説明

光学部品の製造方法

【課題】研磨液のコロイダルシリカの付着個数を定量的に評価する検査情報をフィードバックして、最適な洗剤等に切り換えることで、最終洗浄工程における高清浄化の要求を満たせるよう工夫した光学部品の製造方法を提供する。
【解決手段】表面に蛍光色素53を結合させた、シリカ系の砥粒であるコロイダルシリカ52を含む研磨液で光学部品50を精密研磨する精密研磨工程と、精密研磨された光学部品50に付着している異物を洗浄して除去する最終洗浄工程と、最終洗浄された光学部品50に付着しているコロイダルシリカ52の付着個数を定量的に評価する検査工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学部品、例えば情報記録媒体〔例えばハードディスクドライブ(Hard disk drive…HDD)等〕用のガラス基板は、円盤加工工程、ラッピング工程、粗研磨工程、精密研磨工程、最終洗浄工程、検査工程を経て製造されている。なお、粗研磨工程と精密研磨工程との間、または精密研磨工程と最終洗浄工程との間に、化学強化工程が入ることもある。
【0003】
このような情報記録媒体用のガラス基板は、高密度化に伴って、最終洗浄工程における高洗浄化の要求が高まっている。
【0004】
そのため、検査工程におけるガラス基板の異物欠陥の検査では、異物の位置を光学的表面分析装置(OSA…Optical Surface Analyzer)で解析してマーキングし、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察と、エネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDX)による元素分析とを行っている。
【0005】
そして、検査工程で得られた検査情報を最終洗浄工程にフィードバックして、その異物の除去に最適な洗剤等に切り替えることによって、最終洗浄工程における高清浄化の要求を達成しようとしている。
【0006】
ところで、最終洗浄工程の前の精密研磨工程では、シリカ系の砥粒(コロイダルシリカ)を含む研磨液(スラリー)が用いられることがある(特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−61819号公報
【特許文献2】特開2006−82138号公報
【特許文献3】特開2009−116950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、コロイダルシリカを含む研磨液では、検査工程のEDXによる元素分析において、分析された異物は、ガラス基板自体の研磨屑(二酸化ケイ素)の付着か、研磨液のコロイダルシリカ(二酸化ケイ素)の付着か、あるいは組成の判別ができない微少付着か、分析エラーか等の正確な切り分けが困難であった。
【0009】
そのため、検査工程の検査情報を最終洗浄工程にフィードバックして、研磨液のコロイダルシリカの除去に最適な洗剤等に切り替えられないので、最終洗浄工程における高清浄化の要求を満たしにくいという問題があった。
【0010】
本発明は、前記問題を解消するためになされたもので、研磨液のコロイダルシリカの付着個数を定量的に評価する検査情報をフィードバックして、最適な洗剤等に切り換えることで、最終洗浄工程における高清浄化の要求を満たせるように工夫した光学部品の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために、本発明の光学部品の製造方法は、表面に蛍光色素を結合させた、シリカ系の砥粒であるコロイダルシリカを含む研磨液で光学部品を精密研磨する精密研磨工程と、精密研磨された光学部品に付着している異物を洗浄して除去する最終洗浄工程と、最終洗浄された光学部品に付着しているコロイダルシリカの付着個数を定量的に評価する検査工程とを含むことを特徴とするものである。
【0012】
