説明

光強度計測装置

【課題】より大きなダイナミックレンジかつ実用的な精度で物体との相互作用によって生じる光の強度を測定することが可能な光強度計測装置を提供することである。
【解決手段】光強度計測装置は、照射系、計測系及び減光フィルタを備えている。照射系は、被検物体に照射光を照射する。計測系は、照射光と被検物体との相互作用によって生じた光の強度の計測を行う。減光フィルタは、照射光及び相互作用によって生じた光の少なくとも一方を互いに異なる複数の減光率で減光する。計測系は、光の計測に先だってフォトンカウンタを用いて複数の減光率で減光された光を構成する光子をそれぞれ計数し、光子の計数結果に基づいて求められた減光率の校正値に基づいて、複数の減光率で減光されていない場合又は同一の減光率で減光された場合において相互作用によって生じる光の強度を求めるように構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光強度計測装置及び光強度計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、散乱光の強度を計測することによって、様々な物理量が観測されている。散乱光の代表的な計測方法としては、フォトンカウント法(光子計数法)とアナログ計測法が知られている。フォトンカウント法は、単位時間当たりの光に応じて発生する光子のパルス数を1つずつ計数することで光強度を計測する手法である。このため、フォトンカウント法は、主に微弱な光の観測に用いられる。一方、アナログ計測法は、受信光のレベルを電気信号に変換して直接計測する光強度の計測手法である。このため、アナログ計測法は、比較的強度が大きい光の観測に用いられる。
【0003】
例えば、大気やエアロゾルからの散乱光を受光して上空の環境を計測する計測装置が知られている。特に、大気からの散乱光を受光する検出装置として、フォトンカウント法とアナログ計測動作とを切換えることにより、受信できない範囲を低減させて精度の高い計測を行うことができるようにしたものが提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
また、物体表面からの散乱光の角度分布を計測することによって、物体表面の研磨粗さや微細な構造を評価する方法が知られている。例えば、光学ガラスの表面に光を照射した場合、研磨面や反射防止膜等の表面の粗さ応じた散乱光が発生する。このため、散乱光の強度の角度分布等の特性を計測することにより、表面粗さを評価することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−178852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年では、微細加工技術や表面研磨技術の進展に伴って、物体表面の構造の微細化や鏡面度の増加が進んでいる。構造が微細な物体表面や鏡面度が高い物体表面からは、非常に微弱な散乱光が生じる。従って、微弱な散乱光の強度を検出することが可能な光強度検出法が必要となる。この点、フォトンカウント法は、非常に微弱な強度を有する散乱光であっても高感度に検出することができる。
【0007】
しかしながら、反射角が低角度となる散乱光の強度は、反射角が大きい高角度の散乱光の強度に比べて桁違いに大きい。このため、低角度の散乱光の強度は、フォトンカウント法ではダイナミックレンジが飽和状態となり計数するこができない場合がある。逆に、アナログ計測法では、高角度からの微弱な散乱光の強度を検出することが困難である。
【0008】
このような背景からより大きなダイナミックレンジでより広い角度範囲に亘る散乱光の強度を計測する技術の開発が望まれる。これは、散乱光のみならず、反射光や透過光のように物体との相互作用によって生じる光を計測する場合において共通の課題である。
【0009】
本発明は、より大きなダイナミックレンジかつ実用的な精度で、物体との相互作用によって生じる光の強度を測定することが可能な光強度計測装置及び光強度計測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る光強度計測装置は、照射系、計測系及び減光フィルタを備えている。照射系は、被検物体に照射光を照射する。計測系は、前記照射光と前記被検物体との相互作用によって生じた光の強度の計測を行う。減光フィルタは、前記照射光及び前記相互作用によって生じた光の少なくとも一方を互いに異なる複数の減光率で減光する。更に、計測系は、前記相互作用によって生じた光の計測に先だってフォトンカウンタを用いて前記複数の減光率で減光された光を構成する光子をそれぞれ計数し、前記光子の計数結果に基づいて求められた前記複数の減光率の校正値に基づいて、前記照射光及び前記相互作用によって生じた光のいずれも前記複数の減光率で減光されていない場合又は前記照射光及び前記相互作用によって生じた光の少なくとも一方が同一の減光率で減光された場合において前記相互作用によって生じる光の強度を求めるように構成される。
【0011】
また、本発明に係る光強度計測方法は、被検物体に照射光を照射するステップと、前記照射光と前記被検物体との相互作用によって生じた光の強度の計測を行うステップと、前記照射光及び前記相互作用によって生じた光の少なくとも一方を互いに異なる複数の減光率で減光するステップとを有する。そして、前記相互作用によって生じた光の計測に先だってフォトンカウンタを用いて前記複数の減光率で減光された光を構成する光子をそれぞれ計数し、前記光子の計数結果に基づいて求められた前記複数の減光率の校正値に基づいて、前記照射光及び前記相互作用によって生じた光のいずれも前記複数の減光率で減光されていない場合又は前記照射光及び前記相互作用によって生じた光の少なくとも一方が同一の減光率で減光された場合において前記相互作用によって生じる光の強度を求める。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る光強度計測装置及び光強度計測方法によれば、より大きなダイナミックレンジかつ実用的な精度で物体との相互作用によって生じる光の強度を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係る光強度計測装置の構成を示す上面図。
【図2】図1に示す被検物体及び試料ステージの側面図。
【図3】図1に示す可変減光フィルタの正面図。
【図4】連続的に減光率を変化させることが可能な可変減光フィルタの一例を示す正面図。
【図5】連続的に減光率を変化させることが可能な可変減光フィルタの別の一例を示す正面図。
【図6】図1に示す可変減光フィルタの減光率の設計値と校正値とを比較した例を示す図。
【図7】図1に示す光強度計測装置の実効的なダイナミックレンジを示す模式図。
