説明

光検出回路

【課題】積分動作におけるチャージインジェクションによる検出信号の劣化を高精度に補償し、微弱光を高S/Nで検出する。
【解決手段】光の光量に応じた大きさの電流信号を出力するPD1と、PD1とにより出力された電流信号に応じた電荷を蓄積するコンデンサ13を含み、電流信号を積分してコンデンサ13に蓄積されている電荷の量に応じた積分値を出力する積分回路3と、コンデンサ13による電荷の蓄積と蓄積された電荷の放電とを切り替えるリセットスイッチ15と、積分回路3から出力された電流信号の積分値のうち、積分期間の略開始時の電流信号の積分値と略終了時の電流信号の積分値との差分を演算して出力する差分演算部7とを備える光検出回路10を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光検出回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、積分回路を含む光検出回路が知られている(例えば、特許文献1参照。)。積分回路を含む光検出回路においては、積分動作のセット/リセット時にチャージインジェクション(積分動作のスイッチがオン状態からオフ状態に変化した場合に、スイッチ内にチャージされていた電荷が回路に出力される現象。)が発生し、チャージインジェクションに起因して発生するオフセット電圧により検出信号が劣化することがある。
【0003】
特許文献1に記載の画像読取装置は、積分回路を含む光検出回路において積分動作のチャージインジェクションによる検出信号の劣化を補償するために増幅回路の一方の入力端子にオフセット補償回路を接続し、オフセット補償回路により制御電圧を調整してオフセット電圧を相殺することとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4030710号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の画像読取装置は、チャージインジェクションによる検出信号の劣化を補償する精度がオフセット補償回路に用いる部品の精度や回路調整等に影響されるため(すなわち、アナログ的な補償であるため)補償精度にばらつきがあり、検出信号の劣化を高精度に補償することが難しいという問題がある。
【0006】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、積分動作におけるチャージインジェクションによる検出信号の劣化を高精度に補償し、微弱光を高S/Nで検出することができる光検出回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明は、光の光量に応じた大きさの電流信号を出力する光電変換部と、該光電変換部により出力された前記電流信号に応じた電荷を蓄積するコンデンサを含み、前記電流信号を積分して前記コンデンサに蓄積されている電荷の量に応じた積分値を出力する積分回路と、前記コンデンサによる前記電荷の蓄積と蓄積された前記電荷の放電とを切り替える切替部と、前記積分回路から出力された前記電流信号の積分値のうち、積分期間の略開始時の前記電流信号の積分値と積分期間の略終了時の前記電流信号の積分値との差分を演算して出力する差分演算部とを備える光検出回路を提供する。
【0008】
本発明によれば、積分回路により、光電変換部によって得られた電流信号を画素単位で出力し、微弱光を高感度かつ高S/Nで検出することができる。この場合において、積分回路を有する検出回路においては、積分回路による積分期間のセット/リセット時にチャージインジェクションが発生し、積分回路から出力される電流信号の積分値にチャージインジェクションに起因して発生するオフセット電圧が含まれてしまうことがある。
【0009】
本発明に係る光検出回路によれば、差分演算部により、積分回路における積分期間の略開始時の電流信号の積分値と略終了時の電流信号の積分値との差分を演算することでこれらの電流信号に含まれるチャージインジェクションによるオフセット電圧を相殺し、光電変換部により受光された光の光量に応じた大きさの電流信号の有効成分を効率的に検出することが可能になる。
【0010】
したがって、チャージインジェクションによる検出信号の劣化をデジタル的に高精度に補償し、S/N比を向上することができる。また、チャージインジェクション以外の回路ノイズ(回路系の電圧オフセットノイズ)が生じていても、これらのノイズも除去することができる。
