説明

光安定性が改善されたニューキノロン系抗菌剤含有医薬組成物

【課題】本発明は、光不安定化が問題とされるニューキノロン系抗菌剤の光安定性が改善されており、光曝露による変色が抑制されている医薬組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】医薬組成物中で、(a)ロメフロキサシン、オフロキサシン、レボフロキサシン、ガチフロキサシン、トスフロキサシン、モキシフロキサシン、及びそれらの薬理学的に許容される塩よりなる群から選択される少なくとも1種のニューキノロン系抗菌剤と共に、(b)ビタミンB6類とを共存させることにより、該ニューキノロン系抗菌剤の光安定性が改善され、医薬組成物の光曝露による変色を抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロメフロキサシン、オフロキサシン、レボフロキサシン、ガチフロキサシン、トスフロキサシン、モキシフロキサシン、及びそれらの薬理学的に許容される塩よりなる群から選択される少なくとも1種のニューキノロン系抗菌剤の光安定性が改善されている医薬組成物に関する。更に、本発明は、前記ニューキノロン系抗生物質を含有する医薬組成物の光曝露時の着色を抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ロメフロキサシンに代表されるニューキノロン系抗菌剤は、高い抗菌活性と安全性を併せ持つ極めて優れた合成抗菌剤であり、現在も医療分野において点眼剤や内服剤に広く使用されている。ところが、一般的にニューキノロン系抗菌剤は光安定性に乏しく、これを配合した医薬組成物では光曝露によって変色(黄変)することが多い。そのため、特に、点眼剤や点鼻剤等の医薬組成物にニューキノロン系抗菌剤を配合する場合には、外観安定性が損なわれ、商品性の低下や使用者の心理的不安感をもたらすこと等が懸念されている。
【0003】
また、従来、ニューキノロン系抗菌剤を含む医薬組成物を充填する容器として褐色のガラス製容器が採用されている。しかしながら、従来の褐色容器では、内部の組成物の性状や内容量を容易に視認できないという欠点に加えて、ニューキノロン系抗菌剤を含む医薬組成物の光曝露による変色を充分に抑制できないという問題点もあった。また、アルミ製の容器や不透明の容器等の光をほぼ遮断できる容器によって、ニューキノロン系抗菌剤を含む医薬組成物の光曝露による変色を抑制することができるが、このような容器では、内部の組成物の性状や内容量を容器の外部から確認できないという欠点があり、使用者にとって不便であるだけでなく、製造工程管理や品質管理においても不都合であった。
【0004】
そこで、ニューキノロン系抗菌剤を含む医薬組成物の使用簡便性を向上させ、更には製造工程管理や品質管理をも容易ならしめるために、光曝露による変色を抑制でき、内部を視認できる透明部分を有する容器への収容に耐え得る製剤処方の開発が望まれている。
【0005】
従来、酸化防止剤、還元剤、キレート剤等の添加剤の配合が、変色を引き起こし易い化合物の変色抑制手段に有効な場合があることが知られている。しかしながら、従来の変色抑制手段は、その変色の要因、組成物中の配合成分の種類、変色抑制の為に配合する添加剤の種類等によって、その有効性は大きく異なるため、あらゆる医薬組成物の変色抑制に対して普遍的に適用できるものではないことが分かっている。そのため、医薬組成物の変色抑制は、医薬組成物の配合成分に応じて個別具体的な検討が必要とされるため、ニューキノロン系抗菌剤を含有する医薬組成物について如何なる手段を講じることが有効であるかは容易には類推できないのが現状である。
【0006】
またこれまでに、ニューキノロン系抗菌剤としてノルフロキサシンを含み、更にビタミンB6を含む点眼剤が数種類開示されている(特許文献1参照)。しかしながら、特許文献1は、あくまで、溶解性に乏しいノルフロキサシンと、プラノプロフェンやイブプロフェン等のアリールカルボン酸とを併用することによって、ノルフロキサシンの水への溶解性が高められることを示しているに止まっており、ニューキノロン系抗菌剤の光安定性の改善効果については何ら明らかにされていない。つまり、特許文献1は、専ら、ノルフロキサシンに特有の問題である難溶解性を解決する手段を開示しており、他のニューキノロン系抗菌剤とビタミンB6との併用を一般的に教示するものでもない。また、ノルフロキサシンは、ニューキノロン系抗菌剤の中では光安定性が比較的高く、他のニューキノロン系抗菌剤のような光不安定化が殊更問題とはされていないため、特許文献1は、光不安定化が問題とされている他のニューキノロン系抗菌剤の光安定性の改善に有効な手段を示唆するものでもない。
【0007】
このように、従来、光不安定化が問題とされるニューキノロン系抗菌剤について、光安定性を改善する有効な手段については、一切分かっていない。
