説明

光源装置

【課題】共振器の温度変化に伴う熱変形が生じて該共振器の共振周波数が変化しても、簡易な手段によってマイクロ波を共振させることができ、ひいては、発光セル内の発光物質の発光を継続することができる光源装置を提供する。
【解決手段】マイクロ波発振器7から出力されるマイクロ波の位相を時間軸上で周期的に変化させることにより、マイクロ波発振器7が出力するマイクロ波の周波数を中心周波数とする周波数分布を有する被変調マイクロ波を生成して出力する変調手段(電圧制御発振器9および周波数変調用正弦波発信器10)を備え、この変調手段の電圧制御発振器9から出力される被変調マイクロ波を共振器3に供給する。共振器3には、発光物質を封入した発光セル5が収容され、共振器3で共振するマイクロ波のエネルギーによって発光物質が励起されて発光する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光セルに封入された発光物質をマイクロ波のエネルギーによって励起して発光させる光源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
石英ガラスなどにより構成される発光セル(バルブ)内に、硫黄、水銀、Arガス、Xeガス等の発光物質を封入すると共にこの発光セルをマイクロ波共振器の内部空間(空洞)に収容した光源装置が従来より知られている(例えば特許文献1を参照)。
【0003】
この種の光源装置では、マグネトロンなどのマイクロ波発振器から所定周波数(所定波長)のマイクロ波を共振器に供給して共振させ、その共振させたマイクロ波のエネルギーにより発光セル内の発光物質を励起して発光させる。
【0004】
なお、本明細書では、「光」は、可視光に限らず、可視光以外の領域(例えばTHz波領域、紫外領域)の電磁波も含まれる。すなわち、本明細書で光源装置が発生する「光」は、マイクロ波のエネルギーによって発光物質を励起することによって発生可能な波長の電磁波(これは発光物質の種類に依存する)で、該マイクロ波よりも十分に短い波長の電磁波を意味する。
【特許文献1】特許公報第2583619号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前記特許文献1などに見られる従来の光源装置では、マイクロ波発振器から出力されるマイクロ波の周波数は、単一の一定周波数である。そして、このマイクロ波を供給する共振器は、その共振周波数が、該マイクロ波の周波数と同じになるように構成される。
【0006】
一方、マイクロ波を共振させる共振器は、発光セル内の発光物質の発光に伴い発生する熱などによる温度上昇によって、該共振器の熱変形が生じることがある。そして、このような共振器の熱変形が発生すると、該共振器の実際の共振周波数が、マイクロ波発振器から出力されるマイクロ波の周波数からずれ、ひいては、マイクロ波を共振器内で共振させることができなくなって、発光セル内の発光物質の発光が停止してしまうという不都合があった。
【0007】
このような不都合を防止するために、共振器の温度を温度センサを介して監視し、その検出温度に応じてマイクロ波発振器の発振周波数(出力するマイクロ波の周波数)をリアルタイムで補正することが考えられる。
【0008】
しかるに、共振器の熱変形は、一般に、同一仕様の共振器であっても個々の共振器毎にばらつきを生じる。このため、上記のように共振器の検出温度に応じてマイクロ波発振器の発振周波数を補正するようにする場合には、個々の共振器毎に、検出温度に応じたマイクロ波発振器の発振周波数の補正用パラメータを調整しなければならない。ひいては、光源装置の製造コストの上昇を招くと共に、製造作業に手間がかかるものとなってしまう。
【0009】
本発明はかかる背景に鑑みてなされたものであり、共振器の温度変化に伴う熱変形が生じて該共振器の共振周波数が変化しても、該熱変形のばらつきによらずに簡易な手段によって該共振器内でマイクロ波を共振させることができ、ひいては、発光セル内の発光物質の発光を継続することができる光源装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の光源装置は、かかる目的を達成するために、所定周波数のマイクロ波を共振させる内部空間を有する共振器と、該共振器の内部空間で共振させるマイクロ波を出力するマイクロ波発振器と、発光物質が封入され、前記共振器の内部空間に収容された発光セルとを備え、前記マイクロ波発振器から前記共振器にマイクロ波を供給し、該共振器の内部空間で共振させたマイクロ波のエネルギーにより前記発光セル内の発光物質を励起して発光させる光源装置において、前記マイクロ波発振器は、前記所定周波数のマイクロ波の位相を時間軸上で周期的に変化させてなるマイクロ波であって、前記所定周波数を中心周波数とする周波数分布を有する被変調マイクロ波を生成して出力する変調手段を備え、該変調手段から出力される被変調マイクロ波を前記共振器に供給するようにしたことを特徴とする。
