説明

光強度測定装置及びその製造方法

【課題】測定波長範囲及びダイナミックレンジが狭かった。
【解決手段】光吸収体材料としてのグラファイト基板の表面にナノオーダの凹凸構造を加工する(ステップ101)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光強度測定装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光強度測定装置はたとえば遠赤外光検出器、レーザパワーメータ、照度計、輝度計等として用いられる。
【0003】
第1の従来の光強度測定装置として、測定波長が広帯域のサーモパイルボロメータ、サーミスタボロメータ、焦電型ボロメータがある。この光強度測定装置は、測定したい波長の光が照射される受光面を有する光吸収体と、光吸収によって生じる光吸収体の温度上昇を電気信号に変換する熱電対、サーミスタ、焦電センサ等の感熱素子とを備え、この電気信号を測定することにより光強度を測定する(参照:特許文献1)。光吸収体たとえば感熱素子の表面にカーボンブラックの微粒子を塗布することにより形成される。
【0004】
他方、第2の従来の光強度測定装置として、フォトダイオードと呼ばれる半導体光検出器がある。たとえば、0.2-1.1μmの光に対してはSi半導体を用い、1-10μmの光に対してはHgCdTe半導体を用い、バンドギャップ以上のエネルギーを有する光照射により発生する光起電力を測定することにより光強度を測定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭59−79128号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の第1の従来の光強度測定装置においては、カーボンブラックの光吸収率はそれほど高くなく、つまり反射率は低くない。たとえば、可視光を含む領域の波長0.3-2μmの反射率は5%程度であり、遠赤外領域の波長10-20μmの反射率は20-30%と高い。従って、光強度測定装置の能力が低いという課題がある。また、カーボンブラックと感熱素子との間での熱伝導が悪いので、光強度測定装置の応答速度がたとえば0.1s程度低く、また、感熱素子の温度も十分に上がらず、μW領域の低強度光を測定することは困難であるという課題もある。さらに、カーボンブラックと感熱素子との密着性が悪いので、高強度光を照射すると、カーボンブラックの温度が上昇し、カーボンブラックが燃焼消失してしまうという課題もある。
【0007】
他方、上述の第2の従来の光強度測定装置においては、上述の第1の従来の光強度測定装置に比較して感度及び応答速度の点で優れているが、測定波長に応じて複数の半導体検出器たとえば0.2-1.1μmの光に対してSi半導体検出器、1-10μmの光に対してはHgCdTe半導体検出器を必要とし、たとえば太陽光のような広帯域の波長の光強度測定は困難であるという課題がある。また、遠赤外領域の長波長の光を測定するたとえばHgCdTe半導体の狭ギャップ半導体検出器はペルチェ素子等の冷却を必要とするので、装置コストが高くなるという課題もある。さらに、上述の第1の従来の光強度測定装置に比較して高強度光を照射すると、半導体が破壊されるという課題もある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の課題を解決するために、本発明に係る光強度測定装置は、表面にナノオーダの凹凸構造を形成した炭素系基板を光吸収体として具備する。これにより、可視光を含む領域の波長0.3-2μmの反射率を低くすると共に、遠赤外領域の例えば波長2-50μmの反射率も低くする。
【0009】
また、本発明に係る光強度測定装置の製造方法は、光吸収体としての炭素系基板の表面にナノオーダの凹凸構造を加工する工程を具備する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、可視光を含む領域及び遠赤外領域の反射率が低くなるので、光吸収体の理想的な吸収スペクトルを実現できる。従って、光強度測定装置の測定波長範囲及びダイナミックレンジを広くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る光吸収体としてのグラファイト基板のナノ凹凸構造の加工フローを示すフローチャートである。
【図2】図1のプラズマエッチング前後のグラファイト基板の表面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図3】図1のプラズマエッチング前後のグラファイト基板の表面の波長0.3-2μmの反射率を示すグラフである。
【図4】図1のプラズマエッチング前後のグラファイト基板の表面の波長2-15μmの反射率を示すグラフである。
【図5】図1のフローの変更例を示すフローチャートである。
【図6】図1もしくは図5のフローチャートにより形成された炭素系基板を用いた本発明に係る光強度測定装置の実施の形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る光吸収体の動作原理は完全黒体効果を利用した吸収エネルギーの光吸収作用を利用する。すなわち、光の平均反射率が高い時には、光吸収効率が低い。他方、光の平均反射率が低い時には、光吸収効率が高い。つまり、反射率Rが低下すると、放射率Iが上昇し、逆に、反射率Rが上昇すると、放射率Iが低下するという関係が成立する。この場合、光放熱つまり光放射能力を示す指数として放射率を用いるが、光の透過率がほぼ0の場合、放射率I≒1-R(反射率)で表わされる。
