説明

光波面計測装置

【課題】受信信号対雑音比が低い場合においても、集光位置の誤検出を低減することのできる光波面計測装置を得る
【解決手段】測定光を集光するレンズアレイ3と、電気信号に変換する光検出器アレイ4と、光強度の2次元分布に相当する電気信号を取り出す読み出し回路5と、光検出器アレイ面上の集光スポット位置を検出する光強度分布検出部11と、測定光の波面入射角を計算する測定光波面入射角計算部12と、波面入射角に基づいて測定光の波面形状を計算する波面形状計算部13とを備えるとともに、電気信号を順次記憶する記憶部6と、電気信号の信号対雑音比を計算する信号対雑音比計算部と、現在時刻の信号対雑音比が所定閾値よりも低い場合には、所定閾値以上の信号対雑音比を有する過去の時刻の電気信号を利用して現在時刻の集光スポット位置を予測する光強度分布検出部(7〜10)とをさらに備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定光をレンズアレイにより2次元光検出器アレイ面上に集光し、この集光位置から測定光の波面を計測する光波面計測装置に関するものであり、特に、光検出器アレイで光信号を電気信号に変換した後の信号処理に特徴を有する光波面計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
大気の揺らぎによる波面の揺らぎを補償する補償光学の分野では、波面の計測や、反射望遠鏡の光軸ずれによって生じる波面収差を光学的に非接触測定することが要求されている。波面の計測方法としては、フィゾー干渉計やシャックハルトマン波面測定装置が一般に用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
これらの装置は、遠方からの測定光、もしくはターゲットからの散乱光を集光光学系によって各位置に結像させ、その出力を光検出器によって電気信号に変換して集光スポット位置を読み取り、測定波面を計測するものである。
【0004】
【特許文献1】特開平8−86689号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来技術には次のような課題がある。
測定波面の測定光量が何がしかの理由により小さくなる瞬間が生じた場合には、光検出器で受光する際の信号対雑音比が低下する。これにより、集光位置の読み取りに誤検出が生じ、正確な波面測定を行うことができない場合がある。
【0006】
すなわち、従来の光波面計測装置の信号処理では、閾値を設けて一定以上の光量のみを信号として受信して計測を行う。しかしながら、この検出法は、受信信号対雑音比が高い場合においては問題ないが、受信信号対雑音比が低い場合や大気揺らぎが大きい場合には、誤検出が生じるといった問題がある。
【0007】
本発明は上述のような課題を解決するためになされたもので、受信信号対雑音比が低い場合においても、集光位置の誤検出を低減することのできる光波面計測装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る光波面測定装置は、空間を伝播してくる測定光を集光するレンズアレイと、レンズアレイにより集光された測定光を電気信号に変換する光検出器アレイと、光検出器アレイの面上における光強度の2次元分布に相当する電気信号を光検出器アレイから取り出す読み出し回路と、読み出し回路により取り出された電気信号に基づいて、光検出器アレイの面上の集光スポット位置を検出する光強度分布検出部と、光強度分布検出部により検出された集光スポット位置に基づいて、測定光の波面入射角を計算する測定光波面入射角計算部と、測定光波面入射角計算部により計算された波面入射角に基づいて測定光の波面形状を計算する波面形状計算部とを備えた光波面計測装置において、読み出し回路により取り出された電気信号を時刻と対応付けて順次記憶する記憶部と、記憶部に記憶されたそれぞれの時刻における電気信号の信号対雑音比を計算する信号対雑音比計算部と、読み出し回路によって取り出された現在時刻における電気信号の信号対雑音比が所定閾値よりも低い場合には、所定閾値以上の信号対雑音比を有する記憶部に記憶された過去の時刻の電気信号を先見情報として利用して現在時刻における光検出器アレイの面上の集光スポット位置を予測する光強度分布検出部とをさらに備え、測定光波面入射角計算部は、現在時刻における電気信号の信号対雑音比が所定閾値よりも低い場合には、光強度分布検出部により予測された集光スポット位置に基づいて、測定光の波面入射角を計算するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、現在時刻における電気信号の信号対雑音比が所定閾値よりも低い場合には、所定閾値以上の信号対雑音比を有する過去の時刻の電気信号を先見情報として利用して現在時刻における光検出器アレイの面上の集光スポット位置を予測することにより、受信信号対雑音比が低い場合においても集光位置の誤検出を低減することのできる光波面計測装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の光波面計測装置の好適な実施の形態につき図面を用いて説明する。
【0011】
実施の形態1.
