説明

光散乱シート及びその製造方法

【課題】光散乱シートを相分離法で製造する際に、塗布層の初期乾燥において室温で低速乾燥しても透過像鮮明度が10%以上25%未満でモアレ消し性能に優れた相分離凹凸構造を形成できるので、光学特性の安定した光散乱シートを製造できる。
【解決手段】互いに相分離可能な2種以上の樹脂材料が溶媒に溶解された溶液からスピノーダル分解により形成される相分離凹凸構造の光散乱層を透明支持体上に形成して成る光散乱シートの製造方法において、樹脂材料の1つとしてスチレン−アクリロニトリル共重合体を含む溶液を透明支持体16上に塗布して塗布層を形成する塗布工程と、塗布層の相分離臨界固形分濃度に達するまでの区間の初期乾燥を室温で低速乾燥する低速乾燥工程と、初期乾燥以後の塗布層を1.5g/m・秒以上の乾燥速度で高速乾燥する高速乾燥工程と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光散乱シート及びその製造方法に係り、特に液晶表示装置に用いられる光散乱シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイは薄型であり、且つ軽量であることから広く使用されている。一般に液晶ディスプレイの光源を構成しているバックライトユニットの発光源としては冷陰極管(CCFL)やLEDが使用されている。これらの光源は線光源ないし点光源であり、輝度分布を持っている。これを面光源とするために光散乱(又は光拡散)シートなどの光を散乱する部材が用いられている。
【0003】
また、集光して光源の輝度を向上させるために、プリズムシートや反射型偏光フィルムなどが用いられている。そして、プリズムシートのような規則的構造を有するフィルムを設置した際には特定の方向で輝度の分布が生じることが知られており、これを面光源とするために、バックライトの最上部に光散乱シートを設けることで光を散乱させている。
【0004】
また、プリズムシートで光路を制御し、その光路制御光が液晶セルの画素と干渉してモアレを生じないように光散乱シートを設けることで偏光板に入る光を散乱させている。
【0005】
このような光散乱シートとして、例えば特許文献1では、ビーズ粒子を合成樹脂内に埋設した光散乱シートを提案している。また、特許文献2では、微細エンボス形状の型が形成されたロール凹版で表面に凹凸形状を形成した光散乱シートが提案されている。
【0006】
しかし、粒子による光散乱層は粒子径によって散乱性を制御する必要があるが、粒子同士の凝集や分散を制御することは困難であり、満足する散乱性を得ることができない。また、型押しについては規則的な形状となることから、特定の角度で散乱角のピークが生じてしまい、ギラツキなどの問題が生じる。
【0007】
これら粒子や型押しによる光散乱シート製造の問題点に対する解決策として、相分離法がある。この相分離法は、互いに相分離可能な2種以上の樹脂材料が溶媒に溶解された溶液を透明支持体に塗布して塗布層を形成し、この塗布層から溶媒を蒸発させて相分離を行うものである。これにより相分離凹凸構造の光散乱層を透明支持体上に形成することができる。
【0008】
例えば、特許文献3では、少なくとも1つのポリマーと少なくとも1つの硬化性樹脂前駆体とを均一に溶解した溶液から、スピノーダル分解することにより形成した相分離構造による防眩性フィルムが提案されている。更に、特許文献4では、微細な凹凸構造の表面を有し、表面に対する傾斜角度が2.5〜7.5°である領域が20%以下の防眩性フィルムが開示されている。これら相分離を利用して製造されたフィルム又はシートについては、液晶表示装置の最表面に配置して外光の映り込みを防止することを目的としている。
【0009】
ところで、従来の光散乱シートは独立部材として存在しているのが通常であり、シートの積層数が多くなってしまう。そのため、光散乱シートの薄型化が求められているが、光散乱シートの強度等の面での薄型化には限度がある。このことから、積層化による厚みの問題点を解決する方法として、特許文献5では、偏光板の表裏面に密着される保護シートの入光側の保護シートに光散乱機能を持たせることで、部材数の削減と薄型化を試みた光拡散偏光板が開示されている。これによると、従来の光散乱シートを用いずに面光源を得られるとされている。
【0010】
この場合、保護シートに要求される性質として、位相差等の光学的異方性が少ないことが必要とされることから、透明支持体としてトリアセチルセルロース(TAC)が使用されることが通常である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】実開平5−73602号公報
【特許文献2】特開平5−169015号公報
【特許文献3】特開2004−126495号公報
【特許文献4】特開2005−195819号公報
【特許文献5】特開2000−75134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、光散乱シートは、高い散乱性を有すると共に上記したように輝度ムラやモアレの発生を防止できることが必要であり、このためには低画像鮮明度、具体的には透過像鮮明度が10%以上25%未満であることが重要になる。また、相分離凹凸構造の表面傾斜角2.5°〜7.5°の割合が21%〜50%であることが好ましい。
【0013】
このような光学特性の光散乱シートを製造するには、溶液を透明支持体に塗布した塗布層内において回転対流が生じないように塗布層を乾燥する必要がある。即ち、このような光学特性の光散乱シートは、2種以上の樹脂材料による海島構造に形成され、島を構成する複数のドメインが紐形状を主体とするランダムな形状を有している。
【0014】
しかしながら、従来の相分離法による光散乱シートの製造方法のように、塗布層の溶剤濃度が高い初期乾燥において低速乾燥(例えば室温乾燥)すると、塗布層の上層と下層との温度差、あるいは上層と下層との密度差によって塗布層内に回転対流が発生する。これにより、塗布層内に対流セルが発生して複数の細胞状ドメインを有する規則的又は周期的な相分離凹凸構造が形成されてしまい、透過像鮮明度が10%以上25%未満の低画像鮮明度の光散乱シートが得られないという問題がある。
【0015】
このことから、出願人は、透明支持体に塗布層を塗布形成した直後に塗布層を高速乾燥することで、塗布層内における回転対流の発生を抑制し、これにより低画像鮮明度の光散乱シートを製造することを提案した。
【0016】
しかしながら、高速乾燥に伴う乾燥ムラに起因して低画像鮮明度の光散乱シートを安定製造することが非常に難しいという問題がある。特に大面積化の光散乱シートを製造する際には、乾燥ムラによって低画像鮮明度にバラつきが生じてしまう。
【0017】
したがって、低画像鮮明度の光散乱シートを製造するには、塗布層形成直後に低速乾燥せざるを得ないのが実情である。
【0018】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、光散乱シートを相分離法で製造する際に、塗布層の初期乾燥において室温で低速乾燥しても複数のドメインが紐形状を主体とするランダムな形状を有する相分離凹凸構造を安定形成することができるので、透過像鮮明度が10%以上25%未満でモアレ消し性能に優れた光散乱シート及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0019】
