説明

光学部品、その形成方法および赤外線検出装置

【課題】ゲルマニウムレンズを使用する環境は、ゲルマニウムレンズ自身から輻射される赤外線量を低減するために、低温や極低温であることが好ましい。しかしながら、たとえば極低温状態での使用では、ゲルマニウムレンズと反射防止層との熱膨張率の相違や密着力不足のため、反射防止層にクラックや剥離が発生するという問題がある。反射防止層にクラックや剥離が発生すると、ゲルマニウムレンズに部分的な屈折率異常が発生する。
上述の問題に鑑み、反射防止層のクラックおよび剥離の発生を低減可能な、光学部品、その形成方法および赤外線検出装置を提供することを目的とする。
【解決手段】
ゲルマニウム材料を含む光学部品を、フッ化水素酸と過酸化水素水との混合薬液で処理し、多孔質の反射防止層を形成することにより、光学部品と元々一体であり、クラックや剥離を低減可能な反射防止層を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学部品、その形成方法および赤外線検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から赤外線透過材料として、NaCl等のアルカリハライド、ゲルマニウム(Ge)やシリコン(Si)等が知られている。
【0003】
その中でもゲルマニウム(Ge)は、赤外線に対して幅広い透過波長範囲をもっており、CO2、CO等の吸収帯がある3μm〜5μm領域や、人体や室温近傍の温度領域の熱輻射である8μm〜10μm領域で使用が可能である。また、屈折率が大きい(波長2μm〜15μm領域で屈折率は約4.0)ために、レンズ厚を薄くしても短焦点とすることができる。さらに、広い波長範囲において屈折率分散が小さいため、色収差の補償が省略できる。
【0004】
ゲルマニウム(Ge)レンズは上記の代表的な光学特性に加えて、化学的にも極めて安定であり、硬度や機械的強度、耐湿性等にも優れているため、赤外線カメラ等の赤外線画像を扱う装置に広く使われている。CO2やCO等のほかに、NOXやSOX等の測定に使用する赤外線分析計や気象・地球資源観測や温度計測等の大気汚染防止のための環境計測や、熱や炎を監視する防犯・防災装置、化学・半導体プロセス等の熱管理装置の中で熱や赤外線を検出できる検出装置に使用されている。近年は人工衛星に赤外線検出装置を搭載して、地球上の物体が放射する赤外線を検出して、資源探査等を実施している。
【0005】
ゲルマニウム(Ge)レンズ自体に対して、その透過特性を向上させるために、或いはレンズ表面を外部環境から保護するために、反射防止層を施すことも有効である。レンズ強度を高めるために、レンズ表面にDLC(ダイヤモンドライクカーボン)膜等の超硬質膜によって反射防止層を形成する場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−260567号公報
【特許文献2】特開2007−241032号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ゲルマニウムレンズを使用する環境は、ゲルマニウムレンズ自身から輻射される赤外線量を低減するために、低温や極低温であることが好ましい。しかしながら、たとえば極低温状態での使用では、ゲルマニウムレンズと反射防止層との熱膨張率の相違や密着力不足のため、反射防止層にクラックや剥離が発生するという問題がある。反射防止層にクラックや剥離が発生すると、ゲルマニウムレンズに部分的な屈折率異常が発生する。
【0008】
上述の問題に鑑み、反射防止層のクラックおよび剥離の発生を低減可能な、光学部品、その形成方法および赤外線検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一観点によれば、ゲルマニウム材料を含む部材の表面上に、ゲルマニウム材料を含む反射防止層を有することを特徴とする光学部品が提供される。
【0010】
また、本発明の他の観点によれば、ゲルマニウム材料を含む部材の表面酸化膜を除去する工程と、前記部材を、フッ化水素酸と過酸化水素水との混合薬液へ浸し、前記部材よりも密度が小さい反射防止層を形成する工程とを有することを特徴とする光学部品の形成方法が提供される。
