説明

光学部材、光引き回しユニット及び露光装置

【課題】 フッ化カルシウム(蛍石)から構成され、厳しい条件下で用いた場合であっても劣化を抑制でき、長寿命を発揮することができる光学部材を提供すること。
【解決手段】 好適な実施形態の光学部材は、内部に光が入射される入射面、入射した光を全反射する全反射面、及び、全反射した光を外部に射出する射出面を有しており、フッ化カルシウム結晶から構成される基材と、この基材における全反射面の外側の表面上に設けられた保護層とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学部材、光引き回しユニット及び露光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ウェハ等に所定のパターンで露光を行うための露光装置として、光源から射出した光を適当な方向に引き回した後、マスクのパターンを透過させることでパターン化し、この光を投影光学系を介してウェハ上に結像するものが用いられている。光源としては、精細な露光が可能なArFレーザ光源が用いられる場合が増えてきている。ところが、ArFレーザ光源に適用される露光装置においては、光が透過する部材に、エネルギー密度の高いArFレーザ光に対する十分な耐久性を確保する必要がある。そこで、露光装置における光を引き回すための偏向部材として、蛍石(CaF)製のプリズムを用いた45度全反射ミラーを用いることが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開2005/010963号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような蛍石製の全反射ミラーは、ArFレーザ光に対して優れた耐久性を有しており、例えば光源が寿命に達する程度の期間であれば、光学特性の劣化は殆ど生じないものであった。ところが、近年では、より高い出力のArFレーザ光を用いることや、光源のみを交換して露光装置を繰り返し使用すること等が模索されており、この場合は、従来よりも遙かに厳しい条件(高出力、長期間)での全反射ミラーの使用が求められることになる。このような厳しい条件下で蛍石製の全反射ミラーを使用した場合は、従来では生じ得なかった劣化が生じる可能性がある。
【0005】
そこで、本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、主にフッ化カルシウム(蛍石)から構成され、厳しい条件下で用いた場合であっても劣化を抑制でき、長寿命を発揮することができる光学部材を提供することを目的とする。本発明はまた、このような光学部材を用いた光引き回しユニット及び露光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上述したような従来よりも厳しい条件下での蛍石製の全反射ミラーの使用について検討を行ったところ、高出力且つ長時間の使用に供した場合、意外なことに、光が全反射されることから光による影響が生じないはずの全反射面に劣化が生じていることを見出した。そこで、このような知見に基づき、全反射面の劣化を抑制できるようにすれば、上記目的を達成することができることを見出し、本発明を完成させるに到った。
【0007】
すなわち、本発明の光学部材は、内部に光が入射される入射面、入射した光を全反射する全反射面、及び、全反射した光を外部に射出する射出面を有しており、フッ化カルシウム結晶から構成される基材と、この基材における全反射面の外側の表面上に設けられた保護層とを備えることを特徴とする。
【0008】
上記本発明の光学部材において、基材はプリズムであり、この基材における全反射面は、フッ化カルシウム結晶の結晶面{100}と一致し、且つ、基材において、入射面、全反射面及び射出面の全てと交わるとともに全反射面と垂直となる面を仮想したとき、当該仮想面は、フッ化カルシウム結晶の結晶面{110}と一致することが好ましい。或いは、基材はプリズムであり、この基材における全反射面は、フッ化カルシウム結晶の結晶面{110}と一致し、且つ、基材において、入射面、全反射面及び射出面の全てと交わるとともに全反射面と垂直となる面を仮想したとき、当該仮想面は、フッ化カルシウム結晶の結晶面{110}と一致することが好ましい。さらにまた、基材はプリズムであり、基材における全反射面は、フッ化カルシウム結晶の結晶面{110}と一致し、且つ、基材において、入射面、全反射面及び射出面の全てと交わるとともに全反射面と垂直となる面を仮想したとき、当該仮想面は、フッ化カルシウム結晶の結晶面{100}と一致することも好ましい。これらの仮想面は、入射面、全反射面及び射出面の全てと垂直となる面であると好適である。
【0009】
また、本発明の光学部材において、保護層は、SiO、Al、MgF、AlF、NaAlF、CeF、LiF、LaF、NdF、SmF、YbF、YF、NaF及びGdFからなる群より選ばれる少なくとも一種の材料からなると好ましい。
