説明

光散乱体の非破壊測定装置

【課題】光散乱体の非破壊測定装置において、散乱係数の分布が空間的に不均一な光散乱体や、測定対象とする成分以外の成分を複数含む多成分系の光散乱体を被検体としても、良好な測定精度を得ることができるようにする。
【解決手段】複数の波長光を発生する光源8と、これら照明光を出射端面から1箇所の照射領域に向けて光散乱体からなる被検体2に光ファイバケーブル4と、出射端面の中心に対して互いに異なる径を有する少なくとも2つの同心円の円周上においてそれぞれ2箇所以上の位置に入射端面を有する光ファイバケーブル5、6と、それらで受光した光の光強度を検出する光検出器16、17と、それらで検出された光強度の比をとった相対反射率を波長ごとに算出し、相対反射率に基づいて前記被検体内部の性状特性値を算定する演算処理部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光散乱体を被検体とし、その性状特性値を測定する光散乱体の非破壊測定装置に関する。例えば、光散乱体である生体を被検体とし、その性状測定値から被検体の組成を測定する生体組成の非侵襲測定装置として好適となる光散乱体の非破壊測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病では、膵臓から分泌されるインスリンの不足、あるいは体の細胞がインスリンに反応しなくなることで、筋肉や肝臓への糖の蓄積が行われなくなり血液中のグルコース濃度、つまり血糖値が高くなり、これにより網膜症、神経障害、腎症等様々な合併症が引き起こされる。厚生労働省の糖尿病実態調査によれば、糖尿病患者は国内に740万人、その予備軍を含め1600万人以上にもなると言われ、深刻な国民病となっている。現状、糖尿病治療の完全な治療方法がなく、血糖値を測定しながら、インスリンの投与、あるいは食事療法によって血糖値を適正なレベルに維持させている。
現状の血糖測定は、採血した血液を用い、血糖に対するグルコース酸化酵素の反応を電気化学的に定量し、血糖値に換算するグルコースセンサー法を用いた測定器により行われており、糖尿病患者の日常での血糖値管理に用いる携帯型血糖値測定器などはすでに市販化されている。
こうした血糖値検査では1日数回の採血に伴う苦痛、また採血針による感染等の問題がある。そこで、採血が不要で、また血糖値の日内変動をリアルタイムで測定できる血糖値の非侵襲測定装置が望まれている。
【0003】
従来、このような生体の非侵襲測定が可能となる光散乱体の非破壊測定装置として、複数の波長の光を人体に照射し、その人体からの反射光、または透過光を分光器で測定し、その反射光、または透過光のスペクトルから人体の血糖値を測定する種々の非侵襲測定装置が知られている。
例えば、非特許文献1には、連続した近赤外領域の波長の光を唇に照射し、その拡散反射光から分光器等を用いて拡散反射光の連続したスペクトルを測定し、部分最小二乗(PLS)回帰分析によって得られた検量式を用いてそのスペクトル値から血糖値を測定する方法が提案されている。
また、特許文献1には、近赤外領域の波長の光を指等に照射し、その透過光を検出して特定波長964nmと944nmの吸光度の比(規格化吸光度)を求め、その値から血糖値を測定する光学的血糖値非破壊測定方法および装置が記載されている。
また、特許文献2には、測定部位に3つの異なる波長の光を照射し、測定部位を透過したそれぞれの透過光を異なる距離をおいた2箇所で受光してその透過光量を検出し、検出した2箇所での同波長の透過光量の比である相対反射率を各波長で算出し、同各波長の相対反射率を用いて算出される相対吸光度比から血糖値を算定する血糖値の非侵襲測定装置が記載されている。
【非特許文献1】H・M・ヘイズ他(H. M. Heise, et al.)、「アーティフィシャル・オーガンズ(Artificial Organs)」、(米国)、1994年、第18巻、第6号、pp.439−447(図3)
【特許文献1】特開平5−176917号公報(図1)
【特許文献2】特開2004−313554号公報(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような従来の光散乱体の非破壊測定装置には、以下のような問題があった。
非特許文献1に記載の技術では、測定部位の組織構造、あるいはその組成が測定部位や個人による違いが大きく、十分な測定精度が得られない上に、複数の対象者に適用できる同一の検量式を得るのが難しい等の問題がある。この原因としては、測定部位に照射された光は光散乱体である測定部位内部で散乱されその内部を伝播するが、個人によって組織構造に起因した散乱係数が異なり、その散乱光路長が異なるため、検出される反射光量が異なることが挙げられる。さらには、測定部位の水分、脂肪分等の組成が個人によって異なる為、散乱光路長の変化に加えて、測定部位内部での光の吸収量が個人で異なることも大きな原因となる。
特許文献1に記載の技術では、特定の2波長の光を用い、その透過光により血糖値を測定する装置を提案している。この装置では測定部位(指)の大きさやその散乱係数が個人で異なるため、光の散乱光路長が大きく異なることで、検出される透過光量が異なり血糖値の測定精度が悪化してしまうという問題がある。
特許文献2に記載の技術では、異なる距離をおいた2箇所で受光した光量の相対反射率を計測し、異なる3つの波長の各相対透過度から算出される相対吸光度比を用いることで測定部位の厚みや散乱光路長の違いによる誤差を低減する手法を提案しているが、この手法は均一な光散乱体における理論に基づいており、例えば筋肉を含む測定部位では、筋肉の伸縮方向とそれに直交する方向で散乱特性が異なり、散乱係数が空間的に一様に分布していないため血糖値の測定精度が悪化してしまうという問題がある。また、検出される透過光量(あるいは反射光量)が生体に含まれる水分、脂肪等による吸収の影響を受け、部位や個人でその組成が異なると血糖値の測定精度が悪化するという非特許文献1、特許文献2と同様の問題を有している。
【0005】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、内部の散乱特性が不均一である光散乱体、例えば、散乱係数の分布が空間的に不均一な光散乱体や、測定対象とする成分以外の成分を複数含む多成分系の光散乱体を被検体としても、良好な測定精度を得ることができる光散乱体の非破壊測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載の発明では、複数の波長光を発生する光源と、該光源からの複数の波長光を、それぞれに共通な光出射口から1箇所の照射領域に向けて光散乱体からなる被検体に照射する光照射部と、前記被検体からの透過光を受光するために、前記光照射部の光出射口中心に対して互いに異なる径を有する少なくとも2つの同心円の円周上においてそれぞれ2箇所以上の位置に受光口を有する少なくとも2つの受光部と、該少なくとも2つの受光部で受光した光の光強度を検出する光検出部と、前記同心円径の異なる2つの受光部の前記光強度の比をとった相対反射率を前記複数の波長ごとに算出し、前記相対反射率に基づいて前記被検体内部の性状特性値を算定する演算処理部とを備え、前記光照射部が、前記複数の波長光として、4つ以上の波長λ(i=1,2,…,n、ただしnは4以上の整数)を含む光を照射し、前記光検出部が、前記少なくとも2つの受光部のうち、前記同心円の半径がρ、ρ(ただし、ρ<ρ)の2つの受光部で受光した光の波長λにおける総受光量をそれぞれJ1λi、J2λiとして検出したときに、前記演算処理部が、下記式(1)で表される前記波長λごとの相対反射率Rλiを算出し、下記式(2)で表される相対吸光度比γ(k=1,…,m、ただし、mは2以上の整数)を算出し、前記性状特性値を、前記m個の相対吸光度比γ(k=1,…,m)を説明変数とする多項式を用いた検量式によって算定するようにした構成とする。
λi=J2λi/J1λi ・・・(1)
γ=ln(R2k/R0k)/ln(R1k/R0k) ・・・(2)
ここで、R0k、R1k、R2kは、n個のRλiのうちから選ばれた相異なる3つの相対反射率であり、かつ、すべてのγに対してR0k=RλNかつR1k=RλM(ただし、N、Mは相異なる一定の整数)である場合を除くものとする。
この発明によれば、光照射部から、被検体の1箇所の照射領域に照射された光の、透過光を少なくとも2つの受光部で受光して、光検出部で各受光部の光強度を検出し、演算処理部により、各受光部の光強度から、同心円径の異なる2つの受光部の光強度の比である相対反射率を波長ごとに算出して、それらに基づいて被検体内部の性状特性値を算定することができる。その際、少なくとも2つの受光部の受光口が、各同心円の円周上においてそれぞれ2箇所以上の受光光を有するので、光照射部から同一距離だけ離れた位置の2箇所以上の光強度を検出して、それぞれを平均化した相対反射率を算出することができる。そのため、被検体内部の散乱特性の不均一性に起因する測定誤差を低減することができる。
