説明

光波長合分波回路

【課題】アサーマル化されたアレイ導波路回折格子(AWG)において残留する透過中心波長の温度依存性を補償した光波長合分波回路を提供する。
【解決手段】本発明の一実施形態によるAWGは、その透過中心波長の主要な温度依存性が補償されている。このAWGは、入出力導波路とスラブ導波路との間に、光スプリッタと、第1および第2のアーム導波路と、光モード合成カプラと、マルチモード導波路とを備える。光モード合成カプラは、第1のアーム導波路からの基本モード光を基本モードに結合させ、第2のアーム導波路からの基本モード光を1次モードに結合させる。マルチモード導波路は、基本および1次モード光が伝播可能である。このようなAWGにおいて、第1および第2のアーム導波路間の光路長差を温度によって変化させることにより、アレイ導波路回折格子の残留する温度依存性を補償するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光波長合分波回路に関し、より詳しくは透過波長の温度依存性が補償されたアレイ導波路回折格子型の光波長合分波回路に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン基板上に形成した石英系ガラス導波路によって構成されたプレーナ光波回路(PLC:Planar Lightwave Circuit)の研究開発が盛んに行われている。かかるPLC技術を利用したアレイ導波路回折格子(AWG:Arrayed Waveguide Grating)は、光波長合分波を実現する回路であり、光通信用の部品として重要な役割を果たしている。
【0003】
AWGは、合分波される光の透過波長に温度依存性を有する。これは、AWGを構成する石英系ガラス導波路の実効屈折率が温度依存性を有する故である。そのため、通常のAWGにおいては、波長透過特性を一定に保持するために、温度調節装置を付加する必要があった。
【0004】
AWGに付加的に必要とされた温度調節装置を省略するため、AWGの透過波長の温度依存性を低減する方法が開発されている。この方法については、例えば特許文献1および2に開示されている。透過波長の温度依存性を低減したAWGは、温度無依存AWG、あるいはアサーマルAWGと呼ばれる。特許文献1および2に開示されたアサーマルAWGは、AWG内の各光経路(アレイ導波路あるいはスラブ導波路)において、光波の進行軸に交差するように溝を形成し、その溝に導波路の実効屈折率の温度係数とは異なる屈折率温度係数を有する材料(以下、「温度補償材料」という。)を挿入することによって実現される。
【0005】
図35(a)は、スラブ導波路に溝を形成するタイプのアサーマルAWGの従来の構成例を示す図である。このアサーマルAWG4100は、第一の入出力導波路4101と、第一のスラブ導波路4102と、アレイ導波路4103と、第二のスラブ導波路4104と、第二の入出力導波路4105と、溝4106とを備え、溝4106には温度補償材料が充填されている。この構成例では、溝4106は第一のスラブ導波路4102に形成されている。
【0006】
図35(b)は、図35(a)の線分A−A’での断面構造を示す図である。図に示すように、シリコン基板4107にスラブ導波路4102の導波路コア4108およびクラッド4109が形成されている。溝4106は、導波路コア4108を分断するように導波路コア4108およびクラッド4109の一部が取り除かれて形成されている。図35において、溝4106は複数の溝に分割されている。これは、単一の溝よりも、放射損失を低減することが可能だからである。
【0007】
アサーマルAWG4100では、第一の入出力導波路4101に入力された波長多重信号光が第二の入出力導波路4105の各導波路へ分波され、波長チャネルごとの信号光として出力される。また、第二の入出力導波路4105の各導波路に入力された波長チャネルごとの信号光が第一の入出力導波路4101へ合波され、波長多重信号光として出力される。すなわち、このアサーマルAWGは、光波長合分波回路として動作する。
【0008】
図35(a)において、アレイ導波路4103のi番目の導波路の長さLは、L=L+(i−1)・ΔLと表され、アレイ導波路4103は、導波路長が一定量ΔLずつ順次長くなるよう設計されている。これに応じて、各アレイ導波路に入力する光波が、第1のスラブ導波路4102において溝4106によって分断される長さの和L’は、L’=L’+(i−l)・ΔL’と表され、ΔLに比例した量ΔL’ずつ順次長くなるような形状をしている。このとき、AWGの第一の入出力導波路4101から第二の入出力導波路4105の中央の導波路への透過中心波長λは、次式で表される。
(1) λ={nΔL−nΔL’+n’ΔL’}/M
ここで、nはアレイ導波路の実効屈折率、nはスラブ導波路の実効屈折率、n’は温度補償材料の屈折率であり、MはAWGの回折次数である。また、{nΔL−nΔL’+n’ΔL’}は、AWGにおける隣接する光経路の距離の差、すなわち光路長差を示している。このとき、n’はnに近く、溝における光波の屈折角は十分小さいと仮定している。ここで、光路長とは、光波が感じる距離であり、材料の屈折率と物理的な経路距離の積で求められる。
【0009】
アサーマルAWGでは、アレイ導波路およびスラブ導波路の実効屈折率温度係数をα(α=dn/dT=dn/dT、Tは温度)、温度補償材料の屈折率温度係数をα’(α’=dn’/dT)として、ΔL’/(ΔL−ΔL’)=−α/α’、すなわちΔL’=ΔL/(1−α’/α)となるように設計されている。これにより、アレイ導波路およびスラブ導波路での光路長差の温度変化が、溝に充填された温度補償材料の光路長差の温度変化によって相殺され、透過中心波長の温度依存性が補償される。温度補償材料としては、導波路のαに対して前述の条件を満たすα’を有する材料であれば構わないが、特にα’がαと異符号であり、かつ|α’|が|α|に比較して十分大きいような材料が好ましい。これはΔL’を小さく設計することができ、溝による過剰損失を抑制できるからである。このような条件の材料としては、例えば光学樹脂であるシリコーン樹脂があり、α’はおよそ−35×αである。また、光学樹脂は光部品材料として長期信頼性に優れるという点でも好ましい。
【0010】
AWGの透過波長の温度依存性を低減する別の方法としては、AWGのチップを回路に沿って弧状に切断し、そのチップの両端を金属棒を接合してつなぎ、金属棒の熱伸縮によってAWGチップを変形させて隣接するアレイ導波路の光路長差の温度変化を相殺する方法がある。その詳細については、非特許文献1に開示されている。
【0011】
また、AWGの透過波長の温度依存性を低減する更に別の方法としては、AWGチップの入力側または出力側のスラブ導波路を分断し、分断したチップを金属板で接合して、金属板の熱伸縮によって分断したスラブ導波路の相対位置を変化させることにより、アレイ導波路の光路長差の温度変化を相殺する方法がある。
【0012】
これら従来のAWGにおいては、第一の入出力導波路の第一のスラブ導波路との接続界面に励起されている光電界と、第二の入出力導波路の第二のスラブ導波路との接続界面に励起される光電界のパワーオーバーラップ積分が透過スペクトルとなる。通常、これらの光電界は基底モードのみが励起されており、透過スペクトル波形はガウス関数形状となる。しかし、第一の入出力導波路の第一のスラブ導波路への接続部分、あるいは第二の入出力導波路の第二のスラブ導波路4104への接続部分にパラボラテーパ導波路を設けることで、透過波形を平坦化し帯域を拡大する方法が開発されている。その詳細については、特許文献3に開示されている。
【0013】
【特許文献1】国際公開特許WO98/36299号明細書
【特許文献2】特許第3498650号公報
【特許文献3】特許第3112246号公報
【特許文献4】特開2003−149474号公報
【非特許文献1】J.B.D. Soole, et, al., “Athermalisation of silica arrayed waveguide grating multiplexers,” ELECTRONICS LETTERS, Vol.39, pp.1182-1184, 2003.
【非特許文献2】J. Leuthold, et, al., “Multimode Interference Couplers for the Conversion and Combining of Zero- and First-Order Modes,” JOURNAL OF LIGHTWAVE TECHNOLOGY, Vol.16, pp.1228-1238, 1998.