また、透明支持体として、トリアセチルセルロース使用できるので、偏光板の保護シートに兼用して部材数を減らし液晶表示装置の薄型化を実現できる光散乱シートの製造方法及び光散乱シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の請求項1に記載される光散乱シートの製造方法は、前記目的を達成するために、互いに相分離可能な2種以上の樹脂材料が溶媒に溶解された溶液からスピノーダル分解により形成される相分離凹凸構造の光散乱層を透明支持体上に形成して成る光散乱シートの製造方法において、前記樹脂材料の1つとしてスチレン−アクリロニトリル共重合体を含む溶液を前記透明支持体上に塗布して塗布層を形成する塗布工程と、前記塗布層の相分離臨界固形分濃度に達するまでの区間の初期乾燥を室温で乾燥する低速乾燥工程と、前記初期乾燥以後の塗布層を1.5g/m・秒以上の乾燥速度で乾燥する高速乾燥工程と、を備え、前記塗布層の樹脂材料組成に前記スチレン−アクリロニトリル共重合体を含むことにより、前記初期乾燥の区間における前記相分離の核成長を抑制して、前記相分離臨界固形分濃度における前記塗布層のマランゴニ数が80未満になるようにすることを特徴とする。
【0021】
ここで、樹脂材料には、ポリマーの他にモノマーも含む。また、塗布層の相分離臨界固形分濃度に達するまでの区間の初期乾燥を室温で乾燥するとは、初期乾燥区間内全てを室温で乾燥しなくてはならないことを意味するものではなく、例えば塗布層が相分離臨界固形分濃度に達する前に室温での乾燥を終了しても安定した光学特性の光散乱シートを得ることができるのであれば、相分離臨界固形分濃度の前に高速乾燥に移行してもよい。即ち、初期乾燥区間において室温で低速乾燥を行う理由は、塗布後直ちに高速乾燥を行うと、塗布層からの急激な溶媒の蒸発によって、製造される光散乱シートの光学特性、特に透過像鮮明度の数値がバラツクことを防止するためである。したがって、相分離臨界固形分濃度に達する前に室温での乾燥を終了しても安定した光学特性の光散乱シートを得ることができるのであれば、相分離臨界固形分濃度の前に高速乾燥に移行してもよい。
【0022】
また、相分離臨界固形分濃度とは、塗布層を構成する2種以上の樹脂材料が相分離を開始する固形分濃度を言う。
【0023】
また、上記製造方法において「相分離の核成長を抑制し」、「マランゴニ数」、及び「塗布層が相分離臨界固形分濃度に達するまでの時間の求め方」については後記する。
【0024】
本発明者は、樹脂材料の1つにスチレン−アクリロニトリル共重合体を用いることによって、初期乾燥の区間において室温で低速乾燥しても相分離の核成長を抑制してマランゴニ数を80未満にすることができるので、塗布層上下の温度差や密度差によって回転対流が生じて規則的な液滴状海島構造ができる前に紐形状を主体とするランダムな海島構造を安定して形成できるとの知見を得た。
【0025】
本発明の製造方法はかかる知見に基づいてなされたものであり、樹脂材料の1つとしてスチレン−アクリロニトリル共重合体を用いたので、初期乾燥の区間を室温で低速乾燥しても、複数のドメインが紐形状を主体とするランダムな形状を有する相分離凹凸構造を形成することができる。これにより、製造された光散乱シートは、透過像鮮明度が10%以上25%未満の安定した相分離凹凸構造を有する。
【0026】
また、室温での低速乾燥なので、乾燥ムラの発生を防止でき、光学特性品質が安定化する。そして、初期乾燥以後の塗布層を1.5g/m・秒以上で高速乾燥することにより、形成された相分離凹凸構造を迅速に固定化することができる。
【0027】
前記樹脂材料としては、前記スチレン−アクリロニトリル共重合体とアクリル系樹脂と多官能モノマーから構成されることが好ましく、前記多官能モノマーは、光重合性アクリレートモノマーであることが好ましい。
【0028】
また、本発明の製造方法においては、前記低速乾燥工程では、乾燥風の温度を室温にする一方、乾燥風の風速を乾燥ムラが発生しない限度で大きくすることが好ましい。乾燥風の風速としては、例えば1.5m/秒以上であることが好ましく、2.0m/秒以上であることがより好ましい。
【0029】
これにより、初期乾燥の区間において塗布層の上下に温度差が発生しにくい環境を形成しながら塗布層を速く乾かすことが可能となるので、回転対流の発生を抑制しつつ塗布層を室温乾燥することができる。
【0030】
本発明の製造方法においては、前記透明支持体が前記溶媒に対して浸透性を有するトリアセチルセルロースである場合に、本発明を適用することが有効である。
【0031】
透明支持体としてトリアセチルセルロースのように溶媒に対して浸透性を有していると、透明支持体への溶媒の浸透により塗布層の相分離が進行して相分離凹凸構造が発達しすぎる虞がある。これにより、モアレ消し性能である低画像鮮明度を達成できなくなる。したがって、光散乱シートが偏光板の保護シートを兼用するために、透明支持体としてトリアセチルセルロースを使用する場合に本発明は特に有効である。
【0032】
本発明の製造方法においては、樹脂材料の構成として、スチレン−アクリロニトリル共重合体とアクリル系樹脂と多官能モノマーから構成されることが好ましい。多官能モノマーとしては、光重合性アクリレートモノマーであることが好ましい。
【0033】
本発明の製造方法においては、前記溶媒は、100℃未満の低沸点溶媒と、120℃以上の高沸点溶媒との混合溶媒であることが好ましい。
【0034】
混合溶媒に120℃以上の高沸点溶媒を混合することにより、相分離の核成長を抑制することができるので、紐形状を主体とするランダムな海島構造を一層安定して形成することができる。この場合、低沸点溶媒がメチルエチルケトンであって、高沸点溶媒がアノン又はメトキシプロピルアセテートであることが特に好ましい。
【0035】
本発明の請求項8に記載される光散乱シートは前記目的を達成するために、互いに相分離可能な2種以上の樹脂材料が溶媒に溶解された溶液からスピノーダル分解により形成される相分離凹凸構造の光散乱層を透明支持体上に形成して成る光散乱シートにおいて、前記光散乱層は、前記相分離凹凸構造がスチレン−アクリロニトリル共重合体を含む2種以上の樹脂材料による海島構造に形成され、島を構成する複数のドメインが紐状を主体とするランダムな形状を有し、2.0mm幅の光学櫛を用いてJIS K 7374に準じて測定した透過像鮮明度が10%以上25%未満であることを特徴とする。
【0036】
そして、このような光学特性の光散乱シートは、上述した製造方法によって製造することができる。
【0037】
本発明では、光散乱層の相分離凹凸構造がスチレン−アクリロニトリル共重合体を含む2種以上の樹脂材料による海島構造に形成されているので、相分離凹凸構造が形成される際の相分離の核成長を抑制することができる。これにより、塗布層上下の温度差や密度差によって回転対流が生じて規則的な液滴状海島構造ができる前に紐形状を主体とするランダムな海島構造を安定して形成できる。したがって、得られた光散乱シートは、透過像鮮明度が10%以上25%未満でモアレ消し性能に優れている。
【0038】
樹脂材料の組成としては、スチレン−アクリロニトリル共重合体とアクリル系樹脂と多官能モノマーから構成されることが好ましく、多官能モノマーは、光重合性アクリレートモノマーであることが好ましい。
【0039】
本発明の光散乱シートにおいて、前記光散乱シートは、透過光強度の角度分布がガウス分布をしていることが好ましい。
【0040】
光散乱シートにおける透過光強度の角度分布がガウス分布をしていることで、高い散乱性を得ることができるので、輝度ムラやモアレを完全に解消することができる。これを具体的な数値で示した場合、光散乱シートは、相分離凹凸構造の表面傾斜角2.5°〜7.5°の割合が21%〜50%であることが好ましい。
【0041】
本発明の光散乱シートにおいて、前記透明支持体が前記溶媒に対して浸透性を有するトリアセチルセルロースで形成されていることが好ましい。理由は上記の製造方法で述べた通りである。
【0042】
本発明の光散乱シートにおいて、前記2種以上の樹脂材料の屈折率が異なることが好ましい。