【0011】
かかる本発明によれば、前記変調手段によって、前記所定周波数のマイクロ波の位相を時間軸上で周期的に変化させてなるマイクロ波が被変調マイクロ波として生成されて出力される。なお、このような変調手段としては、公知の位相変調器あるいは周波数変調器(変調用の制御信号によって出力するマイクロ波の位相または周波数を変化させ得るもの)を使用すればよい。補足すると、「マイクロ波の位相を時間軸上で周期的に変化させる」ということは、より詳しくは、マイクロ波(被変調マイクロ波)の各時刻の(瞬時瞬時の)位相を所定周波数のマイクロ波の位相から変化させ、また、その位相の変化量を経時に伴い周期的に変動させる(例えば正弦波状に変動させる)ことを意味する。
【0012】
この場合、前記変調手段から出力される被変調マイクロ波、すなわち、前記共振器に供給される被変調マイクロ波は、前記所定周波数を中心周波数とする周波数分布を有する。このため、前記共振器の温度変化に伴う該共振器の熱変形が生じて、該共振器の共振周波数が前記所定周波数から変化しても、被変調マイクロ波には、共振器の変化後の共振周波数と同じ周波数の成分が含まれる。また、共振器の熱変形に伴う共振周波数の変化量(前記所定周波数からの変化量)は、個々の共振器毎のばらつきはあるものの、一般には比較的小さい。このため、前記被変調マイクロ波のうち、共振器の変化後の共振周波数と同じ周波数の成分のエネルギー強度を、該共振器に供給される被変調マイクロ波の全エネルギー(該被変調マイクロ波の全ての周波数成分のエネルギー強度の総和)に対して十分に高い割合の強度にすることができる。従って、共振器の温度変化に伴う熱変形が生じても、その熱変形後の共振器の共振周波数と同じ周波数を有し、且つ、エネルギー強度が十分に高いマイクロ波を該共振器の内部空間(空洞)で共振させることができる。そして、その共振するマイクロ波のエネルギーによって、発光セル内の発光物質を支障なく励起して、発光させることができる。
【0013】
よって、本発明によれば、共振器の温度変化に伴う熱変形が生じて該共振器の共振周波数が変化しても、該熱変形のばらつきによらずに、簡易な手段(前記変調手段)によって該共振器内でマイクロ波を共振させることができる。ひいては、発光セル内の発光物質の発光を継続することができる。
【0014】
かかる本発明においては、前記所定周波数を中心とする周波数帯域であって、その帯域内における前記被変調マイクロ波のエネルギー強度の、該被変調マイクロ波の全エネルギー強度に対する割合が所定割合以上となる周波数帯域を高エネルギー周波数帯域としたとき、前記変調手段は、前記被変調マイクロ波の周波数分布における前記高エネルギー周波数帯域が前記共振器の温度変化に伴う該共振器の共振周波数の変動範囲を包含するように前記被変調マイクロ波を生成する手段であることが好ましい。
【0015】
これによれば、前記共振器の熱変形によって該共振器の共振周波数が変化しても、前記被変調マイクロ波のうち、その変化後の共振周波数と同じ周波数を有する周波数成分を前記高エネルギー周波数帯域内に収めることができるので、該周波数成分のエネルギー強度を、確実に十分に高いものにすることができる。従って、共振器の温度変化に伴う共振周波数の変化によらずに、発光物質の励起・発光をより確実に行なうことができる。
【0016】
