説明

光情報記録媒体

【課題】保護層の引っ張り弾性率を低下させずに反りや損傷を抑制することができ、その上にハードコート層を形成する場合であっても、軟化点の低下、硬度の低下等のその機能を損なわさせず、また、クラックの発生を抑制したハードコート層を形成することができ、生産性に優れる光情報記録媒体を提供する。
【解決手段】基板上に、情報記録面、保護層A、及び、保護層Bが順に形成された光情報記録媒体であって、保護層A及び保護層Bが、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーと、(メタ)アクリロイル基を一つ以上有する反応性希釈剤とを含む組成物の硬化物からなり、保護層A及び保護層Bの合計の膜厚が90μm以上110μm以下であり、保護層Aの引っ張り弾性率が0.1MPa以上10MPa以下であり、保護層Aの膜厚が10μm以上50μm以下であり、保護層Bの引っ張り弾性率が200MPa以上2000MPa以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光情報記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大容量の情報記録媒体として各種高密度記録方式の提案がなされている。その中でも光情報記録方式の一つである光記録媒体、例えば光ディスクの大容量化は、おもに光情報記録方式に用いる光源となるレーザー光の短波長化により飛躍的に進展した。
【0003】
一般的に光ディスクは、ポリカーボネート等の透明基板上に、情報記録面を形成し、その上を覆うように情報記録面を保護するための透明保護層を積層して形成される。この透明保護層は、情報記録面を空気中の酸素、水分から保護すると共に、外部からの応力による情報記録面の損傷を防止する役割を有している。しかしながら、レーザー光の短波長化により、透明保護層の膜厚は従来の光ディスクに比べ薄くなっており、具体的には、450nm以下の波長のレーザー光を用いる光ディスクにおいてはその膜厚は0.1mmにまでになっている。
【0004】
この透明保護層を形成する方法として、情報記録面上に透明シートを接着剤で貼り付ける方法(特許文献1)や、活性エネルギー線硬化型の樹脂をスピンコート等により塗布・硬化して形成する方法(特許文献2)等が知られている。透明シートを貼着する方法は、透明基板と同じ材質、例えば、ポリカーボネート等のシートを使用することにより、情報記録面を挟み込む膜の材質が同じため、高温高湿度の耐久試験後でも光ディスクの反りが少ない等の利点がある。しかしながら、この方法は、透明シートから保護層を型抜きした後の端材等の損失が出る上、リサイクルも困難であることからコスト高になってしまうという問題がある。
【0005】
一方、活性エネルギー線硬化型樹脂を塗布・硬化する方法は、透明シートを貼着する方法に比べて安価に製造することが可能であり、また、塗料を再利用することにより更に低コスト化が図れるため、主要な方法として用いられている。活性エネルギー線硬化型樹脂としては、アクリル酸エステルを主成分とする紫外線硬化型樹脂が使用されることが多い。しかしながら、アクリル酸エステルを主成分とする紫外線硬化型樹脂から形成された保護層は、例えば、透明基板の材料として使用されるポリカーボネートとは引っ張り弾性率や吸水率が異なり、環境耐久試験(80℃、85%RH、100時間)の条件下にて放置するとディスクに反りが発生し、ディスクへの記録及び読み取りの際にエラーが発生する場合がある。また、保護層の損傷によるエラーの発生を防止するために、保護層の上層に更に薄膜のハードコート層を形成する場合、高温高湿環境下で使用する際の下層の反りが、ハードコート層のクラックや剥離を招来することもある。
【0006】
これらの問題を解決するために、ハードコート層の軟化点を透明保護層の軟化点よりも低くなるように調整する方法(特許文献3)や、透明保護層の引っ張り弾性率を低下させる方法等により反りを防止する工夫がなされている。しかし、ハードコート層の軟化点を低く調整する方法は、コロイダルシリカ等の無機物を含有させたとしてもハードコート層の低硬度化により、耐損傷性が低下するという問題点がある。
【0007】
また透明保護層の引っ張り弾性率を低下させる方法は、ディスクの反りの発生は抑制できるものの、クラックの発生を抑制するためにハードコート層の硬度をあまり上げることができず、ハードコート層を充分な耐損傷性が得られるような高硬度にすることができないという問題点がある。
【特許文献1】特開2003−45083号公報
【特許文献2】特開平8−235638号公報