【発明の効果】
【0043】
本発明の光散乱シート及びその製造方法によれば、光散乱シートを相分離法で製造する際に、塗布層の初期乾燥において室温で低速乾燥しても複数のドメインが紐形状を主体とするランダムな形状を有する相分離凹凸構造を安定形成することができるので、透過像鮮明度が10%以上25%未満でモアレ消し性能に優れた光散乱シートを製造できる。
【0044】
また、透明支持体として、トリアセチルセルロース使用できるので、偏光板の保護シートに兼用して部材数を減らし液晶表示装置の薄型化を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の光散乱シートのレーザー反射顕微鏡写真によりシート表面の相分離凹凸構造を示す図
【図2】三角相図の一例を説明する説明図
【図3】塗布層の乾燥速度を測定する方法を説明する説明図
【図4】本発明の光散乱シートの製造方法において好適な塗布・乾燥装置を示す側面図
【図5】図4の上面図
【図6】塗布・乾燥装置の変形例を示す図
【図7】図6の塗布・乾燥装置の上面図
【図8】図6の塗布・乾燥装置の断面図
【図9】本発明の実施例の試験Aを説明する表図
【図10】本発明の実施例の試験Bを説明する表図
【図11】本発明の実施例の試験Cを説明する表図
【図12】本発明の実施例の試験Dを説明する表図
【図13】本発明の実施例の試験Eを説明する表図
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、本発明の光散乱シート及びその製造方法の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0047】
図1は、本発明の光散乱シートのレーザー反射顕微鏡写真(倍率5倍)である。
【0048】
図1の顕微鏡写真に示すように、光散乱シートの相分離凹凸構造は、2種以上の樹脂材料による海島構造に形成され、島を構成する複数のドメインが紐形状を主体とするランダムな形状を有する。即ち、複数の紐形状のドメインが互いに入り組んで配置されたランダム構造に形成される。これにより、光散乱性が良く且つ相分離によるシート表面凹凸が大きいにも関わらず広い海がないというモアレ解消に適した相分離凹凸構造になっている。
【0049】
そして、図1に示した相分離凹凸構造を有する本発明の光散乱シートは、互いに相分離可能な2種以上の樹脂材料が溶媒に溶解された溶液からスピノーダル分解により形成される相分離凹凸構造の光散乱層を透明支持体上に形成して成る光散乱シートの製造方法において、樹脂材料の1つとしてスチレン−アクリロニトリル共重合体を含む溶液を前記透明支持体上に塗布して塗布層を形成する塗布工程と、塗布層の相分離臨界固形分濃度に達するまでの区間の初期乾燥を室温で乾燥する低速乾燥工程と、初期乾燥以後の塗布層を1.5g/m・秒以上の乾燥速度で乾燥する高速乾燥工程と、を備え、塗布層の樹脂材料組成にスチレン−アクリロニトリル共重合体を含むことにより、初期乾燥の区間における相分離の核成長を抑制して、前記相分離臨界固形分濃度における前記塗布層のマランゴニ数が80未満になるようにすることで製造することができる。
【0050】
互いに相分離可能な2種以上の樹脂材料の1つとしてスチレン−アクリロニトリル共重合体を含むことが必要であるが、他の樹脂材料としては、ポリマー、及びモノマーを使用することができる。例えば、スチレン−アクリロニトリル共重合体とアクリル系樹脂と多官能モノマーから構成される樹脂材料を好適に使用することができ、多官能モノマーは、光重合性アクリレートモノマーであることが好ましい。
【0051】
ここで、上記した光散乱シートの製造方法で使用される「相分離の核成長を抑制し」、「マランゴニ数」、及び「塗布層が相分離臨界固形分濃度に達するまでの時間の求め方」について説明する。
【0052】
図2は、互いに相分離可能な非相溶の第1、第2のポリマーと、これらのポリマーを溶解する溶媒と、の3つの成分を含む溶液の相分離を説明する三角相図の一例である。第1のポリマーがスチレン−アクリロニトリル共重合体(SAN)、第2のポリマーがアクリル樹脂の場合であり、溶媒がメチルエチルケトンの場合である。
【0053】
図2において、実線の曲線はバイノーダル線を示しており、相分離が発生する境界線であり、点線の曲線はスピノーダル線を示している。そして、バイノーダル線の内側の領域で相分離が発生する。バイノーダル線とスピノーダル線で囲まれた領域は準安定領域と呼ばれ、相分離は核形成や成長機構により進行する。スピノーダル線の内側の領域は不安定領域であり、スピノーダル分解による相分離が起こる。バイノーダル線とスピノーダル線が一致する点がスピノーダル分解により相分離を開始する臨界点Pである。
【0054】
この臨界点Pについては、例えば、文献(CORNELL UNIVERSITY PRESS,「Scaling Concepts in Polymer Physics」,p94-96)に基づいて求めることができる。
【0055】
そして、「相分離の核成長を抑制し」とは、塗布層の乾燥によって上記3つの成分の成分比が図2の三角相図の中を乾燥開始点Sから例えば矢印方向に向かって動く際に、上記準安定領域を通る時間を短くして、本発明における相分離凹凸構造を形成するためのスピノーダル分解を行う上記不安定領域に達するまでの時間を短くすることを言う。
【0056】
この場合、準安定領域を通る時間を短くするためには次のA,B2つの方法がある。
【0057】
Aの方法は、準安定領域を跨ぐルートが短くなるように乾燥開始点Sからの矢印方向が臨界点P近傍を通るようにすることである。
【0058】
Bの方法は、塗布層が相分離を開始する相分離臨界固形分濃度に達したら、塗布層を高速乾燥して一気に乾燥することで、準安定領域を跨いでいる時間を短くすることである。
【0059】
そして、本発明の光散乱シートの製造方法では、上記Bの方法を採用して、塗布層の相分離臨界固形分濃度に達するまでの初期乾燥を室温で低温乾燥しても、相分離臨界固形分濃度に達した以後は塗布層を1.5g/m・秒以上の乾燥速度で高速乾燥することで、相分離の核成長を抑制するようにした。
【0060】
また、塗布層16Aの固形分濃度が相分離臨界固形濃度に到達するまでの時間は、上記三角相図から、臨界点Pにおける塗布層の固形分濃度である臨界固形分濃度と乾燥条件(乾燥速度)とから、塗布層が臨界固形分濃度になるまでの乾燥時間を求めることができる。
【0061】
塗布層の乾燥速度の測定は、例えば、図3に示すようなポータブル型のFTIR装置1により測定することができる。即ち、図3に示すように、センサー部2がファイバーであるポータブル型のFTIR装置1を用いて、矢印方向に走行する透明支持体16の塗布層16Aの上部から、乾燥に伴う塗布層内部の溶媒の蒸発量の時間的変化を吸光度変化により調べることができる。FTIR装置1としては例えば日本分光(株)製のVIR―9500を使用することができる。
【0062】
また、マランゴニ数(Ma)は下記の式で表わすことができる。
【0063】
Ma=(t/μκ)*|∂σ/∂T|*ΔT
なお、上記式において、各記号は次のことを示す。
【0064】
t:塗布層の層厚み(m)
μ:塗布液の粘度(N・s/m
κ:熱伝導率(W/m・K)
|∂σ/∂T|:表面張力の温度勾配(N/m・K)
ΔT:塗布層の表面と裏面の温度差(K)
そして、マランゴニ数(Ma)80とは、塗布層の乾燥中にマランゴニ対流が発生する臨界点であり、マランゴニ数(Ma)80未満であれば、マランゴニ対流が発生しない。
【0065】
また、本実施の形態の光散乱シートの製造方法において、高速乾燥工程における乾燥速度の上限は、乾燥ムラが発生しない限度であるが、例えば20g/m・秒以下であることが好ましい。
