説明

光燃料電池

【課題】 光電流変換効率に優れる光燃料電池を提供する。
【解決手段】 本発明の光燃料電池40は、カソード11および光触媒を含むアノード12が、電解槽13内部に配置され、電解槽13内部が、プロトン透過膜14により、カソード側とアノード側とに区画されており、アノード側の槽13bに、液相燃料16が充填され、カソード側の槽13aに、レドックスメディエータおよび酸素を含む電解液17が充填され、液相燃料の光触媒的酸化により生じたプロトンが、プロトン透過膜14を通過して、アノード側の槽13bからカソード側の槽13aに移動し、液相燃料の光触媒的酸化により生じた電子が、外部回路15を通じてアノードからカソードに移動し、カソード側の槽13aにおいて、プロトン存在下、酸素が電子により還元されて水に変換される酸化還元反応が生じ、酸化還元反応が、レドックスメディエータを介した反応であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、燃料電池として、例えば、固体高分子型燃料電池、アルカリ電解質型燃料電池、リン酸型燃料電池、溶融炭酸塩型燃料電池、固体酸化物型燃料電池等が開発され、実用化されている。さらに、最近では、光触媒を用いた燃料電池(光燃料電池)が、提案されている(例えば、非特許文献1および2参照)。光燃料電池は、アノードへの光照射を必要とするが、バイオマスや廃棄物等に含まれる有機化合物や窒素含有化合物を燃料として用いることができる。このため、光燃料電池は、資源を有効利用できるという従来の燃料電池にはない利点を有している。非特許文献1および2に記載の光燃料電池は、アノードに二酸化チタンの薄層を用い、カソードに白金を用い、液相燃料を前記二酸化チタン電極上で光触媒的に酸化し、生じた電子を外部回路に取り出すことにより発電するものである。しかしながら、従来の光燃料電池は、光電流変換効率が十分ではなかった。
【0003】
【非特許文献1】J.Nemoto,M.Horikawa,K.Ohnuki,T.Shibata,H.Ueno,M.Hoshino,M.Kaneko.J.Appl.Electochem.,37,1039(2007).
【非特許文献2】金子ら,日本化学会第86春季年会,2A5−51(2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明は、光電流変換効率に優れる光燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するために、本発明の光燃料電池は、カソードおよび光触媒を含むアノードを備え、前記カソードおよび前記アノードは、外部回路を介し電気的に接続され、前記光触媒への光照射により、液相燃料を光触媒的に酸化して生じた電子を前記外部回路に取り出すことにより発電する光燃料電池であって、
さらに、電解槽およびプロトン透過膜を備え、
前記カソードおよび前記アノードが、前記電解槽内部に配置され、
前記電解槽内部が、前記プロトン透過膜により、前記カソード側と前記アノード側とに区画された二槽構造になっており、
前記アノード側の槽に、前記液相燃料が充填され、
前記カソード側の槽に、レドックスメディエータおよび酸素を含む電解液が充填され、
前記液相燃料の光触媒的酸化により生じたプロトンが、前記プロトン透過膜を通過して、前記アノード側の槽から前記カソード側の槽に移動し、
前記液相燃料の光触媒的酸化により生じた電子が、前記外部回路を通じて前記アノードから前記カソードに移動し、
前記カソード側の槽において、前記プロトン存在下、前記酸素が前記アノードから移動してきた電子により還元されて水に変換される酸化還元反応が生じ、前記酸化還元反応が、前記レドックスメディエータを介した反応であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明者等は、一連の研究を重ねたところ、従来の光燃料電池の光電流変換効率が十分でないのは、カソード側の電子の授受の効率が十分でないことに起因することを見出した。この知見に基づき、本発明者等は、前記カソード側の電子の授受の効率を向上させるために、レドックスメディエータを用いることを着想した。この着想に基づき、本発明者等は、さらに、研究を重ねたところ、プロトン透過膜を用いて電解槽を、アノード側とカソード側とに区画した二槽構造にし、カソード側の槽に充填される電解液にレドックスメディエータを含ませれば、カソード側の電子の授受の効率を向上させることができ、その結果、光電流変換効率を大幅に向上できることを見出し、本発明に至った。本発明の光燃料電池が、光電流変換効率に優れるメカニズムは、下記のように推測される。すなわち、前記レドックスメディエータの過電圧が、酸素の過電圧より小さいため、レドックスメディエータの還元反応の方が、酸素の還元反応よりスムーズに進行する。このことにより、電子の授受の効率を向上させることができると推測される。なお、前述のメカニズムは推測であり、本発明を何ら限定しない。また、本発明の光燃料電池は、後述のように、例えば、カソードに白金等の高価な材料を用いるのに代えて、安価な材料、例えば、カーボン等を用いても高い光電流変換効率を得ることができる。このため、本発明の光燃料電池は、安価な電極材料を用いることができ、コストの面においても優れている。なお、本発明の光燃料電池に用いる電極材料は上記により限定されない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明において、「液相燃料」とは、燃料となる有機化合物および窒素含有化合物の少なくとも一方を含む液状のものを意味する。前記液状のものとしては、例えば、溶液であってもよいし、ゾルであってもよいし、ゲルであってもよい。
【0008】
本発明において、「可視光応答型光触媒」とは、可視光により励起されて、液相燃料を光触媒的に酸化することができる光触媒を意味する。なお、本発明において、「可視光」とは、例えば、400〜800nmの範囲の波長を有する光を意味する。
【0009】
本発明の光燃料電池において、前記レドックスメディエータが、I/Iレドックスメディエータであることが好ましい。
【0010】
本発明の光燃料電池において、前記電解液が、酸性であることが好ましい。前記電解液のpHが、0〜6の範囲であることがより好ましく、さらに好ましくは、1〜4の範囲である。
【0011】