【0011】
また、本発明の他の観点によれば、ゲルマニウム材料を含む部材の表面上に、ゲルマニウム材料を含む反射防止層を有することを特徴とする光学部品を搭載した赤外線検出装置が提供される。
【発明の効果】
【0012】
開示の光学部品により、反射防止層のクラックおよび剥離を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、開示の光学部品の形成工程を表すプロセスフローである。
【図2】図2A、図2Bは、ゲルマニウム材料を含む光学部品の透過率の波数依存性を表したグラフである。
【図3】図3は、ゲルマニウム材料を含む試料の赤外線分光分析(FT−IR)結果のグラフである。
【図4】図4A〜図4Cは、ゲルマニウムレンズおよび開示の反射防止層を示す。
【図5】図5は、開示の反射防止層を厚膜化するための追加プロセスフローである。
【図6】図6は、コリメータの断面図である。
【図7】図7は、放射冷却器を装着した赤外線検出装置の要所断面である。
【図8】図8は、宇宙シミュレータの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に実施例を示す。
【実施例1】
【0015】
図1は、開示の光学部品の形成工程を表すプロセスフローである。
【0016】
図1において、先ず光学部品を準備する。光学部品はゲルマニウム材料を含み、例えば、凹凸レンズ、プリズム、光学的窓などである。また、光学部品は、例えば、成型完了した状態のものであり、その表面を鏡面加工してあるものである。
【0017】
まず、光学部品を有機溶剤で洗浄(S1)し、光学部品表面を脱脂する。有機溶剤は、アセトン、エタノール、IPAなどが良い。
【0018】
次に、洗浄後の光学部品の表面を乾燥(S2)させた後、光学部品を希塩酸(例:10wt%HCl)または希フッ化水素酸(例:10wt%HF)等の酸希釈液に浸漬(S3)し、光学部品表面の酸化膜を除去する。酸希釈液から光学部品を取り出し、その後、水洗(S4)により表面に付着していた酸希釈液を除去する。
【0019】
次に、光学部品の表面を乾燥(S5)させる。
【0020】
次に、光学部品をフッ化水素酸+過酸化水素水を含む混合薬液に浸漬(S6)する。この工程により、開示の反射防止層が形成される。混合薬液は、たとえば体積比にして、50wt%フッ化水素酸を1とした場合、37wt%過酸化水素水を0.0005として混合する。混合薬液温度は、たとえば25℃が望ましい。浸漬時間は、例えば6分20秒が望ましい。また、6分20秒以上であっても良い。混合薬液の体積比、温度および浸漬時間は、必要とされる反射防止層の条件によって適宜調整することができ、これらの浸漬条件に限定されるものではない。
【0021】
次に、光学部品を水洗(S7)し、光学部品表面に付着したフッ化水素酸+過酸化水素水を除去する。
【0022】
最後に、光学部品の表面を乾燥(S8)させる。
【0023】
以上のS1からS8までが、反射防止層形成プロセスフローである。
【0024】
図2A、図2Bは、ゲルマニウム材料を含む光学部品の透過率の波数依存性を表したグラフである。透過率測定用試料としてはゲルマニウム単結晶から、面方位(100)と面方位(111)との2種類を切り出して準備した。ゲルマニウム単結晶から光学部品を切り出す場合に、表面に現れるのは主に面方位(100)または面方位(111)である。そこで、2種類について測定を行う。
【0025】
図2A、図2Bのグラフはともに、縦軸は透過率であり、横軸は測定に用いた赤外線の波数である。
【0026】
図2Aは、ゲルマニウム面方位(100)に対するグラフである。
【0027】
図2Aで、反射防止層が無い場合では、波数範囲4000cm-1〜800cm-1において、約45%の透過率である。
【0028】
また図2Aで、開示の反射防止層が有る場合では、波数範囲4000cm-1〜800cm-1において、約50%の透過率である。そのため開示の反射防止層の形成により、透過率は、約5%増加する。
【0029】
図2Bは、ゲルマニウム面方位(111)に対するグラフである。
【0030】
