説明

光干渉断層撮像装置、方法、当該方法を実行するプログラム、及び記憶媒体

【課題】光干渉断層撮像装置において、評価領域によって画質評価指標を切り替える。脈絡膜に着目した診断で主に行われるEDI撮像では、網膜断層像の輝度値が低い部分が多いために画質評価指標が小さくなり、正確な評価が出来ないという課題がある。
【解決手段】光源から出射された光を参照光と測定光に分割し、測定光を被測定検体に照射し、その戻り光と参照光とを干渉させ、被測定検体の画像を取得する光干渉断層撮像装置において、画像の撮像条件を設定する手段と、撮像条件に応じて画質評価指標を選択する手段と、設定された撮像条件に応じて撮像された画像から特徴量を取得する手段と、特徴量と画質評価指標に基づいて画像の画質を評価する手段とを有する事。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光干渉断層撮像装置および方法に関し、特に、光干渉断層法を用いて、眼底や皮膚などの断層を撮影する光干渉断層撮像装置、方法、当該方法を実行するプログラム、及び記憶媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、低コヒーレンス光による光干渉技術を用いた光干渉断層撮像装置(Optical Coherence Tomography、以下OCT)が実用化されている。OCTは医療分野、特に眼科領域において有用な装置である。眼底網膜部の断層像を得ることが可能であり、眼底部の疾患の診断に必要不可欠な装置になりつつある。
【0003】
ここで、OCTの原理について簡単に記す。低コヒーレンス光を参照光と測定光に分ける。測定光を被測定検体に入射し、断層像の撮像対象領域からの反射戻り光を参照光と干渉させることで被測定検体の断層像を取得することが可能である。OCTにはTD(Time Domain)方式とFD(Fourier Domain)方式の2つの方式がある。FD-OCTは得られた干渉信号を波数に関してフーリエ変換することにより、距離(深さ)に関する反射強度プロファイルが求まる。被測定検体への照射部分をスキャンする事により、断層像を取得する事が出来る。TD方式に比べてFD方式は高速に断層像を取得することが可能であるため、現在ではこちらの方式が主流になっている。
【0004】
OCT断層像の画質評価を行う方法として、SNR(Signal to noise ratio)、CNR(Contrast to noise ratio)、Wiener Spectrumを用いた粒状性評価、MTF(modulation transfer function)を用いた分解能評価などが挙げられる。これらは、画質の一部分に着目した物理的指標である。
【0005】
一方、エンドユーザー(例えば医師や臨床検査技師など)の主観を反映した評価指標としてQI(Quality Index)が非特許文献1に開示されている。QIは画像の輝度値に関するヒストグラムから求まる画質評価指標であり、SNRなどの物理的指標よりもエンドユーザーの評価との相関が高い事が報告されている。
【0006】
図8はQIを説明するヒストグラムである。QIは以下の式で表わされる。
【数1】

【数2】

【数3】

【0007】
なお、非特許文献1ではSaturation、Low、Noise、Middle はそれぞれ以下の通りである。
Saturation:ヒストグラムの99パーセンタイル
Low:ヒストグラムの1パーセンタイル
Noise:ヒストグラムの75パーセンタイル
Middle:SaturationとNoiseの平均値
Number(saturation〜middle)は、ヒストグラムにおいて、saturationからmiddleまでの輝度値を持つピクセル総数である。IRはSNR(Signal to Noise Ratio)に相当する項であり、TSRは図8に示すように明るい層と暗い層のピクセル数の比率である。
【0008】
また、眼科におけるOCTの撮像方法の一つとして、Enhanced Depth Imaging (以下EDI)法による撮像が知られている。これは脈絡膜と疾病との関連性に着目して脈絡膜を詳しく見たい時に主に使用される方法である。EDI法はコヒーレンスゲートの位置が脈絡膜よりも奥にある状態で、逆像にて断層像を取得する方法である。コヒーレンスゲートとは、OCTにおける測定光と参照光の光学距離が等しい位置を表す。
【0009】