【図8】図1に示す光強度計測装置の第1の変形例を示す上面図。
【図9】図1に示す光強度計測装置の第2の変形例を示す上面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態に係る光強度計測装置及び光強度計測方法について添付図面を参照して説明する。
【0015】
(構成および機能)
図1は本発明の実施形態に係る光強度計測装置の構成を示す上面図であり、図2は図1に示す被検物体及び試料ステージの側面図である。
【0016】
光強度計測装置1は互いに異なる複数の減光率で減光した光を被検物体Oの検査面に照射することによってそれぞれ透過光として生じた散乱光の強度を角度分解して計測する装置である。そのために、光強度計測装置1は、被検物体Oを設置するための試料ステージ2、試料ステージ2に設置された被検物体Oに光を照射する照射系3及び被検物体Oからの散乱光の強度を計測する計測系4を有する。
【0017】
照射系3は、光源5、ポラライザ(光偏光子)6、可変減光(ND: Neutral Density)フィルタ7及びアイリス(絞り)8を用いて構成することができる。光源5の出力側にはシングルモード光ファイバ9の一端が接続される。シングルモード光ファイバ9の他端からは、試料ステージ2に設置された被検物体Oに向けて直線的な照射光の光路L1が形成される。この直線状の照射光の光路L1上には、順にポラライザ6、可変減光フィルタ7及びアイリス8が配置される。
【0018】
一方、計測系4は、回転ステージ10、第1のピンホール11、第2のピンホール12、対物レンズ13、暗箱14、フォトンカウンタ(光子計数方式光検出器)15、アナログ式光強度測定器16及びコンピュータ17を用いて構成することができる。
【0019】
回転ステージ10は、被検物体O又は試料ステージ2を中心として水平方向に回転する回転機構を具備した板状の部品である。回転ステージ10の上には、順に第1のピンホール11、第2のピンホール12及び対物レンズ13が直線上に固定されている。また、第1のピンホール11、第2のピンホール12及び対物レンズ13は暗箱14で覆われる。
【0020】
このため、被検物体Oを透過して生じた散乱光のうち、特定の角度に生じた散乱光の光路L2が第1のピンホール11、第2のピンホール12及び対物レンズ13を経由して直線状に形成される。そして、回転ステージ10を回転させることにより、被検物体Oを透過して特定の角度に生じた散乱光を対物レンズ13に入射させることができる。
【0021】
更に、対物レンズ13は、暗箱14を貫通する光ファイバ18を介してフォトンカウンタ15と接続されている。このフォトンカウンタ15は、光ファイバ18と着脱可能に接続され、アナログ式光強度測定器16と交換することができる。フォトンカウンタ15及びアナログ式光強度測定器16の出力側には、コンピュータ17が接続される。
【0022】
次に、光強度計測装置1の各構成要素の機能について詳述する。
【0023】
光源5は、例えば波長λ=635nmのレーザ光を発光するレーザダイオード等のレーザ光源で構成することができる。ポラライザ6は、光源5から照射されたレーザ光から直線偏光を得るための光学素子である。
【0024】
可変減光フィルタ7は、互いに異なる減光率(透過率)で光の強度を減少させることが可能な光学素子である。
【0025】
図3は、図1に示す可変減光フィルタ7の正面図である。
【0026】
図1及び図3に示すように、可変減光フィルタ7は、互いに異なる減光率を有する複数の減光フィルタ19を移動機構20に固定して構成することができる。一般的な減光フィルタは、灰色または黒色であり、濃度に応じた減光率を有する。
【0027】
移動機構20はコンピュータ17と接続される。そして、移動機構20は、コンピュータ17からの制御信号に従って各減光フィルタ19を照射光の光路L1上に配置又は照射光の光路L1上から退避させる機能を有する。
【0028】
図1及び図3は、リング状の取付部を固定した回転軸を移動機構20とし、複数の円盤状の減光フィルタ19を取付部に略等間隔で円上に設けた例を示している。図1及び図3に示す構成例に限らず、ライン上に並べた複数の減光フィルタを平行移動させるスライド機構を移動機構20としてもよい。
【0029】
そして、可変減光フィルタ7は、移動機構20によって照射光の光路L1上に配置される減光フィルタ19を変えることで、減光率を段階的に変化させることができるように構成される。また、減光率を段階的に変化させずに連続的に変化させることが可能な可変減光フィルタ7を照射系3に設けてもよい。
【0030】
図4は、連続的に減光率を変化させることが可能な可変減光フィルタの一例を示す図である。
【0031】
図4に示すように、円周方向に徐々に減光率が変化するリング状の減光フィルタ19Aを、回転軸を有する移動機構20Aに固定することによって可変減光フィルタ7Aを構成することができる。この可変減光フィルタ7Aでは、照射光の光路L1を横切る減光フィルタ19Aの位置を、移動機構20Aの回転によって変えることで、減光率を変化させることができる。
【0032】
図5は、連続的に減光率を変化させることが可能な可変減光フィルタの別の一例を示す正面図である。
【0033】
また、図5に示すように、長手方向に徐々に減光率が変化する帯状の減光フィルタ19Bを、長手方向にスライドさせる移動機構20Bに固定することによっても可変減光フィルタ7Bを構成することができる。この可変減光フィルタ7Bでは、照射光の光路L1を横切る減光フィルタ19Bの位置を、移動機構20Bのスライドによって変えることで、減光率を変化させることができる。
【0034】
可変減光フィルタ7の後段に設けられるアイリス8は、被検物体Oにおける光の照射領域の大きさを調節する光学素子である。
【0035】
第1のピンホール11及び第2のピンホール12には、例えば直径φ=200[μm]の穴を有するものが用いられる。第1のピンホール11及び第2のピンホール12の設置によって、散乱光の検出領域を所定の範囲に限定することができる。このため所望の微小領域の散乱特性を計測することが可能となる。尚、第1及び第2の2つのピンホール11、12を設けることによって、直進する散乱光を選択的に対物レンズ13に入射させることができる。
【0036】
対物レンズ13は、散乱光を絞って光ファイバ18に入射させるための光学素子である。
【0037】
フォトンカウンタ15は、光ファイバ18から出力される単位時間当たりの光子の数を計数することによって、非常に微弱な強度を有する散乱光を高感度に検出することが可能な検出器である。一方、アナログ式光強度測定器16は、受光した光を、光のエネルギに比例した電流に変換することによって光の強度を計測する装置である。
【0038】