図2Bの結果は、図2Aとほぼ同様であり、開示の反射防止層の形成により、波数範囲4000cm-1〜800cm-1において、透過率が約5%増加する。
【0031】
以上より、開示の反射防止層の形成により、ゲルマニウム材料を含む光学部品の透過率を、約5%増加させることができる。
【0032】
図3は、ゲルマニウム材料を含む試料の赤外線分光分析(FT−IR)結果を表したグラフである。図2A、図2Bの透過率の結果では、面方位(100)と面方位(111)との差異はほとんど見られなかったため、面方位(111)の試料を準備して、FT−IR分析を行った。FT−IR分析は、内部反射法にて行った。そのため試料は、内部反射法に最適な形状に加工した上で、FT−IR分析を行った。図3のグラフは、縦軸は赤外線吸収強度(透過率スペクトル)であり、横軸は測定に用いた赤外線の波数である。
【0033】
図3のグラフから、反射防止層が無い場合、すなわち鏡面状態では、4000cm-1〜800cm-1の範囲において、大きな赤外線吸収は見られなかった。
【0034】
一方、開示の反射防止層が有る場合、4000cm-1〜800cm-1の範囲において、5か所の赤外線波数域で赤外線吸収が見られた。
【0035】
FT−IR分析は、物質に対して赤外線を照射し、赤外線の波数を連続的に変化させながら、波数ごとに赤外線吸収強度を測定する手法である。赤外線を物質に照射すると、物質内では特定の赤外線波数域で、その波数に応じた「分子の振動」が発生する。この「分子の振動」は、照射された赤外線エネルギーが物質内で吸収されたために発生する。これを図3のように、縦軸を赤外線吸収強度、横軸を赤外線波数としてグラフ表示する。グラフでは、赤外線吸収が起こった赤外線波数域において、赤外線強度が下がる。このように、FT−IR分析では、どの赤外線波数域において、どのくらいの赤外線エネルギー吸収が起こったかという情報を得ることにより、「化合物を構成する元素の種類と結合状態(原子団)およびその量」を判定することができる分析である。
【0036】
図3のグラフから、開示の反射防止層が有る場合、約800cm-1近辺での赤外線吸収21はGe−H変角振動、約1600cm-1近辺での赤外線吸収22はH2O変角振動、約2000cm-1近辺での赤外線吸収23はGe−H伸縮振動、約3200cm-1近辺での赤外線吸収24はH2O伸縮振動、約3400cm-1近辺での赤外線吸収25はGeO−H伸縮振動、に対する赤外線吸収をそれぞれ示している。ゲルマニウム(Ge)を含む振動に着目すると、開示の反射防止層が有る場合では、Ge−H変角振動、Ge−H伸縮振動、GeO−H伸縮振動に対する赤外線吸収が多く発生している。Ge−H変角振動、Ge−H伸縮振動は、Ge−H結合に起因するものであり、GeO−H伸縮振動は、GeO−H結合に起因するものである。
【0037】
通常、Ge−H結合およびGeO−H結合は、ゲルマニウム材料を含む光学部品の表面に存在する。
【0038】
反射防止層が無い場合でも、鏡面状態として表面は存在している。それにも関わらず、これらの結合に起因する赤外線吸収は見られなかった。すなわち、鏡面状態の表面では、FT−IR分析で赤外線吸収を引き起こすほど、Ge−H結合およびGeO−H結合が多く存在していないことを示している。
【0039】
一方、開示の反射防止層が有る場合では、Ge−H結合およびGeO−H結合に起因する赤外線吸収が大きく引き起こされており、Ge−H結合およびGeO−H結合が格段に多く存在する状態であることを示している。
【0040】
図4A〜図4Cは、ゲルマニウム凸レンズおよび開示の反射防止層を示す。
【0041】
図4Aは、ゲルマニウム凸レンズの正面図であり、図4Bは、図4Aに示したゲルマニウム凸レンズ30のA−A断面図である。結像タイプの凸レンズを例として示したため、中央部の厚みは外周部よりも厚くなっている。
【0042】
図4Cは、開示の反射防止層付きゲルマニウム凸レンズ表面の拡大断面図である。図4Cは、透過型電子顕微鏡写真(TEM)に基づく断面図である。
【0043】
40は反射防止層形成プロセス(図1)実施前のゲルマニウムレンズ表面であり、点線で示す。41は空洞、42は残留ゲルマニウム、43は表面が溶けてできた窪み、44は開示の反射防止層である。