【非特許文献3】I. Zhang, et, al., “Planar waveguide-based silica-polymer hybrid variable optical attenuator and its associated polymers,” APPLIED OPTICS, Vol.44, pp.2402-2408, 2005.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上記のようにアサーマル化したAWGであっても、透過中心波長の温度依存性を完全に補償できるわけではない。これは、石英ガラス導波路や温度補償材料の実効屈折率温度係数、あるいは金属の熱膨張係数には、1次のみならず2次の成分が存在し、1次と2次の成分比は、一般には材料によって異なるためである。石英ガラス導波路の場合、α=α+αT、α=1.0×10−5、α=1.9×10−8程度(Tの単位は℃)である。シリコーン樹脂の場合、α’=α’+α’T、α’=−3.5×10−4、α’=1.5×10−7程度である。従来のアサーマルAWGにおいては、使用温度範囲の中央の温度において、この1次の温度依存性が補償されるよう設計がなされている。2次の係数は1次の係数に比べて微小ではあるが、使用温度範囲全体では僅かな温度依存性が在留する。
【0015】
ここで、図35(a)のアサーマルAWGを例として説明する。導波路の比屈折率差(Δ)1.5%、コア厚4.5μm、第一の入出力導波路4101、アレイ導波路4103、第二入出力導波路4105のコア幅は4.5μmであり、波長チャネル数32、チャネル波長間隔0.8nm(100GHz)、温度補償材料はシリコーン樹脂とする。このとき、アレイ導波路の本数は130本、ΔLは42.4μmである。
【0016】
溝4106に充填された温度補償材料によって与えられるべき経路長差ΔL’は、ΔL’=ΔL/(1−α’/α)=ΔL/(1−(α’+α’T)/(α+αT))となる。ここで、使用温度範囲はT=−40〜80℃であるとし、中央のT=20℃での条件を考えると、ΔL’=1.18μmとなる。
【0017】
図36に、このアサーマルAWGの中央波長チャネルにおける、透過中心波長の相対的な温度依存性を示す。図からわかるように、T=20℃を最小として、2次関数的な微小波長変動が残留している。使用温度範囲T=−40〜80℃においては、この波長変動幅は0.07nmとなり、波長チャネル間隔の9%にも達する。
【0018】
このように、従来技術によるアサーマルAWGにおいては、透過中心波長の温度依存性が僅かながら残留していた。このため、透過中心波長の精度を求められる狭波長チャネル間隔、あるいは使用温度範囲の広い光波長合分波回路においては、場合によっては伝送システムの要求性能を満足できないという問題があった。
【0019】
本発明は、かかる問題を鑑みてなされたものであり、その目的は、アサーマルAWGにおいて残留する透過中心波長の温度変化を補償した光波長合分波回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、このような目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、第1のスラブ導波路と、アレイ導波路と、第2のスラブ導波路とを備え、透過中心波長の主要な温度依存性が補償されたアレイ導波路回折格子であって、第1の入出力導波路と、前記第1の入出力導波路に接続された光スプリッタと、前記光スプリッタに接続された第1および第2のアーム導波路と、前記第1および第2のアーム導波路に接続された光モード合成カプラであって、前記第1のアーム導波路からの基本モード光を基本モードに結合させ、前記第2のアーム導波路からの基本モード光を1次モードに結合させる光モード合成カプラと、前記第1および第2のアーム導波路間の光路長差が温度によって変化する機構であって、前記アレイ導波路回折光子の残留する温度依存性を補償するように構成された機構とを備えたことを特徴とする。
【0021】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のアレイ導波路回折格子であって、前記光モード合成カプラに接続されたマルチモード導波路であって、少なくとも基本および1次モード光が伝播可能であり、前記第1のスラブ導波路に接続されたマルチモード導波路をさらに備えたことを特徴とする。
【0022】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載のアレイ導波路回折格子であって、前記機構は、前記第1および第2のアーム導波路の少なくとも一方に形成され、温度補償材料を充填した溝であることを特徴とするアレイ。
【0023】
また、請求項4に記載の発明は、請求項3に記載のアレイ導波路回折格子であって、前記溝は、複数の溝から構成されていることを特徴とする。
【0024】
また、請求項5に記載の発明は、請求項1または2に記載のアレイ導波路回折格子であって、前記機構は、前記第1および第2のアーム導波路の少なくとも一方の導波路近傍に形成され、温度補償材料を充填した溝であることを特徴とする。
【0025】
また、請求項6に記載の発明は、請求項3から5のいずれかに記載のアレイ導波路回折格子であって、前記導波路は、石英系ガラスから構成され、前記温度補償材料は、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂およびフッ素樹脂の少なくとも1つからなる光学樹脂であることを特徴とする。
【0026】
また、請求項7に記載の発明は、請求項2から6のいずれかに記載のアレイ導波路回折格子であって、前記マルチモード導波路は、テーパ導波路を介して前記第1のスラブ導波路に接続されていることを特徴とする。
【0027】
また、請求項8に記載の発明は、請求項2から6のいずれかに記載のアレイ導波路回折格子であって、前記マルチモード導波路は、パラボラ形状のテーパ導波路を介して前記第1のスラブ導波路に接続されていることを特徴とする。
【0028】
また、請求項9に記載の発明は、請求項1から8のいずれかに記載のアレイ導波路回折格子であって、前記第2のスラブ導波路に接続された第2の入出力導波路をさらに備え、前記第2の入出力導波路は、パラボラ形状のテーパ導波路を介して第2のスラブ導波路に接続されていることを特徴とする。
【0029】
また、請求項10に記載の発明は、請求項1から9のいずれかに記載のアレイ導波路回折格子であって、前記光スプリッタは、波長無依存カプラとして構成されていることを特徴とする。
【0030】
また、請求項11に記載の発明は、請求項3から10のいずれかに記載のアレイ導波路回折格子であって、前記光スプリッタは、前記第1のアーム導波路への光強度分岐比が50%より小さく、前記溝は、前記第1のアーム導波路にのみ形成されていることを特徴とする。
【0031】
また、請求項12に記載の発明は、請求項11に記載のアレイ導波路回折格子であって、前記光スプリッタは、前記第1のアーム導波路への光強度分岐比が20%より小さいことを特徴とする。
【0032】
また、請求項13に記載の発明は、請求項1から12のいずれかに記載のアレイ導波路回折格子であって、前記光モード合成カプラは、幅の異なる2本の導波路から構成された方向性結合器であることを特徴とする。
【0033】
また、請求項14に記載の発明は、請求項13に記載のアレイ導波路回折格子であって、前記方向性結合器は、幅の狭い方の導波路の幅が徐々に減少していることを特徴とする。
【0034】
また、請求項15に記載の発明は、請求項13に記載のアレイ導波路回折格子であって、前記方向性結合器は、幅の狭い方の導波路を終端する溝であって、光を減衰させる遮光材料が充填された溝を備えたことを特徴とする。
【0035】
また、請求項16に記載の発明は、請求項1から12のいずれかに記載のアレイ導波路回折格子であって、前記光モード合成カプラは、縦列に連結された2つのマルチモード干渉回路から構成されていることを特徴とする。
【0036】
また、請求項17に記載の発明は、請求項1から16のいずれかに記載のアレイ導波路回折格子であって、前記アレイ導波路回折格子は、前記第1のスラブ導波路、前記アレイ導波路および前記第2のスラブ導波路の少なくとも1つに形成され、温度補償材料を充填した溝によって前記透過中心波長の主要な温度依存性が補償されていることを特徴とする。
【0037】
また、請求項18に記載の発明は、請求項17に記載のアレイ導波路回折格子であって、前記温度補償材料は、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂およびフッ素樹脂の少なくとも1つからなる光学樹脂であることを特徴とする。
【0038】
また、請求項19に記載の発明は、請求項1から16のいずれかに記載のアレイ導波路回折格子であって、前記アレイ導波路回折格子は、その形状を金属板の熱伸縮によって変形させることによって前記透過中心波長の主要な温度依存性が補償されていることを特徴とする。
【0039】
また、請求項20に記載の発明は、請求項1から16のいずれかに記載のアレイ導波路回折格子であって、前記アレイ導波路回折格子は、前記第1のスラブ導波路または前記第2のスラブ導波路を分断し、その相対位置を金属板の熱伸縮によって変化させることによって前記透過中心波長の主要な温度依存性が補償されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0040】
本発明によれば、アサーマルAWGタイプの光波長合分波回路において、残留する透過中心波長の高次の温度依存性を補償することができる。そのため、全使用温度範囲において透過中心波長精度に優れた波長合分波回路を実現することができる。また、透過中心波長精度に対して使用可能温度範囲が広い光波長合分波回路を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
従来のアサーマルAWGにおいては、通常、第一の入出力導波路には基底モード光のみが伝播し、第一のスラブ導波路の接続部に励起される光フィールドの光強度ピーク位置は、温度によっても波長によっても変化しない。ここで、上述の光フィールドに、特定の強度比で1次モード光が混在している場合、基底モード光と1次モード光の位相差により、光フィールドの光強度ピーク位置は振動し、またその振動振幅は、両モード光の強度比によって変化する。
【0042】
一方、第一の入出力導波路と第一のスラブ導波路との接続部における光フィールドの光強度ピーク位置の変動は、AWGにおいて透過中心波長の変動となる。したがって、第一の入出力導波路において、適当な機構により、所定の強度比の1次モード光を励起し、この1次モード光と基底モード光の位相差を、波長によっては変化させず、温度によって変化させることができれば、透過中心波長を温度によって変動させることができる。本発明では、この変動を用いてアサーマルAWGの高次の温度依存性を補償する。
【0043】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。図1は、本発明の実施形態にかかる光波長合分波回路の構成概念を説明するための図である。このAWG100は、第一の入出力導波路101と、第一のスラブ導波路102と、アレイ導波路103と、第二のスラブ導波路104と、第二の入出力導波路105とを備えている。第一のスラブ導波路102から第二の入出力導波路105におよぶ構成は、従来技術によるアサーマルAWGと同様であり、従来の温度補償手段(図示せず)により、透過中心波長の1次の温度依存性が補償されているものとする。このAWG100は、第1の入出力導波路101と第一のスラブ導波路102との間に、光スプリッタ106と、第一のアーム導波路107と、第二のアーム導波路108と、光モード合成カプラ109と、マルチモード導波路110とをさらに備えている。
【0044】
図2は、図1における光スプリッタ106からマルチモード導波路110までの部分を拡大した図である。参照符号は図1と同様である。光モードカプラ109は、第一のアーム導波路107から入力する基底モード光を1次モード光に変換し、第二のアーム導波路108から入力する基底モード光を基底モード光として合成する。合成される基底モード光と1次モード光の光強度比は、光スプリッタ106における分岐比と、光モード合成カプラの結合率によって決まり、位相差は、第一のアーム導波路107と第二のアーム導波路108の光路長差によって決まる。合成された基底モード光と1次モード光は、マルチモード導波路110を、それぞれのモードの実効屈折率に従って伝播するので、合成光フィールドは蛇行しながら伝播し、第一のスラブ導波路との接続部に達する。