本実施の形態1に係る光波面計測装置について、図1〜図6を用いて説明する。図1は、本発明の実施の形態1における光波面検出装置の構成図である。図1における光波面検出装置は、波面センサの光学系14、信号読み出し回路5、メモリ(記憶部)6、信号対雑音比計算部7、相関演算部8、波面移動量計算部9、空間ゲート発生部10、光強度分布検出部11、測定光波面入射角計算部12、および波面形状計算部13を備えている。
【0012】
ここで、波面センサの光学系14は、レンズアレイ3および光検出器アレイ4で構成されている。そして、レンズアレイ3は、複数のレンズアレイが2次元に配列された構成を有しており、光検出器アレイ4は、複数の光検出器素子が2次元に配列された構成を有している。また、光検出器アレイ4は、通常、レンズアレイ3よりも多くの素子数を有している。
【0013】
また、図1において、レンズアレイ3と光検出器アレイ4との間には空間が存在し、これらの離間距離は、レンズアレイ3にアレイ面と並行な波面を持つ平面波が入射した際の、レンズアレイ3からこの平面波の集光位置までの距離と同程度となっている。そして、このような構成を有する波面センサの光学系14は、測定光波面2を有する測定光1を取り込む。
【0014】
レンズアレイ3は、これを構成する各レンズにより、測定光1を光検出器アレイ4の面上のある位置に集光させる機能を有している。光検出器アレイ4は、集光された光を電気信号に変換し、光検出器アレイ4の面上における光強度の2次元分布を測定する機能を有している。
【0015】
読み出し回路5は、光検出器アレイ4の出力を1列毎に取り出し、2次元のデータを1次元のデータ列に変換する機能、および変換後の1次元のデータ列をメモリ6に順次保存させる機能を有する。メモリ6には、複数回数分の2次元データが時刻と対応付けて記憶されている。信号対雑音比計算部7は、メモリ6に保存されたデータ列を取り出し、光強度の2次元分布に相当する波面形状データの信号対雑音比を計算する機能を有する。
【0016】
相関演算部8は、2回の計測により得られた波面形状データに相当する光検出器アレイ面上の光強度分布の2次元相関演算を行う機能を有する。波面移動量計算部9は、相関演算部8の演算結果に基づいて波面移動量を計算する機能を有する。空間ゲート発生部10は、波面移動量計算部9より得られた先見情報に相当する波面移動量に基づき、光検出器アレイ4面上での集光スポット位置を予測し、空間ゲートを発生する機能を有する。
【0017】
光強度分布検出部11は、空間ゲート発生部10で発生される空間ゲートを用いない場合には、光検出器アレイ4面上における光強度分布の全領域で集光点の位置を計算する機能を有する。また、光強度分布検出部11は、空間ゲート範囲内において光検出器アレイ4面上における光強度分布の集光点の位置を計算する機能を有する。すなわち、光強度分布検出部11は、空間ゲートが設定されている場合には、空間ゲート内光強度分布検出部として機能する。
【0018】
測定光波面入射角計算部12は、光強度分布検出部11により計算された集光点の位置に基づいて、測定光波面の波面傾斜分布を計測する機能を有する。さらに、波面形状計算部13は、測定光波面入射角計算部12で得られた測定光波面の波面傾斜分布より、測定光1の波面形状を計算する機能を有する。
【0019】
次に、図1の光波面計測装置の動作について、フローチャートを用いて説明する。図2は、本発明の実施の形態1における光波面計測装置の一連の動作を示すフローチャートである。まず始めに、測定光1を入射し(ステップ1)、レンズアレイ3を構成する各レンズにより集光する(ステップ2)。
【0020】
このとき、各レンズへの測定光1の波面が、レンズ面に対し平行であれば、集光位置は、レンズ中心軸上となる。これに対し、測定光1の波面がレンズ面に対し傾いた場合には、この傾きに対応して集光位置が変化する。なお、図1における測定光1は、天体から発光された光であってもよいし、別途用意するレーザ送信部からの送信光を構造物等のターゲットに当てた際の散乱光であってもよい。
【0021】