【0044】
反射防止層形成プロセス(図1)実施前のゲルマニウム凸レンズ表面40は、凹凸はなく、鏡面状態である。
【0045】
一方、反射防止層形成プロセス(図1)実施により、図4Cに示すように開示の反射防止層44は、ゲルマニウム凸レンズ30をフッ化水素酸+過酸化水素水を含む混合薬液に浸漬することにより、ゲルマニウム凸レンズ表面が一部溶解した状態である。一部溶解したことにより、表面にできた空洞41、溶けずに残った残留ゲルマニウム42、および表面が溶けてできた窪み43が形成される。
【0046】
開示の反射防止層44は、図4Cのように空洞41や窪み43が多く存在する、いわば多孔質層である。多孔質層は、鏡面状態と比較すると、格段に表面が多い状態である。
【0047】
Ge−H結合およびGeO−H結合は、ゲルマニウムレンズ表面に多く存在し、図3のFT−IR結果では、開示の反射防止層44は、Ge−H結合およびGeO−H結合が格段に多く存在する状態であることから、多孔質層であることを示している。
【0048】
開示の反射防止層44は多孔質層であり、ゲルマニウム凸レンズ30と残留ゲルマニウム42とが繋がっていることにより、ゲルマニウム凸レンズ表面に形成されている。残留ゲルマニウム42とゲルマニウム凸レンズ30とは、元々一体であり、しかも同じ材料である。そのため、熱膨張率は同一であり、元々一体であるため、密着力においても強固である。DLCのような材料の反射防止層を堆積して形成した場合に比較すると、開示の反射防止層44は、クラックおよび剥離の発生を低減することができる。
【0049】
図4Cに示す開示の反射防止層44の厚さは、例えば約5nmである。
【0050】
また、図示していないが、空洞41や窪み43の状態にまで至らなくても、開示の反射防止層44は、フッ化水素酸+過酸化水素水を含む混合薬液に浸漬する工程により、ゲルマニウム凸レンズ30の表面密度が内部に比べて低くなった状態であれば良い。この場合は、ゲルマニウム凸レンズ30の表面密度が低くなった箇所には、HまたはOHが多く入り込み、これらがGeと結びついて、Ge−H変角振動、Ge−H伸縮振動、GeO−H伸縮振動による吸収が観測されたと考えられる。ゲルマニウム凸レンズ30の表面密度が低くなった状態の反射防止層であっても、ゲルマニウム凸レンズ30とは、元々一体であり、しかも同じ材料であるため、クラックおよび剥離の発生を低減することができる。
【0051】
図5は、開示の反射防止層を厚膜化するための追加プロセスフローである。
【0052】
前述の反射防止層形成プロセス(図1)を1回実施した場合、約5nm厚の反射防止層を形成できる。さらに厚い反射防止層とするには、図5に示す追加プロセスを実施しても良い。
【0053】
図5において、図1でS1からS8まで完了した状態の光学部品を準備する。
【0054】
その後、光学部品をフッ化水素酸+過酸化水素水を含む混合薬液に浸漬(S9)する。混合薬液は、たとえば体積比にして、50wt%フッ化水素酸を1とした場合、37wt%過酸化水素水を0.0005として混合する。混合薬液温度は、たとえば25℃が望ましい。浸漬時間は、例えば6分20秒が望ましい。また、6分20秒以上であっても良い。混合薬液の体積比、温度および浸漬時間は、適宜調整することができ、限定されるものではない。
【0055】
次に、光学部品の表面を水洗(S10)する。この工程により、光学部品の表面に付着したフッ化水素酸+過酸化水素水を除去する。
【0056】
最後に、光学部品の表面を乾燥(S11)させる。
【0057】
以上のS9からS11までを追加実施すると、開示の反射防止層を厚膜化できる。
S9からS11までを追加実施すると、さらに約5nmの反射防止層が追加形成される。
【0058】
反射防止層をさらに厚膜化するには、図5のS9に戻り、開示の反射防止層が所望の厚さになるまで、繰り返しS9からS11までを追加実施しても良い。追加実施する毎に、約5nmずつ反射防止層は厚膜化する。
【0059】
開示の反射防止層が、数μmの波長の赤外線に対して、反射防止層として機能する理由について