なお、前記所定割合を例えば95%としたときには、前記高エネルギー周波数帯域は、いわゆる占有帯域に相当するものとなる。また、前記共振器の共振周波数の変動範囲については、例えば、複数の同一の仕様の光源装置について、その光源装置で想定される温度環境下での共振周波数の変動範囲をあらかじめ実験的に計測しておき、その計測結果に基づいて前記高エネルギー周波数帯域内に収めるべき共振周波数の変動範囲を特定しておけばよい。また、変調手段を例えば周波数変調器により構成した場合には、前記高ネエルギー周波数帯域は、被変調マイクロ波の周波数の変化幅や、変調用の信号波の周波数に応じたものとなるので、その周波数の変化幅や変調用の信号波の周波数を適切に設定しておくことで、前記高エネルギー周波数帯域に共振器の共振周波数の変動範囲を包含させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の一実施形態を図1および図2を参照して説明する。図1は本実施形態の光源装置の全体構成を示す図、図2(a)は後述するマイクロ波発振器7に備えた周波数変調用正弦波発振器9の出力を一定の直流電圧としたときにマイクロ波発振器7から出力されるマイクロ波の周波数分布を示すグラフ、図2(b)は該周波数変調用制限波発振器9の出力を正弦波信号としたときにマイクロ波発振器7から出力されるマイクロ波(被変調マイクロ波)の周波数分布を示すグラフである。
【0018】
図1を参照して、本実施形態の光源装置1は、マイクロ波を共振させる内部空間(空洞)を有する共振器3と、この共振器3の内部空間に収容された発光セル5と、共振器3に供給する被変調マイクロ波を出力するマイクロ波発振器7とを備えている。被変調マイクロ波は、あらかじめ定められた所定周波数を中心周波数とする周波数分布を有するマイクロ波である。
【0019】
共振器3は、本実施形態の例では半同軸共振器である。この半同軸共振器3は、円筒状の外導体11とその軸心部に該外導体11と同軸に設けられた中心導体13とを備える。外導体11および中心導体13は、金属などの導体材から構成されている。また、中心導体13は、その横断面(中心導体13の軸心に直行する断面)が円形となる棒状のものである。なお、外導体11は、円筒状に形成した金属メッシュにより構成してもよい。その場合、外導体11を構成する金属メッシュの目開きは、外導体11の内部空間で共振させるマイクロ波を透過しないような寸法(該マイクロ波の波長よりも十分に小さい寸法)に設定される。
【0020】
外導体11の一端部(図1では右側端部。以下、第1端部という)には、その第1端部側の短絡面15a(外導体11の内部空間で共振させるマイクロ波の反射面)を構成する金属製の短絡板17が設けられている。短絡板17は、本実施形態では、外導体11と一体に形成されて該外導体11に導通し、該外導体11の第1端部を閉蓋している。そして、短絡板17の内面(外導体11の内部空間に臨む面)が外導体11の第1端部側の短絡面15aとなっている。なお、短絡板17は、外導体11と別体に構成し、ネジ等の締結部材で外導体11に固定するようにしてもよい。
【0021】
外導体11の他端部(図1では左側端部。以下、第2端部という)には、その第2端部側の短絡面15bを構成する金属メッシュ19が外導体11と導通して装着され、該金属メッシュ19により外導体11の第2端部が閉蓋されている。この金属メッシュ19の内面(外導体11の内部空間に臨む面)が短絡面15bとなっている。この場合、金属メッシュ19は、その目開きが、外導体11の内部空間で共振させるマイクロ波を透過しないような寸法(該マイクロ波の波長よりも十分に小さい寸法)に設定されていると共に、本実施形態の光源装置1で発生させる光を十分に透過し得る寸法(その光の波長よりも十分に大きい寸法)に設定されている。この金属メッシュ19の短絡面15bと短絡板17の短絡面15aと外導体11の内周面とで囲まれた空間(外導体11の内部空間)が、共振器3においてマイクロ波を共振させる空洞である。
【0022】
前記短絡板17の外面には、外導体11と同軸心に同軸コネクタ21が装着されている。そして、前記中心導体13は、その短絡板13側の端部が短絡板17に穿設された貫通穴17aに挿入され、同軸コネクタ21の図示しない中心導体に結合されている。なお、中心導体13は、貫通穴17a内で該中心導体13の周囲に設けられた絶縁物23を介して外導体11と絶縁されている。また、同軸コネクタ21の外周部は、外導体11に導通されている。
【0023】
そして、中心導体13は、外導体11の内部空間で、短絡板17側から金属メッシュ19に向かって外導体11と同軸心に延在する。この場合、共振器3は、半同軸共振器であるので、中心導体13の先端は金属メッシュ19の短絡面15bと間隔を存している。
【0024】