【特許文献1】特開平10-279481号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、光不安定化が問題とされるニューキノロン系抗菌剤の光安定性が改善されており、光曝露による変色が抑制されている医薬組成物を提供することを目的とする。また本発明は、光不安定化が問題とされるニューキノロン系抗菌剤を含む医薬組成物の光曝露時の着色を抑制する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討したところ、ビタミンB6類には、光不安定化が問題とされているニューキノロン系抗菌剤(具体的には、ロメフロキサシン、オフロキサシン、レボフロキサシン、ガチフロキサシン、トスフロキサシン、モキシフロキサシン、及び/又はこれらの薬理学的に許容される塩)を含む医薬組成物の光曝露による着色(黄変)を抑制する作用があることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて、更に検討を重ねることによって完成したものである。
【0010】
即ち、本発明は、下記に掲げる医薬組成物及び医薬製品である。
項1. (a)ロメフロキサシン、オフロキサシン、レボフロキサシン、ガチフロキサシン、トスフロキサシン、モキシフロキサシン、及びそれらの薬理学的に許容される塩よりなる群から選択される少なくとも1種と、(b)ビタミンB6類とを含有することを特徴とする、医薬組成物。
項2. 前記(a)成分が、ロメフロキサシン及びその薬理学的に許容される塩よりなる群から選択される少なくとも1種である、項1に記載の医薬組成物。
項3. 前記(a)成分に含まれる薬理学的に許容される塩が、塩酸塩、トシル酸塩、硫酸塩、リン酸塩、酢酸塩、乳酸塩、コハク酸塩、メタンスルホン酸塩、マレイン酸塩、グルコン酸塩、及びアスパラギン酸塩よりなる群から選択される少なくとも1種である、項1又は2に記載の医薬組成物。
項4. 前記(a)成分を0.01〜1w/v%の割合で含有する、項1乃至3のいずれかに記載の医薬組成物。
項5. 前記(b)成分を0.005〜1w/v%の割合で含有する、項1乃至4のいずれかに記載の医薬組成物。
項6. 更に、(c)テルペノイドを含有する、項1乃至5のいずれかに記載の医薬組成物。
項7. 前記(c)成分が、メントール、カンフル、ボルネオール、ゲラニオール、シネオール、リモネン、リナロール、オイゲノール、ゲルガモット油、ハッカ油、ユーカリ油、ウイキョウ油、ローズ油及びクールミント油よりなる群から選択される少なくとも1種である、項6に記載の医薬組成物。
項8. 水性組成物である、項1乃至7のいずれかに記載の医薬組成物。
項9. 点眼剤である、項1乃至8のいずれかに記載の医薬組成物。
項10. 透明部分を有する包装体に、項1乃至9のいずれかに記載の医薬組成物が収容されてなることを特徴とする、医薬製品。
項11. 前記医薬組成物が点眼剤であり、前記包装体が点眼容器である、項10に記載の医薬製品。
項12. 前記包装体の透明部分の可視光線の透過性が40%以上である、項10又は11に記載の医薬製品。
【0011】
更に、本発明は、下記に掲げる着色抑制方法である。
項13. (a)ロメフロキサシン、オフロキサシン、レボフロキサシン、ガチフロキサシン、トスフロキサシン、モキシフロキサシン、及びそれらの薬理学的に許容される塩よりなる群から選択される少なくとも1種を含む医薬組成物に、(b)ビタミンB6類を配合することを特徴とする、該医薬組成物の光曝露時の着色抑制方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の医薬組成物によれば、不安定化が問題とされている特定のニューキノロン系抗菌剤の光安定性が改善され、光曝露による着色が抑制されているので、非遮光条件下で長期間保存しても変色を抑制して性状を安定に維持することが可能である。
【0013】
本発明の医薬組成物では、不安定化が問題とされている特定のニューキノロン系抗菌剤の光に対する安定性が改善されているので、該医薬組成物を光の透過性が高く内部を視認可能な透明部分を有する包装体に収容できる。それ故、該医薬組成物の製造の際に、容器の外部から異物混入を確実に判別可能で、異物確認試験を容易に行うことができるので、医薬組成物の製造工程管理及び品質管理を確実に行うことができる。特に、点眼剤、洗眼剤、点鼻剤、コンタクトレンズ用剤等の製剤形態の場合には、その製剤上及び使用上の特性から、内容物を視認し易い包装体、即ち透明部分を有する包装体に充填されることが望まれており、本発明の医薬組成物によれば、その要求を満たすことができる。
【0014】
また、通常、光に対して不安定な医薬組成物を収容する包装体としては、光を遮るために特殊な加工技術が施された遮光性のものが広く使用されているが、これらの遮光性の包装体は、一般的に透明の包装体よりも高額であることが多い。これに対して、本発明の医薬組成物によれば、安価な透明の包装体に収容可能であるので、医薬組成物を製造する際の包装体のコストを抑えることも可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。本明細書において、水性組成物又は水性医薬組成物とは、水を少なくとも50w/v%以上、さらに好ましくは70w/v%以上含有する組成物を意味する。
【0016】
(I)医薬組成物
本発明の医薬組成物は、ロメフロキサシン、オフロキサシン、レボフロキサシン、ガチフロキサシン、トスフロキサシン、モキシフロキサシン、及びそれらの薬理学的に許容される塩よりなる群から選択される少なくとも1種のニューキノロン系抗菌剤(以下、単に(a)成分と表記することもある)を含有する。
【0017】