次に、光検出器アレイ4によって構成される各画素は、レンズアレイ3により集光された光を、光強度に相当する電気信号に変換する(ステップ3)。次に、読み出し回路5は、光検出器アレイ4の各画素からの2次元の電気信号を1列ずつ、1次元のデータとして取り出し、メモリ6に順次保存する(ステップ4)。そして、光強度の2次元分布に基づいて、測定光1の光波面を計測する(ステップ5)。
【0022】
これらステップ1からステップ5の動作を繰り返し行うが、ここでは、ステップ5の動作について、さらに詳細に説明する。なお、このステップ5の機能は、信号対雑音比計算部7〜波面形状計算部13の構成要素により実現される。
【0023】
ステップ5においては、まず始めに、光検出器アレイ4によって計測された光強度に相当する電気信号の2次元分布に関し、所定の信号対雑音比が得られているか否かの確認を、信号対雑音比計算部7によって行う(ステップ5−1)。この確認は、例えば、あらかじめ定めた信号対雑音比に関する閾値と、光強度に相当する電気信号の2次元分布における最大強度値とを比較することにより行えばよい。
【0024】
ステップ5−1において、所定の信号対雑音比が得られていると判断された場合には、光強度分布検出部11は、光強度の2次元分布において、高い強度を持つ画素に着目し、各レンズに対応した集光位置、および集光スポット形状を検出する(ステップ5−2)。このとき、レンズアレイ3を構成する各レンズにより光検出器アレイ4の面上に集光された光の2次元強度分布は、集光スポット形状に相当しており、個々のレンズ開口内における測定光1の波面形状に依存して異なる形となる。
【0025】
次に、測定光波面入射角計算部12および波面形状計算部13は、ステップ5−2において検出されたスポット形状および位置から、測定波面の波面傾斜分布を計測し、さらに測定光1の波面形状を計算する(ステップ5−3)。このように、所定の信号対雑音比が得られている場合には、ステップ5−1、5−2、5−3の流れで処理が進む。
【0026】
一方、ステップ5−1において、所定の信号対雑音比が得られていないと判断された場合には、相関演算部8および波面移動量計算部9により、以下の処理を行う(ステップ5−4)。まず、相関演算部8は、ステップ3、4で得られた光強度の2次元分布に関し、過去に得られた所定の信号対雑音比よりも高い信号対雑音比を有する2次元分布の中で最新の2次元分布における集光スポット形状を参照関数として、所定の信号対雑音比が得られていない電気信号との間で2次元相互相関演算を行う。
【0027】
以下では、所定の信号対雑音比よりも高い信号対雑音比を有する2次元分布の中で最新のものが取得された時刻をt1とし、所定の信号対雑音比が得られなかった時刻をt2として説明する。なお、2次元相互相関演算における参照分布は、個々のレンズごとに設定されているので、レンズの素子数をNとした場合には、N回の2次元相互相関演算を行うこととなる。
【0028】
時刻t2における集光位置は、個々のレンズに対して、相関演算部8による2次元相互相関演算結果として得られた最大の相関係数を持つ位置として特定することができる。図3は、本発明の実施の形態1において、所定の信号対雑音比が得られていない場合の集光位置の算出に関する説明図である。図3(a)は、時刻tにおけるスポット形状分布を示している。また、図3(b)は、時刻tにおけるスポット形状分布を示している。
【0029】
所定の信号対雑音比が得られなかった時刻t2の集光位置は、両時刻の相関処理を行うことにより、図3(c)に示すように、検出することができる。この結果、時刻t2においても、先見情報を利用した2次元相関演算処理を行って集光位置の検出を行うことにより、ノイズの影響による誤検出を回避し、信号成分を正しく検出できることがわかる。
【0030】
さらに、時刻t1、t2の相関演算結果を用いて、所定の信号対雑音比が得られない現在時刻t3における集光位置を求めるには、次のような処理を行うこととなる。
【0031】
波面移動量計算部9は、最大の相関係数をもつ位置を個々のレンズに関する集光位置として検出し、波面の移動距離dLを導出する。図4は、本発明の実施の形態1における波面移動量計算部9により移動距離dLを算出する説明図である。時刻t1と時刻t2における波面形状の2次元相互相関演算を行い、個々のレンズに関する最大の相関係数に基づいて波面の移動距離dLを導出している。
