説明

光照射装置および光照射方法

【課題】棒状フラッシュランプを有する光源ユニットと、ワークを載置するステージと、光源ユニットとステージの間に存在する光透過性窓部材とよりなる光照射装置において、ワーク上での照射領域が互いに重なることなく、かつ照射領域間に隙間が生じるようなことがないようにして、ワーク全面で均一な結晶化がなされるようにした光照射装置および光照射方法を提供することである。
【解決手段】前記光透過性窓部材はガラス部材であって、ワーク表面上に略矩形状の結晶化領域を形成させるための高透過率エリアと、当該ワーク表面上の該結晶化領域以外の領域を結晶化させないための低透過率エリアが形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、フラッシュランプを用いた光照射装置および光照射方法に関するものであり、特に、ガラス基板(ワーク)上に成膜されたアモルファスシリコン膜を結晶化(ポリシリコン化)するための光照射装置および光照射方法に係わるものである。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどの用途において、薄膜トランジスタ製造時にガラス基板上のアモルファスシリコン膜を結晶化するために、フラッシュランプが用いられている。
例えば特開2005−026354号公報(特許文献1)では、棒状のフラッシュランプを複数本並べて発光することにより、アモルファスシリコンを結晶化することが記載されている。
この光源としてフラッシュランプを利用するものは、エキシマレーザの放射光を利用する従来方法に比べて、スループットが高く、また、装置全体としても安価という利点がある。
【0003】
図7に上記従来技術が示されていて、ワークWに対して複数本の棒状フラッシュランプ50が並列配置されていて、これらフラッシュランプ50は同時に発光されるものである。
しかしながら、このフラッシュランプによる照射方法では、1回の発光による基板上の照射エネルギー分布にバラツキがあり、基板表面上において、結晶化されている領域と、結晶化されていない領域、あるいは半結晶化されている領域が混在してしまうなど、結晶化レベルに場所的な不均一が発生するという問題があった。
棒状ランプを並列配置したものにおいては、その同時発光によって、同図に示すように、ワークW表面には楕円形状の結晶化領域Xが形成されてしまう。楕円形状になる理由は、ワークW表面における照射エネルギーは均一にはならず、中央部分が高いのに対し周辺ほど低くなるからである。即ち、ランプ50の管軸方向においては管軸中心部で照射エネルギーが高く、その両端部では低くなり、また、ランプ50の並列配置方向でも、並列方向の中央部で高く、端部では低くなるので、高照射エネルギー領域Xは、図示のように楕円形状となるものである。
ところで、アモルファスシリコンは、所定値以上の照射エネルギー(結晶化エネルギー)を受けたときに当該領域において結晶化反応が生じる。このため、結晶化領域Xは、結晶化エネルギーを受光した部位が外郭線(境界線)となって楕円形状が形成される。
これによって、前述したように、ワーク面上での結晶化レベルが場所的に不均一になることが避けられなかった。
【0004】
これを解決する一手段として、フラッシュランプを長尺化し、並列配置する本数を増やし、これらのランプを同時発光させることで、擬似的な平面発光源を大型化して楕円領域そのものを大きくすることが考えられる。楕円領域そのものを大きくして、ワーク表面の全領域が、当該楕円領域の中に収まるようにさえすれば、ワーク表面に対して1回の照射で全領域を結晶化できるからである。
しかしながら、ランプの長尺化や配置本数の増大化は装置全体の大型化を招いてしまい好ましいことではなく、更には、フラッシュランプによる結晶化のためにはできるだけそのパルス幅の小さなものが好ましく、ランプを長尺化するとこのパルス幅が伸びてしまい、その結果、結晶化層の厚さが必要以上に厚くなってガラス基板が反ってしまうという不具合を起こすので、あまりに長尺な構成を採用することはできない。
また、複数のフラッシュランプを同時に発光させることも制御上煩雑化してしまうため並べる本数にも限界がある。
特に、近年におけるワークの大型化に対して、ランプを更に長尺化することには限界があって、この手法にも限界がある。
【0005】
更に、この問題を解決するひとつの方法として、大型ワークの表面を結晶化させるためには、分割された複数の照射領域に対して、順次、位置送りをしながら照射させていく方法が考えられる。これは半導体ウエハのステップ露光の考え方に似ている。