被検体内部の散乱特性の不均一性は、例えば、散乱係数の空間的な分布の不均一性などがある。一般に、被検体内部の組織の構成や構造に不均一性、異方性があれば、散乱特性の不均一性が生じることが多い。
そして、演算処理部では、n個の波長光に応じて、m個の相対吸光度比γを算出して、n個の波長に対応した相対吸光度比を説明変数とする多項式を用いた検量式によって性状特性値を算定する。
式(2)の相対吸光度比γは、均一な光散乱体では、理論的に、測定のために照射される光量、ρ、ρ、Δ=(ρ−ρ)、光散乱体の等価散乱係数に依存しない量である。したがって、光散乱体の散乱特性の不均一性が増大すると、相対吸光度比を説明変数とする検量式による誤差も増大する傾向にあるが、この発明では、相対反射率が、同心円上の2箇所以上の位置における総受光量から算出されるので、それぞれの受光位置に応じて、被検体の内部で不均一な散乱度合いの影響が平均化され、より誤差の少ない推定を
行うことができる。
さらに、光の吸収の原因となる成分を複数含む多成分系の光散乱体では、対象とする成分を測定する場合に他の組成による光の吸収の影響を受けてその測定精度が悪化する。ところが、式(2)で表される相対吸光度比γ(k=1,2,…,m)は散乱光路長に依存せず、その組成C(i=1,2,…,p)だけの関数として下記多項式で表される。
γ=ak0+ak1・C+ak2・C+…+akp・C ・・・(21)
故に、式(21)の関係式より、特定成分Cは相対吸光度比γkを複数用いることで他の成分の影響を受けることなく下記式で表される。
=βi0+βi1・γ+…+βim・γ ・・・(22)
特定成分Cを推定する為に式(22)で選択される最適のγ(k=1,2,…,m)は測定対象により異なり、光散乱体に含まれる成分の種類、数に応じて選択することができる。これにより、多成分系の光散乱体でも、他の成分の影響が低減され、測定対象成分の高精度な測定が可能となる。
【0007】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の光散乱体の非破壊測定装置において、前記光照射部の光出射口側の端部と、前記少なくとも2つの受光部の受光口側の端部とが、それぞれの離間距離を固定する固定保持部材に一体に保持された構成とする。
この発明によれば、固定保持部材により、光照射部の光出射口と少なくとも2つの受光部の受光口とが、それぞれの離間距離が固定された状態で一体に保持されるので、それぞれの相対距離を一定に保った状態で容易に測定を行うことができる。
【0008】
請求項3に記載の発明では、請求項1または2に記載の光散乱体の非破壊測定装置において、前記少なくとも2つの受光部の各受光口が、前記光出射口の中心を挟んで対向する対を形成するように配置された構成とする。
この発明によれば、受光部の受光口が光出射口の中心を挟んで対向する対を形成するように配置されるので、それぞれが配置される対向方向における光散乱体の散乱特性の不均一性に起因する測定誤差を低減することができる。
【0009】
請求項4に記載の発明では、請求項1〜3のいずれかに記載の光散乱体の非破壊測定装置において、前記少なくとも2つの受光部の受光口が、前記光出射口を中心として90°回転した位置関係に配置された構成とする。
この発明によれば、受光部の受光口が、光出射口を中心として90°回転した位置関係に配置されているので、それぞれの直線上の受光口から、直交する2軸方向に伝搬する光の光量が取得されるので、被検体に2軸方向における散乱特性の不均一性を効率的に低減することができる。
【0010】
請求項5に記載の発明では、請求項1〜4のいずれかに記載の光散乱体の非破壊測定装置において、前記少なくとも2つの受光部の受光口が、それぞれの同心円上でそれぞれ略等間隔に配置された構成とする。
この発明によれば、受光部の受光口をそれぞれの同心円上で略等間隔に配置するので、同心円の周方向における散乱特性の不均一性を略均等に低減することができる。
なお、各同心円上での配置間隔を共通とすれば、均等化の程度を、同心円径の大きさによらず、一定とすることができるのでより好ましい。
【0011】
請求項6に記載の発明では、請求項1〜5のいずれかに記載の光散乱体の非破壊測定装置において、前記少なくとも2つの受光部の受光口が、それぞれ前記同心円の円周上に延ばして設けられた円弧状または円状からなる少なくとも1つの受光口により構成する。
この発明によれば、受光部の受光口が、円弧状または円状からなる少なくとも1つの受光口からなるので、それぞれの円周方向の開口長さの範囲で、連続的に受光することができる。そのため透過光をその範囲でもれなく受光することができる。そのため、円周方向の散乱特性の不均一性を、円孔状の受光口を複数設ける場合に比べて、さらに均等化することができる。
ここで、円弧状とは、受光口の径方向の開口幅の2倍以上の長さの円弧状を意味するものとする。この場合、受光光の径方向の開口幅を直径とする2つの円孔状の受光口を2つ隣接して並べた場合と同等以上の作用効果が得られるので、1つの受光口でも、同心円の円周上において2箇所以上の位置に設けられた受光口としての技術的意義を持つものである。
【0012】
請求項7に記載の発明では、請求項1〜6のいずれかに記載の光散乱体の非破壊測定装置において、前記光検出部が、前記各受光部の受光口に入射する光を前記受光部ごとにまとめて検出するように構成する。
この発明によれば、各受光部の受光口に入射する光を、受光部ごとにまとめて検出するので、光検出部の構成を簡素なものとすることができる。
【0013】
請求項8に記載の発明では、請求項1〜6のいずれかに記載の光散乱体の非破壊測定装置において、前記光検出部が、前記各受光部の各受光口に入射する光を前記受光口ごとに検出し、それらの光強度を演算処理することで、前記受光部ごとの光強度を算出するようにした構成とする。
この発明によれば、光検出部が、各受光部において、受光口ごとに光強度を検出してからそれらの光量を演算処理することで、各受光部の光強度を算出するので、必要に応じて、各受光口の光強度を演算処理することができる。例えば、平均光量を求めたり、受光口ごとに校正を行ったりすることができる。
【0014】
請求項9に記載の発明では、請求項2〜8のいずれかに記載の光散乱体の非破壊測定装置において、前記光照射部の光出射口および前記少なくとも2つの受光部の受光口が、前記固定保持部材の表面またはその近傍の位置に整列して配置された構成とする。
この発明によれば、光出射口および少なくとも2つの受光部の受光口が固定保持部材の表面の位置に整列して配置されるので、測定精度を向上することができる。
光出射口および各受光口が、固定支持部材表面から被検体側に突出している場合、光出射口近傍での反射光が、被検体と固定保持部材表面との間で少ない回数で遠くまで反射伝搬され受光口に迷光が入射しやすくなる。
また、光出射口および各受光口が、固定支持部材の内側深くに設けられている場合、被検体からの透過光の入射範囲が受光口前方の固定支持部材の開口によって制限され、受光量が低下しやすくなる。
【0015】
請求項10に記載の発明では、請求項2〜9のいずれかに記載の光散乱体の非破壊測定装置において、前記固定保持部材のうち、前記光照射部の光出射口および前記少なくとも2つの受光部の受光口が位置する表面が、光吸収性を備える構成とする。
この発明によれば、光出射口および受光口が位置する固定保持部材の表面が光吸収性を有するので、固定保持部材の表面反射光が低減される。そのため測定精度を向上することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の光散乱体の非破壊測定装置によれば、光照射部を中心とする半径の異なる2つの同心円上のそれぞれから2箇所以上の位置での総受光量を複数の波長で検出して、同心円の半径差だけ離れた位置の相対反射率を算出することで、被検体内部で不均一な散乱度合いに起因する測定誤差を低減することができるので、散乱係数などが空間的に不均一に分布する光散乱体を被検体としても良好な測定精度を得ることができるとともに、複数の相対吸光度比を用いることで、測定対象成分以外の成分の影響を低減することができるため、測定対象の成分を良好な精度で測定することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下では、本発明の実施の形態について添付図面を参照して説明する。すべての図面において、実施形態が異なる場合であっても、同一または相当する部材には同一の符号を付し、共通する説明は省略する。
【0018】
[第1の実施形態]