【0010】
さらに、本発明の光学部材において、保護層の光学厚さは、入射する光の波長をλとしたとき、0.25λ以上0.75λ以下であると好ましい。
【0011】
また、本発明は、入射光の進行方向を偏向させて射出する偏向部材を備えており、偏向部材が、上記本発明の光学部材である光引き回しユニットを提供する。
【0012】
さらに、本発明は、光源からの光により露光を行う露光装置であって、上記本発明の光引き回しユニットと、この光引き回しユニットを介した前記光源からの光により所定のパターンを有する光を照射する露光光学系とを備える露光装置を提供する。
【0013】
本発明はまた、基板上に感光層が形成された感光性基板の感光層に、上記本発明の露光装置を用いて所定のパターンを有する光を照射する露光工程と、露光工程後の感光層を現像して、パターンに対応する形状のマスク層を基板上に形成する工程と、マスク層を介して基板の表面を加工する加工工程とを含むデバイス製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、主にフッ化カルシウム(蛍石)から構成され、厳しい条件下で用いた場合であっても劣化が少なく、長寿命を発揮することができる光学部材を提供することが可能となる。また、本発明によれば、このような光学部材を用いた光引き回しユニット及び露光装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】好適な実施形態のプリズムを模式的に示す斜視図である。
【図2】他の実施形態のプリズムの断面構造を模式的に示す図である。
【図3】好適な実施形態のロッド型インテグレータを模式的に示す斜視図である。
【図4】好適な実施形態に係る露光装置の構成を示す図である。
【図5】実施例で用いた測定用装置の構成を示す図である。
【図6】ArFレーザ光のパルス数に対する反射率の変化を示すグラフである。
【図7】半導体デバイスの製造工程を示すフローチャートである。
【図8】液晶表示素子等の液晶デバイスの製造工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について説明する。なお、図面の説明において、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略することとする。
【0017】
以下の説明では、好適な実施形態に係る光学部材として、45°全反射ミラーとして適用されるプリズムを例に挙げて説明する。図1は、好適な実施形態のプリズムを模式的に示す斜視図である。図1に示すように、本実施形態のプリズム1は、三角柱状の基材2と、この基材2における一側面に設けられた保護層3とを備えた構成を有している。
【0018】
基材2は、フッ化カルシウム(CaF)の単結晶から構成される。この基材2は、直角三角形状の一対の底面、及び、これらの底面の辺同士を結ぶ3つの側面を有する三角柱状の形状を有している。基材2における3つの側面のうち、底面における斜辺同士を結ぶ面が全反射面2aを構成し、この全反射面2aに隣接する2つの辺がそれぞれ入射面2b及び射出面2cを構成している。
【0019】
保護層3は、基材2における全反射面2aの外側表面上に設けられている。この保護層3は、SiO、Al、MgF、AlF、NaAlF、CeF、LiF、LaF、NdF、SmF、YbF、YF、NaF及びGdFからなる群より選ばれる少なくとも一種の材料からなる層であると好ましい。なかでも、保護層3は、基材2の劣化を抑制でき、それ自体の耐久性も高く、プリズム1に入射した光の吸収が少なく、しかも、プリズム1による反射率を良好に得ることができる材料からなることが好ましい。このような観点からは、保護層3の構成材料は、SiO又はMgFがより好ましく、MgFが特に好ましい。
【0020】
保護層3の厚さは、光学膜厚で0.25λ(λはプリズム10に入射した光の波長である。)以上であると好ましい。この光学膜厚が0.25λを下回ると、基材2の劣化を十分に抑制できなくなる傾向にある。ただし、保護層3の厚さが厚すぎると、反射率が低下するおそれがあるため、その厚さは、光学膜厚で0.75λ以下であることが好ましい。
【0021】
基材2に保護層3を形成する方法は特に制限されず、保護層3の構成材料に応じて真空蒸着又はスパッタ等の方法を適宜選択して用いればよい。
【0022】
上述した材料からなる保護層3は、全反射面2aにのみ形成することが好ましく、入射面2b及び射出面2cには形成しないことが好ましい。なお、入射面2b及び射出面2cには、保護層3以外の公知の光学薄膜が形成されていてもよい。光学薄膜としては、例えば、米国特許第5963365号明細書に記載されている反射防止膜等が挙げられる。
【0023】