【0045】
本発明の実施形態において、光波長合分波回路の使用温度TをT−ΔTからT+ΔTの範囲とする。Tは使用温度範囲の中央温度であり、温度範囲の全幅は2ΔTである。また、第二のアーム導波路108に対する第一のアーム導波路107の光路長差をs(T)とする。本発明の波長合分波回路においては、適当な機構により、s(T)に温度変化を与える。
【0046】
図3は、温度Tに対するs(T)の温度変化の例を示している。図に示すように、s(T)は、使用温度範囲において、s(T)+0.5λからs(T)−0.5λに至る直線的な変化を与えられている。ここで、λは、式(1)におけるAWGの透過中心波長である。マルチモード導波路110の長さは、温度T=Tにおいて、蛇行しながら伝播する光フィールドの光強度ピークが、第一のスラブ導波路102との接続点において光波の進行方向に向かって最も右側になるよう設定されている。温度T=Tにおけるこの光フィールドの光強度ピークの軌跡を図2の曲線Pとして示し、第一のスラブ導波路102への入射位置を点Qとして示している。
【0047】
温度がTから変化すると、光路長差s(T)は図3のように変化し、T=T−ΔTおよびT+ΔTにおいて、それぞれs(T)+0.5λおよびs(T)−0.5λにまで変化する。このとき、光モードカプラ109において合成される基底モード光と1次モード光の位相差は、T=Tのときに比べて180度変動している。よって、マルチモード導波路110を蛇行しながら伝播する光フィールドの光強度ピークの軌跡は、図2上の線Rに示すように、T=Tのときとは逆相となり、第一のスラブ導波路102との接続点においては、光波の進行方向に向かって最も左側にピークが位置することになる。これは、図2の点Sとして示されている。
【0048】
このように、第一のスラブ導波路102に入射する光フィールドの温度変化に伴う光強度ピークの変動は、AWGにおいては透過中心波長の変動となる。上述の変動の場合、T=T、すなわちピークが点Qにあるときに透過中心波長は最も長波長となり、T=T−ΔTおよびT+ΔT、すなわちピークが点Sにあるときに短波長となる。
【0049】
図4は、このAWGにおける透過中心波長の温度変動を、温度を横軸として表した図である。線Xは、図2および3で説明した光フィールドのピーク位置変動による透過中心波長変動を示しており、その挙動は正弦関数的である。また、線Yは、従来技術によるアサーマルAWGにおいて僅かに残留する透過中心波長の高次の温度依存性を示している。これらにおいては、温度T=Tでの値をゼロとした相対的な透過中心波長を示している。
【0050】
本発明の光波長合分波回路において、AWG回路全体の透過中心波長の温度依存性は、上述の2種類の温度依存性を足し合わせたものとなる。合成された透過中心波長の温度依存性については線Zとして示している。図より、本発明の波長合分波回路においては、従来技術によるアサーマルAWGにおいて残留していた透過中心波長の高次の温度依存性が補償され、使用温度範囲での透過中心波長変動が小さくなっていることが分かる。
【0051】
ここで、光フィールドの光強度ピーク位置変動による透過波長変動の幅(振幅)δλは、光モード合成カプラ109において生成される1次モード光の、基底モード光との強度比によって決まる。よって、光スプリッタ106の分岐比および光モード合成カプラ109の結合率を調整して、このδλを、従来技術によるアサーマルAWGにおける透過中心波長の高次の温度変動の幅に等しくなるようにすれば、本発明の波長合分波回路における透過中心波長の温度依存性を最も抑制することができる。
【0052】
マルチモード導波路110の幅としては、少なくとも1次モード光までは伝播可能であるほど広く、2次モード光は伝播できない、すなわち2次モードの実効屈折率が存在しない程度の幅であることが好ましい。これは、2次以上の高次モード光の発生が、本発明の波長合分波回路において、透過波形を歪ませ、クロストークの劣化や損失の増大を招く可能性があるからである。ここで、マルチモード導波路110は、実施上、必ずしも配置する必要はない。図5に示すように、光モード合成カプラ109を第1のスラブ導波路102に直接接続した構成であってもかまわない。しかしながら、マルチモード導波路110を配置することで、2次以上の高次モード光を抑制し、第1のスラブ導波路102に入射することを防ぐことができ、よりクロストークあるいは損失特性に優れた、光波長合分波回路を実現することができる。
【0053】
また、光フィールドの光強度ピーク位置変動の波長依存性を考慮すれば、s(T)をゼロ付近に設計することが好ましい。使用温度範囲において光路長差s(T)を小さく抑えることで、波長によるs(T)の変化が温度によるそれに比較して十分小さくなり、ほぼ波長無依存となるからである。より具体的には、s(T)の絶対値を10×λ以下にすれば、波長1520〜1630nm程度の通信波長領域での光路長差変化は、その温度変化に対して無視できる程度となり、本発明の波長合分波回路は、合分波する全ての波長チャネルにおいて、全てほぼ同様に動作することとなる。
本発明の光波長合分波回路の構成は、特許文献4に記載のアレイ導波路型波長合分波器に類似しているが、特許文献4に記載のアレイ導波路型波長合分波器は、AWGの第1のスラブ導波路に入射するフィールドの位置が、AWGのチャネル波長間隔と同一の繰り返し波長周期で変位する、という点で本発明の光波長合分波回路とは異なっている。本発明において、AWGの第1のスラブ導波路に入射するフィールドの位置は、ある温度において、波長に対して殆ど変位しないことが求められる。すなわち、光スプリッタと、2本のアーム導波路と、光モード合成カプラからなる干渉回路は、波長に対して光路長差が殆ど変化しないことが必須である。本発明の光波長合分波回路において、使用波長領域程度での波長変化によって、第1のスラブ導波路に入射するフィールドの位置が変位するような場合、光路長差の温度依存性は波長によって異なる特性を示すので、すべての使用波長において、残留するAWGの波長依存性を補償するようなフィールドの位置変位を実現することは不可能である。よって、特許文献4に記載のアレイ導波路型波長合分波器の構成は、本発明の課題の解決を阻害するものである。
【0054】
(第1の実施形態)
図6に、本発明の第1の実施形態によるアサーマルAWGの構成例を示す。このアサーマルAWG500は、第一の入出力導波路501と、第一のスラブ導波路502と、アレイ導波路503と、第二のスラブ導波路504と、第二の入出力導波路505とを備えている。また、アサーマルAWG500は、第一の入出力導波路501と第一のスラブ導波路502との間に、光スプリッタ506と、第一のアーム導波路507と、第二のアーム導波路508と、光モード合成カプラ509と、マルチモード導波路510とをさらに備えている。第二のスラブ導波路504には溝512が形成され、溝512には温度補償材料が充填されている。
【0055】
図6において、アレイ導波路503のi番目の導波路の長さLは、L=L+(i−1)・ΔLと表され、一定量ΔLずつ順次長くなるよう設計されている。これに応じて、各アレイ導波路を通過し、中央の波長チャネルを通過する光波が、第二のスラブ導波路504において溝512によって分断される長さL’はL’=L’+(i−1)ΔL’と表され、ΔLに比例した量ΔL’ずつ順次長くなるような形状をしている。このアサーマルAWGは、導波路のΔが1.5%、コア厚4.5μm、実効屈折率温度係数α=1.0×10−5+1.9×10−8×Tである。また、第一の入出力導波路501、アレイ導波路503、第二の入出力導波路505、第一のアーム導波路507、第二のアーム導波路508のコア幅は4.5μmである。波長チャネル数32、中央の波長チャネルの透過波長1544.53μm(194.1THz)、波長チャネル間隔0.8nm(100GHz)、温度補償材料はシリコーン樹脂(屈折率温度係数α’=−3.5×10−4+1.5×10−7×T)である。このとき、アレイ導波路の本数は130本、ΔLは42.4μmである。
【0056】
溝512に充填された温度補償材料によって与えられる経路長差ΔL’は、T=20℃として、ΔL’=ΔL/(1−α’/α)=1.18μmと設計されており、透過中心波長の1次の温度依存性が補償されている。また、第一のスラブ導波路502、第二のスラブ導波路504の長さは6100μmであり、第二の入出力導波路505は、第二のスラブ導波路504に接続する部分において15μm間隔で波長チャネル数、すなわち32本配置されている。
【0057】
図7は、図6のアサーマルAWGにおける光スプリッタ506からマルチモード導波路510までの部分を拡大した図である。参照符号は図6と同様である。ただし、本実施形態において、マルチモード導波路510は、直線テーパ導波路511を介して第一のスラブ導波路502に接続されている。マルチモード導波路510の導波路幅は8μmであり、直線テーパ導波路511の導波路幅は、第一のスラブ導波路502に接続する部分で11.5μmである。ただし、この直線テーパ導波路の開口幅を変えることで、この光波長合分波回路の透過帯域幅を調整することも可能である。
【0058】
光スプリッタ506としては方向性結合器を用いている。また、光モード合成カプラ509としては導波路幅が非対称な方向性結合器を用いており、第一のアーム導波路507に接続する導波路509aの幅を2.5μm、第二のアーム導波路508に接続する導波路509bの幅を8μmとし、導波路509a、509bの長さは500μmとしている。また、第二のアーム導波路508から導波路509bへは直線テーパにより滑らかに導波路幅が変換されている。
【0059】
このとき、導波路509aの基底モード実効屈折率と、導波路509bの1次モード実効屈折率はほぼ等しくなっており、第一のアーム導波路507から導波路509aに入力する基底モード光は、導波路509bの1次モードに結合する。また、第二のアーム導波路508から入力する基底モード光は、そのまま導波路509bを基底モードで伝播するので、マルチモード導波路510へは基底モードと1次モードが合成されて出力される。基底モード光と1次モード光の位相差は、第二のアーム導波路508に対する第一のアーム導波路507の光路長差によって決まる。
【0060】
上記の光路長差に温度依存性を与える機構として、第一のアーム導波路507の途中には、溝514が形成されており、温度補償材料であるシリコーン樹脂が充填されている。この構成による機構は、従来のアサーマルAWGから工程を何ら変えることなく、また新規の材料を付加することなく作製できるという点で優れている。溝514が第一のアーム導波路507を分断している長さは35μmである。基底モード光と1次モード光の光強度比は、光スプリッタ506における分岐比と、光モード合成カプラ509の、導波路509aから509bへの結合率によって決まるが、本実施例ではそれぞれ7%、70%に設計されている。溝514においては光の損失が生じるため、アサーマルAWG回路全体の損失特性を考慮すれば、光スプリッタ506における第一のアーム導波路507への分岐比を大きくとも50%とすることが好ましく、さらには必要な光フィールドのピーク位置変動を生じさせ得る範囲でなるべく小さくすることが好ましい。また、光モード合成カプラ509において基底モードから1次モードに変換されない光は損失となるため、光モード合成カプラ509の結合率をなるべく大きくすることが好ましい。同時に、基底モード光に対する1次モード光の比率があまり大きいと、光フィールドにおいてはピーク位置変動と伴にフィールド波形の変形が生じるため、AWGの透過波形に変動が生じる恐れがある。この意味においては基底モード光に対する1次モード光の比率は1/4程度以下であることが好ましく、よって光スプリッタ506における第一のアーム導波路507への分岐比は、大きくとも20%とすることが好ましい。
【0061】
図8(a)は、本実施形態における、第二のアーム導波路508に対する第一のアーム導波路507の光路長差の温度変化を示したグラフである。ここで、光波長合分波回路の使用温度範囲は−40〜80℃としている。この使用温度範囲において、光路長差は+0.77μmから−0.77μmまでほぼ直線的に変化している。これにより、光モード合成カプラ509で生成される、基底モード光と1次モード光の位相差は2π変化する。