コンピュータ17は、光強度計測装置1の計測モードにおける動作と、校正モードにおける動作とを切換えて実行する機能を有している。計測モードは、被検物体Oからの角度分解された散乱光の強度を、散乱光の角度を変えながら順次計測することによって、散乱光の角度分布を取得するモードである。一方、校正モードは、可変減光フィルタ7の減光率を含む照射系3の特性値の校正値を求めるモードである。従って、校正モードは、散乱光の強度の計測を行う計測モードに先だって定期的又は計測の度に実施される。
【0039】
そのために、コンピュータ17の演算装置にはプログラムが読み込まれ、コンピュータ17は、減光率制御部21、特性値測定部22及び光強度測定部23として機能する。尚、必要に応じてコンピュータ17に回路を接続してもよい。
【0040】
減光率制御部21は、可変減光フィルタ7の移動機構20に制御信号を与えることによって可変減光フィルタ7の減光率及び各減光率での光強度の計測時間を制御する機能と、可変減光フィルタ7の減光率及び計測時間の制御値を特性値測定部22及び光強度測定部23に与える機能とを有する。
【0041】
特に、減光率制御部21は、フォトンカウンタ15が光の強度の検出器として光ファイバ18に接続されている場合において、フォトンカウンタ15に入射する光の強度が少なくともフォトンカウンタ15で検出可能な強度まで減衰するように可変減光フィルタ7の減光率を調整する機能を備えている。フォトンカウンタ15では、1秒当たりに入射する光子の数が概ね1,000,000個以下であれば、光子の数を計数することができる。
【0042】
従って、被検物体Oからの散乱光の強度の角度分布を計測する計測モードでは、被検物体Oからの強度が大きい散乱光の光子数をフォトンカウンタ15で計数できるように、角度分解された散乱光の強度に応じて可変減光フィルタ7の減光率及び計測時間が減光率制御部21によりフィードバック制御される。
【0043】
一方、照射系3の特性値を校正する校正モードでは、照射系3から照射された光の光子数をフォトンカウンタ15で計数できるように可変減光フィルタ7の減光率及び計測時間が減光率制御部21により制御される。尚、校正モードでは、照射系3から照射される光の光子数が取り得る範囲を概ね予測できるため、光の強度を計測しなくても、予測される光子数の範囲に応じて可変減光フィルタ7の減光率及び計測時間を制御することができる。但し、照射系3から照射された光の強度に応じて可変減光フィルタ7の減光率及び計測時間をフィードバック制御するようにしてもよい。
【0044】
尚、減光率及び各減光率での光強度の計測時間の制御値は、適切な減光率及び計測時間の特定情報として光強度測定部23又は特性値測定部22から減光率制御部21に与えられる。
【0045】
特性値測定部22は、校正モードにおいてフォトンカウンタ15から出力された光子の計数結果に基づいて、可変減光フィルタ7の減光率や光源5から照射される光の強度の出力値等の照射系3における特性値を測定する機能と、測定した特性値を校正値として光強度測定部23に通知する機能とを有する。
【0046】
例えば、可変減光フィルタ7の各減光率の設計値に対応してフォトンカウンタ15から出力された減光後の光子の計数結果に基づいて可変減光フィルタ7を構成する各減光フィルタ19の実際の減光率を測定することができる。すなわち、各減光フィルタ19を照射光の光路L1上に配置した場合にフォトンカウンタ15において検出される光子のカウント数と、いずれの減光フィルタ19も照射光の光路L1上に配置しない場合にフォトンカウンタ15において検出される光子のカウント数との比として各減光率の校正値をそれぞれ計算することができる。
【0047】
図6は、図1に示す可変減光フィルタ7の減光率の設計値と校正値とを比較した例を示す図である。
【0048】
図6の左欄に示すように、減光率を10%, 1%, 0.1%, 0.01%, 0.001%, 0.0001%の6つの値に可変設定できる可変減光フィルタ7の実際の減光率をコンピュータ17の特性値測定部22において測定した。すなわち、フォトンカウンタ15を用いて各減光率でそれぞれ減光された光を構成する光子を計数し、減光されていない光の光子数との比として減光率の校正値を図6の右欄に示すように算出した。
【0049】
ここで、フォトンカウンタ15におけるSN (signal to noise)比は式(1)で表される。
SN = Np(t)1/2/(Np+2Nd)1/2 (1)
但し、式(1)において、Npは検出された光子のカウント数、Ndは光子の未入力時に起こるカウント数(ダークカウント数)、tは計測時間である。
【0050】
式(1)に示すようにフォトンカウンタ15のSN比は、計測時間の2乗根に比例して増加することが分かる。従って、フォトンカウンタ15による計測時間を長く設定することにより、SN比の高い光強度の測定を行うことができる。
【0051】
但し、可変減光フィルタ7を構成する各減光フィルタ19の減光率の校正値をより高精度に求めるためには、異なる減光率間においてSN比を一定にすることが望ましい。そこで、異なる減光率間において式(1)で表されるSN比が一定となるように、計測時間tを適切な時間に調整することが好適である。
【0052】
そこで、特性値測定部22は、異なる減光率間においてSN比が一定となるように調整された各計測時間tで光子が計数されるように、各減光率に対応する適切な光強度の計測時間tの特定情報を減光率制御部21に通知するように構成される。図6の右欄に示す校正値は、SN比が異なる減光率間において一定となるように調整された各計測時間tでフォトンカウンタ15により光子を計数することによって算出した値である。
【0053】
図6の右欄に示すように、可変減光フィルタ7の減光率の校正値には、各減光フィルタ19に固有な特性の差、各減光フィルタ19の光の進行方向に対する僅かな傾斜、各減光フィルタ19への光の入射位置等の条件に応じたばらつきが存在することが確認できる。従って、減光率の校正値を用いて被検物体Oからの散乱光の強度を計測する計測モードを実行することにより、実用的な精度で散乱光の強度の角度分布を求めることが可能となる。
【0054】
尚、図4及び図5に示すような減光率を連続的に変化させることが可能な可変減光フィルタ7A、7Bを照射系3に設けた場合には、上述の方法により、可変減光フィルタ7A、7Bの所望のサンプリング位置における複数の減光率の校正値を求めることができる。
【0055】
また、減光率の他、光源5から照射される光の強度の出力値の校正値を特性値測定部22において求めることもできる。すなわち、光源5の製造誤差や経年変化によって光源5の実際の出力値と設計値とが無視できない程度に異なる可能性がある。
【0056】