近年では、非特許文献2などに記載されているように疾患眼の脈絡膜厚に関する研究が進んでおり、脈絡膜を診断する意義が高まりつつある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】D M Stein,J G Fujimoto et.al. Br J Ophthalmol. 2006 February; 90(2): 186-190
【非特許文献2】IMAMURA, YUTAKA et.al. Retina,Vol29,pp1469-1473(2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ここで、脈絡膜は輝度の低い層(正反射率が低い)であるため、網膜像における輝度値の低い部分が正確に描出されている程、ユーザーは脈絡膜を正確に診断することが出来る。しかし、非特許文献1の画質評価指標では、輝度値の高い部分の描出を高く評価するため、EDI法によって得られた画像の画質を評価する指標としては適切でない。本発明の目的は、より適切な画質評価を行う事にある。
【0012】
また、本発明の他の目的は、画質評価の結果に基づいて再調整を行うことにより、より適切な画像を取得することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の光干渉断層撮像装置は、測定光を照射した被測定検体からの戻り光と前記測定光に対応する参照光と合波した光に基づいて前記被測定検体の断層画像を取得する光干渉断層撮像装置であって、前記被測定検体の断層画像の撮像条件を設定する撮像条件手段と、前記撮像条件に応じて画質評価指標を選択する評価指数選択手段と、前記撮像条件に応じて前記断層画像から特徴量を取得する特徴量取得手段と、前記特徴量と前記評価指標とに基づいて前記断層画像の画質を評価する画質評価手段とを有することを特徴とする。
【0014】
また、本発明の光干渉断層撮像方法は、光源から出射された光を参照光と測定光に分割し、前記測定光を被測定検体に照射し、その戻り光と前記参照光とを干渉させ、前記被測定検体の画像を取得する光干渉断層撮像方法であって、画像の撮像条件を設定する工程と、前記撮像条件に応じて画質評価指標を選択する工程と、前記設定された撮像条件に応じて撮像された画像から特徴量を取得する工程と、前記特徴量と前記画質評価指標に基づいて、前記画像の画質を評価する工程とを有する事を特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、撮像条件に応じて画質評価指標を選択する事で、より適切な画質評価を行う事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施形態1を表わすフローチャート
【図2】実施形態1〜3の光干渉断層撮像装置
【図3】実施形態1の評価領域
【図4】実施形態2におけるノーマル撮像とEDI撮像
【図5】実施形態2におけるノーマル撮像とEDI撮像のヒストグラム
【図6】実施形態2を表わすフローチャート
【図7】実施形態3を表わすフローチャート
【図8】非特許文献1のQIを説明するヒストグラム
【発明を実施するための形態】
【0017】
(実施形態1)
本発明の実施形態1を、図1〜図3を用いて説明する。
図2は本発明を実施するためのOCT構成図である。図2において、200は光源である。本実施形態において、SLD光源(Super Luminescent Diode)を用いる。しかし、低コヒーレント光源であれば、何れでもよい。具体的にはASE光源(Amplified Spontaneous Emission)、チタンサファイアレーザーやSC光源(Super Continuum)などの超短パルス光源、SS光源(Swept Source光源)などが挙げられる。
【0018】
201はファイバカプラであり、光源200から出射された広帯域な波長を有する光を、参照光路を構成するファイバ203を通る参照光と、測定光路を構成するファイバ202を通る測定光とに分割する。ファイバカプラ201は、参照光と測定光の分割比率に関して波長依存性が少なく、分割比率が一定に近いものが望ましい。分割比率は、OCTで得られる被測定検体の断層像の反射率を考慮して構成する。人眼網膜は反射率が低いため反射戻り光のロスを可能な限り低減する必要がある。従って90:10の分割比率を有するカプラなどを用いれば良いがこれに限定されるものではない。
【0019】