つまり、結晶化されていない領域に対して、もう一度重ねて光照射させることによって当該未結晶化領域を結晶化させようとするものである。しかしながら、上記のように、楕円形状である照射領域を順次隣接するように照射していくと、照射領域が互いに重なりあったり、あるいはこれを避けようとすると、未照射領域ができてしまったりするという不具合が生じる。
照射領域が重なり合うと、すでに結晶化反応が生じた領域に再び結晶化エネルギー以上のエネルギーで光照射することになり、複数回の光照射を受けたアモルファスシリコンは、結晶化の質が異なるなど性能面での問題が大きくて採用できない。
また、照射が重なって過剰照射になってしまうと基板そのものが損傷してしまうという問題も発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−026354号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この発明が解決しようとする課題は、上記従来技術の問題点に鑑みて、棒状フラッシュランプを有する光源ユニットと、アモルファスシリコンが表面に成膜されたワークを載置するステージと、光源ユニットとステージの間に存在する光透過性窓部材とよりなる光照射装置およびこれを用いた光照射方法において、大型化したワークにあっても、良好な結晶化を達成できる構造の光照射装置およびこれを用いた光照射方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、この発明に係る光照射装置では、光源ユニットと、ワークを載置するステージの間に存在する光透過性窓部材がガラス部材であって、ワーク表面上に略矩形状の結晶化領域を形成させるための高透過率エリアと、当該ワーク表面上の該結晶化領域以外の領域を結晶化させないための低透過率エリアが形成されていることを特徴とする。
また、前記低透過率エリアはフロスト加工により形成されていることを特徴とする。
また、前記光透過性窓部材は、前記高透過率エリアの範囲内に、ワーク表面上における照射量を低減させる透過率低減エリアが局所的に形成されていることを特徴とする。
また、前記光源ユニットには光源ユニット移動機構が設けられており、前記ワーク表面上に前記結晶化領域を順次隣接させて形成するように移動することを特徴とする。
また、前記ステージにはステージ移動機構が設けられており、前記ワーク表面上に前記結晶化領域を順次隣接させて形成するように移動することを特徴とする。
更には、この発明に係る光照射方法では、前記光照射装置における前記光源ユニットまたは前記ステージを移動させながら、ワーク表面上に形成された結晶化領域に対して前記高透過率エリアを通過した光を重ねて照射させることなく、未結晶化領域に対して前記高透過率エリアを通過した光を順次照射させていくことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
この発明の光照射装置および光照射方法によれば、ワークに対してこれより小さな略矩形状の照射領域を順次隣接するように照射していくことによって、照射が不十分なために未結晶化領域が発生したり、照射領域が重なって過剰照射される領域が生じたりすることがなく、ワーク面上の全ての領域で結晶化が均一に行われる。
これにより、ランプの長尺化の限界という制約にもかかわらず、ワークの大型化に適正に対応することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の光照射装置の概略図。
【図2】本発明に用いる光透過性窓部材の説明図。
【図3】本発明の光透過性窓部材の他の実施例。
【図4】ワークの照射領域の説明図。
【図5】アモルファスシリコンの断面図。
【図6】本発明の光透過性窓部材の他の実施例。
【図7】従来の光照射装置。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、本発明のフラッシュランプを複数本配置した光照射装置の概略図である。
光照射装置1は、光源ユニット2、ワークを搭載するステージ3、及び光透過性窓部材4とから構成される。
光源ユニット2は、ケーシング22内に並列配置された複数の棒状フラッシュランプ21と、これを取り囲む反射ミラー23とからなる。このフラッシュランプ21は、例えば、キセノンガスが封入されており、図示略の給電装置によって、例えば、1回あたり10J/cmジュール、1/3ヘルツで発光する。