【特許文献3】特開2006−65964号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、保護層の引っ張り弾性率を低下させずに反りや損傷を抑制することができ、その上にハードコート層を形成する場合であっても、軟化点の低下、硬度の低下等のその機能を損なわさせず、また、クラックの発生を抑制したハードコート層を形成することができ、保護層と反対側の基板面に保護層と同じ材質からなる層を形成する必要もなく、生産性に優れる光情報記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、光情報記録媒体について鋭意研究の結果、特定の材質で、特定の厚さを有し、引っ張り弾性率が異なる層を有する複数の保護層を設けることにより、反りや損傷の発生を最小限に抑えるとともに、保護層上にハードコート層を設ける場合、その性能を低下させることなく、クラックの発生を抑制することができることを見出し、かかる知見に基づき本発明を完成させるに至った。
【0010】
即ち、本発明は、基板上に、情報記録面、保護層A、及び、保護層Bが順に形成された光情報記録媒体であって、保護層A及び保護層Bが、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーと、(メタ)アクリロイル基を一つ以上有する反応性希釈剤とを含む組成物の硬化物からなり、保護層A及び保護層Bの合計の膜厚が90μm以上110μm以下であり、保護層Aの引っ張り弾性率が0.1MPa以上10MPa以下であり、保護層Aの膜厚が10μm以上50μm以下であり、保護層Bの引っ張り弾性率が200MPa以上2000MPa以下である光情報記録媒体に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、保護層の引っ張り弾性率を低下させずに反りや損傷を抑制することができ、ハードコート層をその上に形成する場合であっても、軟化点の低下、硬度の低下等のその機能を損なわさせず、また、クラックの発生を抑制したハードコート層を形成することができ、保護層と反対側の基板面に保護層と同じ材質からなる層を形成する必要もなく、生産性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の光情報記録媒体は、基板上に、情報記録面、保護層A、及び、保護層Bが順に形成された光情報記録媒体である。
【0013】
上記基板としては、その上に設けられる情報記録面、保護層を支持可能な強度を有するものである。基板の材質は、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂、アモルファスポリオレフィンよりなるプラスチック材料、ガラス、セラミックス、金属等が使用可能であるが、安価であること、案内溝等の形状を射出成型で容易に形成できること、また衝撃に強いこと等から、ポリカーボネートを用いることが好ましい。上記基板は、単層の場合、ある程度の剛性が要求されるため、0.6mm以上の厚さであることが好ましい。2枚貼り合わせた構造の場合は、1枚の厚みが0.3mm以上であることが好ましい。
【0014】
上記基板上に形成される情報記録面は、反射層、光記録層などから構成される。反射層は、入射光を効率よく使用した読み取り、記録を可能とする。反射層の材質は、金属元素、半金属元素、半導体元素及びこれらの元素の化合物を単独あるいは組み合わせて用いることができる。具体的には、Au、Ag、Cu、Al等の周知の光の反射材料から選択することができる。反射層の膜厚は、例えば、20nm以上200nm以下を挙げることができる。
【0015】
光記録層は、データーが記録される層である。光記録層の材質としては、レーザーの波長領域に適度な吸収を持つ化合物であれば有機化合物系、無機化合物系いずれであってもよい。具体的には、有機化合物系としては、シアニン、メロシアニン、フタロシアニン等、無機化合物系としてはTe、Se、Ge−Sb−Te、In−Sb−Te等を挙げることができる。
【0016】
上記光記録層の膜厚は記録される最小記録マークを再生可能な膜厚とすればよいが、例えば、10nm以上150nm以下を挙げることができる。
【0017】
上記情報記録面上に形成される保護層は、光が透過する層であって、情報記録面に対する外力による損傷を抑制する機能を有し、情報記録面への記録用、読み取り用のレーザーの入射量を低減させない透明性を有する。保護層は、引っ張り弾性率が相互に異なる保護層Aと保護層Bとを有し、低引っ張り弾性率の保護層Aと高引っ張り弾性率の保護層Bが順次情報記録面上に積層された構造を有する。このような構造を有することにより、内部に生じる応力の緩和を促進させ、軟化点の調整を行わずに光情報記録媒体における反りの発生を抑制し、ハードコート層を設ける場合においても、保護層の特性に拘わらず耐クラック性、耐損傷性に優れる充分な高硬度を有するハードコート層とすることができる。