分割された測定光は、ファイバコリメータ209から平行光として出射される。ファイバコリメータ209を通過して平行光になった測定光210は、被測定検体である眼215の網膜上に照射される。また、測定光210は、眼215の網膜上でこれを走査するためのスキャナミラー211とスキャナレンズ212で構成される走査光学系を通過したのち、対物レンズ213によってフォーカス調整が行なわれる。スキャナミラー211によって、OCTのスキャン速度や画像サイズ、ならびにスキャンパターン(縦スキャン、横スキャン、サークルスキャン、ラジアルスキャン等)を好適に制御する事が可能である。スキャナミラー211の制御はスキャナコントローラ216にて行う。フォーカス調整は電動ステージ214の位置を調整する事で実現できる。電動ステージ214はステージコントローラ221によって制御される。スキャナコントローラ216とステージコントローラ221は、PC220によりコントロールされる。
【0020】
測定光210は眼215の網膜で反射され、測定戻り光として前述の測定光路を逆方向に進行する。
【0021】
一方、分割された参照光208は、ファイバコリメータ204から平行光として出射される。参照光208は、分散補償材205で分散補償が行われ、参照系反射ミラー206にて反射される。ファイバコリメータ204と参照系反射ミラー206の間にNDフィルタなどの光減衰器(不図示)で、光量を調整する機構を設けてもよい。
【0022】
以下分散補償について簡単に説明する。スキャナレンズ212や対物レンズ213などの測定光路光学系に用いられる各種レンズや被測定検体である眼215の硝子体、水晶体の屈折率は波長ごとに異なる特性を有する。このような特性を分散と言う。分散により、OCTの縦分解能が劣化する事が一般的に知られている。参照光路に上記各種レンズや硝子体、水晶体に相当する部材を挿入する事により解像度の劣化、干渉強度の低下を防ぐ事ができる。以上を分散補償と呼ぶ。
【0023】
参照系反射ミラーの206の位置を調整する電動ステージ207は、ステージコントローラ221によって位置をコントロールされる。電動ステージ207を用いて参照系反射ミラー206を移動させる事は、コヒーレンスゲートを移動させる事に対応する。参照系反射ミラー206によって反射された参照光は、前述の参照光路を逆方向に進行する。ファイバカプラ201によって測定戻り光と参照光を合成した干渉光、或いは合波した光は、ファイバ217を進行し、分光器218によって波長毎に光路が分割される。分割された干渉光は波長毎に光検出素子219によって光電変換された後、データ取得系を有するPC220でデータの取得、画像化、解析が行われる。光検出素子219はラインセンサカメラであるが、SS光源などの波長掃引光源の場合には、分光器218とラインセンサカメラを使用せず光検出素子としてフォトダイオードを用いる。
【0024】
光検出素子219で得られたデータを画像化する方法を以下に述べる。得られたデータは波長に関して等間隔なデータである。一方、距離に関する反射強度プロファイルを求めるためには、波数に関してフーリエ変換を行うため、波数に関して等間隔データである必要がある。従って、光検出素子219で取得したデータに波長波数変換を施して、波数等間隔データにする。このデータを1スキャン毎にフーリエ変換処理し、出力された複素振幅の絶対値を計算する。絶対値データを画像として表示するために、log変換を施して8ビット階調の輝度値に変換する。この輝度値データを画像の位置座標と対応させ、2次元画像データにして出力する。以上の操作により、非測定検体である網膜等の断層画像が取得される。
【0025】
以下、評価領域による評価指標の切り替えについて図1および図3を用いて説明する。図1は実施形態1を説明するフローチャートである。図3は実施形態1の評価領域および評価指標であり、図2におけるPC220に付属したモニター上に出力される。
【0026】
初診の被検者や検診等疾病が明らかになっていない、もしくは疾病が網膜像の広範囲に及んでいる被検者には断層像全体を見る必要がある。一方、疾病部位が明らかになっている被検者には、疾病部位のみを評価すれば良いという評価方法が考えられる。この場合、見たい解剖構造である網膜全体或いは疾病部位(例えば剥離部分や新生血管発生部)を評価領域として設定し、その評価領域についての断層画像を得ることとなる。ステップ101において、PC220に付属する不図示の入力部は、評価領域をユーザーの指示に基づいて入力する。これは図3に示すように「網膜全体」または「疾病部位のみ」とラベルが付されたラジオボタンのいずれかを、ユーザーがマウス等のデバイスで選択することにより行われる。(以下、撮像条件の設定、或いは撮像条件設定工程ともいう)。該入力部は評価領域を設定する評価領域設定手段として機能する。これら入力部及びPC220の関連する構成は、本発明における撮像条件設定手段を構成する。ユーザーにより評価領域が設定されたら、評価領域即ち撮像条件に応じた評価指標(画質評価指標)がPCによって選択される(ステップ102、評価指標選択工程)。PC220における当該操作の実施領域は、本発明における評価指数選択手段に対応する。評価領域に応じた評価指標を複数の中から選択する場合には、ユーザーによって選択されるようにしても良い。