本発明の光燃料電池において、前記光触媒が、可視光応答型光触媒であることが好ましく、より好ましくは、二酸化チタン(TiO)である。
【0012】
本発明の光燃料電池において、前記カソードが、カーボンを含むことが好ましい。前記カソードにカーボンを含ませることで、白金等の高価な材料を用いずにすむため、前述のように、コストを抑えることができる。
【0013】
本発明の光燃料電池において、前記液相燃料の溶存酸素が、除去されていることが好ましい。
【0014】
本発明の光燃料電池において、前記アノード側の槽の壁面が、光透過性であることが好ましい。
【0015】
つぎに、本発明の光燃料電池について詳細に説明する。ただし、本発明の光燃料電池は、以下の記載により制限されない。
【0016】
まず、本発明の光燃料電池の構成について例をあげて説明する。
【0017】
〔1.光燃料電池〕
[1−1.光燃料電池の全体構成]
図1の模式図に、本発明の光燃料電池の構成の一例を示す。同図においては、わかりやすくするために、各構成部材の大きさ、比率等は実際とは異なっている。図示のとおり、この光燃料電池10は、カソード11と、アノード12と、電解槽13と、プロトン透過膜14とを主要な構成部材として備える。前記カソード11と、前記アノード12とは、外部回路15を介して、電気的に接続され、前記電解槽13内部に配置されている。前記電解槽13内部は、前記プロトン透過膜14により、前記カソード11側と前記アノード12側とに区画された二槽構造になっている。前記アノード側の槽13bには、液相燃料16が充填されている。前記カソード側の槽13aには、レドックスメディエータおよび酸素を含む電解液17が充填されている。ただし、本発明の光燃料電池は、この例に限定されない。この例では、前記電解槽13内部は、前記電解槽13の中央に配置された前記プロトン透過膜14により、前記カソード11側と前記アノード12側とに同じ大きさで区画されているが、前記プロトン透過膜14が、例えば、前記カソード11寄りに配置され、または前記アノード12寄りに配置されることで、前記カソード側の槽13aと、前記アノード側の槽13bとの大きさが異なっていてもよい。また、この例では、前記カソード11および前記アノード12は、それぞれ、一つであるが、前記カソード11および前記アノード12は、例えば、それぞれ、複数であってもよい。
【0018】
つぎに、各構成部材について説明する。
【0019】
[1−2.電解槽]
前記電解槽の形状は、用いられる形態やその用途に応じて、どのような形状であってもよい。前記電解槽の形状としては、例えば、四角柱状、円柱状、半球状、これらを組み合わせた形状等があげられる。
【0020】
前記電解槽の材質は、上記形状を形成できる材質であればよい。前記液相燃料および前記電解液の水分の減少を防止する観点から、前記電解槽の材質としては、例えば、透湿性が低いアルミニウム等の金属層を絶縁性の高分子で被覆したラミネート材、ポリ塩化ビニリデン樹脂、フッ素系樹脂、ガラス繊維強化プラスチック材料等があげられる。また、アノードに効率的に光を照射する観点から、前記アノード側の槽の壁面は、光透過性であることが好ましい。前記光透過性である材質としては、例えば、ガラス、透明プラスチック等があげられる。前記ガラスとしては、例えば、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダライムガラス等があげられる。前記透明プラスチックとしては、例えば、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、硬質ポリ塩化ビニル、ポリフェニレンオキサイド等があげられる。
【0021】
前記電解槽は、例えば、前述の材質を用いて従来公知の製造方法で形成することにより製造することができる。また、前記電解槽は、例えば、市販品をそのまま用いてもよい。
【0022】
[1−3.プロトン透過膜]
前記プロトン透過膜は、プロトンを透過するものであればよい。前記プロトン透過膜を形成する材質としては、例えば、高分子酸、アルミナ水和物、固体電解質等があげられる。これらの中でも、高分子酸が特に好ましい。前記高分子酸としては、例えば、フェノールスルホン酸とホルムアルデヒドとの縮合体、スルホン化ポリスチレン、トリフルオロスチレンスルホン酸、フルオロカーボンスルホン酸とポリビニリデンフルオライドとの混合物、フルオロカーボンスルホン酸等があげられる。
【0023】
前記プロトン透過膜は、例えば、市販品をそのまま用いることもできる。前記プロトン透過膜の市販品としては、例えば、デュポン社製の商品名「Nafion(登録商標)」、旭硝子(株)製の商品名「フレミオン(登録商標)」、旭化成(株)製の商品名「アシプレックス」等があげられる。
【0024】
前記プロトン透過膜の厚みは、特に制限されない。前記プロトン透過膜の厚みは、例えば、20〜300μmの範囲であり、好ましくは、30〜250μmの範囲であり、より好ましくは、50〜200μmの範囲である。
【0025】
前述のとおり、前記電解槽は、前記プロトン透過膜により、カソード側とアノード側とに区画された二槽構造になっている。前記カソード側の槽は、電解液を攪拌する攪拌手段を備えていることが好ましい。これは、前記電解液に含まれるレドックスメディエータの酸化還元反応を促進するためである。前記攪拌手段としては、例えば、マグネチックスターラ等の攪拌子、攪拌ノズル、回転羽根、プロペラ等の攪拌翼等があげられる。前記アノード側の槽は、不活性ガス導入手段を備えていることが好ましい。これは、前記液相燃料の溶存酸素を除去するためである。前記不活性ガス導入手段としては、例えば、気泡発生装置、気泡噴射ノズル、発泡板等があげられる。同様の観点から、前記アノード側の槽は、密閉できることがより好ましい。この場合、前記アノード側の槽は、前記液相燃料に導入される不活性ガスや発電時に発生するガス(例えば、二酸化炭素等)を排気する安全弁等の排気手段を備えていることがさらに好ましい。
【0026】
[1−4.電解液]
前述のとおり、前記電解液は、レドックスメディエータおよび酸素を含む。
【0027】
前記電解液は、電気伝導性を有する溶液であればよい。前記電解液は、従来公知の電解液を用いることができる。前記電解液は、酸性であることが好ましい。前記電解液を酸性とすることで、前記レドックスメディエータの酸化反応を促進させることができる。前記電解液のpHは、0〜6の範囲であることがより好ましく、さらに好ましくは、1〜4の範囲である。前記電解液のpHは、例えば、硫酸、塩素酸、過塩素酸等を添加して調整することができる。