この構成によれば、コロイダルシリカを含む研磨液を精密研磨工程で用いる場合に、このコロイダルシリカの表面に蛍光色素を結合させているから、最終洗浄工程の後の検査工程で、光学部品の表面を蛍光顕微鏡で観察すれば、蛍光発光する異物が研磨液に含まれるコロイダルシリカであると明確に分析できるようになる。なお、蛍光観察する際に液浸を行うと、分解能が向上するため、より好ましい。
【0013】
すなわち、光学部品の異物欠陥分析時に、蛍光発光しなければガラス基板自体の研磨屑(二酸化ケイ素)の付着であると分析でき、組成判別できない微少付着であっても、蛍光発光していれば研磨液に含まれるコロイダルシリカであると分析でき、判定エラーであっても、蛍光発光していれば研磨液に含まれるコロイダルシリカであると分析できる。
【0014】
このように、蛍光発光の有無によって、研磨液に含まれるコロイダルシリカを正確な切り分けできるようになる。
【0015】
そして、検査工程において、最終洗浄された光学部品に付着している研磨液のコロイダルシリカの付着個数を定量的に評価することで、付着個数が許容範囲を超えている場合には、検査工程の検査情報を最終洗浄工程にフィードバックして、コロイダルシリカの除去に最適な洗剤や最適な周波数の超音波清浄に切り換えられるので、最終洗浄工程における高清浄化の要求を満たせるようになる。
【0016】
他の態様として、前記検査工程は、蛍光顕微鏡でコロイダルシリカの付着個数を観察して把握する把握工程を含み、把握したコロイダルシリカの付着個数に応じて、前記最終洗浄工程で、コロイダルシリカの除去に最適な洗浄方法に切り替えるように、把握工程の把握情報を最終洗浄工程にフィードバックする構成とすることができる。なお、蛍光観察する際に液浸を行うと、分解能が向上するため、より好ましい。
【0017】
この構成によれば、検査工程の中の把持工程において、最終洗浄された光学部品に付着しているコロイダルシリカの付着個数を蛍光顕微鏡で観察して把持する。そして、把握したコロイダルシリカの付着個数に応じて、最終洗浄工程で、コロイダルシリカの除去に最適な洗剤に切り替えるように、把握工程の把握情報を最終洗浄工程にフィードバックする。これにより、最終洗浄工程における高清浄化の要求を満たせるようになる。
【0018】
また、他の態様として、前記把握工程で、コロイダルシリカの付着個数が所定の個数を超えた時に、前記最終洗浄工程の洗剤を交換する構成とすることができる。
【0019】
この構成によれば、最終洗浄工程では、例えば6時間毎に洗剤を交換している。しかし、把握工程でコロイダルシリカの付着個数が所定の個数を超えた時には、現在使用中の洗剤ではこれ以上のコロイダルシリカを除去できないと判断して、6時間を経過する前に最終洗浄工程の洗剤を交換する。これにより、最終洗浄工程における高清浄化の効率が向上するようになる。
【0020】
さらに、他の態様として、前記光学部品として形状が異なる数種類が存在する場合、前記検査工程で、個々の光学部品のコロイダルシリカの付着個数を定量的に評価した情報に基づいて、前記最終洗浄工程で、対応する光学部品の異物の除去に最適な洗剤に切り換える構成とすることができる。
【0021】
この構成によれば、組成が異なる数種類が存在する光学部品を最終洗浄する場合、検査工程で、個々の光学部品のコロイダルシリカの付着個数を定量的に評価した情報を得て、その情報に基づいて、最終洗浄工程で、対応する光学部品のコロイダルシリカの除去に最適な洗剤や最適な周波数の超音波清浄に切り換える。これにより、形状が異なる数種類の光学部品を毎回検査する必要が無くなるので、最終洗浄工程における高清浄化の効率が向上するようになる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、コロイダルシリカの付着個数を定量的に評価する検査情報をフィードバックして、最適な洗剤等に切り換えることで、最終洗浄工程における高清浄化の要求を満たせるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る光学部品である情報記録媒体用ガラス基板の斜視図である。
【図2】図1のガラス基板の製造工程図である。
【図3】研磨工程に用いられる研磨装置の側面断面図である。