【0018】
低引っ張り弾性率の保護層Aの引っ張り弾性率は、0.1MPa以上10MPa以下、好ましくは、0.5MPa以上5MPaである。保護層Aの引っ張り弾性率が0.1MPa以上であれば、保護層Aの粘着性が増加するのを抑制し、保護層A上に形成する保護層Bを平滑性、膜厚均一性に優れたものとすることができる。保護層Aの引っ張り弾性率が10MPa以下であれば、ポリカーボネート等の基板と保護層Bとの間の応力を充分に緩和することができ、反り、密着不良による剥離等を抑制することができる。
【0019】
高引っ張り弾性率の保護層Bの引っ張り弾性率は、200MPa以上2000MPa以下、好ましくは400MPa以上1500MPa以下である。保護層Bの引っ張り弾性率が200MPa以上であれば、保護層B上にハードコート層を設けた場合、充分な引っ張り弾性率を有することにより、ハードコート層におけるクラックの発生を抑制することができ、クラックの発生を抑制させるためのハードコート層の低硬度化の調整を不要とすることができる。保護層Bの引っ張り弾性率が2000MPa以下であれば、保護層Aにより保護層Bとポリカーボネート等の基板との間の応力を緩和することができ、反りや、各層間の密着不良による剥離等の発生を抑制することができる。
【0020】
上記引っ張り弾性率は、JIS K7127−1989に準拠し、23℃、相対湿度50%の環境下において、測定した測定値を採用することができる。具体的には、標線間距離を50mm、引張速度20mm/分とすること以外は、JIS K7127−1989に準拠した測定による測定値を採用することができる。
【0021】
上記保護層A、保護層Bはいずれも、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーと、(メタ)アクリロイル基を一つ以上有する反応性希釈剤とを含む組成物を硬化させて形成することができる。保護層がウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーを原料とすることにより、保護層への弾性及び柔軟性を付与し、湿度、温度変化時の光情報記録媒体のそり発生の緩和等の効果を得ることができ、(メタ)アクリロイル基を一つ以上有する反応性希釈剤を原料とすることにより、保護層組成物の粘度調整、反応性付与等の効果を得ることができる。組成物中に含まれるウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーとしては、例えば、イソシアネートに、分子中に1個以上の(メタ)アクリロイルオキシ基と、1個のNCO反応性ヒドロキシ基を有するヒドロキシ基含有(メタ)アクリル酸エステルを反応させた生成物、又は、多価アルコールの水酸基にジイソシアネートを付加させた後、分子中に1個以上の(メタ)アクリロイルオキシ基と、1個のNCO反応性ヒドロキシ基を有するヒドロキシ基含有(メタ)アクリル酸エステルを反応して得られる生成物等を用いることができる。未反応のヒドロキシ基や未反応のNCO基が少なくなるようなモル比で、これらの原料を反応させることが好ましい。このようにして得られたウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーの質量平均分子量は、500以上30000以下が好ましく、1000以上8000以下であることがより好ましい。質量平均分子量が500以上であれば、ウレタン(メタ)アクリレートの特徴である柔軟性、弾性、靭性を充分に発揮できる。また、質量平均分子量が30000以下であれば、組成物とした場合の反応性希釈剤との組み合わせにより塗膜形成可能な粘度に調整可能である。
【0022】
上記イソシアネートやジイソシアネートとしては、例えば、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、1,3−キシリレンジイソシアネート、1,4−キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ビス(4−イソシアナトシクロヘキシル)メタン、1,3−ビスイソシアナトメチルシクロヘキサン、1,4−ビスイソシアナトメチルシクロヘキサン、ノルボルナンジイソシアネート等のイソシアネートや、これらの二量体や三量体等を挙げることができる。分子中に1個以上の(メタ)アクリロイルオキシ基、及び1個のNCO反応性ヒドロキシ基を有するヒドロキシ基含有(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。また、上記多価アルコールとしては、例えば、アルカンジオール、ポリエーテルジオール、ポリブタジエンジオール、ポリエステルジオール、ポリアルキレンカーボネートジオール、スピログリコール、アミドヒドロキシ化合物等を挙げることができる。これらのイソシアネート又はジイソシアネートや、(メタ)アクリル酸エステル、多価アルコールはそれぞれ1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0023】