【0062】
図8(b)は、図8(a)の光路長差変化がある場合の、直線テーパ511の第一のスラブ導波路502との接続部分における光フィールド分布の温度変化を示したグラフである。グラフの横軸pは、図7に示したように、直線テーパ511の中心を原点とした相対位置である。図8(b)には、温度−40、20、80℃での光フィールド分布が示されている。使用温度範囲において、基底モード光と1次モード光の位相差変化に伴い、光波フィールドのピーク位置がおよそ−0.6μmから+0.6μmに変化し、更に−0.6μmまで変化する様子が確認できる。
【0063】
図9は、本実施形態の光波長合分波回路における透過中心波長の温度変動を説明するグラフである。線Xは、直線テーパ511の第一のスラブ導波路502との接続部分における光フィールドのピーク位置の変動による透過中心波長の変動を示している。また、線Yは、第一のスラブ導波路502から第二の入出力導波路505に至る、1次の温度依存性が補償されたAWGにおいて残留している透過中心波長の高次の温度依存性を示している。この光波長合分波回路において、AWG回路全体の透過中心波長の温度依存性は、上述の2種類の温度依存性を足し合わせたものとなる。合成された透過中心波長の温度依存性については線Zとして示している。図より、本実施形態の波長合分波回路においては、従来技術によるアサーマルAWGにおいて−40〜80℃の範囲で0.072nm残留していた透過中心波長の高次の温度変動が補償され、その変動量が0.025nmまで低減されることが分かる。
【0064】
本実施形態の光波長合分波回路は、従来技術によるアサーマルAWGに比較して、透過中心波長の温度変動が小さいことが図9に示された。しかし、図9においては透過中心波長の温度依存性は完全に補償されていない。これは、従来技術によるアサーマルAWGにおける透過中心波長の高次の温度依存性が2次関数的(線Y)であるのに対し、それを相殺しようとする、光フィールドのピーク位置変動による透過中心波長の温度変動が正弦関数的(線X)であり、両曲線に差異があるためである。この曲線の差異に起因する補償の不完全性をなるべく減らす方法について以下に説明する。
【0065】
この方法は、補償に用いる正弦関数的な温度変動において、一周期(位相2π)の変動全体を用いるのではなく、その一部のみを用いる。これにより、補償に用いる温度変動曲線は補償されるべき2次関数曲線により近くなり、補償の精度が向上する。ただし、温度変動の振幅は設計により調整する必要がある。
【0066】
具体的に図10および図11を参照して説明する。この方法においては、温度変動の振幅を調整するために、マルチモード導波路510を伝播する基底モードに対する1次モードの光強度比をやや大きくする。ここでは光スプリッタ506における結合率を約1.5倍の11%とする。また、溝514が第一のアーム導波路507を分断する長さは約2/3の23μmにする。
【0067】
図10は、この方法における第二のアーム導波路508に対する第一のアーム導波路507の光路長差の温度変化を示したグラフである。光波長合分波回路の使用温度範囲は、図8の例と同様−40〜80℃としている。この使用温度範囲において、光路長差は+0.50μmから−0.50μmまで変化する。これにより、光モード合成カプラ509で生成される、基底モード光と1次モード光の位相差は1.3π変化することになる。これは図8の場合の約2/3の位相変化量である。
【0068】
図11は、図10の光路長差が与えられた場合の、透過中心波長の温度変動を説明するグラフである。図9と同様に、線Xは、光フィールドのピーク位置変動による透過中心波長の温度変動を示している。また、線Yは、1次の温度依存性が補償されたAWGにおいて残留している透過中心波長の高次の温度依存性を示している。図から、図9の場合に比較して、線Xの曲線が線Yの曲線に相似であることが分かる。AWG回路全体の透過中心波長の温度依存性は線Zとして示されている。この波長合分波回路においては、−40〜80℃の範囲で透過中心波長の温度変動量は0.011nmであり、従来技術によるアサーマルAWGにおいて残留していた透過中心波長の高次の温度変動が、ほぼ完全に補償されていることが分かる。
【0069】
本実施形態においては、図7のように、第一のアーム導波路507を分断するように溝514を形成し温度補償材料を充填したが、溝の形状と配置はこの構成に限定されない。
【0070】
図12(a)は、別の構成における第一のアーム導波路507および第二のアーム導波路508近傍を拡大した図である。図12(a)の構成において、溝514は4つに分割され、第一のアーム導波路507の途中に形成されている。このとき、分割された溝が第一のアーム導波路507を分断する長さの総和が所定の値となるよう設定されている。また、隣接する溝の端面から端面までの間隔は15μmに設定されている。図12(a)の構成により、図7の構成に比較して、溝514における光波の放射損失を低減することができるため、より損失特性に優れた光波長合分波回路が実現可能である。
【0071】
図12(b)は、更に別構成における第一のアーム導波路507および第二のアーム導波路508近傍を拡大した図である。図12(b)の構成において、溝514は第一のアーム導波路507および第二のアーム導波路508の両方の途中に形成されており、それぞれ4つに分割されている。このとき、分割された溝が第一のアーム導波路507を分断する長さの総和と、第二のアーム導波路508を分断する長さの総和の差分が、所定の値になるよう設定されている。また、各溝の端面から端面までの間隔は15μmに設定されている。図12(b)の構成により、図7または図12(a)の構成に比較して、溝514の溝幅に作製誤差が生じた場合においても、第一のアーム導波路507と第二のアーム導波路508の光路長差への影響が少なくなるため、より作製トレランスに優れた光波長合分波回路が実現可能である。
【0072】
図13(a)は、更に別構成における、第一のアーム導波路507および第二のアーム導波路508近傍を拡大した平面図であり、図13(b)は、図13(a)の線分B−B’部分の断面図である。図13(a)および(b)に示す構造の導波路は、非特許文献3において開示されている。図に示すように、シリコン基板520に導波路507の導波路コア521およびクラッド522が形成されている。図13(a)および(b)の構成において、溝514は第一のアーム導波路507のコア両側面に一部接するように形成されており、温度補償材料であるシリコーン樹脂が挿入されている。このとき、溝514がコア側面に接している長さは、1300μmに設定されている。図13(a)および(b)の構成によって、図7の構成と同様、第一のアーム導波路507と第二のアーム導波路508の光路長差の温度変化を発生させることが可能であり、また、図7や図12の構成に比較して、溝514の影響で発生する損失を抑制することができるため、より損失特性に優れた光波長合分波回路が実現可能である。
【0073】
図13(c)は、更に別構成における、第一のアーム導波路507および第二のアーム導波路508近傍を拡大した平面図であり、図13(d)は、図13(c)の線分C−C’部分の断面図である。参照符号は、図13(a)および(b)と同様である。図13(c)および(d)の構成において、溝514は第一のアーム導波路507のコア上面に一部接するように形成されており、温度補償材料であるシリコーン樹脂が挿入されている。このとき、溝514がコア上面に接している長さは、3000μmに設定されている。図13(c)および(d)の構成によっても、図7の構成と同様、第一のアーム導波路507と第二のアーム導波路508の光路長差の温度変化を発生させることが可能であり、また、図7や図12の構成に比較して、溝514の影響で発生する損失を抑制することができるため、より損失特性に優れた光波長合分波回路が実現可能である。
【0074】
また、本実施例においては、図7のように、光モード合成カプラ509として、非対称な方向性結合器を適用したが、光モード合成カプラ509の実現はこの構成に限定されない。
【0075】
図14は、別構成における、光モード合成カプラ509近傍を拡大した図である。図14の構成においては、図7と同様に非対称な方向性結合器ではあるが、導波路509aに接続する出力導波路は、溝515によって終端されている。溝515には光波を吸収するような遮光材料が挿入されており、また、遮光材料と出力導波路の界面は導波路に垂直ではなく、垂直面から8度傾いている。図14の構成により、図7の構成に比較して、導波路509aから導波路509bに結合せずに僅かに残る光波を遮断して第一のスラブ導波路502などに迷光が侵入することを抑制し、また、光波の反射も抑制することができる。そのため、クロストーク特性および反射特性のより優れた光波長合分波回路が実現可能である。
【0076】
図15は、更に別構成における、光モード合成カプラ509近傍を拡大した図である。図15の構成においては、図7と同様に非対称な方向性結合器ではあるが、導波路509aはその幅が徐々に狭くなり、幅が無くなって終端する構造になっている。このとき、導波路509a、509bの長さは、1500μmに設計されている。図15の構成により、導波路509aから導波路509bへの光波の結合率をほぼ100%にすることができるため、図7の構成に比較して、より損失特性に優れた光波長合分波回路が実現可能である。
【0077】
図16は、更に別構成における、光モード合成カプラ509近傍を拡大した図である。図16の構成においては、光モード合成カプラ509は2つのマルチモード干渉回路(MMI:Multi−Mode Interferometer)からなる。この構成については詳しくは、非特許文献2に記載されている。この光モード合成カプラ509は、第一のMMI515aと、第二のMMI515bと、中間導波路516a、516bおよび516cとを備えている。第一のMMI515aは幅20μm、長さ754μm、第二のMMI515bは幅20μm、長さ377μm、中間導波路516aは幅4.5μm、長さ50μm、中間導波路516bは幅4.5μm、長さ51.5μm、中間導波路516cは幅4.5μm、長さ53μmである。一般に、MMIは方向性結合器に比較して、導波路幅の変化に対する分岐特性の変化が小さい。従って、図16の構成により、図7の構成に比較して、導波路の幅に作製誤差が生じた場合においても、アーム導波路507から入力した基底モード光がマルチモード導波路510の一次モードに結合する結合率が影響されないため、より作製トレランスに優れた光波長合分波回路が実現可能である。
【0078】
また、本実施形態においては、図7のように、光スプリッタ506として、単一の方向性結合器を適用したが、光スプリッタ506の実現はこの構成に限定されない。例えばY分岐回路やMMIによっても実現可能である。また、更に好ましくは、光スプリッタ506は波長無依存カプラ(WINC:Wavelength INsensitive Coupler)により実現される。
【0079】
図17は、WINCによって構成された光スプリッタ506近傍を拡大した図である。光スプリッタ506は、2つの方向性結合器517aおよび517bと、2つのアーム導波路518aおよび518bとを備えている。方向性結合器517a、517bの結合率はそれぞれ86%、97%、アーム導波路518bに対する518aの光路長差は0.45μmであり、WINCは分岐比11%の光スプリッタとして機能している。WINCを用いる図17の構成により、単一の方向性結合器を用いる図7の構成に比較して、分岐比の波長依存性が小さいため、より広い波長範囲で動作する光波長合分波回路が実現可能である。
【0080】
(第2の実施形態)
図18に、本発明の第2の実施形態によるアサーマルAWGの構成例を示す。このアサーマルAWG1700は、第一の入出力導波路1701と、第一のスラブ導波路1702と、アレイ導波路1703と、第二のスラブ導波路1704と、第二の入出力導波路1705とを備えている。また、アサーマルAWG1700は、第一の入出力導波路1701と第一のスラブ導波路1702との間に、光スプリッタ1706と、第一のアーム導波路1707と、第二のアーム導波路1708と、光モード合成カプラ1709と、マルチモード導波路1710とをさらに備えている。本実施形態によるアサーマルAWGのチップは、AWGの回路に沿って弧状に切断されており、その両端が金属棒1712により接合されている。なお、金属棒1712の材質は本実施形態においてはアルミである。