【0066】
本発明の光散乱シートの製造は、塗布層の相分離臨界固形分濃度に達するまでの区間の初期乾燥を室温で乾燥し、初期乾燥終了後に塗布層を1.5g/m・秒以上の乾燥速度で高速乾燥するものである。この場合、低速乾燥工程では、乾燥風の温度は室温とする一方で、乾燥風の風速は乾燥ムラが発生しない限度において大きくすることが好ましい。これにより、塗布層の上下で温度差が生じにくい環境を形成しつつ乾燥を速めることができるので、塗布層内での回転対流の発生を抑制できる。風速としては例えば1.5m/秒以上、より好ましくは2.0m/秒以上であることが好ましい。乾燥風速増加に伴い塗布層に風ムラが発生する場合には、塗布液に界面活性剤などを添加してもよい。これにより、相分離臨界固形分濃度において塗布層のマランゴニ数80未満を一層確実に達成できる。
【0067】
また、高速乾燥工程における高速乾燥では、乾燥風の温度を溶媒の沸点以上130℃以下に維持する一方、乾燥風の風速を大きくすることにより上記の高速乾燥工程における乾燥速度を達成することが好ましい。これは、透明支持体16としてトリアセチルセルロースを使用して塗布層を高速乾燥しても、乾燥熱により透明支持体に皺が発生して偏光板保護フィルムとしての光学特性を劣化させることがないためである。
【0068】
図4は、本発明の光散乱シートの製造方法の塗布・乾燥に適した塗布・乾燥装置10の一例の側面図であり、また、図5は図4の上面図で後記する遮蔽板を取り外して図示してある。
【0069】
図4及び図5に示すように、塗布・乾燥装置10は、主として、連続走行する帯状の透明支持体16に、光散乱シート用塗布液(以下、塗布液という)を塗布して透明支持体16上に塗布層16Aを塗設する塗布機12と、乾燥機本体18に形成された複数の乾燥ゾーン42a〜42gに、透明支持体16を通過させて塗布層16Aを乾燥する乾燥機14と、各乾燥ゾーン42a〜42g内に透明支持体幅方向の一方端側から他方端側に流れる一方向流れの乾燥風Wを発生させる一方向気流発生手段20,22,24,26,28,30,32とで構成される。
【0070】
本実施の形態では、各乾燥ゾーン42a〜42gのうち、前半部の乾燥ゾーン42a〜42cまでを低速乾燥ゾーンとし、後半部の乾燥ゾーン42d〜42gを高速乾燥ゾーンとした場合である。したがって、前半部の乾燥ゾーン42a〜42cに対応する一方向気流発生手段20〜24からは室温の乾燥風が吹き出され、後半部の乾燥ゾーン42d〜42gに対応する一方向気流発生手段25〜32からは溶媒の蒸発温度以上で130度以下の乾燥風が吹き出される。なお、各乾燥ゾーン42a〜42gのうちどこまでの乾燥ゾーンを低速乾燥ゾーンにするかは、塗布層16Aが相分離臨界固形分濃度に達するまでを限度として適宜設定することができる。即ち、乾燥ゾーン42a〜42cまでが初期乾燥のためのゾーンであったとしても、塗布層16Aが相分離臨界固形分濃度に達する前に低速乾燥を終了しても安定した光学特性(特に安定した大意透過像鮮明度)の光散乱シートを得ることができるのであれば、例えば乾燥ゾーン42a〜42bや、乾燥ゾーン42aのみを初期乾燥ゾーンとして設定することができる。
【0071】
塗布機12で塗布された塗布層16Aが塗布後に直ちに乾燥機14で先ず室温乾燥されるように、塗布終了から乾燥開始までの時間が10秒以内、好ましくは5秒以内、特に好ましくは1秒以内になるように、塗布機12と乾燥機14との距離及び透明支持体16の走行速度を設定することが好ましい。
【0072】
なお、本実施の形態では、塗布機12と乾燥機14とが一体となった塗布・乾燥装置10の例で説明するが、塗布機12と乾燥機14とを離して設置し、塗布機12から乾燥機14までの透明支持体16の搬送ライン上で塗布層が室温で自然乾燥されるように構成してもよい。
【0073】
塗布機12としては、例えば、ワイヤーバー12Aを備えたバー塗布装置を使用でき、複数のパスローラ34,36,38に支持されて走行する透明支持体16の下面に塗布液が塗布されて塗布層16Aが形成される。図4及び図5では塗布機12の一例としてワイヤーバー塗布機の図が示されているが、ワイヤーバー塗布機に限定されるものではない。
【0074】
透明支持体16としては、セルロース系樹脂(例えばトリアセチルセルロース:TAC)、ポリエステル系樹脂(例えばポリエチレンテレフタレート:PET)、ポリスルホン系樹脂(例えばポリスルホン)、環状ポリオレフィン系樹脂(例えばアートン)等を好適に使用することができる。
【0075】
特に、製造された光散乱シートをバックライト側の偏光板保護シートと兼用する場合には、透明支持体16として位相差等の光学的異方性が少ないトリアセチルセルロースを使用することが好ましい。
【0076】
また、塗布液の溶媒としては、特に限定されるものではないが、100℃未満の低沸点溶媒と、120℃以上の高沸点溶媒との混合溶媒を好ましく使用することができる。このように、混合溶媒に120℃以上の高沸点溶媒を混合することにより、相分離の核成長を抑制することができるので、紐形状を主体とするランダムな海島構造を一層安定して形成することができる。この場合、低沸点溶媒がメチルエチルケトンであって、高沸点溶媒がアノン又はメトキシプロピルアセテートであることが特に好ましい。
【0077】
乾燥機本体18は、塗布機12の直後に設けられ、走行する透明支持体16の塗布膜面側(透明支持体16の下面側)に沿った長四角な箱体状に形成され、箱体の各辺のうちの塗布層面側の辺(図4の上面)が切除されている。これにより、走行する透明支持体16に塗設された塗布層16Aを囲む断面コ字状の乾燥ゾーンが形成される。乾燥ゾーンは、乾燥機本体18を、透明支持体16の走行方向に直交した複数の仕切板40a〜40fで仕切ることにより、複数の乾燥ゾーン42a,42b,42c,42d,42e,42f,42g(本実施形態では7つの分割ゾーンの例で示したがこれに限定されない)に分割される。この場合、乾燥ゾーン42a〜42gを分割する仕切板40a〜40fの上端と、塗布層の面との距離は、0.5mm〜12mmの範囲が好ましく、更に好ましくは1mm〜10mmの範囲である。また、各乾燥ゾーン42a〜42gには一方向気流発生手段20〜32(図5参照)が設けられている。
【0078】
図5に示すように、一方向気流発生手段20〜32は、主として、乾燥機本体18の両側辺の一方側に形成された吸込口20a,22a,24a,26a,28a,30a,32aと、他方側に吸込口20a〜32aに対向して形成された排気口20A,22A,24A,26A,28A,30A,32Aと、各吸込口20a〜32aに接続された乾燥風温度調整手段31と、各排気口20A〜32Aに接続された排気手段33とで構成される。
【0079】
図5に示すように、乾燥風温度調整手段31は、低速乾燥を行う低速乾燥温度調整手段31Aと、高速乾燥を行う高速乾燥温度調整手段31Bとに分かれており、それぞれの乾燥ゾーンの吸込口20a〜32aに接続される。また、高速乾燥温度調整手段31Bは、各吸込口26a〜32aに供給する乾燥風の温度を乾燥ゾーンごとに調整可能に構成される。これにより、排気手段33を駆動させることにより、吸込口20a〜32aから各乾燥ゾーン42a〜42gに吸い込まれた所定温度の乾燥風Wが排気口20A〜32Aから排気されるので、各乾燥ゾーン42a〜42gには、透明支持体幅方向の一方端側(吸込口側)から他方端側(排気口側)に向けて一方向に流れる乾燥風Wが発生する。この一方向気流発生手段20〜32は、排気手段33により、乾燥ゾーン42a〜42gごとに個々に排気量(風速)を制御できるようになっている。
【0080】
吸込口20a〜32aから吸い込まれる乾燥風Wとしては、温度の他に湿度が空調された空調風が好ましい。また、吸込口20a〜32aから吸い込まれる乾燥風Wとしては、塗布液の溶媒ガスを所定濃度含有するように制御することも好ましい。