上記(メタ)アクリロイル基を一つ以上有する反応性希釈剤としては、活性エネルギー線によって反応する希釈モノマー、又はオリゴマーであれば特に限定するものではないが、例えば、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ノルボルニル、2−(メタ)アクリロイルオキシメチル−2−メチルビシクロヘプタン、(メタ)アクリル酸アダマンチル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸テトラシクロドデカニル、(2−メチル−2―エチル−1,3−ジオキソラン−4−イル)メチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸−4−t−ブチルシクロヘキシル等の単官能(メタ)アクリル酸エステル類、
トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリル酸エステル、トリスエトキシレーテッドトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリル酸エステル、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリル酸エステル、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリル酸エステル、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリル酸エステル、エトキシレーテッドペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリル酸エステル、エトキシレーテッドペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリル酸エステル、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリル酸エステル、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリル酸エステル、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリル酸エステル、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリル酸エステル、ビス(2−アクリロイルオキシエチル)ヒドロキシエチルイソシアヌレート、トリス(2−アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、ジ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸1,3−ブチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸1,4−ブタンジオール、ジ(メタ)アクリル酸1,6−ヘキサンジオール、ジ(メタ)アクリル酸1,9−ノナンジオール、ジ(メタ)アクリル酸1,10−デカンジオール、ジ(メタ)アクリル酸ネオペンチルグリコール、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリル酸エステル、ジ(メタ)アクリル酸テトラエチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸トリプロピレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸トリシクロデカンジメタノール、ジ(メタ)アクリル酸ポリエトキシレーテッドビスフェノールA、ジ(メタ)アクリル酸ポリプロポキシレーテッドビスフェノールA、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールのε−カプロラクトン付加物(n+m=2〜5)等のジ(メタ)アクリル酸エステル類、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールのγ−ブチロラクトン付加物(n+m=2〜5)のジ(メタ)アクリル酸エステル、ネオペンチルグリコールのカプロラクトン付加物(n+m=2〜5)のジ(メタ)アクリル酸エステル、ブチレングリコールのカプロラクトン付加物(n+m=2〜5)のジ(メタ)アクリル酸エステル、シクロヘキサンジメタノールのカプロラクトン付加物(n+m=2〜5)のジ(メタ)アクリル酸エステル、ジシクロペンタンジオールのカプロラクトン付加物(n+m=2〜5)のジ(メタ)アクリル酸エステル、ビスフェノールAのカプロラクトン付加物(n+m=2〜5)のジ(メタ)アクリル酸エステル、ビスフェノールFのカプロラクトン付加物(n+m=2〜5)のジ(メタ)アクリル酸エステル等の(メタ)アクリル酸エステル類等の2官能や多官能の(メタ)アクリル酸エステル類等を挙げることができる。