説明

光情報記録用Ag合金反射膜、光情報記録媒体および光情報記録用Ag合金反射膜の形成用のAg合金スパッタリングターゲット

【課題】 再生専用光ディスクにおけるレーザーマーキングが容易にできる光情報記録用Ag合金反射膜、この反射膜を備えた光情報記録媒体、及び、この反射膜の形成用のスパッタリングターゲットを提供する。
【解決手段】 (1) 光情報記録媒体に用いられるAg合金反射膜であって、Agを主成分とし、Nd,Sn,Gd,Inの少なくとも1種を合計で3.0 原子%超10原子%以下含有することを特徴とする光情報記録用Ag合金反射膜、(2) 前記Ag合金反射膜においてBi,Sbの少なくとも1種を0.01〜3原子%含有するもの、(3) 前記Ag合金反射膜においてMn,Cu,La,Znの少なくとも1種を20原子%以下含有するもの、(4) 前記Ag合金反射膜を有していることを特徴とする光情報記録媒体、(5) 前記光情報記録媒体がレーザーマーキング用であるもの、(6) 前記(1) のAg合金反射膜と同様の組成を有するAg合金製のスパッタリングターゲット等。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光情報記録用Ag合金反射膜、光情報記録媒体および光情報記録用Ag合金反射膜の形成用のAg合金スパッタリングターゲットに関する技術分野に属し、特には、CD,DVD ,Blu-ray ,HD-DVD等の光情報記録媒体において、ディスク形成後にレーザー等を用いたマーキングを可能とするために、低熱伝導率、低溶融温度、高反射率、高耐食性を有する反射膜、この反射膜の形成用のスパッタリングターゲット、及び、この反射膜を備えた光情報記録媒体に関する技術分野に属するものである。
【背景技術】
【0002】
光ディスクにはいくつかの種類があるが、記録再生原理から大きくは、再生専用、追記型、書き換え型の3種類に分類される。
【0003】
この中、再生専用ディスクは、図1に例示するように、透明プラスチック基体上に設けた凹凸のピットにより、製造時に記録データを形成した後にAl、Ag、Au等を母材とする反射膜層を設けた構造を有しており、データ読み出し時にはディスクに照射されたレーザー光の位相差や反射差を検出することにより、データの再生を行う。また、それぞれ個別の記録ピットを形成した上に反射膜層を設けた基材と半透明反射層を設けた基材の2枚の基材を張り合わせて2層に記録したデータを読み出すタイプもある。片面でこの記録再生方式では、データは読み出し専用(書き込み、変更不可)であり、該方式を採る光ディスクとしては、CD-ROM、DVD-ROM などが挙げられる。なお、図1は断面構造を示す模式図であって、図1において、符番の1はポリカーボネイト基体、2は半透明反射層(Au,Ag合金,Si)、3は接着層、4は全反射膜層(Ag合金)、5はUV硬化樹脂保護層を示すものである。
【0004】
このような再生専用の光ディスクでは、あらかじめディスク形成時に情報のパターンを形成したスタンパによるプレス加工でディスクを大量生産することから、ディスク個別にIDをつけることは困難であった。しかしながら、ディスクの不正コピーの防止、商品流通のトレーサビリティの向上、付加価値の向上等の目的から、再生専用光ディスクにおいてもレベルゲート方式や BCA(Burst Cutting Area)方式など、ディスク形成後に、専用の装置を用いてディスク一枚毎のIDを記録したディスクが規格化され始めている。このIDのマーキングは、現状では主に製造後のディスクにレーザー光を照射して、反射膜のAl合金を溶融し、反射膜に穴をあけることにより記録を行うという方法により行われている。
【0005】
再生専用の光ディスクの反射膜としては、これまで一般構造材として流通量が多く、そのため安価な JIS6061(Al-Mg 系合金)を中心としたAl合金が広く使用されてきた。
【0006】
しかしながら、上記6061系Al合金はレーザーマーキング加工を前提とした材料でないことから、下記のような課題を残している。
【0007】
即ち、熱伝導率が高く、マーキングに高いレーザーパワー要し、そのため基材であるポリカーボネート基板や接着層にダメージを与えるという問題点と、耐食性が低く、レーザーマーキングを行った場合、マーキングあとに空洞が出来るため、その後の恒温恒湿試験において反射膜の腐食が発生するという問題点がある。