本発明の第1の実施形態に係る光散乱体の非破壊測定装置について説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係る光散乱体の非破壊測定装置の概略構成を示す模式的な構成図である。図2(a)、(b)は、本発明の第1の実施形態に係る光散乱体の非破壊測定装置の受光部の図1におけるA視方向の側面図およびそのB−B断面図である。図3は、本発明の第1の実施形態に係る光散乱体の非破壊測定装置の受光部の固定保持部材の反射率特性を比較例とともに示すグラフである。横軸は波長(nm)、縦軸は反射率(%)を表す。図4は、本発明の第1の実施形態に係る光散乱体の非破壊測定装置の制御系の機能構成について説明するための機能ブロック図である。
【0019】
本実施形態の非破壊測定装置1は、図1に示すように、外部から入射された光を散乱して外部に出射する光散乱体からなる被検体2の内部の性状特性値を光学的に測定するものであり、その概略構成は、光源ユニット7、センサプローブ3(固定保持部材)、検出部24、信号処理部18、中央制御ユニット19、および表示部20からなる。
被検体2は、測定対象の性状を有する光散乱体であれば、どのようなものでもよい。例えば、青果物、生体などの動植物、食品、飲料物、土壌サンプル、その他、各種定量分析用検体、固体状・粉体状・ゼリー状・液体状等の試料などの例が挙げられる。
性状特性値としては、入射光に対する吸収の度合いと相関を有する性状を表す特性値であり、検量式を設定することができれば、どのようなものでもよい。例えば、生体の血糖値や水分、脂肪、組織酸素飽和度、ヘモグロビン濃度、あるいは青果物の糖度や酸度、小麦粉の水分量やタンパク質成分量、ジャガイモなどのでんぷん濃度、土壌中の窒素などの肥料成分量などの性状特性値を挙げることができる。
また、非破壊測定装置1は、このような種々の性状特性値の1つを測定する装置であってもよいし、複数の性状特性値を切り替えて測定できる装置であってもよい。後者の場合、測定者は、操作入力を行う操作部21(図4参照)から、測定する性状特性値や測定条件などをそれぞれの測定に応じて手動設定してもよいし、同一の被検体2に対する複数の性状特性値を自動的に連続して行えるようにしてもよい。
【0020】
以下では、一例として、生体の血糖値を測定する非侵襲測定装置として用いた場合の例で説明する。
【0021】
光源ユニット7は、4つ以上の波長光を発生するためのものである。これらの波長は、例えば、血糖値の非侵襲測定であれば、700nm〜1200nmの範囲から選択して設定することができる。
本実施形態の光源ユニット7は、それぞれ波長が異なる光源8A、8A、…、8A(n≧4)からなる光源8、光源制御部11、および結合レンズ9A、9A、…、9A(n≧4)を備える。
【0022】
光源8A、8A、…、8Aは、それぞれ中心波長λ、λ、…、λ(n≧4)を発振する光源で、例えば、半導体レーザーや発光ダイオードなどを採用することができる。
光源制御部11は、不図示の電源を備え、中央制御ユニット19からの制御信号に応じて、光源8A、8A、…、8Aの発光タイミングと光強度とを、それぞれの光源で独立に制御するものである。
本実施形態では、中央制御ユニット19から受け取る一定周期のクロック信号に同期して、それぞれ予め設定された発光強度となるように、直流または変調された電流を光源8A、8A、…、8Aに供給し、順次点灯する制御を行う。
結合レンズ9A、9A、…、9Aは、それぞれ光源8A、8A、…、8Aから出射された光をそれぞれ集光し、照射光10A、10A、…、10A(n≧4)として、後述する光ファイバケーブル4に光結合するための光学素子である。
【0023】
センサプローブ3は、図2(a)、(b)に示すように、光源ユニット7によって発生された照射光10A、10A、…、10Aを被検体2の被検体表面2aに導くとともに、被検体表面2aからの光を検出部24に導くためのもので、直径φDの円筒外形を有するプローブ本体3bに、光ファイバケーブル4、5、6の端部を固定した構成を有する。
【0024】
光ファイバケーブル4(光照射部)は、図1、2に示すように、一方の端部に出射端面4a(光出射口)、他方の端部に入射端面4cを備えるn個の光ファイバ4bからなり、出射端面4aが、光ファイバの光軸方向の同一位置に整列した状態で、光軸方向から見て一定の領域内にまとめられた状態で結束され、他方の端部側で、n個の入射端面4cがそれぞれ照射光10A、10A、…、10Aの結像位置に配置されるように分岐されたものである。
そして、まとめられた状態の出射端面4aが、被検体表面2aに対向するプローブ端面3aの中心部で、プローブ端面3aと同一平面に整列した状態で固定されている。
【0025】
光ファイバケーブル5、6(受光部)は、それぞれ一方の端部に入射端面5a、6a(受光口)、他方の端部に出射端面5c、6cを備える8つの光ファイバ5b、6bからなり、出射端面5c、6cが、光ファイバの光軸方向の同一位置に整列した状態で一定の領域内にまとめられた状態で結束され、一方の端部側で、8つの入射端面5a、6aがそれぞれの受光位置に配置されるように分岐されて、プローブ本体3bに取り付けられたものである。
【0026】
8つの入射端面5aは、出射端面4aの中心位置(光出射口中心)から、半径ρの円周上の等分位置に配置され、それぞれプローブ端面3aと同一平面上に整列されている。
8つの入射端面6aは、出射端面4aの中心位置から、半径ρの円周上の等分位置に配置され、それぞれプローブ端面3aと同一平面上に整列されている。
ここで、ρ=ρ+Δ(ただし、Δ>0)である。
ρ、ρ、Δは、それぞれ被検体2の大きさなどにより、適宜設定することができるが、特に、同心円の半径ρ1、同心円の半径の差Δ=ρ−ρは、性状特性値の測定精度に影響しやすいため、測定対象に好適な値の範囲から設定することが好ましい。例えば、血糖値の非侵襲測定では、ρ、Δは共に2mm以上とすることが好ましい。ρ1、Δの上限値は、入射端面6a側での受光光強度の大きさから適宜設定すればよいが、例えば、血糖値の非侵襲測定では10mm以下が好適である。
【0027】
また、入射端面5a、6aの間の円周方向の配置位置は、特に限定されないが、本実施形態では、出射端面4aを挟んで対向位置にある入射端面5a、5aと、同じく入射端面6a、6aとが、それぞれ同一直径上に整列して配置されている。
すなわち、各入射端面5a、6aは、出射端面4aに対してプローブ端面3a上で良好な対称性を有する配列とされるとともに、入射端面5a、6aの円周方向に等間隔に配列されているので、出射端面4aを中心とする同心円状の測定領域から光を均等に受光することができる配置となっている。
【0028】
光ファイバ4b、5b、6bのファイバ構成、ファイバ材質は、伝送損失が少ないことが好ましいが、校正のための特性値、例えば、受光口のNAや、光ファイバの波長ごとの伝送損失特性などが分かっていれば、特に限定されない。例えば、マルチモードでも、シングルモードでもよいし、屈折率分布も適宜の分布でよい。また、ガラスファイバでも、プラスチックファイバでもよい。
本実施形態では、光ファイバ4b、5b、6bを、φ0.2mmの心線を複数本合わせて、φ1程度としたものを採用している。すなわち、各入射端面5a、6aの開口面積が同一の場合の例となっている。
【0029】
プローブ本体3bは、少なくともプローブ端面3a上では、被検体2からの光の反射光が、測定ノイズとならないように、光吸収性を付与することが好ましい。光吸収性の程度は、必要な測定精度にもよるが、例えば、生体の組成計測や青果物の糖度測定では、反射率で10%以下が好ましく、5%以下であることがより好ましい。また、校正を容易にするためには、測定に用いる波長範囲での反射率の波長特性は、略平坦であることが好ましい。
本実施形態では、近赤外領域で、このような良好な光吸収性を有する材質として、ポリアセタール素材の黒色グレードを採用している。
【0030】
図3に、このようなポリアセタール素材の黒色グレードの反射率の波長特性を比較例とともに示した。
曲線100は、アセタールコポリマーを原料とした黒色グレードのポリアセタール素材の波長700nm〜1200nmの反射率特性を示している。
図3から分かるように、この波長帯域では、いずれも5%以下の略平坦な反射率分布を備えている。
一方、曲線101は、比較例として、センサプローブ3をアルミ材で製作し、プローブ端面3aに黒色アルマイト処理を施した場合の反射率特性を示す。
曲線101は、この波長範囲では、長波長になるにつれて上昇し、1200nmでは、60%をわずかに超える反射率となっている。本実施形態の波長範囲でも、約20%〜55%となっており、10%以下の良好な光吸収性を有していない場合の例となっている。
【0031】