【0011】
上記発明においては、前記差分演算部が、前記積分回路による前記積分期間の開始時から所定時間経過後の前記電流信号の積分値を前記略開始時の電流信号の積分値として用いることとしてもよい。
【0012】
このように構成することで、切替部によるコンデンサの電荷の放電から蓄積への切り替え直後に、すなわち、積分回路による積分動作の開始時にリンギング等の過渡現象が発生する場合であっても、差分演算部において過渡現象終了後の電流信号の積分値を用いて演算処理し、前記過度現象によるノイズの影響を受けることなく電流信号の有効成分を検出することができる。
【0013】
また、上記発明においては、前記積分回路が、前記電流信号の積分値から所定値を減算するオフセット補償回路を備えることとしてもよい。
【0014】
このように構成することで、電流信号の積分値に含まれるチャージインジェクションによるオフセット電圧を低減し、電流信号の有効成分の検出効率を向上することができる。なお、電流信号の積分値を減算する所定値としては、例えば、チャージインジェクションによるオフセット電圧より低い値を用いる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、積分動作におけるチャージインジェクションによる検出信号の劣化を高精度に補償し、微弱光を高S/Nに検出することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る光検出回路の概略構成図である。
【図2】図1の光検出回路における積分回路の出力タイミングとリセットCLKとA/D変換CLK等の関係を示す図である。
【図3】本発明の第1の実施形態の変形例に係る光検出回路における積分回路の出力とA/D変換CLKとの関係を示す図である。
【図4】本発明の第1の実施形態の変形例に係る光検出回路の積分回路およびオフセット補償回路を示す概略構成図である。
【図5】A/D変換回路におけるダイナミックレンジを示す図である。
【図6】本発明の第2の実施形態に係る顕微鏡システムの概略構成図である。
【図7】本発明の第3の実施形態に係る顕微鏡システムの概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
〔第1の実施形態〕
以下、本発明の第1の実施形態に係る光検出回路について、図面を参照して説明する。
本実施形態に係る光検出回路10は、図1に示すように、標本(図示略)からの光を受光して電流信号を出力する光電変換装置(光電変換部)1と、光電変換装置1により出力された電流信号を時間で積分して積分値を出力する積分回路3と、積分回路3から出力された電流信号の積分値をA/D変換するA/D変換回路5と、A/D変換回路5によりA/D変換された電流信号の積分値を演算処理して出力する差分演算部7とを備えている。
【0018】
光電変換装置1としては、例えば、PD(フォトダイオード)、PMT(光電子増倍管)、または、APD(アバランシェ・フォトダイオード)等が用いられる。本実施形態においては、光電変換装置としてPD1を例示して説明する。
【0019】
積分回路3は、オペアンプ等の増幅回路11と、PD1により出力された電流信号に応じた電荷を蓄積するコンデンサ13と、コンデンサ13による電荷の蓄積と蓄積した電荷の放電とを切り替えるリセットスイッチ(切替部)15とを備えている。この積分回路3は、画素毎に電流信号を時間で積分し、コンデンサ13に蓄積される電荷の量に応じた積分値を出力するようになっている。
【0020】
増幅回路11は、反転入力端子(−)と比反転入力端子(+)と出力端子とを備えている。コンデンサ13およびリセットスイッチ15は、増幅回路11の反転入力端子(−)と出力端子との間に互いに並列に接続されている。増幅回路11の比反転入力端子(+)は接地されている。
【0021】
リセットスイッチ15は、所定のタイミング信号(リセットCLK)に同期して開閉、すなわち、コンデンサ13による積分動作をセット/リセットするようになっている。例えば、リセットスイッチ15が開いた状態ではコンデンサ13に電荷が蓄積され(セット)、一方、リセットスイッチ15が閉じた状態ではコンデンサ13に蓄積されている電荷が放電される(リセット)ようになっている。