【0028】
前記レドックスメディエータは、特に限定されない。前記レドックスメディエータとしては、例えば、遷移金属レドックスメディエータ、有機レドックスメディエータ、無機レドックスメディエータ等があげられる。前記遷移金属レドックスメディエータとしては、例えば、Cu2+/Cuレドックスメディエータ、Fe3+/Fe2+レドックスメディエータ、[Fe(CN)4+/[Fe(CN)3+レドックスメディエータ等があげられる。前記有機レドックスメディエータとしては、例えば、キノン/ヒドロキノンレドックスメディエータ、ポリアニリン等があげられる。前記無機レドックスメディエータとしては、例えば、I/Iレドックスメディエータ、Br/Brレドックスメディエータ、NO/NOレドックスメディエータ等があげられる。これらの中でも、前記電解液に溶解または分散させやすいものが好ましい。また、前記I/Iレドックスメディエータは、前記電解液に溶解し、酸性条件下で容易に自然酸化される特徴を有するため、より好ましい。前記I/Iレドックスメディエータは、例えば、前記電解液に、ヨウ素の水溶液とヨウ化物とを所定の割合で添加することで調製することができる。前記ヨウ化物としては、例えば、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化リチウム等を含む。
【0029】
前記電解液におけるレドックスメディエータの濃度は、例えば、0.01〜0.5mol/Lの範囲であり、好ましくは、0.02〜0.2mol/Lの範囲であり、より好ましくは、0.05〜0.1mol/Lの範囲である。
【0030】
[1−5.液相燃料]
前述のとおり、前記液相燃料は、燃料として有機化合物および窒素含有化合物の少なくとも一方を含む液状のものである。前記液相燃料のpHは、特に制限されないが、予め前記電解液と同じに調整しておくことが好ましい。前記液相燃料のpHを前記電解液のpHと同じに調整しておくことで、カソード側のpHを一定に保つことができるためである。前記液相燃料のpHは、例えば、硫酸、過塩素酸等を添加して調整することができる。
【0031】
前記有機化合物は、特に限定されない。前記有機化合物としては、例えば、アルコール、有機酸、単糖類、少糖類、多糖類、高分子化合物等があげられる。前記アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、グリセリン等があげられる。前記有機酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸等があげられる。前記単糖類としては、例えば、リボース、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース等があげられる。前記少糖類としては、例えば、ラクトース、スクロース、マルトース等があげられる。前記多糖類としては、例えば、デンプン、硫酸セルロース、アガロース等があげられる。前記高分子化合物としては、例えば、リグニン、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアミド等があげられる。前記有機化合物は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0032】
前記窒素含有化合物は、特に限定されない。前記窒素含有化合物としては、例えば、アンモニア、尿素、アミン、アミノ酸、タンパク質等があげられる。前記アミノ酸としては、例えば、グリシン、グルタミン、グルタミン酸、チロシン、フェニルアラニン等があげられる。前記タンパク質としては、例えば、ゼラチン、コラーゲン等があげられる。前記窒素含有化合物は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。また、前記窒素含有化合物は、例えば、前述の有機化合物と併用してもよい。
【0033】
前記有機化合物および前記窒素含有化合物が、液体である場合は、前記液相燃料における有機化合物および窒素含有化合物の少なくとも一方の濃度は、特に制限されないが、例えば、1〜50体積%の範囲であり、好ましくは、5〜30体積%の範囲であり、より好ましくは、10〜20体積%の範囲である。
【0034】
前記有機化合物および前記窒素含有化合物が、固体である場合は、前記液相燃料における有機化合物および窒素含有化合物の少なくとも一方の濃度は、特に制限されないが、例えば、1〜50重量%の範囲であり、好ましくは、5〜30重量%の範囲であり、より好ましくは、10〜20重量%の範囲である。
【0035】
前述のとおり、前記液相燃料の溶存酸素は、除去されていることが好ましい。前記液相燃料中に酸素(O)が存在すると、例えば、光触媒が、前記酸素(O)の酸化に用いられてしまい、前記液相燃料が光触媒により酸化されるのを妨害してしまうからである。なお、前記溶存酸素が除去されているとは、前記液相燃料中の酸素(O)が完全に除去されている状態だけでなく、実質的に除去されている状態をも含む。
【0036】
[1−6.アノード]
前述のとおり、前記アノードは、光触媒を含む。前記光触媒は、前記光触媒のバンドギャップ以上のエネルギーを有する光が照射されることにより、価電子帯の電子が伝導帯に励起され、かつ前記液相燃料に含まれる前記有機化合物および前記窒素含有化合物の少なくとも一方を酸化することができるものである。前記光触媒としては、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、貴金属、希土類等の金属酸化物半導体、化合物半導体等があげられる。前記金属酸化物半導体としては、例えば、TiO(ルチル型)、TiO(アナターゼ型)、FeO、CuO、In、WO、FeTiO、PbO、V、FeTiO、BiO、BiVO、Nb、SrTiO、ZnO、BaTiO、CaTiO、KTaO、SnO、ZrO等があげられる。前記化合物半導体としては、例えば、Si、GaAs、CdSe、GaP、CdS、ZnS等があげられる。これらの中でも、二酸化チタン(TiO)が好ましい。前記光触媒は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0037】