【0027】
図3は、PC220のモニターに表示された評価領域の設定、評価結果の表示画面であり、(上)は画像全体(網膜全体)が設定された場合の表示例であり、(下)は画像の一部(疾病部位のみ)が設定された場合の表示例である。
【0028】
PCに付属する不図示の入力部は、ユーザーの指示に基づいて設定された撮像条件に応じて、画質評価指標を選択する。即ち、図3(上)のように評価領域として網膜像全体を見る場合、画質評価指標1がPC220によって選択される。一方、図3(下)のように疾病部位のみを評価領域とする場合、画質評価指標2がPC220によって選択される。即ち、本発明における撮像条件設定手段であるPC220は、撮像条件として撮像画像全体を評価領域とするか、一部分を評価領域とするかを選択する操作を行う。
【0029】
PCに付属する不図示の入力部は、ユーザーの指示に基づいて評価領域を含むよう網膜断層像を取得する(ステップ103)。取得方法は、上記で述べたようなOCTおよびデータ画像化方法を用いて行えばよい。PC220もしくはユーザーが得られた画像から評価指標算出領域を設定する(ステップ104)。網膜像全体を見る場合、評価指標算出領域として画像全体がPC220によって設定される。一方、疾病部位を評価領域とする場合、例えば点線で囲った評価指標算出領域がPC220もしくはユーザーによって設定される。この様な評価領域の設定は、PC220において評価領域設定手段として機能する領域により実行される。PC220によって評価指標算出領域から特徴量が取得される(ステップ105、特徴量取得工程)。ステップ103から105を実行するプログラムモジュールが特徴量取得手段として機能する。
【0030】
本実施形態では特徴量としてヒストグラムや、輝度値分布などを用いる。画質評価指標1は、評価指標算出領域を画像全体として、例えば以下の式が用いられる。
IQI1=Cont×TSR (式2.1)
Cont=(saturation-noise)/2BitDepth (式2.2)
TSR=(Number(saturation〜middle)/Number(middle〜noise)) (式2.3)
ここでBitDepthは画像のビット深さであり、saturationはヒストグラム99パーセンタイル値、noiseは(網膜断層像の最低輝度値-1)でありmiddleはsaturationとnoiseの平均値である。Number(saturation〜middle)は、ヒストグラムにおいて、saturationからmiddleまでの輝度値を持つピクセル総数である。Contは網膜断層像のコントラストに相当する項であり、TSRは網膜断層像における明るい層と暗い層のピクセル数の比を表わす。
しかし画質評価指標1はIQI1に制限するものではない。
また、当該特徴量は前述したようにヒストグラムにより構成されることが好ましいが、例えば、該ヒストグラムに基づいて得られる所謂重心等の値より構成されることも可能である。また、このヒストグラムは、輝度値等の断層画像中の各評価領域の各々より得られる信号値、或いは該信号値以上の値が得られる出現頻度、にも対応する。
【0031】
次に疾病部位が評価領域の場合の画質評価指標2について述べる。
評価指標算出領域は、疾病部分を含む任意のサイズの領域とする。評価指標算出領域はユーザーが表示された断層像の層構造に設定してもよいし、疾病部位近傍の矩形閉空間領域をPC220もしくはユーザーが設定しても良い。図3(下)では矩形領域として設定している。
【0032】