上述したような構成を有するプリズム1を、例えば、入射光の進行方向を偏向させて射出する偏向部材として用いる場合、図1に示すように、Lで表される入射光が入射面2bからプリズム1の内部に入射し、これがプリズム1内部を透過し全反射面2aに到達して全反射される。そして、この全反射された光は、プリズム1内を透過して射出面2cからLで表される射出光として射出される。こうして、入射光Lは、プリズム1により、直角方向に偏向された射出光Lとして射出される。
【0024】
このようなプリズム1の利用によると、以下のような効果が得られるようになる。すなわち、従来、蛍石製プリズムは、例えば光源としてArFレーザ光源を用いた場合であっても、かかる光に対して優れた耐久性を有するため、従来はその劣化が問題となることは殆どなかった。ところが、本発明者らが検討を行なったところ、従来よりも高出力のArFレーザ光を用い、しかも遥かに長時間の偏向を行うと、蛍石製プリズムによる反射率が徐々に低下してしまう場合があることを見出した。将来的には、蛍石製プリズムに対し、これまでに比して遥かに高出力または長期間或いはその双方での使用が想定されるが、そのような場合、上記で確認された反射率の低下に起因して、偏向部材としての経時的な特性低下が問題となることも考えられる。
【0025】
そこで、本発明者らが蛍石製プリズムの反射率の低下について更なる検討を行なったところ、この反射率の低下は、意外なことに、蛍石製プリズムの全反射面における劣化が一因であることを見出した。全反射面は、光を吸収することなく全反射することから、光の影響による劣化が通常では全く考えられない部分である。ところが、上記のような厳しい条件で用いた場合、全反射面に損傷が発生しており、これが反射率の低下の一因となっていると考えられる。
【0026】
このような損傷が形成される要因は、必ずしも明らかではないものの、本発明者らの検討によると、蛍石製プリズムにおいては、全反射面でごくわずかに光の漏れ(このような光をエバネッセント光という)が生じており、このエバネッセント光が、全反射面において蛍石からなる基材とその表面に吸着した成分等との光化学反応を誘起し、その結果、損傷を生じさせていると推測される。損傷は、このような光化学反応により生じた物質が全反射面の表面に付着することにより形成されているものと考えられる。このエバネッセント光は、プリズムに入射される光がs偏光の場合よりもp偏光の場合の方が大きいことが計算により導き出されることから、特に入射光が全反射面に対してp偏光である場合にこの損傷の影響が大きくなると考えられる。
【0027】
蛍石製プリズムの劣化を抑制する手法としては、例えば、光源の出力を下げたり、または、入射光のエネルギー密度を低下させたりする方法が考えられるが、この場合、将来的な高出力可に十分に対応できなくなる可能性や、あるいは部品が大型化することにより、露光装置の設計の変更等が必要となる可能性がある。これに対し、本実施形態の構成を有するプリズム1は、蛍石製プリズムであるCaFからなる基材2の全反射面2a上に、上述した材料等によって構成される保護層3を設けるだけで、全反射面2aに生じる可能性がある劣化を十分に抑制することができる。
【0028】
したがって、本実施形態のプリズム1によれば、将来的な高出力化及びパターンの高精細化を可能としながら、これらによって引き起こされる可能性がある経時的な劣化をも十分に低減することが可能となる。なお、上述したように、全反射面の劣化の要因と考えられるエバネッセント光は、入射光が全反射面に対してp偏光である場合に顕著であることから、本実施形態のプリズム1は、特に全反射面に対してp偏光が入射される箇所の偏向部材として適用されると好適である。
【0029】
上述したプリズム1の基材2を構成しているフッ化カルシウム結晶は、立方晶系の結晶材料であり、直線偏光を入射したときの入射面の結晶方位によって、射出される直線偏光の偏光状態の変動の仕方が異なる。偏光状態が変動すると、上記のようなエバネッセント光の割合も変化し、これによって全反射面2aの劣化が促進される場合がある。そのため、このような偏光状態の変動を安定させることができれば、劣化を一層抑制することができる。そこで、このような偏光状態の変動を抑えるため、基材2を構成するフッ化カルシウム結晶は以下のような条件を満たしていると好ましい。
【0030】
すなわち、上述のように、プリズム1では、光が入射面2bから入射して全反射面2aで反射され射出面2cから射出されるが、基材1は、このような入射光の光軸と射出光の光軸とで張る面を仮想したとき、当該仮想面が、フッ化カルシウム結晶の結晶面{100}に一致し、且つ、全反射面2aが結晶面{110}に一致していると好ましい。この仮想面は、換言すれば、入射面2b、全反射面2a及び射出面2cの全てと交わるとともに全反射面2aと垂直となる面である。
【0031】