前記光触媒は、バンドギャップエネルギー(E)が3.2eV以上の紫外光応答型光触媒と、バンドギャップエネルギー(E)が3.2eV未満の可視光応答型光触媒とに分けることができる。前記紫外光応答型光触媒としては、例えば、TiO(アナターゼ型)、SrTiO、ZnO、BaTiO、CaTiO、KTaO、SnO、ZrO、ZnS等があげられる。前記TiO(アナターゼ型)のバンドギャップエネルギー(E)は、3.2eVである。前記TiO(アナターゼ型)は、下記式(I)より求められる波長である380nmより短い波長の光、すなわち紫外光により価電子帯の電子が励起される。前記可視光応答型光触媒としては、例えば、TiO(ルチル型)、FeO、CuO、In、WO、FeTiO、PbO、V、FeTiO、BiO、BiVO、Nb、Si、GaAs、CdSe、GaP、CdS等があげられる。前記WOのバンドギャップエネルギー(E)は、2.7eVである。前記WOは、下記式(I)より求められる波長である460nmより短い波長の光、すなわち可視光の一部および紫外光により価電子帯の電子が励起される。前記光触媒は、太陽光の有効利用の観点から、可視光応答型光触媒であることが好ましい。これらの中でも、WO、BiVOが、強い酸化力を有しており、特に好ましい。

E={(hc/(λ×10−9)}×e (I)
E:バンドギャップエネルギー(eV)
h:プランク定数(6.63×10−34J・s)
c:光速(3.0×10m/s)
λ:波長(nm)
e:電気素量(1.602×10−19C)

【0038】
前記可視光応答型光触媒は、例えば、基板に酸化チタンを蒸着させて製造される酸化チタン薄膜であってもよい。前記酸化チタン薄膜は、窒素含有不活性ガス雰囲気下で、かつ基板の温度が、400℃以上の高温条件のRFマグネトロンスパッタ法により製造される窒素置換型酸化チタン薄膜であることが、特に好ましい。
【0039】
図2(A)に、RFマグネトロンスパッタ装置の構成の一例を示す。同図において、わかりやすくするために、各構成部材の大きさ、比率等は実際とは異なっている。図示のとおり、このRFマグネトロンスパッタ装置20は、真空チャンバ21内に、ターゲット22および基板23が配置されている。前記ターゲット22は、永久磁石25を円形状に備えたマグネトロン部24に取り付けられている。前記基板23は、基板加熱ヒータ26に取り付けられている。前記真空チャンバ21は、不活性ガス導入口27および排気口28を備えている。前記マグネトロン部24には、高周波電源29および高周波マッチング装置30が接続されている。前記RFマグネトロンスパッタ装置20としては、例えば、大阪真空(株)製の商品名「N−SP−12型」等があげられる。前記ターゲット22としては、例えば、TiO焼結体等があげられる。前記基板23としては、例えば、石英、インジウムスズ酸化物(ITO)、金属Ti等があげられる。
【0040】
図2(B)を参照して、前記装置を用いた窒素置換型酸化チタン薄膜の製造方法について説明する。ただし、前記窒素置換型酸化チタン薄膜の製造方法はこの例に限定されない。まず、前記真空チャンバ21内を、実質的に真空状態にし、前記基板23を加熱し、前記不活性ガス導入口27から、窒素含有不活性ガス31を導入する。ついで、前記基板23と前記ターゲット22との間に、電圧を印加し、高周波マグネトロンスパッタリングを実施する。このようにして、前記基板23上に窒素置換型酸化チタン薄膜32を製造することができる。前記基板23の温度は、例えば、400℃以上であり、好ましくは、600℃以上、より好ましくは、700℃以上、さらに好ましくは、800℃以上である。
【0041】
この製造方法において、前記窒素含有不活性ガスは、窒素ガスとアルゴンガスとの混合ガスであることが好ましい。前記混合ガスの混合比は、特に制限されない。前記混合ガスの混合比(体積比:窒素ガス/アルゴンガス)としては、例えば、0.02〜0.7の範囲であり、好ましくは、0.03〜0.6の範囲であり、より好ましくは、0.05〜0.3の範囲である。
【0042】
この製造方法において、前記窒素置換型酸化チタン薄膜を、さらに焼成することが好ましい。焼成温度は、例えば、200℃以上であり、好ましくは、200〜500℃の範囲であり、より好ましくは、200〜400℃の範囲である。
【0043】
前記窒素置換型酸化チタン薄膜の製造方法において、例えば、前記混合ガスに代えて、酸素ガスとアルゴンガスとの混合ガス等を用いることにより、紫外光応答型酸化チタン薄膜を製造することができる。前記酸素ガスとアルゴンガスとの混合ガスの混合比(体積比:酸素ガス/アルゴンガス)としては、例えば、0.02〜0.7の範囲であり、好ましくは、0.03〜0.6の範囲であり、より好ましくは、0.05〜0.3の範囲である。
【0044】
前記アノードの形状は、特に制限されない。前記アノードの形状は、例えば、平板状であってもよいし、線状であってもよいし、棒状であってもよい。前記アノードは、多孔質であることが好ましい。前記アノードが多孔質であれば、例えば、前記液相燃料との接触面積を増やすことができ、アノード側の酸化反応を促進することができる。多孔質のアノードを形成する方法としては、例えば、予め揮発性物質を混合した状態でアノードを形成した後に、加熱によって前記揮発性物質を気化させて形成する方法、多孔状の型を用いて形成する方法、カソードを形成した後に針等でピンホールを形成することにより形成する方法、凹凸状の基板上に蒸着等によって、アノードを形成することで形成する方法、蒸着によってアノードを形成する際に、ガスを混合させることで形成する方法等があげられる。
【0045】
[1−7.カソード]
前記カソードの材料は、導電性を有するものであればよい。前記カソードの材料は、従来公知のものを使用することができる。前記カソードの材料としては、例えば、金属、合金、無機化合物、有機化合物、カーボン等があげられる。前記金属としては、例えば、Pt、Au、Ag、Cu、Fe、Ni、Ti、Pd、Ir、Rh、Os、Ru、Co、Reまたはこれらの酸化物等があげられる。前記合金としては、例えば、Pt−Co、Pt−Au、Pt−Sn、Cu−Au、Cu−Ag、Pd−Ni、Pd−Au、Ru−Ta、Ni−Mn、Ni−P、Ni−酸化コバルト、Pt−Pd−Au、Ag−Ni−P、ラネー銀、ラネーニッケル等があげられる。前記無機化合物としては、例えば、ホウ化ニッケル、ホウ化コバルト、炭化タングステン、酸化タングステン、リン化タングステン、リン化ニオブ、水酸化チタン、遷移金属の炭化物、スピネル化合物、遷移金属のペロブスカイト型イオン結晶等があげられる。前記有機化合物としては、例えば、非イオン活性剤、フタロシアニン、金属フタロシアニン、キノン類等があげられる。前記カーボンとしては、例えば、カーボンペーパ、カーボンファイバ、カーボンの成型体、カーボンの焼結体等があげられる。これらの中でも、コストの観点からカーボン等の安価な材料を用いることが好ましい。前記材料は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0046】
