特性の変化が起きた部分(すなわち、情報が記録された部分)の反射率と、変化が起きていない部分の反射率との差を読みとることにより、情報の再生が行なわれる。
【実施例】
【0122】
以下に実施例に基づき、本実施の形態をさらに具体的に説明するが、尚、本実施の形態はその要旨を越えない限り、これら実施例によって限定されるものではない。
【0123】
(合成方法)
含金属環状β−ジケトンアゾ化合物の合成方法については特に限定されないが、通常、次のような合成方法が挙げられる。即ち、先ず、芳香族複素環アミンを、酸性溶液中で、亜硝酸ナトリウムやニトロシル硫酸を添加してジアゾ化してジアゾ成分を合成する。次に、このジアゾ成分を0℃付近でカップラー成分を溶解した溶液に滴下してアゾ化合物を合成する。続いて、合成したアゾ化合物を適当な溶媒に溶かした溶液中に金属塩の溶液を滴下し、金属錯体化合物を合成する。下記の例では、ジアゾ化合物と2価の金属イオンとの、2:1の金属錯体化合物を合成した場合の構造を示している。
【0124】
【化39】
【0125】
(実施例1)
(a)合成例
下記構造式[1]で示される3−アミノ−5−メチルイソキサゾール2.45g(0.025mol−東京化成株式会社製)を酢酸25ml、プロピオン酸8.5ml、濃硫酸1ml溶液中に撹拌溶解させ、0℃〜5℃に冷却した。ここに43%ニトロシル硫酸8.85gを10℃以下を保つように滴下してジアゾ液を調製した。一方、別の容器に下記[2]で表される1,3−ジエチル−2−チオバルビツール酸5g(0.025mol−Aldrich品)、酢酸ナトリウム7.5g、尿素1gをメタノール100ml、水20ml中に撹拌溶解させ、塩酸でpHを5に調整して0℃〜5℃に冷却した。
【0126】
【化40】
【0127】
この溶液に、前述したジアゾ液を、5℃以下で、14%アンモニア水溶液でpH4〜pH5に保ちながら滴下した。滴下終了後、30分撹拌を行い、反応液を濾過した。濾過物は無機塩を除くために水500mlに懸濁させ、30分程度撹拌後濾過した。さらに濾過物をメタノール200mlに懸濁させ撹拌、濾過してこれを真空中で加熱乾燥させ、アゾ化合物6.847g(収率88.5%)を得た。このアゾ化合物のMS測定(EI)を行い、目的化合物と一致するm/z=309を確認した(例示化合物(115))。
【0128】
また、例示化合物(115)の1H−NMR(CDCl3(δ=ppm)MHz)を測定したところ、1.31(6H、t、1,3N−CH2CH3)、2.46(3H、s、5’−CH3)、4.55(4H、m、1,3N−CH2CH3)、6.51(1H、s、4’−H)となり、目的の化合物と一致するピークであった。例示化合物(115)のクロロホルム中でのλmax=383.5nm、モル吸光係数は3.9×104であった。図3に、例示化合物(115)の溶液スペクトルを示す。
【0129】
【化41】
【0130】
次に、例示化合物(115)1.86g(0.006モル)をテトラハイドロフラン46mlに撹拌溶解し、不溶物が混ざらないように濾過した後、濾液に酢酸ニッケル0.896g(0.0036モル)/メタノール15ml溶液を滴下した。反応液は1時間撹拌後、エバポレーターで真空にして溶媒を留去し固体を析出させ、水50mlを加えて撹拌、濾過を行った。濾過物はイソプロピルエーテルで洗浄し、真空中で加熱乾燥させ、下記構造式[3]で示される化合物1.66g(収率81.7%)を得ることができた(金属錯体化合物(1)とする)。
金属錯体化合物(1)のクロロホルム中のλmax=428nm、モル吸光係数は5.4×104であった。図4に、金属錯体化合物(1)溶液のスペクトルを示す。
【0131】
【化42】
【0132】
(b)光学記録媒体の評価
前述した金属錯体化合物(1)をオクタフルオロペンタノールに溶解し、1wt%に調整した。これを濾過して出来た溶解液を直径120mm、厚さ0.6mmの射出成形型ポリカーボネート樹脂基板上に滴下し、スピナー法により塗布(500rpm)し、塗布後100℃で30分間乾燥した。この塗布膜の最大吸収波長(λmax)は427.5nmであった。図5に、金属錯体化合物(1)を塗布した塗布膜のスペクトルを示す。
【0133】
この金属錯体化合物(1)を塗布したディスクの切片を、耐光性試験機(株式会社東洋精機製作所製:サンテストXLS+)を使用して、Xeランプを63℃、550mWで40時間照射した。その後、Xeランプの照射前のλmaxの吸光度と、Xeランプの照射後のλmaxの吸光度とを紫外線測定器でそれぞれ測定し、Xeランプの照射前のλmaxの吸光度に対するXeランプの照射後のλmaxの吸光度の割合(%)は、55.1%であった。尚、吸光度の数値が大きいほど耐光性が良好である。