【0022】
リセットスイッチ15としては、例えば、J−FET(Junction Field Effect Transistor)、MOS−FET(Metal−Oxide−Semiconductor Field−Effect Transistor)、または、アナログスイッチ等が用いられる。
【0023】
A/D変換回路5は、所定のタイミング信号(A/D変換CLK)に同期して電流信号の積分値をA/D変換するようになっている。A/D変換回路5による出力信号の階調幅を例えば10bitとする。
【0024】
差分演算部7は、リセットスイッチ15およびA/D変換回路5の制御および電流信号の積分値の演算処理等を実行するCPU21と、CPU21を作動するためのプログラム23と、CPU21に入力される各種信号等を記憶するメモリ25とを備えている。
【0025】
CPU21は、リセットスイッチ15に対して1画素毎にリセットCLKを1回出力するようになっている。また、CPU21は、A/D変換回路5に対して1画素毎に均等なタイミングでA/D変換CLKを複数回出力するようになっている。
【0026】
また、CPU21は、A/D変換回路5から出力される電流信号の積分値のうち、積分回路3における積分期間の略開始時(以下、「積分時刻t」とする。)の電流信号の積分値と略終了時(以下、「積分時刻t」とする。)の電流信号の積分値との差分を演算して出力するようになっている。なお、積分開始時、すなわち、積分回路3のリセット直後を時刻tとする。
【0027】
このCPU21は、例えば、図2に示すように、1画素毎にリセットスイッチ15にリセットCLKを出力してコンデンサ13をリセットしてから最初にA/D変換回路5にA/D変換CLKを出力するタイミングを積分時刻tとし、また、リセットスイッチ15に次のリセットCLKを出力する直前にA/D変換回路5にA/D変換CLKを出力するタイミングを積分時刻tとするようになっている。
【0028】
メモリ25は、CPU21により演算処理される積分時刻tの電流信号の積分値および積分時刻tの電流信号の積分値や、演算処理により算出された電流信号の積分値を記憶するようになっている。
【0029】
以下、このように構成された光検出回路10の作用について説明する。
本実施形態に係る光検出回路10により標本からの光を検出する場合、まず、PD1により標本からの光が受光されて光の光量に応じた大きさの電流信号が積分回路3に出力される。
【0030】
積分回路3においては、図2に示すように、CPU21の制御により1画素毎にリセットCLKが入力される。リセットCLKに同期してリセットスイッチ15が開いた状態になると、PD1から入力された電流信号に応じた電荷がコンデンサ13に蓄積される。また、コンデンサ13に蓄積されている電荷の量に応じた電流信号の積分値が増幅回路11の出力端子からA/D変換回路5へと出力される。
【0031】
コンデンサ13に1画素分の電荷が蓄積され、CPU21から入力される次のリセットCLKに同期してリセットスイッチ15が閉じた状態になると、コンデンサ13に蓄えられた電荷が放電される。これにより、積分回路3の出力がリセットされる。このようにして、CPU21の制御により、リセットCLKに同期してリセットスイッチ15が開閉し、1画素毎(D,D,D,D・・・)にコンデンサ13による電荷の蓄積と放電とが繰り返される。
【0032】
A/D変換回路5においては、CPU21の制御により、積分回路3から入力される電流信号の積分値がA/D変換CLKに同期してA/D変換される。A/D変換回路5によりA/D変換された電流信号の積分値(A/D変換DATA)は、入力されるA/D変換CLKの数サイクル分遅れて差分演算部7へ出力される。
【0033】
差分演算部7においては、A/D変換回路5から出力された電流信号の積分値のうち、1画素毎に最初に入力されるA/D変換CLKに同期する積分時刻tの電流信号の積分値(電圧V)と最後に入力されるA/D変換CLKに同期する積分時刻t2の電流信号の積分値(電圧V)がメモリ25に記憶される。また、CPU21により、これら積分時刻tの電流信号の積分値と積分時刻tの電流信号の積分値との差分が演算されて出力される(Ddef)。
【0034】