前記カソードの形状は、特に制限されない。前記カソードの形状は、例えば、前記アノードと同様の形状とすることができる。
【0047】
[1−8.外部回路]
前記外部回路は、特に限定されず、従来公知のものを用いることができる。
【0048】
[1−9.その他の構成部材]
本発明の光燃料電池は、前述の主要構成部材に加えて、その他の構成部材を備えていてもよい。その他の構成部材としては、例えば、液相燃料を供給するための供給口等があげられる。
【0049】
〔2.光燃料電池の製造方法〕
本発明の光燃料電池は、例えば、前述の各主要構成部材と、必要に応じてその他の構成部材とを従来公知の方法で組み立てることにより製造することができる。
【0050】
〔3.光燃料電池の発電方法〕
つぎに、本発明の光燃料電池の発電方法について例をあげて説明する。ただし、本発明の光燃料電池の発電方法は、この例に限定されない。
【0051】
図3の模式図を参照して、本発明の光燃料電池の発電方法について説明する。同図において、わかりやすくするために、各構成部材の大きさ、比率等は実際とは異なっている。また、同図において、図1と同一部分には、同一符号を付している。図示のとおり、この光燃料電池40において、液相燃料16は、有機化合物として、メタノールを含む。電解液17は、レドックスメディエータとして、I/Iレドックスメディエータを含む。前記液相燃料16および前記電解液17は、酸性である。なお、本発明の光燃料電池は、この例に限定されない。
【0052】
まず、光触媒を含むアノード12に、前記光触媒のバンドギャップ以上のエネルギーを有する光41aが、照射される。これにより、前記アノード12に含まれる光触媒の価電子帯の電子が伝導帯に励起され、前記価電子帯には、正孔42(h)が生じる。前記液相燃料16界面に達した正孔(h)42は、メタノールを二酸化炭素に酸化(矢印A:下記式(II))して、プロトン(H)を発生させる。また、前記励起された電子43aは、前記伝導帯に生じている電位勾配に沿って移動し、外部導線18を通じてカソード11に達する(矢印B)。これにより、前記外部回路15に光電流(矢印C)が発生する。この例において、アノード側の槽13bの壁面(例えば、同図において右側の側面)が、光透過性であれば、前記光41aに代えて、もしくは加えて光41bが照射されてもよい。

CHOH+HO+6h→CO+6H (II)

【0053】
前記液相燃料16は、溶存酸素が除去されていることが好ましい。図示のとおり、前記溶存酸素の除去は、前記アノード側の槽13bに備えられた不活性ガス導入手段44を用いて、不活性ガス45のパージにより実施される。前記不活性ガス導入手段44は、前述のとおりである。前記不活性ガスとしては、例えば、窒素、ヘリウム、アルゴン、クリプトン、メタン、エタン等があげられる。前記不活性ガスは、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。不活性ガスのパージは、この例に限定されない。前記不活性ガスのパージは、例えば、予め発電前に実施されてもよいし、予め実施された上でこの例のように発電中に実施されてもよい。なお、本発明の光燃料電池は、この例に限定されない。本発明の光燃料電池は、例えば、前記不活性ガス導入手段を備えていなくてもよい。
【0054】
前記光は、自然エネルギーを有効利用する観点から、太陽光であることが好ましい。前記光は、例えば、光触媒のバンドギャップ以上のエネルギーを有する光を照射し得る人工光源からの光であってもよい。前記人工光源としては、例えば、キセノンランプ、紫外光ランプ、水銀ランプ(高圧、超高圧)、白熱灯、蛍光灯等があげられる。
【0055】
一方、前記電解液17において、前述のとおり、Iは酸性条件下で容易に自然酸化(矢印D:下記式(III))を受け、Iとなる。一定時間を経過した後には、Iと、Iとが平衡に達している。Iは、カソード11に達した電子43bにより、Iに還元(矢印E:下記式(IV))される。これにより、カソード11側のレドックスサイクルが実現している。この時、カソード11側のプロトン(H)は、前記酸化反応(矢印D)により減少する。しかし、前記アノード12側で発生したプロトン(H)が、プロトン透過膜14を透過して、カソード11側に移動する(矢印F)ことで、カソード11側に供給される。これにより、本発明の光燃料電池では、完全な回路が実現し、定常的に光電流(矢印C)を発生させることが可能となる。

6I+O+4H→2I+2HO (III)

2I+4e→6I (IV)

【0056】
前記電解液17は、攪拌されていることが好ましい。図示のとおり、前記攪拌は、カソード側の槽13aに備えられた攪拌手段46を用いて実施される。前記攪拌を実施することより、前記電解液17に、前記酸化反応(矢印D)で消費される酸素(O)を空気中から供給することができ、発電を持続することができる。前記攪拌手段46は、前述のとおりである。前記攪拌は、この例に限定されない。前記攪拌は、例えば、予め発電前に実施されてもよいし、予め実施された上でこの例のように発電中に実施されてもよい。なお、本発明の光燃料電池は、この例に限定されない。本発明の光燃料電池は、例えば、前記攪拌手段を備えていなくてもよい。
【0057】
本発明の光燃料電池の発電時の動作温度は、特に限定されない。前記光燃料電池は、室温でも十分な動作が得られるが、光触媒による液相燃料の酸化速度を向上させる観点から、高温下で動作させてもよい。前記動作温度は、例えば、3〜90℃の範囲、好ましくは10〜80℃の範囲であり、より好ましくは、30〜70℃の範囲である。
【実施例】
【0058】
つぎに、本発明の実施例について比較例と併せて説明する。なお、本発明は、下記の実施例および比較例によってなんら限定ないし制限されない。また、各実施例および各比較例における各種特性および物性の測定並びに数値の算出は、下記の方法により実施した。