【図4】(a)は異物が付着したガラス基板の正面図、(b)はコロイダルシリカの断面図である。
【図5】実験例1と比較例1の分析結果を示す図表である。
【図6】実験例2の工程図である。
【図7】実験例3の工程図である。
【図8】(a)は比較例2の工程図、(b)はグライド実験結果を示すグラフである。
【図9】(a)は実験例2と実験例3と比較例2の分析結果を示す図表、(b)はコロイダルシリカの付着個数の推移の分析結果を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、情報記録媒体〔例えばハードディスクドライブ(HDD)等〕用ガラス基板50の斜視図、図2は、ガラス基板50の製造工程図である。
【0025】
ガラス基板50は、円盤加工工程A、ラッピング工程B、粗研磨工程C、精密研磨工程D、最終洗浄工程E、検査工程Fを経て製造される。なお、粗研磨工程Cと精密研磨工程Dとの間、または精密研磨工程Dと最終洗浄工程Eとの間に、化学強化工程Gが入ることもある。
【0026】
ガラス基板50に使用するガラス素子50´は、二酸化ケイ素(SiO)を主成分とし、これにマグネシウムとカルシウムとの双方を含まないガラス組成物を使用できるが、いずれか一方若しくは双方を含むガラス組成物も使用できる。また、セリウムを含まないものや含むものも使用できる。
【0027】
円盤加工工程Aは、溶融状ガラスを、例えば、外径が2.5インチ、1.8インチ、1インチ、0.8インチ等のサイズで、厚みが2mm、1mm、0.63mm等の円盤状のガラス素子50´に押圧加工する工程である。
【0028】
ラッピング工程Bは、ガラス素子50´を所定の板厚にラッピング加工する工程である。ラッピング工程Bは、第1ラッピング工程B1と第2ラッピング工程B2とで構成されている。
【0029】
第1ラッピング工程B1では、ガラス素子50´の表裏両面を研削(ラッピング)し、ガラス素子50´の全体形状、すなわちガラス素子50´の平行度、平坦度および厚みを予備調整する。
【0030】
第2ラッピング工程B2では、第1ラッピング工程B1に続いて、ガラス素子50´の表裏両面を再び研削して、ガラス素子50´の平行度、平坦度および厚みを微調整する。
【0031】
粗研磨工程Cは、精密研磨工程Dで最終的に必要とされる面粗さを効率よく得ることができるように、面粗さを向上させる工程である。
【0032】
精密研磨工程Dは、粗研磨工程Cを経たガラス素子50´の表面をさらに精密に研磨する工程である。
【0033】
最終洗浄工程Eは、精密研磨工程Dを経て、ガラス素子50´に付着した異物を洗浄して除去する工程である。なお、ラッピング工程Bの後や粗研磨工程Cの後にも、洗浄工程を設けることもできる。
【0034】
この最終洗浄工程Eで、ガラス素子50´に付着した異物を洗浄して除去することで、情報記録媒体用のガラス基板50が完成することになる。
【0035】
検査工程Fは、最終洗浄工程Eを経て完成した情報記録媒体用のガラス基板50に付着したまま残存している異物を検査する工程である。
【0036】
この検査工程Fで、異物の個数が許容範囲を下回っているときは(OK)、ガラス基板50は、表面に磁気層等を形成する工程に送られる。また、異物の個数が許容範囲を越えているときは(NG)、ガラス基板50は、再洗浄工程に送られて再洗浄され、再検査工程で再検査されるようになる。
【0037】
化学強化工程Gは、化学強化液にガラス素子50´を浸漬して、ガラス素子50´に化学強化層を形成する工程である。このような化学強化層を形成することで、情報記録媒体用のガラス基板50の耐衝撃性、耐振動性及び耐熱性等を向上させることができる。
【0038】
次に、粗研磨工程Cと精密研磨工程Dとに用いられる研磨装置1を説明する。図3は両面同時研磨可能な研磨装置の側面断面図である。
【0039】
研磨装置1は、互いに平行になるように上下に間隔を隔てて配置された円盤状の上定盤5と下定盤2とを備えており、互いに逆方向に回転する。
【0040】