【0081】
また、乾燥機本体18の幅は透明支持体16の幅よりも大きくなるように形成して、乾燥ゾーン42a〜42gの両側の開放部分を蓋板44、46で蓋をした整風部分を設けるようにすると好ましい。この整風部分は、吸込口20a〜32aから塗布層の幅方向一方端までの距離と、塗布層の幅方向他方端から排気口20A〜32Aまでの距離を確保すると共に、乾燥風Wが吸込口20a〜32aからのみ乾燥ゾーン42a〜42g内に吸い込まれ易くする。これにより、乾燥ゾーン42a〜42gに透明支持体幅方向の一方向流れの乾燥風W以外の流れを作らないようにしたものである。この整風部分、即ち蓋板44、46の長さとしては、吸込口側及び排気口側ともに、50mm以上150mm以下の範囲が好ましい。
【0082】
前記した蓋板44、46の他に、塗布機12のワイヤーバー12Aの位置と、パスローラ36の位置とを調整し、透明支持体16が乾燥ゾーン42aの直近を走行するようにして、透明支持体16で乾燥ゾーン42aの開放部をあたかも蓋をするように構成することが好ましい。また、透明支持体16を挟んで、乾燥機本体18の反対側位置には、前記空調風等の風により、透明支持体16の安定走行が阻害されないように遮蔽板48(図4参照)を設けることが好ましい。
【0083】
上記の如く構成された塗布・乾燥装置10によれば、初期乾燥を室温で乾燥し、初期乾燥以後の塗布層を1.5g/m・秒以上の乾燥速度で乾燥することができる。しかも透明支持体16の面に平行で且つ支持体走行方向に対して直交する方向から一方向流れの乾燥風Wを吹き出すので、風速を大きくしても乾燥ムラが発生しにくい。
【0084】
図6は、図4及び図5で示した塗布・乾燥装置10の変形例10’を示す側面図であり、図7は図6の上面図である。また、図8には、図6の変形例の特徴部分である乾燥機本体18の要部断面図を示す。なお、図7では、後述する上蓋を取り外して示している。
【0085】
図4及び図5で説明した塗布・乾燥装置10の乾燥機14は、吸込口から排気口20A〜32Aに向けて一方向流れの乾燥風Wが、透明支持体16に塗設された塗布層16A面に接触して流れる態様である。これに対して以下説明する変形例の塗布・乾燥装置10’は一方向流れの乾燥風Wが塗布層16A面に直接接触しない態様である。
【0086】
なお、図6及び図7は、上記説明した図4及び図5と基本的に同様であるので、説明は省略すると共に、同様の部材については同符号を付して説明する。
【0087】
図8は、7分割された乾燥ゾーン42a〜42gのうち2段目の乾燥ゾーン42bについて、透明支持体16の走行方向に対して直交する方向の断面図を示したものであるが、他の乾燥ゾーンも同様である。
【0088】
乾燥ゾーン42bには、透明支持体16と平行な面を有し、多数の孔50aを有する整風板50が設けられる。整風板50の開口率、材料などは特に限定されないが、50%以下の開口率である金網やパンチングメタルなどが好ましく、開口率が20%〜40%であることがより好ましい。具体的には、300メッシュで開口率30%の金網を用いることができる。
【0089】
乾燥ゾーン42bは、整風板50により透明支持体16を通す通路室52と、透明支持体16の幅方向に流れる一方向流れの乾燥風Wによって塗布層16Aから蒸発した溶媒が排気される排気室54と、に区画される。排気室54には、吸込口22aと排気口22Aとが設けられ、排気口22Aは排気手段33に連結される。
【0090】
透明支持体16に塗設された塗布層16Aと整風板50との隙間が広いと乾燥風Wの渦が発生し、塗布層16Aの表面に乾燥ムラが生じる原因となる。そこで、乾燥風Wの流れをコントロールするために、塗布層16Aと整風板50とのクリアランスCを3mm〜30mmとすることが好ましく、より好ましくは、5mm〜15mmである。また、透明支持体16裏面(塗布膜が形成されていない面)及びサイドからの不必要な風の流れを抑制するためにシール部材である上蓋56及びサイドシール58、60を取り付けている。
【0091】
上記変形例の塗布・乾燥装置10’における乾燥機14の構成によれば、塗布層16Aから蒸発した溶媒ガスは、透明支持体16の幅方向に向かう一方向流れの乾燥風Wに引っ張られて整風板50の孔50aを通過して排気室54に入り、排気口22Aから乾燥ゾーン42bの外部に排出される。
【0092】
このため、塗布層16A面に乾燥風Wが直接触れることがないので、吸気口から排気口へ向かう一方向流れの乾燥風Wの風速を図4及び図5で示した乾燥機より大きくしても塗布層面に乾燥ムラが発生しにくくなる。
【0093】
そして、本実施の形態の光散乱シートの製造方法によれば、光散乱シートを相分離法で製造する際に、塗布層の初期乾燥において室温で低速乾燥しても複数のドメインが紐形状を主体とするランダムな形状を有する相分離凹凸構造を形成することができる。これにより、透過像鮮明度が10%以上25%未満でモアレ消し性能に優れた光散乱シートを製造することができる。
【0094】
また、本発明では、塗布直後に直ちに高速乾燥する必要がないので、乾燥ムラの発生を防止でき、光学特性品質が安定化する。
【0095】
この結果、相分離して形成されたドメインの形状が回転対流による規則的な渦状ドメインではなく、図1で説明したようにランダムな紐状ドメインになると共に、ドメイン同士の分布も不規則な相分離凹凸構造になる。
【0096】
また、塗布層を低速乾燥及び高速乾燥する方法として、透明支持体16の面に平行で且つ支持体走行方向に対して直交する方向から一方向流れの乾燥風Wを吹き出すようにしたので、風速を大きくしても乾燥ムラが発生しにくい。特に、塗布層の溶媒濃度が高い初期乾燥期間の途中で低速乾燥から高速乾燥に移行する場合に、高速乾燥を達成するために乾燥温度を高温にすると、急激な溶媒の蒸発による乾燥ムラに伴う光学特性、特に透過像鮮明度のバラツキが懸念される。しかし、本実施の形態のように、乾燥風の温度を高めるのではなく、一方向流れの乾燥風の風速を大きくすることにより乾燥を速めることで、乾燥ムラを防止できる。また、透明支持体16としてトリアセチルセルロースを使用して塗布層16Aを高速乾燥しても、乾燥熱により透明支持体16に皺が発生して偏光板保護フィルムとしての光学特性を劣化させることがない。
【0097】
最後に、塗布・乾燥後の塗布層16Aは、硬化工程に送られて塗布層が硬膜化される。
【0098】
本発明において、光散乱シートの塗布層16Aを硬膜化する硬膜化方法については、電離放射線硬化性の化合物を含有する塗布層を光照射、電子線ビーム照射や加熱することによる架橋反応、又は重合反応により硬化することが好ましい。この場合、酸素濃度が10体積%以下の雰囲気で実施することが好ましい。酸素濃度が10体積%以下の雰囲気で形成することにより、物理強度、耐薬品性に優れた最外層を得ることができる。好ましくは酸素濃度が5体積%以下であり、更に好ましくは酸素濃度が1体積%以下、特に好ましくは酸素濃度が0.5体積%以下、最も好ましくは0.1体積%以下である。
【0099】
酸素濃度を10体積%以下にする手法としては、大気(窒素濃度約79体積%、酸素濃度約21体積%)を別の気体で置換することが好ましく、特に好ましくは窒素で置換(窒素パージ)することである。
【0100】
光照射の光源は、紫外線光域又は近赤外線光域のものであればいずれでもよく、紫外線光の光源として、超高圧、高圧、中圧、低圧の各水銀灯、ケミカルランプ、カーボンアーク灯、メタルハライド灯、キセノン灯、太陽光等が挙げられる。波長350〜420nmの入手可能な各種レーザー光源をマルチビーム化して照射してもよい。
【0101】
