光情報記録媒体およびその作製方法
【課題】散乱体メディアにおいて、吸収体の再構成に必要不可欠となる散乱係数が制御された光散乱体、並びに光散乱体の作製方法を提供する。
【解決手段】3次元構造の光散乱体中に埋め込まれた光エネルギー吸収体とからなる光情報記録媒体において、光散乱体が多孔質媒質であり、その散乱係数分布が光散乱体中の空孔の大きさと密度分布によって制御されたものである。多孔質媒質の光散乱体とは、ガラスやポリマー樹脂等の材料内部に空孔を多数空けることにより作製された散乱体をいう。空孔を空ける際のパラメータとしては、孔径と孔密度である。光散乱体の散乱係数分布は、光散乱体中の空孔密度分布によって制御可能である。
【解決手段】3次元構造の光散乱体中に埋め込まれた光エネルギー吸収体とからなる光情報記録媒体において、光散乱体が多孔質媒質であり、その散乱係数分布が光散乱体中の空孔の大きさと密度分布によって制御されたものである。多孔質媒質の光散乱体とは、ガラスやポリマー樹脂等の材料内部に空孔を多数空けることにより作製された散乱体をいう。空孔を空ける際のパラメータとしては、孔径と孔密度である。光散乱体の散乱係数分布は、光散乱体中の空孔密度分布によって制御可能である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光情報記憶媒体とその作製方法に関するものであり、特に、光情報記憶媒体における光散乱体の作製方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今、ユビキタス情報社会への発展へ向け、様々な要素技術の開発が進められている。本発明者は、既に、薄型、大容量記録可能、環境に優しくリサイクル可能、データ保護機能を有する次世代光メモリとして、吸収体を含有する散乱体メディアを提案している。この散乱体メディアは、光を拡散させる性質をもつ光散乱体の内部に、情報として光のエネルギーを吸収する吸収体というものを埋め込むことで構成されるものである。この散乱体メディアは、1mm以下の薄型化が可能で、高い情報秘匿性を持ち、使い捨ての用途が可能であるといった特徴を有する。
【0003】
上記の散乱体メディアの情報再生の原理を簡単に説明する。先ず、散乱体メディアに光を照射することにより出力光強度分布を得る。この強度分布は、吸収体がエネルギーを吸収するため、内部構造を反映したものとなっている。すなわち、入射光は、散乱体メディアの媒質の吸収成分に加えて、内部に埋め込まれた吸収体によって大きく減衰される。そのため、出力面においては物体の内部構造固有の出力光強度分布が得られ、これをもとに内部構造の推定を行えることになる。
【0004】
また光散乱体によって,出力光強度分布からは吸収体の3次元位置や大きさを分からなくすることができる。また、光散乱体に入射した光は多重散乱により光の位相情報が欠落するため、内部の吸収分布を干渉計測により求めることが困難となる。そのため、吸収体を光散乱体の内部に埋め込むことで安全な情報として利用することができる。この吸収体の個数,それぞれの位置(3次元座標),サイズを情報として扱うことで個人認証および情報秘匿記録を行うのである。
【0005】
しかしながら、散乱体メディアに光を照射することにより出力される出力光は、光散乱体により拡散されていることから、この強度分布のみでは吸収体を再構成することが不可能である。言い換えると、光散乱体に入射した光は多重散乱により光の位相情報が欠落するため、内部構造固有の出力光強度分布のみでは内部の吸収体情報を再現することは不可能である。そのため、散乱体メディアの作製者は、散乱係数分布が既知であるとして散乱体モデルを構築することになる。物体内部の固有構造を割り出す際に、散乱係数分布の情報から得られる重み関数を用いた再構成アルゴリズムを用いる。すなわち、かかる散乱体モデルの出力光強度分布と、散乱係数から得られる重み関数と、散乱体メディアの出力光強度分布の3つを用いて、再構成アルゴリズムを適用することにより吸収体の再構成を行なうのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特願2008−83559号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、情報として光エネルギー吸収体を光散乱体の内部に埋め込むことで安全な情報記録媒体として利用する際、光散乱体により位相情報が欠落することから、散乱係数分布が既知である場合にのみ光吸収体(情報)の再構成が可能となる。
すなわち、光散乱体の内部に吸収体を埋め込み、その吸収体の位置(3次元座標)・個数・サイズを情報として扱うことにより、個人認証ならびに情報秘匿記録を行うといったシステム構築には、光散乱体の作製技術が必要不可欠である。
【0008】
しかしながら、従来、散乱係数を制御する技術については、濃度を変えるものであった。この場合、ある程度の大きさの容器で作製する必要があり、上述した散乱体メディアの如く、微小な厚さの3次元空間内で散乱係数を複雑に制御することは極めて困難である。現状、散乱体メディアにおいて、吸収体の再構成に必要不可欠となる散乱係数が制御された光散乱体の作製技術が確立されていない状況である。
【0009】
このような状況に鑑み、本発明は、散乱体メディアにおいて、吸収体の再構成に必要不可欠となる散乱係数が制御された光散乱体、並びに光散乱体の作製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決すべく、本発明の光情報記録媒体は、3次元構造の光散乱体中に埋め込まれた光エネルギー吸収体とからなる光情報記録媒体において、光散乱体が多孔質媒質であり、その散乱係数分布が前記光散乱体中の空孔の大きさと密度分布によって制御された構成とされる。
【0011】
本発明者は、鋭意研究を進める中で、光散乱体の散乱係数分布を光散乱体中の空孔密度分布によって制御可能であることを見出した。
ここで、多孔質媒質の光散乱体とは、ガラスやポリマー樹脂等の材料内部に空孔を多数空けることにより作製された散乱体をいう。空孔を空ける際のパラメータとしては、孔径と孔密度である。多孔媒質の光散乱体は、ポリマー等を材料として用いることができるため、安価で交換可能であり、さらに再利用も可能であるため使い捨ての用途にも使用できる利点がある。
【0012】
また、本発明の光情報記録媒体において、多孔質媒質は、ガラス内部もしくはポリマー内部に空孔を作製したものであり、空孔密度分布は、フェムト秒レーザーを集光させて光散乱体中に空孔を作製する際に、集光点をランダムに走査させ、若しくは、ランダム空間パターンとして形成させたものであることが好ましい。
空孔を3次元的にランダムな位置,孔径で作製することにより、高い秘匿性を実現できる。ここで、フェムト秒レーザーには、パルスレーザーから連続発振レーザーを含んでいる。
【0013】