(1) 一般的には板状の部材において、屈折率nの場合、屈折率n0から入射する場合の透過率はT=4n0n/(n0+n)2 であり、反射率はR=1−T=(n0−n)2/(n0+n)2である。ゲルマニウムの屈折率は約4と大きく、上記の式から空気または真空中での透過率は0.47(47%)であり、反射率は0.53(53%)と大きい。
【0060】
(2) そのため、板状部材(屈折率n)を用いる場合は入射側の部材(屈折率n0)との屈折率差が小さいほうが、反射率を小さく抑制できることが上記式からうかがえる。
【0061】
(3)開示の反射防止層は、赤外線波長(約5μm)に比較して格段に小さな空洞(孔)と残留構造(図4における残留ゲルマニウム)を有するため、赤外線にとっては板状部材よりも密度が低く、結果として屈折率の小さな層が存在しているように見える。屈折率が空気とGeのそれとの中間の値を持つこの層の存在により、最表面での反射、および、反射防止層と板状部材との界面での反射がともに抑制され、開示の反射防止層は膜厚が数nmであるが反射防止層として機能すると推測できる。
【実施例2】
【0062】
近年は人工衛星に赤外線検出装置を搭載して、例えば地球上の物体が放射する赤外線を検出して、資源探査等を実施している。このように地球上の物体などが放射する赤外線は、コリメータで集光する。
【0063】
図6は、コリメータの断面図を示す。60はコリメータ、61は赤外線発光光源、62は副反射鏡、63は放物面鏡、64はスリット、65は平行光束の赤外線である。
【0064】
コリメータ60は、赤外線発光光源61に斜めに対向する副反射鏡62と、副反射鏡62に対向配置した放物面鏡63とを含む。
【0065】
そして、赤外線発光光源61と副反射鏡62との間にスリット64を配置し、赤外線発光光源61の発する赤外線を絞って副反射鏡62に投射させる。次に、副反射鏡62の反射光を放物面鏡63に投射させ、放物面鏡63で反射させ、最終的には平行光束の赤外線65を、後述の図7で示す赤外線検出装置等に入射させている。
【0066】
図7は、放射冷却器を装着した赤外線検出装置の要所断面である。図7は、図6と断面方向が同じ断面図である。
【0067】
65は平行光束の赤外線、70−1、70−2、70−3は、赤外線検出素子、71はコーン、71Aはコーン箱形部、71Bはコーン放射部、72はパッチ、73は断熱材、74はサファイア等の基板、75−1、75−2、75−3は結像ゲルマニウムレンズ、76はレンズホルダ、77−1、77−2は分光素子、77−3は反射鏡、80は放射冷却器、100は赤外線検出装置である。平行光束の赤外線65は、図6のコリメータ60を経由して放射された赤外線である。
【0068】
赤外線検出装置100に実装する結像ゲルマニウムレンズ75−1、75−2、75−3および赤外線検出素子70−1、70−2、70−3を極低温(約100K)に冷却することが好ましい。これらのレンズや素子を極低温に冷却するには、循環冷凍機を使用する方法と放射冷却器を用いる方法とがあるが、人工衛星搭載用としては、長寿命,無振動,無電力という長所を有する放射冷却器が採用されている(例えば、特開平7−260567号公報)。
【0069】
赤外線検出装置100は、平行光束の赤外線65を赤外線検出素子70−1、70−2、70−3に入射させる集光光学系と、赤外線検出素子70−1、70−2、70−3を所定の極低温(約100K)に冷却する放射冷却器80とを含む。
【0070】
放射冷却器80は、通常一段目のコーン71(材料は良熱伝導性で且つ軽量な金属板例えばアルミニウム板等)と二段目のパッチ72(材料は良熱伝導性で且つ軽量な金属板例えばアルミニウム板等)とを含む。
【0071】
コーン71は、宇宙空間の極低温(4K〜0K)に向かって開口するほぼ傘形のコーン放射部71Bと、コーン放射部71Bの根元に形成したコーン箱形部71Aとを含み、パッチ72は、コーン箱形部71Aの宇宙空間に対向する開口側(即ちコーン放射部71Bの底部分)に、断熱材73を介して固着されている。
【0072】
コーン71の外周面は、太陽の放射熱を遮断するためにシールドし、さらにコーン放射部71Bの内面は、パッチ72の有効視野がすべて宇宙になるように、鏡面にしている。