【0081】
図18において、アレイ導波路1703は、一定量ΔLずつ順次長くなるよう設計されている。このアサーマルAWGは、導波路のΔが1.5%、コア厚4.5μm、実効屈折率温度係数α=1.0×10−5+1.9×10−8×Tである。また、第一の入出力導波路1701、アレイ導波路1703、第二の入出力導波路1705、第一のアーム導波路1707、第二のアーム導波路1708のコア幅は4.5μmであり、波長チャネル数32、中央の波長チャネルの透過波長1544.53μm(194.1THz)、波長チャネル間隔0.8nm(100GHz)である。このとき、アレイ導波路の本数は130本、ΔLは42.4μmである。また、第一のスラブ導波路1702、第二のスラブ導波路1704の長さは6100μmであり、第二の入出力導波路1705は、第二のスラブ導波路1704に接続する部分において15μm間隔で波長チャネル数、すなわち32本配置されている。
【0082】
金属棒1712は、材質の熱膨張係数に従い温度によって伸縮する。このとき、接合されたAWGチップも形状が変化するが、高温では伸張する金属棒によってΔLが小さくなるように変形し、低温では収縮する金属棒によってΔLが大きくなるように変形する。よって、金属棒の長さを適切に設定することによって、隣接するアレイ導波路の光路長差(導波路の実効屈折率とΔLの積)における温度変動を抑制し、透過中心波長の1次の温度依存性が補償されている。
【0083】
図19は、図18のアサーマルAWGにおける光スプリッタ1706からマルチモード導波路1710までの部分を拡大した図である。参照符号は図18と同様である。ただし、本実施形態において、マルチモード導波路1710は、直線テーパ導波路1711を介して第一のスラブ導波路1702に接続されている。マルチモード導波路1710の導波路幅は8μmであり、直線テーパ導波路1711の導波路幅は、第一のスラブ導波路1702に接続する部分で11.5μmである。
【0084】
光スプリッタ1706としてはWINCを用いており、方向性結合器1713aおよび1713bと、アーム導波路1714aおよび1714bとから構成されている。ここで、方向性結合器1713a、1713bの結合率はそれぞれ85%、95%、アーム導波路1714bに対する1714aの光路長差は0.46μmであり、WINCは分岐比10%の光スプリッタとして機能している。
【0085】
光モード合成カプラ1709としては導波路幅が非対称な方向性結合器を用いており、第一のアーム導波路1707に接続する導波路1709aの幅を2.5μm、第二のアーム導波路1708に接続する導波路1709bの幅を8μmとし、導波路1709a、1709bの長さは500μmとしている。また、第二のアーム導波路1708から導波路1709bへは直線テーパにより滑らかに導波路幅が変換されている。光モード合成カプラ1709の、導波路1709aから1709bへの結合率は、70%に設計されている。
【0086】
導波路1709aに接続する出力導波路は、溝1715によって終端されており、溝1715には光波を吸収するような遮光材料が挿入されている。また、遮光材料と出力導波路の界面は導波路に垂直ではなく、垂直面から8度傾いている。
【0087】
第一のアーム導波路1707の途中には、溝1716が形成されており、温度補償材料であるシリコーン樹脂(屈折率温度係数α’=−3.5×10−4+1.5×10−7×T)が充填されている。溝1716は4つに分割され、分割された溝が第一のアーム導波路1707を分断する長さの総和が23μmになるよう設定されており、隣接する溝の端面から端面までの間隔は15μmに設定されている。
【0088】
本実施形態における、第二のアーム導波路1708に対する第一のアーム導波路1707の光路長差の温度変化は、図10と同様となる。ここで、光波長合分波回路の使用温度範囲は−40〜80℃としている。この使用温度範囲において、光路長差は+0.50μmから−0.50μmまで変化する。これにより、光モード合成カプラ1709で生成される、基底モード光と1次モード光の位相差は1.3π変化することになる。この位相変化に伴い、直線テーパ1711と第一のスラブ導波路1702の接続部において、図8(b)と同様な光フィールドの温度変化が生じる。
【0089】
図20は、本実施形態のアサーマルAWGにおける、透過中心波長の温度変動を説明するグラフである。線Xは、光フィールドのピーク位置変動による透過中心波長の温度変動を示している。また、線Yは、金属棒1712の熱伸縮によって1次の温度依存性が補償されたAWGにおいて残留している透過中心波長の高次の温度依存性を示している。AWG回路全体の透過中心波長の温度依存性は線Zとして示されている。この波長合分波回路においては、−40〜80℃の範囲で透過中心波長の温度変動量は0.008nmであり、従来技術によるアサーマルAWGにおいて残留していた透過中心波長の高次の温度変動が、ほぼ完全に補償されていることが分かる。
【0090】
(第3の実施形態)
図21は、本発明の第3の実施形態によるアサーマルAWGの構成例を示す。このアサーマルAWG2000は、第一入出力導波路2001と、第一のスラブ導波路2002と、アレイ導波路2003と、第二のスラブ導波路2004と、第二の入出力導波路2005とを備えている。また、アサーマルAWG2000は、第一の入出力導波路2001と第一のスラブ導波路2002との間に、光スプリッタ2006と、第一のアーム導波路2007と、第二のアーム導波路2008と、光モード合成カプラ2009と、マルチモード導波路2010とをさらに備えている。本実施形態によるアサーマルAWGは、第一のスラブ導波路2002を分断するように2つのチップに切断されており、この2つのチップが金属板2012により接合されている。なお、金属の材質は本実施形態においてはアルミである。
【0091】
図21において、アレイ導波路2003は、一定量ΔLずつ順次長くなるよう設計されている。このアサーマルAWGは、導波路のΔが1.5%、コア厚4.5μm、実効屈折率温度係数α=1.0×10−5+1.9×10−8×Tである。また、第一の入出力導波路2001、アレイ導波路2003、第二の入出力導波路2005、第一のアーム導波路2007、第二のアーム導波路2008のコア幅は4.5μmであり、波長チャネル数32、中央の波長チャネルの透過波長1544.53nm(194.1THz)、波長チャネル間隔0.8nm(100GHz)である。このとき、アレイ導波路の本数は130本、ΔLは42.4μmである。また、第一のスラブ導波路2002、第二のスラブ導波路2004の長さは6100μmであり、第二の入出力導波路2005は、第二のスラブ導波路2004に接続する部分において15μm間隔で波長チャネル数、すなわち32本配置されている。
【0092】
金属板2012は、材質の熱膨張係数に従い温度によって伸縮する。このとき、接合された2つのチップの相対位置が変化するが、アレイ導波路2003側のチップを基準として第一の入出力導波路2001側のチップは、高温では伸張する金属板2012によって図面上方に移動し、低温では収縮する金属板2012によって図面下方に移動する。よって、金属板の長さを適切に設定することによって、アレイ導波路2003における光路長差の温度変動を補償するように、この第一の入出力導波路2001側のチップの位置変化を生じさせることが可能であり、この構造によって、AWGにおける透過中心波長の1次の温度依存性が補償されている。
【0093】
図22は、図21のアサーマルAWGにおける光スプリッタ2006からマルチモード導波路2010までの部分を拡大した図である。参照符号は図21と同様である。ただし、本実施形態において、マルチモード導波路2010は、直線テーパ導波路2011を介して第一のスラブ導波路2002に接続されている。マルチモード導波路2010の導波路幅は8μmであり、直線テーパ導波路2011の導波路幅は、第一のスラブ導波路2002に接続する部分で11.5μmである。
【0094】
光スプリッタ2006としてはWINCを用いており、方向性結合器2013aおよび2013bと、アーム導波路2014aおよび2014bとから構成されている。ここで、方向性結合器2013a、2013bの結合率はそれぞれ85%、95%、アーム導波路2014bに対する2014aの光路長差は0.46μmであり、WINCは分岐比10%の光スプリッタとして機能している。
【0095】
光モード合成カプラ2009としては導波路幅が非対称な方向性結合器を用いており、第一のアーム導波路2007に接続する導波路2009aの幅を2.5μm、第二のアーム導波路2008に接続する導波路2009bの幅を8μmとし、導波路2009a、2009bの長さは500μmとしている。また、第二のアーム導波路2008から導波路2009bへは直線テーパにより滑らかに導波路幅が変換されている。光モード合成カプラ2009の、導波路2009aから2009bへの結合率は、70%に設計されている。
【0096】
導波路2009aに接続する出力導波路は、溝2015によって終端されており、溝2015には光波を吸収するような遮光材料が挿入されている。また、遮光材料と出力導波路の界面は導波路に垂直ではなく、垂直面から8度傾いている。
【0097】
第一のアーム導波路2007の途中には、溝2016が形成されており、温度補償材料であるシリコーン樹脂(屈折率温度係数α’=−3.5×10−4+1.5×10−7×T)が充填されている。溝2016は4つに分割され、分割された溝が第一のアーム導波路2007を分断する長さの総和が23μmになるよう設定されており、隣接する溝の端面から端面までの間隔は15μmに設定されている。
【0098】
本実施形態における、第二のアーム導波路2008に対する第一のアーム導波路2007の光路長差の温度変化は、図10と同様となる。ここで、光波長合分波回路の使用温度範囲は−40〜80℃としている。この使用温度範囲において、光路長差は+0.50μmから−0.50μmまで変化する。これにより、光モード合成カプラ2009で生成される、基底モード光と1次モード光の位相差は1.3π変化することになる。この位相変化に伴い、直線テーパ2011と第一のスラブ導波路2002の接続部において、図8(b)と同様な光フィールドの温度変化が生じる。
【0099】
図23は、本実施形態のアサーマルAWGにおける、透過中心波長の温度変動を説明するグラフである。線Xは、光フィールドのピーク位置変動による透過中心波長の温度変動を示している。また、線Yは、金属棒2012の熱伸縮によって1次の温度依存性が補償されたAWGにおいて残留している透過中心波長の高次の温度依存性を示している。AWG回路全体の透過中心波長の温度依存性は線Zとして示されている。この波長合分波回路においては、−40〜80℃の範囲で透過中心波長の温度変動量は0.008nmであり、従来技術によるアサーマルAWGにおいて残留していた透過中心波長の高次の温度変動が、ほぼ完全に補償されていることが分かる。
【0100】
(第4の実施形態)
図24は、本発明の第4の実施形態によるアサーマルAWGの構成例を示す。このアサーマルAWG2300は、第一入出力導波路2301と、第一のスラブ導波路2302と、アレイ導波路2303と、第二のスラブ導波路2304と、第二の入出力導波路2305とを備えている。また、アサーマルAWG2300は、第一の入出力導波路2301と第一のスラブ導波路2302との間に、光スプリッタ2306と、第一のアーム導波路2307と、第二のアーム導波路2308と、光モード合成カプラ2309と、マルチモード導波路2310とをさらに備えている。第二のスラブ導波路2304には溝2312が形成され、溝2312には温度補償材料が充填されている。
【0101】
アレイ導波路2303の長さは、一定量ΔLずつ順次長くなるよう設計されている。これに応じて、各アレイ導波路を通過し、中央の波長チャネルを通過する光波が、第二のスラブ導波路2304において溝2312によって分断される長さは、ΔLに比例した量ΔL’ずつ順次長くなるような形状をしている。このアサーマルAWGは、導波路のΔが1.5%、コア厚4.5μm、実効屈折率温度係数α=1.0×10−5+1.9×10−8×Tである。また、第一の入出力導波路2301、アレイ導波路2303、第二の入出力導波路2305、第一のアーム導波路2307、第二のアーム導波路2308のコア幅は4.5μmである。波長チャネル数32、中央の波長チャネルの透過波長1544.53nm(194.1THz)、波長チャネル間隔0.8nm(100GHz)、温度補償材料はシリコーン樹脂(屈折率温度係数α’=−3.5×10−4+1.5×10−7×T)である。このとき、アレイ導波路の本数は150本、ΔLは42.4μmである。