なお、上記の仮想面及び全反射面2aは、必ずしも上述した各結晶面と完全に一致していなくてもよく、ほぼ一致していればよい。フッ化カルシウムの複屈折と光路とを考慮すると、上記の仮想面や全反射面2aと、フッ化カルシウム結晶の上述した各結晶面との交差する角度が、好ましくは±25度、より好ましくは±15度の範囲内であればよい。このような条件を満たす基材1において、全反射面2aに保護層3を設けることで、偏光状態の変動を極力抑制しながら、上記のように全反射面2aの劣化も抑えることが可能となるため、長期にわたって安定に使用できるプリズム1が得られる。同様の効果を得る観点からは、上記の仮想面が、フッ化カルシウム結晶の結晶面{110}面と一致し、且つ全反射面2aが結晶面{110}に一致するようにしてもよい。また、上記の仮想面が、フッ化カルシウム結晶の結晶面{110}面と一致し、且つ全反射面2aが結晶面{100}に一致するようにしてもよい。これらの仮想面は、入射面2b、全反射面2a及び射出面2cの全てと垂直となる面であると特に好適である。
【0032】
次に、本発明の光学部材の他の好適な実施形態について説明する。
【0033】
図2は、他の実施形態のプリズムの断面形状を模式的に示す図である。図2に示すプリズム10は、基材12と、この基材12の全反射面12aの外側表面上に形成された保護層13とを備えた構成を有している。
【0034】
基材12は、上述したプリズム1における基材2と同様、CaFの単結晶から構成される。基材12は、互いに直角となる方向に延びる光導入部16と光導出部18とから構成されている。この基材12の両端部は、光導入部16及び光導出部18の延在方向に対してそれぞれ垂直な入射面12b及び射出面12cとなっている。また、基材2における光導入部16と光導出部18との結合部分の外側には、入射面12b及び射出面12cに対してそれぞれ45°の位置関係となるように全反射面12aが形成されている。なお、基材12における図2に対して垂直な方向の断面形状は図示しないが、例えば、後述する光の通過方向に対して円形や四角形等、種々の形態をとることができる。この基材12の全反射面12aの外側表面上には、この面を覆うように保護層13が設けられている。保護層13の好適な構成は、上述したプリズム1における保護層3と同様である。
【0035】
上記構成を有するプリズム10においては、Lで表される入射光が入射面12bから内部に入射し、これが光導入部16を通って全反射面12aに到達し、全反射される。そして、この全反射された光は、光導出部18を通って射出面12cからLで表される射出光として射出される。このようにして、プリズム10により、入射光Lをその直角方向の射出光Lに偏向することができる。そして、このような形態のプリズム10も、全反射面12aの表面上に保護層13が設けられていることから、高出力、長時間の条件で繰り返し用いられても全反射面12aの劣化が極めて生じ難く、長寿命を有するものとなる。
【0036】
また、本発明の光学部材は、上述したプリズム以外の形態とすることもできる。プリズム以外の光学部材の例としては、例えば、ロッド型インテグレータが挙げられる。図3は、好適な実施形態のロッド型インテグレータを示す斜視図である。図3に示すロッド型インテグレータ15は、4角柱状の基材11と、この基材11における4つの側面の外側表面にそれぞれ設けられた保護層17とを備えた構成を有している。
【0037】
基材11は、上述したプリズム1における基材2と同様、CaFの単結晶から構成される。この基材11における対向する一対の側面は、全反射面11aを構成しており、基材11における両端面は、それぞれ入射面11b及び射出面11cとなっている。保護層17は、一対の全反射面11aを含む全ての側面を覆うように設けられている。この保護層17の好適な構成は、上述したプリズム1における保護層3と同様である。
【0038】
このロッド型インテグレータ15においては、Lで表される入射光が入射面11bから所定の角度で内部に入射し、対向する全反射面11aによって繰り返し全反射されながら基材11の内部を通り、射出面11cからLで表される射出光として射出される。かかるロッド型インテグレータ15によれば、入射面11bから入射した光(入射光L)が内部で繰り返し反射されることにより、射出面において均質化された光(射出光L)が得られるようになる。そして、このようなロッド型インテグレータ15も、全反射面11aの外側表面上に保護層17が形成されていることから、高出力、長時間の条件で繰り返し用いられても全反射面11aの劣化が極めて生じ難く、長寿命を有するものとなる。
【0039】
次に、本発明の光学部材を用いた光引き回しユニット及びこれを備える露光装置について説明する。ここでは、上述した実施形態のプリズム1を用いた例について説明する。
【0040】
図4は、好適な実施形態に係る露光装置の構成を示す図である。図4に示す露光装置100は、下階の床板A上に設置されたArFレーザ光を射出する光源Sからの光を、上階の床板B上に設置されたウェハW(基板)に照射するものである。なお、露光装置100が適用される光源Sとしては、特に制限されないが、ArFエキシマレーザ光源(波長193nm)を用いる場合、本発明の光学部材(例えば、上述したプリズム10)による高寿命化が顕著となるため、好適である。また、ウェハWとしては、シリコンウェハが挙げられる。