本実施形態における共振器3は、以上説明したように外導体11、中心導体13、短絡板17、金属メッシュ19、および同軸コネクタ21を備えた半同軸共振器である。この共振器3では、その内部空間に同軸コネクタ21および中心導体13を介してマイクロ波を供給可能としている。ここで、例えば前記被変調マイクロ波の中心周波数(所定周波数)に等しい単一周波数のマイクロ波を共振器3に供給するようにした場合に、その所定周波数のマイクロ波(その波長を以下、λとする)を共振器3の内部空間で共振させるためには、中心導体13の長さL(詳しくは、短絡面15aから中心導体13の先端までの距離)が、λ/4の奇数倍の長さに設定されていることが必要である。このように中心導体13の長さを設定しておくことで、共振器3の共振周波数が上記所定周波数と同一になる。ただし、共振器3の外導体11や中心導体13は、その温度上昇により比較的高温になると熱変形(熱膨張)を生じる。そして、この場合、特に、中心導体13の熱変形によって、中心導体13の実際の長さLが変化するため、共振器3の実際の共振周波数は、上記所定周波数に対してずれを生じることとなる。本実施形態では、このような共振器3の共振周波数のずれが生じても、後述するように該共振器3でマイクロ波の共振を行なわせることができるようになっている。そして、本実施形態では、中心導体13の長さLは、所定の温度環境下(例えば常温環境下)で、λ/4の長さ(より一般的にはλ/4の奇数倍の長さ)に設定されている。
【0025】
前記発光セル5は、中心導体13の先端と金属メッシュ19との間で共振器13の内部空間(外導体11の内部空間)に収容されている。本実施形態では、発光セル5は、中空の円板形状に形成され、その外周面を外導体11の内周面に接触させた状態で外導体11と同軸心に該外導体11の内部空間に収容されている。そして、該発光セル5の内部には、硫黄、水銀、アルゴンガス(Ar)、キセノンガス(Xe)等の発光物質が単独又は混合状態で封入されている。発光物質の種類は、光源装置1で生成しようとする所望の光の波長(もしくは周波数)に応じて選択される。なお、発光セル5は、共振器3で共振させるマイクロ波が透過し、且つ、該発光セル5内の発光物質が励起されて発生する光が透過し得る材質から構成され、その材質は、本実施形態では石英ガラスである。
【0026】
補足すると、本実施形態では、外導体11の第2端部側の短絡面15bを金属メッシュ19により構成したが、発光セル5内の発光物質から発光させる光が可視光である場合には、発光セル5の軸心方向の両端面のうちの、外導体11の第2端部側の端面に透明導電性膜(いわゆるITO膜)を固着して外導体11に導通させ、その透明導電性膜により外導体11の第2端部側の短絡面を構成してもよい。
【0027】
また、共振器3は、半同軸共振器でなくてもよく、例えば同軸共振器であってもよい。さらに、共振器3は、その内部空間に導波管を介してマイクロ波を供給し得るように構成してもよい。
【0028】
前記マイクロ波発振器7は、本実施形態では、電圧制御発振器9と、周波数変調用正弦波発振器10とを本発明における変調手段として備えている。電圧制御発振器9は、そのコントロール端子9aに付与される制御用電圧信号のレベル(電圧値)に応じた周波数を有するマイクロ波を発振して出力するものであり、その出力側が同軸ケーブル27を介して前記共振器13の同軸コネクタ21に接続されている。
【0029】
また、周波数変調用正弦波発振器10は、電圧制御発振器9に対する制御用電圧信号として、正弦波信号を出力するものであり、その出力側が同軸ケーブルなどで構成された接続線25を介して電圧制御発振器9のコントロール端子9aに接続されている。この場合、周波数変調用正弦波発振器10が出力する正弦波信号は、そのレベル(電圧値)が、所定の直流電圧レベルを中心電圧として、正弦波状に変化する信号である。該正弦波信号の中心電圧は、その電圧値の制御用電圧信号(一定レベルの直流電圧)を電圧制御発振器9のコントロール端子9aに付与したときに該電圧制御発振器9が出力するマイクロ波の周波数が前記所定周波数(=被変調マイクロ波の中心周波数)となるような電圧値である。
【0030】