【0032】
次に、ステップ5−4における波面計測結果に基づいて、波面移動量計算部9は、さらに波面移動量を予測する(ステップ5−5)。より具体的には、波面移動量計算部9は、スポット位置の移動距離dLと、2つ以上の波面を計測した際の計測時間の差dt=t−tとに基づいて、波面の移動速度V=dL/dtまたは、加速度a=dL/dtを導出する。
【0033】
さらに、波面移動量計算部9は、導出した、時刻t1からt2への移動速度Vや加速度aに基づいて、過去の波面の計測時間t2から現在時刻t3までの時間差に基づいた2次元面での移動量をフィードフォーワードし、現在時刻t3までの波面移動量を予測する。予測された位置および移動速度は、波面が一様風に流される場合の風速、ないしは無風状態の中を発光源が移動する場合の位置および移動速度といったものに相当する。
【0034】
次に、空間ゲート発生部10は、ステップ5−5で予測したスポット位置に対応する、光検出器アレイ4上の集光位置を予測し、光検出器アレイ4上の集光位置近傍にあらかじめ定めた幅を持つ空間ゲートを設定する(ステップ5−6)。図5は、本発明の実施の形態1における空間ゲートの設定例を示した図である。なお、集光位置の数は、レンズアレイ3を構成する個々のレンズと対になっている。
【0035】
次に、光強度分布検出部11は、ステップ5−6で設定した空間ゲート内において、個々のレンズごとに、時刻t3においてステップ3、4で求めた光強度の2次元分布からピーク位置を検出し、この位置に基づいて時刻t3の集光位置の検出を行う(ステップ5−2)。
【0036】
次に、測定光波面入射角計算部12および波面形状計算部13は、ステップ5−2において検出されたスポット位置から、測定波面の波面傾斜分布を計測し、さらに測定光1の波面形状を計算する(ステップ5−3)。
【0037】
以上のように、実施の形態1によれば、光検出器アレイの面上の集光スポットにおける光強度に依存する電気信号の信号対雑音比を計測し、信号対雑音比が低い場合には、過去における信号対雑音比の高いデータを先見情報として利用している。この結果、波面計測精度を向上させることが可能となる。
【0038】
さらに、過去における信号対雑音比の高いデータを先見情報として利用するに当たっては、この信号対雑音比の高い波面形状データに相当する光検出器アレイ面上の光強度分布を参照関数として、この参照形状に最も似た形状をもつ成分を、雑音に埋もれた中から検出する処理を行っている。
【0039】
さらに、相関演算結果に基づいて移動距離、移動速度を導出することにより、相関演算を行った2つの時刻よりも後の時刻(例えば現在時刻)において受信信号の信号対雑音比が低い場合にも、導出結果に基づいて集光位置を検出するための空間ゲートを設定し、このゲート内にて集光位置の検出を行う処理をすることができる。
【0040】
したがって、信号対雑音比が低く、読み出し回路からの信号成分が読み出しノイズより低い場合、あるいは受信信号の信号対雑音比が低い場合においても、集光位置を誤検出する確率を低減することが可能となる。その結果として、光波面の計測精度を向上させることが可能となる。
【0041】
なお、本実施の形態1の説明においては、時刻t(所定の信号対雑音比よりも高い信号対雑音比を有する2次元分布の中で最新の2次元分布が得られた時刻)と、時刻t(信号対雑音比が所定の信号対雑音比よりも低い場合の時刻)とにおける相関処理に基づいて、現在時刻t3での集光位置を検出していた。しかしながら、本発明は、このような処理に限定されるものではない。
【0042】
時刻t2あるいは時刻t3での集光位置を検出するに当たっては、時刻t1と、時刻t0(所定の信号対雑音比よりも高い信号対雑音比を有する2次元分布の中で時刻t1よりも前の時刻に相当)とにおける相関処理に基づいて行うこともできる。
【0043】
