説明

光硬化性プリプレグシート及び該シートを使用した断熱防水工法

【課題】 本発明の課題は、積み重ねたり、ロール状の巻回体にして保存しても、互いに粘着することなく、シートの形態を保つことのできるプリプレグシートを提供することにあり、また、本発明のプリプレグシートを使用して、従来の屋上等の断熱防水工法を簡略化し、別途、ガラス繊維等の骨格部材の準備を不用として、作業工程と作業時間を短縮し、従来と同様の効果が得られる断熱防水工法を提供する。
【解決手段】 本発明のプリプレグシートは、プリプレグテープ本体2上に繊維シート3を貼着させてなり、本発明の断熱防水工法は、施工面に断熱防水パネルを敷き詰め、該パネル間の隙間を、前記プリプレグシートと液状樹脂を用いて充填固化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光硬化性プリプレグシート及びこのシートを使用した屋上等の断熱防水工法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
[背景技術1]
近年、FRP(繊維強化プラスチック)製品やそのパーツの凹み、割れ、ヒビ等の補修・補強、あるいは防水用ライニング材として、光硬化性プリプレグシート(以下、プリプレグシートと略称する。)が使用されている。
このプリプレグシートは、ガラス繊維・不織布等の繊維強化材に光重合開始剤を含有する光硬化性樹脂組成物を含浸、増粘させた基材となるプリプレグテープ本体の両面に、剥離性のプラスチックフィルム(以下、フィルムと略称する。)を貼着させたもので、樹脂成分が未硬化の状態で保管される。
【0003】
このプリプレグシートは、使用に際し、貼着されたフィルムを引き剥がして露出したプリプレグテープ本体を、圧着などにより被着物に被着・粘着させ、その上から紫外線や太陽光等の電磁波を照射することにより、プリプレグテープ本体に含まれる樹脂組成物が光硬化して、被着体に一体固化され、被着物を補強ないし防水処理する。
【0004】
このプリプレグシートは、補強・補修強度や水密性を高めるために必要な、被着体への密着性と被着体の形状への対応性を向上させるために、プリプレグシートを形成する樹脂の粘度を低くする必要がある。
しかし、樹脂の粘度を低くして得られたプリプレグシートは、フィルムを介在させて積み重ねたり、ロール状の巻回体にして保存したりすると、常温でも、シート自重による変形やシートの脇から含浸させた未硬化の樹脂が滲み出して、積み重ねたシート同士が粘着してしまったり、特に巻回体にしたものは、プリプレグシート本体両面に粘着されたフィルムの周長の差により、プリプレグシート本体に皺ができる等が原因で、シートの形態が保ち難く、取扱いにも困難をきたし、さらには、施工現場では諸所方々に粘着する等、取扱い作業性が悪い。
【0005】
そこで、プリプレグシートを適用する施工面が、外観を重視するものや、寸法精度を要するものに対しては、剥離性フィルムを間に入れて積み重ねたシートあるいは巻回体シートは使用に適しない。
そのため、外観重視あるいは寸法精度を要する施工面には、例えば、プリプレグテープ本体の両面にフィルムを貼着して保護し、所定の大きさに加工した枚葉シート状のプリプレグテープを、一枚または所要枚数ケースに密封させたものを使用しており、使用に際しては、前記ケースを開封してプリプレグシートを取り出し、フィルムを剥がして、被着体に被着・粘着させて使用している。
【0006】
[背景技術2]
近年、新設もしくは既設建物の屋上断熱防水工法として、断熱性、防水性、耐久性に優れ、軽量で強度性に優れた、エイペックスパネル工法とも呼ばれる屋上断熱防水工法が注目を浴びている(特許文献1参照)。
この工法は、まず、屋上等の施工面に、エイペックスパネルと呼ばれる、1m×1m×厚さ45mmのFRP成形断熱防水パネルを、一定間隔をあけて敷き詰め、アンカーで施工面に固定し、固定されたパネル間の隙間を、以下の手順で充填している。
【0007】