そこで、可変減光フィルタ7の減光率をフォトンカウンタ15により光子を計数することが可能となるような減光率に固定し、照射系3から照射される光の減光後の強度をフォトンカウンタ15で計測することにより、高精度に光源5の実際の出力値を取得することができる。具体的には、減光率の逆数を照射系3からの光子の計数値に乗じることによって、照射系3に備えられる光源5の出力値の校正値を求めることができる。
【0057】
更に、同様な方法で、校正対象とならない光学素子の特性値等の条件を一定にすることによって、校正対象となる光学素子の特性値の校正値をフォトンカウンタ15による光子の計数値に基づいて求めることができる。
【0058】
光強度測定部23は、計測モードにおいて、可変減光フィルタ7で減光された光を被検物体Oに照射することによって生じた散乱光の強度の測定値をフォトンカウンタ15又はアナログ式光強度測定器16から取得する一方、散乱光の強度の測定値に基づいて減光率制御部21にフィードバック制御のための適切な減光率の特定情報を与える機能を有する。
【0059】
計測モードでは、可変減光フィルタ7の減光率に対応する散乱光の強度を測定することが可能であれば、フォトンカウンタ15及びアナログ式光強度測定器16のいずれを用いてもよい。散乱光の強度は通常微弱であり、比較的強度が大きい散乱光であっても可変減光フィルタ7によって所定の範囲の強度を有する散乱光に減光できる。このため、フォトンカウンタ15を用いれば確実に角度分解された散乱光の強度を角度ごとに計測することができる。
【0060】
但し、観測対象となる散乱光の強度が十分に大きい場合には、アナログ式光強度測定器16を用いて散乱光の強度を計測することにより、フォトンカウンタ15を用いる場合に比べて計測時間を短縮することができる。従って、フォトンカウンタ15及びアナログ式光強度測定器16の双方を用いて可変減光フィルタ7による減光後における散乱光の強度を強度範囲別に計測するようにしてもよい。
【0061】
また、減光率制御部21にフィードバック制御のために与える適切な減光率は、散乱光の強度の測定値に基づいて光強度測定部23において自動的に決定することができる。具体例としては、予め減光を行わない場合における散乱光の強度に閾値を設定して散乱光の強度範囲を複数の範囲に分割し、各強度範囲における散乱光の強度をフォトンカウンタ15又はアナログ式光強度測定器16のダイナミックレンジ内において測定できるようにする減光率をそれぞれ各強度範囲に対応する適切な減光率とすることができる。
【0062】
従って、例えば散乱光の強度の測定値に減光率の校正値の逆数を乗じて得られる実際の散乱光の強度がどの強度範囲に含まれるのかを判定する閾値処理によって、適切な減光率を自動決定することができる。
【0063】
換言すれば、フォトンカウンタ15又はアナログ式光強度測定器16のダイナミックレンジ内において測定可能な強度の範囲に上限側及び下限側の各閾値を設定し、上限側の閾値を超えた場合には減光率をより大きな値に切換える一方、下限側の閾値未満となった場合には減光率をより小さな値に切換えるという減光率の決定を行うことができる。つまり、減光しない場合における散乱光の強度に閾値を設け、複数の減光率に対応する強度範囲にレンジ分けすることができる。
【0064】
また、図4及び図5に示すような減光率を連続的に変化させることが可能な可変減光フィルタ7A、7Bを照射系3に設けた場合には、フォトンカウンタ15又はアナログ式光強度測定器16による散乱光の強度の測定値が一定となるように減光率をフィードバック制御することもできる。この場合には、散乱光の強度の測定値に反比例する減光率が減光率の制御値として光強度測定部23及び減光率制御部21において自動設定される。
【0065】
このような散乱光の強度の測定値に応じた減光率の決定機能に加え、光強度測定部23には、可変減光フィルタ7の異なる複数の減光率に対応する散乱光の強度の角度分布の計測結果と各減光率の校正値とに基づいて、可変減光フィルタ7の複数の減光率で減光されていない光又は同一の減光率で減光した光を被検物体Oに照射した場合に被検物体Oから生じる散乱光の強度の角度分布を求める機能が備えられる。
【0066】
具体的には、異なる複数の減光率に対応する角度分解された散乱光の強度の計測値に、それぞれ減光率の校正値の逆数を乗じることにより、可変減光フィルタ7の複数の減光率で減光されていない光を被検物体Oに照射した場合に被検物体Oから生じる散乱光の強度の角度分布を示す断続的な複数の強度データを実用的な精度で算出することができる。更に、複数の強度データを繋ぎ合せるステッチング処理を実行することにより、散乱光の強度を示す連続的な強度の角度分布データを生成することができる。
【0067】
すなわち、フォトンカウンタ15における光子の計数値に基づいて高精度に自己校正された各減光率を用いることによって、ステッチング処理を実行することが可能な断続的な複数の光強度データを求めることができる。換言すれば、フォトンカウンタ15を利用した十分な精度の減光率の校正値と散乱光の強度の測定値との間であれば線形性を得ることができるため、ステッチング処理によって異なる減光率に対応する散乱光の光強度データを繋ぎ合せることが可能となる。
【0068】
尚、各減光率に対応する散乱光の強度の計測値に基準となる減光率の校正値と各減光率の校正値の逆数の積を乗じるようにしてもよい。この場合には、同一の基準となる減光率で減光した光を被検物体Oに照射した場合に被検物体Oから生じる散乱光の角度分解された強度を示す断続的な複数の強度データが得られる。そして、この断続的な強度データのステッチング処理を実行することにより散乱光の相対的な強度の角度分布を示す連続的な角度分布データを生成することができる。
【0069】
一方、各減光率の校正値の逆数を各減光率に対応する散乱光の強度の計測値に乗じれば、散乱光の絶対的な強度の角度分布を示す連続的な角度分布データを生成することができる。散乱光の絶対的な強度分布を求める場合には、光源5の出力値の設計値に対する校正値の比で表される補正係数を散乱光の強度分布を示す連続的な角度分布データに乗じることによって、一層正確な散乱光の強度の角度分布を求めることができる。
【0070】
このような光強度測定部23におけるステッチング処理によって、光強度計測装置1には、実質的に大きなダイナミックレンジが得られる。
【0071】
図7は図1に示す光強度計測装置1の実効的なダイナミックレンジを示す模式図である。
【0072】
図7において縦軸は、取得可能な光の強度範囲を示す。フォトンカウンタ15固有のダイナミックレンジが計測対象となる散乱光の強度の範囲をカバーしない場合であっても、図7に示すように、異なる減光率ND1, ND2, ND3で被検物体Oへの照射光の強度を減光することによって、広範囲に角度分解された散乱光の強度を取得することができる。