【0134】
また、このように形成した塗布膜上に、必要に応じてスパッタリング法にてAg等を製膜して反射層を形成し、さらに紫外線硬化樹脂をスピンコート等にて塗布・紫外線照射により硬化させて保護層を形成して光学記録媒体とすることができる。この光学記録媒体は、塗布膜のλmaxの値より、例えば、中心波長405nmの半導体レーザ光による記録再生が可能である。即ち、含金属環状β―ジケトンアゾ化合物が、青色レーザ光の記録に対して、有効な構造の化合物であることが分かる。
【0135】
(光記録媒体の調製方法及び記録例)
前述の金属錯体化合物(1)をテトラフルオロプロパノールに溶解し、0.9wt%に調整した。これを濾過してできた溶解液をトラックピッチ400nm、溝幅220nm、溝深さ60nmの溝を持つ直径120mm、厚さ0.6mmの射出成型ポリカーボネート樹脂基板に滴下し、スピナー法により塗布した。なお、塗布は、回転数800rpmから7000rpmへ13秒かけて回転数を上げ、7000rpmで2秒間保持して行った。更に75℃で18分間乾燥し、記録層とした。次いで、スパッタリング法にて銀合金を120nmの厚さで成膜し、反射層を形成した。その後、UV硬化性樹脂からなる保護コート剤をスピナー法により塗布し、UV光を照射して厚さ5μmの保護層を形成させた。更に、遅延硬化型接着剤を用いて、保護層のある面に、厚さ0.6mmのポリカーボネート製基板を接着して、評価用の光学記録媒体を調製した。
【0136】
(c)記録例
前述した評価用の光学記録媒体を線速度6.61m/secで回転させながら、波長405nm(対物レンズの開口数NA=0.65)のレーザ光で、8Tマーク/8Tスペースの単一周波数信号を溝上に記録した。なお、Tは、周波数65MHzに対応する基準クロック周期である。記録パルスストラテジーとして、分割パルス数はマーク長をnTとして(n−1)、先頭記録パルス幅2T、後続記録パルス幅0.5T、バイアスパワー3.0mW、再生パワー0.4mW、記録パワーを可変とした。その結果、7.5mWで変調度51%の信号が記録できた。変調度は、パルスストラテジー等記録条件の最適化によって、より大きくなると考えられる。
【0137】
(実施例2)
(a)合成例
下記構造式[4]で示される2−アミノチアゾール3.5g(0.035mol−株式会社東京化成製)を酢酸50ml、リン酸35g、濃硫酸5g溶液中に撹拌溶解させ、0℃〜5℃に冷却した。ここに43%ニトロシル硫酸12.39gを10℃以下を保つように滴下してジアゾ液を調製した。一方、別の容器に下記[5]で表される化合物5.3g(1.05等量−株式会社東京化成製)、酢酸ナトリウム10.5g、尿素1.4gをメタノール140ml、水35ml中に溶解させ、塩酸でpHを5に調整して0℃〜5℃に冷却した。
【0138】
【化43】
【0139】
この溶液に先ほどのジアゾ液を5℃以下で、14%アンモニア水溶液でpH4〜5に保ちながら滴下した。滴下終了後、30分撹拌を行い、反応液を濾過した。濾過物は無機塩を除くために水500mlに懸濁させ、30分程度撹拌、濾過した。さらに濾過物をメタノール150mlに懸濁させ撹拌、濾過してこれを真空中で加熱乾燥させ、アゾ化合物6.458g(収率72.3%)を得た。このアゾ化合物のクロロホルム中のλmax=384.5nm、モル吸光係数は1.7×104であった。
【0140】
このアゾ化合物のMS測定(EI)を行い、目的化合物と一致するm/z=255を確認した。1H−NMR(CDCl3(δ=ppm)MHz)を測定したところ、1.83(6H、s、2、2−CH3)、7.12(1H、d、5’−H)、7.55(1H、d、4’−H)、13.76(1H、s、6−OH)となり、目的の化合物と一致するピークであった(例示化合物(116))。
【0141】
【化44】
【0142】
例示化合物(116)で示される化合物1.53g(0.006モル)をテトラハイドロフラン28mlに撹拌溶解し、不溶物が混ざらないように濾過した後、濾液に酢酸ニッケル4水和物0.9g(0.0036モル)/メタノール16ml溶液を滴下した。反応液は1時間撹拌し、その後濾過をして生成物を除いた。得られた固体は水で洗い、真空中で加熱乾燥させ、下記構造式[6]で示される化合物1.552g(収率91.2%)を得ることができた(金属錯体化合物(2)とする)。金属錯体例示化合物(141)の化合物のクロロホルム中のλmax=420.5nm、モル吸光係数は3.9×104であった。
【0143】
【化45】
【0144】