すなわち、図3、図4に示すように、施工面に敷き詰められたパネル11の側面の突出辺縁12、12間を跨ぎ覆うように、後述する揮発性液状樹脂がパネル11の下側に流れ込まないように、ブチルゴムテープ10で、対向するパネル11、11の突出辺縁12、12をそれぞれ粘着固定した後に、
イ)上記ブチルゴムテープ10の上から、パネル11の辺縁にかかるように、揮発性液状樹脂13を塗布する。
ロ)上記液状樹脂13の塗布面にガラス繊維等の強化繊維14を敷き詰める。
ハ)敷き詰めた強化繊維14の上から、さらに揮発性液状樹脂13を塗布・浸透させる。
ニ)次いで、塗布した液状樹脂13の上からロール状の刷毛で押圧して強化繊維14間に残る気泡を外に放出させて脱泡する。
前記イ)〜ニ)の手順で1プライとし、通常、2プライして仕上げる。
【特許文献1】特許第3381063号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記したように、プリプレグシートは、被着体への密着性・形状対応性を向上させるために、プリプレグシートを形成する樹脂の粘度を低くすると、未硬化の樹脂が滲み出して積み重ねたシート同士が粘着したり、皺になったりしてシートの形態が保ち難くなる傾向があるため、樹脂粘度の低いプリプレグシートを、剥離フィルムを介在させて多数積み重ねただけのものや長尺の巻回体にしたものは見当たらない。
そのため、プリプレグシートを適用する施工面が、外観を重視するものや、寸法精度を要するものに対しては、前記したような両面をフィルムで貼着して保護した枚葉シート状のプリプレグシートを使用するしかなかった。
【0009】
しかし、外観を重視したり、寸法精度を要する広範囲な施工面に対して、枚葉シート状のプリプレグシートを使用したのでは、一枚一枚ケースから取り出し、施工面に貼る作業を行なわなければならないため、作業の合理化が図れず、コスト高になる。さらに、プリプレグシート同士の接続面での水密性の低下も起こり得る。
また、前記した従来の屋上断熱防水工法は、[0007]で示したイ)〜ニ)の手順で行ない、通常、2プライしているため、作業工程が多く、作業時間が長くなり、コスト高となる上に、別途用意した強化繊維の敷設とこの強化繊維への液状樹脂塗布作業には熟練性を要する等の難点があった。
【0010】
従って、本発明の課題の一つは、樹脂の粘度を低くしたプリプレグシート本体を、積み重ね、またはロール状の巻回体にしても、互いに粘着したり皺にならずにシートの形態を保つことができ、さらには、寸法精度を要する広範囲な施工面に対して適用して作業性の改善が図れるプリプレグシートを提供することにあり、また、本発明の他の課題は、前記した従来の屋上等の断熱防水工法を簡略化し、別途、ガラス繊維等の骨格部材の準備を不要として、作業工程と作業時間を短縮し、従来と同様の効果が得られる断熱防水工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明のプリプレグシートは、プリプレグテープ本体上に繊維シートを貼着させてなる。この繊維シートは、プリプレグテープ本体より幅が広く形成されてなるものが好ましい。また、本発明のプリプレグシートは、プリプレグテープ本体の一面に、前記した繊維シートを貼着し、他面にフィルムを貼着させてもよい。
また、本発明のプリプレグシートを使用した断熱防水工法は、施工面に断熱防水パネルを敷き詰め、該パネル間の隙間を、前記したプリプレグテープ本体上に繊維シートを貼着させたプリプレグシート又はプリプレグテープ本体の一面に繊維シートを貼着し、他面に離型用フィルムを貼着させたプリプレグシートと液状樹脂とを用いて充填固化する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、樹脂の増粘度を低くしても、互いに粘着することなく、積み重ね、あるいはロール状の巻回体として保存しても、シートの形態を保つことのできる、取扱い、作業性に優れたプリプレグシートを提供できる。