【0059】
(a)光電流
光電流は、定電位測定により測定した。前記定電位測定は、アノードとカソードとの電位差を0Vにして光照射を行い、このとき流れる光電流を測定することで行った。前記定電位測定は、ポテンショスタット/ガルバノスタット、ファンクションジェネレーターおよびX−Yレコーダーが内蔵された電気化学測定システム(北斗電工(株)製の商品名「HZ−3000」)のプログラムを用いて行った。
【0060】
(b)短絡電流密度(JSC)および開放電圧(VOC
短絡電流密度(JSC)および開放電圧(VOC)は、リニアスイープボルタンメトリ(LSV)測定を用いて求めた。前記LSV測定は、光照射時に発生する光起電力値から0Vにまで変化させたときの光電流値をプロットすることにより行った。この結果から、抵抗がゼロの状態で流れる光電流を短絡電流密度(JSC)とした。また、開回路状態(抵抗が無限大)において発生する光起電力を開放電圧(VOC)とした。前記LSV測定は、前述の電気化学測定システム(北斗電工(株)製の商品名「HZ−3000」)のプログラムを用いて行った。
【0061】
(c)光電流変換効率(η)
光電流変換効率(η)は、下記式(V)より算出した。なお、形成因子(ff)は、光燃料電池の発電による電力の最大値(Pmax)を用いて、下記式(VI)より算出した値である。また、入射強度(I)は、パワーメータ(OPHIR社製の商品名「NovaII」)を用いて測定した。

η={(JSC×VOC×ff)/I}×100 (V)
η:光電流変換効率(%)
SC:短絡電流密度(mA/cm
OC:開放電圧(V)
ff:形成因子
I:入射強度(mW/cm

ff=Pmax/(JSC×VOC) (VI)
max:電力の最大値(mW)

【0062】
(d)吸収スペクトル
電解液の吸収スペクトルは、自記分光光度計((株)島津製作所製、商品名「UV−2200A」)を用いて測定した。
【0063】
〔アノード〕
[参考例1]
RFマグネトロンスパッタ装置(大阪真空(株)製の商品名「N−SP−12型」)を用いて、下記の条件で、可視光応答型二酸化チタン(Vis−TiO)を作製した。
ターゲット:TiO((株)オーナルテック製、99.990%)
基板:ITOガラス基板(三容真空工業(株)製、サイズ:0.7mm×8mm×40mm)
基板温度:600℃
ターゲットと基板との距離:75mm
到達真空度:8×10−4Pa
成膜圧:2.0Pa
スパッタガス:アルゴンガス(99.995%)
スパッタガス流量:4.23 ×10−3Pa・m/s
RF出力:300W
成膜時間:300分
【0064】
[参考例2]
基板温度を200℃としたこと以外は、参考例1と同様の条件および方法で、紫外光応答型二酸化チタン(UV−TiO)を作製した。
【0065】
〔カソード〕
[参考例3]
白金の針金と銅線とをはんだ付けにより接合することで白金線を作製した。ついで、前記白金線の白金部分の一箇所に、バーナーを用いて溶融したソーダガラスのガラス玉を取り付けた。ついで、前記ガラス玉を取り付けた白金線を、ガラス管(AGCテクノグラス(株)製、商品名「パイレックス(登録商標)」)内に、前記白金線の銅線側から挿入し、前記ガラス玉が、前記ガラス管の端に当たるところまで通した。前記ガラス管は、その直径が、前記ガラス玉と同じか、前記ガラス玉より小さいものを用いた。最後に、バーナーを用いて、前記ガラス管の端と、前記ガラス玉とを熱融着することで、Pt電極を作製した。
【0066】
[参考例4]
(株)ニラコ製のカーボン電極072591 95615201を準備した。
【0067】
〔電解槽〕
[参考例5]
縦60mm×横60mm×高さ60mmのガラス容器(AGCテクノグラス(株)製、商品名「パイレックス(登録商標)」)を準備した。前記ガラス容器は、その一つの側面の中心部分に、縦40mm×横40mmの開口部を有する。2つの前記ガラス容器を、ゴムバンドを用いて、前記開口部を合わせるようにして、つなぎ合わせることで、電解槽を作製した。
【0068】
〔プロトン透過膜〕
[参考例6]
デュポン社製のプロトン透過膜、商品名「Nafion(登録商標)117」を準備した。
【0069】
〔液相燃料〕
[参考例7]
NaSO水溶液に、有機化合物として、メタノールを10体積%となるように添加した。ついで、1mol/Lの硫酸を用いて、前記メタノールを含むNaSO水溶液のpHを2に調整した。ついで、前記pHを2に調整したNaSO水溶液を、0.5mol/Lの濃度に調整することで、液相燃料を調製した。
【0070】
[参考例8]
有機化合物として、エタノールを10体積%となるように添加したこと以外は、参考例7と同様の条件および方法で、液相燃料を調製した。
【0071】
[参考例9]
有機化合物として、グリセリンを10体積%となるように添加したこと以外は、参考例7と同様の条件および方法で、液相燃料を調製した。
【0072】
〔電解液〕
[参考例10]
NaSO水溶液に、レドックスメディエータとして、NaIとI水溶液とを、それぞれ、0.5mol/Lおよび0.025mol/Lとなるように添加した。ついで、1mol/Lの硫酸を用いて、前記レドックスメディエータを含むNaSO水溶液のpHを2に調整した。ついで、前記pHを2に調整したNaSO水溶液の濃度を、0.5mol/Lに調整することで、電解液を調製した。図4のグラフに、本参考例の電解液の吸収スペクトルを示す。なお、本参考例の電解液の吸収スペクトルの測定は、本参考例の電解液を、250倍希釈した希釈液の吸収スペクトルを測定することで行った。本参考例の電解液は、調製時から、Iと、Iとが平衡に達していたと考えられた。
【0073】
[参考例11]
レドックスメディエータとして、NaIのみを0.5mol/Lとなるように添加したこと以外は、参考例10と同様の条件および方法で、電解液を調製した。図5のグラフに、本参考例の電解液を空気中で攪拌した場合の攪拌時間と吸収スペクトルとの関係を示す。なお、本参考例の電解液の吸収スペクトルの測定は、本参考例の電解液を、5000倍希釈した希釈液の吸収スペクトルを測定することで行った。同図において、0.5h、1h、2h、3h、5h、7h、9hとは、それぞれ、攪拌を開始してから、0.5時間、1時間、2時間、3時間、5時間、7時間、9時間経過したことを示す。なお、本参考例の電解液は、調製時においては、Iのみが存在したと考えられた。図示のとおり、時間の経過とともに、電解液の吸収スペクトルは変化し、前記図4とほぼ同様の吸収スペクトルがみられた。このことから、Iは酸性条件下において容易に自然酸化されてIとなることが確かめられた。