本発明で使用される(a)成分の内、薬理学的に許容される塩の形態としては、特に制限されるものではないが、例えば、酸付加塩、有機塩基との塩、無機塩基との塩等が挙げられる。より具体的には、酸付加塩としては、例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩等の無機酸塩;モノカルボン酸塩(酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、酪酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩等の有機酸塩;フマル酸塩、マレイン酸塩、コハク酸塩、マロン酸塩等の多価カルボン酸塩;乳酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩等のオキシカルボン酸塩;メタンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩(オルト型、メタ型、パラ型)等の有機スルホン酸塩等が例示される。また、有機塩基との塩としては、メチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、ピペラジン、ピロリジン、トリピリジン、ピコリン等の有機アミンとの塩が例示される。また、無機塩基との塩としては、アンモニウム塩;ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属との塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属との塩;アルミニウム塩等の金属との塩が例示される。これらの塩の中でも好適な一例として、塩酸塩、トシル酸塩、硫酸塩、リン酸塩、酢酸塩、乳酸塩、コハク酸塩、メタンスルホン酸塩、マレイン酸塩、グルコン酸塩、及びアスパラギン酸塩が挙げられる。
【0018】
上記(a)成分に含まれる薬理学的に許容される塩の形態の化合物として、具体的には、塩酸ロメフロキサシン、トシル酸トスフロキサシン、塩酸モキシフロキサシン等が例示される。
【0019】
また、上記(a)成分に含まれる化合物は、1/2水和物や1水和物等の水和物の形態であってもよい。
【0020】
これらの(a)成分は、一種の化合物を単独で使用してもよく、二種以上の化合物を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0021】
上記(a)成分として、好ましくは、ロメフロキサシン、オフロキサシン、及びこれらの薬理学的に許容される塩、更に好ましくは、ロメフロキサシン、及びその薬理学的に許容される塩、特に好ましくは塩酸ロメフロキサシンが挙げられる。これらの化合物は、光曝露により変色を強く生じさせる傾向を示すが、本発明によれば、このような化合物に対しても優れた光安定性を付与して、医薬組成物の変色を効果的に抑制することができる。
【0022】
本発明の医薬組成物において、(a)成分の配合割合は、該医薬組成物の用途や製剤形態、(a)成分の種類等に応じて適宜設定されるが、一例として、該医薬組成物の総量当たり、該(a)成分が総量で0.0001〜2重量%となる割合が例示される。具体的には、本発明の医薬組成物が水性組成物であれば、(a)成分が総量で0.001〜2w/v%、好ましくは0.01〜1w/v%、更に好ましくは0.06〜0.5w/v%となる割合が例示される。
【0023】
より具体的には、本発明の医薬組成物が点眼剤又は点鼻剤である場合には、(a)成分が総量で0.005〜2w/v%、好ましくは0.01〜1w/v%、更に好ましくは0.06〜0.5w/v%となる割合が例示される。また、本発明の医薬組成物が洗眼剤又はコンタクトレンズ用剤である場合には、(a)成分が総量で0.0001〜1w/v%、好ましくは0.001〜0.1w/v%、更に好ましくは0.006〜0.05w/v%となる割合が例示される。
【0024】
更に、本発明の医薬組成物は、(a)成分に加えて、ビタミンB6類(以下、単に(b)成分と表記することもある)を含有する。このようにビタミンB6類を含むことによって、光不安定化が問題とされる(a)成分を医薬組成物中で安定に保持して、医薬組成物の光曝露による変色を抑制することが可能になる。
【0025】
本発明に使用されるビタミンB6類としては、特に制限されないが、例えば、ピリドキシン、ピリドキサール、ピリドキサミン及びこれらの薬理学的に許容される塩が挙げられる。
【0026】
本発明で使用される(b)成分の内、薬理学的に許容される塩の形態としては、特に制限されるものではないが、例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩等の無機酸塩が例示される。
【0027】
これらの(b)成分は、一種の化合物を単独で使用してもよく、二種以上の化合物を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0028】
上記(a)成分の光安定性を一層効果的に改善して、光曝露による医薬組成物の変色を一層効果的に抑制するという観点から、上記(b)成分として、好ましくはピリドキシン及びその薬理学的に許容される塩、更に好ましくは塩酸ピリドキシンが挙げられる。
【0029】