ここで、光散乱体の散乱係数分布において、空孔における散乱の度合いは、前記フェムト秒レーザーの出力光強度分布のビーム径、若しくは、照射エネルギーにより制御されることが好ましい。
フェムト秒レーザーの出力光強度分布のビーム径や照射エネルギーにより、空孔の大きさを制御して散乱の度合いを制御する。
【0014】
また、空孔密度分布は、集光点をランダムに走査させ、若しくは、ランダム空間パターンとして形成させる場合に、1方向もしくは複数方向に周期構造を設けることが、より好ましい。
理想的には空孔を3次元的にランダムな位置,孔径で作製することが望まれるが、フェムト秒レーザー光照射による孔加工では時間がかかるため実用的ではない。そのため、フェムト秒レーザーのパルス光の周期性と移動ステージを組み合わせることで周期構造を設け、多孔媒質の光散乱体の作製時間の短縮を図りつつ、ランダム性を確保する。
【0015】
また、空孔密度分布は、集光点をランダムに走査させ、若しくは、ランダム空間パターンとして形成させる場合に、層構造とし、層間隔を一定もしくはランダムとすることがより好ましい。
各層の内部には、集光点をランダムに走査させたり、ランダム空間パターンとして形成させたりして、ランダム性を確保し、層間隔を一定もしくはランダムとすることにより、多孔媒質の3次元光散乱体の作製時間の短縮を図る。
【0016】
また、空孔密度分布は、予め設計された空孔分布を金型成型によって作製された層状の光散乱体を複数重ね合わせたものであることがより好ましい。
予め設計された空孔分布にランダム性を持たせて、各層にランダム性を確保し、複数の層を重ね合わせることにより、多孔媒質の3次元光散乱体の作製時間の短縮を図る。
ここで、金型成型で作製する孔のサイズは数ナノメートル〜数マイクロメートルとなり、計算によって設計されたマイクロメートルサイズ以下の多数の孔構造を形成するために、ナノインプリント技術を用いることができる。
【0017】
次に、本発明の光情報記録媒体の作製方法は、3次元構造の光散乱体中に埋め込まれた光エネルギー吸収体とからなる光情報記録媒体の作製方法であって、
(1)均一媒質の3次元構造体を準備する準備工程と、
(2)フェムト秒レーザーを集光させて前記光散乱体中に空孔を作製する空孔作製工程と、
(3)光散乱体中に前記光エネルギー吸収体を配置させる吸収体配置工程と、
から成り、上記(2)の空孔作製工程において、フェムト秒レーザーの集光点をランダムに走査させ、若しくは、ランダム空間パターンとして形成させ、光散乱体中の空孔の大きさと密度分布を制御することにより、光散乱体の散乱係数分布を制御する。
【0018】
ここで、上記(2)の空孔作製工程における光散乱体の散乱係数分布において、空孔における散乱の度合いを、フェムト秒レーザーの出力光強度分布のビーム径、若しくは、照射エネルギーにより制御することが好ましい。
フェムト秒レーザーの出力光強度分布のビーム径や照射エネルギーにより、空孔の大きさを制御して散乱の度合いを制御する。
【0019】
また、上記(2)の空孔作製工程において、空孔密度分布は、集光点をランダムに走査させ、若しくは、ランダム空間パターンとして形成させる場合に、1方向もしくは複数方向に周期構造を設けることが、より好ましい。
理想的には空孔を3次元的にランダムな位置,孔径で作製することが望まれるが、フェムト秒レーザー光照射による孔加工では時間がかかるため実用的ではない。そのため、フェムト秒レーザーのパルス光の周期性と移動ステージを組み合わせることで周期構造を設け、多孔媒質の光散乱体の作製時間の短縮を図りつつ、ランダム性を確保するためである。
【0020】
また、上記(2)の空孔作製工程において、空孔密度分布は、集光点をランダムに走査させ、若しくは、ランダム空間パターンとして形成させる場合に、層構造とし、層間隔を一定もしくはランダムとすることが、より好ましい。
各層の内部には、集光点をランダムに走査させたり、ランダム空間パターンとして形成させたりして、ランダム性を確保し、層間隔を一定もしくはランダムとすることにより、多孔媒質の3次元光散乱体の作製時間の短縮を図るためである。
【0021】
また、本発明の光情報記録媒体の作製方法は、3次元構造の光散乱体中に埋め込まれた光エネルギー吸収体とからなる光情報記録媒体の作製方法であって、
(1)予め設計された空孔分布を金型成型によって作製された層状の光散乱体を複数重ね合わせて、光散乱体中に空孔を作製する空孔作製工程と、
(2)光散乱体中に前記光エネルギー吸収体を配置させる吸収体配置工程と、
から成り、上記(2)の空孔作製工程において、光散乱体中の空孔の大きさと密度分布を制御することにより、光散乱体の散乱係数分布を制御する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、散乱体メディアにおいて、吸収体の再構成に必要不可欠となる散乱係数分布が制御された光散乱体を得られることができ、散乱係数分布の情報から得られる重み関数を用いた再構成アルゴリズムを用いて、光散乱体内部に情報として埋め込まれた吸収体の情報を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】情報秘匿記録の散乱体メディアの概要図
【図2】散乱体メディアにおける情報再生の概要図
【図3】多孔媒質の光散乱体の作製光学系の説明図
【図4】多孔構造を2次元の平面領域に作製し、それを層状に繰り返し重ねることで3次元の光散乱体を作製するイメージ図
【図5】作製した光散乱体を示す図
【図6】媒体と空孔との間に屈折率分布が生じ、位相変調が起こる様子を示す図
【図7】作製した光散乱体の孔密度と出力ビーム径の関係を示すグラフ図
【図8】モンテカルロシミュレーションによる散乱係数とビーム径の関係を示すグラフ図
【図9】孔密度に対する出力光強度のビーム径について、孔径の奥行きの長さとの関連性を調べた実験結果を示すグラフ図
【図10】孔密度に対する出力光強度のビーム径について、孔径の奥行きの長さとの関連性を数値計算したグラフ図
【図11】モンテカルロシミュレーションにより、散乱係数に対する出力光強度のビーム径を調べた結果を示すグラフ図
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態の一例を、図面を参照しながら詳細に説明していく。なお、本発明の範囲は、以下の実施例や図示例に限定されるものではなく、幾多の変更及び変形が可能である。
【0025】
図1に情報秘匿記録の散乱体メディアの概要を示す。情報秘匿記録のための散乱体メディアでは、光散乱体の内部に吸収体を埋め込むことで情報として利用する。散乱体メディアに入射した光は、媒質の吸収成分に加えて吸収体によって大きく減衰されるため、出力面においては物体の内部構造固有の出力光強度分布が得られ、これをもとに内部構造の推定を行う。これにより吸収体の情報を再構成することが可能となる。一方、散乱体メディアでは、光散乱体の物理的性質を利用し、光散乱体によって、出力光強度分布からは吸収体の3次元位置や大きさを秘匿できる。