(b)光学記録媒体の評価
金属錯体化合物(2)をオクタフルオロペンタノールに溶解し、1wt%に調整した。これを濾過して出来た溶解液を直径120mm、厚さ0.6mmの射出成形型ポリカーボネート樹脂基板上に滴下し、スピナー法により塗布し、塗布後100℃で30分間乾燥した。この塗布膜の最大吸収波長(λmax)は423.5nmであった。図6は、金属錯体化合物(2)を塗布した塗布膜のスペクトルを示す。
【0145】
尚、光学記録媒体は以下のとおり調製した。金属錯体化合物(2)を塗布したディスクの切片を、実施例1と同様にして耐光性試験機(株式会社東洋精機製作所製:サンテストXLS+)を使用して、Xeランプを63℃、550mWで40時間照射して耐光性を評価したところ、97.2%であった。
【0146】
前述の金属錯体化合物(2)をテトラフルオロプロパノールに溶解し、0.9wt%に調整した。これを濾過してできた溶解液をトラックピッチ400nm、溝幅220nm、溝深さ60nmの溝を持つ直径120mm、厚さ0.6mmの射出成型ポリカーボネート樹脂基板に滴下し、スピナー法により塗布した。なお、塗布は、回転数800rpmから7000rpmへ13秒かけて回転数を上げ、7000rpmで2秒間保持して行った。更に75℃で18分間乾燥し、記録層とした。次いで、スパッタリング法にて銀合金を120nmの厚さで成膜し、反射層を形成した。その後、UV硬化性樹脂からなる保護コート剤をスピナー法により塗布し、UV光を照射して厚さ5μmの保護層を形成させた。更に、遅延硬化型接着剤を用いて、保護層のある面に、厚さ0.6mmのポリカーボネート製基板を接着して、評価用の光学記録媒体を調製した。
【0147】
(c)記録例
前述した評価用の光学記録媒体を線速度6.61m/secで回転させながら、波長405nm(対物レンズの開口数NA=0.65)のレーザ光で、8Tマーク/8Tスペースの単一周波数信号を溝上に記録した。なお、Tは、周波数65MHzに対応する基準クロック周期である。記録パルスストラテジーとして、分割パルス数はマーク長をnTとして(n−1)、先頭記録パルス幅2T、後続記録パルス幅0.5T、バイアスパワー3.0mW、再生パワー0.4mW、記録パワーを可変とした。その結果、6.5mWで変調度51%の信号が記録できた。変調度は、パルスストラテジー等記録条件の最適化によって、より大きくなると考えられる。
【0148】
(実施例3)
(a)合成例
実施例2で合成した例示化合物(116)1.53g(0.006モル)をテトラハイドロフラン28mlに撹拌溶解し、不溶物が混ざらないように濾過した後、濾液に酢酸コバルト0.9g(0.0036モル)/メタノール16ml溶液を滴下した。反応液は1時間撹拌し、その後濾過をして生成物を濾別した。得られた固体は水で洗い、真空中で加熱乾燥させ、下記構造式[7]で示される化合物1.22g(収率71.6%)を得ることができた。この化合物のクロロホルム中のλmax=417.5nm、モル吸光係数は3.3×104であった(金属錯体化合物(3)とする。)
【0149】
【化46】
【0150】
(b)光学記録媒体の評価
金属錯体化合物(3)をオクタフルオロペンタノールに溶解し、1wt%に調整した。これを濾過して出来た溶解液を、直径120mm、厚さ0.6mmの射出成形型ポリカーボネート樹脂基板上に滴下し、スピナー法により塗布し、塗布後100℃で30分間乾燥した。この塗布膜の最大吸収波長(λmax)は420.5nmであった。図7に、金属錯体化合物(3)を塗布した塗布膜のスペクトルを示す。
【0151】
この金属錯体化合物(3)を塗布したディスクの切片を、実施例1と同様にして耐光性試験機(株式会社東洋精機製作所製:サンテストXLS+)を使用して、Xeランプを63℃、550mWで40時間照射して耐光性を評価したところ、94.1%であった。
【0152】
(光記録媒体の調製方法及び記録例)
前述の金属錯体化合物(3)をテトラフルオロプロパノールに溶解し、0.9wt%に調整した。これを濾過してできた溶解液をトラックピッチ400nm、溝幅220nm、溝深さ60nmの溝を持つ直径120mm、厚さ0.6mmの射出成型ポリカーボネート樹脂基板に滴下し、スピナー法により塗布した。なお、塗布は、回転数800rpmから7000rpmへ13秒かけて回転数を上げ、7000rpmで2秒間保持して行った。更に75℃で18分間乾燥し、記録層とした。次いで、スパッタリング法にて銀合金を120nmの厚さで成膜し、反射層を形成した。その後、UV硬化性樹脂からなる保護コート剤をスピナー法により塗布し、UV光を照射して厚さ5μmの保護層を形成させた。更に、遅延硬化型接着剤を用いて、保護層のある面に、厚さ0.6mmのポリカーボネート製基板を接着して、評価用の光学記録媒体を調製した。