具体的には、図2に示されるように、CPU21の演算処理により、画素Dに対しては最初のA/D変換CLK(D11)に同期する積分時刻tの電流信号の積分値と最後のA/D変換CLK(D12)に同期する積分時刻tの電流信号の積分値の差分(Ddef1)が出力される。続いて、画素Dに対しては最初のA/D変換CLK(D21)に同期する積分時刻tの電流信号の積分値と最後のA/D変換CLK(D22)に同期する積分時刻tの電流信号の積分値の差分(Ddef2)が出力される。以下、画素D以降の画素Dに対しても同様に演算処理が実行される。
【0035】
この場合において、積分回路3では、リセットスイッチ15が閉じた状態から開いた状態に変化した場合にリセットスイッチ15内にチャージされていた電荷が回路に出力されるチャージインジェクションという現象が発生する。そのため、積分回路3から出力される電流信号の積分値にチャージインジェクションに起因して発生するオフセット電圧が含まれてしまうことがある。
【0036】
例えば、リセットスイッチ15による積分回路3のリセット後に生じる総オフセット電圧をVOF(θ)、環境温度をθ、チャージインジェクションによるオフセット電圧をVCI(θ)、増幅回路11およびA/D変換回路5等の回路要素による他のオフセット電圧をVcircuitOF(θ)とすると、総オフセット電圧VOF(θ)は以下の式(1)により表される。
【数1】

【0037】
また、積分時刻tの電流信号の積分値(電圧V)および積分時刻tの電流信号の積分値(電圧V)は以下の式(2),(3)により表される。
【数2】

ここで、V(t):PD1により受光された光の光量に応じた大きさの有効成分のみを含む電流信号
【0038】
通常、積分時刻t〜積分時刻tの時間間隔は非常に短いため、積分時刻t〜積分時刻t間では関連する回路素子の発熱量や環境温度の変動はほぼないに等しい。そこで、VOF(θ)=VOF(θ)と考えて実質的な問題はない。
【0039】
そうすると、CPU21により算出される積分時刻tの電流信号の積分値(電圧V)と積分時刻tの電流信号の積分値(電圧V)との差分は、以下の式(4)のように表すことができる。
【数3】

【0040】
すなわち、CPU21における演算処理によれば、総オフセット電圧VOF(θ)を相殺することができる。したがって、オフセット電圧VCI(θ)およびVcircuitOF(θ)の影響を受けることなく、PD1により受光された光の光量に応じた大きさの電流信号の有効成分を効率的に検出することが可能になる。
【0041】
以上説明したように、本実施形態に係る光検出回路10によれば、CPU21による演算処理により、チャージインジェクションによる検出信号の劣化をデジタル的に高精度に補償し、S/N比を向上することができる。また、チャージインジェクション以外の回路ノイズ(回路系の電圧オフセットノイズ(VcircuitOF(θ)))が生じていてもこれらのノイズも除去することができる。
【0042】
なお、本実施形態は以下のように変形することができる。
例えば、第1の変形例としては、図3に示されるように、差分演算部7が、積分回路3による積分期間の開始時tから所定時間経過後の電流信号の積分値を積分時刻tの電流信号の積分値として用いることとしてもよい。所定時間経過後の電流信号の積分値としては、積分時刻tの時間を遅らせることとすればよく、例えば、1画素毎にA/D変換回路5に入力されるA/D変換CLKのうち、最初のA/D変換CLKではなく2番目のA/D変換CLKに同期してA/D変換された電流信号の積分値を用いることとしてもよい。
【0043】
このようにすることで、リセットスイッチ15によるコンデンサ13の電荷の放電から蓄積への切り替え直後に、すなわち、積分回路3による積分動作の開始時にリンギング等の過渡現象が発生してもノイズの影響を低減することができる。例えば、最初のA/D変換CLKに同期してA/D変換される電流信号の積分値に過渡現象によるノイズが含まれる場合であっても、過渡現象終了後のA/D変換CLKに同期してA/D変換された電流信号の積分値を積分時刻tの電流信号の積分値として用いることで、ノイズの影響を受けない電流信号の有効成分を検出することが可能になる。
【0044】
また、第2の変形例としては、図4に示すように、積分回路3が、電流信号の積分値から所定値を減算するオフセット補償回路17を備えることとしてもよい。この場合、増幅回路11の比反転入力端子(+)にオフセット補償回路17を接続することとすればよい。このようにすることで、電流信号の積分値に含まれる総オフセット電圧(VOF(θ))を低減することができる。