【0026】
また、光散乱体に入射した光は多重散乱により光の位相情報が欠落するため、内部の吸収分布を干渉計測により求めることが困難となる。従って、吸収体を光散乱体の内部に埋め込むことで安全な情報として利用できる。また、光散乱体の内部に埋め込まれた吸収体の個数,それぞれの位置(3次元座標),サイズを情報として扱うことにより、個人認証および情報秘匿記録に利用する。
【0027】
この場合、位相情報の欠落のため、内部構造固有の出力光強度分布のみでは内部の吸収体の情報(個数、位置、サイズ)を再現することは不可能となる。そこで、散乱体メディアの作製者は光散乱体の散乱係数分布が既知となるように、光散乱体を作製する必要がある。
【0028】
図2に散乱体メディアにおける情報再生の概要を示す。図に示すように、散乱体メディアに光を照射することにより出力光強度分布を得る。この強度分布は、吸収体がエネルギーを吸収するため、内部構造を反映したものとなっている。この出力光は散乱体により拡散されており、強度分布のみでは吸収体を再構成できない。そのため、作製者は散乱係数分布(μs)が制御された散乱体モデルを構築する。この散乱体モデルの出力光強度分布(Ibase)と、散乱係数分布(μs)から得られる重み関数(W)、散乱体メディアの出力光強度分布(Imeasured)の3つを用いて、下記数式を用いて、吸収体変化分布(μa)を算出する。
【0029】
【数1】
【0030】
情報再生において光散乱体の散乱係数分布の情報が必要であり、このために散乱係数を容易に制御できる光散乱体の作製技術が必要となる。以下では、光散乱体の作製方法について具体的に説明する。
【0031】
(多孔媒質の光散乱体の作製方法について)
図3は、多孔媒質の光散乱体の作製光学系を示している。図に示すように、レーザー光源(増幅チタンサファイアレーザー)11から照射されたレーザーを対物レンズ17で光散乱体の材料20の内部に集光することにより、光散乱体内に空孔を空けた。空孔を空ける位置を変更するには、3軸移動ステージ21により光散乱体の材料を動かすことで行った。光源のレーザーは周期パルス光を用いており、このパルス光と3軸移動ステージ21を組み合わせることによって空孔構造を形成した。
【0032】
ここで、光源のパルスレーザー光は中心波長 800nm、繰り返し周波数 1kHz、パルス幅 100fs、最大平均出力
1W であり、対物レンズはNA 0.8のものを使用した。
また、光散乱体の材料20の下から光を照射し、対物レンズ17を通してCCDイメージセンサ23で認識させることにより、空孔を空けている位置の拡大図を観測した。
【0033】
図3に示すように、光散乱体内部の空孔はレーザー光を対物レンズで試料内部に集光することで形成される。レーザー光は周期パルス光を用いるため、材料20を3軸移動ステージ21で動かすことで周期的に空孔が形成される。移動ステージは、x,y,z軸の各軸が独立して稼働する。そのため、完全にランダムな空孔の構造を作製するには、シャッターによる光波のブロックと合わせることが必要であり、非常に時間がかかる。そこで、パルス光の周期性と3軸の移動ステージを組み合わせることで作業時間を短縮し、周期性の次元を変えて散乱の度合いを制御した。
【0034】
光散乱体を作製するための透明材料には、PMMA(Poly-Methyl
Methacrirate)を使用した。
【0035】
ポリマーPMMAに対して、フェムト秒光パルスレーザーを集光させて、集光させた領域にマイクロエクスプロージョンまたはアブレーションを発生させてポリマーPMMAにサイズの異なる空孔を生成する。
ポリマーPMMAの内部にフェムト秒光パルスレーザーを用いて多数の空孔を空けることにより、多孔媒質の光散乱体が作製される際、理想的には、空孔は3次元位置,孔径ともにランダムに作製される方が好ましい。
【0036】
しかしながら、作製時の制御に時間がかかるため実用的ではない。そこで、作製時間短縮のためにパルス光と3軸移動ステージを用いることで、図4(2)に示すように、多孔構造を2次元の平面領域に作製し、それを層状に繰り返し重ねることで3次元の光散乱体を作製する。
【0037】
ここで、図4(1)は、空孔の3次元位置と孔径が完全にランダムな状態のイメージ図を示している。一方、図4(2)は、一部周期構造を設けたものであり、孔径は全て等しく、層構造を有し、層間隔がランダムに設けられた状態のイメージ図を示している。層の面内の一方向のみランダムな周期構造(例えば、列毎に周期がランダム)になっている。
すなわち、各軸の周期性を崩すときに、層方向は完全にランダムにすることができるが、面方向では2軸を同時にランダムにすることができないため、一方の軸は一列を見れば周期性を持つが、列ごとにその間隔をランダムにすることで周期性を崩すことにするものである。
【0038】
(光散乱体の作製)
図5に実際に作製した光散乱体を示す。作製条件を以下に示す。
・ 材料に透明高分子材料 PMMA(ポリメタクリル酸メチル樹脂)を使用
・ 空孔構造条件:面方向が3〜7μmでランダム、層方向が3〜7μmでランダムの100層の周期構造,(Δx、Δy、Δz)=(3〜7,3〜7,3〜7)μm
・ 空孔数:約1770万個
・ 密度:約2%
・ 作製時間:約11.5時間
【0039】
図5(1)は、作製した光散乱体の写真を示している。図5(1)において、PMMAは透明であり、散乱体作製領域が白くなって見える。この白くなって見える部分が空孔が空いている領域になる。空孔を空けることでは吸収変化はほとんど起きないため、白くなっているのは散乱が生じている結果である。
また、図5(2)は、散乱体作製領域の構造を示している。空孔がランダムに配置された空孔層が100層重なった構造となっている。図5(3)に、散乱体作製領域の空孔層の一部を拡大した写真を示す。空孔がランダムに配置されていることが確認できる。
【0040】
(シミュレーションについて)
次に、実際に作製した光散乱体について、シミュレーション結果との比較を行う。先ず、シミュレーションの概要を説明する。多孔媒質の光散乱体による散乱は、媒体と空孔との間に屈折率分布が生じ、位相変調が起きる。各層ごとにこの変化が繰り返し生じることで位相が変調され、マクロでとらえれば散乱となる。すなわち、この位相変調の影響を光波の伝播に付加することにより多孔媒質による散乱をシミュレーション可能となる。
図6に、媒体と空孔との間に屈折率分布が生じ、位相変調が起こる様子を示す。
【0041】
シミュレーションでは、光散乱体を入力光が伝播する様子を解析し、その出力光強度分布を観測することで散乱の様子を調べる。入力光としてガウシアンビームを用いた。この解析において、光の回折による広がりと多孔媒質の空孔による影響とを独立した現象としてとらえた。このときの光の回折による広がりを計算する方法として、角スペクトル伝播を用い、多孔媒質における空孔の影響にスカラー回折理論による位相変調を用いた。