検出部24は、被検体表面2aからの光のうち、各入射端面5a、6aに入射して、光ファイバ5b、6b内を伝搬し、出射端面5c、6cからまとめて出射された出射光12、13をそれぞれ集光する集光レンズ14、15と、それぞれの集光位置に受光面が配置された光検出器16、17(光検出部)とからなる。
光検出器16、17は、照射光10A、10A、…、10Aの波長光に十分な感度を有するフォトダイオードなどを採用することができる。
【0032】
信号処理部18は、光検出器16、17の検出出力を増幅し、光検出器16、17の波長特性に応じて予め設定された校正値に基づいて、検出出力を校正するとともに、入射端面5a、6aの受光範囲の総受光強度に換算したデジタル信号に変換して、演算処理部30に送出するものである。
以下では、入射端面5aからの波長λ(i=1,2,…,n、n≧4、以下同じ)に対応する総受光量をJ1λi、受光面積当たりの平均受光量をI1λi、同じく入射端面6aからのものをそれぞれJ2λi、I2λiと表す。
ここで、それぞれに入射する出射光12、13の波長は、中央制御ユニット19から送出されるクロック信号に基づいて、光源制御部11の波長切り替えタイミングを自動的に判別して判断する。
【0033】
中央制御ユニット19は、非破壊測定装置1の測定動作を制御するもので、光源制御部11、信号処理部18、表示部20、および操作部21に電気的に接続され、それぞれとの間で、種々の制御信号やデータの通信を行って、それぞれの動作を制御するものである。
その概略の機能ブロック構成は、図4に示すように、装置制御部22、表示制御部23、および演算処理部30からなる。
中央制御ユニット19のハード構成は、それぞれの機能ブロックの動作を行うハードウェアから構成してもよいが、CPU、メモリ、入出力インタフェース、適宜の記憶部などを備えるコンピュータで構成し、それぞれの機能ブロックの動作に対応するプログラムを実行させてもよい。
【0034】
装置制御部22は、測定者が操作する操作部21からの操作入力に応じて、光源制御部11、信号処理部18、演算処理部30、表示制御部23の動作を協調して制御し、測定の開始、終了、および測定動作などを行うものである。
光源制御部11、信号処理部18に対しては、複数の波長光の発光および検出処理の制御する制御信号を送出するとともに、それぞれの動作を同期させるクロック信号を送出する。
演算処理部30に対しては、操作部21の操作入力に応じて測定する性状特性値を通知し、演算処理部30の処理動作を初期設定する。
表示制御部23に対しては、操作部21の操作入力や、演算処理部30から送出された測定結果などの情報を送出し、表示部20に表示させる制御を行う。
【0035】
表示制御部23は、装置制御部22から送出された情報を表示部20に表示するための映像信号に変換するものである。
【0036】
演算処理部30は、相対反射率算出部31、相対吸光度比算出部32、性状特性値算定部33、検量式データ保持部34からなる。
相対反射率算出部31は、信号処理部18から送出されるJ1λi、J2λiから、上記の式(1)にしたがって、相対反射率Rλiを算出するものである。
【0037】
相対吸光度比算出部32は、相対反射率算出部31で算出された相対反射率Rλiから、上記の式(2)にしたがって、相対吸光度比γを算出し、性状特性値算定部33に送出するものである。すなわち、下記の式(2a)、(2b)、…、(2m)のようにして、m個の相対吸光度比γ(k=1,2,…,m)を算出する。
γ=ln(R21/R01)/ln(R11/R01) ・・・(2a)
γ=ln(R22/R02)/ln(R12/R02) ・・・(2b)
γ=ln(R23/R03)/ln(R13/R03) ・・・(2c)
・・・
γ=ln(R2m/R0m)/ln(R1m/R0m) ・・・(2m)
ここで、R0k、R1k、R2kは、n個のRλiのうちから選ばれた相異なる3つの相対反射率であり、かつ、すべてのγに対してR0k=RλNかつR1k=RλM(ただし、N、Mは相異なる一定の整数)である場合を除くものとする。
【0038】
なお、本明細書では、Rλiの名称として、被検体表面2aへの入射光量に対する出射光量の比であることから「相対反射率」を採用しているが、出射光量は、被検体2の内部を通って入射位置から離れた位置に透過した光量が検出されることから「相対透過率」と称しても差し支えないものである。
【0039】
性状特性値算定部33は、予め検量式データ保持部34に記憶された係数β(k=1,2,…,m,m≧2)を呼び出し、例えば、次式のような検量式に基づいて、相対吸光度比算出部32で算出されたγから、性状特性値Cを算出するものである。本実施形態では、性状特性値Cは血糖値であるため、以下では、血糖値Cと称する場合がある。
C=β+β・γ+…+β・γ ・・・(3)
性状特性値Cの計算結果は、装置制御部22に送出される。
検量式は、重回帰分析、あるいはPLS(Partial Least Square)回帰分析などの多変量解析により得ることができる。例えば、上記の式(3)は、重回帰分析による検量式である。
【0040】
検量式データ保持部34は、測定対象である性状特性値に応じて、予め求められた検量式の係数を記憶するものであり、検量式が上記式(3)の場合には、β、β、…,β(m≧2)が記憶されている。
検量式データ保持部34は、例えば、ROM、外部記憶媒体、外部記憶部などの記憶部から構成される。
【0041】
次の本実施形態の非破壊測定装置1の測定動作について説明する。
図5は、本発明の第1の実施形態に係る光散乱体の非破壊測定装置の測定部位の近傍の模式的な断面図である。図6は、光照射口および受光口が、プローブ端面と整列していない場合の測定について説明する測定部位の近傍の模式的な断面図である。図7は、光照射口および受光口とプローブ端面との間のギャップ量ΔGAPがある場合の吸光度の波長特性の一例について説明するグラフである。横軸は波長(nm)、縦軸は吸光度を示す。図7の縦軸の吸光度は、ここでは上記の式(1)にしたがって算出される相対反射率Rλiの逆数の自然対数(−ln(Rλi))で定義した値を示す。
【0042】
非破壊測定装置1で、測定を行うには、図5に示すように、センサプローブ3を、被検体2の測定部位における被検体表面2aに、プローブ端面3aを接触または略接触させた状態で配置する。ここで、図5は、模式図のため、被検体表面2aを平面としているが、被検体表面2aは被検体2の形状により異なり、例えば、測定部位としての腕や掌などでは、凹凸や湾曲があることは言うまでもない。また、見易さのため、プローブ端面3aと被検体表面2aとの間に隙間を設けて図示しているが、このようにわずかの隙間を設けて略接触させる配置としてもよいし、完全に接触させてもよい。また、本実施形態では、出射端面4aを被検体2に接触するか、略接触するようなるべく近づけることが好ましいが、被検体表面2aと入射端面5a、6aは必ずしも接触させる必要がない。
【0043】
操作部21から、測定開始が入力されると、中央制御ユニット19は、光源制御部11を介して、光源8A、8A、…、8Aを順次点灯する。それぞれから出射される波長λ、λ、…、λを有する照射光10A、10A、…、10Aは、結合レンズ9A、9A、…、9Aによって、n個に分岐された光ファイバ4bの各入射端面4cに光結合される。
そして、各光ファイバ4bの内部を伝搬して、センサプローブ3のプローブ端面3aの中心に位置する出射端面4aから被検体表面2aに向けて照射される。
【0044】
被検体表面2aに照射された光は、被検体表面2aで反射される反射光と、被検体2の内部に入射して内部を透過する透過光に分かれる。
反射光は、被検体表面2aとプローブ端面3aとの間で反射を繰り返して減衰する。
透過光は、被検体2の内部の性状によって、散乱され、種々の光路を通って、再び被検体表面2aに到達した光の一部が被検体2の外部に出射され、各入射端面5a、6aの位置で、それぞれ光ファイバ5b、6bに入射する。
例えば、図5に示すように、互いに出射端面4aを挟んで対向する位置にある入射端面5A(6A)と入射端面5B(6B)とには、それぞれ図示右側、左側に向かう光が、内部光25A(26A)と内部光25B(26B)とが入射する。
これらの内部光の光路は、出射端面4aと各入射端面5a(6a)との間の被検体2の内部の性状と出射端面4aと入射端面5a(6a)との距離に応じて散乱を起こしつつ透過する。そのため、それぞれからの出射光の光強度は、出射端面4aと入射端面5a(6a)と間の被検体2の性状の情報を含んでいる。
したがって、内部光25A(26A)と内部光25B(26B)とは、出射端面4aに対して図示左右方向の性状の違いを反映した光強度となる。
【0045】
同様に、例えば、入射端面5A(6A)を90°回転した位置である図2(a)の入射端面5C(6C)に入射する内部光の光強度は、図5の紙面直交方向の性状の情報を含んでいる。