【0045】
例えば、積分回路3から出力される電流信号の積分値をVout、オフセット補償回路17により差し引く所定値をVOFFSETとすると、Voutは以下の式(5)により表される。
【数4】

【0046】
また、VOF(θ)は環境温度θやばらつきにより値が変動するが、マージンも含めた最小値(VOFmin)をVOFFSETとすれば、式(5)を以下の式(6)のように置き換えることができる。
【数5】

【0047】
ここで、図5に示されるように、上記第1の実施形態では、電流信号の有効成分の積分値(∫V(t)dt)に総オフセット電圧(VOF(θ))が加えられた状態でA/D変換回路5によりA/D変換されるため、A/D変換回路5におけるダイナミックレンジが総オフセット電圧(VOF(θ))の分だけ狭められることになる。
【0048】
これに対し、本変形例によれば、VOF(θ)の平均的な大きさがVOF(θ)の環境温度θやばらつきによる変動量よりも大きい場合は、VOF(θ)−VOFminの値がVOF(θ)の値と比較して小さくなり、同図に示されるように、Voutに占める∫V(t)dtの割合を大きくすることができる。これにより、A/D変換回路5におけるダイナミックレンジが狭められる量を最小限にし、ダイナミックレンジを有効活用することができる。また、検出信号の劣化を抑制して電流信号の有効成分の検出効率を向上することができる。
【0049】
〔第2の実施形態〕
次に、本発明の第2の実施形態に係る光検出回路を用いた顕微鏡システムについて図面を参照して説明する。
本実施形態に係る顕微鏡システム100は、図6に示すように、レーザ走査型顕微鏡装置30と、光電変換部としてPD1に代えてAPD2を備える光検出回路10とを備えている。
以下、第1の実施形態に係る光検出回路10と構成を共通する箇所には、同一符号を付して説明を省略する。
【0050】
レーザ走査型顕微鏡装置30は、標本(図示略)を搭載するステージ31と、励起光を射出する光源33と、光源33から射出された励起光を2次元的に走査するスキャナ35と、スキャナ35により走査された励起光を集光する瞳投影レンズ37および結像レンズ41と、励起光を標本に照射する一方、標本において発生した蛍光を集光する対物レンズ43と、対物レンズ43により集光され、結像レンズ41、瞳投影レンズ37およびスキャナ35を介して戻る蛍光を励起光から分岐するダイクロイックミラーユニット45と、分岐された蛍光を波長毎に分岐するビームスプリッタユニット49と、分岐された一方の蛍光を集光レンズ53A、共焦点ピンホール53Aおよびバリアフィルタユニット55Aを介して検出するPMT(光電子増倍管)1Aとを備えている。図中、符号39,47はミラーである。
【0051】
また、レーザ走査型顕微鏡装置30には、ビームスプリッタユニット49を透過した他の蛍光を検出回路10のAPD2に入射させるミラー51、集光レンズ53B、共焦点ピンホール55Bおよびバリアフィルタユニット57Bが備えられている。
符合Aは、標本が培養されている細胞培養装置を示している。この細胞培養装置は、生きている細胞を一定条件下で培養するための温度やCO2を制御することができるようになっている。
【0052】
光源33は、例えば、アルゴンレーザ光源のような励起光源33aと、励起光源33aから発せられる励起光を調光するAOTF33bのような音響光学素子とを備えている。
ステージ31は、支持アーム32に対して水平2方向に移動可能に設けられ、ステージ31に搭載した標本における所定の観察位置が対物レンズ43の光軸に一致する位置において位置決め状態に停止することができるようになっている。
【0053】
対物レンズ43は、直線移動機構(図示略)によって光軸方向(Z方向)に駆動され、合焦位置を調節して位置決め状態に停止することができるようになっている。
ダイクロイックミラーユニット45は、円板状のターレット(図示略)に周方向に間隔をあけて配置された分光特性が異なる複数のダイクロイックミラー(図示略)により構成されている。ターレットは、モータ等の回転駆動機構(図示略)によって中心まわりに回転可能に支持されており、所望の分光特性を有するダイクロイックミラーを光軸上に配置して位置決め状態に停止することができるようになっている。
【0054】