【0042】
本シミュレーションにおいて、光の回折による広がりを計算する方法として用いた角スペクトル伝播の数式(下記(1))と、多孔媒質による空孔の影響に用いたスカラー回折理論による位相変調の数式(下記(2))を示す。
ここで、A(α/λ,β/λ)は角スペクトル、λは波長、zは伝播距離、nは媒体の屈折率、URは入力、USは出力、Δnは屈折率差である。
【0043】
【数2】
【0044】
【数3】
【0045】
このシミュレーションを用いて、様々な条件での孔密度の変化に対する散乱の影響(散乱の大きさの変化)を解析した。入力はビーム径が100μmのガウシアンビームを用いた。このときの層方向の厚さは約1mmに設定している。そして、様々な空孔構造条件の結果を孔密度に注目して整理した。
【0046】
孔密度と出力ビーム径の関係を図7に示す。図7のグラフから孔密度によってビーム径が決まることがわかる。また、比較データとして、図8にモンテカルロシミュレーションによる散乱係数とビーム径の関係を示す。図7と図8を比較すると、共に同じような傾向(ビーム径が極大値に到達した後徐々に狭まっていく様子)が確認できる。この計算結果から、孔密度と出力ビーム径の関係が図7および図8となることが理解できる。
【0047】
次に、孔密度に対する出力光強度のビーム径について、孔径の奥行きの長さとの関連性について調べた。図9に実験結果を示す。また、数値計算したものを図10に示す。図10に示すように、孔径の奥行きの長さに依存して出力光強度のビーム径のピーク位置が移動するが、孔径の奥行きの長さが異なった場合でも、共にひとつのピークを持ち、上に凸の形状は同じである。ピーク位置の移動は、ひとつの孔径とその周囲との位相差に依存する。位相差が小さい場合には、ピーク位置は孔密度が大きい方に移動する。この結果より孔密度とビーム径の定量的な関係は、孔の大きさにも依存することがわかる。
【0048】
また、図11は、モンテカルロシミュレーションにより、散乱係数に対する出力光強度のビーム径を調べた結果である。図11のグラフも図9のグラフと同じ形状を持っていることが確認できる。従って、空孔の大きさと密度分布によって散乱係数の制御が可能であることが定性的に理解できる。なお、ミー散乱理論からも粒子数と散乱係数が比例する結果を得ており、空孔にも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明に係る光情報記憶媒体は、個人認証システムに用いることができる。
【符号の説明】
【0050】
1 光情報記憶媒体
2 光散乱体
3 吸収体
11 レーザー光源(増幅チタンサファイアレーザー)
12 半波長板
13 偏光子
14 NDフィルタ
15 シャッター
16 ダイクロイックミラー
17 対物レンズ
18 絞り
20 材料
21 3軸移動ステージ
22 処理コンピュータ
23 CCDイメージセンサ
24 レンズ
【技術分野】
【0001】
本発明は、光情報記憶媒体とその作製方法に関するものであり、特に、光情報記憶媒体における光散乱体の作製方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今、ユビキタス情報社会への発展へ向け、様々な要素技術の開発が進められている。本発明者は、既に、薄型、大容量記録可能、環境に優しくリサイクル可能、データ保護機能を有する次世代光メモリとして、吸収体を含有する散乱体メディアを提案している。この散乱体メディアは、光を拡散させる性質をもつ光散乱体の内部に、情報として光のエネルギーを吸収する吸収体というものを埋め込むことで構成されるものである。この散乱体メディアは、1mm以下の薄型化が可能で、高い情報秘匿性を持ち、使い捨ての用途が可能であるといった特徴を有する。
【0003】
上記の散乱体メディアの情報再生の原理を簡単に説明する。先ず、散乱体メディアに光を照射することにより出力光強度分布を得る。この強度分布は、吸収体がエネルギーを吸収するため、内部構造を反映したものとなっている。すなわち、入射光は、散乱体メディアの媒質の吸収成分に加えて、内部に埋め込まれた吸収体によって大きく減衰される。そのため、出力面においては物体の内部構造固有の出力光強度分布が得られ、これをもとに内部構造の推定を行えることになる。
【0004】
また光散乱体によって,出力光強度分布からは吸収体の3次元位置や大きさを分からなくすることができる。また、光散乱体に入射した光は多重散乱により光の位相情報が欠落するため、内部の吸収分布を干渉計測により求めることが困難となる。そのため、吸収体を光散乱体の内部に埋め込むことで安全な情報として利用することができる。この吸収体の個数,それぞれの位置(3次元座標),サイズを情報として扱うことで個人認証および情報秘匿記録を行うのである。
【0005】
しかしながら、散乱体メディアに光を照射することにより出力される出力光は、光散乱体により拡散されていることから、この強度分布のみでは吸収体を再構成することが不可能である。言い換えると、光散乱体に入射した光は多重散乱により光の位相情報が欠落するため、内部構造固有の出力光強度分布のみでは内部の吸収体情報を再現することは不可能である。そのため、散乱体メディアの作製者は、散乱係数分布が既知であるとして散乱体モデルを構築することになる。物体内部の固有構造を割り出す際に、散乱係数分布の情報から得られる重み関数を用いた再構成アルゴリズムを用いる。すなわち、かかる散乱体モデルの出力光強度分布と、散乱係数から得られる重み関数と、散乱体メディアの出力光強度分布の3つを用いて、再構成アルゴリズムを適用することにより吸収体の再構成を行なうのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特願2008−83559号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、情報として光エネルギー吸収体を光散乱体の内部に埋め込むことで安全な情報記録媒体として利用する際、光散乱体により位相情報が欠落することから、散乱係数分布が既知である場合にのみ光吸収体(情報)の再構成が可能となる。
すなわち、光散乱体の内部に吸収体を埋め込み、その吸収体の位置(3次元座標)・個数・サイズを情報として扱うことにより、個人認証ならびに情報秘匿記録を行うといったシステム構築には、光散乱体の作製技術が必要不可欠である。
【0008】
しかしながら、従来、散乱係数を制御する技術については、濃度を変えるものであった。この場合、ある程度の大きさの容器で作製する必要があり、上述した散乱体メディアの如く、微小な厚さの3次元空間内で散乱係数を複雑に制御することは極めて困難である。現状、散乱体メディアにおいて、吸収体の再構成に必要不可欠となる散乱係数が制御された光散乱体の作製技術が確立されていない状況である。