このように構成されたマイクロ波発振器7では、周波数変調用正弦波発振器10から電圧制御発振器9に正弦波信号を制御用電圧信号として付与することで、該正弦波信号の中心電圧に対応する所定周波数のマイクロ波をキャリア(搬送波)とし、このキャリアを該正弦波信号によって周波数変調してなるマイクロ波が、電圧制御発振器9により被変調マイクロ波として生成されて出力されることとなる。これにより、マイクロ波発振器7は、時間軸上での位相が前記所定周波数のキャリアの位相に対して周期的に変化する被変調マイクロ波を生成して出力する。該被変調マイクロ波は、換言すれば、時間軸上でキャリアとの位相差が周期的に(正弦波状に)変化するマイクロ波である。
【0031】
具体的には、キャリア(前記正弦波信号の中心電圧に対応して電圧制御発振器9が出力するマイクロ波)の周波数をfc、変調用の信号波(前記正弦波信号)の周波数をfs、被変調マイクロ波の周波数をfm、被変調マイクロ波の周波数fmの、キャリアの周波数fcに対する最大偏移量(=|fm−fc|の最大値。以下、最大周波数偏移という)をΔfとすると、被変調マイクロ波の周波数fmは、次式(1)により与えられる。なお、tは時刻である。
【0032】

fm=fc+Δf・cos(2・π・fs・t) ……(1)

すなわち、マイクロ波発振器7における周波数変調は、被変調マイクロ波の周波数をキャリアの周波数fcに対して正弦波状に変化させる(振動させる)変調である。
【0033】
ここで、時間軸上での被変調マイクロ波の位相(任意の時刻tでの位相角)をθmとすると、その位相θmは、被変調マイクロ波の角周波数(=2・π・fm)を時間積分してなる値であるから、θmは次式(2)により表される。また、被変調マイクロ波は、次式(3)により表される。
【0034】

θm=2・π・fc・t+(Δf/fs)・sin(2・π・fs・t)
=θc+(Δf/fs)・sin(2・π・fs・t) ……(2)

Vm=Vcm・sinθm ……(3)

なお、θc(≡2・π・fc・t)は時刻tでのキャリアの位相(位相角)である。また、Vmは時刻tにおける被変調マイクロ波の電磁場強度、Vcmは該電磁場強度の振幅値である。Vcmは、キャリアの電磁場強度の振幅値と同じである。
【0035】
本実施形態では、式(3)により表される被変調マイクロ波がマイクロ波発振器7の電圧制御発振器9で生成され、この被変調マイクロ波が電圧制御発振器9から同軸ケーブル27を介して前記共振器13に供給される。この場合、式(2)に見られるように、時間軸上での被変調マイクロ波の位相θm(位相角)とキャリアの位相θc(位相角)との位相差(θm−θc)が正弦波状に周期的に変化することとなる。なお、上記の如くキャリアの周波数変調を行なって被変調マイクロ波を生成する電圧制御発振器9および周波数変調用正弦波発振器10としては、公知のものを使用すればよい。
【0036】
ここで、電圧制御発振器9のコントロール端子9aに、前記正弦波信号の中心電圧に等しい一定の直流電圧を付与したときに、電圧制御発振器9から出力されるキャリア、すなわち、マイクロ波発振器7から出力されるマイクロ波は、単一周波数(所定周波数fc)であるので、そのキャリアの周波数分布(周波数軸上でのマイクロ波の電力(エネルギー強度)の分布)は、基本的には図2(a)に示すように、周波数fcの成分だけに電力(エネルギー強度)が集中するものとなる。
【0037】
一方、被変調マイクロ波の周波数分布は、基本的には、図2(b)に示すように、キャリアの周波数fcを中心として、その両側の周波数域に広がりを持つものとなる。換言すれば、被変調マイクロ波の電力が周波数fcを中心としてその両側に分散することとなる。そして、該周波数分布では、被変調マイクロ波のうちの周波数fcの成分の電力が最大となり、周波数がfcからずれていくに伴い各周波数成分の電力が減少していくような分布(周波数fcで電力がピーク値となる山型の分布)となる。この場合、被変調マイクロ波の周波数分布の広がり具合は、前記最大周波数偏移Δfや変調用の信号波の周波数fsに応じたものとなる。そして、本実施形態では、これらの最大周波数偏移Δfや変調用の信号波の周波数fsは、前記した共振器3の熱変形に伴う共振周波数の値の変動範囲を考慮して設定されている。これについては後述する。
【0038】
次に、本実施形態の光源装置1の作動を説明する。マイクロ波発振器7(電圧制御発振器9および周波数変調用正弦波発振器10)を起動すると、前記したように周波数変調用正弦波発振器10から電圧制御発振器9のコントロール端子9aに制御用電圧信号としての正弦波信号が付与されることにより、該電圧制御発振器9で前記被変調マイクロ波(キャリアを正弦波信号により周波数変調してなるマイクロ波)が生成されて出力される。なお、キャリアの周波数(被変調マイクロ波の中心周波数)は、例えば2450MHzである。