ビームスプリッタユニット49およびバリアフィルタユニット57A,57Bは、透過する波長帯域が異なる複数のビームスプリッタおよびバリアフィルタ(図示略)が、直線移動可能なスライダ(図示略)にそれぞれ搭載されて構成されている。このビームスプリッタユニット49およびバリアフィルタユニット57A,57Bは、スライダを直線移動させることにより、所望の波長帯域を有するビームスプリッタまたはバリアフィルタを選択的に光軸上に位置決め状態に停止させることができるようになっている。
【0055】
また、ビームスプリッタユニット49により反射された蛍光はPD1Aにより検出され、一方、ビームスプリッタユニット49を透過した蛍光はAPD2により検出されるようになっている。
【0056】
光検出回路10には、APD2により検出された光の電流信号が入力されるようになっている。差分演算部57は、CPU21、メモリ25およびプログラム23に代えて、演算処理装置51およびタイミング発生器53を備えている。タイミング発生器53は、所定の積分時間により光を検出し、そのタイミングに対応して積分回路3へのリセットCLK、A/D変換回路5へのA/D変換CLKおよび演算処理装置51への差分演算タイミングCLKを出力するようになっている。
【0057】
演算処理装置51は、CPU21と同様に、A/D変換回路5から出力される電流信号の積分値のうち、積分時刻tの電流信号の積分値と積分時刻tの電流信号の積分値との差分を演算して出力するようになっている。演算処理装置51により演算処理された電流信号はFCSデータ解析装置55に出力されるようになっている。
【0058】
FCSデータ解析装置55は、蛍光分子の蛍光強度の時間変化を測定して蛍光分子の様々な情報(解析結果)を得ることができるようになっている。FCSデータ解析装置55により得られた解析結果は顕微鏡システムコントローラ(図示略)に出力されるようになっている。顕微鏡システムコントローラは、FCS測定ポイントの指示信号をスキャナ35に出力し、スキャナ35の揺動角度を制御するようになっている。
【0059】
このように構成された本実施形態に係る顕微鏡システム100の作用について説明する。
本実施形態に係る顕微鏡システム100は、例えば、FCS(蛍光相関分光法)の測定、すなわち、蛍光分子の蛍光強度の時間変化を測定し、蛍光分子の様々な情報を得ることができる。顕微鏡システム100を用いてFCSの測定を行うには、まず、励起光源33aから励起光を発生させ、スキャナ35により励起光を標本上の測定ポイントに照射する。
【0060】
標本における励起光の集光位置から発生した蛍光は、対物レンズ43、結像レンズ41、瞳投影レンズ37およびスキャナ35を介して戻り、ダイクロイックミラーユニット45によって励起光から分岐されてビームスプリッタユニット49により波長毎に分岐される。ビームスプリッタユニット49を透過した蛍光は、集光レンズ53B、共焦点ピンホール55Bおよびバリアフィルタユニット57Bを介してAPD2により検出される。
【0061】
蛍光検出回路10においては、APD2により検出された蛍光の電流信号が画素毎に時間で積分され、演算処理装置51の演算処理により電流信号の積分値の総オフセット電圧VOF(θ)が相殺されてFCSデータ解析装置55に出力される。この場合において、顕微鏡システムコントローラの作動により、スキャナ35によって標本上の測定ポイントが選択され、例えば、1測定点に関して1〜2分程度の測定が行われる。そして、FCSデータ解析装置55によりその解析が行われる。
【0062】
以上説明したように、本実施形態に係る蛍光観察システム100によれば、蛍光検出回路10により1〜2分程度の測定時間における微弱な蛍光を高感度かつ高S/Nで検出することができ、高精度な解析を行うことができる。また、時間が経過するにつれ温度変化の影響が大きくなったとしても、蛍光検出回路10によりチャージインジェクションによる検出信号の劣化をデジタル的に高精度に補償することができる。したがって、長時間観察する場合にも有効となる。
【0063】
〔第3の実施形態〕
次に、本発明の第3の実施形態に係る光検出回路を用いた顕微鏡システムについて説明する。
本実施形態に係る顕微鏡システム200は、図7に示すように、2系統の光検出回路110を備え、タイミング発生器53によりスキャナ35の走査を制御する点で、第2の実施形態と異なる。