【0008】
また、記録型の光ディスクでは、より高反射率なAg合金が広く使用されている。しかしながら、Ag合金を反射膜として使用する場合、Agの耐熱性の低さから、高温でAg膜が凝集し、反射率が低下するという問題があり、耐久性の向上などのため、各種の提案がなされている。例えば、特開2002−15464号公報では、Agに希土類元素を0.1 〜3原子%含有させることでAgの結晶粒成長(凝集)を抑制する技術が開示されている。また、特開2004−139712号公報では、AgにBi又はSbを含有させることで、高い熱伝導率を維持したまま、高い反射率・耐久性を向上させる技術が開示されている。
【0009】
また、Ag合金の熱伝導率の低減に関しても、特開平4−25440号公報や、特開平4−28032号公報には、Agに合金元素を添加して熱伝導率を低減する方法が示されている。しかしながら、これらの反射膜も、レーザー照射により膜を溶融・除去することを前提として検討されていないため、膜の熱伝導率の低下と同時に溶融温度の低下を同時に果たすことが可能なレーザーマーキング用Ag合金として十分な要求特性を満たすものは未だ提供されていないのが現状である。
【特許文献1】特開2002−15464号公報
【特許文献2】特開2004−139712号公報
【特許文献3】特開平4−25440号公報
【特許文献4】特開平4−28032号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上述べたように、レーザーマーキングに対応したAg合金には、低熱伝導率、低溶融温度、高耐食性、耐熱性が必要とされる。
【0011】
現状、再生専用の光ディスクでは、反射膜には6061系Al合金が使用されているが、本合金は熱伝導率、耐食性で上記レーザーマーキングには対応が困難である。
【0012】
本発明はこのような事情に着目してなされたものであって、その目的は、再生専用光ディスクにおけるレーザーマーキングが容易にできる光情報記録用Ag合金反射膜、この反射膜を備えた光情報記録媒体、及び、この反射膜の形成用のスパッタリングターゲットを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を行った結果、Agに対して特定の合金元素を特定量含有させたAg合金薄膜が低い熱伝導率、低い溶融温度、高い耐食性を有し、レーザーマーキングに適した光情報記録用反射膜として好適な反射薄膜層(金属薄膜層)であるとの知見を得た。本発明はこのような知見に基づきなされたものであり、本発明によれば上記目的を達成することができる。
【0014】
このようにして完成され上記目的を達成することができた本発明は、光情報記録用Ag合金反射膜、光情報記録媒体および光情報記録用Ag合金反射膜の形成用のAg合金スパッタリングターゲットに係わり、特許請求の範囲の請求項1〜3記載の光情報記録用Ag合金反射膜(第1〜3発明に係るAg合金反射膜)、請求項4〜5記載の光情報記録媒体(第4〜5発明に係る光情報記録媒体)、請求項6〜9記載の光情報記録用Ag合金反射膜の形成用のAg合金スパッタリングターゲット(第6〜9発明に係るスパッタリングターゲット)であり、それは次のような構成としたものである。
【0015】
即ち、請求項1記載の光情報記録用Ag合金反射膜は、光情報記録媒体に用いられるAg合金反射膜であって、Agを主成分とし、Nd,Sn,Gd,Inの少なくとも1種を合計で3.0 原子%超10原子%以下含有することを特徴とする光情報記録用Ag合金反射膜である〔第1発明〕。
【0016】
請求項2記載の光情報記録用Ag合金反射膜は、Bi,Sbの少なくとも1種を0.01〜3原子%含有する請求項1記載の光情報記録用Ag合金反射膜である〔第2発明〕。
【0017】
請求項3記載の光情報記録用Ag合金反射膜は、Mn,Cu,La,Znの少なくとも1種を20原子%以下含有する請求項1または2記載の光情報記録用Ag合金反射膜である〔第3発明〕。
【0018】
請求項4記載の光情報記録媒体は、請求項1〜3のいずれかに記載のAg合金反射膜を有していることを特徴とする光情報記録媒体である〔第4発明〕。
【0019】
請求項5記載の光情報記録媒体は、レーザーマーキング用である請求項4記載の光情報記録媒体である〔第5発明〕。