【0073】
すなわち、異なる減光率ND1, ND2, ND3で照射光を減光し、各減光率ND1, ND2, ND3の逆数を光強度の測定値に乗じることによって取得可能な散乱光の強度範囲を繋ぎ合せることにより、フォトンカウンタ15固有のレンジよりも広い実効レンジを得ることができる。
【0074】
(動作および作用)
次に光強度計測装置1の動作および作用について説明する。
【0075】
まず、照射系3の特性値の校正値を求めるための校正モードが選択される。このため、試料ステージ2には被検物体Oが設置されず、回転ステージ10は、シングルモード光ファイバ9の出力側から対物レンズ13までの光路が直線となる位置に位置決めされる。また、光ファイバ18には、フォトンカウンタ15が接続される。
【0076】
そして、少なくとも可変減光フィルタ7に備えられる各減光フィルタ19の減光率が校正される。そのために、可変減光フィルタ7により減光されない光の強度がフォトンカウンタ15により計測される。具体的には、移動機構20の駆動によって全ての減光フィルタ19が照射光の光路L1から退避される。そして、光源5からフォトンカウンタ15により計数することが可能な十分に強度が小さいレーザ光が照射される。
【0077】
そうすると、レーザ光はシングルモード光ファイバ9に照射光として入射し、シングルモード光ファイバ9を経由した照射光はポラライザ6に入射する。ポラライザ6に入射した照射光は、直線偏光となっていずれの減光フィルタ19も経由せずにアイリス8に入射する。アイリス8に入射し、照射領域の大きさが調節された照射光は、試料ステージ2の上、第1のピンホール11内及び第2のピンホール12内を通って対物レンズ13に入射する。
【0078】
対物レンズ13に入射した照射光は、絞られて光ファイバ18内に入射する。光ファイバ18内に入射した照射光は、フォトンカウンタ15に入射する。そして、フォトンカウンタ15において、照射光を構成する光子が計数される。更に、光子の計数結果は、コンピュータ17に出力される。
【0079】
次に、可変減光フィルタ7により複数の減光率で減光された光の強度が順次フォトンカウンタ15により計測される。具体的には、コンピュータ17の特性値測定部22が、異なる減光率間においてSN比が一定となるように調整された光子の計数時間を、各減光率に対応する適切な光強度の計測時間として減光率制御部21に通知する。そうすると、減光率制御部21は、可変減光フィルタ7の移動機構20を制御し、移動機構20の駆動によって校正対象となる減光フィルタ19が照射光の光路L1を横切る位置に位置決めされる。
【0080】
次に、光源5は可変減光フィルタ7により減光されない光の強度の計測のために照射したレーザ光の強度と同一の強度を有するレーザ光を発光する。そうすると、可変減光フィルタ7により減光されない光の強度の計測の場合と同様な流れで照射光がフォトンカウンタ15に入射する。但し、照射光は、校正対象となる減光フィルタ19を経由するため、減光フィルタ19の実際の減光率で減光される。
【0081】
そして、フォトンカウンタ15において、減光された照射光を構成する光子が計数される。この計数は、減光率制御部21からの制御によって移動機構20が駆動し、校正対象となる減光フィルタ19が別の減光フィルタ19に変わるまで継続される。すなわち、特性値測定部22から減光率制御部21に通知された計測時間だけ光子が計数される。そして、光子の計数結果は、コンピュータ17に出力される。
【0082】
特性値測定部22から減光率制御部21に通知された計測時間が経過すると、減光率制御部21からの制御によって移動機構20が駆動し、校正対象となる減光フィルタ19が別の減光フィルタ19に変えられる。そして、同様な流れで全ての減光フィルタ19によりそれぞれ異なる減光率で減光された照射光を構成する光子の計数結果が順次コンピュータ17に出力される。
【0083】
尚、光子の計数時間は、異なる減光率間においてSN比が一定となるように調整されている。このため、同等なSN比で異なる減光率に対応する光子の計数結果がコンピュータ17において得られる。
【0084】
次に、特性値測定部22は、異なる減光率に対応する光子の各計数値を、それぞれ減光されていない照射光の光子の計数値で除算する。これにより、各減光フィルタ19の実際の減光率を算出することができる。算出された減光率の値は、減光率の校正値として特性値測定部22から光強度測定部23に与えられる。
【0085】
更に、必要に応じて特性値測定部22により、光源5から照射されるレーザ光の出力値が校正される。この場合には、減光されていない照射光の光子の計数値を、光源5の出力値の校正値とすることができる。また、光源5の校正値の設計値に対する比として光源5の出力値の校正係数を求めることができる。
【0086】
校正モードにおける光強度計測装置1の動作が完了すると、被検物体Oからの散乱光の強度の角度分布を計測するための計測モードが選択される。このため、試料ステージ2に被検物体Oが設置される。また、回転ステージ10は、被検物体Oからの角度分解された散乱光を対物レンズ13に入射させることが可能な初期位置に位置決めされる。また、光ファイバ18には、フォトンカウンタ15又はアナログ式光強度測定器16が接続される。
【0087】
ここでは、フォトンカウンタ15を利用して散乱光の角度分布を計測する場合について説明する。但し、散乱光の強度が十分に大きくなる角度では、計測時間短縮のためにアナログ式光強度測定器16を利用してもよい。
【0088】
計測モードでは、減光率制御部21からの制御によって移動機構20が駆動し、可変減光フィルタ7の減光率がデフォルト値に設定される。そして、校正モードと同様に光源5からレーザ光が照射される。このため、可変減光フィルタ7の減光率で減光された照射光が被検物体Oに入射する。この結果、被検物体Oの表面粗さや屈折率のばらつき等の要因によって被検物体Oから可変減光フィルタ7の減光率に応じた強度を有する散乱光が生じる。
【0089】
散乱光のうち回転ステージ10上に形成された散乱光の光路L2を通る散乱光は対物レンズ13に入射する。尚、対物レンズ13に入射する散乱光は、第1のピンホール11及び第2のピンホール12によって所定の範囲に限定される。これにより、より高分解能で角度分解された散乱光をフォトンカウンタ15に入射させることができる。
【0090】
フォトンカウンタ15では、散乱光を構成する光子の計数が実行される。そして、光子の計数結果は、コンピュータ17に出力される。そうすると、光強度測定部23は、光子の計数結果が閾値で定められた範囲内において正常に得られたか否かを判定する。光子の計数値が閾値内である場合には、光強度測定部23は、光子の計数値を散乱光の角度分解された強度として取得する。
【0091】