【0039】
そして、その被変調マイクロ波が同軸ケーブル25を介して共振器13に供給される。この場合、常温環境下(共振器13の温度が常温程度となっている状況)では、被変調マイクロ波のうち、キャリアと同一周波数fcの成分のマイクロ波が共振器13の内部空間で共振する。そして、その共振するマイクロ波のエネルギーによって発光セル5内の発光物質が励起され、発光する。さらに、その光は発光セル5および金属メッシュ19を透過して外部に放出される。なお、キャリアの周波数fcは、被変調マイクロ波の周波数分布における中心周波数であるので、その周波数成分の電力(エネルギー強度)は十分に高く、そのエネルギーによって支障なく発光物質を励起して発光させることができる。
【0040】
一方、発光セル5内の発光物質の連続的な発光に伴い、共振器3が加熱されて該共振器3の温度が上昇する。この場合、前記したように共振器3の中心導体13などの熱変形(熱膨張)によって、共振器3の共振周波数がキャリアの周波数fcから変化する。このとき、共振器3に供給される被変調マイクロ波のうちの、キャリアと同一周波数fcの成分は、共振器3で共振できなくなるものの、該被変調マイクロ波には、共振器3の変化後の共振周波数の成分も含まれるので、その成分のマイクロ波を共振器3で共振させることができる。そして、前記最大周波数偏移Δfや変調用の信号波の周波数fsを以下に説明するように設定しておくことで、被変調マイクロ波のうちの、共振器3の変化後の共振周波数と同一周波数の成分の電力(エネルギー強度)を、発光物質を励起する上で十分に高い電力にすることができる。このため、共振器3の共振周波数が中心導体13などの熱変形によって変化しても、その変化後の共振周波数と同一周波数を有する高エネルギーのマイクロ波を該共振器3で共振させ、発光物質の励起・発光を継続することができる。
【0041】
前記最大周波数偏移Δfや変調用の信号波の周波数fsは次のように設定されている。すなわち、本実施形態では、共振器3の熱変形に伴う該共振器3の共振周波数の変動を実験的に計測しておく。この場合、その計測は、複数の同一仕様の共振器3に対して、それぞれの共振器3の温度を変化させながら、共振周波数を実測することで行なわれる。そして、その計測値を基に、共振器3の温度変化に伴う共振周波数の変動範囲(該共振周波数の変動範囲の最小値および最大値)をあらかじめ特定しておく。
【0042】
また、本実施形態では、被変調マイクロ波の周波数分布における、いわゆる占有帯域(図2(b)を参照)を、本発明における高エネルギー周波数帯域とし、この占有帯域内に、上記の如く特定した共振周波数の変化範囲が包含されるように、最大周波数偏移Δfおよび変調用の信号波の周波数fsが設定される。ここで、占有帯域は、被変調マイクロ波の周波数分布における中心周波数(=キャリアの周波数fc)を中心とし、その帯域に含まれる被変調マイクロ波の各周波数成分の電力の総和(被変調マイクロ波の周波数分布における電力を占有帯域の区間で積分したもの)の、被変調マイクロ波の全電力(全周波数域における電力の総和。これはキャリアの全電力にほぼ等しい)に対する割合が95%以上となるような周波数帯域である。この場合、被変調マイクロ波のうち、占有帯域内の各周波数成分の電力は、十分に大きな電力となる。
【0043】
ここで、占有帯域の幅BW(占有帯域の上限の周波数と下限の周波数との差)は、前記変調用の信号波の最大周波数をfsm(これは本実施形態では一定値fsである)としたとき、近似的に、次式(4)により表される。この式(4)は、いわゆる、カールソンの帯域幅の近似式である。
【0044】

BW=2・(Δf+fsm) ……(4)

従って、占有帯域の下限の周波数は、fc−(Δf+fsm)となり、上限の周波数は、fc+(Δf+fsm)となる。
【0045】
そして、本実施形態では、この占有帯域に、前述の如くあらかじめ特定した共振器3の共振周波数の変動範囲が包含されるように最大周波数偏移Δfおよび変調用の信号波の周波数fs(=fsm)が設定されている。この場合、例えば共振周波数の変動範囲の最大値の周波数と前記キャリアの周波数fcとの差の絶対値と、該変動範囲の最小値の周波数と前記キャリアの周波数fcとの差の絶対値とのうちのいずれか大きい方の値をδfとしたとき、このδfにΔf+fsmが一致するか、もしくは、δfよりもΔf+fsmが若干大きな値となるようにΔf、fsm(=fs)を設定すればよい。