【0009】
このような状況に鑑み、本発明は、散乱体メディアにおいて、吸収体の再構成に必要不可欠となる散乱係数が制御された光散乱体、並びに光散乱体の作製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決すべく、本発明の光情報記録媒体は、3次元構造の光散乱体中に埋め込まれた光エネルギー吸収体とからなる光情報記録媒体において、光散乱体が多孔質媒質であり、その散乱係数分布が前記光散乱体中の空孔の大きさと密度分布によって制御された構成とされる。
【0011】
本発明者は、鋭意研究を進める中で、光散乱体の散乱係数分布を光散乱体中の空孔密度分布によって制御可能であることを見出した。
ここで、多孔質媒質の光散乱体とは、ガラスやポリマー樹脂等の材料内部に空孔を多数空けることにより作製された散乱体をいう。空孔を空ける際のパラメータとしては、孔径と孔密度である。多孔媒質の光散乱体は、ポリマー等を材料として用いることができるため、安価で交換可能であり、さらに再利用も可能であるため使い捨ての用途にも使用できる利点がある。
【0012】
また、本発明の光情報記録媒体において、多孔質媒質は、ガラス内部もしくはポリマー内部に空孔を作製したものであり、空孔密度分布は、フェムト秒レーザーを集光させて光散乱体中に空孔を作製する際に、集光点をランダムに走査させ、若しくは、ランダム空間パターンとして形成させたものであることが好ましい。
空孔を3次元的にランダムな位置,孔径で作製することにより、高い秘匿性を実現できる。ここで、フェムト秒レーザーには、パルスレーザーから連続発振レーザーを含んでいる。
【0013】
ここで、光散乱体の散乱係数分布において、空孔における散乱の度合いは、前記フェムト秒レーザーの出力光強度分布のビーム径、若しくは、照射エネルギーにより制御されることが好ましい。
フェムト秒レーザーの出力光強度分布のビーム径や照射エネルギーにより、空孔の大きさを制御して散乱の度合いを制御する。
【0014】
また、空孔密度分布は、集光点をランダムに走査させ、若しくは、ランダム空間パターンとして形成させる場合に、1方向もしくは複数方向に周期構造を設けることが、より好ましい。
理想的には空孔を3次元的にランダムな位置,孔径で作製することが望まれるが、フェムト秒レーザー光照射による孔加工では時間がかかるため実用的ではない。そのため、フェムト秒レーザーのパルス光の周期性と移動ステージを組み合わせることで周期構造を設け、多孔媒質の光散乱体の作製時間の短縮を図りつつ、ランダム性を確保する。
【0015】
また、空孔密度分布は、集光点をランダムに走査させ、若しくは、ランダム空間パターンとして形成させる場合に、層構造とし、層間隔を一定もしくはランダムとすることがより好ましい。
各層の内部には、集光点をランダムに走査させたり、ランダム空間パターンとして形成させたりして、ランダム性を確保し、層間隔を一定もしくはランダムとすることにより、多孔媒質の3次元光散乱体の作製時間の短縮を図る。
【0016】
また、空孔密度分布は、予め設計された空孔分布を金型成型によって作製された層状の光散乱体を複数重ね合わせたものであることがより好ましい。
予め設計された空孔分布にランダム性を持たせて、各層にランダム性を確保し、複数の層を重ね合わせることにより、多孔媒質の3次元光散乱体の作製時間の短縮を図る。
ここで、金型成型で作製する孔のサイズは数ナノメートル〜数マイクロメートルとなり、計算によって設計されたマイクロメートルサイズ以下の多数の孔構造を形成するために、ナノインプリント技術を用いることができる。
【0017】
次に、本発明の光情報記録媒体の作製方法は、3次元構造の光散乱体中に埋め込まれた光エネルギー吸収体とからなる光情報記録媒体の作製方法であって、
(1)均一媒質の3次元構造体を準備する準備工程と、
(2)フェムト秒レーザーを集光させて前記光散乱体中に空孔を作製する空孔作製工程と、
(3)光散乱体中に前記光エネルギー吸収体を配置させる吸収体配置工程と、
から成り、上記(2)の空孔作製工程において、フェムト秒レーザーの集光点をランダムに走査させ、若しくは、ランダム空間パターンとして形成させ、光散乱体中の空孔の大きさと密度分布を制御することにより、光散乱体の散乱係数分布を制御する。
【0018】
ここで、上記(2)の空孔作製工程における光散乱体の散乱係数分布において、空孔における散乱の度合いを、フェムト秒レーザーの出力光強度分布のビーム径、若しくは、照射エネルギーにより制御することが好ましい。
フェムト秒レーザーの出力光強度分布のビーム径や照射エネルギーにより、空孔の大きさを制御して散乱の度合いを制御する。
【0019】
また、上記(2)の空孔作製工程において、空孔密度分布は、集光点をランダムに走査させ、若しくは、ランダム空間パターンとして形成させる場合に、1方向もしくは複数方向に周期構造を設けることが、より好ましい。
理想的には空孔を3次元的にランダムな位置,孔径で作製することが望まれるが、フェムト秒レーザー光照射による孔加工では時間がかかるため実用的ではない。そのため、フェムト秒レーザーのパルス光の周期性と移動ステージを組み合わせることで周期構造を設け、多孔媒質の光散乱体の作製時間の短縮を図りつつ、ランダム性を確保するためである。
【0020】
また、上記(2)の空孔作製工程において、空孔密度分布は、集光点をランダムに走査させ、若しくは、ランダム空間パターンとして形成させる場合に、層構造とし、層間隔を一定もしくはランダムとすることが、より好ましい。
各層の内部には、集光点をランダムに走査させたり、ランダム空間パターンとして形成させたりして、ランダム性を確保し、層間隔を一定もしくはランダムとすることにより、多孔媒質の3次元光散乱体の作製時間の短縮を図るためである。
【0021】
また、本発明の光情報記録媒体の作製方法は、3次元構造の光散乱体中に埋め込まれた光エネルギー吸収体とからなる光情報記録媒体の作製方法であって、
(1)予め設計された空孔分布を金型成型によって作製された層状の光散乱体を複数重ね合わせて、光散乱体中に空孔を作製する空孔作製工程と、
(2)光散乱体中に前記光エネルギー吸収体を配置させる吸収体配置工程と、
から成り、上記(2)の空孔作製工程において、光散乱体中の空孔の大きさと密度分布を制御することにより、光散乱体の散乱係数分布を制御する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、散乱体メディアにおいて、吸収体の再構成に必要不可欠となる散乱係数分布が制御された光散乱体を得られることができ、散乱係数分布の情報から得られる重み関数を用いた再構成アルゴリズムを用いて、光散乱体内部に情報として埋め込まれた吸収体の情報を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】情報秘匿記録の散乱体メディアの概要図