本発明の医薬組成物において、(b)成分の配合割合は、該医薬組成物の用途や製剤形態、(a)成分の種類、(b)成分の種類等に応じて適宜設定されるが、一例として、該医薬組成物の総量当たり(b)成分が総量で0.001〜10重量%となる割合が例示される。具体的には、本発明の医薬組成物が水性組成物であれば、(b)成分が総量で0.001〜10w/v%、好ましくは0.005〜1w/v%、更に好ましくは0.01〜0.1w/v%となる割合が例示される。
【0030】
より具体的には、本発明の医薬組成物が点眼剤又は点鼻剤である場合には、(b)成分が総量で0.001〜10w/v%、好ましくは0.005〜1w/v%、更に好ましくは0.01〜0.1w/v%となる割合が例示される。また、本発明の医薬組成物が洗眼剤又はコンタクトレンズ用剤である場合には、(b)成分が総量で0.00001〜10w/v%、好ましくは0.0001〜1w/v%、更に好ましくは0.001〜0.1w/v%となる割合が例示される。
【0031】
本発明の医薬組成物において、(a)成分と(b)成分の比率については、特に制限されないが、医薬組成物の光曝露による変色抑制効果を一層顕著ならしめるという観点から、(a)成分の総量100重量部に対して、(b)成分が総量で0.2〜10000重量部、好ましくは1〜1000重量部、更に好ましくは2〜100重量部となる比率を充足していることが望ましい。
【0032】
更に、本発明の医薬組成物は、上記(a)及び(b)成分に加えて、テルペノイド(以下、単に(c)成分と表記することもある)を含有してもよい。このようにテルペノイドを含有することによって、上記(a)成分等の溶解性向上や医薬組成物の抗菌力の増強が期待される。テルペノイドとしては、薬理学的に許容されるものであれば特に制限されず、メントール、カンフル、ボルネオール、シネオール、アネトール、リモネン、オイゲノール、ゲラニオール、ピネン、フェランドレン、リナロール、シトロネロール、シトロネラール、メントン及びカルボン等を挙げることができる。これらはd体、l体又はdl体の別を問うものではない。また、(c)成分として、上記テルペノイドを含有する精油を使用することもできる。上記テルペノイドを含有する精油としては、例えば、ユーカリ油、ベルガモット油、ウイキョウ油、ケイヒ油、ローズ油、スペアミント油、ペパーミント油、クールミント油、ハッカ油等を例示することができる。本発明の医薬組成物に配合される(c)成分として、好ましくはメントール、カンフル、ボルネオール、ゲラニオール、シネオール、リモネン、リナロール、オイゲノール、ゲルガモット油、ハッカ油、ユーカリ油、ウイキョウ油、ローズ油及びクールミント油;更に好ましくはメントール、特に好ましくはl−メントールが挙げられる。これらのテルペノイドは、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0033】
本発明の医薬組成物に(c)成分を配合する場合、その配合割合は、特に制限されるものではなく、該医薬組成物の用途や製剤形態等に応じて適宜設定できる。(c)成分の配合割合の一例として、医薬組成物の総量当たり、(c)成分が総量で、0.0001〜10重量%となる割合が例示される。具体的には、本発明の医薬組成物が水性組成物であれば、(c)成分が総量で0.0001〜1w/v%、好ましくは0.0005〜0.1w/v%、更に好ましくは0.001〜0.05w/v%となる割合が例示される。
【0034】
本発明の医薬組成物は、上記成分に加えて、更に緩衝剤を含有していてもよい。本発明の医薬組成物に配合できる緩衝剤としては、薬理学的に許容されるものであれば、特に制限されない。かかる緩衝剤の一例として、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、ε−アミノカプロン酸、アスパラギン酸、アスパラギン酸塩等が挙げられる。これらの緩衝剤は1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。本発明の医薬組成物の光曝露による変色を一層効果的に抑制するとの観点から、上記緩衝剤の中でも、ホウ酸緩衝剤及び酢酸緩衝剤が好適である。ホウ酸緩衝剤の具体例として、ホウ酸及びその塩(ホウ酸ナトリウム、テトラホウ酸カリウム、メタホウ酸カリウム、ホウ酸アンモニウム、ホウ砂など)が例示される。特に、ホウ酸、ホウ砂が好適である。酢酸緩衝剤の具体例として、酢酸及びその塩(酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸アンモニウムなど)が例示される。特に、酢酸、酢酸ナトリウムが好適である。
【0035】
本発明の医薬組成物に緩衝剤を配合する場合、該緩衝剤の配合割合については、使用する緩衝剤の種類や医薬組成物の製剤形態等に応じて異なり、一律に規定することはできないが、例えば、医薬組成物の総量当たり、該緩衝剤が総量で0.001〜10重量%となる割合が例示される。具体的には、本発明の医薬組成物が水性組成物であれば、緩衝剤が総量で0.001〜10w/v%、好ましくは0.05〜5w/v%、更に好ましくは0.1〜2w/v%となる割合が例示される。
【0036】