【0041】
露光装置100は、光引き回しユニット30、照明光学系40及び投影光学系50から構成されている。この露光装置100における光引き回しユニット30は、光源Sからの光が通る順に、一対の偏角プリズム21、平行平面板22、ビームエキスパンダ23、並びに、プリズム31,32,33,34,35及び36を有している。
【0042】
光引き回しユニット30においては、これらのプリズム31〜36が、本発明の光学部材(例えば、上述した好適な実施形態のプリズム1)によって構成されている。具体的には、各プリズム31〜36は、それぞれ光が入射される側に、プリズム1の入射面2bに対応する面が向くようにして配置される。
【0043】
また、照明光学系40は、光引き回しユニット30に続いて配置されており、光が通る順に、ハーフミラー41、1/2波長板43及びデポライザ44を順に有する偏光状態切替手段42、プリズム46、レンズ系47、ロッド型インテグレータ48及びレンズ系49を有しており、光引き回しユニット30を介した光源Sからの光を、照明光学系40に続いて配置されたマスクMに照射する。また、ハーフミラー41で反射された光の位置ずれ及び傾きを検出するための位置ずれ傾き検出系45を有している。
【0044】
さらに、投影光学系50は、マスクMに続いて配置されており、複数のレンズから構成されている。この投影光学系50は、照明光学系40により照射され、マスクMを透過することによりパターン化された光をウェハWに投影する。これらの照明光学系40及び投影光学系50によって露光光学系が構成されている。すなわち、この露光光学系が、光引き回しユニット30を介した光源Sからの光により、マスクMに対応した所定のパターンを有する光をウェハWに照射することができる。
【0045】
照明光学系40及び投影光学系50から構成される露光光学系においては、プリズム46及びロッド型インテグレータ48が、本発明の光学部材によって構成される。具体的には、例えば、プリズム46が、上述した実施形態のプリズム1によって構成され、ロッド型インテグレータ48が、上述した実施形態のロッド型インテグレータ15によって構成されていると好ましい。
【0046】
上述した露光装置100においては、プリズム1やロッド型インテグレータ15等の本発明の実施形態に係る光学部材が用いられているが、これらの用途において、本実施形態の光学部材は、劣化を抑制するために、酸素や水分が除去された環境で使用されることが望ましい。また、光学部材は、ArFレーザの波長での透過率を低下させない雰囲気、具体的には窒素ガスのような不活性ガスの雰囲気で使用されることが好ましい。このような条件を満たすためには、例えば、光引き回しユニット30における各光学部材が配置される環境を窒素ガス雰囲気とすることが好ましい。そのためには、例えば、光学部材が配置される空間を窒素ガスで置換した後に密閉したり、また、常に窒素ガスを流す状態とすればよい。
【0047】
このような露光装置100を用いた露光方法は、次の通りである。すなわち、光源Sから射出された光(ビーム)は、まず、一対の偏角プリズム21及び平行平面板22を通される。ここで、一対の偏角プリズム21のうちの少なくとも一方は、入射される光の光軸AXを中心として回転可能となっている。そのため、一対の偏角プリズム21を光軸AXまわりに相対回転させることにより、この光軸AXに対する平行ビームの角度を調整することができる。つまり、一対の偏角プリズム21は、光源Sから供給された平行ビームの光軸AXに対する角度を調整するビーム角度調整手段を構成している。
【0048】
また、平行平面板22は、光軸AXに垂直な面内において直交する2つの軸線まわりに回転可能となっている。したがって、平行平面板22を各軸線まわりに回転させることで光軸AXに対して傾斜させることで、偏角プリズム21からの平行ビームを光軸AXに対して平行移動させることができる。つまり、平行平面板22は、光源Sから供給された平行ビームを光軸AXに対して平行移動させるビーム平行移動手段を構成している。
【0049】
このような平面平行板22からの平行ビームは、次いで、ビームエキスパンダ23に入射され、このビームエキスパンダ23において所定の断面形状を有する平行ビームに拡大整形される。
【0050】
ビームエキスパンダ23により拡大整形された平行ビームは、まず、プリズム31によって鉛直方向に偏向される。偏向されたビームは、更にプリズム32,33,34及び35によって順次反射された後、上階の床面Bに設けられた開口を通ってプリズム36に入射する。このようにして、複数のプリズムによって、下階の光源Sから射出された光(ビーム)は、例えば、純水供給用や換気用等の配管39を迂回しながら、上階まで引き回される。
【0051】