【0046】
例えば、キャリアの周波数fc(=マイクロ波発振器7から出力される被変調マイクロ波の中心周波数=前記所定周波数)を2450MHzとし、共振器3の共振周波数の変動範囲を、2450MHz−500kHzから2450MHz+500kHzとしたとき、Δf、fsmはそれぞれ250kHz、250kHzに設定しておけばよい。
【0047】
上記のように、Δf、fsmを設定しておくことにより、共振器3の熱変形により、該共振器3の共振周波数が変化しても、被変調マイクロ波のうち、共振器3の変化後の共振周波数と同一の周波数を有する高エネルギーのマイクロ波を共振器3で共振させることができる。その結果、前記した如く、発光セル5内の発光物質の発光を支障なく継続することができる。
【0048】
なお、以上説明した実施形態では、マイクロ波発振器7から出力されるマイクロ波の位相を変化させるための変調手段として、電圧制御発振器9および周波数変調用正弦波発振器10により周波数変調を行なうもの示したが、その代わりに、位相変調器を使用して、マイクロ波の位相を変化させるようにしてもよい。その場合には、電圧制御発振器9から単一周波数(前記キャリアの周波数)のマイクロ波を出力するようにして、この電圧制御発振器9と共振器3との間に位相変調器を介装すればよい。該位相変調器としては、誘電体を利用してマイクロ波(キャリア)の波長を変化させるような公知のものを使用すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の一実施形態の光源装置の全体構成を示す図。
【図2】図2(a)は図1の光源装置に備えたマイクロ波発振器の周波数変調用正弦波発振器の出力を一定の直流電圧としたときにマイクロ波発振器から出力されるマイクロ波の周波数分布を示すグラフ、図2(b)は該周波数変調用正弦波発振器の出力を正弦波信号としたときにマイクロ波発振器から出力される被変調マイクロ波の周波数分布を示すグラフ。
【符号の説明】
【0050】
1…光源装置、3…共振器、5…発光セル、7…マイクロ波発振器、9…電圧制御発振器(変調手段)、10…周波数変調用正弦波発振器(変調手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定周波数のマイクロ波を共振させる内部空間を有する共振器と、該共振器の内部空間で共振させるマイクロ波を出力するマイクロ波発振器と、発光物質が封入され、前記共振器の内部空間に収容された発光セルとを備え、前記マイクロ波発振器から前記共振器にマイクロ波を供給し、該共振器の内部空間で共振させたマイクロ波のエネルギーにより前記発光セル内の発光物質を励起して発光させる光源装置において、
前記マイクロ波発振器は、前記所定周波数のマイクロ波の位相を時間軸上で周期的に変化させてなるマイクロ波であって、前記所定周波数を中心周波数とする周波数分布を有する被変調マイクロ波を生成して出力する変調手段を備え、該変調手段から出力される被変調マイクロ波を前記共振器に供給するようにしたことを特徴とする光源装置。
【請求項2】
前記所定周波数を中心とする周波数帯域であって、その帯域内における前記被変調マイクロ波のエネルギー強度の、該被変調マイクロ波の全エネルギー強度に対する割合が所定割合以上となる周波数帯域を高エネルギー周波数帯域としたとき、前記変調手段は、前記被変調マイクロ波の周波数分布における前記高エネルギー周波数帯域が前記共振器の温度変化に伴う該共振器の共振周波数の変動範囲を包含するように前記被変調マイクロ波を生成する手段であることを特徴とする請求項1記載の光源装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−234433(P2007−234433A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−55533(P2006−55533)
【出願日】平成18年3月1日(2006.3.1)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】