一方、光子の計数結果が閾値で定められた範囲を超えて大きい場合やフォトンカウンタ15の計測レンジ内で飽和している場合には、光強度測定部23は、現在の減光率よりも大きい減光率をフィードバック制御のための減光率の特定情報として減光率制御部21に与える。逆に、光子の計数結果が閾値で定められた範囲よりも小さい場合やノイズ以下であり正常な計数値として得られていない場合には、光強度測定部23は、現在の減光率よりも小さい減光率をフィードバック制御のための減光率の特定情報として減光率制御部21に与える。
【0092】
そうすると、減光率制御部21は、移動機構20を制御して可変減光フィルタ7の減光率を、減光率の特定情報として特定されている減光率に変更させる。そして、変更された減光率を適用して、再びフォトンカウンタ15により散乱光を構成する光子の計数が実行される。つまり、減光率が、光子の計数値に基づいて適切な減光率となるようにフィードバック制御される。更に、計数された光子の計数結果はフォトンカウンタ15から光強度測定部23に出力される。
【0093】
このような光子の計数結果の閾値判定及び減光率の変更を繰り返すことにより、最終的には閾値で定められた範囲内における光子の計数結果が散乱光の角度分解された強度として光強度測定部23により取得される。
【0094】
次に、回転ステージ10が所定のステップ角度だけ回転し、被検物体Oからの別の角度分解された散乱光を対物レンズ13に入射させることが可能な位置に位置決めされる。そして、再び光源5からレーザ光が照射され、光子の計数及び減光率のフィードバック制御が実行される。これにより、閾値で定められた範囲内の光子の計数値が、別の角度分解された散乱光の強度として光強度測定部23により取得される。
【0095】
更に、回転ステージ10が順次所定のステップ角度だけ回転し、同様な流れで各角度方向に角度分解された散乱光の強度が光強度測定部23により取得される。この結果、光強度測定部23では、散乱光の強度が回転ステージ10の角度ごとに所定の範囲に含まれる光子の計数値として得られる。
【0096】
但し、各光子の計数値は、互いに異なる複数の減光率のいずれかに対応している。同一の減光率に対応している複数の光子の計数値は、散乱光の強度の角度分布を示す断続的な強度データとなる。
【0097】
次に、光強度測定部23は、散乱光の強度の角度分布を示す断続的な各強度データにそれぞれ減光率の校正値の逆数を乗じる。これにより、可変減光フィルタ7で減光されていない照射光を被検物体Oに照射した場合に被検物体Oから生じる散乱光の強度の角度分布を示す複数の断続的な強度データが実用的な精度で算出される。
【0098】
次に、光強度測定部23は、それぞれ対応する減光率の校正値の逆数を乗じることによって算出された複数の断続的な強度データをステッチング処理によって繋ぎ合せる。この結果、可変減光フィルタ7で減光されていない照射光を被検物体Oに照射した場合に被検物体Oから生じる散乱光の強度の角度分布を示す連続的な計測データを得ることができる。
【0099】
更に、光源5の出力値の校正係数が特性値測定部22において取得されている場合には、光強度測定部23が、特性値測定部22から取得した光源5の出力値の校正係数を散乱光の強度の角度分布を示す連続的な計測データに乗じる。この結果、光源5の出力値の設計値に対応する正確な散乱光の強度の角度分布を示す連続的な計測データを得ることができる。
【0100】
そして、ユーザは、散乱光の強度の角度分布を参照することにより、或いは散乱光の強度の角度分布に基づくデータ解析処理によって、被検物体Oの物体表面や物体の構造を精度良く評価することが可能となる。
【0101】
つまり以上のような光強度計測装置1は、可変減光フィルタ7により異なる減光率で検出対象となる散乱光の強度を減光することにより、フォトンカウンタ15及びアナログ式光強度測定器16の少なくとも一方で散乱光を検出できるようにしたものである。更に、光強度計測装置1は、光の強度を高精度に検出することが可能なフォトンカウント法による光子の計数値に基づいて各減光フィルタ19の減光率を校正するようにしたものである。
【0102】
(効果)
このため、光強度計測装置1によれば、強度範囲の広い散乱光であってもダイナミックレンジが飽和状態とならずにフォトンカウンタ15又はアナログ式光強度測定器16により散乱光の強度の角度分布を求めることができる。
【0103】
また、フォトンカウンタ15による光子の計数値に基づいて高精度に求められた各減光フィルタ19の校正値を用いて、正確に散乱光の断続的な強度データを求めることができる。すなわち、各減光フィルタ19に製造誤差があっても、減光率と散乱光の強度との間において線形性を得ることができる。
【0104】
この結果、異なる減光率で計測された断続的な強度データを互いに繋ぎ合わせることが可能となる。すなわち、実効的なダイナミックレンジを実際のダイナミックレンジよりも大きくすることができる。
【0105】
このため、より広い角度範囲の散乱光を角度分解して強度計測することが可能となる。そして、光強度計測装置1によって計測された被検物体Oからの散乱光の角度分解分布に基づいて、表面粗さの小さい研磨後の物体表面や微細加工によって形成された物体の構造を精度良く評価することができる。
【0106】
尚、被検物体Oをホウケイ酸塩ガラスで構成された平面板とし、光源5から波長λ=635nmの光を被検物体Oに照射する光強度計測装置1では、実効ダイナミックレンジを11桁に拡大できることが確認できた。この光強度計測装置1では、大きい実効ダイナミックレンジにより計測対象となる散乱光の角度範囲を-60°から+20°の範囲とすることができた。このときの散乱光の測定角度のステップ量は0.25°であり、各測定角度での散乱光の検出時間を1sとしてフォトンカウンタ15により散乱光の光子数を計数した。また、散乱光の強度の測定は、光源5からの照射光の強度が十分に安定した時点から開始した。
【0107】
(変形例)
図1に示す光強度計測装置1では、可変減光フィルタ7をシングルモード光ファイバ9の一端から試料ステージ2に設置された被検物体Oに向けて形成される直線的な照射光の光路L上に配置する例を示したが、シングルモード光ファイバ9の途中に可変減光フィルタ7を配置することもできる。
図8は、図1に示す光強度計測装置1の第1の変形例を示す上面図である。
図8に示された光強度計測装置1Aでは、可変減光フィルタ7の配置位置が図1に示す光強度計測装置1と相違する。他の構成および作用については図1に示す光強度計測装置1と実質的に異ならないため照射系3Aのみ図示し、同一の構成については同符号を付して説明を省略する。