従来の非破壊測定技術では、このような空間的に不均一な散乱特性を有する光散乱体では、光照射口と受光口との配置位置によって測定誤差にバラツキが生じていた。
被検体2がこのような散乱特性の不均一性、異方性を有する場合の他の例として、例えば、筋肉の伸縮方向とそれに直交する方向で散乱特性が異なる筋肉繊維などが挙げられる。
【0046】
本実施形態では、このように、各入射端面5a、6aの配置位置に応じた被検体2の内部の性状の情報を含む光が、光ファイバ5b、6bによって伝送され、出射端面5c、6cからまとめて、それぞれ出射光12、13として出射される。そして、これら各出射光は、それぞれ集光レンズ14、15によって集光され、光検出器16、17で受光される。
光検出器16、17は、受光した光強度に比例した検出出力信号を信号処理部18に送出する。この検出出力は、光ファイバ5b、6bをそれぞれで伝送された全光量を合わせたものとなる。
【0047】
信号処理部18では、光検出器16、17の検出出力を受信タイミングから波長ごとに識別し、それぞれの波長に応じて予め作成された校正情報に基づいて、波長ごとの総受光量J1λi、J2λiに換算する。
ここで、校正情報は、波長ごとの、光ファイバ5b、6bの伝送損失、集光レンズ14、15の透過率、光検出器16、17の感度特性を補正する補正係数などとして与えられる。
そして、波長ごとの総受光量J1λi、J2λiを、入射端面5a、6aのそれぞれの受光面積で平均化した光強度I1λi、I2λiとすると、I1λi、I2λiは下記式で算出される。
1λi=J1λi/A ・・・(4)
2λi=J2λi/A ・・・(5)
ここで、A、Aはそれぞれ、入射端面5a、6aのそれぞれの受光面積の和である。
【0048】
相対反射率算出部31では、式(1)にしたがって、波長λごとの相対反射率Rλiを算出し、相対吸光度比算出部32に各算出結果を送出する。
【0049】
次に、相対吸光度比算出部32では、式(2)にしたがって、相対吸光度比γを算出し、性状特性値算定部33に送出する。ここで式(2)に現れる2つの異なる波長の相対反射率比R2k/R0k、およびR1k/R0kは、R0k、R1k、R2kを算出するための各波長を、λxk、λyk、λzkとすると、式(1)の定義からそれぞれ下記式で表される。
1k/R0k=(J2λyk・J1λxk)/(J2λxk・J1λyk
・・・(6)
2k/R0k=(J2λzk・J1λxk)/(J2λxk・J1λzk
・・・(7)
ここで、添字x、y、zは、kごとに、i=1,2,…,nの中から選択された相異なる整数であって、かつ、x、yは、すべてのk=1,2,…,mに対して、x=Nかつy=M(ただし、N、Mは相異なる一定の整数)となる場合を除くものである。
【0050】
式(4)、(5)式の関係を用いると式(6)、(7)は下記式で表される。
1k/R0k=(J2λyk・J1λxk)/(J2λxk・J1λyk
=(A・A・I2λyk・I1λxk)/(A・A・I2λxk・I1λyk
=(I2λyk・I1λxk)/(I2λxk・I1λyk
・・・(6a)
2k/R0k=(J2λzk・J1λxk)/(J2λxk・J1λzk
=(A・A・I2λzk・I1λxk)/(A・A・I2λxk・I1λzk
=(I2λzk・I1λxk)/(I2λxk・I1λzk
・・・(7a)
【0051】
式(6a)、(7a)から2つの異なる波長の相対反射率比は入射端面5a、6aのそれぞれの受光面積で平均化した光強度I1λi、I2λiで表され、受光面積A,Aに依存しない。
【0052】
性状特性値算定部33では、検量式データ保持部34から、検量式の係数β、β、…、βを呼び出し、式(3)にしたがって、血糖値Cを算出する。そして、装置制御部22に計算結果を送出する。
装置制御部22は、表示制御部23を制御して、血糖値Cを表示部20に出力する。
以上で、非破壊測定装置1による血糖値Cの測定が終了する。
【0053】
このように本実施形態では、入射端面5a、6aを、出射端面4aを中心とする同心円の円周を等分する位置に配置したため、出射端面4aから等距離ρ、ρにある位置から被検体2の外部に出射される光を偏りなく受光することができる。そのため、被検体2の内部の散乱特性に不均一性があって、各入射端面5a、6aで検出される光強度にバラツキが生じても、それらの総和であるJ1λi、J2λiを用いて、相対反射率Rλiを算出するので、この相対反射率は、被検体2の内部の散乱特性の不均一性を平均化していることになる。
また、複数の生体組成に関係した複数の相対吸光度比を用いることで、測定対象成分以外の複数成分の光の吸収の影響を補正することができる。
したがって、空間的に散乱特性が不均一な光散乱体における非破壊測定において、式(3)を検量式として用いることで、測定対象成分以外の複数成分による光の吸収の影響を受けることなく、精度よく性状特性値を算定することができる。
【0054】
また、本実施形態では、出射端面4aを挟んで各1対の入射端面5a、5a、6a、6aが同一直線上で対向するように配置されているので、この直線に直交する面に関する非対称性が良好に低減される。
【0055】
また、本実施形態では、プローブ端面3aと、出射端面4a、各入射端面5a、6aとが、互いに同一平面上に整列しているため、被検体表面2aでの反射光の影響を低減することができる。
例えば、図6に示すように、プローブ端面3aと、出射端面4a、各入射端面5a、6aとが、距離ΔGAPだけ離れているとする。出射端面4aからの出射光のうち、被検体表面2aで反射される表面反射光27は、プローブ端面3aで反射されて、被検体表面2aに再入射し、その透過光や反射光が、入射端面6Aに入射する。
このとき、ΔGAPが大きいと、反射率が高い比較的小さな入射角θの光が少ない反射回数で、入射端面5a、6aの近傍に到達し、より高輝度のノイズ光となる。
これに対して、ΔGAPが小さいと、入射角θが小さい光は反射回数が大きくなるので、著しく減衰し、入射角θが大きい光は反射率が低いため、やはり減衰が大きくなる。
例えば、図7は、ΔGAPを変化させたときの、吸光度の波長特性の測定結果の一例である。曲線102、103、104が、それぞれΔGAP=0mm、5mm、10mmの場合の測定結果を示す。
図7から分かるように、ΔGAPを、5mm、10mmとした測定では、全体に吸光度が低下し、とりわけΔGAP=0mmの場合に観察される波長950nmから1000nmの間のスペクトルが著しく低下しており、測定精度に大きく影響することが分かる。
したがって、ΔGAPは、本実施形態のように、0mmとすることが好ましい。
また、本実施形態では、さらに、プローブ端面3aの反射率が、測定波長領域にわたって、5%以下となる光吸収性の材質を用いているので、一層、ノイズ光の影響を排除することができるものである。
【0056】
次に、非破壊測定装置1で測定した被験者の血糖値の測定例について説明する。
図8、9は、それぞれ第1および第2比較例の測定により推定した血糖値とその採血による実測値との関係を示すグラフである。図10は、本発明の第1の実施形態に係る光散乱体の非破壊測定装置の第1測定例で推定した血糖値とその採血による実測値との関係を示すグラフである。図11は、第3比較例の測定により推定した血糖値とその採血による実測値との関係を示すグラフである。図12、13は、それぞれ本発明の第1の実施形態に係る光散乱体の非破壊測定装置の第2および第3測定例で推定した血糖値とその採血による実測値との関係を示すグラフである。なお各図とも、横軸は採血による血糖値の実測値、縦軸は本実施形態の装置による血糖値の推定値を示す。いずれも、血糖値の単位はmg/dlである。
【0057】
以下の比較例、測定例ではいずれも、被検体2を人間の掌とし、センサプローブ3の条件を、ρ=5mm、ρ=10mm、Δ=5mmとした。そして、被検体2を非破壊測定装置1で測定したのち(推定値)、穿刺により指先から血液を採取し、血糖センサー(GR−102、テルモ社製)を用いてその血糖値を実測した。ここでは被検体として3人の被験者で、食前・食後と時間を変え、さらに数日間測定を繰り返した。
【0058】
まず、第1比較例として、式(2)で表される相対吸光度比γを1個だけ(k=1)用いて血糖値を推定した結果を図8に示す。横軸は採血による血糖値の実測値を、また縦軸は相対吸光度比から式(2)で表される検量式を用いて算出した推定値を示している。また図中の記号○、△、□はそれぞれ3人の被験者をそれぞれ区別して示している。ここで、式(2a)で表される相対吸光度比γに表れる3つの相対反射率R01、R11、R21に対応した3つの波長としてそれぞれλx1=840nm、λy1=940nm、λz1=890nmを用いている。
また、式(2)で表される検量式において各回帰係数にはβ=1.938×10、β=3.108×10を用いている。