【0153】
(c)記録例
前述した評価用の光学記録媒体を線速度6.61m/secで回転させながら、波長405nm(対物レンズの開口数NA=0.65)のレーザ光で、8Tマーク/8Tスペースの単一周波数信号を溝上に記録した。なお、Tは、周波数65MHzに対応する基準クロック周期である。記録パルスストラテジーとして、分割パルス数はマーク長をnTとして(n−1)、先頭記録パルス幅2T、後続記録パルス幅0.5T、バイアスパワー3.0mW、再生パワー0.4mW、記録パワーを可変とした。その結果、6.4mWで変調度48.4%の信号が記録できた。変調度は、パルスストラテジー等記録条件の最適化によって、より大きくなると考えられる。
【0154】
(実施例4〜実施例151)
以下、前記の合成法と同様の方法で、例示アゾ化合物(115)〜例示アゾ化合物(189)を合成した後、さらに金属錯体化し、実施例1と同様にして調製した塗布膜の吸収スペクトルを測定した。これらの金属錯体化合物の溶液中(クロロホルム)での最大吸収波長、モル吸光係数、塗布膜での最大吸収波長(塗布溶媒はオクタフルオロペンタノールまたはテトラフルオロプロパノールを適宜選択して使用)を測定した。また、これらの塗布膜の耐光性試験を行った。結果を、実施例1〜実施例3と共に表1〜表7に示す。
【0155】
【表1】
【0156】
【表2】
【0157】
【表3】
【0158】
【表4】
【0159】
【表5】
【0160】
【表6】
【0161】
【表7】
【0162】
含金属環状β−ジケトンアゾ化合物の波長は、ジアゾ成分、カップラー成分及び金属イオンの組み合わせで決まり、同一のカップラー成分及び金属であれば、波長が長いジアゾ成分を使うほどより長波長の化合物ができる。また、同様に同一のジアゾ成分及び金属であれば、より長波長のカップラー成分を用いても、長波長の含金属環状β−ジケトンアゾ化合物を合成できる。これらの順番は置換基などにより前後するが、実施例の範囲で図示すると、概ね以下のような順番が見られる。
【0163】
【化47】
【0164】
カップラー成分との組み合わせや金属の種類により変動するが、およその傾向としては耐光性はジアゾ成分に由来する割合が高く、波長的に短いジアゾ成分であるイソキサゾール、トリアゾールが低めでの傾向が見られ、波長的に長いチアゾールやベンゾチアゾールの方が耐光性のよい結果が得られている。そのためより短いカップラー成分と波長の長いジアゾ成分をを用いることでこれらの耐光性の強い化合物を合成することができる。これらのジアゾ成分とカップラー成分の組み合わせ以外にも、ジアゾ成分の置換基や金属の種類により、目的の波長に適した化合物を合成することができる。以上のようにして、例えば、表1に示す含金属環状β−ジケトンアゾ化合物は、波長368.5nm〜482nmの広い範囲をカバーすることができる。
【0165】
また、このように形成した塗布膜上に、必要に応じてスパッタリング法にてAg等を製膜して反射層を形成し、さらに紫外線硬化樹脂をスピンコート等にて塗布・紫外線照射により硬化させて保護層を形成し、光学記録媒体とすることができる。この光学記録媒体は、塗布膜のλmaxの値より、例えば、中心波長405nmの半導体レーザ光による記録再生が可能である。即ち、前記一般式[I]または一般式[II]で示されるアゾ化合物と金属とからなる含金属環状β−ジケトンアゾ化合物が、青色レーザ光の記録に対して、有効な構造の化合物であることが分かる。
【0166】
また、表1〜表7に示す結果から、金属錯体化合物の耐光性は、ジアゾ成分、カップラー成分または金属イオンの種類に影響される傾向がある。例えば、イソキサゾールをジアゾ成分とする場合(実施例1、5、8、23〜27、38、41)、耐光性の最大値は65.2%に留まる。また、カップラー成分が同一の金属錯体化合物を使用した実施例2及び実施例3の場合の耐光性が90%を超えるのに対して、これらとは異なるカップラー成分を有する金属錯体化合物を使用した実施例8の場合は42.9%に留まる。さらに、同一のアゾ化合物に対してCoイオンとの金属錯体化合物を使用する実施例25の耐光性65.2%に対して、Znイオンとの金属錯体化合物を使用する実施例27の耐光性は1.7%に低下する。
【0167】
尚、耐光性が低い金属錯体化合物については、耐光性が良好な他の金属錯体化合物や、例えば、従来CD−R等に使用されている有機色素化合物等を混合することにより、耐光性光を光学記録媒体の実用レベルに向上させることが可能である。