【0020】
請求項6記載の光情報記録用Ag合金反射膜の形成用のAg合金スパッタリングターゲットは、Agを主成分とし、Nd,Sn,Gd,Inの少なくとも1種を合計で3.0 原子%超10原子%以下含有することを特徴とする光情報記録用Ag合金反射膜の形成用のAg合金スパッタリングターゲットである〔第6発明〕。
【0021】
請求項7記載の光情報記録用Ag合金反射膜の形成用のAg合金スパッタリングターゲットは、Sbを0.01〜3原子%含有する請求項6記載の光情報記録用Ag合金反射膜の形成用のAg合金スパッタリングターゲットである〔第7発明〕。
【0022】
請求項8記載の光情報記録用Ag合金反射膜の形成用のAg合金スパッタリングターゲットは、Biを0.03〜10原子%含有する請求項6記載の光情報記録用Ag合金反射膜の形成用のAg合金スパッタリングターゲットである〔第8発明〕。
【0023】
請求項9記載の光情報記録用Ag合金反射膜の形成用のAg合金スパッタリングターゲットは、Mn,Cu,La,Znの少なくとも1種を20原子%以下含有する請求項6〜8のいずれかに記載の光情報記録用Ag合金反射膜の形成用のAg合金スパッタリングターゲットである〔第9発明〕。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る光情報記録用Ag合金反射膜によれば、再生専用光ディスクにおけるレーザーマーキングが容易にできる。本発明に係る光情報記録媒体は、かかるAg合金反射膜を有し、再生専用光ディスクにおけるレーザーマーキングを好適に行うことができる。本発明に係る光情報記録用Ag合金反射膜の形成用のAg合金スパッタリングターゲットによれば、かかるAg合金反射膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
前述したように、レーザーマーキングに適したAg合金薄膜では、低い熱伝導率、低い溶融温度、高い耐食性を有することが必要である。
【0026】
本発明者らは、Agに種々の元素を添加したAg合金スパッタリングターゲットを製作し、これらターゲットを使用してスパッタリング法により種々の成分・組成のAg合金薄膜を形成し、その組成及び反射薄膜層としての特性を調べ、以下〔下記(1) 〜(3) 〕のことを見いだした。
【0027】
(1) AgにNd,Sn,Gd,Inから選ばれる少なくとも1種(即ち、1種以上)を合計で3.0 原子%(at%)超10原子%(at%)以下添加することにより、溶融温度(液相線温度)を上げることなく、熱伝導率を低減できる。この元素の添加量が3.0 at%(以降、単に%ともいう)以下の場合には、熱伝導率の低減効果が少なく、10at%超の場合には、反射率の低下が大きい。これらを3.0 at%超10at%以下添加することにより、熱伝導率・溶融温度を低減できるとともに、反射膜の耐久性を向上させることができる。具体的には、マーキング後の恒温恒湿試験において反射膜の腐食や凝集が発生し難く、恒温恒湿試験で高温高湿環境下に保持した後の反射率低下(以降、恒温恒湿試験での腐食や凝集による反射率低下ともいう)を抑制することができる。
【0028】
(2) 上記のようにAgにNd,Sn,Gd,Inの1種以上を合計で3.0 at%超10at%以下添加するとともに、更に、Bi,Sbの1種以上を添加することにより、恒温恒湿試験での腐食や凝集による反射率低下を大幅に抑制することが出来るが、合金化による反射率低下の観点から、これらは3at%までの(以下の)添加が良い。また、0.01at%未満では合金化による効果が小さい。これらの元素の好ましい下限値は0.1 at%であり、好ましい上限値は2.0 at%である。
【0029】
(3) 更にMn,Cu,La,Znの添加により、熱伝導率を大きく低下させることができるが、合金化による反射率低下の観点から20at%まで(以下)の添加が適当である。ただし、これらの元素については反射膜の耐久性向上の効果は小さい。これら元素の効果を有効に発揮させるためには好ましくは0.1 at%以上、更に好ましくは1.0 at%以上の添加が望まれる。
【0030】
以上のような知見に基づいて本発明は完成されたものであり、前述のような構成の光情報記録用Ag合金反射膜、光情報記録媒体および光情報記録用Ag合金反射膜の形成用のAg合金スパッタリングターゲットとしている。