ここで、n、mはそれぞれ付加された基の繰返し単位数を示す。
【0024】
これらは適宜組み合わせて使用することができるが、低引っ張り弾性率の保護層Aの場合、反応性希釈剤としては、保護層Aを上記範囲の引っ張り弾性率を有するように調整することが容易であるため、上記単官能(メタ)アクリル酸エステル類から選択することが好ましい。なかでも(メタ)アクリル酸−4−t−ブチルシクロヘキシルは、高温高湿度環境下での情報記録面の保護性能が良好で、かつ、上記範囲の引っ張り弾性率を得ることができるため特に好ましい。
【0025】
硬化して保護層Aを形成する組成物中の上記ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーと、上記反応性希釈剤の含有量は、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーが5質量%以上70質量%以下、反応性希釈剤の含有量は30質量%以上94質量%以下であることが好ましい。更に、(メタ)アクリル酸−4−t−ブチルシクロヘキシルを組成物中に、10質量%以上40質量%以下の範囲で含有することが好ましい。(メタ)アクリル酸−4−t−ブチルシクロヘキシルが組成物中にこの範囲で含まれることにより保護層Aに高温高湿環境下での情報記録面の保護性能と、上記範囲の引っ張り弾性率を付与することができる。
【0026】
また、高引っ張り弾性率の保護層Bの場合、反応性希釈剤としては、保護層Bを上記範囲の引っ張り弾性率を有するように調整することが容易であるため、上記2官能以上の多官能(メタ)アクリル酸エステル類から選択するのが好ましい。
【0027】
硬化して保護層Bを形成する組成物中の上記ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーと、上記反応性希釈剤の含有量は、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーが5質量%以上70質量%以下、反応性希釈剤の含有量は30質量%以上94質量%以下であることが好ましい。
【0028】
硬化して上記保護層A、Bを形成する組成物中には、必要に応じて上記含有物の機能を損なわない範囲でその他の成分を含有させることができる。組成物を紫外線により硬化する場合は、光重合開始剤を適宜添加することができる。かかる光重合開始剤としては、紫外線硬化型樹脂に使用されている各種光重合開始剤を使用することができる。例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインブチルエーテル、2−メチルベンゾイン、ベンゾフェノン、ミヒラーズケトン、ベンジルジメチルケタール、2,2−ジエトキシアセトフェノン、ベンゾイル安息香酸、4−ベンゾイル−4’−メチルジフェニルサルファイド、3,3’−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノン、1−(4−ドデシルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2−メチル−1−[4−(メチルチオフェニル)]−2−モルフォリノプロパン−1,2−クロロチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン、2,4,6−トリメチベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド等を挙げることができる。
【0029】
これら光重合開始剤の組成物中の含有量は1質量%以上10質量%以下が好ましく、より好ましくは1.5質量%以上5質量%以下である。
【0030】
その他、組成物中に含有可能な成分として、性能改良のために、光重合促進剤、熱重合禁止剤、密着付与剤、レベリング剤、シランカップリング剤等を挙げることができる。
【0031】