評価領域の中に複数の層(具体的には、外顆粒層と外境界膜層など)がある場合には、明るい層と暗い層のコントラスト差やSNRを用いた評価指標が考えられる。特徴量は、輝度値、輝度値分布などである。また過去の撮像画像の同じサイズ、場所の領域のヒストグラム形状からの乖離具合から画質評価を行う方法も考えられる。特徴量はヒストグラムであり、この場合、過去との画像の比較が出来るように、追尾機能や眼底カメラなどから撮像した部分を記憶する手段を用いて同じ部位を撮像する。さらに過去の画像の評価指標算出領域と同じ評価指標算出領域を設定し、ヒストグラムを比較する。過去のヒストグラムを参照ヒストグラムとして乖離具合を画質評価指標に用いれば良い。具体的には、ヒストグラムから累積ヒストグラムを求め、累積ヒストグラムの傾きを比較して指標化する方法が挙げられる。また、評価指標は上記評価指標の複合体であっても良く、各々独立した複数の評価指標についてこれらを用いることとしても良い。
【0033】
上記方法により、評価指標と特徴量から画質を評価する(ステップ106)。ステップ106における画質の評価は、PC220における画質評価手段として機能するプログラムモジュールにより実行される。その後、図2記載のPC220に被検者の識別情報および撮像画像および選択された評価指標および評価結果が保存される。全体から評価する評価指標と、網膜像の特定部分のみを評価対象にして評価領域によって画質評価指標を切り替える事により、より精度の高い画質評価を行う事ができる。
【0034】
(実施形態2)
実施形態2を図4から図6を用いて説明する。なお、以降の実施形態において、光干渉断層撮像装置は実施形態1と同じであるため、省略する。
【0035】
図4は被測定検体の測定方法としてノーマル撮像とEDI撮像について用いて説明した図である。ノーマル撮像とEDI撮像は、コヒーレンスゲートの位置401,405が被測定検体403、407の手前にあるか奥にあるかによって決定される。測定光学系のファイバカプラ201から被測定検体403、407までの距離(測定光学系距離)と参照光学系のファイバカプラ201から参照系反射ミラー206までの距離(参照光学系距離、参照光路長)を比較する。測定光学系距離が長い場合がノーマル撮像であり、参照光学系距離が長い場合がEDI撮像である。図4(左)はノーマル撮像であり、図4(右)はEDI撮像である。コヒーレンスゲートにおいて断層像は折り返される。その結果、像は重畳してしまう。重畳された像は分離する事は出来ないため、コヒーレンスゲートは被測定検体の中の見たい断層像から離れた場所に設定する必要がある。
【0036】
またFD−OCTにおいて、コヒーレンスゲートに近い方の感度が高いという特徴がある(ロールオフ特性)。OCTを用いて網膜を診断する臨床的観点から述べると、EDI撮像では脈絡膜など網膜下部領域を重点的に観察する際に主に使用される。ノーマル撮像は通常の撮像である。ノーマル撮像では脈絡膜404の下部領域が欠落してしまう。一方EDI撮像ではコヒーレンスゲートに近いため脈絡膜408がより広範囲に渡って画像化される。しかし、コヒーレンスゲートから遠い、網膜上部にあるNFL(視神経線維層)層やGCC(網膜神経節細胞複合体)層などの比較的明るい層がロールオフ効果によって引き起こされる感度低下によりノーマル撮像よりも暗く見えるという弱点がある。
【0037】
図5はノーマル撮像とEDI撮像で撮像した際の網膜部分のヒストグラムの代表例である。図5はEDI撮像の方が輝度値の低い値のピクセル数がノーマル撮像より多い事を示している。これは上記のように脈絡膜とNFL層、GCC層の見え方の違いに起因するものである。
【0038】
本実施形態では、撮像条件(ノーマル撮像とEDI撮像)によって画質評価指標を切り替える。図6を用いて説明する。本実施形態における撮像条件の設定は、ノーマル撮像かEDI撮像かの撮像方法の設定に対応する(ステップ601)。この場合、ノーマル撮像とEDI撮像との切換には前述した参照光路長の変更によるコヒーレンスゲートの変更を伴い、従って撮像条件には参照光路長の変更若しくは選択が含まれる。撮像条件の設定はユーザーによって行われる。例えばノーマル撮像では評価領域が網膜断層像全体であり、EDI撮像では脈絡膜部分である。
【0039】
以下にノーマル撮像とEDI撮像の画質評価指標選択(ステップ602、603)について述べる。ただし画質評価指標は本実施例記載に限定されるものではなく、撮像目的に適した様々な画質評価指標を導入する事が可能である。
ノーマル撮像では、評価領域が網膜像全体であるため画質評価指標1は実施形態1で用いたIQI1を用いる。
【0040】
一方、EDI撮像では、網膜断層像のうち脈絡膜を重点的に見るという目的のため、画質評価指標2(Image Quality Index 2:以下IQI2)として以下の指標を用いる。
IQI2=Cont×Skew(式3)