【0031】
このようにして完成された本発明に係る光情報記録用Ag合金反射膜は、光情報記録媒体に用いられるAg合金反射膜であって、Agを主成分とし、Nd,Sn,Gd,Inの少なくとも1種を合計で3.0 at%超10at%以下含有することを特徴とする光情報記録用Ag合金反射膜である〔第1発明〕。
【0032】
この光情報記録用Ag合金反射膜は、前記(1) のことからわかるように、Nd,Sn,Gd,Inの少なくとも1種を合計で3.0 at%超10at%以下含有することにより、溶融温度(液相線温度)を上げることなく、熱伝導率を低減できるとともに、反射膜の耐久性を向上させることができる。
【0033】
従って、本発明に係る光情報記録用Ag合金反射膜は、低熱伝導率、低溶融温度、高耐食性を有することができ、レーザーマーキングに良好に対応でき、光情報記録用反射膜として好適に用いることができる。即ち、溶融温度が低いので、レーザーマーキングを容易にすることができ、また、熱伝導率が低いので、レーザーマーキングに際して、レーザー出力が低くてよく(レーザー出力を過大にする必要がなく)、このため過大レーザー出力によるディスク構成材(ポリカーボネイト基板や接着層)の熱ダメージが起こらず、更に、耐食性に優れているので、恒温恒湿試験においてレーザーマーキングあとに発生した空洞中に侵入した水分による腐食や凝集による反射率低下を抑制し得る。
【0034】
本発明に係る光情報記録用Ag合金反射膜において、更にBi,Sbの少なくとも1種を0.01〜3at%含有するようにした場合、前記(2) のことからわかるように、恒温恒湿試験での腐食や凝集による反射率低下をより大幅に抑制することが出来る〔第2発明〕。
【0035】
本発明に係る光情報記録用Ag合金反射膜において、更にMn,Cu,La,Znの少なくとも1種を20at%以下含有するようにした場合、前記(3) のことからわかるように、熱伝導率をより大きく低下させることができる〔第3発明〕。
【0036】
本発明において、光情報記録用Al合金反射膜の膜厚については、10nm〜200nm とすることが望ましく、更には20nm〜100nm とすることが望ましい。この理由を以下説明する。レーザーによるマーキングは膜厚の薄い方が容易であると考えられるが、膜厚10nm未満と膜が薄い場合には光が透過して、反射率が低下するので、膜厚10nm以上であることが望ましく、更には20nm以上であることが望ましい。一方、膜厚200nm 超と膜厚が厚いとAg合金反射膜を溶融させるためにレーザーが与えるエネルギーを大きくする必要があり、マークの形成が困難になるので、膜厚200nm 以下であることが望ましく、更には100nm 以下であることが望ましい。また、膜厚の増加と共に表面平滑性が低下し、膜厚200nm 超の場合には光が散乱されやすくなり、高い信号出力が得られなくなるため、膜厚200nm 以下とすることが望ましく、更には100nm 以下とすることが望ましい。
【0037】
本発明に係る光情報記録媒体は、前述のような本発明に係る光情報記録用Ag合金反射膜を有していることとしている〔第4発明〕。この光情報記録媒体は、レーザーマーキングを好適に行うことができる。このため、過大レーザー出力によるディスク構成材(ポリカーボネイト基板や接着層)の熱ダメージがなく、また、耐食性に優れていることから、恒温恒湿試験での腐食や凝集による反射率低下が生じ難く、かかる点において優れた特性を有することができる。
【0038】
本発明に係る光情報記録媒体は、上記のように優れた特性を有することができるので、レーザーマーキング用として特に好適に用いることができる〔第5発明〕。
【0039】
本発明に係るAg合金スパッタリングターゲットは、Agを主成分とし、Nd,Sn,Gd,Inの少なくとも1種を合計で3.0 at%超10at%以下含有することを特徴とする光情報記録用Ag合金反射膜の形成用のAg合金スパッタリングターゲットである〔第6発明〕。このAg合金スパッタリングターゲットによれば、本発明の第1発明に係る光情報記録用Ag合金反射膜を形成させることができる。
【0040】