上記保護層A及び保護層Bの合計の膜厚は90μm以上110μmであり、保護層Aの膜厚は10μm以上50μm以下である。保護層全体の膜厚は98μm以上102μmであることが、更に好ましい。この厚みの範囲内にすることによって、光情報記録媒体において青色レーザーによる記録、読み取りが良好に行える。更に、保護層Aの膜厚が10μm以上であれば、ポリカーボネート等の基板と保護層Bとの間に生じる応力を充分に緩和することができ、反り、密着不良による剥離等を抑制することができる。保護層Aが、50μm以下であれば、保護層Bの膜厚を充分に厚くして、外部からの負荷に対し保護層Bにより情報記録面の保護を充分行うことができる。保護層Aの膜厚は、保護層Aと保護層Bの引っ張り弾性率の相違による反りの発生を抑制し、ハードコート層を形成した際にクラックが発生しないように、上記の範囲内で調整し、最適な膜厚を選択することが好ましい。
【0032】
ここで、膜厚は、光干渉式膜厚計やマイクロメーターにより測定することができる。マイクロメーターを用いる場合は、適宜、保護層を剥離させて保護層単独で厚みを測定したり、保護層を設ける前後で厚みを測定し、その差から保護層単独の厚みを求めることもできる。
【0033】
このような保護層は、射出成形、押出成形、注型成形等いずれの方法によってもよいが、上記組成物を用いて塗工、硬化する方法が好ましく、情報記録面に保護層Aの組成物を用いて塗工、硬化した後、保護層Bの組成物を用いて塗工、硬化する方法が好ましい。これらの保護層の形成に用いる、上記ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーと、反応性希釈剤とを含有する組成物は、無溶剤であることが好ましい、無溶剤とは、組成物中の溶剤の含有量が1質量%以下であることをいう。無溶剤の組成物を用いることにより、再利用の際に溶剤の揮発による粘度変化を抑制し膜厚の精密制御が容易な上、環境保護の観点からも好ましい。
【0034】
これら保護層組成物の塗工方法としては、グラビアコート、ディップコート、フローコート、スピンコート等いずれであってもよいが、膜厚精度、塗膜の平滑性・均一性の観点からスピンコートが好ましい。
【0035】
上記塗工により得られる塗膜の硬化方法としては、活性エネルギー線、例えば、電子線、紫外線等の照射による硬化方法を用いることができるが、導入のしやすさやコスト等の観点から紫外線照射による硬化が好ましい。
【0036】
このような本発明の光情報記録媒体には、保護層上にハードコート層を設けることができる。ハードコート層は光情報記録媒体において読み取り又は書き込み時にエラーが発生する原因となる保護層表面への傷つきを防止し、更に、必要に応じて防汚性や帯電防止性を付与する目的で設けられる。ハードコート層の材質としては、有機系、無機系、有機−無機ハイブリッド系等いずれであってもよく、その機能に応じた材質とすることができる。ハードコート層としては、例えば、適時調製した塗料を用い、塗工、硬化して成形することができる。ハードコート層の膜厚は、耐損傷性、耐汚染性、耐帯電防止性等の機能を満足できる膜厚であれば特に限定されるものではないが、クラックや保護層からの剥離の発生を抑制するため、5μm以下であることが好ましい。
【実施例】
【0037】
以下に本発明の実施例を示し、具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらに限定されるものではない。
[ウレタンアクリレートオリゴマーの合成]
[合成例1:ウレタンアクリレートオリゴマー(α)]
トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(商品名VESTANAT TMDI:デグサジャパン株式会社製)210質量部、ジブチル錫ジラウレート(商品名アデカスタブBT−11:株式会社アデカ製)0.2質量部を攪拌機及び冷却管付きの1リットル4つ口フラスコに仕込み、攪拌しながら70℃に昇温後、ポリアルキレンカーボネートジオール(商品名旭化成PCDL T5650J:旭化成株式会社製)363質量部を保温滴下ロートを用いて3時間かけて滴下し攪拌反応させた後、2時間70℃で保持したまま攪拌を続けた。続けて75℃に昇温して、2−ヒドロキシエチルアクリレート(商品名HEA:大阪有機化学工業株式会社製)126質量部と2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール(商品名ヨシノックスBHT:株式会社エーピーアイコーポレーション社製)0.3質量部の混合物を2時間かけて滴下した。その後75℃で攪拌を続け、反応率が97%以上となったことを確認して反応を終了した。得られたウレタンアクリレートオリゴマー(α)の重量平均分子量は4300であった。
【0038】
[合成例2:ウレタンアクリレートオリゴマー(β)]
トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート210質量部に替えて、イソホロンジイソシアネート(商品名VESTANAT IPDI:デグサジャパン株式会社製)222質量部を用い、ポリアルキレンカーボネートジオール363質量部を360質量部に変更した他は、合成例1と同様にしてウレタンアクリレートオリゴマー(β)を得た。得られたウレタンアクリレートオリゴマー(β)の重量平均分子量は3800であった。
【0039】
[使用したその他原料]
その他、塗料の調製に以下の原料を用いた。
アクリル酸−4−t−ブチルシクロヘキシル(商品名TBCHA:日本油脂株式会社製)
アクリル酸テトラヒドロフルフリル(商品名THFA:大阪有機化学社製)
1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(商品名イルガキュア184:チバスペシャリティーケミカルズ社製)
ジアクリル酸トリシクロデカンジメタノール(商品名DCP−A:共栄社化学社製)
ジ(メタ)アクリル酸1,6−ヘキサンジオール(商品名ニューフロンティアHDDA:第一工業製薬株式会社製)
アクリル酸(2−メチル−2−エチル−1,3−ジオキソラン−4−イル)メチル(商品名MEDOL10:大阪有機化学工業株式会社製)
トリス(2−アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート(商品名アロニックスM−315:東亜合成株式会社製)。
【0040】
[合成例3:保護層A用塗料aの調製]
表1記載の原料を攪拌、混合して塗料a−1〜a−4を得た。得られた塗料について、粘度計(VISCOMETER、TVE−20H型粘度計:東機産業株式会社)にて25℃での粘度を測定した。結果を表1に示す。
【0041】
[合成例4:保護層B用塗料bの調製]
[塗料b−1]
塗料aと同様に、表1記載の原料を攪拌、混合して塗料b−1〜b−5を得た。得られた塗料bについて、塗料aと同様に粘度を測定した。結果を表1に示す。
【0042】
[ハードコート層用塗料cの調製]
ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート(商品名アロニックスM408:東亞合成株式会社製)36質量部、ポリエチレングリコールジアクリレート(商品名NKエステルA−200:新中村化学工業株式会社製)36質量部、ジ(メタ)アクリル酸1,6−ヘキサンジオール9質量部、4−ヒドロキシブチルアクリレート(商品名4HBA:大阪有機化学工業株式会社製)9質量部ポリエステル変性アクリロイル基含有ポリジメチルシロキサン(商品名UV−3570:ビックケミー・ジャパン株式会社製)3質量部、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン7質量部を攪拌混合して塗料c−1を得た。塗料a−1と同様に25℃での粘度を測定したところ40mPa・sであった。
【0043】
【表1】

【0044】
[実施例1:光ディスクの作成]
ポリカーボネート樹脂(飽和吸水率:0.15質量%)を射出成型して得た光ディスク形状を有する透明円盤状鏡面基板(直径12cm、板厚1.1mm、反り角0度)の片面に、Ag98Pd1Cu1(原子比)合金を膜厚20nmとなるようにスパッタリング法にて成膜し、銀合金の鏡面の情報記録面を有する評価用光ディスク基材を得た。
【0045】
得られた評価用光ディスク基材の反射膜上に、合成例3で得られた塗料a−1を雰囲気温度23℃、相対湿度50%の環境下、スピンコーターを用いて塗工した。塗工面の上方より、高圧水銀ランプを用いて、積算光量1000mJ/cm2のエネルギー量(オーク(株)製UV−350にて測定)で紫外線を照射、塗膜を硬化させて、保護層Aを得た。保護層Aの膜厚をマイクロメーターにて測定した。結果を表2に示す。
【0046】
続いて、保護層A上に、保護層Aの調製と同様にして、合成例4で得られた塗料b−1を塗工、硬化し、保護層Bを形成した。保護層の膜厚を測定した。結果を表2に示す。更に、保護層B上に塗料cを用いた他は、保護層Aの調製と同様にして、ハードコート層を作成し評価用の光ディスクを得た。得られたハードコート層の膜厚をマイクロメーターにて測定した。結果を表2に示す。得られた評価用光ディスクについて、表面観察、保護性能、寸法安定性について以下のように評価を行った。結果を表2に示す。
【0047】
[引っ張り弾性率の測定]
上記と同様にして、別途、評価用光ディスク基材の銀合金反射膜上に、平均膜厚100μmの保護層Aを形成し、このディスクから保護層Aとして、10mm×100mm×100μmの試験片を切り出した。