プリズム36に入射したビームは、このプリズム36によって再び水平方向に偏向され、ハーフミラー41に入射する。このハーフミラー41で反射されたビームは、位置ずれ傾き検出系45に導かれる。一方、ハーフミラー41を透過したビームは、偏光状態切替手段42に導かれる。位置ずれ傾き検出系45では、偏光状態切替手段42に入射する平行ビームの光軸AXに対する位置ずれ及び傾きが検出される。そして、この情報に基づいて、偏光状態切替手段42では、入射したビームの偏光状態を適切に調整する。
【0052】
偏光状態切替手段42からのビームは、プリズム46によって鉛直方向に偏向された後、レンズ系47を通ってロッド型インテグレータ48に入射する。このロッド型インテグレータ48により均質化されたビームは、所定のパターンが形成されたマスクMを通ることにより、所定のパターン化がなされる。そして、マスクMを透過したビームは、投影光学系50を介して、ウェハW上にマスクのパターンに対応する像を投影する。こうして、ウェハWが所定のパターン形状で露光される。
【0053】
以上のように、本実施形態の露光装置100は、光引き回しユニット30を備えることによって、光源Sからの光を、この光源Sとは異なる階等に設置されたウェハWに照射することができる。そして、この露光装置100における光引き回しユニット30は、光を偏向する偏向部材として、本発明の光学部材(例えば、上述した実施形態のプリズム1)を備えていることから、例えば、光源Sから射出される光が高出力であったり、また、光源Sを交換する等しながら極めて長期に使用されたりしても、偏向部材(プリズム31〜36)による反射率の低下が少ないため、高信頼性を有し、しかも高寿命なものとなり得る。
【0054】
なお、本発明の露光装置又は光引き回しユニットは、必ずしも上述した実施形態の構成に限定されず、適宜、変更が可能である。すなわち、上述した光引き回しユニット30は、偏角プリズム21、平行平面板22、ビームエキスパンダ23及びプリズム31〜36を有するものであった。しかしながら、本発明の光引き回しユニットは、少なくとも偏向部材として本発明の光学部材を備えていればよい。そこで、例えば、プリズム31〜36のうちのいずれか1つのみを備えるものでも、本発明の光引き回しユニットとなり得る。ただし、上述した実施形態のように、光源からの光を所望の方向に偏向するためには、光引き回しユニットは少なくとも複数の光学部材を偏向部材として備えていることが好ましい。
【0055】
また、露光装置100における露光光学系(照明光学系40及び投影光学系50)も、上述した実施形態のものに限定されず、光引き回しユニットからの光をパターン化して照射できるものであればよい。例えば、露光光学系は、マスクのみによって構成されることもある。さらに、投影光学系50も、照明光学系からの光をウェハ等に対して投影できる機能を有していればよく、上記の実施形態には限定されない。
【0056】
また、光引き回しユニット30においては、プリズム31〜36の全てが本発明の光学部材(プリズム1)によって構成されていたが、これらのうちの1つ以上が本発明の光学部材であればよい。例えば、本発明の光学部材は、上述したように、全反射面に対してp偏光が入射される場合に生じ易い劣化を効果的に抑制できることから、p偏光が入射される偏向部材に本発明の光学部材を適用し、全反射面に対してs偏光が入射される偏向部材には保護層を有しない従来の光学部材(例えば、基材2のみ)を適用するようにしてもよい。
【0057】
次に、上述したような露光装置を用いたデバイスの製造方法の好適な実施形態について説明する。
【0058】
まず、図7は、半導体デバイスの製造工程を示すフローチャートである。図7に示すように、半導体デバイスの製造工程では、半導体デバイスの基板となるウェハに、金属膜を蒸着し(ステップS40)、この蒸着した金属膜上に感光性材料であるフォトレジスト(感光層)を塗布・形成する(ステップS42)。続いて、上述した実施形態の露光装置を用いて露光を行い、レチクル(マスク)に形成されたパターンを、例えばウェハ上の各ショット領域に転写する(ステップS44:露光工程)。
【0059】
次いで、この転写が終了したウェハにおけるパターンが転写されたフォトレジストの現像を行う(ステップS46:現像工程)。その後、フォトレジストの現像によってウェハ表面に生成されたレジストパターンをマスクとして、ウェハ表面に対してエッチング等の加工を行う(ステップS48:加工工程)。
【0060】
ここで、レジストパターンとは、露光装置によって転写されたパターンに対応する形状の凹凸が生成されたフォトレジスト層であって、その凹部がフォトレジスト層を貫通しているものである。ステップS48では、このレジストパターンを介してウェハW表面の加工を行う。このステップS48で行われる加工としては、例えば、ウェハ表面のエッチング、又は金属膜等の成膜の少なくとも一方が行われる。なお、ステップS44では、露光装置は、フォトレジストが塗布されたウェハを感光性基板としてパターンの転写を行う。
【0061】