本発明に係るAg合金スパッタリングターゲットにおいて、更にSbを0.01〜3at%含有するようにした場合は、本発明の第2発明に係る光情報記録用Ag合金反射膜の中、Sbを0.01〜3at%含有するものを形成させることができる〔第7発明〕。本発明に係るAg合金スパッタリングターゲットにおいて、更にBiを0.03〜10at%含有するようにした場合は、本発明の第2発明に係る光情報記録用Ag合金反射膜の中、Biを0.01〜3原子%含有するものを形成させることができる〔第8発明〕。なお、前記Nd,Sn,Gd,Inや前記Sbの場合、ターゲット中に添加された元素量がそのまま薄膜中の含有量に反映されるが、上記Biの場合には、薄膜中のBi量はターゲット中のBi量の数十%程度に減少してしまうので、上記のようなターゲット組成(含有量)としている。
【0041】
本発明に係るAg合金スパッタリングターゲットにおいて、更にMn,Cu,La,Znの少なくとも1種を20at%含有するようにした場合は、本発明の第3発明に係る光情報記録用Ag合金反射膜を形成させることができる〔第9発明〕。なお、Mn,Cu,La,Znの場合、ターゲット中に添加された元素量がそのまま薄膜中の含有量に反映される。
【実施例】
【0042】
本発明の実施例および比較例について、以下説明する。なお、本発明はこの実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0043】
〔例1〕
Ag-Nd (Ndを含有するAg合金)薄膜、Ag-Sn (Snを含有するAg合金)薄膜、Ag-Gd (Gdを含有するAg合金)薄膜、Ag-In (Inを含有するAg合金)薄膜、及び、Ag-Nd-Sn(NdとSnを含有するAg合金)薄膜を作製し、Nd,Sn,Gd,Inの添加量(含有量)と薄膜の溶融温度、熱伝導率、反射率の関係を調べた。
【0044】
上記薄膜は、次のようにして作製した。即ち、DCマグネトロンスパッタにより、ガラス基板(コーニング#1737 ,基板サイズ:直径50mm、厚さ1mm)上に、Ag-Nd 薄膜、Ag-Sn 薄膜、Ag-Gd 薄膜、Ag-In 薄膜、あるいは、Ag-Nd-Sn薄膜を作製(成膜)した。このとき、成膜条件は、基板温度:22℃,Arガス圧:2mTorr ,成膜速度:5nm/sec,背圧:<5×10-6Torrである。スパッタリングターゲットとしては、各種添加元素のチップを純Agターゲット上に配置した複合ターゲットを用いた。
【0045】
薄膜の溶融温度は、次のようにして測定した。厚さ1μm に成膜したAg合金薄膜(Ag-Nd 薄膜、Ag-Sn 薄膜、Ag-Gd 薄膜、Ag-In 薄膜、Ag-Nd-Sn薄膜)を基板より剥離し、約5mg収集したものを示差熱測定器を用いて測定した。このとき昇温時の溶け終わり温度と降温時の固まり始め温度の平均値を溶融温度とした。熱伝導率については、厚さ100nm で作製したAg合金薄膜の電気抵抗率から換算した。反射率については、波長405nm における反射率を測定して求めた。なお、反射率の測定は、成膜後のAg合金薄膜および恒温恒湿試験(環境試験)後のAg合金薄膜について行った。この恒温恒湿試験(環境試験)の条件は、温度80℃,湿度90%RHで保持時間は100hとした。
【0046】
上記測定(調査)の結果を表1に示す。なお、この表1において、組成の欄におけるAg-Nd 、Ag-Sn 、Ag-Gd 、Ag-In 、Ag-Nd-SnのNd量、Sn量、Gd量、In量はat%(原子%)での値である。即ち、Ag-X・Ndは、X at%のNdを含有するAg合金(Ag-Nd 合金)薄膜、Ag-Y・Snは、Y at%のSnを含有するAg合金(Ag-Sn 合金)薄膜、Ag-Z・Gdは、Z at%のGdを含有するAg合金(Ag-Gd 合金)薄膜、Ag-W・Inは、W at%のInを含有するAg合金(Ag-In 合金)薄膜のことである。例えば、Ag-5.0Ndは、Ndを5.0 at%含有するAg合金のことである。
【0047】
表1からわかるように、Nd量、Sn量、Gd量、In量の増加とともに熱伝導率が低下している。また、これらの元素量(添加量)の増加とともに溶融温度も低下している。
【0048】
これらの元素量(添加量)が合計で3.0 at%以下の場合には、十分に低い熱伝導率が得られていない。これらの元素量が合計で10at%超の場合には、十分に高い反射率が得られていない。
【0049】