この場合には、過去の信号対雑音比の高い2つのデータから求めた波面全体の移動方向、移動速度を用いて、信号対雑音比の低い所望の時刻(t2またはt3に相当)における波面状態を概略予測し、この予測に基づいて光検出器アレイ4上における集光スポットの位置を概略予測している。さらに、この予測位置近傍に空間ゲートを発生させ、このゲート内にて集光位置の検出を行う処理を行っている。
【0044】
したがって、受信信号の信号対雑音比場合が低い場合においても、過去の信号対雑音比の高い複数のデータに基づいて集光位置を特定することにより、集光位置を誤検出する確率をさらに低減することが可能となり、その結果として光波面の計測精度を向上させることが可能となる。
【0045】
図6は、本発明の実施の形態1において、所定の信号対雑音比が得られていない場合の集光位置の算出に用いられる空間ゲートに関する説明図である。予測位置近傍に空間ゲートを発生させ、空間ゲート内で集光位置の検出処理を行うことにより、誤検出を回避し、信号成分を正しく検出できることがわかる。
【0046】
また、上述の説明においては、2つの時刻における相関処理に基づいて信号対雑音比の低い時刻における波面状態を概略予測していたが、本発明は、このような処理に限定されるものではない。3つ以上の時刻における複数の相関処理を用いることにより、予測精度を向上させることができるとともに、移動方向、移動速度に加えて移動加速度を考慮して、信号対雑音比の低い時刻における波面状態の予測精度を向上させることも可能となる。
【0047】
実施の形態2.
次に、本実施の形態2に係る光波面計測装置について図7〜図10を用いて説明する。図7は、本発明の実施の形態2における光波面検出装置の構成図である。図7における光波面検出装置は、波面センサの光学系14、信号読み出し回路5、メモリ6、信号対雑音比計算部7、標準偏差計算部15、空間ゲート発生部10、光強度分布検出部11、測定光波面入射角計算部12、および波面形状計算部13を備えている。また、波面センサの光学系14は、レンズアレイ3および光検出器アレイ4で構成されている。
【0048】
先の実施の形態1における図1の構成と比較すると、本実施の形態2における図7の構成は、相関演算部8および波面移動量計算部9の代わりに、標準偏差計算部15を備えている点が異なっている。そこで、標準偏差計算部15を中心に、以下に説明する。
【0049】
測定波面入射角差の標準偏差計算部15は、過去に得られた所定の信号対雑音比よりも高い信号対雑音比を有するデータのうち、1回の計測により得られた波面形状データを用いて、レンズアレイの離間距離に対する測定波面入射角の標準偏差を計測する機能を有する。先の実施の形態1では、所定の信号対雑音比が得られている過去のデータの相関を取る際には、2回の計測結果を用いていた。これに対して、本実施の形態2では、相関処理ではなく標準偏差処理を行うため、所定の信号対雑音比が得られている過去のデータとしては、1回分の計測結果を用いればよいこととなる。
【0050】
次に、図7の光波面計測装置の動作について、フローチャートを用いて説明する。図8は、本発明の実施の形態2における光波面計測装置の一連の動作を示すフローチャートである。ステップ1〜4は、先の実施の形態1の図2におけるステップ1〜4と同じであり、ステップ5の動作内容が、先の実施の形態1に示したものとは異なる。そこで、図8におけるステップ5の動作内容について、次に説明する。
【0051】
ステップ5においては、まず始めに、光検出器アレイ4によって計測された光強度に相当する電気信号の2次元分布に関し、所定の信号対雑音比が得られているかの確認を、信号対雑音比計算部7によって行う(ステップ5−1)。この確認は、例えば、あらかじめ定めた信号対雑音比に関する閾値と、光強度に相当する電気信号の2次元分布における最大強度値とを比較することにより行えばよい。
【0052】
ステップ5−1において、所定の信号対雑音比が得られていると判断された場合には、光強度分布検出部11は、光強度の2次元分布において、高い強度を持つ画素に着目し、各レンズに対応した集光位置、および集光スポット形状を検出する(ステップ5−2)。このとき、レンズアレイ3を構成する各レンズにより光検出器アレイ4の面上に集光された光の2次元強度分布は、集光スポット形状に相当しており、個々のレンズ開口内における測定光1の波面形状に依存して異なる形となる。