また、本発明の医薬組成物が水性組成物の場合には、配合される成分の化学的安定性が著しく損なわれない範囲で、生体に許容される範囲内のpHに調節することができる。適切なpHは、上記(a)成分の種類、医薬組成物の製剤形態や適用部位等により異なるが、一般的にはpH4〜9の範囲で適宜設定される。上記(a)成分毎の医薬組成物のpHの具体例は以下の通りである。ロメフロキサシン及び/又はその塩の場合、4.5〜5.7;オフロキサシン及び/又はその塩の場合、6.0〜7.0;レボフロキサシン及び/又はその塩の場合、6.2〜6.8;トスフロキサシン及び/又はその塩の場合、4.9〜5.5;ガチフロキサシン及び/又はその塩の場合、5.6〜7.3;モキシフロキサシン及び/又はその塩の場合、6.3〜7.3。pHの調節は、前記緩衝剤、或いは当該技術分野で通常使用されているpH調整剤、等張化剤、塩類等を用いて、当該技術分野で既知の方法で行うことができる。
【0037】
本発明の医薬組成物が水性組成物の場合には、更に必要に応じて、生体に許容される範囲内の浸透圧比に調節することができる。適切な浸透圧比は、医薬組成物の製剤形態や適用部位等により異なるが、通常0.3〜4.2、好ましくは0.3〜2.1、更に好ましくは0.5〜1.8、より好ましくは0.6〜1.5、特に好ましくは0.8〜1.5程度である。浸透圧の調整は無機塩、多価アルコール、糖アルコール、糖類などを用いて、当該技術分野で既知の方法で行うことができる。浸透圧比は、第十四改正日本薬局方に基づき0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液の浸透圧に対する試料の浸透圧の比とし、浸透圧は日本薬局方記載の浸透圧測定法(氷点降下法)を参考にして測定する。浸透圧比測定用標準液は、塩化ナトリウム(日本薬局方標準試薬)を500〜650℃で40〜50分間乾燥した後、デシケーター(シリカゲル)中で放冷し、その0.900gを正確に量り、精製水に溶かし正確に100mLとして調製するか、市販の浸透圧比測定用標準液(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液)を用いる。
【0038】
本発明の医薬組成物は、本発明の効果を妨げない限り、上記成分の他に、種々の薬理活性成分や生理活性成分を組み合わせて適当量含有してもよい。かかる成分は特に制限されず、例えば、一般用医薬品製造(輸入)承認基準2000年版(薬事審査研究会監修)に記載された各種医薬における有効成分が例示できる。具体的には、耳鼻科用又は眼科用薬において用いられる成分としては、次のような成分が挙げられる。
抗ヒスタミン剤:例えば、イプロヘプチン、ジフェンヒドラミン、クロルフェニラミン等。
殺菌剤:例えば、アクリノール、セチルピリジニウム、ベンザルコニウム、ベンゼトニウム、クロルヘキシジン等。
消炎剤:例えば、グリチルレチン酸、グリチルリチン酸、プラノプロフェン、サリチル酸メチル、サリチル酸グリコール、アラントイン、アズレン、アズレンスルホン酸、グアイアズレン、トラネキサム酸、ε−アミノカプロン酸、ベルベリン、リゾチーム、甘草等。
収斂剤:例えば、亜鉛華、乳酸亜鉛、硫酸亜鉛等。
その他:例えば、インドメタシン、イブプロフェン、イブプロフェンピコノール、ブフェキサマク、フルフェナム酸ブチル、ベンダザック、ピロキシカム、ケトプロフェン、フェルビナク、紫根、セイヨウトチノキ、及びこれらの塩等。
【0039】
また、本発明の医薬組成物には、発明の効果を損なわない範囲であれば、その用途や形態に応じて、常法に従い、様々な添加物を適宜選択し、一種またはそれ以上を併用して適当量含有させてもよい。それらの添加物として、例えば、医薬品添加物事典2005(日本医薬品添加剤協会編集)に記載された各種添加物が例示できる。代表的な成分として次の添加物が挙げられる。
担体:例えば、水、含水エタノール等の水性担体。
増粘剤:例えば、カルボキシビニルポリマー、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、アルギン酸、ポリビニルアルコール(完全、又は部分ケン化物)、ポリビニルピロリドン、マクロゴール、コンドロイチン硫酸ナトリウム等。
糖類:例えば、グルコース、シクロデキストリン等。
糖アルコール類:例えば、キシリトール、ソルビトール、マンニトールなど。これらはd体、l体又はdl体のいずれでもよい。
界面活性剤:例えば、ポリオキシエチレン(以下、POEと略す)−ポリオキシプロピレン(以下、POPと略す)ブロックコポリマー(具体的には、ポロクサマー407等)、エチレンジアミンのPOE-POPブロックコポリマー付加物(具体的には、ポロキサミン等)、モノオレイン酸POEソルビタン、POE硬化ヒマシ油(具体的には、POE(60)硬化ヒマシ油等)、ステアリン酸ポリオキシル等の非イオン性界面活性剤;アルキルジアミノエチルグリシン等のグリシン型両性界面活性剤;アルキル4級アンモニウム塩(具体的には、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム等の陽イオン界面活性剤等。なお、括弧内の数字は付加モル数を示す。
防腐剤、殺菌剤又は抗菌剤:例えば、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、安息香酸ナトリウム、エタノール、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、クロロブタノール、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、硫酸オキシキノリン、フェネチルアルコール、ベンジルアルコール、ビグアニド化合物(具体的には、ポリヘキサメチレンビグアニド等)、グローキル(ローディア社製 商品名)等。