【0013】
従って、理想的には、光吸収体としてたとえば波長0.3-50μmの反射率Rができるだけ0に近いものを用いると、光吸収効率が大きくなることが分かる。
【0014】
図1は本発明に係る光吸収体としてのグラファイト基板のナノ凹凸構造の加工フローを示すフローチャートである。
【0015】
図1のステップ101において、図1の(A)に示す鏡面状表面を有するグラファイト基板を水素ガスを用いたプラズマエッチング法によってエッチングして図1の(B)に示すナノオーダの凹凸構造のグラファイト基板を得る。このプラズマエッチング条件は、たとえば、次のごとくである。
RFパワー:100-1000W
圧力:133-13300Pa (1-100Torr)
水素流量:5-500sccm
エッチング時間:1-100分
【0016】
尚、図1のステップ101でのプラズマエッチング法は、電子サイクロトロン共鳴(ECR)エッチング法、反応性イオンエッチング(RIE)法、大気圧プラズマエッチング法等のいずれでもよく、また、処理ガスは、H2ガス以外のArガス、N2ガス、O2ガス、CF4ガス等のいずれでもよい。
【0017】
従って、図3に示すように、可視光を含む領域の波長0.3-2μmの平均反射率はプラズマエッチング前の20-30%からプラズマエッチング後の1%以下と低くなる。この結果、可視光を含む領域の吸収は最高となる。しかも、図4に示すように、遠赤外領域のたとえば波長2-15μmの平均反射率もプラズマエッチング前の50%からプラズマエッチング後の3%以下と低くなる。この結果、このプラズマエッチングされたグラファイト基板をそのまま光吸収体として用いることができる。
【0018】
図5は図1のフローの変更例を示し、図1のプラズマエッチングステップ101の前にステップ501において、サンドブラスト等の機械的表面研磨による不規則的周期のミクロン(サブミクロン)機械的凹凸構造加工を行う。また、図1のプラズマエッチングステップ101の後にステップ502において、CO2レーザ、YAGレーザ、エキシマレーザ等のハイパワーレーザ照射による表面研磨による不規則的周期のミクロン(サブミクロン)レーザ照射凹凸構造加工を行う。尚、ステップ501、502は両方を行ってもよいが、いずれか一方のみを行えばよい。この場合、小さいナノオーダの凹凸のほうが壊れやすいためにステップ501を行うことが好ましい。これにより、不規則的周期のたとえばミクロンオーダ、サブミクロンオーダの凹凸構造を形成する。従って、グラファイト基板の表面積が増大して光吸収率が高くなる。
【0019】
また、図5の不規則的周期のミクロン(サブミクロン)機械的凹凸構造加工ステップ501において、グラファイト基板の表面に不規則的周期のミクロンオーダもしくはサブミクロンオーダの凹構造を多数形成して表面積を増大させてもよい。たとえば、レジスト層を塗布し、次いで、不規則的周期パターンを有するフォトマスクを用いたフォトリソグラフィによりレジスト層のパターンを形成し、このレジスト層のパターンを用いてグラファイト基板をH2ガス及びO2ガスを用いたプラズマエッチングたとえばRIEを行い、その後、レジスト層のパターンを除去する。また、機械的ルーリングエンジン等を用いた切削方法によって不規則的周期のミクロンオーダあるいはサブミクロンオーダの剣山型凹凸構造を形成して表面積を増大させることもできる。この剣山型凹凸構造はエッチングで逆剣山型の金型を形成し、これに液体状のグラファイト材料、例えばカーボンブラック等を流し込んでも形成できる。
【0020】
ここで、規則的周期のミクロンオーダあるいはサブミクロンオーダの凹凸構造は2次元フォトニック結晶的効果を起こし、遠赤外領域の反射率を高めるので、放熱率が低くなる逆効果となり、反射分布特性に干渉パターンを生じるようになり、光吸収率の波長に対する平坦性が損なわれるようになるので、好ましくない。
【0021】
また、図3における波長0.3-2μmの反射率の測定はBaSO4粒子等を内面にコートした積分球を有する分光光度計によって行われ、他方、図4におけるたとえば波長2-15μmの反射率の測定は遠赤外反射光をすべて集光するために金を内面にコートした積分球を有するフーリエ変換赤外(FTIR)分光器によって行われる。
【0022】
尚、上述のグラファイト基板に金属を混ぜて稠密グラファイト基板とすることができる。これにより、稠密グラファイト基板の靭性は大きいので、光吸収体としての加工性、感熱素子との密着性が向上し、感熱素子と光吸収体との間の空隙がなくなる。また、感熱素子と光吸収体との間で絶縁性が要求される場合には、光吸収体として絶縁性グラファイト、またはグラファイトと絶縁性セラミックスの複合材料を用いる。
【0023】
また、上述の実施の形態では、グラファイト基板を用いたが、グラファイト基板以外の炭素系基板たとえば、ダイヤモンド基板表面をプラズマエッチングして反射率を低減させた基板を用いてもよい。
【0024】