【0168】
また、耐光性が低い金属錯体化合物については、一重項酸素クエンチャー効果をもつ化合物(例えば、アセチルアセトナートキレート、ビスフェニルジチオール、サリチルアルデヒドオキシム、ビスジチオ−α−ジケトン等)を含有させることも効果的である。
【0169】
(比較例1)
比較のため、下記に示される化合物[8]を合成し、光学記録媒体としての評価を行った。
(a)製造例
下記構造式[8]で示される2−アミノ−6−メチルベンゾチアゾール((株)東京化成品)と1−n−ブチル−3−シアノ−4−メチル−6−ヒドロキシ−2−ピリドンとから下記化合物[9]を合成した。化合物[9]のクロロホルム中でのλmaxは453.5nm、モル吸光係数は3.2×104であった。
【0170】
【化48】
【0171】
【化49】
【0172】
この化合物[9]を酢酸ニッケルで含金化し下記化合物[10]を得た。化合物[10]のクロロホルム中でのλmaxは524nm、モル吸光係数は7.4×104であった。
【0173】
【化50】
【0174】
(b)光学記録媒体例
この化合物[10]をオクタフルオロペンタノールに溶解し、1wt%に調整したが、溶解性が低く半分ほど解け残りがあった。これを濾過し、出来た溶解液を直径120mm、厚さ0.6mmの射出成形型ポリカーボネート樹脂基板上に滴下し、スピナー法により塗布(500rpm)し、塗布後100℃で30分間乾燥した。この塗布膜の最大吸収波長(λmax)は542.5nmであった。しかし、波長405nmには吸収がわずかしかなく、中心波長405nmのレーザ光に対して記録が期待できないことが分かる。
【0175】
図8に、化合物[10]の吸収スペクトルを示す。尚、カップラー成分としてメルドラム酸を用いたニッケル錯体(実施例15)のスペクトルと重ねて示した。図8に示すように、化合物[10]は、405nmの吸収が大きい実施例15の錯体化合物と比べ、ジアゾ成分として同一のベンゾチアゾールを用いた含金属アゾ化合物であっても、カップラー成分が異なることにより青色レーザ光の記録に対して不充分な色素化合物であることが分かる。
【0176】
(比較例2)
比較のため、下記に示される化合物[11]を合成し、光学記録媒体としての評価を行った。
(a)製造例
2−アミノ−5−メチル−1,3,4−チアジアゾール((株)東京化成品)を類似の方法でジアゾ化し、実施例1と同様の条件でカップリングして下記化合物[11]を合成した。化合物[11]は、クロロホルム中でのλmaxは409.5nm、モル吸光係数は3.0×104であった。
【0177】
【化51】
【0178】
この化合物[11]を、比較例1と同様に酢酸ニッケルで含金化して下記化合物[12]を合成した。化合物[12]は、クロロホルム中でのλmaxは494nm、モル吸光係数は7.1×104であった。図9に、化合物[12]の吸収スペクトルを示す。尚、カップラー成分としてバルビツール酸を用いたニッケル錯体(実施例32)のスペクトルと重ねて示した。図9に示すように、化合物[12]は、405nmの吸収が大きい実施例32の金属錯体化合物と比べ、青色レーザ光の記録に対して不充分な色素化合物であることが分かる。
【0179】
【化52】
【0180】
(b)光学記録媒体例
この化合物[12]をオクタフルオロペンタノールに溶解し、1wt%に調整したが、溶解性が低くほとんど溶解しなかった。これを濾過し、出来た溶解液を直径120mm、厚さ0.6mmの射出成形型ポリカーボネート樹脂基板上に滴下し、スピナー法により塗布(500rpm)し、塗布後100℃で30分間乾燥した。しかし、溶解性が悪いため塗布膜の吸収スペクトルは得られなかった。
以上の結果から、カップラー成分としてピリドン骨格を用いると、ジアゾ成分としては1,3,4−チアジアゾールでも十分に長く、前項のベンゾチアゾールや、チアゾールも使用できないことが明らかである。
【0181】
(比較例3)
比較のため、鎖状のβ−ジケトンのカップラー成分を用いたものを使用してアゾ化合物の合成を行った。
(a)製造例
下記構造式[13]で示される2−アミノ−4−メチルチアゾール1.4g(0.013mol−(株)東京化成品)を、酢酸6ml、プロピオン酸2ml、濃硫酸1.3ml溶液中に撹拌溶解させ、0℃〜5℃に冷却した。ここに43%ニトロシル硫酸4.6gを10℃以下を保つように滴下してジアゾ液を調製した。
【0182】