【0074】
[参考例12]
レドックスメディエータを添加しなかったこと以外は、参考例10と同様の条件および方法で、電解液を調製した。
【0075】
〔人工光源〕
[参考例13]
300nm以上の波長の光を発するキセノンランプ(500W、ウシオ電機(株)製の商品名「XENON SHORT ARC LAMP」)を準備した。前記キセノンランプを、約100mW/cmの光がアノードに照射されるように、水フィルタを用いて調整した。
【0076】
[実施例1]
まず、参考例1のアノードおよび参考例3のカソードを、参考例5の電解槽内に配置した。前記電解槽に、参考例6のプロトン透過膜をアノード側の槽とカソード側の槽に区画するように配置した。ついで、前記アノード側の槽に、参考例7の液相燃料を充填し、前記カソード側の槽に、参考例10の電解液を充填した。このようにして、本実施例の光燃料電池を作製した。なお、前記液相燃料には、溶存酸素を除去するために、発電前に、アルゴンガス(99.995%)のパージを約15分間行った。つぎに、前記光燃料電池のアノードに、参考例13の人工光源を用いて光(入射強度(I):101.3mW/cm、照射面積:1.0cm)を照射し、発電を行った。なお、発電前に実施した前記アルゴンガスのパージは、発電中も引き続き実施した。また、前記電解液は、マグネチックスターラを用いて、発電中、激しく攪拌した。下記表1に本実施例の光燃料電池の構成および発電条件を示す。
【0077】
[実施例2]
カソードとして、参考例4のカソードを用いたこと以外は、実施例1と同様の条件および方法で、本実施例の光燃料電池を作製し、発電を行った。下記表1に本実施例の光燃料電池の構成および発電条件を示す。
【0078】
[実施例3]
アノードとして、参考例2のアノードを用いたこと以外は、実施例2と同様の条件および方法で、本実施例の光燃料電池を作製し、発電を行った。下記表1に本実施例の光燃料電池の構成および発電条件を示す。
【0079】
[実施例4]
電解液として、参考例11の電解液を用いたこと以外は、実施例2と同様の条件および方法で、本実施例の光燃料電池を作製し、発電を行った。下記表1に本実施例の光燃料電池の構成および発電条件を示す。
【0080】
[実施例5]
電解液として、参考例11の電解液を用いたこと以外は、実施例3と同様の条件および方法で、本実施例の光燃料電池を作製し、発電を行った。下記表1に本実施例の光燃料電池の構成および発電条件を示す。
【0081】
[実施例6]
液相燃料として、参考例8の液相燃料を用いたこと以外は、実施例2と同様の条件および方法で、本実施例の光燃料電池を作製し、発電を行った。下記表1に本実施例の光燃料電池の構成および発電条件を示す。
【0082】
[実施例7]
液相燃料として、参考例9の液相燃料を用いたこと以外は、実施例2と同様の条件および方法で、本実施例の光燃料電池を作製し、発電を行った。下記表1に本実施例の光燃料電池の構成および発電条件を示す。
【0083】
[比較例1]
電解液として、参考例12の電解液を用いたこと以外は、実施例1と同様の条件および方法で、本比較例の光燃料電池を作製し、発電を行った。下記表1に本比較例の光燃料電池の構成および発電条件を示す。
【0084】
[比較例2]
電解液として、参考例12の電解液を用いたこと以外は、実施例2と同様の条件および方法で、本比較例の光燃料電池を作製し、発電を行った。下記表1に本比較例の光燃料電池の構成および発電条件を示す。
【0085】
【表1】

【0086】
図6のグラフに、実施例1および比較例1のLSV測定結果を、電流−電圧曲線として示す。実施例1の光燃料電池は、LSV測定より、VOC=0.74V、JSC=1.1mA/cm、ff=0.25であった。また、実施例1の光燃料電池のηは、前記式(V)より、0.19%であった。一方、比較例1の光燃料電池は、LSV測定より、VOC=0.82V、JSC=0.46mA/cm、ff=0.12であった。また、比較例1の光燃料電池のηは、前記式(V)より、0.045%であった。この結果から、レドックスメディエータとして、I/Iレドックスメディエータを導入することで、実施例1の光燃料電池は、レドックスメディエータを導入していない比較例1の光燃料電池と比較して、短絡電流密度および形成因子が、約2倍に向上し、光電流変換効率が、約4.2倍に向上した。
【0087】
図7のグラフに、比較例1および2のLSV測定結果を、電流−電圧曲線として示す。図示のとおり、レドックスメディエータを導入せず、かつカソードにカーボン電極を用いた比較例2の光燃料電池は、光電流変換効率が低かった。
【0088】
図8のグラフに、実施例1および2のLSV測定結果を、電流−電圧曲線として示す。図示のとおり、レドックスメディエータとして、I/Iレドックスメディエータを導入することで、カソードにカーボン電極を用いた実施例2の光燃料電池は、カソードにPt電極を用いた実施例1の光燃料電池と同程度の光電流変換効率であった。すなわち、レドックスメディエータを導入することで、カソードにカーボンを用いた実施例2の光燃料電池は、前述の比較例2の光燃料電池と比較して、光電流変換効率が、大幅に向上した。
【0089】
図9のグラフに、実施例2および3のLSV測定結果を、電流−電圧曲線として示す。図示のとおり、アノードにVis−TiOを用いた実施例2の方が、アノードにUV−TiOを用いた実施例3より、高い短絡電流密度を得ることができた。なお、実施例3の光燃料電池のηは、0.17%であった。すなわち、レドックスメディエータを導入していない比較例1と比較して、実施例3の光燃料電池の光電流変換効率は、約3.8倍に向上した。
【0090】
図10のグラフに、実施例4および5の短絡電流値と、電解液の攪拌時間との関係を示す。図示のとおり、攪拌の開始から時間の経過ともに、アノードにVis−TiOを用いた実施例4、およびアノードにUV−TiOを用いた実施例5の双方の短絡電流値が向上し、一定時間の経過後、一定の電流値となった。前述のとおり、電解液に添加されたIが、電解液の攪拌により自然酸化を受けて、Iとなったためであると考えられた。
【0091】