前記光源ユニット2の下方にはステージ3が配置され、表面にアモルファスシリコンが成膜された液晶基板などのワークWを載置するものであり、真空吸着機構などを具備している。
そして、前記光源ユニット2には位置調整用の光源ユニット移動機構24が設けられ、前記ステージ3には位置調整用のステージ移動機構31が設けられている。なお、これら光源ユニット移動機構24およびステージ移動機構31は、必ずしも両方が必要というわけではなく、どちらか一方であってもよい。
【0012】
前記フラッシュランプ21の下方には石英ガラスなどよりなる光透過性窓部材(以下、単に「窓部材」ともいう)4が設けられている。この実施例では、光源ユニット2のケーシング22に取り付けられている。
図2にこの光透過性窓部材4が示され、図2(A)は平面図、図2(B)は側面図である。図2(A)に示すように、光透過性窓部材4は、全体が略矩形の板形状をなす。該窓部材4には、中央に矩形状の高透過率エリア41と、その周囲に低透過率エリア42とが形成されている。前記高透過率エリア41は、フラッシュランプ21の放射光を高い確率で透過するエリアであり、無処理の石英ガラスとするか、あるいは開口を形成させてもよい。
一方、図2(B)に示すように、低透過率エリア42はガラス材料の表面に例えばフロスト加工を施したエリアであって、フラッシュランプ21の放射光が低減されてワーク表面に照射されるエリアである。
高透過率エリア41と低透過率エリア42の技術的な線引きは、高透過率エリア41を通過した光はアモルファスシリコンを結晶化させるが、その一方で低透過率エリア42を通過した光はアモルファスシリコンを結晶化させないことにある。つまり、ワーク表面上の照射エネルギーが、アモルファスシリコンを結晶化するか、あるいは結晶かしないが、高透過率エリア41と低透過率エリア42の線引きとなる。
なお、前記低透過率エリア42を形成する手段としては前述のフロスト加工に限るものではなく、透過率を低減させる手段であれば他の方法であってもかまわない。あるいは、遮光性物質などを塗布させて透過率をゼロとしてもよい。ここで、窓部材4について、一数値例をあげると、全体の寸法は150mm×250mm、厚さ1.0mmである。また、高透過率エリアは50mm×100mmである。
【0013】
図3は、光透過性窓部材4の他の実施例であり、低透過率エリア42を構成するフロスト加工等の加工処理が、ガラス部材の両面に施されているものである。
【0014】
図4はワークW表面上に形成される照射領域Xを示す。この実施例では、光源ユニット2を光源ユニット移動機構24によって移動させながら、ワーク表面上に照射領域を順次形成していく場合について説明する。
まず、ワークW上に、フラッシュランプ21の発光により光透過性窓部材4の光透過率エリア41を透過した光が照射される矩形の照射領域X1が形成され、当該領域X1で結晶化がなされる。次いで、光源ユニット2を移動させて、その隣に同じく矩形の照射領域X2が隣接形成される。
以下同様に、その後も順次照射領域Xnを形成していくが、前に形成した照射領域と重なることなく、かつ、それらの間に隙間ができないように照射していくものである。
このように、本発明ではワークW上に矩形状の照射領域Xを形成することで、ワークWが大型化しても、照射領域(結晶化領域)Xが重なって2度照射するようなことがなく、かつ、非照射領域を作ることがないように照射することが可能となり、隙間なく、しかも重なることのないように隣接した照射領域Xで結晶化がなされてワークWの全表面領域を良好に結晶化することができる。
その数値例をあげると、ワークWの寸法は1000mm×1000mmの矩形であり、1回の光照射による結晶化領域Xは50mm×100mmである。
なお、上記説明においては、光源ユニット2を順次移動させていくものとして説明したが、ステージ3をステージ移動機構31によって移動させるようにしてもよく、更には、その両者を相対的に移動させるものであってもよい。
【0015】
図5は、アモルファスシリコンの構造を示す。(A)はトップゲート型アモルファスシリコンの構造を示し、(B)はボトムゲート型アモルファスシリコンの構造を示す。
トップゲート型もボトムゲート型も無アルカリガラス基板の上にSiO2が形成され、その上にアモルファスシリコンが成膜されている。トップゲート型はアモルファスシリコンに光照射した後、当該アモルファスシリコンの上に電極が形成されるが、ボトムゲート型は光照射されるときに、すでにSiO2の内部に電極が埋設されている。