この上下の定盤5,2の対向するそれぞれの面にガラス素子50´の表裏の両面を研磨するための研磨砥粒Sが貼り付けられている。上下の定盤5,2の間には、回転可能な複数のキャリア4が設けられ、各キャリア4にガラス素子50´を嵌め込んで配置するようになる。
【0041】
キャリア4は、ガラス素子50´を保持した状態で、自転しながら定盤5,2の回転中心に対して下定盤2と同じ方向に公転する。このような動作をしている研削装置1において、研磨液51を研磨液供給器11のノズル34から上定盤5とガラス素子50´との間、及び下定盤2とガラス素子50´との間にそれぞれに供給することでガラス素子50´の研削を行うことができる。
【0042】
供給された研磨液51は、液回収部10で回収されて、金属イオン等を除去した後、研磨液供給器11に戻されるようになる。なお、12は、潤滑剤供給器である。
【0043】
この研磨液51は、シリカ系の砥粒(コロイダルシリカ)を含む研磨液(スラリー)であり、図4(b)のように、コロイダルシリカ52の表面には、蛍光色素53が結合されている。なお、蛍光色素53が結合されているコロイダルシリカ52は、精密研磨工程Dで必要であり、粗研磨工程Cでは、蛍光色素53が結合されていないコロイダルシリカ52であっても差し支えはない。
【0044】
研磨液51は、pHが1〜3の範囲で使用されるのが好ましい。この範囲内では、研磨に適した分散性を保つことができる。即ち、この範囲を超えると、コロイダルシリカ52が凝集しやすくなり、研磨に際してガラス素子50´の表面にコロイダルシリカ52が局所的に凝集する。その結果、ガラス素子50´の表面において、その凝集した部分が他の部分よりも研磨量(取り代量)が多くなる。したがって、精密研磨工程Dの前に化学強化工程Gが入る場合には、化学強化工程Gで形成された化学強化層(圧縮応力層)の平衡がくずれ、ガラス素子50´が歪みやすくなって平坦性が悪くことがある。
【0045】
また、研磨液51は、コロイダルシリカ52のゼータ電位が−10mV以下、または+10mV以上となる範囲の条件にして使用するのが好ましい。コロイダルシリカ52のゼータ電位が−10mVから+10mVまでの範囲では、前記の場合と同様に、コロイダルシリカ52が凝集しやすくなり、ガラス素子50´の表面にコロイダルシリカ52が局所的に凝集し易くなるからである。より好ましくは、コロイダルシリカ52のゼータ電位がー50mV〜−10mV、又は+10mV〜+50mVである。ゼータ電位測定には、大塚電子社製のゼータ電位・粒径測定システム(ELSZ−2)を使用した。データ3回を取って、その平均値をゼータ電位の値とした。
【0046】
また、コロイダルシリカ52は、平均粒子径が1〜100nm、好ましくは、80nm以下のものを用いる。粒子径が80nmを越えると、研磨後のガラス素子50´の平滑性が低下するおそれが生じるからである。より好ましくは、平均粒子径が50nm以下、例えば20nm程度のものを用いる。
【0047】
そして、前述のように、精密研磨工程Dを経たガラス素子50´に付着した異物を最終洗浄工程Eで洗浄して除去することで、情報記録媒体用のガラス基板50が完成することになる。
【0048】
その後、最終洗浄工程Eを経て完成した情報記録媒体用のガラス基板50に付着したまま残存している異物を検査工程Fで検査するのであるが、コロイダルシリカ52を含む研磨液51を用いた場合、以下のような問題が生じる。
【0049】
すなわち、検査工程FのEDXによる元素分析において、分析された異物は、図5(a)のように、ガラス基板50自体の研磨屑(二酸化ケイ素)aの付着か、研磨液51のコロイダルシリカ52(二酸化ケイ素)bの付着か、あるいは組成の判別ができない微少付着か、分析エラーか等の正確な切り分けが困難なことである。なお、鉄(Fe)、カーボン(C)、セリウム(Ce)が付着することもある〔図4(a)では一括して符号cを付している。〕。
【0050】
そこで、コロイダルシリカ52を含む研磨液51を用いる場合に、研磨液51に含まれるコロイダルシリカ52を明確に判別できる工夫を、コロイダルシリカ52自体に施している。
【0051】