図11のグラフに、実施例4および5の電解液の攪拌を開始した時点(0h:0時間)と、短絡電流値が一定となった時点(4h:4時間)との、LSV測定結果を電流−電圧曲線として示す。図示のとおり、短絡電流値が一定となった時点(4h:4時間)では、攪拌を開始した時点(0h:0時間)と比較して、実施例4および5の光燃料電池の光電流変換効率は、大幅に向上した。
【0092】
図12のグラフに、実施例2、6および7のLSV測定結果を、電流−電圧曲線として示す。実施例2の光燃料電池のηは、前述のとおり、0.19%であった。実施例6の光燃料電池のηは、0.14%であった。また、実施例7の光燃料電池のηは、0.25%であった。有機化合物として、メタノール、エタノール、グリセリンのいずれを用いた光燃料電池でも、レドックスメディエータを導入していない比較例1と比較して、光電流変換効率が向上した。
【産業上の利用可能性】
【0093】
以上のように、本発明の光燃料電池は、光電流変換効率に優れる。本発明の光燃料電池は、アノードに光が照射されることで、液相燃料が光触媒的に酸化されることにより、発電することができる。このため、本発明の光燃料電池は、光が照射される環境下で使用される小型電子機器、例えば、携帯電話、電子手帳、ノートパソコン等に組み込まれた形態で用いることができる。また、本発明の光燃料電池は、バイオマスや廃棄物等に含まれる有機化合物や窒素含有化合物を、燃料として用いることができるため資源を有効利用して発電を行う燃料電池としても用いることができる。ただし、本発明の光燃料電池は、前述の用途には限定されず、広い分野に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】図1は、本発明の光燃料電池の構成の一例を示す模式図である。
【図2】図2(A)は、RFマグネトロンスパッタ装置の構成の一例を示す模式図である。図2(B)は、図2(A)の装置を用いた窒素置換型酸化チタン薄膜の製造方法の一例を説明する模式図である。
【図3】図3は、本発明の光燃料電池による発電方法を説明する模式図である。
【図4】図4は、IおよびIの双方を含む電解液の吸収スペクトルを示すグラフである。
【図5】図5は、Iのみを添加した電解液を、空気中で攪拌した場合の攪拌時間と吸収スペクトルとの関係を示すグラフである。
【図6】図6は、本発明の一実施例のLSV測定結果を、電流−電圧曲線として示すグラフである。
【図7】図7は、本発明の一参考例のLSV測定結果を、電流−電圧曲線として示すグラフである。
【図8】図8は、本発明のその他の実施例のLSV測定結果を、電流−電圧曲線として示すグラフである。
【図9】図9は、本発明のさらにその他の実施例のLSV測定結果を、電流−電圧曲線として示すグラフである。
【図10】図10は、本発明の一実施例の短絡電流値と、電解液の攪拌時間との関係を示すグラフである。
【図11】図11は、本発明のさらにその他の実施例のLSV測定結果を、電流−電圧曲線として示すグラフである。
【図12】図12は、本発明のさらにその他の実施例のLSV測定結果を、電流−電圧曲線として示すグラフである。
【符号の説明】
【0095】
10、40 光燃料電池
11 カソード
12 アノード
13 電解槽
13a カソード側の槽
13b アノード側の槽
14 プロトン透過膜
15 外部回路
16 液相燃料
17 電解液
18 外部導線
20 RFマグネトロンスパッタ装置
21 真空チャンバ
22 ターゲット
23 基板
24 マグネトロン部
25 永久磁石
26 基板加熱ヒータ
27 不活性ガス導入口
28 不活性ガス排気口
29 高周波電源
30 高周波マッチング装置
31 窒素含有不活性ガス
32 窒素置換型酸化チタン薄膜
41a、41b 光
42 正孔
43a、43b 電子
44 不活性ガス導入手段
45 不活性ガス
46 攪拌手段
A、B、C、D、E、F 矢印

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソードおよび光触媒を含むアノードを備え、前記カソードおよび前記アノードは、外部回路を介し電気的に接続され、前記光触媒への光照射により、液相燃料を光触媒的に酸化して生じた電子を前記外部回路に取り出すことにより発電する光燃料電池であって、
さらに、電解槽およびプロトン透過膜を備え、
前記カソードおよび前記アノードが、前記電解槽内部に配置され、
前記電解槽内部が、前記プロトン透過膜により、前記カソード側と前記アノード側とに区画された二槽構造になっており、
前記アノード側の槽に、前記液相燃料が充填され、
前記カソード側の槽に、レドックスメディエータおよび酸素を含む電解液が充填され、
前記液相燃料の光触媒的酸化により生じたプロトンが、前記プロトン透過膜を通過して、前記アノード側の槽から前記カソード側の槽に移動し、
前記液相燃料の光触媒的酸化により生じた電子が、前記外部回路を通じて前記アノードから前記カソードに移動し、
前記カソード側の槽において、前記プロトン存在下、前記酸素が前記アノードから移動してきた電子により還元されて水に変換される酸化還元反応が生じ、前記酸化還元反応が、前記レドックスメディエータを介した反応であることを特徴とする光燃料電池。
【請求項2】
前記レドックスメディエータが、I/Iレドックスメディエータである請求項1記載の光燃料電池。
【請求項3】
前記電解液が、酸性である請求項1または2記載の光燃料電池。
【請求項4】
前記光触媒が、可視光応答型光触媒である請求項1から3のいずれか一項に記載の光燃料電池。
【請求項5】
前記光触媒が、二酸化チタンである請求項1から4のいずれか一項に記載の光燃料電池。
【請求項6】
前記カソードが、カーボンを含む請求項1から5のいずれか一項に記載の光燃料電池。
【請求項7】
前記液相燃料の溶存酸素が、除去されている請求項1から6のいずれか一項に記載の光燃料電池。
【請求項8】
前記アノード側の槽の壁面が、光透過性である請求項1から7のいずれか一項に記載の光燃料電池。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−218080(P2009−218080A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−60316(P2008−60316)
【出願日】平成20年3月10日(2008.3.10)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】