pH調節剤:例えば、塩酸、ホウ酸、アミノエチルスルホン酸、イプシロン−アミノカプロン酸、クエン酸、酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、ホウ砂、トリエタノールアミン、モノエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、硫酸、リン酸、ポリリン酸、プロピオン酸、シュウ酸、グルコン酸、フマル酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、グルコノラクトン、酢酸アンモニウム等。
等張化剤:例えば、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、グリセリン、プロピレングリコール等。
安定化剤:ジブチルヒドロキシトルエン、トロメタモール、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(ロンガリット)、トコフェロール、ピロ亜硫酸ナトリウム、モノエタノールアミン、モノステアリン酸アルミニウム、モノステアリン酸グリセリン等。
基剤:オクチルドデカノール、ゴマ油、酸化チタン、臭化カリウム、ダイズ油、ツバキ油、トウモロコシ油、ナタネ油、綿実油、パラフィン、ヒマシ油、プラスチベース、ラッカセイ油、ラノリン、ワセリン、プロピレングリコール等。
【0040】
本発明の医薬組成物は、種々の薬理学的に許容される担体(水等の水性担体、親水性担体、油性担体や、液状担体、粉粒状担体など)と組み合わせることにより、目的に応じた種々の剤型で提供することができる。例えば、液剤であってもよく、軟膏等の半固形剤又は固形剤であってもよい。特に、水溶液中での光の暴露によって引き起こされる(a)成分の不安定化を改善して、医薬組成物の変色を効果的に抑制できるという本発明の効果に鑑みれば、本発明の医薬組成物は、水性組成物であることが望ましい。このような水性の組成物としては、液剤の他、水を含む半固形剤が挙げられる。
【0041】
また、本発明の医薬組成物の製剤形態としては、特に限定されないが、例えば、点眼剤[但し、点眼剤にはコンタクトレンズ装用中に点眼可能な点眼剤を含む]、人工涙液、洗眼剤[但し、洗眼剤にはコンタクトレンズ装用中に洗眼可能な洗眼剤を含む]、眼軟膏剤、コンタクトレンズ用剤[コンタクトレンズ装着液、コンタクトレンズケア用組成物(コンタクトレンズ消毒剤、コンタクトレンズ用保存剤、コンタクトレンズ用洗浄剤、コンタクトレンズ用洗浄保存剤)等]等の眼科用組成物;点鼻剤、鼻洗浄液、点耳薬等の耳鼻科用組成物;口腔咽頭薬、含嗽薬(含嗽用剤)等の口腔用組成物等の粘膜適用組成物が挙げられる。中でも好ましくは耳鼻科用組成物又は眼科用組成物であり、更に好ましくは点鼻剤、鼻洗浄剤、点眼剤、又は洗眼剤であり、特に好ましくは点眼剤又は洗眼剤である。なお、上記コンタクトレンズ用剤は、ハードコンタクトレンズ及びソフトコンタクトレンズを含むあらゆるコンタクトレンズに適用できる。
【0042】
本発明の医薬組成物は、(a)成分の作用に基づいて、抗菌作用を発揮できるので、ブドウ球菌属、レンサ球菌属、肺炎球菌、腸球菌属、ミクロコッカス属、モラクセラ属、コリネバクテリウム属、バシラス属、クレブシエラ属、エンテロバクター属、セラチア属、プロテウス属、モルガネラ・モルガニー、プロビデンシア属、インフルエンザ菌、ヘモフィルス・エジプチウス(コッホ・ウィークス菌)、シュードモナス属、緑膿菌、バークホルデリア・セパシア、ステノトロホモナス(ザントモナス)・マルトフィリア、アシネトバクター属、フラボバクテリウム属、アクネ菌等の細菌感染に起因する感染症症状の改善に有用である。このような感染症症状の具体例としては、眼瞼炎(瞼のただれ)、涙嚢炎、麦粒腫(ものもらい)、結膜炎(はやり目)、目のかゆみ、瞼板腺炎、角膜炎、角膜潰瘍等が挙げられる。
【0043】
本発明の医薬組成物は、上記配合成分の所定量を添加、混合し、目的とする製剤形態に応じて製剤化することにより製造できる。
【0044】
(II)医薬製品
上記医薬組成物では、(a)成分の光不安定化が改善されており、光曝露による変色が抑制されているので、該医薬組成物は、光の透過性が高く内部を視認可能な透明部分を有する包装体に収容されて提供することできる。即ち、本発明は、更に、透明部分を有する包装体に上記医薬組成物が収容されてなる医薬製品を提供する。
【0045】
本発明において、「包装体」とは、医薬組成物が直接収容される包装体(以下、これを「一次包装体」という)のみならず、医薬組成物が収容されている一次包装体を更に収容して二重又はそれ以上に包装するための包装体(以下、これを「二次包装体」という)も含まれる。
【0046】
本発明に使用される包装体の形態は、上記医薬組成物を収容できることを限度として特に制限されず、収容する医薬製剤の形態や用途、一次包装体又は二次包装体の別等に応じて適宜選択、設定できる。当該包装体の形態の一例として、一次包装体の場合であれば、サシェットタイプ(小袋タイプ)の包装袋、チューブ状容器、ボトル状容器、PTP包装、点眼用容器、点鼻用容器等が挙げられる。また、二次包装体の場合であれば、ピロー包装袋等が例示される。
【0047】