一方、別の容器に下記化学式[14]で表されるテノイルトリフルオロアセトン2.8g(1等量−株式会社東京化成品)、酢酸ナトリウム4.3g、尿素0.43gをメタノール50ml、水5ml中に溶解させ、20%NaOH水溶液でpH11に調整して0℃〜5℃に冷却した。この溶液に、前述のジアゾ液を5℃以下で、アンモニア水溶液でpH10に保ちながら滴下した。滴下終了後、30分撹拌を行い、反応液を濾過した。濾液は水にあけて濃塩酸を滴下して溶液を酸性にして反応物を析出させた。これを濾過、水洗いし、真空中で加熱乾燥させ、下記化学式[15]で示される化合物0.96gを、収率21%で得た。
【0183】
図10に、化学式[15]の吸収スペクトルを示す。この化学式[15]で示される化合物のクロロホルム中のλmax=399.5nm、モル吸光係数は1.0×104であった。このように、化学式[15]で示される化合物の収率は低く、モル吸光係数も低いことが分かる。
【0184】
【化53】
【0185】
【化54】
【0186】
(比較例4)
比較のため、同程度λmaxに吸収を持ち、下記に示される化合物[16]の光学記録媒体としての評価を行った。
下記[16]で表される構造式を持つシアニン色素((株)日本感光色素研究所品 NK−1204)のクロロホルム中のλmaxは407.5nm、モル吸光係数は8.2×104であった。この溶液スペクトルを図11に示す。
【0187】
【化55】
【0188】
この化合物[16]をオクタフルオロペンタノールに溶解し、1wt%に調整してこれを濾過し、出来た溶解液を直径120mm、厚さ0.6mmの射出成形型ポリカーボネート樹脂基板上に滴下し、スピナー法により塗布(500rpm)し、塗布後100℃で30分間乾燥した。この塗布膜の最大吸収波長(λmax)は371.5nmであった。このスペクトルを図12に示す。
溶液のスペクトル図11と比較してみると明らかなように、塗布膜のスペクトルが著しく変形している。これは目視では観測できなかったが、ディスク表面上に部分的に結晶化している可能性がある。
この色素を塗布したディスクの切片を用い、実施例1と同様な方法でλmaxの吸光度の割合(耐光性)を評価したところ、18%であった。
【0189】
(比較例5)
同様の比較のため下記に示される化合物[17]の光学記録媒体としての評価を行った。
下記[17]で表される2−[2−furan−2−yl]vinyl]−4,6−bis−(trichloromethyl)−1,3,5−triazine((株)東京化成品)のクロロホルム中のλmaxは375nm、モル吸光係数は3.5×104であった。
【0190】
【化56】
【0191】
この化合物[17]を乳酸メチルに溶解し、1wt%に調整してこれを濾過し、出来た溶解液を直径120mm、厚さ0.6mmの射出成形型ポリカーボネート樹脂基板上に滴下し、スピナー法により塗布(500rpm)し、塗布後100℃で30分間乾燥した。しかし基板表面が白濁して結晶化を起こしてしまい良好なスペクトルは得られなかった。
【0192】
比較例4および比較例5の結果から明らかなように、たとえ同程度の領域に吸収をもつ色素であっても、光学記録媒体として必要とされる塗布膜の生成しやすさや耐光性は大きく異なる。一般的に、塗布膜形成時の結晶化は小さい分子や平面性の高い分子ほど顕著に表れる傾向が見られるが、本発明の実施例で用いた含金属アゾ錯体化合物は、2分子のアゾ色素と1つの金属イオンからなり、立体的に嵩高い分子構造をもつため、基板表面で結晶化しにくい特徴が見られる。また錯体を形成することによりアゾ色素単体に比べ耐光性が向上している。以上のことからも本発明が光学記録媒体の色素として非常に有用であることは明らかである。
【0193】
以上のことから、カップラー成分としては、鎖状β−ジケトン構造より、環状β−ジケトン構造のものが、反応収率が良く、また高いモル吸光係数の化合物が得られることが分かる。この理由としては、カップラー成分が環状構造の場合、反応部位である活性メチレン基が固定化されるため、反応性が向上し、また生成物がより平面的な構造をとりやすいので共役系が延びやすくなること等が考えられる。
【0194】
(実施例152)
実施例1で得られた光学記録媒体について、記録、再生特性を評価するために、DVDフォーラムにより定められたHD DVD−R規格Ver1.0に準拠した方式で、同規格にあるPRSNR(Partial Response SNR)の評価を行なった。
評価は、得られた光学記録媒体に対し、レーザー波長405nm、NA(開口数)0.65のテスター(パルステック社製ODU−1000)を用い、線速度6.61m/s、最短マーク長204nmで記録を行なって、PRSNRの最大値が得られるよう記録パワーを最適化した。