図4(b)に示したように、コロイダルシリカ52の表面には、蛍光色素53が結合されている。コロイダルシリカ52の粒径は、例えば20nmである。
【0052】
蛍光色素53としては、例えばフルオレセイン類、ローダミン類、クマリン類、ピレン類、シアニン類が適当である。
【0053】
例えば、コロイダルシリカ52の表面にアミノ基(−NH)、カルボキシル基(−COOH)、イソチオシアネート基(−N=C=S)またはエステル基(−COOR)を有するシランカップリング試薬を結合させ、これらの基を介してコロイダルシリカ52の表面に蛍光色素53を結合させることができる。その厚みは、数nmである。
【0054】
コロイダルシリカ52の表面に結合させた蛍光色素53の表面は、外殻54で覆われているのが好ましい。外殻としては、例えば、シリカ(SiO)、高分子等が適当である。
【0055】
例えば、蛍光色素標識コロイダルシリカ52の表面の蛍光色素53と結合していないアミノ基(−NH)、カルボキシル基(−COOH)、イソチオシアネート基(−N=C=S)またはエステル基(−COOR)にシリカ化合物を反応させて、蛍光色素53で標識されたコロイダルシリカ52の表面にシリカ皮膜を形成することができる。
【0056】
また、正の電荷を持つイオン性高分子と負の電荷を持つイオン性高分子を、コロイダルシリカ52の表面に静電的引力によって交互に積層させて、コロイダルシリカ52の表面に高分子の皮膜を形成することができる。なお、シリカ皮膜は、硬度が変わらないため、高分子皮膜より好ましい。その厚みは、数nmである。
【0057】
ここで、図5の図表を用いて、蛍光色素53を結合させたコロイダルシリカ52を含む研磨液51を用いた実験例1と、蛍光色素53を結合させていないコロイダルシリカ52を含む研磨液51を用いた比較例1とを説明する。
【0058】
実験例1と比較例1は、研磨液51以外は、精密研磨工程Dと最終洗浄工程Eは同じ条件である。なお、実験例1では、精密研磨工程Dの後は、蛍光色素53の褪色を防ぐために遮光した。
【0059】
実験例1と比較例1のガラス基板50は、最終洗浄工程Eの後に、異物の位置を光学的表面分析装置(OSA)で解析してマーキングし、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察と、エネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDX)による元素分析とを行った。SEMとしては、日立ハイテク社製の超高分解能電界放出形走査電子顕微鏡(S−4800)を使用した。EDXとしては、HORIBA社製のエネルギー分散型X線分析装置(EMAX ENERGY EX−250)を使用した。
【0060】
なお、実験例1では、SEM観察とEDX観察の前に、蛍光顕微鏡で観察を行って、コロイダルシリカ52の付着個数を定量した後に、SEM観察とEDX観察を行った。その理由は、ガラス基板50にSEM観察とEDX観察のための成膜を施すと、蛍光色素53の蛍光強度が低下するためである。
【0061】
その結果、図5の図表のように、比較例1では、組成不明の元素が9個であった。これに対して実験例1では、蛍光顕微鏡の観察で、蛍光発光する異物が研磨液51に含まれるコロイダルシリカ52であると明確に分析できるようになる。したがって、組成不明の元素の中からコロイダルシリカ52を選別できることから、コロイダルシリカ52が5個であることが分かり、組成不明の元素が2個に減少した。つまり、組成不明であった付着物の約25%がコロイダルシリカ52の付着であることが判明した。
【0062】
前記のように、コロイダルシリカ52を含む研磨液51をガラス基板50の研磨に用いる場合に、このコロイダルシリカ52の表面に蛍光色素53を結合させているから、ガラス基板50の表面を蛍光顕微鏡で観察すれば、蛍光発光する異物が研磨液51に含まれるコロイダルシリカ52であると明確に分析できるようになる。
【0063】