図8に示す光強度計測装置1Aでは、照射系3Aに第1のシングルモード光ファイバ9A、第2のシングルモード光ファイバ9B、ファイバ端固定具30及びカップリングレンズ31が設けられる。第1のシングルモード光ファイバ9Aの一端は光源5側に、他端はファイバ端固定具30に、それぞれ接続される。一方、第2のシングルモード光ファイバ9Bの一端は、ファイバ端固定具30に接続され、他端から被検物体Oに向けて照射光が照射される。
ファイバ端固定具30は、第1のシングルモード光ファイバ9A及び第2のシングルモード光ファイバ9Bの各一端を互いに対向させ、かつ互いに所定の距離だけ引き離した状態で固定する器具である。このため、第2のシングルモード光ファイバ9Bは、第1のシングルモード光ファイバ9Aと離して配置される。
また、カップリングレンズ31は、第1のシングルモード光ファイバ9Aと第2のシングルモード光ファイバ9Bとの間に配置される。カップリングレンズ31は、第1のシングルモード光ファイバ9Aの端部から出力される照射光を絞って安定的かつ少ない損失で第2のシングルモード光ファイバ9Bに入射させるためのレンズである。
そして、光源5から照射された照射光は、第1のシングルモード光ファイバ9Aの端部から一旦、空間に出た後、カップリングレンズ31を経由して再び第2のシングルモード光ファイバ9Bに入射する。
更に、ファイバ端固定具30によって第1のシングルモード光ファイバ9Aと第2のシングルモード光ファイバ9Bとの間に形成された空隙に可変減光フィルタ7が配置される。すなわち、可変減光フィルタ7を構成する各減光フィルタ19を、移動機構20の駆動によって第1のシングルモード光ファイバ9Aと第2のシングルモード光ファイバ9Bとの間に形成される照射光の光路L1上に配置又は照射光の光路L1上から退避させることができる。
図8は、カップリングレンズ31を2枚配置し、カップリングレンズ31の間に可変減光フィルタ7を配置した例を示しているが、カップリングレンズ31を1枚だけ設ける構成としてもよい。但し、カップリングレンズ31を2枚配置する構成とすれば、焦点距離が極端に短い特殊なレンズを用いなくても、直径が通常数μm程度の細い第2のシングルモード光ファイバ9Bに照射光を絞って入射させることが可能となる。尚、可変減光フィルタ7を2枚のカップリングレンズ31で挟むと、可変減光フィルタ7には平行な照射光が入射することとなる。
もちろん、図4及び図5に示すような減光率を連続的に変化させることが可能な可変減光フィルタ7A、7Bを第1のシングルモード光ファイバ9Aと第2のシングルモード光ファイバ9Bとの間に設けてもよい。
このような構成を有する光強度計測装置1Aによれば、図1に示す光強度計測装置1と同様な効果を得ることができる。加えて、図8に示す光強度計測装置1Aでは、第1のシングルモード光ファイバ9Aと第2のシングルモード光ファイバ9Bとの間において、照射光を減光することができる。従って、可変減光フィルタ7の減光面が照射光の光軸に対して厳密に垂直でない場合であっても、可変減光フィルタ7の傾斜に起因して第2のシングルモード光ファイバ9Bから被検物体Oに向かう照射光の光軸の向きに影響が生じない。
また、仮に可変減光フィルタ7の減光面が照射光の進行方向に対して傾いていたとしても、可変減光フィルタ7の傾きによる減光率の変化は、校正モードにおいて校正することができる。従って、図8に示す光強度計測装置1Aによれば、より正確に被検物体Oからの散乱光の角度分布を計測することができる。
このように、図1及び図8に示すように可変減光フィルタ7を照射系3、3Aに設ける他、可変減光フィルタ7を計測系4に設けてもよい。すなわち、可変減光フィルタ7を被検物体Oに向かう照射光の光路L1上に代えて、或いは照射光の光路L1上に加えて散乱光の光路L2に設けることができる。換言すれば、照射光及び角度分解された散乱光の少なくとも一方を互いに異なる複数の減光率で減光する可変減光フィルタを用いて光強度計測装置を構成することができる。
【0108】
また、互いに同一又は異なる減光率を有する複数の減光フィルタ19、19A、19Bを照射光の光路L1及び散乱光の光路L2を含む光源5からフォトンカウンタ15までの光路(L1+L2)上にそれぞれ移動機構20、20A,20Bで退避できるように直列に配置することもできる。この場合においても、フォトンカウンタ15又はアナログ式光強度測定器16に入射する散乱光の強度を所望の減光率で減光することができる。
【0109】
一方、単一の減光率の減光フィルタ19を照射光の光路L1又は散乱光の光路L2から退避可能に設けて光強度計測装置を構成してもよい。この場合には、減光フィルタ19が照射光の光路L1又は散乱光の光路L2上に配置されていない状態における減光率が0%となる。そして、減光フィルタ19を照射光の光路L1上又は散乱光の光路L2上に配置した場合と退避させた場合の2通りの光の減光率で簡易に散乱光の強度の角度分布を計測することができる。
【0110】
図9は、図1に示す光強度計測装置1の第2の変形例を示す上面図である。
【0111】
図9に示された光強度計測装置1Bでは、被検物体Oに向かう照射光ではなく被検物体Oから生じる角度分解された散乱光を異なる減光率で減光するようにした点が図1に示す光強度計測装置1と相違する。他の構成および作用については図1に示す光強度計測装置1と実質的に異ならないため同一の構成については同符号を付して説明を省略する。
【0112】
光強度計測装置1Bでは、互いに同一又は異なる減光率を有する2枚の減光フィルタ19Cが第1のピンホール11と第2のピンホール12との間における散乱光の光路L2上に直列に配置されている。各減光フィルタ19Cは、それぞれ移動機構20Cによって散乱光の光路L2を横切る位置と散乱光の光路L2を横切らない退避位置との間で移動させることができる。このため、各減光フィルタ19Cと移動機構20Cとによって実質的に可変減光フィルタ7Cが形成される。
【0113】
このような構成を有する光強度計測装置1Bによっても、図1に示す光強度計測装置1と同様な効果を得ることができる。加えて、図9に示す光強度計測装置1Bによれば、第1のピンホール11と第2のピンホール12とによって角度分解された散乱光の強度に応じた減光率で角度分解された散乱光を選択的に減光することができる。
【0114】
また、同一の減光率を有する複数の減光フィルタ19Cを用いて簡易に可変減光フィルタ7Cを構成することができる。一方、異なる減光率を有する複数の減光フィルタ19Cを照射光及び散乱光の進行方向に直列に退避可能に配置すれば、異なる減光率を有する減光フィルタ19Cの組合せによって、減光フィルタ19Cの数よりも多くの数の減光率で照射光及び散乱光を減光することができる。このため、各減光フィルタ19C単体の減光率の校正値を求めるためのフォトンカウンタ15による光子の計数の回数や減光率の校正値を求めるためのコンピュータ17におけるデータ処理量を低減させることができる。
【0115】