【図2】散乱体メディアにおける情報再生の概要図
【図3】多孔媒質の光散乱体の作製光学系の説明図
【図4】多孔構造を2次元の平面領域に作製し、それを層状に繰り返し重ねることで3次元の光散乱体を作製するイメージ図
【図5】作製した光散乱体を示す図
【図6】媒体と空孔との間に屈折率分布が生じ、位相変調が起こる様子を示す図
【図7】作製した光散乱体の孔密度と出力ビーム径の関係を示すグラフ図
【図8】モンテカルロシミュレーションによる散乱係数とビーム径の関係を示すグラフ図
【図9】孔密度に対する出力光強度のビーム径について、孔径の奥行きの長さとの関連性を調べた実験結果を示すグラフ図
【図10】孔密度に対する出力光強度のビーム径について、孔径の奥行きの長さとの関連性を数値計算したグラフ図
【図11】モンテカルロシミュレーションにより、散乱係数に対する出力光強度のビーム径を調べた結果を示すグラフ図
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態の一例を、図面を参照しながら詳細に説明していく。なお、本発明の範囲は、以下の実施例や図示例に限定されるものではなく、幾多の変更及び変形が可能である。
【0025】
図1に情報秘匿記録の散乱体メディアの概要を示す。情報秘匿記録のための散乱体メディアでは、光散乱体の内部に吸収体を埋め込むことで情報として利用する。散乱体メディアに入射した光は、媒質の吸収成分に加えて吸収体によって大きく減衰されるため、出力面においては物体の内部構造固有の出力光強度分布が得られ、これをもとに内部構造の推定を行う。これにより吸収体の情報を再構成することが可能となる。一方、散乱体メディアでは、光散乱体の物理的性質を利用し、光散乱体によって、出力光強度分布からは吸収体の3次元位置や大きさを秘匿できる。
【0026】
また、光散乱体に入射した光は多重散乱により光の位相情報が欠落するため、内部の吸収分布を干渉計測により求めることが困難となる。従って、吸収体を光散乱体の内部に埋め込むことで安全な情報として利用できる。また、光散乱体の内部に埋め込まれた吸収体の個数,それぞれの位置(3次元座標),サイズを情報として扱うことにより、個人認証および情報秘匿記録に利用する。
【0027】
この場合、位相情報の欠落のため、内部構造固有の出力光強度分布のみでは内部の吸収体の情報(個数、位置、サイズ)を再現することは不可能となる。そこで、散乱体メディアの作製者は光散乱体の散乱係数分布が既知となるように、光散乱体を作製する必要がある。
【0028】
図2に散乱体メディアにおける情報再生の概要を示す。図に示すように、散乱体メディアに光を照射することにより出力光強度分布を得る。この強度分布は、吸収体がエネルギーを吸収するため、内部構造を反映したものとなっている。この出力光は散乱体により拡散されており、強度分布のみでは吸収体を再構成できない。そのため、作製者は散乱係数分布(μs)が制御された散乱体モデルを構築する。この散乱体モデルの出力光強度分布(Ibase)と、散乱係数分布(μs)から得られる重み関数(W)、散乱体メディアの出力光強度分布(Imeasured)の3つを用いて、下記数式を用いて、吸収体変化分布(μa)を算出する。
【0029】
【数1】
【0030】
情報再生において光散乱体の散乱係数分布の情報が必要であり、このために散乱係数を容易に制御できる光散乱体の作製技術が必要となる。以下では、光散乱体の作製方法について具体的に説明する。
【0031】
(多孔媒質の光散乱体の作製方法について)
図3は、多孔媒質の光散乱体の作製光学系を示している。図に示すように、レーザー光源(増幅チタンサファイアレーザー)11から照射されたレーザーを対物レンズ17で光散乱体の材料20の内部に集光することにより、光散乱体内に空孔を空けた。空孔を空ける位置を変更するには、3軸移動ステージ21により光散乱体の材料を動かすことで行った。光源のレーザーは周期パルス光を用いており、このパルス光と3軸移動ステージ21を組み合わせることによって空孔構造を形成した。
【0032】
ここで、光源のパルスレーザー光は中心波長 800nm、繰り返し周波数 1kHz、パルス幅 100fs、最大平均出力
1W であり、対物レンズはNA 0.8のものを使用した。
また、光散乱体の材料20の下から光を照射し、対物レンズ17を通してCCDイメージセンサ23で認識させることにより、空孔を空けている位置の拡大図を観測した。
【0033】
図3に示すように、光散乱体内部の空孔はレーザー光を対物レンズで試料内部に集光することで形成される。レーザー光は周期パルス光を用いるため、材料20を3軸移動ステージ21で動かすことで周期的に空孔が形成される。移動ステージは、x,y,z軸の各軸が独立して稼働する。そのため、完全にランダムな空孔の構造を作製するには、シャッターによる光波のブロックと合わせることが必要であり、非常に時間がかかる。そこで、パルス光の周期性と3軸の移動ステージを組み合わせることで作業時間を短縮し、周期性の次元を変えて散乱の度合いを制御した。
【0034】
光散乱体を作製するための透明材料には、PMMA(Poly-Methyl
Methacrirate)を使用した。
【0035】
ポリマーPMMAに対して、フェムト秒光パルスレーザーを集光させて、集光させた領域にマイクロエクスプロージョンまたはアブレーションを発生させてポリマーPMMAにサイズの異なる空孔を生成する。
ポリマーPMMAの内部にフェムト秒光パルスレーザーを用いて多数の空孔を空けることにより、多孔媒質の光散乱体が作製される際、理想的には、空孔は3次元位置,孔径ともにランダムに作製される方が好ましい。
【0036】
しかしながら、作製時の制御に時間がかかるため実用的ではない。そこで、作製時間短縮のためにパルス光と3軸移動ステージを用いることで、図4(2)に示すように、多孔構造を2次元の平面領域に作製し、それを層状に繰り返し重ねることで3次元の光散乱体を作製する。
【0037】
ここで、図4(1)は、空孔の3次元位置と孔径が完全にランダムな状態のイメージ図を示している。一方、図4(2)は、一部周期構造を設けたものであり、孔径は全て等しく、層構造を有し、層間隔がランダムに設けられた状態のイメージ図を示している。層の面内の一方向のみランダムな周期構造(例えば、列毎に周期がランダム)になっている。
すなわち、各軸の周期性を崩すときに、層方向は完全にランダムにすることができるが、面方向では2軸を同時にランダムにすることができないため、一方の軸は一列を見れば周期性を持つが、列ごとにその間隔をランダムにすることで周期性を崩すことにするものである。
【0038】
(光散乱体の作製)