【0102】
溝2312に充填された温度補償材料によって与えられる経路長差ΔL’は、T=20℃として、ΔL’=ΔL/(1−α’/α)=1.18μmと設計されており、透過中心波長の1次の温度依存性が補償されている。また、第一のスラブ導波路2302、第二のスラブ導波路2304の長さは7300μmであり、第二の入出力導波路2305は、第二のスラブ導波路2304に接続する部分において18μm間隔で波長チャネル数、すなわち32本配置されている。
【0103】
図25は、図24のアサーマルAWGにおける光スプリッタ2306からマルチモード導波路2310までの部分を拡大した図である。参照符号は図24と同様である。ただし、本実施形態において、マルチモード導波路2310は、パラボラ形状のテーパ導波路2311を介して第一のスラブ導波路2302に接続されている。マルチモード導波路2310の導波路幅は8μmであり、パラボラ形状テーパ導波路2311の導波路幅は、第一のスラブ導波路2302に接続する部分で16μmである。
【0104】
光スプリッタ2306としてはWINCを用いており、方向性結合器2313aおよび2313bと、アーム導波路2314aおよび2314bとから構成されている。ここで、方向性結合器2313a、2313bの結合率はそれぞれ90%、94%、アーム導波路2314bに対する2314aの光路長差は0.49μmであり、WINCは分岐比4%の光スプリッタとして機能している。
【0105】
光モード合成カプラ2309としては導波路幅が非対称な方向性結合器を用いており、第一のアーム導波路2307に接続する導波路2309aの幅を2.5μm、第二のアーム導波路2308に接続する導波路2309bの幅を8μmとし、導波路2309a、2309bの長さは500μmとしている。また、第二のアーム導波路2308から導波路2309bへは直線テーパにより滑らかに導波路幅が変換されている。光モード合成カプラ2309の、導波路2309aから2309bへの結合率は、70%に設計されている。
【0106】
導波路2309aに接続する出力導波路は、溝2315によって終端されており、溝2315には光波を吸収するような遮光材料が挿入されている。また、遮光材料と出力導波路の界面は導波路に垂直ではなく、垂直面から8度傾いている。
【0107】
第一のアーム導波路2307の途中には、溝2316が形成されており、温度補償材料であるシリコーン樹脂(屈折率温度係数α’=−3.5×10−4+1.5×10−7×T)が充填されている。溝2316は4つに分割され、分割された溝が第一のアーム導波路2307を分断する長さの総和が23μmになるよう設定されており、隣接する溝の端面から端面までの間隔は15μmに設定されている。
【0108】
本実施形態における、第二のアーム導波路2308に対する第一のアーム導波路2307の光路長差の温度変化は、図8(a)と同様となる。ここで、光波長合分波回路の使用温度範囲は−40〜80℃としている。この使用温度範囲において、光路長差は+0.77μmから−0.77μmまで変化する。これにより、光モード合成カプラ2309で生成される、基底モード光と1次モード光の位相差は2π変化することになる。
【0109】
図26は、図8(a)と同様の光路長差変化がある場合の、パラボラテーパ導波路2311の第一のスラブ導波路2302との接続部分における光フィールド分布の温度変化を示したグラフである。グラフの横軸pは、図25に示したように、パラボラテーパ導波路2311の中心を原点とした相対位置である。図26には、温度−40、20、80℃での光フィールド分布が示されている。
【0110】
マルチモード導波路2310からパラボラテーパ導波路2311に入力した基底モード光の一部は、2次モード光に変換され、パラボラテーパ導波路2311の終端では双峰状のフィールドとなる。このとき、基底モード光と2次モード光のパワー比と位相差は、パラボラテーパ導波路2311の形状によって決まり、その温度変化は殆ど無い。一方、マルチモード導波路2310からパラボラテーパ導波路2311に入力した1次モード光は、そのまま1次モードとしてパラボラテーパ導波路2311の終端に達する。この1次モード光の影響により、パラボラテーパ導波路2311の終端での双峰状のフィールドは、非対称なフィールドとなり、その非対称性は、基底および2次モード光と、1次モード光との位相差によって決まる。図26によれば、使用温度範囲において、基底および2次モード光と1次モード光の位相差変化に伴い、光波フィールド非対称性が変化し、光パワーの重心位置がおよそ−0.4μmから+0.4μmに変化し更に−0.4μmまで変化している。
【0111】
図27(a)は、本実施形態のアサーマルAWGにおける透過中心波長の温度変動を説明するグラフである。線Xは、光フィールドの重心変動による透過中心波長の温度変動を示している。また、線Yは、第一のスラブ導波路2302から第二の入出力導波路2305に至る、1次の温度依存性が補償されたAWGにおいて残留している透過中心波長の高次の温度依存性を示している。AWG回路全体の透過中心波長の温度依存性は線Zとして示している。
【0112】
図27(b)は、本実施形態のアサーマルAWGにおける、温度−40、20、80℃での透過波形を示したグラフである。パラボラテーパ導波路2311において双峰状のフィールドが励起されることで、透過帯域の広い波形が実現される。図より、透過波形の非対称性が変化しながら、透過中心波長の温度変動が抑制されている様子が確認できる。
【0113】
図27(a)および26(b)から、本実施形態の波長合分波回路においては、−40〜80℃の範囲で透過中心波長の温度変動量は0.04nmに抑制されており、透過帯域が広く、かつ従来技術によるアサーマルAWGにおいて残留していた透過中心波長の高次の温度変動が補償されていることが分かる。
【0114】
(第5の実施形態)
図28は、本発明の第5の実施形態によるアサーマルAWGの構成例を示す。このアサーマルAWG2700は、第一の入出力導波路2701と、第一のスラブ導波路2702と、アレイ導波路2703と、第二のスラブ導波路2704と、第二の入出力導波路2705とを備えている。また、アサーマルAWG2700は、第一の入出力導波路2701と第一のスラブ導波路2702との間に、光スプリッタ2706と、第一のアーム導波路2707と、第二のアーム導波路2708と、光モード合成カプラ2709と、マルチモード導波路2710とをさらに備えている。第二のスラブ導波路2704には溝2712が形成され、溝2712には温度補償材料が充填されている。
【0115】
アレイ導波路2703の長さは、一定量ΔLずつ順次長くなるよう設計されている。これに応じて、各アレイ導波路を通過し、中央の波長チャネルを通過する光波が、第二のスラブ導波路2704において溝2712によって分断される長さは、ΔLに比例した量ΔL’ずつ順次長くなるような形状をしている。このアサーマルAWGは、導波路のΔが1.5%、コア厚4.5μm、実効屈折率温度係数α=1.0×10−5+1.9×10−8×Tである。また、第一の入出力導波路2701、アレイ導波路2703、第二の入出力導波路2705、第一のアーム導波路2707、第二のアーム導波路2708のコア幅は4.5μmである。波長チャネル数32、中央の波長チャネルの透過波長1544.53nm(194.1THz)、波長チャネル間隔0.8nm(100GHz)、温度補償材料はシリコーン樹脂(屈折率温度係数α’=−3.5×10−4+1.5×10−7×T)である。このとき、アレイ導波路の本数は150本、ΔLは42.4μmである。
【0116】
溝2712に充填された温度補償材料によって与えられる経路長差ΔL’は、T=20℃として、ΔL’=ΔL/(1−α’/α)=1.18μmと設計されており、透過中心波長の1次の温度依存性が補償されている。また、第一のスラブ導波路2702、第二のスラブ導波路2704の長さは7300μmであり、第二の入出力導波路2705は、第二のスラブ導波路2704に接続する部分において18μm間隔で波長チャネル数、すなわち32本配置されている。
【0117】
図29は、図28のアサーマルAWGにおける光スプリッタ2706からマルチモード導波路2710までの部分を拡大した図である。参照符号は図28と同様である。ただし、本実施形態において、マルチモード導波路2710は、直線テーパ導波路2711を介して第一のスラブ導波路2702に接続されている。マルチモード導波路2710の導波路幅は8μmであり、直線テーパ導波路2711の導波路幅は、第一のスラブ導波路2702に接続する部分で10μmである。
【0118】
光スプリッタ2706としてはWINCを用いており、方向性結合器2713aおよび2713bと、アーム導波路2714aおよび2714bとから構成されている。ここで、方向性結合器2713a、2713bの結合率はそれぞれ86%、97%、アーム導波路2714bに対する2714aの光路長差は0.45μmであり、WINCは分岐比11%の光スプリッタとして機能している。
【0119】
光モード合成カプラ2709としては導波路幅が非対称な方向性結合器を用いており、第一のアーム導波路2707に接続する導波路2709aの幅を2.5μm、第二のアーム導波路2708に接続する導波路2709bの幅を8μmとし、導波路2709a、2709bの長さは500μmとしている。また、第二のアーム導波路2708から導波路2709bへは直線テーパにより滑らかに導波路幅が変換されている。光モード合成カプラ2709の、導波路2709aから2709bへの結合率は、70%に設計されている。
【0120】
導波路2709aに接続する出力導波路は、溝2715によって終端されており、溝2715には光波を吸収するような遮光材料が挿入されている。また、遮光材料と出力導波路の界面は導波路に垂直ではなく、垂直面から8度傾いている。
【0121】
第一のアーム導波路2707の途中には、溝2716が形成されており、温度補償材料であるシリコーン樹脂(屈折率温度係数α’=−3.5×10−4+1.5×10−7×T)が充填されている。溝2716は4つに分割され、分割された溝が第一のアーム導波路2707を分断する長さの総和が23μmになるよう設定されており、隣接する溝の端面から端面までの間隔は15μmに設定されている。
【0122】
図30は、図28のアサーマルAWGにおける、第二のスラブ導波路2704と第二の入出力導波路2705の接続部近傍を拡大した図である。参照符号は図28と同様である。ただし、本実施形態において第二の入出力導波路2705は全て、パラボラ形状のテーパ導波路2717を介して第二のスラブ導波路2704に接続されている。パラボラテーパ導波路2717の導波路幅は、第二のスラブ導波路2704に接続する部分で16μmである。
【0123】
パラボラテーパ導波路2717の終端では、基底モード光の一部は、2次モード光に変換され、双峰状のフィールドとなる。このとき、基底モード光と2次モード光のパワー比と位相差は、パラボラテーパ導波路2717の形状によって決まり、その温度変化は殆ど無い。また、パラボラテーパ導波路2717の形状が中心軸に対して対称であるので、一次モード光は励起されない。
【0124】
本実施形態における、第二のアーム導波路2708に対する第一のアーム導波路2707の光路長差の温度変化は、図10と同様となる。ここで、光波長合分波回路の使用温度範囲は−40〜80℃としている。この使用温度範囲において、光路長差は+0.50μmから−0.50μmまで変化する。これにより、光モード合成カプラ2709で生成される、基底モード光と1次モード光の位相差は1.3π変化することになる。この位相変化に伴い、直線テーパ2711と第一のスラブ導波路2702の接続部において、図8(b)と同様な光フィールドの温度変化が生じる。
【0125】