また、本発明の断熱防水工法によれば、従来の断熱防水工法に比べて、作業工程並びに作業時間を大幅に省略でき、かつ、従来と同等の強度が得られ、さらにはコストダウンを図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の実施の形態を添付図面に基づき説明する。
図1は、本発明のプリプレグシートの一例を示す模式的な部分断面斜視図であり、図2は、本発明のプリプレグシートの他の例を示す模式的な部分断面斜視図である。
図3は、本発明の断熱防水工法の一例を示すもので、(a)は、屋上施工部分の一部を示す模式的な斜視図であり、(b)は、屋上施工面の一部を示す模式的な部分切欠断面図である。
【0014】
図1に示す、本発明のプリプレグシート1は、繊維強化材に光重合開始剤を含む光硬化性樹脂組成物を含浸、増粘させたプリプレグテープ本体2の表面に、プリプレグテープ本体2の幅よりも幅広の繊維シート3を貼着させた構成であり、図2に示す、本発明の他の実施形態のプリプレグシートは、プリプレグテープ本体2の一方の面に、繊維シート3を貼着させ、他方の面に、剥離性のフィルム4を貼着させた構成である。
繊維シート3をプリプレグテープ本体2の表面に貼着させることにより、プリプレグテープ本体2を形成する未硬化の樹脂は、ある程度繊維シート3に滲み出すが繊維シートの表面にまで達することはなく、繊維シート側の表面が粘着性を発揮せず、取扱性が向上する。
【0015】
そのため、本発明に係るプリプレグシート1の繊維シート3の面同士、あるいは本発明に係るプリプレグシート1の繊維シート3の面と、他のプリプレグテープ本体に貼着したフィルム4の面とが、重なりあっても、互いに粘着することなく、プリプレグシートを積み重ね、あるいはロール状の巻回体にして保存しても、繊維シートの柔軟性によってシートの形態を皺の出ない正常な形態に保つことができる。
【0016】
また、本発明のプリプレグシートを被着物に被着・粘着させ、さらにこのプリプレグシートの繊維シート3の面上に、液状樹脂を塗ると、繊維シート3に液状樹脂が浸み込み、その上方から紫外線等を照射させた際、プリプレグテープ本体2を構成する繊維強化材に含浸、増粘させた光硬化性樹脂組成物と同様に、繊維シート3内に浸み込んだ液状樹脂も硬化し、別途のガラス繊維等の骨格部材を用いることなく、プリプレグシート自体と同等の固化強度を得ることができる。
【0017】
本発明のプリプレグシートに使用する繊維シート3としては、この繊維シートが貼付されるプリプレグテープ本体に含浸される光硬化性樹脂組成物の粘度に合わせて選択される。
繊維シート3としては、例えば、不織布、チョップドストランドマット、クロス、ガラス繊維、ビニロン、ナイロン等の合成樹脂が挙げられるが、特に、厚みが0.2〜0.4mmのビニロンチョップドストランドマットが好ましく採用できる。
【0018】
次に、本発明のプリプレグシート1を使用した、前記従来の断熱防水工法を、図3(a)、(b)に示す。
まず、施工面に敷き詰められ、アンカー6で固定されたFRP成形断熱防水パネル11の側面の突出辺縁12間を跨ぎ覆うように、ブチルゴムテープ10で、対向するパネル11、11の突出辺縁12、12をそれぞれ粘着固定する。
なお、ロール状に巻回した長尺のプリプレグシートを用いる場合には、プリプレグシート相互の接続を要しなくなるので、その接続部の水密性等を図るための余分の液状樹脂を用いる必要がないことに起因して、ブチルゴムテープの貼着は省略することができる。
【0019】
次いで、本発明のプリプレグシート1を、繊維シート3側を上面になるように、ブチルゴムテープ10上に粘着配置し、さらに繊維シート3の上に液状樹脂5を塗り、塗布した液状樹脂5の上からロール状の刷毛で押圧して繊維シート3間に残る気泡を外に放出、脱泡させて終了する。
【0020】
本発明の工法によれば、[0007]で述べた従来の工法に比べて、イ)、ロ)の工程が省略できる上に、2プライする必要がないため、作業工程を大幅に短縮できるだけでなく、熟練を要した敷設した強化繊維への液状樹脂の塗布作業を半減できるため、作業の大幅な合理化とコストダウンを図ることができる。