また、近赤外光光源としてはハロゲンランプ、キセノンランプ、高圧ナトリウムランプが挙げられ、波長750〜1400nmの入手可能な各種レーザー光源をマルチビーム化して照射してもよい。
【0102】
近赤外光光源を用いる場合、紫外線光源と組み合わせて用いてもよいし、又は塗布面側と反対の基材面側より光照射してもよい。これにより、塗布層内の深さ方向での膜硬化が表面近傍と遅滞なく進行し均一な硬化状態の硬化膜が得られる。
【0103】
照射する紫外線の照射強度は、0.1〜1000mW/cm程度が好ましく、塗布層表面上での光照射量は10〜1000mJ/cmが好ましい。また、光照射中の塗布層の温度分布は均一なほど好ましく、±3°C以内が好ましく、更には±1.5°C以内に制御されることが好ましい。この範囲において、塗布層16Aの面内及び層内深さ方向での重合反応が均一に進行するので好ましい。
【0104】
以上説明した塗布工程、乾燥工程、及び硬化工程を行うことにより、高い光散乱性を有して輝度ムラやモアレの発生を有効に防止することができ、且つ支持体としてトリアセチルセルロースを使用することで偏光板の保護シートに兼用することができるので、部材数を減らして液晶表示装置の薄型化を実現できる。
【0105】
上記の塗布工程、乾燥工程、硬化工程を経て得られた本発明の光散乱シートは、下記の光学的特性を有する。即ち、透過像鮮明度が10%以上25%未満、ヘイズが20〜60%である。また、光散乱シートに形成された相分離凹凸構造の表面傾斜角2.5°〜7.5°の割合が21%〜50%、表面粗さRaが0.3μm以上、紐状ドメインの凸部における面積割合が50%以下である。
【0106】
[実施例1]
以下に実施例を挙げて本発明の特徴を更に具体的に説明するが、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0107】
[試験A]
試験Aでは、下記組成を有する5種類の光散乱用塗布液を用いて光散乱シートを製造したときに、透過像鮮明度(%)、表面傾斜角2.5〜7.5°の割合(%)、及びモアレ解消の程度を調べた。
【0108】
(光散乱用塗布液の種類)
光散乱用塗布液の種類として、下記の樹脂材料及び溶媒から成る5種類を調製した。
【0109】
〈塗布液A−1〉
・アクリル樹脂 17.9g
・スチレン−アクリロニトリル共重合体(SAN) 2.4g
・ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート 18.3g
・イルガキュア184(登録商標) 1.4g
・メチルエチルケトン 30.0g
・メトキシプロピルアセテート 30.0g
〈塗布液A−2〉
・アクリル樹脂 17.9g
・セルロースアセテートプロピオネート(CAP) 2.4g
・ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート 18.3g
・イルガキュア184 1.4g
・メチルエチルケトン 30.0g
・メトキシプロピルアセテート 30.0g
〈塗布液A−3〉
・アクリル樹脂 17.9g
・ポリエステル樹脂(バイロン200:登録商標) 2.4g
・ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート 18.3g
・イルガキュア184 1.4g
・メチルエチルケトン 30.0g
・メトキシプロピルアセテート 30.0g
〈塗布液A−4〉
・アクリル樹脂 17.9g
・ポリエステルウレタン樹脂(バイロンUR-1400:登録商標) 2.4g
・ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート 18.3g
・イルガキュア184 1.4g
・メチルエチルケトン 30.0g
・メトキシプロピルアセテート 30.0g
〈塗布液A−5〉
・アクリル樹脂 17.9g
・ポリメチルメタクリレート(PMMA) 2.4g
・ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート 18.3g
・イルガキュア184 1.4g
・メチルエチルケトン 30.0g
・メトキシプロピルアセテート 30.0g
(透明支持体)
透明支持体として、幅1000mm、厚さ80μmのトリアセチルセルロース〔フジタック、富士フイルム(株)製〕を使用した。
【0110】
(塗布及び乾燥条件)
そして、上記5種類の塗布液について、特開2006−122889号明細書実施例1記載のスロットダイを用いたダイコート法で、連続的に塗布し、膜厚が10.5μmの塗布層を形成した。次に、得られた塗布層について、室温(25℃)で図9の表に示す時間だけ低速乾燥を行った後、100℃で1分間の高速乾燥(乾燥速度が2.05g/m・秒 に相当)を行った。これにより、実施例1〜4及び比較例1〜6の光散乱シートのサンプルを作成した。
【0111】
そして、各サンプルの塗布層に紫外線照射装置(紫外線ランプ32:出力160W/cm、発光長1.6m)により照度600mWの紫外線を4秒間照射し、架橋反応させて硬膜させた。
【0112】
各サンプルの塗布液組成及び緩速乾燥条件は次の通りである。
【0113】
・実施例1…塗布液A−1を用いて塗布層を形成し、塗布直後(低速乾燥0秒)に高速乾燥を行った。
【0114】
・実施例2…塗布液A−1を用いて塗布層を形成し、塗布層を10秒間低速乾燥した後、上記の高速乾燥を行った。
【0115】
・実施例3…塗布液A−1を用いて塗布層を形成し、塗布層を30秒間低速乾燥した後、上記の高速乾燥を行った。
【0116】
・実施例4…塗布液A−1を用いて塗布層を形成し、塗布層を40秒間低速乾燥した後、上記の高速乾燥を行った。
【0117】
・比較例1…塗布液A−2を用いて塗布層を形成し、塗布直後に高速乾燥を行った。
【0118】
・比較例2…塗布液A−2を用いて塗布層を形成し、塗布層を10秒間低速乾燥した後、上記の高速乾燥を行った。
【0119】
・比較例3…塗布液A−2を用いて塗布層を形成し、塗布層を40秒間低速乾燥した後、上記の高速乾燥を行った。
【0120】
・比較例4…塗布液A−3を用いて塗布層を形成し、塗布直後に高速乾燥を行った。
【0121】
・比較例5…塗布液A−4を用いて塗布層を形成し、塗布直後に高速乾燥を行った。
【0122】
・比較例6…塗布液A−5を用いて塗布層を形成し、塗布直後に高速乾燥を行った。
【0123】
そして、上記製造した光散乱シートの各サンプルを用いて偏光板を下記のように作製した。
【0124】
(偏光板の作製)
ポリビニルアルコールにヨウ素を吸着させ、延伸して偏光膜を作成した。そして、この偏光膜のバックライト側に上記作成した上記作成した各サンプル(実施例1〜4、1〜6)の光散乱シートを貼り付け、偏光膜の反対面には80μmの厚さのトリアセチルセルロースフイルム(フジタック、富士フイルム(株)製)を貼り付けた。トリアセチルセルロースフイルムは、1.5mol/L、55℃のNaOH水溶液中に2分間浸漬した後、中和、水洗したものを使用した。これにより偏光板を作製した。
【0125】
そして、上記作製した光散乱シート及び偏光板の評価は次のように行った。
【0126】
[光散乱シート及び偏光板の評価方法]
上記各サンプルの光散乱シートについて、以下の項目の評価を行った。結果は図9の表に示した。
【0127】
(1)透過画像鮮明度(像鮮明度)
光散乱シートの像鮮明度(%)の測定には、JIS K7105(1999年版)に準拠し、スガ試験機社製 ICM−1Tを使用した。そして、本発明における像鮮明度の光学櫛は2.0mmで測定した場合の値と規定した。なお、像鮮明度は10%以上、25%未満であることが好ましい。
【0128】
(2)傾斜角分布プロファイル(表面傾斜角2.5°〜7.5°の割合)