【0073】
上述のコーン71は、断熱材を介して赤外線検出装置100のベース金具(図示省略)に支持されている。一方、パッチ72のコーン箱形部71Aの内側にある面(コーン放射部71Bとは反対側のパッチ72の面)に、基板74を接着して赤外線検出素子70−1、70−2、70−3を、コーン箱形部71A内に実装している。
【0074】
放射冷却器80を上述のように二段構成にし、コーン71は自身の熱放射によって冷却されて所定の低温(例えば160K) に維持されることで、パッチ72へ放射される熱量を軽減させて、パッチ72がより一層低い温度(例えば100K) に到達できるようにしている。
【0075】
パッチ72に赤外線検出素子70−1、70−2、70−3を実装しているので、赤外線検出素子70−1、70−2、70−3は所定の極低温に保持される。結像ゲルマニウムレンズ75−1、75−2、75−3は、円筒形のレンズホルダ76に挿着されている。結像ゲルマニウムレンズ75−1、75−2、75−3の光軸と赤外線検出素子70−1、70−2、70−3の光軸とがそれぞれ一致するように、赤外線検出素子70−1、70−2、70−3の受光面に対応するコーン箱形部71Aの開口部に、レンズホルダ76を固着している。
【0076】
この結像ゲルマニウムレンズ75−1、75−2、75−3は、宇宙空間において焦点位置が、赤外線検出素子70−1、70−2、70−3の受光面に一致するように、コーン箱形部71Aに固着されるものである。レンズホルダ76の外周面にねじ山を螺刻し、このレンズホルダ76をコーン箱形部71Aの壁部に設けたねじ孔に螺合して、結像ゲルマニウムレンズ75−1、75−2、75−3の位置調整(焦点調整)ができるようにしている。位置調整が終了した後に、レーザ溶接等してレンズホルダ76をコーン箱形部71Aに固着している。
【0077】
結像ゲルマニウムレンズ自身から輻射される赤外線量を低減するために低温であることが好ましい。したがって、上述のように結像ゲルマニウムレンズ75−1、75−2、75−3をコーン箱形部71Aに固着して、低温になるようにしている。
【0078】
地上の物体は、放射する赤外線の波長帯がその物体特有である。したがって、図7に示したように、パッチ72に複数(図では3個)の赤外線検出素子70−1、70−2、70−3を実装し、異なる波長帯の赤外線を受光するようにしている。図7では3個としたが、3個に限るものではない。
【0079】
集光光学系のコリメータ60を経由して放射された平行光束の赤外線65の光路上に、45度傾斜した分光素子77−1、77−2及び反射鏡77−3を配置している。1段目の分光素子77−1(例えばビームスプリッタ) は、第1の波長帯の赤外線を反射して1段目の結像ゲルマニウムレンズ75−1を介して、1段目の赤外線検出素子70−1に入射させるものである。
【0080】
分光素子77−1を透過した第2,第3の波長帯のうち、第2の波長帯の赤外線は、次段に配置された2段目の分光素子77−2で反射して、2段目の結像ゲルマニウムレンズ75−2を介して2段目の赤外線検出素子70−2に入射する。
【0081】
2段目の分光素子77−2を透過した第3の波長帯の赤外線は、3段目の反射鏡77−3で反射して、3段目の結像ゲルマニウムレンズ75−3を介して3段目の赤外線検出素子70−3に入射する。
【0082】
赤外線検出装置100は、このように赤外線を複数の波長帯に分離し検出することで、地上の物体を探査している。赤外線検出装置100においては、その赤外線の検出性能を高めるために、結像ゲルマニウムレンズ75−1、75−2、75−3と赤外線検出素子70−1、70−2、70−3との距離(図7に図示した距離b)が、結像ゲルマニウムレンズ75−1、75−2、75−3の焦点距離に一致していることが好ましい。
図8は、宇宙シミュレータの断面図である。
【0083】
図8は、図6、図7と断面方向が異なり、y−z断面である。70は赤外線検出素子、75は結像ゲルマニウムレンズ、150は宇宙シミュレータ、201は真空チャンバー、202は冷却装置、202−1は冷媒流路の一方の開口、202−2は冷媒流路の他の開口、203はパッチ温度調整体、204は温度計、205はコーン温度調整体、206は温度計、207は計測器、208は旋回台、209は焦点補正機構、210は第1のレンズ、211は第2のレンズ、212は窓である。