また、図8は、液晶表示素子等の液晶デバイスの製造工程を示すフローチャートである。図8に示すように、液晶デバイスの製造工程では、パターン形成工程(ステップS50)、カラーフィルタ形成工程(ステップS52)、セル組立工程(ステップS54)及びモジュール組立工程(ステップS56)を順次実施する。
【0062】
まず、ステップS50のパターン形成工程では、フォトレジストが塗布されたガラス基板(感光性基板)上に、上述した実施形態のような露光装置を用いて、回路パターンや電極パターン等の所定のパターンを形成する。このパターン形成工程には、上述したような、露光装置を用いてフォトレジスト層にパターンを転写する露光工程、パターンが転写されたガラス基板(フォトレジスト層)の現像を行い、このパターンに対応する形状のレジストパターン(マスク層)を形成する現像工程、及び、この現像されたレジストパターンを介してガラス基板の表面を加工する加工工程が含まれている。
【0063】
次いで、ステップS52のカラーフィルタ形成工程では、R(赤)、G(緑)、B(青)に対応する3つのドットの組をマトリクス状に多数配列するか、または、R、G、Bの3本のストライプのフィルタの組を水平走査方向に複数配列したカラーフィルタを形成する。
【0064】
その後、ステップS54のセル組立工程では、ステップS50によって所定パターンが形成されたガラス基板と、ステップS52によって形成されたカラーフィルタとを用いて液晶パネル(液晶セル)を組み立てる。具体的には、例えばガラス基板に対向してカラーフィルタを配置し、これらの間に液晶を注入することで液晶パネルを形成する。
【0065】
そして、ステップS56のモジュール組立工程では、ステップS54によって組み立てられた液晶パネルに対し、この液晶パネルの表示動作を行わせるための電気回路やバックライト等の各種部品を取り付け、液晶デバイスを完成させる。
【0066】
本発明の露光装置は、上述したようなデバイスの製造方法に適用できるが、これらのデバイス製造方法への適用に限定されるものではない。例えば、本発明の露光装置は、角型のガラスプレートに形成される液晶表示素子又はプラズマディスプレイ等のディスプレイ装置を製造するための露光装置や、その他、撮像素子(CCD等)、マイクロマシーン、薄膜磁気ヘッド、DNAチップ等の各種デバイスを製造するための露光装置として広く適用できる。また、本発明の露光装置は、例えば、各種デバイスの製造に用いるマスクパターンが形成されたマスク(フォトマスク、レチクル等)を製造する際の、フォトリソグラフィ工程における露光工程にも適用することができる。
【実施例】
【0067】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[プリズム(光学部材)の形成]
【0068】
(実施例1〜2)
まず、フッ化カルシウム(CaF)の単結晶からなり、底面の形状が直角二等辺三角形である三角柱状の基材を形成した。次いで、この基材における底面の斜辺同士を結ぶ側面(全反射面)上に、フッ化マグネシウム(MgF)からなる膜を保護層として真空蒸着法により形成した。この際、保護層の膜厚を、光学膜厚で0.5λ又は0.75λ(λは、ArFレーザ光の波長である193nmである)としたものをそれぞれ準備し、それぞれ実施例1又は実施例2のプリズムのサンプルとした。
【0069】
(比較例1)
フッ化カルシウム(CaF)の単結晶からなり、底面の形状が直角二等辺三角形である三角柱状の基材に、保護層を設けなかったもの(すなわち基材のみ)を、比較例1のプリズムのサンプルとした。
[耐久性の評価]
【0070】
実施例1〜2及び比較例1のプリズムを偏向部材としてそれぞれ用いて、以下に示す方法により使用時間(入射光のパルス数)に対する反射率の変化を測定した。すなわち、まず、測定用の装置として、図5に示すように、ArFエキシマレーザ光源110、ズームレンズ120、絞り130、集光部材140、実施例又は比較例のプリズムのサンプル150、ハーフミラー160及びモニター170を、光源側から順に配置した装置を準備した。この際、プリズムは、内部に入射した光が全反射面によって鉛直方向に反射されるように配置した。
【0071】
そして、かかる装置を用い、光源110から、ズームレンズ120、絞り130及び集光部材140を通過した光を、プリズムにより直角方向に偏向させ、このプリズムからの光をハーフミラー160により水平方向に偏向させてモニターに導き、このモニターにおいてプリズムによる反射率を経時的に測定した。反射率は、使用開始時を100%とした時の相対反射率(%)とした。なおこの際、サンプル150とモニター170との間に介在する偏向部材をハーフミラーとし、また、ハーフミラー160とサンプル150の間に不図示のシャッターを設け、反射率を測定するときのみ光がハーフミラー160に入射するようにした。こうすることにより、サンプル150とモニター170との間に介在する光学部材による反射率への影響を除外した。
【0072】