図5に実際に作製した光散乱体を示す。作製条件を以下に示す。
・ 材料に透明高分子材料 PMMA(ポリメタクリル酸メチル樹脂)を使用
・ 空孔構造条件:面方向が3〜7μmでランダム、層方向が3〜7μmでランダムの100層の周期構造,(Δx、Δy、Δz)=(3〜7,3〜7,3〜7)μm
・ 空孔数:約1770万個
・ 密度:約2%
・ 作製時間:約11.5時間
【0039】
図5(1)は、作製した光散乱体の写真を示している。図5(1)において、PMMAは透明であり、散乱体作製領域が白くなって見える。この白くなって見える部分が空孔が空いている領域になる。空孔を空けることでは吸収変化はほとんど起きないため、白くなっているのは散乱が生じている結果である。
また、図5(2)は、散乱体作製領域の構造を示している。空孔がランダムに配置された空孔層が100層重なった構造となっている。図5(3)に、散乱体作製領域の空孔層の一部を拡大した写真を示す。空孔がランダムに配置されていることが確認できる。
【0040】
(シミュレーションについて)
次に、実際に作製した光散乱体について、シミュレーション結果との比較を行う。先ず、シミュレーションの概要を説明する。多孔媒質の光散乱体による散乱は、媒体と空孔との間に屈折率分布が生じ、位相変調が起きる。各層ごとにこの変化が繰り返し生じることで位相が変調され、マクロでとらえれば散乱となる。すなわち、この位相変調の影響を光波の伝播に付加することにより多孔媒質による散乱をシミュレーション可能となる。
図6に、媒体と空孔との間に屈折率分布が生じ、位相変調が起こる様子を示す。
【0041】
シミュレーションでは、光散乱体を入力光が伝播する様子を解析し、その出力光強度分布を観測することで散乱の様子を調べる。入力光としてガウシアンビームを用いた。この解析において、光の回折による広がりと多孔媒質の空孔による影響とを独立した現象としてとらえた。このときの光の回折による広がりを計算する方法として、角スペクトル伝播を用い、多孔媒質における空孔の影響にスカラー回折理論による位相変調を用いた。
【0042】
本シミュレーションにおいて、光の回折による広がりを計算する方法として用いた角スペクトル伝播の数式(下記(1))と、多孔媒質による空孔の影響に用いたスカラー回折理論による位相変調の数式(下記(2))を示す。
ここで、A(α/λ,β/λ)は角スペクトル、λは波長、zは伝播距離、nは媒体の屈折率、URは入力、USは出力、Δnは屈折率差である。
【0043】
【数2】
【0044】
【数3】
【0045】
このシミュレーションを用いて、様々な条件での孔密度の変化に対する散乱の影響(散乱の大きさの変化)を解析した。入力はビーム径が100μmのガウシアンビームを用いた。このときの層方向の厚さは約1mmに設定している。そして、様々な空孔構造条件の結果を孔密度に注目して整理した。
【0046】
孔密度と出力ビーム径の関係を図7に示す。図7のグラフから孔密度によってビーム径が決まることがわかる。また、比較データとして、図8にモンテカルロシミュレーションによる散乱係数とビーム径の関係を示す。図7と図8を比較すると、共に同じような傾向(ビーム径が極大値に到達した後徐々に狭まっていく様子)が確認できる。この計算結果から、孔密度と出力ビーム径の関係が図7および図8となることが理解できる。
【0047】
次に、孔密度に対する出力光強度のビーム径について、孔径の奥行きの長さとの関連性について調べた。図9に実験結果を示す。また、数値計算したものを図10に示す。図10に示すように、孔径の奥行きの長さに依存して出力光強度のビーム径のピーク位置が移動するが、孔径の奥行きの長さが異なった場合でも、共にひとつのピークを持ち、上に凸の形状は同じである。ピーク位置の移動は、ひとつの孔径とその周囲との位相差に依存する。位相差が小さい場合には、ピーク位置は孔密度が大きい方に移動する。この結果より孔密度とビーム径の定量的な関係は、孔の大きさにも依存することがわかる。
【0048】
また、図11は、モンテカルロシミュレーションにより、散乱係数に対する出力光強度のビーム径を調べた結果である。図11のグラフも図9のグラフと同じ形状を持っていることが確認できる。従って、空孔の大きさと密度分布によって散乱係数の制御が可能であることが定性的に理解できる。なお、ミー散乱理論からも粒子数と散乱係数が比例する結果を得ており、空孔にも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明に係る光情報記憶媒体は、個人認証システムに用いることができる。
【符号の説明】
【0050】
1 光情報記憶媒体
2 光散乱体
3 吸収体
11 レーザー光源(増幅チタンサファイアレーザー)
12 半波長板
13 偏光子
14 NDフィルタ
15 シャッター
16 ダイクロイックミラー
17 対物レンズ
18 絞り
20 材料
21 3軸移動ステージ
22 処理コンピュータ
23 CCDイメージセンサ
24 レンズ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3次元構造の光散乱体中に埋め込まれた光エネルギー吸収体とからなる光情報記録媒体において、前記光散乱体が多孔質媒質であり、その散乱係数分布が前記光散乱体中の空孔の大きさと密度分布によって制御されたことを特徴とする光情報記録媒体。
【請求項2】
前記多孔質媒質は、ガラス内部もしくはポリマー内部に空孔を作製したものであり、
前記空孔密度分布は、フェムト秒レーザーを集光させて前記光散乱体中に空孔を作製する際に、集光点をランダムに走査させ、若しくは、ランダム空間パターンとして形成させたものであることを特徴とする請求項1に記載の光情報記録媒体。
【請求項3】
前記光散乱体の散乱係数分布において、空孔における散乱の度合いは、前記フェムト秒レーザーの出力光強度分布のビーム径、若しくは、照射エネルギーにより制御されたことを特徴とする請求項2に記載の光情報記録媒体。
【請求項4】
前記空孔密度分布は、集光点をランダムに走査させ、若しくは、ランダム空間パターンとして形成させる場合に、1方向もしくは複数方向に周期構造を設けたものであることを特徴とする請求項2に記載の光情報記録媒体。
【請求項5】
前記空孔密度分布は、集光点をランダムに走査させ、若しくは、ランダム空間パターンとして形成させる場合に、層構造とし、層間隔を一定もしくはランダムとしたものであることを特徴とする請求項2に記載の光情報記録媒体。
【請求項6】
前記空孔密度分布は、予め設計された空孔分布を金型成型によって作製された層状の光散乱体を複数重ね合わせたものであることを特徴とする請求項1に記載の光情報記録媒体。
【請求項7】