また、本発明において、包装体の透明部分は、内部視認性、即ち包装体に収容された内容物を肉眼で観察可能な程度の透明性を備えていればよく、無色透明、半透明、有色透明のいずれであってもよい。また、包装体の内部視認性の確保するという観点から、包装体の透明部分の可視光線の透過率が40%以上、好ましくは50%以上、更に好ましくは55%以上であることが望ましい。ここで可視光線の透過率とは、380〜780nmの波長の平均光透過率を指す。本発明において、光透過率は、JIS K7150に規定の方法に準じて測定できる。380〜780nmの波長の光の平均透過率は、380〜780nmの間で5nm毎に光透過率を測定し、得られた各光透過率からそれらの平均値を算出することによって求めることができる。
【0048】
本発明において、少なくとも包装体の一部分に透明部分が確保されていればよく、必ずしも包装体の全面が透明である必要はない。但し、包装体の外部から医薬組成物の外観性状や量を肉眼で確認できる程度に、包装体において透明部分が確保されていることが望ましい。
【0049】
本発明で使用される包装体は、その素材については制限されずガラス製、プラスチック製、パルプ製、ゴム製等のいずれであってもよい。上記医薬組成物が水性組成物である場合、スクイズ性及び耐久性の観点からは、包装体としてプラスチック製容器が好ましい。
【0050】
本発明で使用されるプラスチック製包装体の樹脂としては、熱可塑性樹脂が好ましく、該熱可塑性樹脂として、例えば、オレフィン系樹脂;ポリエステル系樹脂;ポリフェニレンエーテル系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;ポリスルホン系樹脂;ポリアミド系樹脂;硬質塩化ビニル樹脂;スチレン系樹脂等が例示できる。なお、包装体がプラスチック容器である場合、使用される樹脂としては、スクイズ性が良好で、繰り返しの押圧に対して耐久性を有する樹脂であることが好ましい。
【0051】
また、本発明に使用される包装体は、紫外線吸収剤や赤外線吸収剤等が塗布又は練り込まれたものであってもよい。
【0052】
本発明の医薬製品において、包装体内に収容される医薬組成物の量としては、特に制限されず、1包装体当たり単回投与量の医薬組成物を収容してもよく、また1包装体当たり複数回分の医薬組成物を収容してもよい。包装体内に医薬組成物が複数回の投与量が収容されている場合、使用毎に使用者が包装体内の医薬組成物の残存量を包装体の外部から目視で確認できるという利点も得られる。
【0053】
(III)着色抑制方法
前述するように、(a)成分を含む医薬組成物に(b)成分を配合することによって、該医薬組成物の光曝露による変色(着色)を抑制することができる。従って、本発明は、(a)ロメフロキサシン、オフロキサシン、レボフロキサシン、ガチフロキサシン、トスフロキサシン、モキシフロキサシン、及びそれらの薬理学的に許容される塩よりなる群から選択される少なくとも1種を含む医薬組成物に、(b)ビタミンB6類を配合することを特徴とする、該医薬組成物の光曝露時の着色抑制方法を提供する。
【0054】
当該方法において、使用する(a)成分の種類や配合割合、(b)成分の種類や配合割合、その他の配合成分の種類や配合割合、医薬組成物の剤型、製剤形態等については、前記「(I)医薬組成物」の欄に記載の通りである。
【実施例】
【0055】
以下に、実施例、試験例等に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0056】
試験例1 変色抑制効果確認試験
表1に記載の処方に従い、各水性医薬組成物を調製した(実施例1及び比較例1−3)。調製後、すぐに各水性医薬組成物の波長405nmでの吸光度(A405)を測定した。更に以下の試験を行い、その光に対する安定性について評価した。
【0057】
【表1】

【0058】
各々の水性医薬組成物を、透明ガラス、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PP(ポリプロピレン)及びPE(ポリエチレン)製の透明容器(容量10mL)に8mLずつ充填し、これらを試験サンプルとした(n=2)。この試験サンプルに対して、光安定性試験装置(「Light-Tron LT-120 D3CJ型」、ナガノ科学株式会社製)を用いて、D65ランプを光源として、室温25℃の下、5000lxの光を48時間連続照射し、試験サンプルに対して積算照射量24万lx・hrの光に曝光した。光照射前と後の各試験サンプルについて、変色(黄色への着色化)の指標としてA405を測定し、下式1に基づいて着色度を算出した。
【0059】
【数1】

【0060】
得られた結果を図1に示す。この結果から、比較例1の水性医薬組成物ではいずれの容器においても着色度が高くなるが、実施例1の水性医薬組成物では着色度の上昇が顕著に抑えられていることが判明した。また、ニューキノロン系抗菌剤に分類されるノルフロキサシンを含有する水性医薬組成物(比較例2及び3)では、光照射後に、比較例1の水性医薬組成物で認められた程の黄変はなかったことから、ビタミンB6類の有無に拘わらずノルフロキサシンは光照射に対して比較的安定であることが確認された。
【0061】