【0084】
真空チャンバー201は、結像ゲルマニウムレンズ75および赤外線検出素子70を組み込んだ赤外線検出装置100を収容する。冷却装置202は、真空チャンバー201内でコーン71の開口側に設置する。冷却装置202は良熱伝導性の金属板内に、液体窒素等の冷媒の流路を設け、流路の一方の開口202−1から液体窒素等の冷媒を投入し、他方の開口202−2から排出することで、真空チャンバー201内を極低温にして、コーン71, パッチ72及び結像ゲルマニウムレンズ75を所望の低温度に冷却している。赤外線検出装置100でコーン71やパッチ72を冷却した際に、結像ゲルマニウムレンズ75などの結露を低減するために、真空チャンバー201内は真空状態にする。
【0085】
図6のコリメータ60を経由して放射された平行光束の赤外線65は、宇宙シミュレータ150に設置されている、窓212を経由して宇宙シミュレータ150内に導入される。
【0086】
パッチ温度調整体203は、両端部に金属端面板を備えた、その金属端面板間を良熱伝導性のばね性ある金属線束(例えばアルミニウム線,銅線)で連結したもので、一方の金属端面板を冷却装置202に溶接等して固着し、他方の金属端面板をパッチ72の面に圧接させている。また、温度計204でパッチ72の温度を観測している。
【0087】
したがって、パッチ72の熱はパッチ温度調整体203を介して冷却装置202に伝達されるので、パッチ72の温度は、パッチ温度調整体203が無いときよりもさらに低温になる。そして、金属線束の断面積を調整することで、パッチ72を所望の低温度に冷却することができる。
【0088】
コーン温度調整体205は、両端部に金属端面板を備えた、その金属端面板間を良熱伝導性のばね性ある金属線束(例えばアルミニウム線,銅線)で連結したもので、一方の金属端面板を冷却装置202に溶接等して固着し、他方の金属端面板をコーン71の面に圧接させている。また、温度計206でコーン71の温度を観測している。
【0089】
したがって、コーン71の熱はコーン温度調整体205を介して冷却装置202に伝達されるので、コーン71の温度は、コーン温度調整体205が無いときよりもさらに低温になる。そして、金属線束の断面積を調整することで、コーン71を所望の低温度に冷却することができる。
【0090】
上述のようなパッチ温度調整体203、および、コーン温度調整体205を宇宙シミュレータ150に設けることにより、冷却装置202を稼働すると、コーン71の温度は時間の経過とともに低下して、所望の低温度で定常となる。
【0091】
また、パッチ72の温度は時間の経過とともに低下して、所望の低温度で定常となる。パッチ温度調整体203、および、コーン温度調整体205は設けなくても良い。
【0092】
パッチ温度調整体203、および、コーン温度調整体205を設けると、上述のようにパッチ72及びコーン71の温度を高精度に宇宙空間での予測温度に設定することができるので、パッチ温度調整体203、および、コーン温度調整体205を設けることが好ましい。
【0093】
また、温度計206でコーン71の温度を観測し、温度計204でパッチ72の温度を観測している。さらに、赤外線検出素子の端子に繋がる導線を真空チャンバー201の外に引出して、計測器207を接続し、赤外線検出素子70の出力を計測するようにしている。
【0094】
コリメータ60を旋回台208上に設置し、コリメータ60を経由して放射された平行光束の赤外線65を、結像ゲルマニウムレンズ75に入射するようにしている。この旋回台208は、コリメータ60の光軸と結像ゲルマニウムレンズ75の光軸を一致させるためのものである。
【0095】
結像ゲルマニウムレンズ75の焦点位置と赤外線検出素子70の受光面とが一致している場合に、赤外線検出素子70の出力が最大となるので好ましい。
【0096】