【0053】
次に、測定光波面入射角計算部12および波面形状計算部13により、ステップ5−2において検出されたスポット形状および位置から、測定波面の波面傾斜分布を計測し、さらに測定光1の波面形状を計算する(ステップ5−3)。このように、所定の信号対雑音比が得られている場合には、先の実施の形態1と同様に、ステップ5−1、5−2、5−3の流れで処理が進む。
【0054】
一方、ステップ5−1において、所定の信号対雑音比が得られていないと判断された場合には、標準偏差計算部15により、ステップ3、4で得られた光強度の2次元分布の過去のデータに関し、所定の信号対雑音比よりも高い信号対雑音比を有する1回の計測により得られた光強度分布データを用いて、各々のレンズの離間距離に対する測定波面入射角の標準偏差を計測する(ステップ5−4d)。後述する空間ゲートの設定位置精度を向上させるためには、先の実施の形態1と同様に、過去に得られた所定の信号対雑音比よりも高い信号対雑音比を有する2次元分布の中で最新のものを使用することが考えられる。
【0055】
この標準偏差は、大気擾乱の程度を示す大気構造定数Cの大きさに応じたランダム性を有しており、測定波面入射角の標準偏差が大きい場合には、Cが大きくなる特性を持っている。図9は、本発明の実施の形態2における測定波面入射角の標準偏差と大気構造定数との関係の説明図である。図9(b)は、横軸を空間周波数に相当する面上2点間の離間距離とし、縦軸を2点間の波面入射角の差の標準偏差とした場合の特性を示しており、大気構造定数Cの大きさに応じたランダム性を有している。
【0056】
従って、光学系の設計パラメータであるレンズアレイの離間距離は既知であることから、標準偏差を求めることにより、大気擾乱の程度を示す大気構造定数Cの大きさを特定することができる。
【0057】
次に、空間ゲート発生部10は、各々のレンズアレイの集光位置に対し、過去の信号対雑音比の高いデータに基づいて標準偏差計算部15よりステップ5−4dで得られた大気擾乱の程度から、光検出器アレイ面上の集光スポット範囲を予測し、空間ゲート幅を設定する(ステップ5−6)。すなわち、大気擾乱の程度に応じた適切な空間ゲート幅を記憶部(図示せず)にあらかじめ記憶しておくことにより、空間ゲート発生部10は、大気擾乱に対応する空間ゲート幅を設定できる。
【0058】
図10は、本実施の形態2における空間ゲート幅の設定例を示した図である。なお、集光位置の数は、レンズアレイ3を構成する個々のレンズと対になっている。所定の信号対雑音比よりも高い信号対雑音比を有する2次元分布の中で最新の2次元分布が得られた時刻tにおけるデータに基づいて大気擾乱の程度を特定することにより、集光位置の検出を行いたいが信号対雑音比の低いデータしか得られていない時刻t2(あるいは、現在時刻t3)における集光スポット範囲を予測することができる。
【0059】
次に、光強度分布検出部11は、ステップ5−6で設定した空間ゲート内において、個々のレンズごとに、ステップ3、4で求めた光強度の2次元分布からピーク位置を検出し、この位置に基づいて信号対雑音比の低いデータしか得られていない時刻t2における集光位置の検出を行う(ステップ5−2)。
【0060】
次に、測定光波面入射角計算部12および波面形状計算部13は、ステップ5−2において検出されたスポット位置から、測定波面の波面傾斜分布を計測し、さらに測定光1の波面形状を計算する(ステップ5−3)。
【0061】
以上のように、実施の形態2によれば、先の実施の形態1と同じく、光検出器アレイの面上の集光スポットにおける光強度に依存する電気信号の信号対雑音比を計測し、信号対雑音比が低い場合には、過去における信号対雑音比の高いデータを先見情報として利用している。この結果、波面計測精度を向上させることが可能となる。ており、集光位置の検出方法に変更がある。
【0062】
さらに、過去における信号対雑音比の高いデータを先見情報として利用するに当たっては、過去の信号対雑音比の高いデータを用いて求めた測定波面入射角の標準偏差に基づいて、次回計測における光検出器アレイ面上の集光スポット範囲を予測し、空間ゲートを設定することにより、この空間ゲート内にて信号対雑音比の低いデータにおける集光位置の検出処理を行っている。