以下、第1の実施形態に係る検出回路10または第2の実施形態に係る顕微鏡システム100と構成を共通する箇所には、同一符号を付して説明を省略する。
【0064】
光検出回路110は、レーザ走査型顕微鏡装置30のビームスプリッタユニット49により反射された蛍光を検出する第1のPMT1A、積分回路3A、A/D変換回路5A、演算処理装置51Aと、ビームスプリッタユニット49を透過した蛍光を検出する第2のPMT1B、積分回路3B、A/D変換回路5B、演算処理装置51Bとにより構成されている。また、演算処理装置51A,51Bとタイミング発生器53とにより差分演算部57を構成するようになっている。
【0065】
タイミング発生器53は、スキャナ35の走査と、積分回路3A,3B、A/D変換回路5A,5Bおよび差分演算装置51A,51Bの制御とを同期して行うようになっている。具体的には、タイミング発生器53は、スキャナ35に光走査位置指示信号を出力し、スキャナ35の走査位置に対応して積分回路3A,3BへのリセットCLK、A/D変換回路5A,5BへのA/D変換CLKおよび差分演算装置51A,51Bへの差分演算タイミングCLKを出力するようになっている。
【0066】
このように構成された本実施形態に係る顕微鏡システム200は、例えば、標本の画像を取得するにあたり、画像化範囲を所定の画素数に分割し、分割した各1画素を走査する間に第1のPMT1A、第2のPMT1Bにより受光された光の光量に応じた電流信号を積分する。
【0067】
この場合において、タイミング発生器53の作動により、スキャナ35の走査と、積分回路3A,3B、A/D変換回路5A,5Bおよび差分演算装置51A,51Bの制御とを同期して行うことで、画像取得時にスキャナ35によって標本上を等速で走査する場合には、各画素間で積分期間(リセットCLKの間隔)が等しくなる。一方、画像取得時にスキャナ35によって標本上を非等速で走査する場合には、標本上における1画素あたりの走査距離が一定になるようにその走査速度に応じてリセットCLKの間隔が変化する。
【0068】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。例えば、本発明を上記各実施形態および変形例に適用したものに限定されることなく、これらの実施形態および変形例を適宜組み合わせた実施形態に適用してもよく、特に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0069】
1 PD(光電変換部)
1A 第1のPMT(光電変換部)
1B 第2のPMT(光電変換部)
2 APD(光電変換部)
3,3A,3B 積分回路
7,57 差分演算部
10,110 光検出回路
13 コンデンサ
15 リセットスイッチ(切替部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光の光量に応じた大きさの電流信号を出力する光電変換部と、
該光電変換部により出力された前記電流信号に応じた電荷を蓄積するコンデンサを含み、前記電流信号を積分して前記コンデンサに蓄積されている電荷の量に応じた積分値を出力する積分回路と、
前記コンデンサによる前記電荷の蓄積と蓄積された前記電荷の放電とを切り替える切替部と、
前記積分回路から出力された前記電流信号の積分値のうち、積分期間の略開始時の前記電流信号の積分値と積分期間の略終了時の前記電流信号の積分値との差分を演算して出力する差分演算部とを備える光検出回路。
【請求項2】
前記差分演算部が、前記積分回路による前記積分期間の開始時から所定時間経過後の前記電流信号の積分値を前記略開始時の電流信号の積分値として用いる請求項1に記載の光検出回路。
【請求項3】
前記積分回路が、前記電流信号の積分値から所定値を減算するオフセット補償回路を備える請求項1または請求項2に記載の光検出回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−2732(P2012−2732A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−139204(P2010−139204)
【出願日】平成22年6月18日(2010.6.18)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】