【0048】
この試験片について、標線間距離を50mm、引張速度20mm/分とすること以外は、JIS K7127−1989に準拠し、23℃、相対湿度50%の環境下において、引っ張り弾性率を測定した。結果を表2に示す。
【0049】
保護層Bについても、同様に平均膜厚100μmの保護層Bを形成し、引っ張り弾性率を測定した。結果を表2に示す。
【0050】
[表面観察]
表面を顕微鏡にて確認し、以下の基準で評価を行った。
○:クラックおよび剥離なし
×:クラックまたは剥離有り。
【0051】
[保護性能]
評価用光ディスクについて、80℃、相対湿度85%環境下にて、96時間保持した後、23℃、相対湿度50%環境下へ取り出し、同環境下にて24時間放置後、偏光顕微鏡にて銀合金反射膜表面を観察し、下記基準に基づいて評価を行った。
○:初期から変化無し
×:銀合金表面に白化、黒化、ピンホール等の腐食が発生。
【0052】
[寸法安定性]
作成した評価用光ディスクについて、光ディスク光学機械特性測定装置(ジャパンイーエム(株)製DLD−3000)を用いて、23℃、相対湿度50%環境下にて、半径55mm位置における初期反り角を測定し、以下の基準により評価を行った。ここで、反り角とは、光ディスク(光情報媒体)最外周における光透過層側への半径方向の最大反り角を意味する。また、負(−)の反り角は光透過層側とは反対側に反った場合の最大反り角を意味する。
○:良好(初期反り角が0度以上かつ0.2度未満)
×:不良(初期反り角が0.2度以上)
次いで、得られた光ディスクを30℃、相対湿度90%の槽内に1週間放置した後、23℃、相対湿度50%環境下へ取り出し、同環境下にて5時間放置後、半径55mm位置における反り角を測定し、下記基準に基づいて評価を行った。
○:良好(試験後反り角が0度以上0.3度未満)
△:やや良好(試験後反り角が0.3度以上0.4度未満)
×:不良(試験後反り角が0.4度以上)
[実施例2〜7、比較例1〜5]
表2に記載した塗料a、bを用い、表2、3に記載の膜厚になるように塗布した他は実施例1と同様にして評価用ディスクを作成し、表面観察、保護性能、寸法安定性について以下のように評価を行った。また、引っ張り弾性率の測定も実施例1と同様に行った。評価結果を表2、3に示す。
【0053】
【表2】

【0054】
【表3】

【0055】
結果から、本発明の光情報記録媒体における保護層は、保護性能、寸法安定性に優れ、反りを発生しにくいだけでなく、保護層上に形成したハードコート層のクラックや剥離等の発生を抑制することが分かる。
【0056】
比較例1は保護膜Aの引っ張り弾性率が大きいため、情報記録面と保護層との間の応力を十分に緩和できずに反りが大きくなり、かつ保護性能も低下した。比較例2は保護層Bの引っ張り弾性率が本発明の範囲より大きいため、情報記録面と保護層の間の応力を十分に緩和できずに反りが大きくなり、ハードコート層にクラックも発生した。比較例3は保護層Bの引っ張り弾性率が小さいため、保護層とハードコート層の間の応力差によりクラックが発生した。比較例4は保護膜Aの膜厚が小さいため、情報記録面と保護層との間の応力を十分に緩和できずに反りが大きくなった。比較例5は保護層Aの膜厚が大きく、保護層Bの膜厚が十分でないためハードコート層との応力差によりクラックが発生した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、情報記録面、保護層A、及び、保護層Bが順に形成された光情報記録媒体であって、保護層A及び保護層Bが、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーと、(メタ)アクリロイル基を一つ以上有する反応性希釈剤とを含む組成物の硬化物からなり、保護層A及び保護層Bの合計の膜厚が90μm以上110μm以下であり、保護層Aの引っ張り弾性率が0.1MPa以上10MPa以下であり、保護層Aの膜厚が10μm以上50μm以下であり、保護層Bの引っ張り弾性率が200MPa以上2000MPa以下である光情報記録媒体。
【請求項2】
保護層Aが、反応性希釈剤である(メタ)アクリル酸−4−t−ブチルシクロヘキシルを10質量%以上40質量%以下の範囲で含有する組成物の硬化物である請求項1記載の光情報記録媒体。

【公開番号】特開2009−140599(P2009−140599A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−318438(P2007−318438)
【出願日】平成19年12月10日(2007.12.10)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】