これらの結果から、Nd量、Sn量、Gd量、In量の添加量(含有量)は、合計で3.0 at%超10at%以下とする必要があり、更に3.2 〜8at%とすることが望ましいことがわかる。
【0050】
〔例2〕
Ag-5.0Nd-Bi 薄膜(Ndを5.0 at%含有すると共に、Biを含有するAg合金よりなる薄膜)およびAg-5.0Nd-Sb 薄膜(Ndを5.0 at%含有すると共に、Sbを含有するAg合金よりなる薄膜)を作製し、Bi,Sbの添加量と薄膜の熱伝導率、反射率の関係を調べた。
【0051】
上記薄膜は次のようにして作製した。即ち、DCマグネトロンスパッタにより、ガラス基板(コーニング#1737 ,基板サイズ:直径50mm、厚さ1mm)上に、Ag-5.0Nd-Bi 薄膜、Ag-5.0Nd-Sb 薄膜を作製(成膜)した。このとき、成膜条件は、基板温度:22℃,Arガス圧:2mTorr ,成膜速度:5nm/sec,背圧:< 5×10-6Torrである。スパッタリングターゲットとしては、各種添加元素のチップを純Agターゲット上に配置した複合ターゲットを用いた。
【0052】
熱伝導率については、厚さ100nm で作製したAg合金薄膜の電気抵抗率から換算して求めた。反射率については、波長405nm における反射率を測定して求めた。なお、反射率の測定は、成膜後のAg合金薄膜および恒温恒湿試験(環境試験)後のAg合金薄膜について行った。この恒温恒湿試験の条件は、温度80℃,湿度90%RHで保持時間は100hとした。
【0053】
上記測定(調査)の結果を表2に示す。なお、この表2において、組成の欄におけるAg-5.0Nd-Bi のBi量、Ag-5.0Nd-Sb のSb量はat%(原子%)での値である。即ち、Ag-5.0Nd-A・Biは、5.0 at%のNdを含有すると共にA at%のBiを含有するAg合金(Ag-Nd-Bi合金)薄膜のことである。例えば、Ag-5.0Nd-1.0Biは、Ndを5.0 at%含有すると共にBiを1.0 at%含有するAg合金のことである。
【0054】
表2からわかるように、Bi,Sbの添加により環境試験後の反射率の低下(恒温恒湿試験での腐食や凝集による反射率低下)が抑制されている。これらの元素量(添加量)が0.01at%未満の場合には、この反射率低下の抑制の効果が小さいが、0.01at%以上の場合には、この反射率低下の抑制の効果が大きい。
【0055】
反射率は添加量を多くするにしたがって低下している。3.0 at%超の場合には、反射率が極めて低くなっている。
【0056】
これらの結果から、Bi量、Sb量の添加量(含有量)は、0.01〜3.0 at%とすることが望ましいことがわかる。
【0057】
〔例3〕
Ag-3.2Nd-(La,Mn,Cu,Zn)薄膜(Ndを3.2 at%含有するとともに、La,Mn,Cu,Znの1種を含有するAg合金よりなる薄膜)、及び、Ag-1.0Nd-5.0Sn-Cu 薄膜(Ndを1.0 at%、Snを5.0 at%含有するとともに、Cuを含有するAg合金よりなる薄膜)を作製し、La,Mn,Cu,Znの添加量と薄膜の熱伝導率、反射率の関係を調べた。
【0058】
上記薄膜は次のようにして作製した。即ち、DCマグネトロンスパッタにより、ガラス基板(コーニング#1737 ,基板サイズ:直径50mm、厚さ0.7mm )上に、Ag-3.2Nd-(La,Mn,Cu,Zn)薄膜、Ag-1.0Nd-5.0Sn-Cu 薄膜を作製(成膜)した。このとき、成膜条件は、前記例2の場合と同様である。スパッタリングターゲットとしては、各種添加元素のチップを純Agターゲット上に配置した複合ターゲットを用いた。
【0059】
薄膜の溶融温度は次のようにして測定した。厚さ1μm に成膜したAg合金薄膜を基板より剥離し、約5mg収集したものを示差熱測定器を用いて測定した。このとき昇温時の溶け終わりの温度と降温時の固まり始めの温度の平均値を溶融温度とした。熱伝導率については、厚さ100nm で作製したAg合金薄膜の電気抵抗率から換算した。反射率については、波長405nm における反射率を測定して求めた。
【0060】