したがって、ガラス基板50の異物欠陥分析時に、蛍光発光しなければガラス基板50自体の研磨屑(二酸化ケイ素)の付着であると分析でき、組成判別できない微少付着であっても、蛍光発光していれば研磨液51に含まれるコロイダルシリカ52であると分析でき、判定エラーであっても、蛍光発光していれば研磨液51に含まれるコロイダルシリカ52であると分析できる。
【0064】
このように、蛍光発光の有無によって、研磨液51に含まれるコロイダルシリカ52を正確な切り分けできるようになる。
【0065】
そのため、後述するように、検査工程Fの検査情報を最終洗浄工程Eにフィードバックして、研磨液51に含まれるコロイダルシリカ52(異物)の除去に最適な洗剤や最適な周波数の超音波清浄に切り替えられるので、最終洗浄工程Eにおける高清浄化の要求を満たせるようになる。
【0066】
また、コロイダルシリカ52の表面に蛍光色素53を結合させることで、コロイダルシリカ52のゼータ電位が変化して、コロイダルシリカ52が凝集しやすくなる。この対策として蛍光色素53の表面を外殻(高分子、シリカ等)54で覆うことで、ゼータ電位の差がほぼ元の状態に保たれるようになる。この結果、コロイダルシリカ52の分散性を維持できるようになり、研磨特性も維持できるようになる。さらに、コロイダルシリカ52のゼータ電位の差が5mV以内であれば、コロイダルシリカ52の分散性を維持できるようになる。
【0067】
次に、検査工程Fの検査情報を最終洗浄工程Eにフィードバックして、研磨液51に含まれるコロイダルシリカ52(異物)の除去に最適な洗剤や最適な周波数の超音波清浄に切り替える方法を具体的に説明する。
【0068】
図6は、後述する実験例2に対応する工程であり、検査工程Fは、異物の位置を光学的表面分析装置(OSA)で解析してマーキングするOSA測定工程F−1を含んでいる。
【0069】
このOSA測定工程F−1で異物の付着個数が測定され、異物の付着個数が許容範囲を下回っているときは(OK)、SEM・EDX観察のための成膜を施す工程F−2で成膜を施され、SEM・EDX観察の工程F−3に送られる。
【0070】
また、OSA測定工程F−1で異物の付着個数が許容範囲を越えているときは(NG)、把握工程F−4に送られて、蛍光顕微鏡の観察で、蛍光発光する異物が研磨液51に含まれるコロイダルシリカ52であるか否か、コロイダルシリカ52である場合には、付着個数が定量的に評価されるようになる。
【0071】
この把握工程F−4でコロイダルシリカ52の付着個数が許容範囲を越えているときは(NG)、再洗浄工程F−5(または最終洗浄工程E)に送られて再洗浄され、把握したコロイダルシリカ52の付着個数に応じて、コロイダルシリカ52に適した洗剤等で再洗浄される。
【0072】
その後、OSA測定工程F−6でコロイダルシリカ52の付着個数が再測定され、コロイダルシリカ52の付着個数が許容範囲を下回っているときは(OK)、SEM・EDX観察のための成膜を施す工程F−2で成膜を施され、SEM・EDX観察の工程F−3に送られる。
【0073】
また、OSA測定工程F−6で異物の付着個数が許容範囲を越えているときは(NG)、把握工程F−4に再び送られて、付着個数が再評価される。
【0074】
一方、把握工程F−4でコロイダルシリカ52の付着個数が許容範囲を越えていないが(OK)、他の異物の付着個数が許容範囲を越えているときは、再洗浄工程F−5(または最終洗浄工程E)に送られて再洗浄され、他の異物に適した洗剤等で再洗浄される。
【0075】
その後、OSA測定工程F−6で他の異物の付着個数が再測定され、他の異物の付着個数が許容範囲を下回っているときは(OK)、SEM・EDX観察のための成膜を施す工程F−2で成膜を施され、SEM・EDX観察の工程F−3に送られる。
【0076】
また、OSA測定工程F−6で他の異物の付着個数が許容範囲を越えているときは(NG)、把握工程F−4に再び送られて、付着個数が再評価される。
【0077】
そして、把握工程F−4の把握情報は、最終洗浄工程Eにフィードバックされ、最終洗浄工程Eで、コロイダルシリカ52の除去に最適な洗剤(または他の異物の除去に最適な洗剤)や最適な周波数の超音波清浄に切り替えることにより、最終洗浄工程Eにおける高清浄化の要求を満たせるようになる。