図31(a)は、本実施形態のアサーマルAWGにおける透過中心波長の温度変動を説明するグラフである。線Xは、直線テーパ2711終端での光フィールドのピーク位置変動による透過中心波長の温度変動を示している。また、線Yは、第一のスラブ導波路2702から第二の入出力導波路2705に至る、1次の温度依存性が補償されたAWGにおいて残留している透過中心波長の高次の温度依存性を示している。AWG回路全体の透過中心波長の温度依存性は線Zとして示している。
【0126】
図31(b)は、本実施形態のアサーマルAWGにおける、温度−40、20、80℃での透過波形を示したグラフである。パラボラテーパ導波路2717において双峰状のフィールドが励起されることで、透過帯域の広い波形が実現される。また、パラボラテーパ導波路2717において1次モード光は励起されないため、使用温度範囲で透過波形はほぼ対称性を保持しながらも、透過中心波長の温度変動が抑制されている。
【0127】
図31(a)および31(b)から、本実施形態の波長合分波回路においては、−40〜80℃の範囲で透過中心波長の温度変動量は0.011nmに抑制されており、透過帯域が広く、透過波形の変動が殆ど無く、かつ従来技術によるアサーマルAWGにおいて残留していた透過中心波長の高次の温度変動が補償されていることが分かる。
【0128】
(第6の実施形態)
図32は、本発明の第6の実施形態によるアサーマルAWGの構成例を示す。このアサーマルAWG3100は、第一の入出力導波路3101と、第一のスラブ導波路3102と、アレイ導波路3103と、第二のスラブ導波路3104と、第二の入出力導波路3105とを備えている。また、アサーマルAWG3100は、第一の入出力導波路3101と第一のスラブ導波路3102との間に、光スプリッタ3106と、第一のアーム導波路3107と、第二のアーム導波路3108と、光モード合成カプラ3109と、マルチモード導波路3110とをさらに備えている。第二のスラブ導波路3104には溝3112が形成され、溝3112には温度補償材料が充填されている。
【0129】
アレイ導波路3103の長さは、一定量ΔLずつ順次長くなるよう設計されている。これに応じて、各アレイ導波路を通過し、中央の波長チャネルを通過する光波が、第二のスラブ導波路3104において溝3112によって分断される長さは、ΔLに比例した量ΔL’ずつ順次長くなるような形状をしている。このアサーマルAWGは、導波路のΔが1.5%、コア厚4.5μm、実効屈折率温度係数α=1.0×10−5+1.9×10−8×Tである。また、第一の入出力導波路3101、アレイ導波路3103、第二の入出力導波路3105、第一のアーム導波路3107、第二のアーム導波路3108のコア幅は4.5μmである。波長チャネル数32、中央の波長チャネルの透過波長1544.53nm(194.1THz)、波長チャネル間隔0.8nm(100GHz)、温度補償材料はシリコーン樹脂(屈折率温度係数α’=−3.5×10−4+1.5×10−7×T)である。このとき、アレイ導波路の本数は150本、ΔLは42.4μmである。
【0130】
溝3112に充填された温度補償材料によって与えられる経路長差ΔL’は、T=20℃として、ΔL’=ΔL/(1−α’/α)=1.18μmと設計されており、透過中心波長の1次の温度依存性が補償されている。また、第一のスラブ導波路3102、第二のスラブ導波路3104の長さは7300μmであり、マルチモード導波路3110から第二の入出力導波路3105に至る導波路は、波長チャネル数、すなわち32本配置されており、マルチモード導波路3110は、第二のスラブ導波路3104に接続する部分において18μm間隔で配置されている。
【0131】
図33は、図32のアサーマルAWGにおける、第一の入出力導波路3101と第一のスラブ導波路3102との接続部近傍を拡大した図である。参照符号は図32と同様である。ただし、本実施形態において第一の入出力導波路3101は、パラボラ形状のテーパ導波路3117を介して第一のスラブ導波路3102に接続されている。パラボラテーパ導波路3117の導波路幅は、第一のスラブ導波路3102に接続する部分で16μmである。
【0132】
パラボラテーパ導波路3117の終端では、基底モード光の一部は、2次モード光に変換され、双峰状のフィールドとなる。このとき、基底モード光と2次モード光のパワー比と位相差は、パラボラテーパ導波路3117の形状によって決まり、その温度変化は殆ど無い。また、パラボラテーパ導波路3117の形状が中心軸に対して対称であるので、一次モード光は励起されない。
【0133】
図34は、図32のアサーマルAWGにおける光スプリッタ3106からマルチモード導波路3110までの部分を拡大した図である。なお、この図では、簡略化のため、1チャネル分の構造のみを示しているが、実際にはこれと同じ構造の入出力導波路が並んでいる。参照符号は図32と同様である。ここで、本実施形態おいて、マルチモード導波路3110は、直線テーパ導波路3111を介して第二のスラブ導波路3104に接続されている。マルチモード導波路3110の導波路幅は8μmであり、直線テーパ導波路3111の導波路幅は、第二のスラブ導波路3104に接続する部分で10μmである。
【0134】
光スプリッタ3106としてはWINCを用いており、方向性結合器3113aおよび3113bと、アーム導波路3114aおよび3114bとから構成されている。ここで、方向性結合器3113a、3113bの結合率はそれぞれ86%、97%、アーム導波路3114bに対する3114aの光路長差は0.45μmであり、WINCは分岐比11%の光スプリッタとして機能している。
【0135】
光モード合成カプラ3109としては導波路幅が非対称な方向性結合器を用いており、第一のアーム導波路3107に接続する導波路3109aの幅を2.5μm、第二のアーム導波路3108に接続する導波路3109bの幅を8μmとし、導波路3109a、3109bの長さは500μmとしている。また、第二のアーム導波路3108から導波路3109bへは直線テーパにより滑らかに導波路幅が変換されている。光モード合成カプラ3109の、導波路3109aから3109bへの結合率は、70%に設計されている。
【0136】
導波路3109aに接続する出力導波路は、溝3115によって終端されており、溝3115には光波を吸収するような遮光材料が挿入されている。また、遮光材料と出力導波路の界面は導波路に垂直ではなく、垂直面から8度傾いている。
【0137】
第一のアーム導波路3107の途中には、溝3116が形成されており、温度補償材料であるシリコーン樹脂(屈折率温度係数α’=−3.5×10−4+1.5×10−7×T)が充填されている。溝3116は4つに分割され、分割された溝が第一のアーム導波路3107を分断する長さの総和が23μmになるよう設定されており、隣接する溝の端面から端面までの間隔は15μmに設定されている。
【0138】
本実施形態における、各チャネルの第二のアーム導波路3108に対する第一のアーム導波路3107の光路長差の温度変化は、図10と同様となる。ここで、光波長合分波回路の使用温度範囲は−40〜80℃としている。使用温度範囲において、光路長差は+0.50μmから−0.50μmまで変化する。これにより、光モード合成カプラ3109で生成される、基底モード光と1次モード光の位相差は1.3π変化することになる。この位相変化に伴い、直線テーパ3111と第二のスラブ導波路3104の接続部において、図8(b)と同様な光フィールドの温度変化が生じる。
【0139】
本実施形態のアサーマルAWGにおける透過中心波長の温度変動は、図31(a)と同様である。本実施形態において、線Xは、直線テーパ3111終端での光フィールドのピーク位置変動による透過中心波長の温度変動を示している。また、線Yは、第一の入出力導波路3101から第二のスラブ導波路3104に至る、1次の温度依存性が補償されたAWGにおいて残留している透過中心波長の高次の温度依存性を示している。線Zは、AWG回路全体の透過中心波長の温度依存性を示している。
【0140】
本実施形態のアサーマルAWGにおける、温度−40、20、80℃での透過波形を示したグラフは、また図31(b)と同様である。第5の実施形態と同様に、パラボラテーパ導波路3117において双峰状のフィールドが励起されることで、透過帯域の広い波形が実現される。また、パラボラテーパ導波路3117において1次モード光は励起されないため、使用温度領域で透過波形はほぼ対称性を保持しながらも、透過中心波長の温度変動が抑制されている。
【0141】
以上より、本実施形態の波長合分波回路においては、−40〜80℃の範囲で透過中心波長の温度変動量は0.011nmに抑制されており、透過帯域が広く、透過波形の変動が殆ど無く、かつ従来技術によるアサーマルAWGにおいて残留していた透過中心波長の高次の温度変動が補償されていることが分かる。
【0142】
以上6つの実施の形態から、本発明によるアサーマルAWGタイプの光波長合分波回路では、従来技術のアサーマルAWGにおいて残留していた透過中心波長の高次の温度変動が補償され、従来に比較して透過中心波長精度に優れた、光波長合分波回路を得ることができる。しかしながら、本発明の原理を適用できる多くの実施可能な形態に鑑みて、ここに記載した実施形態は、単に例示に過ぎず、本発明の範囲を限定するものではない。ここに例示した実施形態は、本発明の趣旨から逸脱することなくその構成と詳細を変更することができる。さらに、説明のための構成要素および手順は、本発明の趣旨から逸脱することなく変更、補足、またはその順序を変えてもよい。
【0143】
例えば、上述の実施形態では、導波路の比屈折率差、コア幅及びコア厚を特定の値に限定したが、本発明の適用範囲は、この値に限定されるものではない。
【0144】
また、上述の実施形態では、AWGの設計パラメーターを特定の値に限定したが、本発明の適用範囲は、このパラメーターに限定されるものではない。
【0145】
また、上述の実施形態では、使用温度範囲を特定の値に限定したが、本発明の適用範囲は、この値に限定されるものではない。
【0146】
また、上述の実施形態では、分割する溝の個数を特定の値に限定したが、本発明の適用範囲は、この数に限定されるものではない。
【0147】
また、上述の実施形態では、温度補償材料としてシリコーン樹脂を使用したが、本発明の適用範囲は、この材料に限定されるものではなく、導波路の実効屈折率温度係数と異なる屈折率温度係数を有するいかなる材料も適用することができる。例えば、シリコーン樹脂の他、エポキシ樹脂およびフッ素樹脂などの光学樹脂を使用することができる。
【0148】
また、上述の実施形態では、第二のアーム導波路に対する第一のアーム導波路の光路長差に温度依存性を与える機構として、アーム導波路上またはその近傍に溝を形成し、温度補償材料を挿入する構成を適用したが、本発明の適用範囲はこの構成に限定されるものではなく、光路長差に所定の温度依存性を与えるいかなる構成も適用することができる。例えば、AWGを形成する導波路とは違う媒質で形成された導波路によってアーム導波路の一部を置換する等の構成も適用可能である。
【0149】
また、第1、第4、第5および第6の実施形態では、一次の温度依存性を補償する構成として、第二のスラブ導波路に溝を形成し温度補償材料を挿入したが、本発明の適用範囲はこの位置に限定されるものではなく、溝は第一のスラブ導波路からアレイ導波路を経て第二のスラブ導波路に至る光経路上のいかなる位置に設置し、また異なる複数の位置に分散して設置しても、一次の温度依存性を補償することができる。
【0150】
また、第4、第5および第6の実施形態では、第一あるいは第二の入出力導波路とスラブ導波路との接続部にパラボラテーパ導波路を適用したが、本発明の適用範囲はこの構成に限定されるものではなく、基底モード光の一部を2次モード光に変換するいかなるテーパ導波路、例えばY分岐導波路、楕円形状導波路、MMI等を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0151】
【図1】本発明の実施形態にかかる光波長合分波回路の構成概念を説明するための図である。
【図2】図1における光スプリッタからマルチモード導波路の部分を拡大した図である。
【図3】図2に示すs(T)の温度変化の例を示す図である。
【図4】AWGにおける透過中心波長の温度変動を説明するための図である。
【図5】マルチモード導波路を使用しない構成例を示す図である。
【図6】本発明の第1の実施形態によるアサーマルAWGの構成例を示す図である。
【図7】図6における光スプリッタからマルチモード導波路の部分を拡大した図である。