マイクロマップ社(米国)製SXM520-AS150型を用い、作製された光散乱シートを測定した。光源には中心波長560nmの干渉フィルターを挿入したハロゲンランプを使用した。対物レンズの倍率は10倍であり、画素数640×480の2/3インチのCCDによりデータを取り込んだ。これより、縦方向及び横方向の測定ピッチは1.3マイクロメートルであり、傾斜角度の測定単位は0.8平方マイクロメートル、測定範囲は500000平方マイクロメートル(0.5平方ミリメートル)となった。また、測定単位である3点の高さデータから傾斜角度を算出し、全測定データから平均傾斜角及び表面傾斜角2.5°以上、7.5°以下の割合を求めた。なお、相分離凹凸構造の表面傾斜角2.5°〜7.5°の割合は21%〜50%の範囲であることが好ましい。
【0129】
(3)光散乱プロファイル
フォトゴニオメータ(GP−5(株)村上色彩技術研究所製)を用いて測定した。光源は角度1.5°の収斂光、検出器の受光角は2°の条件とした。得られた光散乱シートの法線方向から光を入射し、シート法線を含む平面内で角度を連続的に変えながら透過散乱光量を測定し、光散乱プロファイルを得た。透過散乱光量は、シートがない状態での光源の光量を1とした。
【0130】
(4)モアレ解消状態の評価
「モアレ解消」に関する評価ついては、下記に示すようにノートパソコンを改造して行った。
【0131】
<ノートPCの改造>
LG Display社製ノートPC(R700-XP50K)を分解し、バックライトと液晶パネルの間にある上拡散シートを取り外し、更に液晶セルに貼られたバックライト側の偏光板を剥がして、そこに上記作製した光散乱シートを粘着材で貼り付けた。なお、光散乱シートのない偏光板(偏光膜の両面にフジタックを保護膜として使用)を貼り付けた場合を[試験11]とした。
【0132】
そして、作製した液晶表示装置にビデオ信号ジェネレーター(VG−848;アストロデザイン(株)製)より信号を入力し、全面ベタ表示で128/256階調の灰色表示とし、暗室下で様々な方向から画面を目視観察し、モアレ発生の有無を下記のモアレ評価基準により評価した。
【0133】
<モアレ解消の評価基準>
○…モアレが観察されない
△…モアレが弱く観察される
×…モアレが明瞭に観察される
[試験結果]
図9の表より分かるように、互いに相分離可能な2種以上の樹脂材料の1つとしてスチレン-アクリロニトリル共重合体(以下「SAN」という)を使用した塗布液A−1で塗布層を形成した実施例1〜4の場合には、塗布直後に高速乾燥したときの「像鮮明度」が18%であった。そして、低速乾燥40秒後に高速乾燥を行ったときに、「像鮮明度」の好適範囲の上限である25%になった。
【0134】
また、低速乾燥0〜40秒での傾斜角分布プロファイルは38〜43%の範囲であり、好ましい範囲である21〜50%の範囲内に十分入っていた。これにより、モアレ解消の評価も○となった。
【0135】
これに対して、互いに相分離可能な2種以上の樹脂材料の1つとしてセルロースアセテートプロピオネートを使用した塗布液A−2で塗布層を形成した比較例1〜3の場合には、低速乾燥を行わないで塗布直後に高速乾燥を行う場合のみ、「像鮮明度」が27%であり、好ましい範囲の上限である25%に近い値となった。しかし、低速乾燥が10秒、40秒と長くなるにしがって像鮮明度は39%から65%まで大きくなった。
【0136】
また、比較例3の低速乾燥40秒での傾斜角分布プロファイルは16%であり、好ましい範囲である21〜50%の範囲内に入らなかった。これにより、モアレ解消評価も×となった。
【0137】
また、互いに相分離可能な2種以上の樹脂材料の1つとしてポリエステル樹脂、ポリエステルウレタン樹脂、又はポリメチルメタクリレート(以下「PMMA」という)を使用した塗布液A−3〜A−5で塗布層を形成した比較例4〜6の場合には、塗布直後に高速乾燥を行った場合であっても「像鮮明度」が70%を超えてしまった。またモアレ評価も全て×であった。
【0138】
以上、実施例1〜4、と比較例1〜6との結果から、本発明の光散乱シートは、塗布直後の初期乾燥で低速乾燥を行っても、低速乾燥の影響を受けることなく、光散乱シートとして好適な像鮮明度(10%以上25%未満)、傾斜角分布プロファイル(21〜50%)、及び○のモアレ評価を得ることができた。
【0139】
これに対して、CAPを用いた光散乱シートは、塗布直後に高速乾燥を行わないと、光散乱シートとして略満足できる性能のものを得ることができず、ポリエステル樹脂、ポリエステルウレタン樹脂、及びPMMAにいたっては、塗布直後に高速速乾燥しても満足なものが製造できていない。
【0140】
即ち、本発明の実施例1〜4と、比較例1〜6との違いは、本発明は樹脂材料の1つとしてSANを使用したことである。即ち、SANを使用することで、相分離の核成長を抑制することができるので、塗布直後に低速乾燥を行っても、塗布層内における回転対流の発生を抑止できるものと考察される。これにより、光散乱シートの相分離凹凸構造は、2種以上の樹脂材料による海島構造に形成され、島を構成する複数のドメインが紐形状を主体とするランダムな形状を有する。
【0141】
したがって、例えばCAPの場合には、塗布直後に低速乾燥を行うとその影響を強く受けるため、透過像鮮明度が低い低画像鮮明度の相分離凹凸構造を得ようとするには、塗布直後に高速乾燥を行わざるを得ない。しかし、塗布直後に急速乾燥を行うと、溶剤の蒸発を均一に行うことは難しく、上記した光学特性が安定しなくなる。
【0142】
この塗布直後に高速乾燥を行うと、光学特性が安定しなくなることは、次の試験Bで説明する。
【0143】
したがって、本発明の光散乱シートを、液晶ディスプレイのバックライト側の偏光板保護フィルムとして用いた場合、輝度ムラを生じることなく、また正面輝度を低下しない面光源を得ることができる。また、大面積で製造した際にも光学性能のバラツキが小さく、塗布直後の初期乾燥の影響を小さくした安定した性能の光散乱シートを製造することができる。
【0144】
[試験B]
試験Bでは、試験Aの実施例1について、塗布直後に高速乾燥を行うことによる光学特性の安定性を調べるために、繰り返し試験を行った。
【0145】
その結果を図10の表に示す。図10の表から分かるように、実施例1−1〜1−12の全てについて、光散乱シートとして好適な光学特性(像鮮明度、傾斜角分布プロファイル、及びモアレ解消)を維持できるが、塗布直後に高速乾燥を行った場合(25℃での乾燥時間0秒)には、低速乾燥時間が10秒、40秒に比べて繰り返し精度が悪くなった。
【0146】
このことから、低速乾燥を行い溶媒の蒸発を均一化することによって、常に安定した光学特性の光散乱シートを製造できることが分かった。
【0147】
[試験C]
試験Cでは、試験Aの実施例2と同様に25℃での低速乾燥を10秒行った後に、下記の3通りの乾燥速度で乾燥したときに得られた光散乱シートのサンプルについて、「像鮮明度」、「傾斜角分布プロファイル」、及び「モアレ解消」を比較した。
【0148】
・実施例2−1…1.5g/m・秒で乾燥した。
【0149】
・比較例2−1…1.3g/m・秒で乾燥した。
【0150】
・比較例2−2…1.0g/m・秒で乾燥した。
【0151】
上記3通りの乾燥は、100℃で1分間乾燥すると共に、その時の風速(風量)を変えることで、乾燥速度を1.0g/m・秒、1.3g/m・秒、1.5g/m・秒の3通りに変えた。ちなみに、試験Aにおいて、100℃で1分間乾燥での乾燥速度が2.05g/m・秒となっているが、これは実施例2−1よりも風速を大きくしたためである。
【0152】
その結果、乾燥速度を1.3g/m・秒又は1.0g/m・秒で行った比較例2―1及び比較例2−2の場合には、「傾斜角分布プロファイル」が好適範囲である21〜50%を満足したものの、「像鮮明度」が好適範囲である10〜25%の上限を超えてしまうと共に、モアレ解消評価が△〜×の評価であった。