【0078】
図7は、後述する実験例3に対応する工程であり、図6の検査工程Fと比較して、OSA測定工程F−1と、再洗浄工程F−5(または最終洗浄工程E)に、他の異物に適した洗剤等で再洗浄する工程とを含んでいない。
【0079】
図8(a)は、後述する比較例2に対応する工程であり、図7の検査工程Fと比較して、把握工程F−4と再洗浄工程F−5(または最終洗浄工程E)とを含んでいない。
【0080】
ここで、図9(a)の図表を用いて、実験例2、実験例3、比較例2の説明をする。実験例2、実験例3、比較例2で共通することは、蛍光色素53を結合させたコロイダルシリカ52を含む研磨液51を使用したことである。
【0081】
実験例2は、最終洗浄工程Eの後に、OSA測定工程F−1で異物の付着個数を把握し、把握工程F−4でコロイダルシリカ52の付着個数を把握したものである。
【0082】
実験例3は、最終洗浄工程Eの後に、把握工程F−4でコロイダルシリカ52の付着個数を把握したものである。
【0083】
比較例2は、最終洗浄工程Eの後に、把握工程F−4が無く、コロイダルシリカ52の付着個数を把握していないものである。
【0084】
その結果、図9(a)の図表のように、比較例2では、コロイダルシリカ52と他の異物との切り分けができないために、組成不明の元素が9個で、Total付着個数も非常に多いことが分かる。
【0085】
これに対して、実験例2では、コロイダルシリカ52と他の異物との切り分けができるため、コロイダルシリカ52と他の異物の付着個数を減少させることができるので、比較例2と比べて、組成不明の元素もTotal付着個数も激減していることが分かる。
【0086】
また、実験例3では、コロイダルシリカ52の切り分けができるため、コロイダルシリカ52の付着個数を減少させることができるので、実験例2に劣るものの、比較例2と比べて、組成不明の元素もTotal付着個数も激減していることが分かる。
【0087】
ここで、OSA測定工程F−1で、異物の付着個数が許容範囲を下回っている(しきい値以下)のガラス基板50に、下地層、磁性層、保護層および潤滑層を順次に積層して、ハードディスクドライブ用の磁気ディスクを100枚作成した。
【0088】
これらの磁気ディスクに対して、GH(グライドハイト)5nmのグライド実験を行った。ここで、GHとは、ヘッドがディスク上を浮上するときにディスク上の各種突起に当たらないことを保証するためのテストである。
【0089】
その結果は、図8(b)に示す通りであり、実験例2は良品率が93%、実験例3は良品率85%であるのに対して、比較例2は良品率70%であった。
【0090】
また、把握工程F−4で、コロイダルシリカ52の付着個数が所定の個数を超えた時に、最終洗浄工程Eの洗剤を交換する管理手法と、6時毎に最終洗浄工程Eの洗剤を交換する管理手法とを比較するために、100バッチ(1バッチはガラス基板50が1000枚)のコロイダルシリカ52の付着個数の推移を実験した。
【0091】
その結果は、図9(b)に示す通りであり、把握工程F−4で管理している場合は、100バッチ目(10万枚目)であっても、コロイダルシリカ52の付着個数が少ないガラス基板50が得られることが分かる。
【0092】
これに対して、時間で管理している場合は、30バッチ目(3万枚目)頃からコロイダルシリカ52の付着個数が多くなってくることが分かる。
【0093】
したがって、時間で管理している場合と比べて、把握工程F−4で管理する場合には、把握工程F−4でコロイダルシリカ52の付着個数が所定の個数を超えた時には、現在使用中の洗剤ではこれ以上のコロイダルシリカ52を除去できないと判断して、最終洗浄工程Eの洗剤を交換することにより、最終洗浄工程Eにおける高清浄化の効率が向上するようになる。
【0094】
前記のように、コロイダルシリカ52を含む研磨液51を精密研磨工程Dで用いる場合に、このコロイダルシリカ52の表面に蛍光色素53を付着させているから、蛍光発光の有無によって、研磨液51に含まれるコロイダルシリカ52を正確な切り分けできるようになる。
【0095】