その結果、記録メカニズムはLow To High型であり、最適記録パワーは7.8mWであった。光学記録媒体のPRSNRは32.8と、規格とされるPRSNR値である15を大きく上回る結果であった。
【0195】
(実施例153〜実施例198)
色素として表8〜表10に示す化合物を使用した以外は、実施例152と同様の条件で光学記録媒体を作製し、実施例152と同様の方法で評価を行なった。なお、記録感度や記録特性は、色素薄膜の厚さや記録方法にも左右されるので、良好な記録特性が得られるように、塗布溶液の濃度(0.9〜1.2重量%)やスピンコートのプログラム、ディスクの溝形状、記録パルス幅等を適時最適化して実施した。
【0196】
実施例152の結果と共に、実施例153〜実施例198の最適記録パワーおよびPRSNRの値を表8〜表10に示す。表8〜表10から明らかなように、多くの例で、HD DVD―Rの規格においても、感度10mW以下、PRSNR=15を上回るものであった。なお、記録メカニズムはLow To High型であった。
【0197】
【表8】
【0198】
【表9】
【0199】
【表10】
【0200】
記録感度や記録特性の値は、色素の構造、スペクトル形状、色素の熱分解開始温度、錯体を形成する金属の種類などでも変化するが、例えば、実施例153と同じカップラー成分を用いてより長波長化した実施例157とを比較してみると、実施例157の方がPRSNRの低下が見られた。このことから、色素の塗布膜のλmaxが405nmより大きく外れると記録特性が低下する傾向が見られる。これは記録原理がLow To High型であるためのものであり、記録波長にある程度の吸収が必要とされるためであると考えられる。そのため、記録特性を向上させるために、より短波長に吸収を与えるカップラー成分が必要とされることが明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0201】
【図1】本実施の形態が適用される光学記録媒体の第1の実施の形態(CD−R)を説明する図である。
【図2】本実施の形態が適用される光学記録媒体の第2の実施の形態(膜面入射型の媒体)を説明する図である。
【図3】例示化合物(115)の溶液スペクトルである。
【図4】金属錯体化合物(1)溶液のスペクトルである。
【図5】金属錯体化合物(1)を塗布した塗布膜のスペクトルである。
【図6】金属錯体化合物(2)を塗布した塗布膜のスペクトルである。
【図7】金属錯体化合物(3)を塗布した塗布膜のスペクトルである。
【図8】化合物[10](実線)と実施例15の錯体化合物(破線)の吸収スペクトルである。
【図9】化合物[12](実線)と実施例32の錯体化合物(破線)の吸収スペクトルである。
【図10】化学式[15]の吸収スペクトルである。
【図11】化合物[16]の吸収スペクトルである。
【図12】化合物[16]の塗布膜の吸収スペクトルである。
【符号の説明】
【0202】
10,30…基板、11,31…案内溝、20,40…情報記録層、21,41…記録層、22,42…反射層、23…保護層、43…保護被膜、100,200…光学記録媒体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に直接又は他の層を介して設けられ、光が照射されることにより情報の記録及び/又は再生が可能な記録層と、を有し、
前記記録層は、
環状β−ジケトン構造のカップラー成分と含窒素複素芳香環構造のジアゾ成分とを有するアゾ化合物及び当該アゾ化合物が配位する金属イオンから構成される金属錯体化合物を含むことを特徴とする光学記録媒体。
【請求項2】
前記アゾ化合物が、下記一般式[I]または一般式[II]で表される環状β−ジケトンアゾ化合物であることを特徴とする請求項1記載の光学記録媒体。
【化1】
(一般式[I]または一般式[II]中、環Aは含窒素複素芳香環である。一般式[I]中のX、Y、Z及び一般式[II]中のX’、Y’は、各々独立に、置換基を有しても良い炭素原子、酸素原子、硫黄原子、窒素原子から選ばれるいずれか1種であり、これらはβ−ジケトン構造とともに5員環または6員環を形成する。)
【請求項3】
前記カップラー成分が、飽和または不飽和の5員環〜7員環の炭化水素環もしくは複素環の縮合環を有する環状β−ジケトン構造を有することを特徴とする請求項1記載の光学記録媒体。
【請求項4】
前記ジアゾ成分が、5員環もしくは6員環の単環、または、5員環または6員環の2縮合環からなる含窒素複素芳香環構造を有することを特徴とする請求項1記載の光学記録媒体。
【請求項5】
前記金属イオンが、周期表の7A族、8族、1B族及び2B族から選ばれる金属のイオンであることを特徴とする請求項1記載の光学記録媒体。