また、別途、各々の水性医薬組成物を、内部の視認が困難な褐色ガラス製容器に充填して、同様の試験を実施したところ、積算照射量24万lx・hrの光を照射した時の比較例1の水性医薬組成物の着色度は、あまり変化しないことが確認された。この結果から、光曝露によるロメフロキサシンの着色は、遮光を施した容器を使用することによっても抑制できることが分かった。しかしながら、このような褐色ガラス容器では、内部の視認が困難であり、製造工程管理や品質管理が困難になり、使用者にとっても容器内の残存量を確認し難いという欠点がある。これに対して、上記で使用した透明ガラス、PET、PP、及びPP製の透明容器は十分な内部視認性を備えていることから、これらの透明容器に本発明の医薬組成物を充填することによって、光曝露による着色を抑制し、且つ褐色ガラス容器を使用する場合の上記欠点を解消することが可能になる。なお、本試験にて使用した容器の可視光線透過率は、透明ガラス製容器が90.24%、PET製容器が81.23%、PP製容器が84.06%、PE製容器が59.29%、褐色ガラス製容器が35.08%であることから、容器の内部視認性の確保には、可視光線の透過率が40%以上、好ましくは50%以上、更に好ましくは55%以上を備えていることが望ましいと言える。
【0062】
また、本試験終了後に水性医薬組成物の外観を目視にて観察したところ、透明容器に充填した比較例1の水性医薬組成物では黄変色が明らかに認められたのに対し、透明容器に充填した実施例1の水性医薬組成物では黄変色が顕著に抑制されていることも確認された。さらに、透明容器に充填した比較例2及び3の水性医薬組成物については、試験開始前と試験終了後の色調の差を目視にて認識することは困難であった。
【0063】
試験例2 変色抑制効果確認試験
表2に記載の処方に従い、各水性医薬組成物を調製した(実施例2及び比較例4)。これらの水性医薬組成物を用いて、以下の試験を行い、その光に対する安定性について評価した。
【0064】
【表2】

【0065】
各々の水性医薬組成物を透明ガラス製アンプル管(容量10mL)に8mLずつ充填し、これらを試験サンプルとした(n=2)。この試験サンプルに対して、光安定性試験装置(「Light-Tron LT-120 D3CJ型」、ナガノ科学株式会社製)を用いて、D65ランプを光源として、室温25℃の下、5000lxの光を24時間連続照射し、試験サンプルに対して積算照射量12万lx・hrの光に曝光した。光照射前と後の各試験サンプルについて、変色(黄色への着色化)の指標として波長405nmの吸光度(図中A405と表記する)を測定した。
【0066】
得られた結果を図2に示す。この結果から実施例2の水性医薬組成物では、比較例4の水性医薬組成物に比して、保存後の吸光度(405nm)が顕著に低く、光照射による変色(黄変)が抑制されていることが確認された。
【0067】
また、本試験終了後に水性医薬組成物の外観を目視にて確認したところ、比較例4の水性医薬組成物では黄変色が明らかに認められたのに対し、実施例2の水性組成物では黄変が顕著に抑制されていた(図3参照)。
【0068】
製剤例
表3及び4に記載の処方で、点眼剤(実施例3−17)が調製される。
【0069】
【表3】

【0070】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】試験例1において、各水性医薬組成物(実施例1及び比較例1−3)の光照射による着色度を表した図である。
【図2】試験例2において、各水性医薬組成物(実施例2及び比較例4)の光照射後の着色の吸光度を測定した図である。
【図3】試験例2において、光照射後の各水性医薬組成物(実施例2及び比較例4)を撮影した写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ロメフロキサシン、オフロキサシン、レボフロキサシン、ガチフロキサシン、トスフロキサシン、モキシフロキサシン、及びそれらの薬理学的に許容される塩よりなる群から選択される少なくとも1種と、(b)ビタミンB6類とを含有することを特徴とする、医薬組成物。
【請求項2】
前記(a)成分が、ロメフロキサシン及びその薬理学的に許容される塩よりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
水性組成物である、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
点眼剤である、請求項1乃至3のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項5】
透明部分を有する包装体に、請求項1乃至4のいずれかに記載の医薬組成物が収容されてなることを特徴とする、医薬製品。
【請求項6】
(a)ロメフロキサシン、オフロキサシン、レボフロキサシン、ガチフロキサシン、トスフロキサシン、モキシフロキサシン、及びそれらの薬理学的に許容される塩よりなる群から選択される少なくとも1種を含む医薬組成物に、(b)ビタミンB6類を配合することを特徴とする、該医薬組成物の光曝露時の着色抑制方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−209069(P2009−209069A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−52660(P2008−52660)
【出願日】平成20年3月3日(2008.3.3)
【出願人】(000115991)ロート製薬株式会社 (366)
【Fターム(参考)】