図6は図1もしくは図5のフローチャートにより加工された炭素系基板を光吸収体として用いた本発明に係る光強度測定装置の実施の形態を示す図である。図6の光強度測定装置は、光吸収面が炭素系基板と一体に形成された光吸収体601と、光吸収体601の光吸収面と反対面に耐熱性接着剤(図示せず)によって結合されたBaTiO3、LiNbO3等の焦電素子よりなり、光起電力Evを発生する感熱素子602とから構成されている。この場合、光吸収体601の光吸収面と感熱素子602との間の熱伝導が良く、応答速度が0.01s以下と速いので、光吸収体601から感熱素子602への温度伝達が十分に行えるので、パルス尖頭値においてnW領域からGW領域の低強度から高強度の光の拾出を行うことができる。また、高強度の光照射によっても光吸収体601の燃焼、消失は起こらない。
【0025】
次に、図6の光強度測定装置の熱プロセスについて考察する。図6において、単位時間当りのエネルギーWinが光吸収体601に入射されると、次の関係が生ずる。
Win = E1 + E2 + E3 (1)
但し、E1は空気中の対流により単位時間当り失う対流エネルギーであって、
E1 = ηA(T-T0)
で表わされ、E2は輻射により単位時間当り失う輻射エネルギーであって、
E2 = σA(T4-T04)
で表わされ、E3は感熱素子602に伝達される単位時間当りの伝達エネルギーであって、
E3 = κA∂T/∂x
で表わされる。ここで、
T0は室温で300K
κは光吸収体601の熱伝導率で230W/mK
Aは光吸収体601の面積で1×10-4m2
ηは対流による熱伝達係数で、たとえば約1W/m2K
σはステファンボルツマン定数で5.67×10-8W/K4m2
dは光吸収体601の厚さで1×10-3m
Tは光吸収体601の表面温度
とする。従って、(1)式は(2)式となる。
-κA∂T/∂x = ηA(T-T0) + σA(T4-T04) - Win (2)
光吸収体601の厚さdは1mmと小さく、また、感熱素子602の温度TDは室温T0とすれば、(2)式は次の4次方程式の(3)式となる。
-κA(T-T0)/d = ηA(T-T0) + σA(T4-T04) - Win (3)
(3)式において、各項の熱損失を評価してみると、
κA(T-T0)/d ≫ ηA(T-T0) + σA(T4-T04)
となるので、(3)式は(4)式で表わせる。
κA(T-T0)/d = Win (4)
つまり、入射エネルギーWinのほとんどは感熱素子602に運び込まれることになる。ところで、感熱素子602の感度は約104V/Wであり、一般的なS/N比より読み取り可能な電圧値を1μVとすると、これに対応する光強度は100pW(10-10W)という、非常に低強度となる。従って、非常に低強度の光を測定することが可能となる。
【0026】
尚、本発明においては、ナノオーダは10〜500nm、サブミクロンオーダは0.2〜1μm程度を想定している。
【符号の説明】
【0027】
101:ナノ凹凸構造加工ステップ
501:不規則的周期のミクロン(サブミクロン)機械的凹凸構造加工ステップ
502:不規則的周期のミクロン(サブミクロン)レーザ照射凹凸構造加工ステップ
601:光吸収体(炭素系基板)
602:感熱素子


【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面にナノオーダの第1の凹凸構造を形成した炭素系基板を光吸収体材料として具備する光強度測定装置。
【請求項2】
前記第1の凹凸構造は、該第1の凹凸構造のサイズより大きい不規則的周期の第2の凹凸構造上に形成されている請求項1に記載の黒体放射光源。
【請求項3】
前記第2の凹凸構造のサイズがサブミクロンオーダ以上である請求項2に記載の光強度測定装置。
【請求項4】
前記第2の凹凸構造が前記炭素系基板の表面に設けられた剣山構造である請求項2に記載の光強度測定装置。
【請求項5】
さらに、
前記炭素系基板の前記第1の凹凸構造の反対面に結合された感熱素子を具備する請求項1に記載の光強度測定装置。
【請求項6】
光吸収体材料としての炭素系基板の表面をナノオーダの第1の凹凸構造に加工する工程を具備する光強度測定装置の製造方法。
【請求項7】
さらに、前記第1の凹凸構造のサイズより大きい不規則的周期の第2の凹凸構造を前記炭素系基板の表面に加工する工程を具備する請求項6に記載の光強度測定装置の製造方法。
【請求項8】
前記第2の凹凸構造のサイズがサブミクロンオーダ以上である請求項7に記載の光強度測定装置の製造方法。
【請求項9】
前記第1の凹凸構造加工工程がプラズマエッチング工程である請求項6に記載の光強度測定装置の製造方法。
【請求項10】
前記第2の凹凸構造加工工程が、
前記不規則的周期のパターンを有するフォトレジスト層を形成するフォトリソグラフィ工程と、
該フォトレジスト層を用いて前記炭素系基板の表面に前記凹みを形成するエッチング工程と、
該凹みの形成後に前記フォトレジスト層を除去する工程と
を具備する請求項7に記載の光強度測定装置の製造方法。
【請求項11】
前記第2の凹凸構造が前記炭素系基板の表面に設けられた剣山構造である請求項7に記載の光強度測定装置の製造方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−133239(P2011−133239A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−290344(P2009−290344)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】