【請求項6】
前記金属イオンは、ニッケル、コバルト、亜鉛、銅、マンガンから選ばれる少なくとも1種の金属のイオンであることを特徴とする請求項1記載の光学記録媒体。
【請求項7】
前記光は、波長が350nm〜530nmのレーザ光であることを特徴とする請求項1記載の光学記録媒体。
【請求項8】
環状β−ジケトン構造のカップラー成分と含窒素複素芳香環構造のジアゾ成分とを有するアゾ化合物と、当該アゾ化合物が配位する金属イオンから構成される含金属環状β−ジケトンアゾ化合物を含むことを特徴とする光記録材料。
【請求項9】
アゾ基に結合した環状β−ジケトン構造及び含窒素複素芳香環を有するアゾ化合物と2価の金属イオンとから構成される金属錯体化合物。
【請求項10】
前記環状β−ジケトン構造が、メルドラム酸、テトロン酸、バルビツール酸、チオバルビツール酸、ヒドロキシクマリン、ヒドロキシカルボスチリル、ピラゾリジンジオン、インダンジオン、シクロヘキサンジオン及びジケトピリミジンから選ばれるいずれか1種の骨格を有することを特徴とする請求項9記載の金属錯体化合物。
【請求項1】
基板と、
前記基板上に直接又は他の層を介して設けられ、光が照射されることにより情報の記録及び/又は再生が可能な記録層と、を有し、
前記記録層は、
環状β−ジケトン構造のカップラー成分と含窒素複素芳香環構造のジアゾ成分とを有するアゾ化合物及び当該アゾ化合物が配位する金属イオンから構成される金属錯体化合物を含むことを特徴とする光学記録媒体。
【請求項2】
前記アゾ化合物が、下記一般式[I]または一般式[II]で表される環状β−ジケトンアゾ化合物であることを特徴とする請求項1記載の光学記録媒体。
【化1】
(一般式[I]または一般式[II]中、環Aは含窒素複素芳香環である。一般式[I]中のX、Y、Z及び一般式[II]中のX’、Y’は、各々独立に、置換基を有しても良い炭素原子、酸素原子、硫黄原子、窒素原子から選ばれるいずれか1種であり、これらはβ−ジケトン構造とともに5員環または6員環を形成する。)
【請求項3】
前記カップラー成分が、飽和または不飽和の5員環〜7員環の炭化水素環もしくは複素環の縮合環を有する環状β−ジケトン構造を有することを特徴とする請求項1記載の光学記録媒体。
【請求項4】
前記ジアゾ成分が、5員環もしくは6員環の単環、または、5員環または6員環の2縮合環からなる含窒素複素芳香環構造を有することを特徴とする請求項1記載の光学記録媒体。
【請求項5】
前記金属イオンが、周期表の7A族、8族、1B族及び2B族から選ばれる金属のイオンであることを特徴とする請求項1記載の光学記録媒体。
【請求項6】
前記金属イオンは、ニッケル、コバルト、亜鉛、銅、マンガンから選ばれる少なくとも1種の金属のイオンであることを特徴とする請求項1記載の光学記録媒体。
【請求項7】
前記光は、波長が350nm〜530nmのレーザ光であることを特徴とする請求項1記載の光学記録媒体。
【請求項8】
環状β−ジケトン構造のカップラー成分と含窒素複素芳香環構造のジアゾ成分とを有するアゾ化合物と、当該アゾ化合物が配位する金属イオンから構成される含金属環状β−ジケトンアゾ化合物を含むことを特徴とする光記録材料。
【請求項9】
アゾ基に結合した環状β−ジケトン構造及び含窒素複素芳香環を有するアゾ化合物と2価の金属イオンとから構成される金属錯体化合物。
【請求項10】
前記環状β−ジケトン構造が、メルドラム酸、テトロン酸、バルビツール酸、チオバルビツール酸、ヒドロキシクマリン、ヒドロキシカルボスチリル、ピラゾリジンジオン、インダンジオン、シクロヘキサンジオン及びジケトピリミジンから選ばれるいずれか1種の骨格を有することを特徴とする請求項9記載の金属錯体化合物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2007−45147(P2007−45147A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−190490(P2006−190490)
【出願日】平成18年7月11日(2006.7.11)
【出願人】(501495237)三菱化学メディア株式会社 (105)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年7月11日(2006.7.11)
【出願人】(501495237)三菱化学メディア株式会社 (105)
【Fターム(参考)】
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