Skewはヒストグラム網膜部分の歪度を示すヒストグラム3次のモーメントである。Skewが高いほど断層像における網膜部分のヒストグラムの歪が大きい(正規分布から離れている)事を示す。暗い層である脈絡膜層がよく見えるほどヒストグラムは低輝度値が多くなるため、歪度が大きくなる。
【0041】
ノーマル撮像とEDI撮像で以上のように画質評価指標がPC220によって選択される。評価領域に応じた評価指標を複数の中から選択する場合には、ユーザーによって選択されるようにしても良い。その後、干渉信号を取得し(ステップ604)、PC220によって画像が形成される(ステップ605)。
【0042】
評価指標算出領域はノーマル撮像及びEDI撮像両方とも画像全体とする。EDI撮像において評価指標算出領域を脈絡膜の評価領域だけでなく全体に広げる事によって暗い領域のみに着目した評価を正確に行う事が出来る。得られた画像から、特徴量としてヒストグラムを取得し(ステップ606)、選択された画質評価指標(ステップ607)に応じてと上記ヒストグラムから画質の評価を行う(ステップ608、609)。画質評価指標を撮像目的に応じて切り替える事によって、より正確な診断に適用可能な画質評価を行う事が可能である。また他の撮像条件(例えばスキャンパターンや画像解像度や重ね合わせ枚数や撮像速度など)においても、撮像条件に応じて好適な画質評価指標に切り替えても良い。
【0043】
(実施形態3)
実施形態3に関して図7を用いて説明する。本実施形態は実施形態2をベースにしている。画質評価指標による評価結果を上げ、より良い画質にするため本実施例では画像評価指標と基準値を用いてOCTへのフィードバック構成を設ける。
【0044】
フィードバックは、画質評価指標が基準値を超えているかどうかによって判断し(ステップ710)、超えていない場合に実施する。ステップ710の条件において基準値を超えていない場合、干渉信号取得前に再調整(ステップ711)を行う。この操作は、PC220において再調整手段として機能する領域により実行される。ステップ711の再調整後、同様にステップ704からステップ706までの工程でPC220は画像を形成し、ヒストグラムを求める。その後、選択された画質評価指標(ステップ707)に応じて上記ヒストグラムから画質の評価を行う(ステップ708、709)。その後、ステップ710の画質評価指標による評価結果と基準値との比較までを行い、基準値を上回ったら終了となる。
【0045】
ノーマル撮像におけるIQI1が低い場合には、以下の原因が一例として考えられる。
・網膜断層像のコントラストが小さい
・コヒーレンスゲートの位置が網膜像から離れている
【0046】
よって、再調整として、フォーカス調整やコヒーレンスゲートのゲート位置の調整などを行う事で画質の評価をあげることが可能である。IQI1とフィードバック構成を用いる事により、網膜断層像全体の輝度値を明るくコントラストがつくようにする事が可能である。具体的に、網膜断層像の撮像がうまくいっていない時のヒストグラムは、ピーク値を中心として分布幅の狭い左右対称の分布となる。再調整として、フォーカス調整(図2の213の対物レンズの移動に相当)や反射率調整(ファイバコリメータ204と参照系反射ミラー206の間のNDフィルタなどの光減衰器(不図示)を調整)を行う事で、IQI1の主にContの部分の値が増加し、画質が向上すると共に画質評価指標IQI1の値も改善する。また、参照系ミラー206の位置を調整してコヒーレンスゲートの位置を網膜断層像の層の部分にかからない程度に近づける事で、ロールオフによる感度低下を防ぐことが出来る。なお、上記した操作は、図7においてステップ711の再調整を行う以前に、ステップ704の干渉信号取得までにある程度行う調整と同じであり、選択された画質評価指標および画質評価を考慮するための微調整である。
【0047】
結果としてコヒーレンスゲートに近い明るい層であるNFL層やGCC層が明るくなり、画質が向上すると共にContとTSRが改善する事によりIQI1の値が改善する。
【0048】
また脈絡膜層に着目したEDI撮像におけるIQI2が低い場合には、以下の原因が一例として考えられる
・網膜断層像のコントラストが小さい
・コヒーレンスゲートから脈絡膜層が離れている、もしくはコヒーレンスゲートが脈絡膜層にかかっているため、脈絡膜で折り返しが発生している
【0049】
よって、フィードバック構成として、フォーカス調整やコヒーレンスゲートのゲート位置の再調整を行う事で厚さや輝度分布などに関して脈絡膜層をより正確に見る事が可能である。脈絡膜を撮像する目的でのEDI撮像では、それに適した画質評価指標とフィードバック構成により脈絡膜層を精密に撮像する事が可能であり、その結果網膜断層像の画質があがる事になる。