【0063】
先の実施の形態1では、波面の一定方向に等速で移動することを想定していたのに対し、本実施の形態2では、波面がランダム的な擾乱であることを想定し、このランダム性の程度に合わせてゲートの幅を決めている。
【0064】
したがって、大気擾乱中の波面計測を行う場合に、信号対雑音比が低く、読み出し回路からの信号成分が読み出しノイズがより低い場合、あるいは受信信号の信号対雑音比が低い場合においても、集光位置を誤検出する確率をさらに低減することが可能となり、その結果として、光波面の計測精度を向上させることが可能となる。
【0065】
実施の形態3.
次に、本実施の形態3に係る光波面計測装置について図11を用いて説明する。図11は、本発明の実施の形態3における光波面検出装置の構成図である。図11における光波面検出装置は、波面センサの光学系14、信号読み出し回路5、メモリ6、信号対雑音比計算部7、相関演算部8、波面移動量計算部9、標準偏差計算部15、空間ゲート発生部10、光強度分布検出部11、測定光波面入射角計算部12、および波面形状計算部13を備えている。また、波面センサの光学系14は、レンズアレイ3および光検出器アレイ4で構成されている。
【0066】
本実施の形態3における図11の構成は、先の実施の形態1で用いた相関演算部8および波面移動量計算部9と、先の実施の形態2で用いた標準偏差計算部15とを併用する構成となっている。このように、図1と図7の両方の機能を併用した構成とすることにより、波面がランダム的な擾乱を含みながら移動することを想定して、このランダム性の程度に合わせて空間ゲートの位置と幅を決めることができる。
【0067】
以上のように、実施の形態3によれば、波面がランダム的な擾乱を含みながら移動することを想定することができ、先の実施の形態1または2よりも、空間ゲートを所望の範囲に設定できる確率を高くできるという新たな効果を有している。
【0068】
なお、上述した実施の形態1〜3に係わる光波面計測装置は、光学系収差補償装置や波面揺らぎ補償装置、あるいは波面形成装置などに利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の実施の形態1における光波面検出装置の構成図である。
【図2】本発明の実施の形態1における光波面計測装置の一連の動作を示すフローチャートである。
【図3】本発明の実施の形態1において、所定の信号対雑音比が得られていない場合の集光位置の算出に関する説明図である。
【図4】本発明の実施の形態1における波面移動量計算部により移動距離を算出する説明図である。
【図5】本発明の実施の形態1における空間ゲートの設定例を示した図である。
【図6】本発明の実施の形態1において、所定の信号対雑音比が得られていない場合の集光位置の算出に用いられる空間ゲートに関する説明図である。
【図7】本発明の実施の形態2における光波面検出装置の構成図である。
【図8】本発明の実施の形態2における光波面計測装置の一連の動作を示すフローチャートである。
【図9】本発明の実施の形態2における測定波面入射角の標準偏差と大気構造定数との関係の説明図である。
【図10】本実施の形態2における空間ゲート幅の設定例を示した図である。
【図11】本発明の実施の形態3における光波面検出装置の構成図である。
【符号の説明】
【0070】
1 測定光、2 測定光波面、3 レンズアレイ、4 光検出器アレイ、5 読み出し回路、6 メモリ(記憶部)、7 信号対雑音比計算部、8 相関演算部、9 波面移動量計算部、10 空間ゲート発生部、11 光強度分布検出部、12 測定光波面入射角計算部、13 波面形状計算部、14 波面センサの光学系、15 標準偏差計算部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空間を伝播してくる測定光を集光するレンズアレイと、
前記レンズアレイにより集光された前記測定光を電気信号に変換する光検出器アレイと、