従って、トップゲート型の場合は、上記実施例の手順にてアモルファスシリコンに対して光照射することで結晶化することができるが、ボトムゲート型の場合は同様に光照射すると、アモルファスシリコンとSiO2を透過した照射光が電極において反射し、当該反射光により、アモルファスシリコンを再び照射してしまうことになる。
つまり、電極が形成された領域は設計値以上の光照射を受けることになってしまい、本来、結晶化されるべきでない領域が結晶化されたり、あるいは、本来結晶化される領域が過度に光照射を受けて性能が劣化するなどの問題が発生する。
【0016】
図6はこのような状況に対処するものであって、ボトムゲート型アモルファスシリコンの場合に用いられる光透過性窓部材4の構成を示す。
該光透過性窓部材4の高透過率エリア41の中に中透過率エリア43が局所的に形成されている。この中透過率エリア43は、前記SiO2の内部に埋設された電極の位置に対応した部位に形成されているものである。そして、その透過率は、高透過率エリア41よりは劣るが、低透過率エリア42よりは高いものであって、電極による光反射も加味して良好化な結晶化が達成できるものである。
【0017】
以上説明したように、本発明に係る光照射装置および光照射方法によれば、ワークに対してこれより小さな略矩形状の照射領域を順次隣接するように照射していくことによって、該照射領域で適正に結晶化がなされ、照射が不十分なために未結晶化領域が発生したり、照射領域が重なって過剰照射される領域が生じたりすることがなく、ワーク面上の全ての領域で結晶化が均一に行われるという効果を奏するものである。
【符号の説明】
【0018】
1 光照射装置
2 光源ユニット
21 フラッシュランプ
22 ケーシング
23 反射ミラー
24 光源ユニット移動機構
3 ステージ
31 ステージ移動機構
4 光透過性窓部材
41 光透過率エリア
42 低透過率エリア
43 中低下率エリア
W ワーク(基板)
X 照射領域(結晶化領域)




【特許請求の範囲】
【請求項1】
棒状フラッシュランプを有する光源ユニットと、アモルファスシリコンが表面に成膜されたワークを載置するステージと、光源ユニットとステージの間に存在する光透過性窓部材とよりなる光照射装置において、
前記光透過性窓部材はガラス部材であって、ワーク表面上に略矩形状の結晶化領域を形成させるための高透過率エリアと、当該ワーク表面上の該結晶化領域以外の領域を結晶化させないための低透過率エリアが形成されていることを特徴とする光照射装置。
【請求項2】
前記低透過率エリアはフロスト加工により形成されていることを特徴とする請求項1の光照射装置。
【請求項3】
前記光透過性窓部材は、前記高透過率エリアの範囲内に、ワーク表面上における照射量を低減させる透過率低減エリアが局所的に形成されていることを特徴とする請求項1の光照射装置。
【請求項4】
前記光源ユニットには光源ユニット移動機構が設けられており、前記ワーク表面上に前記結晶化領域を順次隣接させて形成するように移動することを特徴とする請求項1の光照射装置。
【請求項5】
前記ステージにはステージ移動機構が設けられており、前記ワーク表面上に前記結晶化領域を順次隣接させて形成するように移動することを特徴とする請求項1の光照射装置。
【請求項6】
棒状フラッシュランプを有する光源ユニットと、アモルファスシリコンが表面に成膜されたワークを載置するステージと、光源ユニットとステージの間に存在する光透過性窓部材とよりなる装置を使った光照射方法において、
前記光透過性窓部材はガラス部材であって、ワーク表面上に略矩形状の結晶化領域を形成させるための高透過率エリアと、当該ワーク表面上の該結晶化領域以外の領域を結晶化させないための低透過率エリアが形成されるものであって、
前記光源ユニットまたは前記ステージを移動させながら、ワーク表面上に形成された結晶化領域に対して前記高透過率エリアを通過した光を重ねて照射させることなく、未結晶化領域に対して前記高透過率エリアを通過した光を順次照射させていくことを特徴とする光照射方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−244025(P2012−244025A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−114377(P2011−114377)
【出願日】平成23年5月23日(2011.5.23)
【出願人】(000102212)ウシオ電機株式会社 (1,414)
【Fターム(参考)】