説明

光学部材、光学系、光学装置及び光回線終端装置

【課題】長期間使用しても、表裏面の光学薄膜面にヤケが発生せず、分光光学特性が悪化することがない光学部材、光学系及び光学装置を提供する。
【解決手段】ホウケイ酸クラウンガラスから成る板状の光学基板17と、該光学基板17の表面及び裏面に成形された光学薄膜18,19と、前記光学基板17の側面の全周に渡って設けられ、耐水性及び熱的な耐久性を有する被膜20とを有する光学フィルタ12。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、光学基板がホウケイ酸クラウンガラスから成る光学部材、光学系、光学装置及び光回線終端装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来からこの種の「光学装置」としては、光ケーブルを一般個人宅へ直接引き込む、光通信の網構成方式であるFTTH(Fiber To The Home)に使用される「光学装置」としての光回線終端装置(ONU:Optical NetWork Unit)が知られている。
【0003】
この光回線終端装置は、外壁の外側に配設されるようになっており、例えば、WDM(Wavelength Division Multiplexing:波長分割多重)方式を用いている。このWDM方式では、一心の光ファイバで、下り方向信号と上り方向信号とを同時に送受信し、双方向通信を行うように、上り方向通信と、下り方向通信とにそれぞれ別々の光波長を割り当て、一心の光ファイバで上下信号を同時に送受信可能としている。
【0004】
この光回線終端装置は、「光学部材」としての光学フィルタを備え、屋外から送信されてきた光信号の光が、その光学フィルタにてフィルタリングされて、特定波長の光が光受信部に受光され、電気信号に変換されて、屋内に導かれるようになっている。また、光発信部から、その光受信部に受信される特定波長の光とは異なる特定波長の光が光学フィルタで反射されて送信されるように構成されている。
【0005】
かかる光学フィルタは、いわゆるBK7(ショット社商標名)と称されるホウケイ酸クラウンガラスから成る板状の光学基板を有し、この光学基板の表面及び裏面に光学薄膜が形成されている。その光学薄膜により、特定波長の光を入射、又は、反射させるようにしている。
【0006】
なお、他の光学装置としては、基板上に複数の光半導体素子を搭載し、その複数の光半導体素子の間に光吸収物質を配置して該素子間の光の漏洩を抑制する構成をとるものがあり、ここで、前記光吸収物質は、前記光半導体素子の周囲を透明樹脂で個別に覆った上から、該透明樹脂を含めて基板表面全体に塗布した物がある(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2000−75155号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、このような光回線終端装置に使用される光学フィルタは、長期間使用されることにより、表裏面の光学薄膜面にヤケが発生し、分光光学特性が悪化することが発見された。
【0008】
そこで、この発明は、長期間使用しても、表裏面の光学薄膜面にヤケが発生せず、分光光学特性が悪化することがない光学部材、光学系、光学装置及び光回線終端装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、何故、光学部材の、光学薄膜面にヤケが発生するのか、膜自体の問題なのか、或いは、他に原因があるのか、鋭意検討した結果、以下のことを見出すに至った。
【0010】
すなわち、まず、光学薄膜の表面のヤケは、NaCOやNaBOが成分となる変質物(層)が形成されていることが原因であることを発見した。
【0011】
一方、光学部材の光学基材は、ホウケイ酸クラウンガラスから成り、この成分は、SiOが68.9%、Bが10.1%、NaOが8.8%、KOが8.4%、BaOが2.8%程度等を含有していると共に、その光学基材の表裏面は光学薄膜で覆われているが、その端面(側面)は、光学基材がむき出しの状態であることが分かった。
【0012】
そして、その光学部材は、屋外、つまり、高温高湿度などの過酷な環境下に、連続放置されることにより、かかる場合に、その端面から、ホウケイ酸クラウンガラスの成分であるNaを主成分とするアルカリ成分が溶出し、大気中の二酸化炭素や水分と化学反応を生じ、膜の表面に、NaCOやNaBOが成分となる変質物(層)が形成されることを新たに見出したのである。
【0013】
そこで、請求項1に記載の発明は、ホウケイ酸クラウンガラスから成る板状の光学基板と、該光学基板の表面及び裏面に成形された光学薄膜と、前記光学基板の側面の全周に渡って設けられ、耐水性及び熱的な耐久性を有する被膜とを有することを特徴とする光学部材。
【0014】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の構成に加え、前記ホウケイ酸クラウンガラスはBK7であることを特徴とする。
【0015】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の構成に加え、前記被膜は、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、シリコン系樹脂、又は、無機誘電体からなることを特徴とする。