【0059】
図8によれば、血糖値の実測値と推定値に相関は見られるが、平均誤差22mg/dlであり、被験者によるバラツキが大きいことが分かる。平均誤差は、少なくとも13mg/dlよりは小さいことが好ましく、10mg/dl以下であればより好ましい。
このように平均誤差が大きくなる理由として、式(2)で表される相対吸光度比は測定部位の厚みや散乱係数の違いによる散乱光路長の影響を受けない物理量になっているものの、生体のように血糖以外に水分、脂肪などの複数の組成を含む場合には、被検体2の部位による組成の違い、あるいは被験者の個人差による組成の違いが測定精度を悪化させてしまうことが考えられる。
こうした測定対象成分以外の組成の影響をなくすために、本実施形態では、相対吸光度比を複数用いて外乱となる組成の影響を低減できるようにしている。
【0060】
以下では、相対吸光度比γに対応した3つの波長の組み合わせをγ(λxk,λyk,λzk)で表現する。この表現に従えば、図8の第1比較例では、γ(840nm,940nm,890nm)と表現される。
【0061】
相対吸光度比γを2個(k=1,2)用いて血糖値を推定した第2比較例、本実施形態の第1測定例の結果を、それぞれ図9、図10に示す。
図9に示す第2比較例では、2つの相対吸光度比γ、γに対応した3つの波長として、それぞれ、γ(810nm,960nm,890nm)、γ(810nm,960nm,970nm)を用いている。式(2)で表される検量式において各回帰係数にはβ=−3.469×10、β=7.656×10、β=3.247×10を用いている。
本比較例は、相対吸光度比γを複数用いるものの、すべてのγで、R0k、R1kをそれぞれ同一の波長光から求めた場合の例になっている。
本比較例では、平均誤差15mg/dlの結果が得られた。相対吸光度比を複数用いることで第1比較例に比べて推定精度が改善されていることが分かる(図9参照)。
【0062】
図10に示す本実施形態の第1測定例では、2つの相対吸光度比γ、γに対応した3つの波長として、それぞれ、γ(840nm,960nm,890nm)、γ(840nm,970nm,890nm)を用いている。式(2)で表される検量式において各回帰係数にはβ=7.595×10-1、β=2.573×10、β=−2.633×10を用いている。
本測定例では、2つの相対吸光度比γkで、波長λxkは共通であるが、λykは異なる値に設定されている。すなわち、λx1=λx2、λy1≠λy2となっている。
本測定例の結果では、平均誤差12mg/dlとなり、第2比較例に比べても、推定精度はさらに改善されている(図10参照)。
【0063】
次に、相対吸光度比γを3個(k=1,2,3)用いて血糖値を推定した第3比較例、本実施形態の第2測定例、第3測定例の結果を、それぞれ図11、図12、図13に示す。
図11に示す第3比較例では、3つの相対吸光度比γ、γ、γに対応した3つの波長として、それぞれ、γ(840nm,940nm,890nm)、γ(840nm,940nm,960nm)、γ(840nm,940nm,970nm)を用いている。式(2)で表される検量式において各回帰係数にはβ=−4.181、β=4.999×10、β=−1.234×10、β=1.155×10を用いている。
すなわち、本比較例は、λx1=λx2=λx3、λy1=λy2=λy3となっており、すべてのγで、R0k、R1kをそれぞれ同一の波長光から求めた場合の例になっている。
本比較例では、平均誤差13mg/dlとなり、相対吸光度比を2つ用いた(m=2)第2比較例に比べて推定精度が改善されていることが分かる(図11参照)。
【0064】
図12に示す第2測定例では、3つの相対吸光度比γ、γ、γに対応した3つの波長として、それぞれ、γ(890nm,960nm,830nm)、γ(890nm,960nm,970nm)、γ(790nm,810nm,740nm)を用いている。式(2)で表される検量式において各回帰係数にはβ=−2.893×10、β=−5.650×10、β=2.714×10、β=−1.702を用いている。
すなわち、本測定例は、λx1=λx2≠λx3、λy1=λy2≠λy3となっており、γ、γと、γとでは、異なる波長のR0k、R1kを採用している例となっている。
本測定例では、平均誤差10mg/dlとなり、第3比較例に比べて推定精度が改善されている(図12参照)。
【0065】
図13に示す第3測定例では、3つの相対吸光度比γ、γ、γに対応した3つの波長として、それぞれ、γ(890nm,940nm,850nm)、γ(890nm,970nm,960nm)、γ(740nm,800nm,780nm)を用いている。式(2)で表される検量式において各回帰係数にはβ=2.449×10、β=−3.595×10、β=−2.615×10、β=3.949を用いている。
すなわち、本測定例は、λx1、λx2、λx3がそれぞれ異なるとともに、λy1、λy2、λy3がそれぞれ異なっており、すべてのγで、R0k、R1kをそれぞれ異なる波長光から求めた場合の例になっている。
本測定例では、平均誤差9mg/dlとなり、第3比較例や第2測定例に比べて推定精度が改善されている(図13参照)。
【0066】
したがって、本実施形態の非破壊測定装置1によれば、被検体が不均一な内部構造を有し、しかも測定対象以外の成分を多数含む、生体に対して非侵襲測定によって高精度な血糖値測定を行うことができることが分かる。
また、相対吸光度比を複数用いることで、測定精度は、血糖値以外の水分、脂肪など個人によって異なる組成の影響が低減され、異なる被験者に対して共通の検量式で血糖値を精度よく推定することが可能となっている。
また、検量式に用いる複数の相対吸光度比γにおいて、γを求めるためのR0k、R1kの波長が、少なくとも1つ以上は異なる組合せとすることで、血糖値の測定精度を向上することができる。
【0067】
次に、本実施形態の変形例について説明する。
図14(a)、(b)、(c)、(d)は、それぞれ本発明の第1の実施形態の第1〜第4変形例に用いる受光部の図1におけるA視方向の側面図である。
【0068】
本実施形態の各変形例は、図14(a)、(b)、(c)、(d)に示すように、それぞれ、センサプローブ3に代えて、センサプローブ40、41、42、43を備え、それに応じて、光ファイバケーブル5、6の形状や構成を代えたものである。
【0069】
第1変形例のセンサプローブ40は、センサプローブ3の8つの入射端面6aの円周方向に、さらに8つの入射端面6aを加えて、同一円周上に等間隔に配置したものである(図14(a)参照)。
したがって、半径ρの円周上でより細かいピッチの受光位置で受光することができるので、空間的に散乱特性が不均一な被検体2からの透過光をより平均化することができるので、測定精度を向上することができる。
【0070】
第2変形例のセンサプローブ41は、センサプローブ3の入射端面5a、6aに代えて、各同心円に沿う円弧状の入射端面41a、41b(受光口)を備えたものである(図14(b)参照)。
入射端面41a、41bは、光ファイバ5b、6bの心線の数を増やして、円弧状の領域に配置して形成してもよいし、円弧状の導光部材で形成して、光ファイバ5b、6bに導光してもよい。
この場合、例えば、入射端面41a、41bの円周方向の長さを、各同心円径に比例して同一に設定することにより、円周方向の受光面積比を共通にすることで、空間的に散乱特性が不均一な被検体2からの透過光をより平均化することができる。
【0071】
第3変形例のセンサプローブ42は、センサプローブ3の入射端面5a、6aに代えて、それぞれの同心円上で円周方向に沿って開口するリング状入射端面42a、42b(受光口)を備える(図14(c)参照)。
本変形例は、同心円上のすべての透過光を受光することができるので、散乱特性が空間的にどのような不均一性があっても、確実に被検体2からの透過光の不均一性を均等化することができる。
【0072】
第4変形例のセンサプローブ43は、センサプローブ3の入射端面5a、6aに加えて、ρ、ρと異なる半径ρの同心円上に、入射端面43aを入射端面5a、6aが配置された各直線上に配置したものである(図14(d)参照)。そして、特に図示しないが、入射端面43aの入射光を伝送する光ファイバ、それを検出する光検出器などを備え、操作部21からの設定により、相対反射率を算出する2つの受光部を入射端面5a、6a、43aの3つの中から選択することができるようになっている。
半径ρは、図14(d)では、ρ<ρ<ρの場合の例を示したが、ρ<ρ、ρ<ρなどであってもよい。
本変形例によれば、3つ以上の受光部を備え、そのうちの2つの受光部の受光光の光強度を用いて相対反射率を算出できる。したがって、被検体2の種類や、性状特性値の種類に応じて、2つの受光部の配置位置、その半径差Δを選択的に変更することができる。そのため、汎用的な測定に好適な装置となる。