【0021】
なお、本発明の工法に、従来の両面にフィルムが貼着されたプリプレグシートを適用することも考えられる。
この場合、長尺巻回体に生じる皺に基づく美観の問題はさておくとして、施工現場におけるレイアップ型と異なり2プレイの必要はなくなる利点は本発明と同様であるが、一面のフィルムを剥がして露出したプリプレグシート本体を、対向するパネル11の突出辺縁12、12にかかるように粘着し、プリプレグシート本体の硬化とパネルへの固着を確認した後、他面のフィルムを剥がす工程が必須となる。
【0022】
これに対して、本発明のプリプレグシートでは、施工された液状樹脂が硬化してからでなくては剥離することが出来ない前記他面のフィルムが存在せず、予めプリプレグシート本体に貼着された繊維シート3(強化繊維)に液状樹脂を塗布するだけの工程で済み、液状樹脂の硬化を待
って行なう追加の工程を必要としないから、所要工程の大幅な短縮が図れる。
また、従来のプリプレグシートのように、硬化後プリプレグシートから剥離するフィルムが不要になるため、現場から出る廃棄物が減少し、さらに、フィルムをめくる手間も不要となる等、本発明のプリプレグシートの有利性は揺るぎ無い。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明のプリプレグシートを用いれば、樹脂の増粘度を低くしても、互いに粘着することなく、積み重ねあるいはロール状の巻回体として保存しても、シートの形態を保つことのできる取扱いに優れたプリプレグシートを提供できるので、従来、取扱いの煩わしさや、工程の煩雑さ、あるいはコスト高から、敬遠されていた、被着物(構造物の補強、等各種施工現場)への適用が可能になり、その産業上の利用分野は極めて広い。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明のプリプレグシートの一例を示す模式的な部分断面斜視図である。
【図2】本発明のプリプレグシートの他の例を示す模式的な部分断面斜視図である。
【図3】本発明の断熱防水工法の一例を示すもので、(a)は、施工部分の一部を示す模式的な斜視図であり、(b)は、施工面の一部を示す模式的な部分断面図である。
【図4】従来の屋上断熱防水工法のおける施工面の模式的な部分断面図である。
【符号の説明】
【0025】
1 プリプレグシート
2 プリプレグテープ本体
3 繊維シート
4 フィルム
5 液状樹脂
6 アンカー
10 ブチルゴムテープ
11 パネル
12 (パネルの)突出辺縁
13 液状樹脂
14 強化繊維

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プリプレグテープ本体上に繊維シートを貼着させてなることを特徴とする光硬化性プリプレグシート。
【請求項2】
プリプレグテープ本体の幅より繊維シートの幅が広く形成されてなる請求項1に記載の光硬化性プリプレグシート。
【請求項3】
プリプレグテープ本体の一面に繊維シートを貼着し、他面に剥離性フィルムを貼着させてなる請求項1または請求項2に記載の光硬化性プリプレグシート。
【請求項4】
施工面に断熱防水パネルを敷き詰め、該パネル間の隙間を、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の光硬化性プリプレグシートと液状樹脂を用いて、充填固化することを特徴とする断熱防水工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−152605(P2006−152605A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−342388(P2004−342388)
【出願日】平成16年11月26日(2004.11.26)
【出願人】(390022389)サンコーテクノ株式会社 (52)
【Fターム(参考)】