【0016】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3の何れか一つに記載の前記光学薄膜は、SiO,Nb,Ta,TiO,HfO,Al,ZrO,MgFの少なくとも2種以上からなる光学部材としたことを特徴とする。
【0017】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4の何れか一つに記載の光学部材を備えた光学系としたことを特徴とする。
【0018】
請求項6に記載の発明は、請求項1乃至4の何れか一つに記載の光学部材を備えた光学装置としたことを特徴とする。
【0019】
請求項7に記載の発明は、請求項1乃至4の何れか一つに記載の光学部材を備えた光回線終端装置としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
この発明によれば、ホウケイ酸クラウンガラスから成る板状の光学基板の側面の全周を、耐水性及び熱的な耐久性を有する樹脂で覆ったため、高温高湿度などの過酷な環境下で、連続放置された場合でも、ホウケイ酸クラウンガラスのアルカリ成分が溶け出すことが無い。したがって、光学薄膜の表面において前記のような化学反応が発生することなく、ヤケの発生を防止でき、光学フィルタの、光学特性を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、この発明の実施の形態について説明する。
【0022】
図1乃至図5には、この発明の実施の形態を示す。
【0023】
まず構成を説明すると、ここでは、例えば、光ケーブルを一般個人宅へ直接引き込む、光通信の網構成方式であるFTTH(Fiber To The Home)に使用される「光学装置」としての光回線終端装置(ONU:Optical NetWork Unit)11にこの発明が適用されている。
【0024】
この光回線終端装置11は、図1に示すように、外壁10の外側に配設されるようになっており、例えば、WDM(Wavelength Division Multiplexing:波長分割多重)方式を用いている。このWDM方式では、一心の光ファイバ16で、下り方向信号と上り方向信号とを同時に送受信し、双方向通信を行うように、上り方向通信と、下り方向通信とにそれぞれ別々の波長を割り当て、一心の光ファイバ16で上下信号を同時に送受信可能としている。
【0025】
この光回線終端装置11は、光学部材12と光受信部13と光発信部14を備えている。概略すると、図2に示すように、「光学部材」としての光学フィルタ12はダイクロイックフィルタであり、屋外から送信されてきた光(光信号)をフィルタリングして、特定波長近辺(例えば、1.31μm)の光を透過しその他の波長は反射する。透過した光は光受信部13に到達し、電気信号に変換されて、屋内に導かれるようにしている。また、光発信部14からは、光受信部13に到達する特定波長の光とは異なる特定波長(例えば、1.55μm)の光が射出する。射出した光は光学フィルタ12で反射されて光ファイバ16にて反射方向に送信される。
【0026】
その光学フィルタ12は、図4に示すように、例えば、一辺が2mm、厚みが1mm以下の四角形の板状を呈し、いわゆるBK7と称されるホウケイ酸クラウンガラスから成る板状の光学基板17を有し、この光学基板17の表面及び裏面に光学薄膜18,19が形成され、光学基板17の側面が全周に渡って耐水性及び熱的な耐久性を有する被膜20で覆われている。
【0027】
そのホウケイ酸クラウンガラスの成分は、SiOが68.9%、Bが10.1%、NaOが8.8%、KOが8.4%、BaOが2.8%程度等含有されている。
【0028】
また、それら光学薄膜18,19は、薄膜が多数積層されて形成され、膜厚が15μm程度に成形され、特定の波長域の光を透過し、その他の波長の光を、反射するような膜構成にされている。それら光学薄膜18,19は、SiO、NbやTiO等にて適宜上記条件を満足するように成膜されている。
【0029】
さらに、その被膜20としては、シリコン系被膜(例えば信越シリコーン製RTVゴムKE3420)、アクリル系被膜(例えばNTT−AT社製AT−6001)、エポキシ系被膜(例えばコニシ(株)製クイック5)、或いは、無機誘電体(例えばSiO膜)等が用いられる。この被膜20を塗布することにより、光学基板17の端面における露出を無くした。
【0030】
次に、かかる光学フィルタ12の作製方法について説明する。
【0031】
いわゆる、所定の厚みで所定の大きさのBK7からなる光学基板17の表裏面に、多層の光学薄膜18,19をコーティングする。光学薄膜は、例えば、乾式法(ドライプロセス)である、真空蒸着法、スパッタリング法、CVD法(Chemical Vapor Deposition)等、で成膜される。
【0032】
その後、これを図3に示すように、各切断ラインLに沿って複数の所定の大きさに切断する。
【0033】
その後、複数に切断された光学基板17の側面(端面)の全周に渡って被膜20を湿式法であるスピンコート法、ディップ法、スプレー法、ロールコート法などにより塗布する。この塗布は、例えば切断された複数の光学基板17を光学薄膜18,19が互いに重なるように重ね合わせ、この状態で隣接する切断された側面(端面)を露出させて、これら端面に一度に被膜20を塗布するとよい。勿論、被膜20を光学薄膜18,19の周縁まで多少回り込ませるようにしてもよい。なお、アクリル系被膜を成膜する塗料として用いれば、粘度の調整がしやすく、塗布作業がし易い。塗布後、乾燥・熱処理して成膜し、図4に示す光学フィルタ12を得る。