そして、検査工程Fにおいて、最終洗浄されたガラス基板50に付着しているコロイダルシリカ52の付着個数を定量的に評価することで、付着個数が許容範囲を超えている場合には、検査工程Fの検査情報を最終洗浄工程Eにフィードバックして、コロイダルシリカ52の除去に最適な洗剤や最適な周波数の超音波清浄に切り換えられるので、最終洗浄工程Eにおける高清浄化の要求を満たせるようになる。
【0096】
具体的には、検査工程Fの中の把握工程F−4において、最終洗浄されたガラス基板50に付着しているコロイダルシリカ52の付着個数を蛍光顕微鏡で観察して把握する。そして、把握したコロイダルシリカ52の付着個数に応じて、最終洗浄工程Eで、コロイダルシリカ52の除去に最適な洗剤や最適な周波数の超音波清浄に切り替えるように、把握工程F−4の把握情報を最終洗浄工程Eにフィードバックする。これにより、最終洗浄工程Eにおける高清浄化の要求を満たせるようになる。
【0097】
一方、ガラス基板50として組成が異なる数種類が存在する場合、検査工程Fで、個々のガラス基板50のコロイダルシリカ52の付着個数を定量的に評価した情報に基づいて、最終洗浄工程Eで、対応するガラス基板50のコロイダルシリカ52の除去に最適な洗剤や最適な周波数の超音波清浄に切り換えることができる。
【0098】
これによれば、組成が異なる数種類のガラス基板50を毎回、蛍光顕微鏡観察する必要が無くなるので、最終洗浄工程Eにおける高清浄化の効率が向上するようになる。
【0099】
前記実施形態では、光学部品として、ハードディスクドライブ用のガラス基板50を例としたが、これによれば、ハードディスクドライブ用のガラス基板50の高洗浄化の要求を達成できるようになる。
【0100】
また、光学部品は、半導体用のシリコンウェハーとすることもでき、この場合には、半導体用のシリコンウェハーの高洗浄化の要求を達成できるようになる。
【符号の説明】
【0101】
A 円盤加工工程
B ラッピング工程
C 粗研磨工程
D 精密研磨工程
E 最終洗浄工程
F 検査工程
G 化学強化工程
50 ガラス基板
50´ ガラス素子
51 研磨液
52 コロイダルシリカ
53 蛍光色素
54 外殻

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に蛍光色素を結合させた、シリカ系の砥粒であるコロイダルシリカを含む研磨液で光学部品を精密研磨する精密研磨工程と、精密研磨された光学部品に付着している異物を洗浄して除去する最終洗浄工程と、最終洗浄された光学部品に付着しているコロイダルシリカの付着個数を定量的に評価する検査工程とを含むことを特徴とする光学部品の製造方法。
【請求項2】
前記検査工程は、蛍光顕微鏡でコロイダルシリカの付着個数を観察して把握する把握工程を含み、把握したコロイダルシリカの付着個数に応じて、前記最終洗浄工程で、コロイダルシリカの除去に最適な洗浄方法に切り替えるように、把握工程の把握情報を最終洗浄工程にフィードバックすることを特徴とする請求項1に記載の光学部品の製造方法。
【請求項3】
前記把握工程で、コロイダルシリカの付着個数が所定の個数を超えた時に、前記最終洗浄工程の洗剤を交換することを特徴とする請求項2に記載の光学部品の製造方法。
【請求項4】
前記光学部品として形状が異なる数種類が存在する場合、前記検査工程で、個々の光学部品のコロイダルシリカの付着個数を定量的に評価した情報に基づいて、前記最終洗浄工程で、対応する光学部品の異物の除去に最適な洗剤に切り換えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の光学部品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−14768(P2012−14768A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−148855(P2010−148855)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】