実施例又は比較例のプリズムのサンプルを用いて上記測定を行った結果を図6に示す。図6は、ArFレーザ光のパルス数に対する反射率の変化を示すグラフである。なお、図6には、実施例1及び2について、それぞれ2つのサンプルを作製して上記の測定を行った結果を両方示した。
【0073】
図6に示す結果から明らかなように、MgFからなる保護層を全反射面に設けた実施例のプリズム(光学部材)によれば、保護層を設けなかったものに比して、反射率を長期にわたって維持可能であることが確認された。
【符号の説明】
【0074】
1,10…プリズム、2,12…基材、2a,12a…全反射面、2b,12b…入射面、2c,12c…射出面、3,13…保護層、11…基材、11a…全反射面、11b…入射面、11c…射出面、15…ロッド型インテグレータ、17…保護層、100…露光装置、21…偏角プリズム、22…平行平面板、23…ビームエキスパンダ、30…光引き回しユニット、31,32,33,34,35,36…プリズム、40…照明光学系、41…ハーフミラー、42…偏光状態切替手段、43…1/2波長板、44…デポライザ、45…位置ずれ傾き検出系、M…マスク、50…投影光学系。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に光が入射される入射面、入射した光を全反射する全反射面、及び、全反射した光を外部に射出する射出面を有しており、フッ化カルシウム結晶から構成される基材と、
前記基材における前記全反射面の外側の表面上に設けられ、前記光による前記反射面の劣化を抑制するための保護層と、
を備えることを特徴とする光学部材。
【請求項2】
前記基材はプリズムであり、
前記基材における前記全反射面は、前記フッ化カルシウム結晶の結晶面{100}と一致し、且つ、
前記基材において、前記入射面、前記全反射面及び前記射出面の全てと交わるとともに前記全反射面と垂直となる面を仮想したとき、当該仮想面は、前記フッ化カルシウム結晶の結晶面{110}と一致する、
ことを特徴とする請求項1記載の光学部材。
【請求項3】
前記基材はプリズムであり、
前記基材における前記全反射面は、前記フッ化カルシウム結晶の結晶面{110}と一致し、且つ、
前記基材において、前記入射面、前記全反射面及び前記射出面の全てと交わるとともに前記全反射面と垂直となる面を仮想したとき、当該仮想面は、前記フッ化カルシウム結晶の結晶面{110}と一致する、
ことを特徴とする請求項1記載の光学部材。
【請求項4】
前記基材はプリズムであり、
前記基材における前記全反射面は、前記フッ化カルシウム結晶の結晶面{110}と一致し、且つ、
前記基材において、前記入射面、前記全反射面及び前記射出面の全てと交わるとともに前記全反射面と垂直となる面を仮想したとき、当該仮想面は、前記フッ化カルシウム結晶の結晶面{100}と一致する、
ことを特徴とする請求項1記載の光学部材。
【請求項5】
前記仮想面は、前記入射面、前記全反射面及び前記射出面の全てと垂直となる面である、ことを特徴とする請求項2〜4のいずれか一項に記載の光学部材。
【請求項6】
前記保護層は、SiO、Al、MgF、AlF、NaAlF、CeF、LiF、LaF、NdF、SmF、YbF、YF、NaF及びGdFからなる群より選ばれる少なくとも一種の材料からなる、ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の光学部材。
【請求項7】
前記保護層の光学厚さは、入射する光の波長をλとしたとき、0.25λ以上0.75λ以下である、ことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の光学部材。
【請求項8】
入射光の進行方向を偏向させて射出する偏向部材を備える光引き回しユニットであって、
前記偏向部材が、請求項1〜7のいずれか一項に記載の光学部材である、ことを特徴とする光引き回しユニット。
【請求項9】
光源からの光により露光を行う露光装置であって、
請求項8記載の光引き回しユニットと、
前記光引き回しユニットを介した前記光源からの光を照射する露光光学系と、
を備えることを特徴とする露光装置。
【請求項10】
基板上に感光層が形成された感光性基板の前記感光層に、請求項9記載の露光装置を用いて所定のパターンを有する光を照射する露光工程と、
前記露光工程後の前記感光層を現像して、前記パターンに対応する形状のマスク層を前記基板上に形成する現像工程と、
前記マスク層を介して前記基板の表面を加工する加工工程と、
を含むことを特徴とするデバイス製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−244881(P2009−244881A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−79616(P2009−79616)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】