【0073】
また、上記第1の実施形態および変形例の受光口の数は一例であって、2個以上であれば、被検体の種類や必要な測定精度に応じて、適宜の数だけ配置することができる。
1つの光検出部上の受光口を2個とする場合、効率的に被検体の散乱特性の不均一性を平均化するためには、光射出口中心を通る直線上の略対向位置に配置するか、2つの受光口と光射出口中心を通る直線が略直交する位置に配置することが好ましい。
散乱特性が空間的により不均一である被検体に対応できるようにするには、少なくとも4個の受光口を光出射口中心に対して略十字となる位置に配置しておくことが好ましい。
【0074】
[第2の実施形態]
本発明の第2の実施形態に係る光散乱体の非破壊測定装置について説明する。
図15は、本発明の第2の実施形態に係る光散乱体の非破壊測定装置の概略構成を示す模式的な構成図である。
【0075】
本実施形態の非破壊測定装置50(光散乱体の非破壊測定装置)は、図15に示すように、第1の実施形態の非破壊測定装置1の光源ユニット7に代えて、光源52、結合レンズ9からなる光源ユニット51を備え、光ファイバケーブル4、光源制御部11、信号処理部18に代えて、それぞれ、光ファイバケーブル4A、光源制御部53、信号処理部60を備えるものである。以下では、上記第1の実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0076】
光源52は、近赤外領域の波長の光を含む白色光源である。例えば、ハロゲンランプなどを採用することができる。ただし、測定に用いる波長光を含む帯域の波長分布を有する光源であれば、必ずしも白色光源でなくてもよい。
結合レンズ9は、光源52から出射された白色光を集光し、入射端面4cに光結合し、光ファイバ4bに入射させる光学素子である。
【0077】
光ファイバケーブル4Aは、上記第1の実施形態の光ファイバケーブル4の入射端面4c側がn個に分岐されていないものである。
光源制御部53は、中央制御ユニット19からの制御信号に応じて、光源52に電圧を供給し、所定の光量で点灯制御するものである。ただし、本実施形態では、白色光を点灯するので、第1の実施形態のような波長を切り替える制御は行わない。
【0078】
信号処理部60は、出射端面5c、6cから出射される出射光12、13を分光し、そのスペクトルから複数の波長光成分の総受光強度を総受光量J1λi、J2λi(i=1,2,…,n、ただしnは4以上の整数)として取得する。すなわち、本実施形態は、複数の波長光を、受光口で受光した透過光から分光して取得する構成となっている。そのため、光源が1つであっても、複数の波長光を容易に取得できるものである。
その概略構成は、集光レンズ14、15、シャッタ54、55、プリズム56、回折格子57、および多チャンネル検出器58(光検出部)からなる。
【0079】
シャッタ54、55は、それぞれ集光レンズ14、15で集光された出射光12、13の光路上に配置され、出射光12、13のいずれか一方を透過させ、いずれか他方を遮光する光路選択手段である。
プリズム56は、シャッタ54、55の開閉動作により透過された光を、回折格子57に対して一定の光路に沿って入射できるように、出射光12、13の光路を合成する光路合成手段である。本実施形態では、出射光13は進行方向に透過させ、出射光12は反射して透過後の出射光13と同一の光路に合成する構成としている。
【0080】
回折格子57は、出射光12、13の分光を行うためのものである。分光の波長範囲は、複数の波長λの成分が取得できる範囲でよい。
多チャンネル検出器58は、回折格子57で回折された光の光路上で、回折角度に応じた位置に、それぞれ多数の光検出素子を配置し、それぞれの光検出出力を取得することで、分光スペクトルを取得するものである。
多チャンネル検出器58としては、例えば、CCD等のリニアアレイセンサを採用することができる。
【0081】
次に、非破壊測定装置50の測定動作について第1の実施形態と異なる点を中心に説明する。
上記第1の実施形態と同様にして、被検体2の測定部位にセンサプローブ3を配置する。
操作部21から、測定開始が入力されると、中央制御ユニット19は、光源制御部53を介して、光源52を点灯する。そして、近赤外領域に波長を有する白色光が照射光10として出射され、結合レンズ9によって、光ファイバ4bの入射端面4cに光結合される。そして、出射端面4aから被検体表面2aに向けて照射される。
【0082】
被検体表面2aに照射された光は、被検体2の内部に透過して、被検体2の内部の性状によって、散乱・吸収され、種々の光路を通って、再び被検体表面2aに到達した光の一部が被検体2の外部に出射され、各入射端面5a、6aの位置で、それぞれ光ファイバ5b、6bに入射する。このとき、各光ファイバに入射する光は、被検体2の内部の性状に応じて、波長に応じて、散乱・吸収され、内部の性状の情報を含むスペクトルを備えた光となっている。
【0083】
信号処理部60では、シャッタ54、55を操作して、出射光12、13を順次、回折格子57に入射させる。そして、回折格子57により分光された光の光強度分布を多チャンネル検出器58により取得する。そして、各受光位置と波長とを対応させた反射スペクトルS、Sを取得する。ここで、反射スペクトルS、Sは、それぞれ波長ごとの、光ファイバ5b、6bの伝送損失、集光レンズ14、15の透過率、多チャンネル検出器58の波長感度特性など応じて予め作成された校正情報に基づいて校正されている。
これにより、分光範囲のすべての波長について、総受光量J1λi、J2λiを算出することが可能となる。算出された総受光量J1λi、J2λiは相対反射率算出部31に送出される。
【0084】
相対反射率算出部31では、式(1)にしたがって、波長λごとの相対反射率Rλiを算出し、相対吸光度比算出部32に各算出結果を送出する。
また、信号処理部60として既製の分光器ユニットを用いる場合、反射スペクトルS、Sあるいは、相対反射率スペクトルR(λ)=S/Sを、相対反射率算出部31に出力し、相対反射率算出部31では、R(λ)から必要な波長成分を取得してRλiを取得するようにしてもよい。
【0085】
次に、相対吸光度比算出部32では、式(2)にしたがって、相対吸光度比γを算出し、性状特性値算定部33に送出する。性状特性値算定部33では、異なるn個の波長に対する相対反射率Rλi(i=1,…,n、n≧4)を用い、上記第1の実施形態と同様にして、式(2a)〜式(2m)によってm個のγ(k=1,2,…,m、m≧2)が算出される。
【0086】
性状特性値算定部33では、検量式データ保持部34から、検量式の係数β(k=1,2,…,m、m≧2)を呼び出して、例えば血糖値などの性状特性値Cを算出する。
複数の相対吸光度比γを用いて性状特性値を推定するための検量式は、重回帰分析、あるいはPLS(Partial Least Square)回帰分析などの多変量解析により得ることができる。例えば、重回帰分析では上記第1の実施形態の式(3)を検量式として用いることができる。
そして、装置制御部22に計算結果を送出する。
装置制御部22は、表示制御部23を制御して、性状特性値Cを表示部20に出力する。
以上で、非破壊測定装置1による性状特性値Cの測定が終了する。
【0087】
このように本実施形態では、多チャンネル検出器58により、分光スペクトルを取得して、受光口で受光した波長ごとの光強度を算出して相対反射率を求めるので、光源52の数を減らすことができる。また、異なる波長光の照射を切り替えなくともよいので、多数の波長ごとの光強度を短時間で取得することができ、測定効率を向上することができる。
【0088】
なお、上記の第1の実施形態の説明では、複数の中心波長を持つ光源の場合で説明したが、この光源は半導体レーザー等の単色光、あるいは広い半値幅を有する発光ダイオードを用いても良い。発光ダイオードなどの半値幅が広い光源でも相対吸光度比を複数用いることで、半値幅が広くなることによる測定精度悪化を抑えることができる。
【0089】
また、上記の説明では、プローブ端面3aが平面の例で説明したが、プローブ端面3aは、被検体2の形状に合わせた湾曲面としてもよい。また、プローブ端面3aを変形可能な柔軟な材質で構成し、被検体2の押しつけたときにその形状に合わせて変形することができるようにしてもよい。これらの場合、光出射口、受光口を被検体に近接させやすくなるため、測定ノイズが低減され、より良好な測定精度が得られる。
【0090】
また、上記の説明では、同一の円周上にある受光口からの光を1つの光検出部で検出する場合の例で説明したが、各受光口の光を別々の光検出器で検出し、その検出出力を演算処理してもよい。例えば、総和をとったり、平均したりしてもよい。