三次元構造の光散乱体中に埋め込まれた光エネルギー吸収体とからなる光情報記録媒体の作製方法であって、均一媒質の3次元構造体を準備する準備工程と、フェムト秒レーザーを集光させて前記光散乱体中に空孔を作製する空孔作製工程と、光散乱体中に前記光エネルギー吸収体を配置させる吸収体配置工程と、から成り、前記空孔作製工程において、前記フェムト秒レーザーの集光点をランダムに走査させ、若しくは、ランダム空間パターンとして形成させ、前記光散乱体中の空孔の大きさと密度分布を制御することにより、前記光散乱体の散乱係数分布を制御することを特徴とする光情報記録媒体の作製方法。
【請求項8】
前記空孔作製工程における光散乱体の散乱係数分布において、空孔における散乱の度合いを、前記フェムト秒レーザーの出力光強度分布のビーム径、若しくは、照射エネルギーにより制御することを特徴とする請求項7に記載の光情報記録媒体の作製方法。
【請求項9】
前記空孔作製工程において、前記空孔密度分布は、集光点をランダムに走査させ、若しくは、ランダム空間パターンとして形成させる場合に、1方向もしくは複数方向に周期構造を設けることを特徴とする請求項7に記載の光情報記録媒体の作製方法。
【請求項10】
前記空孔作製工程において、前記空孔密度分布は、集光点をランダムに走査させ、若しくは、ランダム空間パターンとして形成させる場合に、層構造とし、層間隔を一定もしくはランダムとすることを特徴とする請求項7に記載の光情報記録媒体の作製方法。
【請求項11】
3次元構造の光散乱体中に埋め込まれた光エネルギー吸収体とからなる光情報記録媒体の作製方法であって、予め設計された空孔分布を金型成型によって作製された層状の光散乱体を複数重ね合わせて、前記光散乱体中に空孔を作製する空孔作製工程と、光散乱体中に前記光エネルギー吸収体を配置させる吸収体配置工程から成り、前記空孔作製工程において、前記光散乱体中の空孔の大きさと密度分布を制御することにより、前記光散乱体の散乱係数分布を制御することを特徴とする光情報記録媒体の作製方法。
【請求項1】
3次元構造の光散乱体中に埋め込まれた光エネルギー吸収体とからなる光情報記録媒体において、前記光散乱体が多孔質媒質であり、その散乱係数分布が前記光散乱体中の空孔の大きさと密度分布によって制御されたことを特徴とする光情報記録媒体。
【請求項2】
前記多孔質媒質は、ガラス内部もしくはポリマー内部に空孔を作製したものであり、
前記空孔密度分布は、フェムト秒レーザーを集光させて前記光散乱体中に空孔を作製する際に、集光点をランダムに走査させ、若しくは、ランダム空間パターンとして形成させたものであることを特徴とする請求項1に記載の光情報記録媒体。
【請求項3】
前記光散乱体の散乱係数分布において、空孔における散乱の度合いは、前記フェムト秒レーザーの出力光強度分布のビーム径、若しくは、照射エネルギーにより制御されたことを特徴とする請求項2に記載の光情報記録媒体。
【請求項4】
前記空孔密度分布は、集光点をランダムに走査させ、若しくは、ランダム空間パターンとして形成させる場合に、1方向もしくは複数方向に周期構造を設けたものであることを特徴とする請求項2に記載の光情報記録媒体。
【請求項5】
前記空孔密度分布は、集光点をランダムに走査させ、若しくは、ランダム空間パターンとして形成させる場合に、層構造とし、層間隔を一定もしくはランダムとしたものであることを特徴とする請求項2に記載の光情報記録媒体。
【請求項6】
前記空孔密度分布は、予め設計された空孔分布を金型成型によって作製された層状の光散乱体を複数重ね合わせたものであることを特徴とする請求項1に記載の光情報記録媒体。
【請求項7】
三次元構造の光散乱体中に埋め込まれた光エネルギー吸収体とからなる光情報記録媒体の作製方法であって、均一媒質の3次元構造体を準備する準備工程と、フェムト秒レーザーを集光させて前記光散乱体中に空孔を作製する空孔作製工程と、光散乱体中に前記光エネルギー吸収体を配置させる吸収体配置工程と、から成り、前記空孔作製工程において、前記フェムト秒レーザーの集光点をランダムに走査させ、若しくは、ランダム空間パターンとして形成させ、前記光散乱体中の空孔の大きさと密度分布を制御することにより、前記光散乱体の散乱係数分布を制御することを特徴とする光情報記録媒体の作製方法。
【請求項8】
前記空孔作製工程における光散乱体の散乱係数分布において、空孔における散乱の度合いを、前記フェムト秒レーザーの出力光強度分布のビーム径、若しくは、照射エネルギーにより制御することを特徴とする請求項7に記載の光情報記録媒体の作製方法。
【請求項9】
前記空孔作製工程において、前記空孔密度分布は、集光点をランダムに走査させ、若しくは、ランダム空間パターンとして形成させる場合に、1方向もしくは複数方向に周期構造を設けることを特徴とする請求項7に記載の光情報記録媒体の作製方法。
【請求項10】
前記空孔作製工程において、前記空孔密度分布は、集光点をランダムに走査させ、若しくは、ランダム空間パターンとして形成させる場合に、層構造とし、層間隔を一定もしくはランダムとすることを特徴とする請求項7に記載の光情報記録媒体の作製方法。
【請求項11】
3次元構造の光散乱体中に埋め込まれた光エネルギー吸収体とからなる光情報記録媒体の作製方法であって、予め設計された空孔分布を金型成型によって作製された層状の光散乱体を複数重ね合わせて、前記光散乱体中に空孔を作製する空孔作製工程と、光散乱体中に前記光エネルギー吸収体を配置させる吸収体配置工程から成り、前記空孔作製工程において、前記光散乱体中の空孔の大きさと密度分布を制御することにより、前記光散乱体の散乱係数分布を制御することを特徴とする光情報記録媒体の作製方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−54258(P2011−54258A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−205137(P2009−205137)
【出願日】平成21年9月4日(2009.9.4)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年3月4日 国立大学法人神戸大学工学部情報知能工学科主催の「国立大学法人神戸大学情報知能工学科 平成20年度卒業論文発表会」において文書をもって発表
【出願人】(504150450)国立大学法人神戸大学 (421)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月4日(2009.9.4)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年3月4日 国立大学法人神戸大学工学部情報知能工学科主催の「国立大学法人神戸大学情報知能工学科 平成20年度卒業論文発表会」において文書をもって発表
【出願人】(504150450)国立大学法人神戸大学 (421)
【Fターム(参考)】
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