【図8】本発明の第1の実施形態における温度特性の補償を説明するための図であり、図8(a)は、第二のアーム導波路に対する第一のアーム導波路の光路長差の温度変化を示すグラフであり、図8(b)は、図8(a)の光路長差変化がある場合の、直線テーパの第一のスラブ導波路との接続部分における光フィールド分布の温度変化を示すグラフである。
【図9】本発明の第1の実施形態における透過中心波長の温度変動を説明するための図である。
【図10】温度特性のさらなる補償を可能にするための、第二のアーム導波路に対する第一のアーム導波路の光路長差の温度変化を示すグラフである。
【図11】図10の光路長差が与えられた場合の、透過中心波長の温度変動を説明するための図である。
【図12】第一のアーム導波路および第二のアーム導波路の他の構成例を示す図である。
【図13】第一のアーム導波路および第二のアーム導波路のさらに他の構成例を示す図である。
【図14】光モード合成カプラの他の構成例を示す図である。
【図15】光モード合成カプラのさらに他の構成例を示す図である。
【図16】光モード合成カプラのさらに他の構成例を示す図である。
【図17】WINCによって構成された光スプリッタを示す図である。
【図18】本発明の第2の実施形態によるアサーマルAWGの構成例を示す図である。
【図19】図18における光スプリッタからマルチモード導波路の部分を拡大した図である。
【図20】本発明の第2の実施形態における透過中心波長の温度変動を説明するための図である。
【図21】本発明の第3の実施形態によるアサーマルAWGの構成例を示す図である。
【図22】図21における光スプリッタからマルチモード導波路の部分を拡大した図である。
【図23】本発明の第3の実施形態における透過中心波長の温度変動を説明するための図である。
【図24】本発明の第4の実施形態によるアサーマルAWGの構成例を示す図である。
【図25】図24における光スプリッタからマルチモード導波路の部分を拡大した図である。
【図26】本発明の第4の実施形態における温度特性の補償を説明するための図であり、図8(a)と同様の光路長差変化がある場合の、パラボラテーパ導波路の第一のスラブ導波路との接続部分における光フィールド分布の温度変化を示したグラフである。
【図27】本発明の第4の実施形態における透過中心波長の温度変動と透過波形を説明するための図であり、図27(a)は、透過中心波長の温度変動を示すグラフであり、図27(b)は、各温度での透過波形を示すグラフである。
【図28】本発明の第5の実施形態によるアサーマルAWGの構成例を示す図である。
【図29】図28における光スプリッタからマルチモード導波路の部分を拡大した図である。
【図30】図28における第二のスラブ導波路と第二の入出力導波路の接続部を拡大した図である。
【図31】本発明の第5の実施形態における透過中心波長の温度変動と透過波形を説明するための図であり、図31(a)は、透過中心波長の温度変動を示すグラフであり、図31(b)は、各温度での透過波形を示すグラフである。
【図32】本発明の第6の実施形態によるアサーマルAWGの構成例を示す図である。
【図33】図32における第一の入出力導波路と第一のスラブ導波路の接続部を拡大した図である。
【図34】図32における光スプリッタからマルチモード導波路の部分を拡大した図である。
【図35】スラブ導波路に溝を形成するタイプのアサーマルAWGの従来の構成例を示す図であり、図35(a)は、平面図であり、図35(b)は、線分A−A’での断面図である。
【図36】図35の従来のアサーマルAWGの透過中心波長の温度依存性を示す図である。
【符号の説明】
【0152】
100,500,1700,2000,2300,2700,3100,4100 アレイ導波路回折格子(AWG)
101,501,1701,2001,2301,2701,3101,4101 第一の入出力導波路
102,502,1702,2002,2302,2702,3102,4102 第一のスラブ導波路
103,503,1703,2003,2303,2703,3103,4103 アレイ導波路
104、504,1704,2004,2304,2704,3104,4104 第二のスラブ導波路
105,505,1705,2005,2305,2705,3105,4105 第二の入出力導波路
106,506,1706,2006,2306,2706,3106 光スプリッタ
107,507,1707,2007,2307,2707,3107 第一のアーム導波路
108,508,1708,2008,2308,2708,3108 第二のアーム導波路
109,509,1709,2009,2309,2709,3109 光モード合成カプラ
110,510,1710,2010,2310,2710,3110 マルチモード導波路
509a,509b,1709a,1709b,2009a,2009b,2309a,2309b,2709a,2709b,3109a,3109b 導波路
511,1711,2011,2711,3111 直線テーパ導波路
514 溝
515 溝
515a,515b マルチモード干渉回路
516 中間導波路
517 方向性結合器
518 アーム導波路
520 シリコン基板
521 コア
522 クラッド
1712,2012 金属板
1713,2013,2313,2713,3113 方向性結合器
1714,2014,2314,2714,3114 アーム導波路
1715,2015,2315,2715,3115 溝
1716,2016,2316,2716,3116 溝
2311 パラボラ形状のテーパ導波路
2312,2712,3112 溝
2717,3117 パラボラ形状のテーパ導波路
4106 溝
4107 シリコン基板
4108 コア
4109 クラッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のスラブ導波路と、アレイ導波路と、第2のスラブ導波路とを備え、透過中心波長の主要な温度依存性が補償されたアレイ導波路回折格子であって、
第1の入出力導波路と、
前記第1の入出力導波路に接続された光スプリッタと、
前記光スプリッタに接続された第1および第2のアーム導波路と、
前記第1および第2のアーム導波路に接続された光モード合成カプラであって、前記第1のアーム導波路からの基本モード光を基本モードに結合させ、前記第2のアーム導波路からの基本モード光を1次モードに結合させる光モード合成カプラと、
前記第1および第2のアーム導波路間の光路長差が温度によって変化する機構であって、前記アレイ導波路回折光子の残留する温度依存性を補償するように構成された機構と
を備えたことを特徴とするアレイ導波路回折格子。
【請求項2】
請求項1に記載のアレイ導波路回折格子であって、
前記光モード合成カプラに接続されたマルチモード導波路であって、少なくとも基本および1次モード光が伝播可能であり、前記第1のスラブ導波路に接続されたマルチモード導波路をさらに備えたことを特徴とするアレイ導波路回折格子。
【請求項3】
請求項1または2に記載のアレイ導波路回折格子であって、
前記機構は、前記第1および第2のアーム導波路の少なくとも一方に形成され、温度補償材料を充填した溝であることを特徴とするアレイ導波路回折格子。
【請求項4】
請求項3に記載のアレイ導波路回折格子であって、
前記溝は、複数の溝から構成されていることを特徴とするアレイ導波路回折格子。
【請求項5】
請求項1または2に記載のアレイ導波路回折格子であって、
前記機構は、前記第1および第2のアーム導波路の少なくとも一方の導波路近傍に形成され、温度補償材料を充填した溝であることを特徴とするアレイ導波路回折格子。
【請求項6】
請求項3から5のいずれかに記載のアレイ導波路回折格子であって、
前記導波路は、石英系ガラスから構成され、
前記温度補償材料は、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂およびフッ素樹脂の少なくとも1つからなる光学樹脂であることを特徴とするアレイ導波路回折格子。
【請求項7】
請求項2から6のいずれかに記載のアレイ導波路回折格子であって、
前記マルチモード導波路は、テーパ導波路を介して前記第1のスラブ導波路に接続されていることを特徴とするアレイ導波路回折格子。
【請求項8】
請求項2から6のいずれかに記載のアレイ導波路回折格子であって、
前記マルチモード導波路は、パラボラ形状のテーパ導波路を介して前記第1のスラブ導波路に接続されていることを特徴とするアレイ導波路回折格子。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載のアレイ導波路回折格子であって、
前記第2のスラブ導波路に接続された第2の入出力導波路をさらに備え、
前記第2の入出力導波路は、パラボラ形状のテーパ導波路を介して第2のスラブ導波路に接続されていることを特徴とするアレイ導波路回折格子。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかに記載のアレイ導波路回折格子であって、
前記光スプリッタは、波長無依存カプラとして構成されていることを特徴とするアレイ導波路回折格子。
【請求項11】
請求項3から10のいずれかに記載のアレイ導波路回折格子であって、
前記光スプリッタは、前記第1のアーム導波路への光強度分岐比が50%より小さく、
前記溝は、前記第1のアーム導波路にのみ形成されていることを特徴とするアレイ導波路回折格子。
【請求項12】
請求項11に記載のアレイ導波路回折格子であって、
前記光スプリッタは、前記第1のアーム導波路への光強度分岐比が20%より小さいことを特徴とするアレイ導波路回折格子。
【請求項13】
請求項1から12のいずれかに記載のアレイ導波路回折格子であって、
前記光モード合成カプラは、幅の異なる2本の導波路から構成された方向性結合器であることを特徴とするアレイ導波路回折格子。
【請求項14】
請求項13に記載のアレイ導波路回折格子であって、
前記方向性結合器は、幅の狭い方の導波路の幅が徐々に減少していることを特徴とするアレイ導波路回折格子。
【請求項15】
請求項13に記載のアレイ導波路回折格子であって、
前記方向性結合器は、幅の狭い方の導波路を終端する溝であって、光を減衰させる遮光材料が充填された溝を備えたことを特徴とするアレイ導波路回折格子。
【請求項16】
請求項1から12のいずれかに記載のアレイ導波路回折格子であって、
前記光モード合成カプラは、縦列に連結された2つのマルチモード干渉回路から構成されていることを特徴とするアレイ導波路回折格子。
【請求項17】
請求項1から16のいずれかに記載のアレイ導波路回折格子であって、
前記アレイ導波路回折格子は、前記第1のスラブ導波路、前記アレイ導波路および前記第2のスラブ導波路の少なくとも1つに形成され、温度補償材料を充填した溝によって前記透過中心波長の主要な温度依存性が補償されていることを特徴とするアレイ導波路回折格子。
【請求項18】
請求項17に記載のアレイ導波路回折格子であって、
前記温度補償材料は、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂およびフッ素樹脂の少なくとも1つからなる光学樹脂であることを特徴とするアレイ導波路回折格子。
【請求項19】
請求項1から16のいずれかに記載のアレイ導波路回折格子であって、
前記アレイ導波路回折格子は、その形状を金属板の熱伸縮によって変形させることによって前記透過中心波長の主要な温度依存性が補償されていることを特徴とするアレイ導波路回折格子。
【請求項20】
請求項1から16のいずれかに記載のアレイ導波路回折格子であって、
前記アレイ導波路回折格子は、前記第1のスラブ導波路または前記第2のスラブ導波路を分断し、その相対位置を金属板の熱伸縮によって変化させることによって前記透過中心波長の主要な温度依存性が補償されていることを特徴とするアレイ導波路回折格子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【公開番号】特開2010−44350(P2010−44350A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−307788(P2008−307788)
【出願日】平成20年12月2日(2008.12.2)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】