更に、各減光フィルタ19C単体の移動距離を小さくできる。このため、移動機構20Cによる各減光フィルタ19Cの位置決め誤差を低減させることができる。この結果、一層正確な減光率の校正値を求めることが可能となる。
【0116】
(他の実施形態)
以上、特定の実施形態について記載したが、記載された実施形態は一例に過ぎず、発明の範囲を限定するものではない。ここに記載された新規な方法及び装置は、様々な他の様式で具現化することができる。また、ここに記載された方法及び装置の様式において、発明の要旨から逸脱しない範囲で、種々の省略、置換及び変更を行うことができる。添付された請求の範囲及びその均等物は、発明の範囲及び要旨に包含されているものとして、そのような種々の様式及び変形例を含んでいる。
【0117】
例えば、上述の実施形態では、光強度計測装置1、1A、1Bにより、被検物体Oからの散乱光の角度分布を計測する例を示したが、光強度計測装置1、1A、1Bと同様なメカニズム及び機能を備えた光強度計測装置により、角度分布でない単純な散乱光の強度の他、透過光や反射光等の、照射光と被検物体との相互作用で生じた光の強度を計測することもできる。また、光強度計測装置により、被検物体を透過した光により生じる散乱光に限らず、被検物体に反射した光により生じる散乱光の強度を計測することもできる。
【0118】
光の強度分布が光強度計測装置の計測対象である場合には、光の最大強度と最小強度との間における強度差が大きい場合であっても、光の強度分布を計測することができる。また、分布しない光の強度が光強度計測装置の計測対象である場合には、互いに強度差の大きい異なる光を発生させる様々な被検物体からの光の強度を比較可能な計測データとして光強度計測装置により計測することができる。
【0119】
更に、波長が760nm〜830nm程度の可視光に限らず、波長が0.7μm〜1mm程度の赤外光や波長が10nm〜400nm程度の紫外光等の不可視光の強度を光強度計測装置により計測することができる。また、被検物体が蛍光体である場合には、蛍光によって生じた光の強度を計測することもできる。
【符号の説明】
【0120】
1、1A、1B 光強度計測装置
2 試料ステージ
3、3A 照射系
4 計測系
5 光源
6 ポラライザ
7、7A、7B、7C 可変減光フィルタ
8 アイリス
9、9A、9B シングルモード光ファイバ
10 回転ステージ
11 第1のピンホール
12 第2のピンホール
13 対物レンズ
14 暗箱
15 フォトンカウンタ
16 アナログ式光強度測定器
17 コンピュータ
18 光ファイバ
19、19A、19B、19C 減光フィルタ
20、20A,20B、20C 移動機構
21 減光率制御部
22 特性値測定部
23 光強度測定部
30 ファイバ端固定具
31 カップリングレンズ
O 被検物体
L1 照射光の光路
L2 散乱光の光路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検物体に照射光を照射する照射系と、
前記照射光と前記被検物体との相互作用によって生じた光の強度の計測を行う計測系と、
前記照射光及び前記相互作用によって生じた光の少なくとも一方を互いに異なる複数の減光率で減光する減光フィルタとを備え、
前記計測系は、前記相互作用によって生じた光の計測に先だってフォトンカウンタを用いて前記複数の減光率で減光された光を構成する光子をそれぞれ計数し、前記光子の計数結果に基づいて求められた前記複数の減光率の校正値に基づいて、前記照射光及び前記相互作用によって生じた光のいずれも前記複数の減光率で減光されていない場合又は前記照射光及び前記相互作用によって生じた光の少なくとも一方が同一の減光率で減光された場合において前記相互作用によって生じる光の強度を求めるように構成される光強度計測装置。
【請求項2】
前記照射系は、光源と、前記光源側に接続される第1の光ファイバと、前記第1の光ファイバから離して配置され、前記被検物体に向けて照射光を照射する第2の光ファイバとを有し、
前記減光フィルタにより、前記第1の光ファイバと前記第2の光ファイバとの間において照射光を減光するようにした請求項1記載の光強度計測装置。
【請求項3】
複数の減光フィルタを光路上に直列に退避できるように配置することによって前記照射光及び前記相互作用によって生じた光の少なくとも一方を互いに異なる複数の減光率で減光するように構成される請求項1又は2記載の光強度計測装置。
【請求項4】
前記計測系は、前記相互作用によって生じた光の計測に先だってフォトンカウンタを用いて前記照射系から照射された光を構成する光子を計数し、前記照射系からの光子の計数結果に基づいて求められた前記照射系に備えられる光源の出力値の校正値に基づいて、前記照射光及び前記相互作用によって生じた光のいずれも前記複数の減光率で減光されていない場合又は前記照射光及び前記相互作用によって生じた光の少なくとも一方が同一の減光率で減光された場合において前記相互作用によって生じる光の強度を求めるように構成される請求項1乃至3のいずれか1項に記載の光強度計測装置。
【請求項5】
前記計測系は、前記相互作用によって生じた光として前記被検物体から生じる散乱光の強度の角度分布を計測するように構成される請求項1乃至4のいずれか1項に記載の光強度計測装置。
【請求項6】
被検物体に照射光を照射するステップと、
前記照射光と前記被検物体との相互作用によって生じた光の強度の計測を行うステップと、
前記照射光及び前記相互作用によって生じた光の少なくとも一方を互いに異なる複数の減光率で減光するステップとを有し、
前記相互作用によって生じた光の計測に先だってフォトンカウンタを用いて前記複数の減光率で減光された光を構成する光子をそれぞれ計数し、前記光子の計数結果に基づいて求められた前記複数の減光率の校正値に基づいて、前記照射光及び前記相互作用によって生じた光のいずれも前記複数の減光率で減光されていない場合又は前記照射光及び前記相互作用によって生じた光の少なくとも一方が同一の減光率で減光された場合において前記相互作用によって生じる光の強度を求める光強度計測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−251875(P2012−251875A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−124751(P2011−124751)
【出願日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名:社団法人 応用物理学会、刊行物名:第58回応用物理学関係連合講演会 講演予稿集、発行年月日:2011年3月9日
【出願人】(304036743)国立大学法人宇都宮大学 (209)
【Fターム(参考)】