図8に示すように、宇宙シミュレータ150とコリメータ60との間に、必要に応じて、焦点補正機構209を配置する。焦点補正機構209は、内部に第1のレンズ210および第2のレンズ211を備えている。コリメータ60からの赤外線が、宇宙シミュレータ150内の赤外線検出素子70にて焦点が合うように、第1のレンズ210および第2のレンズ211が光軸方向に移動可能である。また、必要に応じて、焦点補正機構209全体を光軸方向に移動調整して、焦点を合わせることも可能である。このように、焦点補正機構209により、焦点を合わせることが可能となり、赤外線検出素子70の出力が最大となるようにすることができる。
【0097】
以上本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0098】
S1 光学部品の表面を有機溶剤で洗浄する工程
S2 洗浄後の光学部品の表面を乾燥させる工程
S3 光学部品を希塩酸または希フッ化水素酸に浸漬する工程
S4 光学部品の表面を水洗する工程
S5 光学部品の表面を乾燥させる工程
S6 光学部品をフッ化水素酸+過酸化水素水を含む混合薬液に浸漬する工程
S7 光学部品の表面を水洗する工程
S8 光学部品の表面を乾燥させる工程
S9 光学部品をフッ化水素酸+過酸化水素水を含む混合薬液に浸漬する工程
S10 光学部品の表面を水洗する工程
S11 光学部品の表面を乾燥させる工程
21 約 800cm-1近辺における赤外線吸収
22 約1600cm-1近辺における赤外線吸収
23 約2000cm-1近辺における赤外線吸収
24 約3200cm-1近辺における赤外線吸収
25 約3400cm-1近辺における赤外線吸収
30 ゲルマニウム凸レンズ
40 反射防止層形成プロセス(図1)実施前のゲルマニウムレンズ表面
41 空洞
42 残留ゲルマニウム
43 窪み
44 開示の反射防止層
60 コリメータ
61 赤外線発光光源
62 副反射鏡
63 放物面鏡
64 スリット
65 平行光束の赤外線
70 赤外線検出素子
70−1、70−2、70−3 赤外線検出素子
71 コーン
71A コーン箱形部
71B コーン放射部
72 パッチ
73 断熱材
74 基板
75 結像ゲルマニウムレンズ
75−1、75−2、75−3 結像ゲルマニウムレンズ
76 レンズホルダ
77 分光素子(または反射鏡)
77−1、77−2 分光素子
77−3 反射鏡
80 放射冷却器
100 赤外線検出装置
150 宇宙シミュレータ
201 真空チャンバー
202 冷却装置
202−1 冷媒流路の一方の開口
202−2 冷媒流路の他の開口
203 パッチ温度調整体
204 温度計
205 コーン温度調整体
206 温度計、
207 計測器
208 旋回台
209 焦点補正機構
210 第1のレンズ
211 第2のレンズ
212 窓


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲルマニウム材料を含む部材の表面に、該ゲルマニウム材料を含む反射防止層を有する
ことを特徴とする光学部品。
【請求項2】
前記反射防止層は、多孔質である
ことを特徴とする請求項1に記載の光学部品。
【請求項3】
前記部材がレンズである
ことを特徴とする請求項1または2のいずれか1項に記載の光学部品。
【請求項4】
ゲルマニウム材料を含む部材を処理し、表面にゲルマニウム材料を含む反射防止層を形成する工程を有することを特徴とする光学部品の形成方法。
【請求項5】
前記処理は、フッ化水素酸と過酸化水素水との混合薬液に浸すことであることを特徴とする請求項4に記載の光学部品の形成方法。
【請求項6】
ゲルマニウム材料を含む部材の表面に、該ゲルマニウム材料を含む反射防止層を有するレンズと、該レンズを介して赤外線を受光する赤外線検出素子とを含む赤外線検出装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−103454(P2012−103454A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−251530(P2010−251530)
【出願日】平成22年11月10日(2010.11.10)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】