【0153】
これに対して、乾燥速度を1.5g/m・秒で行った実施例2−1の場合には、「像鮮明度」、「傾斜角分布プロファイル」、及び「モアレ解消」の全てについて良い結果であった。
【0154】
この試験Cの結果、更には試験Aでの乾燥速度が2.05g/m・秒であったことを考えると、相分離臨界固形分濃度に達するまでの区間の初期乾燥後の塗布層を、1.5g/m・秒以上の乾燥速度で高速乾燥することが重要であることが分かる。
【0155】
[試験D]
試験Dでは、試験Aの実施例4(SAN)と比較例3(CAP)について、透明支持体の種類による光学性能への影響について調べた。その結果を図12の表に示す。
【0156】
図12の結果から分かるように、樹脂材料としてSANを使用した実施例4は、透明支持体の種類をTAC,ガラス板、PETと変えても、像鮮明度、傾斜角分布プロファイル、及びモアレ評価が殆ど変わらなかった。したがって、光散乱シートを液晶ディスプレイの保護シートを兼用する場合、保護シートに要求される性質から透明支持体にTACを使用することが通常であるが、本発明であればTACを使用しても光散乱シートとしての好適な性能を維持できる。
【0157】
これに対して、樹脂材料としてCAPを使用した比較例3は、TACよりも溶媒浸透性の小さなガラス板、PETを使用することにより像鮮明度、傾斜角分布プロファイル、及びモアレ評価ともに改善された。これは、溶媒浸透性の大きなTACを透明支持体として使用すると、塗布層中の溶媒が透明支持体に浸透することで相分離が一気に促進されるためであると考察される。したがって、溶媒浸透性の小さなガラス板やPETで光学性能の改善が見られたものと考察される。
【0158】
このことから、樹脂材料の1つとしてSANを使用することにより、相分離の核成長を抑制することができるので、初期乾燥での低速乾燥の影響を受けないだけでなく、透明支持体の種類の影響も受け難いことが分かった。
【0159】
[試験E]
試験Eでは、試験Aの実施例4(SAN)を使用して溶媒の種類による光学性能への影響を調べた。その結果を図13の表に示す。
【0160】
図13から分かるように、MEKとMMPGAc(1:1)の混合溶媒、MEKとアノン(1:1)の混合溶媒については良い結果となった。
【0161】
これに対して、MEK100%や、MEKとMIBK(1:1)のように100℃未満の低沸点溶媒のみの場合や、混合される高沸点溶媒の沸点が120℃以上ないと、像鮮明度が高くなる傾向がある。
【0162】
このように、混合溶媒に120℃以上のMMPGAcやアノンのような高沸点溶媒を混合することにより、相分離の核成長を抑制することができるので、紐形状を主体とするランダムな海島構造を一層安定して形成することができるためと考察される。
【符号の説明】
【0163】
10、10’…塗布・乾燥装置、12…塗布機、14…乾燥機、16…透明支持体、16A…塗布層、18…乾燥機本体、20〜32…一方向気流発生手段、31A…低速乾燥温度調整手段、31B…低速乾燥温度調整手段、34、36、38…パスローラ、40a〜40g…仕切板、42a〜42f…乾燥ゾーン、44、46…蓋板、48…遮蔽板、50…整風板、50a…整風板の孔、52…通路室、54…排気室、56…上蓋、58、60…サイドシール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに相分離可能な2種以上の樹脂材料が溶媒に溶解された溶液からスピノーダル分解により形成される相分離凹凸構造の光散乱層を透明支持体上に形成して成る光散乱シートの製造方法において、
前記樹脂材料の1つとしてスチレン−アクリロニトリル共重合体を含む溶液を前記透明支持体上に塗布して塗布層を形成する塗布工程と、
前記塗布層の相分離臨界固形分濃度に達するまでの区間の初期乾燥を室温で乾燥する低速乾燥工程と、
前記初期乾燥以後の塗布層を1.5g/m・秒以上の乾燥速度で乾燥する高速乾燥工程と、を備え、
前記塗布層の樹脂材料組成に前記スチレン−アクリロニトリル共重合体を含むことにより、前記初期乾燥の区間における前記相分離の核成長を抑制して、前記相分離臨界固形分濃度における前記塗布層のマランゴニ数が80未満になるようにすることを特徴とする光散乱シートの製造方法。
【請求項2】
前記低速乾燥工程では、乾燥風の温度を室温にする一方、乾燥風の風速を乾燥ムラが発生しない限度で大きくすることを特徴とする請求項1に記載の光散乱シートの製造方法。
【請求項3】
前記樹脂材料が前記スチレン−アクリロニトリル共重合体とアクリル系樹脂と多官能モノマーから構成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の光散乱シートの製造方法。
【請求項4】
前記多官能モノマーは、光重合性アクリレートモノマーであることを特徴とする請求項3に記載の光散乱シートの製造方法。
【請求項5】
前記透明支持体が前記溶媒に対して浸透性を有するトリアセチルセルロースであることを特徴とする請求項1〜4の何れか1に記載の光散乱シートの製造方法。
【請求項6】
前記溶媒は、100℃未満の低沸点溶媒と、120℃以上の高沸点溶媒との混合溶媒であることを特徴とする請求項1〜5の何れか1に記載の光散乱シートの製造方法。
【請求項7】
前記低沸点溶媒がメチルエチルケトンであって、前記高沸点溶媒がアノン又はメトキシプロピルアセテートであることを特徴とする請求項6に記載の光散乱シートの製造方法。
【請求項8】
互いに相分離可能な2種以上の樹脂材料が溶媒に溶解された溶液からスピノーダル分解により形成される相分離凹凸構造の光散乱層を透明支持体上に形成して成る光散乱シートにおいて、
前記光散乱層は、前記相分離凹凸構造がスチレン−アクリロニトリル共重合体を含む2種以上の樹脂材料による海島構造に形成され、島を構成する複数のドメインが紐状を主体とするランダムな形状を有し、
2.0mm幅の光学櫛を用いてJIS K 7374に準じて測定した透過像鮮明度が10%以上25%未満であることを特徴とする光散乱シート。
【請求項9】
前記樹脂材料が前記スチレン−アクリロニトリル共重合体とアクリル系樹脂と多官能モノマーから構成されることを特徴とする請求項8に記載の光散乱シート。
【請求項10】
前記多官能モノマーは、光重合性アクリレートモノマーであることを特徴とする請求項9に記載の光散乱シート。
【請求項11】
前記光散乱シートは、
透過光強度の角度分布がガウス分布をしていることを特徴とする請求項9又は10に記載の光散乱シート。
【請求項12】
前記光散乱シートは、
前記相分離凹凸構造の表面傾斜角2.5°〜7.5°の割合が21%〜50%であることを特徴とする請求項8〜11の何れか1に記載の光散乱シート。
【請求項13】
前記透明支持体が前記溶媒に対して浸透性を有するトリアセチルセルロースであることを特徴とする請求項8〜12の何れか1に記載の光散乱シート。
【請求項14】
前記2種以上の樹脂材料の屈折率が異なることを特徴とする請求項8〜13の何れか1に記載の光散乱シート。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図1】
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【公開番号】特開2013−15797(P2013−15797A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−156280(P2011−156280)
【出願日】平成23年7月15日(2011.7.15)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】