前記光検出器アレイの面上における光強度の2次元分布に相当する前記電気信号を前記光検出器アレイから取り出す読み出し回路と、
前記読み出し回路により取り出された前記電気信号に基づいて、前記光検出器アレイの面上の集光スポット位置を検出する光強度分布検出部と、
前記光強度分布検出部により検出された前記集光スポット位置に基づいて、前記測定光の波面入射角を計算する測定光波面入射角計算部と、
前記測定光波面入射角計算部により計算された前記波面入射角に基づいて前記測定光の波面形状を計算する波面形状計算部と
を備えた光波面計測装置において、
前記読み出し回路により取り出された電気信号を時刻と対応付けて順次記憶する記憶部と、
前記記憶部に記憶されたそれぞれの時刻における電気信号の信号対雑音比を計算する信号対雑音比計算部と、
前記読み出し回路によって取り出された現在時刻における電気信号の信号対雑音比が所定閾値よりも低い場合には、所定閾値以上の信号対雑音比を有する前記記憶部に記憶された過去の時刻の電気信号を先見情報として利用して現在時刻における前記光検出器アレイの面上の集光スポット位置を予測して検出する光強度分布検出部と
をさらに備え、
前記測定光波面入射角計算部は、現在時刻における電気信号の信号対雑音比が所定閾値よりも低い場合には、前記光強度分布検出部により予測された前記集光スポット位置に基づいて、前記測定光の波面入射角を計算する
ことを特徴とする光波面測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の光波面測定装置において、
前記光強度分布検出部は、信号対雑音比が所定閾値以上である過去の時刻の電気信号を参照データとして、信号対雑音比が所定閾値よりも低い現在時刻の電気信号との2次元相関演算処理を行い、現在時刻における前記光検出器アレイの面上の集光スポット位置を予測する相関演算部で構成される
ことを特徴とする光波面測定装置。
【請求項3】
請求項1に記載の光波面測定装置において、
前記光強度分布検出部は、
信号対雑音比が所定閾値以上である少なくとも2つ以上の過去の時刻の電気信号の2次元相関演算処理を行う相関演算部と、
前記2次元相関演算処理の結果から現在時刻までの前記測定光の波面移動量を計算する波面移動量計算部と、
前記波面移動量に基づいて現在時刻における前記光検出器アレイの面上の集光スポット位置を予測し、予測した位置の周辺に空間ゲートを設定する空間ゲート発生部と、
現在時刻の電気信号に対して設定された前記空間ゲート内で光強度の高い部分を抽出することにより現在時刻における前記光検出器アレイの面上の集光スポット位置を最終的に予測する空間ゲート内光強度分布検出部と
を有することを特徴とする光波面測定装置。
【請求項4】
請求項1に記載の光波面測定装置において、
前記光強度分布検出部は、
信号対雑音比が所定閾値以上である過去の時刻の電気信号を用いて、前記レンズアレイの離間距離に対する測定光の波面入射角の標準偏差を計算する標準偏差計算部と、
前記標準偏差に対応する大気揺らぎ量に基づいた幅をもつ空間ゲートを設定する空間ゲート発生部と、
現在時刻の電気信号に対して設定された前記空間ゲート内で光強度の高い部分を抽出することにより現在時刻における前記光検出器アレイの面上の集光スポット位置を予測する空間ゲート内光強度分布検出部と
を有することを特徴とする光波面測定装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の光波面測定装置において、
前記光強度分布検出部は、所定閾値以上の信号対雑音比を有する前記記憶部に記憶された過去の時刻の電気信号のうち現在時刻に最も近い電気信号を先見情報として利用することを特徴とする光波面測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−162614(P2009−162614A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−516(P2008−516)
【出願日】平成20年1月7日(2008.1.7)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】