この場合、各光検出部の各受光口の大きさを変えた構成としてもよい。
上記各実施形態では、同一の光検出部で各受光口の大きさを変えると、総受光量を割る受光面積が円周方向に不均等な開口面積の和であるため、相対反射率を求めるのに必要なI1λi、I2λiを求めることができない。このような場合、各受光口の光を別々の光検出器で検出し、各受光口に対応する開口面積で規格化した光強度を求めて、それらの総和をとれば、相対反射率を求めるのに必要なI1λi、I2λiが得られる。
【0091】
また、上記の各実施形態および変形例のすべての構成要素は、技術的に可能であれば、本発明の技術的思想の範囲で適宜組み合わせて実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る光散乱体の非破壊測定装置の概略構成を示す模式的な構成図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る光散乱体の非破壊測定装置の受光部の図1におけるA視方向の側面図、および該側面図におけるB−B断面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る光散乱体の非破壊測定装置の受光部の固定保持部材の反射率特性を比較例とともに示すグラフである。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る光散乱体の非破壊測定装置の制御系の機能構成について説明するための機能ブロック図である。
【図5】本発明の第1の実施形態に係る光散乱体の非破壊測定装置の測定部位の近傍の模式的な断面図である。
【図6】光照射口および受光口が、プローブ端面と整列していない場合の測定について説明する測定部位の近傍の模式的な断面図である。
【図7】光照射口および受光口とプローブ端面との間のギャップ量ΔGAPがある場合の吸光度の波長特性の一例について説明するグラフである。
【図8】第1比較例の測定により推定した血糖値とその採血による実測値との関係を示すグラフである。
【図9】第2比較例の測定により推定した血糖値とその採血による実測値との関係を示すグラフである。
【図10】本発明の第1の実施形態に係る光散乱体の非破壊測定装置の第1測定例で推定した血糖値とその採血による実測値との関係を示すグラフである。
【図11】第3比較例の測定により推定した血糖値とその採血による実測値との関係を示すグラフである。
【図12】発明の第1の実施形態に係る光散乱体の非破壊測定装置の第2測定例で推定した血糖値とその採血による実測値との関係を示すグラフである。
【図13】発明の第1の実施形態に係る光散乱体の非破壊測定装置の第3測定例で推定した血糖値とその採血による実測値との関係を示すグラフである。
【図14】本発明の第1の実施形態の第1〜第4変形例に用いる受光部の図1におけるA視方向の側面図である。
【図15】本発明の第2の実施形態に係る光散乱体の非破壊測定装置の概略構成を示す模式的な構成図である。
【符号の説明】
【0093】
1、50 非破壊測定装置(光散乱体の非破壊測定装置)
2 被検体
3、40、41、42、43 センサプローブ(固定保持部材)
4 光ファイバケーブル(光照射部)
4a 出射端面(光出射口)
5、6 光ファイバケーブル(受光部)
5a、6a 入射端面(受光口)
8、52 光源
10、10A、10A、…、10A 照射光
11、53 光源制御部
12、13 出射光
16、17 光検出器(光検出部)
18、60 信号処理部
19 中央制御ユニット
24 検出部
25A、25B、26A、26B 内部光
30 演算処理部
31 相対反射率算出部
32 相対吸光度比算出部
33 性状特性値算定部
34 検量式データ保持部
54、55 シャッタ
56 プリズム
57 回折格子
58 多チャンネル検出器(光検出部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の波長光を発生する光源と、
該光源からの複数の波長光を、それぞれに共通な光出射口から1箇所の照射領域に向けて光散乱体からなる被検体に照射する光照射部と、
前記被検体からの透過光を受光するために、前記光照射部の光出射口中心に対して互いに異なる径を有する少なくとも2つの同心円の円周上においてそれぞれ2箇所以上の位置に受光口を有する少なくとも2つの受光部と、
該少なくとも2つの受光部で受光した光の光強度を検出する光検出部と、
前記同心円径の異なる2つの受光部の前記光強度の比をとった相対反射率を前記複数の波長ごとに算出し、前記相対反射率に基づいて前記被検体内部の性状特性値を算定する演算処理部とを備え、
前記光照射部が、前記複数の波長光として、4つ以上の波長λ(i=1,2,…,n、ただしnは4以上の整数)を含む光を照射し、
前記光検出部が、前記少なくとも2つの受光部のうち、前記同心円の半径がρ、ρ(ただし、ρ<ρ)の2つの受光部で受光した光の波長λにおける総受光量をそれぞれJ1λi、J2λiとして検出したときに、
前記演算処理部が、
下記式(1)で表される前記波長λごとの相対反射率Rλiを算出し、
下記式(2)で表される相対吸光度比γ(k=1,…,m、ただし、mは2以上の整数)を算出し、
前記性状特性値を、前記m個の相対吸光度比γ(k=1,…,m)を説明変数とする多項式を用いた検量式によって算定するようにしたことを特徴とする光散乱体の非破壊測定装置。
λi=J2λi/J1λi ・・・(1)
γ=ln(R2k/R0k)/ln(R1k/R0k) ・・・(2)
ここで、R0k、R1k、R2kは、n個のRλiのうちから選ばれた相異なる3つの相対反射率であり、かつ、すべてのγに対してR0k=RλNかつR1k=RλM(ただし、N、Mは相異なる一定の整数)である場合を除くものとする。
【請求項2】
前記光照射部の光出射口側の端部と、前記少なくとも2つの受光部の受光口側の端部とが、それぞれの離間距離を固定する固定保持部材に一体に保持されたことを特徴とする請求項1に記載の光散乱体の非破壊測定装置。
【請求項3】
前記少なくとも2つの受光部の各受光口が、前記光出射口の中心を挟んで対向する対を形成するように配置されたことを特徴とする請求項1または2に記載の光散乱体の非破壊測定装置。
【請求項4】
前記少なくとも2つの受光部の受光口が、前記光出射口を中心として90°回転した位置関係に配置されたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の光散乱体の非破壊測定装置。
【請求項5】
前記少なくとも2つの受光部の受光口が、それぞれの同心円上でそれぞれ略等間隔に配置されたことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の光散乱体の非破壊測定装置。
【請求項6】
前記少なくとも2つの受光部の受光口が、それぞれ前記同心円の円周上に延ばして設けられた円弧状または円状からなる少なくとも1つの受光口により構成されたことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の光散乱体の非破壊測定装置。
【請求項7】
前記光検出部が、前記各受光部の受光口に入射する光を前記受光部ごとにまとめて検出するように構成されたことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の光散乱体の非破壊測定装置。
【請求項8】
前記光検出部が、前記各受光部の各受光口に入射する光を前記受光口ごとに検出し、それらの光強度を演算処理することで、前記受光部ごとの光強度を算出するようにしたことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の光散乱体の非破壊測定装置。
【請求項9】
前記光照射部の光出射口および前記少なくとも2つの受光部の受光口が、前記固定保持部材の表面またはその近傍の位置に整列して配置されたことを特徴とする請求項2〜8のいずれかに記載の光散乱体の非破壊測定装置。
【請求項10】
前記固定保持部材のうち、前記光照射部の光出射口および前記少なくとも2つの受光部の受光口が位置する表面が、光吸収性を備えることを特徴とする請求項2〜9のいずれかに記載の光散乱体の非破壊測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−85712(P2009−85712A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−254333(P2007−254333)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000214191)長崎県 (106)
【Fターム(参考)】