上記測定(調査)の結果を表3に示す。なお、この表3において、組成の欄におけるAg-3.2Nd-(La,Mn,Cu,Zn)のLa量、Mn量、Cu量、Zn量、及び、Ag-1.0Nd-5.0Sn-Cu のCu量は、at%(原子%)での値である。即ち、Ag-3.2Nd-B・La (又はMn,Cu,Zn)は、3.2 at%のNdを含有すると共にB at%のLa (又はMn,Cu,Zn)を含有するAg合金〔Ag-Nd- (La,Mn,Cu,Zn)合金〕薄膜のことである。例えば、Ag-3.2Nd-5.0Laは、Ndを3.2 at%含有すると共にLaを5.0 at%含有するAg合金のことである。
【0061】
表3からわかるように、La,Mn,Cu,Znの添加により熱伝導率が大きく低下している。反射率は、これらの元素量(添加量)の増加とともに低下している。20at%超の場合には、反射率が極めて低くなっている。
【0062】
これらの結果から、La,Mn,Cu,Znの添加量(含有量)は、20at%以下とすることが望ましいことがわかる。
【0063】
【表1】

【0064】
【表2】

【0065】
【表3】

【0066】
なお、以上の例においては、Nd,Sn,Gd,Inはそのいずれかを添加(単独添加)するか或いはNdとSnを添加(複合添加)し、また、Bi,Sbはそのいずれかを添加(単独添加)し、また、La,Mn,Cu,Znはそのいずれかを添加(単独添加)したが、NdとSnの組み合わせ以外の2種以上を添加(複合添加)した場合も、Bi及びSbを添加(複合添加)した場合も、La,Mn,Cu,Znの2種以上を添加(複合添加)した場合も、以上の例の場合と同様の傾向の結果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明に係る光情報記録用Ag合金反射膜は、再生専用光ディスクにおけるレーザーマーキングが容易にできるので、再生専用光ディスクの光情報記録媒体用反射膜として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】再生専用光ディスクの断面構造を示す模式図である。
【符号の説明】
【0069】
1--ポリカーボネイト基体、2--半透明反射層(Au,Ag合金,Si)、3--接着層、
4--全反射膜層(Ag合金)、5--UV硬化樹脂保護層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光情報記録媒体に用いられるAg合金反射膜であって、Agを主成分とし、Nd,Sn,Gd,Inの少なくとも1種を合計で3.0 原子%超10原子%以下含有することを特徴とする光情報記録用Ag合金反射膜。
【請求項2】
Bi,Sbの少なくとも1種を0.01〜3原子%含有する請求項1記載の光情報記録用Ag合金反射膜。
【請求項3】
Mn,Cu,La,Znの少なくとも1種を20原子%以下含有する請求項1または2記載の光情報記録用Ag合金反射膜。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のAg合金反射膜を有していることを特徴とする光情報記録媒体。
【請求項5】
レーザーマーキング用である請求項4記載の光情報記録媒体。
【請求項6】
Agを主成分とし、Nd,Sn,Gd,Inの少なくとも1種を合計で3.0 原子%超10原子%以下含有することを特徴とする光情報記録用Ag合金反射膜の形成用のAg合金スパッタリングターゲット。
【請求項7】
Sbを0.01〜3原子%含有する請求項6記載の光情報記録用Ag合金反射膜の形成用のAg合金スパッタリングターゲット。
【請求項8】
Biを0.03〜10原子%含有する請求項6記載の光情報記録用Ag合金反射膜の形成用のAg合金スパッタリングターゲット。
【請求項9】
Mn,Cu,La,Znの少なくとも1種を20原子%以下含有する請求項6〜8のいずれかに記載の光情報記録用Ag合金反射膜の形成用のAg合金スパッタリングターゲット。

【図1】
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【公開番号】特開2006−54032(P2006−54032A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−67262(P2005−67262)
【出願日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】