【0050】
以上説明のように、本実施例によれば、更に、評価が低いと判断された場合、撮影条件に応じて適切な再調整を行うことができる。
【0051】
(その他の実施例)
また、本発明は、以下の処理を実行することによっても実現される。即ち、上述した実施形態の機能を実現するソフトウェア(プログラム)を、ネットワーク又は各種記憶媒体を介してシステム或いは装置に供給し、そのシステム或いは装置のコンピュータ(またはCPUやMPU等)がプログラムを読み出して実行する処理である。
【符号の説明】
【0052】
200:光源
201:ファイバカプラ
202:ファイバ
203:ファイバ
204:ファイバコリメータ
205:分散補償
206:参照系反射ミラー
207:電動ステージ
208:参照光
209:ファイバコリメータ
210:測定光
211:スキャナミラー
212:スキャナレンズ
213:対物レンズ
214:電動ステージ
215:被測定検体(眼)
216:スキャナコントローラ
217:ファイバ
218:分光器
219:光検出素子
220:PC
221:ステージコントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定光を照射した被測定検体からの戻り光と前記測定光に対応する参照光とを合波した光に基づいて前記被測定検体の断層画像を取得する光干渉断層撮像装置であって、
前記被測定検体の断層画像の撮像条件を設定する撮像条件設定手段と、
前記撮像条件に応じて画質評価指標を選択する評価指標選択手段と、
前記撮像条件に応じて前記断層画像から特徴量を取得する特徴量取得手段と、
前記特徴量と前記画質評価指標とに基づいて前記断層画像の画質を評価する画質評価手段と、
を有することを特徴とする光干渉断層撮像装置。
【請求項2】
前記画質評価手段による前記画質の評価の結果に基づいて、前記画像の撮像の再調整を行う再調整手段を更に有する事を特徴とする前記請求項1に記載の光干渉断層撮像装置。
【請求項3】
前記特徴量が、前記断層画像の信号値の出現頻度であるヒストグラムに基づく値であることを特徴とする請求項1または2に記載の光干渉断層撮像装置。
【請求項4】
前記評価指標が複数の評価指標を含む事を特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の光干渉断層撮像装置。
【請求項5】
前記撮像条件に基づき、評価領域を設定する設定手段を更に有し、
前記設定された評価領域から前記特徴量が抽出される事を特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の光干渉断層撮像装置。
【請求項6】
前記撮像条件が、参照光路長の選択を含む事を特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の光干渉断層撮像装置。
【請求項7】
前記撮像条件が、撮像画像全体または一部の評価の選択を含む事を特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の光干渉断層撮像装置。
【請求項8】
光源から出射された光を参照光と測定光に分割し、前記測定光を被測定検体に照射し、その戻り光と前記参照光とを干渉させ、前記被測定検体の画像を取得する光干渉断層撮像方法であって、
画像の撮像条件を設定する工程と、
前記撮像条件に応じて画質評価指標を選択する工程と、
前記設定された撮像条件に応じて撮像された画像から特徴量を取得する工程と、
前記特徴量と前記画質評価指標に基づいて、前記画像の画質を評価する工程とを有する事を特徴とする光干渉断層撮像方法。
【請求項9】
請求項8に記載の光干渉断層撮像方法をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項10】
請求項8に記載の光干渉断層撮像方法を実行させるためのコンピュータプログラムを記憶した記憶媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−9798(P2013−9798A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−143919(P2011−143919)
【出願日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】