【0034】
このような光学フィルタ12は、屋外の光回線終端装置11内に配置されるため、高温高湿度など過酷な環境下で、連続放置されることとなるが、光学基板17の側面(端面)が全周に渡って、耐水性及び熱的な耐久性を有する被膜20により覆われているため、ホウケイ酸クラウンガラスから成る光学基板17の端面から、ホウケイ酸クラウンガラスの成分であるNaを主成分とするアルカリ成分が溶出することが防止される。
【0035】
従って、光学薄膜17,18の表面において、ヤケ(化学反応)が生じることがないため、膜の表面に、変質物(層)が形成されるのを防止でき、光学特性を確保できる。従って、光回線終端装置11の寿命を延ばすことができると共に、BK7を用いることにより、安価にできる。
【実施例】
【0036】
図5及び図6に本発明により作製した光学フィルタと従来のフィルタの耐湿試験結果を示す。図中X軸を波長(nm)、Y軸を透過率(dB)として、試験経過時間が0時間の場合を実線、168時間の場合を一点鎖線、1000時間の場合を二点鎖線、2000時間の場合を破線で表している。図5には本願発明の実施例の光学フィルタ12における光の透過率の変化を示し、図6には従来の光学フィルタにおける光の透過率の変化を示した。
【0037】
この測定に使用した光学フィルタ12は、大きさが縦2mm、横1mm、厚さ0.5mmの板状を呈し、被膜20にNTT−AT社のAT−6001を、光学薄膜18,19にNbとSiOの多層膜を用いたものであり、この光学フィルタ12を、高温(85℃)及び高湿(85%)の環境下に置き、上記経過時間毎の透過率の変動データを測定した。透過率は、アジレント社製の光源・スペアナ等を用いて組み上げた測定系の装置を用いて測定した。
【0038】
これらの結果から明らかなように、従来の光学フィルタでは、図6に示すように、経過時間が0時間、168時間、1000時間、2000時間の経過と共に、透過率が低下して行くのが分かる。
【0039】
これに対して、この発明の光学フィルタ12では、図5に示すように、上記と同様の経過時間において、光の透過率を測定しても、透過率が略変化していないのが分かる。また、被膜20を黒色のような光を吸収する被膜にすれば、光学基板の側面に迷光が入り込むことはなく、誤信号の入力の可能性は減少される。
【0040】
なお、上記実施の形態では、光学フィルタ12にこの発明を適用しているが、これに限らず、ホウケイ酸クラウンガラスから成る板状の光学基板17を用いて高温、高湿の環境下で使用されるものであれば、フィルタ機能を有さない他の光学部材に用いることもできるし、又、光回線終端装置11以外の装置に用いることも勿論できる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】この発明の実施の形態に係る光回線終端装置の配設位置を示す概略図である。
【図2】同実施の形態に係る光回線終端装置を示す説明図である。
【図3】同実施の形態に係る光学フィルタの製造途中工程における状態を示す斜視図である。
【図4】同実施の形態に係る光学フィルタを示す斜視図である。
【図5】同実施の形態に係る発明品の透過率経過を示すグラフ図である。
【図6】従来品の透過率を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0042】
11 光回線終端装置
12 光学フィルタ(光学部材)
13 光受信部
14 光発信部
17 光学基板
18,19 光学薄膜
20 被膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホウケイ酸クラウンガラスから成る板状の光学基板と、該光学基板の表面及び裏面に形成された光学薄膜と、前記光学基板の側面の全周に渡って設けられ、耐水性及び熱的な耐久性を有する被膜とを有することを特徴とする光学部材。
【請求項2】
前記ホウケイ酸クラウンガラスはBK7であることを特徴とする請求項1に記載の光学部材。
【請求項3】
前記被膜は、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、シリコン系樹脂、又は、無機誘電体からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の光学部材。
【請求項4】
前記光学薄膜は、SiO,Nb,Ta,TiO,HfO,Al,ZrO,MgFの少なくとも2種以上からなることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一つに記載の光学部材。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか一つに記載の光学部材を備えたことを特徴とする光学系。
【請求項6】
請求項1乃至4の何れか一つに記載の光学部材を備えたことを特徴とする光学装置。
【請求項7】
請求項1乃至4の何れか一つに記載の光学部材を備えたことを特徴とする光回線終端装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−224917(P2008−224917A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−61265(P2007−61265)
【出願日】平成19年3月12日(2007.3.12)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】